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2024年9月13日 (金)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国叛乱 Ⅶ

 神聖銀河帝国母星アルデラーンの衛星軌道上にある宇宙ステーション。
 その展望ルームに大演習観艦式用の特設会場が増設されている。
 壇上に立つのは、神聖銀河帝国皇帝ロベール三世。
 その両側に、ロベスピエール公爵と摂政エリザベス皇女の姿がある。
 後方には、第一艦隊以下の指揮官提督が並んでいる。
 彼らの目前を、各艦隊から選び抜かれた精鋭部隊が、整然と隊列を組んで進んでゆく。
 二チームに分かれて両側から進軍し、すれ違った後に反転して攻撃開始という内容だった。
 展望ルームの前を艦艇が通過する度に、特設スクリーン上に艦橋内の映像が流され、艦長が敬礼していく。展望ルーム後方の将軍達も敬礼している。

 第一艦隊旗艦エリザベス号は、第一皇女の名を冠してはいるが、実質的にはロベスピエール公爵の息が掛かっている提督が乗艦している。
 フランシス・ドレーク提督。
 戦闘経験の少ない帝国軍にあって、唯一と言ってもよいくらい戦闘経験豊富な逸材だ。
 彼は海賊として帝国内を荒らしまわった経歴がある。
 ある時、彼の標的として狙われたのが、ロベスピエール公爵の奴隷貿易船だった。
 奴隷密売買がために詳細は闇に埋もれて公表されていない。
 あくまで商人たちの噂話でしかないが、彼が貿易船に勇躍飛びついたところが、敵は護衛船団を隠し持っていて、手痛い反撃を喰らって航行不能となり、彼は拘束されてしまったらしい。
 公爵の前に突き出されたものの、その気っ風に惚れた公爵が自分の配下にした。
 奴隷狩りの私掠船(しりゃくせん)の艦長に取り立てられ、摂政派VS皇太子派分断騒動時に第一艦隊の提督に推挙された。

 艦艇のすれ違いが終わり、反転しはじめる。
 態勢を立て直して、戦闘準備にかかる。

 最初から向き合ってすぐさま撃ち合ってもよいのだろうが、戦意高揚と冷静沈着とを両立させるにはこの方が良いとされていた。
 すれ違ううちに精神を安定させる時間を与えるのである。

