最近のトラックバック

2021年3月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ

他のアカウント

« 2017年11月 | トップページ | 2018年1月 »

2017年12月

2017年12月31日 (日)

梓の非日常/第七章 テニス?

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた

(三)テニス?  女子クラブ棟、女子テニス部部室兼更衣室。  空手の稽古を終えて、制服に着替えている梓。  主将の木杉陽子が梓に話し掛けている。 「え? 新人対抗試合?」 「そうなのよ。一・二年生を対象にした試合でね。来週の土曜日が試合だからね」 「来週の土曜日?」 「で、いつから練習に参加する?」 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。試合とか練習とか、意味がわからないんですけ ど」 「だからテニス部の練習よ。テニス部入ってくれたんでしょ?」 「いつからそういう話しができちゃったんですか?」 「あら、幸田先生から聞いてないんだ?」 「聞いてません!」 「そっかあ……。幸田先生の音楽部に横取りされちゃったけど、あたし達の方が先に 予約してたのよ。覚えているわよね」 「ええ、まあ。そうだけど……」 「当然、あたし達にも権利があるわよ」 「何の権利ですか?」 「もちろん女子テニス部に入ってもらうわよ。幸田先生の許可も貰ってるし」 「どうして幸田先生の許可がいるんですか」 「あら、知らなかった? 幸田先生、女子テニス部の顧問をしてらっしゃるのよ」 「うそー!」  意外な事実に驚く梓。 「幸田先生が顧問という事は、もしかして」 「ええ。あなた達二人の女子テニス部の入部手続きは済んでるの」 「またなのお? いい加減にして欲しいわ。そういや、音楽部からの誘いがあった時、 テニス部からも勧誘があると言ったら、何ら反対しなかったのは、そういうわけだっ たのね」 「まあ、そういうわけだから。明日からでも練習に参加してね」  肩をぽんと叩いて部室を出ていく陽子。 「あ、ちょっと……」  呼び止めるが、聞く耳もたないといった感じですたすたと行ってしまった。 「まったく、先生も先生なら、キャプテンもキャプテンだわ。似た者同士」 「音楽部の部長もだよね。類は類を呼ぶってとこかしらね」 「なんで絵利香ちゃんは怒らないんだよ。……って、元テニス部だったんだね」 「うん。わたしはテニス部に入る予定だったから」 「ちぇっ! 貧乏くじはいつもあたしなんだ」 「で、どうするの?」 「知らないわよ」  スポーツ用品店のテニスコーナーを眺めている梓と絵利香。  ラケットを手に取り、素振りしながら品定めしている梓。  その側で商品説明している店員。 「篠崎スポーツ製、形状記憶ニッケルチタンラケットです……」 「ニッケルチタンねえ……」 「ニッケルチタンは、形状記憶力を持つニッケルに、弾性と反発力に優れたチタンと の合金素材です。両者の利点を合せ持ち、復元性・耐久性・耐蝕性をも増しておりま す。通常のグラファイトの二倍の反発性がありまして、グラファイト繊維との複合素 材として使用されています……」 「ふうん……。ありがとう。ところで、テニスウェアとかは置いてないの?」 「はい。レディース用のスポーツウェアは二階でございます。メンズ用は三階です」 「男女で階が別れてるんだ」 「はい。試着とかありますし、水着やレオタードを選ぶのに男子の視線があると恥ず かしいですからね。レディース用のフロアは全員女性店員で、安心してウェアを選べ ます」 「そういえば大概デパートとかも、二階もしくは三階が女性衣料品、その階上が男子 衣料品になってるわね。なんでだろう? 篠崎デパートのご令嬢の絵利香さん。ご存 じありませんか」 「わたしも知らないわ。慣習じゃない? たぶんどこかの老舗のデパートがはじめた ことがずっと続いているんじゃないかな」 「店員さん、ありがとう。今度はウェアを見に行くから」 「いいえ、どういたしまして。ごゆっくりとご覧くださいませ」  丁寧にお辞儀をして、二階へ上がる二人を見送る店員。  そんな店員を見ながら、不思議な表情の梓。 「ちっともいやな顔してないね。あれだけ説明させておいて結局買わなかったのに」 「うん。篠崎スポーツの方針でね。商品そのものを売るだけでなくて、情報提供も サービスの一貫としているの。今日は買ってくれなくても良い、いずれは必ず買って くれるようになる。それが本人とは限らないけど、その人から情報を得た人が買って くれるかも知れないでしょ。そんなわけで、篠崎スポーツ指定販売店様の従業員教育 は篠崎の研修施設で徹底的に行っているわ。その研修初日のメニューがスマイルよ。 ああ、そうそう研修施設といえば、たまに例の蓼科研修保養センターも利用させても らっているみたい」 「へえ、そうだったんだ」  スポーツ用品店を出てきた梓と絵利香。 「あれだけ熱心に商品説明を聞いてたから、てっきり買うのかと思ったわ」 「だってえ、お小遣いが足りないもの」 「何ならうちの製品をプレゼントして上げようか? 選手用に開発してる非売品でも いいわよ」 「いらない!」 「でもラケットとかテニスウェアがないとテニスできないよ」 「何言ってるのよ。あたし、テニス部に入るとは言ってないもん」 「そりゃまあ、幸田先生が勝手に入部手続きしちゃんだけど……」 「これ以上、幸田先生に翻弄されるのはごめんだから」 「じゃあ、なんでスポーツ用品店になんか入ったの?」 「後学のためよ。今どんな素材の製品があるのだろうか興味があったから。お小遣い で買える範囲なら、まあ持ってるだけてもいいかなって。意外と高かったから」 「店員が商品説明してたのは全部高級品ばかりだよ。梓ちゃんが新素材のはどんな の? って聞くから自然に高級品になったのよ。ビギナー用だともっと安いのある よ」

ポチッとよろしく!

11

2017年12月30日 (土)

銀河戦記/第十章 氷解(18)

第十章 氷解

                (18) 「ところがレイチェルは、国籍には出生時から女性として登録されています。生まれ てから今日までに至るすべての公文書が女性であることを示しています。となると中 佐殿の作文にある、おちんちんなるものを所有している人物は、本当は同名の別人な のかという問題になってきます。ところが当時の幼年学校の同級生にはその名前の子 供は他に存在しません」 「徹底的に調べ上げたものだな」 「どうやらレイチェル・ウィングは、性転換を施した後に国籍及び軍籍コンピュー ターに侵入して記録を改竄したのではないかとの、疑いが生じます」 「確かに作文にはレイチェルの事が記録として残っているようだが、私は当時の詳細 なことまでは覚えていない。子供の頃の記録を持って、現在の私にその事を承認しろ というのは不可能なのではないか? 子供の書いた事や言ったことは、証拠として通 用しないのではないかな。実際まるで記憶がないのだからな」 「確かに。その記録が何らかの事件の証拠として提出されても、取り上げられないで しょう」 「参考までに聞いておきたいのだが、仮にそれが事実であったとしたら、どんな罪に 問われるのか」 「国家や軍のシステムに侵入しただけでも最低十年の懲役、さらに公文書を改竄した となればプラス七年の懲役となるのは明白です」 「そうか、わかった」 「捜査線上に重大機密を持つ者がいた場合、まずそれを疑ってかかるのが捜査の基本 であります」 「つまりレイチェルが犯人である可能性があるということか」 「そうです。たとえば、ウィング大尉の素性をライカー少尉に気づかれたとしましょ う。あなたが大尉ならどうなされますか?」 「他の人間に知られたくなければ、消してしまうに限るな」 「そうです。現時点においては、大尉は容疑者として濃厚です。そしてあなたも同様 に容疑者の一人です」 「ほう……」 「何より中佐殿には、あまりにも秘密なところが多すぎる。その最たるものが出生の 秘密です。一切が軍事機密として封印されてしまったマスカレード号事件、幼児が一 人救出されたという記録だけが公表されただけです。その時の幼児が、中佐殿という 事実。提督達の間では銀河帝国のスパイとして送り込まれたのではないかという噂で しきりです」 「それなら私の耳にも入ってきている」 「異例の出世の背後には、スパイが同盟側でさえ知り得ていない重要な情報や作戦を 与えたのではないか、そうでなければこれほど完璧なまでに作戦を実行などできるは ずがない、と勘繰っております。中佐殿の深緑色の瞳と赤毛は、銀河帝国を興したア ルデラーン一族の末裔であることを明白に物語っております」 「仮に私がスパイだったとして、何とか准将になって艦隊司令官についたとしようか。 果たしてそれが帝国にどんな利益をもたらすのかな」 「同盟軍の動静を知る事は可能でしょう。あるいは艦隊を率いて反乱を企てること も」 「反乱ねえ……」 「身近な話題で言いますと、カラカス基地で行われている奇妙な戦闘訓練。その作戦 目的が極秘扱い。大型ミサイルを抱えて誘導射撃の訓練など、必要性がまったくわか らない。誰もが疑ってかかるのは当然でしょう。しかも訓練計画発案者に、ウィング 大尉の名前が記されています」 「そんな事まで……。よくも調べ上げたなあ。極秘事項だったのに」 「そりゃまあ、情報部にいますからね。それにこれは公然のこととして提督達の耳に はすでに流れています」 「ま、カラカス基地のことはいずれ外部に漏洩することは想像はしてはいたが……。 さて、そろそろ時間だ。次の仕事が控えているのでね。忙しい身を判ってくれ……。 それで、私の事をつぶさに調べ上げたのは、捜査の上での行き掛かりで許されるとし て、真犯人については、カラカス基地に到着するまでに確保しなければ、みすみす逃 亡されることになる。司法解剖の結果が出るのを待つまでもなく、先手先手と回って 犯人を追い詰めてくれたまえ」 「わかりました。引き続き捜査を続けます。お手数かけました」  司令室を退室する。  鋭い!  さすがにわたしの真意を見抜いていた。  これほど鎌をかけて揺さぶっても、微塵も動揺していなかった。  国籍改竄・公文書偽造という行為は、実に巧妙に仕掛けられており、それを証明す るものは何一つ残されていない。かなりの技術を有したコンピューター・ハッカーが 存在しているようだ。中佐は、その腕前を信じていて、そこから発覚する事はないと 踏んでいるから、ことほどさように落ち着いていられるわけだ。ハッカーが漏らした 公文書ではない幼年学校児童の作文など証拠にはならない。  国籍改竄の疑惑はあるものの、レイチェル・ウィング大尉がミシェール事件に関与 しているとは思っていない。それを持ち出したのは、英雄と称される人物なる者が、 どう反応するかを見たかっただけなのだ。  まずまず期待通りの反応というところだ。 「そろそろ、司法解剖も終わった頃かな……」  遺体安置所に併設されている解剖室に向かう事にする。

ポチッとよろしく!

11

2017年12月29日 (金)

梓の非日常/第七章 ワサビはほどほどに

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた

(四)ワサビはほどほどに  食卓に並んだひと皿の品を差して訊ねる梓。 「これ、なんですか?」 「それは、お刺し身ですよ」 「お刺し……?」 「海の魚を生きたまま切り身にしたものです。おいしいですよ」 「生きたままですか?」 「そうよ。切り身にしても、なおも身がぴくぴく動いているのよ。これは時間が少し たってるからもう動かないけど」 「食べられるの?」 「もちろんですよ。こうやって、刺し身にワサビを少しのせて、取皿の醤油につけて 食べる」 「ふうん……」  お手本通りにやって刺し身を口の中に放りこむ梓。  次の瞬間言葉を失い、鼻筋を押さえて襲いくる刺激に耐えている梓。 「あはは、梓ちゃん。ワサビのつけ過ぎよ」  目に涙をためて、何とか刺激を耐えぬいて、 「な、なにこれ……」 「ワサビはね、つけ過ぎると今のようになっちゃうのよ。梓ちゃんなら、だいたいこ れくらいが丁度いいかな」 「もっとはやく言ってよ。もう……涙が出ちゃったじゃない」 「ごめん、ごめん。でもね、お刺し身好きな人なら、その刺激がたまらないってたっ ぷりつけるのよ。それが、通なんですって」 「こ、これくらいね」  今度はワサビをほんの少しだけつけて、あらためて食べなおす梓。 「おいしい!」 「でしょ」 「うん」 「ほんと、あの時の梓ちゃんの表情ったら、可笑しすぎてお腹が痛かった」  ぷっと思い出し笑いする絵利香。 「笑わないでよ」 「でもさあ、握り寿司ではトロより赤身が好きなんて変わってる。普通の人だったら、 口の中でとろける感じがたまらないってトロを選ぶんだけど」 「そうかなあ……あたしにはとろけるというよりも、ねちゃねちゃしてて気持ち悪い よ」 「それは噛みくだそうとするからですよ。握り寿司のトロは数回噛んだら飲み込む感 じかな」 「日本人ってさ、良く噛まずに飲み込む感じの、いわゆる喉ごしっていうのかな、そ んな食文化が多いみたいねえ。ところてんとか、白魚の踊り食いとか、おそばだって 通は噛まずに飲み込むっていうじゃない」 「うーん……やっぱり肉料理文化と魚料理文化の違いかしらね。日本人は牛肉も霜降 りとかいって脂肪が多くて柔らかいのを好むし、あたしその値段聞いてびっくりした わよ。あたしんちでアメリカの契約酪農家から取り寄せている極上のロースよりも、 さらに倍以上高いんだから」 「牛肉に関しては、霜降りでなくても日本のお肉はべらぼうに高いのよ」 「さあさあ。お話しばかりしていないで、召し上がってくださいな」  絵利香の母親が食事が冷めないようにと、気配りして話しを中断させた。 「あ、ごめんなさい。おばさま」  食事が済み、居間の方へ移動して、談笑する一同。 「それでね、怪我しちゃったの」 「ははは。元気でよろしいじゃないですか」 「よくないわよ! そばで見てるだけのわたしは、いつも気が休まらないんだから ね」  玄関車寄せ。  ファントムVIが停車し、麗香が後部座席のドアを開けて待機している。 「今日は、ひさしぶりにおじさまと色々とお話しができて楽しかったです」 「まあ、私とはたまにしか会えないとは思いますけど、いつでも気楽に遊びにおいで 下さい」 「はい。そうさせていただきます」  後部座席に腰を降ろしながら、 「それじゃ、絵利香ちゃん。また明日、いつもの時間にね」 「うん」  麗香がドアを閉め、やがてゆっくりとファントムVIは発進した。  その後ろ姿をしばらく見つめていると、 「お嬢さま、先生がお見えになられました」  メイドが知らせにきた。 「わかりました」  本殿と長屋の間に位置する中庭の片隅に修練場がある。本来は長屋に住まう武士達 が日頃の鍛練をする場所だったのだが、武家から商家と身分を変えた篠崎家にとって は、武闘から護身へ、剣道から合気道の修練場となっている。  袴道着を着込んだ絵利香と女性師範代が、相対峙して正座している。 「今日からは実情に即した稽古をはじめましょう」 「はい」  静かに立ち上がる両者。 「まずはお嬢さまが経験されたという、後ろから羽交い締めされた時の対処法からで すね」 「では相手からなされた通りに組んでください」 「はい」  師範の背後から、竜子にされたように羽交い締めにする絵利香。  だが次の瞬間には、投げ飛ばされ師範の足元に崩れてしまった。

ポチッとよろしく!

11

2017年12月28日 (木)

銀河戦記/第十章 氷解(17)

第十章 氷解

                (17)  司令官室。  アレックスがデスクに陣取り、その脇にパトリシアが立っている。 「中佐はこれをご存じですか?」  コレットは、透明袋に入った首飾りを差し出した。 「あ、それは、わたしの首飾りです」  パトリシアが叫んだ。 「ウィンザー中尉の?」 「え、ええ……」  といって、ちらりとアレックスの方をみて、頷くのを確認して言葉を繋いだ。 「中佐から婚約指輪の代わりに頂いたものです」 「婚約指輪代わりですか。中佐、間違いありませんか?」 「間違いない」 「そうですね。これからは中佐とウィンザー中尉の指紋が検出されております。中佐 が婚約指輪代わりに送ったもので間違いないでしょう」 「どこで手に入れたのかね」 「二度目にミシェールの宿房を訪れた時に、机の引出から見つけました」 「最初の捜査ではなかったというわけか。つまり犯人は、一度捜査を受けた場所をも う一度捜査をしないだろうと判断して、そこに隠したのだろうな。いつまでも持って いれば見つかる可能性が高くなるし犯人だとばれてしまう」 「その通りだと思います」 「で、犯人の指紋は出なかったようだな」 「はい。そんなどじを踏むような犯人ではないことだけは確かですね」 「しかしいつの間に盗みだされたのだろうか。こいつは一般士官として大部屋の宿房 が定められていたパトリシアが、無くさないようにと個室をあてがわれている私に預 けていったものだ。金庫に保管しておいたのだがな」 「ダストシュートから侵入して盗みだしたのです」 「ダストシュート?」 「そうです。中は結構広くて、小柄な人間ならそこから上下階を行き来することが可 能です」 「なるほど……」  といいながらデスクの側に開いているダストシュートを見つめた。 「つまりは君は、犯人像を掴んでいるんだな」 「はい。かなりの線までいっていると思います」 「確証はまだないわけだ」 「司法解剖が済むまでは結論を出せませんから」 「わかった。引き続き、捜査を続けてくれたまえ」 「はい。とりあえず証拠物件としてこの首飾りはお預かりしておきます。事件が解決 次第お返しいたしますが、よろしいですね」 「かまわないだろう。パトリシアもいいな」 「はい。異存はありません」 「それでは、このままお預かりしておきます」  首飾りをバックに戻しながら、質問を続けるコレット。 「それにしてもお二人は婚約していることを秘密にしておいでのようですが、いかが なる理由でしょうか。私の調査では、本星においては同居生活をされて、事実上の夫 婦として暮らしているようですね」 「それも事件の捜査にかかわるのかい?」 「場合によってですね」 「まあ、いい。二人の関係を公表しないのは、司令官と副官が夫婦ということになれ ば、士気統制上として問題が発生する可能性があるからだ。ごく自然な処置だと思う が」 「わかりました。正式な婚姻ではなく婚約関係である以上、同盟軍厚生保健局の登録 上では夫婦であっても、国家的身分上では赤の他人。この点に関してはこれ以上の干 渉はできませんね」 「すまないね」  ここで改めてコレットはもう一つの懸案事項を切り出す事にした。 「ここからは、中佐殿と二人切りで尋問したいので、ウィンザー中尉は席をはずして いただけませんか?」 「君と二人きりでかね?」  と言いながらパトリシアの方を見やるアレックス。 「ああ……。わたしは、構いませんわ。艦橋に戻ります」  気を利かせて、パトリシアの方から遠慮して、司令室を退室していった。  コレットとアレックスの二人きりになる。 「ところで……中佐殿は、レイチェル・ウィング大尉と幼馴染みだそうですが。間違 いありませんね」 「間違いない」 「わたしの調査によりますれば、レイチェル・ウィングなる人物は女性として登録さ れており、事実女性として生活しておられるようですが、過去においてはそうでなか った形跡があります」 「形跡とは?」 「これはわたしが入手した資料のコピーですが……」  といってアレックスの前にそれを差し出した。それを目で読んで驚いた表情で答え るアレックス。 「これは、僕の幼年学校の時の作文じゃないか」 「はい。中佐殿の通っていた幼年学校の資料を探していて見つけだしました。それを プリントアウトしたものです」 「よく。探し出したな。内容なんか、すっかり忘れていた」 「その文の数箇所にわたってレイチェルという記述が見られます。立ち小便でおしっ この飛ばしっこしたとか、おちんちんが腫れるとかどうのとか。察するにレイチェル はおちんちんなるものを所有する性であったようですね。つまり幼児期においては、 レイチェルは男性だったのではないかと判断できます」 「確かに幼児期レイチェルとは同性の友達として遊んだ記憶がある。しかし、幼少の 頃の記録じゃないか、勘違いということもあるのじゃないか。本当は女の子だったけ ど、男の子と思い込んでいたということもありえるじゃないのか?」 「男性として登録され生活していた人が、思春期となり初潮が到来して実は正真正銘 の女性であったということはよくあることです。男女の性を決定する際には新生児の 外性器をもって判断することが一般的な慣例として行われています。両性具有の場合 も含めて、肥大したクリトリスをペニスと誤診してしまうのは、仕方が無いことでし ょう。仮に幼少時に男性だったとして、思春期以降に女性であることが判明して性別 を変更された場合でも、変更以前の記録はそのまま残ります」 「まあそうだろうな」

ポチッとよろしく!

