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2020年9月19日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 X

第八章 トランター解放

 惑星トカレフの顛末を、アレックスに報告するジュリエッタ。
「以上のごとく、殿下のご意思に反して、混乱に乗じ自身の領地を広げようと策謀した貴
族は自国に帰還させました。引き続き、同様の行為者に対し厳罰に対処します。殿下にお
かれましては、心置きなくトランター解放に専念してください」
 通信が途切れて、パネルスクリーンの映像が切れた。
「さてと……」
 参謀達の方に向き直って、
「そろそろ始めるとするか」
 と声を掛けると、
「やりましょう!」
「祖国を取り返しましょう」
 参謀達はもちろんのこと、オペレーター達からも声が上がった。
「メビウスのレイチェル・ウィング大佐に繋いでくれ」
 電波妨害されていたが、守備艦隊を蹴散らしたうえに、トランター軌道上までくれば、
もはや妨害は不可能だろう。
「ウィング大佐が出ました」
 パネルスクリーンにレイチェルが映し出された。
「提督、お久しぶりです」
「そちらも元気なようだな」
「作戦発動ですね」
「その通りだ。準備状況は?」
「万端整っております。号令一過いつでも突撃できます」
「わかった。待機して指令を待て」
「かしこまりました」
 通信が終了し、映像は途切れた。
 アンディー・レイン少将に向かって、
「作戦通りに降下作戦に入ってください」
「了解しました」
 アレックスの指令を受けて、レイン少将の指揮による降下作戦が始まった。
 これまでトランターの防衛としての任務に当たっていた艦隊である。
 惑星における連邦軍の配備状況など、すべての情報を知り尽くしているのだ。
 適材適所に部隊を派遣して、次々と攻略していった。


 その頃、地上ではメビウス部隊による反抗作戦が繰り広げられていた。
 かつての統合総参謀本部である総督府を取り囲む艦船の群れ。
 地上では戦車や装甲車が、敵地上部隊との壮絶な戦いを続けている。
 その間を縫うように、モビルスーツが進軍する。
 それらの戦いざまを、後方のミネルバ艦橋から指揮統制するフランソワ・クレール大尉
の元には、続々と報告が届いている。
「地上部隊、総統府を取り囲みました」
 適時的確に指令を下すフランソワ。
「白兵部隊を突入させて下さい」
 ミネルバには強靭な白兵部隊が編制されている。
 かつての士官学校模擬戦闘において、ミリオン・アーティス率いるジャストール校が守
る第八番基地を攻略した白兵部隊。その時に従軍した士官たちが、昇進しながらもより強
い部隊へと鍛え上げてきたのである。
 *参照/模擬戦闘
 戦車の砲撃一発、正面玄関が吹き飛ぶ。
 戦車や装甲車の後ろに隠れて進んでいた歩兵が、一斉に総統府へとなだれ込んでゆく。

 空中では敵空戦部隊を壊滅して、制空権を確保したミネルバの空挺部隊から、降下兵が
舞い降りてゆく。
 その一部は、総統府の屋上へと降下して、階下へと突き進む。
 上からと下からと挟撃を受けた総統府は、数時間後には白旗を上げた。
 ちなみに、地球日本国で白旗を上げるという正式な降伏(戦時国際法による)が認めら
れたのは、江戸末期ペリー艦隊が幕府に、『開国しないなら攻撃するから、降参するなら
掲げよ』と白旗を送り付けたのが最初と言われている。
 1899年、第1回万国平和会議で採択されたハーグ陸戦条約第三章第32条には、白旗を掲
げて来た者を軍使とする規定があり、これを攻撃してはならないこととなっている。


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2020年8月29日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 Ⅶ

第八章 トランター解放

「全艦全速前進! 敵の中央に潜り込め!」
 艦艇の絶対数で劣っている連邦としては、乱撃戦に持ち込んで同士討ちに誘い込むしか
ない。

 連邦の作戦行動に驚愕の反応を見せる伯爵。
「馬鹿な、ありえない!」
「多勢に無勢、気がふれましたか?」
 戦闘訓練では、向かい合っての撃ち合いが基本の帝国軍には、往来激戦など理解できな
かった。
 懐に飛び込まれて右往左往する間に同士討ちを始めた。

「思った通りだ。これで少しは長生きできるな」
「いつまで持ちますかね」
「ま、神に祈るだけの時間は稼げるさ」
「祈るのですか?神を信じているなんて意外です」
「俺は信じてはいないが、部下の中には一人ぐらいはいるだろう」
「ですかね」
「さてと、そろそろ反撃が来る頃だな」
 冷静さを保っている艦及び冷静さを取り戻した艦を中心に反撃を開始した。
 十五対二百五十では、まぐれ当たりでも損害率には大きな開きが出る。
 次々と撃沈されていく連邦艦。
「味方艦全滅!この艦のみになりました」
「敵艦にどれくらいの損害を与えたか?」
「およそ八十隻かと」
「まあ、よくやったというべきだろうな」
 帰る道を閉ざされている以上、降伏か玉砕しか選択肢はない。
「ようし!全速で敵旗艦へ迎え。ぶち当ててやる!」
「特攻ですか?」
「今更、降伏もないだろうからな」
「了解!機関全速、取り舵十度!」

