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2018年8月 9日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエン要塞へ III

第二十章 タルシエン要塞へ

                 III  サラマンダー、作戦会議室。  アレックス、ゴードン、パトリシアにジェシカ、そしてレイチェルが集まっている。  タルシエン要塞攻略について最後の詰めを行っているのであった。 「どうだ、例の物の仕上がり具合は、ジェシカ」 「はい。ダミー実験を繰り返して安全性に万全を期するように念入りな微調整が行わ れています」 「うん。乗員の訓練のほうはどうだ。ジェシカ」 「工作員は問題ないとして、一応操艦手としてはジミーとハリソンのうちのどちらか、 射手をジュリーにやらせております」 「射手をジュリーにまかせるのか?」 「射撃の腕はジミーにもひけを取らないですよ彼女は」 「そうか、君がそういうなら」 「ところで提督自らが要塞に侵入されるそうですが、お考えを改めなさいません か?」  ジェシカがパトリシアの方を見つめながら尋ねる。 「私が行かないでどうする」 「生きて帰ってこれないかも知れないんですよ」 「だからこそ私が行かなければならないのだ」 「そうおっしゃってカラカス基地にも突入されましたね」 「どんな状況変化が起きるかもしれない作戦において、迅速かつ正確に事態収拾する ためには、作戦のすべてを知り尽くした私の他に誰が行くというのだ」  パトリシアは俯いている。アレックスの意思が固く、いかにパトリシアでもそれに 異論を唱える立場にないからである。 「判りました。提督がそこまでおっしゃるなら、もはや私達の差し出口を挟む余地は ありませんね」 「うん。いつも済まないと思っているが……」  と、レイチェルの方を見つめながら、 「特に今回は、部外者である天才技術者を一人連れて行く。彼との信頼関係をなくし たくないのだ」 「天才システムエンジニアですよね?」  皆の手前そういうことにしているが、事実はネット犯罪という裏舞台で暗躍する 「闇の帝王」、ジュビロ・カービンその人である。間違っても天才ハッカーなどとは 明かすことはできない。  フリード・ケースンという人物が身近にいるから、他にも天才と呼ばれる者がいて も不思議ではないと思う一同だった。  その本人は、作戦開始までは特別室でくつろいで貰っている。仲間内ではない艦隊 の乗員とは距離を置きたいだろうとの配慮である。  五人委員会にて最後の確認事項が取り交わされた後に、改めて少佐たちを加えた作 戦会議が招集された。 「別働隊として投入する部隊は、第六突撃強襲艦部隊及び第十一攻撃空母部隊。この 私が率いていく」  第六突撃強襲艦部隊はその名の通りに、かつての士官学校時代の模擬戦でも活躍し た強襲艦を主体とした白兵戦部隊である。攻撃よりも防御力と速力に主眼において、 目的の場所に速やかに到達して任務を遂行する。 「それぞれの指揮は、ゴードンとジェシカに任せる」 「了解した」 「判ったわ」 「今回の作戦は、本隊が要塞への攻撃を敢行注意を引きつつ、別働隊の要塞への接近 を容易にすることにある。しかも寸秒刻みの正確さで速やかに作戦を遂行しなければ ならない。そのために別働隊を率いる私に代わって、作戦の詳細を熟知しているパト リシアを総参謀長とし、艦隊の指揮をカインズ大佐に任せる」  ため息をつく一同だった。  パトリシアが解説に立ち上がった。 「タルシエン要塞は、このシャイニング基地に相当する堅固な敵最前線基地です。全 艦挙げての総攻撃とし、シャイニング基地の守備は、基地の自動防衛システムに委ね ます。基地を空にすることになりますが、先の基地攻防戦のことから、敵も容易には 手出しはできないと思われます。タルシエン要塞はバーナード星系連邦と共和国同盟 を繋ぐ橋を守る橋頭堡です。第十七艦隊が攻略に向かったという情報は、すでに向こ うにも流れていると思います。それを知らされれば敵側も要塞の死守に専念するより なく、シャイニング基地攻略の余裕はないでしょう」 「出撃は四十八時間後だ。将兵達には交代で休息を取らせておくように。以上だ、解 散する」

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2018年8月 7日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエンへ II

