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2018年3月

2018年3月31日 (土)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 十六歳の誕生日

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(三)十六歳の誕生日  ニューヨーク・ブロンクスにある真条寺家本宅。  当主である渚の執務室の電話が鳴る。  渚専属の執事の深川恵美子が相手先を確認する。 『お嬢さまからのTV電話が入りました』 『はい』  渚が机の上のコンソールを操作すると、右手の壁際にするするとパネルスクリーン が降りてきて、梓が映しだされて話し掛けてくる。 『お母さん、ただいま』  その画面に向かって応える渚。 『お帰り、梓』  梓は制服姿のままである。屋敷に帰ってきてすぐに連絡をいれてきた証拠である。 その姿勢が母親としてはうれしいものだ。  本宅と別宅に別れた状態で、ただいまにお帰りというのは実際には変な気もするが、 母娘の間には、遠く離れた地にあっても、心が通じ合っていれば矛盾は感じていない。 『それで慎二ったらね……』  梓は、今日一日に起きた事柄を、逐一報告している。男性である慎二という存在も 包み隠さず話してくれる、母親としては思春期にある娘の気持ちも察して、決してい ぶかることなく真摯に梓の話しに耳を傾けてあげている。 『最近のお嬢さまは、ほとんど毎日のように慎二君の事を話されていますね。それも 本当に楽しそうにです』 『そうね。正直に話してくれるのは、母親としては嬉しい限りだけど。やはり年頃の 娘を持つ親としては、少々心配だわ』 『このままの関係が続けば、お嬢さまは、彼を真条寺家の婿としてお選びになりそう な予感がします』 『これは一度、その慎二君とやらに直接会って話し合ってみる必要がありそうね。い くら命の恩人だからといっても、それがトラウマとなって相手の真の姿を見失ってい るのかも知れない。麗香さんにしても、あまりにも近くに寄り過ぎているから、正確 な判断を下せないでいるだろうし、ここは第三者の目で冷静に観察すれば真実も判る でしょう』  慎二が国際救急センターに移送されて集中治療を受けていた際、渚も面会に訪れて はいたが、相手の容体を考慮して短く挨拶しただけであった。  そしてある程度快復すると共に、再び日本の生命科学研究所へと移っていった。 『お嬢さまのお誕生日に、お呼びしたらいかがでしょうか。お嬢さまもこちらにいら っしゃることですし』 『そうしましょう。早速、麗香さんに連絡して』 『かしこまりました』  慎二のアパート。  渚から直接指示を受けて慎二を招待するために尋ねたのである。  麗香がアパート名を確認して、階段を登りはじめる。 「こういう所に来るのははじめてね」  世話役として梓と共に暮らすようになって、財閥令嬢の優雅な世界にどっぷりと浸 かっている麗香には、一般庶民の生活に触れるのはこれが最初の出来事となる。  同じ人間でも生まれた環境によってまるで生活を隔たれてしまう。かたや財閥のお 嬢さま、かたやアパート住まいの一般庶民。雲の上の存在と、地を這いずりまわるも の、本来なら接点すら有り得ないはずなのに、なぜか神はいたずらをする人間交差点。  命を投げ出して梓を助けだしたあの長沼浩二という男、しかもその男は当時中学生 だった沢渡慎二という少年に男の何たるかを教えた。