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2018年1月

2018年1月31日 (水)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 XII

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                XII  それから数日後。  アレックスの前にレイチェルが意見具申に訪れていた。 「ところで司令」 「なんだ」 「部隊の女性士官の制服なのですが、やぼったいという意見が非常に多く、デザイン 変更の要望書が数多く提出されております」 「ま、またかよ……ここの部隊は女性上位もいいところだな。それで……今度は何だ よ」 「はい。独立遊撃部隊を名乗っている以上、それにふさわしい制服が欲しいという声 が上がっています」 「早い話しが新しい制服をくれということだな」 「はい。軍規などをつぶさに調べてみましたが、士官の制服のデザインについて、明 確に規定された銘文はございません。現在着用されております制服においては、国防 省内務通達規定によって約五十年前に採用されたものです」 「ま、指揮統制をはたし、機能性のあるものなら、何だっていいわけだよな」 「その通りです」 「ま、いいか。どうせ、我が部隊は同盟軍のはぐれ者だ。自由の証である五色の旗印 の下、好き勝手やらせてもらっても構わんだろう。軍規に抵触しない限りね」 「その通りです。司令」 「で、手回しの良い君のことだ。制服のデザインとかは、すでにいくつか候補を持っ ているのだろう」 「はい。先程、司令もおっしゃられておりましたが、『自由の証である五色の旗印』 であります旗艦・準旗艦のシンボル、火・水・木・風・土の各精霊達。赤・青・緑・ 白・茶などの彩色を取り入れる意見が候補にあがっております」 「とにかく、そういうことは。当事者である女性士官達の選択に任せよう。君が責任 を持って対処したまえ」 「はい。では、そのように致します」 「一言いわせて頂けるならば……」 「何でしょうか」 「司令官としてではなく、一人の男性の希望として……できれば、ミニのタイトス カートにして欲しいな」 「考慮しましょう」 「うむ。よろしく頼む」  それから程なくして、制服制定委員会が発足した。  レイチェルが委員長となり、パトリシアとジェシカが副委員長として補佐する。  他のメンバーには、ウィンディーネからシェリー・バウマン少尉、ドリアードから パティー・クレイダー少尉、シルフィーからバネッサ・コールドマン少尉、ノームか らサラ・ジオベッティ少尉。そして衣糧課の人々。  もちろんデザイナーであるアイシャ・ウィットマン少尉も参加している。 「というわけで、司令の希望であるミニのタイトスカートという案は、第一優先で す」 「本当に司令がおっしゃられたのですか?」  パトリシアが怪訝そうな表情でたずねた。 「そうですよ」 「ううん……」 「まあ、そう怪訝な顔はよしなさいな。我が艦隊にあって、自由な風潮が守られてい るのも、司令の意向によるところがあるのだから。少しは希望を適えてあげないと ね」 「そうは言っても……」  サラマンダー  赤  ウィンディーネ 青  ドリアード   緑  シルフィー   白  ノーム     茶 「……と以上のごとく旗艦の旗印を象徴する五色を基調としたデザインにすることに、 皆の意見が一致しました」 「色を区別して制服を制定するのはいいですが、その着用区分をどうなされるのでし ょう。階級別ですか?」 「部隊の所属別はどうかしら。旗艦部隊は赤で、第一分艦隊は青という具合に」 「いいえ。制服は全員を統一したほうがいいわ。階級別とか部隊別に色を分けるのは 賛成できない。赤が嫌いな人、茶色が嫌いな人、それぞれいますし、服が違えば対抗 意識が芽生える素地となってしまいます。全員が納得できるように、一つの制服とし てこの五色をバランス良く配置させるようにするのよ」 「五色も使うとなると、ちょっとカラフル過ぎるのではないでしょうか?」 「それを上手にデザインするのがあたし達の役目よ」 「わかりました。大尉のおっしゃるとおりにします」 「そうですね」  第十一章 了

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クレープまだあ!

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お姉ちゃん、クレープまだあ!?

ちょっと待ってね。

あのね、クルミたっぷり入れてね。

なんでクルミなの?

エゾリスっだもん(*^^)v

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エゾリス娘

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着ぐるみの中でも、エゾリスは格別ですね。

アバターコーナーでもフレームの中に納まりきらないし。

この姿でバックスケーティングからの3回転ジャンプは見ものです。

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2018年1月30日 (火)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 救出

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(九)救出  洞窟内。  壁から音が伝わってくる。 「なに?」  音に気づいて壁に駆け寄る梓。 「壁の外から音が聞こえるわ」  壁に耳を当てて確認している。 「うん。俺にも聞こえる。たぶんこの外で壁に穴を開けているんだ。助かるぞ」 「そうね。壁から少し離れていましょう」  やがて壁が崩れて、掘削艇が姿を現わす。  停止し、後退する掘削艇。  大量の海水が流入してくるが、洞窟内と外界の海水面が平衡になると、やがて流入 も収まる。  そして、 「お嬢さま、いらっしゃいますか?」  開いた穴から麗香が、梓を呼びながら姿を現わす。 「麗香さん!」 「お嬢さま! ご無事でしたか」 「大丈夫よ」  海水をかき分け麗香のもとに駆け寄る梓。そして飛びつく。 「信じてたよ。きっと助けに来てくれるって」 「迎えの船が到着しています。行きましょう」 「うん」  洞窟を出ると、掘削艇が待機している。 「どうぞ、お乗り下さい」 「機長はどうなりました?」 「命に別状はありません。船の手術室で処置を受けています」 「そう、良かった」 「さあ、絵利香さまがお待ちですよ」 「うん……」  掘削艇に乗り込む梓、そして慎二。  やがて探査船へと発進する。 「なあ、麗香さん。これって、もしかして潜水艦か?」  海上から見上げながら探査船の形状を確認して慎二が尋ねる。 「そうですよ。深海資源潜水探査船です。たまたまハワイ沖の海底を調査していたの を、渚さまが逸早くこちらへ回航させていたのです」 「しかし、なんて馬鹿でかい図体なんだ」 「まあ、三百人からの乗員が搭乗してますから」  やがて探査船に到着し、甲板に上がると艦長の歓迎を受ける。 『ご無事で何よりでした。艦長のウィルバートです』  と挨拶する艦長は、軍服に身をつつみ、肩章には銀星が二つ(Rear Admiral Upper Half)と、潜水艦士官(Submarine Officer)の金色の胸章バッチが輝いている。 『お世話かけました。それで確認したいのですが、この船は原子力船じゃないです か?』 『その通りです。深海にて長時間の探査を綿密に行うには、原子力船が最適です。空 気を大量に消費するディーゼルエンジンは使用できませんし、バッテリー駆動では潜 航時間が限られますからね。また無人の探査艇では調査区域が限られます』 『なるほどね……それともう一つ、艦長を含めて皆さん軍服を着ておられますが、乗 組員は海軍の軍人ですか?』 『はい。三分の二が艦の操艦に関わる海軍軍人で、残り三分の一が深海探査要員の技 術部員です。何せ原子力潜水艦を操艦できる人間は海軍にしかいませんからね。渚様 が、大統領を通して国防長官や国家安全保障会議そして統合軍と交渉して、民間会社 への特別出向となったわけです。この私も、統合参謀本部から派遣されています』  といいながら、統合参謀本部勤務を示す徽章を指差した。 『艦長。全員の搭乗が完了、いつでも出航可能です』 『うむ』  と、梓に向き直って。 『お嬢さま、出航してよろしいですか』 『はい。お願いします』 『母港ハワイ・パールハーバーに向けて出航する。錨をあげろ』 『了解!』 『それでは、居住区の方へお願いします。みなさまがいらっしゃいます』 『わかりました』 「なあ、日本に帰るんじゃないのか。今パールハーバーとか言ってたようだけど」 「バーカ。このまま日本に向かったら何日かかると思ってんだ」  本当の理由は、原子力船が日本に入港する事が困難な事によるものだ。しかし原子 力船ということは伏せておくことにした。会話中に原子力船という言葉が出てきたが、 慎二が早口な英会話を聞き取れるわけがない。まあ、さすがに有名なパールハーバー という固有名詞だけは聞き取れたようだが。 「む、無理かな……」 「だから一端ハワイに戻らないとだめ。その後飛行機で帰るの。だいたい船じゃ日数 がかかり過ぎて、夏休みが終わっちゃうじゃない」 「そうか、そうだよな」 『艦長』 『はい』 『彼は、密航者です。縛って荷物室にでも放りこんでおいてください』 『え? お嬢さまのお友達ではなかったのですか』 『構いません。飛行機が墜落した張本人なんですから』 『そうでしたか、ではおっしゃる通りに』  いきなり両腕をつかまれ連行される慎二。 「な、なにすんだよー」 「少し頭を冷やしてらっしゃい」 「お、おい。梓ちゃん」

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2018年1月29日 (月)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 XI

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                 XI  その頃、アレックスはオフィスでゴードンと対面していた。ドアの所にはゴードン の副官のシェリー・バウマン少尉が控えている。 「どういうことだ、ゴードン。君の配下の者が命令違反を犯すとは」 「申し訳ありません」  スハルト星重力ターンでの帰投命令を無視し、追い掛けてきて戦列に復帰してきた 艦艇と艦長のリスト。その十二隻すべてが第一分艦隊所属、ゴードンの配下であった。 ゴードンの分艦隊は高速性が優先されているために、防御壁が脆弱で耐熱性に弱い艦 艇が多かった。ゆえに脱落艦も多数出てしまったのである。それを突きつけられて恐 縮しているゴードン。 「スザンナは帰投命令を出していたはずだ。そうだな」 「はい。間違いありません」 「今回の奇襲作戦の主旨からいっても、一部の者の身勝手によって部隊全滅の危機に さらすことになったことは、君にも理解できるだろう。作戦コースを外れた場所で コース変更を行えば、敵の重力加速度計に探知されるのは周知の上だったはずだ。そ の上敵の哨戒機に発見されなかったのはたまたま運が良かっただけだ。違うか?」 「その通りです」 「敵艦隊には特殊任務を帯びていたらしく、索敵とかには無頓着だったみたいだから、 幸いにも作戦自体には影響はなかったが……。その上、彼らのおかげで退却し逃げ出 す寸前の敵将を捕虜にできたことは幸運だが。結果は問題じゃない。行為そのものが 問題にされていることは理解できるだろう」 「はい」 「それらの艦長全員に対して、二ヶ月間の限定階級剥奪と謹慎処分を命ずる」  厳かに処分を言い渡すアレックス。  女性士官専用居住区の設定や、ランジェリーショップの許可など、色々と乗員の為 に福利厚生などには、十分すぎるくらい配慮しているものの、艦隊の危機を招くこと になる命令違反は重大であり、厳罰をもって処分しなければいけない。 「監督不行き届きとして、君にも厳罰を与えねばならないが」 「覚悟しております」 「うん……。給与の二割減棒及び二週間の謹慎処分だ。いいな」 「わかりました」  今回の命令違反は、指揮官としてゴードンも重々承知しており、一言の弁明も反論 もしなかった。ただ粛々として処分を受け入れるしかなかった。 「話しは以上だ。下がって良し」 「はっ」  敬礼し、表情を強ばらせたまま退室するゴードン。  通路に出たところでシェリー・バウマン少尉が話し掛けてきた。 「少佐殿に対する処分は、ちょっとひどすぎると思いませんか」  自分の信奉する上官に下された処分に、憤懣やるかたなしといった様子だ。 「彼らのおかげで、逃げ出す寸前の敵将捕獲に成功したのですよ。いわば功労者では ありませんか」 「確かに結果的にはそうかもしれない。がしかし、いかな戦果をあげたかではなく、 いかに行動したかが問われているのだ。司令代行のベンソン艦長は、帰還命令を出し た。司令から全権を委ねられた以上、彼女の判断と命令は、司令自らが下したものと 同じなのだ。それを無視したことは、軍法会議にかけられても致し方ないものだ。司 令訓告だけですませてくれただけも有り難いと思わなくては」 「しかし……長年の友人なのに……」 「いいんだ、シェリー。中佐の取られた判断には間違いはない。戦いに友人も何もな いさ。あるのは上官と部下であり、命令と服従なんだよ。私情は禁物さ。ここで彼ら を許しては、今後も同様の命令違反を犯す者が出てくる。そうではないかな?」 「は、はい……」 「逃げ出す寸前の敵将を捉えたのだ。本当は勲章を与えてもいいくらいなのだが…… 結果を誉めるよりも、行動を懲罰する方を選んだのだよ。心を鬼にしてね」 「はあ……そうですね」 「とにかく、彼らに会うとしよう。ウィンディーネに戻るぞ」 「はい」

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兄妹でクレープ!

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ここのクレープ屋って、いつも店主がいないのよね。

そうだね。それは、闘牛が狙ってて営業にならないからだよ。

もう……あそこの人参でも食べてればいいのに。

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2018年1月28日 (日)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 資源探査船

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(八)資源探査船  砂浜から何もない太平洋の洋上を眺めている一同。 「そろそろ時間だよね」 「うん。不時着から三時間経ったよ」  麗香が預かっている梓の携帯電話が鳴る。 『麗香です。はい……構いません。浮上してください』  麗香が携帯電話を閉じてしばらくすると、環礁帯の外側に大きな海水の盛り上がり が発生し、やがて黒光りする巨大な潜水艦が出現した。 「な、なに! 潜水艦?」 「うそー。救助船って潜水艦なの?」 「じゃあ、アメリカの海軍が救助に来たの?」  驚愕の声を上げるメイド達。 「いいえ。真条寺家の持ち船ですよ」 「あ! 〔梓〕って船体に漢字で書いてあるよ。 「じゃあ、お嬢さまの船なんだ」  やがて探査船から小型ボートが繰り出される。 「一番に機長を運びます。脱出シュートを使い、機長の身体にロープを掛けてそろり と降ろしましょう。さあ、みんな手伝って」  麗香がメイド達に指示を出し、再び飛行機に戻っていく。  これまでは篠崎側の乗務員が働いていたが、今度は真条寺家のメイド達が働く番で ある。  機長を飛行機から降ろして最初に搬送した後に、順次小型ボートに乗船して、探査 船に移乗していく。  砂浜にいた全員の収容が終わり、船の居住ブロックのレクレーションルームに集め られた一行に麗香が案内する。 「それでは、みなさまこの部屋でおくつろぎくださいませ。他の場所には精密機械や 企業秘密に関わるものがありますので、この部屋からお出にならないように、お願い します」 「梓ちゃんは、どうなるの?」 「もちろん、これから探します。ご心配なさらないで下さい。この船は資源探査を任 務としています。探査のための装備とプロフェッショナルな人材が揃っていますから、 すぐに発見できますよ」  操艦や司令を出す統合発令所の階下に、資源探査部のセクションがある。  各種の探査機器を操作しているオペレーター達。  麗香が探査部の技術主任と打ち合わせしている。 『お嬢さまの髪飾りには発振器がついています。周波数は、12.175 ギガヘルツで探 索してください』 『了解、12.175 ギガヘルツで探査します。しかし、なぜ発振器などつけておられる のですか?』 『お嬢さまがご幼少の頃、迷子になられた時があって、すわ誘拐か? と大騒ぎにな りました。以来どこにいらしても探し出せるように、渚さまのご指示でお嬢さまには 内緒で取り付けています』 『そうでしたか、誘拐されても大丈夫ですね』  主任はマイクを取って、 『艦長。微速前進で島を周回してください』  と指示を出した。 『了解した。微速前進で島を周回する』  艦長からの応答があってしばらくすると、静かに船が動きだした。一点に留まって いるよりも、ぐるりと周回しながら探査した方が、正確な位置が把握できる。  探査という任務に従事している間は、この技術主任に船の行動に関する指揮権の優 先が与えられているようだ。 『主任。他に使えそうな機器はありますか?』 『資源探査気象衛星に搭載されている遠赤外線探査レーダーを使用しましょう。生き ている人間なら熱を発しています。遠赤外線なら洞窟の壁を通過して中にいる人間の 形状を視認できます。丁度上空を「AZUSA 5号B機」が通過中です』 『AZUSA 5号B機ですか?』 『はい、この船と同じで、ARECが運用している人工衛星です』 『その衛星って、地表を映し出せる超高感度の監視カメラを搭載していますよね』 『はい。人物の表情までも識別できる超高精細度も誇っています。ただ、そのカメラ のオペレーションは真条寺家本宅の地下施設でしかできないと伺ってます』 『そう……やっぱりね。とにかくそのレーダーを使ってください』 『了解しました。遠赤外線探査レーダーを使用します』  主任が答えると同時に、一人のオペレーターが機器を操作しはじめた。 『衛星監視追跡センターより、コントロールの引き継ぎを完了。これよりAZUSA 5号B 機のオペレーションを開始します。遠赤外線レーダーの照準をこの島に合わせます。 セット完了まで二十分かかります』  てきぱきと機器を操作していくオペレーター。レーダーの照準を合わせる事は、す ぐにはできない。仮に探査レーダーを右に振ると、反作用で衛星自体が左に傾いてし まうからだ。衛星を姿勢制御しながら探査レーダーを徐々に所定の位置に持ってくる という操作が必要だ。  やがてディスプレイに島の探査映像が現れる。 『どうですか?』 『はい。微かですか反応があります。この周囲より色の明るい部分がそうです』 『場所は?』 『島の南東、地表から十メートル下です。丁度海面付近です』 『そう……、やっぱり洞穴に落ちてしまわれていたのですね』 『格納庫に遠赤外線探知機を搭載した小型深海掘削艇があります。装備の掘削機が使 えるはずです、降ろしましょう』 『お願いします。潮が満ちてきています、早く救助しなければ』  深海探査船の下部格納庫から掘削艇が降ろされる。一旦海中に出てから浮上し、自 身の自走力で外海から礁湖へと進入し南東の崖に取り付く。 『反応が強いのは、この辺です』 『遠赤外線探知機の方は、いかがですか』  掘削艇には麗香も同乗した。 『はい。ご覧の通りに、人間から発せられたと思われる熱源が、この壁の向こうに存 在します』  オペレーターの指し示すパネルスクリーンには青く低温を示す中に、黄色に色付い た像がはっきりと映し出されていた。 『低周波反響感知機には、この先に大きな空洞を示すデータが出ています』 『間違いありませんね。この先に洞窟があってお嬢さまと慎二君が閉じこめられてい るようです。早速、掘りましょう』 『はい。掘削機を始動します』