第二十章 タルシエン要塞へ

                 II  サラマンダー、作戦会議室。  アレックス、ゴードン、パトリシアにジェシカ、そしてレイチェルが集まっている。  タルシエン要塞攻略について最後の詰めを行っているのであった。 「どうだ、例の物の仕上がり具合は、ジェシカ」 「はい。ダミー実験を繰り返して安全性に万全を期するように念入りな微調整が行わ れています」 「うん。乗員の訓練のほうはどうだ。ジェシカ」 「工作員は問題ないとして、一応操艦手としてはジミーとハリソンのうちのどちらか、 射手をジュリーにやらせております」 「射手をジュリーにまかせるのか?」 「射撃の腕はジミーにもひけを取らないですよ彼女は」 「そうか、君がそういうなら」 「ところで提督自らが要塞に侵入されるそうですが、お考えを改めなさいません か?」  ジェシカがパトリシアの方を見つめながら尋ねる。 「私が行かないでどうする」 「生きて帰ってこれないかも知れないんですよ」 「だからこそ私が行かなければならないのだ」 「そうおっしゃってカラカス基地にも突入されましたね」 「どんな状況変化が起きるかもしれない作戦において、迅速かつ正確に事態収拾する ためには、作戦のすべてを知り尽くした私の他に誰が行くというのだ」  パトリシアは俯いている。アレックスの意思が固く、いかにパトリシアでもそれに 異論を唱える立場にないからである。 「判りました。提督がそこまでおっしゃるなら、もはや私達の差し出口を挟む余地は ありませんね」 「うん。いつも済まないと思っているが……」  と、レイチェルの方を見つめながら、 「特に今回は、部外者である天才技術者を一人連れて行く。彼との信頼関係をなくし たくないのだ」 「天才システムエンジニアですよね?」  皆の手前そういうことにしているが、事実はネット犯罪という裏舞台で暗躍する 「闇の帝王」、ジュビロ・カービンその人である。間違っても天才ハッカーなどとは 明かすことはできない。  フリード・ケースンという人物が身近にいるから、他にも天才と呼ばれる者がいて も不思議ではないと思う一同だった。  その本人は、作戦開始までは特別室でくつろいで貰っている。仲間内ではない艦隊 の乗員とは距離を置きたいだろうとの配慮である。  五人委員会にて最後の確認事項が取り交わされた後に、改めて少佐たちを加えた作 戦会議が招集された。 「別働隊として投入する部隊は、第六突撃強襲艦部隊及び第十一攻撃空母部隊。この 私が率いていく」  第六突撃強襲艦部隊はその名の通りに、かつての士官学校時代の模擬戦でも活躍し た強襲艦を主体とした白兵戦部隊である。攻撃よりも防御力と速力に主眼において、 目的の場所に速やかに到達して任務を遂行する。 「それぞれの指揮は、ゴードンとジェシカに任せる」 「了解した」 「判ったわ」 「今回の作戦は、本隊が要塞への攻撃を敢行注意を引きつつ、別働隊の要塞への接近 を容易にすることにある。しかも寸秒刻みの正確さで速やかに作戦を遂行しなければ ならない。そのために別働隊を率いる私に代わって、作戦の詳細を熟知しているパト リシアを総参謀長とし、艦隊の指揮をカインズ大佐に任せる」  ため息をつく一同だった。  パトリシアが解説に立ち上がった。 「タルシエン要塞は、このシャイニング基地に相当する堅固な敵最前線基地です。全 艦挙げての総攻撃とし、シャイニング基地の守備は、基地の自動防衛システムに委ね ます。基地を空にすることになりますが、先の基地攻防戦のことから、敵も容易には 手出しはできないと思われます。タルシエン要塞はバーナード星系連邦と共和国同盟 を繋ぐ橋を守る橋頭堡です。第十七艦隊が攻略に向かったという情報は、すでに向こ うにも流れていると思います。それを知らされれば敵側も要塞の死守に専念するより なく、シャイニング基地攻略の余裕はないでしょう」 「出撃は四十八時間後だ。将兵達には交代で休息を取らせておくように。以上だ、解 散する」
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2018年8月 5日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十章 タルシエンへ I

第二十章 タルシエン要塞へ

                 I  トランター本星軌道上に待機するサラマンダー。  接近する上級士官用シャトルがあった。 「数日しか離れていないというのに、久しぶりって感じだな」  感慨深げな言葉を漏らすアレックス。  軍法会議への出頭には、護送駆逐艦が使われた。一時的な身分の凍結が行われて、 サラマンダーには乗れなかったからである。 「みんなも寂しがっていましたよ」  アレックスが本星に行っている間の、サラマンダーの指揮を委ねられていたフラン ソワが言った。本星でのもろもろの用事を済ませたアレックスが、サラマンダーに戻 るとの報を受けて出迎えに来ていたのである。 「一番寂しかったのは君じゃないのか?」 「もう……提督ったら」  赤くなるフランソワ。  もちろんそれは、パトリシアのことを言っていた。  サラマンダーのシャトル進入口が開いて、静かに帰還するシャトル。 「提督。ご帰還おめでとうございます」  整備員や甲板員などがシャトルの周りに集まってきた。 「一時はどうなることかと思いましたよ」 「これからもよろしくお願いします」 「提督の行かれる所なら、どこへなりともお供いたしますよ」  と、口々にアレックスの帰還を祝福した。 「ありがとうみんな。こちらこそ世話になる」  艦橋へ直通の昇降エレベーターに乗る二人。 「タルシエン要塞攻略を命じられたこと、艦橋のみんなに伝わっています」 「どうせジェシカが喋ったのだろう」 「ええ、まあ……」  手続きで帰還が遅れるアレックスより、一足先にシャイニング基地に戻り、サラマ ンダーを訪れてパトリシアに報告、ついでに艦橋のみんなにも披露したというところ か。  サラマンダー艦橋にアレックスが入室してくる。  すかさず敬礼をほどこしてから、その手を拍手に変えて無事な帰還を祝うオペレー ター達。 「お帰りなさいませ」 「おめでとうございます」 「みんなには心配をかけたな。軍法会議は何とかお咎めなしで解放された。君達のこ とも無罪放免だ。もっとも条件付だがな」  そういうとオペレーター達が笑顔で答える。 「伺ってます。タルシエン要塞攻略を命じられたとか。でもご安心ください。私達ち っとも不服じゃないですから。提督とご一緒ならどこへなりともお供いたします」 「そうか……そう言ってくれるとありがたい。それから……リンダ」 「は、はい!」  元気良く返事をするリンダ。 「君には特に世話になったようだ。感謝する」 「いいえ。どういたしまして。当然のことをしたまでですよ」 「うん。今後とも、その調子で頼む」 「はい!」  ゆっくりと指揮官席に腰を降ろすアレックス。 「やはり、ここが一番落ち着くな」  シャイニング基地やカラカス基地の司令官オフィスではなく、サラマンダー艦橋の 指揮官席。独立遊撃艦隊の創設当時から、指揮を執り続けたこの場所が一番。自分を 信じて付き従ってくれるオペレーター達がいる。目の前のスクリーンには周囲を取り 巻く配下の艦艇群が、自分の指揮命令を待って静かに待機している。  自分を取り巻いている運命に身を委ね、自由な気運に育まれた環境にある。 「ところで監察官はどうなった?」 「本星に連れて行かれたようです」 「そうか……」 「どうせ、ニールセンの奴が手を回して無罪放免されるかも知れませんけどね」 「それとも始末されるかだ」 「ありえますね」
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2018年8月 2日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 XIV

