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2018年10月18日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 VI

第二十四章 新生第十七艦隊

                 VI  タルシエン要塞には、第八師団総司令部が置かれたほか、フランク・ガードナー少 将率いる第五師団も要塞駐留司令部を置いて第八艦隊が駐留することになった。  これを機に二つの師団と要塞、及び後方のシャイニング・カラカス・クリーグの各 軍事要衝基地、それらを統括運営するためアル・サフリエニ方面軍統合本部が設置さ れて、その本部長にアレックスが就任した。その主要兵力は艦艇数三十万隻と、それ と同数に匹敵するといわれる攻撃力と防御力を有するタルシエン要塞、兵員数一億五 千万人を擁する巨大軍事施設であった。  本土にはチャールズ・ニールセン中将率いる絶対防衛艦隊があって、最終防衛ライ ンを守備していた。第一師団第一艦隊・第四艦隊・第七艦隊などが所属する第一軍団、 及び第二・第三軍団配下の各師団の旗艦艦隊合わせて総勢三百万隻の大艦隊である。  人々のもっぱらの噂は、最前線を戦い抜き精鋭が揃っているランドール提督率いる アル・サフリエニ方面軍と、後方でぬるま湯に浸かっている状態に近い絶対防衛艦隊 とが、もし仮に戦ったとしたらどちらが勝つかということであった。  艦艇数ではニールセン側に分があるものの、実戦経験と作戦能力に優るランドール 側有利というのが大方の予想であった。 「しかし、どうして皆比較したがるのかね」 「そりゃまあ、自分の所属する艦隊や部隊が一番でありたいと思うのは自然な心理で しょう。そして自分もその一役をかっているという自負からくるのでしょう」 「士官学校の候補生の配属志望先では、圧倒的に第十七艦隊所属だそうですよ」 「志願兵も合わせて皆が皆、第十七艦隊を希望するから倍率五十倍以上の難関、逆に 他の隊を志望すれば希望通りすんなり入隊できるそうです」 「席次によって順番に配属されていきますし、成績では女性士官候補生のほうが優秀 ですから、自然として第十七艦隊に女性が多く集中するようになりました。現実とし て六割が女性士官になっております」 「優秀であるならば、性別は問わないのが提督の方針だからな。それに大昔の肉弾戦 闘が主体だったころならともかく、ボタン戦争時代となりすべてはコンピューターが 動かす今日では男女による体格差は無関係だから」 「しかし女性は結婚退職や育児休暇がありますからね」 「しようがないだろ。無重力の宇宙では子供は産めないからな」  要塞に第八艦隊が到着した。  戦艦フェニックスに坐乗して、フランクが幕僚達を従えて要塞ドッグベイに降り立 った。 「よくいらっしゃいました。先輩」  アレックスは自らフランクを迎えに出ていた。  アル・サフリエニ方面軍統合本部の長官であるアレックスに対して、フランク以下 の士官達が一斉に敬礼をほどこした。 「おう、悪いな。当分、間借りさせてくれ」  と敬礼をしたその手をアレックスに向けて差し出すフランク。 「どうぞ、遠慮なく使ってください」  その手を握り返すアレックス。 「早速だが、こいつらを要塞司令部に案内してやってくれないかな」  フランクの後ろには、第五師団の幕僚と第八艦隊司令のリデル・マーカー准将が控 えていた。 「フランソワ、ご案内してさし上げて」 「はい。どうぞこちらへ」  指名されて、参謀達を案内していくフランソワだった。 「君も出世したなあ、とうとう追い越されてしまった」 「何をおっしゃいます。同じ少将じゃないですか」 「いやいや。君は、カラカス基地・シャイニング基地・クリーグ基地、そしてこの巨 大要塞を統括するアル・サフリエニ方面軍統合本部長じゃないか。階級は少将とはい え、これは中将待遇だよ。何せこの要塞だけで、三個艦隊に匹敵すると言われている からな」 「三個艦隊とはいえ、動かない艦隊では私の手にあまります。それに今後は防御戦が メインになりますからね。なんたってゲリラ攻撃戦が私の主力です。トライトン中将 が、先輩をよこしてくれたのも、防御戦では同盟屈指ですからね」 「ははは。君は攻撃しか能がないからな」 「その通りです。要塞防御司令官として、先輩のお力を拝借いたします」 「ま、期待にそえるように頑張るとしますか」
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2018年10月16日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 V