11

2017年12月27日 (水)

梓の非日常/第七章 和食のおもてなし

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた

(三)和食のおもてなし  純和風建築の篠崎邸の平棟門を通って、客殿玄関先車寄せにベンツが入ってくる。  ベンツの後部座席から降りてきたのは、この屋敷の主であり絵利香の父親の篠崎良 三であった。ふと車庫の方に、中に入りきらないではみだしているファントムVIを 見出して、 「ロールス・ロイスがあるところをみると、梓お嬢さまが見えてるようだな」  と出迎えに出ているメイドに尋ねる。 「はい。只今絵利香お嬢さまのお部屋にいらっしゃいます。今夜はお泊まりになられ るそうです」 「そうか。どれ、お会いするとするか。しかし……車庫をもっと広げなきゃいかん な」  頭を掻きながら屋敷の中へと入ってゆく。  全体的には畳や障子で構成される和風様式だが、家族が出入りする客殿から続く渡 り廊下の先に、絵利香の部屋や食堂など洋式に改造された棟がある。こういった改造 が自由にできるのも、文化財指定を受けていない理由である。  絵利香の部屋。制服から着替えを済ませて仲良く談笑している二人。時々泊まりに くることがあるので、衣装タンスには数日分の梓の衣装が用意されていた。  ドアがノックされる。 「お父さんだよ。絵利香入っていいかい?」 「いいわよ」  絵利香の許可を得て、良三が入って来る。 「お帰りなさい。お父さん」 「ただいま、絵利香」 「お邪魔してます、おじさま。今晩、おせわになります」 「やあ。気がねなく、ごゆっくりしていってくださいな」 「はい。でも、この時間におじさまが帰ってらっしゃるなんて、めずらしいですわ ね」 「ん? お嬢さまがいらっしゃるような予感がしてね。仕事を切り上げてきました よ」 「うそつき。仕事の虫のお父さんが、仕事を放り出すなんてことないでしょ」 「ははは。今日はたまたま早く予定が終わったのさ」  しばしの談話を続ける三人のもとに、メイドが知らせにきた。 「旦那様、お食事の用意が整いました」 「おう、すぐ行く」  腕を差し出す良三。 「それでは、参りましょうか。お嬢さま」  梓はその腕に自分の腕をからめて歩きだす。 「もう、お父さんたら。梓ちゃんには甘いんだから」  しようがないなあ、といった表情で二人の後をついてくる絵利香。  父親を早くに亡くしている梓には、良三は身近にいる唯一の親しい男性であり、理 想の父親像を当てはめてなついていた。それを知っているからこそ、梓にもまた実の 娘に匹敵するくらいの愛情を抱いている良三であった。  食堂。テーブルを囲んで談笑する篠崎一家と梓。  なお念のために述べておくと、真条寺家では家族同様の扱いで、一家の食事の列に 同席を許されている麗香達世話役は、他家に招かれての食事会やお茶の席では、ただ の使用人でしかないので席をはずしている。その間、麗香や運転手の石井は、使用人 達用の食堂で食事をとることになっている。もちろん主人達に出されものとまったく 同じメニューである。使用人だからといっても、上客には違いないからである。と言 ってしまえば聞こえがいいのだが、かつて封建制度の色濃く残る昔、主人に出される 料理のお毒見係り、というのが本当の役目だったというのが実情なのだ。真条寺家も 篠崎家も戦国時代から綿々と続く豪族旧家なので、そんな風習が残っていても不思議 ではないが、もちろん今日ではそんなことの有り様がない。 「わあ、今日は、お刺し身に天ぷらですね」  鮪と鯛の刺し身。車海老と野菜の天ぷら。さざえの壺焼き。鰆(さわら)と絹さや の炒めもの。つくし・ぜんまい・せりのゴマ和え。舞茸と人参の吸い物。大根の吉野 本葛あん掛け。筍と小松菜のおひたし。椎茸と銀杏の蒸し碗。山の幸、海の幸、ほど よく取り混ぜて食卓を賑わしている。  梓が来訪した時の篠崎家のメニューは必ず和食になる。  真条寺家別宅では、和食料理が出されることはない。フランス料理を専門とする第 一厨房、中華料理を主としてその他の調理をする第二厨房、そして寄宿舎にある従業 員用厨房、いずれも和食を調理できるような厨房になっていないからだ。  以前に和食をメニューに入れられるように一流処の板前を雇おうとしたが、和食を 調理できる厨房がないのと、何よりも屋敷全体の装飾や調度品があまりにも欧風にカ スタマイズされているために、和食に合わないと無碍に断られてしまったのだ。  自宅では和食を食べられない梓のために、篠崎家は和食をもって歓待することにな ったのだ。もちろん梓も来訪する時は、午前中までに知らせることにしている。突然 のメニュー変更で食材の調達が必要になるかも知れないからだ。  真条寺家の三代前の家督長の茜と、篠崎家の先々代の社長夫人の涼子は、大の仲良 し幼馴染みで、以来両家は親戚同様の付き合いを続けている。梓と絵利香が紹介され 仲良しになり、共に暮らせるようになったのも、そんな事情があったわけで、二人が 双方の屋敷を遠慮なく出入りできるような環境が整っている。和食が食べたくなった らいつでも篠崎家を訪れる梓であった。 「でもはじめてお刺し身を出された時は、面白かったわね」 「しようがないじゃない。お魚を生で食べるなんて習慣なかったもん」

ポチッとよろしく!

11

2017年12月26日 (火)

銀河戦記/第十章 氷解(16)

第十章 氷解

                (16)  事件を再現してみよう。  当時犯人は、ダストシュートを伝ってランドール中佐の居室に侵入し、情報収集を 行った後、たぶん中佐の持ち物であろう首飾りを盗んで宿房に降りて来た。しかし、 本来は食堂に行っているはずのミシェールが休んでいて、ダストシュートから出てく るところを見られてしまった。犯行がばれることを恐れた犯人は、ロープを使って首 を絞めて殺した後、共犯者と相談の上にダストシュート使って、アスレチックジムに 降ろし、下の階で共犯者がこれを受け止めて、器械に張り付けて事故を装った。  そして悲鳴を上げて事件を知らしめてすべて完了だ。  カテリーナ・バレンタイン少尉。  犯人は間違いなく彼女だ。  殺害方法と動機、移動手段はほぼ推測できた。  残る問題は、アリバイだけだ。  死亡推定時刻は十二時十五分から十三時の間。その時、カテリーナはスタジオにい たことが、同じ局員の証言から判っている。  しかし局員が嘘をついていることも考えられる……。手慣れたディレクターなら、 ADを兼任することも可能だと言っていた。だとすればスタジオを抜け出して犯行に 及ぶことができるはずだ。  カテリーナを庇っているとしたら、その理由は何か。  交代の局員からもらったタイムテーブルを開いてみる。         ディレクター アンソニー・スワンソン中尉。         調整室員   ジュリアンー・キニスキー中尉。         アナウンス  アニー・バークレー少尉。         AD     カテリーナ・バレンタイン少尉。  これが当時のスタジオスタッフである。  端末を開いて乗員名簿を開く。  何か手掛かりはないか……。  おや?  医療項目の中に意外な共通点が浮かび上がった。  避妊リング装着済み。  これが何を意味するかはすぐに判る。 「避妊リング……つまり日常として性交渉ある男性がいるということね」  男と女が一緒に暮らしていれば結ばれるのは自然の摂理であり、いくら軍艦とはい え非番時の行動に枠をはめることも自由恋愛を禁則することもできない。無理矢理引 き離そうとすれば士気にも影響する。愛する者を守るために戦うということもあると おり、ある程度の恋愛を認めたほうが良い場合も多いのである。  共和国同盟軍が徴兵制によらない職業軍人と志願兵とから成り立っており、男女雇 用平等制度によって、男女を分け隔てることが出来ない以上、それなりの制度が必要 になってくるというわけである。  性交渉の結果として妊娠はつきものであるが、居住ブロックには多少なりとも重力 があるとはいえ、妊娠を正常に維持継続させるには不十分過ぎる。仮に妊娠したとし ても胎芽の発生過程で、重力が原因による子宮外妊娠や奇形児の発現率は非常に高く、 流産は必至である。  無重力が及ぼす動物の発生への障害には多数あるが、人間すなわち脊椎動物におい て、脊髄や骨格の形成には重力が必要不可欠である。  避妊リングは、特殊多孔質セラミックスで出来ており、人体には一切無害である。 精子を誘因する物質が含まれていて、それが徐々に溶けだすことによって、誘蛾灯の ごとく精子を誘因して卵管への侵入を阻害する。その罠を潜り抜けた精子によって受 精に至っても、今度はリングそのものが受精卵の着床を許さない。  当直を抜け出して男の元に身を寄せるというのは良くあることだ。  当時、カテリーナも男に会いにいくと嘘をついて抜け出していたのかも知れない。 もしかしたら、同じ恋人を持つ者同士だから、その気持ちも良く判るはずだ。互いに 庇いあっていて、交代で抜け出していた事も考えられる。 「うーん……。四人に口裏を合わせられれば真相は明らかにならないな……。何らか の証拠を突きつけなければだめかな……」  殺人事件と判れば口を開いてくれるのだろうが……。  その時、軽やかな音が鳴って、メールが届いた事を知らせてくれた。  早速開いてみると、検視官が到着して司法解剖が始まったというものだった。 「よしよし、いいぞ。こっちもどんどん先に進めていかなきゃな」  とにもかくにも司法解剖によって、事故か殺人かが決定されるまでは、下手には動 けない。 「まずは、もう一度、中佐に面会だ」  手元にあるこの首飾りの出所を確定させなければならない。間違いなく司令の持ち 物かどうかを、本人に確認してもらう。  すでにコレットのIDカードには、艦橋への直接連絡の許可コードが登録されてい る。すぐに連絡を取り、一時間後に司令室に来てくれということになった。鑑識課で 首飾りの指紋チェックを行ってから司令室へ向かった。

ポチッとよろしく!

11

2017年12月25日 (月)

梓の非日常/第七章 篠崎邸にて

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた

(二)篠崎邸にて  延々と続くかと思われるほど長い土塀と銀杏並木に囲まれた中、広大な日本庭園を 伴った篠崎邸が建っている。三百年程前に川越随一とも言われた豪商、絵利香のご先 祖さまが金にあかせて建てた総檜真壁造りの豪邸である。基本的に桃山時代以降に発 展した武家屋敷に取り入れられた書院造りに準じた屋敷となっている。書院造りとは、 桃山時代の工匠が記した【匠明】に詳しい。  東側の御成門をくぐると主殿(客座敷・母屋と呼んでいる)から御成御殿(主客 間)、中書院(居間・良三夫妻の部屋)と続く。  家族が出入りする北東の平棟門からは客殿(居間)、大台所(食堂・厨房)、北書 院(絵利香の部屋)と続いている。  南東門からは、茶会を開く数奇屋と路地、南書院(客間)、主殿に相対する位置に 能舞台と楽屋など催事関連の寝殿が建っている。  そしてそれらの本殿を取り囲むように、中庭を挟んで使用人が暮らす長屋が連なっ ている。それ以外にも随所に土蔵や小部屋が散らばっている。  邸宅だけでも現在の価値にして、総工費三十二億円は下らないだろうと噂されてい る。主殿の二尺角の大黒柱だけで八千万円相当の価値があるそうだ。  大黒柱に連なる尺五寸のはり受け、それに台持継ぎされた屋根を支える尺寸の小屋 ばり、そして軒げた・敷げた・もや等々、天井裏をのぞけば三百年の風雪に耐えたそ の頑丈さを証明してくれるだろう。その頑丈な骨組に本瓦の屋根が乗っている。現代 に良くみられる桟瓦は、江戸時代以降に発明されたものであるから当然であろう。  これらの屋敷には、国宝や国指定重要文化財としての価値があり、文化庁からの申 し出があるのだが、篠崎家は文化財指定を頑なに断り続けている。  日本庭園には、四季折々の木々や草花が咲き誇り、一般市民に随時解放されて憩い の場ともなっている。事前の承認が必要だが、句会や茶会なども頻繁に開催されてい る。但し第一・第三・第五水曜日は休園なので注意。  春の桜とすみれやアイリス、梅雨時のノイバラと菖蒲や紫陽花、夏のクチナシと露 草や向日葵、秋の金木犀と菊や秋桜、そして冬には椿と水仙やシクラメンなどなど。 もちろんこれらはほんの一部の紹介でしかない。一年中入れ代わりで、それぞれの季 節に花を咲かせる樹木と、和洋取り混ぜた草花が咲き乱れる。日本庭園というくらい だから、当初は花鳥風月枯れ山水というような、純日本風のたたずまいだったのだが、 庭園を市民に解放してからというもの、現代風の花壇造りが三分の一を占めるまでに なっていた。ボランティアで草花の手入れをしてくれている、「花を愛する市民グ ループ」の意向があったからだが、花の種や球根を持ちより毎日入れ代わりでかいが いしく世話をしている。  もちろん花期とは別に、秋の紅葉を楽しむこともできるし、銀杏並木での地面に落 ちたギンナン採集は近隣家庭の楽しみとなっている。そのかわりに並木の落ち葉など の清掃が暗黙の約束ごととなっているが。  もうひとつの人気のスポットは、日本庭園入り口から並木を隔てた反対側、旧倉庫 跡に隣接されて建っている『誕生日の花と花言葉の展示館』である。入館は無料で、 一年三百六十六日の誕生花が植えられており、その花の植性と花言葉の解説がパネル 展示されている。当然花期からずれているものは、青葉のみとかパネル展示だけとい う寂しいものもあるのだが、自然が相手なので仕方ないだろう。  こちらは絵利香の草案で三年前に建設されたものだが、現在は「誕生日に花を送る 会」というボランティアグループが主催・運営しており、その主旨から年中無休であ る。その日が誕生日になっている来館者には、花の種のプレゼントがある。またグ ループが丹精込めて栽培した切り花・種・球根の廉価販売も行われており、誕生日や 花言葉に関わる贈り物として買っていく来館者も多い。梓が美智子の病気見舞で花を 買ったのもこの展示館だった。  ついでに付け加えると、市民に無料で常時解放され、ボランティアグループが主催 しているということで、日本庭園と展示館にかかる固定資産税は、市の条例による公 園管理特例法が適用されて納税を免除されている。また、団体客はご遠慮下さい、と いうことで観光ルートには入っていない。

ポチッとよろしく!

11

2017年12月24日 (日)

銀河戦記/第九章 犯人を探せ XV

第九章・犯人を探せ

                 XV 「もう一度現場を一回りしてみるか」  というわけで、アスレチックジムに戻って来た。  死んでいた器械はもとより、周囲をじっくりと調べて回ったが、証拠となるものは 何も出てこない。  殺害現場は、ミシェールのいた宿房である可能性が高い。  そこからここまで、どうやって遺体を運ぶか……。  それが判ればすべてが解決するはずだ。  何か見落としていることはないか?  遺体の移送ルートをじっくりと考えてみる。  まず宿房を出て右へ向かって、ランジェリーショップの前を通ってエレベーターの 前に出る。左へ向かっても、もう一つのエレベーターに出られるが、ジムまでの距離 が遠くなり過ぎてしまう。やはり最短距離で運ぶのが当然だろう。  エレベーターを降りて右へ向かえばアスレチックジムだ。 「丁度、このジムの真上に宿房があるんだよね……」  まてよ! もしかしたら……。  コレットの脳裏に閃いたものがあった。 「考えが正しければ、あるはずだ」  コレットは、壁伝いに歩いて、それを探しはじめた。  それは、器械置き場にあった。 「やっぱり、あったわね」  コレットが探していた物。  それは、ダストシュートだった。  宿房の方にも端末のそばにダストシュートがあった。  エレベーターとの位置関係から、丁度この真上に宿房があるはずだった。 「やはりこれを使ったのね。これなら誰にも気づかれることなく遺体を運べるし、ミ シェールの膝に擦過傷ができた理由もわかるわ」  ダストシュートの蓋を開けて覗きこむコレット。  ミシェールは小柄な身体だ。ダストシュートの間口は、遺体を通せるほどの十分な 広さがある。膝の傷はダストシュートを出し入れする時に負ったものだろう。 「よし、もう一度ミシェールの宿房に行って確認しよう」  コレットが再びミシェールの官房に戻ってきたとき、部屋の扉が何者かによって開 けられた形跡があった。誰にも気付かれないよう封印しておくために張り付けておい た透明シールが取れて落ちていたからである。  コレットは腰からブラスターを引き抜き、セーフティーロックを外した。侵入者が まだ中にいるかもしれない。IDカードを挿入してドアを開け、身構えて部屋の中へ 入っていった。  耳を澄まし気配を探った。  侵入者はすでに退去した後であった。  ブラスターをホルダーにしまい込んで、 「一体、何をしに入ったか……」  コレットは改めて室内の捜査を開始した。以前と違うところはないか、一つ一つし らみつぶしに調べていく。 「これは!」  ミシェール個人の引出を開けた時であった。  大粒のエメラルドを中心に小粒のダイヤモンドを配した首飾りが、上段の引出から 発見されたのである。  情報部で研修した彼女の宝石に対する鑑識眼は、それが本物であるかイミテーショ ンであるかを瞬時に判定していた。  調べればこの首飾りの持ち主が誰であるかは容易に判明するであろうが、これが犯 人に繋がる手掛かりとなるのかどうかは、今の時点では判らない。  少なくとも犯人が捜査の進行を惑わそうとしているのは確かなようであった。  取り敢えずは証拠物件として鑑識に回すことにした。 「犯人の指紋が検出することはないだろうがな……」  侵入者を推測してみる。 「この部屋は閉鎖されていて、先住者達は移動してここにはもう入れない。わたしか 中佐しか入れないはず。中佐は男子禁制のこのブロックには入ってはこれない。とな ると、コンピューターに不正アクセスしてここの扉を解錠したか……いや、そんなこ としなくても簡単に侵入できるじゃないか」  ダストシュートである。  重力の小さな艦内において、アスレチックジムからダストシュートを伝って登って くれば容易い。それが小柄な身体ならなおさらである。  そばの端末を起動して居住区の見取り図を開いてみる。  推測通り、この宿房とアスレチックジムとはダストシュートで繋がっている。 「やっぱりね。あれ?」  意外な事に、さらに上の階にはランドール中佐の居室があったのだ。 「そうか! これだったのね」  すべての謎が氷解した。 第九章 了

ポチッとよろしく!

