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2021年3月14日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅲ

第十章 反乱

 ゴードン・オニール率いるアルサフリエニ方面軍が反旗を上げたことは、アルデラーンにいるアレックスの耳にも届いた。
 あまりの衝撃に言葉を失うアレックスだったが、その背景を調べるように通達した。
 やがて、タルシエン要塞から驚きの報告が帰ってきた。
 皇太子即位の儀の後に行われた記者会見のTV放映が、タルシエン要塞及びそこを中継するアルサフリエニ方面では、本放送と生中継放送とではまるで違っていたのだ。
 それが発覚したのは、念のためにアルデラーンで録画した本放送分をタルシエン要塞に送ったことで、違いが判明したのだ。
 アルデラーンでの本放送では、共和国同盟の処遇に関しては、兼ねてよりの意思として、以前の体制に復帰させることで念押ししたはずだった。しかし、中継放送では帝国に併合させると改変させられたことが判明したのだ。
 おそらくタルシエン要塞側の中継設備にハッカーが侵入して、本放送とは違う別の録画映像を流したのであろう。

「やられたな……」
 ハッカーの犯人は分かっている。
 闇の帝王と称される、ジュビロ・カービン以外にはいない。
「久しぶりに聞きましたね。その名前」
「おそらく今日あることを予期して、要塞奪還後のシステム構築の時に、侵入経路の裏口を作っておいたのだな」
「要塞コンピュータの設定に関わらせたのが仇になりましたね」
「分かってはいたのだが、一刻も早いシステム復興が必要だったのだ」
 それは、要塞を落とせば当然再奪取に艦隊を派遣してくるだろうからである。
「ハッカーという奴は、武器商人と同じだよ。どちらか一方にだけ加担するのではなく、不利になった側について戦況を盛り上げ、永遠の膠着状態にさせるのが本望なのだ。双方が疲弊してゆくのを、高見の見物しながら、裏舞台で高笑いする」

「いかがなされますか?」
「そうだな。バーナード星系連邦に最も近いアルサフリエニ方面を放っておくわけにはいかないだろう」
 内憂外患状態にある事を、連邦に悟られるわけにはいかない。
 速やかに鎮圧部隊を派遣しなければならなかった。
「しかし、今の状態では要塞駐留艦隊を動かすわけにはいきませんね」
「私が行く!」

 共和国同盟の士官としてなら、いつどこへ行こうが構わないだろうが、銀河帝国皇太子たるアレックスが、アルサフリエニ方面に進軍するとした時、マーガレット皇女などは大反対した。
 が、皇太子の意思に逆らうわけにはいかない。
「私も同行致します!」
 マーガレットが配下の皇女艦隊を引き連れて、護衛に同行すると許可を求めた。
 ジュリエッタも参加することを公言した。

 こうして、皇太子即位の興奮も冷めやらぬ間に、アルデラーンからタルシエン要塞への行幸となったのである。
 アルデラーンからトランターまでは、それぞれのワープゲートを調整すれば使えるが。
 ジュビロ・カービンが敵側に着いたと想定される現在、タルシエン要塞にあるワープゲートは、万が一を考えて使うことができない。
 トランターからは、艦隊の足を使って行くしかない。


2021年2月24日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅱ

第十章 反乱


 皇太子即位の儀は、アルデラーン宮殿王室礼拝堂大広間で執り行われることとなった。地球史における英国のプリンス・オブ・ウェールズ叙任式にあたる。
 豪華絢爛たる装飾品、正面には祭壇と大きなパイプオルガン、天井には美しい装飾画がある。
 吹き抜けとなっている二階部分には、大きな円柱がありその間隙に各放送局のTVカメラと報道陣がずらりと並んでいる。
「アレクサンダー王子ご入来!」
 宮廷衛視が発令すると、騒めいていた礼拝堂内が一斉に静かになった。
 パイプオルガンが荘厳な音楽を奏でる中、紫紺の絨毯の敷かれた中央回廊をアレクサンダー王子が進みゆく。
 祭壇には、第一皇女にして摂政を務めるエリザベスが待ち受けている。その脇には侍従が携える【皇位継承の証】である深緑に輝くエメラルドの首飾り。
 一般的な王位(皇位)継承では、王冠を継承者に被せる戴冠式が行われるが、銀河帝国では【皇位継承の証】を首に掛けることで、皇位を継承したことを知らしめることとなっている。
 ちなみに地球古代史における日本国の天皇における、立太子の令がこれに相当する。

