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2018年12月 9日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第一章 II

 機動戦艦ミネルバ 第一章

II トランター上陸  その数時間後。  連邦軍艦隊がL5地点に到着した。  それまで順調に進んできた艦隊が突然激しいショックを受け、停止や大幅な減速に 見舞われていた。  先行する一番艦の艦長。 「どうした?」 「判りません。何か艦の外に液体状のものがあります。それで進行を妨げられている ようです」 「調べろ!」 「調査中です」  やがて報告がもたらされる。 「付近一帯にあるのは、液体ヘリウム4です。宇宙空間の極低温による影響下で超流 動状態となっております」 「超流動のヘリウム4だと?」 「超流動により艦がいわばスリップに近い状態に陥っておりまして、エンジンを噴か せてもヘリウムのみが後方に跳ね飛ばされるだけで、艦自体は全然前に進まないので す」 「ちっ! メイスン司令に連絡して後続の艦隊をL5から迂回させろ」 「了解。メイスン司令に連絡。後続部隊を迂回させます」 「しかしこんなことをしても無駄なだけでしょうにね」 「いや、重力の強い場所での転回は燃料を余計に消費するだけでなく、時間もかなり 遅れることになる。敵の目的はそこにあるのだろう」 「時間稼ぎですか?」 「そうだ……」  ニュートリアル艦橋。 「どうやらうまくいったようですね。敵艦隊がコースを変更しました」 「これでおよそ一時間は余計に稼げたでしょう。何とか地上に輸送艦を降ろすことが できます」 「しかし超伝導に利用するヘリウムをほとんど捨ててしまいました。後で問題が起き なければ良いのですが……」 「まあ、何とかなるでしょう。地上でも生産できないわけでもなし、それよりも最新 型のモビルスーツを降ろせることの方が大切です」 「そうでした」  やがてトランターの衛星軌道宇宙ステーションが近づいてきた。  輸送船団は軍港に入っていくが、護送船団は外で待機すべき停止した。  ニュートリアルから一隻の艀が発進して、ステーションのドック内に入ってゆく。  ステーション内軍港の桟橋。  ステーションに降り立ったフランソワと、艀の搭乗口に立ったままの副官。 「我々の護送任務はここまでです。これより帰還します」 「ありがとう、途中には敵艦隊がうようよしているはずです。気をつけてください」 「なあに、逃げるのは第十七艦隊の得意技ですから」 「うふふ。そうでしたわね」 「それでは、ご武運を」  敬礼する副官。  フランソワも敬礼を返しながら、 「提督や、総参謀長によろしくね」 「はい。かしこまりました」  やがて艀が桟橋を離れていく。  一人残されたフランソワは、本星上陸手続きのために、入国管理所へと歩き出した。 「結構です。ようこそ、トランターへ。といいたいのですが、敵艦隊が迫っています。 上陸はお早めにお願いします」 「わかりました」  手続きはすぐに済んで、上陸用のシャトルバスが発着するプラットホームへと向か った。  が、すぐに宇宙ステーション内に大きな衝撃が起こった。足をすくわれるように転 んでしまうフランソワ。 「これは、ミサイル攻撃?」  次々と衝撃の波は伝わってくる。 「もうここまで来たのね。はやくシャトルに乗らないと……」  ミサイル攻撃の衝撃に何度も、身体をふら付かせながらプラットホームへと急ぐ。  だがタッチの差でシャトルが発進してしまった。それ以外にはシャトルは見当たら なかった。おそらく敵艦隊の接近を知って、出航を早めてしまったのであろう。 「あ……。行っちゃった……。参ったな、ミネルバに到着しないうちに、早くも任務 失敗か」  地上に降りる手段は、もうないだろう。  諦めたその時だった。 「フランソワ・クレール大尉でいらっしゃいますか?」 「そうですけど……」 「レイチェル・ウィング大佐の命令でお迎えにあがりました。スコット・リンドバー グ少尉です」 「ウィング大佐の?」  その時、大きな衝撃が宇宙ステーション全体を襲った。 「今の衝撃は、大きかったわね。主要な施設が破壊されたかしら」 「早くこちらへ、専用のシャトルを待たせております。走りますよ」 「わかりました」  少尉について駆け出すフランソワ。  やがて桟橋の一画に小型のシャトルが泊まっていた。  さらに駆け足を早めて、そのシャトルに急ぐ二人。 「連邦軍がすぐそこまで迫っています。直ちに出発します」  パイロットらしき軍人が出迎えていた。 「よろしく!」  挨拶もそこそこに乗船すると、すぐにシャトルは発進した。  宇宙ステーションを飛び出し、地上へと降下してゆく。  振り向けば至るところで爆発炎上している宇宙ステーションがあった。そして遠く に迫り来る敵艦隊の一群が目に入る。 「間一髪ね」  ほっと胸を撫で下ろすフランソワだった。 「安心は出来ません。すでに敵艦隊の一部が降下作戦に入っています」 「ミネルバはどうなっていますか?」 「まだ、大丈夫だとは思いますが、油断はなりません。いつ攻撃を受けるやも知れま せん」 「とにかく急いでください」 「判ってます」  上空から間断なく軌道爆雷が飛来してくるその中を、右に左にと避けながらシャト ルが飛行している。 「大丈夫ですか?」 「これくらいなら平気ですよ。軌道爆雷は地上基地攻撃が目的ですから、着発型の信 管使ってますので多少接触しても大丈夫。問題は地上基地発射の迎撃ミサイルですね、 近接信管だから二十メートル前後に近づいただけでお陀仏です。味方に撃ち落される のは御免ですよね。まあ、まかせてください」 「よろしくお願いします」 「しかし、大尉殿もついてませんね。着任そうそう、この有り様ですからね」 「ミネルバも、攻撃を受けてるかしら」 「第一次攻撃ですからね、対空兵器が設置されている軍事基地に限定されているでし ょう。ミネルバは基地を離れていますから難を逃れているはずです」 「揚陸艦が降下してきて掃討作戦が始まるまでには何とか……」
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2018年12月 6日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 VIII