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2018年1月27日 (土)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 X

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                 X  サラマンダー兵員食堂。  アレックスとパトリシアが仲良く食事を取っている。 「まあ、何にしても今回のスザンナの働きは賞賛に値するな。それだけははっきりと している」 「そうですね……」 「どうした浮かない顔だな」  せっかく忘れようとしていたのに思い起こされてしまったという表情のパトリシア。 「いいえ。何でもありません」 「そうか……。ところでパトリシア」 「何でしょう?」 「今、どんな下着を着ている?」  周囲を気にしながら、パトリシアの耳元でひそひそ声で尋ねるアレックス。 「はあ……?」  突拍子もない質問をされて唖然としている。  いくら夫婦生活にある間柄とはいえ突然のこととて、さすがに答えに窮してしまう。  その戸惑っている様子をみて、 「い、いや。いいんだ。忘れてくれ」  と前言撤回した。  丁度、その時だった。 「中佐殿。探しましたわ」 「レ、レイチェル!」 「巡回査察がまだ途中です。続きを致しましょう。おいで下さいませ」 「なあ、巡回はもう済んだということにしないか?」 「だめです。前例を作ることを許したら、今後も逃げ口上に使われるのでしょう」 「レイチェルには、かなわないな……」  この時ほど、レイチェルが鬼のように感じたことはなかった。  渋々と立ち上がるアレックス。  そんな二人の会話を聞きながら、怪訝そうなパトリシア。優柔不断な態度のアレッ クスと毅然としたレイチェル。いつもの二人とまるで様子が違っていたからだ。 「ああ、そうだ。パトリシア」 「何でしょう?」 「スザンナに、スハルト重力ターンで脱落した艦艇とその艦長のリストを作成しても らって、オフィスに届けておいてくれ」 「スザンナ艦長の帰投命令を無視して戦列に復帰した艦艇ですね」 「そうだ。それとゴードンも呼んでおいてくれないか。1700時がいいな」 「かしこまりました」 「じゃあ、頼むね」  巡回査察再開のために、レイチェルと共に食堂を立ち去って行くアレックス。 「アレックスらしくないわねえ。たかが巡回査察に、レイチェルさんと、一体何があ るのかしら……」  女性居住区という女性達の憩いの場に、踏み込まなければならないアレックスの心 境を、女性であるパトリシアが理解するにはまだ経験が浅かった。  それから数時間後、巡回査察を終えたレイチェルとパトリシアが並んで歩いている。 「なんだ。そういうことだったのね」 「アレックスとしては女の城に入り込んで行くにはやはり相当な勇気が必要だったみ たいね」 「アレックスらしいわね」 「で、悩殺下着なんかプレゼントされたらどうする? 彼のために着てあげる?」 「その時になってみなければ判りませんよ。アレックスのその時の態度次第じゃない ですか。やだあ……。こんなこと言わせないでくださいよ」  と真っ赤に頬を染めてしまうパトリシア。  二人の会話が示すように、レイチェルが二人が夫婦である事を知っている数少ない 理解者であると、パトリシアは知っている。だから親しみを込めてすべてを話し合っ ている。 「で、今日はどんな下着を着ているの?」 「もう……秘密ですよお」 「にしても今回はスザンナに先を越されちゃったわね」 「参謀の面目丸潰れというところかしら」 「あの作戦プランは、わたしも考え付いてはいたのだけど、あのまま脱出した方が理 にかなっていたから言わなかったの」 「まあ、考え方の違いってことね」

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2018年1月26日 (金)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 洞窟二人きり

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(八)洞窟二人きり  ……第一、慎二と二人きりなんだから……しかもこんな水着姿で……黙っていたら、 息苦しいよ。喋ってないと間がもたない……  洞窟に閉じこまれた水着姿の若い男女二人。(B110,W81,H96,T180)の筋骨隆々た る青年と、(B83,W58,H88,T165)のプロポーション抜群のうら若き娘。並んで座れば おのおのの骨格のつくりの違いを意識せずにはおられない。自分の胸元に時折注がれ る青年の視線に鼓動高鳴る娘の恥じらい。娘の髪から漂うほのかな香りに理性が押し 潰されていく青年。喧嘩しながらも、実は好きあっている二人。近づく青年の顔、熱 く感じるその吐息。静かに目を閉じる娘。唇と唇が合わせられる。やがて折り重なる 二つの影。  ……やばいよ。実にやばいシチュエーションじゃないか…… 「なあ、梓ちゃん」 「ひゃ!」  慎二の声に思わず反射的に飛びのいてしまう梓。 「ち、近づくなよ」  手を横に振り回しながら拒絶の態度を示す。 「はあ?」  慎二は、梓の豹変ぶりにわけがわからない。 「おまえ、何言ってんだよ」 「な、なにって……。慎二は、何か言いたかったのか?」 「何かって……水面が上がってきてるんじゃないか? と、言いたかったんだが」 「え?」  驚いて足元を確認する梓。  落ちて来た時にはくるぶしの位置にあった水面がだいぶ上がってきている。 「そうか潮が満ちてきたんだわ」 「で、何を考えてたんだよ。さっき」 「なんでもないよ!」 「そ、そうか……」  改めて足元の水面を見つめる梓。 「一帯が珊瑚礁だから、あちこちに小さな穴が明いていて外界に通じているのよね。 この水面が外の海面と同じと考えていいでしょう」 「潮が満ちたらどうなるんだ? 洞窟のどこまでの高さまで海水が入ってくるのかな」 「ここは太平洋の直中の小島だから、有明海のような入り江と違って干満の差が大き く変動することはないと思うけど、気圧や風向きでどうなるか判らない。でも……大 丈夫よ」 「どうして?」 「今は干潮のピークを少し過ぎたところだから、満潮になるのは六時間後よね。でも ってこの島にたどり着いたのがちょい一時間前で、迎えの船が来るのは二時間後。上 では麗香さんがあたしのいないことに気づいて動いているはずだから、四時間もあれ ば助けてくれるよ、きっと」 「そうなのか?」 「大丈夫。麗香さんは、助けに来てくれる」 「信じているんだね、麗香さんのこと」 「ええ……」

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2018年1月25日 (木)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 IX

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                 IX  およそ三時間後。  戦闘は圧倒的勝利で終わった。 「長い道のりだった割には簡単に終わってしまいましたね」 「敵の背後から急襲できたし、相手はまったく油断していたみたいだからな」 「搾取した艦艇ですが、いかがなされますか?」 「そうだな……」  と考え込んでいるアレックス。  今回の戦闘でも五百隻ほどの艦艇が白旗降参し、これを拿捕することができたのだ った。これまでは拿捕した艦艇は、そのまますべて部隊に編入し、艦隊を増強してき た。 「いや、今回は止めておこう。捕虜を収容したら全艦撃沈処理する」 「え? いいのですか?」 「戦闘の前にも言っただろう。罠かも知れないと」 「え、ええ。確かにおっしゃいましたが」 「あまりにも事が簡単に運び過ぎた。これがブービートラップではないという保証は ないじゃないか」 「でもシステムの総入れ替えをすれば」 「システムだけじゃない。艦内のどこかに探査できないように施された爆薬などが仕 掛けられていたらどうする? あるいは艦隊の位置を逐一知らせる発信器でもいい」 「まさか……」 「考えてもみろ。我々の帰還コース、同盟軍の勢力圏内で行動しているにも関わらず ろくな索敵もせず、まったくの無防備状態でいる艦隊がいると思うか? まるで襲っ てください、拿捕してくださいとばかりに、目の前に置いてあった感じだ。おそらく 拿捕した艦艇を編入してきた私のこれまでを考えて、罠を仕掛けてきたと考えても道 理だと思うが、どうだ?」 「そう言われればおかしな点が多いですね」  その頃、バーナード星系連邦タルシエン要塞基地。  司令官室を行ったりきたりしながら、いらいらしているスピルランス少将。 「信号が跡絶えました。全艦撃沈されたもようです」  静かに報告をするのは、深緑の瞳を持ったスティール・メイスン大佐だ。 「降伏し拿捕された艦もか?」 「はい。すべての艦艇です」 「そんな馬鹿な……。そんなことはあるはずがない……」 「どうやら閣下の思惑が外れたようですね。二千隻の艦艇が宇宙の藻屑と消え去り、 六万余人の将兵が無駄死にし捕虜になったわけです」 「言うな!」 「ランドールという男、なかなかしたたかな相手です。これまでの経緯なら拿捕した 艦艇を自らの艦隊に加えて、兵力を増強してきましたのに、今回に限っては閣下が仕 掛けた罠に気づいて艦を残らず撃沈させるとは」 「ええい。言うなというに。出ていけ!」 「はっ!」  うやうやしく頭を下げて退出するスティール、そして扉を閉めると同時にため息を ついて嘆くのだった。 「自軍の艦艇や将兵達をただの駒のように扱ったあげく、ただ作戦が失敗したことを 悔やんでいるだけとは……。無駄に死んでいった将兵のことなんか少しも気にもとめ ていない。あれじゃあ、死んだものが浮かばれない」

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2018年1月24日 (水)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 奈落の底

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(七)奈落の底 「おーい! 誰かあ、聞こえてるかあ」  洞窟の底から、落ちて来た開口部に向かって大声を張り上げている慎二。 「たすけてくれえ! ほんとに近くにいないのかあ」  呼べど叫べど、上からの答えは返って来ない。 「これだけ大声を出してりゃ、小さな島だ、聞こえないはずないのに」 「いくら叫んでもだめよ。周りの壁が音を吸収しているのよ」 「そうか……ちくしょう。付近を探しまわっても出口はないし」  拳で壁を叩く慎二。 「あせってもしようがないわよ。助けが来るまでじっと待っていましょう」  と水際に腰を降ろす梓。その隣に座りながら、 「しかし、なんでこんな小さな島に洞窟があるんだ」  慎二がつぶやく。 「馬鹿ねえ。ここは環礁島よ。足元はもちろんの事、付近一帯は珊瑚礁なの。実際の 地面はとうに海面下に水没して、その上に発達した造礁瑚礁や石灰藻類さらには貝殻 や有孔虫類の殻とかで形成された上に、あたし達は立っていたというわけ。あの砂浜 も実情は珊瑚の小さなかけらが堆積したもの。沖縄に星砂というのがあるがあれと同 じよ。造礁珊瑚は海面より上には繁殖できないんだけど、こうして海の上にまで発達 しているのは、氷河時代の海面下降とか、地殻変動で地盤の上昇と下降の繰り返しが あった名残だと言われているわ」 「で、それと洞窟とどんな関係があるんだ」 「珊瑚の主成分は何だか知ってる?」 「知らん」 「勉強不足ね。大部分が炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムよ」 「そうなんだ」 「これはね、酸に溶けるのよ。雨が降ると空気中の二酸化炭素を溶かし込んで酸性に なるから、それが珊瑚を溶かしていってこのような洞窟を造ったというわけ。山口県 にある秋吉台秋芳洞のことぐらいは知ってるでしょ」 「ああ、地面の下にぽこぽこ穴が開いてるところだろ。ええと、鍾乳洞ってやつ」 「そうよ。鍾乳洞の正体は、雨水が空気中の二酸化炭素を溶かし込んで、石灰岩の地 質を溶解してできたのよ」 「理科だか社会で、習ったな。石灰岩に塩酸をかけたら、水素が発生して溶けちゃう ってやつ」 「そして石灰岩は、元々が珊瑚からできているというわけ」 「珊瑚から?」 「知ってる? 日本で産出する石灰岩の大半は、この島のような太平洋上にある珊瑚 礁がマントル対流によって運ばれてきたのよ。海溝付近でマントルは地中に再び地下 深く沈んでいくけど、比重の軽い珊瑚は日本本土に乗り上がる。そして現在の日本の 石灰岩地層が出来上がっていったの」 「へえ、知らなかったよ」 「日本で唯一、戦前からもなお百パーセントの自国生産率を持つ鉱物資源で、世界最 高品質水準のセメント工業立国として発展できたのも、環太平洋の珊瑚礁群のおかげ というわけね」 「ふうん……」 「国家を興すには、その基幹産業としての鉄とセメントは不可欠。国中を縦横に走る 道路網・電源確保のためのダム工事・都市開発には超高層ビルディング。第二次世界 大戦後の国土の荒廃を逸早く復興できたのも、セメント工業という切り札があったか らで、輸入を一切行わずすべて国産品だけで賄えたわ」 「それで……」 「とまあセメント自体は今後も供給の心配はないんだけど、その他に必要不可欠な骨 材の問題が残されたの」 「骨材?」 「セメントに混ぜる砂や砂利のことよ。現在では、国内各河川からの砂はほとんど取 りつくしてしまったわ。しかたなく、海底から採取した海砂利をしようするようにな ったんだけど、塩分の除去が満足にできなくて、その塩分によるコンクリートの早期 ひび割れや鉄筋の破断という塩害の被害が深刻になってきているの」 「ほう……」 「……。おまえなあ、人の話しを聞いていないだろう」  いきなりいきり立つ梓。 「だってよお……この状況下で、話す内容か?」  といいながら、洞窟内を見回すようにする慎二。 「どっちかあつうと……脱出方法とか、外の連中が何してるかとか……そういった内 容の話しをするべきじゃないのか?」 「ふん……喋ることで気を紛らしていたんだよ。先に調べたように脱出口はどこにも 見当たらないし、連絡を取ろうにも携帯電話は水着になる時に麗香さんに預けたまま だ。そんな気になってもしかたないだろ」 「そうか、梓ちゃんもやっぱり女の子なんだな。そういえば、喋り方も女の子っぽか ったな」 「人のことなんだと思ってたんだ」  とぺちんと軽く慎二の頬を平手打ちする梓。喋り方はいつもの慎二に対するものに 戻っている。

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2018年1月23日 (火)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 VIII

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                 VIII  六時間後、第一艦橋に全員の姿が揃っていた。 「さてと……、敵艦隊との接触推定時刻は?」  アレックスが尋ねるとオペレーターから答えが返ってくる。 「およそ三十分後です」 「敵艦隊の動静は? こちらには気づいていないか?」 「あれから変わった動きは見せていません。こちらには気づいていない模様です」 「これだけ近づいても気づかないなんて、敵は何を考えているのでしょうか?」  パトリシアが首を傾げている。 「完全に油断しているか、それとも罠か……のどちらかだな」 「罠……ですか?」 「しかし今更後には引けないな。ここまで来たらたとえ罠でも戦うしかない」 「そうですね。通常航路上で大幅な進路変更すれば重力探知機に反応しますから、さ すがに敵も気づくでしょう。転進して来る敵に背後を取られることにもなります」 「その通りだ。ジェシカに連絡、艦載機全機発進準備だ」 「はい」  艦載機などの航空兵力はすべてジェシカの配下にあった。  その航空兵力の正式な名称は、第百七航空兵団という共和国宇宙空軍の組織の中に ある一部隊だった。宇宙空軍から宇宙艦隊への派遣という形で配備されている。ゆえ に空軍と艦隊の階級も呼び慣わし方が違う。よく知られているのが「キャプテン」と いう呼称である。空軍では大尉であるが、艦隊では大佐の階級として呼称されている。  空母セイレーン、艦載機発進デッキ。  艦載機に駆け寄り搭乗するパイロット達。  一人ゆっくり歩きながら愛機ファルコン号に向かっているジミー・カーグ大尉がい る。先のカラカス基地攻略で一階級昇進していた。 「頼むぜ、相棒よ」  隼のイラストが描かれているその機体を平手で軽くぽんと叩く。 「キャプテン、今度の会戦で勝てばついに少佐も夢じゃないですね」  ファルコン専属の整備士が話し掛けてきた。  もちろん整備員がジミーを「キャプテン」と呼んだのは、空軍での大尉の呼称であ るのは周知の通りだ。 「バーカ。一般士官の俺らが佐官になれるわきゃないだろ。名誉勲章ばりの戦績をあ げなきゃ無理だよ」 「名誉勲章ですか? 例えばランドール司令のように?」 「そうだよ。そもそも俺達は上からの指令に従って戦う駒にしか過ぎないから、よほ どの事でもない限り名誉勲章はないさ。例えばカラカス基地攻略のように、戦闘機だ けで敵要塞を攻略するような作戦で勝利した場合のようにな。つまり少佐にはなかな かなれないようになっているってことさ」 「でも宇宙艦隊と違って、宇宙空軍には少佐になるのに、佐官昇進査問委員会や試験 がないだけ楽なんでしょう?」 「まあな、俺達はどんなに階級が上がっても、動かせるのはこの戦闘機一機だけだが、 宇宙艦隊で少佐になるということは、部隊司令官になって、数百隻の艦艇と数万人の 乗員の生命を預かるということだからな。それだけ少佐への昇進は難しい……。のだ が、この艦隊はどうも特別らしいな。中佐は無論、オニール少佐もカインズ少佐も簡 単に昇進しているよ」 「劇的な功績を上げていますからね。それに何せ、特別遊撃部隊というくらいですか ら」 「ジミー、いつまで話し込んでいるつもりなの。他の乗員は全員搭乗しているわよ」  艦内放送が名指しで注意勧告していた。ジェシカの声だった。 「おやおや、やかましの航空参謀殿がお叱りだ」 「キャプテン、いいんですか?」 「なにがだ?」 「だって、相手は中尉です。階級が下の参謀にあんなに言われて」 「知らないのかい? 我が部隊は階級じゃなく能力主義なんだよ。能力のある者が、 階級を越えて指揮を執ることが可能なんだ。スザンナ艦長だって、多くの参謀達を差 しのけて今回の作戦を立案し、ついさっきまで指揮を執っていたじゃないか。それに キャブリック星雲会戦での作戦失態による功績点の返上がなければ昇進していたはず だし。何にしても航空戦力の用兵の妙は、ランドール司令をも上回るとさえ言われて いる航空参謀殿だからな。俺達が戦功を挙げられるのも彼女次第という場合もあるし な」 「そりゃそうですが……いつも不思議に思ってたんですが、司令が任命した者なら皆 素直に従っている。何故なんでしょうねえ」 「ああ、ただの二等兵にだって能力さえあれば指揮官になれるし、従わない者はいな いさ。それが司令の信頼されている由縁だな」 「そんなもんでしょうか……」 「まあな。さて、再度のお叱りがこないうちに搭乗するか」  と梯子を昇りはじめる。 「ご武運を」  それに答えるように親指を立てるジミー。  シートに着席すると同時に、通信が入った。 「遅かったじゃないか。何話し込んでいたんだよ」  ハリソン・クライスラー大尉だった。 「ちょっとな……」 「まあ、いいさ。まもなく発進だぞ。エンジン始動して待機だ」 「判った」  サラマンダー艦橋。  警報が鳴り、メインスクリーンパネルの映像が切り替わった。 「前方に敵艦隊! 索敵レーダーに捉えました」  次々と敵艦隊を示す光点が増えていく。 「敵艦隊の後ろにつきました」 「敵艦数およそ二千!」 「いよいよですね」 「そうだな……。  呟いてから、 「全艦、戦闘準備! 粒子ビーム発射準備! 艦首魚雷装填! 艦載機は全機発 進!」  と矢継ぎ早に指令を発した。  その指令をオペレーター達が全艦に伝達指示する。  次々と発艦をはじめる戦闘機群。 「艦載機、全機発進完了しました」 「ようし! 全艦魚雷一斉発射!」 「魚雷発射します」  一斉に発射される魚雷。 「突撃開始、艦載機は母艦に追従せよ」  遠回りしてきた道のりの末に、ついに戦闘の火蓋が切って落とされたのだ。  やがて前方に魚雷による無数の爆発の光が輝いた。 「粒子ビーム砲、三十秒間一斉掃射の後、艦載機は全機突入せよ」

