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2018年6月17日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第十七章 リンダの憂鬱 VII

第十七章 リンダの憂鬱

                VII 「どうぞ、メニューです」  ウェイトレスよろしく、アレックスの目の前に、すっとメニューを持った手が差し 出された。  無意識にそれを受け取り、ページを開くと、料理メニューではなかった。 「何かね、これは?」  ふと視線をあげて、メニューを差し出した本人を見ると、 「提督の体力トレーニングメニューです。それとこちらがフランソワの分です」  艦長のリンダだった。その隣にはウェイトレスが控えている。 「な、なによこれ?」  メニューを見るなり悲鳴のような声を出すフランソワ。 「今までの二倍の基礎筋トレーニングに、肺活筋の強化トレーニング……」 「こっちは、脚力と腹筋トレーニングが増えているな」 「お二人とも、トレーニング不足とという健康診断が出ております。それに基づきト レーナーと相談して、運動メニューを決定いたしました。艦内に居住するすべての将 兵の健康管理を取り仕切るのも艦長の任務の一つです。どうかご理解くださいませ」 「判った……納得いかないが納得するしかないようだ」  艦長としての責務を果たそうとしてるリンダには従うしかないと判断するアレック ス。警報が出てから自分の持ち場へ、急ぎ馳せ参じる運動能力を維持しなければ、自 分の役目を果たすことができないのは必至である。それが全艦隊の運命を左右する指 揮官たる者なら当然の責務の一つである。命令を下すべき指揮官が遅れれば、指揮統 制も乱れ混乱する。  積極的な行動に出たリンダ。 「そうか……レイチェルが動いてくれたようだな。将兵達の心を掴み揺り動かせる才 能。さすがにレイチェルだな」  感心しきりのアレックスだった。 「ありがとうございます。それではこちらが今日の料理メニューです。鯛の香草風味 焼き、あさりと春野菜のクリームソースがお奨めです」 「そうか、それを頂くとしよう」 「あたしもそれでいいわ」  アレックスが承諾したので、おのずと自分も従わざるをえなくなったフランソワ。 つっけんどんに答えていた。 「お二人とも、鯛の香草風味焼き春野菜のクリームソースでよろしいですね?」  ウィトレスがメニューを確認する。 「ああ、よろしく頼む」  と言いながらIDカードを差し出すと、ウェイトレスが持っているカードリーダー に差し込んで、メニューを打ち込んでいる。これで厨房への調理指示と、給料天引き が自動的になされる。  ここの食堂のようなファミリーレストラン風なシステムを採っているのは、第十七 艦隊だけである。他の艦隊の食堂は、日替わりでメニューが決められていて、選択の 余地がなかった。自慢のシステムであるが、このシステムを考案し採り入れたのが、 主計科主任であるレイチェルであった。コンピュータ技師のレイティー及び厨烹科の ナターリャ・ドゥジンスカヤ料理長と共に、システムと携帯端末の設計開発を行った。  ランジェリーショップの経営、女性士官制服制定委員会などと、レイチェルは常日 頃から気を配って、メンタルヘルスケアを実践していた。  このような乗員にやさしいレイチェルに対し、女性士官達は憧れをもって接してお り、艦内における意見具申などはすべてレイチェルに届けられていた。  そのレイチェルが食堂に入ってきた。  士官達の敬礼を受け流しながら、アレックスの姿を見つけると、一直線に歩み寄っ てくる。 「提督。お食事中のところ申し訳ありません」  と辺りを気にしながら話しかける。一般の将兵達には聞かせたくない内容のようだ。 「ここで、構わん。報告してくれ」  気を遣っているレイチェルだったが、そう言われては仕方がない。 「はい、では。報告致します」  姿勢を正して報告をはじめるレイチェル。 「バーナード星系連邦のタルシエン要塞から敵艦隊が出撃を開始しました。二個艦隊 がクリーグ基地へ、三個艦隊がシャイニング基地に向かっています。その他、占領機 動部隊や後方支援部隊を含めて、総勢八個艦隊です」 「そうか……最初の情報どおりというわけだな」 「その通りです」 「判った、ご苦労だった。引き続き情報の更新を頼む」 「かしこまりました」  それから少し考えてから、 「レイチェル。今ここにいる全員に待機命令を出してくれ。外に出ないように」 「判りました」  足早に食堂前方に移動するレイチェル。 「フランソワは、食堂にある艦内放送をセットし、全艦放送の手配を取ってくれ」 「はい!」  同様に、食堂後方にある放送施設に掛けて行くフランソワ。  レイチェルが大声を張り上げて、食堂にいる全員に伝える。 「みなさん。お静かにお願いします。これから提督のお話があります。食堂から出な いようにしてください」  何事かと、レイチェルやアレックスに注目する一同。  その間に放送室にたどり着いたフランソワが、艦橋にいるパトリシアに連絡する。 『艦橋。ウィンザー少佐です』 「あ、先輩。食堂の艦内放送システムを全艦隊放送に流してください。提督からのお 話があります」  ディスプレイにパトリシアが現れると同時に話しかけるフランソワ。 「判りました。全艦放送の手配をします」  パトリシアにもレイチェルの報告が届いているのであろう。アレックスの意図をす ぐさま理解して、全艦放送の手配をはじめた。  つかつかと歩いて食堂の一番前に来るアレックス。  食堂の職員がマイクスタンドを運んできて、アレックスの前に立ててから小声で言 った。 「接続は完了しています。どうぞお話ください」 「判った」  アレックスはマイクを軽く叩いて、改めて接続が完了しているのを確認し、深呼吸 してから話し出す。

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2018年6月15日 (金)