第二十六章 帝国遠征

               VIII  アレックス率いる旗艦艦隊にして銀河帝国派遣隊が続々と発進を始めていた。 「それでは先輩。後をよろしくお願いします」 「わかった」  要塞ドッグベイに停泊するサラマンダーに架けられたタラップの前で、しばしの別 れの挨拶を取り交わしているアレックスとフランク・ガードナー提督がいた。 「以前にもお話ししましたとおり、要塞を死守する必要はありません。時と場合によ っては潔く放棄してしまうことも肝要ですから。要塞よりも一人でも多くの兵士や士 官の命を大切にしてください。要塞は取り戻そうと思えばいつでも可能ですが、死ん でしまった人間を生き返らせることはできません」 「わかっている。常に臆病に極力逃げ回り、そして相手が油断したところを一気反転 して襲いかかり寝首を取る。それが君の信条だったな」 「その通りです。無駄な戦いで死傷者を出したくありませんから」 「それにしても要塞をいつでも取り戻せるとはたいした自信だな」 「ちょっとした策がありましてね」 「その策とやらを聞いてみたいがどうせ話してくれんのだろう」 「敵をだますにはまず味方からといいますからね」  スザンナ・ベンソンが歩み寄り、うやうやしく敬礼して報告する。 「提督。全艦発進準備完了しました」 「判った」  スザンナは旗艦艦隊司令として同行する。  その幸運を素直に感謝していた。  どこまでも一緒について行くという信念がもたらしたのかも知れない。 「それでは先輩、行ってきます」  ガードナー提督に敬礼するアレックス。 「まあ、いいさ。とにかく要塞のことはまかしておけ。援軍が欲しければ、連絡ありしだいどこへでも持 っていってやる」 「よろしくお願いします、では」 「ふむ、気をつけてな」  アレックスを乗せた旗艦サラマンダーがゆっくりと要塞を離れていく。  整然と隊列を組んでいる艦隊の先頭に出るサラマンダー。  従うのは、スザンナ・ベンソン少佐率いる精鋭の旗艦艦隊二千隻である。 「全艦発進せよ。行き先は銀河帝国本星アルデラーン」 「全艦発進!」 「座標軸設定完了。銀河帝国本星アルデラーン」  全艦ゆっくりと動きだす。  その光景を中央制御室から見ているガードナー提督。 「生きて帰ってこいよ」 「閣下、ランドール提督はこの要塞を手放しても再攻略できるとおっしゃっておられ ましたが、そんなことが本当に可能なのでしょうか」  要塞防御副司令官を兼任する第八艦隊司令のリデル・マーカー准将が質問する。 「さあな。残されたものを安心させるための、ただのはったりかも知れんし、あるい は俺達の想像すらつかない方法があるのかもな。要塞に関してはフリード・ケイスン 中佐が徹底的に、その構造を解析しているだろうからな。どこかに弱点が発見された のかも知れない。もっとも弱点が見つかっても綿密なる攻略作戦を立てないと難しい だろうし」 「作戦があるとすれば、その策案者はどちらでしょうか。提督か、作戦本部長か… …」 「ん……? 随分気にしているようだな。ウィンザー大佐だとしたら、どうだという のだ」 「い、いえ……」 「残念だ。君も女性士官に偏見を持つ一人だったとはな」 「ち、違います!」  図星だな。  とフランクは思った。  劇的なまでの昇進を果たして、すぐ足元の大佐となり、しかもそれが女性というこ とにかなりこだわっている風が、ありありと観察できた。  まあ、その気持ちも判らないでもないが……。  女性士官テンコ盛りの第十七艦隊と違って、第八艦隊はごく平均的な男女比を持っ ていて、司令官クラスの女性は一人もいない。  要塞に来てからというもの、総参謀長のパトリシアと要塞防御副司令官という関係 から、打ち合わせなどで顔をつき合わせて応対することが多かった。  化粧をしスカートを履いた士官と隣の席になれば誰しも思う気持ちである。  実際に隣に座れば、女性特有の香水の甘い香りが漂ってくるし、ふと胸元に目がい けばその膨らんだ胸にどきりとする。慌ててうつむけばスカートの裾からのぞく脚線 美がそこにあるという具合である。  男と女の違いを身近で認識させられるわけである。 「いや、偏見というものじゃないな……」  要は女性経験が少ないのかも知れない。  ふと笑みが漏れてしまう。 「笑わないでくださいよ」 「笑っているように見えるか?」 「見えますよ。何を考えていたんですか?」 「いや、何でもないさ。それより、フリード・ケイスンに要塞移動のための反物質エ ンジンの開発状況を確認しなければならない」  話題を変えてしまうフランクだった。  実際問題としても、要塞を動かすことのできるエンジン建造の進捗状況によっては、 大幅な作戦計画の変更を余儀なくされるわけである。  旗艦サラマンダーの艦橋。 「銀河帝国へのワープ設定完了しました」 「しかし、タルシエンから帝国への道のりは険しいな」  アレックスが危惧しているのは、バーナード星系連邦の支配下にある共和国同盟の 只中を通過して、反対側にある銀河帝国との境界まで無事にたどり着けるかというこ とである。  一回のワープで飛べる距離ではないから、数度に分けることになるが、その途中で 行動を悟られる可能性があった。  同盟の周辺地域を遠回りで巡りながら、連邦軍に反抗する勢力と連絡を交わしつつ、 出来うるならば協定を結ぶことも任務の一つに挙げられていた。  そのためにかの地に残してきたのが、第八占領機甲部隊メビウスであった。  トランター本星はもとより、周辺地域にも派遣して「Xデー」以降のパルチザン組 織の設立に一役買う予定だった。そして各地のパルチザン組織の横の連絡を取るのは、 メビウス司令官にして情報参謀のレイチェル・ウィング大佐である。  彼女なら、通信統制の網の目を掻い潜って各組織をまとめ上げられるだろう。 「ワープ準備完了しました」  パトリシアがすぐそばに寄ってくる。 「いよいよですね」 「ああ、この帝国遠征の成否によって、タルシエンに集まった人々の運命も大きく変 わるだろう。その期待に応えるためにも、何とかして銀河帝国との協力関係を取り付 けなければならない」 「そうですね」  と言いつつ、アレックスの腕に手を置いた。  その手をやさしく握り返しながら、 「何とかやってみるさ」  と微笑むアレックスだった。 「全艦、ワープせよ!」  アレックス・ランドールの帝国遠征の道行きが開始された。  共和国同盟の解放のため、銀河帝国への侵略を阻止するために、そして自分の信念 のおもむくままに……。  第二十六章 了 第二部へ続く(2019年元日より連載開始)
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2018年12月 4日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 VII

