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2017年9月

2017年9月30日 (土)

梓の非日常/第一章 過去に別れを

梓の非日常/第一章 生まれ変わり

(六)過去に別れを  退院の日がきた。  病室では、麗香が梓の荷物をまとめている。母親の渚は梓の着替えを手伝っている。 ネグリジェから、はじめて外出着である白い木綿のワンピースを身にまとう梓。  主治医や看護婦に見送られながら玄関を出ると、目の前には黒塗りのロールス・ロ イス・ファントムVIが横付けされていた。 『お嬢さま、ご退院おめでとうございます』  運転手が深々とお辞儀をして出迎える。 『あ、ありがとう。ええと……白井さん……でしたっけ』  今の梓にとっては会ったことのないはずの人物であったが、超高級車であるロール ス・ロイスというキーワードが、過去の記憶の中から自分専属のお抱え運転手白井と いう名前を呼び起こしたのだった。 『はい。さようでございます』  梓の記憶障害のことは白井にも知らされているのか、少しの動揺も見せていない。 後部座席を開けると、梓の乗車を促した。 『どうぞ、お嬢さま』  促されるまま、乗車し後部座席に腰を降ろす梓。運転手は、ドアを閉めて反対側に 母親の渚を乗せると、麗香の運んできた荷物をトランクにしまう。それが済むと麗香 は助手席に、白井は運転席に着席する。 『白井。まずは、長沼さまの所に伺います』 『かしこまりました、渚さま』  ロールス・ロイスは病院の玄関前を発進した。 『長沼……?』 『あなたの命を救ってくれた方ですよ。長沼浩二さん』  ……そうか。長沼浩二というのが、男だった時の俺の名前か……会えるのか? こ の俺自身に……  川越の町並みをロールス・ロイスが走り抜ける。  梓としての記憶をたどると、一度も見たことのない風景が流れているのだが、いつ かどこかで見たような雰囲気、デジャブー現象を覚える梓だった。  それはかつての長沼という男の持つ記憶のイメージなのか。しかし、今の梓にはそ れを確認する術はなかった。梓としての記憶はあっても、長沼としての記憶は持ち合 わせていないのだ。  やがてとある民家の前に停まるロールス・ロイス。 『着きましたよ。梓』  白井がドアを開けてくれる。  ゆっくり車から降りて、その民家を眺めると、どこにでもありそうな、いわゆる分 譲住宅4LDKという間取りのごく普通の家だ。玄関には長沼健児という表札がかか っており、郵便ポストにはその名の他に、良子、良一、京子、そして浩二という名が しるされている。つまり浩二は五人家族の末っ子だったらしい。もっとも梓にはその 字が読めるわけもないが。  母親が、出てきた家の居住者に頭を下げ、時々梓の方を見やりながら何事か話して いる。 『梓、いらっしゃい』  呼ばれて母親のそばに寄る梓。 「こちらが梓さんですか。とっても可愛いお嬢さまね」 「はい。おかげ様で傷一つなく」  渚はその母親のために、日本語を使っている。 「浩二に会っていただけますか、梓さん」 『……?』  日本語の判らない梓に、母親が通訳しながらそっと梓の背を押して促した。 『はい……』  梓は小さく呟くように声を出し、玄関から中へ上がっていく。  居間のサイドテーブルに簡便な仏壇状のものが設けられ、手向けられた花束に囲ま れて位牌と遺影がそっと置かれてある。 「浩二ですわ」  遺影を指し示して、 「私は、生前の息子は人様にご迷惑をかけるだけの乱暴者の不良だと思っていました。 でも、こんなお嬢さまを身を呈して助けることのできる正義感のある男の子だった。 私は、息子を信じてやれなかった自分を、母親として恥ずかしく思っています」  渚が梓の耳元で、英語に通訳している。 「梓さん」 『はい』 「あなたには、浩二の分まで長生きして欲しいと思ってます。事故のことがトラウマ として残らなければいいのですが、早く忘れて自分の人生を歩んでください」 『あの……浩二さんのお部屋、見せていただけませんか』  渚の通訳を介して、梓の意志を汲みとったのか、 「いいでしょう。こちらです」  案内されて二階の浩二の部屋に入る梓。 「下で待っていますわ」  気を利かせたのか、梓を残して下に降りていく母親達。 『ここに長沼浩二が暮らしていたのか』  机と椅子があり、本棚には本が並んでいる。窓際にはベッドが置かれ青いカーテン が引かれている。しかし、いくら思い起こそうとしても、この部屋の住人である長沼 浩二という人物の生活の記憶がまるで出てこなかった。  そうなのだ、今の自分にある記憶のほとんどすべて、真条寺梓という十二歳の少女 のものでしかなかったのだ。  今自分が抱いている長沼浩二という記憶は、もはやただ単なるイメージでしかない のに気がついた。  本棚にあった本を一冊取り出してみる。  熟れた人妻、乱れ髪。  というタイトルが目に入る。 『な、なにこれ』  ページを開けば、裸体のオンパレード。くんずほずれつ言葉に言いがたい。 『こんなもの読んでたのかよ。俺は……冗談じゃない』  真っ赤になっている自分に気づく梓。それは男としての欲情ではなく、まさしく女 性特有の恥じらいの表情であった。  ぱたんと本を閉じて元の場所に戻す梓。  ふう……  思わずため息をもらす梓。  かつて自分が暮らしていたはずの部屋ではあったが、今の梓にとっては何らの感情 も抱くことのない単なる空間でしかない。 『ここは、今の自分が来る場所ではなかったか……』  静かにその部屋を出ることにする。  その表情は、もはや過去の遺影と化した長沼浩二と決別し、新たなる梓という人生 を生きる決意に満ちていた。

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2017年9月29日 (金)

銀河戦記/第四章 情報参謀レイチェル II

第四章 情報参謀レイチェル

                   II 「でね。あたしが受けたのは非合法な方法よ。卵巣や子宮などは、すべて本物の臓器 を移植したの。それでも移植した卵巣の女性ホルモン分泌量が足りないから、体内に 女性ホルモンが封じられたカプセルが植え込んであって、一定量ずつ徐々に溶けだす ようになっていますのよ。だから時々年に一回、カプセルを取り替えなければいけま せんの。手術から三年経ったかしら、卵巣とカプセルから分泌される女性ホルモンの おかげで、こうして自然に胸も発達したというわけよ。シリコンなんか入れていない のよ」 「つまりほとんど本物というわけか」 「そうですわ。嘘だとお思いになるなら、触ってもいいですわよ」 「遠慮しとくよ」 「ふふふ……」 「ところで、君は何の仕事してるのかい。やっぱりその道の仕事?」 「いいえ。あなたと同じ軍に入っておりますわ。これでも少尉ですのよ」 「少尉? ということはやはり女性士官の軍服を着るのか。軍籍は男のままなんだろ う。よく上官が許したな」 「いいえ。あたしのお友達にハッカーやっている人がいましてね。その人にお願いし て、軍籍登録しているコンピューターに入り込んで、性別を女性に書き換えてもらい ましたの。つまり現在のあたしは、軍籍上では女性ということになっていますの。も ちろん国籍上もです」 「本当かよ。軍のコンピューターっていうのは、外部からの侵入は絶対不可能といわ れているほどガードが固いはず。よく侵入できたなあ」 「その人がいうには、オンラインで外部に接続している限り、必ず侵入する手だては あるそうですわ」  確かに、そういったことがあるのはアレックスでも知っている。特に知られている のが、プログラム開発者などが、自分専用の裏道コードを設定している場合などであ る。そのコードが判れば、ハッカー監視システムに引っ掛かることなく、簡単にガー ドを突破して侵入できるという。 「ふうん……」  アレックスは、しばらく黙り込んでいた。もし、レイチェルのいうことが本当なら、 これは使えるかもしれない。アレックスの配下にもコンピューターウィルスを専門に 駆除する担当の技術者がいる。士官学校時代、模擬戦において基地のコンピューター に細工をして、ミリオン達に気付かれることなく手玉にとった影の功労者、あのレイ ティ・コズミック少尉である。駆除するのが専門とはいえ、その逆もまた得意中の得 意であり、絶対に誰にも気付かれないようなウィルスを作成できることを自慢してい た。  もしそのハッカーとレイティがコンビを組めば……例えば、敵軍のコンピューター システムに侵入して、こちらに有利となるようなウィルスを忍び込ませることが出来 れば。 「レイチェル。そのハッカーを紹介してくれないかな」 「かまいませんけど……。でもハッカーという人達はガードが非常に固いから、会っ てくれるかどうかわかりませんわよ」 「とにかく接触さえ出来れば、後は僕がなんとかする。もし彼が協力してくれるなら ば、ハッカーとしての腕を存分に発揮できうる活躍の場所を提供できるだろう。そう 伝えてくれないか」 「わかりましたわ」 「よろしく、頼むよ」  ふと時計をみると、午後三時を回っていた。 「あ、もう時間だ。行かなければならない所があるから、これで失礼するよ」  と立ち上がり去ろうとした時に、レイチェルが切り出した。 「そうそう。あたしね、あなたの部隊に配属されることが決まりましたから」 「え? 僕の部隊に」 「独立遊撃部隊が再編成されるというので、転属希望を出してみたら通ってしまいま したのよ。書類はたぶんもうそちらの部隊の人事課に回っていると思いますから、目 を通しておいてくださいませね」

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2017年9月28日 (木)

梓の非日常/第一章 今後のこと

梓の非日常/第一章 生まれ変わり

(五)今後のこと  数日後。  病院の屋上の手すりにもたれかけぼんやりとしているネグリジェ姿の梓。長い髪が そよ風になびいている。 『頭が痛いな……身体がふらふらする』  精神と身体が、完全に同調していないといった感じであった。  梓はずっと思い悩んでいた。それは、この梓になる以前の男だった自分自身のこと だった。母親も麗香も、梓に心配させないように配慮しているのか、その件に関して は口をつぐんだままだった。  生きているのか、死んでいるのか。  もし生きているのなら、その精神は一体どうなっているのか。心と身体が入れ代わ ったという設定の映画や漫画がいくつか存在する。だとしたら、本来の梓の精神が男 の身体の方に乗り移っているということもある。もしかしたら元の身体にそれぞれ戻 れる可能性があるということじゃないか。  反対に死んでしまっていたとしたら、永遠にこの梓の身体で生きていかなければな らないことを意味する。あの二人が口をつぐんでいる状況を考えれば、こちらの可能 性が高いのは確かだろう。交通事故当時、俺は死を覚悟していたような気がするし。 だとしたら……。  梓は深いため息をついて、しばし思考を中断させた。ふと天を仰げば、透き通るよ うな青い空に白い雲が流れていく。 『本当は他人なのに……こんなに尽くしてくれるなんて……このままでいいのだろう か……しかし一生、この梓という女の子の身体で、生きていくしかないとしたら……。 十二歳の少女が一人で生きていけるわけがないし、この先もあの人達に養ってもらう しかない。心は入れ替わっても身体は梓そのものなんだし、だからこそ母親も麗香さ んもいろいろと心配して尽くしてくれている。気が重いなあ、どうすりゃいいんだろ う……』  だいたいからして、意識しなくても口から出てくるこの英語の言葉も、この日本に おいては大問題である。病院内ですれ違う度に聞こえてくる、患者や訪問者達が語り 合っている日本語らしき言葉がまるで理解できない。英語の通じる日本人など皆無に 等しく、英語で道を聞かれた時あわてて逃げてしまう、外国語に拒絶反応を示すのも 日本人である。せいぜい、「This is a pen.」か「I am a boy.」くらいならともか くも。  階下に続く階段から麗香が小走りにやってくる。 『こちらにいらっしゃったんですか。探しましたよ』  といいながら自分の着ていたカーデガンを脱いで、梓に掛けてくれている。 『風邪をひきますよ。病室に戻りましょう』 『ねえ。あれは、何?』  梓が隣の建物を指差して質問した。 『見たところ。同じ敷地にあるけど、病院じゃないみたい』 『あれは、生命科学研究所ですよ。この病院もそこの付属施設なんです。お嬢さまが 仮死状態の時には、あちら側のICU・集中治療室で蘇生治療が行われていたんです。 意識が戻られてからは、こちら側に移動しましたけど』 『ふうん……』 『遺伝子研究、ES細胞の研究、クローン技術、大脳生理学の研究、そして不治の治 療を未来に託すための冷凍睡眠技術の確立など、生命科学に関するありとあらゆる研 究がなされています』 『そうなんだ』 『あ、そうそう。明日、あの研究所にあるPEDで、お嬢さまの頭部の診断をするそ うです』 『PED?』 『正式には陽電子放射断層撮影装置っていうんですけど、大脳の生理活動状態をリア ルタイムで見ることができる装置なんです。つまり大脳のどこが活動してて、どこが 休止もしくは壊死しているとかが、リアリティーにわかるそうです』 『ん……記憶障害の原因がどこにあるかが判るということか』 『そうですね。これがたぶん最後になるだろうということですが、診断次第で退院で きるかどうか判断するそうです』 『最後ってことは、意識を失っている間に何度かPEDに入ったということだね』 『はい、そうです。さあ、これくらいにして、病室に戻りましょうか』  麗香にそっと肩を押されて、階段に向かう梓だが、なおも名残惜しそうに振り返る。 『生命科学研究所か……』

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空飛ぶ家の激写に成功!

インターポット

ついに空飛ぶ家を激写に成功しました。

なかなか機会がないうえに、高速で飛び出していくので、
カメラ撮影は非常に難しいのですが、
ついにその姿を撮影に成功しました。

前兆現象として、窓に人影らしものが見え、
家がブルブルと震えだすこと。

久しぶりにその前兆に遭遇したので、カメラ構えて待ち構えていました。
一回目はシャッター切るのが遅くて失敗。
フレームから画面外まで飛び出してしまいました。

空から戻って着地した後も、じっと観察していると、
再び震えだしたので、カメラを構えて慎重に待つ!

飛んだ!
それシャッタークリック!
一瞬また見逃したかと思ったが、無事にフレーム内に入っていました。

成功!

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2017年9月27日 (水)

銀河戦記/第四章 情報参謀レイチェル I

第四章 情報参謀レイチェル

                  I  部隊に戻ったアレックスは独立遊撃部隊の再編成に大車輪で取り掛からねばならな かった。なにせ独立部隊のためすべてを自分自身で行わなければならなかったのであ る。 「ああ、副官が欲しいな……」  アレックスは少佐であるから、本来なら副官がついても良いのだが、あまり急なた め適当な人物がいなかったのである。作戦を立てるのはお手のものであったが、それ を正式な書類などにしたためることは苦手であった。言ってみればキーボードやプリ ンターなどの周辺機器の接続されていない高性能パソコンみたいなものである。  再編成にあたり、必要な艦船リストや装備・備品の申請など、ことあるごとに書類 が必要になってくるのに、その方面の手際が鈍臭いアレックス。時間ばかりかかって 少しも再編成は進まなかった。こんな時パトリシアがいればと思うのだが、彼女はま だ士官学校の学生である。  少佐になったことで勤務時間が終了すれば、いつでもパトリシアの待つ官舎に戻る ことができるようになったとはいえ、軍規には学生を徴用してはならないと定められ ている。ゆえにパトリシアが代筆して手続き書類などの作成をすることは許されてい ない。 「ごめんなさい。お役に立てなくて……」  夫のために何かしてあげたいと思うパトリシアにしても、卒業して任官されるまで は手の出しようがない。  忙しく働き回るアレックスが、図書館で調べものをあさっている時のことであった。  そこへ褐色の瞳に黒い艶のある長い髪の身長百六十五センチほどの小柄な女性が、 親しげに話しかけてきた。 「こんにちは、アレックス」  自分の名を呼ぶところを見ると、どこかで会っているのであろうが、まるで記憶が なかった。いくら自分が物忘れの天才であろうとも、これだけの美人なら忘れるはず がないのだが。 「おわかりになりません? あたしです、レイチェルです」 「レイチェル?」 「わかりませんでしょうか。ほら、あなたの幼馴染みの」 「え……、まさか……あの泣き虫の」 「そう、その泣き虫のレイチェルです」 「しかし、彼は……男の子だぞ」 「そうでしたわね」 「そうでしたって、まさか」 「性転換手術を受けましたの」 「性転換した?」  驚きのあまりアレックスは二の句を継げることが出来なかった。  静かな図書館では会話がまわりに筒抜けになるのを心配して、二人は場所を変える ことにした。  図書館を出てすぐ近くにある喫茶店に入って話しの続きをすることにした。 「その胸はシリコンが入っているのかい」  アレックスはレイチェルの豊かな胸の膨らみをまじまじと見つめながら尋ねた。相 手が本物の女性なら失礼にあたるだろうが、かつて一緒に遊んだことのあるもとは男 だった幼馴染みである。それにわざと見せ付けているふしも見られた。 「いいえ。この胸は本物よ」  レイチェルは、アレックスにも判るように簡単な説明をしてあげた。  性転換手術にも何種類かの方法がある。  完全性転換術として、性転換を臨む男女両性が、性転換移植バンクに登録して、免 疫的な血液型の合った者同士が、それぞれの生殖臓器を交換移植しあう方法がある。 卵巣・子宮・膣等の女性生殖臓器と、精巣・前立腺・陰茎等の男性生殖臓器をそっく り交換するために、生殖的な性別の完全転換が行える。反面子孫を残す自分自身の遺 伝子をも相手と交換するために、本来自分自身でない子孫を産み出すことになる。  この手術法による性転換を受けるには、最低三年間のカウンセリングを受けつつ、 性ホルモン投与などによる段階的な外観的異性化といった予備治療を経た後、本人の 意志が確固として変わらないことを認めた場合。なおかつ遺伝子的に違って生まれる 子供を、自分の子として認知することを誓約する念書、及び国籍上の性別変更許可申 請書に署名し、裁判所がこれを受理した場合。  他人の精子や卵子をもらって体外受精を施し生まれた子を、自分の子として養育し てきた過去の例を見ても、この点に関しては問題を生じたケースはほとんどなかった。 当人達にとっては、自分自身の遺伝子情報よりも、妊娠し子を宿せる真の女性の姿に、 また女性を妊娠させる能力のある真の男性になることのほうが重大なのである。  ただこの術法の問題点として、性転換を希望する男女の比率が同等である必要があ ることだが、女性から男性へよりも男性から女性へと希望する数の方が圧倒的に多い という現実があった。当然、男性化を希望する場合はほぼ百パーセントで適えられる が、女性化を希望するものはなかなか適えられない者もいるわけである。  そんな人達のために、女性ホルモンが関与する癌の進行抑制のために摘出された卵 巣、脳死状態に陥った患者からの子宮や膣などの臓器移植などが行われている。さら には形成外科的に造成する手術もある。  これらは臓器の供与者となる患者本人の同意や念書などが得られていないので非合 法扱いであり、性転換者に国籍上の性別を変更する許可は与えられない。それでも性 転換を望む者が後を立たないために、闇の臓器ブローカーが暗躍する土壌を産み出し ている。

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日本橋まで行っとくれ~えっさほいさっさ♪

インターポット

日本橋まで大急ぎで行っとくれ!

「いやあ、あっしゃあ腰痛持ちでさあ」
「へえ、あっしはヘルニアでして」

NPCの駕籠かきがどこからともなく現れて、
駕籠をかついで、えっほらえっほら道行くのですが、
駕籠の重さだけでも50kgあって、乗客と合わせると100kg。
それでひと時も休まずに目的地まで運ぶのですから。
そりゃあ、関節痛などになるのは当たり前でしょう。

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2017年9月26日 (火)

梓の非日常/第一章 記憶の糸

梓の非日常/第一章 生まれ変わり

(四)記憶の糸  一人きりになり、改めて考えなおしてみる。  どうやら言語中枢は正常に機能していて、梓という女の子が日常的に使っているら しい英語を理解し話している。しかし記憶領域があいまいで、母親の言うとおり記憶 の混乱が生じているようだ。自分が梓という女の子であるという意識はあるにはある のだが、その一方では自分が男だったような意識の方が強く存在するのだ。  そして根本的な疑問があった。  自分が何故に病院に入院しているのかという疑問である。  母親はその件に関しては何も語っておらず、何故か隠しているような気もする。  記憶の糸をたぐってみる。  横断歩道、女の子、喧嘩、大型トラック、交通事故、血痕、信号機、サイレンの音。  次々と単語が思い浮かんでくる。  交通事故!  そうだ、それだ。交通事故にあったのなら、病院に入院している理由も納得がいく。 『お、思い出したぞ。事故の瞬間!』  交通事故の瞬間の情景が浮かんできた。  交差点で青信号で女の子が歩道を渡りはじめる。そこへ信号無視した大型トラック が襲いかかる。そこへ飛び込んで女の子を抱きかかえる男。  その事故の瞬間の情景が、果たして女の子の視点なのか、男の方の視点なのかはっ きりしない。ただイメージとして強く残っているのだ。事故という突然に起きた出来 事である、はっきり記憶しているほうがおかしいのかもしれない。 『間違いない。今の自分の意識は、その女の子を抱きかかえた男の方だ』  大型トラックに轢かれそうになった女の子を助けた男が、自分自身の本当の姿に違 いない。  ドアがノックされる。  ややあってドアが開き一人の若い女性が入って来る。麗香である。 『あら、起きてらしたのですか』  梓はベッドに腰掛けたまま、窓の外をぼんやりと見つめたままだった。 『あなたは?』  渚から意識障害のことを知らされている麗香はやさしく答える。 『お嬢さま。お忘れですか、麗香です。お嬢さまの身辺のお世話を任されている竜崎 麗香です』 『麗香……さん?』 『はい。そうです』  ……麗香さんか。お母さんが言ってた人。そういえば確かに見た覚えがある。しか し、俺は一度もあったことないはずだし……コロンビア大学?……なんかしらんが、 言葉まで浮かんできやがった…… 『麗香さんて、コロンビア大学だっけ』 『はい。コロンビア大学を卒業しました。それはお嬢さまもよくご存じのはずですよ ね』 『そう、確か、ニューヨークの寮に一緒に住んでた……でもなぜ……』  コロンビア大学という言葉をキーワードとして、麗香に関する記憶の糸が引き出さ れていく。セント・ジョン教会、五番街、世界貿易センター、セントラルパークなど、 次々と単語が浮かんでは消えていく。それは梓が過去に麗香と共に体験し記憶として 持っているものだった。 『あ、頭が痛い……』  記憶を無理矢理に引きだそうとしているせいか、精神力をかなり消耗していたのだ った。精神のオーバーロードを起こし、頭を抱えて苦しみだす梓。 『お、お嬢さま。無理なさらないで。私が軽率な発言したばかりに』  麗香は、自分のことを梓に確認させるような発言をしたことを後悔した。  病室内、ベッドに眠る梓のそばで、麗香と渚が見守っている。 「鎮静剤が効いてよく眠っております。容体のほうは異常ありません」  医者が脈を計りながら報告した。 『申し訳ありませんでした。渚さま』  深く頭を下げている麗香。 『注意が足りなかったようですね。梓は、記憶障害を起こしていて、精神も不安定な のです。過去の記憶に触れる時は十分に気を付けなければいけないのです』 『はい。以後、気をつけます』 『そうしてください。でもね、麗香さんには、今後とも期待しているのです。何せ、 母親である私以上に、もっとも親密に梓と生活を共にしてきた間柄なのですから』  コロンビア大学やニューヨークの寮生活のことを思いだしたらしい梓に、先行き明 るい希望が見えてきたことを確認し、梓をじっと見つめる二人。

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ニンジンのお世話?