銀河戦記/鳴動編 第十六章 リンダの憂鬱 VI

第十七章 リンダの憂鬱

                 VI  それから数時間後。  アスレチックジムでの体力トレーニングを終えたというのに、一人ベンチに腰掛け て思慮深げな表情のリンダがいる。  そこへ人探し風なレイチェルがやってくる。リンダを目ざとく見つけて歩み寄って くる。 「どうしたの悩み事?」  やさしく語りかけるレイチェル。 「あ……ウィング少佐」 「レイチェルでいいわよ。今は非番だから。汗をかいた後だというのに、こんなとこ でじっとしていると風邪をひくわよ」 「そうですね……」 「心にわだかまりがあるなら相談に乗るわよ」 「はあ……。会うたびにすぐ口論になる人がいて、どうしたら仲良くなれるかと思っ て……」 「思ってはいるのね」 「ええ……思ってはいるんですけど。艦長として、どうしたら信頼関係が築けるので しょうか?」  そうか、仲良くしようと考えてはいるんだ。  しかも艦長としての責務も忘れてはいない。  改めてリンダの心境を垣間見るレイチェルだった。  やはりここは、反省し悩んでいるリンダの方に、助け舟を出すのが利に適っている と判断した。 「艦長としての責務を全うしていれば信頼関係も自然に身についてくるものよ」 「そうでしょうか? 例えば足の遅い上官についてはどうすればいいんでしょう か?」 「フランソワの事ね」  ここで改めて相手のことを持ち出すレイチェル。 「階級はあなたの方が上じゃない」 「いえ。戦闘や訓練の際には、戦術士官(Comander officer)の徽章(職能胸章)を 付けてるフランソワの方に、指揮権や命令権の優先が与えられますから」 「でもね。あなたは艦長として、艦内における将兵達の用兵はもちろんの事、健康管 理をも任されているわ」 「健康管理?」 「体力トレーニングよ」 「それが何か?」 「意外と鈍いのね。足が遅いのは体力・筋力が衰えているせいです。艦内で勤務する 乗員にはすべて体力トレーニングが義務付けられており、その運動メニューの決定権 も艦長が持っています。足が遅いと感じたならば、足を早くする運動メニューを用意 してあげればいいのよ。ただ、フランソワだけだと意地悪していると思われるかも知 れないから、もう一人足の遅い方がいるからそれと一緒に提出するといいわね。もち ろんそれは提督のことだけどね。この際一緒に鍛えてあげなさい」 「なるほど! そういうことかあ!」  合点! 納得いったリンダだった。 「あなたは、相手が戦術士官であり、提督と近しい間柄にあることから遠慮している みたいだけど、もっと自分の立場に誇りと自信を持ちなさい。階級が下の者に対して は厳粛たる態度で臨むべきです。遠慮は一切考えないことです」  リンダの表情に明らかなる変調が表れた。艦長として凛々しく誇りある責務に改め て邁進するという感情が見られるようになったのである。 「ありがとうございます。色々と参考になりました」  深々と礼をして足早でアスレチックジムを駆け出していくリンダであった。 「ふふ……。少しは役に立ったようね」  食堂にフランソワを連れてアレックスが入ってくる。  アレックスに気づいた全員が、一旦立ち上がって敬礼をしている。 「提督、あそこの席が空いてますよ」  フランソワが指差す空いた席に移動するアレックス。 「一つお聞きしてよろしいですか?」  アレックスが先に椅子に腰を降ろすのを見届けてから、自分も座りながら尋ねるフ ランソワ。 「何かね?」 「提督やお姉さま達は、上級士官専用の食堂がありますのに、どうして一般士官用の 食堂で食事をするのですか? 」 「それじゃあ、隊員たちの様子が判らないだろう」 「どういうことですか?」 「人間、食事とか就寝前とか、リラックスしている時には、本音が出やすいものだ。 部下の精神状態がどのようになっているか、士気の低下や食欲の低下を起こしている 者はいないか、緊張しすぎている者はいないか、などあらゆるメンタルヘルスケアチ ェックを行うのも、上官の任務だよ。人知れずにね」 「でも、そういうことは衛生管理部門の役目ではないですか?」 「報告を聞いて鵜呑みにするだけでなく、直に自分の目と耳でチェックする。それが 本当の指揮官たる裁量のあり方だと、私は思っているのだよ。そうは思わないかね」 「はあ……何となく理解しました」 「まあ、考え方は人それぞれだな。厳粛な上下関係をはっきりさせるために、食堂は もちろん居住ブロックの区分けさえしている人もいる」 「あのお……それが普通だと思いますけど」 「そうか?」 「そうですよお」

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2018年6月13日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第十七章 リンダの憂鬱 V