 その頃、共和国同盟の各地域にも、皇位継承の儀式の模様が生中継されていた。
 当然、ガデラ・カインズの駐留するタルシエン要塞やゴードン・オニールが守るアルサフリエニ方面の基地でも生中継を視聴していた。
「皇帝の即位式じゃなくて、皇太子なんですね」
 参謀のパティー・クレイダー少佐が呟いた。
「そりゃそうさ。死んだと思われていた皇位継承者が突如として現れたのだ。いきなり皇帝というのも、貴族たちが納得しないだろ。まずは皇太子というところからはじめて、少しずつ浸透させてゆくのだろうさ」
「皇太子とは言っても、すでに皇帝が崩御されているから、実質上の皇帝ですよね」
「まあ、そこの所が継承者問題で荒れている証左なんだろうな」

 儀式が終わって、記者会見の模様も中継された。
 数多くのマイクが立ち並んだ机の前に座り、記者の代表質問に答えるアレクサンダー王子。
「殿下は、共和国同盟を解放なされましたが、銀河帝国皇太子として、その処遇をいかがなされるおつもりでございましょうか?」
 その質問は、ほとんど銀河帝国の政策一丁目一番地とも言うべき質問だろう。
 帝国皇太子にして、共和国同盟の最高指導者たる人物なのだ。

「帝国皇太子及び共和国同盟最高指導者たる身分をもって、共和国同盟を銀河帝国に併合し、帝国貴族にその所領を与えるものとする。貴族の末端にまで公正に分配する」
 その発言を聞いて驚く、共和国同盟の諸提督達だった。

「なんてことを!?これでは、バーナード星系連邦から銀河帝国に植民政権が移っただけじゃないか」
 提督の中でも一番憤慨したのは、ゴードン・オニールだった。
 アレックスとは、士官学校からの親友だっただけに、その心変わりに信じられないという表情であった。
 しかし、TV中継では、はっきりと明確に帝国領とすると発言しているのである。疑う余地がなかった。
 アルサフリエニ方面軍において、アレックスに対する反感が沸き上がっていた。


 それから数日を経て、ゴードン・オニールを首班とするアルサフリエニ共和国の独立宣言がなされた。


2021年1月13日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅰ

第十章 反乱


 銀河帝国首都星アルデランに近づく巡洋戦艦インヴィンシブル。
 近づいてくるのは、TV放送局の船である。
 皇太子殿下の坐乗する艦が、宇宙から皇族専用宇宙港に舞い降りるシーンを撮影し演出する気概があるのだろう。
 事前に連絡を取って、撮影許可を取っている。
『ご覧ください。皇太子殿下のお乗りになられていますインヴィンシブルでございます。既報の通りに、共和国同盟を解放し凱旋なされました』
 別の放送局も続く。
『ジュリエッタ皇女様のインヴィンシブル、マーガレット皇女様のアークロイヤル、そして皇太子殿下の旗艦サラマンダーが仲良く並んでおります』
『あ、只今。アルデラーンに着御なされたアレクサンダー殿下が乗降口にお出ましになられました』

 そんな皇太子ご帰還の模様を放送するTVを、苦虫を?み潰したような表情で見つめる複数の目があった。
 どこかの貴族の館の一室で交わされる内輪の会話。
「たかが臨時の宇宙艦隊司令長官じゃないか。皇太子になったわけじゃない」
「ジョージ親王は、すでに皇太子として決まっていたのに」
「正式に認められたわけではない。今のうちに何とかしなければ」
 どうやらロベスピエール公爵につく摂政派と呼ばれる者達のようだ。


 皇室議会が開かれた。
 もちろん議題は、皇太子の継承問題である。
 議会としては、アレクサンダー王子が皇太子ということは決定事項である。
*参照 第七章 反抗作戦始動 XⅢ
 だが、摂政派の貴族を承諾させるまでには至っていない。
「エリザベス様が、公爵殿を説得なされたのだが、首を縦に振られなかったそうだ」
「公爵殿さえ納得して頂ければ、他の貴族も従って頂けるのだが……」
「ともかく、国民の側に立てば圧倒的にアレクサンダー王子だ」
「そうだな、共和国同盟を解放させたことで、軍事的才能も証明された。もしジョージ親王を強引に立てたとすれば、国民暴動すら起きかねない」
「我が領土を侵略しようと虎視眈々と陰謀を巡らしている、バーナード星系連邦がある限り、ジョージ親王では容易く侵略されかねない」
 議員の中には、ロベスピエールの息の掛かった摂政派もいるのであるが、事ここに至っては自派の論を押し通すことは無理筋だろう。
「これ以上、議論の余地はないと思うがいかがかな?」
「そうだね。決を採ろうじゃないか」
 こうして、アレクサンダー王子の皇太子即位の儀式の日取りが決定した。

