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2017年8月11日 (金)

思いはるかな甲子園/執念

 思いはるかな甲子園

■ 執念 ■  さらに回は進んで八回の裏。  栄進の攻撃は九番の梓から。梓が出塁すれば、一番からの好打順が回ってくるとい う場面であった。得点は0対0。 「ここが最後のチャンスね。何としても塁に出なくちゃ」  バットを重そうに持ちながら打席に入る梓。 「ふん。女の子相手に変化球なんかいらねえや。ストレートのど真ん中で勝負してや るよ」  梓の様子を見て悟った投手の堀米は、捕手とのサインも交わさずに簡単にストライ クを放りこんできた。 「ちきしょう。女の子だと思って、ど真ん中に投げてきやがる」 『ツーストライク。ツーストライクです。真条寺君、後がありません。ピッチャー、 振りかぶりました。三球目』  梓は、それをカットしてファールで逃げた。 「しゃらくせえこと、しやがるな」 『ピッチャー、四球目を投げます。あっと! ファールです。真条寺君、ファールで 粘ります』 『しかしピッチャーの堀米君。もう少し間合いをとってじっくり投げたほうがいいで すよ。こうもぽんぽんと投げ込んでいては、なかなか討ち取れませんよ』 『おおっと、またもや、ファールです。真条寺君も、疲れきった身体に鞭打って頑張 っています』  次第に焦りだす堀米投手。相手は投手、しかも女の子を討ち取れない。 『堀米投手、一旦プレートを外して、ロジンバッグを手に取りました』  梓も合わせるように、タイムを掛けてバッターボックスを出る。 『タイムです。双方、一呼吸するように、それぞれ間合いを取っています。真条寺選 手、滑り止めスプレーをバットに吹きかけています』 『緊張して手に汗が出ますから、まあ自然でしょう』  その時、栄進高校側の応援席にちょっとしたざわめきが起こった。  長居浩二の母親が、遺影を抱えて入場してきたのだ。  それと知った応援団の一人が、観客に促し道を開けさせて、グラウンドが見渡せる 最前列に案内する。  目ざとくそれを見つけたアナウンサー。 『栄進高校応援席をご覧ください』  マウンドを映していたTV中継のカメラが、観客席を映すカメラに切り替えられる。 『去年の決勝戦を直前にして亡くなられた、長居浩二君のお母さんのようです』  カメラは遺影をクローズアップする。  アナウンサーの手元のモニターに映し出された遺影。  マウンド上で、今まさにボールが指から離れた瞬間を正面から捉えた、ユニフォー ム姿の写真であった。 『長居浩二君です。母親に抱えられて、母校の試合を観戦に、そして応援にきました』  応援席のざわめきによって、ダッグアウトの野球部員達も気付くこととなった。  もちろん梓も。 「母さん……来てくれたんだ」  目頭が熱くなり、涙がこぼれそうになる梓。  しかし今は泣いている場合ではない。  汗を拭うように、ユニフォームの袖で拭き取る。  そしてバッターボックスに戻る。 「プレイ!」  主審の声で試合再開。 『ファール!ファールです。真条寺君、相変わらずファールで粘って、絶好球が来る のをひたすら待つ戦法です』 『これは辛いですね。投手も打者も双方共に精神疲れます』 「ちきしょう。これでどうだあ!」  大きく振りかぶる堀米投手。 「コースと球種さえ判れば、このあたしにだって当てられるんだ。しかし、腕力のな いあたしが打ち返すには、フルスウィングで真芯を捕らえるしかない」  ピッチャーが振りかぶると同時に、打撃態勢に入る梓。  バットに全精力を注いで、渾身の力を込めてフルスウィングする梓。  カキーン!  そしてバットは見事真芯を捕らえて、ボールはレフト方向へ。 『打った! 打ちました。前進守備の外野の間を抜けて、ボールはフェンス際を点々 と転がっています。長打コースです。ランナーは一塁を蹴って二塁へ向かいます。が しかし足が遅い。レフトからの返球が早いか? いや、間に合いました。セーフです。 二塁打。二塁打です』 『彼は、ファールで粘りながらも、タイミングを計っていたんでしょうねえ』  グラブを地面に叩きつけて悔しがるピッチャー。 「ちくしょう! この俺が、女になんかに打たれるなんて……」  それを見た捕手の金井主将が、タイムをかけて駆け寄る。 「どうした? 堀米、おまえが打たれるなんて」 「なんでもねえよ」 「ならいいが……とにかく」  といいながら梓を見る金井。全速力で走ったので肩で息をしている。 「あれじゃあ、彼女はとうてい走れないだろう。バッター勝負で行こう」 「わかってるさ」  グラブを拾う堀米。 『さあ、打順は一番に戻って打撃好調の木田君の登場です。二塁打と単打二つを打っ ています』 『やはりここは、真条寺君を楽に返してあげる為に、ホームラン狙いで振り回してく るでしょうねえ』  二塁に達した梓に視線を送りながら、一番の木田。 「絶対に梓ちゃんをホームに迎え入れてやる。しかし梓ちゃんは足が遅い、しかも疲 れ切っているんだ。バントなんて姑息な手段は取れねえ、長打を狙うしかない……」  振りかぶって投球モーションに入る堀米。 「ちきしょう! 梓ちゃんが走れないことをいいことに、振り被りやがって」  ストライク!  梓、二塁上で息を整えながらも、敵の守備陣形を確認している。 「城東は、あたしが走れないと思ってる。となると警戒するのは、長打ということで、 かなり深い守備陣形をとっているわ。ワンアウトだから補球を確認しなきゃ進塁でき ないし、ヒットになっても、フライでタッチアップしても、あたしの足じゃ三塁でア ウトだ。やるっきゃないか……」  大きく深呼吸してから、バッターボックスの木田に合図を送る。 (なに! おい、嘘だろ?)  サインを見た木田が煩悶して再確認する。が、サインは変わらなかった。 (わかったよ。梓ちゃんが、そこまでやるというならな) 『ピッチャー、第二球投げました』  木田、ピッチャーの投球と同時にバントに構えた。  梓は、三塁へ突進する。 『あ! 木田君、いきなりバント! 真条寺君、走った。バンドエンドランだ』  打球は三塁線を転がっていく。 『これは、完全に球威を殺して、絶妙なバントになりました。サード、ボールを取り ましたがどちらにも投げられません。内野安打です。真条寺君、楽々三塁に達しまし た。木田君も一塁に生きました』 『バッターが打撃好調の木田君ということで、一打逆転を警戒して、深い守備陣をと っていた城東の野手達。その裏をかいてのバント攻撃でしたね。確か、木田君のバン トははじめてのことでしょう』 「へん。梓ちゃんに言われて、バントも練習していたんだよ」  鼻を鳴らしながら自慢気に呟く木田。  そして、センターから梓の後ろ姿を見つめながら感心する沢渡。 「さすが梓さんだ。守備の弱点を的確についてくる。しかも自分が一番疲れているは ずなのに、常に全精力を出している。見習うべきだな」

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