11

2017年12月23日 (土)

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろし方

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた

(一)おしゃべり  放課後の校門前。  手を振りながら別れる梓と慎二。 「梓ちゃん」  自分の名を呼ぶ声に梓が振り返ると、絵利香とクラスメート達が歩み寄ってくる。 「ねえ。みんなでおしゃべりしようって、これから喫茶店に行くんだけど、梓ちゃん もいらっしゃいよ」 「ねえねえ。行きましょうよ」  愛子が後ろから梓の肩を押していく。  …おしゃべりねえ。絵利香ちゃん以外の女の子同士の会話って苦手なんだけど… 「う、うん」  近くの喫茶店に向かって歩きだす女子高生達。  城下町川越の町並みをそぞろ歩きながらも、女の子の会話は尽きない。  観光名所となっている初雁城址、時の鐘を経て蔵造りの町へと続く。 「あ、ここよ」  菓子屋横丁の近くに店を構える和風喫茶に入る女の子達。  テーブルは満席だったが、梓の姿を認めた一グループが、軽く会釈して席を開けて カウンターに移動したのだ。どうやら青竜会の一員のようだ。 「好意は無碍にするものじゃないものね」  せっかく開けてくれたテーブル、相手に軽く手を振って遠慮なく座る梓とクラス メート達。  六人席に座る女子高生のそれぞれの前に、それぞれが注文した品物が並んでいる。 「ねえ。真条寺さん」 「梓でいいわよ。あたしもあなたのこと愛子って呼ぶ」 「んーっ。じゃあ、梓さん」 「なに」 「沢渡君とはどういう関係なの?」  単刀直入に切り出してきた愛子。 「なにを、いきなり」 「だって結構親しげじゃん」 「あいつとは何でもないよ。ただの喧嘩友達ってところよ」 「ふうん。喧嘩友達ねえ」 「二人は、沢渡君とは初対面だったんでしょ」 「うん。入学式にいきなり喧嘩して、投げ飛ばしちゃんだよね」 「なに、それ。沢渡君を投げ飛ばしちゃったっていうの」 「うん。あいつと会う時はなぜか喧嘩ばかりしてた」  入学式の時、二人で暴漢達とやりあった時、そしてスケ番の時。それぞれの時の状 況を思い出している梓。 「そうこうしているうちにさあ。何故か馬が合っちゃったというか……」 「でもさあ。沢渡君って、変わったわよね」 「そうそう、悪魔をも恐れさせると言われた、あの沢渡君よ」 「うん。沢渡君も、梓ちゃんといる時だけは、やさしい表情を見せるよね」 「そうなのかな……」 「やさしい表情といえば、ここ最近ぎらぎらした目つきのいかにもスケ番というよう な人達がいなくなったよね」 「そうそう。縄張り争いでさ、対抗グループが島荒らしをしていないか、見回りして たみたいだけど」 「噂では、スケ番の二大勢力が一つに統合されたって聞いたけど。縄張り争いがなく なったせいじゃないかな」 「よほど強力な統率者が現れたんでしょう」 「ねえ。梓さん、沢渡君から何か聞いてない?」 「そうねえ。沢渡君なら、裏の事情をよく知ってると思うよ」 「さ、さあ……聞いてないわ」  女子生徒達の会話に冷や汗かきっぱなしの梓。まさかその当事者が自分などとは口 に出しても言えない。  それを横目で見ながら、ほくそえんでいる絵利香。

ポチッとよろしく!

11

2017年12月22日 (金)

銀河戦記/第九章 犯人を探せ XIV

第九章・犯人を探せ

                XIV  コレットは、もう一度ミシェールの遺体を検分するために、遺体安置所に向かって いた。  IDカードを提示して遺体安置所に入ったコレットは、係官に命じて遺体の収めら れているロッカーを開けさせた。  プシュー!  という音とともに安置ロッカーから引き出されたベッドの上にミシェールは裸で横 たわっていた。腐敗を防ぐために冷蔵された身体は白くなり、吊るされていたことか ら首筋に紫斑と脚部に血液凝固斑いわゆる死斑が見られる。すでに死後硬直は解かれ ているようであった。身体の各部は膝の傷を除けばいたってきれいであった。 「司法解剖はいつ?」 「明日の一五○○時に監察医務官が来られることになっていますから、その後すぐに 行われると思います」 「鑑識にも伝えてありますが、監察官にこの膝の擦過傷について念入りに調べてもら ってください」 「念入りに調べるのですか。つまり細胞レベルで?」 「そう。この傷が、死後硬直の以前にできたのか、それとも後にできたのか、につい てです。生存中にできた可能性も含めて」 「わかりました」 「やはり殺人ですかねえ……」  係官が質問ともとれる呟きをもらした。 「まだわからない」  殺人だという確証が出てこない限りにはそう言うよりしようがない。 「もし殺人だとしたら哀しいですね。この部隊にいる人達はみんな、ランドール司令 の下で働くのを生きがいにしていると思うんです。たとえ生きて帰ってこれないよう な作戦にだって喜んで出撃していきます。それで戦死したのなら本望だと思っていま す。それがこんな形で死んでしまったら浮かばれないです」  そうかも知れないと思った。  部隊にいるすべてのものが、ランドール司令に絶大な信頼を寄せていた。カラカス 基地攻略という理不尽な作戦命令を受けても、ミッドウェイやキャブリック星雲不時 遭遇会戦にしても、まさしく生きて帰ってこれないような作戦遂行に至っても、誰一 人として逃げ出さなかった。司令にたいして文句一つ口にしなかった。  そんな志を一つにする者同士が殺人を犯す者だろうか?  容疑者の一人であるカテリーナにしても思いは同じはずだ。  おそらくは共犯者でありスパイである男の存在がそうさせたのだろう。  サラマンダーに潜入したスパイは、司令官を取り巻く主要な士官達が女性ばかりと 知って驚いたことだろう。第一艦橋はすべて女性だし、統合作戦司令室、統制通信管 制所も九割が女性だ。顔馴染みのない男性が潜入すればすぐに身元がばれてしまう。  スパイは考えたのだろう。ランドールのいる発令所ブロックでスパイ活動するには、 発令所要員の女性を手懐けて、共犯者に仕立てれば良いと。  そしてカテリーナが選ばれた。  カテリーナは、野心を持って近づいた男に、何も知らずに恋に落ちた。やがて恋人 からランドール司令の調査を依頼されて従うことになる。  ランドール司令と恋人とを両天秤に掛けて、恋人の方が重ければ当然そちらに傾く。 スパイ活動中にミシェールに気づかれて殺してしまった。恋人のために罪を犯し、そ して証拠隠滅に尽力する。  スパイの正体は一体何者か?  カテリーナが白状しない限り突き止める事は不可能だろう。  まずはカテリーナの周囲を洗って証拠を集めよう。  何にしても、このミシェールのためにも真相を究明しなければ、係官の言うとおり 浮かばれない。 「死人は黙して語らずか……。ああ、もう元に戻してください」 「わかりました」  係官がミシェールの横たわるベッドを安置ロッカーに戻す。 「ミシェールの着ていたものを見せていただけません?」 「いいですよ、こちらです」  隣の部屋に案内される。  引出の中からビニール袋に収められた衣類が取り出された。 「レオタードとその下に着用するショーツ、そしてタイツか……」  死ぬ直前に、アスレチックジムで汗を流していたのだから、それがすべてであった。  鑑識用の白手袋をはめて、レオタードを調べる。何か付着していないかと、裏返し たり透かしたりして、じっくりと観察するが、何も出ない。 「問題はタイツね……」  擦過傷を負っていただけにタイツの生地に擦った痕があるが、破断までには至って いない。  スポーツなどしていて転んだ時、衣服は破れていないのに、その下の膝や肘などが 擦り剥けて血が出ているということがよくある。いわゆる圧迫擦過傷である。  皮膚は誰でも知っている通り、自由に伸び縮みしながら体運動を可能にしている。 転んだ場合など、皮膚と衣服との間には静止摩擦が生じて、皮膚は衣服にへばりつい たまま外力方向へ引っ張られる。この時、皮膚が伸びきったり、急激な伸長が与えら れ張力限界を越えた時、表層雪崩のように皮膚の表面が、ずるりと剥けるのである。  静止摩擦が加わったことを示す、熱反応がわずかに見られた。生地が熱で縮れてい るようだ。しかし擦過傷があれば血液が付着しているはずなのに、ほとんど見られな かった。これはつまり死んで血流が止まった後で、傷ができたことを示す。遺体を移 送中に生じた証拠となる。司法解剖で擦過傷に対する判断が下されれば真実は明らか になるだろう。

ポチッとよろしく!

11

2017年12月21日 (木)

梓の非日常/第六章 りんどうの花言葉

梓の非日常/第六章・ニューヨークにて

(六)りんどうの花言葉  数ヶ月前に遡る。  学校から帰ってきて自室で着替えている梓。  その着替えを手伝っている美智子だが、顔色が悪く具合が悪そうだ。 「美智子さん。大丈夫ですか?」  気がついた梓が心配そうに表情をうかがう。 「いえ。大丈夫です」  脱いだ衣類を受け取ってワゴンに乗せ、押して行こうとした時だった。  その場にうずくまってしまったのだ。 「美智子さん!」  駆け寄って額に手を当てる梓。 「ひどい熱だわ。誰か、来て!」  悲鳴にも似た甲高い梓の声に、メイド達が大慌てで集まってくる。 「お嬢さま、どうなさいましたか?」 「誰か主治医を呼んで来て頂戴。美智子さんが病気です」 「かしこまりました」  ルーム・メイドの一人が医者を呼びにいく。 「お嬢さま……私は……」  美智子が弱々しくこたえる。 「今日は部屋に戻って休みなさい。これは命令です。いいですね」 「は、はい。わかりました」 「美鈴さん。美智子さんを部屋に連れていって看病してあげてください」 「かしこまりました」 「明美さんは、麗香さんを呼んできて」 「はい」  やがて麗香が梓のところにやってくる。 「美智子さんのこと聞きました」 「仕事の前の打ち合わせで、気がつかなかったのですか? 美智子さんの具合が悪い こと。ただ仕事の分担の打ち合わせするだけでなくて、メイド達の健康状態をチェッ クするのも麗香さんの役目でしょう?」 「もうしわけありません。配慮が足りませんでした」 「麗香さん。メイドのローテーションに問題があるんじゃなくて? 病気だというの に無理して働いたりして、きっと自分が休むと他のメイド達に迷惑かけるって思った んでしょうね。本当は休日なのに出てきている時も、たまに見掛けます。あたしが指 摘すると部屋に戻りますが。美智子さんは一番頭だから、自分が休んだら迷惑かける と思っているんでしょうね。そんな職場環境は改善しなければなりません。休日はち ゃんと取れて、仕事のことを完全に忘れて身体を休められるように、メイドを一人増 やしてください」 「わかりました。メイドを一人増やします」 「それと、麗香さん。あなた自身もです。お休みの日は、ちゃんと身体を休めていま すか? 少し疲れているんじゃない? よく気がつく麗香さんが、こんな失態を犯す とは思わないから」  思わず苦笑する麗香。 「大丈夫ですよ。わたしは、メイド達と違って肉体労働がありませんから。御髪を解 かしたりして、お世話してさし上げてる時間が幸せと感じているんです。疲れも取れ てしまいますのよ」  二人の会話を聞いていた明美は、お嬢さまが使用人思いの素敵なご主人であること に感動し、メイドとしてこれからもしっかりとお嬢さまのお世話をしようと心新たに したのである。  翌日。  美智子の部屋、美鈴が花瓶に青紫色の花をいけている。 「きれいな花。リンドウね」 「あら、目が覚めたのね。気分はどう?」 「少し楽になったわ」 「お嬢さまが、学校の帰りにわざわざ花屋さんに寄って、買ってきてくださったの よ」 「お嬢さまが?」 「正確にはエゾリンドウって言うそうよ。花言葉知ってる?」 「気遣う心、でしょ」 「そう、身体を気遣いなさいというお嬢さまの心遣いよ」 「お嬢さま、やさしいから……」 「とにかく休息をとることが肝心ね」  開いていたドアをノックして、明美が入って来る。 「美智子は、頑張り過ぎなのよ。でもこれからは、少し楽になるわよ」 「明美、お嬢さまの方はいいの?」 「うん。ピアノのお稽古の時間だから」  しばらくすると開いたドアから、ピアノの旋律が聞こえてきた。 「楽になるってどういうこと?」 「お嬢さまが、麗香さんにメイドを増やすように指示してたのよ」  梓が麗香を叱責していたことを一部始終話す明美。 「お嬢さまが麗香さまを叱るところなんてはじめて見たわ」 「麗香さまを叱れるのは、この屋敷ではお嬢さまだけだものね」  ピアノの旋律に耳を傾けながら、使用人思いの自分達の主人に思いをはせるメイド 達であった。  それから数日後。 「成瀬かほりです。よろしくお願いします」  一般のメイドの中から選りすぐられた新しい専属メイドが梓に紹介された。  顔を見合わせて微笑む美智子達。  再びブロンクス屋敷。  梓のピアノの旋律が聞こえている。 『ん……いろいろ思い起こせば、やっぱりお嬢さまはやさしい』 『わたし達の事を大事に思ってくれているよね』 第六章 了

ポチッとよろしく!

11

おお!二人が乗ってるよ(^_-)-☆

インターポット

観覧車って一人しか乗ってるところ見たことないので、
一人乗りかな……とずっと思っていましたが。
女の子二人が仲良く乗っているのを発見。


ポチッとよろしく!

11

2017年12月20日 (水)

銀河戦記/第九章 犯人を探せ XIII

第九章・犯人を探せ

               XIII  とここまで調べた時、レイチェルがランドールの幼馴染みということを思い出した。 「ついでだから、ウィング大尉が中佐と仲が良かったという幼少の頃を見てみます か」  コレットは、アレックスとレイチェルのさらなる過去についての資料を探しはじめ た。  アレックス・ランドール。一歳の時、銀河帝国及びバーナード星系連邦そして共和 国同盟三国の絶対中立地帯において、擬装海賊商船「マスカレード号」に捕われてい るところを、辺境警備艦隊によって救出される。俗に「マスカレード号事件」と称さ れている。  救出された幼児は、当時着用していたよだれ掛けに刺繍されていたイニシャルから、 アレックス・ランドールと命名される。六歳の時、軍の里親制度によって、警備艦隊 司令官トライトン・アズナブル中佐の元に引き取られる。同時に、共和国同盟軍幼年 学校に入隊。以降、下士官養成学校、上級士官学校、高等士官学校、高等士官学校専 攻科目へと順次進級する。  所見として、深緑色の虹彩と褐色の髪の形態から、銀河帝国皇族に繋がる血筋と推 測される。 「この一歳の時の、マスカレード号事件の詳細が不明にされているのよね」  マスカレード号事件。  銀河帝国と共和国同盟そしてバーナード星系連邦の三国が接する領域には中立地帯 が設けられていた。  国際法規上、中立地帯への立ち入りと戦闘行為が禁止されている軍艦が、海賊船を 追い掛けてその境界を越えて進入し、戦闘に至った事件である。  当時、銀河帝国や共和国同盟の辺境惑星近隣では、武装した海賊船団が各惑星を襲 っては、物資略奪や婦女子誘拐を繰り返し、軍艦の追撃をかわして三国境界中立地帯 へ逃げ込むという事件が多発していた。  海賊船は、火器を減らして高速性能を高めた改造戦艦を使用していた。そのスピー ドに追いつける軍艦は数少なく、誘拐した婦女子を人質に取られていては成す術もな かった。  海賊船はバーナード星系連邦の戦艦を改造していると見られていた。その背後には 連邦が関与しているか、或は連邦軍人が直接携わっているかも知れないと憶測されて いた。  惑星が略奪にあった時、これまでは軍艦がその惑星へ赴いていたが、時既に遅く逃 げ去った後で、事後処理にあたるだけという具合であった。  その対策のために高速駆逐艦を主力とした討伐隊が編成された。トライトン中佐率 いる辺境警備艦隊の誕生である。彼は略奪された惑星には赴かずに、海賊の逃走ルー トに先回りしてこれを叩くようにしたのである。あるいは海賊が出て来そうなところ に待ち伏せして一気に壊滅したこともあった。略奪された惑星を放っておいて海賊ば かり追い掛けていると不評を買ったが、確実に海賊は討伐されていった。  そんな折り、海賊船団の族長が乗っていると見られる「マスカレード号」を、とう とう追い詰めてもう少しで撃破というところで、中立地帯に逃げ込まれた際に、さら に境界を越えてこれを追跡撃破ついには拿捕に成功した。  共和国同盟軍は、その事件を軍事機密として封印した。中立地帯への越境・戦闘行 為が、国際法規委員会の審議にかかることになれば、敵国のバーナード星系連邦の有 利に働くからである。  それがゆえに、アレックスの素性も解明されないままとなり、今日に至っていると いうわけである。出生不明かつそのエメラルド色の瞳から、銀河帝国からの流浪者と かスパイとか風潮されるのも仕方のないことであった。 「軍が秘密にしている限り、ランドール司令の出生の秘密も蚊帳の外ということね。 もう二十年以上も前の話しだから、覚えている人も少ないし、当のトライトン中佐も 軍上層部からの鉗口令に従って口を閉ざしている。その幼児の里親としてトライトン 中佐が選ばれたのも流言を避けるためだと言われているわね」  今になって、目覚ましい戦果をあげて昇進著しいランドール司令のことを調査する ためにスパイが派遣されたと考えられる。 「さてそれはさておいて、ウィング大尉の方も調べてみましょうか」

ポチッとよろしく!

1

空飛ぶそりが行く~♪

インターポット

空飛ぶそり……何か物足りないよね。

やはりこの時期ならトナカイに引っ張られて、
という設定の方が良いのだが……

ポチッとよろしく!