2020年12月 9日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅺ

第九章 共和国と帝国
XI ミストへ


 サラマンダー艦橋では、海賊から搾取した通信記録媒体の解析が続けられていた。
 スザンナ・ベンソン少佐が報告する。
「提督、通信記録から海賊の基地らしき座標が得られました」
「位置が特定できたのか?」
「はい。五光秒前後の誤差ではありますが、中立非武装地帯の中です」
「う……む。中立地帯か……。戦闘行為が禁止され、軍事施設を設置することも禁
止されてはいるのだが……」
「海賊には通用しませんよ」
「まあな」
「P-300VXを派遣して調査しますか?」
「だめだ。基地の防衛能力や索敵レンジが未知数な現状では、戦艦が立ち入りでき
ない空域に、例えP-300VXでも単独では派遣できない。巡航速度や航続距離
の問題があるからな」
「万が一見つかったりしたら逃げられず、極秘の最新鋭機を敵に渡すことになりま
すか」
「海賊基地の詳細が分かるまでは、このまま知らぬふりをしておこう。位置が分か
っていれば通信傍受もできるし、いずれ詳細も手に入るさ」
「分かりましたが、通信傍受と申されましても」
「手ごろな場所があるじゃないか」
「手ごろな場所?」
「デュプロス星系惑星カリスの衛星ミストだよ」
「連邦艦隊が進軍してくるのを、提督がミスト艦隊を指揮して撃退した、あの衛星
ミストですね?」
「ああ、中立地帯近くに補給基地があるだろう。そこに通信傍受の設備を設置させ
て貰おうじゃないか」
「なるほど、提督の願いなら聞き届けて貰えそうですね」
「そこで、君がミストへ赴き事の次第を了承して貰ってくれ。私の親書を持たせる」
「分かりました。ノームを使わせて頂きます」
 高速戦艦ノームは、サラマンダーの同型艦であり、旗艦艦隊の旗艦となっており、
スザンナの乗艦である。
「通信技術主任として、アルヴァン・アルメイダ大尉を連れていってくれ。役に立
つはずだ」


 数時間後、サラマンダーから離れてゆくノームと随行二百隻の艦艇があった。
「まもなく、デュプロス星系に入ります」
「衛星ミストへの進入コースを設定せよ」
 デュプロス星系は、二つの超巨大惑星を従えた恒星系である。
*参照 第二部 第二章 ミスト艦隊
 目指すは、第一惑星カリスの衛星となるミストである。
 超巨大ガス状惑星カリスは、太陽系木星の二十倍の大きさを持ち、衛星のミスト
が唯一人間の居住できる星となっている。
 衛星ミストの地上に降り立てば、天空には恒星ミストと、その光を反射して輝く
惑星カリスが浮かんでいるのが見えるはずだ。
「ミスト艦隊のお出迎えです」
「相手方より入電です」
「繋いでください」
 通信用パネルスクリーンに浮かび上がったのは、以前にも出迎えたミスト艦隊司
令官のフランドール・キャニスターであった。
「ご来訪の目的をお伺いしましょうか?」
「ランドール提督の全権大使として来ました」
「提督はご一緒ではないのですね?」
「はい」
 スザンナは、副官のキャロライン・シュナイダー少尉を連れて、ミスト旗艦へと
向かった。
「ランドール提督の親書をお渡しします」
「親書ですか?」
 親書を受け取り、中身を読み終えて、
「なるほど、通信では傍受される恐れがあるからですね」
 来訪の目的を納得した。
「はい。我々が通信傍受することを、敵側に察知されてはいけないのです」
「海賊達が行動する時、通信連絡するのを傍受して、その基地の位置を特定しよう
とは、さすがに提督だけありますね」

 ミスト側の了承を得て、ミスト本星と補給基地の二カ所に、早速通信傍受施設が
設置された。離れた二カ所で受信すれば、より良い正確な位置が特定できるからで
ある。
 通信士と設備要員を残して、スザンナの部隊はアレックスの本隊へと向かった。


銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅹ

第九章 共和国と帝国


 インビンシブル艦橋では、援軍の到着と海賊の殲滅とに歓喜の声を上げていた。
「殿下、ありがとうございます。海賊が襲ってくることを予言なされていて、密かにサラ
マンダー艦隊に後を追わせていたのですね」
 ジュリエッタが感心している。
「まあね。これまで二度もやられたから、二度あることは三度あるだよ」
 その時、
「殿下、サラマンダーより連絡が入りました」
「こちらに繋いでくれ」
 送受機を取り、サラマンダーからの報告を受けるアレックス。
「ジュリエッタ。サラマンダーの随行の許可を頼む」
「かしこまりました」
 早速配下の者に指示を出すジュリエッタ。
「それと艦内の捜索をしてくれ。おそらく艦載機発着口辺りに発信機が取り付けられてい
るはずだ」
「発信機……内通者ですか?」
 早速、艦内捜索が行われてアレックスから指定された周波数を探って、発信機が発見さ
れた。さらに艦内モニターに映し出された、発信機を取り付けたと見られる容疑者も特定
されたのだった。
 容疑者の元に警備兵が駆け付けた時には、時すでに遅く命を絶った後だった。
「消されたかな……」
 報告を受けたアレックスは呟いた。
 生きていれば、首謀者の名前を聞けたかもしれなかった。
 そして以前にもあった事件を思い出すのだった。
*参照 第一部第八章・犯罪捜査官コレット・サブリナ
「他にも内通者が?」
「陰謀を企てる者は、幾つもの予防線を張るものだ。実行犯は、その下っ端ということだ
よ」
「乗員全員の身元調査を行いますか?」
「いや。その必要はない。どうせ二重三重の予防線を張ってるさ」
「そうでしょうか……」
 命の重さも毛ほども気にしない陰湿な陰謀の闇、気高いジュリエッタには理解しがたい
ことだろう。
「一度、サラマンダーに戻る。手配してくれ」
「かしこまりました」
 本来なら、皇太子殿下が旗艦インビンシブルから離れるのは、警護の上でも避けなけれ
ばならないが、同盟軍最高司令官でもあるアレックスの行動を止めることはできない。
 アレックス専用の艀「ドルフィン号」が、駆逐艦に護衛されながらサラマンダーへと移
動する。例え目の前にあったとしても、万が一を考慮してである。
 サラマンダー艦橋に戻ったアレックス。
 オペレーター達の敬礼に迎えられながら、スザンナが明け渡した指揮官席に座る。
「通信記録の解読はできたか?」
 開口一番の質問だった。
「残念ながら記録は抹消されていました。引き続きデータの復元作業を行っています。断
片的にでも特定の人物が浮かび上がればよいのですが」
「ふむ。よろしく頼むよ」

「ところで、インビンシブルの居心地はいかがですか?」
「ああ、結構息苦しいな。殿下と呼ばれると、こそばゆいよ」
「そのうち慣れますよ」


銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章・共和国と帝国 Ⅸ

第九章 共和国と帝国
IX 援軍現る


 一方、敵艦隊側では一騒動が起きていた。
「後方に艦隊出現!」
「なに?どこの艦隊だ!」
「確認中です!」
「ほ、砲撃してきました!」
「敵艦隊です」
「共和国同盟です。艦数およそ二千隻」
 うろたえる艦橋の乗員たち。
 正面スクリーンに映し出される敵艦隊の映像の中に見出したるもの。
「あ、あれは!!」
 共和国同盟艦隊の中にひときわ目立つ彩色の図柄の入った艦があった。
「さ、サラマンダーです!!」
 艦体に火の精霊を配する艦は、宇宙にただ一つ。
 ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式、バーナード星系連邦を震撼させるシンボルを持つ、
共和国同盟軍旗艦「サラマンダー」である。
「何故、やつらがここにいる?確かタルシエン要塞に向かったのではなかったのか?」
「偽情報を掴まされたようです」
「ただでさえ強敵なのに、こちらの三倍の数、しかも背後を取られてしまいました」


 その頃、当のサラマンダーでは。
「強襲艦、突撃開始せよ!」
 白兵部隊が搭乗する強襲艦が、敵艦隊旗艦に向かって数隻突撃開始した。
「自爆されるまえに、艦橋を押さえるのです」
 指揮を執るのは、旗艦の全権を任されたスザンナ・ベンソン少佐である。