インターポット

作物ニンジンというアイテムがあります。
説明によると、アバターが時々お世話をすることがあります、とのこと。

てことで、ニンジンのお世話をしているところみたいですが……。

ただただ足踏みしているだけなんですよね。

つうか、踏みつけているようにしか見えないんだが(;^ω^)

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2017年9月25日 (月)

銀河戦記/第三章 模擬戦闘 IX

第三章 模擬戦闘

                  IX  応接室の応接セットに座るアレックスとゴードン。  目の前のテーブルにはマイクが並べられ、周囲をTVカメラが囲んでいる。 「それでは合同記者会見をはじめます」  姿勢を正す二人。 「お二人とも、まずは昇進おめでとうございます」 「ありがとうございます」  ほぼ同時に礼をいう二人。 「ランドール少佐は、特別名誉昇進で二年後には大佐への昇進も約束されているそう ですが、この点に関して何か意見がございますか」 「私のような若輩者が、こんな栄誉な地位を与えられて、見に余る光栄というべきで しょうが、いくらなんでも極端すぎると恐縮してます」 「しかし敗走を続ける同盟軍には英雄の存在が不可欠なのも事実だと思います。軍の 規定ではあり得ない特別名誉昇進という今回の昇進劇も、国会や行政府内閣官房調査 室などの政府からの強い後押しで決定されたものです」 「そうらしいですね。軍部の意向を無視した行政府の勝手な決定で、将校達の猛反発 がいまだに続いているようです」 「オニール大尉はこの件には、どう思われますか」 「そうですね。選挙が近いからでしょう」  ゴードンがそっけなく答えると、場内から笑いが起こった。 「つまり、英雄を担ぎ上げることで自身の評判を高め、次の選挙を有利に戦いたいと いう議員達の思惑がからんでいると。そうおっしゃるのですね」 「世間では周知の事実じゃないですか」 「そんなこと、この場所で発言してよろしいのですか。この放送は議員達も聞いてい ますよ」 「別に構いませんよ。議員達のことは、世間にまかせておけばいい。俺達が相手にし なければならないのは、軍部の好意的ではない上層部の将軍達ですよ。実際、配属は 一応第十七艦隊に所属しているとはいえ、トライトン准将でさえ直接命令を下せない 特別独立遊撃部隊ということになってます。単独でどこへでも出撃させられる捨て駒 的存在ですよ」 「そこまでも言ってしまわれるのですね」 「まあね。士官学校時代からも、いつも教官から疎まれてきましたからね。慣れっこ になっているんです。一見常軌を逸したとも取れる行動ばかりとるアレックスと一緒 にいる限り、まともな生き方はできないってね」 「常軌を逸したって、たとえば?」 「スベリニアン校舎祭に、地下室でバニーガールまで集めてカジノを主催したり、科 学実験と称して密造酒を造って売りさばいたり、本人は生活費を稼ぐためだとか言っ てましたがね」 「校舎内でそんなことをやってたのですか?」 「いやあ、どちらもすぐに教官に見つかりましてね。売上金のほとんどを自治会費の 方へ強制的に収納させられたようです」 「少佐殿、今の話し本当ですか?」 「ええ、まあ……そんなこともありましたね」 「しかしお二人は、少尉として特待昇進卒業じゃないですか。そんな状況で、よく教 官が認められましたね」 「生活態度は最悪ですけど、戦術的才能が人並みはずれていたからですよ。士官学校 全校一の天才用兵家と噂されていた、あのミリオン・アーティスを完膚なきまでに看 破しましたからね」 「それそれ、士官学校時代に全国合同で行われる学期末実技試験である模擬戦闘にお いても、奇抜な作戦を用いて勝利されたんですよね」 「ああ、あの作戦ですか。そうですね、あれは実に楽しかったですよ。罠を張り巡ら しておいて敵が網に掛かるのを待ってただけで、一網打尽で敵を捕獲して戦闘不能に 陥れたのですから。ついでに先に敵基地を攻略したのは、基地を乗っ取られれば逆上 して、必ず引っ掛かると思ったからです」 「罠というと基地の管制システムに細工を施して、占領された後も遠隔操作でシステ ムを乗っ取ったのですね」 「そうです」 「そのこともそうですが、私が疑問を抱いているのは、敵基地を占領するために、暗 黒星雲の中の原始太陽星ベネット十六の直中を通過したことです。これはもう作戦と いうよりも、すべての艦隊や乗員達を危険に巻き込む冒険の何ものでもないと思いま すが、いかがでしょうか」 「艦艇の進撃コースの気象状況は、無人探査艇を数度飛ばして、すべて事前に念入り に調査を行いました。そのデータをもとに、艦艇の強度や航行能力を熟慮して、航行 には支障がないことを確認しました」 「支障がないとわかっていても、乗員の大半が訓練生じゃないですか。よく最後まで 逃げ出さずについて来れましたね」 「それがこいつの人徳のなすところですよ。人を集め行動する時、神懸かり的な指導 力を発揮するんですよ。まるで教祖が信者を集めて集団自決さえ実行させるようにで す」 「集団自決ですか」 「死なば諸共にってね。実際事故を起こせば本当にお陀仏になるところを、こいつと ならどこへだってついて行こうと思わせる。不思議な能力を持っているんですね」 「ありがとうございます。時間ですので、私の質問は以上です」  記者が、質問席を離れて自分の席に戻ると、司会者が次の質問者を指名した。 「続いてトリスタニア共同通信のスカーレット・カールビンセンさんが質問します」  立ち上がり質問席に歩いて行くタイトスカート姿の女性記者。 「共同通信のカールビンセンです。早速お伺い致します」 「どうぞ」 「ランドール少佐は、深緑の瞳をされていますが、遺伝的に銀河帝国皇帝の血筋につ ながっていることは、ご存じですよね」 「らしいですね」 「その深緑の瞳は、二十二番目の染色体上にある虹彩緑化遺伝子と、Y染色体上にあ る虹彩緑化遺伝子活性化遺伝子の相乗効果があってはじめて発現するものです。前者 は劣性遺伝子で後者は限定遺伝子のために、男子二百万に一人という、非常にまれな 確率でしか発現しません」 「私は、戦争孤児でして、幼少の頃海賊船に捕われているところを、海賊討伐で巡回 中のトライトン中佐に助けだされました」  質問に丁寧に答えながらも、アレックスの目はパトリシア一人を見つめていた。  TV放映取材が終わった。  だからといって、他の報道陣が放っておいてくれるわけがない。  次から次へと取材攻勢に纏わりつかれるアレックス。  マイクが差し出され、カメラが追いかける。 「アレックス、こっちよ」  通路の曲がり口でパトリシアが手招きする。  確認するが早いか、アレックスがダッシュで駆け出す。  パトリシアと共に逃避行だ。  学園内のことなら学生が一番良く知っているし、報道陣は来たばかりで右往左往す るばかり。  取材陣を撒いて、生徒会長室に逃げ込んだ二人は、鍵を掛けて誰も来ないことを確 認すると、 「お帰りなさい、あなた……」  パトリシアはアレックスの胸に飛び込んだ。  アレックスはその肩を抱くようにしてパトリシアの唇を吸った。 「卒業したらあなたの艦隊に配属させて。ずっとあなたと一緒にいたいから。離れて 暮らすのはもういや」 「わかってる」 「約束よ」 「待ってるよ」 「あなた……愛してるわ」  無事に再開を果たした二人は、いつまでも抱き合っていた。  第三章 了

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おお~い!シュート中にどこ行くんだよ~!

インターポット

左下にサッカーボールが転がっているのが見えると思いますが、

シュート寸前にボールを放っておいて、タワーに登っちゃったんですよね。

最後まで責任持ってシュートを完了させろよ(-_-)/~~~ピシー!ピシー!

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2017年9月24日 (日)

梓の非日常/第一章 病院にて

梓の非日常/第一章 生まれ変わり
(三)病院にて  生命科学研究所付属芳野台病院。  病室のドアが立ち並ぶ廊下の一角。医者と三十代くらいの女性が何やら真剣な表情 で話しあっている。そのそばの病室に掲げられた名前には、真条寺梓の名前が記され ている。  病室の中、ベッドに横たわる梓。静かな寝息をたてて眠っている。  窓は開け放たれ、さわやかなそよ風が、ベッドのそばで花束をほどいて花瓶に差し ている二十代の女性の髪をたなびかせている。  ドアが開いて廊下で話し合っていた医者と女性が入って来る。 『麗香さん。梓の様子はどう?』  病室のドアを閉めながら英語で尋ねる女性。 『はい。相変わらず眠ったままです、渚さま』  麗香と呼ばれた若い女性も英語で答えている。 『そう……』  渚と呼ばれた女性は、ベッドで眠る梓の母親であった。  医者が眠っている梓のまぶたを開き、懐中電灯の光を当てて瞳孔反応を確かめてい る。 「瞳孔は正常に反応しています。そろそろ目覚めてもいい頃です」  医者が日本語で説明している。  その時だった。 『う、ううん』  梓が小さく呟いたのだった。 『先生!』 「今の懐中電灯の光で、意識が呼び覚まされましたかな。お嬢さんにちょっと呼び掛 けて頂けますか」 『は、はい』  英語と日本語が交錯する。  三人の人物達はそれぞれ両言語を理解しており、使い慣れた方の言語で話している ようだ。  医者に言われて、二人の女性が梓の耳元に近づいた。 『梓! 梓、目を覚まして』 『お嬢さま! 目を覚ましてください』  二人の女性に呼び掛けられて、ゆっくりと目を開ける梓。しかし意識朦朧なのか目 を開いたままの状態が長く続く。 『梓、わたしの声が聞こえる?』 『お……かあ……さん……』  喉の奥から絞り出すようにとぎれとぎれに声を出す梓。 『あ、梓!』  自分のことを呼ばれて歓喜する母親。  しかしその言葉を最後に再び意識をなくして眠りにつく梓。 「また、眠ったようですね」 『先生……今さっき梓は、私のことを見て、はっきりと『おかあさん』と呼びまし た』 『はい。確かに私も聞きました』 「そうですね。もう大丈夫でしょう。完全に意識を取り戻すにはもうしばらくかかる と思いますが」  数日後。  病室のベッドの上に梓が起き上がっている。 『ここは、どこだろう……』  布団を跳ね上げてベッドの縁に腰掛ける。ネグリジェ姿の自分に気づく梓。 『な、なんだこれは。なんでこんなもん着てるんだ、俺は』  さらに胸の膨らみに気がついて、胸元を覗く梓。 『こ、これは……まさか』  さらに股間に手を当てて確認する梓。  絶句している梓。 『お、女じゃんか。なんでこの俺が、女になってんだ』  その時ドアが開いて女性が入って来る。梓の母親である。 『あ、梓。目が覚めたのね』  やさしい表情で話し掛ける女性に、どこかで見たような気がするのに思い出せない。 そんな感情を覚える梓。しかも相手が話し掛けてくる言葉は英語だと思われる。それ が、何故か理解できるのはなぜだろう。 『あの、あなたは?』  そして自分の口から出来てきた言葉は、まさしく英語。そういえば、先程の独り言 も気づいてみれば、英語だったのだ。どうやらこの梓という人物は、日常会話として 完璧に英語に慣れ親しんでいる環境にあるらしかった。だから自然な英語を話せるし、 理解もできるということ。 『ん……そっか。まだ記憶が混乱しているのね。私は、あなたの母親ですよ』 『おかあさん……?』 『そうよ。あなたは、ずっと仮死脳死状態でずっと眠っていたの。だから意識を取り 戻しても記憶障害が残るかもしれないと、お医者さまはおっしゃってたわ』 『記憶障害?』 『でもね。あなたが意識をはじめて取り戻した時、私を見つめておかあさんって呼ん でくれたから。私は心配してないわ。きっと記憶を取り戻せると信じてる。だから、 あなたも心配しないでゆっくり養生してね』  といいながらやさしく微笑みかける母親であった。 『あ、そうそう。ネグリジェ、新しいのに着替えましょう。汗をかいて気持ち悪いで しょう』  といってロッカータンスから替えのネグリジェとショーツを取り出してきた。 『さ、ベッドの縁に腰掛けてみて』  いわれるままにする梓。  ……この身体のまま、人前で着替えるのって恥ずかしいな……  しかし相手は、この身体の産みの親。なにを恥ずかしがることがあるだろうか。  着替えを終えて、渚は脱いだ衣類を鞄に収めている。おそらく持ち帰って洗濯する のであろう。 『午後からは麗香さんがくるから。あ、念のために言っておくと、麗香さんというの は、あなた専属のお世話係りですから』  渚が病室から出ていった。

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浮世絵3大地で遊ぶアバター

インターポット

浮世絵3大地背景で遊ぶアバター。

苦労して取っただけに、遊んでいる姿を見ると、疲れた身体も癒えるというものだ。

どなたかが言われていたが、雑草が伸び放題の放置された庭で、
寂しく遊んでいるアバターを見ると悲しくなると……。

激しく同意します。
ベンチに腰掛けうなだれているような姿は見たくはないものです。

うちのアバターにはたくさん遊んで楽しんでもらいたいものです。

アバターに感情移入する今日この頃です。

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2017年9月23日 (土)

銀河戦記/第三章 模擬戦闘 VIII

第三章 模擬戦闘

                 VIII  アレックス達が士官学校に戻ってすぐに、模擬戦の結果発表があった。無傷で敵基 地を攻略し艦隊を全滅させた功績から、アレックスの艦隊がだんとつトップの成績で 優勝を飾った。  功績点三万点、叱責点0という文句なしの成績であった。  スベリニアン校舎では、やっかい者のアレックスではあったが、全国一という成績 をあげたことにより、存在価値に変化が生じたようであった。  校舎のそここでは、生徒達が模擬戦の話題で盛り上がり、作戦の是非について賛否 両論から熱い議論を戦わせていた。自分達の校舎を優勝に導いた同輩であり、先輩で あることから、圧倒的にアレックスの支持派が多いのだが、無論反対派も声を荒げて 非難する。  作戦が奇襲に終始して卑怯であり、騎士道精神に欠けている。まともな艦隊戦にな っていないというのである。  作戦の騎士道論はともかくも、模擬戦の課題である「敵艦隊を撃滅・降伏にいたら しめること」ないし「敵基地の攻略・占拠」は、結果だけをいうならば見事クリアし ている。それがゆえに、優勝を飾ることができたのだが……。 「実際の戦争に卑怯もくそもあるかよ。奇襲だろうが、何だろうが、一隻でも多くの 艦船を撃沈したほうが、戦に勝利するんだ」 「とにかくだ……これで落第の心配はなくなったな、俺もおまえも」  掲示板を見つめていたゴードンが耳打ちした。 「かもな」  士官学校食堂。  アレックスとゴードンが談話している。 「さてと……模擬戦も無事に終了したことだし、後は卒業パーティだな」 「そうだな」 「おまえはもちろんパトリシアと来るんだろうから、俺はフランソワでも連れ添って くるとするか」 「おまえ、よくもまあ女をとっかえひっかえできるなあ。一体本命は誰なんだ」 「さあ……俺自身も誰が本命かわからん。その時々の女性が本命なんだな。おまえこ そ、パトリシアと同時に休暇とって婚前旅行に出かけたことくらいは、調べがついて いるんだぞ」  二人が婚約届けを出したのは、届け書の保証人として名を連ねているゴードンは知 っていて当然とはいえ、旅行のことまでは知らされていなかった。 「おまえは戦術士官じゃなく、情報士官になったほうが良かったようだな」  そこへ丁度パトリシアとフランソワがやってきた。 「あら、今わたしの名前がでていたようだけど、陰で内緒話しはいけないわ」 「よっ。ご両人。相変わらず仲がいいな」 「それは皮肉かしら」 「いやいや。仲がいいのは良いことです」 「そうですよねえ。お姉さま」  パトリシアは、旅行から帰ってから生理を見て、妊娠していないことを確認してい た。良かったと思う感情と、何だか寂しいような感情とが、交錯する複雑な心境にあ った。  もし妊娠していたら、医師の妊娠証明書を提出するだけで自動的に婚姻関係が成立 して、正式な夫婦となれたのだが。  パトリシアは、椅子をアレックスに密着するように引き寄せて、ごく自然な感じで 腰を降ろした。今この場にいる四人の間では、この両名がすでに夫婦であるという暗 黙の了解があったので、パトリシアが持ちよった給食盆の上の食事を分けて、アレッ クスに食べさせたのを見ても不思議には思わなかった。 「アレックス。もう、部隊配属希望書を提出したの?」 「ああ、フランク先輩のいる第十七艦隊にしたよ」 「第十七艦隊?」 「それって最前線じゃありませんか」 「こいつは腕に自信を持っているから、昇進の早い第十七艦隊で大活躍して逸早く准 将になって、軍から支給される郊外の一軒家でパトリシアと子供達と慎ましく暮らそ うと考えているのさ」 「おい、自分のことを言ってやしないかい」  やがて卒業パーティーも終わり、ついにアレックスが宇宙艦隊に配属される日を迎 えた。  支度を終えて既婚者用の官舎を出るアレックスを見送るパトリシア。 「行ってらっしゃい、あなた。無事に戻って……」  パトリシアは声に詰まり、アレックスに抱きついてきた。 「ああ。必ず生きて帰ってくる」  アレックスは心配する妻の気を静めるように力強く抱きしめてやった。 「じゃあ、行ってくる」  パトリシアをそっと離して歩きだすアレックス。 「行ってらっしゃい……」  その後ろ姿をいつまでも見送るパトリシアであった。

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2017年9月22日 (金)