11

2017年12月19日 (火)

梓の非日常/第六章 ピアノの旋律

梓の非日常/第六章・ニューヨークにて

(五)ピアノの旋律  執務室。  本日の業務はすでに終了して、渚は居間の方でくつろいでいる。  ニューヨーク市警から戻ってきてすぐ、麗香は梓同席の下、専属メイドを呼び集め ていた。 『ああいった場合、お嬢さまを最優先で逃がしてさし上げるのが本道でしょう』  梓を目の前にして、メイド達を叱責している麗香。 『いや、それは、あたしが……』 『お嬢さまは、黙っていて下さい!』 『え、あ……』  麗香の強い口調に言葉を失う梓。 『確かに喧嘩をはじめてしまわれたのはお嬢さまかもしれませんが、それを無理にで もお止めするのが本筋でしょう。なのに、一緒になって喧嘩に参加するとは。本末転 倒じゃないですか』  自分が関わったことで、メイド達が直属の上司である麗香に叱責されているところ を、目の当たりにすることほど、苛まれることはない。自分自身が直接叱責されるよ りも辛いものである。  もちろん、主人である梓を麗香が叱責できるはずもなく、そうすることで関節的に 自嘲することを促しているわけである。  ドアがノックされてメイドが入ってくる。 『お嬢さま、渚さまがお呼びでございます。居間の方でお待ちです』 『ん? 今、いく』  向き直ってから、 『それじゃ、麗香さん。美智子さん達をあまり責めないで』  と言い残して退室する。  梓が退室したのを見て、声の調子を落とし、表情を和らげる麗香。 『お嬢さまは、屋敷から出られないあなた達を不憫に思われて、わざわざ観光にお誘 いくださったのよ。そんな使用人思いのやさしいご主人なんてそうざらにはいません よ』  と微笑みながら諭していく。 『はい』 『私達の大切なお嬢さまです。自分がどうなろうとも、お守りして差し上げる。そん な気持ちでいられるようにしたいですね。どうですか?』 『はい。その通りでございます』 『そう。判れば結構です。今日はもう部屋に戻って休みなさい』 『かしこまりました』  居間に姿を現した梓。 『なあに、お母さん』  ソファーに腰掛けている渚が答える。 『幸田先生から連絡があったわよ』 『幸田先生?』 『ええ、音楽コンクールのピアノ部門、審査員特別賞だったそうよ』 『審査員特別賞?』 『金賞に準ずるんですってよ。課題部門は文句なく一位だったそうだけど、自由部門 で見事なオルガンの演奏を弾いたものの、ピアノではないということで、特別賞に決 まったらしいわ。ともかく参加者の中の一位には違いないって』 『ふうん……』 『ちゃんと言いつけを守って、ピアノのお勉強を続けていたようね。安心したわ。久 しぶりに、聞かせてくれるかしら。梓ちゃんのピアノの演奏』 『う、うん』 『コンクールの自由部門で弾く予定だった曲がいいわね』 『わかった……』  ピアノの椅子に腰掛け、呼吸を整えて、静かに弾きはじめる。  美しい旋律が屋敷内に流れていく。  目を閉じ、娘の演奏に聞き入っている渚。  麗香が入ってくるが、梓の演奏を邪魔しないように、音を立てないようにそっとソ ファーに腰を降ろす。  屋敷内を行き来するメイド達も、足を止め、仕事の手を休めて聞き惚れている。  一方、解放されて美智子の部屋に集まったメイド達。  開けたままの扉の外から、梓が演奏するピアノの旋律が流れてくる。 『きれいな曲……お嬢さまが弾かれているのね』 『相変わらずお上手』  じっと聞き耳をたてて聞き入っているメイド達。 『この美しい曲は、お嬢さまの心の内を現しているみたいね。わたし達を気遣うやさ しさとか』 『気遣う心か……。ねえ、美智子さんが風邪でダウンした時のこと覚えてる?』 『覚えてる。お嬢さまがわざわざ学校の帰りにリンドウの花を買ってきてくださった のよね』 『そうそう、その一件があって、かほりさんが仲間入りしたんだよね』  言われてメイド達は過去を思い起こしていた。

ポチッとよろしく!

1

2017年12月18日 (月)

銀河戦記/第八章 犯罪捜査官 XII

第九章・犯人を探せ

                 XII 「そう言えば、中佐が言ってたわね。スパイが侵入して、気づかれたために口封じに 殺されたと」  中佐の予見能力には評判がある。将来を見据えた先見の明を秘めた作戦能力は、誰 もが賞賛している。  この事件には共犯者が必ずいるはずだ。そうでなければ遺体を一人で運べるはずが ない。  それが潜入したスパイだとしたら……。  ランジェリーショップの店員の証言から、カテリーナには男がいたかも知れない。 その男がスパイだという可能性もある。  仮にスパイが潜入したとしたら、その目的というものがあるはずだ。  一番考えられるのは、昇進著しい艦隊司令官アレックス・ランドール中佐の素性調 査しか考えられない。  ランドール司令が、銀河帝国のスパイだと風潮されているのは周知の事実だ。 「ランドール中佐か……調べてみる必要があるわね」  自分には乗員名簿を閲覧する権限が与えられている。相手が艦隊司令官といえども、 捜査の必要性があるからには、閲覧を許されるはずだ。  もう一度乗員名簿を閲覧する。  次に開いてみたのは、ランドール中佐の登録情報であった。依頼主なのだから本来 なら捜査範囲から除外してもよさそうであるが、すべてを疑ってかかるという性分と、 同盟の英雄と称えられている人物を知りたいという誘惑にはかなわなかったのだ。  アレックス・ランドール中佐。  第十七艦隊独立遊撃部隊司令。  高等士官学校スベリニアン校舎卒、戦術科戦術用兵専攻。  模擬戦闘戦優勝指揮官に与えられる特進規定により少尉に任官、第十七艦隊第十一 哨戒部隊配属。  ミッドウェイ宙域会戦において、敵主力空母四隻撃沈その他多大なる功績により少 佐に三階級特別昇進、独立遊撃部隊司令となる。  カラカス基地において、揚陸戦闘機による奇襲攻撃により基地を奪取、敵艦隊を敗 走させた功績により中佐に昇進。 「キャブリック星雲不時遭遇会戦では、訓練航海中にも関わらずたった四百隻で一個 艦隊を撃退か……」  まともな実戦経験が二度しかないのではそれ以上調べようがなかった。  ため息をついて、士官学校時代の年譜に目をやった時であった。 「あれ!」  そこにはコレットにとっては、意外な事実が記されていた。  パトリシア・ウィンザーとの婚約、既婚者宿舎入居といった記録が並んでいたので ある。改めて配偶者欄を確認してみると、副官のパトリシア・ウィンザーの名前が同 居婚約者として記されている。  同様にしてパトリシアのものを開いてみると、やはり配偶者欄にはランドールの名 前が記されている。 「そうか、二人は夫婦だったのね」  士官学校スベリニアン校舎卒業の者なら、パトリシアとアレックスが恋人同士だと いうことは誰でも知っているが、同居婚約していることまでは知られていない。  とはいえ、二人は夫婦であることを公表しておらず、艦内では宿房も別々に別れて 生活していた。実質上の夫婦関係にある同居婚約者であれば、既婚者用宿房があてが われて夫婦同室になれるのだが……。  正式な婚姻ではなく、あくまで婚約関係である以上、艦隊内における待遇として既 婚者扱いか独身者扱いとするかは、本人達の意志に従うことになっている。 「司令官と副官という関係上、夫婦であることを隠していたほうが、都合がいいって ことは理解できるが……ともかく士官学校時代の記録を徹底的に調べてみよう」 「パトリシア・ウィンザー中尉。  ランドール中佐の副官として就任中。  士官学校スベリニアン校舎戦術科戦術用兵専攻首席卒業。  特進少尉として第十七艦隊独立遊撃部隊配属、ランドール少佐の副官として着任。  在学中にランドールと同居婚約の申請、受理されてなお継続中。  佐官クラス既婚者用宿舎在宅資格所有。衛生班長。  カラカス基地攻略戦において、作戦参謀として参戦。中尉に昇進」 「ジェシカ・フランドル中尉。  航空参謀兼医務科衛生主任。  士官学校スベリニアン校舎卒。戦術科航空作戦専攻。  ランドール司令の要請により、独立遊撃部隊へ転属。  カラカス基地攻略戦にて航空参謀として参戦、中尉に昇進」 「レイチェル・ウィング大尉。  情報参謀兼主計科主任。  士官学校ジャストール校舎卒、特務科情報処理専攻。  独立遊撃部隊に転属申請し許可される。  以降副官としてその部隊編成に尽力する。  カラカス基地攻略戦及びキャブリック星雲会戦における情報収集の功績によりそれ  ぞれ昇進、大尉となる」

ポチッとよろしく!

1

2017年12月17日 (日)

梓の非日常/第六章 暴漢者達

梓の非日常/第六章・ニューヨークにて

(四)暴漢者達  梓達一行を柄の悪い連中が取り囲んでいた。 『エルドラドを降り立った時から、ずっとつけていたみたいですよ』 『お金の話しをしながら歩いていたからかなあ』 『というよりも、大金を持ち歩いている日本人観光客は目をつけられているからです よ』 『あたし達、観光客に見えるんだ』 『十分観光客に見えますよ』  梓達が流暢な英語を喋っているので、意外といった表情の暴漢達。 『おまえら、英語が判るのか?』  暴漢の一人が確認してきた。 『判るもなにも、地元だよ。この街で生まれ育ったよ』  梓が答える。明らかにニューヨークなまりとわかる本場の英語である。 『ちっ! はずしたか……。まあいいや。なら、話しは早い。金を出しな』 『おお! 単刀直入にきたか』 『車から降りるときに財布を手渡されたのを見てる。全部出せ』  といいつつ手を差し出す。 『やっぱり、車からつけてきていたんだ』 『早くしな!』 『やだね』  あかんべえをする梓。  暴漢に囲まれているというのに、落ち着き払っていて、少しも脅えていない。 『なんだとお。少し痛い目に会いたいようだな』 『痛い目って、魚の目か?』 『また、言ってる! 今どういう状況かわかってるの?』  絵利香が金きり声をあげる。 『うーん……暴漢者に囲まれてる』  とぼけた表情で答える。 『このお、ふざけやがって』  いきなり殴りかかってくる暴漢。  しかし梓は冷静に体をかわして、その腕を関節技に極めて、相手の勢いに乗せて投 げ飛ばした。 『うおおお、い、いてえよお』  地面に伏した暴漢は苦しみのたうちまわっている。  暴漢はまともに技が決まってどこか負傷したようだ。受け身を知っていれば何とい うことのない技なのだが、暴漢達が知る術もなし。 『肘の関節が外れたよ、早く医者に診てもらった方がいいぞ』 『こ、こいつ。柔道が出来るのか?』  暴漢達が尻ごみする。いとも簡単に大男が投げ飛ばされたのだ。当然の事だろう。 『柔道? 合気道だよ』 『しようがないですよ。投げれば、柔道。蹴れば、空手。棒切れ振り回せば、剣道。 ぐらいしか知識がないんですから。攻撃技のない合気道はメジャーじゃないんです』  といいつつ自分に襲いかかってきた相手に回し蹴りを食らわしている美智子。 『へえ、あなた達も武道のたしなみがあるんだ』 『当然ですよ。でなきゃ麗香さまが、お嬢さまのこと任せてくれたりしませんよ』  と平然と男を投げ飛ばす美鈴。 『専属メイドの採用条件に、英語堪能という他に武道の心得も必須になっているので す。お嬢さまの護衛の任もあるんです』  今度は明美が、踵落としを決める。 『わたし達の得意はそれぞれ違うんですよね』  美智子の縦拳が相手の顔面に炸裂して、もんどりうって倒れる暴漢。  合気道、空手、柔道、テコンドー、日本拳法。まさに技のオンパレードであった。 『そうなんだ……おおっと、絵利香ちゃん危ない!』  背後から絵利香に近づこうとした暴漢を、跳び膝蹴りで撃退する梓。  武道の心得のない絵利香をかばように、梓やメイド達は動きはじめた。  その頃、ブロンクス屋敷の執務室では、非常事態を察知して動きだしていた。  梓の行動を二十四時間監視している人工衛星が、警報を鳴らしたのである。  パネルスクリーンには暴漢達に囲まれている梓達が映しだされている。 『大至急、ニューヨーク市警のコードウェル署長に連絡して』  渚が指令を出す。 『かしこまりました』  いったん屋敷に戻っていた麗香であるが、取って返して梓の元へと、エルドラドを 走らせていた。 『もう、いい加減にしてよ!』  いくら倒しても切りがなかった。次々と新手が出てくし、そうこうするうちに倒し た相手が起き直って再び向かってきたからだ。  さすがに疲れが見えはじめた頃、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。  すると暴漢者達は、ここまでと撤退をはじめた。  その後ろ姿を見つめながら、 『あの、執拗さ……どうやら、金目当てだけじゃなかったみたいね』 『もしかして婦女子誘拐団だったりして……誘拐した婦女子が財産家だったら、身代 金をとり、庶民なら薬づけにして、売春とかをさせるあれ?』 『たぶんそうじゃないかな。だって高級車のキャデラックら降り立った所を見られて るんだもの。身代金目的で誘拐するつもりだったのかも』  パトロールカーが梓達の前に集まってきた。  警官達が降りてきて、倒れている暴漢者達を確保していく。  そのうちの一人が梓に近づいてくる。 『真条寺梓さんですね?』 『え、あ……はい』 『やっぱり。渚さまに生き写しだからすぐに判りましたよ』 『あなたは?』 『ニューヨーク市警のコードウェルです』  ニューヨーク市警本部。  その署長室に集まった梓達。  麗香も後追い到着していた。 『お久しぶりですなあ。お嬢さまがた』 『ええと……いつ、お会いしましたっけ?』 『あはは。そうか、覚えておられませんか。そうですねえ、まだ五歳でしたものね』 『コードウェル署長は、お嬢さまが五歳の時に、迷子になられた時の捜査責任者です よ。当時は警視でした』  梓達の身柄引取に市警に出迎えていた麗香が答えた。 『麗香さんは、その当時から世話役をなされていましたね。お嬢さまが迷子になった と、真っ青になって駆け込んできた十三歳当時のこと覚えていますよ。コロラド大学 の一年生でしたっけ』 『はい。その通りです』 『五歳で迷子というと、セント・ジョン教会とヴェラザノ神父のことは覚えているけ ど……』 『ああ。そう言えば、ヴェラザノ神父、お亡くなりになったそうですね』 『はい。こちらに戻ってきたのは葬儀に参列するためでした』 『そうでしたか。神父は音楽に造詣の深いお方でしたね』

ポチッとよろしく!

1
梓の非日常/第六章・ニューヨークにて

(四)暴漢者達  梓達一行を柄の悪い連中が取り囲んでいた。 『エルドラドを降り立った時から、ずっとつけていたみたいですよ』 『お金の話しをしながら歩いていたからかなあ』 『というよりも、大金を持ち歩いている日本人観光客は目をつけられているからです よ』 『あたし達、観光客に見えるんだ』 『十分観光客に見えますよ』  梓達が流暢な英語を喋っているので、意外といった表情の暴漢達。 『おまえら、英語が判るのか?』  暴漢の一人が確認してきた。 『判るもなにも、地元だよ。この街で生まれ育ったよ』  梓が答える。明らかにニューヨークなまりとわかる本場の英語である。 『ちっ! はずしたか……。まあいいや。なら、話しは早い。金を出しな』 『おお! 単刀直入にきたか』 『車から降りるときに財布を手渡されたのを見てる。全部出せ』  といいつつ手を差し出す。 『やっぱり、車からつけてきていたんだ』 『早くしな!』 『やだね』  あかんべえをする梓。  暴漢に囲まれているというのに、落ち着き払っていて、少しも脅えていない。 『なんだとお。少し痛い目に会いたいようだな』 『痛い目って、魚の目か?』 『また、言ってる! 今どういう状況かわかってるの?』  絵利香が金きり声をあげる。 『うーん……暴漢者に囲まれてる』  とぼけた表情で答える。 『このお、ふざけやがって』  いきなり殴りかかってくる暴漢。  しかし梓は冷静に体をかわして、その腕を関節技に極めて、相手の勢いに乗せて投 げ飛ばした。 『うおおお、い、いてえよお』  地面に伏した暴漢は苦しみのたうちまわっている。  暴漢はまともに技が決まってどこか負傷したようだ。受け身を知っていれば何とい うことのない技なのだが、暴漢達が知る術もなし。 『肘の関節が外れたよ、早く医者に診てもらった方がいいぞ』 『こ、こいつ。柔道が出来るのか?』  暴漢達が尻ごみする。いとも簡単に大男が投げ飛ばされたのだ。当然の事だろう。 『柔道? 合気道だよ』 『しようがないですよ。投げれば、柔道。蹴れば、空手。棒切れ振り回せば、剣道。 ぐらいしか知識がないんですから。攻撃技のない合気道はメジャーじゃないんです』  といいつつ自分に襲いかかってきた相手に回し蹴りを食らわしている美智子。 『へえ、あなた達も武道のたしなみがあるんだ』 『当然ですよ。でなきゃ麗香さまが、お嬢さまのこと任せてくれたりしませんよ』  と平然と男を投げ飛ばす美鈴。 『専属メイドの採用条件に、英語堪能という他に武道の心得も必須になっているので す。お嬢さまの護衛の任もあるんです』  今度は明美が、踵落としを決める。 『わたし達の得意はそれぞれ違うんですよね』  美智子の縦拳が相手の顔面に炸裂して、もんどりうって倒れる暴漢。  合気道、空手、柔道、テコンドー、日本拳法。まさに技のオンパレードであった。 『そうなんだ……おおっと、絵利香ちゃん危ない!』  背後から絵利香に近づこうとした暴漢を、跳び膝蹴りで撃退する梓。  武道の心得のない絵利香をかばように、梓やメイド達は動きはじめた。  その頃、ブロンクス屋敷の執務室では、非常事態を察知して動きだしていた。  梓の行動を二十四時間監視している人工衛星が、警報を鳴らしたのである。  パネルスクリーンには暴漢達に囲まれている梓達が映しだされている。 『大至急、ニューヨーク市警のコードウェル署長に連絡して』  渚が指令を出す。 『かしこまりました』  いったん屋敷に戻っていた麗香であるが、取って返して梓の元へと、エルドラドを 走らせていた。 『もう、いい加減にしてよ!』  いくら倒しても切りがなかった。次々と新手が出てくし、そうこうするうちに倒し た相手が起き直って再び向かってきたからだ。  さすがに疲れが見えはじめた頃、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。  すると暴漢者達は、ここまでと撤退をはじめた。  その後ろ姿を見つめながら、 『あの、執拗さ……どうやら、金目当てだけじゃなかったみたいね』 『もしかして婦女子誘拐団だったりして……誘拐した婦女子が財産家だったら、身代 金をとり、庶民なら薬づけにして、売春とかをさせるあれ?』 『たぶんそうじゃないかな。だって高級車のキャデラックら降り立った所を見られて るんだもの。身代金目的で誘拐するつもりだったのかも』  パトロールカーが梓達の前に集まってきた。  警官達が降りてきて、倒れている暴漢者達を確保していく。  そのうちの一人が梓に近づいてくる。 『真条寺梓さんですね?』 『え、あ……はい』 『やっぱり。渚さまに生き写しだからすぐに判りましたよ』 『あなたは?』 『ニューヨーク市警のコードウェルです』  ニューヨーク市警本部。  その署長室に集まった梓達。  麗香も後追い到着していた。 『お久しぶりですなあ。お嬢さまがた』 『ええと……いつ、お会いしましたっけ?』 『あはは。そうか、覚えておられませんか。そうですねえ、まだ五歳でしたものね』 『コードウェル署長は、お嬢さまが五歳の時に、迷子になられた時の捜査責任者です よ。当時は警視でした』  梓達の身柄引取に市警に出迎えていた麗香が答えた。 『麗香さんは、その当時から世話役をなされていましたね。お嬢さまが迷子になった と、真っ青になって駆け込んできた十三歳当時のこと覚えていますよ。コロラド大学 の一年生でしたっけ』 『はい。その通りです』 『五歳で迷子というと、セント・ジョン教会とヴェラザノ神父のことは覚えているけ ど……』 『ああ。そう言えば、ヴェラザノ神父、お亡くなりになったそうですね』 『はい。こちらに戻ってきたのは葬儀に参列するためでした』 『そうでしたか。神父は音楽に造詣の深いお方でしたね』

ポチッとよろしく!