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2018年1月22日 (月)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 孤島にて

梓の非日常/第八章・太平洋孤島事件

(七)孤島にて  機体を仰ぎながら心配顔の絵利香。  その側に寄り添っている梓。 「おーい。梓ちゃん、一緒に泳ごうよお」  海水中に水着姿で入り、梓を呼んでいる慎二がいる。 「おまーなあ。死に直面している人がいるっているのに、よくもまあぬけぬけとして いられるなあ。しかも自分のせいでこんな状況になっているというのが、まだ判らな いのか」 「そうは、言ってもなあ。俺達には、何もできないじゃないか。だったら気分転換に 泳ぐのもいいんじゃないか。それに梓ちゃんだって水着じゃないか」 「しようがないでしょ。暑いんだから、水着にでもなってないとたまらん」 「ふうん……しかし……」  梓の水着姿に戸惑い気味の慎二。 「おい。いつまでじろじろ見てんだよ」 「あ、いやその、つい……」 「ちぇっ。脳天気な奴。絵利香ちゃん、ちょっと周囲を見回ってくるよ」  と言い残して、島の中程の茂みの方へ歩いていく梓。 「おーい。ちょっと待ってくれよ」  梓の後を追い掛けていく慎二。  島の中程のところを、すたすたと早足で歩く梓と、その後を追い掛ける慎二。 「おい。待ってくれよ」 「ついて来ないでよ」 「なに、怒ってるんだ」 「しつこいわね!」  と慎二の手を振り払った時だった。 「きゃあ!」  梓の足元の地面が突然に崩れたのだ。 「梓ちゃん!」  慎二が手を差し伸べて梓の手を掴もうとする。しかし、地面はさらに大きく崩れ、 二人とも真逆さまに墜落していったのである。 『ともかく胸の傷口を塞がねば、細菌感染を引き起こすし、肺の虚脱も完全に防げな い。取り敢えずは傷口を仮縫合しておく。ここでは肋膜や骨折の治療ができんのでな。 骨の折れ口にはガーゼを厚く巻いて肺を傷つけないようにしておく。迎えの船の手術 室でちゃんと処置してから本縫合することになる。場合によっては、傷口が大きいか ら大腿か臀部の皮膚を少し移植するかも知れないな。現状では、深呼吸など出来ない だろうから縫合だけでいいだろう』 『移植ですか……』 『ドクターにもよるよ。縫合だけだと、完治するまでは皮膚が突っ張って痛むから、 俺だったら移植して楽に呼吸ができるようにするね。他の部位と違って、寝ている間 も呼吸しなきゃならんからな。痛みがあったら眠れないだろう』 『そうですね』 『美智子君。針と持針器、それと三号絹糸を頼む』 『かしこまりました』  美智子は、再び手術キットから、要望された器材を取り出し、トレーに乗せて軍医 に手渡した。  傷口を手早く縫合しながら、 『機長。運が良いのか悪いのか判らんが、悪運だけは強いみたいだな』 『まあね、いろんな奴から言われてるよ』 『よし、完了したぞ。できる限りの応急手術はやった。後はすでに組織に入り込んだ 細菌の繁殖がひどくならんように祈るんだな。ここは無菌室ではないからこれだけは 俺にはどうしようもない』 『軍医殿、お手数かけました』 『こんな傷、実際の戦場に行けばかすり傷みたいなもんだが、取り敢えずはそばで観 察しているよ』 『それでは私は、お嬢さまに報告してきます』 『よろしくお願いします』  麗香が飛行機を降りてくると、早速絵利香が駆け寄ってくる。 「麗香さん。機長の容体は?」 「はい。命には別状はありません」 「よかった……」  ほっと安堵のため息をつく絵利香。 「ところで梓お嬢さまは、どちらに?」 「それが、島を探索するとかいって、慎二君と一緒に奥の方に行ったきり戻ってこな いのよ」 「本当ですか? それはどれくらい前ですか」 「もうかれこれ一時間くらい経つかしら」 「まずいですね」 「慎二君と一緒だから?」 「そうではありません。この島の地形のことを言っています」 「地形?」 「一帯は石灰質の珊瑚礁です。おそらくあちらこちらに風穴が開いている可能性があ ります」 「いわゆる鍾乳洞みたいに?」 「はい。地上から見ただけでは、下の状況は判りません。地盤の薄くなった所を踏み 抜いてしまったら、奈落の底に落ちてしまいます」 「みんなで探しましょうか?」 「それは考えものです。どこに風穴があり地盤の薄いところがあるのか判りません。 二重遭難の危険がありますので、もうしばらく様子をみましょう。あるいは野暮なこ とをしてしまう場合だってありますから」 「そうね、いい雰囲気になって、時間の経つのも忘れているってこともあるのね」 「取り敢えずお二人の捜索は、船が迎えに来るのを待ってから行動に移りましょう」

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2018年1月21日 (日)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 VII

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                VII  その頃、再び指揮官席に付いたアレックス。 「敵艦との接触推定時刻は?」 「およそ八時間後、0507時です」 「よろしい。各艦に伝達、三時間交代で乗員を休息させ、0307時には戦闘配備に 入れ」 「了解、伝達します」  パトリシアが戻ってきた。 「任務に復帰します」 「ああ、パトリシアか。済まないが携帯食を持ってきてくれないか」 「判りました」  取って返して艦橋を出て行くパトリシア。  パトリシアは食堂へ歩いていた。  交代休憩を与えられた隊員達が食堂へ続く通路を行きかっている。 「まずは腹ごしらえしようぜ」 「しかし生きた心地がしなかったな」 「指揮官がベンソン艦長だからか?」 「いや、艦長のことは信用しているよ。何せ司令官の士官学校時代から旗艦艦長を務 めてきたんだし、指揮運用を任せる限りには、それなりの能力を持っているのだろう と思っているさ。ただね、ちょっと今回ばかりは、危険率が高かったからな」 「まあ確かに、模擬戦闘のベネット十六星雲強行突破作戦以来ってとこかな」  そんな会話を耳にしながらパトリシアは思った。  アレックスは、スザンナを艦長としてではなく、指揮官としての能力を見出し、戦 術士官ではない彼女に、いろいろと教育しているのだ。それを確たるものにするため に、あえてスザンナにスハルトの重力ターンの指揮を執らせたのだ。  このわたしではなくスザンナという事が気になっていた。戦術士官としての教育を 受けているこのわたしに指揮を執らせてくれても良かったのではないか。  と考えているうちに気がついた。  もしかしたらスザンナに嫉妬しているのではないだろうか。  戦闘に際し私情は禁物だ。  改めて冷静になって考え直してみる。  パトリシアは艦隊勤務新入生だ。指揮官としての経験が浅く、まだ一人きりで指揮 を任せられるほど成長していない。その点、スザンナは常日頃から巡航時での艦隊運 用の経験があり、アレックスが見抜いている通り指揮統制能力が十分備わっているの は明らかだった。  艦隊運用に必要なものは、司令官の能力もさることながら、それを実行する有能な 指揮官が必要だ。より多くの指揮官を得るためには候補性を育てる事も肝要だ。その 最短距離にあるのがスザンナだった。指揮統制能力では、今のパトリシアよりもはる かに高い位置にあるのは確かだ。  それに何よりアレックスがいつも言っていた言葉を思い出した。 「パトリシア、君には艦隊指揮よりも作戦参謀として活躍してもらいたい」  アレックスは言う。人にはそれぞれ違った能力特性を持っている。最前線で目の前 の敵と戦い抜くのが得意な者がいれば、それらの兵を指揮する用兵に長けた者もいる。 そして作戦立案を考える参謀に適した者もいる。適材適所、それを見誤ったらいかに 有能な人材であっても、ただの無駄飯ぐいになってしまうのだという。  そうなのだ。スザンナに嫉妬しても詮無いこと。スザンナにはスザンナの、パトリ シアにはパトリシアの適材適所というものがあるはずだ。

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2018年1月20日 (土)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 軍医の診察

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(六)軍医の診察 『おお、ここは冷房が効いているのか、助かる』  コクピットに入るなり、その涼しさに感涙している軍医。派遣される野戦場や病院 には冷房設備などあるはずもなく、汗だくだくで治療するのが常だったからだ。或は 全くその正反対かのどちらかである。 『機長、傷口の痛み以外に、何か体調に異常は感じないか』 『大丈夫みたいだ』 『そうか、ならいい。今から神経ブロック麻酔をしてやる。脊椎注射だからちょっと 痛いが我慢してくれ。麻酔が効けば楽になるからな』 『ああ……』  ここへ来るまでに麗香からおよその症状を聞き出している軍医は、まず最初に何を すべきかを理解していた。 『麗香君、包帯を解いてくれないか』 『判りました』  麗香が包帯を解きはじめると同時に、診察を開始する軍医。 『美智子君とか言ったかな、注射器の用意をしてくれ、それとプロカインのアンプル を出して。手術キットの中に必要器材が全部入っている』 『はい』  看護士の資格と経験のある美智子は、少しの迷いもなく脊椎麻酔用の大きな注射器 と針、そして局所麻酔剤のプロカイン(コカインの誘導体・副作用が少ない)のアン プルを用意していく。もちろん手術用の薄てのゴム手袋着用や器具の消毒も怠ってい ない。  その間に軍医は、脈拍や心肺聴診・瞳孔検査など必要初診を続けている。 『包帯が取れました』 『よし』  早速傷口の状態を確認している軍医。 『うーん。これはひどいな……しかし、肺肋膜はまだ感染していないようだ。なら助 かるかも知れん。機長、以前に肋膜炎を患ったことがあるだろ』 『え? よく判りましたね。その通りです』 『肋膜が胸壁に癒着しているからな。普通、肋骨骨折で皮膚を貫通する傷を負えば、 肺の虚脱と縦隔の振せんが起きて、呼吸困難に陥るのだが、肋膜の癒着で助かってい る。過去の病気に救われたな』  胸腔の内面は、二枚の肋膜(胸壁肋膜と肺肋膜)で覆われており、生理的に肺と胸 壁の間には僅かの隙間がある。さらに肺は、呼吸の状態に関わらず常に大気圧よりも 低圧になっていて、呼吸の手助けにもなっている。ところが皮膚を貫通して肺にまで 達する傷(開胸)を負うと、低圧の肺が大気圧に押されて萎縮(肺虚脱)、呼吸困難 になるのだが、肋膜の癒着があると萎縮が抑制されるわけだ。  また縦隔の振せんとは、左右の肺を隔てている隔壁(縦隔)が、肺の虚脱によって 呼吸のたびに移動する症状のことである。縦隔には、心臓や大血管・気管・食道など が収められているが、この振せんによって心臓や大血管などが、圧迫されて呼吸・循 環障害を引き起こす。  このために、開胸手術には低圧室による手術や気管カテーテル加圧呼吸法など、肺 の虚脱を回避する手術法が不可欠である。 『軍医殿、注射の用意ができました』  美智子がトレーに器材を乗せて持ってくる。 『おお、よし。麗香君、機長の身体をずらして背骨側を横に向けてくれ』  軍医が麗香に向かって指示する。 『はい。かしこまりました』 『いいか、そっとだぞ、そっと』 『はい』  麗香が指示通りに機長の身体を横に向けていく。 『ところで鎮痛剤を飲んでるそうだが、薬のパッケージを見せてくれ』  軍医の問い合わせに、乗務員が薬箱からパッケージを取り出して見せる。 『はい、これです。約一時間前に定量を飲んでもらいました』 『ふーむ……。なるほどね』  鎮痛剤の薬効成分と量に応じて麻酔薬の量も加減しなければならない。パッケージ に記された薬剤の種類と量を確認してから注射器を取り、アンプルから適量分を取り 出している。 『機長、これから注射するが痛くても絶対動くなよ、心臓に繋がる交感神経がすぐそ ばを通っているんだ。ちょっとでも位置がずれると心臓麻痺を起こすぞ』 『わ、わかった』 『事前麻酔としてチオペンタールを静注すれば痛みを緩和できるんだが、こいつは呼 吸中枢を抑制するから、肺機能の低下している現状ではやばいんだ』  静脈注射麻酔チオペンタールは、バルビツール酸誘導体の一種で、直接の鎮痛作用 はほとんどないが、強い睡眠作用を持っているので、その睡眠の間に手術を行うこと が出来る。複雑な機器を使用することなく簡単に麻酔効果を期待できるので、野戦場 などで活躍する軍医の常備麻酔剤だ。しかしこれ単独のみで麻酔作用を利用できるの は、五分以内の短時間の手術に限られる。  ちなみにチオペンタールは、アメリカでは死刑執行に際して意識を喪失させるため に使用していたが、製造中止を受けて代替品が使われることとなった。  背骨を触診しながら注射ポイントを探っている軍医。 『君、ここを消毒してくれ』  注射ポイントを探り当てて、消毒するように言う軍医。 『はい』  美智子は、消毒綿をピンセットに挟んで、軍医が指差す箇所を消毒する。 『二人とも、動かないように押さえていてくれ』 『はい』  機長の身体を両側から押さえる麗香と美智子。 『よし、注射するぞ』 『ああ……』  ぐいと注射器を背骨に突き刺す軍医。

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2018年1月19日 (金)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 VI

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                VI  サラマンダー艦橋。 「近日点付近の危険ゾーン通過に要する時間は、およそ二十五分。防備の薄い駆逐艦 を守るために、戦艦・巡洋艦を恒星に対して内側になるように部隊編成を行います。 急いで」  スザンナが指令を出しはじめていた。  メインスクリーンには巨大なプロミネンスを吹き上げる灼熱のスハルト星が映し出 されている。その強力な重力が艦体を歪め、至る所で軋み音を上げていた。  ここまで来てはもはや躊躇は許されなかった。その時点での自分が考えられる最良 の指示を出し続ける他にはなかった。もし間違っていれば中佐殿が訂正してくれるは ずだ。アレックスのその存在感は絶大だった。 「全艦、耐熱シールド展開」 「武器系統の動力をすべてカットして、パワーを機関に回して」 「機関出力をオーバーリング状態にして、速力を一定に保って下さい」  次々と指令を出し続けるスザンナ。  一息をつく暇もない。いくらコンピューターが算出したコース設定通りに艦隊リモ コンコードで全艦一斉移動しているとはいえ、逐一コースの修正を行わなければなら なかった。なぜなら地点地点によって重力値が微妙に変動するし、黒点や白斑そして プロミネンスの状態によって、その放射圧力が極端に変化するからだ。  戦闘の指揮がどれほど大変かを痛感した。  中佐も戦闘の度にどれほどの精神をすり減らしていたかが実感できた。しかも今の 自分の相手のスハルトは、弾を撃って来ないだけまだ精神的に余裕があると思った。 最悪ならば作戦を放棄してスハルトから脱出することもできる。しかし敵艦隊との戦 闘では相手は黙って通過を許してはくれないし、見逃してもくれない。ビーム砲は撃 ってくるし、ミサイルも発射してくる。どう出てくるか判らない相手の行動を推測し、 寸秒刻みで的確な判断を下さなければならないのだから。  その尊敬する司令官アレックス・ランドール中佐は、ただ静かにスザンナを見守っ ていた。 「指揮官。一部の駆逐艦が出力不足で予定コースから外れていきます」 「艦数は?」 「十二隻です」 「十二隻か……。仕方ありませんね。当該駆逐艦に作戦変更を伝達、敵追撃作戦を断 念して帰投コースに戻れ」 「了解。当該駆逐艦に帰投命令を出します」  スザンナは一部艦艇を離脱させる命令を躊躇しなかった。恒星スハルトの強大な重 力圏内で無理なコース変更をすれば機関不良を起こして失速、スハルトに飲み込まれ てしまう。作戦に勝利するよりも部下の生命を大切にすることは、ランドール司令の モットーだ。それを忠実に実行しているのである。ランドール中佐は動かない。つま りスザンナの判断が間違っていないということだ。 「近日点を通過します!」 「よし、全艦機関出力最大、全速前進。スハルトの重力圏から離脱する」 「全艦機関出力最大」 「全速前進」 「重力圏離脱します」  それから二十分後。 「追撃コースに乗りました。先の十二隻以外には脱落艦はありません」  ふうっ。  と大きなため息をつくスザンナ。  その肩に手が置かれた。 「よくやった。完璧な指揮だったよ。これで戦闘指揮もこなせることが判った。今後 も君には期待している」  アレックスだった。満面を笑顔を見せて、スザンナの采配振りを誉めちぎった。 「ありがとうございます」 「交代だ。休憩してきたまえ」 「判りました。休憩してきます」  ほんとうは艦長として、引き続き操艦したい気分だった。  しかし命令であり、休憩する事も重要な任務の一つだ。  部屋に戻り、タイマーを六時間後にセットしてベッドに入ると、あっという間に寝 入ってしまった。自分では気づかなかったが、精神的疲労は極限にまでになっていた のであった。死んだように深い熟睡の眠りに陥った。