梓の非日常/第一章 帰国子女

梓の非日常/第一章 生まれ変わり

(二)帰国子女  川越の町並みを走るロールス・ロイス・ファントムVI。 『川越か……今日からここでの新しい生活が始まるのね。ニューヨークで生まれ育っ たわたしに馴染めるのかしら。だいたいからして、日本語は一応話せるけど、漢字と かの読み書きが苦手なのよね。少し不安だわ』  車窓から流れる外の景色を眺める十二歳の梓。その言葉は英語だった。 『絵利香は空港に迎えにきたご両親と一緒に帰っちゃったというのにな。うちの母親 ときたら、迎えにもこない』 『渚さまは、とてもお忙しいお方ですから。でも屋敷に戻れば、ちゃんとご帰宅記念 のパーティーを準備して待っておられます』  お抱え運転手の白井も英語で応える。 『わかっているけど、やっぱり娘としたら寂しいわ。麗香さんも通関の手続きで残っ ちゃったし』 『お気持ちはお察しいたします』  前方に赤信号が点灯する交差点に差し掛かった時だった。  白井が速度を落とそうとブレーキを踏むが、まるで感触がなかった。  あわててギアを一段落としてエンジンブレーキをかけた。 『お嬢さま、しっかりつかまっていてください』  ハンドルを道の片側に寄せながらさらにギアを落としていく。  サイドブレーキを引き、なんとか交差点の寸前で停まるロールス・ロイス。  全重量2700kgのロール・ロイスの巨漢が事故を起こせば、今時のちゃちなボディー の自動車は全損破壊されるのは必至。ゆえに運転手の白井は、街中においてはどんな に前方が空いていても、法定速度の時速30km以上は出さないようにしていた。  当然後方には、自動車の渋滞の列が続くことになる。なにせ黒塗りのロールス・ロ イスなのだ、後続の運転手の脳裏には「暴力団幹部」の文字が浮かんで、とても恐く て追い越したり、クラクションを鳴らす勇気のある者は、だれ一人いない。まさか可 愛い女の子が乗っているとは想像だにできないだろう。しびれを切らした者は、脇道 へ入って迂回ルートを選ぶことになる。 『ふう、あぶなかった』  何とか車を道路の脇に寄せて停車し、胸をなで降ろす白井だったが、すぐさま後部 座席の梓を心配する。 『お嬢さま、大丈夫ですか』 『大丈夫です。いったい何があったのですか』 『ブレーキが効かなかったのです』 『ブレーキが?』 『はい。ちょっと調べてきます』  白井は外に出て、後方に故障を示す三角板を置いてから、ボンネットを開けて調べ はじめた。 『ひどいな……』  ブレーキホースが何者かによって鋭利な刃物かなにかで切られていた。その切り口 をパラフィンシートで巻いて覆ってある。エンジンが止まって冷えている間は、パラ フィンは固まっているが、エンジンを始動しボンネット内が、エンジンの熱で温度が 上昇し、パラフィンが溶けはじめると、ブレーキフルードが徐々に抜けていき、走行 中に突然ブレーキが効かなくなるように細工されていたのだった。おそらく空港で梓 を迎えにしばらく車を離れていた時だと思われる。  ……高級車を持つものにたいする単なるいたずらか、それとも……  白井は後部座席に腰掛ける梓を見やった。 『どうですか?』  梓が窓を開けて尋ねてくるが、 『いえ。どうもこうも。しばらく動かせそうにありませんので、タクシーを呼びまし ょう。お嬢さまは、それで先にお帰りください』  白井は、あえて事実を伏せることにした。梓を心配させたくないとの配慮だった。 『いいわ。ここからは歩いて帰るから』 『ですが、渚さまが首を長くしてお待ちになられて』 『いいじゃない。今日から生活することになる川越が、どんなところなのかじっくり 見学させていただくわ。地図もあるし、屋敷の場所もわかりやすい所にあるから。い ろいろとね』 『あ、お嬢さま』  白井は梓を追おうとしたが、交差点前に停まった大型のロールス・ロイスを放った ままにはできない。交通の妨害になるからだ。  ロールス・ロイスのそばで立ち尽くす白井。  ……もしかしたら、お嬢さまは誰かに命を狙われているかもしれない……  川越の町並みを散策している梓。蔵造りの街をめずらしそうに、あたりをきょろき ょろと見渡しながらゆっくりと歩いている。  交差点に差し掛かる。  反対側からは、喧嘩を終えたばかりのあの男が歩いて来る。そのずっと後方からは 先程の少年も後をついてきていた。  信号は赤。  横断歩道を挟んで対面する二人。先に相手に気がついたのは男の方だった。 「へえ、可愛い子がいるじゃんか。声掛けてみよう」  信号が青に変わった。  ゆっくりと横断歩道に進み出る梓。  その時だった。信号を無視して突っ込んで来る大型トラック。目前に迫るトラック にも、梓は足がすくんでぴくりとも動けない様子だった。 「あ、危ない!」  男はとっさにトラックの前に飛び込み、梓を抱きかかえるようにかばったのであっ た。  当たりに飛び散る大量の血飛沫。交差点にこだまする悲鳴。  梓を抱えたままトラックに跳ね飛ばされ地面に激突する男。  当たりにいた人々も、あまりの惨劇に身体が固まって動けないといった表情であっ た。  ぴくりとも動かなかった男だが、やがて意識を取り戻す。 「お、俺は、いったい……」  男は額に手を当ててみるが、その手にべったりと付着した血糊。 「血……」  男は自分が流血しているのを悟ったが、痛みを感じていないことに気づく。  ふと首を振ると、そばに先程の梓が倒れている。 「お、おい。だ、いじょう、ぶか……」  梓は答えない。じっと横たわったままだ。  ……死んだのかな……。もっとも俺の方も……だめかな……  次第に薄れていく意識の中で、男は最後の音を聞いた、それは近づいてくるサイレ ンの音だった。男はゆっくりと目を閉じ、そして動かなくなった。

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2017年9月21日 (木)

銀河戦記/第三章 模擬戦闘 VII

第三章 模擬戦闘

                      VII  第十二番基地から、索敵レーダーの捕捉圏ぎりぎりの外側領域で待機するアレック ス達。ミリオン達が第十二番基地を占領してから約五時間が経っていた。  アレックスは隊員達に交代で休息をとらせながらも、最大速度で引き返してきたの である。 「どうやら無事に占領されたようだな」 「それって変な言い方ですね」 「そうかな。レイティをここに呼んでくれ」 「はい」  やがて技術将校のレイティ・コズミックが艦橋に出頭した。 「モニターで見ていましたけど、いつもながら鮮やかでしたね」 「それはともかく。さっそく準備にかかってくれ」 「はい、はい」  レイティは定位置について機器を操作した。 「パトリシア。隊員達の士気はどうか」 「はい。交代で休息しておりますので、気力は充分あります。先の第一次作戦の成功 で士気は盛り上がっております」 「そうか、なら心配ないな」  レイティが振り返って報告した。 「大丈夫。いけますよ。準備OKです」 「よし。基地のレーダー管制をこちらへまわせ」 「了解、レーダー管制をまわします」 「勢力分析図を投影」 「パトリシア。敵艦船の配備状況はどうか」 「はい、半数が燃料補給のために地上に降下しているようです」 「ということは、現在戦える戦力は互角というところだな」 「でもそれはあまり関係ないのでしょう?」  持ち点の高い航空母艦と艦隊戦に使用できない突撃強襲艦を連れているために、ア レックス達は戦艦数で半数であり艦隊戦では不利であった。しかし敵艦船の半数が地 上に降下している今が攻撃のチャンスといえた。 「まあな。さておっぱじめるとしようか」 「はい」 「レイティ、基地の無線を封鎖しろ」 「はっ。無線封鎖します」 「パトリシア。全艦に、ミサイル発射準備だ」 「はい」 「敵はこちらを捉えることすらできないが、こちらは目標をロックオンしてミサイル を発射できる」 「敵は驚くでしょうね」 「全艦、ミサイル発射準備完了しました」 「よし。ミサイルを敵艦に目標ロックオン」 「ミサイル、目標ロックオンします」  パネルスクリーン上にミサイルの制御数値が表示され、刻々と変化していた。 「上下角微調整一・七秒」 「全艦。発射体制に入りました」 「ようし。叩きこんでやれ」 「はっ。全艦、ミサイル発射」  全艦から一斉にミサイルが発射される。  ミリオン達の背後をミサイルが襲った。 「艦尾にミサイルです!」  オペレーターが驚愕の声を上げて報告する。 「なんだと!」  ミリオンが驚いてオペレーターの方向を向いた途端に、ミサイルが舷側に命中して 炸裂音が艦内に轟く。 「警報!」  金切り声でミリオンが叫ぶ。  艦内に突然鳴り響く警報に、あたふたと自分の持ち場へと走りまわる隊員達。一体 何事が起こったのかと、事態の収拾がつかめない表情。  ミサイルといっても炸薬のない模擬弾であるから、艦が多少へこむくらいで直接な 被害は及ぼさない。しかし模擬戦用にシュミレートされた艦のコンピューターは、実 弾だった場合の被害想定を算出して、艦橋のモニターに仮想被害結果を映しだす仕組 みになっている。 「左舷に損傷。被害は軽微」 「管制レーダーに敵影は?」 「いえ。一艦たりとも映ってはいません」 「馬鹿な。基地の管制レーダーは艦船に搭載されているレーダーよりはるかに索敵能 力があるのだぞ。今のミサイルは明らかに目標ロックオンされている。敵は管制レー ダー捕捉圏内に入らねば、我が艦隊を目標ロックオンできるわけがない」 「しかし、敵は間違いなく我が艦隊の位置を正確に捕捉しております」 「なぜだ!?」 「わ、わかりません」 「ミサイル第二波がきます。第三波、続いています」 「待避せよ、取り舵三十度だ」  艦はゆっくりと旋回をはじめるが、その待避先にもミサイルが飛んでくる。 「しまった! 待避行動を読まれた」  次の瞬間、艦内の照明がすべて消えて真っ暗になった。機器の点滅する光だけが闇 を照らしている。 「貴艦ハ撃沈サレマシタ。コレヨリ戦列ヲ離レマス」  艦内のコンピューターが告げていた。  やがて再び照明がついたかと思うと、自動運行装置が作動して、ゆっくりと戦列を 離れはじめた。 「やられましたね」 「ああ……」  ミリオンは、軌道上に残った艦隊が次々と姿なき敵艦隊に撃滅されていく様を、モ ニターに食い入るように見つめていた。 「あ、最後の艦が落とされました」 「負けたな……」 「そうですね」  やがてモニターに、勇壮と進駐してくるアレックスの艦隊が映しだされた。  基地を占拠していた連中が、事態をすべて把握して降伏勧告を受諾したのは、それ から二十分後であった。
来年4月からTV放映されるリメイク版銀英伝のトレーラーが発表されたようですね。 『銀河英雄伝説 Die Neue These』第1弾PV

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彼岸花が咲きました


今年もアパートの小さな庭に彼岸花が咲きました。

水田の畦道などに良く見られる。
遺伝子的に三倍体のために種子で増えることはなく、球根で増える。中国原産。
なので、日本の野生で見られる彼岸花は、人為的に植えられたものが増えていったものと
思われる。
有毒でミミズなどが忌避するために、ネズミやモグラなどが土手に穴を開けて水田の水漏
れを引き起こしたり、畑の作物被害を避けるために、人為的に植えたのが最初である。
また墓地などでも、埋葬した遺体を損壊する小動物を避けるためにも植えられている。

つい先日天皇陛下が散策された、埼玉県日高市の巾着田曼珠沙華公園が有名。

しかし、彼岸花が咲くってことは、このアパートは旧墓地の跡地に建てられた?( ;∀;)

2017年9月20日 (水)

梓の非日常/第一章 男の中の男

梓の非日常/第一章 生まれ変わり

(一)男の中の男  埼玉県川越市市街地の北東の外れに初雁公園がある。川越城址本丸御殿や市立博物 館・武道館や高校野球予選が行われる初雁球場などの名所・施設が立ち並んでいる。 その一角にある三芳野神社の広場に柄の悪い男達が集まっていた。一人の男を多数の 男が取り囲んでいる。 「で、この俺に、お前達の仲間に入れっていうのか」  中心に立つ男が、まわりの男達を見渡しながら言った。 「中学では番長でならしたそうじゃないか。できれば敵にしたくないからな。その方 がおまえのためにもなる」 「ふ、俺も。甘くみられたものだ。俺についてきた連中が勝手に番長だなんて言って いただけで、俺自身は番なんて張っちゃいなかったのさ。俺はつねに一人だった。第 一、今時番長なんて言うか?」 「と、とにかく仲間には入らないつうわけだな」 「あたりまえだ」 「なら、死ねや」  いきなり殴りかかる暴漢達。  相手の拳を軽くかわしながら、余裕で上着を脱いで投げ棄てる男。  暴漢達は次々と襲いかかるが、男の身体に触れることもできないでいた。男は軽や かなフットワークで暴漢達の攻撃を受け流し、相手の力量を計っているようだった。 「ちょこちょこ動きまわりやがって」  やみくも振り回した拳が男の頬に直撃する。 「あ、当たったあ」  しかし男は、全然効いてないといった表情であった。 「てめえらそれでも殴ってるつもりか、殴るってのはなあ」  といって一撃をぶちかますと、相手はいとも簡単に身体ごと吹き飛んでいった。  あまりのその破壊力のすさまじさに思わず尻ごみする暴漢達。 「びびってんじゃねえぜ。おら、おら、今度はこっちからいくぜ」  男が反撃を開始する。次々と吹き飛んで気絶していく男達。  そんな様子を木陰でじっと眺めながら、震えている少年の姿があった。  ものの数分で、暴漢達は男の足元に崩れ落ち、身動きすらしない。 「おい、そこに隠れている奴。出てこいよ」  男が、木の影にいた少年に向かって叫ぶ。 「てめえもこいつらの仲間か」 「いえ、ぼ、僕は」  木陰から姿を現した少年はまだ幼さを残した顔立ちをしていた。 「なんだ。まだガキじゃないか。中学生か?」 「い、一年になります」 「ふうん。名前は?」 「さ、沢渡慎二」 「そうか……いい名前だ」  男は慎二と名乗った少年の頭をなでながら尋ねた。 「おまえ。強くなりたいか」 「な、なりたいです」 「なら、教えてやろう。いいか、本当に強くなりたかったら、こんな奴等とは手を組 まないことだ。徒党を組むのは弱いやつらがすることだ。男ならたった一人で強くな る努力をしろ。いざとなって自分がピンチになったときでも、誰も助けになんて来て はくれないぞ。自分のことは自分で守るしかないのさ」  ズボンについた汚れをはたき落としている男。 「いかなる状況をも乗り越えられるように、身体を鍛え磨いておくことだ。それと女 の子には手を出すな。女の子には優しく、時には守ってやるくらいの気概がなくては いかんぞ。それが本当の男。男の中の男というもんだ」 「う、うん」 「よし、いい子だ。おまえなら、きっと強くなれるさ」  脱ぎ捨てた上着を拾い上げる男。 「あ、あの。お名前を」 「はは、名前なんてどうでもいいだろ。通りすがりの風来坊さ」  名を告げずに、少年を残して立ち去っていく。

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2017年9月19日 (火)

銀河戦記/第三章 模擬戦闘 VI

第三章 模擬戦闘

                   VI 「隊長。オニールの隊の自動操舵装置が切られました」 「なに、自動操舵装置がか……」  アレックスはしばらく考え込んでいたが、 「それは、妙案かも知れないな……よし、全艦に指令を出せ。自動操舵装置を解除し て、手動操艦にて進行せよ」 「了解」  通信士が全艦に指令を伝達する。傍受される恐れのある電磁波系の通信ではなく、 特殊音声伝送信号を利用した通信である。電話回線でデジタル信号を送るとき、アナ ログ変換器(モデム)が、ピーガーという音を立てるあの信号に近い。濃密なガスが 存在する場所で、かつ艦船が接近している時のみ利用可能な伝送通信である。もちろ ん通常の宇宙空間では、音波は伝わらないので情報が漏れることはない。 「いいんですか?」 「こういうことは実戦派のゴードンの方が、一枚も二枚も上手だからな。現場におい ては現場責任者の感や判断がものをいうこともある」 「だからこそ、強襲部隊の指揮を任せたのですね」 「まもなく、ベネット領域を脱出します」 「索敵レーダーに捕捉されませんか」 「大丈夫だ。背後にあるベネット十六の強力な電磁界ノイズによって攪乱されて艦影 がかき消されてしまう。奴等がこちらに気がついた時には、制空権はすでにこちらに あるというわけさ。危険を冒してまで、ベネット十六を突破してきたのも索敵レー ダーを無力にするためだった」 「全艦、戦闘配備。最大戦速」  アレックスの指令が下った。  艦内に警報が鳴り響き、緊張した空気の中、戦闘配備が完了した。 「航空母艦に連絡。艦載機全機発進、敵基地上空に展開して制空権を確保せよ」 「はい」  航空母艦には航空参謀として、ジェシカ・フランドルが搭乗していた。戦術シミュ レーションでは、航空母艦とその航空戦力の絶妙な運用で、常勝のアレックスさえも てこずらせ、容易には勝たせてくれなかった相手であった。 「艦載機を全機発進させてください」  ジェシカが下令すると、三隻の航空母艦から一斉に艦載機が発進して、敵基地上空 へむかった。地上発進の戦闘機から艦船を守るために、制空権を確保するのが役目で ある。 「ここまでくれば、成功間違いなしね」  とつぶやいて、旗艦を見やるジェシカ。  そこには自分の後輩であるパトリシアが搭乗している。かつて同室となり、夜を明 かして手取り足取り戦術理論を教えこんだこともある。自分が惚れていたアレックス と電撃婚約をして驚いたが、自分よりも彼女の方がふさわしいと、喜んで身を引き祝 福したものだった。今回の作戦にしても、いくら才能豊かなアレックスであっても、 それら作戦のすべてを計画書としてまとめ、艦隊編成の書類を提出するなど、デスク ワークに関しては、パトリシアがいなければ、今日のこの日は来なかったかもしれな い。先輩として誇らしげな気持ちは真実であった。 「ジェシカの艦載機が制空権を確保しました」  パトリシアが、先輩のジェシカから報告を受けて、アレックスに伝えた。 「予定通りだな。ゴードンを呼んでくれ」  パネルスクリーンにゴードンの姿が現れた。 「準備はどうだ」 「万全だ。いつでもいける」 「では、よろしく頼む」 「わかった」  艦隊から突撃強襲艦が抜け出して基地のエネルギーシールドに突入した。  激しい電撃火花を上げながら、次々とシールドを突破していく。  一方、アレックスの敵であるジャストール校の指揮官ミリオン・アーティスは、一 向に索敵による敵発見の報告がないのにいらだっていた。 「まだ、見つからないのか」 「はい。いまだ発見できません」 「通信班。敵の交信は傍受できないのか」 「は、今のところは何も入ってきません。敵は完全に沈黙状態を保っているもようで す」 「敵指揮官は、何を考えているのか」 「さあ……指揮官は、アレックス・ランドールですが」 「ランドールか、一体どんな奴なんだろう」  ミリオンは、敵指揮官であるアレックスの素性を一切調べることはしなかった。自 分の作戦によほどの自信を持っていたからである。戦術シュミレーションでは連戦連 勝、他校との交流試合でも負けたことはなかった。  アレックスがミリオン達との接触を避けて迂回しながらも敵基地に全速力で向かっ たのに対し、ミリオンは艦隊戦のために索敵行動を取りつつ進行していた。そのため に艦隊の行き足が大幅に遅れていた。いまだ両基地の中間に位置するあたりを、アレ ックス達を探しまわってどこ行くあてなく移動していた。彼の得意とするのが、正面 決戦による正攻法であったからである。しかし、相手が出てこなければ本領を発揮す ることもできなかった。 「おい、聞いたか?」 「ああ、本当かな」  通信士がひそひそ話ししている。 「おい。私語を謹め、今は戦闘中だぞ。報告は正確に伝えろ」  私語を聞きとめて、通信士に注意を促すミリオン。 「は、すみません」 「一体、何事であるか」 「実は、我々の基地が攻撃を受けているらしいのです」 「らしいとは何だ。正確に報告しろ」 「それが、基地の通信状態が騒然としていて、正式な報告送信がなされていないので す。悲鳴のような混乱した言葉を、口々にただわめいているといった感じでして」 「それをスピーカーに流してみよ」 「はい」  通信士は、基地からの受電をスピーカーに切り替えた。 『やつらがそっちに行くぞ。迎撃しろ』 『迎撃ってどうすりゃいいんだ(爆音)。な、なんだ。やつら、迫撃砲を撃ってきや がる』 『迫撃砲だと、どこからそんなもん持ち出したんだ。大丈夫か』 『大丈夫も何も……(咳き込んでいる)畜生、催涙弾だ』 『だめだ。これ以上、持ちこたえられん……』 『どうした! 返答しろ』 『……(雑音だけが聞こえる)』  それらの通信を聞きながら呆然としているミリオン。 「どういうことなのだ……一体何が起こっているというのだ」  まるで事態の全容を把握できないミリオンはどう行動すべきかさえ失っていた。  第八番基地。  基地のあちこちから白煙が昇り、催涙弾にたまりかねて士官候補達が次々と投降し て出てくる。  外で待ちかねていたゴードンの部隊が銃を構えてそれを取り囲む。もちろん麻酔銃 であるから人体に危害は与えない。 「ゴードンの部隊が基地の管制塔を占拠しました」 「成功です。指揮官殿」 「どうやら第一段階は無事終了したようだな」 「はい」 「よし。直ちに作戦の第二段階に入る。後はゴードンの班に任せて、我々の班は敵艦 隊の攻略に向かうぞ。総員、艦に戻れ」 「はい」  数分後にアレックス率いる艦隊が基地を後にして発進を開始した。  ゴードンは管制塔からそれを見送っている。 「成功を祈る」  とつぶやいて上空に向かう艦隊にたいして敬礼した。  一方、敵艦隊の艦橋では、苦虫を潰したような表情のミリオンがいた。 「もう一度言ってみろ」 「は、我が基地は完全に敵の手に落ちたもよう。音信不通」 「こんなことが許されていいのか」  ミリオンは身体を震わせながら、敵指揮官がとった作戦を呪った。 「基地に攻撃を加えるなんて今まで一度もありませんよ。だいたい艦隊戦をテストす るのが模擬戦の主旨ではないのですか?」 「一般論を説いてみても始まらんさ。常識なんか通用しない」 「しかし、どうしますか。探している艦隊は我々の基地を包囲しているだろうし、引 き返すにしても、待ち伏せをしていて奇襲されるのは目に見えています」 「ようし、やつらが基地を攻略したのなら、我々も同じことをするだけだ」 「では、敵基地を」 「そうだ。我々は中間点にいる。今から敵基地へ向かえば、敵より早く基地を攻略で きるだろう。全艦、敵基地へ向かえ」 「了解。このまま前進して敵基地に向かいます」  数時間後、ミリオン達は第十二番基地に到着していた。 「敵基地が見えてきました」 「敵の艦隊は近くにいるか」 「いえ、一隻も見当たりません。静かなものです」 「一応、リッキーに基地の様子を見に行かせよう」  艦より一隻の上陸舟艇が降下していく。 「管制塔に到着しましたが、基地には誰一人いません。全員我々の基地攻略に出撃し たものと思われます」 「管制塔は正常に機能しているか」 「はい、しているようです」 「そうか、ご苦労だった。我々も燃料補給のために降りる、そのまま待機していろ」 「はい」 「よし、艦隊の半数ずつを順次降下させて燃料補給させよう」  艦隊の半数にあたる艦船がゆっくりと地上へ降下をはじめていく。