1

2017年12月16日 (土)

銀河戦記/第九章 犯人を探せ XI

第九章・犯人を探せ

                 XI  ランジェリーショップを出てくるコレット。 「彼氏か……。ミシェールもカテリーナも、どうやら相手がいるらしい……」  コレットには彼氏がいなかった。  毎日のように死体や容疑者達を相手にしていると、性格のきつい厳格な女性という イメージが付きまとう。捜査官と聞いただけで、男女に関わらず誰もが身を引いてし まう。  実に損な役回りだが、コレットは気にしていない。  自ら進んでこの職業を選んだのだ。最初から覚悟はしていた。  しかしせめてもの心のゆとりのために、ランジェリーには気を遣っているのだ。可 愛いブラなどしていると、身も心も安らぐ。  自分の部屋に戻る。  特務捜査官は、その特殊任務のために個室が与えられていた。大部屋にいれば、捜 査機密が洩れる可能性があるからである。  買ったばかりのブラ&ショーツの入った紙袋を机の上に置いて、端末を操作して乗 員名簿を閲覧する事にする。自分のIDには、閲覧コードが入力されているので、デ ィスプレイには乗員名簿を開くメニュー画面が表示されている。  ミシェールに関わった人物達の情報を取り出しにかかる。  まずは当の本人のミシェール・ライカー少尉である。  高等士官学校スベリニアン校舎飛行科航空管制専攻。第二通信管制室勤務。サラマ ンダーから発着する艦載機の管制業務の任にあたっていた。 「航空管制か……。ウィンザー中尉と仲が良かったというのは、航空参謀のジェシ カ・フランドルの後輩同士ということがあるわけね」  パトリシアとジェシカが、かつて官舎の同室となって以来の仲というのは、誰でも 知っている。ジェシカとミシェールは、艦載機運用を担う指揮官とその管制オペレー ターという関係であり、そこにパトリシアが絡んでくるというわけである。もっとも ミシェールは一般士官なので、戦術科の二人より三・四歳若い。  キャブリック星雲における不時遭遇会戦において、初戦闘参加にて准尉から少尉に 昇進。  サイズは上から八十三・五十八・八十五、身長百五十二。  引き続き同室の乗員達を閲覧する。  カテリーナ・バレンタイン少尉。  高等士官学校パンテントン校舎特務科通信管制専攻。第一通信管制室勤務。  キャブリック星雲会戦にて昇進。  サイズは上から八十・五十六・八十二、身長百四十八。  ニコレット・バルドー少尉。  同スベリニアン校舎特務科通信管制専攻。第一通信管制室勤務。  キャブリック星雲会戦にて昇進。  同は八十五・六十・八十八、百六十二。  ニーナ・パルミナ少尉。  同ブライトン校舎飛行科航空管制専攻。第二通信管制室勤務。  キャブリック星雲会戦にて昇進。  同八十八・六十六・九十、百七十二。  クリシュナ・モンデール中尉。  同ジャストール校舎特務科通信管制専攻。第一艦橋勤務。  ミッドウェイ及びキャブリック星雲会戦にてそれぞれ昇進。  同八十五・六十三・八十七・百六十三。  ソフィー・シルバン中尉。  同スベリニアン校舎特務科レーダー管制専攻。第一艦橋勤務。  ミッドウェイ及びキャブリック星雲会戦にてそれぞれ昇進。  同九十一・六十八・九十三、百七十。宿房長。  いずれも士官学校出たばかりとはいえ、司令官を支える優秀な管制オペレーター達 だ。 「みんな甲乙つけ難い人ばかりね。ミシェールが殺害されたとすると、同室のこの人 達のいずれかが犯人である可能性が高いのだけれど……」  臨検医の言葉を思い出した。それによれば、背の低い相手にロープで首を絞められ たかも知れないということだった。だとすると、ミシェールより背が低いとなると、 「カテリーナか……」  カテリーナの証言には、いくつかの不審な点がある。  器械に挟まれたミシェールを発見して死んでいると思った、と証言しているが……。 はたして本当にそうなのか?  あの状態では、はっきり死んでいるとは判断つかないと思うのだが。生死を確認し、 ロープを外して蘇生を試みるといったことは考えられなかったのか。  まるで最初から死んでいるのが判っていたかのように感じる。  同室なら、食事前にアスレチックジムで運動をしていたことと、ミシェールの心臓 が悪い事ぐらい知っていたはず。だとしたらミシェールがアスレチックジムに再び立 ち寄ることはないだろうと推測できるだろう。なのにどうして探しに行ったのか?  容疑者として濃厚ではあるが、証言における不備だけで、確たる証拠が何一つない 状態ではどうしようもない。  もっといろいろな方面からも捜査を続けてみよう。意外な人物が容疑者として浮上 することだってあるからだ。

ポチッとよろしく!

1

二階建ての家から顔出す女の子

インターポット

二階建てというから、二階の窓からも顔を出すのかな……。

と、じっと見つめていたけど、一階だけのようだね。

写真のような顔出しと、扉の前に立ち止まる姿が見られます。

ポチッとよろしく!

1

2017年12月15日 (金)

梓の非日常/第六章 スベリニアン寄宿舎

梓の非日常/第六章・ニューヨークにて

(三)スベリニアン寄宿舎  ニューヨーク五番街にあるスベリニアン寄宿舎の前に立つ梓達。  メトロポリタン美術での鑑賞会を終えて、かつて暮らしていた場所を再訪したので あった。 『へえ。外観は昔と変わっていないみたいだわ』 『さあ、入ってみましょうよ』 『まず寮長にご挨拶しなきゃね』 『お部屋は、入ってすぐ右手だよね』  オークウッドの重厚な扉を開けて中に入る梓達。  ほとんどの学生達が外出中で照明の落とされたロビーは、ひんやりとした空気が漂 い、かつて梓達が暮らしていた頃のまま、時が留まっていたようにも感じられた。 『うーん。この雰囲気もかわってない』  人が入ってきた気配を感じたのか、右手の寮長の部屋が開いて、中から出てきた女 性。その姿を見るなり、梓と絵利香が同時に叫んだ。 『キディーさん!』  そして、思わず目に涙をためて、その胸の中へ飛び込んだのだった。 『あらあら、どうしたの? 二人とも』  ロビーの応接セットに腰を降ろす一同。 『ほんとこんなに大きく美しくなって、最初誰だかわからなかったわ』 『まだ寮長をされてたなんて思いもしませんでした』 『何か、居心地がよくってね。居着いちゃったのさ。ニューヨークの一等地にあって 交通の便もいいし、何たって家賃がただ! だから』 『うふふ。キディーさんらしいですね』 『みんなに紹介するね。あたし達がこの寮で生活していた時に、いろいろとお世話に なった寮長のキディー・アーネストさん。寮生活に関わる細々としたことや、フラン ス語を教えてくださったの』  美智子が立ち上がって自己紹介をした。 『はじめまして。お嬢さまの身の回りのお世話を仰せ付かっております美智子です。 同じく美鈴さん、明美さんです』  他の二人人も立ち上がって挨拶した。 『はじめまして』 『梓ちゃん達は、住んでたお部屋を見てらっしゃいよ。部屋は空室だから大丈夫』 『はい。それじゃあ、見せてもらいます』  と言いながら、絵利香が立ち上がる。 『悪いけど、美智子さん達はロビーで待ってていてね』 『はい。ごゆっくりと昔を懐かしんでください』  寄宿舎に関りのないメイド達までぞろぞろと歩き回るわけにはいかない。 『この娘たちには、私から当時の事話してあげてるわ』  席を立って、かつて生活していた部屋のある二階へと階段を昇っていく。 『天井、こんなに低かったっけ?』 『何言ってんのよ。わたし達が成長して背が高くなったせいじゃない』 『ああ、そうか』  二階の通路の突き当たりに、その部屋はあった。  神妙な面持ちで扉を開けて入る二人。 『変わってないわね』  アールデコ風に統一された調度品。  欧米において調度品は、その部屋に最初からセットされて用意されているものであ る。日本のようにまず空き部屋の状態から、住居人が自由に買い揃えるというもので はない。 『そっちのベッドに麗香さんが寝て、あたし達はこっちのベッドに並んで寝てたんだ よね』  梓がベッドの縁に腰掛けて懐かしんでいる。  絵利香は窓辺により、外の景色を確認している。 『外の風景は、ずいぶん様変りしているわ』 『この寄宿舎の中だけ、時間が止まっているみたいね』 『そう感じるのは、わたし達の記憶にあるイメージがそのまま残っているからよ』 『思い出はいつまでも永遠にあたし達の心の中にあるということか』  かつて麗香と共に生活していたあの頃のことを回想している二人であった。 『麗香さんも一緒に連れてくれば良かったね』 『うん……』

ポチッとよろしく!

1

2017年12月14日 (木)

銀河戦記/第九章 犯人を探せ X

第九章・犯人を探せ

                 X  続いて、ディレクターだったアンソニー・スワンソン中尉を尋ねる。 「ところで、カテリーナが放送終了直前にミシェールを探しに出たというのは本当で すか?」 「ええ、間違いないですよ」 「結局ミシェールは亡くなっていたのですが、その交代は誰がなさったのでしょう」 「ああ、それは私が代わりにやりましたよ」 「タイムキーパーでしたよね」 「ええ。タイムキーパーは新人がまず最初に与えられる役目ですから、局員なら誰で もできます。まあ、手慣れたディレクターなら、タイムキーパー役も同時にこなせま す。ちょっと忙しいですけどね」 「カテリーナのことですけど、何か変わった態度とかはなかったですか?」 「カテリーナですか? ミシェールじゃなくて……」 「そうです」 「うーん。どうですかねえ……。まあ、そわそわしていた感じはしましたけど」 「そわそわしていた?」 「放送終了間近になれば、誰だってそうでしょう。特に彼氏とかがいればよけいに」 「彼がいるのですか?」 「はっきりとは判りませんが、雰囲気からそんな感じがしただけです。本人から聞い たわけではありません」 「そうでしたか……。わかりました、また何かありましたらお伺いに参ります」 「いえ、どういたしまして。いつでもどうぞ」 「ありがとうございました」  その後、残り二人の放送局員から証言をとったが、反応は同じだった。  自分の部屋に戻って考えをまとめることにする。  とその前に……。  ランジェリーショップに立ち寄ることにする。 「いらっしゃいませ!」  職員が明るい声で迎えてくれる。 「さっきのお勧めのランジェリー、見せてもらえるかしら」 「いいですよ。店に出したら結構人気がありましてね。売り切れないように、コレッ トさんのために取っておいたんです」 「ありがとう。わざわざ済みませんねえ」 「いいえ。こちらこそ、いつもお世話になってますから、当然ですよ」  と言いながら、奇麗な化粧箱から上下揃いのブラとショーツを出してくれた。 「谷間メイクシンプルブラ・ショーツセットです。脇からお肉を寄せる伸び止め脇寄 せリフト、押し上げパッドで下からバストアップします」  ブラは、3/4カップ・ワイヤーサイドボーン入り・後ろホック二段二列、エンブロ イダリーレース使用。ショーツは同柄のストレッチ素材。 「サイズは、C70でよろしかったですよね」 「ええ。試着していいかしら」 「どうぞ」  ショーツはともかく、ブラはちゃんと試着して胸に合ったものを買わないと後悔す る。試着室に入り上半身を脱いで、ブラを胸に合わせてみる。 「ぴったりだわ。デザインも自分好み」  試着室から出て来たコレットに、すかさず店員が声を掛ける。 「いかがですか?」 「これ、いただくわ」  と言って、商品を一旦返して、IDカードを渡した。 「ありがとうございます」  店員はIDカードを受け取ってレジに通した。IDカードは身分証明書であると同 時に、クレジット機能も合わせ持っている。店舗での買い物やサービス料金などは、 給料から自動引落される。 「カードをお返しします。包装しますので少々お待ち下さい」  IDカードを受け取り、商品を包装している間に、店内を見渡すコレット。女性の 心をくすぐる可愛いデザインや、男を惑わす魅惑的な高級ランジェリー。何でも揃っ ている。  その中の一つのベビードールを眺めていると、包装を終えた商品の入った紙袋を持 って店員が声を掛けた。 「ああ、そのベビードール、なかなか良いでしょう?」 「そうね。でも、これってやっぱり彼氏がいる人しか買わないでしょう」 「そうですね、やっぱり相手がいらっしゃらないと……。そういえば、カテリーナさ んが買っていかれましたね。彼氏がいらっしゃるってことですかね。あ……。いけな い! こんなこと話しちゃいけないんだっけ。捜査官のコレットさんだから、つい話 しちゃいました。お願いです、わたしが話した事、カテリーナさんには黙っていてく ださい」 「わかりました。内緒にしておきますよ」 「ありがとうございます。はい、商品をどうぞ」  恐縮しながら紙袋を手渡してくれる。

ポチッとよろしく!

1

ソリを引きずる姿が可愛いね

インターポット

エリカちゃんのお庭にてソリ遊び。

うむ、ソリに乗っているよりも、引きずりながら
ひょこひょこ歩く姿が可愛い(^_-)-☆

ポチッとよろしく!

1

2017年12月13日 (水)

梓の非日常/第六章 メトロポリタン美術館

梓の非日常/第六章・ニューヨークにて

(三)メトロポリタン美術館   『さあ、みなさん乗車してください』 『はーい』  専属メイド達は、ウキウキしながらフリートウッドの後部座席に乗り込む。  神田美智子、花咲美鈴、井上明美の三人にとって、こんな超高級車に乗るのは、初 めてのことだろう。  ちなみに、エルドラドの定員数は5名、フリートウッドは6名である。  小柄な日本人なら、後1名は余裕で乗れるだろう。  梓と絵利香は、運転手がドアを開けて促す後部座席に鎮座する。  麗香は前部助手席に腰を降ろす。 『しかし梓って、大きな車が好きだね。ファントムVIもこのエルドラドも』 『え? 白井さんの好みじゃないの。あたし、知らない』 『いいえ、お嬢さまがお選びになられたのですよ。お忘れですか?』 『うそ』 『お嬢さまが五歳の時でした。送迎用の車をお決めする際に、車庫にお連れして、ど れでもお好きな車を選んで下さいと申しましたら、一番にファントムVI、次にエル ドラドを選ばれたのですよ。大きい順に選ばれたようですね』 『そうなの? 覚えてない』 『五歳ですから、仕方ありませんよ。それで二台選ばれたので、どちらかにしてくだ さいと申しましたら、だだをこねられまして、結局二台ともお嬢さまの送迎車になり ました。特にお気に入りのファントムVIは常にお嬢さまのお側に、エルドラドは 本宅用に置くことになりました』 『そんなことがあったんだ。でも確か三歳の頃から、白井さんはあたしのお抱え運転 手じゃなかった?』 『そうですよ。五歳までの間は、渚さまのインペリアル・ル・バロンにお乗りでした。 渚さまは、車よりも飛行機で移動なされることがほとんどでしたから』 『そのル・バロンも大きいね。お母さんの車でなかったらきっとエルドラドじゃなく てそっち選んだんだろうな』 『というよりも、ル・バロンには渚様とご一緒によく乗っておられましたので、すで に自分のものと思われていらしたからですよ』 『そ、そうなんだ……あはは。あたしって独占欲強かったんだ』 『でも本当のところは、絵利香さまや私にプレゼントなさるおつもりで、車をご用意 なされたようですよ。実現はしませんでしたけれど』 『そっかあ、絵利香ちゃんと麗香さんに……全然覚えてないな。五歳だから、しよう がないか……』  メトロポリタン美術館前にエルドラドとフリートウッドが停車している。  麗香とメイド達はすでに先に降りて、梓の降車を待ち受けている。  降りる準備をしている梓達。  みんなで美術館での鑑賞会というところだが、麗香は別行動ということになってい る。 『これを渡しておきます』  麗香がメイドの一人一人に紙包みを渡している。 『お小遣いです。無駄使いしないように』 『ありがとうございます』 『はい。お嬢さまにも』  麗香が梓と絵利香に渡したのは紙包みでなくちゃんとした財布だった。 『あ、ありがとう』 『ありがとうござます』 『それじゃあ、お嬢さま。午後五時にワシントン広場でよろしいのですね?』 『うん。その時間に迎えに来て』 『かしこまりました。十分前にはお迎えに参ります』 『よろしく』 『じゃあ、あなた達。くれぐれもお嬢さまをよろしくね』  麗香がメイド達に再確認をとる。 『はい。おまかせください』  ぺこりと頭を下げるメイド達。  二台の車が走り去って行く。手を振りながらその後ろ姿を見送る一行。 『ねえ、いくら入ってる?』  やはり紙包みの中身が気になるのだろう、メイド達が袋を開けて確認している。 『十ドル紙幣が十枚で、百ドルよ』 『これって多いのかな、少ないのかな』 『どうかな、ニューヨークの物価しだいだね』 『あの……お嬢さま方のお財布の中にはいくら入っていました? よろしかったら教 えていただけませんか』 『わたしは五百ドルよ。梓ちゃんは?』 『ん、五百ドルとあたし名義のクレジットカードが入っていた』 『カード持ってるの? 見せて見せて』  絵利香がカードを覗きこむ。 『わあ、梓ちゃんの写真が印刷されてる。可愛いじゃない。写真映りばっちりよ。不 正利用されないためね』 『でも未成年でもカード持てるのですか』  ここでいう未成年とは、アメリカでの成人年齢に対しての十八歳未満を意味してい る。日本での二十歳ではない。 『現にここにありますよね。要はカード会社が本人を信用できるかどうかでしょう?  その点、お嬢さまは完璧』 『カードがあるのは、どうぞご自由にお使いくださいってことでしょうか』 『違うと思いますよ。カードは万が一の時のためのものでしょう』 『ところで、このおこづかいって麗香さまのポケットマネーかな。やっぱり』 『多分ね。だってわたし達の外出って、公務じゃないもの。公費から出せるわけない わ』 『お嬢さまの分は?』 『絵利香ちゃんの分も含めて必要経費から出てると思う。お小遣いにしても、ホテル を使用した時の宿泊費とか、あたしが使うお金って麗香さんが管理しているんだけど、 お母さんの方から年間いくらって予算が与えられているみたいなのね』 『その予算っていくらくらいなんですか?』 『教えてくれないの。「お金のことで思い悩む時間があったらお勉強してください」 ってね』

ポチッとよろしく!