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2018年1月18日 (木)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 軍医到着

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(五)軍医到着  不時着した飛行機から、非常縄梯子を使って梓と絵利香が降りてくる。麗香はすで に降りていて、救命ボートの準備をしている乗務員の指揮を執っている。  命を失い掛けている機長がいる。それを救うために十分以内にやってくる軍医を迎 えるべく、救命ボートとその乗員が最優先で降ろされたのである。 「まもなく来ると思います。環礁の切り口付近で待機していてください」 「はい」  小型発動機付きの救命ボートがエンジンを鳴らして、飛行機が開けた環礁の切り口 へと出発する。それを見送る梓達。  一方飛行機の昇降口では、 「いやん。結構高いよ。タラップとかはないの?」  高所恐怖症の美鈴がぐずっている。 「あるわけないでしょうが。早く降りなさいよ。機内は空調が切れて蒸風呂状態なん だから」  明美が急かす。 「だってえ……」  簡単に降りられる脱出シュートもあるのだが、それだと再び機内に戻れないので、 縄梯子を使っているのである。なお後部脱出口は損壊して利用できなかった。 「窓が開けられればいいのにね」  とこれは、かほり。 「開くわけないでしょ。高高度を飛ぶのに気圧の関係とか、客が不用意に開けないよ うに機体に固定されてるんだから。ほれほれ、あなたも、早くしなさい。後ろがつか えてるんだから」  そして美智子である。 「おーい。早くしてくれよお」  こういう場合は、レディーファーストである。慎二は最後まで残されていた。  やがて島の上空にジェット機が飛来する。 「来たわ」  復坐機の後部座席から緊急脱出装置を使って飛び出してくる軍医と思しき人影。そ の直後には、機体の下部荷物室から荷物が射出される。軍医も荷物も、パラシュート が開いてゆっくりと降下をしてくる。  環礁に待機していた救命ボートが、すぐさま回収に向かう。  ものの五分で救命ボートが軍医を連れて引き返してくる。 『早速だが、患者に会わせてくれ。一分・一秒を争う』  乗員から機長の容体を聞いていたのであろう。挨拶もなしにいきなり診療行動に入 ろうとする軍医。 『こっちです』  麗香が軍医と共に縄梯子を伝って上がっていく。  絵利香が心配そうにその後ろ姿を追っている。 「軍医が来たから、もう大丈夫だよ。心配しないでいいわ」  絵利香の肩に手を置いて慰めている梓。 「うん……」 「お母さんが手配した軍医だもの。ベテラン中の名医に違いないからね」  飛行機の昇降口。出迎えるように美智子が戸口に立っている。他の者が地上に降り 立ったにも関わらず、一人居残っていた。 『美智子さん。あなた、看護士の資格を持っていたわね』  軍医の到着と同時に麗香たちの会話が英語に変わっていた。ちょっとした情報でも 軍医に理解できるようにである。 『はい』 『丁度良かったわ。手伝って頂戴』 『かしこまりました』  どうやら診療の手伝いをするために、あえて残っていたようだ。

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2018年1月17日 (水)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 V

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                V  アレックスは自室へ向かい、スザンナとパトリシアは再び艦橋に戻ってくる。 「まずは第一関門の第七惑星での重力ターンにかかりましょう」 「そうですね。中佐の期待に応えましょう」  パトリシアは、スザンナに指揮官席に座るように促し、自身は副指揮官席に座った。  重力ターンの発案者であるスザンナが直接指揮した方が良いとの判断である。  戦闘指揮ではないので、スザンナでも十分担えるだろう。 「指揮系統をこちらに戻します。第二艦橋に連絡してください」 「了解、指揮系統を第一艦橋に戻します」 「オニール少佐と、カインズ少佐に連絡してください」  パトリシアが指示を出すと、通信用のモニターに両少佐が映し出された。 「これから最初の重力ターンにかかります。準備をお願いします」  さすがに女性らしい配慮だった。  アレックスなら、指揮官席から命令を下すだけで、いちいち配下の指揮官達に連絡 を取ったり、状況説明したりはしない。自分達の方が階級が下ということもあるだろ うが、それ以上に作戦指示には女性らしい配慮が見られた。 「判った。ところでパトリシア、中佐殿は本気で昼寝か?」  艦橋にアレックスの姿が見えないのを確認してゴードンが尋ねた。 「はい。たぶん……」 「そうか……判った」  少し苦笑の表情を浮かべながらも納得して答えるゴードン。 「カインズ少佐も宜しいですね」 「こちらは準備オーケーだ。いつでも良い」  カインズは例のごとく無表情だ。アレックスの性分はすでにお見通しだ。 「それではよろしくお願いします」  通信が切られた。  アレックスが昼寝するといった発言と行動に対し、意見具申するものは一人もいな かった。そう、彼の本領が発揮されるのは、敵艦隊との戦闘がはじまってからである。 それまでに十分の気力を蓄えるための休息に、意義を挟むことはできないだろう。 「これより第七惑星による重力ターンを行う。艦隊リモコンコードに乗せてコース設 定を送信する。全艦受信を確認せよ」  すぐさま最初の重力ターンにかかる。タイミングを間違えるとコースが変わってし まうから、艦隊リモコンコードを使って全艦一斉に行動するに限る。  メインスクリーンに全艦艇が赤い光点として表示されている。それがリモコンコー ドを確認したことを示す青い光点に切り替わっていく。 「全艦、リモコンコードの受信確認終了しました」 「よろしい。では、重力ターンのオペレーションを開始してください」 「了解。重力ターンのオペレーションを開始します」  リモコンコードによる艦隊行動は、すべて戦術コンピューターにインプットされた プログラムに従う。ゆえに指揮官が指示を出すことも、オペレーターがいちいち機器 を操作することもない。行動が終了するまで見ているだけである。  全艦が一斉に一矢乱れぬ行動を開始した。  重力ターンに入るには、ほんの少し軌道修正をするだけで済むから、敵の重力加速 度検知機に掛かることはない。 「重力ターンのコースに乗りました。全艦異常なし」 「よろしい。引き続き第三惑星への重力ターンの準備に掛かれ」 「了解。第三惑星、重力ターンの準備にかかります」 「コース設定を計算中」  ちなみに過去に地球から打ち上げられた【ボイジャー2号】では、平均軌道速度13. 0697km/sの木星に対して11km/sの重力加速を得られている。  六時間後、アレックスが戻ってきた。 「状況はどうか?」 「全艦異常ありません。第七惑星と第三惑星の重力ターンを完了し、これより二十分 後にスハルト星による重力ターンに入ります」 「そうか……。パトリシアご苦労だった。休憩に入りたまえ」 「はい。休憩に入ります」  パトリシアが副指揮官席を立ち上がって艦橋を退室して行く。 「スザンナは、そのまま指揮を続けてくれ。後で交代する」  と指示して、空いた副指揮官席に座る。 「わかりました」  ここからが問題だわ……。  スザンナはアレックスの方を見やったが、一向に指揮を変わる気配を見せていなか った。どうやらスハルト星の重力ターンという重役までも任せる一存のようだった。 少しでもコース設定や操艦ミスがあれば、スハルトの強大な重力から脱出できずに艦 隊が自滅してしまう。艦隊とそこに従事する大勢の乗員の生命がスザンナの指揮に掛 かっていた。  それだけ自分を信頼してくれているという事だ。  もし重大な判断ミスを犯した時は、すぐさま命令訂正をするために副指揮官席に陣 取っているとは思うが……。それでも艦隊を自分が直接操れるのには変わりがない。  士官学校時代からずっとアレックスから切望されて艦長を務めてきた。そして艦隊 指揮官としての経験の機会を与えられ、これまで無難にこなしてきた。  そして今、戦闘体制での恒星スハルトの重力ターンを指揮している。  スザンナは胸が熱くなった。  ウィンディーネ艦橋。  ゴードン・オニール少佐はスザンナの指令に従って部隊を動かしていた。 「スザンナは、ここまでは無難に指揮運営しているな。どうやら中佐は、スハルト星 での重力ターンも指揮させるようだ。となると大変だな……」  副官のシェリー・バウマン少尉が答える。 「そうですね。侵入角度を間違えて深く突入してしまえば溶けて消えてしまうし、さ りとて浅すぎれば敵艦隊を追尾するコースに乗り切れない。いくら艦隊リモコンコー ドで進行するとはいえ、」 「スザンナのお手並み拝見だな」 「しかし中佐殿は、なぜ艦隊運用の教練を受けていない一般士官の旗艦艦長に、任せ きりにしているのでしょうか? 戦術士官のウィンザー中尉もいらっしゃるのに」  並び立っている航海長が疑問を投げかけた。 「艦隊運用ができるのは、何も戦術士官でなくても、その能力を有している人間は幾 らでもいる。民間の例で言っても、義務教育すらまともに卒業していない者が会社を 興して発展し、最高学歴の者が平社員で働いているというのは良くある事だ。中佐は、 スザンナの中に秘めたる能力を見出しているのさ。だから、艦隊の指揮統制を任せた り、作戦会議にオブザーバーとして参加させてきた。スザンナも中佐の期待に応える ような素晴らしい働きをしている。それはこれまでの経歴が物語っているじゃない か」 「それはそうですけどね……」 「それとも何か? もしかして女性に指揮されるのが、気に食わないんじゃないだろ うな。もしそうなら偏見だぞ。今すぐにでも改心した方がいい」 「いいえ、そんな考えはありません」 「なら、いいが……」 「にしても司令は昼寝するとか言ってたそうですが、本気ですかねえ」 「ああ、たぶん本気だよ。いざ戦闘になれば、一時も休み暇もなく頭脳をフル回転さ せなきゃならん。何せ全艦隊・全乗員の生命が掛かっているのだからな。その精神力 の消耗は凄まじいものだ。一秒の指示の遅れが勝敗を決する事もある。戦闘時の一時 間は平時の一日に相当するくらいのエネルギーが必要だ。だから部下に任せられる今 の内に休んでおくわけだ」

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2018年1月16日 (火)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 機長

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(四)機長  コクピット。  客室乗務員が機長達の介抱をしている。コクピットには、操縦桿や各種のレバー類 など突起物が多いので、胸を強打したりして怪我は免れなかったようである。  副操縦士は軽傷だったらしく、無線連絡と機器の確認を続けている。 「機長。肋骨が折れているようです。救援が来るまで絶対に席を動かないでください」  着陸の衝撃で身体が前方に投げ出され、胸部が操縦桿のハンドルを基部の根元から 折り、その基部が胸部を貫いたのである。 「息はできますか?」 「ああ、何とかな。幸いにも肺は突き破っていないようだ」  あえぎながら答える機長。骨折では息をする度に肋骨に痛みを生じて、かなり辛い ようだ。声もかすれて聞き取りづらい。 「とにかく絶対安静です。折れた肋骨が肺や心臓を突き破らないようにしなくてはい けませんから」  機内の設備では、せいぜい当て木と消毒しかできない。傷口が大きく開いているの で縫合も不可能である。傷口を消毒しガーゼを当てて、細菌感染を防ぐという応急処 置しかできない。 「お嬢さま、お怪我はありませんでしたか」  コクピットに現れた絵利香を気遣う機長。自分の方が肋骨を折る大怪我をしている というのに、ご令嬢の絵利香のことを気遣っている。 「わたしは大丈夫です。機長こそ、傷の具合は?」 「肋骨が折れています。絶対安静です」  乗務員が機長に替わって答えた。  絵利香はコクピットを一時退室して、乗務員に機長の容体を確認した。 「機長はどうなんでしょうか?」 「問題は、細菌感染です。傷口が皮膚を突き破って、内臓部にまでに達していますか ら、細菌が内臓を汚染しはじめたら助かりません。しかもこの暑さ、細菌繁殖も活発 です。一刻も早い救助が必要です」 「そう……冷房は?」 「バッテリー駆動でコクピットだけに冷房を入れています。エンジンが停止していて 機内全体を冷房することができません。電気の続く限りコクピットだけに冷房を利か せたいと思います。よろしいですね?」 「もちろん、そうしてください。梓ちゃん達には、暑さは我慢してもらいましょう。 そしてコクピットへの出入りは必要最小限に」 「問題はもう一つあるんです」 「もう一つ?」 「呼吸をどこまで続けていられるかです。息をして肋骨が動く度に激痛があるんです。 息をし、激痛に耐える気力・体力がどれだけあるか。腹式呼吸してもやはり肋骨は動 きますから」 「麻酔は?」 「医者がいないので処置ができません。麻酔薬はあることはあるんですが、適量も判 らずに素人処置すれば、死に至る可能性があります。今の状況では自発呼吸は無理で しょう。意識を確かに維持しつつ、痛みに耐えながらも自力で呼吸するしかないんで す。つまり下手に麻酔を処置して眠ってしまったら呼吸が止まってしまうんです。取 り合えずの鎮痛剤を飲んでもらってるだけです」 「ここは梓ちゃんに何とかしてもらえないかな……」  完全に覚醒している梓。悪運強く無傷状態の慎二もそばに来ている。 「お嬢さま、携帯電話をお貸し願えませんか」 「いいわよ。はい」  ハンドバックから携帯を取り出して麗香に渡す梓。 「おい。こんな太平洋のど真ん中で携帯が使えるのか?」 「さあ……、日本以外では、ブロンクスの屋敷前で一度使ったことあるけど」 「これは、国際衛星通信を使用している携帯電話なんです。世界中どこからでも使用 できます」  と説明しながら、早速電話を掛け始める麗香。 『麗香です。そう……お嬢さま方はご無事よ。航路は追跡してたわよね。位置は…… そんなにずれたの? 最も近くを航行している船舶を大至急こちらに回して……それ で構わないわ。三時間後ね、わかった。後、島に不時着したDCー10型機を回収で きる、工作船かタンカーも手配して頂戴……。三日かかるのね、わかったわ』  引き続き次の場所に連絡を取る麗香。英語の会話になっているのは、国際衛星通信 だからだろう。 『麗香です。はい、お嬢さまはご無事です。代わります』  携帯を受け取って話す梓。 『お母さん……うん、どこも怪我してないよ。ぴんぴんしてる。うん……やっぱりお 母さん、動いてたんだ。たった三時間で船を廻せるなんて、そんなに都合いいことな いもん……。予定コースをずれた時点から? ん……ちょっと待って』  そばに深刻な表情の絵利香が立っていた。 『なに?』  母親との話しの続きからか英語で尋ねる梓。絵利香も英語で答える。 『お母さんとお話ししてるの?』 『うん、そうだよ』 『頼みたいことがあるんだけど、いいかな』 『どういうこと?』  絵利香は事情を説明した。そしてその内容をもらさず渚に伝える梓。 『え? でも……わかった』  携帯を閉じる梓。 『どうなの?』  心配顔で尋ねる絵利香。 『ごめん、絵利香ちゃん。三時間以内にここまで来られる救助ヘリはないって。今こ っちに向かってる船には、ちゃんとした手術室とドクターがいるから、それまで待っ ていなさいって』 『そう……しかたないわね。ここ島だからジェット機は着陸できないものね』 『ああ、でもね。十分以内にジェット機で軍医を連れて来てくれるそうよ。この島ま でジェット機で飛んで来て、落下傘で降りてくる手筈になってるそうよ。せめて医者 がいれば、応急手術ができて最悪の事態は避けられるだろうからって』 『軍医が来てくれるの?』 『うん。お母さん、太平洋艦隊司令長官と懇意だから。多少のことなら無理も通るの』 『そう……』 『さ、軍医さんを迎える準備しましょう。救命ボートを出さなきゃね。島には降下で きる場所ないから海への着水になるものね』

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遠近がめちゃくちゃだね(;・∀・)

インターポット

不思議ですねえ……。

「コイコイ紅葉の山」と太鼓橋を大地設定した場合、
紅葉の山の後ろに太鼓橋が隠れてしまうという現象。
しかも、前方側の海岸線を歩くアバターよりも、
後方側の太鼓橋を歩くアバターの方が大きく表されている。

それぞれ、紅葉シリーズと浮世絵シリーズなので、
シリーズが違えば、設定も違うということか……。

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2018年1月15日 (月)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 IV