 敵旗艦に取り付いた強襲艦は、すべての出入り口をこじ開けて中へと侵入した。
 艦内にいる兵士達との撃ち合いがはじまる。
 しかし白兵用の特殊装甲を着込んでいる相手には、連邦の持つブラスターでは歯が立た
ない。
 次々と打ち倒される連邦兵士。
「艦橋に急げ!自爆されるぞ」
 入手した艦内見取り図を見ながら着実に艦橋へとたどり着く。
 艦橋になだれ込む白兵部隊。
 バタバタと倒されてゆく、艦橋の兵士達。
 指揮官と思われる士官が取り押さえられる。
「指揮官を確保しました!」
「連れていけ!」
「はっ!」
 強襲艦へと連行される指揮官だった。
「自爆スイッチは入っていないか?」
 艦橋内にある計器をしらべる兵士。
「大丈夫です。入ってません」
「よし!通信機を調べて、記録媒体を抜き取れ!」
「分かりました」
 通信記録は、当然暗号化されているだろうから、媒体を持ちかえって暗号解読機にかけ
るのである。
「通信記録媒体を抜き取りました」
「よおし!総員退去せよ」
 元来た道をたどって、自艦に戻る白兵達。
「総員退去完了しました!」
「離艦せよ!」
 敵旗艦から離れる強襲艦。

 サラマンダー艦橋。
「作戦部隊より報告あり。任務完了!成功です」
「よろしい!強襲艦が十分離れた所で、敵艦を撃沈させる」
 宇宙空間では、すでに戦闘は終了していた。
 六百隻対二千隻では、まともな抵抗は出来るはずがなかった。
 海賊行為は国際法違反である。
 彼らは連邦のあぶれ者であり帰る場所はない。
 全艦が白旗を上げることなく自沈を選んだ。


2020年11月14日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅷ

第九章 共和国と帝国

「敵艦隊、右翼に展開中です」
「どうやら、こちらに気付いたようです」
「敵艦の艦体温度上昇中!」
「戦闘態勢に入ったようです」
「識別信号は?」
「今なお出しておりません。完全無視です」
「敵艦隊およそ六百隻。我々を包囲しつつ接近中!」
 ここに至ってアレックスが動く。
「そうか……全艦戦闘配備!アーク・ロイヤルへ、艦載機全機発進!」


「敵さんは、こちらの勢力が二百隻と知って、六百隻にしたのかな?」
「艦隊数で三倍差があれば、たいがい勝ちますよね。ということは、事前にこちらの情報
を得ていた可能性大ですね」
 パトリシアが推測する。
「より多ければ勝利の確率も上がるが、隠密を是とする行動ではそうもいかんだろ。探知
されるのを防ぐためにも必要最低限というところだ。こちらが戦闘経験の少ない帝国軍だ
と甘くみているようでもあるがな……」
「提督が指揮を執られれば、それでも大丈夫なのでは?」
「ジュリエッタ艦隊とマーガレット艦隊の精鋭であることに違いはないのだがね」
「双方とも戦闘の経験は、ある程度あるはずです」
「それでも相手が連邦軍の残党だったら、百戦錬磨の経験があるだろう」
「殿下。その残党だか海賊だかは、やはり帝国側の息が掛かっているのは間違いないので
しょうか?」
 ジュリエッタが尋ねた。
「ああ、間違いないだろうね。私を一番煙たがっているのは誰かと考えればね」
「摂政派の貴族ということですか?」
「うむ……連邦は革命後の動乱で他国に干渉するだけの余裕はないだろう」

 スクリーン上に、艦載機群の戦闘によると思われる戦火の輝きが明滅する。
「はじまったな」
 その間隙を縫って、敵長距離ミサイルが迫ってくる。
「ミサイル接近中!」
「弾幕を張れ!」
 ネルソン提督が、すかさず下令する。
 近接防御火器システム(CIWS)が、迫りくるミサイル群を次々と撃ち落とした。
「前方の艦載機群の戦闘が終了したようです。敵機のほとんどは撃ち落とし、残りは撤収
したもよう」
「敵さんは空母を持ち合わせていなかったようだな」
「足の遅い空母は奇襲には向かないですからね」
「戦闘機を帰還させてくれ」
 戦闘機による攻撃が終われば、続いて艦砲射撃が始まる。
「敵艦隊接近中!」
「射程に入り次第、砲撃開始せよ」
「紡錘陣形!装甲の厚い戦艦を外側に配置して、この艦を守れ」
 ネルソン提督が、テキパキと指令を出し続ける。
 よほど間違った指令でもない限り、アレックスは黙って、指揮を任せていた。
 ジュリエッタ皇女艦隊の総司令官はネルソン提督である。
 それなりに自尊心もあるだろう。
 とはいえ、二百隻対六百隻では多勢に無勢、次々と撃破されてゆきジリ貧なりつつあっ
た。
 突如として、一隻の艦が特攻を仕掛けて来た。
 目の前に急接近する艦に怯えるオペレーター達。
 ぶつかると思った瞬間、味方艦が横から体当たりして、その特攻艦を排除した。
 安堵の吐息を漏らすオペレーター達。