第二十四章 新生第十七艦隊

                 V  タルシエン要塞の運用システムが正常に稼動をはじめて、アレックスは配下にある 部隊や軍人及び軍属の、タルシエンへの配置転換をはじめた。  これまではシャイニング基地が最前線だったのだが、それがタルシエン要塞となっ たわけである。最前線基地をタルシエン要塞として艦隊を集合させつつあった。  アレックスが第八師団司令官となったのを機に、新生第五艦隊と第十一艦隊がその 配下に加わった。それがタルシエン要塞に向かっていた。  タルシエンの収容艦艇は十二万隻しかないために、それをオーバーする艦艇は要塞 周辺に展開して、哨戒行動と警戒態勢。交代で休息待機に入るときのみ要塞内に入場 することとした。  要塞内にあって、もっともスペースを占有しているのが、中心核部にある反物質転 換炉である。半永久的にエネルギーを取り出せるとはいえ、あまりにも巨大過ぎた。 反物質を閉じ込めておくためのレーザー隔離システムが、その全体容量の三分の二を 占め、使用するエネルギーだけでも要塞内の全エネルギーを賄うことができるくらい である。考えれば実に無駄なことをしているとしか言いようがなかった。  すべては対消滅エネルギー砲という破壊力抜群の兵器運用のために建造されたとい っても過言ではないだろう。 「軍部の考えることは無駄が多い。確かに反物質を利用した対消滅エネルギー砲は破 壊力抜群だし、エネルギー問題は考える必要もない。しかし、動けない砲台など攻略 次第では無用の長物だ。が今更通常の核融合炉などに取り替えるわけにもいかないし な……」  取り替えるとなれば要塞全体を解体するよりないし、反物質の処理にも困る。二十 一世紀初頭、核廃棄物処理に困った地球連邦はカプセルに詰めて太陽に打ち込んだら しいが、反物質はそうはいかない。  アレックスは、司令官の就任式を無事終えたチェスターの第十七艦隊と、途中合流 する予定の新生第五艦隊及び第十一艦隊と共に、残しておいたゴードンの新生遊撃艦 隊の待つ、タルシエン要塞へ向かうことになった。  宇宙空間において合流した第五艦隊と第十一艦隊の司令を交えて、旗艦サラマン ダー艦上で初の会見が行われていた。  パトリシアがそれぞれの司令官を紹介していく。 「第五艦隊司令のヘインズ・コビック准将です。旗艦は空母ナスカ。今後の母港をカ ラカス基地とします」 「第十一艦隊司令のジョーイ・ホリスター准将です。旗艦は戦艦グリフィン。母港、 タルシエン要塞」 「第十七艦隊司令のオーギュスト・チェスター准将です。旗艦は戦艦ペガサス。母港、 シャイニング基地」 「そして第八師団総司令のアレックス・ランドール少将。旗艦はこの高速戦艦サラマ ンダー」 「後、ランドール提督直属の独立遊撃艦隊としてゴードン・オニール上級大佐がタル シエン要塞に駐留しております」 「ありがとう。ウィンザー大佐。彼女は、第八師団作戦本部長であるから、よろしく。 それとガデラ・カインズ大佐にも同席してもらった」  パトリシアとカインズは軽く礼をした。  顔合わせが済んで、サラマンダーのカフェテラスで、司令官と同伴の士官達がくつ ろいでいる。 「しかし、この旗艦は一体何なんだ。やたら女性が多いが……」  第五艦隊のコビック准将が周囲を見回すように言った。 「知らんのか、別名をハーレム艦隊というらしい。ここの艦橋は全員女性だし、女性 士官だけの部隊もあるそうだ。英雄としてのランドール提督の名声と、女性総参謀長 のウィンザー大佐の人気によって、士官学校から女性士官が続々集まってきているそ うだ。自然女性の割合が高くなってくる。どうだい、勃起艦隊とよばれる貴官の第五 艦隊の連中が喜ぶんじゃないか」  第十一艦隊のホリスター准将が答える。 「よしてくれよ。それは先任の旧艦隊司令の時のことだろう。いつまでも股間を膨ら ませているわけがない。俺が新生第五艦隊司令として任官されて以来、その悪名を取 り払おうと努力しているのは、君も知っているはずだが」 「悪い悪い。ともかくだ。それだけでなく、全体として青二才ばかりともいえる、第 十七艦隊の連中は。チェスターを除いてだが」 「俺達が戦闘の度に戦艦を消耗してそれぞれ五万隻に減らしているというのに、ここ にはオニール上級大佐の独立遊撃艦隊を含めて十三万隻の艦隊があるし、シャイニン グ基地には、連邦から搾取した三万隻の未配属艦艇も残っている。同じ准将だったと いうのにな」 「そう、その三万隻だ。提督からは、まだ発表されていないが、どこへ配属されるの だろうか」 「オニール上級大佐の独立遊撃艦隊に回されて、新たに正式な一個艦隊を組織して、 彼は准将に昇進するだろうというのが、最有力情報とのう・わ・さ・だ。オニール同 様、カインズ大佐に第二独立遊撃艦隊をというのもある」 「噂はあてにできん。チェスターが昇進したのだって、誰も想像だにしていなかった のだからな。どっちにしろ艦艇を動かす将兵がまだ足りなくて未配属のままだ」 「軍令部では、士官学校の学生を繰り上げ卒業させる人選に入ったそうだ」 「ともかく三万隻の艦隊の存在が明らかなのだし、それの指揮権を巡って第十七艦隊 では水面下で、駆け引きが行われているそうだ」 「三万隻を配属させるとなると、もう一人大佐を置かねばならないからな。中佐クラ スの連中がやっきになっておる。もちろんその配下の士官も必要だ」 「第十七艦隊にいる限り、昇進は保証されているってところだな」 『まもなくアル・サフリエニ宙域バレッタ星系に入ります』  艦内放送が告げていた。 「見ろ。要塞が見えてきた」  コビック准将の指差す窓の向こうにタルシエン要塞の雄姿があった。  それは近づけば近づくほどその巨大性に驚かされ、戦艦がまるで蟻のような小ささ に感じられるほどであった。 「こ、これがタルシエン要塞か……この要塞をたった十数人の特殊工作部隊だけで、 攻略したというのか」 「し、信じられん」
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2018年10月14日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 IV

第二十四章 新生第十七艦隊

                  IV  本題に入った。  技術部システム管理課長のレイティー、当然として要塞のシステムコンピューター についてであった。 「……やっとこさ、本格運用できるところまできました」 「同盟の軍事コンピューターとの接続は?」 「一応、外からの侵入を防ぐゲートを通して接続しましたけど、ジュビロさんの腕前 なら簡単に侵入してくるでしょうな」 「まあ、たぶんな。彼に侵入できないネットなど存在しない。できればネットに接続 しないで、独立系を保ったままにしておきたかったのだがね」 「それは軍が許さないでしょう。何にでも干渉してきますからね」 「当然だろうな」 「ところで、フリード先輩に何を依頼したんですか? 最近、何かの設計図を引いて ばかりいて、システムの方を僕に任せ切りにしてるんです。おかげでこっちは不眠不 休なんですよ。そんなに急ぐものなんですか?」 「大急ぎだ。とてつもなくな」 「ちらと見た限りでは、ロケットエンジンのような感じがしたんですどね」 「ほう……よく判るな」 「それくらいは判りますよ。それに先輩が設計した図面とかよく見ていましたからね。 最近では、ミネルバとか命名された機動戦艦でしたね。あれって主要エンジン部はも とより、艦体構造体やら武器システム、艦制システムなどのソフトウェア、艦の運用 に直接関わる部門はみんな先輩が手がけているんですよ。携わっていないのは居住区 だの食堂だの付帯設備だけみたいです」 「オールマイティーな天才科学者だからな」 「先輩一人で戦艦造っちゃいますから。もっとも実際に造るのは造船技術者達ですけ どね。先輩は設計図を引くだけ」 「設計図といったって凡人には引けないさ」 「そうですけどね」 「ともかくも、要塞のシステム管理プログラムだ。よく頑張ってくれた、感謝する よ」 「帰郷もせずに寝るのも惜しんでシステムに取り組んできたんですからね。功労賞く らいは頂けるのでしょうね」 「考慮しよう」 「そういえば提督も帰郷なさらなかったんですね」 「帰りたくても帰る場所もないしな」 「そういえば孤児院育ちでしたっけ」 「帰るとすればそこか、士官学校を訪問するくらいだ」 「士官学校を訪問すれば大騒ぎになりますよ。我らが英雄がやってきた! ってね」 「それは、遠慮したいね」 「そう言えば、シルビアさん。割り込んできませんね」 「当然だろ。世間話だったらいくらでも突っ込んでくるが、本題に入れば遠慮するに 決まっているじゃないか」  とアレックスが言ったところで、音声が割り込んできた。 『聞こえていますよ』 「な?」 「納得しました」
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2018年10月11日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 III