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

               IV  十数分後、艦橋にアレックスが戻ってきた。 「現在の状況は?」  アレックスの入室を認めて、指揮官席を譲るために立ち上がるスザンナ。敬礼しな がら報告事項を伝える。 「旗艦サラマンダー並びに全部隊航行異常ありません。現在位置はスハルト星系第八 番惑星軌道上を巡航速で航行中。敵艦隊は、スハルトの向こう側第六番惑星軌道上で す」 「うむ。ご苦労様」 「司令。参謀達が揃いました。」  パトリシアが報告する。 「わかった。スザンナ、君も一緒に来てくれ」 「判りました。では、艦の指揮を第二艦橋に移行します」  第二艦橋は、第一艦橋が機能しなくなった時のための補助的な部署で、司令補佐の アンソニー・リーチフォーク大尉が指揮を執っている。毎度のことながら作戦会議に スザンナを出席させるアレックスに従い、指揮官のいなくなる第一艦橋に代わって、 その機能を第二艦橋へ移行させたのだ。  第一作戦司令室に集まった参謀達。  パトリシアが勢力分布図を指し示しながら状況説明をしている。 「……というわけだ。ここはどうすべきだと思うか?」  アレックスは皆に意見を聞いている。 「ここはスハルトの重力圏内です。コース変更には敵艦隊に位置を知られる危険性を 伴います。どうやら敵は気づいていないようですから、このままのコースを維持して いけば敵と交戦することなく離脱できるでしょう。現在の状況では戦うよりも逃げる のが得策だと思います」  最初に口を開いたのはカインズだった。 「わたしも、カインズ少佐のおっしゃる通りかと思います。戦うとなれば敵にも位置 を知られて正面決戦となるのは必至。艦数がほぼ同数なら、被害も同数になるでしょ う。ニールセン中将に睨まれていて、艦艇の補充がままならぬ現状での消耗戦は避け るのが尋常かと思います。奇襲を掛けてというのでなければ……」  と賛同を表明したのはジェシカだった。  その他の参謀達の意見も一致していた。奇襲でなければ戦闘は避けるべきと言うも のだった。 「スザンナ、艦長としての君の意見を聞こうか」  突然、オブザーバーとして参列しているスザンナに意見を聞くアレックス。 「はい。恒星系の重力圏内でコース変更を行い、加速して敵艦隊に追い付くには、か なりの燃料を消費することになります。しかも重力加速度計に感知されますから、奇 襲は不可能です。位置関係を保ちつつ、最大速度で恒星系を脱出するのが常套で得策 かと」 「まあ、そうだろうな。一番無難だ」 「ですが……敵を叩く策がないでもありません」 「言ってみたまえ」 「よろしいのですか? ここには参謀の方々もおられますし、一艦長でしかない私が 口を挟むのは、越権行為かと思います」 「気にしないでいい」 「それでは……」  といいつつ、指揮パネルを操作するスザンナ。 「進行ルートを表示します」  前方のスクリーンに恒星系のマップと艦隊相関図、そして部隊の進行ルートが示さ れた。 「敵艦隊に追いつくために加速すれば、敵の重力加速度計に検知されてしまいます。 まずは、第七惑星を利用して重力ターンとフライバイによる加速を行い、さらに第三 惑星でも同じようにフライバイ加速を行って、恒星スハルト近接周回軌道に乗ります。 近日点通過と同時に機関出力最大で加速して、背後から敵艦隊を追尾開始。この際に も恒星を背にして行動しますので、恒星の磁場や恒星風などの影響を受けて探知は難 しいはずです。悠々と敵の背後を襲うことが可能でしょう」 「随分と遠回りをすることになるな」 「ですが、敵艦隊に対して常に恒星の影となるコースを取ることになりますので、察 知される危惧を最少に防ぎながら接近することが可能です。フライバイや重力ターン による加速や軌道変更では重力加速度計では探知できません」 「急がば回れということだな」 「はい」 「ふむ……パトリシア。作戦参謀としての君の意見は?」 「ベンソン艦長のプランは十分遂行可能だと思います。問題があるとすれば、近日点 付近を通過する際、恒星からの熱に各艦の耐熱シールドがどこまでもつかということ です」 「ということらしいが、その辺のところはどうだ。スザンナ」 「はっ。もちろんそれは、旗艦サラマンダー以下、最も軽備な駆逐艦に至るまで、安 全限界点を踏まえたうえで、十分考慮してコースを設定します」 「ふーむ……」  と少し考えてから、 「ゴードンはどうだ?」 「いいんじゃないですかね。もしスザンナの言う通りに奇襲を掛けられるというのな ら反対はしません」  一同を見回してその表情から賛否の意志を読み取ろうとするアレックス。 「我々の勢力圏内を行動しているのは何か特殊な任務を帯びている可能性があるとい うことだ。黙って見過ごすわけにはいかない。決定する。スザンナの作戦を決行し、 敵艦隊を叩く」  ほう!  全員がため息をついた。 「よし。コース設定は、スザンナ。君にまかせる」 「はい!」 「パトリシアは、作戦立案のやり方を教えてやってくれないか」 「わかりました」 「敵艦隊との推定接触時間は?」 「およそ、十八時間後です」 「そうか、では第一種警戒体制のまま、乗員に交代で休息を取らせてくれ。私も六時 間ほど昼寝させてもらおうか。スザンナ、それまでの指揮を任せる」 「第七惑星での最初の重力ターンは三時間後になりますが……」 「それくらいの指揮なら、君にできるはずだ。いいな」  毅然とした態度で、指揮権をスザンナに託すアレックス。  そこまで信頼されては、期待に応えるしかないだろう。 「わかりました。指揮を執ります」 「うん。じゃあ、頼むよ。以上だ、解散する」

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2018年1月14日 (日)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 不時着

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(三)不時着  広大な太平洋に浮かぶ孤島、周囲を珊瑚礁がぐるりと囲んでいる。  その島を大きくゆっくりと旋回しながら高度を下げている飛行機のコクピット内。 「いいか、まずは珊瑚礁から離れた海表面に胴体着陸を試みる。極力水平かできれば 後部を下げるような状態で着水するんだ。そのため、フラップ角度とスロットル加減 を、コンマ秒単位で微妙に調整しなきゃならん。さらに勢いで珊瑚礁を乗り越えて礁 湖内に進入、そして島に乗り上げるようにして停止する」 「うまくいきますかね」 「そんな弱気でどうする。絶対に成功させる気概を持て。俺達が確認を怠ったせいで こうなったんだからな」 「そ、そうですね。お嬢さまがたをなんとしても助けなければいけませんよね。たと え着陸に失敗して機首が潰れても客室だけは無事に島に着陸させましょう」 「その意気だよ。幸いというべきか、燃料はほとんど皆無で爆発炎上はしないだろう から、着陸さえできればOKだ……」 「準備完了です」 「よし、ゴーだ」  客室。 「機首を下げた。いよいよ着陸するわ」  梓が声を上げると同時に機内放送が入る。 「これより着陸体制に入ります。お嬢さまがた、準備はよろしいですか? 着陸三分 前です」  放送を聞いて頭を抱えてうずくまる一同。 「ああ……神様、もし死んだりして生まれ変わるなら、再びお嬢さまのお側にお願い します」  美智子が祈りを上げている。 「あ、わたしもです」 「わたしも」 「右に同じです」  絵利香達や乗務員達が防御体制を取るなか、梓だけが一人ぼんやりと窓の外を眺め て思慮していた。  ……ここで死んだら、どうなるのかな? あたしの魂そしてもう一人の存在にして も…… 「一分前です」  窓の外に海面が見えてきた。機体が海面すれすれに飛行をはじめたのであろう。や がて大きく旋回をはじめ、傾いた主翼が巻き上げる海水の飛沫が窓を濡らす。 「三十秒前」  機体と海表面とが巻き起こす乱気流に、激しい震動がはじまっている。 「十秒前。まもなく着水します」  緊張の度合が限界まで高まる。心臓は張り裂けんばかりに鳴動している。 「着水!」  耐え難い震動が機内を揺るがす。歯を食いしばってそれに耐えている一同。喋ろう ものなら舌を噛んでしまうであろう。  島の砂浜に乗り上げて停止している飛行機。  飛行機が進んできた後には、珊瑚礁が深くえぐれている。  客室。  不時着のショックで気絶している一同。梓も例外なく前部シートの背もたれに突っ 伏している。 「お嬢さま、お嬢さま。大丈夫ですか?」  その声に次第に意識を回復していく梓。 「う、うーん……」 「お嬢さま」 「あ、ああ……麗香さん」  はっきりと目を覚まして、麗香に答える梓。 「お怪我はありませんか? 痛いところは?」 「どうかな……」  立ち上がり通路に出て、屈伸運動などしながら身体に異常がないか確認している。 「どうですか?」 「うん。大丈夫みたい」 「良かったですね。でも、この島を脱出して内地に戻られましたら、念のために精密 検査を受けましょう。交通事故などでも数ヶ月経ってから、鞭打ち症状が出ることも 良くありますから」 「わかった……ところで、絵利香ちゃんは?」 「はい。先に気がつかれて、お嬢さまを起こそうとしておられましたが、後を私に託 されて、機長を見にコクピットの方へ行かれました」 「そっか。やっぱり気になるんだろうね」

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見事なオールリーチ流局

これで何度目か……。
期待だけさせて、ビンゴはさせないクソ運営。
時間の無駄だな。
そして、放置民が増えてゆく。
特に入会したての方は、数回試しただけで退会していくのだろう。

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2018年1月13日 (土)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 III

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                 III  その頃第一艦橋では、スザンナ・ベンソンが、巡航速体制下における部隊の指揮を 執っていた。パトリシアも副指揮官席に陣取っている。  このところアレックスが席を外している時は、スザンナが指揮、パトリシアが副指 揮という体制が続いていた。スザンナは艦の操艦だけでなく、艦隊の指揮能力もかな りの素質があり、パトリシアをも上回ることをアレックスは見抜いていた。それゆえ に極力スザンナに指揮を任せるようにしていた。もっともパトリシアは艦隊の指揮よ りも、作戦参謀としての能力が高い。適材適所ということで、この二人のコンビネー ションはなかなかのものであった。巡航時と戦闘訓練ではこの二人に任せることが多 かった。 「まもなくスハルト星系重力圏内に入ります」 「機関出力を惑星間航行出力へ」  思えば……士官学校時代からずっとアレックスの乗る艦の操艦に携わってきた彼女 こそ、女性士官の有能さを再認識させ、アレックスに女性士官大量登用の道を開いた といえるのではないか。部隊の指揮を執るアレックスの側には、必ず彼女の姿があっ たのだから。  その時、突如として警報が鳴り響いた。 「哨戒機CP-402号機が、敵艦隊を発見」 「位置は?」 「スハルト星系第六番惑星軌道上にあって、恒星スハルトに対して丁度反対側を航行 しています」 「警報! 司令に連絡を取って」  艦内を警報が鳴り続けている。  何事かと近くの端末に飛びつくアレックス。  すぐさま艦橋に連絡される。 「艦長。ヴィジホーンに司令が出ておられます」  ヴィジホーンに映るアレックスが尋ねる。 「どうした、スザンナ。敵来襲か」 「恒星スハルトの反対側に敵艦隊です。まだ、こちらには気付いていないようです」 「勢力分析図を、こちらのモニターに流してくれ」 「わかりました。ただちに送信します」  ややあってから、アレックスから回答が返ってきた」 「今、受信した……」 「いかがいたしますか」 「そうだな……取り敢えず現在のコースを維持しつつ、恒星スハルトに対して常に点 対称になるように、敵艦隊との相対速度を合わせろ」 「わかりました」 「今からそっちへ向かう。全艦に、第一種警戒体制を敷いておけ。パトリシアは、参 謀全員を至急第一作戦司令室に招集させておいてくれ」 「はっ。第一種警戒体制を発令します」 「参謀全員を至急第一作戦司令室に招集します」  スザンナとパトリシアがほとんど同時に答えた。 「よし。それまで、そこを頼む」  通信がとだえるや、スザンナはアレックスに受けた命令を反復して、指令を出した。 「発令! 全艦に第一種警戒体制」 「了解。全艦に第一種警戒体制」  女性士官居住ブロック。  第一種警戒体制を告げる艦内アナウンスが続いている。 「というわけだ、レイチェル。査察は中止。一旦艦橋に戻るぞ」 「助かりましたね」  と、肩をすくめるレイチェル。 「そう言うことだ」  艦橋のパトリシアもゴードン以下の参謀達に連絡を取り始めた。 「全参謀に至急伝達。第一作戦司令室に招集」 「了解!」  巡航体制での指揮は執ったことがあるが、臨戦体制はまだ経験のないスザンナであ った。緊張して手に汗を握る状態ながら、それでもしっかりとした態度で指揮を執っ ていた。 「現在の我が部隊と敵艦隊の相対速度は?」 「はい。現在、速度ベクトルで、我が部隊の三パーセントのゲージダウンです」 「速度を上げる。機関出力増幅、8000デリミタ!」  とにかくアレックスが来るまで、持ちこたえなければならない。 「ウィンディーネのオニール少佐から通信です」 「繋いでください」 「繋ぎます」 「よう、スザンナ。今、敵勢力分析図を受信したが、恒星系に、反対側からほとんど 同時に進入したみたいだな。中佐殿は?」 「現在位置は、女性士官専用居住ブロック。急ぎこちらへ向かっております」 「女性士官居住ブロック?」 「定期巡回査察中だったようです」 「そうか……役得というところだな」 「ご用件は?」 「敵と交戦するかどうかを、確認したくてね。中佐は、何か言っておられたか」 「いえ。第一種警戒体制を発令するようにおっしゃられただけです」 「ふーむ……。ということは、どうやら一戦交えるつもりらしいな。今からそっちへ 行く」  通信を終えて、パネルスクリーン上に投影された、敵艦隊との相対図を眺めていた スザンナだったが、何を思ったのかコンピューターを操作しはじめた。 「これだけ接近していながら、双方のレーダーに引っ掛からなかったのは不思議です ね」  スザンナが呟くようにいうとパトリシアが答える。 「双方の侵入角度が、たまたま恒星スハルトを点対称となす位置関係にあったからで すね。間にあるスハルトが丁度邪魔をしているのでしょう」 「しかし、いずれ敵も哨戒機でこちらを発見するのは目にみえています」 「ともかく中佐殿が到着するまで、現在の位置関係を維持しましょう」 「そうですね。敵艦隊との相対速度を合わせます」

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2018年1月12日 (金)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 密航者

梓の非日常/第八章・太平洋孤島事件

(二)密航者  梓達のもとに戻ってくるなり、一同に寸部違わず報告をする麗香。 「何ですって?」  一番驚いたのが絵利香だった。  この自家用機の機長以下乗務員は全員、篠崎グループ傘下の篠崎航空から派遣され てきている。当然何か起きれば全責任は、篠崎が負うことになる。 「機長に会うわ」 「お待ち下さい。機長達は、全精力を注いで着陸できそうな島を探索中です。邪魔を してはいけません」 「そんなこと言っても、こんなことになったのは、わたしの……」 「絵利香さま、落ち着いてください。責任を感じていらっしゃるのは、良く判ります が、私達には機体を救う手だてはありません。とにかく落ち着いて行動することです」  というように絵利香を諭す麗香は沈着冷静であった。護身術などで培った精神修養 のおかげであろう。 「麗香さま、わたし達どうなるんですか?」  メイド達が青ざめた表情で尋ねた。 「今、機長達が着陸できそうな島を探しています。おそらく胴体着陸となると思いま す。救命胴衣を着用しなさい」 「は、はい」  震える手で出発前に教えてもらった通りに胴衣を着込むメイド達。 「さあ、お嬢さまがたもご着用ください」  麗香が手渡す胴衣を受け取りながら、 「それでコースがずれた原因はなんなの?」  なぜか落ち着いている梓が尋ねた。一度は死んで生き返った経験ゆえなのだろうか。 「はい。出発前に計量した荷物の重量と現在の重量に食い違いが生じているからです」 「どれくらい食い違っているの?」 「およそ八十五キロほど、重量オーバーしています」  八十五キロという数字を聞いて、ぴくりと眉間にしわをよせる梓。以前に慎二との会 話の中に、体重の話しが出た時のことを思い出した。 「へえ。梓ちゃんてば、四十五キロなんだ。軽いなあ。俺、四十キロ重い八十五キロ ね」  席を立ち、つかつかと後部貨物室へと歩いていく梓。 「梓ちゃん、どこいくの」 「梓さま、危険です。席にお戻りください」  貨物室のドアを、ばーんと勢いよく開けて暗闇に向かって叫んだ。 「慎二! 隠れてないで出てきなさい」 「え? 慎二ですって」  貨物室からがさごそと音がして、のそりと慎二が姿を現わす。 「や、やあ……」 「やあ、じゃないだろ。おまえのせいで、飛行機がコースを外れて燃料切れになった んだぞ」  慎二に詰め寄る梓。 「ほんとうか?」  事情がまだつかめない慎二。  その胸倉を掴んで詰問する梓。 「おまえなあ、飛行機がどこ飛んでるか判ってるのか? 海の上なんだぞ。燃料が切 れたら海の上に墜落して最悪海の底へ沈むんだ。自動車みたいに道路脇に止めてレス キューを待つこともできないんだ。飛行機というものはな、ペイロードつまり積載重 量によって航続距離が大きく変わるんだよ。たった一キロ増えただけでも大量の燃料 を消費するんだぞ。だからと言って燃料を必要以上にたくさん積んだら、それもまた ペイロード加算となって重量が増えて燃料浪費するだけだから、到着空港及び悪天候 代替空港まで(stage length)の燃料分しか積まないんだ。そんなシビアな運航して いるのに、密航して重量を増やせばどうなるか、そんなことも知らなかったのか」 「や、やけに詳しいじゃないか」 「お母さんに会いに、ブロンクスへ時々飛んでいるから。その飛行中の合間に、麗香 さんが教えてくれたんだよ」 「そうなんだ……」 「ふん! これ以上おまえに言ってもしようがない。ほれおまえも救命胴衣を着ろ」  といいながら自分の持っていた胴衣を放り投げる梓。 「麗香さん」 「はい、どうぞ」  と胴衣を再び手渡してくれる麗香。 「ところで、麗香さん。この非常事態のこと、お母さんの方には連絡が伝わっている のかしら」 「はい。一番に連絡してあります。おそらく救援体制を整えていると思います」 「そう……」  コクピットから放送が入った。 「お嬢さまがた、着陸できそうな島が見つかりました。これより着陸を試みます。乗 務員の指示に従って非常事態着陸態勢を取ってください」