「敵艦隊、我が艦隊を半包囲しました」
 着々と敵艦隊の包囲陣が完成しつつあった。
 いわゆる絶体絶命というピンチというところであろう。
 そんな中でも、全く動じずに冷静に振舞っているアレックスに、艦橋の人員は頭を傾げ
るしかない。
 共和国同盟の英雄とて、この状態を打破できるのだろうか?
 疑心暗鬼になり、逃げだしたくなるのだった。
 しかし、当の本人は冷静沈着だった。

「そろそろかな……」
 アレックスは呟き、手元の通信機を操作した。
「よろしく頼むよ」
 と一言送って通信を切った。
「今の通信は?」
 ジュリエッタが尋ねると、
「救援を頼んだのだよ」
「救援ですか?」
「そのうちに分かるさ」
 その直後だった。

「敵艦隊の後方に感あり!」
 オペレーターが報告する。
「援軍か!?敵か味方か?」
「敵の通信妨害で確認できません!」



11

2020年11月 7日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅶ

第九章 共和国と帝国

 その頃、アレックス坐乗するインビンシブルの後方で、密かに行動する艦隊があった。
 スザンナ・ベンソン少佐率いる旗艦艦隊二千隻である。
「輸送艦サザンクロスに、P-300VX特務哨戒艇を出して前方を索敵させて下さい」
 サラマンダーから支持を下すスザンナ。
 輸送艦サザンクロスは、タルシエン攻略の際に次元誘導ミサイルを搭載していた艦であ
る。今回の巡行には、P-300VXを積んでいた。
*参照 タルシエン要塞攻防戦
 歪曲場透過シールド発生装置を搭載して、電磁波はおろか光さえも透過させて敵に探知
されないという、戦艦百二十隻相当の予算が掛かっている秘密兵器である。
 サザンクロスからP-300VXが降ろされて、前方の彼方へと滑るように発進した。
 電子装備やら時空歪曲場シールドやらが、エネルギーを馬鹿食いするので長距離は飛べ
ず、索敵出動時以外は輸送艦に積まれて待機しているのである。
「P-300VX、インビンシブルの後方32光秒の位置に着きました」
「敵艦出現想定位置からの索敵範囲圏外になります」
「よろしい。そのまま待機せよ」
 獲物を狩るハンターのように、息を潜めてじっと待ち続ける。

 アレックスがトランターを出発する数時間前のことだった。
 呼び出されてアレックスの元を訪れたスザンナ。
「君に極秘の任務を与える」
「はい!!」
「私は、インビンシブルで帝国に出発する」
「サラマンダーではないのですか?」
「そうだ。私が以前に、帝国からアルビエール侯国へ向かう時に、海賊艦隊に襲われたこ
とがある」
「すると今回も海賊が?」
「それだよ。しかし、サラマンダー艦隊が連れ添っていれば、海賊は現れないだろう。わ
ざと防御を手薄にして見せることで、敵さんをおびき寄せることができるというものだ」
「内通者がいると?」
「おそらく、ジュリエッタ艦隊の中に紛れ込ませているだろう。そして、逐一艦隊の位置
座標を知らせる発信機かなんかを持っているはずだ。宇宙は広すぎる、予定進行ルートが
判明していても、それだけでは遭遇することは不可能だ」
「なるほど」
「それで、サラマンダーで後ろからサポートしてくれ」
「わかりました」
「まず最初に、P-300VXで通信傍受して、内通者のいる艦を特定して、インビンシ
ルの私に報告してくれ」
 さらに、綿密な作戦が伝達される。


 サラマンダー艦橋の正面スクリーンを見つめているスザンナ。
 そのはるか先には、アレックスの乗るインビンシルがいる。
 自ら囮となって、仇なす見えない敵をおびき出す計画。
 そして、その掃討のために、サラマンダー艦隊を預けてくれた。
 責任重大であるが、その絶大なる信頼に応えようと誓うスザンナだった。
「VXより入電。前方二時の方向に感あり!」
「識別信号は出していますか?」
「出しておりません。帝国及び共和国同盟の味方信号なし!」
「どうやら、敵と見てよいですね。全艦戦闘配備をしておきましょう。提督の合図次第で
す」

「それにしても、こうやって秘密裏に行動するってのはいかがなものでしょう?」
「提督は、これまで二回も海賊に襲われていますからね」
「帝国首都星アルデラーンとアルビエール侯国との往来でですね」
「そうです。今回の道行きにも、提督いえ、皇太子を亡き者にしようと企む摂政派の一派
が蠢いている可能性大です」
「大艦隊で移動していればともかく、少部隊ならば好機とするでしょうね」


「もう一度確認しておきます。敵の旗艦もしくは指揮艦は撃沈させずに、航行不能にして
鹵獲して下さい。指揮官を捕虜にして、黒幕を白状させるのです」
「接近接弦装備の確認」
「白兵準備!」


ポチッとよろしく!