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2017年9月18日 (月)

いい湯だな♪

インターポット
みんな揃って湯布院で、いい湯だな♪
また一つ増えた湯布院温泉にて

梓の非日常/序章 お帰りはロールス・ロイス

梓の非日常/序章 新入部員は女の子

(五)お帰りはロールス・ロイス  十数分後。  慎二のまわりに、倒れて身動きしない男達の山が築かれていた。 「邪魔者はかたづいたな。さて、続きをやろうか……」  と慎二が振り向くと、梓はお尻をぺたんと地面につけ、膝から血を流していた。 「いったーい」  膝の傷を見せびらかすように大袈裟に痛がる梓。 「あのなあ、それが数人の男相手に乱闘をやらかした女のする態度か!」  絵利香が駆け寄って、助け船を出した。 「梓ちゃんは、おてんばだけど女の子なのよ。それが血を流しているのに、そんな言 い方ないわよ」 「ちっ。この勝負はまたにしてやるよ。俺は弱った奴は、殴らん」  慎二はくるりと背を向けて立ち去ろうとした。しかし、それを絵利香が制止する。 「ちょっと待ちなさいよ。あなたはそれでも男なの。か弱い女の子が苦しんでいるの に、それを見捨ててあなたは行ってしまうの?」 「こいつのどこが、か弱いんだよ。ここに倒れている男達の半分はこいつが倒したん だぞ」  地面に倒れている男達を指差し、いきまく慎二。 「沢渡君!」  きっと睨みつける絵利香。 「ちっ。俺に、どうしろというんだよ」 「保健室に連れていってあげるくらいしなさいよ」 「わ、わかったよ。ほれ、立てよ」  慎二は梓に手を差し出した。 「あたし、立てない。歩けない」  梓は、首をぷるぷると横に振って、立ち上がることを拒絶した。まるでか弱い女の 子であるかのような演技をしていた。 「あ、あのなあ……」  慎二はしようがねえなあ、といった表情で梓の身体を抱え上げた。  その瞬間、  ……か、軽い……。なんて、軽いんだ……  慎二はあらためて、抱きかかえている梓の身体を見つめた。  およそ腕力とは無縁と思える細い腕には、筋肉のかけらすらついてないように見え る。パンチを繰り出すその腕を支える肩は、なだらかなカーブをして幅も狭く、破壊 力を生み出すにはほど遠い。肩から下の骨格もまさしく女性のそれで、男の力強い両 腕で抱きしめられれば、簡単に折れてしまいそうに華奢である。  ……こんなか細い身体で、男達と互角に戦えるなんて信じられない。まさしく技と スピードだけで戦っていたんだ……  慎二の感情に、一種尊敬の念が生まれるのも自然ではなかろうか。  梓の髪からは芳しい香りが漂っていた。  抱きかかえられている梓だが、慎二に悟られないように絵利香に向かってピースサ インを送っていた。 「男なんて、ちょろいもんよ」  とばかりに、笑顔満面の表情で。 「もう、梓ちゃんたら……」  保健室前、治療を終えた梓が出て来る。  廊下のベンチに腰掛けていた慎二が話し掛けて来る。 「教室まで、送ろうか」 「そこまでしてもらわなくてもいいわ。帰りはタクシーで帰ることにしたの。この足 じゃ歩いて帰るの辛いから」 「……タクシーねえ……」  絵利香が言葉にならない呟きをもらした。 「そっか。なら、遠慮なく行かせてもらうぜ」  さっさと背を向き、保健室から立ち去る慎二。 「そっけないのね……」  絵利香がぽそりとつぶやいた。 「はは、そんな男だよ。あいつは」  びっこを引きながら歩きだす梓。 「ちょっと油断したなあ。ほんとは顎を蹴り上げるつもりだったのに、飛んで来るあ たしに驚いて、あいつがうつむいたものだからまともに口の中に入っちゃった。あい つ、歯の四・五本折れたんじゃないかな」 「これに懲りて、ちょっとはおとなしくしなさいよ」 「ははん。無理だね」 「もう……」  放課後。  裏門でタクシーを待っている風の梓と絵利香。 「タクシーが来たわよ。梓ちゃん」  と、絵利香が指差す先からやって来たのは、タクシーならぬ黒塗りのロールス・ロ イスだった。  ロールス・ロイスは、後部座席左側ドアが、立ち止まった梓の前にぴたりとくるよ うに停車した。英国製だから運転席は右側であり、当然として主人席は後部座席左側 と決まっている。  運転席のドアが開いて白い手袋をしたスーツ姿の男が降りてくる。その運転手は、 短いスカートから覗いて見える梓の膝のガーゼに逸早く気がついた。 「お嬢さま! その足はどうなされたのですか?」  心配そうに梓の膝を見つめている。 「ちょっと転んで膝を擦りむいちゃったの」 「大丈夫でございますか」 「心配ないわ、白井さん。それより早く車を出してください」  と言いながら周囲を見渡すようにした。ロールス・ロイスのまわりには、ものめず らしそうに生徒達が集まりつつあったのだ。  英国製、ロールス・ロイス・ファントムVI(初期型)。BMWの傘下に入る以前 の、モータリゼーション華やかりし全盛の頃、1960年代往年の名車である。  全長6045mm、全幅2010mm、車高1752mm、全重量2700kg、水冷V8エンジン6230cc。 ロールス・ロイスの方針でエンジン性能は未公表のため不明だが、人の背の高さをも 越えるその巨漢は、周囲を圧倒して、道行く人々の感心を引かずにはおかない。 「そ、そうでしたね」  白井と呼ばれた運転手は、目の前のドアを開けて、梓を乗り込ませた。反対側では、 絵利香が自分でドアを開けて、乗り込んでいる。  二人の乗車とドアロックを確認して、白井はロールス・ロイスを発進させた。 「絵利香ちゃん。今日はうちに泊まっていってよ」 「ん……そうね。そうするわ」 「白井さん。屋敷に直行してください」 「かしこまりました。それから、お嬢さま。遮音シャッター上げますか」 「ええ、お願いします」  白井が運転席の操作盤のスイッチを入れると、運転席側と後部座席の間に設けられ た防音ガラスが、静かにせり上がった。さらに白井は、二人の顔が見えない位置に ルームミラーをずらした。  白井は、梓と絵利香が乗り合わせた時は、必ず遮音シャッターを上げるか尋ねるこ とにしている。女の子同士の会話を気がねなくできるように配慮しているのだった。  梓は、鞄から携帯電話を取り出して、連絡をいれた。車載電話も目の前にあるのだ が、使い慣れている自分の携帯を使っているのだ。 「あ、おばさま、梓です。はい、ごぶさたしてます。絵利香ちゃんですけど、今晩う ちに泊まります。はい、そうです。申し訳ありません。はい、今代わります」  梓は自分の携帯電話を絵利香に手渡した。 「絵利香です。うん、そう。ごめんなさい。はい、それじゃあ」  といって絵利香は、電話を切って梓に返した。 「ふう……あいつ……」  座席に深々と身体を沈めて物思いにふける梓。 「どうしたの、そんな深刻な顔しちゃってさ」 「あの馬鹿な男のこと考えてた」 「沢渡君のこと?」 「なんかさ……昔のあたしに雰囲気が似ているような気がしてさ」 「昔って、梓ちゃんが女の子に生まれ変わる前の?」 「そう、まだ男だった頃のイメージがそっくりなんだ」  序章 了

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2017年9月17日 (日)

銀河戦記/第三章 模擬戦闘 V

第三章 模擬戦闘

                   V  ジャストール校に与えられた第八番基地は、演習場の中程に位置し、アレックス達 の基地より距離にして二百七十天文単位のところに浮かんでいた。  背後には濃密なガスが集まって雄大な輝きを見せる「ベネット散光星雲」があった。  青白く燦然と輝く非常に若い高温の恒星からの紫外線の放射によって、水素が電子 を剥ぎとられて電離し、特有の赤い輝線スペクトル光を放って、一帯が薄紅のベール 状となって美しく輝いている。付近一帯は一万度Kほどの高温になっており、その内 側にはさらに高温の酸素が放つ鮮やかな緑色の領域が広がっている。さらに安定なは ずのヘリウム原子までもが電離して青く発光することもあるが、青い部分の実体は反 射星雲と呼ばれる星間塵などの雲が近くの星々の光を反射している姿である。なぜな ら青い光ほど効率的に散乱されるからである。 参照「ロブスター星雲ngc6357」  その散光星雲に入り組むようにして暗黒星雲が隣接しており、より濃密なガスや塵 が背後の光を遮って真っ黒に見えている。暗黒星雲の温度は二百十度Kと低温だが、 さまざまな原子と分子が激しくぶつかり合いながら、重力収縮によって中心に向かっ て落ち込みつつ新たなる恒星を形成しようとしている四つの原始太陽星雲があった。 星間ガスが中心に落ち込む際に解放される位置エネルギーが熱となって中心付近の温 度を上げていく。現在の最中心温度は三千七百度K、この段階ではまだ核融合は起こ らず発光にも至らないが、電波や赤外線を使って観測すれば激しい活動の息吹を知る ことが出来るだろう。やがて星が誕生すれば付近の暗黒星雲もいずれ散光星雲として 輝きはじめることになる。  十六番目に発見されたということからベネット十六と名付けられた領域の、そのた だ中を進行する百隻ほどの艦隊があった。  強烈な稲光が炸裂するたびに、濃密なガスを伝って、耳をつんざくような大音響が 艦内を揺るがす。 「だ、大丈夫でしょうか」  艦橋にあって、指揮官席に陣取るアレックスのそばに控える副官のパトリシアが、 心配そうな声で尋ねた。生まれてこの方経験したことのない、荒々しい天候に動転し て、アレックスのそばから離れないようにして、その右腕を両手でしっかりと握り締 めていた。万が一の時には、夫と共にあるということが、せめてもの慰みというとこ ろである。 「心配するな。これくらいの嵐では、艦はびくともしないさ」  安心させるように自分の右腕をつかむパトリシアの両手にそっと左手を添えてなだ めるアレックス。  実際にはアレックスとて、逃げ出したい心境は同じであったのだ。しかし指揮官が 震えていては全体の士気に影響する。自分自信を奮い立たせ、やせ我慢しているのを 気付かれないように、冷静を装っていた。  艦橋では、オペレーター達は比較的冷静に振る舞っているが、艦内のあちらこちら では、詳しい事情を知らされていない乗員達の怒号や悲鳴が繰り返されていた。 「誰だよ。極めて安全性は高いとか言った奴は! これのどこが、流れがゆるやかだ と言うんだ」 「こんな作戦を考えたのは、誰なんだ?」 「指揮官殿か、作戦参謀のウィンザー女史だろうな」 「ったく。何考えてんだか」 「といったところで、ここまで来ちまった以上。後戻りはできめえ」 「行くっきゃないってかあ」 「そん通りだ」  とにもかくにも、行けと命令されれば行くしかない軍人の定め。指揮官アレックス の戦術能力は誰しもが知っていること、大船に乗ったつもりで命運を彼に託すしかな かった。 「スザンナ。現在の艦の状況はどうか」 「はい。艦に損傷は見られません。システムは正常に作動中。現在の艦内温度は二十 五度で、ほぼ三十分に一度の上昇が見られます」  一方突撃強襲艦上のゴードン・オニールも冷や汗流しながら、自分の艦をアレック スの艦に平行して進行させていた。  突然激しく艦が大きく揺れて軋んだ。 「どうした」 「はい。並進する艦が接触してきました」  というが早いか、再度の衝撃が襲ってきた。 「副隊長」  ゴードンの艦に同乗する参謀が話し掛けてきた。 「なんだ」 「せめて艦隊リモコンコードを作動させませんか。このままでは、敵基地に到着する 以前に、このベネット領域内で接触事故を起こして自沈する艦も出るかもしれませ ん」 「だめだ。この領域には強力な電磁界ノイズがあって、艦隊リモコンコードは正常に 作動しない」 「わかってはいるのですが……」 「ならば聞くな! いいか。俺達は装甲の厚い強襲艦だからまだいいが、駆逐艦に乗 ってる奴等は、もっとひどい状態になってるはずなんだぞ」  再三の衝撃に号を煮やしたゴードンは、操艦手のところへ走り寄った。 「俺にやらせろ」  操縦手を押しのけるように操縦席につく、ゴードン。 「操艦の経験はあるのですか?」 「シミュレーションは五回やった」 「実戦の経験はないんですね」 「いいかい。こういう状況の時、物を言うのは経験ではなく度胸なんだぜ。ジャス トールの点取り虫のミリオン坊っちゃんにはわからんだろうがな」 「ベネット十六の最深部に入りました」  ゴードンは操縦桿を握り締めながら、艦内放送のマイクを取った。 「これより自動操舵装置を解除する。総員、船の震動に注意しろ。立っているものは、 投げ出されない工夫をするように」 「自動装置を解除するですって!」 「自動装置を作動させていてもこの程度だ。どうせなら、解除したほうがましかも知 れんだろう」  艦内のあちこちではそれぞれが震動への対策を取っていた。機器にしがみつく者、 紐で機器のでっぱりに身体を縛り付ける者。 「いくぞ。自動操舵装置解除」  ゴードンが装置のスイッチを解除する。  ガクンと揺れる機体。

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2017年9月16日 (土)

梓の非日常/序章 その男、沢渡

梓の非日常/序章 新入部員は女の子

(四)その男、沢渡  昼休みになった。  午前最後の鐘が鳴り響いて、教室から一斉に生徒達が出て来る。弁当を持って来て いない者が食堂へ向かって移動しているようだ。  教科書を鞄に収めている梓。かわりに可愛い弁当箱を取り出している。 「あ、あの……お昼ご一緒しませんか」  意を決した一人の女子生徒が、弁当を手にしながらもじもじとしながら話し掛けて きた。 「わたし、相沢愛子です」 「ああ、あたし、真条寺梓」 「わたしは、篠崎絵利香よ」 「こいつは、幼馴染みなんだよ」 「梓ちゃん。人を指差してこいつなんて、そんな言葉を女の子は使っちゃだめよ」 「はは、絵利香ちゃんは、あたしの教育係りなんだ」 「お二人は、仲がいいんですね」 「うん。三歳からずっと一緒だったから」  机を移動して食卓のようにする。  二人の間に別の女子生徒が入り込み、親しげな会話がはじまったことで、他の女子 生徒達を行動に移させるきっかけを与えることとなった。 「あの、わたしもお仲間にいれていただけませんか」 「お友達になりましょうよ」  親しげに口々に話し掛けてくる女子生徒達。あっという間に二人を囲んだ語らいの 輪ができあがった。  男子生徒の中にも梓たちと話しかけたそうにしている者もいたが、そこは男と女の 垣根があるらしく、女子生徒達の輪の中にまで入ってくる勇気はなかった。  ドアの外が騒がしくなった。 「沢渡だ、沢渡が来やがった」 「なんで今頃」  廊下を肩をいからせて大股で歩く大柄の男、沢渡慎二。 「おら、どけよ。こらあ!」  言うが早いか、ドア付近にいて談笑していた男子生徒が、教室内に吹き飛ばれてい た。話しに夢中で、沢渡と呼ばれた男に気づかなかったのだ。沢渡のことを知る人物 なら、その名を聞いただけで震え上がり道を譲るものだが、彼は知らなかったようだ。 「ドアの前に突っ立ってんじゃねえ」  背の高い慎二は、屈むようにしてドアをくぐらねばならない。  慎二が教室内に入っていくと、それまで談笑していた生徒達は一斉に口籠り、彼が 目指す机までの道を開けた。それは梓の隣の席であり、食事を終えて話し合っていた 女子生徒は、あわててそばを離れた。  視線が合った梓と慎二は、ほとんど同時に昨日の乱闘騒ぎを思い出した。梓が投げ 飛ばしたあの男だったのだ。 「お、おまえは!」  先に口を開いたのは、慎二のほうだった。  絵利香が耳打ちする。 「あ、この人。昨日の……」 「ついてるぜ、こんなところでまた会えるとはな」  黙って弁当箱を鞄に戻す梓。 「表にでろよ。こら」  無表情ですっくと立ち上がる梓。 「ちょっと、梓ちゃん」  廊下を並んで歩いていく梓と慎二。その後を絵利香が追いかける。  二人は裏庭に出てきた。上着を脱いで木の枝に掛ける慎二。 「この辺でいいだろう」 「そうだね」  といいながら梓は、周囲をじっくりと見渡していた。これから一戦交えるのに、地 形効果を確認しておかなければならないからだ。大きな岩、生い茂った木々、膝のあ たりまで水が張られた池、校舎の壁、そういった裏庭に存在するすべてのものが、戦 闘に際し有利な条件となりうるかを判断していく。 「この俺が女に負けたままでは、寝覚めが悪くてよ」 「あら、そう」 「この俺を一瞬で投げ飛ばしたんだ。格闘技では相当な腕前と見た」 「まあね……それなりに稽古はしてるけど」  ふと空を仰ぐと、大きな桜の木の見事な枝振りが、空一面を覆い尽くすようにおい かぶさり、はらはらと花びらが風に舞っている。  ……きれいな景色ね。とてもこれから乱闘って雰囲気じゃないんだけどなあ…… 「女だからって、俺は手加減はしねえぜ。と思ったが、美人がだいなしになるからな、 顔への攻撃は避けてやるよ」  情緒を理解できない慎二の頭の中は、梓と戦うことしかないみたいである。 「そりゃ、どうも」  その時、周囲に異常を感じる梓。  ……囲まれている! 五・六・十二人くらいはいるな……  見渡すと、木や草むらの影や、建物の裏に、男達の気配。 「いつでもいいぜ。どっからでもかかってきな」 「ふん! この直情馬鹿が、周囲の状況も把握できないのか」 「なんだとお!」  言われて改めて周囲を見渡す慎二。  隠れているのを悟られたと知って、ぞろぞろと男達が現れる。 「へへ。面白そうだからしばらく見学してようと思ったんだがな」 「てめえらは、昨日の」 「昨日のお礼はたっぷりさせてもらうぜ」 「はん。昨日より数が多いじゃないか。ま、返り討ちにしてやるぜ」 「ふざけんじゃねえ」  拳を振り出した男の言葉を合図として、乱闘がはじまる。  多勢に無勢とはいっても、並みの力ではない慎二にとっては、朝飯前といった表情 をしていた。たとえ相手の一撃を食らってもまるでびくともせず、倍返しの一撃を与 えていた。 「余裕だなあ、あいつ……ああ、しかし。あたしもあれくらいの腕力があれば、いい なあ。うらやましい」  相手を一撃で動けなくしてしまうような強力なパンチ、どんな攻撃を受けてもひる まない頑丈なボディー。そんな慎二に対して、一種憧れのような感情を抱く梓だった。 どんなに頑張っても、女の梓にはかなわない夢だったのだ。 「つかまーえた」  突然男の一人が、梓を背後から羽交い締めにした。 「おめえ、あいつの何なんだ。女か」 「はなせよ」  梓は冷静に受け答える。 「はは、この状態でなにができる。女の力じゃ無理さ」 「そうかな……」  梓は、足を振り上げ思いっきり男の足の爪先を、踵の先端で踏みつけた。男の顔が 苦痛に歪み一瞬腕の力がゆるんだところを、両腕を突っ張り身体を沈みこませて、羽 交い締めから脱出。すかさず肘鉄をみぞおちに食らわす。男はたまらず地面に臥した。 「女と思って馬鹿にするな」 「こ、こいつ」  梓を構っていた男が倒れたことで、攻撃の矛先が梓の方にも向けられることになっ た。 「かまわん。女もやっちまえ」  一斉に男どもが梓に飛び掛かってきた。 「あーあ。いわんこっちゃない」  後をつけてきていた絵利香は安全な場所から、梓のことを心配していたのだった。  しかしフリーになった梓の前では、赤子同然だった。柔道、合気道、そして空手と、 多種多様の戦術を組み合わせた日本拳法。  離れて戦えば回し蹴りなどの蹴り技が飛んで来るし、中距離では裏拳・縦拳・そし て極め技。懐に飛び込めれば得意の一本背負いが決まり、相手はもんどりうって宙を 舞う。  喧嘩馬鹿を相手にするくらい、梓は朝飯前といったところか。  大きな岩を足場として飛び上がり、前面の相手に跳び膝蹴りを食らわす梓。 「あっ。膝蹴りが顔面に入っちゃた。痛そう……あ、梓ちゃん。膝を切っちゃみたい だわ。大丈夫かしら」  心配でしようがない絵利香だったが、自分ではどうしようもなかった。ただ梓が無 事であるようにと祈るだけだった。  もう一方の慎二のほうも確実に相手を倒していた。その視界の中に、梓の戦いぶり が目に飛び込んで来る。 「あいつ……女のくせに、男と互角以上に戦ってやがる。相手の攻撃を紙一重でかわ し、隙ができたところを急所に一撃だ。必要最低限の動きで最大の効果を発揮させて いる」  梓に目を奪われている慎二の顔面にパンチが飛んできた。 「よそ見してんじゃねえよ。こらあ」  思わずのけぞる慎二。 「ふ、確かにな」  すかさず殴りかかってきた相手をぶっとばした。