第二十四章 新生第十七艦隊

                III  百四十四時間の休暇が終わりをとげた。  各人各様の過ごし方があったのだろう。有意義だった者がいれば、無意味に時間を 浪費しただけの者もいるだろう。  アレックスはといえば、要塞とシャイニング基地を往復しながら、こなさなければ ならない処理に忙殺されていた。パトリシアを帰した事を後悔もしたりしたが、今後 の事態を考えれば留めておくわけにもいかないだろう。  続々と帰還してくる将兵達を迎えるアレックス。  ゴードン、ジェシカ、カインズ、そしてチェスターらが、それぞれの故郷や思いで の場所での休暇を楽しんで帰ってきた。  その中にレイチェルだけが含まれていなかった。  司令官となった第八占領機甲部隊と共に、最新鋭機動戦艦ミネルバの受領と、乗員 達のトランター本星での隊員訓練のためにトランター本星残留ということになってい る。  タルシエンから遠く離れた場所でただ一人、来るべき日「Xデー」に向けての準備 を密かに進めるために……。 「Xデーか……」  できれば、その日が来てくれないでほしい。  しかしその日はちゃくちゃくと近づいてくるであろう。  共和国同盟がタルシエン要塞に固執しつづける限り、そしてバーナード星系連邦に あのスティール・メイスンという智将がいる限り、その日は必ずやってくる。  デスクの上のヴィジフォーンが鳴った。 「何だ?」 「提督。レイティー中佐からご連絡が入りました」  秘書官のシルビア・ランモン大尉が、タルシエンにいて今なおシステムの改造に取 り組んでいるレイティーからの連絡を取り次ぐ。このシルビアは、シャイニング基地 にあって、以前は独立遊撃艦隊の司令部オフィス事務官として、司令官のいない閑職 にあったのだが、アレックスが第十七艦隊司令官になって、シャイニング基地に戻っ て来てからは忙しい毎日を送っている。事務官から秘書官へ、少尉から大尉に昇進し ていた。もちろん秘書官という限りは、アレックスのスケジュールを管理しているの で、毎朝のようにアレックスの所に来てその日や翌日などの予定を確認しにくる。早 い話が寝ているアレックスを起こしに来るのだ。 「繋いでくれ」  ヴィジフォーンにレイティーの上半身が映る。 「やあ、いらしたんですか? まだ寝ているかと思いましたよ」 「毎朝起こしてくれる優秀な秘書がいるのでね」 「ああ、シルビアさんですね。彼女、ものすごく時間にうるさいでしょう?」 「まあな……」 「何時に連絡してくださいとか、来てくださいとか言われたら、その時間きっかりじ ゃないと怒って取り次いでくれない時があるんですよ」 『それは、コズミック中佐がいけないんです。時間厳守は提督が口を酸っぱくおっし ゃってることです!』  突然、割り込みが入ってシルビアが顔を出した。 「ありゃ、聞いてたのね」 「気をつけろよ。ここのヴィジフォーンは秘匿通話にしない限り、秘書室のシルビア に筒抜けなんだ。重要な連絡事項や約束事などがあった時、言わなくてもスケジュー ルとかが組めるようにな」 「秘匿通話にしてなかったのですか?」 『通話を掛けた方が秘匿通話を依頼するのが筋ですよ。受けた側では、内容が判らな いんですからね』 「おー、こわ……。提督は、こんな気の強い人を秘書にしてるんだ」 「それくらいじゃないと秘書が務まらないさ。それよりそろそろ本題に入りたまえ」 「ああ、はい」
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2018年10月 9日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 II