第二十六章 帝国遠征

                VII 「提督は、銀河帝国に支援を求めるとおっしゃってましたが、いいんですかねえ」 「何がいいたいの?」 「ほら、提督って銀河帝国からの流れ者で、スパイではないかとの噂もありますし」 「あなた、それを信じてるの?」 「だって、深緑の瞳をしてますし……帝国皇室と血筋が通っているんでしょう?」 「確かに血が繋がっているのは間違いないと思います。同盟ではその出生率は十万分 の一以下の確立らしいですからね」 「だから……こんな折に帝国に支援を求めると言い出して、スパイとして送り込んで きたというのも信憑性があると思いませんか」 「あのねえ。提督が孤児として拾われたのは、まだ乳飲み子の頃なのよ。スパイ活動 ができると思えて?」 「だから大きくなるにつれて連絡を取り合って」 「そんな面倒なことをするわけ? 最初からスパイ訓練を受けた専門家を送り込んだ ほうが手っ取り早いんじゃない? それに同盟で育てられれば立派な同盟国人よ。第 一に、義務教育も幼年兵学校からはじまって、民間人が出入りできない軍の教育機関 にずっといたのに、連絡員が接触する機会なんかないわよ」 「はあ……そう言われれば確かにそうなんですけど。でもどうしてそんな噂が立つの でしょうねえ。火のないところに煙は立たないものだし」 「噂は士官学校時代からあったけど、提督の才能をやっかむ人々が流しているのでは ないかということになってるわ」 「どっちにしても確証はないんですよね」 「これまで多大な恩恵を同盟に与えてくれた提督を信じてついていけば未来は開かれ るという確証はあると思いますけど、どうかしら?」 「ですよね……」  実際、今後のことなど誰にも判るはずなどない。  連邦が勢いに乗じて帝国をも降伏させて、銀河の覇者となるのか。  提督がそれを阻止して連邦を追い返して、あらたなる同盟を再興するのか。  はたまた周辺地域で細々とゲリラを繰り返し、やがて自滅していく運命にあるのか。  アル・サフリエニ方面軍にとって、ランドール提督がその運命を握っているという ことだけは確かなことであった。  それを信じて祖国に弓引くことになっても付いていくか、はたまた祖国に戻って総 督軍に加わりランドール提督とも交えることをも是とするか。  祖国を取るか、信奉する提督を取るか。  二者択一を迫られて、それぞれの思いを胸に決断する時はやってくる。 「猶予期間の四十八時間が過ぎました」  静かな口調で、パトリシアが報告に来た。 「退艦して祖国に戻る意思を表明した者は、七百万八千人ほどになります」 「そうか……帰りたいと思う者を引き止めるわけにはいかないからな。我々は祖国の ために戦ってきた。その祖国を敵に回すことをためらうのも当然のことだ」 「気持ちは判ります」 「輸送船団を手配して、祖国に気持ちよく送り返してやろう」  二時間後、祖国に戻る将兵を乗せた輸送艦隊がトランターへ向けて出発した。  それを見送る最後の放送を行うアレックス。 『祖国へ戻る将兵及び軍属のみなさん。これまで私の元で戦ってくれたことに感謝い たします。祖国に戻られては、戦争で疲弊した国力を回復し、新たなる国家の再建に 努力して頂きたい。これまでほんとうにありがとう。航海の無事を祈ります』  そして万感の思いを込めて敬礼するアレックスだった。  輸送艦においても、その放送を聴いているほとんどの者が、スクリーンに映るかつ ての司令官に対しそして涙していた。  これまで共に戦ってきた仲間との別れ、場合によっては戦火を交えるかもしれない 境遇。  自ら決断したこととはいえ、翻弄させられる運命のいたずらを呪っていた。 「ランドール提督に敬礼!」  誰かが叫んだ。  一斉に直立不動の姿勢を取り、最敬礼を施す隊員達だった。  スクリーンはランドールの姿から、タルシエン要塞の全景に切り替わっていた。  しかし誰も敬礼を崩す者はいなかった。  タルシエン要塞の姿を頭に刻み込もうといつまでも見つめていた。  ランドール提督に栄光あれ!  すべての将兵達の本心からの熱い思いだった。
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2018年12月 2日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ I 連邦軍到来

 機動戦艦ミネルバ 第一章(日曜劇場)

I 連邦軍到来  トランターに向かう護送船団。  指揮艦ニュートリアルに信じられないニュースが飛び込んできた。 「それは本当ですか?」 「間違いありません。絶対防衛圏内にあるベラケルス星域において、連邦軍八十万隻 と迎撃に向かった絶対防衛艦隊三百万隻が交戦状態に突入するも、おりしも超新星爆 発を起こしたベラケルスに巻き込まれて我が軍は壊滅。連邦軍は奇跡的に爆発を免れ てなおもトランターに向けて進撃中です。しかし、ベラケルスが爆発するなんて…… 運が悪すぎます」 「違います。これはブラックホール爆弾を使って人工的に引き起こされたものです。 ランドール提督も最終防衛決戦の場としてベラケルスを想定しておられました。超新 星爆発の威力を借りて敵艦隊を一網打尽で壊滅させる壮大な作戦。敵がこれに気付い ていたなんて……」 「ま、まさかそんなことができるなんて」 「現実に起こってしまったことです。超新星爆発を目の当たりにするなんてことは、 砂浜の中に隠した一粒の砂を探し出すこと以上に確率は低いのですから」 「敵艦隊がトランターに到着する時間は?」 「先着する我が船団の一時間後です」 「ぎりぎりね。輸送船を地上に降ろす時間が稼げるかしら」 「稼ぐって……。まさか、敵艦隊とお戦いになられるのですか?」 「輸送船には、これからの戦いに必要な重要な兵器が積まれています。それを無事に 届けるのが、わたし達の任務です」 「しかし、敵艦隊の総数は八十万隻なんですよ。どうやって?」 「何も直接艦隊戦をやると言っているのではありません。策を施して進行の足を一時 的に止めるのです」 「策を施す?」 「丁度いい作戦案があります。以前にカラカス基地の防衛に際して、ランドール提督 が参謀達に出させた作戦プランの一つなのですが……。うまい具合に必要な資材が輸 送船に積まれています。たぶん足止めくらいはできそうです」  作戦室に各艦の艦長が呼び集められ、フランソワが作戦を伝える。 「敵艦隊はおそらく、このL5ラグランジュ点を経由して、トランターに近づくでし ょう」 「L4ではないのですか? ここにはワープゲートが設置されています。まずはこれ を押さえてからだと思うのですが?」 「いえ。L4のワープゲートには機動衛星兵器が守りを固めています。少しでも犠牲 を少なくして、速やかにトランターを落とすにはL5からの方が最適です」 「はあ……そうでしょうか?」 「ともかくやれるだけのことはやりましょう。予想に反してL4に向かったら、運が なかったと諦めます」 「判りました」 「ラグランジュ点は重力的に安定しており、L4にワープゲートが置かれているのも そのためです。かつてはスペースコロニーという人工居住プラントがあったそうです。 ここにある物質はほとんど動かないままとなります。さてここからが作戦です。この L5地点に輸送艦に積んである超伝導冷却用のヘリウム4原子を撒き散らしておく。 ただこれだけです」 「それだけですか?」 「そう……。それだけです。地面に水を撒くと、車はタイヤがスリップして自由が利 かなくなる。それと同じことが起きます。宇宙空間においては、ヘリウム原子は超流 動現象を起こします。そこへ侵入した艦艇は身動きが取れなくなると言うことです」 「なるほど……」  早速輸送船に連絡が取られて必要なヘリウム4が、L5ラグランジュ点に運び出さ れた。 「よし、これでいいわ」 「うまくいきますかね」 「足止めさえできればいいのよ。さあ、先へ行きましょう」  そのままトランターに向かって進む船団だった。
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2018年11月29日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 VI