 公爵がロベール皇帝に耳打ちしたかと思うと、やおら右手を上げる皇帝。
 その手を降ろした時が、戦闘開始の合図のようである。
 振り下ろされる小さな手。

 砲弾飛び交う模擬戦闘の開始だった。

2024年3月27日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国叛乱 V

 アルビエール侯国のアレックスの元に、ウィンディーネ艦隊がタルシエン要塞を
出立したとの報告が届いた。
「そうか、配下の将兵達にも受け入れられたということだな。まずは一安心だ」
「こちらに到着するのは、五日後になるもよう」
 パトリシアが報告する。
「それにしても……」
 と、言いかけて言葉を一旦中断してから、
「なんでこうも反乱が続いて起きるのかな。連邦も共和国も、そして今度は銀河帝
国だ」
「その銀河帝国は、数百年前にも二度反乱が起きてますけどね。これで三度目にな
ります」
 二度の反乱とは、トリスタニア共和国同盟の独立戦争、その後に起きたバーナー
ド星系連邦の軍事クーデターである。
「皇太子殿下、よろしいですか?」
 アルビエール侯国の宮殿の一室に執務室を与えられたアレックスの元に、ハロル
ド侯爵が訪れた。
「摂政派率いる第一艦隊以下の艦隊が、近々軍事訓練を始めるそうです」
「ほほう。今更ですか?」
「一朝一夕で、艦隊をまとめ上げられるものではないのでしょうが。やらないより
はましということでしょうかね」
「これまで訓練などやったことはないらしいし、まともな訓練マニュアル作成でき
る士官がいるのかも怪しいですな」
「これまで、ぬるま湯に浸かっていましたからね」
「共和国同盟軍絶対防衛艦隊が、一瞬で簡単に滅んだのもそこにあるのです」
「これからどうなされますか?」
「そうですね。いつまでも分裂状態にしておくわけにもいかないでしょう。混乱に
乗じて連邦が、諜報員や破壊工作員を送り込んでくる可能性もあります」
「破壊工作ですか?」
 実際問題としても、ウィディーネ艦隊反乱の時のように、政情不安などによって
国民が疑心暗鬼になっている状態になれば、簡単に扇動されることもあるのだ。
「何にしても、ウィンディーネ艦隊が到着してからです」
「ウィンディーネ艦隊ですか……。ゴードン・オニール少将でしたよね。釈放し艦
隊をまかせて良かったのでしょうか?」
「また反乱を起こすと思いますか?」
「い、いえ。そこまでは……」
 一度でも裏切った者は、何度でも裏切りを繰り返し、敵側に寝返るということも
ある。
 侯爵が心配するのも無理からぬことであろう。
 かつてアレクサンダー王子行方不明が原因で国内分裂を生じ、皇太子即位となっ
て安寧していたら、今また反乱が起きた。
 主義主張というものはなかなか覆されにくいものなのだから。
 特にそれが銀河帝国という国家そのものならばなおさらである。

2023年11月24日 (金)

銀河戦記/鳴動編 第十一章 帝国反乱 Ⅳ

 艦橋に戻ってきたゴードン。
 軍医が額の傷の手当てをしている。
「そうか……。そういうことだったのか」
 副官のシェリー・バウマン大尉からウィンディーネ Ⅱ世号の成り立ちを聞いたゴードン。
 シェリーだって、拘禁を解かれて説明を受けたばかりなのだから。
「ご指示を」
 シェリーが促した。
 すでに出航準備は完了しているので、ゴードンの指令待ちとなっていた。
 軽く息を整えてから下令する。
「出航する。微速前進!」
 すかさずシェリーが復唱する。
「出航! 微速前進せよ」
 オペレーターが応える。
「微速前進!」
 ゆっくりと船台を離れて動き出すウィンディーネ。
「要塞ゲートオープン!」
「ゲート通過中!」
「前方オールグリーンです」
 タルシエン要塞をゆっくりと離れてゆく。
 その進路を囲い込むように、ウィンディーネ艦隊の艦艇が浮かんでいた。
「入電しました」
「繋げ!」
 正面スクリーンに、ゴードン配下の将兵達が映りだされた。
「閣下! どこへどもお供します」
 敬礼しながら意思表示する。
「また、一緒にやらせてください」
「解放されると信じていました」
 ゴードンのウィンディーネ艦隊への復帰を、口々に喜んでいた。
 共和国同盟に弓引くこととなっても、ゴードンにつき従った信頼厚き部下達だった。
 ランドール戦で、愛着のある指揮艦を大破させられて、乗り換えることになった者もいるが、それはせんないこと、提督には恨みを持ってはいない。
「ディープス・ロイド大佐は? 艦隊を預かっていたと聞いているが」
「はい。大佐殿は、タルシエン要塞の駐留艦隊の副司令官に戻りました」
「そうか……」
 アレックスの意向次第では、ウィンディーネ艦隊が彼の指揮下に入る可能性もあった。
 それにしても不可解だ。
 銀河帝国アルビエール侯国へ向かうことは決まっていることなのに、ウィンディーネ艦隊を帝国へ先着させなかったのは何故か?
 ロイド大佐がいたのだからできたはずである。
 ゴードンが釈放されるのを待っていたのか?
 しばし感傷に浸るゴードンだった。
「艦隊の足並み、揃いました」
「よし! 全艦ワープ準備だ」
 ハッカーによって改竄(かいざん)されたタルシエン要塞のシステムの改修はまだ終わっていないので、ワープゲートの使用は不可能だった。よって、自力でワープするしかない。
「これより、リモコンコードを送信する。各艦は同調させよ」
 七万隻の艦隊が理路整然とワープ行動を起こすには、艦制システムに依存するしかない。
 スクリーン上に示された艦影が、赤から青へと次々と変化していく。
 すべての艦が青の表示に変わった時、
「全艦リモコンコード同調完了しました」
 オペレーターが報告する。
「全艦ワープせよ!」
 ゴードンの下令のもと、七万隻の艦隊がタルシエン要塞からワープした。

