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2017年6月11日 (日)

夢幻の心臓 其の質

「尾行の下手な人だ。ちょっとからかってみますか」
 呟くと、さっと素早く路地裏に身を隠した。
 すると撒かれてなるものかとばかりに、大急ぎで駆け出してくる。そして路地裏に駆け込むと、
「いてて、痛い!」
 待ち構えていた蘭子に、羽交い絞めを掛けられて、うめき声を上げた。
 腕を振りほどこうとするが、完全に決まっていて抜け出せるものではない。
「どうして私を尾行するのですか? どうやら警察官のようですけど」
「そうだ。常時目を離さず監視するように、上から命令されている」
「命令したのは、刑事課長でしょう」
「それは言えない。それより早く腕を解きたまえ。でないと公務執行妨害になるぞ」
「あら、構いませんわよ。その変わり私も強硬手段に訴えるだけです」
「強硬手段?」
「大声で悲鳴を上げればいいだけです。下校時間だから、大勢の女子高生の野次馬が集まってきますわよ」
「馬鹿な。私は警察官だぞ。上の命令で君を監視していた警察官だぞ。女子高生の証言など誰が信じるか」
「そうでしょうか? 最近の警察官の腐敗は良く知られているじゃありませんか。飲酒運転で交通事故を起こしたり、出会い系サイトで知り合った少女を集めて売春させたり、電車内痴漢やストーカー行為など不祥事が絶えませんよね。それにあなたは学校の校門前で、大勢の人々に不振がられていた。そんなあなたが、ストーカー行為を働いたって不思議とは思われないでしょ」
「冗談じゃない!」
 大声で否定する刑事。
 自分は純朴なる公務員だと言いたそうな表情である。
 そんな輩に限って不貞を働いたりするものだが。
「いいでしょう。いつまでも付きまとわれるのは侵害ですので、連続変死事件の真犯人に会わせてあげましょう」
「知っているのか? 真犯人を」
「知っていますよ。あの夜、血の滴る心臓を手にした女性を見かけたのです。しかし後を追おうとしたところに、あなた方警察官に取り押さえられてしまったのです」
「それは済まない事をした。しかしこういうことは、警察に任せて欲しいものだ。民間人に踏み込んでもらっては困るし、身の危険にもなる」
「皮膚に傷一つ付けずに心臓を抜き取られるという不能犯に、手をこまねいているのは警察の方ではありませんか」
「では、君なら解決できるというのかね」
「できますよ。なぜなら犯人は人間ではないからです」
 事実をありのままに証言する蘭子。
「人間じゃないとはどういうことだ」
「まあ、とにかく。犯人に会いに行きましょう。すべて判りますよ」
 ここで議論してもしようがないし、納得させることはまず不可能であろう。
 実際に事実を突きつけてやった方が、解決は早い。
「いいだろう。会いに行こうじゃないか」
 というわけで、早速あの土塀の続く屋敷へと向かったのである。
 途中、警察官一人の手に余るということで、上司の井上刑事課長も同行することになった。

 土塀のある屋敷に着いた。
 あたりはひっそりと静まり返り、不気味なくらいであった。
 予定では蘭子一人で乗り込むはずだった。
 蘭子の着ている制服を見れば、同じ高校だと判るはずだから、クラブ活動なり生徒会の意向で見舞いに来たと言えば、通してくれるだろう。
 だが同行の警察官が問題だった。教諭と偽るには眼光が鋭すぎる。
「まあ、何とかなるでしょう」

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