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2017年6月10日 (土)

夢幻の心臓 其の陸

「被疑者を取り押さえたと聞くが」
 と取調室に入ってきたのは、警視の階級章を付け、右胸には金バッチの警察官だった。おそらく警察署長と思われる。
「なんだ。女の子じゃないか」
 蘭子と刑事課長との表情を見比べて、しばし考えてから言った。
「その女の子を帰してさし上げなさい」
「どうしてですか? 今夜も被害者が出て、すぐそばを歩いていたんです。被疑者もしくは重要参考人として」
「馬鹿もん! だからと言って年端もいかない子女を、こんな夜遅くに取調室に監禁などもってのほかだ。現行犯逮捕でもない限り、許されるものではない」
「しかし、署長……」
「言い訳無用だ。今すぐ車で送ってあげなさい。パトカーはだめだぞ。覆面で送ってやれ」
 まだ何か言いたそうな刑事課長だったが、渋々従うよりなかった」
 覆面パトカーで自宅まで送られた蘭子だったが、自室に戻りふと窓の外を覗くと、覆面パトカーがまだ止まっていて、中から刑事がこちらを窺っていた。どうやら張り込みされているらしい。

 翌日、学校へ通学する蘭子。
 そのはるか後方を、何者かが尾行を続けている。もちろん蘭子が気づかないはずがないが、素知らぬ顔をしている。
「おはよう、蘭子」
「おはよう」
 クラスメート達が朝の挨拶を交わす。
 教室に入り外を見ると、校門で立ち尽くす尾行者がいる。
 ここは治外法権みたいなもので、さすがに尾行者も校門から中へは入ってはこれない。
「今朝のニュース見た?」
「見た見た。例の連続変死事件でしょ」
「昨晩のことよね。怖くて夜道を歩けないわ」
「早く犯人が捕まって欲しいわね」
 女子高校生たちの話題はもっぱら変死事件のことばかり。挨拶代わりに交わされるほどに、日常的となっていた。学校側も無関心でいられるわけもなく、女子生徒のクラブ活動は日のある間だけで、日が沈む前に帰宅しなければならない。教諭達による校内巡回も当番製で実施され、女子生徒が残っていれば、速やかなる帰宅を促していた。
 授業中の間、尾行者は校門前で張り込みを続けているが、不審者扱いされ学校関係者や通報を受けてやってきた警察官から、しばしば訊問を受けていた。その度ごとに平謝りしながら胸元から手帳を出して見せていた。
 放課後、授業を終えた蘭子は、学校の方針に従って、所属する弓道部の練習を中止して、真っ直ぐ自宅へ帰ることにした。校門には尾行者の姿は見られなかったが、どうせどこかに隠れているのであろう。さすがに大勢の女子生徒が一斉に帰宅する時間帯は、校門前には張り付いていられないというところだろう。
 歩き出してしばらくすると、やはり尾行者が付いてくる。

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