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                 XIV  カインズの次にレイチェルを司令室に呼び寄せたアレックス 「君の配下にすることにした第八占領機甲部隊メビウスのことなのだが、極秘の任務 を与えようと思っている」 「極秘任務ですか?」 「何度も言うようにトランターはいずれ陥落する。その後のためのレジスタンス活動 が任務だ」 「レジスタンスですか? メビウスは当地に残るとして、他の艦隊はいかがなされる のですか」 「もちろん、タルシエン要塞を本拠とする解放軍を組織して、徹底交戦を続けるつも りだ。たとえ連邦に対して敗北し占領されようとも、いずれ反旗を掲げ立ち上がる将 兵や民衆が出て来る。そういった人々を解放軍に吸収しつつ、機が熟するのを待って 持てる全軍を持って反攻作戦にでる」 「そのためにもトランターに残って内部攪乱を引き起こし、占領軍の情報を逸早くと らえて解放軍に伝える。それがメビウスに与えられた任務というわけですか」 「その通り。とりあえずはモビールアーマー隊の強化訓練という名目でトランターに 残り、陥落後のレジスタンス部隊の主力として働いてもらいたい。どうだやってくれ るか」 「一つお伺いしてよろしいですか?」 「どうぞ」 「提督は、あたしをメビウスの司令官に任命し、極秘任務をお与えになる、その真意 をお伺いしたいですわ」 「レジスタンス活動を継続するとなると、補給物資の調達と運搬をはじめとして、隊 員の士気を維持し指導する能力と人望、すべてに困難が伴うのは必定である状況の中 で、それらをすべてクリアーできるのは君しかいない。主計科主任として数々の隊員 達の要望をそつなく処理、その信頼と人気は艦隊随一のものだ。私が信用し全権を委 ねられる人物は他にはいない」 「そこまで信頼されているとなると、お引き受けするしかありませんね」 「そういってくれるとありがたい。早速トランターへ向かってくれないか」 「直ちにですか? タルシエン要塞攻略はいかがなされるおつもりですか」 「いや。タルシエン要塞は、メビウスなしで攻略する」 「例の作戦が発動する時がついにきたというところですか。ジュビロとは?」 「軍法会議のその日に、早速向こうからアクセスがあったよ。作戦発動は伝えておい た」 「どう言ってましたか?」 「わかった。と一言だった」 「あの人らしいわね」 「それともう一つ、トランター本星アスタバ造船所において、新造の機動戦艦が完成 した」 「機動戦艦ですか?」 「水中潜航能力をも備えた究極の対空防衛用戦艦だ。モビールアーマー八機と専用の カタパルト二基を装備、艦載機は三十六機搭載可能だ。主砲には原子レーザー砲の改 良型を装備。最新のCIWS(近接防御武器システム)を搭載し、大気圏戦闘に特化 した究極の戦闘艦だ。開発設計者はフリード・ケイスンだ。推して測ることもないだ ろう」 「そうですね。艦名は?」 「ミネルバだ。いい名前だろう」 「ローマ神話に登場する女神ですね」  ※ギリシャのアテナと同一視される最高の女神。知恵と諸学芸をつかさどる女神で   あるが、戦略の女神でもありしばしな英雄たちに戦術を指示した。さらに機織り   の神でもあり、アテナイ市の守護神で、そこのパルテノン神殿は彼女の聖域とし   て知られる。長いキトーンを着て、頭には兜をかぶり、胸にはメデューサの頭を   飾りとしてつけたアイギスを着ている。手には槍、および勝利の女神ニーケをか   かえている姿が多い。知恵を表すふくろうが聖鳥である。 「まあな。至急アスタバへ赴いてこれを受領したまえ」 「乗組員の手配は?」 「現在、士官学校教習生がミネルバに搭乗して実習訓練を開始しているはずだ。X デーと同時に彼らを繰り上げ卒業というかたちで自動的に実戦配備させることになる。 教習生と熟練者が半々というところかな」 「それって……」 「本来首都星トランターは第一艦隊の守備範囲だ。その内で第十七艦隊が行動を起こ すには、実戦訓練という名目でもない限り許されないことなのだからな」 「仕方ありませんねえ……それで教官はどなたが」 「去年スベリニアン校舎を勇退なされたセキセドル前校長だ。事情を説明して特別に お願いしたところ快く引き受けてくだされた」 「セキセドル教官なら心強いですわね。なにせ士官学校時代の提督を退学させずに辛 抱なされて、模擬戦闘の指揮官に徴用するという先見の明をそなえていらっしゃった お方ですからね。安心して任せられますわ」 「艦長には、フランソワ・クレール大尉を任官させるつもりだ」 「フランソワですか……」 「性格的には問題が多いかもしれないが、作戦指揮能力は人並み以上のものを備えて いるし、彼女にとっては佐官昇進試験も兼ねているのだ」 「どちらにしても当分は眠れない夜が続きそうですね」 「なにはともあれ、Xデー以降のメビウスの全権は、すべて君の判断に委ねる」 「すべてですか?」 「そう、すべてだ」 「わかりました」 第十九章 了