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羽根付きというよりも……

インターポット

ぼよよ~ん、ぼよよ~ん。

羽根付きというよりも、ホッピングだよね。

何せ羽根をつく者がいないんだから。

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2018年1月11日 (木)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 II

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                 II 「中佐。そろそろ、巡回査察のお時間です」  レイチェルが自分の腕に巻いている婦人腕時計の指針を確認して言った。 「うむ……わかった」  と、ゆっくりと立ち上がるアレックス。 「今回はパス、というわけにはいかないかな」 「規則です。指揮官が軍規を無視しては、配下にたいして示しがつきません」  きっぱりと答えて、アレックスを促すレイチェル。  中央エレベーターから第十四ブロックに降りた所が女性士官居住区だ。  レイチェルと並んで通路を歩いていると、行きかう女性士官が慌てて敬礼をして、 通路の端に寄って道を譲っていく。  巡回査察があることは知らされてるので、男性のアレックスが通行していても、誰 も咎める者はいない。いや、査察でなくてもアレックスなら、皆が許してくれるだろ う。  パジャマ姿で平気で出歩いている女性もいると聞くが、さすがに査察があると知っ てちゃんとした服を着ているなと、アレックスは考えていた。 「次ぎはランジェリーショップです」 「やっぱり……。そんなところも査察しなければならないのか」 「当然です。そもそもランジェリーショップの運営は、中佐殿が特別許可なされたも のでしょう。その運営が滞りなくなされているか査察するのは義務というものです」  ふうっ。  と大きくため息をつくアレックス。 「早いとこ済ませたいものだ……」  ランジェリーショップは、第十四ブロックの女性士官居住区、中央エレベーターか ら左手に回った所にある。 「いらっしゃいませ!」  店員が愛想良く迎える。 「いや、買い物にきたわけではないから……」 「まあ、いいじゃないですか。殿方を魅了する素敵なランジェリーが盛り沢山。それ を見るだけでも」  レイチェルが背中を押すようにしてアレックスを店の中へ誘いこむ。 「ば、馬鹿。何いってるんだ」  冷や汗をかきながら店内に入るアレックス。  店内にいた女性達の視線が集中する。男性の入店に一瞬緊張感が走るが、そこに指 揮官の姿を確認して、一斉に敬礼を施した。  巡回査察か……。  みな一様に納得した表情をしている。  一人の女性士官が、アレックスのそばに歩み寄って来る。 「ここの責任者のアイシャ・ウィットマン少尉です。よろしくお願いいたます」 「や、やあ……」 「このランジェリーショップを一目見られたご感想はいかがですか?」 「そう言われてもなあ……」 「このようなランジェリーショップの運営を許可して頂き、女性士官一同、中佐殿の ご配慮には感謝いたしております」 「そ、そうか」 「念のためでありますが……。上着の方は軍規で決められた軍服の着用が義務付けら れておりますが、下着に関しては一切の決めごとはありません」 「つまり、軍服の下に何を着ようと自由というわけだ」 「その通りです。中佐殿は、パーティーには参加なされたことはおありでしょう?」 「まあな」 「では、そこに参加する女性達を見てお気付かれると思いますが、一人として同じド レスを着ている者がいないということを。規則で決められていない以上、他人と同じ 物を着ることなど耐えられないのが女性なのです。そして見えないところに精一杯の おしゃれをすることこそ、女心というものであり生きがいでもあるのです」 「まあ、確かに男性の着る下着を考えると、ランニングシャツにブリーフないしはト ランクスという基本パターンを踏襲していて、数えるほどしかバリエーションはない よな」 「これらのランジェリーのすべては、艦内の作衣工廟で生地を裁断し縫製したもので す。作業には衣糧課の女性士官があたっており、艦内インターネットを通じて、全女 性士官の要望などを取り入れてデザインを起こし作成しております」 「中佐殿。ご遠慮なさらずに、どうぞ手にとって十分にご覧になってください」 「あ、ああ……」  条件反射的に言われるままにランジェリーを手に取ってみるアレックス。 「いかがです。デザインはもちろんのこと色柄・材質どれをとっても市販として流通 しているものには見劣りしませんよ」 「そういわれてもなあ……」  アレックスにとっての婦人下着いわゆるランジェリーといえば、同居しているパト リシアが所有するものがすべてであり、彼女が着替えの時などに垣間見る他は、手に とってじっくり鑑賞することなどありはしない。当然、感想を求められても答えられ るものではなかった。 「せっかくいらしたのですから、中佐殿の恋人へのプレゼントにお一ついかがです か」 「おいおい。買い物に来たのではなく、査察なんだぞ」 「まあまあ。固いことおっしゃらずに。そうですね……これなんかいかがです?」  といってアイシャが手にとって見せたのは、パープルのベビードールであった。  恋人といっても妻であるパトリシアということになる。  パトリシアに似合うかな。いや、それ以前にこれをプレゼントされてどういう反応 をするかが問題だ。  などとふと思ったりもするが……、 「いや、遠慮しておくよ。とにかく仕事をさせてもらうよ」  いつまでも関わっていたら、本当に衝動買いしてしまいそうだった。 「そうですか……。残念ですね」 「ここはもういい。次に行くぞ」  ランジェリーショップを出て行くアレックス。 「あら……中佐殿。査察……ですか?」  入れ違いに、かの特務捜査官のコレット・サブリナ中尉が店に入るところだった。 「なんだ君か……。君もここへ買い物に来たのか?」 「ええ。仕事がない時は、よくきますよ。見るだけでも楽しいですからね」 「そうか、じゃあゆっくり見ていってくれたまえ」 「はい。中佐も頑張ってください」  何を頑張るというのか……。おそらくアレックスの心情を察してのねぎらいの言葉 なのかも知れない。  レイチェルと二人で並んで歩くアレックス。 「ところで……、君もあんな下着を身につけているんだろうね」 「もちろんですわ。なんだったら見せてさし上げましょうか?」 「うう……。遠慮しとく」 「そうですわよね……。婚約者のパトリシアの下着姿くらいは見慣れていらっしゃる でしょうから。彼女も結構魅惑的な下着つけてるのよね。やっぱり恋人がいる人は下 着にも結構気を付けるから」  というレイチェルの言葉の最後の方はぼやきにも似た呟きとなっていた。 「見たのか?」 「一応、女同士ですから。一緒に着替えることありますもの」 「女同士ね……そっか……」 「それでは、次へ参りましょう」 「まさか、女子更衣室だなんて言うんじゃないだろうな」 「ご拝見なさりたいなら」 「いや、遠慮しとく」 「はい」  といって、くすっと笑うレイチェル。

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2018年1月10日 (水)

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件 ハワイ航路

梓の非日常/第八章・太平洋孤島遭難事件

(一)ハワイ航路  太平洋上を飛行するDC-10型改ジェット機。機首には日の丸、そして尾翼には 篠崎重工のシンボルマークが記されている。  DC-10はロッキード事件に絡む汚職事件、販売戦争によって欠陥機を増産して、 事故が相次ぎ、1988年に生産終了となった。  とはいえ、篠崎重工の技術陣によって、機体の改良と綿密な整備が図られ、今なお 大空を飛び続けている。  そのコクピット(操縦室)では、パイロットが青ざめた表情で計器を操作している。 「どうだ?」  機長が神妙な面持ちで隣の副操縦士に確認している。 「だめです。やはり足りません」 「そうか……」 「申し訳ありません。私が計器確認を怠ったばかりに」 「それを言うなら、私も同じ事だ。ともかく麗香さまにこっちに来てもらおう。お嬢 さま方には、まだ知られてはいかんからな」  その機内では、梓と絵利香に麗香が対面して座っている。 「ほら、見て。新しく買った水着」  と梓が、バックから取り出した水着を見せている。 「へえ、可愛いワンピースね。梓ちゃんのことだから、ビキニかなと思ってた」 「う……ん。あたしも最初はビキニにしようかなと思ったんだけど、やっぱりね……。 で、絵利香ちゃんは?」 「あまり見せたくないんだけど……」 「もう、どうせ海に出れば着るんじゃない」  梓自身が水着を持ち出したことで、自分も仕方なく見せるしかないとあきらめる絵 利香。 「なんだ、絵利香ちゃんもワンピースじゃない。遠慮するから、てっきり……」 「ビキニを着るってがらじゃないから」 「だよね。で、麗香さんは?」 「え? 私は、世話役としての仕事がありますから」 「ん、もう隠すなんてずるいわよ。自由時間を与えてるんだから、当然持ってきてる でしょ」 「仕方ありませんね」  梓の前では、隠し事は許されない。 「わあーお! 黒に金縁のビキニだよ。さあーすが、麗香さん」 「うん。麗香さんのプロポーションなら、やっぱりビキニだよね」 「おだてないでください」  そんな風に水着談義をしている梓達から通路を隔てた反対側には、美智子ら梓の専 属メイド四人がトランプ遊びをしている。ここは篠崎重工の自家用機内、篠崎側の客 室乗務員がいるので、美智子たちは機内にいる間は自由なのである。ここは機内勤務 のプロに任せて、口出ししないほうが無難である。 「ねえ、あなた達はどんな水着持って来たの?」  通路の向こうから梓が尋ねる。  顔を見合わす四人だったが、棚からバックを降ろし、 「はーい。これでーす」  と、一斉に水着を掲げ上げた。  ビキニにワンピース、そして色と柄、それぞれの好みに応じた水着だ。  結局全員の水着を取り出させた梓。何事も一蓮托生というところだろう。  そこへ神妙な面持ちをした客室乗務員が麗香を呼びにくる。 「麗香様。機長がお呼びです。コクピットへお越しいただけませんか」 「コクピットへ?」  乗務員の表情と、コクピットへの呼び出し。  聡明な麗香のこと、非常事態が発生したに違いないと即座に判断した。梓の方をち らりと見てから、 「……わかりました」  と立ち上がった。  乗務員に案内されて、コクピットに入ってくる麗香。 「あ、麗香様」 「どうしましたか?」 「正直に申し上げます。飛行機がコースを逸脱、ハワイに到達するだけの燃料も足り ません」 「どうしてそんなことになったのですか?」 「はい、直接の原因は、出発前に重量確認した数値と、現在の重量計が示す数値に食 い違いが生じていることです。およそ八十五キロなんですが、それで計器に微妙な狂 いが生じて、長距離を飛行する間に大きく航路が外れてしまったようです」 「今の今まで、重量オーバーに気づかなかったというわけですか?」 「申し訳ありません。出発前に点検したきりで、計器の確認を疎かにしてました。自 動操縦装置に頼り過ぎていたようです」 「過ぎたことを今更責めてもしようがないでしょう。ともかく結論として、ハワイに はたどり着けないというわけですね」 「その通りです。それに近辺にも空港を持つ島はありません」 「どこか安全に着陸できそうな島はありませんか?」 「はい。探索中です」 「遭難信号は?」 「発信しています」 「わかりました。私は、お嬢さまがたに実情を話してきます。引き続き探索を続行し てください」

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2018年1月 9日 (火)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 I

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                   I 「なあ、今回はパスということに出来ないかい?」 「だめです。巡回査察は司令官の責務です。指揮官が軍規を犯していては、部下に示 しがつきません」 「しかし、場所が場所だからなあ……」  アレックスが頭を抱えている原因は、今回の巡回査察の区域にあった。  女性士官専用居住ブロック。男子禁制の女性士官だけの区域である。  軍艦というものは、本来男子オンリーの職場が一般的であるから、男子禁制などと いう区域があるはずもないのだが、アレックス率いる部隊は女性士官配属率が平均で 三割を越えていた。特に、通信・管制オペレーターが数多くひしめく旗艦サラマン ダーにあっては、その六割が女性士官という華やかな環境にあった。こうなると必然 的に男女を分け隔てる必要が出てくるわけで、それが女性士官専用居住ブロックとい う区分けの誕生を促したのである。 「男の私が、女性士官専用居住区に入るなんて……」 「艦内運用規則第十八条の第三項。巡回査察の責務について、艦の責任者は定期的に 艦内の査察をすべからく実施し、規律や士気の向上を計るために、これを指導すべし。 お忘れですか?」 「知っているよ」 「規則にはすべからくとあります通り、艦内くまなく査察しなければなりません」 「だから、後回しにするとかさ……」 「結局やらなければならないのは同じ事です」 「なあ、艦長のスザンナにまかせるのはどうだ? 艦長だし、艦の責任者だ」 「いいえ。他の艦なら、艦長がやるのが当然ですが、ここは旗艦『サラマンダー』で す。旗艦の最高責任者は、ランドール中佐です」 「ランジェリーショップ……あるよな……」 「あります」 「産婦人科クリニックも……」 「あります」 「どんな顔してりゃいいんだよ。恥ずかしいことこの上ない」 「もう……。アレックス! いい加減あきらめて腰をあげなさいよ!」  レイチェルが、私語を使って叱りつけるように言った。部隊内で唯一、幼馴染みと いう間柄だからこそ言える言葉だった。 「わ、わかったよ。行けばいんだろ、行けば……」  さすがに私語で叱られても反論できず、渋々重い腰を上げるアレックス。  女性士官専用の居住区というものが存在しない他の艦隊ならこんな悩みなど発生し なかったのだ。  それは……。独立部隊が発足して、パラキニア星系・ゲーリンガム隕石群での最初 の戦闘訓練を終えてパラキニア星に寄港する際の事だった。  女子更衣室。着替えをしている女性士官達。 「いい加減。配給の下着にはうんざりするわね」 「丈夫で長持ちだけが取り柄なんだよね」  と、ショーツを手にとって目の前にかざして見る隊員。 「ねえねえ。主計科主任のレイチェルさんに頼んでみようよ」 「主任に?」 「うん。主任なら何とかしてくれるかもしれないわ」 「なんたって、司令官の幼馴染みだそうだもんね」  それから有志がレイチェルに直談判したらしい。  そして……。  アレックスの所にレイチェルはやってきた。 「今日は主計科主任として、部隊の女性士官を代表してお願いがあって参りました」 「何事かな。改まって」 「はい。女性士官専用居住ブロックの一部を解放して、ランジェリーショップの営業 を許可して頂きたいのです」 「ランジェリーショップ……!?」 「部隊に所属する将兵の軍服や下着類は、一定期間毎に配給があるのは、少佐殿もご 承知かと思いますが」 「知っている」 「この配給品の下着類について、女性士官達の不平不満が募っております」 「不平不満だと」 「軍から配給されるものは、いわゆるおばさんパンツと不評を買っており、日常とし て身に付けるに堪え難いとか」 「そうなのか?」  そばのパトリシアに尋ねるアレックス。女性衣料に関することを聞けるのは、パト リシアをおいて他にはいないだろう。 「はい。確かにレイチェルさんのおっしゃる通りです。女性士官の間では何とかして 欲しいという声があるのは確かです」 「軍艦に搭乗している限り、今日にも戦死するかもしれません。死出の旅路に出発す る時に、おばさんパンツを履いていては、恥ずかしくて死んでも死にきれません。で すからせめて下着だけでも、精一杯のおしゃれをしていたいと思うのは、女心として 無理からぬことではないでしょうか」 「男には判らない女性心理というわけか……で、具体的にどうするつもりなのだ」 「はい。衣糧課にある施設を使用しまして、ランジェリーのデザインから縫製まで一 貫生産します。そして女性士官居住区の一部を開放してショップを開きます。店員は 衣糧課から派遣します」 「その収益はどうするんだ。生地は当然軍からの支給品だし、課員を使役するとなる と……」 「もちろん非営利です。福利厚生費に充当して還元します」 「なるほどね……。まあ、いいだろう。ランジェリーショップの営業を許可する。運 営上の問題は、すべて君に一任する。好きなようにやってくれたまえ」 「ありがとうございます」  というわけで、ランジェリーショップの設置を許可したのだが……。

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2018年1月 8日 (月)

梓の非日常/第七章 そんでね……

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた

(六)そんでね……  カーディーラー側でも、ファントムVIに乗って戻って来た二人を、驚きの表情で 迎えることになった。  契約書作成のプロである支店長が手際良く書類を作成していく。後に不利益となる ようなミスのない完璧な書類だ。 「それではお嬢さま、サインをお願いします」 「はい。英文字のサインでいいよね。漢字は下手だし、書くごとに字体が変わっちゃ うから」 「結構です」  書類を手渡されてサインをする梓。  サインの仕方などは、日頃から練習しているせいか、見事な書体のものを記してい る。 「お嬢さま、今後は書類などにサインをすることもありますので、真条寺家にふさわ しいサインの手法を修得されたほうがよろしいでしょう。他人に簡単に真似されない ような、かつ美しいサインを練習しましょう」  ということで中学入学以来から、麗香の手ほどきを受けていたのだ。  通常ローンを組んでの自動車の購入には実印というものが必要だが、手形による一 括決済のためその必要はない。ローン会社による抵当権設定がなく、直接所有権の移 譲が実行されるからだ。 「支払いは、当行の銀行振り出し手形でよろしいですね?」 「はい、結構です」  手形にもいろいろあるが、最も信用のあるものが、銀行振出手形である。  しかも真条寺財閥が筆頭株主で大口預金者となっている新都銀行は、世界一安定し た企業銀行としての地位を確保しており、そこから振り出される手形は、不渡りを絶 対に出さない手形証券として、日本銀行券やドル紙幣・ユーロ紙幣にも匹敵する信用 価値があった。  梓の元に、スポーツカーが届けられたのは、その日から丁度十日目のことだった。  ディーラーから鍵を受け取り、それを改めて麗香に渡しながら、 「以前欲しがってたでしょ。それでね、いつもお世話になってるから、お礼の気持ち を込めてプレゼントしようと思ったの。だから、麗香さんには秘密にしておこうと、 全部自分でやってみようとしたんだけど、結局麗香さんの手をわずらわせちゃった」 「そうでしたの……」 「ごめんね。黙ってて」 「いいえ。自分のためではなく、人のために何かしてあげるという、お嬢さまのお気 持ちが何より嬉しいです。お嬢さまが秘密にしたいとおっしゃった時、たぶんそうで はないかと直感しました。自分の為ではなく、誰かのためにという思いが感じられま したので、あえて問わないことにしたのです」 「そうなんだ……」 「こんな高級車を頂くわけには参りませんが、車の登記上の所有者は梓様、使用者が 私ということで、有り難く使わせていただきます」 「うん。そうしてね。それで、ちょっと質問したいんだけど」 「どのような質問でしょうか」 「新都銀行に預けてる、あたしの預金ってどれくらいあるの?」 「お嬢さまが、そのようなことを気になさるものではありません。そんなことお考え になるよりも、お勉強の方を大事になさってください」 「ちぇ、いつもはぐらかすんだから……」 「お嬢さまが家督をお継ぎになられましたら、お教え致しますよ」 「それって、いつのこと? 十六歳になったらかな……」 「渚さま次第でございます」 第七章 了