第十七章 リンダの憂鬱

                 V 「君達は、この数字を見てどう思うか? 率直な意見を述べてみよ」  いつになくきびしい表情で質問をするアレックス。 「軒並み完了時間が遅れているのは、今年の士官学校卒業者を加えての不慣れな環境 によるのではないでしょうか」 「どうかな、シルフィーネは六秒も早くなっているじゃないか。確かに不慣れな者が 多いのは確かだが、指導しだいということではないかな」 「スザンナが着任早々から、メイプルを指導してということですね」 「そうだろうな。とにかく、今回の訓練の成果に関しては、あえてどうこうしようと するつもりはない。ただ旗艦たるサラマンダーが問題だな」  ため息をつくアレックスにパトリシアが説明を加える。 「やはり航空母艦の指揮と戦艦の指揮には大きな違いがありますから、それが影響し ていると思われます。原子レーザー砲や各種砲塔などの火力兵器を多数搭載した戦艦 と、フライトデッキを装備し艦載機の離着陸を主任務とする航空母艦、艤装がまるで 違いますからね」 「まあな、しかし空母の方が戦闘配備には時間が掛かるものだ。それを差し引いても ……やはり遅いと言えるんじゃないか?」 「そう言わざるを得ないのは事実ですね」  再び大きくため息をつくアレックスだった。  新人というものは、ベテランには気づかない多様な障害が付きまとうものだ。それ を理解しないで頭ごなしに叱責することは避けなければならない。本来あるべき向上 心をくじき、才能の芽を摘んでしまうこともありうるからである。 「とにかく旗艦がこれでは、他の艦艇に対する示しがつかない。レイチェル、済まな いが相談に乗ってやってくれないか。任務遂行に際して障害となってことを取り除い てやってくれ」  主計科主任であるレイチェルに、メンタルヘルスケアを依頼するのは当然と言えた。  情報参謀として多忙なはずなのに、主計科主任をも兼務するレイチェル。  その多才な能力をもって、アレックスの絶大なる信頼を受け、それに十分に応えら れるレイチェルだった。 「判りました。最善を尽くします」  食堂の掲示板に、例の艦艇ごとの戦闘配備完了時間の順位が張り出されている。  競争心を煽って少しでも時間短縮するのではないかとの参謀の意見を取り入れての ことだった。  掲示板を見つめながら会話する将兵達。 「我が艦隊の旗艦、しかも連邦を震撼させる名艦たるサラマンダーが、最下位だなん て問題じゃない?」 「そうなんだけど……一人、遅刻してきた人がいたから」  その場にいたリンダが呟く。 「何よ。あたしのこと言ってるの?」  フランソワもいた。リンダの呟きが聞こえたのか、息巻いている。 「言ったわよ。先輩方が全員揃った後に、新入りが遅れて到着するなんて、気が入っ てない証拠よ」 「気が入ってないですって? あたしのどこが気が入ってないのよ」 「一番遅れてくることが、気が入ってない証拠じゃない。新人なら新人らしく、いの 一番に艦橋入りするものよ」  レイチェルから食堂の一件の報告を受けて考え込むアレックスだった。 「どうも犬猿の仲というのがぴったりな雰囲気になってきています。食堂の件以外に も、いろいろと衝突しているようです」 「旗艦の新艦長と、艦隊参謀長付副官という、誇りと責任感からくるものだろう。ど ちらもそれ相応のプライドを持っていることが問題だ。片や新人には好き勝手にはさ せないという思い、もう片方は戦術士官として戦闘時には優先権を与えられるという 制度からくるもの。それぞれの思いが交錯して火花を散らしている」 「プライドというものは、すべからくいざこざをもたらします」 「ああ……。結局のところ、共和国同盟の複雑な階級制度に問題があるんだよな。戦 術士官などという職能級がね」 「その通りです。いざこざが起きるのは、当然戦闘態勢時ではありません。一般士官 とはいえ、リンダの方が階級は上位ですから、フランソワが楯突くのは筋違いという ものです」 「複雑な女性心理というのも働いているのかも知れないしな。パトリシアやジェシカ にも協力してもらいたいところだが、あまりにも近すぎるから私情に駆られることも あるかも知れない。ここは中立の立場からレイチェルに依頼するしかない。頼むよ」 「それは構いませんが、いくら中立といっても、明らかにフランソワに分が悪いです からね」 「任せるよ」  レイチェルもアレックスの依頼を断るわけにはいかなかった。  何せ迫り来る敵の大艦隊のことで手一杯なはずのアレックスのこと、個別の乗員の 痴情の縺れ的な問題に関わっている暇はないのである。

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2018年6月11日 (月)

銀河戦記/鳴動編 第十七章 リンダの憂鬱 IV

第十七章 リンダの憂鬱

                 IV  フランソワが艦橋にたどり着いたときには、他の乗員達は全員配置につき終わった 後だった。 「フランソワ。遅いわよ」  当然というべきか、遅刻をパトリシアに叱責されてしまう。 「申し訳ありません」  平謝りするしかないフランソワであった。  艦橋内を見渡してみると、すでにランドール提督は指揮官席についていた。 「シルフィーネ、戦闘配備完了しました。続いてウィンディーネ、ドリアード、そし てセイレーン。戦闘配備完了しました」  次々と戦闘配備完了の報告が入ってくる。  やや遅れて、 「提督。旗艦サラマンダー、総員戦闘配備完了しました」  リンダが立ち上がって申告する。 「よし! そのまま待機せよ」 「了解。待機します」  アレックスは後ろを振り向いて、情報参謀として傍に控えているレイチェルに話し かける。 「どうだ、レイチェル。計測の方は?」 「三分二十秒です」 「うーん。遅いな……スザンナは、二分四十五秒で完了させたんだがな」 「条件は、ほぼ同じのはずです」 「そうだな……せめて三分以内でないとな」 「しかし、新人も大勢配属されていますから、単純な比較はできません」  レイチェルが進言する。 「そうなのだが、今後の訓練の指標にはなる」 「全艦、戦闘配備完了しました!」 「そのまま待機せよ」  と指令を出して、レイチェルを見つめるアレックス。 「提督。全艦の戦闘配備完了時間のデータが揃いました」 「よし。ご苦労だった」  と言いつつ正面に向き直って、 「全艦の戦闘配備命令を解除、通常任務に戻せ。全艦放送を用意してくれ」  通信オペレーターに指示する。 「全艦隊の諸君。いきなり予告なしの訓練に戸惑ったことと思う。しかし敵は予告な しに襲ってくるものなのだ。今回の訓練で慌てふためいた者はいなかったか? 配置 につくのに手間取った者はいなかったか? それぞれ思い当たることがあるならば、 これを反省して次回にはよりスムーズに動けるようにして貰いたい。何時如何なる時 も万全の体制が取れるように、常日頃から十分すぎるほどの訓練を重ねておかなけれ ば、いざという時に慌てふためいて各自の能力を発揮できないこともありうるのだ。 今回はこれで訓練を終わるが、今後も予告なしに戦闘訓練を行うので十分訓練を積み 重ねておくように。総員ご苦労だった。なお、各部隊指揮官(LCDR)及び準旗艦 艦長は、サラマンダー第一作戦司令室に直ちに集合するように。以上だ」  数時間後、第一作戦司令室に集合した将兵に対し、緊急戦闘訓練に際しての、各艦 の戦闘配備完了時間が発表された。  旗艦・準旗艦だけを拾ってみると、 艦名 指揮官 今回 平均 シルフィーネ ディープス 二分四十九秒↑ 二分五十五秒 ウィンディーネ ゴードン 二分五十四秒↓ 二分五十二秒 ドリアード カインズ 二分五十四秒↓ 二分四十八秒 セイレーン ジェシカ 三分二秒  ↓ 三分一秒 セラフィム リーナ 三分五秒  ↑ 三分七秒 サラマンダー アレックス 三分二十秒 ↓ 二分四十五秒 ノーム(実験艦)フリード(技師)四分三十秒 データなし  と並んでいるが、アレックスが望む三分以内を実現しているのは、ロイド中佐以下 ゴードンとカインズの三艦だけという結果が出た。ロイドのシルフィーネが一位を取 ったのは、副指揮官として乗艦しているスザンナの手並みだろうと思われる。サラマ ンダーと同型艦のシルフィーネだからこそであり、艦長のメイプル・ロザリンド大尉 を懇切丁寧に指導していたのだろう。これだけの短期間でここまでの成果を出したの も、その指導力にあるのだろう。アレックスが見抜いたとおり、ただの艦長で終わる ような、並みの士官ではないことを証明していた。  なお、ノームはカール・マルセド大尉が乗艦して準旗艦となっていたが、現在は技 師のフリードが乗艦して、日夜さらなる改良のためにエンジン及び制御システムをい じくっているので、現在では準旗艦を外されて実験艦扱いとなっている。またセイ レーンとセラフィムは、艦載機群を直接指揮するジェシカと、空母艦隊を指揮する リーナとそれぞれ分業しているので、両艦とも準旗艦扱いとなっている。また両艦の ような空母の場合は、艦載機にパイロットが乗り込んで、全機発進準備完了となるま でが計測されるので、艦艇の種類別では時間が余計にかかる。  サラマンダーが残念な結果に終わったのは、艦長が新任であったこともあるが、そ れ以上に旧第十七艦隊を併合したせいでオペレーターが数多く異動されて刷新してい たせいもある。