2023年10月22日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第十一章 帝国反乱 Ⅲ

第十一章 帝国反乱

 正面パネルスクリーンには、アレックス・ランドールが出ていた。
「やあ、驚いたかね?」
 スクリーン上のアレックスが語り掛ける。
「これは、どういうことですか?」
「簡単なことだよ。ウィンディーネ艦隊を指揮できるのは君しかいないからだよ」
「しかし、自分は……」
「いろいろと誤解はあったが、水に流そうじゃないか」
「誤解……で済まされるのですか?」
 反乱という言葉を使わないアレックス。
「そう、誤解だよ。それ以上でも以下でもない」
 それでも納得できないゴードンだった。
 本来なら免職の上、禁固刑が言い渡されてもいいくらいであるのだから。
「君に任務を与える」
 アレックスが姿勢を正して命令を下す。
「はっ!」
 直立不動になって命令を受ける体制を取るゴードン。
 両拳を握りしめて微かに震えている。
「ウィンディーネ艦隊を率いて、銀河帝国アルビエール侯国に来たまえ」
「了解しました!」
「事の詳細は、シェリーに聞いてくれ」
 通信が途絶えた。
「さあ、一刻も早く馳せ参じましょう。詳細は道々お話しします」
「ガードナー少将が出ておられます」
「繋いでくれ」
 映像がガードナーに変わった。
「アレックスは、君に捲土重来(けんどちょうらい)の機会を与えるつもりのよう
だな」
「ありがとうございます」
「まあ、頑張りたまえ」
 ガードナーは軽く微笑むと通信を切った。

「ちょっと考え事がある」
 といって、一時司令官室へと籠った。
 心配になって付いてくるシェリー。
「ちきしょう!」
 突然、扉を通して中から叫び声が聞こえた。
 そして何かを打ち付ける鈍い連続音。
 シェリーは感じていた。
 自虐行為で頭を壁にぶつけているのだと。
「閣下……」
 やがて音はしなくなり静かになった。

 しばらくして、ゴードンが額から血を流しながら出てくる。
「閣下!お手当を」
「構わん。私の判断で血を流した部下の傷を考えれば大したことじゃない」

2023年9月28日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第十一章 帝国反乱 Ⅱ

第十一章 帝国反乱
<hr>

 タルシエン要塞。
 監房の独居房に拘禁されているゴードン・オニール少将。
 その髭の伸び具合からして、かなりの日数を閉じ込められていたとみられる。
 その房に近づく足音があった。
 扉が開けられて、看守が入ってきた。
「オニール少将、出ろ!」
 監房内においては、階級は関係ないので、敬語は使われないのは当然。
「腕を出せ!」
 大人しく腕を出すと、カチャリと手錠を掛けた。
 逃亡されないための用心である。

 要塞中央コントロールセンターのフランク・ガードナー中将の前に連行される。
「オニール少将を連れて参りました」
「うむ。ご苦労だった、下がってよし!」
「はっ!」
 ゴードンを残して看守は下がった。
「どうやら元気なようだな」
「一応……ね」
 ぶっきらぼうに答えるゴードン。
「髭を剃ってきてくれないか。他人みたいで話しづらい」
 副官に合図を送る。
「こちらへどうぞ」
 手錠を外され洗面所に案内されて、髭剃りの道具を与えられる。
 髭を剃り、顔を洗って再びガードナーの所へ戻る。
「早速だが、見せたいものがある。来てくれないか」
 言うなり歩き出した。
 後を付いていくと、艦隊の駐留機場だった。
 修理や燃料補給、休息のための一時待機などの艦艇が立ち並んでいる。
 ガードナーの旗艦、戦艦フェニックスの雄姿もある。
 そこを通り越してさらに進む。
 やがて見えて来たのは、