第二十六章 帝国遠征

                  VI  それから数日後。  タルシエンに集う全将兵に対してのみにあらず、旧共和国同盟全域に対して、今後 のアル・サフリエニ方面軍の方針を、全周波帯による軍事放送を伝えるアレックスだ った。 『共和国同盟に暮らす全将兵及び軍属諸氏、そして地域住民のみなさんに伝えます。 私、アレックス・ランドールは、タルシエン要塞を拠点とする解放軍を組織して、連 邦軍に対して徹底抗戦することを意志表明します。解放の志しあるものは、タルシエ ン要塞に結集して下さい。猶予期間として四十八時間待ちます。以上です』  艦内のあちらこちらでは、解放軍結成表明を放送するアレックスをモニターで見つ めている隊員達がいる。 「解放軍か……」 「どうなるんだろうねえ。俺達は」  全宇宙放送から要塞及び解放軍に対しての放送が続く。 『それでは引き続き、現在タルシエン及びアル・サフリエニに集う全将兵に告げる。 今表明した通りに、我々は総督軍に対して徹底抗戦する。祖国に弓引くことになり、 家族や親類同士で戦うことになる可能性もある。そこで諸君らに選択の機会を与える ことにする。我々と共に祖国の解放のために戦うか、それともここを去り祖国に帰る か。君たちの自由意志に任せることにする。四十八時間の猶予を与えるから、じっく りと考えて結論を出してくれたまえ』  艦内のあちらこちらでは、自身の身の振り方についての会話がはじまった。  第十七艦隊旗艦、戦艦フェニックスの艦橋でも全艦放送を聞いて困惑の表情を見せ るオペレーター達がいた。自分達の指揮官であるチェスターがどういう結論を下すの か? それに従うかどうか、それぞれに頭を悩ましていた。 「閣下は、いかがなされるのですか?」  少佐になったばかりのリップルは聞くまでもないと思いつつ、チェスターに尋ねて みた。 「ランドール提督は、定年間近な私を艦隊司令官として迎え入れてくれた。オニール やカインズという新進気鋭の後進が育ってきて、慣例ならば勇退という形で勧奨退職 が一般的だ。後進に道を譲るよう諭されるところだったのだが」 「将軍への最高齢昇進記録を塗り替えました」 「将軍となることは、武人としての栄誉である。それをかなえてくれたランドール提 督には、恩を返さねばならないだろう」 「しかしトランターに残してきたご家族のことは?」 「それは私にも心痛むところだが、軍人の妻として一緒になったときから、常に心構 えはできている。子供達も理解はしてくれていると思う」 「閣下、艦内放送が整いました」 「判った」  第十七艦隊としての行動判断を示す必要があった。  チェスターは、ランドール提督に付き従うことを決めてはいたが、それを部下にま で強制することはできなかったからである。 『第十七艦隊の諸君。私は、ランドール提督と共に戦うつもりだ。しかし君たちを軍 規によって縛り付けることはできない。ここに残るも、祖国に戻るも個人の自由だ。 それぞれによく考えて、身の振り方を決定したまえ。以上だ』  同様な艦内放送は、独立遊撃艦隊のゴードンやカインズ、そして旗艦艦隊のスザン ナのところでも行われていた。  ハイドライド型高速戦艦改造II式「ノーム」を乗艦とするスザンナは、艦内放送を 終えて感慨に耽っていた。旗艦艦隊司令官という光栄を預かっただけでなく、これま で実験艦という位置づけだったこのノームを再び準旗艦に格上げさせて与えてくれた。 「ベンソン司令は提督について行かれるのですよね」  スザンナの副官となった二コレット・クーパー少尉が確認する。 「もちろんです」 「ですよねえ。提督の士官学校時代からずっと共に戦ってこられたのですものね」 「その通りです。何があろうとも付いていくわ」 「ご一緒します」 「ありがとう」  二コレットは尊敬に値する感情を、この上官に抱いていた。  提督の厚い信頼を受けて、一般士官である艦長という身分ながらも艦隊運用を任さ れるようになった。運にも恵まれていたかも知れないが、誰しもがその才能を認めて いたし、それ以上に努力家であることも知っていた。  勤務が終えた後に、資料室で一人静かに戦術理論の研究をしているを良く見かける。 提督の期待に応えるために、一所懸命に勉強を続けていた。  自分もそうありたいと二コレットは思った。
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2018年11月27日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 V