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2018年6月 9日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第十七章 リンダの憂鬱 III

第十七章 リンダの憂鬱

                 III  食事休憩中のパトリシアとフランソワ。 「お姉さま、お願いがあります」 「なに」 「お姉さまと同室になるようにしていただけませんか」 「あなたと同室?」 「はい」  婚約者としてのパトリシアは、アレックスと同室の夫婦居住区に移ることもできた が、あえて一般士官用の部屋にそれぞれ入っていた。同室となれば欲情を制御できる わけがなく、妊娠に至ることは明白であった。少しでもアレックスのそばにいたいパ トリシアとしても、まだ妊娠だけは避けたいと考えていたからである。 「あのね、ここは士官学校とは違うのよ。戦場なんだから」 「わかっておりますわ。あたしといっしょじゃ、おいやですか……」  フランソワは泣きそうな顔をしている。 「わかったわよ、好きになさい」 「やったあ!」 「でも、部屋を仕切っているのは、主計科主任のレイチェルさんだから、あなたの方 から依願しなさいね」 「はーい」  というわけで、早速その日にうちに、レイチェルにパトリシアとの相部屋の申請書 を提出して、乗り込んでくるフランソワであった。  鏡台の前で髪をとかしているパトリシア。勤務開けで就寝前のネグリジェ姿である。  一方待機状態にあるフランソワは、軍服姿のままベッドの上で寝そべって本を読ん でいる。 「ところでお姉さま達、まだ結婚しないのですか?」 「どうして、そんなこと聞くの?」  パトリシアは髪をとかす手を止めて反問した。 「ランドール先輩も将軍になったことだし、ここいらが好機じゃないかと思って。将 軍が退役した場合の軍人恩給だって、夫婦二人が楽に食べていけるほど支給されるっ て噂だし、配偶者手当金も任官中の結婚期間によって加金されるのでしょう? 愛し あっているなら結婚したほうが、後々もお得じゃないですか」 「思い違いしてるわよ、フランソワ。婚約しているもの同士が婚姻した場合には、そ の婚約期間も自動的に婚姻期間に含まれることになっているのよ」 「え? そうだったんですか」 「同居して生活を共にしている婚約者も婚姻関係にあるとみなされて、ちゃんと年金 だってでるんだから」 「知らなかった……」 「軍規では、夫婦は同室にされることになってるのよ。結婚していなければ他人の目 があるし抑制も効くけど、結婚したらどうしても子供が欲しくなっちゃうじゃない。 そのためには地上に降りて、別れて暮らさなければならないし。宇宙では子供は育て られないのよ」 「受精から子宮への着床、細胞分裂・脊椎形成には重力が必要だからでしょ。重力場 のある艦橋勤務なら、何とか受胎は可能かも知れないけど、艦隊勤務のストレスで妊 娠を維持することが非常に難しい、ほとんど不可能ということは聞くけど……」 「そういうこと」 「でも夫婦で一緒の職場勤務だったら、死ぬ時はいつでも一緒に死ねますね」 「だめよ、そんなこと言っちゃ。うちの艦隊のタブーなんだから」 「タブー?」 「戦いとは死ぬことに見つけたりなんて風潮は、うちの艦隊には間違ってもありえな いことなの。提督のお考えは、生きるための戦いをしろですよ」  アスレチックジムの更衣室で着替えている女性士官達。日課のトレーニングを終え たばかりである。その中にフランソワも混じっている。 「ねえ、フランソワ」 「なあに」 「あなた、士官学校でもパトリシア先輩と同室だったんでしょ」 「そうよ」 「だったら先輩達がどのくらいまでの関係か知っているんでしょ」 「え? そ、それは……」 「ねえねえ、教えてよ」 「だめよ。そんなことあたしがしゃべったなんて、お姉さまに知られたら絶好されち ゃうもん」 「あ、その言い方。やっぱり知っているのね」 「し、知らないわよ」 「うそ、おっしゃい」 「いいかげんに白状なさい」 「だ、だめえ」  同僚達から詰め寄られてしどろもどろになっているフランソワ。  その時、突然警報が鳴り響いた。  一斉に艦内放送に耳を傾ける一同。 『敵艦隊発見! 総員、戦闘配備に付け!』  新艦長のリンダ・スカイラーク大尉の声だった。 『繰り返す。総員、戦闘配備に付け!』 「いきなり戦闘?」  あわてて軍服を着込む隊員達。 「先に行くわよ」  すでに軍服姿の者は、廊下へ飛び出していった。 「ま、待ってよ!」  あたふたと軍服を着込んでいくフランソワ。  そして着替え終えて廊下に出ると、急いでそれぞれの持ち場に向かっている隊員た ちがいる。  つい先ほどまでアスレチックジムでの汗をシャワーで流したばかりだというのに、 すでに汗びっしょりになっていた。戦闘という緊張感が、心臓の鼓動を高め、汗腺か らの汗の分泌を増やしていたのだ。  ただ一人、遅れて自分の持ち場である艦橋へと急ぐフランソワ。 「もう、みんな冷たいんだから」