 高速戦艦ハイドライド型改造Ⅱ式だった。

「こ、これは!」
 驚愕の表情を表すゴードン。
 何故なら、その艦体には水の精霊『ウィンディーネ』が描写されていたからだ。
 そして艦の搭乗口タラップ前には、副官のシェリー・バウマン大尉と配下の将兵
が立ち並んでいた。
「お待ちしておりました。閣下! 出航準備完了しております」
 一斉に踵を揃え敬礼をする。
『ランドール提督より通信が入っております。ウィンディーネ艦橋へお越しください』
 場内アナウンスが流れた。
「さあ、さあ。搭乗して下さい。提督をお待たせしては失礼ですよ」
 ゴードンの背中を押して、搭乗口へと案内するシェリー。
 搭乗係員に申告するゴードン。
「搭乗の許可願います」
「許可します。これをどうぞ」
 係員が手渡したのは、司令官用の徽章だった。
 徽章からは微弱電波が発信されており、胸に取り付けていれば、艦内を自由に行
き来きできるようになる。

 艦橋へとやってきた。
 オペレーター達が一斉に立ち上がって敬礼で迎える。
「お帰りなさいませ、閣下!」

2023年3月 7日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国内乱 Ⅰ

第十一章 帝国内乱

 ウェセックス公国のロベスピエール公爵率いる摂政派の貴族たちが反乱の狼煙を上げた!

 衝撃的なニュースが飛び込んできた。
 顔を見合わせるマーガレット皇女とジュリエッタ皇女だった。
 以前からきな臭い情勢だったのだが、共和国同盟内の反乱鎮圧に、アレクサンダー皇太子と両皇女が留守にしている間に、これを機会にと決起したのであろう。
「ハロルド侯爵は?」
「無事です」
 マーガレットが答える。
 ハロルド侯爵はアルビエール侯国領主であり、アレックスとマーガレットの叔父にあたる人物である。
「自治領艦隊百万隻と第二・第三の駐留艦隊総勢百五十万隻が守っています」
「うむ。摂政派も連邦もすぐには仕掛けてこれないな」
「しかし帝国本星は摂政派が押さえてしまいました」
「サセックス侯国のエルバート侯爵は、従来通り中立を保っているようです」
「国境を接するバーナード星系連邦に対する守りの方が重要だからな。内戦には参加しないのも当然だろう」
 連邦に対する守りであることを、摂政派も皇太子派も十分承知しているので、自派に取り込もうとはしない。
「帝国へ戻るぞ」
「御意にございます」

『内憂外患状態なのに、皇太子は何しているのだ?』
 と、思われないためにも、一刻も早い帰国が必要だった。

 アレックスは、ウィンディーネ艦隊をディープス・ロイド准将に預けて、急遽帝国へと向かった。

 押っ取り刀で、アルビエール侯国に戻ると、ハロルド侯爵が笑顔で出迎えた。
「おお、無事でしたか。心配していましたぞ」
「ご心配おかけしました」

 アレクサンダー皇太子を迎えての晩餐会が始まった。
 交わされる会話はもちろん摂政派の動向である。

 ロベスピエール公爵は、ジョージ親王の皇太子擁立が皇室議会で決定されていたことを根拠に、息子を帝位に就けると同時に皇太子派の貴族たちを次々と拘禁しはじめた。
 配偶者であるエリザベス第一皇女が摂政を務めていただけに、内政については正常に回っているように見えた。
 改めてジョージ新皇帝の戴冠式を執り行い、神聖銀河帝国の樹立を宣言したのだった。