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2017年9月15日 (金)

銀河戦記/第三章 模擬戦闘 IV

第三章 模擬戦闘

                  IV  首都星トランターから四・七光年ほどのところにサバンドール星域、クアジャリン 星区共和国同盟軍演習場がある。一帯は希薄なガス状物質が取り囲み、索敵レーダー の能力を著しく減少させる。同盟軍の艦搭載の索敵レーダーは、演習場全域を見通し てしまう能力を持っていたが、ガスのためにその性能は五十分の一ほどに落ちていた。 それがかえって演習には丁度よい索敵距離と判断されたのである。  演習場内にはいくつかの施設が点在する。最大の施設であるゴルディッツ要塞基地 を含めて十八の基地と二十七の各種施設がある。ゴルディッツには、演習場すべての 施設を統括運営する本部が置かれており、物流センター・病院・レクレーション施設 など演習場を円滑に機能させるための施設が充実していた。また、それ自体も要塞攻 略戦用として模擬戦闘に参加、有事にはそのまま防衛基地として機能する。  演習場の中でも最も外れに位置したところにある基地が、今回アレックス達に与え られた第十二番基地である。基地は小惑星上に施設されており、基地全体を覆うエネ ルギーシールドが、呼吸するための大気を閉じこめ、かつ有害宇宙線の侵入も阻止し ているために、気密服なしに生活することが可能である。とはいえ小惑星の質量が小 さいので重力は皆無に近く、長期の滞在は不向きであったので、演習時以外は使用さ れていない。  一足先に到着した技術将校のレイティ達によって、凍結されていた基地のシステム が起動されて、現在第十二番基地は活動を再開していた。  管制塔内でコンピューターシステムをいじりまわしているレイティ達。窓からは、 空全体を覆うエネルギーシールドが虹色に美しく輝いている様が眺望できる。  そのエネルギーシールドの一角が、火花を散らしたかと思うと、黒い艦隊が突如出 現した。エネルギーシールドを突破することのできる突撃強襲艦である。その数は二 十隻で、煙幕弾を投下しながら基地の滑走路へ強行着陸を敢行する。着陸した艦から は、迫撃砲と麻酔銃を携えた白兵部隊が飛び降りてきて、管制塔へ突撃を開始した。  その部隊を指揮していたのが、ゴードン・オニールであった。 「第一小隊は管制塔へ突入、第二・第三小隊は基地格納庫、第四小隊はこの場で艦の 防衛にあたる。全員作戦にかかれ!」  ゴードンの号令以下、白兵部隊はそれぞれの目標へ向かって突撃を開始した。  ゴードン自らも、第一小隊に参加して管制塔に突入する。ゴードンを先頭に、麻酔 銃を携えた兵士が階段を昇り詰めていく。  管制塔指令室。 「これでいい。信号を送ってみろ」  レイティが、助手に向かって合図した。  助手は、携帯端末を操作している。 「どうだ、うまくいったかな」  といいながら端末のディスプレイを覗いてみるレイティ。  やがてディスプレイに基地周辺の勢力分析図が現れた。 「成功です」 「よくやったぞ。これで俺達の任務は終わった」  その時、ドアが開いてゴードンが入ってくる。 「手を上げろ!」  麻酔銃を構えるゴードン。 「おい。よせよ、俺達は敵じゃない」 「わかっているが、一応訓練の一環でね。おとなしく床に手を付いて腹這いになって くれないか」 「わかったよ……やればいいんだろ」  レイティは、指示された通りに従った。 「隊長。あれを」  隊員の一人が窓の外を指差した。  そこにはエネルギーシールドの一部が開いて、戦闘機の護衛に守られるようにアレ ックス達の艦船が進入してくるところだった。  空を仰いで、着陸体制に入った艦隊を見つめるゴードン。 「ついに来たか」  会議室に集まった参謀達。 「レイティ。進行状況はどうか」  会議開始早々、アレックスがレイティに確認をとった。本作戦中、作戦の成否の鍵 を握るもっとも重要な部門を担当しているからである。 「はい。システムの改造は完了、お望みの通りに」 「ご苦労だった。戦闘開始時間までゆっくりと休んでくれ」 「それではお言葉に甘えさせていただきましょう」 「ゴードンの方は?」 「万事怠りなしだよ」 「結構。では、最後の打ち合わせに入ることにしよう」 「おい、俺には休憩はなしかよ」 「鉄の心臓を持っているおまえには必要ないだろう」 「よく言ってくれるぜ」 「まず最初に、作戦に参加する艦艇の確認から始めよう」 「はい」  パトリシアが立ち上がって、作戦に参加する艦艇の全容、艤装やミサイル弾薬類の 搭載状況、そして搭乗する乗員達の配置状況を報告する。  第十二番基地内に鳴り響くサイレン。 「まもなく、当基地を放棄して、敵基地攻略作戦に出発する。全艦発進準備」  基地に待機する全艦隊の艦橋に、司令を発動するアレックスの声が届く。 「総員、退去完了しました。基地には誰も残っていません」  パトリシアが報告した。 「よろしい。では、行くとするか」 「はい」 「全艦。発進せよ」  基地をゆっくりと上昇をはじめる艦隊。  艦隊とはいっても模擬戦闘用に特別に作られた練習艦がほとんどであり、無重力の 宇宙環境における戦闘状況をよりリアルに再現できるようになっている。反重力慣性 推進装置により、大気中でも一度加速度を与えると摩擦によって停止することもなし に永久に加速方向へ進んでいく。空中を浮遊するように滑らかに移動することができ る。  艦橋の指令席に陣取りスクリーンを見つめているアレックス・ランドール。  そのそばに寄り添うように立っている副官、パトリシア・ウィンザー。 「いよいよ、はじまりましたね」 「ああ、これまでの半年間練ってきた作戦が日の目を見ることになるわけだ。鬼と出 るか蛇と出るか」 「大丈夫です。きっと成功しますよ」 「そうだといいんだがな。敵艦隊の予想進撃ルートを避けつつ、全艦全速力で敵基地 へ向かえ」

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2017年9月14日 (木)

梓の非日常/序章 ホームルーム

梓の非日常/序章 新入部員は女の子
(三)ホームルーム  入学式の翌日。  廊下を歩いている梓と絵利香。梓の美しさに、すれ違う生徒達のほとんどが振り返 り茫然と立ち尽くしている。開いた窓から春のそよ風がその髪をたなびかせ、ほのか な香りを漂わせる。昨日とはまた違ったりぼんをしている。  一年A組というプレートの掲げられた教室の前で、一旦立ち止まり息を整えてから 中へ入る二人。  先に中に入っていた生徒達が、一斉に梓をみつめる。 「きた、来たわよ」 「なんどみても、きれい……うっとりしちゃう」 「お、俺。同じクラスになって良かったなあ」 「もう一人の女の子も結構可愛いよな」  あちらこちらから、そんな同級生達のささやきが聞こえる。  正面の黒板には、生徒達の名前が書かれた机の配置図が貼られていた。  篠崎絵利香と真条寺梓。  縦に並んだ自分らの名前を確認して所定の席につく二人。 「また並んだね」 「あいうえお順でもアルファベット順でも、大概並んじゃうんだよね。あたし達」 「ふふふ」  満面の笑みを浮かべ、頬杖ついて梓を見つめる絵利香。 「な、なに?」 「わたし達、高校生になったんだなあって思ったらさ。なんか感慨深げになっちゃっ て」 「そうだね。新しい学校生活がここで始まるってこと」 「うん、うん」 「で、また蒸し返すんだけど……一緒の学校に入って本当に良かったの?」 「それは、言わないでって。わたし、ずっと梓ちゃんと一緒にいたかったんだから。 それにもう、ここに入学しちゃたから」 「いまさらってか……」  一種独特の雰囲気に包まれた二人のそんな会話を横目に聞きながら、まわりの生徒 達は声を掛けるチャンスを窺いながら、静かに時を過ごしているだけしかできなかっ た。  チャイムの鐘が鳴り響く。  生徒達がそれぞれの席につきはじめる。  担任教師が入室してホームルームがはじまった。 「私が、君達の担任となった下条広一だ。君達一年生の英語を教えることになってい る。それから、空手部の顧問もしているぞ」  梓の表情が変わった。 「空手部の顧問だって」  絵利香がくるりと振り向いて、小声でささやく。  梓は、空手部の顧問をしているという担任の下条広一を、じっくりと観察をはじめ た。  ぼさぼさ髪に、背広の胸元からのぞく黒のセーター。やさ男で、とても空手をやっ ている人物には見えなかった。  ……そうだよね。空手部の顧問をしているからといって、空手の達人である必要は ないんだ。要するにクラブが存続するには、顧問が必要ってことだけで、誰でもいい んだ……  じっと梓が見つめているのに気がついた下条は、 「いやあ、美少女に見つめられると、さすがにあがっちゃうなあ」  といって頭をかきながら、ウィンクを返してきた。 「え? あ、いや」  真っ赤になってうつむく梓。 「冗談はさておき、出席をとることにしよう。呼ばれたらみんなに顔が見えるように 立って、返事してくれないか」  次々と出席順に名前を呼びはじめる下条教諭。 「沢渡慎二」  だが、誰も立ち上がることもなく返事もなかった。 「沢渡慎二、欠席か?」  後ろの黒板で名前を確認してみる下条教諭。その名前に該当する机は空席だった。 丁度梓の右隣だった。 「沢渡慎二、欠席と……授業初日から欠席するとは、よほど神経図太いとみえる。入 学式では顔を合わせて、こんな美少女が同じクラスにいることはわかっていると思う んだが。私だったら絶対に休まないぞ」  教室中にどっと笑いが巻き起こる。当の本人の梓はうつむいて赤くなっている。  さらに点呼はつづき、女子生徒の名が呼ばれていた。 「篠崎絵利香」 「はい」  と絵利香が立ち上がって答える。  その瞬間生徒達のほとんどが、次に呼ばれるだろう女子生徒の名前を、聞くために 清聴した。 「真条寺梓」  生徒達の視線は、梓に釘付けになっていて、その一挙一動の仕草を息をのんで注目 していた。 「はい」  静かに立ち上がり、軽く会釈すると再び席につく梓。そのしなやかな長い髪が、ふ わりとたわめいて静かに元に戻っていく。  教室中にため息が流れる。  下条教諭は、しばしの間をおいてから再び点呼を開始する。  点呼を終えて、出席簿を閉じる下条教諭。 「これからクラス委員を選出しようと思う」 「ええ! やだあ」  教室内に一斉にどよめきが沸き上がる。  下条教諭は、どよめきにも動ぜず、黒板に役割分担の各委員を書いた。  委員長、副委員長、風紀委員、保健委員など。 「諸君も知っているかと思うが、入学式で総代として答辞を読んだ首席入学の篠崎く んと次席の真条寺くんのことだが、成績がいいからって委員に無理矢理推挙すること はしたくない。あくまで自発的な自薦と、この人がふさわしいという他薦で決めてい く。成績がいいことと、同級生をまとめ上げる裁量とには、おのずから違いがあるか らだ。判るよな」 「当然ですよ」  あちこちから賛成の声があがる。 「ようし、まずは自薦からいこうか。この中でやりたいと思う委員があったら手を挙 げてくれ」 「はい。俺、保健委員やります」  元気よく返事をして立ち上がる男子生徒。 「おう、えらいぞ。田代敬太君か。実際は自薦で出て来るとは思っていなかったんだ が」 「いやあ。へたに黙ってたら、他薦で何に選ばれるか、わかんないじゃん。見渡した ところ中学のクラスメートが結構いるから、いずれ選ばれそうだったから。俺、頭悪 いから会計とかになったら困るもんね」 「とにかく、自ら進んで名乗り出ることは素晴らしいことだ。じゃあ、他にやりたい ものはいないか」 「はい、俺は、風紀委員やります」  次々と男子が手を挙げて、名乗り出ていった。 「これで男子の方は、全部埋まったことになるな。って、おまえらもしかして誰かさ んに、いいところ見せようとしたんじゃないだろなあ」 「そ、そんなことありませんよお。なあ、みんな」 「お、おお。当然です」  冷や汗を流しながら弁解する新委員の男子生徒達。 「まあいい。動機は多少不純かもしれないが、その積極性をかうことにしよう。じゃ あ、残りの女子委員を決めるぞ。鶴田」 「はい」 「おまえは、委員長だし、中学では生徒会会長でもあったな」 「はあ、まあそうですが」 「というわけで、後は、まかせる」  といって椅子を教室の片隅に移動させて、どっかと座り込んだ。 「わかりました」  委員長に名乗り出た鶴田公平は、つかつかと壇上の教卓へ歩いていく。 「よお、いいぞ鶴田」 「かっこいいわよ」 「あ、どもども」  頭をかきへこへこしながら、生徒達の声援に答える鶴田。生徒達の反応や表情をみ ると、この鶴田公平が結構人気があるのがわかる。 「それでは、残りの女子委員を決めます。自薦、他薦の順で委員を募りますが、誰も いなかった場合は、委員長の独断と偏見で勝手に決めさせていただきます」 「わあ、ひっどーい」 「悪徳よ、横暴だわ」 「いいぞ、さすが。元生徒会会長!」 「やれ、やれえ」  すでに全員が決まっている男子は気楽なものだった。 「では自薦からはじめます」  そして十数分後。  鶴田の采配で女子委員もみごと全員決定した。黒板にならぶ各委員の名前。その中 には、梓と絵利香の名前はなかった。 「以上で委員の選出を終わります。先生」  と下条教諭の方を向き直る鶴田。  ぱちぱちと手をたたきながらゆっくりと教卓に近づく下条教諭。 「ごくろうさん。さすが委員長だ」  鶴田の肩を軽くぽんと叩いて、壇上を交代する下条。  丁度チャイムが鳴りはじめる。 「おう、時間ぴったりだな。書記委員は、この決まった委員の名前をメモして、職員 室の私のところに持ってきてくれ。じゃあ、解散する」  下条は出席簿を片手に抱えて教室を出ていった。  生徒達も三々五々教室を出ていったり、居眠りをはじめるもの、各自好き勝手なこ とをしている。  女子生徒は、数人ずつのグループを作って談笑している。 「男子委員は全員自薦で決まっちゃったけど、あれってやっぱり、先生の言うとおり、 真条寺さんにいいところ見せたんじゃない」 「鶴田君だって、真条寺さんのこと時々ちらりと見ていたけど、結局委員からはずし ちゃったわね」  女子生徒達の視線が、梓に集まっている。普通こういう場合、嫉妬や羨望の標的と されるのだが、世俗観を超越した雰囲気を持つ梓には、一般常識は通じないのだった。 それで 当然かもしれないなと思わせてしまう。そんな感情を生徒達は抱いていた。

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お邪魔します(庭写真)

インターポット
さっきからずっと、デートに乱入する輩がいるんですけど。
邪魔ですよ~<(`^´)>)!)

2017年9月13日 (水)

銀河戦記/第三章 模擬戦闘 III

第三章 模擬戦闘

                   III
「では、解散する」
 一同は、立ち上がり一人ずつ退室していく。
「なあ、アレックス」
 ゴードンが話しかけてきた。
「なんだい」
「敵に気付かれたら全滅だ、とか言っていたが。おまえのことだ、いかなる状況にお
かれても、勝つための算段くらいは考えているんだろう」
「まあな」
「それを聞いて安心した」
「背水の陣であることを全員に意識づけておけば、より真剣に作戦に集中できる。っ
てことですね」
 パトリシアが資料をまとめながら、間に入ってきた。
「で、君は聞いてるのかな」
「いいえ。わたしも、尋ねたことがありますが、臨機応変だよ、とかいって……」
「ま、いいか。その場その場でどうなるか、わからないことを、議論してみたところ
でせんないこと」
「そうですわね」
 アレックスの顔を覗きこむように見つめ会う二人。
「それじゃ、俺はこれから、出発の準備をしなきゃならんので、先に失礼する」
「そうか。くれぐれも、万端整えて出発してくれ」
「ああ……。先に行って待ってるぜ」
 くるりと背を向けて、二人の側を離れるゴードン。
「しかし、有能な奥さんのいる奴は、楽でいいねえ。必要な準備は全部黙っててもや
ってくれるんだから」
 廊下を歩きながら、聞こえよがしに呟くゴードンであった。
 クスッと、微笑みながら、
「それじゃ、行きましょうか。あ・な・た」
 パトリシアは、ゴードンの言葉を受けるように、アレックスを促した。
「……」
 返す言葉を失って、呆然とするアレックスは、パトリシアに背を押されるようにし
て、やっと歩きだすのであった。

 その翌日。
 サバンドールへ先着するゴードン達を乗せた輸送船が宇宙港より出発した。
 次々と輸送船が発着する宇宙港の片隅。見送りのデッキにたたずむパトリシアとジ
ェシカ。
「私達が乗る艦艇の手配は?」
「はい。すべて完了しました。すでに第十二番基地に停泊して、乗組員の搭乗を待つ
だけになってます」
「さすがね。で、アレックスは、今何してるの? 見送りにも来ないなんて」
「一人籠って最後の作戦確認をなされていると思われます」
 ゴードンを見送った足で、アレックスの元を訪れたパトリシアが報告する。
「ゴードン以下の第一陣が基地へ出発しました。明後日早朝には到着して、午後二時
より第一回目の戦闘訓練に入る予定です」
「すべて、順調に進んでいるようだな。君のおかげだ、感謝する」
「感謝だなんて、副官として当然のことをしたまでです」
 アレックスが出した作戦案に基づいて、綿密な行動・タイムスケジュールを作成
したのがパトリシアであった。

 翌日、アレックスとパトリシアは、サバンドール星域へ向かう輸送船団の中にいた。
「サバンドールまで三時間です」
「そうか……いよいよだな」
「それにしても、アレックスと一緒に参加できてよかったわ」
「ああ……。例の検査のことか」
「そうよ。妊娠検査」
 パトリシアは、無重力の宇宙に出る前に、念のために妊娠していないかとかいった、
健康診断を受けてきたのである。もし妊娠していた場合、無重力の環境や戦闘への緊
張によって、胎児に障害を与える危険があるからだ。ゆえに既婚女性は、必ず検査を
うけなければ艦船に乗艦できない決まりになっている。
 検査の精度は、授精後一週間というきわめて短い期間でも、ほぼ百パーセントの確
率で判定できるようになっている。

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2017年9月12日 (火)

梓の非日常/序章 乱闘

梓の非日常/序章 新入部員は女の子

(二)乱闘 「おい、裏門のところで喧嘩してるぞ」  誰かが叫ぶのが聞こえた。ぞろぞろと移動する人々の群れ。 「喧嘩!」  梓の眉間がぴくりと動いたかと思うと、次の瞬間には走り出していた。 「ええと、このメモでいうと。裏門は……こっちだわ」 「ちょっと、待ってよ。梓ちゃん」  必死で遅れないように梓の後を追いかける絵利香。  梓達が裏門に到着すると、大勢の男達に囲まれながらも一人で奮戦する男の姿があ った。喧嘩慣れしたその男は、迫り来る相手をなぎ払い、次々と倒していく。 「へえ、あいつ。強いな。あ、ここに座って観戦しようっと」  膝上のあたりまで積み上げられたレンガブロックの花壇の縁に腰を降ろす梓。絵利 香もその隣に腰を降ろす。 「こらあ。もっとしっかり戦わんか!」  右手を振り上げて軍団の方を応援したかと思うと、 「おーい。少しは手加減しろよ。あっさりかたづいちゃ、つまんないぞ」  メガホンのように両手を口の前で広げて、男の方を牽制する。 「どっちも頑張れ!」  足を軽くぱたつかせながら、じつに楽しそうにしている。  やがて喧嘩の決着がつく。結局男はたった一人で軍団のすべてをなぎ倒してしまっ た。  肩で息をしながら呼吸を整えている男だったが、 「おい、そこの女」  ふと振り向いて、つかつかと梓の方に歩み寄ってくる。 「なに?」 「てめえ、俺が戦ってる時に、手加減しろとか言ってただろう」  喧嘩を終えたばかりで、まだ興奮冷めやらぬ表情ですごむ男。 「へえ、喧嘩しながらも、あたしの声が聞こえてたんだ。余裕じゃない」 「なめんなよ。こら」  と肩を掴もうとしたその手を払いのける梓。 「喧嘩した手で触らないでよ、新しい制服が汚れるじゃない」 「梓ちゃん!」 「行こう、絵利香ちゃん」  すっくと立ち上がり、スカートについた汚れを払って歩きだす梓。 「う、うん」 「待てよ、こら」  梓の手をつかんで引き止める男。 「離してよ」  男の手を振りほどく梓。  梓と男が三十センチほど離れて対面する格好となった。身長差が歴然であり、男は 百八十センチくらいで、百六十五センチの梓は、かなり見上げなければ男の顔を見ら れなかった。 「おめえ。良く見りゃ、まぶいじゃんか。どうだい、俺の女にならんか」  右手で梓のあごを、くいと持ち上げるようにして、その美しい顔を眺めている男。 「汚い手で触んないでって、言ってるでしょ」  男の右手を跳ね上げ、ぴしゃりと平手打ちをくらわす梓。 「行こう、絵利香ちゃん。こんな馬鹿、相手にしてらんない」  絵利香の手を取って、再び歩きだす梓。 「て、てめえ。痛い目にあいたいのか」 「痛い目ってなんだ。魚の目のことか? 確か足の裏にできるやつ?」  立ち止まり、横の絵利香に尋ねる梓。 「そうね、確かに痛いわよね。ってちがうでしょ」  ぼけとつっこみを演じている二人。 「こ、このお。俺を馬鹿にしてるな。女だと思ってやさしくしてりゃつけやがりやが って」  辛抱腹にすえかねて、いきなり殴りかかってくる男。  しかし次の瞬間、梓は目にも止まらぬ速さで動いていた。振り出してきたその右腕 にたいし、態勢を屈めて軽くかわしながら腕取り、重心のかかった左足を足払いする。 思わず前のめりとなったところを、前進する勢いにのせて、一本背負い。梓の身体が ばねのようにしなったかと思うと、男の身体は宙に舞って花壇の中へ投げ飛ばされる。 あまりの素速さに受け身すらとれないまま、男は脳震盪を起こしてその場にうずくま った。 「女だと思ってなめてるから、こうなるんだよ」  汚いものを触ってしまったわ。という表情で、手を擦りあわせぱんぱんと叩きなが ら、汚れを落とすような仕草をする梓。 「あーあ。また、やっちゃったね。梓ちゃん」 「しようがないでしょ。襲いかかってきたんだから。正当防衛じゃない」  ふんと鼻息を荒げ、胸を張って自分の正当性を主張する梓。 「ところで、大丈夫、このひと?」 「平気よ。喧嘩なれしてんだから。放っておいても気がつくわよ。行こう」 「う、うん」  男が気掛かりなのか、時折振り返りながら、梓についていく絵利香。