第二十四章 新生第十七艦隊

                  II  パトリシアも生れ故郷の地に帰国していた。 「お帰りパトリシア」 「ただいま帰りました」 「しかし、おまえの旦那さまは一緒じゃないのかい。会えるのを楽しみしていたのに。 残念だよ」 「忙しいお方ですから」 「それはそうと、いつ正式に結婚するのかい。お前達は」  パトリシアの両親は、娘がアレックスと婚約し同居生活していることを告げられて いる。相手が英雄と称される人物だけに、世間に公表して誇りとしたいと考えるのは 親の心情であろう。二十代ですでに少将、軍の最高位である大将も確実視されて、絶 大なる国民的人気を背景に政界に転出すれば国家元首も夢ではないと、世間の評判で あったからだ。 「結婚式は挙げていないけど、正式な夫婦と何ら変わらないわ。別にいいんじゃな い」 「そうはいってもねえ……」 「お父さんはね、あなたのウェディングドレス姿を見たいのよ」 「なんだ、そういうことなのか」 「しかしタルシエン要塞を陥落させて、今が一番重要な時期なんだろう? そんな時 に帰郷とは、何かあるのかね?」 「それが……」  果たして話していいものかどうか、しばし悩み考えたが、 「提督のお考えでは、タルシエン要塞から当分の間動けなくなる事態になるんじゃな いかと思ってらっしゃるみたい」  正直に話すことにしたのである。もし本当にそうなってしまって、両親に会えなく なってからでは遅いからである。 「どうしてだい? タルシエンの橋の片側を押さえてしまえば、連邦軍だって侵略は もはや不可能だと言われてるんじゃないのかい?」 「その不可能だと思われていることが問題なのよ。ランドール提督だって不可能と思 われてることを、可能にしてみせていらっしゃるでしょ。橋を押さえたからといって、 油断はできないのよ」 「それはランドール提督だからこそじゃないのかね。星系連邦側に提督に勝るほどの 智将がいるとは思わないが」 「いるわよ。ミッドウェイ宙域会戦や、ハンニバル艦隊による侵略。さらには第五艦 隊、第十一艦隊を壊滅に追いやった張本人。スティール・メイスンという人物がね」 「聞かない名前だね」 「艦隊司令じゃなくて、参謀役として活躍しているみたいなの」 「ランドール提督の参謀長のパトリシア、お前みたいにか」 「そうよ。表には出てこないだけよ」 「出てこないのにどうして知っているんだ?」 「そういう情報を集めるのが専門のすごい方がいるの」 「いわゆる情報参謀だな」 「とっても素敵な女性で、女性士官の憧れの的よ」 「女性なのか?」 「そうよ。知識も豊富で、わたしもいろいろと教えてもらってるの」  宇宙軍港の送迎タラップで向い会うアレックスとジュビロがいた。 「やはり帰るのか?」 「ああ、要塞の方のシステム構築はほぼ完了したし、軍人でもない部外者の俺がいつ までも留まっているわけにもいかないだろう。統帥本部の知るところとなれば、君の 立場も危うくなるんじゃないのか?」 「それは別に構わないさ。慣れているからな。どうだ、この際。軍に入隊しないか?  レイティーと同じ中佐待遇で迎え入れる用意があるぞ」 「よせよ。俺は、自由勝手気ままな生活が似合っているんだ。軍の規律に縛られるこ となんて願い下げだ。今回の作戦に参加したのは、あの巨大な要塞のシステムに挑戦 したかっただけだ。共和国同盟の将来とかを思ってのことじゃない」 「そうか……残念だな」  本気で打診したのではないが、やはりというべきかあっさりと断られてしまう。 「もしまた協力してもらいたいことがあればどうすればいい?」 「レイチェルに頼むんだな」 「彼女のことは信頼しているんだな」 「そうだな。軍の情報を得るには内部にスパイを潜り込ませるのが一番の早道だから な」 「ほう……」 「と、言ったらどうする?」 「確かに早道かも知れないが、逆にそこから足が付く事もあるってことだ。君ほどの 腕前なら、その必要もないと思うがね」 「ふふん。君こそレイチェルを信頼しているようだな」 「一応幼馴染みだしな」 「それだけか? おまえのために性転換して女になったんだぜ。告白しなかった か?」 「出会うのが後五年早ければ、一緒になっていたかも知れないがな」 「婚約者のパトリシア嬢か。ああ……そういえば、その前はジェシカだったな?」 「私は、何人もの女性を同時に愛するなんて器用なことはできないからね」 「まあ、何にせよ。振られたからといって、おまえを裏切るような女性ではないこと だけは、覚えておくことだな」 「知っているさ」
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2018年10月 7日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 I