彼が、梓と慎二を引き合わせた のは、間違いのない事実であろう。麗華の知らないところで神は悪戯をしているよう だ。  そして今、梓と慎二の関係に新たなる予兆が始まろうとしている。 「ここね」  203号室。確かに沢渡というシールが貼られている。  ドアをノックする麗香。 「開いてるよ」  と中から慎二の声が返ってくる。  入っていいということかしら。 「失礼します」  ドアを開けて、部屋の中に入る麗香。  そこは安アパートのどこでもありそうな、作り付けの一畳程度の台所と四畳半の居 間の二部屋のみ。1Kとも呼べないおそまつな間取りであった。とは言っても1Kとい う言葉自体、麗華が理解できているかは疑問であるが。仮に5LDKだっとしても狭い と感じるだろう。  折りたたみ式の食卓を部屋の中央に置いて、カップ状の容器から麺状のものを、割 り箸で口へ運んでいる慎二。 「もしかして今食べてらっしゃるのは、カップラーメンとかいうものではないです か?」 「そうだよ。って、カップ麺も知らないの?」 「はい。食事は、料理人達が作ってくれるものを、毎日頂いていますから」 「つまり自分で料理したこともないのかな?」 「いいえ。ニューヨークで梓お嬢さまと寮暮らしをしていた頃は、ちゃんと自分達で 料理はしておりましたが、カップラーメンの存在は知りませんでした」 「寮生活で料理していたと言ったって、どうせブルジョアの生活だろう。毎日の食卓 には、それこそフォアグラだのキャビアだのが並んだりしたんだろな。ま、そこまで はいかないにしても、生活費は全部母親からもらっていたんだ。毎月いくらいくらの 予算内でやりくりしなきゃならん俺達庶民の生活は知らないんだ。だからカップ麺の ことを知らないんだ。このカップ麺がいくらするか知ってるか?」  素直に首を横に振る麗香。 「このカップ麺が一個、七十円台から高くても二百円台だよ。これ一個で毎度の食事 が済むんだ」 「そ、そんなに安いのですか?」 「まあね。それでそのブルジョアの方が、庶民の部屋に何のようかな」 「え? あ、はい。実は……」 「あ、ちょっと待って。全部食ってから聞くことにする」  いきなりカップ麺を胃の中へかき込む慎二。物珍しそうにその光景を眺めている麗 香。そばにあった未開封のカップ麺の容器を手にとり、説明書きを読んでいる。  ……熱湯を注いで三分で食べられるのね。こんなものがあったんだ……  最後の汁を飲み込み終えて慎二が口を開いた。 「さてと、さっきの続きを聞こうかな」 「あさってが、お嬢さまのお誕生日なのですが、ご存じでしたか?」 「え、そうなの? 知らなかったよ。教えてくれなかったものな。ということは、十 六歳になるんだ」 「はい。それでニューヨークのブロンクスの本宅で、お誕生パーティーを開きます。 そのパーティーに沢渡様をご招待することになりました」 「ありがたいけど、俺パスポートとか持ってないから、アメリカに行けないよ。今か ら申請したって間に合わないんじゃないか?」  ハワイから強制送還を受けたことを思い出していた。 「アメリカ大使館で特別入国許可証を発行してもらいます。すでにアメリカ政府{入 国管理局}の事前承認を得ておりますので、大使館で簡単な質問に答えて頂けるだけ で済みます」 「あんたら、何者なんだ。アメリカ政府にコネでもあるんか」 「渚さまを甘く見てはいけませんよ。アメリカ政府どころか、世界の経済の行く末を 握ってらっしゃるのですから」 「そうなの?」 「ともかく、今日中に申請に必要な書類を手に入れて頂きます」