1

2017年12月12日 (火)

銀河戦記/第九章 犯人を探せ IX

第九章・犯人を探せ

                 IX  その喫茶室。  室内を静かな曲が流れている。  先程立ち寄った放送局から流れているのだろう。  もちろん艦内放送を聞く事ができるのは、居住区内だけである。こうした店内や病 院そして乗員宿房である。  検屍報告書に目を通しているコレット。  死亡推定時刻は、十二時三十分から十三時の間。  死因は、ロープによる頸動脈圧迫からくる脳酸欠死。 「まあ、このあたりは順当な鑑定ね。あたしでも判断できるわ」  首筋の紫斑と現状のロープ位置からの所見は、死後に遺体の位置が変わったものと 認める。  膝の擦過傷における所見は、死後三十分にできたものと認める。創傷からの体液の 付着痕、ジムのいずこにからも発見されず。  以上の所見から、いずこかで事故死もしくは殺害された後に、移送されてきたもの と認める。  報告書は、現時点で殺人とは断定するには早計ではあるが、死体遺棄と証拠隠蔽工 作は明らかである。結論は、司法解剖に委ねると結んであった。 「結局、殺人かどうかは司法解剖しないと判らないか……。しかし死体遺棄は明らか なので、犯罪事件として捜査できるわね」  と、次ぎなる問題は……。  被害者の死亡場所と死亡理由、そして遺体を運ばなければならなかった理由と、そ の運搬方法である。それが殺人なら、殺害動機も考えなければならない。 「気分が悪いと言っていたらしいし、心臓の持病もある。一人こっそり宿房を抜け出 すことは考えられない。死んだ場所は宿房に違いない。首筋の紫斑から心臓麻痺かな んかで死んだのじゃない。これは明らかに絞首による殺人だわ。おそらく、誰もいな いと思って宿房に入ってきた犯人が、ミシェールに気づかれて殺害したに違いない。 何のために犯人は宿房に入ったか……。これが動機ね。そしてこのままではまずいと 判断して遺体をアスレチックまで運んだ。が、その方法が判らない」  遺体を運ぶとなると、女手一人ではとうてい宿房からアスレチックジムまで運ぶの は不可能だろう。 「共犯者がいるわね……」  喫茶室を出て、再び捜査を再会するこにする。 「そうね、殺害当時の放送局員に尋問してみるか」  コレットは、その中のカテリーナ・バレンタイン少尉に興味があった。  何よりもミシェールの第一発見者であり、同じ放送局員で同室でもある。  交代時間になっても来ないミシェールを探していたと証言している。当然宿房にも 戻っているだろうし、そこで死んでいるミシェールを見たか、或は自ら殺人に及んだ 可能性も示唆できる。ミシェールとは最も接点の多い容疑者といえる。  容疑者。そう、容疑者だ。  コレットの直感が騒いでいた。  カテリーナは引っ越した先の宿房にいた。 「お休みのところ申し訳ありません。ご協力お願いします」 「構いませんよ。どうぞ、何でも聞いてください」 「では率直にお尋ねします。十二時十五分からミシェールを発見するまでの間、どち らにおられましたか?」 「もちろん放送局にいましたよ。十二時四十五分頃に、交代のミシェールが来ないの で探しに出ました」 「放送中にですか?」 「はい。タイムキーパーとしては、終了十五分くらい前になるとやることがないんで す。それで他の三人の許しを得て探しにでました」 「どこを探しまわりましたか」 「もちろん一番に部屋に戻りました。そこにいないので、喫茶室とか美容室とか回っ て最後にアスレチックジムです」 「そこでミシェールが死んでいるのに遭遇したわけですね」 「そうです」 「もう一度確認しますが、他に誰もいなかったのですね」 「はい。いませんでした」 「わかりました。また何かありましたら、お聞きいたします。ありがとうございまし た」  取り敢えずカテリーナへの尋問を終了して、次の証人をあたることにする。

ポチッとよろしく!

1

2017年12月11日 (月)

梓の非日常/第六章 ニューヨーク散策

梓の非日常/第六章・ニューヨークにて

(二)ニューヨーク散策  その夜のディナー。  食卓を囲んで談笑中の一同。真条寺家のしきたりにより、世話役の麗香と恵美子も 同席している。 『でも変な気分ね』  絵利香が首をかしげている。 『なにが?』 『こうして眺めていると、みなさん日本人の顔しているのに、ごく自然に英語を話し てらっしゃるのが妙なの』 『そうかなあ、あたしは何も感じないけど』 『それは、梓ちゃんが生まれた時からずっと英語の世界で育ったから。最初に覚えた のが英語じゃない。わたしも、ニューヨークで生まれ育った点は同じだけど、両親が 日本人だし国籍も日本になってる。母親共々アメリカ国籍の梓ちゃんとは、そこが違 うのよね。だからかな、麗香さんにやさしく丁寧に日本語を教えてもらって普通に話 せるようになったんだけど、その頃から、日本人なら日本語を話すのが自然じゃない かなって思うようになったのよね。英語を自由に話せるんだけど、どこかに常に日本 語の存在があるって感じかなあ』 『そうですね。絵利香さんが妙な気分になるのは、理解できますよ。フランス人なん かも自国語のフランス語に誇りを持っているのは有名ですよね。フランス人ならフラ ンス語を使うのが当然という風潮があります』 『ここでの公用語を英語に限定しているのは、渚さま率いる四十八社に及ぶグループ 企業が世界各地に販路と生産拠点を有する国際企業で、多種多様の言語圏からの幹部 達が毎日のように屋敷を訪れるからです。英語はもちろんのこと、フランス語、ドイ ツ語、ロシア語、言語を統一しなければ収拾がつきませんし、それらの幹部の世話を するメイド達も混乱してしまいます。公用語として、渚さまや梓お嬢さまの国語であ る、英語を使用するのは自然の成り行きでしょう』 『でも、みなさん日本語も完璧に話されますよねえ』 『それは、真条寺家の本家が日本にあり、日本語を公用語としているからです』 『本家ですか?』 『本家との付き合いが不可避である関係上、日本語を修得する必要があります。梓お 嬢さまに日本語をお教えしていたのはそのためです。もちろん言語を本当に理解する には、その国に行って生活してみなければ真に理解したとは言えません。だから中学 校以降は日本へ留学することになったのです』  朝日が差し込む部屋。  日本に残してきたはずの専属メイドが、かいがいしく働いている。 『なんであなた達がいるの?』 『梓さま専属のメイドですから』 『それでわざわざ日本から追いかけて来たというわけ? しかもその英語』 『出国手続きの都合で遅れました。メイドの採用条件には、英語会話が堪能なことが 必須なんですよ』 『そうなんだ?』 『はっきりいいますと、世界中どこへでもお嬢さまに付いていきますよ。それがこの 子達の任務ですから』 『でも基本的に屋敷からは出られないんでしょ』 『その通りです』 『そうか……』  何事か考えている梓。 『今日はメトロポリタン美術館とかニューヨークの街を散策しようと思っていたんだ けど……あなた達、一緒についてこない? せっかくニューヨークに来ているのに屋 敷でくすぶっているのは、もったいないわ』 『いいんですか?』  メイド達の表情が輝きだす。そして自分達の直属の上司である麗香の方を見つめる。 『お嬢さまが、そうおっしゃるなら構わないでしょう。外出を許可します。ただし!  あくまでお嬢さまの警護役としてです。観光気分に浮かれないようにくれぐれも充 分気を付けてください』 『はい! かしこまりました』  玄関車寄せに、梓のアメリカでの公用車である、GM社製キャデラック・エルドラ ドとメイド用のフリートウッドが停まっている。  水冷V8FFエンジン、総排気量8195cc、最大出力400PS/4400rpm、最高速度195km /h、全長5613mm、全幅2029mm、全高1354mm、車両重量2134kgと、ロールス・ロイス・ ファントムVIより多少小型軽量ながら、エンジン性能で優るこの車は速度重視、広 大なアメリカ大陸を走るのに都合がよい。しかもファントムVI同様の完全防弾にし て、セキュリティーシステム完備である。  ちなみに渚の公用車は、クライスラー社製、インペリアル・ル・バロンである。  また車庫を覗けば、1960年代、モータリゼーション華やかりし頃の往年の名車がず らりと並んでいる。  GM社製シボレー・インパラ、フォード社製フェアレーン500、アメリカン・モー タース社製AMX。他国に目を向けると、メルセデス・ベンツ300SEL、BMLCジャ ガーXJ6ー42、シトロエンDS21、フィアット128、ボルボ1800Sなどなど。梓と渚が現在 公用車としているものも、この中に含まれていたものだ。  これらはすべて渚が若かりし時代に、各国を代表する名車の数々を、オークション などで集め回ったものだった。残念ながら日本社製はない。当時の日本車に関する諸 法規(道路交通法、道路運送法、自動車に関する税法)の制約、道路舗装状態の問題、 時速20km/hでトップに入れなければならないという自動車運転免許試験制度などから、 渚の好奇心を刺激する優秀な車はまだ登場していなかったからだ。当時の日本はまだ まだタクシーと官公庁・会社の公用車時代、オーナードライバーはまだ少数派でしか なかったのだ。世界一売れたという、日産フェアレディー・Zはまだ発売されていな かった。  この屋敷でない別の倉庫には、アメリカの車社会を切り開いたT型フォードをはじ めとして、1935年製メルセデス・ベンツSL500K、1954年製メルセデス・ベンツ300Sカ ブリオレ、1940年製BMW328ツーシーター、1957年製フォード・エドセル・サイ テーション、1995年創立50周年記念フェラーリF50・ベルリネットなどなど。  ルノー、ビュイック、シボレーなどの二十世紀初頭を代表する名車もずらりと保存 されている。しかもすべてが完璧に整備・動態保存されて、いつでも走らすことがで きるのだ。中には物置の中で朽ち果てぼろぼろになっていたものを譲り受けて、メー カーから資料を取り寄せ部品やボディーなど一個一個手作りして、見事復元にこぎつ けたものもある。

ポチッとよろしく!

1

クリスマスブーツハウスの住み心地はいかが?

インターポット

ブーツの中の間取りってどうなっているのでしょうねえ。

見たところ二階家のようだし…。

ポチッとよろしく!

1

2017年12月10日 (日)

銀河戦記/第九章 犯人を探せ VIII

第九章・犯人を探せ

                VIII  IDカードを受け取って胸ポケットにしまうコレット。 「ウィンザー大尉にお願いしまして、ミシェール・ライカー少尉のいた部屋とアスレ チックジムを、当面の間立ち入り禁止にしていただきました。よろしいですね」 「ああ、構わないだろう。運動嫌いな者も多いと聞くから、喜んでいる人間の方が多 いかも知れないしな」 「恐れ入ります。それからウィンザー中尉にお聞きしたいことがあるのですが、よろ しいですか?」  アレックスが頷いているのを確認してから、パトリシアが口を開いた。 「わたしに何を?」 「中尉は、ライカー少尉とは士官学校では、仲が良かったとお聞きしましたが、間違 いありませんか?」 「はい。その通りです」 「ミシェールの性格面についてお聞きします」 「どうぞ」 「ミシェールはいつも誰かと一緒にいたというのは事実ですか?」 「はい。ミシェールは決して一人で行動するような性格ではありません。いつも必ず 仲良しグループの中の誰かと行動を共にしていました。それが宿房を一人抜け出して 自主トレをしていたなんて到底考えられません。寂しがりやでたいがい誰かのそばに いましたね」 「彼氏がいたという話しもありますが」 「そんなことまで証言したんですか? しようがないですねえ……」 「いかがですか? 痴情のもつれから彼氏に殺害されたともとれますからね」 「ミシェールは彼氏のことについては、ちっとも話してくれませんでした。相手の男 性が、交際していることをあまり公にはしたくなかったようです。それで黙っていた ようです」 「関係はうまくいっていなかったとかは?」 「表情がすぐ顔に現われる性格でしたからね、交際にひびでも入っていればすぐに判 ります。今のところ順調だったと思います」 「そうですか。他に特徴的なことはありませんか?」 「スポーツに関してですけど、何かというとすぐ疲れたと休んでいました。ずる休み ではなくて、昔から心臓が弱かったんです。ですから、事件直前に食事も取らずに部 屋にいたのは、そのせいだと思います」 「心臓が弱かったのですか……。それでよく、入隊検査にパスできましたね」 「ぎりぎりの健康状態でしたが、何とかパスできました」 「とすると、自主トレでアスレチックジムに行ったとは考えられませんね」 「当然です。心臓の持病があるために、必ず誰かと一緒でした。一人きりの時に、発 作が起きたらと心配していたからです」 「良く判りました」  メモ帳に要件を記入しているコレット。普通の乗員なら司令官の目前で無礼な行為 なのだろうが、コレットは直属の部下ではないし、捜査特務権があるので許される。 「ところで中佐殿はどうですか、何か心当たりなところはありませんでしたか?」 「うーん。自分としては全然見当がつかないんだ。女性士官すべてに目配りしている 余裕はないからね。女性士官の宿舎のある区域は男子禁制になっているしね。ま、自 分なりに考えられるとしたら……カラカス基地を落として敵艦を搾取したのだが、そ れらを使役するために多数の乗員を補充した。その中に敵のスパイが乗り込んでいて、 ライカー少尉がそれに気付いたところを口封じされたというのは?」 「それは十分ありえるといえますが、憶測で物事を判断するわけにはいきません。今 のところ何の根拠もありませんからね。まあ、一応参考意見として考慮にいれておき ます」  とはいいつつも、コレットはアレックスの意見にはそれほどの感心を抱いていなか った。  例えれば真犯人が捜査を混乱させるために、わざとそれらしい状況解説をすること はよくあることだ。コレットにとっては、この同盟の英雄でさえ、容疑者として候補 に挙げていたのである。  関係者すべてが容疑者である。  すべての者を疑ってかかることは、捜査の基本中の基本である。  その中から、白と断定できたものを消していって、最後に残った者が犯人である。 「一応艦隊規則にある通り、遺体はカラカス基地で降ろされる。捜査期限はカラカス 入港までだ。それまでに犯人を挙げてくれたまえ」 「かしこまりました。では、捜査を開始します」  敬礼して、司令室を退室するコレット。 「さてと、次はどこを捜査をはじめましょうか……って、まずは検屍報告書に目を通 してみますか」  階下に喫茶室があるから、そこで見る事にする。

ポチッとよろしく!

1

グルグル回るよ観覧車♪

インターポット

ゴンドラは8基あるけど、一人だけしか乗れないのかな~。

乗れないんだろうなあ、残念だよね。

ポチッとよろしく!

1

2017年12月 9日 (土)

梓の非日常/第六章・ニューヨークにて ブロンクス屋敷

梓の非日常/第六章・ニューヨークにて

(一)ブロンクス屋敷  ニューヨークのブロンクス地区。  とある墓地の中でおごそかに執り行われている葬儀に立ち並んでいる喪服姿の梓と 絵利香。羽田に待機していた真条寺専用機には喪服が用意されていて、ニューヨーク 到着後にそのまま葬儀場へと向かったのである。  それから数時間後。  ブロンクスにある真条寺家本宅前。タクシーから降り立つ梓と絵利香。  城東初雁の制服から喪服へ、そして今は外出着を着ている。着替えは専用機の中に 用意されていたものだ。 『うーん、ひさしぶりだわ』  呼び鈴を鳴らす梓。スピーカーから英語で尋ねて来る。 『どちら様でございますか』  すかさず梓も英語で応える。 『梓です。アズサ・シンジョウジ』 『え? 梓お嬢さまですか』 『YES』 『し、しばらくお待ちください』  正門の監視カメラが動いている。梓達の姿を確認しているようだ。 『この屋敷内では、公用語は英語だからね。たとえ身内でも日本語使っちゃだめな の』 『知ってるわよ。だいたい、英語で育ったわたし達じゃない。その方が気楽でいい わ』  だが、十数分たっても、応答がなかった。 『長いね』 『いつまで待たせるのかしら』 『もういいわ。お母さんに直接連絡取るから』  梓はバックから携帯電話を取り出して連絡を入れた。  屋敷内執務室。  L字型に並べられた机に座り、渚と世話役の深川恵美子がそれぞれの書類に目を通 している。  その机の上の電話が同時に鳴りだす。この電話が鳴るのは、日本の別宅執務室及び ホワイトハウスからのホットラインと、梓の持つ携帯電話からのダイレクトコールし かない。通常では屋敷内の電話交換センターから取り次がれるのが普通である。  恵美子が電話の液晶画面に梓の名前が表示されているのを確認して伝える。 『お嬢さまからのダイレクトコールです』 『わかりました』  電話のオンフックボタンを押して話しだす渚。 『梓ちゃん、どうしたの?』 『お母さん。今、屋敷の前にいるんだけど、確認作業に手間取っているらしくて、入 れてもらえないの。何とかして』 『ちょっと待ってね』  渚が机の上のコンソールを操作すると、背後にパネルスクリーンが降りてきて、門 の前で立ち尽くす二人の映像が映しだされる。  恵美子が梓の姿を確認して、自分の机の上の電話を掛けはじめる。 『今、門を開けさせるわ。玄関まで遠いから送迎車を出させるので、もう少しそこで 待っててくれるかしら』 『わかった、速くしてね』  そう言って、梓からの電話が切れた。  電話交換センターを経由して電話が警備室に繋がる。 『あ、警備室ね。恵美子です。あなた達、梓お嬢さまをいつまで門の前にお待たせす るつもりなの。言い訳は聞きたくないわ。今すぐ門を開けなさい。それと送迎車を出 してちょうだい。大至急よ。それから責任者は、私のところに来なさい』  続けざまにそれだけ言うと、恵美子は少し乱暴気味に受話器を置いた。 『ちょっと、梓を迎えにいってくるわ。後をお願い』 『かしこまりました』  車寄せに二人を乗せた送迎車が入って来る。執事が後部座席を開け、梓がゆっくり 降りてくる。  ずらりと並んだメイド達が一斉に声をあげ、深々と頭を下げる。 『お帰りなさいませ、梓お嬢さま』  メイド達のほとんどが迎えに出ているようだった。  渚が手を広げて梓を迎え入れる。 『お帰り、梓』 『ただいま、お母さん』  母親の胸の中に飛び込み、その頬にキスする梓。 『ごめんね。門の前で待たせてしまって。警備室に保存されていた梓ちゃんの写真が 三年前のままでね。容貌がすっかり変わってしまっていたから、判らなかったらしい の』 『そうか……』 『しばらく見ないうちに、また奇麗になったわね』 『お母さんの娘だからね』  お互いの温もりを確かめ合うようなスキンシップが続いている。アメリカと日本と に別れて暮らす母娘にとって、娘の成長ぶりと母のやさしさを確認しあう儀式である。 そんな微笑ましい母娘の様子をそばで眺めている絵利香。  ……感情を身体全体で包み隠さず表現するアメリカ式もいいものね。でも同じ事を わたしのお母さんにしたら卒倒しちゃうかな。純日本人だものね……  一方、執務室に残っている恵美子。 『母娘というものはいいわねえ。私もお嬢さまを抱きしめたいわ』  母娘の情景が映しだされているディスプレイを眺めながら呟く恵美子。 『それはかなわない夢です。お嬢さまの肌に触れていいのは、渚さまと世話役のわた しだけです』  振り向くと麗香が戸口に立っていた。 『麗香! どこから入ってきたのよ』 『医療センターの方の通用ゲートを通ってきました。IC認証カードさえあれば簡単 に通れますからね。それに表玄関にまわると遠回りになりましたので』 『どうしてお嬢さまのおそばにいないのよ。おかげで表玄関でちょっとしたトラブル が発生したのよ。あなたがいれば』 『仕方がありませんよ。ヴェラザノ神父とは面識がないし、クリスチャンでもありま せんから、梓さまと一緒に葬儀に参列できません。その間コロンビア大学で調べもの してました』  といいながらディスプレイに視線を移す麗香。 『ところで、この映像ですが、玄関先にはこの角度のカメラはありませんよね。それ にかなり上空から捕らえているようですし、人工衛星からの映像ですか?』 『さすが、するどいわね。これは極秘事項なんだけど……まあ。あなたなら何も問題 はないでしょ。お嬢さまが十六歳になれば、渚さまから正式な話しがあると思うわ』 『お嬢さまが家督を継がれればですね。渚さまも先代の恵さまも十六歳で家督を継が れましたからね。そうか、この映像はお嬢さまを』

ポチッとよろしく!