第二十六章 帝国遠征

                 V  通路を歩いているカインズ。  シャイニング基地にある未配属の艦艇のことで頭が一杯になっていた。  至急に赴いて作業を進める必要があった。総督軍がいつ攻め込んでくるかも知れな いからである。 「准将閣下」  パティー・クレイダー大尉が話し掛けてきたが、一瞬自分が呼ばれたのとは気付か なかったカインズであった。議場で自分が准将に任命されたのを思い出して、 「あ、ああ。パティーか……准将になったんだったな」 「寝ぼけないでくださいよ。閣下」 「すまん。まだ、実感がわかないんだ」 「そのうちにいやでもわいてきますよ。とにかく、おめでとうございます。ついにオ ニール准将と並びましたね」 「ありがとう。といってもまだ正式な辞令は出ていないがな」 「いいじゃありませんか。誰が何と言おうと六万隻を動かす准将に間違いないのです からね」 「といっても大半がシャイニング基地に残したままだ」 「そうでした。総督軍に奪われないうちに急行して我が部隊に併合しましょう」 「それにしても、俺のところには略取した艦隊や寄せ集めの部隊しか回ってこない な」 「確かにそうではありますが、逆に考えればそれだけ閣下の人徳や用兵の力量を、提 督が信頼して任せてくれているということです。それをできるのは閣下以外にいない ことをご承知なのです」 「まあ、そう言ってくれるのはありがたいが、現実はあまりにも時間が短すぎるから な」 「はあ……それは致し方ありませんね」 「そうだ。君のことは、今昇級の適正審査にかかっているが、要塞に帰還するころに は、少佐の正式辞令がでるだろう。その時には艦隊参謀として着任してもらいたいの だが」 「ありがとうございます。もちろん喜んでお引き受けいたします」 「よろしくたのむ」  もう一方のゴードンの方も、シェリー・バウマン大尉から昇進を祝福されていた。 「閣下、昇進おめでとうございます」 「おうよ。君もじきに少佐として司令官の仲間入りだな」 「ありがとうございます」  とぺこりと頭を下げる。 「昇進祝いに二人で乾杯するか?」 「ほんとうですかあ! やりましょう。昇進祝い」 「うんじゃあ、ラウンジへ行こうか」 「はい!」  と言って、ゴードンの腕に自分の腕を絡ませて、恋人よろしく仲良く歩き出す二人 だった。 「共和国同盟が崩壊してしまったのは辛いですが、絶対防衛艦隊司令長官のチャール ズ・ニールセン中将が逝っちまったのには、せいせいしますね」 「そうそう。何かにつけて提督を目の敵にして、難癖つけて無理難題ふっかけやがっ てさ」 「でも……逆説的な考えをしますと、ニールセンのおかげで、提督がここまで出世で きたともいえますよね。無理難題を押し付けても、それを難無くかわしてきた提督の 実力あってのことですけど」 「提督を過小評価してあなどっているからこうなるんだ」 「そうですね」 「ところで君は平気なのか?」 「何がですか?」 「祖国に対して弓を引くことに対してだよ」 「水臭いですよ。閣下にずっと付いていくと誓ったじゃないですか。わたしがお仕え しているのは、共和国同盟ではなくて、ゴードン・オニール准将です」 「そうか……ありがとう」 「ともかく、これからの未来に祝杯をあげましょう」 「そうだな。希望溢れる我々の将来に幸あれだな」 「はい!」  司令官室に戻ったアレックスも、パトリシアとこれからのことを話し合っていた。 「ところで、トランターに残してきた第八占領機甲部隊メビウスの件ですが、司令官 レイチェル・ウィング大佐は、提督の意向通りに動いてくれるでしょうか」 「メビウス部隊のことはレイチェルにすべて一任してある。降伏するも徹底交戦する も彼女の判断に任せるしかない。刻々変化する状況に合わせて最良の決断を下すだろ う。それがどうなろうとも、僕は容認するつもりだ。投降し我々の敵に回ろうとも ね」 「実際問題として、敵の直中{ただなか}に置いてきぼりにしてきたのは事実なわけ ですし……。ま、わたし達がとやかくいえる立場ではないですけどね」 「しかし旗艦である機動戦艦ミネルバの艦長があのフランソワだからなあ……」 「あれでも士官学校を首席で卒業してますのよ」 「転属命令を受けた時に、泣いたそうじゃないか」 「ええ。でもお姉さまと慕ってくれるのはいいんですが、提督がおっしゃられたよう に、それではいつまで経っても一人立ちができません。いつかは巣立ちを促して、冷 たく突き放すことも必要だと教えられました」 「……ま、遠き星の空の下から彼女達の無事と幸運を祈るしかない」 「きっとやりとげますわ。レイチェルさんとフランソワならね。でもこのことを、他 のみなさんに秘密にしなければならないなんて、心苦しいですわ」 「しかたがない、極秘任務であり、敵地の只中にいるのだから。情報が漏れては一大 事だ」 「ええ……」
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2018年11月25日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 序章 トランターへ

 機動戦艦ミネルバ(日曜劇場)