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2018年7月31日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 XIII

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                XIII  三日間の休暇を終えてシャイニング基地に舞い戻ったアレックスは、次なる指令で あるタルシエン要塞攻略に向けての行動を開始した。  シャイニング基地に残って、捕獲した六万隻の艦船の改造の指揮にあたっていたカ インズは、戻ってきたアレックスに呼ばれて司令官室へ向かった。 「カインズ中佐。入ります」 「搾取した艦船の改造の進行状況はどうか」 「艦制コンピューターを同盟仕様に変えるのに手間取っておりまして、現在三万隻が 動かせるところまで進んでおります。乗員のほうも艦政本部長のコール大佐のおかげ で、丁度それを動かせる人数分だけ何とか集まり、現在試運転に掛かりはじめまし た」 「人集めに関しては、コール大佐の手腕はたいしたものだな。で、コンピューターウ ィルスの懸念は?」 「提督の指示通り、ROMはすべて総取り替え、SRAMやメモリディスクは完全に 初期化してソフトを再インストールしましたので、万全な状態です。ただそれが工期 を遅らせている原因になっておりまして」 「ご苦労様。たとえ手間がかかってもやらなければならない。ウィルスが潜んでいて は元も子もないからな。この基地を取り返したような事態になってはいけない」 「わかっております」 「さて……と」  アレックスはわざとのように呼吸を整え、パトリシアに視線を送った。パトリシア は書類入れのところへ行って、中の書類を取り出して戻ってきた。 「今三万隻が動かせるのだな」 「そうです」 「それでは、その三万隻の指揮を、貴官に預けよう」 「三万隻を私にですか」 「そうだ。カインズ大佐」 「大佐? 私が大佐に?」  アレックスはパトリシアに合図を送り、彼女が小脇に持っていた辞令書と階級章を 手渡させた。 「第十七艦隊は、四十八時間後にタルシエン要塞攻略に向かうことになった」 「タルシエンですか?」 「私は、別働隊としてウィンディーネ以下の第六部隊を率いて出るつもりだ。貴官に は、ドリアードから本隊を指揮運営してもらいたい」 「私が、本隊をですか?」 「ただし、作戦指令はこのウィンザー参謀長の指示に従ってくれ」 「わかりました。提督がそうおっしゃられるのなら」 「それから、第八占領機甲部隊メビウスを君のところからレイチェル少佐の配下に移 行する」 「メビウスを?」

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2018年7月29日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 XII