1

2017年12月 8日 (金)

銀河戦記/第九章 犯人を探せ VII

第九章・犯人を探せ

                 VII  司令官室。  その司令官は、コレットとほぼ同年齢であった。  戦術用兵士官は、士官学校では一般士官の教義の後に、さらに三年ほどの専攻科目 がある。三年先に学校を卒業して軍務についていたコレットの方が軍歴は長いから、 通常の軍務にあれば、階級はコレットの方が上のはずだった。  しかし目の前にいる人物は、一年も経たない間に目覚ましい戦績を上げて中佐にま で昇進していた。  同盟軍には珍しく深緑色の瞳と褐色の髪が畏敬を誘う。  その姿は威風堂々として、まったく隙がなかった。今この瞬間、腰のブラスターを 引き抜いて突きつけても、その動作よりも早く机の引き出しから、銃を取り出して反 撃してくるだろう。そこに銃があればだが……。  というよりも、目の前の人物が敵意を持っているかどうかを、瞬時に判断できる眼 識を持っているように感じた。そう思う感覚は、これまでの彼の戦歴が物語ってくれ るだろう。  両手の指を互い違いに組んで机の上に置き、もの静かに微笑んでいる。  それが、独立遊撃艦隊司令官、アレックス・ランドール中佐。その人であった。  そのデスクの側に、副官のパトリシア・ウィンザー中尉が立っている。  中佐は艦隊の最高責任者ではあるが、コレットの属する情報部特務捜査科は、その 権限の及ばない部課であった。いわば行政と司法の分権にあたる。 「コレット・サブリナ中尉であります。この度のアスレチックジムにおける事故捜査 を担当することになりました」 「ああ、ウィング大尉から聞いているよ。早速いろいろと捜査をはじめているようだ ね。それで、事故か殺人かわかったかね」 「まだ、はじめたばかりですから……。結論を出すには、まだ早急すぎます」 「そうか……。ここに検屍報告書のコピーが届いている。渡しておこう。必要なこと があれば何でもいいたまえ、出来る範囲で協力しよう」 「ありがとうございます。つきましては犯罪捜査特務権にあります、乗員名簿の閲覧 と居住区の自由通行の許可をお願いします」  と言って、コレットは検屍報告書を受け取り、自分のIDカードを差し出した。 「ああ、わかっている」  アレックスは端末に自分のIDカードを差し込んで閲覧コードを開いてから、別の カード挿入口にコレットのIDカードを差し込んで、閲覧コードをコピーし、さらに 通行許可を与える暗号コードを入力して、IDカードを返した。それによってコレッ トのIDカードで乗員名簿の閲覧と通行許可が可能になるのである。  なお端末に二つのIDカード挿入口があるのは、今のようなコピー用の他、特殊な コード発令の際に必要になっているからだ。例えば艦を自爆させる命令である自爆 コード発令には必ず二つのIDが必要である。 「よし、コピー終了した。これで、当艦に搭乗している隊員全員の閲覧が可能だ。そ れと艦長レベルで、居住ブロックにあるすべての施設に入場できるし、艦橋への通信 連絡も可能だ」 「おそれいります」

ポチッとよろしく!

1

2017年12月 7日 (木)

梓の非日常/第五章 オルガン

梓の非日常/第五章・音楽教師走る

(五)オルガン  それから数日後の音楽教室。  教室へ向かって廊下を歩いている教師二人。 「あれ? 女子生徒が一人でピアノ弾いてますね。予鈴が鳴って、じきに授業が始ま るというのに」 「真条寺さんじゃないですか。噂の」 「ああ、英語の授業を免除されていて、幸田先生がてこ入れしている女子生徒です ね」 「コンクール用の課題曲でも練習しているんじゃないですか。こういう静かな曲なら 授業の邪魔にならんでしょう。そっとしておきましょう」  授業開始の鐘が鳴り響く。 「おおっと。授業がはじまる。急ぎましょう」  そうこうしているうちに、コンクール当日となった。  出場者控え室にて順番が来るのを待っている梓。高校生の音楽コンクールなので制 服姿である。午前の課題曲を終えて、午後の自由曲演奏のため、目を閉じ精神統一し ている。  そこへ血相を変えて、絵利香が飛び込んでくる。 「梓ちゃん。大変よ、セント・ジョン教会のヴェラザノ神父がお亡くなりになったっ て」「え?」 「たった今。ブロンクスのお屋敷から連絡があったの」 「お母さんから?」 「ええ。コンクールが終わったら、至急羽田に向かいなさいって。専用機を待機させ ているそうよ」 「そうか……。ヴェラザノ神父がお亡くなりになったのか……」  小さく呟きながら天井を仰ぐようにして考え込んでいる梓。 「麗香さん。会場の後ろにあるオルガンを使えるように、手配していただけません か」 「オルガン?」 「そうです。お願いします」 「わかりました。お嬢さま」  麗香は梓の心づもりを察知した。大急ぎで事務所や裏方に回ってオルガンの使用許 可や作動準備が手配された。それらのすべてが済んだ丁度その時、梓の出番が回って きた。  舞台袖で待機する梓。名前が紹介される。  壇上をゆっくりと歩き、ピアノのそばに立ち、マイクに向かって語りだした。 「今日、わたしが生まれ育ったニューヨークにあるセント・ジョン教会のヴェラザノ 神父がお亡くなりになりました」  会場がかすかに騒ぎだす。 「神父は、わたしにオルガンの手ほどきをしてくださり、また色々な面で先生であり、 良き父親でもありました。その神父がお亡くなりになったというのに、ここ東京から では花を手向けに行くこともできません。ですから、神父が生前一番お気に入りにし ていた曲を、手向けとしたいと思います」  そういうと一礼してから、ピアノを離れ後方の巨大なパイプオルガンの前に座った。  静かにオルガンを弾きはじめる梓。荘厳なオルガンの旋律が会場全体に響き渡る。 腹の底にまで届く重低音、耳元をくすぐるような高音の響き、壁に張り巡らされた大 小さまざまなパイプ管から掃き出される音色の数々。  日本でも数台しかない本格的なパイプオルガン。演奏するには鍵盤を弾くだけでな く、パイプに空気を送るレバーの操作などピアノとはまるで違った特殊な技術が必要 なのだ。それを苦もなく一人の女子高校生が弾きこなしている。それも神業とも言う べき完璧な演奏である。  梓の脳裏にあるのは、セント・ジョン教会にあるあのパイプオルガン。そしていつ も弾いていた馴染みの曲。  それは聖歌の伴奏曲だった。  会場が静かになった。  ふと一人の老人が立ち上がり、目を閉じて歌いはじめた。するとまた一人また一人 と、次々に立ち上がって歌いはじめるものが続出した。教会に通っている敬虔なクリ スチャンなら、誰もが知っている有名な聖歌の一つ。その旋律を聞けば歌わずにはお れない。  審査員も何もいわず黙って目を閉じ、その荘厳な音色に聞き入っている。  全員の演奏が終わり、審査発表となった。 「残念ながら、金賞の授賞者はおりません」  会場がざわめいた。  誰もが梓の金賞を疑わなかっただけに、あちらこちらからため息が聞こえてくる。 「しかしながら、真条寺梓さんのオルガンの演奏は、とても素晴らしく感動的なもの でした。真条寺さんに金賞をという一部の審査員の意見もありましたが、あくまでピ アノコンクールである以上、それはできないという結論になりました。そこで審査員 全員一致の意見で、真条寺梓さんに金賞に準ずる審査員特別賞を送ることに決定しま した」  会場を覆い尽くすような大喝采が沸き上がった。 「なお真条寺梓さんは、ヴェラザノ神父の葬儀に参列されるために、ニューヨークに 発たれました。真条寺梓さんに替わりまして指導教員の幸田浩子先生に授賞式に出て いただきます。幸田先生、前へどうぞ」  幸田教諭がしずしずと舞台上へ歩いて出る。 第五章 了

ポチッとよろしく!

1

2017年12月 6日 (水)

銀河戦記/第八章・犯罪捜査官 コレット・サブリナ VII

第八章・犯罪捜査官 コレット・サブリナ

                 VII  艦内FM局スタジオは、統制通信発令所の通信施設を間借りしているので、戦闘時 にはそのまま通信指令所の一角として機能する。放送局員は、当然通信管制員でもあ るというわけである。FM放送局としては、あくまで平時のみの運用となっている。  壁の一角が硝子張になっていて、中の様子がよく見える。  交代で先任の担当官が出て来たところを捕まえるコレット。 「ミシェール・ライカー少尉の事件捜査にあたり、昼時に『サラサーテの彼方』とい う曲を流した正確な時刻を調べて欲しいのです。被害者に最後に会った方が、この曲 が流れていたというのです」 「いいですよ。タイムテーブルを見ればすぐに判ります。ちょっとお待ち下さい」  と言うと再び中へ入っていった。放送局とはいえ、統制通信発令所を兼ねているの で、コレットとて入室許可証がなくては入室できない。中に入った局員が、たぶんA Dかディレクターだろう同僚に話し掛けてから、書棚からファイルを探し出している。  しばらくすると、ファイルを小脇に持って戻ってくる。 「当時のタイムテーブルです。『サラサーテの彼方』は、ええと……。十二時十五分 ですね」 「十二時十五分ですね。当時のスタッフを教えてください」 「はい。このタイムテーブルに担当名が書いてあります。ご覧になりますか?」  タイムテーブルを受け取って氏名を確認してみる。         ディレクター アンソニー・スワンソン中尉。         調整室員   ジュリアンー・キニスキー中尉。         アナウンス  アニー・バークレー少尉。         AD     カテリーナ・バレンタイン少尉。 「この班は、午後一時に交代となっておりまして、ミシェールはその次の班に入って いました。交代時間になってもミシェールが来ないので、カテリーナが探しにいき、 アスレチックジムで事故死に遭遇したようです」 「捜査資料として、このタイムテーブルを、お預かりしていいですか? 後でお返し します」 「構いませんよ。どうぞお持ち下さい」 「恐れ入ります。どうもご協力ありがとうございました」 「いえ、どういたしまして」  立ち去ろうとすると、中から出て来た局員に呼び止められた。 「ちょっとお待ち下さい。たった今、司令からの連絡が届いています。コレット・サ ブリナ中尉に司令室に出頭とのことです。艦内放送で流すところですが、本人が目の 前にいますから、その必要はないですね」 「判りました。司令室に出頭します」  スタジオを離れて司令室に向かう。 「丁度良かったわ。司令室はすぐそこだし、このフロアは出入りする度に警備のチェ ックが入るから面倒だったのよね……」 第八章 了

ポチッとよろしく!

1

2017年12月 5日 (火)

梓の非日常/第五章 音楽部員、梓

梓の非日常/第五章・音楽教師走る

(四)音楽部員、梓  チャイムが鳴っている。  音楽室での音楽の授業中。 「真条寺さん」 「え? は、はい」 「授業のピアノ伴奏、お願いできるかしら」 「なぜ、あたしが伴奏しなければいけないのですか?」 「だって、あなたのほうがピアノを上手に弾けるし、私は生徒達の様子をじっくり見 ながら、授業の点数つけられるから。私って元々声楽科出身だから」 「他のクラスは先生が弾かれるんですよね。なのにこのクラスだけは、あたしが弾く。 それって不公平じゃないですか」 「あらあ、他のクラスにもピアノが弾ける子がいたら弾いてもらいますよ。でもいな いんだから仕方ないのよね。しかし、あなたは弾けるから」 「お断りします」 「そう……じゃあ、真条寺さんの授業の点数、マイナス十点ね」 「な、なんで? そうなるんですか」 「だってえ、先生の言うことを聞かないし、才能を出し惜しみするから。他の生徒達 は歌を歌ったり、笛を吹いたりして点数がもらえる。そして真条寺さんは、ピアノ伴 奏することで点数がもらえる。私は、そう決めたのよ」 「そんなあ。不条理な」 「ところで、聞くところによると、ピアノの腕前が上達していないと、道場への出入 り禁止になるんですってね」 「な、なんでそれを知っているのですか?」 「ふふふ。先日お宅にお邪魔して、竜崎さんから聞きましたよ」 「麗香さんから……」 「ということは、音楽の成績が下がったりしても、もしかしたら出入り禁止になるん じゃないかしらと思ってね」 「ひ、ひきょうです。先生」 「あーら。私はあなたのためを思っているのよ。少しでも長くピアノに接していれば、 それだけ上達も速くなるのじゃないかしらってね」 「わ、わかりました。伴奏を弾けばいいんですよね」 「うんうん。女の子は素直が一番よ」  席を立ちピアノのそばに歩み寄る梓。 「それじゃあ早速はじめましょうか。四十八ページの曲ね。あなたの腕前なら練習な しで弾けるでしょう」  梓は教本の譜面を見た。教師用の教本は、メロディーと歌詞が記された生徒達用の ものと違って、ピアノ伴奏用の譜面となっている。幸田が指定したページを開く。ご く簡単な楽曲だった。 「さあ、みなさんは歌いますよ」  幸田が合図を送り、梓が伴奏を弾きはじめる。前奏に引き続き生徒達が歌いだす。  音楽の授業が終わり、生徒達がホームルームに戻っていった後に残った梓と幸田教 諭。 「はい。これ渡しておくわ、音楽教室とピアノの予備鍵よ。昼休みと放課後の時間に 自由に使っていいから。それと、あなたが免除されている英語の授業中の自習時間に も、静かな曲なら弾いていいことになったから。校長と他の先生方の承認は得ている から心配しないで。コンクールの練習するからって特別に許可をもらったの」 「コンクールって、あたし音楽部に入った覚えはありません」 「毒を食らわば皿までもっていうじゃない。実は、もうとっくに入部手続きは済んで あるの。音楽部員でないとコンクールに出場できないし、出場締め切りが近かったか ら、それに教室使用の特別許可ももらえないでしょ」 「身勝手です。先生」 「そうね。あなたにとっては大きなお世話かもしれないけど。私は、あなたのそのピ アノの腕前を埋もらせたくなかったの。九歳でセント・ジョン教会の正式オルガニス トに承認されるくらいのあなたの音感性をもっと伸ばしてあげたい。真剣にそう思っ ているの。それだけは、信じて欲しい」 「せんせい……」 「音楽部員として勝手に手続きしちゃったけど、いいわよね。梓さん」 「わかりました」 「そう、良かったわ。ああ、そうそう。コンクールですけど、ピアノ部門の方に個人 としてエントリーしておきましたから」 「な、なんですって?」 「せっかくの機会ですからチャレンジしてみましょう」 「そんな……先生、困ります」 「大丈夫、あなたならきっと全国大会に出られますよ」 「そんなこと言っているのじゃなくて」 「さあ、忙しくなるわよ。らんらん」  幸田教諭は聞く耳持たないといった表情で、スキップするような軽やかな足取りで 職員室へ戻っていった。 「こういうことは、押しの一手に限るのよ。有無を言わさず積極的にね。ピアノの腕 前はピカイチでスタイルも抜群、しかもまだ一年生。うふふ、本当に素晴らしい子が 音楽部に入ってくれたわ。さてと、あと残る問題は……」  職員室を見渡して、 「下条先生、よろしいですか?」 「幸田先生……また、真条寺さんのことですか? 何度も言っていますように、これ は本人の問題ですから」 「空手部をやめさせることは、諦めましたわ。ですが、女の子が空手をやるにあたり、 顧問の下条せんせいに、そのあたりのことしっかり指導してもらいたいのです」 「指導ですか」 「あの子のしなやかな指先を壊させたくありませんからね。男子生徒相手の乱取り稽 古の禁止、ましてや瓦割りとか直接手先を傷つけるようなことは絶対反対ですから」 「瓦割りですか、あはは。真条寺君は腕力にまかせるような、そんな男的なことしま せんよ。男と女では骨格がまるで違いますからね、真条寺君のか細い手先で、瓦を割 ろうものなら瓦が割れずに手の骨が折れちゃいますよ。あの子の信条は技とスピード ですから」 「そういうことを言っているのではなくて、男子生徒に対して徹底した指導をして頂 きたいと申しておりますの。無理矢理やらせるということがあるかもしれないじゃな いですか。あの子、音楽部に入りましたの。指導教員としての責任があります」 「ほう……そうでしたか。それじゃあ、あなたが心配するのは当然ですね。わかりま した、男子生徒には重々言っておきます」 「絶対、お願いしますよ」 「わかりました」

ポチッとよろしく!