「神聖銀河帝国ねえ……分裂も止むなしと考えたのだろうな」
「認めれば、バーナード星系連邦との分裂以来三度目となります」
 かつてのソートガイヤー大公が専制君主国家アルデラーン公国を起こし、孫のソートガイヤー四世によって全銀河を統一して以来、最初の分裂がトリスタニア共和国同盟の独立だった。そして二度目、軍事国家バーナード星系連邦が分離独立を果たした。
 神聖銀河帝国は防衛面から考えれば、侵略国家である連邦に対して、エセックス侯国及びアルビエール侯国が防壁となる位置にある。
 摂政派は、連邦のことは考慮に入れなくてもよいと考えているようだ。
 連邦の侵略を防ぐためにも、エセックス侯国自治領艦隊は動かせない。
 よって、摂政派と対峙できるのは、アルビエール侯国自治領艦隊だけとなる。

 摂政派の軍勢は、第二・三・六皇女艦隊を除く全軍三百万隻ほど。
 皇太子派の軍勢は、皇女艦隊百四十万隻とアルビエール侯国艦隊百万隻、合わせて二百四十万隻ほどである。
「数は多くても戦闘の経験のない艦隊では、正直相手にならないかと」
「そうやって油断していると痛い目を見るぞ。一頭の羊に率いられた百頭の狼の群は、一頭の狼に率いられた百頭の羊の群に敗れる、という諺がある」
「ナポレオンですね。でも、摂政派軍に狼に匹敵するような指導者がいるかが疑問ですが……」
「隠れた逸材はどこにでもいるよ。ただ、それを見出し活用できるかが問題なのだ」
「ニールセン中将のように、たとえ有能でも自分の意にならない士官を最前線送りするようでは駄目ということですね」
 チャールズ・ニールセン中将は、共和国同盟軍統合参謀本部議長であって、上位の大将が空席だったために軍最高司令官となっていた。
 赤色超巨星べラケルス宙域決戦において、三百万隻の艦隊とともに消え去った。

「殿下、お見せ致したいものがあります」
 ジュリエッタ皇女が話しかけてきた。
「見せたい? 何かね?」
「艦隊駐留基地格納庫にお越し願えませんか? ご覧になって頂きたいものがあります」
「分かった」
 ジュリエッタに案内されて、格納庫へと訪れたアレックス。
 そこで目に飛び込んできたのは、
「ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式六番艦です」
 見慣れた艦の雄姿だった。
「六番艦? 六番艦があったのか?」
「はい。廃艦が決まった折に、建造途中のこの艦を譲り受けたのです」
「五隻の他に、建造中か……」
「技術者にも来ていただいて、この艦を完成させました。この艦を、殿下に献上したくご案内した次第であります」
「この艦を私に?」
「ウィンディーネを失われた今、艦隊運用にも支障が出ておられましょう。その補充に最適かと」
「本当に良いのか?」
「もちろんでございます。この艦は相当なじゃじゃ馬だとお聞きします。殿下か配下の提督しか乗りこなせないでしょう」
「そうか……ありがたく頂戴しておくよ」




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2023年1月13日 (金)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅸ


第十章 反乱


 

「ウィンディーネ炎上を確認しました。どうやら航行不能に陥ったようです」
「ウィンディーネの乗員が次々と退艦していきます」
 爆発炎上するウィンディーネを見つめるアレックス。
 航行不能になったウィンディーネは、ゆっくりと漂流を始めた。
 総員退艦したのを確認すると、
「魚雷発射準備! サラマンダーに止め(とどめ)を刺す」
「サラマンダーを葬るのですか?」
「そうだ! 反乱軍の拠り所となっているウィンディーネを沈めれば、抵抗する気力もなくなるだろう」
 魚雷が発射される。
 心臓部に命中した魚雷によって、ウィンディーネは跡形もなく消滅した。