第二十四章 新生第十七艦隊

                 I  新生第十七艦隊司令官就任式当日となった。  就任式に先立って、第一会議室に佐官達が集められて、新司令官の顔合わせ及び昇 進佐官の任官状授与が行われた。  要塞攻略に関わる功績により昇進の対象となった佐官の名が呼ばれ、パトリシアか ら任官状と新しい階級章を手渡されていた。 「つづいて新任の佐官を紹介します。ジュリー・アンダーソン少佐、ドール・マイテ ィ少佐、リップル・ワイズマー少佐、クリシュナ・モンデール少佐、ソフィー・サリ バン少佐」  五名中四名が女性という異色の昇進であった。  ジュリーは第三高速重爆撃飛行連隊司令。チェスター配下のドールは第三十六揚陸 支援空母部隊司令となり、リップルは艦隊参謀となった。クリシュナとソフイーは艦 隊を離れて要塞において事務総監と医局事務長のそれぞれを担当する。  中佐にはジェシカ・フランドルが首席航空参謀兼第十一攻撃空母部隊司令。作戦遂 行中でこの席にいないレイチェルも、独立艦隊作戦参謀兼第八占領機甲部隊メビウス 司令のままで大佐に昇進となった。  大佐にはチェスターの後任としてディープス・ロイドが昇進し、繰り上がりでロイ ド配下の首席少佐のアイザック・フォーサイトが中佐になった。また第一・第二飛行 連隊のジミーとハリソンの両撃墜王もそれぞれ中佐に昇進した。アレックスの直属で ある技術将校レイティ・コズミックはタルシエン要塞兼第十七艦隊技術部システム管 理課長となり、フリード・ケースンも同技術部開発設計課長となって、共に中佐に昇 進した。アレックス達の影にあって印象は薄いが、技術将校で二十代の中佐というの も異例の昇進である。平均でいえば少佐(主任職)には三十歳、中佐(課長職)には 四十歳、大佐(部長職)には五十歳代というのが相場である。  総勢十三名の佐官が第十七艦隊において昇進を果たしたことになるが、一時にこれ だけ大量の数というのも異例である。  これまでに天文学的な損害をこうむってもなお攻略することのできなかったタルシ エン要塞を陥落させたのだ。それに報いるだけの地位を与えても罰当たりではないだ ろう。 「諸君!」  アレックスが壇上に立って訓示を述べはじめた。 「先の作戦で要塞の攻略に成功したのは、諸君達の働きのおかげである。今後もそれ ぞれの新しい部隊を率いつつ、第十七艦隊のために尽力を尽くしていただきたい。タ ルシエン要塞の陥落により、同盟・連邦の軍事バランスが大きく変わろうとしている。 要塞を手に入れたのはいいが、逆にそれが第十七艦隊の足かせになろうとしている。 第五・第十一艦隊も第八師団として再編成され、おっつけ要塞に集結してくるが、要 塞を奪還されないためにも、防衛のために釘付けされたも同然なのだ。その結果とし て他の地域の防衛が手薄になるだけなのだが……」 「つまり敵艦隊が、要塞を捨てて本星に直接侵略をかけてくれば、防備が手薄なだけ 攻略もたやすいというわけですね」 「その通りだ。だが、本国は敵艦隊が必ず要塞奪還にくると信じて疑わず、その防衛 に戦力を集結させたのだ」 「タルシエン攻略には、これまでにも多大な戦力を投入してきたし、艦隊と将兵の損 害は天文学的数字になっていますからね。そう簡単に手放せないというところです か」 「まあな……とにかくだ」  アレックスは息をついで言葉を続けた。 「本国からの命令には逆らえない。要塞防衛の任務を遂行するまでだ。諸君らの健闘 を期待したい。以上だ。解散する」  全員起立して、敬礼をもってアレックスの退室を見送った。  新生第十七艦隊司令官就任式は定刻通り始められた。  中央壇上の右手に艦隊幕僚達が腰を降ろして新司令官の入場を待っていた。  副司令官カインズ大佐。艦隊参謀長にチェスターの後任として昇進したディープ ス・ロイド大佐。艦政本部長には引き続きルーミス・コール大佐である。その他の幕 僚達。  反対側の席には、第八師団を代表してアレックスとパトリシアが並んでいた。  壇上に、第八師団作戦本部長に就任したパトリシアが出て、進行役として式を進め ていく。 「それでは、新生第十七艦隊司令官となられたオーギュスト・チェスター准将を紹介 します。チェスター准将、どうぞ」  やがて指名を受けてチェスター准将が進み出て、壇上にたった。  その雄姿を、会場の最前列に陣取って、誇らしげに見つめている家族がいた。  共和国同盟において数々の素晴らしい戦功を挙げて、七万隻という全艦隊中最大の 艦艇を所有する第十七艦隊の司令官である。  就任式を終えたチェスターを出迎えるアレックス。 「お疲れ様でした、准将」 「いえ。どういたしまして」 「早速で悪いのですが、移動命令です」 「移動ですか?」 「百四十四時間後に第十七艦隊を、タルシエンへ向けて出航させてください」 「百四十四時間後ですか? ずいぶんとゆっくりとしてはいませんか。早ければ二十 四時間後にでも出発できますが」 「わけありでしてね。この出航を最後に当分の間、もうトランターへは戻れないかも しれませんから」 「どういうことですか」 「不確定要素が多すぎて、まだ明かすことはできません。アル・サフリエニ宙域を震 撼する大事件が起こり、タルシエン要塞から離れなくなる可能性があるということで す。隊員達にトランター本星への帰郷、最後の休暇を与えます。二交代で各六十時間 づつ全員にです」 「六十時間ごとの交代ですね」  シャイニング基地最大の軍港ターラント宇宙港。  ノースカロライナやサザンクロスなどの、トランターへ帰郷する将兵達を乗せた輸 送艦が次々と発進している。  基地中央作戦司令部からその光景を眺めるアレックス。  パトリシアが近寄ってくる。 「帰郷する将兵達の第一陣の出発が完了しました。チェスター准将、ゴードン、ジェ シカ、そしてフランソワが含まれています」 「そうか、手配ご苦労だった」 「提督は、降りられないのですか?」 「ああ……」 「あの、私の両親が逢いたがってましたけど……」 「済まない。やらなければならないことが、山積みなんだ」 「私も残っていたほうがいいのでは」 「いや。この先どうなるかも判らない情勢だ。両親には精一杯親孝行をしてきたほう がいい。第二便で帰りたまえ。これは命令だよ」 「アレックス……」  自宅に戻ったチェスターは妻の前で告白した。 「こんな時期に全員に休暇なんて変ですね。再編成とか、今が一番忙しいのでしょ う?」 「どうやら、連邦軍の総攻撃が近いうちにあるらしい。それで決戦の前に全隊員に休 暇を与えておこうというお考えだ」 「でも、タルシエン要塞にランドール提督ある限り、連邦とて一歩足りとも同盟に侵 攻できないだろう、と言われてますよね」 「それは連邦がタルシエン要塞を橋頭堡として重要視している限りにおいてだよ。要 塞を見限って、他の方面からの攻撃を考えていたらどうなるか。提督はそれを危惧し ているのだよ。おそらく提督は、このトランターには当分帰れないと判断して、最後 の休暇を与えたのだろう」 「最後の休暇ですか?」 「そうだ。場合によってはこれが最後の帰郷ということになるかも知れない」 「そうでしたか……」 「おまえには済まないと思うが、私は提督に恩を返さなければならない。何があろう とも提督についていくつもりだ。たとえこれが今生の別れとなろうともな……」 「あなた……。気になさらないでください。軍人の妻となった時から、とっくの昔に 覚悟はできております。ランドール提督のおかげで、夢にまでみた将軍に抜擢されて、 親族一同の誇りと湛えられるようになりました。提督のためにその身を捧げて、さら なるご活躍をお祈りしております」 「ともかくせっかく頂いた休暇だ。有意義に使わせてもらおうか」 「故郷に戻りますか?」 「そうだな……おまえとはじめて会った思い出の場所にでも行ってみるか?」 「あなたったら……」
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2018年10月 4日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十三章 新提督誕生 VI