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2017年9月11日 (月)

銀河戦記/第三章 模擬戦闘 II

第三章 模擬戦闘

                   II  宇宙港の外郭に併設された流通センター内、荷物を積んだフォークリフトや搬送ト ラックが頻繁に動きまわっている。ここは宇宙港から発着する連絡艇に荷物を積載す るための施設である。  その一角に積まれた荷物のそばで、ジェシカとゴードンが、センター所員と荷物の チェックをしている。 「迫撃砲八門、催涙弾十二ダース、煙幕弾四十ダース、麻酔銃三十六丁、防毒マスク 七十二面、……」  ジェシカが書類を読み上げながら、ゴードンが数量の確認をしている。検品の終わ った品々を所員がダンボール箱に詰めなおして、フォークリフトに積載している。 「大丈夫だ。数に間違いはない」  ゴードンが最後の一箱をぽんと叩き所員に手渡した。 「それでは、受け取りのサインを」  所員はそれをフォークリフトに載せながら催促した。  ジェシカは書類の受領書にサインをして渡し、納品書を自分のバックにしまった。 「結構です」  サインを確認してから、 「しかし、こんなもん何に使うつもりです。確か士官学校の模擬戦で使うはずですよ ねえ……」  頭をひねりつつ納入された品々を見つめる所員。 「作戦上の秘密だよ。死にたくなかったら、聞かないことだ」  ゴードンがいつのまにか迫撃砲を持ち出して、砲口を所員に向けている。 「冗談はよしてくださいよ。それ、本物なんですから」  所員は真っ青になって後ずさりをしている。 「ばーか、弾は入ってねえよ」  と箱の中にぽいと迫撃砲を投げ入れるようにしまうゴードン。 「そ、それでは、コンテナに収納しますよ」 「お願いします」  所員はフォークリフトを始動して、そばに停車している搬送トラック上のコンテナ に物資を積み込んだ。 「コンテナ番号、S一八九三二GA。目的地、サバンドール星域のクアジャリン星区 同盟軍演習場第十二番基地行き」  ジェシカは、別の書類に物資の行き先を記入して、搬送トラックの運転手に手渡し た。それを受け取りサインをして返すと運転手はトラックを発車させた。  流通センターから宇宙港に向かうトラックを見送る二人。 「基地へ運ぶ物資は、これで全部だよな」 「ええ、そうよ」 「それにしても、我等の指揮官殿はとてつもないことを考えるな」 「でも、ちゃんと筋は通っているわよ。対戦相手のジャストール校のミリオンの性格 をしっかり計算にいれてね」 「そういえば、ジャストール校から指揮官の名前が発表されたのが一週間前。アレッ クスはその半年もまえからミリオンが選ばれると踏んで準備を進めていた。一体どう してなんだ」 「そこが、アレックスの素晴らしいところなのよ。先見の明がそなわっているのね」 「それで、今回の作戦。本当に成功すると思うか?」 「信じるしかないでしょう。わたし達が信じられないで、部下に信じさせることはで きないわよ。あなたは、副隊長として突撃強襲艦を率いて先陣を切るのよ」 「それはそうだが……先陣は武人の栄誉だという……しかし、その実情は影武者みた いなものだ。本隊を援護する中でも一番大切な部門を担当するレイティは一足早く基 地に入って管制システムをいじりまわしている。コンピューターの設定に時間がかか るからな。俺も、あの荷物のお守りで一緒だ」 「わたし達も、おっつけ後を追うわ」  第一作戦会議室。  アレックスが、艦長・参謀達を集めて最後の打ち合わせを行っていた。 「それでは、作戦シミュレーションを、最初から再生してもう一度検討してみよう。 パトリシア、操作をたのむ」 「はい。では、再生します」  正面のパネルスクリーンに、コンピューター映像が投射され、クアジャリン演習場 第十二番基地を出発して、ジャストール校舎の作戦基地である第八番基地へ向かう艦 隊が3D映像で再生される。 「サブスクリーンにルートマップを投影してくれ」 「はい」  パネルスクリーンの片隅に一回り小さな画面が現れた。十二番基地から八番基地周 辺の星図に一筋の航路が引かれている。 「当初、我々はこのような迂回コースを通って、敵基地後方のA地点まで全速力で向 かう」 「敵艦隊の推定進撃コースの索敵捕捉圏内の少し外側のルートを設定してあります」  スザンナ・ベンソンが軽く手を挙げて質問した。 「その推定進撃コースの信憑性は確かなのでしょうか」 「敵の指揮官ミリオンは、正攻法で押しまくるタイプということだ。これまでに調べ 上げた彼の性格面から作戦指揮能力などに至るまで、あらゆる方面からデータを分析 した結果から、今回のルートを設定した」 「ミリオンのすべてを洗いざらいしたわけか。そういえば最初の作戦会議のころから、 ミリオンの性格面からの調査を開始していたな」 「あたしも、最初は何のためにそこまで調べるのか疑問だったけど。こういうわけだ ったのね」  ゴードンとジェシカが改めて納得したように頷いた。 「とにかく、目標地点まで一秒でも早く到達するため、すべての艤装兵器の動力をカ ットして、エンジンに全エネルギーを回す。もちろん敵に気付かれないよう隠密に な」 「もし、気付かれたら、どうなさいますか」 「その時は、我が艦隊は全滅。今年もジャストール校に勝利の栄冠を与えることにな るな」  アレックスが淡々とした口調で答えると、一同の間に重苦しい雰囲気が流れた。 「作戦行動中は一切の通信封鎖。A地点に到達するまでは事前に艦制システムコンピ ューターにインストールするプログラムに任せて行動する」 「プログラムは、レイティの推薦で、技術部開発設計課のフリード・ケイスンさんに お願いしました」 「フリード? レイティの先輩だな。君には、出来ないのか、レイティ」 「いいえ。僕でも、出来ないことはないですけど、時間がかかります。僕の担当は データ処理などの静的プログラムがメインですから。エンジンやミサイル制御などの ベクトル的なプログラムが必要な艦制システムは、エンジン設計と艦制システムに携 わるフリード先輩が適任です」 「十四歳でロケット工学博士号を授かったのを皮切りとして、宇宙航空力学、光電子 半導体設計エンジニア、超電導素子プロセス工学等々、八つの博士号を持つ天才工学 者にして天才プログラマー。彼一人いるだけで戦艦が開発設計できちゃうというとん でもない方ですわね」 「そんなとんでもない奴が、レイティの先輩で、なおかつアレックスの幼馴染みの親 友とは信じられないな」 「でもフリード先輩は、すでに任官されて開発設計課に勤務しているのですよね。士 官学校の試験に介入することは出来ないのでは?」 「いや。彼は、士官学校をまだ卒業していないんだ。現在、九つ目の博士号を目指し て勉強中の学生というわけだ。開発設計課にいるのは、その優秀さを買われて臨時特 別徴用されたんだ。いわゆるアルバイトしているというのが正しいかな」  やがて、艦隊の前方に薄紅に輝く星雲状の天体が現れた。 「ちょっと、静止してくれ」 「はい」  アレックスは席を離れて、スクリーンの前に立った。 「これが、本作戦中において最初の難関となる、ベネット散光星雲だ。この散光星雲 に入り乱れるように、所々暗黒星雲が真っ黒に見えていると思う。我々はこの暗黒星 雲の中にあるベネット十六という原始太陽星雲を横切っていく作戦だ」  アレックスの後をついで、パトリシアが捕捉説明を加えた。 「ベネット十六は、今まさに誕生しようとしている恒星系の一つで、直径約七十七天 文単位、最中心部の圧力は百八十気圧、温度三千七百度Kとなっております。全体的 にゆっくりと回転しながら周辺の星間ガスが中心部に向かって重力収縮を起こし、密 度を増してきております。早ければ二千万年後には最初の核融合が始まるでしょう」 「ここを我が艦隊は突破するというわけですね」 「その通りです。このベネット十六のように、相対的に回転しながら進化をとげる星 雲では、中心となる原始太陽星雲と、その回りに発生する渦動星雲という相関が発生 します。これは流体力学的に導かれることなのですが、この渦動星雲が後に伴星或は 惑星となるらしいことは、周知のことだと思います。さて、本作戦において艦隊が通 過するコースは、この原始太陽星雲と渦動星雲の間隙を縫っていきます。丁度渦の流 れに乗るような進路をとることになります」 「しかし、これまでにも何度か説明を受けたとはいえ、本当に無事ここを通過できる か、心配でしようがないですよ」 「確かに最深部では、三千度以上の高熱で鉄をも溶かす高温になってはいるが、我々 が通過するのは中心より約十天文単位離れた区域で、渦の流れもゆるやかとなってい て、安全性は極めて高い」 「これまでにも、何回かここを無事通過した艦船もあります。もっとも艦隊を組んで の例はありませんが」 「原始太陽特有のジェットストリームが両極から吹き出している。これが敵基地の索 敵レーダーの探知能力を無力にする。また星雲自体が発生する電磁界ノイズも強力だ。 つまり、これらの天然の妨害障壁を利用して、敵基地に背後から接近を試みるという わけだ」

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新連載について

いきなりの連載開始の梓の非日常ですが……。

いわゆるところの「日常系」に分類されるものでしょう。

だがしかし、サクラクエスト、この美術部には問題がある、ふらいんぐうぃっち、などなど。


ごく普通の女子高生の日常を描いているのですが……。

実は……、主人公の梓は、ロックフェラーやロスチャイルドも真っ青の超財閥のお嬢様。

戦略原子力潜水艦を持ってたりして、怒らせたらトライデントD5だってぶっ放す……かも知れない。

さてさて、どんな非日常が繰り広げられるのか……。

それから、「思いはるかな甲子園」に登場したキャラクターが登場します。

2017年9月10日 (日)

梓の非日常/序章 新入部員は女の子

梓の非日常/序章 新入部員は女の子

(一)桜の下で  埼玉県城東初雁高校。  時は春。桜が満開に咲き乱れる校舎。正門前に立てられた、入学式という看板。そ のそばを通り過ぎていく生徒と父兄達。その流れは、案内の教師に導かれるまま講堂 へと続いていた。  講堂の中では、各クラスごとに椅子が並べられており、背もたれには席順が記され ている。生徒達は入学式案内書に記されたクラス及び席順を確認しながら、順序よく 席についていく。  その中にひときわ美しく異彩を放っている女子生徒がいた。透き通るような色白の 素肌と腰までありそうなしなやかな細いロングヘアー。髪の根元の一部を可愛らしい りぼんでまとめている。 「う、美しい……」 「まるで、天使みたい」 「お、俺。同じクラスになりたかった」  男子も女子も、息をひそめ、ため息をつきながら、その美しさに見とれていた。  その美少女の前の席にいる女子生徒が、親しげに話し掛けている。どうやら仲良し の友達らしかった。  やがて壇上に教師が立ち、入学式がはじまった。  校長の長い説教が続く。  かの美少女は、たいくつの表情を隠しもせず、手で口をおおいながら小さなあくび をしていた。  プログラムも進み、新入生代表による答辞が述べられることとなった。その選出基 準は入学試験の首席と次席成績者に与えられる。 「新入生代表、篠崎絵利香さん、真条寺梓さん。前へどうぞ」  かの美少女二人が立ち上がった。  入学式の終わった校庭。講堂からぞろぞろと生徒達や父兄が出て来る。  校庭に机を置いて、それぞれのクラブが新入部員を獲得するために、大声を張り上 げている。その片隅に空手部がコーナーを設けており、新二年生の部員がノートを広 げていた。背後の看板には大きな文字で空手部新入部員募集中! と書かれている。  ノートに目を落として、記帳してある新入部員の数を確認していた。 「まだ、たった三名か……今年は不作の年かな」  伏し目がちの部員の視界に、白いソックスに小さな靴をはいた細い脚先が入って来 る。  部員が目を上げてみると、 「あの、いいですか」  可愛い声を出したその脚の主は、真新しい女子制服に身を包んだ、講堂で注目を浴 びていた、かの美少女だった。 「何かご用ですか? 行き先がわからないとか」  ……うひゃあ、なんて可愛い娘なんだろう……  頭上に咲き乱れる桜の大木から、はらはらと舞い落ちる花びらが髪や肩にかかるの を気にしながら、ふと長い髪をかきあげる梓。  あまりの美しさに思わず声に出しそうになるが、ぐいとそれを飲み込んでいる部員。 「いえ、入部希望なんですけど」 「え? 空手部ですよ。ここ」  空手部という猛者が集まるむさ苦しいクラブと、可憐な美少女という取り合わせに、 確認をとる部員。 「女子は募集してませんか?」 「いえ。べつにかまいませんけど……でも、今のところ女子部員はいませんよ」 「構いません」 「そうですか……」  なおも不審そうな顔をしながらも、 「じゃあ、ここにクラスと名前を書いて」  と、ノートを開いてボールペンを手渡す。 「わかりました」  その女の子は、ボールペンを受けとると、ノートに可愛い小さな文字で「一年A組。 真条寺梓」と書き記した。 「あの、そちらの方は?」  かの美少女、真条寺梓の後ろには、講堂でしきりに話し掛けていた女子生徒が立っ ていた。 「いえ、わたしはただの付き添いです」 「そうですか……部室と道場の場所を記した簡単な案内図です。来週の月曜放課後に 初会合を開きますので部室に集まってください」  といって小さなメモを、梓に渡した。 「わかりました。それでは失礼します」  梓は軽く礼をすると、その場所を離れた。  ……しかし、可愛いなあ……  後ろ姿を見送りながらため息をついている部員。二人が答辞を読んでいた事には気 づいていないようである。二・三年生の席からは遠くて、双眼鏡でもないとはっきり とその表情を確認できなかったのだ。  満開の桜の木々のしたをそぞろ歩く女の子二人。 「もう、梓ちゃんったら本当に空手部に入っちゃったのね」 「へへえ……でも、絵利香ちゃんだって、何もあたしと同じ学校に入らなくてもよか ったのに」 「だって、幼馴染みじゃない。保育学校(nursery school)から中学までずっと一緒 だったのよ」  絵利香と呼ばれ、梓に親しげに語りかけるもう一人の女の子。名前は、篠崎絵利香 という。 「でもさあ、小学・中学はパブリックスクールのお嬢さま学校だったのに、いきなり 一般の公立の共学校に入るなんて、ちょっと心配しているんだ、わたし」 「お嬢さま学校には、空手部なんてないじゃん」 「まあ、そうだけど……」 「女ばかりの学校にいくのもいい加減うんざりしてたんだ。だいたいからして、家に 帰れば三十人からの女性に囲まれて暮らしているのに、せめて学校くらいは男子のい るところに行きたいわよ。思春期だしね」 「そうなのか、梓ちゃんは、婿探しに共学校にいくのね」 「そうじゃなくって!」 「うふふ、冗談よ」 「でもさあ……」 「なに?」 「お母さんも、お祖母さんも、十八歳で結婚して子供産んでるのよね。まわりのあた しを見る目も、やっぱり十八歳で結婚するのを期待しているみたいなの。これって正 直いって辛いわよ。うら若き十五歳の娘の将来すでに決まっているって感じ」 「真条寺家って女系家族だから、しようがないわよ。母親から娘へ、娘から孫娘へと、 女子だけに継承される伝統があるんだから。梓ちゃんは真条寺財閥の正当な継承者な んだけど、それを次の世代に引き継ぐ義務もあるということよ」 「はあ……この話しはもうよそうよ。頭が痛くなって来るから」 「そうね」

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2017年9月 9日 (土)

銀河戦記/第三章 模擬戦闘 I

第三章 模擬戦闘

                    I  パトリシア達との数次の作戦会議によって、アレックスの率いる模擬戦に参加する 艦隊の陣容が固まりつつあった。パトリシアの事務処理能力は完璧に近かった。アレ ックスが一言口にするだけで、速やかに申請に必要な書類が作成されて軍部に提出さ れ、許可証が交付されてアレックスの手元に届いた。  戦艦七十隻、突撃強襲艦二十隻、攻撃空母三隻、艦載機六十機。  アレックスが指示を出し、パトリシアが手配した艦船の総勢である。  模擬戦に参加させる艦隊編成は、指揮官の配慮によって自由に変えることが出来る。 艦船にはそれぞれ点数がつけられていて、攻撃空母四十点、戦艦二十点、突撃強襲艦 十五点、巡航艦十点、空母艦載機一点という具合である。  指揮官は自分に与えられた持ち点を自由に配分して艦船を手配するのである。  また艦船を実際に動かす兵員も確保しなければならないし、参謀の選出も必要だ。  それぞれの艦艇には、元々勤務している熟練者が五分の一ほど従事してくれるが、 残りの人数は彼らに指導を受ける形をとる、士官学校在籍の訓練生である。 「パトリシア。早速だけど、今回の模擬戦の作戦について協議したい。午後二時に第 一作戦会議室に、各艦の艦長と参謀達を集めてくれないか」 「わかりました。午後二時、第一作戦会議室ですね」 「時間厳守だと伝えておいてくれ」 「はい」 「あ、パトリシア。ちょっと」 「なんでしょう?」 「ところで模擬戦が終わって休暇がとれたら、どこか二人で旅行にでもいかない か?」 「旅行?」 「ああ。模擬戦が終われば実戦部隊に配属されて、君とは当分会えなくなるからね」 「本当にわたしでいいの?」 「言っただろう、君しかいないって」 「わかったわ。一緒に休暇が取れるかわからないけど、その時に」 「そうだ。確実に取れるように、婚約届けを出そう。君さえよければだけどね」 「婚約届けを?」 「いやかい」 「ううん。うれしいわ。あなたが、そうおっしゃるなら」 「悪いけど。婚約届けの書類、君が作っておいてくれないか。書類とかいうのは、昔 から苦手でね。届けに必要な二人の保証人は、ゴードンとフランソワがいいんじゃな いかな。ゴードンには僕から話しておくから」 「そうね。じゃあ、アレックスのサインを入れるだけで済むようにしておくわ」 「ありがとう。旅行のことは、作戦会議の後でくわしいことを話そう」 「はい」  第一作戦会議室に一同が集まりはじめたのは、定刻にまだ十分前という頃であった。  会議室はまだ開けられておらず、一同は受け付けの前で立ったまま開場を待ってい た。受け付けに座るパトリシア・ウィンザー。 「おい、いい加減に開けて入れてくれないか」 「定刻まであと三分ほどあります」 「おい、おい、時間厳守だというから、早めに着たんだぞ。もう十分になる」 「定刻になりましたら、お開けしますので、それまでお待ちください」  パトリシアはアレックスから定刻まで開場しないように厳命されていて、それを忠 実に守っていた。一部がパトリシアに詰め寄る場面もあったが、結局定刻を待って入 場することとなった。 「危ない、危ない。もう少しで遅刻するところだった」  定刻ぎりぎりに、ゴードン・オニールは到着した。急いで走ってきたらしく、肩で 息をしていた。  一同が入場すると、すでにアレックスは着席しており、目を閉じ腕を組んで考え込 んでいるような表情であった。 「定刻になりましたが、まだ一名到着しておりません」 「かまわない、扉を閉めろ。その者は模擬戦には参加させない」  一同から吐息がもれた。模擬戦に参加できなければ、その単位をとれなくなり、そ の他の成績いかんでは士官学校を落第してしまうことになる。 「わかりました」  パトリシアは扉を閉め鍵をかけて、自分の席に着いた。 「諸君、残念なことだが我が艦隊は全滅した」  全員が着席したのを見届けたアレックスは、重厚な口調で言い放った。 「どういうことですか」 「諸君は作戦時間を無視して、定刻よりもはやく集まってきたようだな。中には十分 もはやく来たものもいるようだが」 「それは、時間厳守ということでしたので」 「時間を厳守することが、定刻より早く集まることではないだろう」 「それは……」 「諸君は、敵艦隊を奇襲しようとする集合場所に、定刻より早く現れたことにより、 敵艦隊にその動向を察知されて逆襲されることになるだろう」  その時、扉がノックされた。定刻に間に合わなかった一人が遅れてやってきたよう だ。アレックスはそれを無視して、話しを続けた。 「実際の戦闘というものは、各部隊が共同して作戦に参加して行われるものだ。一 分・一秒の作戦時間のずれが勝敗を決する。敵の動きを一秒でも早く察知し、先回り してこれを叩く。奇襲・待ち伏せ、ありとあらゆる戦術級の作戦においては、作戦予 定時間より早すぎては敵に察知されて逆襲されるし、遅すぎては攻撃の機会を失って しまう」 「それくらいなら知っております」 「馬鹿野郎! それが作戦時間を無視して集合してきたものの言うことか」 「しかし……」  ノックの音はすでにやんで静かになっていた。あきらめて去っていったのであろう。 「いいわけは無用だ。作戦会議が招集された時からすでに戦闘ははじまっているのだ。 午後二時に招集がかかれば、早すぎもせず遅すぎもしない、午後二時きっかりに集ま らなければならないのだ。自分の時間の管理をできないものに、作戦をたてる能力も なければその資格もない」 「それは言い過ぎです」 「そうかな……我々は士官学校を卒業すれば、いずれ各部隊の指揮官として艦隊運用 の一躍をになうことになる。だが、部隊の後方で指令を出すだけで自分は安全圏でえ らそうにしている士官になるだけではないのか。それが全滅を引き起こす誤った指令 であったとしても、最前線の兵士達はただ従うしかなく最初に戦死するのも彼らなの だ」  アレックスはゆっくりと周囲を見渡しながら、言葉を続けた。 「自らが時間に厳しくなることで、最前線に立たされる兵士達の身になって作戦を立 てることができるというものだ」

