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2017年7月12日 (水)

夢想う木刀 其の弐

 翌朝、逢坂家の食卓。
 蘭子と家族が食事を摂っている。
 TVでは朝のニュースが流れている。
「昨夜。午後七時頃、辻斬りがありました」
「辻斬り?」
 蘭子の眉がぴくりと反応した。
 TVに耳を傾ける。
 ニュースは、昨夜の住吉高校剣道部辻斬り事件を報道していた。
 関係者の談によると、高校総体を間近に控えて、実力者を闇討ちで討伐しようとしたのでないかと憶測が流れているという。
「昨夜は何も感じなかったか?」
「いいえ」
「そうか……」
 妖魔が事件に絡んでいるのではなさそうである。
 蘭子は妖魔が放つ妖気を、どんなに微かでも感じる能力を持ち合わせていた。それが感じられなかったということは単なる辻斬りか、でなければ悪霊の類である。怨霊なら怨念を晴らしさえすれば勝手に成仏してくれるが、妖魔は容赦がないので放ってはおけない。
「もし怨霊の仕業だとしたら、インターハイにまつわる何かがあって、成仏できないでいるのでしょう。この時期に事件が発生したことを考えれば」
「そうかも知れないな」

 阿倍野女子高校一年三組の教室。
 昼食を終えてのリラックスタイム。
 外へ遊びに出るものもいれば、惰眠をむさぼる者もいる。
 蘭子はというと頬杖をついて、ぼんやりと窓の外の景色を眺めていた。
「食え!」
 と、突然声がしたかと思うと、机の上にハムカツサンドが置かれた。
 振り返ってみると、中学時代の二年先輩の柿崎美代子だった。
 さらに、バンと叩きつけられたのは、入部届だった。
「サインしろ! 必要事項はこちらですべて記入してある」
「これはどういうことですか?」
「おまえは今日から剣道部の部員だ」
 入部届には剣道部と書かれ、その他必要事項がちゃんと記入されていて、後は自分の署名を入れるだけとなっている。
「どうしてそうなるのですか?」
 柿崎は対面するように前の席に逆すわりして続ける。
「インターハイが近いな」
 というと顔をグイと睨めっこのごとく近づける
「そのようですな」
「おまえを団体戦と個人戦の出場選手として登録する。存分に戦え」
「だから、どうしてそうなるのですかと伺っているのです」
 柿崎は一方的に決め付けて掛かっていた。蘭子の質問には答えようとはしない。
「他の部員達も了承している。一年生ながらも実力は中学時代に証明済みだ。心置きなく修業に励むことができるぞ」
「そうですか……」
 聞き耳を持たない相手に対して、蘭子の返事もぞんざいになってくる。
「中学時代には府大会試合では、常にベスト8をキープし、優勝も何度か経験している。その腕前をみすみす埋もらせたくないのだ」
「関係ないでしょう」
「どうしてもだめか?」
「今は弓道部です」
「そうか……」
 しばし言葉が途切れた。
 じっと蘭子の瞳を凝視している柿崎。
 蘭子も負けじと睨み返している。
 まるで時が止まったように身動きしない。
 窓から拭きぬける風が二人の髪をそよがせている。
「ふっ……」
 と、深いため息をついて体勢を崩す柿崎。
 柿崎は立ち上がり、入部届を取りながら言った。
「まあ、いいわ。今日のところはおとなしく引き下がるけど、何度でもくるからね」
 そして一年三組の教室から退室した。
 机の上には、ハムカツサンドが残されていた。
 このハムカツサンドは、カツに入っている肉がとてもジューシーでおいしく、歯ごたえもなかなかで人気の商品となっており、購買部ではすぐに売り切れてしまう。
 いわゆるまぼろしのハムカツサンドと呼ばれている。
 それをわざわざ手に入れて持参したのは、蘭子を是が非でも剣道部へ入れようという強い意志の表れなのであろう。
 さて、このハムカツサンドはどうするべきか?
 食べてしまえば、入部を承諾したことになるのだろうか?
 先輩は食べたからといって、それを口実に入部を迫るような性格ではない。純粋に差し入れと考えていいだろう。
 すでに昼食は終えていたが、捨てるにはもったいなくて、生産農家の皆様には申し訳ない。
 人気のハムカツサンドである。
 ハムカツサンドを取り、包装を解いて食べ始める。
 実においしかった。

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