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2018年6月 7日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第十七章 リンダの憂鬱 II

第十七章 リンダの憂鬱

                 II  バーナード星系連邦が大攻勢を仕掛けてくるという情報を得て、まずは側近の参謀 達を招集して作戦会議の事前会議をはじめたアレックスだった。全参謀及び各部署の 長が参加する作戦本部大会議となると百人近い人間が集まることとなり、意思疎通を 諮るのは甚だ困難となる。ゆえにそのまえに近しい人間だけで事前に要旨をまとめて おく必要があるわけである。これは模擬戦闘の当初から行われていたことで、ティー ルームなどで良く行われたのでお茶会会議とか、アレックス・ゴードン・ジェシカ・ スザンナ・パトリシアという人数から五人委員会とも称されていた。その後に加わっ たカインズ中佐、ロイド中佐、チェスター大佐と、情報源の要であるレイチェルを含 めて、現在は総勢九名の人員で開かれていた。ちなみに戦闘には直接に関与しない、 事務方のコール大佐は含まれていない。この九人委員会の後に招集される少佐以上の 士官約四十名を交えた作戦本会議となる。通常はここまでであるが、さらに必要とさ れたときには各部署の長を加えて作戦本部大会議が開催される。 「未確認情報だが、今回の侵攻作戦に投入されるのは、総勢八個艦隊もの艦隊が動く ということだそうだ」 「しかし今になってどうしてこれだけの大艦隊を差し向けてくるのでしょうか?」 「そりゃあ、ランドール提督がついに将軍になったからよ」 「これ以上黙って手をこまねいていたら、さらなる昇進を果たして共和国同盟軍の中 枢にまで入り込み、大艦隊を動かして逆侵攻をかけてくると判断したんでしょうね」 「タルシエン要塞を陥落させてね」 「そうそう。ランドール提督の次なる目標として、タルシエン要塞が挙げられるのは 誰しもが考え付くことよね。要塞を攻略されれば、ブリッジの片端を押さえられるこ とになり、共和国同盟への侵攻が不可能になる。だからそうなる以前に行動を起こし たのでしょう。……ですよね、提督」 「私の言いたいことを全部言ってくれたな。まあ、そんなところだろう」  この九人委員会は男女均等四名ずついるのであるが、口達者なのはやはり女性の方 である。自分の言いたいことまで、先に言われてしまうので、出番が少なくなるとぼ やく事しかりのアレックスであった。 「このシャイニング基地は、攻略するのには五個艦隊を必要とするとよく言われてい ますが、正確なところどうなんでしょうか?」 「対空迎撃システムをまともに相手にしていればそうなる勘定となるらしいわね。し かし何も迎撃システム全部を相手にする必要はないじゃない。主要な軍港や迎撃シス テム管制棟とその周辺を破壊すればいいことなのだから。基地の裏側の方は放ってお けばいいのよ。結局一個艦隊もあれば十分に攻略できるでしょう」 「なんだ。随分とさば読んでるんですね」 「そりゃそうよ。一個艦隊の守備力があるとされたカラカス基地だって、数百機程度 の揚陸戦闘機で攻略できたじゃない。守備の弱点を突けば、ほんの一握りの部隊でも 可能だということよ。……ですよね、提督」 「あのな……ジェシカ、私の言い分まで取り上げないでくれ」 「あら、ごめんなさい」  謝ってはいるものの、どうせいつものごとく二・三分もすれば元通りだろう。  何かに付けてアレックスの揚げ足を取ったり、皮肉ったりするジェシカだが、あえ て忠告しようとする者はいない。航空母艦と艦載機の運用に掛けては共和国同盟では 一二を争うと言われ、士官学校の戦術シュミレーションではその航空戦術の妙でアレ ックスを負かしたことさえある唯一の人物だからである。ゴードンやパトリシアです ら一度もアレックスに勝ったことがないのだから、それはもう賞賛ものであるから遠 慮してしまうのだ。  ドアがノックされた。  全員が音のしたドアの方に振り向く。 「入りたまえ」  アレックスの許しを得て、ドアが開き一人の将校が入室してきた。 「失礼します」  その真新しい軍服を着込んだ姿を見れば今年の士官学校新卒者らしいことが一目で 判る。 「あ……」  その将校の顔を見て驚くパトリシア。 「こちらに伺っているときいて参りました」  その将校は敬礼をして申告した。 「申告します。フランソワ・クレール少尉。ウィンザー少佐の副官として任命され、 本日付けで着任いたしました」 「フランソワ!」  彼女は、パトリシアの士官学校時代の後輩で同室のフランソワであった。 「お久しぶりです、お姉さま」  表情を崩して、満面の笑顔になるフランソワ。 「あなたが、わたしの副官に?」 「はい、千載一隅の幸運でした」  また再び一緒に仕事ができると喜び一杯といった表情である。 「頭がいたい……」  逆に頭を抱えて暗い表情のパトリシア。 「あ、お姉さま。ひどーい」 「お、なんだ、フランソワじゃないか」  ゴードンが親しげに話しかけてくる。 「あ、オニール先輩。お久しぶりです」 「ゴードンでいいよ。但し任務中でなければね」 「はい。判りました。ゴードンさん……ですよね」 「首席卒業だってねえ。頑張ったじゃないか」 「はい。後輩としてお姉さまの名前を汚したくありませんでしたから」 「うん。いい心がけだ。その調子でパトリシアに遅れを取らないように、これからの 軍務にも張り切りなよ」 「はい! もちろんです」  士官学校時代の懐かしい雰囲気に浸る者たちに、アレックスが本題に引き戻す。 「今は会議中だ。同窓会は後にしてくれ」  公私をきっちりとするアレックスだった。これが待機中のことだったら、その会話 の中に入っていたであろう。 「あ、すみませんでした」  フランソワが、素直に謝る。  他の者も、改めて姿勢を正して会議に集中する。