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妖奇退魔夜行執筆中のため休載

妖奇退魔夜行ですが、ストックが尽きたので以降は書下ろしとなります。

闇夜に蠢くもの(仮題)
蘇我入鹿の怨霊(仮題)

の二編がただ今執筆中です。

推敲完了次第投稿しますが、当面の間「銀河戦記」のみとなります。

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2017年9月 8日 (金)

妖奇退魔夜行/血の契約 其の捌

陰陽退魔士・逢坂蘭子/血の契約 其の捌

 順子を保健室に運んで寝かせ、二人は校舎裏へとやってきた。
 祠を古木の根元の茂みの中に戻す弥生。
「これでいい」
「土の中に埋めた方がいいのではないですか?」
「無駄だよ。土の中に埋めたとて、いずれ這い出してくる。封印されていたとしてもそれくらいの芸当はできる。この祠の材料は、この古木の枝から作られたらしい。ゆえに封印を保持するには、ここが一番らしいのだ。古木の精霊が祠を覆い隠して一般人の眼には映らないようになっている」
 蘭子は思い当たった。
 夢鏡魔人もそうであった。
「つかぬことをお聞きしますが、弥生先生は陰陽師でいらっしゃいますね」
「陰陽師か……。確かにその類ではあるが、私は代々この祠を守り続けてきた防人(さきもり)だ」
「防人?」
「この妖魔は絶対不老不死の能力を持っているから封印するしかない。そして万が一封印が解かれた時のために選ばれたのが我が家系というわけだ」
「代々防人の家系ですか?」
「まあね……。さてと、もう一度。今度はゆっくりとお茶を頂きましょうか」
 いつものやさしい口調に戻る弥生教諭。
 二人仲良く並んで教務室へと戻ってゆく。
「ところで後ろからついてくるのは、あなたのペットかしら?」
 後ろを振り向くと、白虎がついてきていた。
「あら、また勝手に出てきたのね」
 しゃがみ込んで白虎の背中を撫でる蘭子。
「白虎みたいね」
「判りますか?」
「それくらいのことは」
 と弥生が手を差し出そうとすると、白虎は低く唸り声をあげて威嚇した。
「あら、嫌われちゃったみたいね」
 あわてて身を引く弥生。
「ごめんなさい。私以外にはなつかないんです」
「でしょうね。守護獣というところ?」
「はい」
「うらやましいわね」
 弥生は思った。
 十二天将にして四聖獣と言われる白虎を手なずけるなんて……。さすが摂津土御門家の総帥土御門晴代の孫。その実力は計り知れないものがあると……。
 白虎は蘭子の前では猫のようにおとなくじゃれている。
「後で遊んであげるからね」
 頷くように小さく吼える白虎だった。

「あなたの武勇伝を伺いたいものね」
「武勇伝なんて、そんな大したことはやっておりません」
「噂は聞いているよ。心臓抜き取り変死事件とか、剣道部員闇討ち事件とか、みんな君が解決したそうじゃないか」
「どうしてそれを?」
「防人とはいえ、まあこれでも陰陽師のはしくれだからね。一応そちら方面の情報は流れてくるよ」
「そうでしたか」
 校舎を見上げながら弥生教諭が呟くように言った。
「この校舎は建てられて随分と経つ。魑魅魍魎や怨霊の類の巣窟になっている。一般人には見えないだろうが、我々陰陽師にははっきりと見える」
「確かにその通りです」
「おそらくこれからも、そんな輩が起こす騒動が起きるだろう。私には防人としてしか働けないが、その他多くの事件解決には君の活躍に期待しているよ」
「努力します」
「ああ、そうしてくれないか」
「はい」
「さてと話がそれてしまった。お茶の時間にしよう」
 と言いながら歩き出す弥生教諭と、それに付いていく蘭子。

 一陣の風が吹きそよぎ、祠をなでていった。

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五右衛門風呂のアバター

ちなみに、五右衛門風呂でアバターの顔が赤くなるというのは以下のごとくです

通常の顔 赤い顔

2017年9月 7日 (木)

銀河戦記/第二章 士官学校 VI

 第二章 士官学校

                    VI  女子寮玄関。 「さあ、みなさん食堂に行きなさい。まもなく朝食の時間です」  寮長が外にたむろしている女性士官候補生達を寮に押し戻しはじめた。 「はい」  入れ代わりにパトリシアと、かつらをかぶり女性士官の軍服を着込んだアレックス が出てくる。濃紺に白線のストライプの入ったタイトスカートに、同柄のブレザー、 そして黒のストッキングという女性士官の軍服を着込んでいるアレックス。慣れない タイトスカートを履いているせいか、非常に歩きづらそうであった。少しでも早く歩 こうとするのでつい大股になるのだが、裾の狭いタイトスカートは足捌きが難しくて 小股でしか歩けないのである。こけそうになりながらも必死で歩くアレックスの姿を 横目で見ながら、パトリシアはくすくすと笑っていた。 「笑うなよ」 「だってえ……しっ。寮長よ。あなたはそのまま車のところに行って。わたしがなん とかごまかすから」  というとパトリシアは寮長の方に歩み寄っていった。アレックスは言われた通りに、 当直が乗る車のところへ向かった。 「おはようございます」  パトリシアは寮長にあいさつを交わした。 「あら、パトリシア。おはよう」  普通士官学校ではファーストネームで呼ぶことはないが、優等生で何かと寮長の代 理役もこなしているがために、二人きりのときには親しみをこめてパトリシアの名で 呼んでいた。 「一体、何があったのですか?」  と立たされている男子を見やりながら尋ねた。 「いえね、女子寮に侵入したらしくてね。今とっちめているところよ」 「そうなんですか」 「当直?」 「はい。これより、ジュリー・アンダーソンと共に当直交代に参ります」  寮長は、車を出そうとしているジュリーの後ろ姿を遠目に確認して、 「アンダーソンですね」  手に持っていたスケジュール表を開きチェックを入れた。 「確認しました。いってらっしゃい」 「行ってまいります」  アレックスが発車準備している車に歩きだすパトリシア。その言葉をすっかり信じ てジュリーと入れ代わっているアレックスの正体にまるで気付かない寮長であった。  車の助手席に腰を降ろしてドアを閉めるパトリシア。 「行きましょうか」  無事車を発進させて寮を脱出した二人であった。  アレックスはバックミラーで誰も追いかけてこないのを確認した。どうやら誰にも 気づかれずに脱出できたようだ。 「しかし、よく寮長にばれなかったな。冷や汗ものだったよ」 「実は寮長はど近眼なのよ。女の心理で眼鏡をかけたがらないけど」 「そうだったのか、おかげで助かったというわけだな」 「ちょっと離れていると顔の区別ができなくて、誰が誰だかわからないのよ。だから、 女性士官の軍服さえ着ていれば、中身も女性士官と思い込んでしまったというわけ。 それにしても……」  とパトリシアは、スカートを履いて運転をするアレックスの姿に思わず吹き出した。 「また、笑う」 「だってえ……」 「しかし、まさか女装をするはめに陥るとは夢にも思わなかったな」 「それもこれもあなたが夜這いなんかするからですよ」  軍服を着込んでいるパトリシアは、いつもの沈着冷静な優等生である女性士官に戻 っていた。 「夜這いは男の本分さ」 「なにが、男の本分よ。わたしのバージンを奪っておいて、なおも飽きたらず女子寮 まで追いかけてくるなんて」 「しかし、僕が欲しいと思うのは君だけだよ。だからこそ危険を犯してまで夜這いを かけて君のところに忍び込んだんじゃないか」 「それって殺し文句?」 「本気さ」 「いいわ、信じてあげる。わたしもあなたのこと嫌いじゃないから」 「感謝する。もし銀河が平和になったら結婚しよう」  といって空いている右手を、パトリシアの膝においた。 「期待してるわね」  パトリシアはさらりと答えて、微笑みながらそのアレックスの右手を軽く握りかえ した。 「それにしても、ジュリーが寮を出るときに問題にならないかい? いないはずの彼 女がいるとばれてしまう」 「大丈夫よ。ジュリーなら昨夜は寮に帰ってないから」 「帰っていない?」 「昨夜はバーで酔いつぶれて、カプセルホテルで寝ているの。寮長にはうまく騙して 帰寮して部屋にいることになっていたけど」 「ジュリーは酒豪なのか」 「うわばみといったほうが正解ね。何かあると酔いつぶれるまで飲みまくるの」 「ずいぶん変わった女性士官がいるものだ」 「でも酒が入っていなければ、パイロットとしての腕は、女性士官の中でも抜群よ」 「へえ、そうなんだ。このサイズの軍服を着ているということは、結構女性の中でも 大柄なほうだろうけど」 「ともかく彼女のところに行くわね。その軍服を返さなきゃいけないし、明るい時間 帯の帰寮になるので、本人でないとばれるから」 「ちょっとその前に、どこかで着替えをさせてくれないか」 「あら、いいじゃない。とても似合っているわよ、そのままジュリーに逢ったら?」 「冗談じゃないよ」 「悪いけど、途中停車している暇はないの。ジュリーを迎えにいってたら交替の時間 ぎりぎりなのよ」 「しかし……」 「それもこれも天罰と思って諦めたら」 「将来の旦那さまになんと冷たいお言葉」  第二章 了

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「Adobe Flash Player をインストールしてください」が何度も出るの対処法

「Adobe Flash Player をインストールしてください」が何度も出るの対処法

Flash Player の更新作業で古いバージョンの欠片がレジストリに残ったり、レジストリ
の一部が壊れたりすることがあります。この場合、Flashをインストールして下さい、を
何度も繰り返すというジレンマに陥ります。

【プログラムのインストールとアンインストールのトラブルシューティングツール】
というものがありますので、それで古い欠片ごとアンインストールしてから、改めて再イ
ンストールしてみてください。

このツールは、Flash Player の他、一般のソフトでも可能です。
体験版をインストールした後で削除したりした時にも、アンインストールに失敗して、ア
プリ欄に体験版がそのまま残っていて、起動もできず削除もできずということがあると思
います。この場合、レジストリに体験版の残渣が残っているからです。

2017年9月 6日 (水)

妖奇退魔夜行/血の契約 其の質

陰陽退魔士・逢坂蘭子/血の契約 其の質

 国語教務室に入る二人。
「お茶を入れるわ。そこに座ってて」
 部屋の中央に小さな食卓のようなテーブルと椅子が置かれていた。
 部屋に入った時から違和感を感じていた蘭子であるが、すぐに理由が判った。
 四角いテーブルというものは、その角を部屋の四隅に合わせるようにするのが普通であ
る。
 しかしこのテーブルは、ほぼ正確に四十五度となるような角度に置かれていた。
(まるで魔方陣だな)
 すなわち部屋の四辺四角と、テーブルの四辺四角とで、奇門遁甲八陣図のような図形を
描くような配置になっている。
 改めて周囲の本棚を見ると、日本現報善悪霊異記・太平百物語・行脚怪談袋・葛の葉・
山海経・封神演義という書物が並んでいる。
 いずれも妖怪や妖獣、奇跡や怪異現象といった内容のものが記されているものばかりだ。

「ミルクを切らしているので、レモンティーで許してね」
 とテーブルの上に三客の紅茶カップを置く弥生教諭。
「さあ、どうぞ」
 勧められて一口すすって、
「おいしい!」
 と感嘆の声を漏らす順子だった。
「弥生先生、私達を呼んだわけを聞かせてください」
 蘭子が用件を切り出した。
「そうね。そろそろいいわね」
 というと棚から風呂敷包みを手に取り、テーブルの上に置いた。
 ゆっくりと包みを解く弥生教諭。
 中から現れたのは古ぼけた祠。校舎裏の茂みにひっそりと安置されていたものだ。
「こ、これは……」
 順子の表情が明らかに曇った。
「どう? 見たことあるかしら」
 椅子を引いて立ち上がる順子。
 いつの間にか、部屋全体が妖しく輝いていた。
「結界の間か」
「その通り。逃げられはしないぞ」
「こしゃくな!」
 順子が鋭い爪を立てて蘭子に襲いかかる。
「なんでこっちに来るのよ」
 とっさに守護懐剣の虎徹で受け止める。
 見た目には普通の短剣ではあるが魔人が封じ込まれているので、妖魔に対しては絶大な
る威力を発揮する。
 矛先を変えて、弥生に襲いかかる順子。
 しかし、弥生が手を前にかざしただけではね飛ばしてしまう。
「おまえは人間の首筋にその鋭い爪を突き立てて精気を吸い取ることしかできない。自分
を守ったり他を攻撃する能力は一切持ち合わせてはいない。こうして篭の鳥となっては何
もできない」
 くやしさを表情いっぱいに浮き上がらせる順子。
「唯一の能力といえば、おまえは不死ということだ。たとえ一端は死んだように見えても
やがて再び復活する。だから、おまえへの対処法は封印することしかない。蘭子! 祠の
中から狐像を取り出して」
 言われた通りに狐像の像を取り出す蘭子。
「…………」
 蘭子には意味不明の呪文を唱えはじめる弥生。
 苦しみ始める順子。
 やがてその身体が輝きだしたと思うと、狐像の中へと吸収されてしまった。
 弥生は狐像を祠の中に納めながら言った。
「蘭子。あなたの持っている呪符を出して!」
「え? ああ……」
 懐から呪符を取り出す蘭子。
「これね」
 それは祠に貼られていたと思われる呪符だった。妖魔について調べようとしたのである
が、祖母の晴代に尋ねても結局判らずじまいだった。
 弥生は蘭子から呪符を受け取ると、掌の上に置いて呪文を唱えてから、ふっと軽く息を
吹きかけると、呪符は宙を舞って祠の扉に貼り付いた。
 一瞬、悲鳴が聞こえたような気がした。
「終わったわね」
 ため息をつく弥生。
 と同時に、結界陣が解けた。
 床に倒れている順子を抱き起こす蘭子。
「良かった。生きているわ」
「しばらくすれば目が覚めるだろう」

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2017年9月 5日 (火)

銀河戦記/第二章 士官学校 V

 第二章 士官学校

                   V  その夜。  パトリシアが宿舎の自分の部屋でネグリジェに着替えてくつろいでいた時だった。 外から窓をこつこつと叩く音がするので、何事かと窓を開けて見ると、ひょいと顔を 出したのはアレックスだった。 「アレックス!」 「しっ! 大きな声を出さないで」  ここは三階である。アレックスはロープを伝って屋上から降りてきたようであった。 「危ないわ、早く中に入って」  パトリシアはアレックスを招きいれた。アレックスは中へ入り侵入に使ったロープ をしまい込んだ。 「どうして……」  言葉を言い終わらないうちに、強く抱きしめられ唇を奪われた。  厚い胸板、広い肩幅、そして自分を抱きしめる強い力。女性であるか細い自分とは 違う頑丈な身体つきをしたアレックス。 「君にどうしても逢いたかった。君の同室のフランソワが当直で今夜は一人と聞いて ね」 「でもこんなことまでして来なくても。落ちたらどうするのよ」  パトリシアは真剣な顔で心配していた。アレックスはかけがえのない存在になって いたのである。 「一刻も早く逢いたかったんだ」 「アレックス……」  窓の外から小鳥のさえずりが聞こえている。  カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。  ベッドの上でまどろむ二人。パトリシアは、アレックスが自分の肩を抱き寄せるよ うにしたそのたくましい腕を枕にして、その厚い胸板に手を預けるように寄り添って 寝入っていた。  先に目を覚ましたパトリシアが、 「もし結婚したら、毎朝こうやって目覚めるのね……」  横に眠るアレックスの寝顔を見つめながら感慨ひとしおであった。男性に抱かれて 朝を迎えるのは、これがはじめてのはずなのに、なぜかずっと以前からそうしてきた ような、錯覚を覚えていた。男と女との関係、これがごく自然な姿なのかも知れない。  アレックスを起こさないようにそっと抜け出すと、鏡台に座って髪をとかしはじめ た。昨夜の夢模様のせいかだいぶ髪が乱れている。  アレックスが起きだしてきた。 「おはよう」  といってパトリシアの額に軽くキスをした。 「おはようございます」  明るいところでネグリジェ姿の自分を見られるのもまた恥ずかしいものがあった。 裸すら見られているのだから、今更という感もありはしたが、夢うつつ状態にあった 時と、冷静な今とでは状況もまた違うということであった。  アレックスはすでに衣服を着込み始めていた。男性は女性と違って身支度に時間は かからない。髪を丁寧にとかす必要もなければ、化粧をすることもない。ものの数分 で支度を完了していた。  外が騒がしくなっていた。  アレックスが何事かと思って、窓のカーテンを少し引いて隙間から外を覗くと、庭 の片隅に一人の男性が立たされて、寮長の尋問を受けているところだった。  回りには騒ぎをかぎつけて出てきた女性士官候補生がたむろしていた。パトリシア もアレックスのそばにきて外の様子をうかがった。 「まいったな……」 「これでは窓からは出られないわね」 「ああ……」  パトリシアは、箪笥から下着を取り出して着替えをはじめた。 「後ろを向いていてね」  たとえ身体を許した相手とはいえ、明るいところで着替えを見られるのはさすがに 恥ずかしい。二人とも背中合わせになっている。 「しかし、どうしようかなあ……」  背中ごしに彼の困ったような呟きが聞こえてくる。 「今更、どうしようもないわね」  スリップを頭から被るように着るパトリシア。 「元はと言えば夜這いをかけた僕がいけないんだけど。ばれたら君にも迷惑がかかる な」 「う、うん……」  その時、同室で後輩のフランソワ・クレールが入ってきた。 「あ、あなたは!」  入ってくるなりアレックスの姿を見つけて驚くフランソワ。 「静かに、フランソワ」  人差し指を唇にあてて制止するパトリシア。 「でも……」 「いいから、早くドアを閉めて」 「は、はい」  ドアを閉め、あらためてアレックスとパトリシアを交互に眺めるフランドル。  アレックスはすでに着替えをすんでいたものの、パトリシアはまだ下着姿のままで あった。その光景を見れば状況は一目瞭然である。 「ふーん……先輩達、そういう仲だったのですか」 「そういうわけなの」 「わかりました。あたしだって野暮じゃありませんから、お二人のこと内緒にしてお きます」 「ありがとう」  といいながら軍服を身に付けはじめるパトリシア。 「でも、どうするんですか。外の状況はご存じでしょう」 「ああ、今あそこに立たされているのは俺の同僚なんだよな」 「見つかる彼もどじですけど、先輩も帰る手段がないみたいですね」 「ん……それで困っているんだよな」 「あ。ところで、どうやってここに侵入したのですか」 「非常階段を使って五階の踊り場へ。非常口には中から鍵が掛かっているから樋を伝 って屋上へ昇り。そしてロープを使ってここへ降りてきて、パトリシアに窓を開けて もらって中に入ったのさ」 「本当に無理するんだから」 「へえ。やるじゃない」  といいながら窓から首を出して屋上を見上げていた。  フランソワは感心していた。恋する人のところへ来るために命がけというところに である。 「あたしも、そうやって会いに来てくれるような恋人作ろうかな」 「とんでもないわよ。命懸けもいいけど、心臓に悪いわよ」 「そうかあ……」 「それにしても出るに出られぬ籠の鳥とはな」 「夜までここに隠れていらっしゃったら?」 「それがだめなんだ。どうしても出なけりゃならん講義があるんだよ。卒業がかかっ ている重要なやつでね」 「ふーん」  どうしたもんかと、アレックスとフランソワが悩んでいた。フランソワにしてみれ ば、恋泥棒であるアレックスがどうなろうと知ったことではないのだが、お姉さまに も問題が降り掛かるとなればそうもいってはおられない。 「一つだけ方法があるわ」  軍服を着終えたパトリシアがぽつりとつぶやいた。 「それは、どんな方法だい」  アレックスの問いかけには答えずにフランソワに言いつけるパトリシア。 「ジュリーの部屋から彼女の軍服を持ってきて頂戴」 「ジュリーの……?」  しばし首を傾げていたフランソワだったがすぐに閃いたのか、 「わかりました。いますぐ持ってきます」 「他の人に、怪しまれないようにしてね」  フランソワは言葉に出さずに指でVサインを示しながら出ていった。 「一体なにをしようというのかい」 「あなたにジュリーになってもらうのよ」 「ジュリーになるって、まさか……」 「そのまさかよ」