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2018年3月30日 (金)

銀河戦記/鳴動編 外伝 英雄の片鱗

銀河戦記/鳴動編 外伝 エピソード集

エピソード集 英雄の片鱗  スティール達が密航してそれぞれの人生をはじめた八年後のことである。  トリスタニア共和国の同盟首都星トランターのとある街角。  一人の少年が、木陰で大きな紙を広げて、集まった周りの友人達に説明をしていた。  彼の名は、アレックス・ランドール。  エメラルド・アイを持つ涼しげな表情の少年である。  彼らは全員孤児院で暮らしていた。  近くには裕福な少年が通う学校もあり、両者は毎日のようにいざこざを起こしていた。 いわゆる喧嘩なのであるが、貧しい孤児院育ちの少年と、毎日三食欠かさず食している裕 福な少年とでは、体力に歴然とした差があった。  まともに戦っては勝てないのは必定であった。体力に勝る相手に勝つためには、綿密な る作戦計画が必要であった。  そこで孤児院で人気者となっており、策謀にたけるアレックスが、知恵を絞って作戦計 画を練っていた。  さて、今日の喧嘩の陣取りは、小高い丘の上に裕福チームと、低湿地帯を選んだ孤児院 チームである。  戦いの基本は、より高い場所に陣取った方が圧倒的に有利というのが常識である。  しかしアレックスは自信満々に、チームに対して確実必勝法となる指示を与えていた。  やがて戦いがはじまる。  湿地帯に陣を張っていた孤児院チームは、葦の根元に隠していた泥団子を、いきなり裕 福チームに向かって投げかけた。  見る間に泥だらけになって、たじろぐ裕福チーム。  洋服を汚して帰ったらママに叱られてしまうとばかりに退散をはじめてゆく。  そこへ勇気百倍の孤児院チームが襲い掛かった。 「汚い手を使いやがって!」  と、悪態をついて逃げ出していく裕福チーム。  確かに汚い手だったかもしれない。しかしそれを予想できなかったことを悟るべきであ る。元々喧嘩には作法などない。どんな卑怯な手を使ってでも勝てばそれで良いのである。  とにもかくにも、今日の喧嘩はアレックスの見事な作戦勝ちである。  そんな両者の戦いぶりをじっと眺めていた人物がいた。  アーネスト・トライトン。  孤児だったアレックスの身元引受人であり、養父といったところである。  独身で子供を育てた経験がないために、養育を孤児院に預けて任せていた。  八年ほど前に、銀河帝国とバーナード星系連邦との間に横たわる国際条約中立地帯周辺 を警備する艦隊の司令官だった。  当時、中立地帯の近辺を荒らし回る海賊が横行していた。  海賊達は略奪を繰り返しながら、警備艦隊などの追っ手を撒くために、国際条約で軍艦 の進入及び戦闘が禁止されている中立地帯へ逃げ込んでいた。そうなれば警備艦隊は追跡 不可能、討伐もままならなかった。  デュプロス星系ミストを母港とする警備艦隊司令官トライトン中佐は、苦々しい思いで 中立地帯へと逃げ込んでいく海賊艦隊を見送るしかなかった。 「また、逃げられましたね」  艦橋の正面パネルに投影された海賊艦隊を見つめながら、副官のアーネスト・カミンガ ム中尉が呟くように言った。 「くやしいですね。ここから先は奴らの自由地帯です」 「我々は国家という組織を背に負っているからな。条約を守らなければ、国際紛争となり 果ては戦争状態となる可能性もある」 「そういえば、国際救助活動という事情があれば、救助のために戦艦が中立地帯へ立ち入 ることが許されますよね。人命を尊重するための特別条項が」 「ああ、人命は大切だからな。救助信号を受信すれば、身近にいるすべての船乗りが救助 に来てくれる。商船だろうが連絡船だろうが、そして戦艦であろうともな」 「大昔からの船員魂は、永遠に続いているということですね」  じっと正面のパネルスクリーンを見つめるトライトン中佐だった。  次なる指令を待って静寂となった艦橋だったが、それを打ち破るようにオペレーターの 乾いた声が響き渡った。 「右舷二時の方向に、何かが漂流しているもようです」 「漂流? パネルスクリーンに拡大投影できるか?」 「やってみます」  オペレーターが機器を操作して、スクリーンにその映像を捉えた。  そこに映し出されたのは、救命艇というよりも航行能力のない緊急脱出ポットと呼ばれ るものだった。微弱ながらも救助信号が発信されていた。 「どこから流れてきたんだ?」 「わかりません。ともかく拾い上げましょう」 「そうだな。そうしてくれ」 「判りました」  早速、救命艇が出されて漂流している方角へと向かった。  戻ってきた救命艇が回収した脱出ポットの中にいたのは、生まれたばかりの三ヶ月ほど の赤子だった。 「赤ちゃん?」  副官のカミンガム中尉が怪訝そうに見つめている。  すやすやと眠っている赤子のあどけなさ。 「身分の判るものはないか?」 「そうですね……。首から掛けられている首飾りが重要な手掛かりになりそうですがね」 「ネックレスか。結構大粒のものが付いているな、たぶんエメラルドだな」 「本物でしょうか?」 「イミテーションだろう。これだけの大粒は見たことがない。本物なら国宝級として政府 が管理しているよ」 「そうですよね。あ! 見てください。よだれ掛けに何か書かれているようです。アレッ クス……。この子の名前のようです。刺繍ですね」 「アレックスか。男の子ということだな」  ベビー服を着ていては、男女の区別がつかない。赤子は中性的な顔立ちをしているから、 おちんちんがあるかないかでしか性別を確認できない。そして男の子なら男の子らしい名 前と服を着せられ、女の子なら女の子らしい名前と服を着せられる。 「他に所持品は見つからないか?」 「ありませんね。この首飾りとよだれ掛けが身元を決めるものとなります」  その赤子は警備艦隊によってトリスタニア共和国同盟首都星トランターへと移送されて、 いろいろな面から身元調べが行われたが、結局調査不能という結論となった。  親のないみなしごとなれば、必然的に養護施設へと入れられることになる。 「私が、身元引受人になりましょう」  この赤子とは何か深い因縁で、自分と繋がっているような気がしてならなかった。そこ で自ら進んで身元引受人になると決めたのである。  トライトンの申請は政府に認められて、アレックスの養父となった。

