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2017年7月16日 (日)

夢想う木刀 其の陸

 インターハイがはじまった。
 剣道大会の組み合わせが抽選会によって、前年度優勝校の福島女子高校と阿倍野女子高校とが決勝戦で顔を合わせることが決まった。もちろん順当に勝ち進めればの話であるが。
 実は抽選くじを引くときに、蘭子が式神を使役して、両校が決勝戦で対戦できるように図ったのである。
「これぐらいのインチキは許してもらえるよね」
 この世に彷徨っている魂を成仏させるための細工なら許されてもいいだろう。
 そして試合がはじまる。
 蘭子のめざましい活躍によって、阿倍野女子高校は勝ち進み、とうとう決勝戦へと駒を進め、福島女子高校も共に決勝進出を果たした。
 ここに因縁の対決が再現する運びとなったのである。
 決勝戦を前にして、柿崎の様子に変化が現れはじめていた。
 柿崎の対戦する相手は、姉を死に追いやった桜宮民子。
 いやがおうにもボルテージが上がる。
 蘭子は井上課長が調べた内容を思い起こしていた。
「実は、その試合。判定は下っていないんだ」
「判定が下っていない?」
「その時、桜宮の放った払い突きが決まったかに見えた。柿崎はこれを身一つ交わして反撃体勢に移ろうとしたが、バランスを崩して転倒してしまった。いわゆるスリップダウンだ。当然ルールによって『止め』が入って試合中断となる。しかし柿崎は二度と起き上がらなかった」
「そうでしたか……。試合決着を果たせないまま、恵美子さんの魂は、この世に未練を残して彷徨いはじめたというわけですね。恵美子さんを浄化させるには、当時の試合を再現して決着を図るしかないでしょう。その魂はあの試合場の中に閉じ込められているのです」
 控えの席に置いてある木刀からオーラが発しはじめ、やがて柿崎の身体へと憑依した。
 それに伴って柿崎の身体が輝きだした。
 もちろん一般の人の目には見えないし、蘭子のような霊能力者にしか見ることができない。
 恵美子は妹の身体を使って、果たせなかった試合の決着をつけるつもりでいるらしい。
 柿崎と桜宮が試合場に登場する。
 因縁の対決のはじまりである。
 技量は双方ともほぼ互角で、激しい鍔迫り合いを続けていた。
 何度かの止めが掛かって、先に一本を取ったのは柿崎だったが、その直後に一本を取り返され、勝負は三本目に決まる。
 ちょっとでも隙を見せればやられる。息詰まる攻防戦。
 観客達も固唾を飲んで魅入っている。
 桜宮が大きく動いた。
 一瞬の隙をついての、喉元への突きが炸裂する。
 柿崎が身をかわして突進を避けるが、バランスを崩して転倒してしまう。
 桜宮の一撃は有効打とは認められず旗は揚がらない。
 転倒によって止めが入って、試合中断。
 倒れた柿崎は身動きしなかった。
 誰しもが身を乗り出していた。
「あの時と同じだ!」
 そうだ。
 柿崎恵美子が亡くなったあの時の状況が再現されていた。
 倒れたまま動かない柿崎。
 審判員が歩み寄って声を掛けている。
「君、大丈夫かね?」
「だ、大丈夫です」
 頭を軽く振って起き上がる柿崎。
 軽い脳震盪のようだ。
 ゆっくりと立ち上がって試合が再開される。
 ここに至って柿崎の発するオーラが一段と激しく揺れ動くのを蘭子は見た。
 柿崎が強く踏み込んで突進した。
 パシン!
 竹刀が桜宮の面を捉えて大きくしなった。
「一本!」
 旗が三つ揚げられて、文句なしの一本だった。
 勝敗が決して両者一礼し、試合場を出て面を脱ぎにかかる。
 柿崎の瞳から大粒の涙が止め処もなく流れていた。
「姉さん……」
 柿崎は気づいていた。
 姉が自分の身体を使って因縁の対決をしていたこと。
 今、思いを遂げた姉の魂が静かに天国へと旅立つ姿を、柿崎はその目にはっきりと見ていた。
「ありがとう、美代子」
 その表情は、やさしい微笑を浮かべながら、静かに昇天していった。

 数日後の柿崎の自宅の庭。
 柿崎が木刀を使っての素振りをしている。
 松虫中学時代の親友である金子が、縁側に腰掛けて見つめている。
 素振りを中断して、金子の隣に腰を降ろす柿崎。
「辻斬りの件については、本当に済まなかったと思っている」
「気にするな。おまえ自身がやったわけじゃない」
「ありがとう……」
「姉さんは、天国へ無事にたどり着いたかな」
「たぶん……」
「ところで、その木刀」
「ああ、これね。亡くなったおじいちゃんの形見分けで、姉さんが子供の頃に譲り受けたものだよ。範士八段でとっても強かったらしいよ。姉さんは、おじいちゃんのように強くなるんだと言って、この木刀で毎日素振りをしていた。だからこれに姉さんの情念が宿っていたのかもしれないね」
「そうか……」
 二人揃って空を仰いでいる。
「ところで蘭子はどうしている?」
「インターハイ出場だけの入部という約束だったから、元の弓道部に戻ったよ」
「あれだけの才能、もったいないな」
「決勝戦まで進めたのは蘭子のおかげ。感謝しているよ。今度は弓道部で大活躍をすることを祈るだけよ」
「そうだな」

 阿倍野女子高校一年三組の教室。
 昼食を終えた蘭子は、頬杖をついてぼんやりと窓の外を眺めている。
 今回の事件では、抽選くじを式神を使って細工した以外、呪法などは使わなかった。
 強力な呪法をもって除霊するだけが陰陽師の仕事ではない。怨霊とて元は人間である。彷徨い出た原因を突き止め、うまく立ち回れば怨霊自ら成仏してくれることもある。
 それこそが本当の意味での除霊なのではないだろうか……。
 良い経験になったと思う蘭子だった。

「食え!」

 と突然声がしたかと思うと、目の前の机の上にハムカツサンドが置かれた。
 振り返ってみると、空手部主将の望月愛子だった。
「剣道部では大活躍したそうだな。今度はうちの空手部の助っ人を頼む」
 どうやら、ハムカツサンドで助っ人するという、間違った噂が流れているらしい。
 頭を抱えてしまう蘭子だった。

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