 

 こうして、ランドール艦隊の中でも、随一の戦績と功績を誇る名艦であった、ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式、旗艦ウィンディーネは宇宙から消えた。
「これまで我々の戦いを勝利に導いてくれたウィンディーネに敬礼!」
 アレックスは、粉々になった残骸に対して、自らも敬礼をしてみせる。
 その姿は全艦放送で流され、各艦では見習って敬礼をする士官達がいた。

 

「よし! 艦隊に戻る。全艦、現宙域を離脱せよ!」
 ヘルハウンド以下の小隊が、ワープして宙域から離脱した。

 

 アレックスの思惑通り、戦意を喪失した反乱軍は、白旗を揚げたのである。
 七万隻を誇る艦隊のすべてを指揮統制することのできる戦術コンピューターを搭載していた旗艦ウィンディーネなしでは、まともな艦隊運用はできないからだ。

 

 数日後、ゴードン・オニール准将がタルシエン要塞のアレックスの元へと出頭した。
「済まないが、拘禁させてもらうよ」
「自分はどんな処分でも受け入れるつもりだ。しかし、部下には情状酌量をお願いしたい」
「分かった。考慮する」
 拘束されて独居房へと連行されていった。

 

 艦橋内に寂しげな雰囲気が漂う。
 同志として生死を共にし、感動を共有していただけに、ゴードンの拘禁によって、士気の低下は否めないものとなっていた。
 情状酌量で反逆罪は免れても、ウィンディーネ艦隊の将兵達は無気力となっていた。
「いかんなあ……」
 この状態で、連邦軍が攻め込んできたりすれば苦戦は免れず、最悪カラカス基地を奪還され、さらにはアルサフリエニ地方も陥落するかもしれない。
「連邦の革命後の組織再編が長引くことを祈るしかないな」

 

第十章 了

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2022年7月11日 (月)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅷ

第十章 反乱

 ヘルハウンド艦橋。
「集中して機関部を狙え! 動きを止めるのだ! 撃沈してはならない」
 アレックスが、次々と指令を出している。
「隊長機以外は相手にするな!」
 同じ共和国同盟軍であり、元はアレックスの子飼いともいうべき部下だった者た
ちだ。
 極力被害の少なくなるように、撃沈させずに行動力だけを削ぎ落す戦法を繰り広
げていた。
 たとえ戦艦が何万隻あろうとも、指揮統制が乱れていては、その戦力を十分に発
揮できない。
 隊長機だけを狙い撃ちにして、艦隊の混乱を誘い出す戦法である。
 ちょこまかと動き回る小隊を、撃ち落とすのは困難だった。
 下手に迎撃しようとすると、同士討ちになってしまう。
 元祖伝家の宝刀ランドール戦法の真骨頂であった。
 なすがままのウィンディーネ艦隊であった。