序章 トランターへ  発着ベイ。  護送船団が次々と発進している中、指揮艦ニュートリアルのそばに立ち止まってい るパトリシアとフランソワ。 「提督はあなたの才能を高く評価しています。そしてあなたならその期待に答えられ るでしょう。わたしは信じています」  ニュートリアルの艦長が降りて来る。 「大尉殿、まもなく出航の時間です。乗艦してください」 「すみません、今行きます」  艦長に促されて、パトリシアに敬礼して最後の別れを伝えるフランソワ。 「それでは、行ってきます」 「しっかりね」 「はい」  本星トランターへ向かう輸送船団。  第八占領機甲部隊に、フリード・ケイスン中佐が開発生産した、最新型のモビール スーツなどの秘密兵器を届ける任務を帯びていた。  その護衛に当たる護送船団の指揮艦ニュートリアル艦橋。  指揮官席にどっかりと腰を降ろすフランソワ。 「護送船団の発進状況はどうですか」 「護送船団はすでに全艦発進完了して要塞周囲で待機中、本艦からの合図を待ってお ります。本艦はすでに発進準備完了」 「よろしい。直ちに発進してください」 「了解」 「機関出力、出航モードへ」 「係留解除」  係留解除と同時に艦体が僅かに軋んで揺れる。 「解除終了しました」 「機関出力最少。微速前進」 「微速前進します」  ゆっくりと発進開始するニュートリアル。  宇宙空間に出たところで、待機する護送船団の先頭に出るニュートリアル。 「全艦。艦隊リモコンコード、指揮艦ニュートリアルに同調」  パネルスクリーンに投射される艦影マーカーの点滅が次々と点灯に切り替わってい くが、取り残されて点滅のままでいる艦があった。 「八番艦、どうした。リモコンコードが出ていないぞ」  答えるようにその一艦が点灯に変わる。 「よし。全艦発進準備完了した」 「前方オールグリーン。航行に支障なし」  要塞の方をちらと見て、一呼吸おいてから命令を下すフランソワ。 「船団を発進させてください」 「了解。全艦発進」 「機関出力、亜光速航行モードへ」 「ワープ航路の計算終了」 「ワープタイミングをリモコンコードに載せて全艦に発令」 「ワープ、五分前」  要塞発着管制室。  中央コントロールパネルスクリーンに映る艦影を見つめるパトリシア。 「護送船団、発進開始しました」  やがて明滅していた護衛船団のマーカーがすっと消える。 「護送船団。艦隊リモコンコードでワープに突入。異常ありません」 「そう……」  スクリーンの片隅に新たな艦影が現れた。 「第五艦隊第七部隊が、哨戒行動から戻ってきました」 「交替の部隊は?」 「第十一艦隊第十九部隊です。すでに発進配置についています」 「第七部隊から入港申請が出ています」 「先に発進を済ませましょう。第七部隊の収容はそれが完了してからです」 「了解」 「第七部隊はそのまま待機せよ」 「第十九部隊全艦発進」  第十九部隊が発進をはじめる。  てきぱきと指示を出すパトリシアに近づく女性士官があった。 「パトリシア・ウィンザー大佐ですね?」 「そうですけど……」  相手を確認してその士官は踵を合わせて敬礼して申告した。 「マリア・スコーバ中尉です。フランソワ・クレール大尉の後任として、大佐の副官 としての任務を命じられました。今後ともよろしくお願いします」 「そうでしたか、よろしく」 「ランドール提督がお呼びです」 「提督が?」 「はい。ここは私にまかせてください」 「では、後をお願い」 「かしこまりました」  後の処理をまかせてその場を交代して立ち去るパトリシア。  背後ではマリア・スコーバ中尉が、早速管制指揮を執り始めていた。 「マリア・スコーバ中尉である。これよりウィンザー大佐の替わりに指揮を執る。第 十九部隊の出航状況を」 「現在七割がた、発進終了。出航完了まであと十五分」 「遅い! 極力急がせなさい」  マリア・スコーバはフランソワとは正反対の正確で、積極的かつ行動的である。と はいえ、とにもかくにもマニュアル通りに事を進めようとするので、現場の状況を理 解できずに時として他人とよく衝突を起こすことがあった。 「フランソワは一足早くトランターに出立しました」 「そうか。別れは辛いだろうが、これも本人のためだ。それにこの作戦において、機 動戦艦ミネルバの艦長として、最適任者であることもね」 「可愛い子には旅をさせよ、ですか?」 「そうだね。いつまでも君のそばにいては、彼女の能力開発には妨げになる。後のこ とはレイチェルにまかせればいいだろう」 「ところで、マリア・スコーバを遣わしたのは、あなたですね」 「まあな。マニュアルに従って事を進めることは大切だが、それだけではないことを 教えてやってくれないか。現場の状況判断というものも理解させなければ」 「わかりました」 「ところで、絶対防衛圏内に出現した連邦艦隊の動静はどうなっているか?」 「未だに動く気配を見せません。まるで、絶対防衛艦隊が総結集し進撃開始するのを 待っているような感じにも見受けられます」 「待っているのかも知れないな」 「待っている?」 「何にせよ。トランターが陥落するのは時間の問題だ。トランターに向かったフラン ソワやレイチェルには苦労させることになる。遠き空の下、その活躍を祈ろうじゃな いか」 「はい」  序章・別れ 了
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2018年11月22日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 IV

第二十六章 帝国遠征

                 IV  ゲリラ戦を引き起こし、総督軍の足元をかき回すということで、みなの意見は統一 されていった。  しかし大事なことが残っていた。  解放軍といえば聞こえがいいが、政府軍に対する反乱軍という位置づけには変わり はない。  国民を総動員して税金という軍資金を調達し、次々と戦艦を建造して投入すること のできる総督軍に比べれば、反乱軍は圧倒的に脆弱である。いくら周辺地域を取りま とめて協力を仰げたとしても限度がある。  強力なパトロンが必要であった。  古代から政府軍や占領軍を転覆させたような反乱軍には、武器や軍資金を供与して 後押ししてくれる国家があった。ナチス政権下のパルチザン組織フランス義勇軍には 連合国が付いていたし、ベトナム戦争や朝鮮動乱に際しては、ソ連や中国といった共 産国が後の北朝鮮を援助し、韓国はアメリカである。いずれにしても背後には強力な 国家があった。もちろんそれには利権とかも絡んでいるのであるが。  アレックスがパトロンとしようとしているのは、もちろん銀河帝国である。 「解放軍が、連邦軍を追い払い民衆を解放するのは第一の目的であるが、それ以前に 内部攪乱を引き起こすことによって、銀河帝国への進攻を一時にでも引き伸ばすこと にある。その間に、銀河帝国と接触を計って解放軍の味方につける必要がある。そう でなければ永遠に解放の時はこないであろう」 「銀河帝国に支援を求めるのですか?」 「銀河帝国が我々の味方についてくれるでしょうか」 「それはやってみなければ何ともいえない。しかし、彼らだって共和国同盟が滅ぼさ れ、連邦の次の目標が自分達の領土であることを身にしみて感じているはずだ」 「感じていなかったら?」 「その時は滅びるだけさ」 「ところで、銀河帝国と接触するとおっしゃいましたが、その重要な任務にあたるの を誰にまかせるかですが……」 「もちろん、その任務は私があたる」 「そんな……提督には要塞に残って全軍を指揮していただかないと」 「その必要はない。今後は要塞の守備とゲリラ戦が主体で、積極的に攻撃に打ってで ることはない。となれば私よりも、ガードナー提督の方がより適任である。ゲリラ部 隊には、ゴードンとカインズにやってもらう。ついてはシャイニング・カラカス・ク リーグ基地には偵察の機能のみ残して、全艦隊を要塞に集結させる」 「基地を見捨てるのですか」 「そういうことになるな。総督軍に対して艦隊数において劣る我々にとって、三基地 を防衛するために兵力を分散させるのは得策ではない。各個撃破されて消耗するのが 関の山だ。或は直接要塞へ全軍で掛かられれば持ちこたえられない」 「奪取されれば、要塞攻略の拠点とされることになりますが」 「それは考慮する必要はない。科学技術部が骨を折ってくれたおかげで、この要塞を 移動させることが可能となった」 「それは本当ですか?」  一同が驚きの声をあげた。  この巨大な要塞を移動させることなど、誰も考え付かないことだった。  もちろんそれを可能にしたのは、フリード・ケイスン中佐であろうことと、彼の天 才を持ってすれば不可能ではないだろうと誰しもが理解した。 「いくら強固な要塞とて、動けなければどうしようもない。一箇所に留まっているの だからな、慌てることもなくじっくりと、いくらでも攻略作戦を練ることができる。 例えば次元誘導ミサイルのような新兵器を敵が開発すれば、たちどころに危機を招く ことになる。何せ次元誘導ミサイルの設計図が同盟軍の軍事コンピューターの中に残 っているのだから」  ジュビロと連絡が取れれば、設計図を抹消することも出来たのであるが、連絡役の レイチェルはここにはいない。またミサイルの予算取りのために各方面に申請書を出 してあるから、あちこちに設計図の記された書類が分散してしまっているはずである。 それらをすべて抹消することも不可能だろう。 「ともかく移動可能となったからには、神出鬼没の機動要塞として、本拠地を察知さ れることなく敵艦隊を攪乱することができるわけだ。ゆえに三基地を固持する必要は ない」 「でもカラカスの軌道衛星砲はもったいない。撤収して要塞周囲に必要に応じて展開 できるようにしてはいかがでしょう」 「それもいいだろう」 「本拠地となるこの要塞の防衛の陣頭指揮はフランク・ガードナー少将にお願いする が、ゲリラ部隊となる特別遊撃艦隊の指揮を、ゴードン・オニール上級大佐にやって もらう。もう一個艦隊として……」  アレックスはゆっくりと議場の将校達をなめるように見回してから、 「ガデラ・カインズ大佐」 「はっ!」  指名されて立ち上がるカインズ。 「シャイニング基地にある未配属のままの三万隻の艦艇を貴官の部隊に併合して、正 式に一個艦隊として編成させることにする。ゴードンと共同してゲリラ作戦の主先鋒 として指揮を取ってくれ」  一部から、感嘆の声が漏れた。或は、「やはりね」と頷いている者もいる。 「わかりました。艦隊の指揮をとります」 「シャイニング基地へ至急赴いて、それらの艦隊を総督軍に奪われる前に、すみやか に回収併合して、基地から撤収させるのだ」 「基地から撤収するのですか」 「そうだ。シャイニング基地は放棄するからな」 「ゲリラ部隊には、攻撃目標となる動かぬ基地は必要ありませんからね」 「なお、この場においてゴードンとカインズ両名を准将として任ずる。同盟がこうい う状況なので、正式辞令は出せないがな」  それを一番喜んだのはパティー・クレイダー大尉だった。  直属の上官が昇進すれば自動的に自分にも昇進の機会が与えられるからである。 「長くなった。今日のところはこれで解散して、また明日に会議を持つことにしよう。 質問などがあればその時にお願いする」  と立ち上がって退室するアレックスだった。
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2018年11月20日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 III