「真っすぐ向かってきます!」
 正面スクリーンに、猛スピードで迫りくる敵艦に、伯爵艦は慌てふためいている。
「回避しろ!」
「取り舵全速!」
「だめです。間に合いません!」
 パネルスクリーンに目前に迫る敵艦。
「衝突警報!総員、何かに掴まれ!」
 と同時に激しい震動が艦内を襲った。
 艦内の至る所で、衝撃を受けて転倒する者が続出した。
「みんな無事か?」
「は、はい」
「艦内の損傷をチェックしろ」
「今調べているところです」
「敵艦はどうしたか?」
「粉々に砕け散ったもようです」
「こちらの装甲がより厚かったというところだな」
「それに敵艦はかなり損傷を受けていましたしね」
 被弾した艦艇に残る将兵達の救助が始められた。
 ある程度作業が進んだ頃合いを見てから、
「救助艦を残して残った艦艇を再編成してトカレフに向かうぞ」
 侵略を開始した。


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2020年8月15日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 V

第八章 トランター解放

 トリスタニア共和国同盟所領内にあるバルラント星域にある惑星トカレフ。
 首都星トランターから銀河帝国へ向かう輸送船などが、物資の補給でたまに立ち寄る程
度の寂れた星である。
 共和国同盟の敗北により、ここにも連邦軍の監視艇百十二隻が派遣されていた。
 かつての行政府には、監視艇団の司令官エッケハルト少佐が、連邦軍の命を受けて行政
官の任に就いていた。
 むろん政策は、連邦軍の法令にそって行われていたが、こんな辺ぴな星を訪れる中央政
府役人はおらず、少佐は好き勝手放題の行政を行っていた。
 中央に納めるべき税収の一部を着服して私腹を肥やし、さらに独自の税を創設して民衆
から搾り取っていた。
 行政府のすぐ近くに豪邸を建て、まるで貴族のような生活を過ごしていた。

 だが、夢のような生活も終わりを告げようとしていた。

 豪邸の一室。
 ただ広い部屋の中、大きな窓際に大きな机が置かれてあり、一人の男が書類に目を通し
ている。
 バーナード星系連邦軍、バルラント星域監視艇団司令官、ムスタファ・エッケハルト少
佐である。
 机を挟んで向かい合うように立って報告書を読み上げているのは、副官のフリーデグン
ト・ビッケンバーグ中尉である。
 二人とも旧地球ドイツ系連邦人である。
「信じられんな……」
 報告を受けて唸るように呟くエッケハルト少佐。
 銀河帝国遠征艦隊がランドール艦隊によって全滅させられ、トランター駐留艦隊までも
が敗れて、首都星トランターが奪還・解放された報がもたらされたのである。
「事実であります」
 淡々と答えるビッケンバーグ。
「どうしたもんかのう」
「と、仰られますと?」
「我々の身の振り方だ」
「そうですね。いずれ掃討作戦が始まるでしょう。この地のように、連邦軍に占領された
惑星を奪還しにきます。しかし我々には、この地を放棄しても、連邦に帰る術がありませ
ん」
「だろうなあ……」
 頭を抱えるエッケハルト。
「答えは一つ。投降するしかないでしょう」
「しかし何もしないで明け渡すのも癪だ。迎え撃とうではないか」
 と言いつつ立ち上がる。
「どうせなら、綺麗に終わりたいですね」
「立つ鳥跡を濁さずと言うしな。まかせる」
「了解致しました」

 ランドール配下の掃討作戦部隊が刻々と近づいているだろうから時間は切迫している。
 ビッケンバーグは、大車輪でその作業に取り掛かった。
 惑星トカレフ住民に対して、占領政策の終了の告知。
 拘留していた旧政権の首脳陣達の釈放。
 授産施設に拘束していた女性達の解放。
 バーナード星系連邦においては、非戦闘員たる人民に対しては、丁重に扱うべき国風が
あった。
 それはかつて、スティール・メイスンがバリンジャー星域で見せた、惑星住民完全撤退
作戦にみることができる。

 数日後、接近する艦隊の報が入ってくる。
「いらっしゃいましたね」
「おうよ、丁重にお出迎えしようじゃないか」
「戦艦を主力とした総勢二百五十隻」
「ランドール配下の同盟軍か?」
「いえ、どうやら帝国軍のようです」
「帝国軍?」
「帝国皇太子となったランドールに迎合する新派の貴族というところでしょう」
「混乱に乗じて領土を広げようという魂胆だな。ついでに戦果を上げてランドールに取り
入ろうというとこだ」
「こちらの勢力は約十二隻。数の上では不利ですが」
「なあに、戦争したことのないお飾り艦隊だろう。恐れるに足りずだ。出撃するぞ」


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2020年8月 1日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 Ⅲ