11

2020年10月31日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 VI


第九章 共和国と帝国

VI

 

 銀河帝国皇太子として、やるべきことが山積みのアレックス。
 ジュリエッタ皇女の勧めもあって、ひとまず帝国に戻ることにした。
 トランターの事は、ルーミス・コール大佐に任せることにしたのである。

 

 トランター空港の高官専用発着場に、ジュリエッタ第三皇女専用の連絡艇が駐機してい
る。
 紫紺の絨毯が敷かれている上をアレックスが、その後ろに控えるようにジュリエッタと
マーガレットが歩みゆく。
 その両側に並ぶアレックスの配下の者と、銀河帝国大使以下の職員たち。
 アレックスが、それらの人々に一言二言話しかけながら、タラップに近づいてゆく。
 最前列に並んでいたスザンナ・ベンソンに話しかける。
「済まないが予定通りよろしく頼む」
「はい。指図通りに」
 思惑ぶりな挨拶を交わした後、連絡艇のタラップを上がる。
 やがて勇壮と空へと舞い上がり、宇宙の彼方へと消え去った。

 

 見送りを終えたスザンナは、踵を返してサラマンダー用連絡艇へと歩いていった。
「出航準備完了しております」
 タラップ入り口で迎えていた副長が報告する。
「よろしい。直ちにタルシエン要塞に向けて出発する」
「はっ!タルシエン要塞ですね」
 指令を復唱するも、意味ありげに口元が綻(ほころ)んでいた。

 

 

 帝国首都星アルデラーンへ向かう帝国艦隊。
 とはいっても、ジュリエッタ坐乗の巡洋戦艦インビンシブル、マーガレット坐乗の航空
母艦アーク・ロイヤルを含む総勢200隻ばかりの艦数である。
 遠征艦隊であるがために、いつまでもトランター周辺に留まっていては、食料をはじめ
として駐留経費が莫大になるからである。
 トランターの解放は成功したし、地方では自治領主達の簒奪も起こっている。
 がために、必要最低限の艦艇を残して、帝国へ帰還させていたのである。

 

 アレックスはインビンシブル艦橋の貴賓席に座っていた。
 ジュリエッタ第三皇女は、その席の側に控えて立っていた。反対側にはパトリシアが。
 銀河帝国の権威第二位である皇太子、皇帝亡き今はアレックスが実質上の最高権威者で
あることには間違いがない。
 上位であるアレックスに席を譲るのは当然であろう。
「定時報告です。只今トランターとアルデラーンとの丁度中間点に到達しました。
「よろしい。そのまま巡行せよ」
 ジュリエッタが応える。

 

「そろそろかな……」
 と呟いたかと思うと、通信士が報告した。
「共和国から連絡が入りました」
「分かった。こっちの手元に回してくれ」
 手元の通信端末の送受話器を取って会話する。
「ふむ……。分かった、そのままの態勢を続けて、連絡あり次第いつでも行動できるよう
にしておいてくれ」
 というと、送受話器を置いて通信を終了した。

 

「今の通信は?」
 ジュリエッタが尋ねるが、
「なあに定時報告通信だよ」
 と言葉を濁した。
「この辺りは、連邦軍の残党がまだ残っているはずだ。警戒は怠るなよ」
「御意にございます。索敵機など、十分すぎるくらいに配置しております」
「それなら結構」
 ややあって、通信士が緊張した声で報告する。
「索敵機より入電。前方二時の方向に感あり!」
「識別信号は出しているか?」
 ホレーショ・ネルソン提督が確認する。
「出しておりません。帝国及び共和国同盟の味方信号なし!」
「どうやら、敵と見てよいな。全艦戦闘配備!」
 ネルソン提督がジュリエッタをチラリと見て下令する。
 提督の権限は戦闘準備までは自分の範囲内にあるが、戦闘開始の命令権限はジュリエッ
タにある。

 

「さておき……。今回の帰還ルートは帝国には?」
「知らせております。中立地帯の手前で、護送艦隊がお迎えに来る手はずになっておりま
す」
「やはりね」
「内通者……ですか?」
「どうやら帝国には、私に生きていてもらっては困る連中がいるようからね」
 摂政派……。
 言葉には出さなかったが、艦橋内にいた者の多くが思い当たることだった。
 二度あることは三度ある。