第二十五章 帝国遠征

                III  質問が自分の事に言及され、みじろぎもせずにスクリーンを凝視するアレックス。 「……だって言ってますよ」  ゴードンが、親指でスクリーンを指差す格好で口を開く。  言いたいことは良く判っている。  共和国同盟が滅び、守るべき国家の存在が消失した今、もはやタルシエンに固執す る必要はないと言えるだろう。アル・サフリエニ方面軍を解散して要塞を明け渡し、 これまでに戦ってくれた将兵に報いるためにも、郷土への帰還を許すべきではなかろ うか。  通信を終えて、総参謀パトリシア・ウィンザー大佐に指令を出すアレックス。 「パトリシア、全幕僚を会議室に集合させてくれないか。一時間後だ」 「かしこまりました」  ただちに、フランソワに代わって副官となった、マリア・スコーバ中尉によって全 幕僚に伝令が発せられた。  会議室にフランク・ガードナー少将以下の幹部達が勢揃いしている。  アレックスがパトリシアを連れて入室する。 「提督!」 「我々は武装解除されるのでしょうか?」 「要塞を明け渡せとのことですが、本当に承諾するつもりですか」  次々と質問を浴びせかける一同。 「結論だけ言わせてもらうと……」  一同が注目する。 「私は投降もしないし、もちろんこの要塞を明け渡すつもりもない」 「ではこの要塞に籠城して徹底交戦なさるおつもりですか」 「籠城? それは無駄死にするのがおちだ」 「しかし、要塞の主砲があれば……」 「火力を過信してはいけない」 「その通りこの要塞を奪取したのも、不発弾一発だけだったのを忘れたのか」 「それは提督と総参謀長殿の奇襲作戦があったから」 「だが敵から別の手段を仕掛けてこられて、同様にこの要塞が落ちる可能性もあるわ けだ。何せ、敵はこの要塞のすべてを知り尽くしているんだ。我々の知らない侵入経 路や手段がある可能性もあるわけだな」 「では、どうなさるのですか」 「それを答える前に考えてみてくれたまえ。我々が投降して後背の憂慮がなくなった とき、総督軍がどういう行為に出るか?」 「銀河帝国への侵略を開始するでしょうね。もちろん総督軍の再編成が済み、補給の めどが立てばですけど」 「連邦の軍事力に同盟の経済力が加われば、帝国に勝ち目はありませんね」 「帝国は敗れ、銀河は連邦によって統一されることになりますね」 「統一されれば平和がやってくるのでは」 「どうかな……」  とアレックスは低くつぶやいて言葉をつないだ。 「確かに銀河は一時的には統一されるかもしれない。しかし、連邦は元々軍事クーデ ターによって一部将校の手によって帝国から分離独立して起こされた国家だ。銀河が 統一され平和になれば……」  アレックスの言葉尻を受けてゴードンが答えた。 「そうだ。軍部は意味をなさなくなってくる。上層の将校はともかく、昇進の道を閉 ざされた下位の将校に不満が高まるのは明白だ。戦いと名誉の昇進がなければ軍事国 家はやがて崩壊する」 「再びクーデターが起こって分裂するということですね」 「そうだ。連邦が軍事国家である限り、真の平和はありえない。ゆえに連邦にこれ以 上の纂奪を許さないためにも、我々が手をこまねいていてはならないのだ」  場内は静まり返っている。  各自それぞれに思いを巡らしているのだろう。 「故郷へ帰りたいと思う者もいるだろうが、その思いを果たせることなく宙{そら} に散った数え切れない英霊達のためにも、あえてここに踏みとどまり解放軍を組織し て徹底抗戦をしたいと思う。そして銀河帝国への侵略を阻止する足枷になるのだ」 「解放軍ですか?」 「そう。共和国同盟の各地に出没して、ゲリラ戦を引き起こす」 「それ! いいですねえ。ゲリラ戦なら望むところです」  ゴードンはいかにも嬉しそうな表情を見せる。  彼の率いるウィンディーネ艦隊は、高速機動を主眼としており、一撃離脱のゲリラ 戦には最適であろう。 「しかし戦闘を続けるには燃料と弾薬の補給が不可欠です。どうなさるおつもりです か?」 「共和国同盟が崩壊したとはいっても、連邦が全領土を完全に掌握したのではない。 僻地ではいまだに反抗する勢力があるのも事実だ。しかし彼らには動ける艦隊を持ち 合わせていない。そこで我々がそういった勢力を取りまとめ解放軍として旗揚げすれ ば、総督軍と十分にやりあえる」 「食料や資材、燃料・弾薬の補給も受けられますね」 「総督軍には解体された同盟軍将兵も再編成されている。かつての味方同士で骨肉を 争う戦いを強いられることになる。ゲリラ戦なら相手を選んで戦いを仕掛けることも 可能だからな」」
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2018年11月18日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 序章 別れの時