第八章 トランター解放

 サラマンダー艦橋。
「総督軍艦隊、リモコンコードを受信完了しました」
「各艦の指揮管制系統へのコードのセット完了を確認しました」
「よし。そのままで待機」
 というと、アレックスは指揮パネルの通信機を取った。
 通信相手は、サジタリウムの司令官である。
「私だ」
 受信機からアレックスの声が届いている。
「ああ、君か。準備は完了したぞ。この後はどうする。判った、任せる」
 通信を切ると同時に、
「全艦各砲台、コンピューターに指示された攻撃目標にセット・オン」
 すると砲撃管制官が声を上げる。
「しかし、この目標は?」
「復唱はどうした。言われたとおりにしろ!」
 怒鳴り散らすレイン少将。
「りょ、了解しました」
 通信士が報告する。
「サラマンダーより映像回線で通信が入っております」
「全艦隊に流せ」
「全艦隊にですか?」
「そうだ」
「了解」
 映像回線で通信が行われ全艦隊に放送された。
 そして、各艦の映像スクリーンに投影されたのは、まぎれもなくアレックスだった。
 スクリーンのアレックスが静かに語りだす。
『共和国同盟解放戦線最高司令官、アレックス・ランドールである』
 その姿に総督軍将兵のほとんどが叫喚した。
 なぜランドール提督が?
 全員がそう感じたはずである。
「どうしたんだ。なぜ敵将が出ているんだ?」
 監察官が叫んだ。
 平然とレイン少将が応える。
「軍事ネットをハッカーされたのでしょう。向こうにはハッカーの天才がいますからね」
 トランターの軍事ネットがハッカーされ偽情報に惑わされて、首都星の防衛艦隊が留守
にしている間に、ワープゲートを奪取されて敵艦隊の侵入を許したのは、つい数時間前の
ことである。
 そして解放戦線・帝国連合軍が目の前に迫っていることも事実だった。
 納得する以外にはなかった。
 アレックスの声は続く。
『共和国同盟軍の将兵たちよ。今こそ立ち上がって連邦軍を蹴散らして、虐げられた国民
達を解放し、この手に平和を取り戻すのだ』
 総督軍ではなく共和国同盟軍と呼称したアレックスの言葉に将兵たちは奮い立つことと
なった。
『全艦隊、連邦艦隊に対して攻撃を開始せよ!』
 アレックスの攻撃開始命令にレイン少将も即座に対応する。
「全艦、攻撃開始!」
 一斉に連邦艦隊に対して砲撃を開始する共和国同盟艦隊。
 連邦軍艦隊は、ほとんど不意打ちを食らった状態で、指揮系統も乱れてやられ放題とな
っていた。
 まさかの寝返りになす術もなかった。
 その戦況はサジタリウム艦橋のスクリーンに投影されている。
「どういうことだ!」
 なおも事態を把握しかねている監察官。
「見ての通りですよ」
 平然と答えるレイン少将。
「共和国同盟艦隊の指揮系統はランドール提督に移ってしまったんです」
 ここではたと気づく監察官。
「さっきの通信か?」
「その通りです。艦隊リモコンコードというものをご存知ですか?」
「聞いたことはある」
「行軍や戦闘行動を整然と行うために、艦隊コントロールを旗艦に同調させるシステムで
す」
「それを作動させたということか」
「そうです。総督軍として再編成したとしても、艦の運用システムは旧共和国同盟軍のも
のをそのまま使用していた。それが裏目に出たわけです。システムの総入れ替えを行うべ
きでした」
 戦術コンピューターのクリーン再インストール。
 それはアレックスが一番気を使っていることであった。
 艦艇はコンピューターで動く。
 搾取した艦のコンピューターには、何がインストールされているか判らない。
 バグがあったり、ウイルスが仕込まれているかも知れない。
 アレックスが戦闘に勝利して搾取した艦は数知れず、しかしそのまま自軍に編入するこ
とはしなかった。必ずシステムをクリーンインストールしてきた。
 では総督軍の編成が行われた時に、なぜ連邦軍はそれを実施しなかったのか?
「それはできなかった。トランターに残っていたランドール配下の艦隊が、パルチザンと
して反乱行動を起こして、その対処に翻弄されていたからだ」
「先見の明ということですね。ランドール提督は、この日のためにメビウス部隊を残した
のです」
「そんなことはどうでもいい! 指揮系統を元に戻せ!」
「だめですよ。一度指揮権を移動すると、相手側が解除しない限り元に戻すことはできま
せん」
「なんとかしろ。死にたいのか」
「私を殺しても無駄ですよ。すでにすべての艦隊の戦闘命令系統はランドール提督の指揮
下にあります」
「馬鹿なことを言うな」
「共和国同盟艦隊の戦術コンピューターはランドール提督の旗艦サラマンダーに同調され
ているのです。戦術システムがそういう具合になっているのです」
「解除しろ!」
「お断りします」
「死にたいのか?」
「お好きなように」
「ならば死ね」
 銃の引き金に掛けた指に力を入れる監察官。
 突然、監察官に覆いかぶさった者がいた。
 副官である。
 監察官に気づかれないように、こっそりと近づき飛び掛ったのである。
「何をする!」
 暴漢に拳銃を撃とうとするが、直前に叩き落されてしまった。
 拳銃は床を転がってレイン少将の足元に転がった。
 その拳銃を拾い上げながら、
「形勢逆転ですね」
 監察官は副官によって床に押さえつけられて身動きが取れなくなっていた。
「拘禁しろ!」
 連絡を受けてやってきたSPに連れ出される監察官。
「やっと、厄介者がいなくなりましたね」
 副官が歩み寄ってきて語り掛けた。
「君のおかげだ」
「当然のことをしたまでですよ」
 スクリーンに投影される戦闘状況に見入る二人。


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2020年7月25日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 II

