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2018年1月19日 (金)

銀河戦記/第十一章・スハルト星系遭遇会戦 VI

第十一章・スハルト星系遭遇会戦 

                VI  サラマンダー艦橋。 「近日点付近の危険ゾーン通過に要する時間は、およそ二十五分。防備の薄い駆逐艦 を守るために、戦艦・巡洋艦を恒星に対して内側になるように部隊編成を行います。 急いで」  スザンナが指令を出しはじめていた。  メインスクリーンには巨大なプロミネンスを吹き上げる灼熱のスハルト星が映し出 されている。その強力な重力が艦体を歪め、至る所で軋み音を上げていた。  ここまで来てはもはや躊躇は許されなかった。その時点での自分が考えられる最良 の指示を出し続ける他にはなかった。もし間違っていれば中佐殿が訂正してくれるは ずだ。アレックスのその存在感は絶大だった。 「全艦、耐熱シールド展開」 「武器系統の動力をすべてカットして、パワーを機関に回して」 「機関出力をオーバーリング状態にして、速力を一定に保って下さい」  次々と指令を出し続けるスザンナ。  一息をつく暇もない。いくらコンピューターが算出したコース設定通りに艦隊リモ コンコードで全艦一斉移動しているとはいえ、逐一コースの修正を行わなければなら なかった。なぜなら地点地点によって重力値が微妙に変動するし、黒点や白斑そして プロミネンスの状態によって、その放射圧力が極端に変化するからだ。  戦闘の指揮がどれほど大変かを痛感した。  中佐も戦闘の度にどれほどの精神をすり減らしていたかが実感できた。しかも今の 自分の相手のスハルトは、弾を撃って来ないだけまだ精神的に余裕があると思った。 最悪ならば作戦を放棄してスハルトから脱出することもできる。しかし敵艦隊との戦 闘では相手は黙って通過を許してはくれないし、見逃してもくれない。ビーム砲は撃 ってくるし、ミサイルも発射してくる。どう出てくるか判らない相手の行動を推測し、 寸秒刻みで的確な判断を下さなければならないのだから。  その尊敬する司令官アレックス・ランドール中佐は、ただ静かにスザンナを見守っ ていた。 「指揮官。一部の駆逐艦が出力不足で予定コースから外れていきます」 「艦数は?」 「十二隻です」 「十二隻か……。仕方ありませんね。当該駆逐艦に作戦変更を伝達、敵追撃作戦を断 念して帰投コースに戻れ」 「了解。当該駆逐艦に帰投命令を出します」  スザンナは一部艦艇を離脱させる命令を躊躇しなかった。恒星スハルトの強大な重 力圏内で無理なコース変更をすれば機関不良を起こして失速、スハルトに飲み込まれ てしまう。作戦に勝利するよりも部下の生命を大切にすることは、ランドール司令の モットーだ。それを忠実に実行しているのである。ランドール中佐は動かない。つま りスザンナの判断が間違っていないということだ。 「近日点を通過します!」 「よし、全艦機関出力最大、全速前進。スハルトの重力圏から離脱する」 「全艦機関出力最大」 「全速前進」 「重力圏離脱します」  それから二十分後。 「追撃コースに乗りました。先の十二隻以外には脱落艦はありません」  ふうっ。  と大きなため息をつくスザンナ。  その肩に手が置かれた。 「よくやった。完璧な指揮だったよ。これで戦闘指揮もこなせることが判った。今後 も君には期待している」  アレックスだった。満面を笑顔を見せて、スザンナの采配振りを誉めちぎった。 「ありがとうございます」 「交代だ。休憩してきたまえ」 「判りました。休憩してきます」  ほんとうは艦長として、引き続き操艦したい気分だった。  しかし命令であり、休憩する事も重要な任務の一つだ。  部屋に戻り、タイマーを六時間後にセットしてベッドに入ると、あっという間に寝 入ってしまった。自分では気づかなかったが、精神的疲労は極限にまでになっていた のであった。死んだように深い熟睡の眠りに陥った。

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