第二十三章 新提督誕生

                 VI  その夜、チェスターは艦隊の幕僚名簿を作るために夜遅くまで起きていた。  心配して夫人が起きだしてきた。 「あなた、お休みになられないのですか」 「ああ、すまない。起きてきたのか」 「ええ……」 「幕僚名簿を作って明後日いやもう明日になったか、それまでに提督に提出しなけれ ばならないんだ。早急にリップルと相談して決定しようと思ってな、その概要だけで も作成しておいた方がいいだろう」 「でも、お身体にさわりますよ」 「どっちにしても、興奮して眠れそうにないよ、今夜は。おまえは、気にせずに寝て いなさい」 「無理をなさらないでくださいね」 「わかっている。おやすみ」 「おやすみなさいませ」  夫人が寝室に消えるのを見届けて、チェスターは再び名簿作成にとりかかった。  その最中にも彼の脳裏には、最有力候補であった提督の片腕であるゴードン・オ ニールではなく、この自分を艦隊司令官に推したのか……という思いがよぎっていた。  功績点においては、自分の方が上位にあったのは確かであるが僅差でしかなく、年 齢制限と彼の将来性を考えれば、誰もがオニールが選出されるのが自然であると判断 していただろう。慣習に従うならば、勧奨退職を持ち出されてしかるべきところだっ たのだ。  それを曲げて定年間近の自分を推挙して統帥本部の承認を得るために、提督は相当 の労力を払ったに違いない。  とにもかくにも、提督は自分を後任として任命した。提督の性格からしても、その 決定が温情からくるものでなく、先々を見越し計算されつくしているはずである。少 なくとも五年先までは……。老骨とはいえ、自分が提督のために、まだまだ十分働け るということである。 「とにかく今は、この艦隊幕僚名簿を作成することが最初の任務というわけだ……」  つぶやき、チェスターは再び名簿作成に専念することにした。  夜が明けて朝となった。  いつまにか居眠りしていたらしく、チェスターの肩には妻の手によるのだろうガウ ンが掛けられていた。 「寝てしまったか」  食堂に降りると、朝食の準備は整っていた。 「あ、おはようございます。丁度朝食の支度が済んだところです。お食事になさいま すか」 「ん……そうだな」 「じゃあ、お座りになってくださいませ」  その時、インターフォンが鳴った。 「こんなに早く、一体どなたかしら」  夫人は立ち上がって、玄関に回った。 「たぶん、リップルじゃないかな。来るように言っておいたから」 「そうですか。じゃあ、応接室にお通ししますね」 「いや、ちょっとこっちに頼む」 「はい」  やがて夫人に案内されてリップルが入ってきた。 「やあ、これは朝食中でしたか。一刻も早いほうがいいかなと思いまして、失礼を承 知で伺いました」 「気にするな。取り敢えず食事を済ませるから、その間この艦隊幕僚名簿の試案に目 を通しておいてくれないか」  リップルはチェスターが差し出した名簿を受け取って、 「わかりました。どうぞ、ごゆっくり」  と答えて応接室に入った。 「待たせたな」  チェスターが応接室に入ってきた。  リップルは立ち上がって敬礼する。 「改めて昇進おめでとうございます。閣下」  チェスターは閣下と呼ばれて耳がこぞばゆく感じた。 「閣下か……」 「准将になられたのですから、閣下とお呼びして当然です」 「そうだな」 「それで、あの……私の処遇は……」 「心配するな。ちゃんと少佐になれるように進級申請を出しておいた」 「あ、ありがとうございます」 「ただし、佐官への昇進には司令官としての適正審査と面接試験がある。十分な経歴 があるから、かのウィンザー少佐のような実戦試験はないとはいえ、時間がかかるし 申請通りいくとは限らないから、そのつもりでな」 「わかっております」 「君のことだ。審査も試験も合格は間違いないだろう」 「はい」 「と安心したところで、話しを進めようか」 「はい」 「どうかな……」  と名簿を指し示した。  艦隊司令官 =オーギュスト・チェスター准将  艦隊副司令官=ガデラ・カインズ大佐(第二分艦隊司令)  艦隊参謀長 =ディープス・ロイド中佐  艦政本部長 =ルーミス・コール大佐  首席参謀  =マーシャル・クリンプトン中佐  第一作戦課長=ジャック・モーリス中佐 「艦隊参謀長にディープス・ロイド中佐を選ばれたのですね。第十七艦隊の結成式の 当日をもって大佐に昇進されるのが内定していますから問題はありませんし」 「まあ、順当というところだろう。私は、ランドール提督と違って用兵術に優れてい るでもなければ、作戦会議をまとめる器量もなし。本来の様式通り艦隊参謀長を選任 して作戦面の強化をしなければな」 「その点でしたらロイド中佐は適任ですね。本当なら、閣下直属のマーシャル中佐を 選びたいところなんでしょうけど」 「そうもいかんだろう。提督が常勝と呼ばれるに至った背景には、私情を一切排除し て適材を適所に配して、かつまたその者達を信頼してすべてを任せておられたからだ。 だからこそ、任せられた者達は能力を十二分に発揮してこれに答えることもできたの だ。私も肖りたいし、何よりロイド中佐が最適任者であることは明白な事実だ」 「そうですね……。では、次に進みましょうか。艦政本部長にルーミス・コール大佐 はいいとして。問題は、副司令官のガデラ・カインズ大佐ですか……今回の人事で、 一番の貧乏くじを引いた方ですね」 「オニール大佐は別格として、私が選ばれるくらいなら彼が選ばれた方が道理にあっ ているのだが……彼は提督が少佐の時からの部下だからな」 「とはいっても、人事は提督がお決めになられたことです。彼も軍人ですから、その 辺の事情は察してくれるでしょう。私としてはですね、高速戦艦ドリアードに坐乗し ているというだけでも、羨望の的なんですから」 「ハイドライド型高速戦艦改造II式か……」 「そうです。同盟軍にたった五隻しかない最高速の戦艦で、サラマンダー艦隊の主力 旗艦。連邦軍はその艦影を見ただけで恐れをなして逃げ出すという、今では名艦中の 名艦として知られていますからね。サラマンダーを筆頭に、ウィンディーネ、シルフ、 ノーム、そしてドリアード」 「自然界に存在するという精霊から名付けられたらしいな」 「提督が連戦連勝しているのは、その名の通りに精霊の加護を受けているのではない かとのもっぱらの噂です」 「どうかな……、それって地球上の精霊だろ、宇宙にまでいるかどうか怪しいものだ。 おっと、話しがそれた」 「すみません。ともかく三役の人事はこれでいいのではないでしょうか」 第二十三章 了
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2018年10月 2日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十三章 新提督誕生 V