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2018年1月 7日 (日)

銀河戦記/第十章 氷解 EPILOGE

第十章 氷解

                EPILOGUE  結局事件は公表されることなく、第一捜査課の事件簿に記入されるだけで終わった。  ミシェール・ライカー少尉及びカテリーナ・バレンタイン少尉は共に戦死扱いにさ れた。  こういうことは艦隊運営においてはよく行われることであった。本人に何ら悪意や 過失もなく事故死したり殺害された場合、温情的に処理される。 「まあ、遺族の事を思ってのことだが……」  そう、戦死なら二階級特進で遺族恩給に上乗せされるが、殺人ならそれが何もない。 遺族にとっても、殺された怨念を一生涯心に残して暮らすよりも、世の為に身を投じ て殉職したと思ってくれた方が、はるかに精神的に良いに決まっている。  両名の戦死報告書にサインをしてレイチェルに渡すアレックス。キャブリック星雲 不期遭遇会戦において重傷を負い、治療のかいなく亡くなってしまったというものだ った。  死んだ者をいつまでもくよくよと考えてもはじまらない。  アレックスは気持ちを整理して、部隊司令として命令を下す。 「カラカス基地はもうすぐだ。まもなくスハルト星系を通過する。カインズ少佐は、 星系周辺に展開して哨戒作戦に入れ。残る部隊は、そのまま進行。伝達せよ」 「了解!」  すぐさま命令が各部隊指揮官に伝えられた。  哨戒の為に、スハルト星系周辺に展開をはじめるドリアード以下のカインズ部隊。  とある一室。  暗い部屋の中で背中側を見せている人物の前に立つ男。 「これが潜入して手に入れた敵司令官の情報資料です。お問い合わせの品は持ち帰る ことは出来ませんでしたが、マイクロフィルムに収めて同封してあります。一応プリ ントアウトしてお手元に」  開封した資料から男のいうプリントを取り出してみる人物。 「これがそうか」  そこにはエメラルドの首飾りが映っていた。 「その首飾りにどういう秘密があるんですか?」 「お前の知ることではない!」  強い口調で叱責する声に驚いて後ずさりする男。 「へ、へえ……」 「ご苦労だった。この件が外部に漏れるようなことはないだろうな」 「抜かりはありませんぜ。共犯者は口封じしておきました」 「そうか。では、残りの報酬だ」  その人物は金貨の入った袋を差し出した。 「へへ。ありがとうごぜえやす」  男は袋を受け取ると、くるりと背を向けて袋を開けて中を確認しているが、次の瞬 間に苦痛に歪む表情を見せたかと思うと床にどうと音を立てて倒れた。  背後にはブラスターを片手に持った人物の下半身が見えていた。 「共犯者を口封じしなければならないような任務ならば、いずれ自分も抹殺されると いうことを察知できないとはな……金に目が眩んで、将来を見通せなくなる。おろか な奴だ」  こつこつという靴音を立てながら進み出て、床に倒れた男を跨いでドアに手を掛け る人物。つと振り向いたその顔にランプの光が映えて、深緑色の瞳が一瞬輝いてすぐ に消えた。  第十章 了

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2018年1月 6日 (土)

梓の非日常/第七章 財閥令嬢とは

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた

(六)財閥令嬢とは  麗香と支店長が会話している間、絵利香につぶやくように話す梓。 「麗香さんに内緒にしてようと思ったのにね」 「預金通帳もキャッシュカードも持たずにお金を降ろそうとするからよ。だいたい十 八歳未満のわたし達には、支払いに関する責任能力を認められていなくて、親の許可 が必要なのよ」 「そうなんだ……知らなかったわ」 「まったく……」  呆れてものも言えないといった表情の絵利香。 「お嬢さま、携帯をお返しします。引き続き麗香さまがお話しがあるそうです」 「はい、どうもです」  支店長は携帯を梓に返すと保留していた頭取との通話を再開した。 「お待たせしました。ただ今、竜崎さまと……はい、承認番号は……」  そんな会話を耳にしながら自分の携帯に話し掛ける梓。 「梓です」  麗香の声が返ってくる。 『お嬢さま、お金の引き出しは可能ですが、金額が金額ですから、支店長が同行して 銀行振り出し手形で支払うことになりました。正確な金額もおわかりになられていな いようですしね』 「だってえ……値段を確認しなければ、物を買えないなら、それを買う資格はないっ て、麗香さんが教えてくれたんじゃない。で、手形ってなに?」 『小切手の一種とお考えください。まあ、購入金額はともかく、お嬢さまは十八歳未 満ですから、契約には親権者の同意が必要です』 「うん、絵利香から聞いたよ。実は知らなかったんだ」 『だと思いました。それで支店長に親権者代行として契約書に署名してもらいます』 「そうなの……」 『質問してよろしいですか?』 「はい?」 『これほどの大金、一体何をお求めになられるのですか?』 「うーん……秘密って言ったら怒るかなあ」 『別に怒りはいたしませんけど、哀しいですね。私に秘密ごととなりますと』 「ごめんなさい。いずれわかるから……」 『……わかりました。聞かないことにします。石井さんを迎えに行かせましたので、 ファントムVIでお帰りください』 「わかった、待ってる」  と、麗香に秘密にしていることに後ろめたさを覚えながらも、電話を終える梓。 「はい、わかりました。お嬢さまに付き添って支払いと契約締結します。手形は本店 決済でよろしいのですね。……はい、万事失礼のないように」  支店長の方も本店頭取との連絡が終わったようだ。 「あ、お嬢さま。本店から決済が降りましたので、七千万円でも三億円でもお支払い 可能です」 「どうも、お手数かけます」 「それじゃあ、早速行きましょうか。そのお店へ」  促すように立ち上がる支店長だが、 「あ、迎えの車が来ますから、それからにしましょう」  と言われて、また腰を降ろす。 「それにしても、銀行員生活三十年になりますが、こんなことはじめてです」 「でしょう? まるで常識を知らないんですよね。通帳もカードもなしに預金降ろそ うとするんだから」  絵利香がちゃちゃを入れる。 「なによう。仕方ないじゃない、今まで、身の回りの事全部麗香さんがやってくれて たんだもん。でも高校生になったから、少しずつでも自分の事できるように、こうし て来ているんじゃない」 「わかったわよ。そんなにむきにならなくても」  そんな二人の会話を耳にしながら、自分の中にある常識というものを、書き換えね ばならないと考える支店長であった。  どうみてもごく普通の女子高生にしかみえないこの二人が、少しのためらいもなく 数千万円からの買い物をしてしまうという、世界最大財閥の真条寺家と急成長著しい 篠崎重工のご令嬢とは。 「支店長。お嬢さまのお迎えのお車が参っております」  銀行員が伝えに来た。その表情は強ばっているようにみえるし、二人の令嬢をため つすがめつ見つめるような視線があった。 「そうか。ん、どうしたんだ?」 「い、いえ。何でもありません」  銀行員が示した態度、その疑問は外へ出てみれば、すぐに氷解する。  ロールス・ロイス・ファントムVI。  その雄姿を目の前にすれば、誰しも畏敬の念を抱くのは当然であろう。ベンツやB MWなどはちょっと金を出せば誰でも手に入る時代、オーナーユーザーが増えて物珍 しさも失せて、ステータスシンボルとしての価値はほとんどないに等しい。  それに比べて往年の名車でありながら、実用走行可能なファントムVIは、世界で もこれ一台といってもいいだろう。なにせガソリン代や整備点検料、輝くボディーを 維持するため定期的に行っている車体塗装など、ベンツが買えるくらいの維持費が毎 年かかっているのだ。 「これが噂に聞くロールス・ロイス・ファントムVIか……まさしく真条寺家のご令 嬢だな。さすがだ」  梓が出てくると、いつものように後部座席を開けて乗車を促す石井。 「先に寄るところがあるからね」 「かしこまりました、お嬢さま。支店長は助手席にお願いします」

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ぺったんぺったん餅つき楽しいな

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昔は年中行事として各家庭で餅つきを行っていて、
我が家でも毎年餅をついていました。
横穴開けたドラム缶の上に水を張った大釜乗せて、
その上にもち米入れた蒸し蒸籠(せいろ)、
ドラム缶横穴からマキを投入して火を点ける。
パチパチとマキが燃え上がって大釜の水を沸騰させる。
やがて熱い水蒸気が蒸籠のもち米を蒸しあげていく。
蒸し上がったもち米を臼に移して杵で、ぺったんぺったん。
道具を持っていない家庭は、もち米を持ち寄り、
交代で杵打ちぺったんぺったん。
出来上がった餅を室内で、
片栗粉をまぶした平盆で丸くまるめていく。
醤油と大根おろしで、出来立ての餅をいただく。

うんまい!!
子供の頃の思い出でしたヽ(^o^)丿

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2018年1月 5日 (金)

銀河戦記/第十章 氷解(21)

第十章 氷解

                 (21)  事件は、犯人の死亡という結果となったものの、一応の解決を見た。  コレットはアレックスに対して捜査報告をまとめて提出した。 「カテリーナはスパイだったと思うか?」  アレックスは率直に尋ねてみた。 「カテリーナ・バレンタイン少尉がスパイだったのか、或は単なる物取りだったのか、 当人が死んでしまった以上それを確認することはもはや不可能ですが、ともかくも身 体が小柄なのを利用してダストシュート伝いに各部屋を行き来して犯行に及んだのは 確実なようです」 「それをミシェールに見られて殺害したのか……その肝心な共犯者の手掛かりは?」 「一切の証拠となるものを残していません。完璧に迷宮入りですね。申し訳ありませ ん」 「君の本来の任務はミシェール殺害に関してだ。その共犯者ともいうべきスパイの潜 入捜査は別件になるだろう。君の捜査範囲を越えるはずだ」 「とにかく、首飾りを部屋に隠しに戻ったのが、命取りになりましたね。あの部屋が 立ち入り禁止ということでは最良の隠し場所だったわけです。しかし私が念のために 施していた封印に気がつかずに扉から出ていって、犯行を露見させる結果となりまし た」 「参考までに聞くが、このエメラルドのネックレスは本物かイミテーションが判断で きるかい?」 「それは今回の捜査では重要ではありません。気になるならご自分でお調べくださ い」 「そうか……。実はそれは、わたしがマスカレード号で助けられた時に、身に付けて いたものなんだ。母の形見かなんかだろうと思っている。本物かどうか調べてイミ テーションだったら、形見としての思いが薄れるかもとそのままにしていた。もしか したら犯人がこれを盗みだしたのも、何か重要な秘密が隠されているのかも知れな い」 「たぶん正しい判断だと思います」 「まあいいさ……。それで君は、レイチェルの件について、告発するつもりはあるか い?」 「勘違いされては困ります。わたしはライカー少尉の他殺疑いを調べるために派遣さ れてきました。その捜査の必要から、特務権を執行して関係者の素性も細密に調べて きました。しかし捜査で得た機密情報は、たとえそこに犯罪が潜んでいてもわたしと しては公開し告発することは権限として与えられておりません」 「捜査情報の機密厳守条項というやつか。それがなければ誰も証言してくれないだろ うからな」 「あくまでライカー少尉の他殺を証明するために必要な諸情報のみ証拠として公開で きるのです。もっともレイチェル大尉の素性捜査を他から任務として与えられれば話 しは別ですが」 「そうだろうな」 「個人的見解を述べてよろしいでしょうか」 「どうぞ」 「レイチェル・ウィング大尉は、その経緯はともかく内面的においては、完全に女性 としての精神を持っています。日常生活においては何ら不都合なく女性として暮らし ており、周囲の人々も疑うことなく女性として接しています。今更事実を明かして周 囲を動揺させるよりは、このまま女性として生きていただいた方が、すべての人に対 してベターとはいえるでしょう」 「もし誰かにばれて告発された場合、性の登録を戻されるのかな」 「それは有り得ないでしょう。社会的にすでに女性として世間に認められて確固たる 地位を築いていることと、もはや元の完全な男性には戻れないという観点からです。 ただし罪は受けます」 「そうか……」 「他の男性との結婚も法律的には可能です」 「結婚か……子供は作れないかも知れないがな」 「子供が作れなくても養子を迎えて育てることはできます。戦災孤児はたくさんいま すからね」 「ついでだから相談したいのだが、レイチェルが男性と結婚すると言い出した時、自 分としてはどうすればいいと思う?」 「事実を知りながらそれを黙認なされた以上、レイチェル自ら真相を語らない限り、 今後もその事実を隠し通す義務があると言えるでしょう。あなたは結婚する二人を暖 かく祝福するしかないでしょう。相手が誰であろうとも」 「そうだろうな……」 「レイチェルの罪を黙認したというのがあなたの罪であり、そのことで一生悩まなけ ればならなくなったことが、それに対する罰ということですよ」 「罪と罰か」 「罰を軽減するために他人に、たとえば婚約者であるウィンザー中尉などに告白する ことも、おやめになられた方がいいでしょう。あなたの悩みは多少軽減するでしょう が、こんどは相手を一生悩ませる結果になるだけですから。すべてはあなたとレイチ ェルだけの間だけで留めておくことです」 「そうだよな……忠告、ありがとう」  コレットは姿勢を正して言った。 「それでは、IDカードの特権コードを抹消願います」  と言いながらIDカードを提出する。 「そうだな……」  IDカードを端末に差し込んで、乗員名簿閲覧などの特権コードを消去していくア レックス。任務が終われば特務権は消失する。艦長レベルで設定してあるので、万が 一紛失や盗難にあい、悪意を持った者にカードが渡れば、艦の乗っ取りが可能だから である。 「ともかく、よく任務をまっとうしてくれた。感謝する」  IDカードを返しながらねぎらうアレックス。 「任務ですから……。それでは失礼します」  というと、コレットは敬礼を施して踵を返して退室していった。

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2018年1月 4日 (木)

梓の非日常/第七章 銀行預金の正しい降ろしかた

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた

(五)銀行預金の正しい降ろし方  新都銀行川越支店。  カウンターに腰を降ろし銀行員に告げる梓。 「お金を降ろしたいんですけど……」 「はい。通帳と印鑑はお持ちですか?」  といわれてきょとんとする梓。 「何それ? そんなの必要なの? お金を降ろすのに」 「はあ……?」  今度は銀行員が呆然としている。  銀行通帳と印鑑、もしくはキャッシュカードと暗証番号。預金を降ろすのに必要な アイテムだ。それがなければ、たとえ何億円預金があろうとも一円も降ろせない。  そんなことも知らずにお金を降ろしにきたの?  そんな表情をして困惑している銀行員であった。  そこに絵利香が間に入ってくる。 「あ、支店長に会わせて頂けますか? 筆頭株主の真条寺家のご令嬢が尋ねてきてい るとおっしゃってください」 「え? 筆頭株主?」 「早くしないと、この子短気だから、怒って株を全部売り払ったうえに、預金全部降 ろしちゃうかもよ。預金は数百億円はあるかな……そうなれば銀行潰れちゃうよ」 「は、はい。し、しばらくお待ち下さい」  筆頭株主と聞いて、あわてて後部デスクにいる上司に説明する行員。 「なんで、ここの銀行の筆頭株主だってこと知ってるの? あたし話したことあるの かなあ」 「聞かなくてもわかるわよ。篠崎重工も株主に名を連ねているから、株主名簿を見た ことがあるのよ」 「へえ、そうなんだ……」  応接室。  応接セットに座りお茶を飲んでいる二人。  支店長が入ってくる。 「お待たせしました、当行支店長の川崎です」 「はじめまして、真条寺梓です」 「おひさしぶりです。川崎さん」  顔見知りなのか、親しく挨拶を交わす絵利香と支店長。 「おや。おひさしぶりです、絵利香さま」 「あら、絵利香ちゃんは支店長と知り合いなの?」 「うちは株主だってさっき言ったでしょ。一応篠崎の取り引き銀行の一つだから、た まに屋敷にいらっしゃることがあるの」 「そうですか。篠崎重工のお嬢さまとご一緒となれば、真条寺家のお嬢さまというの も本当みたいですな」 「もちろんですわ。正真正銘の真条寺梓ちゃん。わたしが保証します」 「はい、承知いたしました。真条寺さまとのお取り引きは、当行の頭取が直々にお屋 敷に出向いて、お嬢さまや麗香さまにお会いしていました。ですから私自身は、お嬢 さまや麗香さまとお会いする機会がございませんでした」 「そうでしょうねえ。真条寺家後継者のこの子に会えるのは大企業でも幹部クラスの 一握りの人達だけなんですよ」  と絵利香が説明する。 「わかりました。ところで、お嬢さま。預金をお引き出したいとのことですが、いく らほどご用立ていたしましょうか?」 「え、え……と。いくらだっけ? 絵利香ちゃん」 「あのねえ。金額も確認しないで車を買うつもりだったの?」 「全然、気にしなかったから。ん……とね、スーパーカーが買えるくらいだよ」 「は?」 「まったく……。支店長、この子が欲しがっている車は、正確な値段までは判らない けど、七千万円くらいする篠崎重工製スーパーカーです」 「な、七千万円ですか?」 「なんだ、そんなもの? F1・F0のレースマシン仕様の限定生産だから三億円か らすると思ってたよ」  二人のお嬢さまの口から飛び出した金額に驚愕する支店長。  さすがにその金額は、現金扱いでは自分の決済範囲を越えていた。それだけの現金 を引き降ろしたら当日窓口の営業に差し支えるからだ。 「お嬢さまがた、一応本店に確認致しますので、しばらくお待ち願えませんか」 「ん……? いいよ」  しばらくして支店長が戻ってくる。 「只今、本店の方で確認しておりますので、しばらく……」  とまで言いかけたところで、卓上の電話が鳴った。  点滅する内線ボタンを押す支店長。 『支店長、本店頭取からお電話です。3番です』 「いやに、早いな……わかった」  やはり相手が、真条寺家だからだろう。今やってる仕事を一時中断して、真条寺家 に至急連絡したに違いない。  と推測しながら、電話の回線番号3をプッシュして切り替える支店長。 「はい。川崎です……え? ですが……はい。わかりました」 「お嬢さま、当行の頭取の桂木がお話しをされたいそうです」 「頭取が?」  送受器を受け取り話しをする梓。 「梓です。はい、お久しぶりです……どうもです。え? 携帯電話ですか、持ってま すよ……。はい、支店長ですね」  頭取との短い会話を終えて、送受器を支店長に返す梓。 「はい。替わってください、ですって」 「替わりました、川崎です。え? 携帯電話ですか?」  というところで、梓の持っている携帯電話が鳴る。画面には真条寺家別宅執務室の 第二代表電話番号と竜崎麗香の名前が表示されていた。ちなみに第一代表電話が梓の 専用電話である。 「はい。梓です。う、うん。今銀行にいるよ。そ、新都銀行川越支店。支店長に替わ るのね、わかった」  といいながら支店長に携帯を渡す。  支店長は本店からの電話を保留にしてから携帯に出る。 「はい。替わりました。支店長の川崎です。そうですか、間違いなく真条寺梓さまで すね。わかりました。承認番号? 今メモします。はい、どうぞ」  承認番号というものは、普通は金融機関側が発行するものだが……。この新都銀行 は真条寺家が資本の大半を出資して設立されたものだ。事実上の経営権を握っている から、麗香が未成年の梓のために承認発行を出す事も当然と言えた。