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2018年6月 5日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第十七章 リンダの憂鬱 I

第十七章 リンダの憂鬱

                 I  士官学校の卒業の季節となった。  各艦隊や、それぞれの艦艇にフレッシュな人材がやってくる。  将兵たちの最近の話題は、そのことで持ちきりとなる。  食堂の片隅に集まった下士官達が話し合っている。 「今年の最優秀卒業生は誰か聞いているか?」 「聞いてないなあ……」 「学業成績優秀で、なおかつ模擬戦闘で優勝した指揮官が最優秀になるのが普通らし いけどな」 「例外が一人いるだろう」 「ランドール提督だろ」 「ああ、ありゃ例外中の例外だ」 「学業成績はそうとうひどかったらしいな。落第寸前だったとかいう噂だ」 「何でも優勝指揮官は、官報に掲載されるということだが、その人物が落第となると 笑い話にもならない。スペリニアン校舎の恥になるということで、成績上積み卒業で 規定通りに二階級特進となったらしい。 「学校側としては苦渋の選択だったのだろうな」 「まったくだ」 「しかし、結果としてはそれが正解だったということになるな」 「共和国同盟の英雄になってしまったもんな。これが落第だったらどうなっていた か」 「そうだよな。落第者は上等兵からだからな。活躍の場を与えられずに、今なお弾薬 運びとかの肉体労働の下働きに甘んじていたかもな」 「そして倉庫の片隅で闇賭博を主催して、みんなの給金を巻き上げているなんてね」 「大いにありうるな」 「まさか司令官が賭博を開くなんて出来ないからな。これはこれで良かったのかもし れないぜ」 「言えてる、言えてる!」  あはは、と全員が一様に声を上げて笑い転げていた。  サラマンダー司令官オフィス。  アレックスに呼び出されたジェシカが出頭していた。 「……なんてこと、提督のことを肴にして盛り上がってますよ」  食堂での会話に聞き耳を立てていたジェシカが、アレックスにご注進していた。 「なかなか図星を言い当てているじゃないか」 「闇賭博で給金泥棒ですか? まあ提督のことですから、あり得ない話ではなさそう ですが、こんな噂で肴にされているなんて、もう少しピリッと将兵達を締めてかかっ たほうがいいんじゃないですか? 艦隊の総指揮官である提督を軽々しく噂の種にす るなど問題だと思います」 「戒厳令でも発令しろと?」 「そこまでする必要はありませんが……」 「まあいいさ。肴にされるのも一興だよ。それより本題に入ろう」 「ああ……はい。判りました」  改めて姿勢を正すジェシカ。 「サラマンダー艦長の次期艦長にリンダ・スカイラーク中尉をとの君の意見具申のこ とだ」 「スカイラーク中尉に関する報告書は読んで頂けましたか?」 「ああ、読ませてもらったよ。それに付随する副指揮官のリーナ・ロングフェル大尉 の意見書も参考にさせてもらった」 「ありがとうございます」 「私は中尉とはそれほどの面識があるわけじゃないからな。率直なところどうなん だ? 旗艦の艦長としての能力は備わっているのか? リーナの意見書の方には多少 甘ったれた性格があるとの記載もあるが」 「確かに性格的に甘いところもございますが、尻を引っ叩けばシャンと直りますよ」 「そうなのか? 何にせよ、彼女は航空母艦の艦長だ。高速戦艦の運用の方は大丈夫 か?」 「提督それは野暮な質問と思いますが。航空母艦にしか乗艦したことがないからと、 戦艦への転属を否定していては、いつまでたっても進歩がありません。あえて経験し たことのない部署へ転属させることで、心機一転新たなる能力を開発する機会を与え る。これは提督がいつもおっしゃられていることじゃないですか。スザンナ・ベンソ ン大尉を参謀の仲間入りをさせて、旗艦艦隊の次期司令官に抜擢されたのもその一環 ではなかったのですか?」 「そうだったな……失言した。経験がないからと足踏みしていては進歩はない」 「まあ、旗艦の艦長という重任ですから慎重になられるのも理解できますがね。あえ て進言させて頂きます」 「うむ」 「リンダ・スカイラーク中尉は、甘ったれた性格のせいか、その潜在能力の10%も 引き出されていないと思います。その能力を開発できる環境に置いてあげるのも上官 としての責務ではないでしょうか。スザンナの後任として旗艦艦長の任務に十分働け る素質をもっております」 「確かにその通りだな。いいだろう、採用させてもらうとしよう」 「ありがとうございます」 「それでセイレーン艦長の方の後任はもう決まっているのか?」 「はい。副艦長のロザンナを順当に昇進させます」 「そうか、判った。本題は以上で終わりだ」  本題の内容が終わったところで、リラックスした姿勢に戻って話し始めた二人。か つての恋人同士だった間柄である。本題が終わったからといってすぐには別れたりし ない。 「ところで先ほどの話に戻りますが、今期の最優秀成績で首席卒業したのは、フラン ソワらしいですよ」 「フランソワ?」 「はい。パトリシアの後輩ですよ」 「知っている。あのフランソワが首席とはねえ。リンダに輪を掛けたような甘ったれ 娘だったな」 「そうですね。パトリシアのことを『お姉さま』と慕っていつもくっついていまし た」 「そうそう」 「パトリシアも少佐になったことですし、その副官に志願してくると思われます」 「あははは。あのコンビが復活というわけか」 「ええ。見ものですわよ」 「パトリシアはどう思っているのだろうか。知っているのか?」 「そりゃもう。一番にフランソワからの報告が入っているでしょうね」 「まあ、志願してくるものを追い返すこともないだろうし、フランソワの能力を十二 分に引き出せるのはパトリシアを置いて他にいないだろう」  それは、リンダがサラマンダー艦長に選ばれる前の二人の会話だった。

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2018年6月 3日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第十六章 新艦長誕生 VIII