 ウィンディーネ艦内では、あちらこちらで火災が発生していた。
 その原因は、各ブロック隔壁扉の閉め忘れだった。戦闘中の基本の基本が守られ
ていなかった。
 戦えば連戦連勝で気が緩んでいたとしか言えない。
 日頃の防火訓練などが疎かになっていたのだ。
 一カ所で火の手が上がったのが、次々と別の区画へと飛び火し、連鎖的に火災が
広がったのである。
「だめです! 消火が間に合いません!」
 そしてついに、火薬庫に燃え移った。
 激しく爆発を繰り返すウィンディーネ。
 苦々しく発令するゴードン。
「総員退艦せよ!」
 もはや、ウィンディーネを救う手立てはなかった。
 次々と退艦する乗員達。
 その姿を艦橋から見つめるゴードン。
「乗員の退艦はほぼ終了しました。閣下も退艦してください」
 シェリー・バウマン大尉が進言するが、
「いや、俺はここにいるよ」
 と退艦拒否の姿勢を見せる。
「何をおっしゃいますか! 閣下がいなければ、これまで従ってきた将兵達はどう
なると思いますか?」
 反乱を起こした将兵には、当然審問委員会に掛けられることとなる。
「責任を放棄なさるとおっしゃるのですか? 閣下には生き残って、その責任をと
る義務があります」
「責任と義務か……」
「ランドール提督は聡明なお方です。どんな理由であれ、部下を見放したりはしな
いでしょう。ここは退艦して、捲土重来(けんどちょうらい)をおはかりください」
「捲土重来か……」
「どうしても残られるとおっしゃるなら、私もご一緒します」
「何を言うのか。君が責任を取る必要はない」
「いいえ!」
 キッと睨め付けるようにゴードンを凝視するシェリーだった。
 このまま梃子でも動かぬだろうと、困ったゴードンの方が折れた。
「分かったよ。退艦しよう」
「では、こちらに。艀を用意してあります」
 シェリーの説得により、ゴードンも退艦して、無人となったウィンディーネ。
 ついにその最期を迎えることとなった。
 悲鳴を上げるように爆発炎上する。




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2022年2月19日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅶ

第十章 反乱

 ウィンディーネ艦橋。
 正面スクリーンには、敵たるサラマンダー艦隊及び帝国艦隊の配置が示されている。
「敵艦隊の総数は、およそ一万二千隻!」
 レーダー手が報告する。
「どうやら退く気配はありませんね」
 副官のシェリー・バウマン大尉が意外な表情をしている。
「これだけの艦数差をもってしても前進してくるということは、何か策を練ってい
るはずだ」
「ランドール戦法ですかね」
「それはこちら側も本望だ。どちらが上手か見せつけてやろう」
 その自信はどこから来ているのだろうか?
 これまでの戦いで、先鋒として敵陣に突撃して主に戦闘の要として戦ってきた歴
史がある。
 一方のアレックスは、旗艦サラマンダーにいて後陣にいることが多かった。
 実際の戦歴では、ゴードンのウィンディーネの方がはるかに功績を立てていたの
ある。
 一対一の艦と艦の戦いとなれば、アレックスのサラマンダーに勝ち目はないだろう。

「敵側より入電!ランドール提督が出ておられます」
「スクリーンに出せ!」
 目の前に、敵側となったアレックスが映し出された。
「こうなってしまえば、双方とも言い訳は無用だろうな」
「その通り」
「ならば手加減なしで戦おうじゃないか」
「望むところだ」
「それでは」
 アレックスが敬礼するのを見て、ゴードンも敬礼を返す。
 そして通信が途切れて、星の海の映像に変わった。
 アレックスもゴードンも、お互いの性格はよく分かっていた。

「全艦戦闘配備!」
 ゴードンが指令を下す。
 ついにかつての旧友同士が戦いの火蓋を切ることになったのだ。
「全艦戦闘配備!」
 副官が復唱した時だった。
 突然、艦が激しく振動した。
「何だ?今のは?」
「攻撃です!」
「艦尾損傷!」
「報告しろ!」
「只今、損傷状態を確認中です!」
 やがて報告が返ってくる。

 あたふたとしている艦橋の正面スクリーンに、見慣れた艦影が映り込んだ。
「あ、あれは!」
 副官のバネッサが指さして叫んだ。
 その艦は、艦体に火の精霊「サラマンダー」を配していた。
 火の精霊を描いているのは、旗艦サラマンダーの他には、隠れたもう一つの旗艦
である巡航艦『ヘルハウンド』しかない。
 ランドール艦隊が、別名としての『サラマンダー艦隊』を称することとなった由
来である、暗号名「サラマンダー」を冠していた。
 ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式が、アレックスの乗艦となり旗艦となる前の旗
艦であり、今でも旗艦としての登録は抹消されていない。