第八章 トランター解放
II

 戦艦サジタリウムの艦橋内。
 正面スクリーンには、アレクサンダー皇太子率いる帝国・解放軍連合艦隊が迫っている
姿が投影されている。
「帝国軍、停止しました」
「敵艦隊より降伏勧告が打電され続けています」
 通信士のその言葉には、早く結論を出してくれという悲哀にも似た感情が込められてい
た。
 目の前にいる艦隊は、総督軍二百五十万隻を打ち破った艦隊である。
 しかも、あの共和国同盟の英雄と称えられているアレックス・ランドール提督が率いて
いるのだ。
 誰が考えても勝てる見込みはないと思えるだろう。
 そう……。
 司令官でさえ、そう思っているのだから。
 それを踏み留めさせているのは、連邦軍から派遣されて同乗している監察官の存在があ
るからである。
「司令官殿。判っておいでですよね」
 彼の名は、ユリウス・マーカス大佐。
 その手には拳銃が握り締められている。
 武器の持込が禁じられている艦橋において、監察官だけは武器の所持が許されている。
 そして今、その武器を構えて司令官に徹底抗戦を指図しているのだ。
 監察官の任務として、トランター総督府統帥本部からの指令を忠実に守ろうとしている。
 連邦軍三十万隻の将兵達は、本国において革命が起きた以上、ここを死守しなければ帰
る場所はない。
 しかし旧共和国同盟軍の将兵達にとっては、銀河帝国は友好通商条約国であり、ラン
ドール艦隊は同胞である。
 できれば戦わずに済めば良いと考えるのは至極当然のことであろう。
「私達に、あのランドール提督と戦えと命ずるのですか?」
 司令官のアンディー・レイン少将が念押しする。
「その通りだ」
 マーカス監察官は冷酷に答える。
 彼とて勝算はないことは判りきっていることである。
 ワープゲートを奪取されたと判った時に、奪還のために迎撃に出ることも考えたが、現
れたのは銀河最強のアル・サフリエニ方面軍六十万隻である。残存の百万隻を持ってして
も勝ち目のない相手である。
 そうこうするうちに遠征軍をものの見事に看破して、目の前に押し並べてやってきた。
 もはや逃げも隠れもできない切羽詰った状態である。
 まさか二百五十万隻の艦隊が百五十万隻の艦隊に敗れようとは思わなかったから、留守
居役を任されたとしても、気楽に考えて何の策も講じていなかった。
 結局、ランドールは百二十万隻の隠し玉を用意していて、都合二百七十万隻の艦隊で当
たったのだから勝つのは当たり前。
 残された道は、降伏か玉砕かであるのだが……。
 この際、かつての同胞同士で戦ってもらおうじゃないか。
 はっきり言って、旧共和国同盟がどうなろうと知ったこっちゃないというのが本音であ
ろう。
「どうした? 出撃命令を出さないのか」
 拳銃を握る手先に力をこめるマーカス監察官。
 その時、指揮官パネルが鳴った。
 付帯している通話機に入電である。
 即座に艦隊リモコンコードによる緊急連絡であると気づくレイン少将。
 相手は誰か?
 艦隊リモコンコードによる緊急連絡を行える艦艇は、この付近にはいないはずである。
 同様の艦政システムを搭載していて、アクセスできる相手となると……。
 ランドール提督座乗のサラマンダーしかない。
 おもむろに送受器を取るレイン少将。
「わたしだ」
 あくまでも艦内連絡かのように振舞うレイン少将。
 この連絡手段を知らないであろうマーカス監察官に気取られないためである。
『解放軍司令のランドールです』
 感が当たった。
「ああ、君か。今忙しいのだ。用件は手短にしてくれないか」
『なるほど。そばに監察官がいるのですね。それも連邦軍で、徹底抗戦を?』
「そのとおりだ」
『まさか同胞同士で戦うつもりはないでしょう?』
「確かにそう願いたいものだよ」
『では、こうしませんか。こちらから艦隊リモコンコードを送信します。それを全艦隊に
再送信して同調させてはくれませんか』
「するとなにか、君は徹底抗戦を進言すると言うのだな。勝てる見込みがあるというの
か」
『おまかせください』
「判った。そうしよう」
『では、艦隊リモコンコードを送信します』
 レイン少将は指揮パネルを受信にセットした。
 ややあってコードは受信完了した。
 そしてマーカス監察官に向かって言った。
「部下の一人から意見具申がありました」
「で?」
「帝国軍は遠征軍と一戦交えた後で、兵士達も疲弊しているはず。しかもランドール提督
にとっては、同胞同士の戦いは避けたいと考えるのが常識。そこが付け目で、十分互角に
戦えるはずとね」
「ふん」
「というわけで、あなたのご意向通りに戦闘開始することにしました」
「そう願いたいものだな」
 マーカス監察官は、レイン少将とランドール提督との密約に気づいていない。
 これから起こることに目をむくことになるだろう。
 その後逆上した監察官が取りうる行動は予想だに難しくないが、将兵達の命を救うため
にも、自らを犠牲にするもやぶさかではない。
「全艦戦闘配備! これより送信する艦隊リモコンコードに同調させよ」


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銀河戦記/鳴動編 第二部 第八章 トランター解放 I


第八章 トランター解放

 

 決戦場を離脱してから、敵艦隊の攻撃を受けることもなく首都星トランターへと近づき
つつあった。
「メビウスとは連絡が取れないか?」
「はい。ジャミングがひどくて」
「そうか……まあ、便りのないのは良い便りというからな」
 例え通信手段が妨害されていたとしても、いくらでも連絡手段はある。
 何せ彼らは、ネットワークを自由に渡り歩くことのできる連中なのだ。
 通常通信による交互通話はできなくても、情報網を撹乱・操作して、いくらでも連絡を
取ることができるはず。
 それをしないのは、計画が予定どおり順調にはかどっていて、連絡の必要性がないから
である。
 その綿密なる計画は、アレックスが絶大なる信頼を預けている、レイチェル・ウィング
大佐の脳裏の中にある。
 敵の只中に送り込んで、のっぴきならぬ背水の陣を任せたのも、その信頼の証。
 万が一、寝返ったとしても恨みはしない。
 それだけの覚悟があった。
「提督、何をお考えになっているのですか?」
 パトリシアが怪訝そうに尋ねた。
 どうやら深刻そうな表情になっていたらしい。
 今回の作戦にはパトリシアは、作戦参謀として参画していない。
 心苦しい判断ではあったがいたし方のないこと。
「今頃、彼らはどうしているだろうかと思っていたのさ」
 当たり障りのない返答をするアレックス。
「そうですね。フランソワも大役を任されて奮闘しているでしょうね」
「ああ、そうだな……」
 遠きそらから願うだけである。

 