第十六章 新艦長誕生

                VIII  それから数日後。  リンダのサラマンダー艦長としての初搭乗の日がやってきた。  その日は、リンダの大尉の任官式でもあった。  サラマンダーの上級士官搭乗口には、寿退艦予定の副長のカーラ・ホフマン中尉以 下主要な艦の責任者達が出迎えていた。 「ようこそリンダ・スカイラーク艦長。お待ち申しておりました」  艦長と呼ばれて、改めて感慨深げになりつつも、就任の挨拶を交わすリンダ。 「こちらこそ、よろしくお願いします」  カーラが出迎えの要人達を紹介し始めた。 「紹介します。機関長のジェド・コナーズ上級曹長です」 「コナーズです」 「よろしく」 「航海長のエレナ・F・ソード先任上級上等曹長です」 「エレナです。よろしく」 「よろしく」  以下次々と紹介が続いていく。 「それでは早速艦橋へ案内しましょう。みんなが待ってますよ」 「判りました」  タラップを昇り艦内に入ってすぐに、乗艦受付所があった。  そこで乗艦する士官達を管理しているデビッド・ムーア軍曹に申告する。 「リンダ・スカイラーク大尉。乗艦許可願います」  そしてリンダの個人情報が記録されているIDカードを差し出す。  それを受け取って端末に差し込み、個人情報を確認しているムーア。  画面にリンダの写真画像と共に、チェックOKの文字が現れた。 「リンダ・スカイラーク大尉を確認しました。艦長殿、サラマンダーへようこそ」  とカードを返しながら敬礼をした。 「ありがとう」  艦橋に入った。  一斉にオペレーター達が立ち上がって敬礼で出迎えてくれた。 「リンダ・スカイラーク艦長! ようこそいらっしゃいました」 「これから、よろしくお願いします」  ここでもまた士官達の紹介が繰り広げられた。  周知の通りに全員女性士官である。  艦隊の総指揮を司るサラマンダーの艦橋は、今まで勤務していた軽空母セイレーン と大きく違うところがあった。  その大きな違いは艦橋が二層構造になっていることだった。  一個の戦艦としての操舵や艦の艤装兵器への戦闘指示を執り行う戦闘艦橋と、一段 上の階層にあって、戦闘艦橋を見下ろす位置にある、ランドール提督が鎮座する艦隊 運用のための戦術艦橋とに分かれていた。  戦闘艦橋には、操舵手、艤装兵器運用担当、機関運用担当、レーダー哨戒担当、重 力加速度計探知担当など直接の戦闘に関わるオペレーターがおり、戦術艦橋には多く の通信管制担当がひしめいており、他にパネルスクリーンなどの操作や戦術コンピ ューターなどの設定を行なう技術担当、そして各種参謀達の席がある。 「艦長の席はこちらです。わたしの隣の席になります」  航海長のエレナが席を案内してくれた。  艦長と航海長は何かと蜜に連絡を取り合う必要があるので席が隣同士になっている のだ。しかも戦術艦橋の一番前にある。  そこは、旗艦艦隊司令としての修行をはじめた、前艦長スザンナ・ベンソン大尉の 席だったところだ。 「今後ともよろしくお願いします」 「よろしくね」  丁度そこへランドール提督がパトリシアと共に入室してきた。  他のオペレーター達と共に立ち上がって敬礼するリンダ。  目ざとくリンダを確認して話しかけるランドール提督。 「良く来たねリンダ。よろしく頼む」 「はい、期待に応えられるように頑張ります」 「うん。みんなも共にカバーし合って、より良い艦隊運用が行なえるようにしてくれ たまえ」 「了解しました!」  全員が一斉に答えた。 「いい声だな。早速だが任務だ」 「ええーっ! いきなりですかあ?」  黄色い声が飛び交った。リンダの声も混じっている。 「こらこら。遊びじゃないんだぞ。リンダ、初の操艦だ。心の準備はいいな」 「は、はい。いつでも結構です」 「よし、それでは全員配置に付け」  ランドール提督はやさしい口調ではあったが、何かしら重要な任務を帯びているら しいことに、オペレーター達は気づきはじめていた。 「これよりシャイニング基地に向かう。バーナード星系連邦の新情報を入手したから だ。連邦が総勢七個艦隊の大艦隊をもって、シャイニング基地及びクリーグ基地に向 けて大攻勢をかけて来ることが判明したのだ」  オペレーター達の表情が一瞬にして固まった。 「大攻勢って、それはいつの事ですか?」 「時期はまだ明らかにされていないが、急を要することは確実だ。速やかにシャイニ ング基地に戻って打開策を練らなければならない」  淡々と答えるランドールであったが、事態は急転直下で進展していくことになった。 「全艦発進準備。シャイニング基地に向かえ」  リンダにとっては着任早々の大仕事が待ち受けていた。 第十六章 了

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2018年6月 1日 (金)