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2020年10月24日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 V

第九章 共和国と帝国

 共和国軍の規定により中将への昇進を果たしたアレックス。
 銀河帝国への帰国を前に、共和国同盟軍の組織編制の大枠を発表した。

「それでは、新人事を発表する。名前を呼ばれた者は前に出てきてパトリシアから任官状
を受け取り給え」

「フランク・ガードナー。貴官を共和国同盟暫定政権軍令部総長及び絶対防衛圏守備艦隊
司令官に任じ、残存艦隊を適時再編成して全軍を統制させる。中将に任命する」
「ありがとうございます」
 と言ってウインクしてから、パトリシアから任官状を受け取って、元の席に戻る。

「ゴードン・オニール」
「はっ!」
 すくっと席を立って、アレックスの前に出る。
「ゴードン。貴官をタルシエン要塞駐留艦隊司令長官に任命し、少将の階級を与える。直
下の独立艦隊を新生第一艦隊として再編成させ配下におく。なお、銀河帝国客員提督とし
て同等の地位と待遇を与える」

 銀河帝国客員提督の地位と待遇には、帝国と同盟を行き来できる自由と、帝国艦隊を動
員できる資格を与えられるということである。

「ガデラ・カインズ」
「はっ」
「カインズ。貴官をアル・サフリエニ方面軍最高司令官に任じ、少将の階級を与える。カ
ラカス基地に第五艦隊、クリーグ基地に第八艦隊、シャイニング基地に第十一艦隊、以上
の三個艦隊を配下に治め、旗艦艦隊として直下の独立艦隊を正式に新生第二艦隊として発
足させる。またゴードンと同様に、銀河帝国客員提督の地位と待遇も与える」
「ガデラ・カインズ、謹んでお受けいたします」

 アレックスの配下となって以来、常にゴードンに先んじられ悔しい思いをしてきたカイ
ンズであるが、同時に少将となりほぼ同等の地位を与えられたのである。
 それを聞いて参謀のパティー・クレイダー少佐が小躍りして喜んだのは言うまでもない。
ゴードンの参謀である同僚のシェリー・バウマン少佐との出世競争がからんでいたからで
もある。彼女もまたカインズと同じ思いをしていたのである。

「リデル・マーカー」
「はっ」
「貴官には、絶対防衛圏守備艦隊艦政本部長としてその内の三分の一を統制していただき
たい。階級は少将です」
「かしこまりました」
 フランク・ガードナーの片腕であるリデル・マーカー准将も順当に昇進を果たした。

「最後に、パトリシアには連合軍統合作戦本部長の任についてもらう。准将として作戦面
での活躍を期待したい」

「ほー」
 という感嘆の声が一斉に漏れた。
 女性将軍がついに誕生したからである。


 新生共和国同盟軍として、今度の人事によりアレックスを筆頭にして、中将二名・少将
三名・准将七名の提督が元解放軍から、順当におさまったのである。
 しかし提督全員が任意退役してしまった旧総督同盟軍百万隻が再編成を待っており、少
なくとも少将三名・准将十四名が空位という勘定となっていた。
 功績点において、准将への昇進点に達している大佐達は、もちろん自分がいずれ艦隊司
令官に任命されているものと信じているはずだった。


 少将昇進点に達しているオーギュスト・チェスター准将だけは、将官で定年まで五年以
内の者は昇進から除外されるという定年期限により現役昇進からはずされて、退役後に名
誉少将を授けられることになった。
「申し訳ありません。出来ればあなたには、もっと働いていただきたかったのですが……
規則には従わなければなりません」
 アレックスは恐縮して、謝った。
「いえ。私は、提督の下で働けた数年間は、武人として誇りに思います。ありがとうござ
いました」
「といっても定年までまだ三年あります。後進の育成も大切な役目です。残りの時間を有
意義に使ってください」
 軍人が出世するには、実力以上に運が伴うことも非常に多い。武勲を独り占めするよう
な上官や、気に入った部下にだけ重要な職務を与えて、気に入らない部下には閑職しか与
えないといった司令官の下にいては、永遠に出世できないことになる。オーギュストも悲
運な武官といえるであろう。
 アレックスが准将となり、トライトンの後を継いで第十七艦隊司令官になった時、軍人
生活の最後の五年間で、アレックスという最上の上官を得て、ついに花開かせて素晴らし
い功績を残し、惜しまれて去っていこうとする。


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