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2017年11月20日 (月)

銀河戦記/第七章 不時遭遇会戦 IV

第七章 不時遭遇会戦

                 IV 「どうだ、艦数はわかるか」 「重力測定によれば、通常戦艦換算でおよそ七千隻かと」 「七千隻か……」 「全艦戦闘配備完了しました」 「よし」 「前方にエネルギー反応多数」  パネルスクリーンに前方で輝く光点の明滅が確認された。 「どうやら敵は我々が放った魚雷を、同盟艦船と思い違いして攻撃しているようで す」 「思惑どおりだ」 「司令はこうなることを予測していたのですね」 「いや……可能性を想定していただけだ。万が一を考えて作戦を変更させた。何せ報 道部の奴等が、ご丁寧に訓練の作戦予定コースまで発表してくれたからな」 「敵がその報道を傍受して罠を仕掛けて待ち受けていた。その裏をかいたのですね。 魚雷を戦艦と同速度で発射して、予定通り作戦コースを進行しているように見せかけ る。星雲の中にいて索敵レーダーが不能になるのを見越して……そうですよね」 「まあな……全艦にミサイル発射準備」 「司令。星間物質のせいで自動照準装置が作動しません」 「かまわん。手動モードに切り替えて、敵部隊中央に適当にぶち込んでやれ」 「適当にですか? ミサイル巡航艦なら熱源感知ミサイルを搭載していますが」 「通常魚雷で十分だ。まわりが見えない状態で奇襲を受ければ、敵は混乱状態に陥い る。それが目的だ。当たらなくてもいい。とどめは粒子ビーム砲と艦載機攻撃にまか せる」 「まさか敵がこんな身近な所に潜んでいるなんて。カラカス基地を防衛していた艦隊 の一部でしょうか」 「そうではなさそうだ。星雲から発せられる電磁界ノイズによって、その背後の領域 の探知が困難だからな。いつでも近づいて隠れることができる」 「それにしてもこの濃厚な星間ガスによって探知レーダーが一切使用不可能なのは痛 いですね」 「それは敵も同じことだ」 「そりゃそうですが」 「有視界戦闘か……望むところといいたいが。あいにく戦闘経験の乏しい将兵が多 い」 「どうなさいますか。反転離脱をはかりますか?」 「反転している余裕はない。敵も我々を探知しているはずだ。側面を見せればそこを 叩かれて被害を増やすだけだ。このまま全速前進して敵中突破をはかる」 「紡錘陣形をとりますか?」 「いや。星間物質によって索敵レーダーによる照準が効かないのを逆手にとって、こ こは散開して進むのが得策だ。一塊になっていれば、重力探知機によっておよその狙 いがつけられる。重力反応の強いところに集中砲火を浴びせれば必ず命中するから な」 「それに同士討ちの危険も回避できます」 「そうだ。全艦、散開体制で全速前進。敵の懐に飛び込んで乱撃戦に持ち込む」  アレックスは手元の艦内放送のスイッチを入れて、全兵士に状況説明をはじめた。 「各将兵に告げる。訓練の最中に不時遭遇会戦となり、約十五倍の数の敵部隊と戦闘 になった。しかし敵艦数が多いことを恐れるにはあたらない。このような状態では、 いかに冷静に判断しかつ行動したかによって、勝敗がつくものなのだ。照準がつけら れないからといって闇雲に砲撃して弾薬を浪費するな。粒子ビーム砲は、濃密な星間 物質に吸収されて威力が半減以下に落ちているはずだ。視界に入った目前の敵のみを 確実に撃破するのだ」  敵艦隊を目前にしても、冷静沈着なアレックスの姿勢に、味方将兵達は混乱するこ となく、落ち着いて指令に従っていた。 「まもなく有視界射程に入ります」  その途端、エネルギー波が艦を横切った。 「敵が撃ってきました」 「どうやらあてずっぽうに遠距離射撃しているようだな」 「司令のおっしゃった通りです。粒子ビーム砲は、この距離では威力が半減以下、 ビームシールドで十分防げます」 「ミサイルも近すぎて使えないしな」 「はい」 「粒子ビーム砲へのエネルギーチャージ完了」 「よし。そのままアイドリング状態で待機。ビームシールド全開して敵中に侵入せ よ」 「撃たないのですか?」 「まだ早い」 「しかし敵は目前です。十分照準範囲に接近しました」 「いや。まもなく敵は、ビーム砲のエネルギーが尽きて、再充填にかかるはずだ。そ れが完了するのに最低三分。ビーム砲へエネルギー充填している間のビームシールド の防御能力が低下する。そこが付け目だ、勝負は三分で決する」 「敵のビーム攻撃が弱まりました。再充填に入ったもよう」 「よおし! 全艦、粒子ビーム砲一斉発射」  各艦から放たれたビームが敵艦に襲いかかる。ビームシールドの減衰した相手は、 いともたやすく撃破されていく。 「往来撃戦用意。各高射砲準備せよ」  舷側を守る高射砲に司令が伝わる。  ものの数分で艦隊同士がすれ違いをはじめ、乱撃戦の様相を呈してきた。 「往来撃戦に突入した。私の指示を待たずに、各艦の艦長の判断で攻撃を続行せよ」  もはや艦と艦の一騎打ちの戦いである。アレックスの統合指令は意味をなさない。 艦長の采配だけが勝負を分けるのだ。  軽空母セイレーンから艦載機編隊の指揮を統括していたジェシカ。 「艦載機は母艦を視認できる範囲内から外に出ないようにしてください。帰ってこれ なくなります」 「了解!」  艦載機の奮戦ぶりを応援しながらも、 「まさか、こんなことになるなんて思いもよらなかった……アレックス」  司令官アレックスの乗る旗艦サラマンダーに視線を移すジェシカ。 「やはり、あなたはただ者じゃないわね」 「敵が撤退をはじめました」  やったー!  という歓声が、艦橋中に沸き上がる。 「追撃しますか」 「その必要はない。もう十分に戦った。これ以上将兵達に、負担を強いることもない だろう。それよりも被弾した味方艦船の救護を優先する」  敵を叩くよりも、まず味方を助けることを第一に考えるアレックスであった。現状 からすれば敵部隊を全滅させることも十分できたはずである。 「逃がした敵はいずれ叩くことが出来るが、失った将兵を生き返らせることは出来な い。一刻も早い救援で一人でも多くの将兵を助けることの方が大切だ。もちろん敵味 方の区別はしない」  そういった処置を見せられて、人命尊重を掲げるアレックスの人徳を知る隊員達で あった。  その後、数日をかけて星雲内がくまなく捜索されて、味方艦艇や将兵の救助はもち ろんのこと、被弾し航行不能となって漂流している敵艦船の拿捕と乗員の捕虜収容が 行われた。拿捕した敵艦船のうち再利用可能と判断された六百十三隻はカラカス基地 へ曳航され、残りは魚雷攻撃が加えられて撃沈処理された。  当然として搾取し修理運用可能となった六百十三隻はすべてアレックスの部隊の所 属となり、配下の三人の部隊に編入されることとなった。これによってアレックスの 遊撃部隊は、ゴードン及びカインズの分艦隊それぞれ四百五十隻に、ロイドの旗艦部 隊四百隻を合わせて、総勢千三百余隻に膨れあがったのである。

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