銀河戦記/鳴動編 第十六章 新艦長誕生 VII

第十六章 新艦長誕生

                VII 「ですが、それでも副長がいらっしゃいます」 「彼女は寿退艦して地上勤務に転属することが決まっている。妊娠出産という重役を 担う女性に艦隊勤務は不可能だからな。有能な人材を失うのは残念だが致し方がな い」 「そうでしたか……」  自分が名だたる旗艦サラマンダーの艦長……。  改めて自分のことを逐一報告していたというリーナを見つめた。  その微笑が天使のように思えた。日頃から説教を聞かされ続けていただけに、意外 な進展に驚くと共に、これまでの事は自分をより良い艦長となって欲しいための愛の 鞭だったのだと実感した。 「君を置いて他にサラマンダーを任せる人物はいない」  提督の言葉が重々しかった。  そして嬉しかった。 「あの……」  言葉がのどにつかえてすぐには出てこなかった。  この場にいる全員が、やさしく微笑んでいる。  感激の極みに涙が溢れてきた。  リーナが歩み寄ってきて、そっと両肩に手を置いて言った。 「大丈夫よ。あなたならサラマンダーの艦長を立派に勤められるわ。ここにいる全員 がそれを知っている。自信を持って任務に付きなさい」 「そうよ、リンダ。あなたの才能を一番良く知ってらっしゃるのは提督よ。以前に話 したことあるでしょ」  ジェシカも寄ってきて、リンダの手をとって諭し始めた。  そして、前艦長のスザンナ。 「あなたになら、安心してサラマンダーを任せられるわ。誇りをもって任務について 欲しい」  手を差し出して握手を求めてきた。  震える手を差し出して、スザンナの握手に応えるリンダ。 「ありがとう、スザンナ」 「さあ、リンダ。しっかりとしなさいよ」  リーナが促し、ジェシカ、スザンナが離れた。  そのリーナの言葉に押し出されるようにして、  姿勢を正して、ゆっくりと言葉を噛みしめるようにして、申告をはじめた。 「リンダ・スカイラーク中尉。ランドール提督の命に従い、第十七艦隊旗艦サラマン ダーの艦長の任務につきます」  そして敬礼。 「よし!」  ランドール提督が大きく頷いた。  一斉に拍手が沸き起こった。  そして女性士官達がリンダのそばに集まって抱き合っていた。 「おめでとう、リンダ」 「一緒に頑張りましょう」 「はい!」  こうして伝説の精霊サラマンダーを冠する旗艦の新たなる艦長が誕生した。

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2018年5月30日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第十六章 新艦長誕生 VI

第十六章 新艦長誕生

                 VI  カラカス基地司令部にある、ランドール提督のオフィスを訪れるリンダとジェシカ。  秘書官のサバンナ・ニクラウス中尉に出頭命令に応じて来訪したことを告げる。 「お待ちしておりました。少々お待ちください」  インターフォンを取って中に居るランドールに連絡を入れるサバンナ。  「リンダ・スカイラーク中尉がいらっしゃいました……。はい、判りました」  受話器を置いてから言った。 「どうぞ。お入りください」  正面のドアが開いた。 「リンダ・スカイラーク中尉。入ります」  ドアをくぐって中に入るリンダ。  正面の大きな机に威風堂々のランドール提督が腰掛けており、周りには見慣れた人 物達が立ち並んでいた。少佐の制服も凛々しいパトリシアを筆頭にガデラ・カインズ 中佐、ディープス・ロイド中佐、スザンナ・ベンソン艦長、そしてリーナ・ロングフ ェル大尉もいた。ゴードンはシャイニング基地方面で、哨戒作戦任務で出撃中である。 「リーナ!」  まさか、やっぱり報告したの?  と疑問が再び湧き上がる。  しかし提督の表情はにこやかで、とても注意されるような雰囲気ではなかった。周 囲の参謀達も和やかであった。 「リンダ。休息中のところ済まなかったね」 「い、いえ……」 「このやかましのジェシカの下で、セイレーンの艦長として日頃から激務をこなして くれて感謝している」 「提督! そんな言い方しないでください。まるでわたしが苛めているみたいじゃな いですか?」  ジェシカが横から口を出した。 「違うのか? このリーナから日頃の君の様子を聞いているがね。何かにつけて苛め て遊んでいるそうじゃないか」 「リーナ! あなた、そんな事まで報告しているの?」 「わたしは副指揮官として、見たこと感じたことを正直に報告しているだけです」  と淡々として答えるリーナ。 「違います。フランドル少佐は、艦長として甘えた態度があるわたしを、叱責し教育 してくださっているのです」 「そ、そうですよ」  冷や汗拭きながら弁解するジェシカ。 「まあいい。話を戻そう」  とにこやかに答える提督。 「さて、日頃からの君の働きぶりについては、このリーナから報告を聞いているが… …」  あ、やっぱり報告していたんだ。  いやだなあ……。  そう思いつつもランドールの言葉に耳を傾ける。 「君にはセイレーン艦長としてこれまで任務についてもらったわけだが、そろそろ他 の艦を指揮してみたいと思わないか?」 「他の艦に転属ですか?」 「そうだ。すでに大尉としての内定が下ったことは聞いているな」 「はい。伺っております。それに関しては、感謝しております」 「大尉となると、通常は主戦級の攻撃空母の艦長として指揮を任されることが多い。 がしかし、君も知っての通りに、我が部隊には主戦級の攻撃空母は一隻も配備されて いない」 「確かにその通りです」 「そこでだ。君には、第十七艦隊旗艦サラマンダーの艦長としての任務を与えたいと 思うのだがどうかね?」 「サラマンダー!」  衝撃だった。  サラマンダーと言えば、共和国同盟にあっては最速最強の高速戦艦。連邦を震撼さ せる代名詞として名だたる名鑑中の名鑑である。 「し、しかし……サラマンダーの艦長は、スザンナ・ベンソン大尉がいらっしゃいま す」 「スザンナには艦長の任を降りてもらうことにした。本人にとっては、いつまでも艦 長として腕を振るっていたかったろうが、後任にすべてを託しその成長を見守ること も大事だと説き伏せた」 「ではベンソン大尉は?」 「スザンナは先任上級大尉としてすでに少佐への昇進点に達している。いずれはデ ィープス・ロイド中佐の後任として旗艦艦隊の司令官の任務を与えるつもりだ。ただ 戦術士官ではないので現状では司令官にはなれない。そこでしばらくは中佐の下で副 司令官の任務をこなし、戦術士官としての艦隊勤務教育を施す事にしている」  司令官になる資格を有するには、高等士官学校において戦術専攻科の課程を卒業し て任官されるか、このスザンナのように少佐昇進点に達した一般士官が、戦術士官と しての艦隊勤務教育を一定期間受けた後に査問審査に合格した場合、そしてもう一つ は名誉勲章を受けるほどの素晴らしい功績を挙げた場合の三種類があった。  なお、戦術士官は胸に職能階級を示す徽章を付けているので、一般士官と判別がつ くようになっている。 「艦隊勤務教育ですか……」  提督が、スザンナに類稀なる指揮統率能力を見出して、何かにつけて指揮官として の教育をしていたのはよく知られていることだ。それが正式採用されたわけである。  しかも、旗艦艦隊司令に任命するのだという。これこそまさしく適材適所の好材料 である。

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