第二十三章 新提督誕生

                 V  チェスターは一瞬自分の耳を疑った。  パトリシアが任官状と階級章をアレックスの机の上に置いた。 「しかし私は……」 「定年でしたら、准将となったことで、軍の規定により貴官の退役は後五年延長され ます。貴官には引き続き司令官として、艦隊をまとめ運営していただきたい」 「オニール大佐は、このことを承知なのですか?」 「いや。まだ伝えていないが、納得してくれるだろう。ただ、第一分艦隊の連中が納 得しないだろう、これだけは私も手におえないと思う。第一分艦隊のこれまでの活躍 は、私が種をまいたとはいえ、手塩にかけて育ててきたゴードンの功績によるところ が大きい。そこで、第一分艦隊を三万隻の独立艦隊として私の直下に置くことにした。 彼には副将としてその司令官を務めてもらう。つまり、残る七万隻が第十七艦隊とし て、貴官に与えられることになります。パトリシア、艦隊編成表を渡してやってく れ」 「はい」  パトリシアが艦隊編成表をチェスターに手渡した。  チェスターは編成表にさっと目を通した。 「それが新生第十七艦隊の編成表です」  そこには戦艦ペガサスを旗艦とする七万隻からなる艦艇がずらりと並んでいた。 「主戦力である第一分艦隊を欠いたとはいえ、それでも一個艦隊としては同盟軍最大 であることには違いありません。それを生かすも殺すも貴官の腕しだいです」  チェスターの腕は震えていた。 「いかがです、受け取っていただけますね」  アレックスは先の任官状と階級章を、静かにチェスターの目前に差し出した。  チェスターは、踵を合わせ鳴らして敬礼して答えた。 「はっ! 謹んで、お受けいたします」 「ありがとう。オーギュスト・チェスター准将。それでは明後日までに、新生第十七 艦隊の新しい幕僚の選出と名簿を作成して提出してください。それとあなたの後任の 推挙状と、副官リップル・ワイズマー大尉の進級申請書も忘れずに」 「承知しました」 「それと、艦隊司令官就任式を五日後の午後二時より、本部講堂にて執り行いますの で出席してください。ご家族をお呼びになっても結構ですよ。私からの報告は以上、 下がって結構です」 「はっ。ありがとうございました」  チェスターは、任官状と階級章とを受け取ると、最敬礼をし踵を返して退室した。  控えの秘書室に、丁度入れ代わるようにゴードンが入ってきたところであった。 「あ、チェスター大佐……」  ゴードンが声をかけるが、唇をきゅっと噛みしめるように無言で出ていった。 「あなた、いかがでしたか?」  軍服を脱ぐ手伝いをしながら、夫人は尋ねた。 「ああ……」  とりとめのない返事をする夫に、夫人はそれ以上声を掛けるのをためらった。  黙々と着替えを進めて普段着になり、食卓に座ったチェスターに、夫人はそっと酒 を出した。 「どうぞ、お飲みください」 「ん……? ああ、すまないな」 「いえ」 「実はな……、第十七艦隊の司令官に任じられたよ」 「え?」  夫人は、聞き返した。 「更迭の話しじゃなかったのですか?」 「それがだ。俺自身も覚悟して行ったのだが、意外だった。とうとう俺も将軍になっ たんだ。退役も五年先に繰り延べされた。これが任官状と階級章だ」  といって夫人に、もらったばかりのそれを見せた。 「ほ、本当ですのね」  夫人は、実際に目の前に任官状などを見せ付けられても、急には信じられないとい う風であった。 「本当だ。五日後に就任式が行われる。家族も呼んでいいそうだ」 「あなた……」  夫人はことの真実をやっと飲み込めてきて、涙声になりながら夫の昇進を労った。 「おめでとうございます。あなた……今日まで、本当にご苦労さまで……」 「退役して、夫婦仲むつまじくというのは、先延べになったな」 「そんなこと……いつだって」 「そうだな」
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2018年9月30日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十三章 新提督誕生 IV

第二十三章 新提督誕生

                IV  自宅においてアレックスから呼び出しを受けたチェスター大佐は、長年連れ添って きた妻の前でふと言葉をもらした。 「これまで随分おまえに心配かけさせてきたが、それも今日で終わりだろう」 「やはり肩叩きですか?」 「わしより若くて優秀な人材がどんどん出てきているからな。一年で退役となる老骨 がいつまでもでしゃばっていては士気にも影響するし、後進に道をゆずれってところ だ。若くて勇壮な若者を推挙するのが本筋というものだ。誰が考えてもオニール大佐 が次期艦隊司令官となるのが妥当というものだ」 「退役までどこに配属されるのですか」 「慣例では艦隊司令本部の後方作戦本部長、もしくは艦隊士官教育局長というところ かな」 「それにしても後一年なのですね」 「よくぞここまで生き延びてこれたと感謝すべきなのだろうな。同期のものは、戦死 したり傷病で中途退役したりして、ほとんど数えるほどしか残っていないというの に」 「無事定年を迎えられるだけでも幸せといえるのでしょうか」 「ああ……しかし、将軍になれなかったのは、やはり心残りだ。そうすれば老後の生 活ももっと楽になるのだがな」 「あなた……」 「おっと、今更愚痴をいってもしかたないな。それじゃ、行ってくるよ」 「行ってらっしゃいませ」  シャイニング基地司令官室。 「チェスター大佐がお見えになりました」  アレックスが司令官のオフィスに戻ってすぐに、インターフォンが鳴り秘書官が来 訪を告げた。 「通してくれ」 「はい」  ドアが開いてチェスターが神妙な表情で入室してきた。 「オーギュスト・チェスター大佐、命により出頭いたしました」  チェスターは敬礼してアレックスの前に立った。 「椅子に腰掛けませんか」  アレックスは老体を気遣って椅子をすすめた。ここは地上である、重力の小さい艦 隊勤務の長い彼にはただ立っているだけでも重労働に値するからだ。 「いえ。ご懸念には及びません。老いたりとはいえまだ健在です」 「そうですか、結構ですね。では、早速本題に入りましょう」 「はっ」 「ご存じのように、私が第八師団総司令となり第十七艦隊司令が空席となりました。 現在貴官にお願いして代行を務めていただいておりますが、一刻も早く人事を決定し なければなりません。敵の動向もさることながら、艦隊内での士官達の統制をまとめ ることも、最重要項目です。艦内では次の艦隊司令官が誰かということで、指揮系統 に混乱が生じているふしも見られます。司令官代行として、あなたの耳にも入ってい るはずですね」 「はい、確かに」 「ウィンディーネ艦隊内では、ゴードン・オニール大佐に決定したという、まことし やかな流言もまかり通っているらしいですが、私は冗談としても一度だってそんなこ とを口に出した覚えはありません」 「申し訳ありません。私の指揮が至らないせいです」  チェスターは、代行として任にあたっているにも関わらず、流言を押さえることの できない自分の、艦隊司令としての能力を問われているのだと感じた。  やはり自分は更迭されるのだ。  誰が考えても、ゴードン・オニール大佐が艦隊司令の席に座るのが自然であり、こ れまでの実績が物語っている。仮に自分が就任することになれば、ウィンディーネ艦 隊の士官達が、こぞって反目するだろうことは目にみえている。  チェスターは覚悟した。  とはいえアレックスの表情は、これから更迭を言い渡そうとするには、笑みを浮か べて無気味に思えた。 「いや、誰が艦隊司令を務めても同じでしょう。ゴードンだったらば、ドリアード艦 隊の士官が不平を並べていたでしょうね」 「そうでしょうが……結局は、納得すると自分は思います」 「まあ、ともかく結論を出しましょう。軍令部の決定を通達します」 「はっ!」  チェスターは姿勢を正した。 「オーギュスト・チェスター大佐。本日付けをもって、貴官を第十七艦隊司令官に任 じます。階級は准将」 「え……!?」
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2018年9月27日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十三章 新提督誕生 III