「前方に艦影! トランター守備艦隊かと思われます」
 正面スクリーンに投影される敵艦隊の艦影。
「艦数、およそ百万!」
 こちらの勢力は、アル・サフリエニ方面軍が抜けて百二十万隻である。
 艦数ではほぼ互角とはいえ、総督軍と一戦交えたばかりで、将兵達も疲弊していると思
われる。
 敗勢を逆転勝利したことで、士気は高まっているだろうが、無理強いはしたくない。
「無駄な戦いはしたくないな……。交渉を呼びかけてみよ」
 守備艦隊は、旧共和国同盟軍が七割以上を占めていた。
 同胞同士の戦いは、敵味方共々避けたいと考えるのが尋常であろう。
 交渉次第では、無血停戦も可能。
 問題は三割の連邦軍であろうが、旧共和国同盟軍が味方についてくれれば何のこともな
い。
「応答ありません」
「艦隊の動きも見られません。首都星トランターの前面に布陣したままです」
「そうか……。参謀達の間で論議紛糾して、結論が出せないでいるのかも知れないな」
「あるいは連邦軍の監察官が張り付いているのかも知れませんよ」
「監察官か……」
 艦隊司令官には、統合参謀本部からの指令無視や反乱を防ぎ監視するための監察官が同
行することになっていた。
 以前にも第十七艦隊司令官になったアレックスに同行していた監察官が、ニールセン中
将の密偵として抹殺しようとしたことがあった。
*第一部 第十八章 監察官  同様に旧共和国同盟軍の司令官にも、連邦軍の監察官が張り付いていて、総督軍の命令
を遵守するように働きかけているだろうことは、想像だに難しくない。
「しばらく様子を見よう。全艦停止だ」
「戦闘態勢は?」
「必要ない。それより、同盟軍側の総指揮艦を割り出してくれ」
「三分ほどお待ちください」
 アレックスの乗艦するサラマンダーは、共和国同盟軍の朋友艦であり、艦体を動かす艦
政システムコンピューターはまったく同じものを搭載している。
 トランター滅亡後に艦政システムの改造が行われていない限り、何らかのアクセスが可
能なはずである。
「艦体リモコンコードですね」
 パトリシアは気づいているようであった。
 数百万隻もの艦隊が整然と行軍するには、個々に判断して行動していては、列が乱れた
り最悪接触事故を起こしかねない。
 そこで重要なものが【艦隊リモコンコード】と呼ばれるものである。
 旗艦より発信されるこのリモコンコードに同調させることによって、個々の艦隻同士の
相対距離を自動的に調整して衝突を回避すると共に理路整然と行進が可能になる。いざと
いう時には旗艦に呼応して効率の良い戦闘を行うことができる。
「指揮艦が判りました。旧第一艦隊第十八部隊の旗艦、戦艦サジタリウム。司令はアンデ
ィー・レイン少将」
 共和国同盟軍には定員二十七名の准将と九名の少将がいたが、知らない名前だった。
 同盟壊滅後の総督軍への編入によって昇進したものと思われる。
 将軍の名前は全員覚えているが、定員のない佐官クラスまでは覚えきれない。
「しかし少将か。前職は大佐級以下のはずだよな。戦死してもいないのに、二階級特進と
はね」
 将兵達を手なずけるための特別昇進が実施されたのだろうが、その給与体系はどうなっ
ているのかと心配したりもする。
 ただでさえ、ベラケルス星域決戦において壊滅した三百万隻の艦隊に従軍して戦死した
六千万人に及ぶ将兵達の遺族年金だけでも莫大な金額になるはずである。
 共和国同盟軍の給与規定や年金条例に従うならば、とても賄い切れない財政負担を強い
られるはずである。
「ともかく連絡を取ってみるか。アクセスコードが変更されてなければ良いが」
 アレックスは、指揮パネルを操作して、サジタリウムへのアクセスを試みた。

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2020年7月11日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 XⅢ

第七章 反抗作戦始動
XⅢ

 銀河帝国首都星アルデラン。
 アルタミラ宮殿内皇室議会議場。
 正面スクリーンには、決戦の場に従軍した報道機関が放映している番組が映し出されて
いた。
『帝国の皆様、大変長らくお待たせいたしました。これより皇太子殿下率いる遠征軍の模
様を放映再開いたします』
 実は、戦闘中は敵艦隊に情報を漏洩させるとして、アレックスは報道管制を布いていた
のである。
 総督軍との戦闘が終了したことを受けて、報道管制を解禁して再び報道番組を放映する
ことを許可されたのである。
『皇太子殿下は、アル・サフリエニ方面を守備する艦隊全軍を援軍として差し向けるとい
う、ほとんど暴挙とも言える作戦を敢行なされました。バーナード星系連邦がその隙を突
いて、タルシエンの橋を渡ってタルシエン要塞やシャイニング基地などの拠点陣地を奪還
するという危険性もあったのです。もしそうなれば侵略のための前線基地を連邦に与える
こととなり元の木阿弥(もとのもくあみ)、たとえトリスタニア共和国を解放しても、開
戦当初の勢力状況に戻るだけだけだったのです』
『報道管制を敷かれて放映の禁止を命じられていましたが、戦闘の録画だけは許されてお
りました。これより総督軍との戦闘を開戦当初より再生してご覧いただきましょう』
 銀河帝国国民に向けて、帝国軍艦隊と総督軍艦隊との決戦の模様が録画中継で放映され
はじめた。
 そして、決戦場での戦闘シーンが終了し、【首都星トランターへ、いざ出陣!】という
ところで、再び報道管制が入って放映中断となった。
 暴動鎮圧や敵艦隊迎撃に向かった防衛艦隊が引き返してきているだろう。
 こちらの情報を教えるわけにはいかないからだ。

