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2017年5月31日 (水)

夢魔の標的 其の伍

「実は追いはぎ事件の起こった夜に限って、お兄ちゃんの帰りが遅いのよ。しかも、いつも大きな鞄を抱えているし、もしかしたらお兄ちゃんが犯人じゃないのかと」
「考えすぎじゃないの?」
「女の第六感よ」
「そんなもの?」
「真相を確かめるために、これからお兄ちゃんの部屋に侵入するわ。それで蘭子にもついて来て欲しいのよ」
「は? 私を呼んだのはそんなことのために?」
「そうよ。最近物騒なことが多いじゃない。たとえば魔物なんかに取りつかれていたら怖いじゃない」
「で、私をも巻き込もうとしているのね」
「だって、蘭子のところは代々陰陽師家でしょう? 祭礼の時なんか巫女さんの服着て、神社のお手伝いしてるじゃない。祓い櫛かなんかでお祓いしちゃえば」
「あのねえ……。アニメに感化されすぎよ。祓い櫛があれば悪霊退散できるわけじゃないわよ。霊能者が事の始めにまず身を清め、祓い櫛を清め、精神統一して、という具合に順序を踏まなきゃ。だいたい祓い櫛なんか持ってきてないしね」
「そんなあ……」
 がっかりの表情を見せる智子。
「まあ、いいわ。とにかくその部屋を覗いてみましょう」
 立ち上がる蘭子。
 少しでも疑惑が生じたら確認してみるに限る。
 よっしゃあ!
 とばかりにガッツポーズを見せて、智子も後に続く。
「何よ、そのポーズは」
「いえね。蘭子がいれば鬼に金棒かと思ってさ」
「何だかなあ」
 兄の部屋だという扉の前に立つ二人。
「ちょっと待ってね。今、開けるから」
「鍵を掛けてるの?」
「うん。プライバシーを尊重してるから」
「で、なんで智子が鍵を持っているの?」
「あ、これはマスターキーだから」
「マスターがあるなら意味ないじゃない」
「母が管理してるのよ。昨夜事件のことの事情を話したら、疑わしいことがあるのなら、自分の目で確かめなさいって、渡してくれたのよ」
「なるほど……」
 マスターキーを使って、兄の部屋に入る二人。
 男の子の部屋ということで、乱雑になっているかと思ったが、意外にもきれいに片付いていた。
「探すとなれば、ここしかないわよね」
 言いながら、洋服ダンスの取っ手に手を掛ける智子。
 しかし凍りついたように身動きしなくなった。
 開けるのが怖い。
 想像通りだったらどうしよう。
 もし当たっていたら、これからどのようにして一緒に生活していけばよいのか。
 そんな思いが交錯して固まってしまったのである。
 蘭子も、その気持ちを察して、じっと待っている。
 ふっと、ため息をつき、続いて大きく深呼吸して手に力を入れる智子。
 思い切って取っ手を引く智子。
 洋服ダンスの中身が目に飛び込んでくる。
 その場に、へなへなと崩れてしまう智子。
「こんなことって……」
 言葉に詰まって途方にくれる智子だった。
 洋服ダンスには、ワンピースドレスやスカートスーツなどの女持ちの衣装が並んでいた。
「やっぱりお兄ちゃんが犯人だったのね……」
 もはや疑いのない事実となってしまったようである。

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