第二十三章 新提督誕生

                III  オーギュスト・チェスター先任上級大佐(艦隊副司令)  ゴードン・オニール上級大佐(第一分艦隊司令)  ガデラ・カインズ大佐(第二分艦隊司令)  ルーミス・コール大佐(艦政本部長)  パトリシア・ウィンザー大佐(艦隊参謀長)  レイチェル・ウィング大佐(情報参謀長)  ディープス・ロイド中佐(旗艦艦隊司令)  以上が、第十七艦隊を支える大佐達である。  なお上級大佐及び先任上級大佐は階級ではなく職能級である。あくまで階級は大佐 であるが、職能給が追加支給されているし、艦隊内においては一般大佐級に対して事 実上の上官待遇にある。功績点において准将への昇進点に達し、かつ査問委員会にお いて次期将軍に推挙・承認されていることが任官の条件になっている。これは将軍ク ラスに定員制度があり、どんなに功績を挙げても定員による頭ハネ、昇進できないた めの士気の低下を防ぐために設けられた制度である。通称的に副将として呼び習わさ れている。  またディープスは、新生第十七艦隊の再編成と同時に大佐に昇進することが内定し ている。  アレックスはパトリシアに参考意見を求めてみた。 「後任の艦隊司令官だが、君なら誰を推薦する?」 「新任で作戦参謀の私やウィング大佐は論外として、艦隊再編成時に単身移籍してき たコール大佐も外れるでしょうね」 「ま、彼は長年政務担当を専門でやっているからな。艦隊を指揮させるには不適当 だ」 「やはり、実戦部隊を配下に持っているチェスター・オニール・カインズからですね。 順番からいきますとチェスター大佐ですが定年間近ということから勧奨退職が慣例と なっております。となるとオニール大佐が一番適当ということになります」 「慣例でいけばな」 「はい。一番妥当な線ではあります」 「カインズだって、私が特別推薦すれば准将になれる場合もあるしな……」 「オニール大佐を差し置いてですか?」 「ゴードンには、独立遊撃艦隊を与えることも考えている。以前の私みたいね。奴は 人の下に置かれるよりも、自由気ままに行動させた方が、その能力を存分に働かせら れるタイプだ。これまでは気のおける親友ということで、私の下でも存分に動いてく れたが、これからはそうもいかないだろう」 「それはいい考えですね」  パトリシアの意見通りにゴードンを推挙すれば、統帥本部もすんなり認めることで あろう。しかし……順番通りにチェスターでは、なぜいけないのか。と、アレックス はふんぎりがつけないでいた。  チェスター大佐は、現在五十九歳で定年まで僅か一年しかない。将軍となれば定年 は六十五歳まで延長されるとはいえ、それでも六年の在位でしかないことになる。艦 隊司令官が交代した時、将兵の末端まで新司令官の考えや人となりが理解され、意志 疎通ができるまでには数年はかかるだろうし、いざこれからというときにはもう定年 間近で次の後継者を考えねばならないというのでは……。  仮に年齢や現在の功績点などを一切考えずに、二人を天秤に掛けた時どちらが艦隊 司令官にふさわしいだろうか。いや、この結論はいうまでもない、絶対的にチェス ター大佐が選ばれるのが当然である。戦いを勝利に導く戦術能力はゴードンの方が勝 っていることは確かであるが、反面作戦を強引に推し進めて反感を買うことも多い。 その正反対をいくのがチェスターである。  有り体にいえば、ゴードンは戦艦を動かすことを考えて乗組員を従わせるが、チェ スターは乗組員を動員してから戦艦を動かすことを考える、という考え方の違いであ ろう。  作戦能力には猛るが作戦を強引に推し進めて退くことを省みないこともある若いゴ ードンと、老練で隙のない布陣を敷いて慎重に戦いつつ将兵達には温情をもって人望 熱いチェスター。  第十七艦隊を構成する部隊は、連邦軍より搾取した艦船と敗残兵や士官学校を繰り 上げ卒業した将兵など、はっきりいって寄せ集めの混成艦隊というのが、その実情で あった。そんな将兵達がなんとかこれまでついてきたのは、アレックス・ランドール 提督という英雄の存在と、数々の功績を上げて部下共々昇進してきたという餌が目の 前にぶら下がっていたからである。  将兵達が、これまでのように作戦指令に従って行動するかは、新司令官の裁量にか かっているといえる。ゴードンではどうか……少なくとも彼が育て上げたウィンデ ィーネ艦隊は問題ないだろうが、ライバル関係にあるカインズ配下のドリアード艦隊 やチェスターが連れてきた旧第五艦隊の面々が反目することは目にみえている。  ゴードンとカインズというライバル関係にある二人の競争心を煽ることによって、 結果として多大なる戦功を重ねてきたのであるが、二人が率いる分艦隊全体までが一 種の派閥と化して相容れない関係に近くなってきていることも事実であった。これま ではそれぞれに分艦隊を任せることで、人間関係の軋轢を回避できたのであるが、ど ちらかが艦隊司令官に選ばれるとなると、いっきに問題がこじれてくるであろう。  その点チェスターならば、移籍組みであり中立的位置にあったことと、温厚派で人 望もある。 「結局の問題は、年齢だけなんだよな」
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