 従軍報道陣からの録画中継を食い入るように見つめていた皇室議会議員達。
 深いため息をついて感嘆している表情が手に取るように判る。
「さすが共和国同盟の英雄と称えられる殿下殿。巧妙にして計算されつくした作戦だ」
 議員の一人が感服の言葉をもらした。
 それに賛同するように頷くものが多かった。
 さて、こうなると前回に残した議題が問題に上がってくる。

 【皇太子擁立問題は、第一皇子の総督軍との決戦を見届けてから再審議しよう】
 というものである。

 見事なまでに総督軍を破り、その軍事的才能はもはや疑いのないものとなった。
 トリスタニア共和国同盟を解放に導くことも、おそらくは実現可能な情勢となっている。
 解放に成功すれば、暫定政権を興してその首班の地位に着くことも可能であろう。
 三大強国の一つである共和国同盟を掌握し、さらに銀河帝国の皇帝となれば、その地位
は揺るぎないものとなり、銀河宇宙の平和をもたらすだろうことも……。
 結論はすでに出ていると言えた。
 しかしながら……。
「ジョージ親王殿下はすでに次代皇太子として認証されているのだ。今更ながらにしてア
レクサンダー殿下を皇帝とするのも……」
 と、相変わらず煮え切らない摂政派の議員達。
 自分でもアレクサンダー殿下を推す事には反対はしないが、ロベスピエール公爵の意向
にも逆らえないという板ばさみ。
 いわゆる中間管理職の悲哀というべきものだろう。
「しかし、アレクサンダー殿下には皇位継承権第一位という権利を有し、亡き皇后さまよ
り授けられた皇位継承の証がある。この事実は動かすことができまい。皇室典範に照らし
合わせて、先の皇室議会の決定に従ってジョージ親王殿下が即位した場合でも、そのお子
はお世継ぎとなれない一代限りの暫定的なものだ。その次の皇帝は、アレクサンダー殿下
か、そのお子様に皇位継承権が与えられる」
 悲喜交々、堂々巡りの議場に新しい風が舞い込んできた。
 突然ドアが開いて従者が一人入ってきた。
「お知らせいたします。アレクサンダー殿下率いる艦隊が首都星トランターに居残る総督
軍を打ち破ったとの報告が入りました」
「なに!」
「それは真か?」
「は、間違いございません。殿下はさらに艦隊を進め、まもなく首都星トランターを包囲
せんとする位置に展開中とのことです」

 しばしの沈黙があった。
「共和国同盟の解放は、もはや疑いのないものとなった」
 一人が重厚な響きをもった言葉を口にした。
「アレクサンダー殿下は、共和国同盟にたいして最高指導者として国政を自由に操る地位
につかれたことになる」
「その通り。現在の同盟諸国は連邦の占領下にあって無政府状態に近いから、臨時政府を
興し首長となることが可能というわけだな」
「アレクサンダー殿下が皇帝となられれば、場合によっては銀河帝国に吸収合併し、帝国
の領土を二倍に広げより強大な国家を築くことも可能になる。となれば連邦側とてもはや
手出しできなくなるだろう」
「いや逆に連邦に宣戦し、これを撃滅し銀河統一を果たすことも」
「可能だ!」
「銀河統一か……」
「それを可能にするお方は、アレクサンダー殿下をおいて他にはない」
「これで決まりましたね」
「そのようですな」
 一同にしばしの沈黙がながれた。
「しかし……ジョージ親王殿下には、いかにお話しすればいいのだ」
「ともかく最終的な結論はエリザベス皇女様にご判断を仰ぐしかないが……」

 謁見の間
 皇室議会の議員達が、つい先ほどまとまった結論を報告していた。
「皇室議会では、アレクサンダー殿下がもっともふさわしいと判断したのですね」
「はい。ジョージ親王殿下には遺憾ともしがたいのですが……」
「よろしい。よくぞ申してくれた。公爵とジョージには私から説得する」
「では……」
「皇位はアレクサンダー殿下に」
「はっ。早速全国民におふれを出します」


 こうして、アレックス・ランドールすなわちアレクサンダー第一皇子の皇太子擁立が正
式に決定し、銀河帝国全土に知らし召された。


 第七章 了


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2020年7月 4日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 XⅡ

第七章 反抗作戦始動
XⅡ

 サラマンダー艦橋。
 通信士が報告する。
「敵艦隊より、降伏勧告を受諾するとの返信がありました」
「敵艦隊、全艦機関停止して戦闘中止したもよう。間違いありません」
 艦内に歓声が沸き起こる。
「勝ったんだ!」
「我々の勝利だ」
 口々に叫んで喜びを一杯に表していた。
 それも当然だろう。
 戦いの前は、艦隊数で完全に負けていた。
 それをひっくり返して勝利したのだから。
「よし。全艦戦闘中止せよ」
「全艦、戦闘中止」
 深いため息をついて、椅子に座りなおすアレックス。
「おめでとうございます」
「見事な作戦指揮でした」
 オペレーター達が立ち上がって賞賛の拍手で、アレックスを褒め称えた。
「戦艦フェニックスのガードナー提督より入電です」
「繋いでくれ」
 正面スクリーンにフランク・ガードナー少将の姿が投影された。
『おめでとう。君なら勝てると思っていたよ』
「ありがとうございます。それもこれも先輩のおかげです」
『君が銀河帝国軍を率いて総督軍との決戦に赴いたことは報道などで知っていた。遠き空
の彼方から応援するしかないと思っていたが、意外にも援軍要請の特秘暗号通信をもらっ
て驚いたよ。まさかタルシエン要塞を空っぽにすることになるのだからな』
「確かにその通りなのですが、タルシエンの橋の先のバーナード星系連邦は革命が起きた
ばかりで、要塞を空にしても攻略にはこれないだろうと判断しました」
『しかし、そうそう空にしておくわけにはいかないだろう。この後我々は、タルシエン要
塞に引き返す。共和国同盟の解放は君に任せることにする』
「任せておいてください。共和国同盟の解放は私の使命ですから」
『そうだな……。それでは短い挨拶だが、これで失礼するよ』
「お気をつけて」
『うむ』
 こうしてガードナー提督との通信が終わった。
 その後、ゴードンやカインズそしてジェシカなどの腹心達との交信が行われた。
 やがてアル・サフリエニ方面軍艦隊はタルシエン要塞へと引き返していった。
 銀河帝国軍と総督軍の決戦において、アル・サフリエニ方面軍が自陣を空にして援軍に
向かったという情報は、バーナード星系連邦側にも流れているだろうから。
 バーナード星系連邦が革命途上にあるとはいえ、一個艦隊なりをタルシエンの橋を渡っ
てやってくることは十分ありうる。
 一時も早くタルシエン要塞に戻って防御を固めねばならないことは必然のことだった。