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2022年1月15日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅵ

第十章 反乱

 漆黒の宇宙を進む艦隊。
 サラマンダーを中心に、左翼にマーガレット皇女艦隊、右翼にジュリエッタ皇女
艦隊、合わせて一万二千隻。
「まもなく、アルサフリエニに到着します」
 艦橋に緊張が走る。
 いつどこからゴードンのウィンディーネ艦隊が襲い掛かるかも知れないからである。
 すでにゴードンは敵とみなして行動するしかない。

 やがて前方に、多数の艦隊が出現した。
「お出迎えだ」
 アレックスがぼそりと呟いた。
「ウィンディーネ艦隊のようです」
 パトリシアが応える。
「正々堂々と真正面決戦を挑んでくるようだな」
「相手は、持てるすべての七万隻を投入してきたもようです」
「対してこちら側は、旗艦艦隊二千隻と帝国艦隊一万隻か」
「数で圧倒して戦意を喪失させようとしているのでしょう」
「正直ゴードンも、できれば戦いたくないと思っているはずさ。ま、尻尾を巻いて
逃げかえれと言っているのだろうな」
「どうなされますか?」
「逃げかえるわけにもいくまい。巡航艦ヘルハウンドを呼んでくれ」
「ヘルハウンド!?」
 その艦は、ミッドウェイ海戦のおり、アレックス指揮の下索敵に出ている最中に、
敵の空母艦隊と遭遇し、これを完膚なきまでに叩き潰して撤退に至らせた名艦中の
名艦である。
 幾多の戦いを潜り抜けて、今日まで生き残ってきた『サラマンダー』という暗号
でも呼ばれた通り、今の今でも旗艦登録されている。
 その艦体には、火の精霊サラマンダーの絵が施されている。
「まともに戦っては全滅するしかない。ここは自分の得意戦法しかない」
「まさか、アレをおやりになさるのですか?」
「他にないだろう。マーガレットとジュリエッタを呼んでくれ。作戦を伝える」

 それから数時間後。
 ヘルハウンドに乗艦するアレックスを歓待する艦橋オペレーター達。
「提督!お久しぶりです」
 ヘルハウンドに乗るのは、惑星ミストでの戦闘を終えて帰還する時に乗艦して以
来のことである。
「また、おせわになるよ」
 艦長のトーマス・マイズナー少佐に語り掛ける。
「歓迎します」
 といいながら指揮官席を譲るマイズナー。
 少佐なら一個部隊を率いてもよさそうなのであるが、マイズナーはヘルハウンド
の艦長という名誉職を辞したくなかったのである。
 何せその艦体には、英雄の象徴である火の精霊『サラマンダー』が描かれている
のだから。サラマンダー艦隊という呼称の元祖だった。
 アレックスは、その思いを酌んで艦長職を続けさせている。
 本来の自分の艦長席に戻る。
 この席も最初は、スザンナ・ベンソン准尉が座っていた席でもある。
 スザンナが少佐となり、アレックスの招聘を受けて旗艦部隊司令に叙されて、そ
の後釜に入って以来ずっとこの席を守り続けていた。
「各艦長が出ております」
 正面のパネルスクリーンに、分割されて各艦長の映像が出ていた。
「再び一緒に戦えるのを光栄に思います」
「提督のご指示に従います」
「オニール提督とて敵となれば戦います」
 などと戦いの前の思いを語っていた。
「これより恒例のドッグファイトをやるぞ。みんな気合は十分か?」
 艦橋内に響き渡るようにアレックスが大声を上げる。
「おお!」
「いつでもどうぞ!」
 同様にオペレーター達も、片手を上に挙げて大声で返す。
 闘志は十分だった。
「よろしい!微速前進!」
 巡航艦ヘルハウンドと十二隻の艦艇が密かに艦隊を離れてゆく。
 ミッドウェイ海戦に参加した精鋭部隊である。


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