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2017年9月 4日 (月)

妖奇退魔夜行/血の契約 其の陸

陰陽退魔士・逢坂蘭子/血の契約 其の陸

「さて、井上課長を呼びましょうか」
 ミイラとなってしまった被害者を放っておくわけにはいかない。
 救急車や警察を呼ぶわけにもいかず、ここは直接井上課長と連絡を取った方が良い。
 懐から携帯電話を取り出して井上課長に連絡する蘭子。
 十数分後に井上課長が、鑑識を伴ってやってきた。
「二体目のミイラか……」
 頭を掻きながら、地面に伏している遺体を検分する井上課長。
 蘭子は事件の詳細を報告した。
「なるほどね」
 呟いたかと思うと、内ポケットから煙草を取り出した。
 どうやら癖になっているらしく、頭を抱えるような難問に遭遇した時、無意識に煙草を
吸いたくなるようだ。
「ペストとか、病変ということで処理できませんかね」
 いつも腰巾着のように付き添っている若い刑事が提案した。
 このミイラ化の状況をペスト(黒死病)で片付けようというつもりのようである。
「それこそ大変なことになるぞ」
 ペストには幾つかの病型があるが、その中のペスト敗血症は黒死病とも呼ばれ、罹患す
ると皮膚が黒くなり、高い致死性を持っている病気である。十四世紀のヨーロッパで大流
行し、全人口の三割から六割が命を落としたという。
 その他の病型には、腺ペスト、肺ペストなどがあるが、いずれも発病して2日から1週
間以内に死亡するという。
「だめですかね……。エボラ出血熱とか」
「まあ、一考の余地はあるがな。妖魔とかよりは現実味が出るが、ペストの流行か?なん
て報道が出たら大騒動になるぞ」
 天を仰ぐようにして煙草の煙を一気に吐き出す井上課長。そしていつものように携帯灰
皿に吸殻を入れる。
「仕方がない。病変という線でいくことにするか……。それが一番妥当だろう」
「そうそう、そうですよ」
「問題はこの爪痕だな。これをどう説明するかだ」
「獣に爪を立てられて、傷口から菌が浸入したというのは?」
「ううむ。ちょっと無理があるな。どう見ても人間の爪痕だと判るからな」
「困りましたね」
「ああ……」
 いくら考えても答えは出ない。
 堂々巡りの繰り返し。

 翌朝。
 阿倍野女子高一年三組。
 いつもの授業前のひととき。
 再び起こったミイラ化変死事件の話題で盛り上がっていた。
 そこへ順子が入ってくる。
 昨夜のことは、まるで覚えていないようである。
 また一段と美しくなっていた。
「おはよう!」
 お互いに挨拶を交わしながら、世間話に花が咲く。
「またミイラ化した遺体が発見されたわね」
「やっぱりインカ帝国のミイラを誰かがばらまいてんじゃないの?」
「日本人でしょ」
「知らないの? インカの民も日本人も、同じモンゴロイドだから、ミイラ化しちゃった
ら区別なんてつくもんですか」
「でも、ペストとかエボラ出血熱とか、未知の病原体に感染した可能性があるというのが、
新たに発表されたわよ」
 順子はそんな会話を教室の片隅で聞いていた。
 引っ込み思案な性格までは、そうそう簡単には変わらないようである。
 クラスメート達も、いきなり美しくなったことで、声を掛けづらい一面もあった。
 やがて授業がはじまる。
 そして最後の国語の授業が終了した時。
 国語及び古文を担当する土御門弥生教諭が順子と蘭子を呼び止めた。
「佐々木順子さん、逢坂蘭子さん。国語科教務室まで来ていただけるかしら。お話があり
ます」
 何事かと国語科教務室へと向かう蘭子。
 土御門弥生教諭は、その名が示すように陰陽師家とは縁があるらしい。
 順子も呼ばれているところをみると、二人を呼んだ訳がありそうだ。

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2017年9月 3日 (日)

銀河戦記/第二章 士官学校 IV

 第二章 士官学校

 IV  パトリシアは少し酔っていた。  カクテルを飲みながら、隣のアレックスにもたれかかるように寄り添っている。  あの日以来、アレックスとのデートを重ねてきて、すっかりうち解け合って酒の出 る場所にも同席する仲になっていた。  はじめてのデートでは食事をして別れた。  二度目には帰り際にファーストキスを奪われた。はじめての異性との接触であった が少しもいやな感じはしなかった。  三度目には強く抱きしめられて胸を愛撫された。  デートを重ねるたびに、二人の絆が深くなっていく。いずれ行き着くところまで行 くのは明らかであった。それも運命かも知れないと思っていた。  パトリシアは、アレックスになら自分の身体を捧げてもいいと思っていた。 「バーでお酒を飲みたいな」  といって、自分の方からアレックスをバーに誘ったのである。お酒を飲むことで、 自分に勇気を与える意味もあった。 「少し、暑いわ」 「外に出よう。少し風に当たるといい」  アレックスが、ふらつくパトリシアの身体を抱き寄せるようにして外へ連れ出して くれる。  高台にある静かな公園にきていた。眼下には宇宙港が広がっており、時折真っ赤な 炎を撒き散らして空高く舞い上がっていく様がよく見える。軌道上にある宇宙ステー ションに向かう連絡艇である。  それらがよく観察できる一番の場所にアレックスは車を止めていた。車の助手席に 座るパトリシア。  開いた窓から冷たい風が入って気持ちがいい。  アレックスの顔が覆い被さってくる。パトリシアはそっと目を閉じる。唇を吸われ、 服の上から胸を愛撫される。パトリシアはなすがままにされていた。やがてスカート の中にアレックスの手が滑り込んできてショーツに手をかけた。 「ここじゃ、いや……」  パトリシアは目を閉じたまま、アレックスの手をそっと振り払った。  アレックスは身体を離して、車を発進させた。パトリシアはアレックスの横顔を見 つめながら、意図を察した彼がモーテルに車を乗り入れるのを確認した。  モーテルの一室に入ると、すかさずアレックスが抱きしめて唇をふさいだ。  長い抱擁が続いた。  アレックスの手が背後に回る気配がしたかと思うと、ワンピースの背中のファス ナーを降ろしはじめた。  やがてパサリと床に落ちるワンピース。  異性の前ではじめて下着姿を見られているのかと思うと身体が微かに硬直していく のがわかった。  アレックスが唇を放して口を開いた。 「ベッドにいこう」  パトリシアはアレックスの両手に抱きかかえられてベッドに運ばれた。  ベッドに横たえられる下着姿のパトリシア。  アレックスが脇に入ってきて、ブラが外されショーツが引き降ろされた。  パトリシアは生まれたままの裸の自分に注がれる熱い視線を感じていた。 「いいんだね?」  アレックスはやさしくささやいた。 「わたしのこと、好きですか?」 「ああ、誰よりもね」  その言葉に答えるように、パトリシアは黙って目を伏せるのだった。  パトリシアが宿舎に戻ったのは、八時の門限から三時間も遅れた午後十一時であっ た。 パトリシアを出迎えた寮長は言った。 「あなたが門限を遅れるなんてはじめてね」 「はい」 「正直に言って頂戴。彼と一緒だったのね?」  寮長は毅然とした表情をしてはいたが、その声はやさしかった。 「はい……」 「わかったわ。今回は特別に許してあげる。でもこれっきりよ」  優等生で何かにつけて、寮長の手助けをしてくれていたパトリシアだからこその配 慮であったのだろう。 「今回ははじめてだからしようがないかもしれないけど。今後も女性が門限を破らな ければならないような立場に追いやることになっても少しも省みない男性は、きっぱ りとわかれなさいね。そんな奴は、女性の身体だけが目的なんだから」 「わかりました」  自室に引き込んだパトリシアは、今日の出来事を思い起こしていた。  アレックス・ランドール。  自分の処女を捧げた男性として、一生忘れることはないだろう。 「結婚したいな……」  パトリシアは、将来の夢を思い描いていた。愛する人と結婚して一緒に暮らし、子 供を産んで育てるという、ごく普通の女性なら誰でも願うことであった。士官学校に おいて席次首席という優秀な成績を持つ彼女も、一人の男性の前ではただの女性でし かないことを。いつかきっとその希望がかなうことを祈りつつ眠りに入るパトリシア でった。  翌日。  アレックスに顔を見られると恥ずかしいという思いで、何となく士官学校に出るの がためらわれたが、行かないわけにはいかなかった。  その日の授業を終えて早速いつものように第一作戦資料室へ向かう。 「パトリシア!」  突然、アレックスの叱責が飛んだ。  昨日の思いが込み上げてきて、アレックスとの話しを上の空で聞いていたのであっ た。 「は、はい」 「念のために言っておくが、僕は公私混同はしたくない。休日とかには君と恋人であ りたいし一緒にいたいと思うが、公務にあるときはあくまで指揮官と副官の、或は先 輩と後輩のそれ以上ではない。そこのところを間違えないでくれたまえ」 「す、すみません」  アレックスの強い口調に、自分の甘えにも似た考えがあったのを反省した。  パトリシアは気分を切り替えるように深呼吸をした。  アレックスはやさしく見守るように微笑んでいた。 「どう、大丈夫かい」 「はい、すみませんでした。もう大丈夫です」 「よし……早速はじめるよ」 「はい」 「例のコンピューター技師の選定は済んだかい」 「情報処理部のレイティ・コズミックが適任かと思います。彼は、コンピューターウ ィルスのワクチンを開発するのが専門ですが、逆も得意で、誰にも発見されないよう なウィルスを開発し忍び込ませることができると自慢しています」 「レイティか……次の会議には彼を呼んでおいてくれないか」 「わかりました」 「よし。今日はこれくらいにしようか」 「はい」 「じゃあ、帰りは送るから喫茶店にでも寄ろうか」 「え?」 「だからさ。これからの時間は公務を離れた私の時間だよ。恋人同士に戻る時間さ」  といってパトリシアの頬に軽くキスをして、その肩を抱いてエスコートしてゆく。 「切り替わりが早いのね」 「何事も、公私はきっちりと区別しなくてはね」

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2017年9月 2日 (土)

タイトル間違えました

妖奇退魔夜行/血の契約 其の伍のタイトル間違えてました。

すでに正しいものに書き換えてます。

妖奇退魔夜行/血の契約 其の伍

陰陽退魔士・逢坂蘭子/血の契約 其の伍

 放課後となった。
 取り巻き連中からやっと解放された順子が夜道を歩いている。
 と、突然行く手を遮られた。
 あの不良グループであった。
「顔貸せや!」
 いつもより迫力のある言葉である。
 以前ならば怯えながら付いて行った順子であるが、今日は様子が違っていた。
「お断りします」
 きっぱりと答えた。
 美しくなったという気概が心まで変えてしまったようだ。
「こいつ生意気やで」
 一人が順子の胸ぐらを掴んだ。
「離してくれませんか」
 と言いながら片手で、胸ぐらを掴んでいるその手を捻り上げるようにして、簡単に振り解いてしまう順子。
 立場が逆転。
 手を捻り上げられてもがき苦しみながらも、スカートのポケットから何かを取り出した。
 剃刀である。
 指先に挟んで順子の頬を切り裂いた。
 順子の頬から血が滴り落ちる。
 かなり深手のようだった。
 しかし……。
 見る間に傷口が塞がっていき、元通りの傷一つない肌に戻ってしまったのである。
 これにはグループ全員が驚かされたようだった。

 次の瞬間。
 順子が左手で少女の首筋を掴んで、いとも簡単に持ち上げた。
 その足が地面から離れて宙に浮く。
 さらに順子の爪がその首筋に食い込んで鮮血が流れ始める。
 と、苦しみもがく少女に異変が起こり始めた。
 老いさらばえ、次第にミイラ状になってゆくのだった。
 やがてすっかりミイラ化した少女を地面に転がして、グループの方に向き直る。
 その瞳は異様なまでに輝いて、身体からオーラが発散されていた。
 グループ全員が怯えて後ずさりを始める。
「化け物!」
 そして蜘蛛の子を散らすように逃げ出してしまった。
 入れ替わるように姿を現したのが蘭子だった。
「正体を現したな」
「蘭子!」
「順子。それとも妖魔と呼ぶべきかな」
 正体を見透かされても、落ち着いた表情で答える順子。
「どちらでもない。私は私だ。まあ好きなように呼ぶが良い」
「順子の身体を乗っ取って、この世に仇なすつもりか?」
「乗っ取ったつもりはないが、契約に従って借り受けているだけだ」
「血の契約か?」
「そうだ」
「どうせ、おまえに都合の良い契約だろう」
「彼女は美しくなりたいと願った。だから叶えてやっただけだ」
「しかしそれには代償として、別の女性の命を奪うことを、ちゃんと説明したか?」
「説明の必要などないだろう。彼女にとっては自分さえ美しくなればそれで良いこと。眠っている間に起こることを説明してどうなる。目が覚めれば何も覚えていないのだからな」
「妖魔らしい考え方だな」
「お褒めの言葉と受け取っておこう」
 その時、蘭子の背後から白虎がのそりと現れた。
「白虎ですか?」
「戦ってみるか?」
「いや、よしておきましょう。今夜は顔見せということにしましょう」
 というなり、闇の中に消え去った。
 その消えた空間を見つめたまま動かない蘭子。
 白虎が猫がじゃれるつくように、蘭子の足元に擦り寄ってくる。
「え? どうしてみすみす見逃したかですって?」
 蘭子と白虎とは、言葉によらない意思疎通ができた。
 応えるように小さく唸る白虎。
「それは、あいつは妖魔であると同時に、クラスメートの順子でもあるからよ。妖魔として倒せば、順子も死に追いやることになる。順子には傷つけずに、妖魔だけを倒す方策を探さない限り手が出せないのよ」
 とはいえ、それがほとんど不可能であろうことは十分承知していた。
 血の契約によって結ばれた両者を引き離すことはできない。
 いよいよとなれば、妖魔もろとも順子を葬り去るしかないのである。
 白虎は納得したように吠えた。

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今日のストーカーは誰?(庭写真)

2017年9月 1日 (金)

銀河戦記/第二章 士官学校 III

 第二章 士官学校

                  III  パトリシアが学生自治会室に戻ると、窓際に腰を降ろして空を仰ぎ見ている人物が いた。  その瞳は、エメラルドのように澄んだ深い緑色をしており、褐色の髪がそよ風にな びいていた。一目見て、パトリシアは彼が、アレックス・ランドールであることにす ぐに気がついた。 「やあ。君が、パトリシアかい?」  とパトリシアの入室に気がついて振り向いた彼が尋ねた。 「そうですけど。ランドールさんですね」 「その通り……といっても、僕がランドールであることは、一目瞭然だろうけど。と もかく僕の副官に選ばれたという人物を拝見したくてね」  パトリシアは、スベリニアン校舎に来て三年になるが、この緑色の瞳をした人物と 面と向かって対話したのは、はじめてであった。これまでに戦術シュミレーションや、 通路ですれ違い様にこの緑色の瞳の人物と出会いはしたが、遠めに眺めることはあっ ても対面して会話したことはなかった。彼の噂に関しては、彼の同僚でパトリシアの 先輩であるジェシカ・フランドルから聞いて、ある程度は知らされていたが。 「しかし、副官が君のような美人だなんて光栄だな。アレックスと呼んでくれ」  彼は右手を差し伸べてきた。 「あら、おせじがお上手ね。パトリシアです」  パトリシアはその手を握りかえして微笑んだ。  数日後、パトリシアは街に出てウィンドウショッピングを楽しんでいた。玉虫色に 輝く神秘的なブルーのシフォンシャンブレークレープ素材ワンピースドレス。プリー ツスカートの細かなひだが風にそよいで揺れている。クリーム色の靴を履き、黒皮に ゴールドチェーンのハンドバックを小脇に抱えて、ウィンドウの中の商品を品定めし ていた。  肩を叩いて声を掛けるものがいた。振り返ると微笑みながら背後に立っているアレ ックスがいた。 「あら、アレックス」 「君一人?」 「ええ」 「恋人はいないの? せっかくの休日なんだろ?」 「いませんわ。誘ってくれる人がいなくて」 「君のような美しい人に、恋人がまだなんて、信じられないな。もしかしたら、とっ くに決まった人がいると思って、誰も声を掛けないのかもしれないね」 「そうでしょうか」 「そうだよ。きっと。よし、今日は、僕と付き合ってくれないか」  といってパトリシアの手を引いて歩きだすアレックスであった。  数時間後、レストランで食事をとる二人がいた。  テーブルに対座して、談笑している。 「君っておしゃれなんだね」 「そ、そうですか」 「しかし、本当に恋人はいないの?」 「いません」 「そうか……じゃあ、恋人に立候補してもいいかな」  といってアレックスはパトリシアをじっと見つめなおした。 「そんな……」  パトリシアは赤くなって恥じらんだ。  彼女は成績こそ優秀で常に首席を維持しているが、男性との交際では何も知らない 初な女性であった。  数日後、パトリシアは、アレックスから第一作戦資料室に呼び出された。  正式に模擬戦の作戦会議がはじめられたのである。  当日の参加者はパトリシアの他は、ゴードン・オニール、ジェシカ・フランドル、 スザンナ・ベンソンといった、アレックスが親友と認め、その才能を高く評価して信 頼している人物達である。 「事務局から、今回の模擬戦の作戦宙域が発表になった」  アレックスがパトリシアに機器を操作させて、正面のスクリーンに作戦宙域を映し だした。 「ここが、今回我々が作戦を行う、サバンドール星系、クアジャリン宙域だ」  全員からため息のような声が発せられた。 「付近一帯の詳細な資料を、パトリシアに調べてもらった。先程配布したファイルが それだ。ご苦労だったね、パトリシア」 「どういたしまして」 「なんだ、やっぱりパトリシアに手助けしてもらったんだ」 「僕は、資料作りといった、細やかな作業は苦手でね」 「でしょうねえ」 「とにかく、資料を充分検討して今後の作戦立案に役立ててほしい」 「わかった」 「それでは、本題にはいるとするか」  五人は、それぞれの役割分担からはじめて、今後の作戦遂行に必要な各種参謀役の 人選、おおまかなる作戦要綱をまとめていった。  アレックス・ランドール=作戦指揮官  ゴードン・オニール  =作戦副指揮官  ジェシカ・フランドル =航空参謀  スザンナ・ベンソン  =旗艦艦長  パトリシア・ウィンザー=作戦参謀  これらの役割が、第一回目の作戦会議で決定された。  中でも、三回生であるパトリシアが作戦参謀という重要な幕僚に着任することにな ったのは、彼女の先輩であるジェシカの強い推薦があったからである。  数時間後。 「よし、今日のところはこんなところでいいだろう」  アレックスの発言で、作戦会議は終了した。  席を立った五人は、資料を片手に作戦会議室を退室し、次の予定の目的地へと四散 していく。 「あ、ちょっとパトリシア」  ジェシカと一緒に帰ろうとしていた彼女を、アレックスが呼び止めた。 「はい。何でしょうか」 「ついでといっちゃ、なんだが、パトリシア。ジャストール校のミリオンについて詳 細な資料を集めてくれないか」 「ミリオンといいますと、ミリオン・アーティスですか?」 「そうだ。知っているのか?」 「ええ、まあ。ジャストール校では、百年に一人出るか出ないといわれる神童とまで 称される逸材で、戦術シュミレーションでは常に圧倒的成績で勝利を続けているそう ですから」 「って、それくらいなら誰でも知っているわよ。アレックス。わざわざ、知っている かと確認することはないわよ」 「そうかなあ……僕は、ジャストール校のことを調べなきゃならないってんで、つい 昨日その名前を知ったばかりなんだ」 「呆れた! そんなことで、よくもまあ指揮官に選ばれたものね。先行き不安だわ」 」 「しかし、ミリオンを調べて実際の戦闘に役に立つのですか?」 「敵の指揮官の素性を知る事は作戦の第一歩じゃないか」 「指揮官? ジャストール校側の指揮官はまだ発表されていないじゃない。第一、ミ リオンは三回生よ。指揮官には、速すぎるのではないかしら?」 「そうとも限らないよ。例えば、うちだって副官にパトリシアが選ばれているくらい だから。あのミリオンなら充分有り得るさ」 「まあ、あなたが、そうまで言うのなら。パトリシア、調べてあげなさい」 「はい。わかりました」  パトリシアにとって、ジェシカは一年先輩であり、士官寮では昨年までの二年間同 室となっていた。戦術理論などの実践について、手取り足取り教えてもらった経緯も あって、ジェシカに対しては従順であった。 「その中でも特に、性格的な特徴が知りたい」 「性格ですか」 「短気だとか、好みの色とかなんでもいい」 「わかりました。でもそんなことが役に立つのですか?」 「もちろんさ。それから……ジェシカには、このメモにあるものを手配しておいてく れないかな」  とアレックスが、ジェシカに手渡したメモには次のようなものが記されていた。  迫撃砲、催涙弾、煙幕弾、麻酔銃…… 「何よこれ……」 「もちろん白兵戦用の道具さ」 「白兵戦?」  二人は驚いた。模擬戦は艦隊戦なのである。  それなのに……。 「何も聞かずに集めてくれないかな」 「かまわないけど、時間がかかるわよ。士官学校では、手に入れにくいものばかりだ から」 「わかっている。だから、早めに依頼しておくのさ」

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