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                XII  軍法会議の糾弾から開放されて、自由の身となったアレックスは、トランター本星 に帰郷したのをいい機会として三日間の休暇を申請した。もちろんそれを拒否できる 者はおらず順当に受理された。  スーパーで買い物をしているパトリシア。その後ろにはカートを押しながらついて くるアレックスの姿があった。法廷での審議を終えて、帰宅の途中で立ち寄って日常 の品々を買い求めていたのである。  私生活においては、公務における立場と逆転して、主婦であるパトリシアの方が権 限を握っていた。毎月のローンやクレジットの支払い、公共料金、家計に関わること はすべて彼女が財布を握っていたのである。食料の購入はもちろんのこと、アレック スの着る衣料でさえ、彼女の意向に逆らうことは出来ない。彼女の家計簿には、妊 娠・出産費用にはじまる子供の養育・教育費など、将来に渡る家族構成をもしっかり 計算に入れられた、綿密な将来設計が出来ていたのである。  ゆえにアレックスが何か欲しいと思った時には、まず妻にお伺いを立ててからでな いと、何も購入できないのである。  郊外の一角の邸宅。  アレックスが准将になりこの一戸建をあてがわれた時から、パトリシアは自分に与 えられる予定だった大佐用の官舎は引き払い、この邸宅で一緒に暮らしている。未だ に婚約者のままであるとはいえ、士官学校当時に提出した同居申請は失効していない ので、自動的に居住の権利は有していた。  アレックスが婚約破棄するはずもなく、事実上の夫婦生活に入っていたのである。 もちろん一緒に暮らしているという事実は軍籍コンピューターに登録されており、万 が一アレックスが婚姻前に戦死するようなことになっても、引き続き居住できること になっている。これは同居する事実上の夫婦関係にあった婚約者の既存権利を保証す る制度である。ただし、同居の事実がなかった場合は居住する権利は消失する。あく まで同居が原則なのであり、同居の事実があってこそ居住の既存権利が発生するので ある。  婚約破棄しない限り、相手が死んでも婚約期間中に得た権利はそのまま有効である が、同時に別の相手とは婚約も結婚も出来ないという反面もある。  台所でエプロン姿で夕食の準備をしているパトリシア。だいぶ主婦業も板について きという感じではあるが、まだ二十三歳になったばかりで、初々しさもそこかしこに 残っている。艦隊勤務のために子作りしている暇もなくて、残念ながらまだ子供はで きないが、妊娠可能期間はまだ二十年以上あるので、あわてる様子もない。  一方のアレックスは食卓で報告書に目を通している。新婚当初、台所に入って手伝 いをしようとしたが、あまりの不器用さに呆れたパトリシアから、台所への立ち入り を禁止されてしまったのである。  アレックスの方を時々見やりながら、夫のために食事を作りながら、妻の責務を甘 んじて受け入れているパトリシアであった。自分がいなければ何もできない夫のため に、何かをしてあげられるということは、夫婦の絆を深くする精神的融合である。そ れぞれにないものを補い合うことこそが、子供を産むという以外、夫婦として結び付 く意義なのである。  やがて食事をお盆にのせて、食卓に運んでくるパトリシア。 「一戸建ての家に住めるなんて夢みたい」  エプロンを脱いで、アレックスの向かい側に腰を降ろすパトリシア。 「一応これでも官舎なんだぜ、将軍用のね。つまり借家ってこと」 「でも、退役してもずっとここに住んでもいいのよね」 「正確には、僕とその配偶者が亡くなるまでだ」 「そうね……」  といってパトリシアは微笑みながらアレックスを見つめた。 「タルシエン攻略に成功したら、あなたも少将となって内地勤務よ。そうしたら参謀 のわたしも一緒に地上に降りられるから、重力を気にすることなく、安心して子供を 産むことができるわ」  艦隊にある時は、優秀な参謀であるパトリシアも、アレックスと二人きりでいる時 は、本能のままに子供を欲するごく普通の女性であった。  寝室。  裸のまま並んでベッドに横たわる二人。 「ところで第十七艦隊でタルシエン攻略は可能なの?」 「内部に潜入出来れば、何とかなるかもしれない」 「潜入? でもどうやって」 「ああ、潜入の直接的な方法は俺が何とか考えるが、たぶん小数精鋭の特殊工作部隊 を組織することになるだろう。君には、特殊工作部隊を後方から支援する体制と、潜 入後の特殊部隊の行動指針及び艦隊運営に関わる作戦立案を検討してもらいたい」 「わかったわ」 「この作戦を成功させるには隠密行動を取る必要がある。たとえ味方にも特殊工作部 隊の存在を知らせたくない。君とゴードンとレイチェル、そして特殊工作部隊に参加 する将兵だけだ」 「わたしとゴードンとレイチェルだけに?」 「そう。恋女房と片腕だからな」  翌日。  ジュビロ・カービンと連絡が取れて、早速例の廃ビル地下室へと向かうアレックス。  レイチェルも当然として同伴する。 「久しぶりだな」  ジュビロが懐かしそうに出迎える。 「そちらも無事息災で結構。檻の中に入れられないかとずっと心配してたよ」 「そんなドジ踏まねえよ」 「早速だが打ち合わせに入ろうか」 「おいおい、いきなりかよ」 「二日後にはシャイニング基地に戻らなければならない、時間がもったいないからね」 「分かった」

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2018年7月27日 (金)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 XI