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2018年1月 3日 (水)

銀河戦記/第十章 氷解(20)

第十章 氷解

                (20)  アスレチックジム。  カテリーナは、天井の張りにロープを掛け、首吊り死体となって発見された。  不審な状況証拠は一切見られず、自殺としか考えられなかった。  現場に到着して、その遺体の検分に当たったコレットは地団駄を踏んでいた。 「口封じか……」  共犯者にしてみれば、どじ踏んで殺人を露見させてしまった相棒を、いつまでも生 かしておくわけにはいかないだろう。捜査が進めばいずれ自分に捜査の手が回ってく るのは必至だからだ。  カテリーナの影にあってスパイ行為をなさせた相手。これほどまでに自分の存在を 微塵も見せていないとは、相当のプロの仕業だ。カテリーナを自殺に見せかけて処分 することぐらいは朝飯前だ。どんなに探ってもダニ一匹出てこないだろう。 「もう少し早く判っていれば、逮捕拘禁していれば……」  後悔しきりのコレットであった。  死人に口なし。  容疑者が死んでしまっては、捜査もここで終了だ。  報告書をまとめるために最後の証拠合わせをするために、かの放送局員を尋問する ことにした。  ディレクターのアンソニー・スワンソン中尉は告白した。 「もうしわけありません。おっしゃる通り、毎日・毎時ここから放送製作しているわ けではありません。サラマンダー以外の準旗艦にも、ここと同様な設備がありますか ら、それぞれ順繰りで日時を決めて、統一放送をする時があるんです。例えば他の準 旗艦が担当放送局の時間には、その放送を受信してそのまま艦内に流していた訳です。 ですから担当放送日時でない時は、調整室員以外は暇なんです。だから、時々交代で 抜け出していたんです」 「なるほど……。それで事件当時は丁度統一放送になっていて、抜け出していたのが、 カテリーナですか?」 「はい、そうです。恋人に会いにいくと言っていました。それで、いつものように口 裏合わせしていたんです。お互い恋人を持つ身、その気持ちはよくわかりましたから。 しかしまさか殺人を犯していたなんて知りませんでした」  念のためにその男のことも尋ねてみる。 「いいえ。何も聞いていませんし、会ったこともありません。相手の事を聞くと、お 茶をにごしていました」 「相手が複数ということは?」 「カテリーナは潔白なところがあるから、一人の男性に熱を上げることはあっても、 複数の男性と交際することはないと思います」  アンソニーは弱々しい口調で尋ねてきた。 「あの、やはりこの件も報告するつもりですか?」 「ランドール司令は、非常に勘が鋭く頭の切れる方です。カテリーナが犯人と知って、 とっくに気づかれていると思います。規則には厳しい方ですから、それなりに罰せら れるでしょう。覚悟しておいた方がいいでしょうね」 「わかりました……」

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2018年1月 2日 (火)

梓の非日常/第七章 スーパーカー

梓の非日常/第七章・正しい預金の降ろしかた

(四)スーパーカー  とあるカーディーラーの前で足を止める梓。 「あ……ここだわ」  梓はショーウィンドウに飾られたスーパーカーに釘付けになっている。 「どうしたの?」 「麗香さんがね……以前欲しがっていたんだよね」 「え? このスーパーカーを?」 「うん。入ってみましょう」  といって、さっさと入ってしまう。 「いいのかなあ……」  しようがないなあ……というような表情で後に続く絵利香。  二人の姿を見つけて店員が早速寄ってくる。 「いらっしゃいませ、お嬢さまがた」 「こんにちは」 「お邪魔します」 「スーパーカーに興味がおありなのですか?」 「ええ。まあ……」 「この車は、篠崎重工が創業四百年を記念して、全世界でたった十台のみ限定生産し たプレミアムカーなんですよ。F1やF0仕様のエンジン、排気量6000cc、最大出力 500PS/5200rpm、最高速度240km/hというビッグマシンです。これでも公道走行車とし て、エンジン性能は押さえてあるんです。フルパワーを引き出せば、380km/h は出せ るそうです」  明らかに女子高生とわかる二人に対しても親切丁寧な接待である。いずれ二・三年 もすれば購買年齢に入るので、今からしっかりと良い印象を与えておくことは大切だ ろう。小子化による子供可愛がりで、十八歳で車を買い与える親が増えているからで ある。 「篠崎重工? 絵利香ちゃん知ってた?」 「ううん」  と首を横に振る絵利香。車にはそれほど興味がないからである。 「創業四百年の記念発表会とかには呼ばれなかったの?」 「創業祭とかの記念事業はグループ各社の事業部長クラスでそれぞれ開催しているの ね。車なら自動車事業部だろうけど、わたしが呼ばれたのは本社主催の船上パーテ ィーだったわね。梓ちゃんだって呼ばれたでしょ」 「ああ、それなら覚えてる。豪華客船の進水式からはじまったんだっけ。絵利香ちゃ んと一緒にテープカットしたっけね。総排水量は十五万トンだったっけ?」 「そうよ。最初の計画では、四百年記念事業にふさわしく、もっと大きな船だったら しいけど、パナマ運河をはじめとする既設の港湾施設が利用できなくなるとかで、十 五万トンに設計変更されたようね。合衆国艦隊の空母ジョージ・ワシントンが十万二 千トンだからその大きさも並みじゃないのはわかるね。まあ、結局パナマ運河は通れ ないんだけど。運河を通れるのはせいぜい7万トンクラスまで」 「豪華客船なんだから、セコセコ近道なんかしないで、のんびりと喜望峰やホーン岬 を通ればいいのよ。南太平洋の荒波なんか軽く乗りこなせるんだからね」 「そりゃそうだろうけど……」 「船の名前は、クイーン絵利香号だよね。今世紀最初にして創業四百年記念の超豪華 客船に、絵利香ちゃんの名前をつけるなんて、大切にされている証拠だね」 「まあ、それはともかく。このスーパーカー買うつもりなの?」 「もちろんよ。あ、店員さん。試乗していいですか?」 「どうぞ、構いませんよ」  許可を得て座席に腰掛けてその座りごこちを確認している梓。 「そうか! 麗香さんが欲しがっていたというから、プレゼントするつもりね」 「あたり! ん……ちょっとシートが硬いかな」 「はい、レースマシン仕様になっておりますので、頻繁なギヤチェンジやコーナリン グに最適な運転姿勢をとるには、身体が沈みこむような柔らかいシートじゃ困ります ので」 「そうだよね」  ハンドルを回したり、ギヤをチェンジしてみたり、アクセル・ブレーキなど手当た り次第にいじくっている。 「ふうん……六速あるんだ。ん……ねえ、これバックの時はどうするの?」 「はい。シフトレバーを下に押し込みながら一速に入れるんです」 「へえ、こうね」 「あんまり触っちゃだめじゃない」  絵利香が注意するが、 「何言ってんのよ。これくらいの操作で壊れるようじゃ、レースマシン失格だよ。実 際のレースじゃ一分間に何回ギヤチェンジするか知ってる? ヘヤピンなんかに入る と、目にも止まらないほどの間隔で素早く連続チェンジする必要があるんだ。クラッ チ性能はスーパーヘビー級ものよ」  と、聞く耳をもっていない。もうすっかり気に入ってしまったようだ。自分が気に 入らなければ麗香にもプレゼントしにくい。 「あーあ。こういう車好きなところは、まったく母親ゆずりなんだよね」 「決めた! 買う、店員さん、この車売ってください」  困ったような顔をしながら答える店員。 「ああ、お嬢さま。この車は売り物じゃないんです」 「売り物じゃないのに、展示してあるんですか?」 「話題性のためですよ。こういうものをショーウィンドウに飾っていれば、車好きの お客様なら興味を持って、店に入ってこられますから」 「話題性からはじめるのは、営業の基本ですね。言葉巧みに誘導して別の車を買って いただく。そうですよね」 「あはは、その通りです。まず店に入ってきていただけなければ、何事もはじまりま せんからね。後は営業マンの腕次第です」 「そっかあ、売らないんだ……なんて聞くとよけい欲しくなるわね。ねえ、絵利香、 おじ様にお願いして、同じものもう一台作ってもらえないかな」 「だめだよ。十台限定生産とうたって発売されたのなら、十一台目を作っちゃったら 詐欺になるじゃない。この車の基本設計が、F1・F0用に開発されたものなら、き っと車体デザインが似ていて排気量などを下げた普及型があると思うよ。それで我慢 したら?」 「あのね。あたしを誰の娘と思ってる? ブロンクスの屋敷にある名車の数々知って るでしょ」  梓が言っているのは、母親の渚が若い頃集めまわったという、往年の名車のことを 言っているのだ。梓母娘が乗っている、ファントムVIもインペリアル・ル・バロン も、超高級車にして名車中の名車だ。大衆車などは眼中にまるでないのだ。世界一売 れたという日産フェアレディーZも興味の対象になっていない。誰もがそう簡単には 手に入れられない高級車だからこその収集家の威信というものである。それが大好き な麗香へのプレゼントならなおさらのことだろう。 「こういうところはやっぱり母娘ってところなのね」 「ということで……何とかなりませんか。どうしても欲しいんですけど」  店員に向き直って嘆願する梓。 「といいましてもねえ……」  困惑する店員。 「じゃあ、こうしましょう。ともかく、展示する車があればいいのよね。1995年にフ ェラーリが創立五十周年記念に発表した、F50・クーペ・ベルリネットはどうかし ら。この車に匹敵するくらいの展示価値はあると思うけど、無料で貸し出ししましょ う」 「ちょっと、それお母さまのものを勝手に」 「判ってるわよ。売るんじゃなくて貸し出すなら、お母さんだって許してくれると思 う」 「そうかなあ……」  あらためて店員に向き直り交渉をすすめる梓。 「展示するだけの車なら、購入しようと借り入れしようと同じでしょ? ね、いい話 しでしょう。車の販売代金が入って、無料貸し出しの車を展示することができるの よ」  すっかり当惑している店員。二人の会話の内容から、篠崎重工の重役かなんかのご 令嬢らしいし、この車を購入するだけの資産を持っているのは確かだろう。  フェラーリ・F50・クーペ・ベルリネットのことは良く知っている。排気量 4, 700cc・V12エンジン、最高出力 520PS、最高時速 325km/h。独特のフロントフー ドのラジエータ用エア・アウトレット。ダンパーユニットを水平にセットしたプッシ ュロットタイプのサスペンション。冷却性能に優れたドリルブレーキディスクなどな ど。  確かに、篠崎重工のこの車よりも世界的にも有名なフェラーリの方が展示価値は高 い。無料で貸してくれるというのなら千載一隅の機会というべきだろう。 「しばらくお待ちいただけませんか、本社に連絡してみます。販売が可能かどうか確 認します」  というと奥の事務所に姿を消した。 「ねえ。今のうちにお母さまに連絡してみたら? って、今向こうはまだお休み中か ……」 「そうよ……事後承諾になるけど、一応無料貸し出しに関する契約書というか誓約書、 麗香さんにおねがいしなくちゃね」  やがて店員が戻ってくる。 「お待たせ致しました。お話しは応接室でいたしましょう。どうぞ、こちらです」  店員に案内されて応接室に移動する二人。  二人が応接セットに座ると同時にお茶が運ばれてくる。
注:文中パナマ運河の通過制限は執筆の時点。現在は拡張工事が行われて、タンカー で15万DTWまで通れるようになっている。

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2018年1月 1日 (月)

銀河戦記/第十章 氷解(19)

第十章 氷解

                 (19) 「検視の結果だ。目を通しておきたまえ」  検察事務官は検視報告書を閲覧させた。 「はい」  それを受け取って目を通すコレット。 「やはり他殺と出ましたか」 「直接の死因を示す首の絞殺斑と、マシンに吊られていた状態でのロープの位置がず れている。つまり一端絞め殺された後にマシンに吊り下げられたと判断された。それ に君の発見した膝の擦り傷跡を調べた結果も、傷口とそこに残った体液から死後硬直 後についた傷であることが判明した」  人が死ねば死後硬直という状態に陥る。筋肉が緊張して間接すら曲げることができ ないほど固くなる現象である。これは筋肉の活動による分解産物である乳酸の発生と 深く関わっているともいわれている。死後硬直の度合によって死亡時刻を推定するこ とができる。  人間傷を負えば、その傷から少なからず血液や体液が浸出する。生きていればその 浸出液には血小板や免疫抗体物などが多量に含まれているが、死んだ後では極端に減 ってゆき、死後硬直後ともなればほとんど含まれなくなる。また細胞の再生という面 でも血流が止まってもある程度は細胞は生きているので、細胞内に貯えられた栄養で 再生しようとした跡が見られるが、細胞が死滅し死後硬直が始まればまったく見られ ない。 「君の方の捜査は進んでいるのかね」 「はい。容疑者を逮捕する寸前まできています」 「そうか、頑張りたまえ」 「わかりました」  一旦自室に戻って、もう一度考えをまとめる事にする。  ラジオから深夜番組が流れている。今流行の軽音楽。  ベッドに仰向けになって解剖報告書に目を通しているコレット。  絞殺による殺人。膝の傷の状態から別の場所で殺害されてジムへ運びこまれたこと が証明された。  ラジオからの音楽が跡絶えた。そしてパーソナリティーの声。 『以上、今夜はウィンディーネのスタジオからお送りしました』 「え?」  一瞬耳を疑った。 「そうか……。中継放送というものもあるんだった。他の艦のスタジオがキー局とな って、それをそのまま放送する」  中継となればせいぜい調整室員とディレクターくらいの二人だけいれば用は足りる はずだ。その時間帯なら残りの二人が悠々抜け出せるというわけだ。  端末を開いてFM局の番組表を調べてみる。  事件当時の番組は……。 「ドリアード便りか。つまり準旗艦ドリアードからの中継というわけだ」  よし、アリバイが崩せる!  早速、逮捕状を申請する。  容疑者はカテリーナ・バレンタイン少尉。  容疑はミシェール・ライカー少尉殺害。  その判断根拠を記述し、司法解剖報告書を添付して、特務捜査科逮捕訴追課に送っ た。  やがて申請が受理されて、逮捕許可証の画面に切り替わった。  それをプリントアウトすれば、逮捕状になる。 「よし! 逮捕だ」  逮捕状を握り締めて、自室を飛び出して行くコレット。 「今は当直で、スタジオにいるはずだ」  駆け足で、スタジオのある発令所ブロックへと向かう。  逮捕状の威力は絶大だ。  提示するだけで警備室をフリーパスできただけでなく、どこへでも入室できるのだ。 第一艦橋はもとより、たとえ放送中のスタジオにだって踏み込める。  そして今スタジオにいる。 「カテリーナ・バレンタイン少尉を逮捕に来た。どこにいますか?」  放送局員に逮捕状を提示しながら問い詰める。  局員は一瞬驚いた表情を見せたかと思うと、すぐに困惑した表情に変わった。 「それが……じ、実は。まだ姿を見せていないんですよ」 「なんですって?」  その時、呼び出しブザーが鳴った。 「ちょっと、お待ち下さい。第一艦橋から連絡です」  ヘッドレストホンを耳にあてて、機器を操作して連絡を取っている局員。 「は、はい。実は、こちらにいらっしゃってます。はい、代わります」  局員が、ヘッドレストホンを差し出しながら言った。 「司令官からです」 「中佐が?」  それを受け取って答える。 「コレット・サブリナです」 「すぐにアスレチックジムに向かってくれ。カテリーナ・バレンタイン少尉が首吊り 自殺した」 「なんですって!」

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