 ここに銀河帝国軍と総督軍との決戦は幕を閉じることとなった。
 しかし休む間もなく次の戦いがはじまる。
 共和国同盟の解放が成し遂げられたのではない。
「戦後処理は第四艦隊と第五艦隊に任せて、我々はトランターへ向かう」
 投降してきた総督軍の対処に構っている暇はない。
 第四艦隊と第五艦隊は後方支援としてやってきたのだ。彼らに任せるのは利に叶ってい
る。
「総督軍の総司令のマック・カーサー提督は、自室で自害されたとの連絡がありました」
 通信士が報告する。
「そうか……。共和国解放戦線最高司令官の名で、弔意を表す電文を送っておいてくれ」
「かしこまりました」
 アレックスは一息深呼吸すると、新たなる命令を発令した。
「全艦全速前進。トランターへ向かえ!」
 熾烈なる戦いのあった宙域より離脱して、共和国同盟の解放のためにトランターへと目
指す。
 懐かしき故郷の地へと。


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2020年6月27日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 XI

第七章 反抗作戦始動
XI

 第三皇女艦隊旗艦インヴィンシブル。
 正面スクリーンでは、総督軍に対して攻撃を開始した第四艦隊と第五艦隊が映し出され
ていた。
 戦闘の経験のない艦隊であるが、逃げ腰の総督軍に対しては十分なくらいの戦力と言え
た。
 それを眺めていたホレーショ・ネルソン提督が意見していた。
「皇太子殿下が後退を続けていた意味が、今になって判りましたよ」
「申してみよ」
「はい」
 ネルソン提督は一息ついてから自分の考えを述べ始めた。
「殿下は、後退することによって時間を稼いで援軍の到着を待つと共に、戦闘域を後方へ
と移動させたのです。そして本来後方支援だった艦隊を戦場へと引きずり込んだのです。
戦場となれば本国の指令より、戦場の最高司令官に指揮権が委ねられます」
「その通りです」
 嬉しそうに頷くジュリエッタ皇女。
 信奉する兄の功績を、配下の武将に認められることが一番の喜びだったのである。

 第二皇女艦隊でも同様の具申が行われていた。
 トーマス・グレイブス提督が述べていた。
「戦場においては戦場の司令官が指揮を執る。帝国軍規を良く理解した上での作戦でし
た」
「共和国同盟の英雄と称えられていた才能が証明されたということです」
「誠にございます。銀河帝国の全将兵が皇太子殿下の足元に傅くことでしょう」
「殿下は銀河を統一したソートガイヤー大公の生まれ変わりと言っても間違いないでしょ
う」
 アレックスの特徴ある瞳の色、エメラルド・アイがそれを証明するであろう。
 そして類まれなる指揮能力と作戦巧者は疑いのないものとなる。
「殿下よりご命令です。総督軍の左翼へ艦載機攻撃を集中させよ」
「グレイブス!」
「御意! 総督軍の左翼へ艦載機攻撃!」
 艦橋オペレーター達は小躍り状態で全艦隊へ指令を伝達した。


 さらに三時間が経過した。
「敵艦隊より降伏勧告が打診されています」
 通信士が報告するも、マック・カーサーは無視を続けていた。
 しかしながら、総督軍は総崩れとなり、残存艦数は五十万隻にまでに減じていた。すで
に完全なる消耗戦となり、時間が経てば経つほどのっぴきならぬ状況へと陥っていく。
 それに対して包囲攻撃を続けるアレックスの艦隊にはほとんど損害を被ることはなかっ
た。
 勝算はまるでなく、逃走もかなわない状況がはっきりしている。
 総督軍は完全に戦意喪失となり、総司令官の新たなる判断を待ち続けていた。