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                   XI  議場の扉が開いてアレックスが入場してくる。  そして被告席に入ると、 「アレックス・ランドール提督。貴官の処分を申し渡す」  審判長が審議の結果を言い渡した。 「貴官の今回の行動は、共和国同盟に対する離反であると言わざるを得ない。命令を 無視してシャイニング基地を撤退し、一時的ながらも占領される結果となり、共和国 同盟への侵略の足掛かりとされる危険性を生じたのである。しかしながら、それは第 十七艦隊及び第八艦隊のクルーの生命を守らんががための人情からきたものと信じる ものである。よって温情を持ってこれを処罰するのを猶予し、その条件としてアル・ サフリエニ宙域にあるタルシエン要塞攻略の任務を新たに与えることとする。もしこ の任務を達しえたならば、貴官の命令違反を不問に帰し、要塞攻略とシャイニング基 地防衛にかかる功績点を規定通りに与えることとする」  会場からため息にも似た吐息が聞こえた。  ニールセンがランドールを陥れようとしたことは誰しもが感じていた事である。そ れが逆の効果として、ランドールの名声を高めたに他ならないことを知り、今また新 たなる活躍の場を与えることとなったのは、ニールセンに対する痛烈なる皮肉な結果 となったわけである。 「以上で審議を終了する。全員解散」  全員起立して敬礼し長官の退室を待ってから、それぞれの持ち場へと戻っていった。  直立不動の姿勢で全員の退室を見届けているアレックスの肩を叩くものがいた。振 り返るとそれはトライトン少将であった。彼は軽く手を振って微笑みながらも無言で 退室した。  会議場を出たところで、ジェシカとレイチェルが待ち受けていた。 「いかがでしたか。会議のほうは」 「一応処罰だけは免れたというところだ。地位も階級もそのままだ。君達の処遇も な」 「よかったですね」 「しかし君達も大胆なことをしてくれたな」 「他に方法がありませんでしたからね」 「首謀者は一体誰だ?」 「リンダとフランソワですよ。リンダがTV局、フランソワが広報部、その他あちこ ち駆けずり回って大車輪で働いてくれました」 「あん? あの二人は犬猿の仲じゃなかったのか?」 「尊敬する提督の危機ということで共同戦線を結んだようです」 「ふうん……意外なこともあるもんだな」 「提督あってこその自分でもありますからね」 「それにしても、本当にシャイニング基地から艦隊を撤退させたのか」 「撤退? しませんよ、そんなこと。苦労して奪還したものをどうして、また敵に渡 す機会を与えなきゃならんのです?」 「TVではそう報道していたようだが」 「それは、リンダがTV局側に手を打って虚偽の報道をぶちかましたんですよ。あの 映像は、策略のために一時撤退したあの時のやつですよ。それをTV局に渡して流し てもらったんです。もっともTV局側にはその事実は伏せてありますけど」 「ふ……。やられたな」 「いやあ、今回のことは、あの二人の手柄です。提督ほどじゃないですけど、二人合 わせて一個艦隊に相当する働きをしましたね。ありゃあ、一介の艦長やパトリシアの 副官にしておくには、もったいないくらいの人材ですよ」 「そうか……かもしれないな」 「だいたい、敵の三個艦隊が迫っているのに、一個艦隊で防衛しろということ事態が 間違っているのです。いくら今までにも数倍の敵艦隊を撃破してきた事実があるとい え、それらはすべて奇襲先制攻撃であったから可能だったのであって、今回のように 専守防衛の任務にまで同様にうまくいくはずがありません。わざと攻守の立場を変え て奇襲攻撃を敢行したから何とか最終的に敵の手から守れたといえるのに」  ジェシカはつぎからつぎに憤懣をぶちまけて喋り続けており、アレックスが切り出 す機会を与えなかった。いつものことではあるが……。 「アル・サフリエニ宙域に向かうぞ」  アレックスは切り出した。 「え!? それってまさか……」 「タルシエン攻略を命じられた」 「また、難題を吹っ掛けられましたね」 「それにしてもタルシエンとは、また……」 「やっぱり、ランドール提督を潰そうという魂胆が見え見えじゃないですか」 「とにかく命令が下された以上、行くしかない」 「せめてもの救いは、防衛なんて堅苦しい作戦じゃなくて、攻撃ってところですね」 「そうだ、レイチェル」 「はい」 「早速、あいつと連絡を取ってくれないか」  あいつとは、ジュビロ・カービンのことである。  闇の帝王とも呼ばれる天才ハッカー。 「分かりました、ついに例の作戦を始動させるのですね」 「そうだ」  アレックスが少佐になったばかりの頃、ダウンダウンの廃ビルの地下室にて交わし た極秘裏の作戦計画が、ついに三年の時を経て発動することとなったのである。

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2018年7月25日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 X

