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2017年6月 2日 (金)

夢魔の標的 其の質

 公園の影から智子が飛び出した。
「智子、後を付けてきたのか」
「目が覚めて制服がなくなっているので、もしかしたらと思ったからよ。教えて、蘭子の言ったことは本当なの?」
「本当さ、間違いない」
「そんなあ……」
 智子の全身が震えている。
 涙があふれて止まらないようだった。
「智子。お兄さんは、もう以前の達也君じゃない。妖魔に身体を乗っ取られ、精神を操られているのよ」
「嘘よ!」
 そんなこと信じられないと、激しい怒りを蘭子にぶつける智子だった。
「あはは、そいつの言っていることは本当さ。証拠を見せてやろう」
 高らかな笑い声を上げると、達也は制服を両手で引き裂いた。と同時に、その身体がまはゆく輝きだした。
「何が起こっているのよ?」
「メタモルフォーゼ……。再融合よ。妖魔が、お兄さんと一体化して、新しい身体へと変化しているの」
「止められないの?」
「止められないわ」
 達也の身体に変化がはじまった。
 胸が膨らみ始め、髪が長くなってゆく。ウエストはくびれ、腰が大きく張り出してくる。
 まさしく女体への変貌であった。
「女性を襲って、精気を奪っていたのは、このせいだったのね」
「そうよ。私は男である身体に嫌悪感を持っている。しかし憑依できる身体が見当たらなかった。だから取りあえずこの身体に憑依して、女の性エネルギーを吸い取って、変身することにした」
 やがて再融合が完成したようだ。
 元の達也からは想像もできないような完璧な女体。
 ため息がでそうなくらいに美しい身体であった。
「どう? 美しいでしょう」
 ひときわ長く伸びた爪を舌なめずりする妖魔。
「そのために何人の女性を犠牲にした。精気を半分以上吸い取られた彼女達は、異常なまでの速さで老いさらばえてゆくのだぞ」
「関係ないわね」
「これ以上の犠牲者を出さないためにも、おまえを退治する」
「あら、やるというの? いいわ、かかってらっしゃい」
 御守懐剣を、懐から取り出す蘭子。
 隙をうかがいながら、じりじりと間合いを狭めていく。
 ここぞという瞬間に、懐剣を突き刺すが、ひらりと飛び上がって身をかわす妖魔。
 その背には白い羽根が生えていた。
 空を飛ぶ能力を持っているようだった。
「あらあら、そんな攻撃しかできないの。なら、手っ取り早く片付けてあげるわ」
 空から急降下で、その鋭い爪を突き立てる妖魔。あまりにも素早い動きのために、呪法を唱える余裕がなく防戦一方となる蘭子。
 強襲攻撃を受けて地面に転がる蘭子。
 このままではやられると観念した蘭子は、呪符を五芒星に並べて禁呪符陣の結界を張った。
 呪符にはそれ自体に、呪法が掛けられているので、素早く結界陣を張ることができるのだ。
 妖魔が急降下攻撃を仕掛けてきたが、見事に結界が防いでくれた。

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