 それは【降伏】の二文字しかなかった。

「司令官殿、そろそろご決断すべきだと思いますが」
 参謀の一人が意見具申を出した。
「決断とは何のことかね」
「もちろん降伏です。この情勢ではそれしかないでしょう」
「馬鹿を抜かすな! ここまで来て降伏などできるか!」
「では徹底抗戦なさるとおっしゃるのですね?」
「当然だ!」
「おやめください!」
「何を言うか! おめおめと生きて恥をさらすくらいなら、敵の総大将と刺し違えても相
手を倒すのみだ。それが武人の誉れというものだろう」
「何が武人の誉れですか。それはあなたの自己陶酔でしかありません。これ以上戦いたい
のなら、あなた一人で戦いなさい。もはやあなたに数百万もの将兵の命を委ねることはで
きません」
「ええい、うるさい! 反転して敵の旗艦、サラマンダーに体当たりしろ!」
 誰も沈黙して動かなかった。
「あきらめて下さい。もはや提督の命令を聞くものはおりません」
「貴様らそれでも軍人か!」
「軍人だからこそ、命を粗末にしたくないのです。お判りいただけませんか?」
「判るものか」
 もはや何を言っても無駄のようであった。
「生きて戻ったら軍法会議を覚悟しろよ」
 と叫ぶと艦橋を飛び出していった。
「提督!」
 オペレーターが後を追おうとする。
「追う必要はない! 総司令は指揮権を放棄した。よって指揮権は私が引き継ぐ」
 参謀は言い放つと、全艦に指令を出した。
「全艦戦闘中止! 機関停止して降伏の意思表示を表す」
 オペレーター達は安堵の表情を見せて命令を復唱した。
「全艦戦闘中止」
「機関停止」
 エンジンが停止して音を発生するものがなくなり、艦内を不気味なまでの静けさが覆っ
た。
「国際通信回線を開いて、敵艦隊と連絡を取れ」
「了解。国際通信回線を開きます」
 それはS.O.Sなどの非常信号や降伏する時のための通信回線である。


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2020年6月20日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第七章 反抗作戦始動 X

第七章 反抗作戦始動

 一時間後。
 中央に切り込んだ帝国軍艦隊は優勢に戦いを進めていたが、すでにすれ違いを終えて相
対位置は離脱の方向に向かっていた。
 さらに戦いを続けるには反転しなければならないが危険を伴う。
 サラマンダー艦橋。
「総督軍は正面突破を図って、中立地帯へ逃げ込もうとしているようです」
「反転攻撃しますか?」
「いや、半時計回りに全速迂回して総督軍の側面を突く」
「側面を突くと申しましても、そのためには総督軍の頭を抑えて前進を阻む必要がありま
すが?」
「その通りだよ」
「しかし応対できる艦隊がおりません」
「いるじゃないか」
「え?」
「まあ、見ていたまえ」
 含みを持たせた笑みを浮かべて答えないアレックスだった。


 ザンジバル艦橋。
「何とか正面突破に成功しました」
「よし、このまま全速前進して中立地帯へ逃げ込め」
「了解」
 ふうっ、と大きなため息をついて肩を落とすマック・カーサー提督。
「このまま行けば何とか逃げられそうです」
 とその時、警報が鳴り響いた。
「どうした?」
「前方に艦影を確認」
「なんだと?」
「帝国艦隊です。その数、六十万隻!」
「馬鹿な! そんなものがどこから……」


 サラマンダー艦橋。
「銀河帝国軍、第四艦隊と第五艦隊です」
「ほら見ろ。援軍が来てくれたではないか」
 と楽しそうに言うアレックス。
 万事予定通りという表情である。
「第四艦隊と第五艦隊に連絡を取ってくれ」
 ほどなく正面スクリーンに両艦隊の司令官の姿が投影された。
『第四艦隊、フランツ・ヘーゲル准将です』
『第五艦隊、ベルナルト・メンデル准将です』
「諸君らはすでに戦場に足を踏み入れてしまった。よって銀河帝国軍規によって、両艦隊
を私の指揮下に組み入れる」
 帝国軍規には戦場にある艦隊は、戦場を指揮する司令官の采配に従うように定められて
いる。
 本国から後方支援部隊として戦闘には参加しないことを前提に進軍してきた第四艦隊と
第五艦隊ではあったが、戦闘が長引き戦場が後方に移動したことによって、予定外として
戦場に踏み込んでしまったのである。
 戦場においては、本国からの直接命令は破棄されて、戦場の指揮官の命令に従うという
わけである。
『御意!』
 と両准将は力強く応えた。
 帝国軍規には精通している将軍であるから、アレックスの命令を受け入れることには躊
躇しなかった。
「第四艦隊、及び第五艦隊に対し、宇宙艦隊司令長官として命令する。接近する総督軍に
対し攻撃を敢行せよ」
『御意!』
 再び応える両将軍。
『おまかせください』
『殿下のご期待にお応えしましょう』
 これまでのアレックスの戦いぶりを、後方からずっと見ていたはずである。
 寸部の隙を見せず、負け戦を勝勢へと導いてしまった、作戦巧者の我らが宇宙艦隊司令
長官にして皇太子殿下。
 銀河帝国の存亡を掛ける作戦に参加できることは武人の誉れとなる。
 両将軍がはりきるのは当然のことである。
 後方支援で出撃が下された時のことである。
「皇女様に対し敵艦隊との矢面に立たせて、第四・第五艦隊は安全な後方支援とはいかな
る所存か?」
 第四艦隊・第五艦隊司令官からも、なぜ自分達は後方支援なのだという意見具申が出さ
れていた。
 しかし大臣達は、戦闘経験のない艦隊を最前線に出すわけにはいかないという一点張り
で対抗した。
 両将軍は不満だったのである。
 しかしその鬱憤はここへきて晴らされることとなる。
 皇太子殿下に従い、銀河帝国を勝利に導く。
 もはや迷いはなかった。
 両将軍率いる艦隊は、接近する総督軍に対して猛攻撃を開始した。
 頭を塞いで進行を遅らせ、本隊が追いつくのを手助けする。
 そうこうするうちに、援軍が後方から追いつき、さらに全速迂回してきたアレックス率
いる本隊が側面から攻撃を開始した。
 総督軍包囲網が完成した。
 敗勢から勝勢へ、アレックスの采配を疑うものはもはや一人もいなかった。


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