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                 X  すべてのTV放送局が、ランドール提督の功績を讃えるような放送内容で、命令違 反に対する軍法会議が行き過ぎであると放映していた。  軍部の信用失墜の極みといえるだろう。 「広報部から言わせてください。今、ランドール提督を処罰するのは共和国同盟にと って重大な損失になります」 「またか……同盟の英雄とか言い出すつもりだろう」 「いけませんか? 士気を鼓舞する上で英雄の存在は必要不可欠であります。シャイ ニング基地防衛の時、三個艦隊が攻め寄せて来ると判っておりながらも、第十七艦隊 の士官達は誰一人として、乱れることがなかったそうです。これはランドール提督な ら何とか切り抜けてくれると信じて疑わなかったからでしょう」 「そしてその期待通りに難局を看破した。方法はともかくとしてな」 「だが、その方法が問題となっているのだ」 「ここに第十七艦隊副司令官オーギュスト・チェスター大佐を筆頭に全乗組員の署名 の入った嘆願書が届いています」 「全員か?」 「はい。一人残らず」 「ランドールは部下の絶大なる信望を得ているということか。今回の作戦における彼 の功績点は、基地防衛と敵二個艦隊の撃滅、そして艦船六万隻の搾取とで少将昇進点 に達した。順当にいけば第十七艦隊司令と准将の地位が、次席幕僚に巡ってくるとい うわけだが……提督の処分となれば、その夢を取り上げることになり、ひいては第十 七艦隊全員が離反する可能性があるというわけですな」 「それはまずいぞ。国民の期待はすべてに第十七艦隊、というよりもランドール提督 一人の名声にかかっているのだ。ミッドウェイ宙域会戦の折りもそうであったように、 連邦の連合艦隊来襲を完膚なきまでに粉砕した度量は、誰にも真似できないであろう。 たとえそれが命令違反を犯す奇抜な作戦であったとしても許容される範囲ではないだ ろうか。長期化する戦争によって財政は逼迫しており、国家予算に占める国防費の比 率は四割を越え、その重圧に国民は耐えかねているのだ。ランドールにさえまかせて おけば、国家は安泰だろうという気運は充満している。これ以上国民の期待を裏切る ことはできまい」  軍部から参列している者はともかく、評議会から参列している者はランドールの処 罰に反対の気運へと動いていた。  今回のTV放映の影響によって、ランドール提督の絶大なる国民の人気と信頼が、 改めて明らかとされる結果となったのだ。この会議場に参加している者達のほとんど が、ランドールを処罰に賛成したと知られれば、自分の地位が危うくなるのは必至で ある。次回の評議会選挙に出馬する予定の者は、これ以上の追求は人気に大きく影響 し落選は確実。そう思い始めている者が大勢を占めるようになっていた。今やラン ドール提督の人気に逆行するような意見は述べることができなくなっていた。 「処罰するに処罰できずか……」 「かといってこのままでは他の士官達への示しがつかん」 「どうだ、この際。例の作戦を、彼にやらせるというのは」  宇宙艦隊司令長官が口を開いた。 「作戦?」 「それはいい」 「タルシエン要塞攻略の任務をランドール提督に任せるのか」 「トライトン少将。君はどう思うかね」  審議官の一人が、参考人として参列していたトライトン少将に向き直った。  これまで審議の経過をじっと見つめていたトライトンであるが、静かに答えた。 「わかりました。ランドールの第十七艦隊にやらせましょう」 「決まりだ。タルシエン攻略の任務をランドールの第十七艦隊に与える」 「諸君。タルシエン要塞は難攻不落と言われて幾度かの攻略をことごとく跳ね返した。 もし成功すれば、指令無視の件を不問に伏し、規定通りの少将の位と現在空席の第八 師団司令官の席を、彼に与えようじゃないか。反対するものは」  議場が一時ざわめいてやがて静かになった。  宇宙艦隊司令長官の意見に反対できるものはいなかった。長官はぐるりと周囲を見 回して、異議のでないのを確認した。 「よろしい。ランドール提督をここへ」

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2018年7月23日 (月)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 IX

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                 IX  そこへ青ざめた官僚が飛び込んでくる。 「大変です。第十七艦隊が隊員全員の意志でシャイニング基地からの撤収を開始しま した」 「なんだと!」 「馬鹿なことをぬかすな。苦労してシャイニング基地を奪還したんじゃないか。それ を放棄するなんてことするか?」  その言葉にクライスター議員が反問する。 「おや、シャイニング基地を奪還するのに、提督がどれだけ苦労したかをご理解頂い ているようですな。それでも処断なさるとおっしゃる」 「問題が違うじゃないか」 「どう違うのですか」  顔を突き合せるように言い合う審議官達。 「みなさん。内輪もめなどしている状況ではありません。これをご覧ください。特別 報道番組のビデオ映像です」  事務官が、操作して会議場正面スクリーンにTV報道番組を映しだした。  マルチビジョン方式で各TV放送局が音声と映像を流している。 『本日。第十七艦隊司令官アレックス・ランドール准将が軍法会議にかけられている ことが判明いたしました。シャイニング基地防衛の任において一時的にせよ、命令を 無視してこれを放棄撤退したことへの責任が追求されています。なお、これに抗議し て第十七艦隊の全員が辞表を明示して、全艦隊が本国に向けて帰還をはじめました。 これによって第十七艦隊駐屯地であるシャイニング基地、カラカス基地は完全に無防 備となっております。両基地はバーナード星系連邦の侵略を防ぐ要衝であり、最前線 にある同盟の最重要基地であるために、今まさに連邦軍の驚異にさらされていること になります……』  ビデオ映像にはシャイニング基地を撤収する第十七艦隊が映し出されていた。各T V放送局一様に、シャイニング基地を撤収していく様を放映している。背景のシャイ ニング基地が次第に遠のいていく。 「馬鹿な!」 「第十七艦隊の連中は、一体何を考えているんだ」 「こんなTV放送をすれば、連邦に両基地が無防備であることをさらけ出して、侵略 の驚異にさらされるということが、わからんのか」  各TV放送局の番組は続いていた。 『第十七艦隊の隊員全員の総意として、『提督がシャイニング基地を放棄撤退したこ とへの責任が追求されているのであるならば、今ここで我々があらためてシャイニン グ基地を放棄撤退したところで、それを責任追求するにはあたらないであろう』とい うコメントが艦隊情報部より寄せられています』 『ランドール提督は、シャイニング基地を一時放棄してクリーグ基地に向かい、完全 包囲されていた第八艦隊を救援して、敵艦隊を撤退に追い込みました。その後で、再 びシャイニング基地に戻って三個艦隊を策略してこれを撃破し、基地を無事に取り戻 したのです』 『第十七艦隊及び第八艦隊の隊員達の生命、そして共和国同盟の全国民の窮地を救っ たランドール提督は、シャイニング基地を一時放棄して占領を許したその責任だけを 問われ、今まさに糾弾されようとしています』 『今回の件もそうですが、軍部がランドール提督を煙たがっていたのは、周知の事実 であります。そもそもが、敵三個艦隊が迫っているというに、一切の援護艦隊を向か わせるわけでもなく、ランドール提督の第十七艦隊のみに防衛の責任を押し付けたの です。これはどう考えてもランドール提督を見殺しにしようしたとしか思えません。 しかし期待に反してランドール提督は、無事シャイニング基地を奪還してしまった。 そこで軍部は、シャイニング基地を一時放棄したことを軍規違反として処罰しようと しているのです』