 機動戦艦ミネルバ(日曜劇場)

 この物語は本編ストーリーに連なる、第八占領機甲部隊に属するパルチザン組織
メビウスと機動戦艦ミネルバを取り巻く人々の葛藤を描きます。
 トランター本星占領の間際に、機動戦艦ミネルバに転属が決まったフランソワ・ク
レール大尉を中心にして、マック・カーサー中将率いる総督軍との戦いが始まる。
 本編と合わせてお楽しみにください。

 ミネルバとは?
 ※ローマ神話に登場する女神の名前。
  ギリシャのアテナと同一視される最高の女神。知恵と諸学芸をつかさどる女神で
あるが、戦略の女神でもありしばしば英雄たちに戦術を指示した。さらに機織りの神
でもあり、アテナイ市の守護神で、そこのパルテノン神殿は彼女の聖域として知られ
る。長いキトーンを着て、頭には兜をかぶり、胸にはメデューサの頭を飾りとしてつ
けたアイギスを着ている。手には槍、および勝利の女神ニーケをかかえている姿が多
い。知恵を表すふくろうが聖鳥である。


 序章 別れの時  宇宙空間に浮かぶ共和国同盟軍タルシエン要塞。  周辺を取り囲むようして数万隻の艦艇がひしめき合っていた。  百年以上に渡って続く隣国バーナード星系連邦との戦争において、航行不能な銀河 の渦状腕の間隙に掛かる航行可能領域タルシエンの橋を守る防衛拠点となっている。  要塞内には一億数千万人の軍人とその家族などの軍属が暮らし、艦艇を建造・修理 できる造船ドックなどの軍事施設はもとより、人が生きるために必要な水と空気を循 環精製する生命維持環境衛生プラントや食物生産プラントなど、もちろん人々が日常 的に暮らす生活居住区などすべてに渡って行き届いた施設を有していた。いわば小さ くとも都市国家のような様相を呈していた。  この要塞の若き最高司令官がアレックス・ランドール少将である。要塞周辺にある 三つの最前線防衛基地シャイニング、カラカス、クリーグをも含めた、アル・サフリ エニ方面軍司令官でもある。  バーナード星系連邦が建造、タルシエンの橋の片側に設置していたものを、巧妙な る電撃潜入作戦によって要塞システムを乗っ取り、第十七艦隊をもって要塞奪取に成 功した。  要塞司令官オフィス。  司令官椅子に腰掛けたランドールが、とある命令書を配下の総参謀長パトリシア・ ウィンザー大佐に渡していた。 「君の手から、この命令書をフランソワに渡してくれ。事態は急を要している、すみ やかに彼女を説得して、トランターへ向かわせたまえ」 「判りました」  パトリシアは、命令書を受け取ると、敬礼してオフィスを後にした。  ふうっ!  と、思わずため息をつくパトリシア。  かねてより内定していた、フランソワ・クレール大尉の、第八占領機甲部隊旗艦 「ミネルバ」への転属が決定されたのである。  バーナード星系連邦のスティール・メイスン少将率いる八十万隻の侵攻作戦部隊の 絶対防衛圏への出現がその契機となった。  自分を姉のように慕っているフランソワに、この命令書に書かれている通りに、遠 い宇宙の彼方トランター本星へ単身向かわせることは心が痛んだ。 「泣くかしら……」  しかし軍人にとって命令は絶対である。  心を鬼にして伝えなければならなかった。  自分の部屋の前に立つ。  同室のフランソワは非番だから、中にいるはずである。  深呼吸してから中へ入るパトリシア。 「あ、お帰りなさい」  いつもの明るい表情で出迎えるフランソワ。 「お茶でもいれましょうか?」  これから打ち明ける内容には、そぐわない雰囲気だった。  意を決して、言葉を掛けるパトリシア。 「おりいっての話があるわ」 「おりいってのお話しってなんですか」 「単刀直入にいうわ」 「はい」 「あなたには、最終護送船団の指揮官としてトランターに行ってもらい、その後レイ チェル大佐のメビウス部隊に合流してもらいます」 「転属! ……ですか?」 「大尉になったあなたに対する佐官昇進試験の一環と考えてください」 「そんな……あたしは昇進のことよりもお姉さまと一緒にいられる方がいいです」 「これは命令です。あなたも軍人なら従いなさい」 「でも……」 「それに永遠に分かれるわけじゃないんだし、無事試験に合格して少佐に昇進すれば、 作戦参謀として迎える用意があります」 「それ、本当ですね」 「もちろんよ。その時は一緒に提督を盛りたてていきましょう」 「わかりました。先輩の言うこと信じます」 「ありがとう」  といってパトリシアは命令書を取り出して朗読した。 「命令書。フランソワ・クレール大尉。貴官に対して第八占領機甲部隊{メビウス} 所属、機動戦艦ミネルバ艦長としての任務を与える」 「はっ。フランソワ・クレール。メビウス部隊ミネルバ艦長の任務に就きます」 「命令書に署名して、七時間後に出航する護送船団の指揮艦ニュートリアルでトラン ターに向かってください」  命令書を差し出すパトリシア。 「わかりました」  それを受け取って署名して命令書控えを戻すフランソワ。
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