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2017年7月 7日 (金)

夢見の腕輪 其の肆

 大阪府立阿倍野女子高等学校グラウンド。
 体育の授業で、蘭子達が準備運動している。学校指定のジャージスタイルである。
「集合!」
 体育教諭が笛を鳴らして、鉄棒前に一同を呼び集める。
「今日は、鉄棒の蹴上がりのテストをする」
「ええ、テスト!」
「いきなり、ひどいよ」
 黄色い悲鳴が沸き起こる。
「蹴上がりができなければ、逆上がりでもいいぞ。何でもいいから鉄棒に這い上がれ。できた者は、一対のバスケットゴールを使って、自由にプレイしてよい。できない者は、できるまで特訓だ!」
「きゃあ! 横暴教師よ」
「セクハラよ」
「誰がセクハラじゃ。勝手なこと抜かすんじゃない。出席順一番からはじめるぞ。石川!」
「はい!」
 一番の石川久美は、一度目は失敗したものの、二度目にはくるりと鉄棒に這い上がった。逆上がりである」
「よし、合格}
 合格したものの一人では何もできないので、少し離れた所に腰を降ろして、他の合格者が出るのを待っている。
「あたし、鉄棒苦手なのよね。小学校の時に結局できずじまいだった」
「わたしだってそうよ」
「ご同輩!」
 京子達が抱き合って、苦しみを分かち合おうとしていた。
「逢坂蘭子」
 名前を呼ばれて蘭子が鉄棒に向かう。
 精神統一をはかってから、リズムカルに身体を動かす。美しいフォルムを見せて、鉄棒の上に這い上がる。反動を利用した完璧な蹴上がりで、そのまま大車輪に移行できるくらいの余裕があった。
「さすがだな、逢坂。合格だ」
「ありがとうございます」
 律儀に礼をして、久美の横に並ぶ蘭子。
 何を隠そう。蘭子はスポーツ万能だったのである。特に武道と呼ばれるスポーツには並々ならぬ力量を持っている。小学校の時は柔道、中学校の時は剣道と大阪大会の個人戦では、いつもベスト4に勝ち上がっていた。
 そして高校生になった今は、弓道に所属しているが、往年の活躍を知っている先輩達から、剣道部や柔道部への入部を勧められている。
 京子の番がやってきた。
 彼女はできなかった口らしい。おどおどと鉄棒に手を掛けるが、なかなか動こうとはしない。小学校の時にできなかったことは、大人になってもできないままというのは良くあることである。自転車に乗れないという大人も少なからずいる。
 ともかく蹴上がりか逆上がりである。
 できなければ居残り特訓。バスケットチームへの方には回れない。
「京子、頑張れ!」
 智子が声援を送る。
 京子が観念して動き出す。
 するとどうだろう。
 あれだけおどおどしていたのに、軽く体重を持ち上げて鉄棒の上に這いがったのである。
 信じられないといった表情の京子であった。
「ようし、合格だ。次!」
 ゆっくりと鉄棒を降りて、蘭子のそばに腰を降ろす京子。
「できたじゃない。おめでとう」
 祝福する蘭子の言葉にも、呆然とした表情の京子。
 その時、智子は鉄棒に這い上がれずに悪戦苦闘していた。
「おい。鴨川、本気出しているのか? おまえができないはずないだろう」
「そうなんだけど……。おかしいな」
 智子は学業はとんとサッパリだが、体育にかけてはずば抜けた運動神経と反射神経を持っていた。中学生の時には、テニス部のキャプテンを任され、この学校でも先輩に誘われてテニス部に入部。一年生ながらも試合に出場して好成績を収めている。
「深夜映画の見すぎで疲れてんじゃないのか?」
「そうかも……。BS2でいい映画やってるから」
「とにかく不合格だ。居残れ!」
「ほえ~」
 だらしない声を出して居残り組みに入る智子。
 一通りのテストを終えて、居残り鉄棒組みと、合格バスケット組みとに判れての授業がはじまった。

 近鉄南大阪線大阪阿倍野橋駅。
 構内の自動改札口を通る京子がいる。
 彼女は電車通学である。
 3番ホームに発着する準急か急行電車に乗り、河内松原駅で降りる。急行なら一駅だが、準急なら途中駅で急行通過待ちがある。急行は早いが混雑しているし、準急は遅いが座れることが多い。その時の体調や荷物量、急いでいるかどうかでどちらかに決める。
 丁度、準急が発車待ちで停車しており、しかも後続急行のない河内松原先着なので、都合よく乗り込むことにする。座席に腰を降ろし、鞄から本を取り出して読もうとした時に、はす向かいに憧れの人が座っているのに気が付いた。
 同じ阿倍野区にある大阪府立住吉高等学校の二年生で、両校との間には古くからの交流があって、生徒間の交流も盛んである。
 京子は、演劇部の交流会において、顔見知りになっていた。
 相手と視線が合った。
「あれ……?」
 明らかに京子に関心を持ったようだ。
 席を立ってこちらに向かってきて、京子の前に立った。
「君、阿倍野女子高校の演劇部だろ?」
「は、はい。そうです」
「名前を聞いてもいいかい?」
「真谷京子です。一年三組です」
「そうか、君も近鉄通学組みなのか……。駅はどこ?」
「河内松原駅です」
「僕は河内天美駅だよ。隣に座ってもいいかい?」
「はい、どうぞ」
 礼儀正しい少年だった。
 大阪府立住吉高等学校は公立にしては制服がなく、髪型自由でピアスも可という粋な校風である。平成17年のスーパーサイエンスハイスクールの指定校となっている。
 それから二人は演劇の話で盛り上がった。
 憧れの人と知り合え、仲良く慣れそうな雰囲気に幸せそうな京子であった。
 出会いがあれば、別れもある。
 そばにいたカップルが言い争いをはじめた。
「もうあなたとは付き合わないわ。さよならよ」
「ちょっと待てよ」
 電車を降りる女性と追いかける男性。
「いい加減にして!」
 男性の頬に力強い平手打ちを食らわして、さっさと改札口から出て行った。
 取り残され呆然と立ち尽くす男性。

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