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2018年7月21日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 VIII

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                VIII  本星に戻ったアレックスを待っていたのは軍法会議であった。  審議官の居並ぶ中、一人被告席にたたずむアレックス。  議長が厳かに開廷を言い渡して、審議がはじまった。 「君がなぜ召喚を受けたか、わかるかね」 「基地防衛の任務を果たさずに艦隊を撤退させ、一時的にしろ敵の占領を許したこと でしょうか」 「その通り」 「しかし、最終的には任務を遂行したことになるがどうだろう」  審議官の一人が好意的な意見を述べた。 「いや。基地を防衛したとかしないとかが問題ではないのだ。命令を無視して、基地 防衛の任務を放棄したことにある」 「そうだ。軍紀を守らなくては軍の規律が保てない。ましてや艦隊の司令官がそれを 犯すことは重罪の何物でもない」 「その通りだ。よって当法廷は被告アレックス・ランドール提督を、シャイニング基 地防衛に掛かる命令違反の罪を犯した者として裁くことを決定する。なお当法廷は軍 法会議である、その審議を被告が立ち会うことを認めない。よって被告は別室にて審 議裁定の結果が出るまで待機を命ずる」  予想通りというか、アレックスに好意的な審議官は数人程度で、ほとんどがニール センの息の掛かった者で、断罪処分の肯定的であった。  憲兵がアレックスの両脇に立って退廷を促した。  静かに立ち上がって、別室に移動するために退廷するアレックス。  その際、上官として参考人出席しているトライトン少将と目が合った。  しかし参考人に過ぎないトライトンには、アレックスに手を差し伸べることはでき なかった。  済まないと言う表情で、静かに目を閉じるトライトンだった。  アレックスの退廷を待って、審議が開始された。 「さて、ランドール提督の処遇であるが……」 「ちょっと待ってください」  先ほどの好意的な意見を述べた審議官の一人が、手を挙げた。 「もう一度、ランドール提督の処遇について再考慮していただけませんか?」 「どういうことだ?」 「ランドール提督は、総勢五個艦隊を撤退及び壊滅、そして略取して敵の司令長官を 捕虜にすることに成功し、最終的にはシャイニング基地の防衛を果たしたのは明確な 事実です」 「なぜだ? 奴は命令違反を犯したのだぞ。それだけで十分じゃないか」 「あなた方は、どうしてそうもランドール提督を処分なさりたいのですか? バー ナード星系連邦の侵略をことごとく粉砕し、共和国同盟に勝利をもたらした国民的英 雄をです」  その審議官の名前は、ケビン・クライスター評議員である。  軍法会議には、軍部からと評議員からと半数ずつが列席することが決められている。 軍部の独断による断罪を防ぐためである。  評議会議員からの参列者であるためか、トライトンやアレックスに好意的であり、 ミッドウェイ宙域会戦の功績を高く評価して、アレックスの三階級特進を強く働きか けたのも彼であった。  その背景には評議員が、国民の選挙によって選ばれるために、世論などの国民の動 向に逸早く反応するからでもある。早い話が次回の選挙に有利になるように、国民的 英雄というアレックスを祭り上げようとしているのである。ゆえにアレックスを処断 するなど到底賛同できないことである。 「軍には軍紀というものがあるのだ。上官の命令に服従することは、その基本中の基 本じゃないか。会社においても上司から命令されて仕事を進めることがあるだろう。 命令を無視されては、軍や会社が成り立たなくなるというのは、いくら評議員のあな たでも判らないはずがないと思うがね」 「だからといって、『死んでこい』と言われて、喜んで死んでいく者がいるだろうか。 不条理な命令には抗議する権利があるはずだ」

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