1

2017年12月 4日 (月)

銀河戦記/第八章 犯罪捜査官 コレット・サブリナ VI

第八章・犯罪捜査官 コレット・サブリナ

                 VI  ランジェリー・ショップを出て、喫茶室やブティック等で聞き込みを行った後、さ らに宿房へと向かう。  この女性士官専用居住区は、完全な男子禁制が敷かれているために、パジャマ姿で 廊下を歩いている女性士官を数多く見掛けることも多い。 「ともかくも不審を抱かれずに男性が通過することはほとんど不可能ね。となれば殺 人現場が宿房であったとすると、犯人は女性か女性に扮装した者ということになるの だけど……女性士官の数は百余人ほど、面子を知らない相手はいないだろうし、とな ると女装した男性ならすぐにばれるはず。よほど他人になりすますことのできる変装 術がなければ」  最後に姿を見た者は、彼女を残して食堂に向かった同室の四人。そして遺体を発見 したレイチェル衛生班長以下の六人。そしてカテリーナの計十一人が関わったことに なる。最後に生存を確認された宿房からジムで遺体として発見されるまでの間の、空 白の時間を埋めることが捜査の重点である。 「ミシェールが一人きりでいることを知っているのは最初の五人。他にしゃべってい なければだが」  ミシェールのいた宿房にたどり着く。  ウィング大尉が素早い対応をしてくれたようで、どうやら立ち入り規制が敷かれて いて入る事はできないようだ。  しかし入らなければ捜査ができない。  ドアの側の端末を操作して、警備部を呼び出す。 「情報部特務捜査科第一捜査課、コレット・サブリナ中尉です。捜査の為宿房に入室 することを許可願います」 『確認します。IDカードを挿入してください」  言われた通りに端末のID挿入口にカードを差し込む。 「情報部特務捜査科第一捜査課、コレット・サブリナ中尉と確認しました。レイチェ ル・ウィング大尉から連絡を受けております。どうぞ、お入りください」  ドアが自動的に開いた。  神妙な面持ちで入室する。  向かって右手に三段ベッドが二列に並んでおり、左手には個人のロッカーと共用で 使う机が並んでいる。そして正面には多機能の端末が置かれた机が置かれている。そ の右脇にはゴミ廃棄用のダストシュートがある。  部屋の中央にはガラステーブルと敷かれたマットレス。  ソフィー・シルバン中尉。  クリシュナ・モンデール中尉。  ニーナ・パルミナ少尉。  ニコレット・バルドー少尉。  カテリーナ・バレンタイン少尉。  これにミシェール・ライカー少尉を加えた六人が同室だった。  ミシェール以外の者は、すでに引っ越しを済ませて荷物はない。  もちろん事件直後の初動捜査で、室内捜査や各自の所持品検査は終えている。  荷物が残っているミシェールの机類を調べはじめる。  それから小一時間。ごみ箱まで徹底的に調査したが何も発見できなかった。 「まあ、予想はしていたけど、犯人や殺害方法を特定するものは何もないか……」  アスレチックジムまで、誰にも知られずに遺体を運んだ相手が、証拠を残すはずも なかった。 「おっと、もうじき五時だな。スタジオに行かなければ」  警備部に連絡して扉を再度封印してもらってから、スタジオのあるブロックへ移動 する。  スタジオは、女性士官居住区を一階上がった所にある。  第一艦橋や統合作戦司令室、統制通信発令所の他、ランドール中佐や参謀達の居室 もある、艦隊運用を担う上級士官用のフロアだ。  エレベーターを降りてすぐに、警備セクションがある。これより先は発令所要員以 外の通行禁止、武器の携行は許されていない。 「情報部特務捜査科第一捜査課、コレット・サブリナ中尉です。ミシェール・ライ カー少尉事故死の捜査のため、FM局スタジオに用があります。それと特務捜査権に おける武器の携行許可を願います」  IDカードを掲示して、デスクの上に一旦、武器を取り出して見せる。  殺人などの捜査を行う上で、銃は必要不可欠だ。犯人を取り押さえるのに、威嚇射 撃は必要だし、銃撃戦となることもある。  警備員はIDカードと武器を確認している。 「タイニー式ブラスターガンですね。麻酔にも合わせられる……。結構です、携行を 許可します」 「IDの照合終わりました。サブリナ中尉、どうぞ先に進んで結構です。ウィング大 尉からの報告は受けております」  といいながら通行証となる胸章を着けてくれた。 「良い捜査結果を期待します」 「ありがとう」  IDカードと銃を返してもらって、先のフロアへと進んだ。  宿房といい、ここといい、大尉の手際の良さは見事だし、実に協力的だ。 「さすがに情報将校だけあるわね」  女性士官達の憧れの的となっている魅力を垣間見た瞬間である。

ポチッとよろしく!

1

赤トンボ初乗り(^^♪

インターポット

赤とんぼ初乗りです。

にしても、このトンボの大きさでアバターを乗せて飛べるとは……。

ポチッとよろしく!

1

2017年12月 3日 (日)

梓の非日常/第五章 送迎はキャデラック

梓の非日常/第五章・音楽教師走る

(三)送迎はキャデラック 「日本に滞在するようになってしばらくした頃、突然護身術を習いたいと言い出した 時、わたしは渚さまと相談して条件を出しました。ピアノの腕前は毎日弾いていない と鈍ってしまう。そう危惧した渚さまは、護身術を教えるかわりに、ピアノの練習も 欠かさないようにとご指示をだされたのです。ピアノが上達していなければ道場出入 り禁止ってね」 「護身術を身につけていられたのですか?」 「コロンビア大学やお嬢さまの通われていたセント・ジョン教会は、治安の悪いハー レムの近くにありましたからね。まあ護身術は必要かなと思って身につけていたので すが。結局たいして腕を振るうことなく、アメリカを離れてしまいました。ただ一度 だけ不良にからまれていたお嬢さまを助けたことがありましてね。そのことを覚えて いらしたようです」 「しかし護身術と空手では内容が違うと思いますが」 「わたしの教える護身術をほぼ身につけられたお嬢さまは、次ぎなる武道の道をお探 しになられたようです。お嬢さまの通われている学校には武道といえば剣道、柔道、 そして空手部があります。竹刀という武器を使う剣道、身体と身体を密着させる柔道 は、お嬢さまには肌が合わないようで、自然に空手をお選びになられたようです。も っとも渚さまとの約束がありますから、手先を傷めるようなことはしないはずです」 「でも護身術はもう教えてらっしゃらないのでは」 「いえ、護身術は毎日の生活の中にも修行があります。直接には教えていませんが、 今も約束は生きています」 「そうでしたか、それを聞いて安心しました」  玄関先に二人がでてくる。 「それにしても広い屋敷ですね」  改めて感想をのべる幸田教諭。それに見送りに出てきている麗香が答えた。 「そうかも知れませんが、ここは梓お嬢さまが日本での教育をなされる間の別宅とな っております。ニューヨークのブロンクスにある本宅は、ここの二十倍はありますし、 巷ではブロンクスのベルサイユ宮殿と呼ばれています。私設国際空港もすぐ隣に併設 されてますしね。さらに広大な自然緑地が屋敷を取り巻いていて、真条寺家の所有で すが一般に解放されて、市民の憩いの場となっております」 「本当ですか?」 「本当ですよ」 「ここが別宅であの調度品、本宅がここの二十倍で飛行場と自然緑地付……真条寺家 って一体、何者なの」 「ついでに申しますと、この川越におきましては、絵利香さまのお屋敷の方が広いで すよ」 「絵利香さん? 篠崎絵利香さんですか」 「そうです。篠崎本家は三百年前ほどの豪商が建てた総檜の真壁造りで、何でも二尺 角ほどもある二本の大黒柱だけでも、現在の価値で八千万円かかると言われています。 もっとも今時これだけの檜の大柱を手に入れるのは不可能とさえ言われていますね。 そんな立派な柱が支える堅牢な造りですから、三百年たった今でも多少の修繕を重ね て、快適に暮らせる住環境を保っています。そうそう、四季折々の風情が楽しめる広 大な日本庭園も見事ですよ。庭園は午前九時から午後五時の間、一般に開放されてい るので、一度訪ねられるとよろしいでしょう。茶会や句会、団体での鑑賞には事前の 承認が必要ですが、個人での散策はいつでも可能です」  玄関から幸田教諭と麗香が出てくる。 「幸田様、お役に立てなくて申し訳ありませんね」 「いいえ。充分役に立ちましたよ」  客人用の送迎車が待ち受けており、運転手が後部ドアを開けて促している。 「外車のことは良く知らないけど、たぶんキャデラック?こんな高級車を用意するな んて」  雲の上の人たちだ……。  来る場所を間違えたようである。  しかし、コンクールの成功のためにも梓は是が非でも欲しい。

ポチッとよろしく!

1

2017年12月 2日 (土)

銀河戦記/第八章 犯罪捜査官 コレット・サブリナ V

第八章・犯罪捜査官 コレット・サブリナ

                V  アスレチックジムからミシェールのいた宿房までの道のりをじっくり観察しながら 慎重に歩いているコレット。  ジムを出て右へ折れたすぐのエレベーターで一つ階上の第十四ブロックに入ったと ころ。そこが、ミシェール達のいる宿房のある女性士官専用の居住区であった。  サラマンダーとて軍艦である以上、乗員は軍規に従って行動しなければならない。 が、毎日二十四時間も軍規にしばられていては息が詰まってしまい、士気の低下が心 配され統制がとれなくなってしまうことになる。そこで居住区内においては、交代勤 務明けであれば服装や化粧は自由となり、ある程度のプライベートな行動が許されて いた。  アレックスの艦隊内で特筆すべきことは、女性士官に対する配慮がよりよく成され ていることであろう。艦隊内においても、化粧の自由を認められ、あまつさえ化粧室 さえ設置されている。女性にとって、化粧はストレスを発散させる効果をもっている からだ。  またそういった女性達からの意見・要望をまとめ、改善案を上申する役目には、主 計科主任であるレイチェル・ウィングがあたっていた。女性士官が多く勤務する第一 艦橋や通信管制室の隣室に化粧室を設置するよう提案したのも彼女であった。  もちろん、こういった処遇は戦闘時や警戒体制時には適用されない、あくまで平時 航行時においてのみのことである。  女性士官専用居住区には、女性特有の病気を診察する産婦人科クリニックはもとよ り、美容院、喫茶室、オーダーメードのブティックもある。その中でも女性士官達の 人気の的は、多種多様な品揃えを誇るランジェリーショップである。ごく普通のブラ ジャーやショーツはもちろんの事、G-ストリングスと呼ばれる生地の極端に少ない ショーツをはじめ、ベビードールなどの世の男心をくすぐる魅惑的なランジェリーも 豊富に揃っていた。  こうした女性士官に対して充実した福利厚生施設を有している部隊は、アレックス の独立遊撃部隊を除いては、同盟艦隊のどこを探しても見当たらない。  有能なる戦士である彼女達とて、戦いが終われば一人の女性に戻る。上着は軍服と いうものがあり、全員同じものを常時着用が義務づけられているからいいとしても、 その下に着るランジェリーは、毎日履き替えて清潔なものを身に付けていなければ気 がすまない。軍から配給されるショーツは、機能性重視だがデザインは貧弱で画一的、 とても乙女心を満足させるものではなかった。  アレックスの部隊、特に旗艦サラマンダーにおいては、全将兵に対しての女性士官 の割合が四割を越えており、彼女達の不満を無視できないと判断した、主計科主任を 兼ねるレイチェル・ウィングが、アレックスに許可を得て居住区の一角にランジェ リーショップを開店したのである。主計科配下の衣糧課の職員を動員して、デザイン はもちろんのこと、生地の裁断から縫製まで一切、すべて女性隊員達の手によって自 由製作されている。それ専用に工作艦が一隻確保されている。  そのランジェリー・ショップに入るコレット。買い物ではない。 「これはコレットさん。今日は買い物ですか、それとも……」  ここを訪れるものは皆非番であるから、店員は親しみを込めてファーストネームで 呼んでいる。  彼女は、平時は主計科衣糧課の職員だが、戦闘になれば医務科衛生班の看護助手と なる。 「アスレチックジムの事件の捜査中です」 「ああ、聞きましたよ。ミシェールさんが亡くなられたそうですね。可哀想なことを しました。それで、その捜査ですか」 「お聞きしたいのは、事件があった昼食を挟んだ前後二時間くらいに、この店の前を ミシェール本人か、不審な人物が通るのを目撃したかどうかを知りたいのです」 「お昼時は込み合うので、店の前を通る人物までは見ていられないのですが……。ミ シェールさんの姿は見ていませんし、不審な人物が通ればお客が騒ぐでしょうけど、 それはありませんでしたね。 「そうですか……」 「それはそうと、とても可愛らしい、ブラ&ショーツが入荷したんですけど、見てい きませんか? きっとコレットさんも気に入ると思いますよ」 「捜査中ですから……。また、後で来ます」  店員が薦めるくらいだから、間違いなく自分の好みに合っているのだろう。  コレットとて、ランジェリーには人一倍気を使う女性士官だ。店員の親切な申し出 を、気にせずにはおれない。  公務中でなければ……。  ちょっぴり自分の職務を恨んだ。

ポチッとよろしく!

1

銀河戦記/第八章 犯罪捜査官 コレット・サブリナ IV

第八章・犯罪捜査官 コレット・サブリナ

                 IV 「続いての質問に入ります。ミシェールの膝に擦り傷があるのですが、その傷が何時 ついたかご存じの方はいらっしゃいますか?」 「擦り傷ですか?」 「そうです。血が滲んでいたらすぐに判るほどの」 「ジムではずっと一緒でしたし、レオタードを着ていましたから、怪我していればす ぐに気がついたと思いますけど……」 「他の方で、気づかれた方はいらっしゃいますか?」  みんな首を傾げている。  はて、怪我していたっけ?  とばかりに。  どうやら誰も気づかなかったか、或は生前には擦り傷はなかったかである。 「ではもう一点。部屋に一旦戻ったミシェールが、再びこのジムに引き返してきて、 トレーニングしていたということは考えられますか?」 「そんなはずはないと思いますよ。ほんとに具合が悪そうでしたから」 「それにトレーニングは好きじゃありませんし、そんな元気があるくらいなら……ね え」  と同意を求めるように一同を見回す。 「実は、ミシェールには彼氏がいたんですよ。トレーニングするより彼氏の元にいっ ちゃいますよ」 「彼氏ですか……」 「そうそう。一目散ではせ参じますよ」 「ミシェールと特に仲の良かった人は、どなたか判りますか?」 「それなら、パトリシア・ウィンザー中尉です。士官学校では良く一緒に、共同研究 とかもやっておられたようですから」 「ウィンザー中尉というと、司令の副官でしたよね」 「そうです。ミシェールについては、中尉が一番良く知っておられると思います。た だ今は艦橋勤務についていますからお会いできません。艦橋は一般士官は立入禁止で すから。もちろん捜査特権のある中尉殿でも例外ではありません」 「司令と中尉には、わたしの方から証言を聞ける機会を作っていただけるように言っ ておきましょう」  レイチェルが言った。情報参謀として、艦橋には自由に出入りできて、司令にも進 言できる身分だからである。 「ありがとうございます」 「ああ、ご存じかと思いますが、夕食時には食堂にやってきますが、艦橋勤務の者に 対する取材や尋問は一切厳禁になっております。それが原因で、食事が満足に取れな かったり、交代に遅れるわけにはいきませんから。艦隊の運命を左右する重要な職務 ですから、精神的負担を与えてはいけないのです。尋問は、非番になるか、その機会 を与えられるまで控えてください」  もちろん艦隊規則は重々知り尽くしているコレットであった。 「判りました……。中尉には後でお会いしましょう。ところで丁度主計科主任のウィ ング大尉がいらっしゃるのでお願いしたいことがあるのですが」 「どうぞ何なりとおっしゃってください。協力しますよ」 「このジムと、ミシェールの宿房を当面の間立ち入り禁止にしてください」 「いいでしょう、判りました。ミシェールと同室の者達は他の部屋に代わってもらい ましょう」 「お手数掛けます。助かります」  さて……。だいたいのことは確認できたようだ。勤務の始まる者もいるだろうし、 全員をいつまでもここに足留めしているわけにはいかない。もっと突っ込んだ話しは、 個別に明いた時間に尋問すればいい。 「今日はこれくらいで結構でしょう。何かあればお伺いしてお尋ねすることがありま すけど、取り敢えず解散してください。どうもありがとうございました」  ぞろぞろと部屋を出ていく証人達。  やがて一人きりになって、考えをまとめはじめるコレット。 「さて、それぞれの証言をまとめてみると……」  ミシェールはジムから部屋に戻るまでは生きていたが、食後のトレーニング開始時 には死んで発見された。検屍では死後二時間程度ということだ。  最後に見た者の証言では、かなりの体調不良で部屋にこもって食事も取らなかった。 その時刻はスタジオで証言を取るとして……。ミシェールはアスレチックジムに行く 気力もなかったようだ。それが何故ジムで発見されたかが問題だ。  つまりこれが殺人だった場合、他の場所で殺されてジムまで運ばれた可能性が高く なる。だとすると殺害場所の特定と、遺体の搬送方法だ。 「殺害はミシェールのいた宿房というところだろうが、誰にも見られずに遺体をジム までどうやって運ぶ……?」  ミシェールの膝にできた擦り傷はその時にできたものに違いない。それは解剖では っきりとするだろう。 「まずは、アスレチックジムから宿房まで歩いてみるか……。手掛かりはたぶん見つ からないだろうがな……」
この章を丸ごとアップするのを忘れていました。 前後関係を確認するために、IIIからもう一度読み直してくださいませ( TДT)ゴメンヨー 変更 IV→V、V→VI、VI→VIIに書き換えてあります。

ポチッとよろしく!

1

2017年12月 1日 (金)

梓の非日常/第五章 家庭訪問

梓の非日常/第五章・音楽教師走る

(二)家庭訪問  真条寺邸。  学校の講堂くらいはありそうな広い応接室に待たされている幸田教諭。 「はあ、下条先生から聞いてはいたけど、これほどとは」  天井から垂れ下がったシャンデリア。バロック・ロココ様式で統一された調度品の 数々。ウォールナット材金華山布張りの応接セットに腰を降ろし、メイドが出した茶 をすすっている幸田教諭。 「この応接セットだけでも三百万円はしそうね……でもここの人達にとっては金額な んか無意味なんでしょうねえ。しかも掃除も行き届いているし、塵一つないように毎 日丁寧に拭き上げられているみたいね。これだけ広い屋敷だもの、すべての調度品を きれいにするには、やっぱり数十人のメイドが必要だわ」  思わず口に出してしまう。そばに控えているメイドに聞こえていると思うのだが、 彼女は無表情のままで、感情を現さない躾が行き届いているようだ。  応接室の重厚な扉が開いて麗香が入室してきた。 「お待たせ致しました。梓お嬢さまの世話役を仰せ付かっております、竜崎麗香と申 します。お嬢さまの日本での教育と日常生活のすべてを、母上の渚さまに代わり取り 仕切っております」  ……この人が、二十歳の若さでコロンビア大学の博士課程を終了したという才媛の ……学年首席と次席の学力を持つ篠崎さんと真条寺さんを育てたのもこの人というこ となのね……。  立ち上がり挨拶を交わす幸田浩子。 「学校の授業では音楽を担当しております。幸田浩子と申します」 「珍しいですわね。音楽の先生が家庭訪問とは。先日も担任の先生がお見えになられ たばかりだというのに。日本の教育者ってまめなんですね。私、アメリカですべての 教育を受けましたので、日本の事情が解りません」  そう言って、応接セットを指し示しながら幸田に腰掛けるように促す目の前にいる 二十三歳の麗香、飛び級制度のない日本でならまだ大学院の学生のはずである。しか も使用人の一人であるはずなのに、周囲の雰囲気によく解け合って、まるで屋敷の主 人であるかのような風格と気品を兼ね備えていた。 「いえ、そういうわけではないのですが……」  恐縮しながら再び腰を降ろす幸田教諭。 「さて、ご用件をお伺いいたしましょうか」 「単刀直入に申しますと、梓さんがやっておられる空手ですか、いつか怪我をされる んじゃないかと心配で、できればやめていただきたいと思っております」 「確かにお嬢さまにはふさわしくないとは、わたしも思ってはいるのですが。音楽教 師のあなたさまと、どういう関係がありますの?」 「実は、梓さんにピアノ奏者として音楽部に入っていただこうと考えています。あれ だけのピアノを弾ける技術をお持ちなのに、それを活かすことなく、あまつさえその 奇麗な指先を壊してしまうような空手をやっておられるなんて。音楽教師として見過 ごすわけには参りません」 「なるほど、そうでしたか。お嬢さまは九歳にしてニューヨークのセント・ジョン教 会の正式なオルガニストとして認められるほど、抜群の音感性をお持ちになっておら れますからね」 「九歳で教会のオルガニスト? だったらなおさらじゃないですか。何とかなりませ んか」 「私とて、ただの使用人ですから。お嬢さまがお決めになられたことやその意志に反 することはできません。また母上の渚さまもお嬢さまの意志は尊重するお方ですし ね」 「やはりだめですか」  がっくりとして肩を落とす幸田教諭。

ポチッとよろしく!

1

« 2017年11月 | トップページ | 2018年1月 »