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2018年3月29日 (木)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 ディナー

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(二)ディナー 「そうねえ……」  と考えてから……。  絵利香はボーイを呼び寄せて何事か相談していた。 「少々、お待ちいただけますか? 支配人にお話を通してみます」  丁重な態度で用件を確認してボーイがホテルに戻っていく。 「なに、相談してたの?」 「いえね。このホテルには結婚式場があるじゃない。来客用の貸衣装とか借りられな いかと思ってね」 「へえ、貸衣装があるんだ……」 「ホテルなら大概あるんじゃない? レストランにだって、ウェイトレスが粗相して 客の衣装を汚してしまった時のために、ちゃんと用意してあるよ」 「そうなんだ。便利だね」  やがて支配人がやってきた。  依頼人が、ホテルのオーナー令嬢である絵利香だから、支配人自ら直接出向いてき たのである。 「絵利香お嬢さま。ようこそおいで下さいました」 「こんにちは、お邪魔してます」 「お話をボーイから承りました。お召し物の件はこちらでご用意させていただきます ので、ご安心くださいませ。お料理の方も、十分吟味致しましてご満足頂けるものを お出しいたします」 「ありがとう。お願いしますね」 「どう致しまして。それではお食事のご用意が整うまでホテルでおくつろぎください ませ」  深々とお辞儀をして戻っていく支配人。 「やっぱりいいね。お嬢さまか……心地よい響きだよね」  この頃には、梓と絵利香が富豪令嬢であることは、クラスメートや知人にはとっく に知れ渡っていた。ロールスロイスで通学したり、親睦旅行でのことを考えればすぐ に気がつく。  その後プールからホテルのレストランに移動して、慎二の快気祝いの食事会となっ た。  各人、ホテルの貸衣装室で思い思いのドレスを着込んでいる。  熱傷で何ヶ月も意識不明の重体だったとは思えないほどの、見事な食べっぷりを披 露する慎二。 「いつもながら豚並みの食欲だなあ」 「そうねえ。せっかくのタキシードが泣いてるじゃない」 「服で食べるんじゃないだろう」  食べ物を頬張ったまま喋る慎二。 「だったらタキシードなんか着なきゃよかったのに」 「一度着てみたかったんだよ。これ」 「馬子にも衣装という言葉は、慎二君には合わないわね」 「ほっとけ!」  そんな慎二とクラスメート達の会話を黙って見つめている梓。 「おとなしいのね」  絵利香が囁くように語り掛けてくる。 「そうかな……」 「だいぶ気にしているわね。負い目とも言ってもいいのかしら」 「なんでそうなるのよ」 「そうじゃない」 「おーい。絵利香ちゃん、次の皿はまだなの?」  マナーとかの持ち合わせもない慎二に、周囲の他のお客がくすくすと笑っている。 「相変わらずね。慎二君は、一人前じゃ足りないでしょ。いいわよ」  というとウェイターを呼び寄せて、もう一人前プラスして都合二人前を慎二に出す ように指示を出している。ホテルのオーナー令嬢だからこそできることだった。 「サンキューね」  食べているときが一番幸せという表情で、もう一人前の皿に舌なめずりしながら、 フォークとナイフをすり合わせてから、手をつけはじめる慎二。  命の恩人とはいえ、こういう常識知らずな面を見るにつけ、このまま付き合ってい てもいいのだろうかと煩悶する梓だった。 「まあ、こういうところが慎二君のまたいいところじゃない。天真爛漫で嘘偽りのな い正直な性格をまんま出しているんだから」  と絵利香は、慎二をアフターフォローするが、梓にはいまいち納得できないでいる。 「そうなのかな……」 「そうそう」  なんにせよ、慎二とはこれからも付き合いを続けていくのだろう。

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夕食のオカズ釣り!

インターポット

夕食のために魚釣ります(^_-)-☆

お姉ちゃん、おっきいの釣ってね。

まかせなさい。

釣れたらおいしい魚料理作りますよ。

わーい!お刺身?それともムニエル?

あんたねえ、窓から見てないで少しは手伝いなさい。

だってえ、お姉ちゃんは釣る人、あたし食べる人だもん。

そしてママは料理する人……。

2018年3月28日 (水)

銀河戦記/鳴動編 外伝 少年達の挽歌 後編

銀河戦記/鳴動編 外伝 少年達の挽歌

少年達の挽歌 後編  トリスタニア共和国同盟へと渡ったジュビロ・カービン。  国際連絡船の貨物に紛れ込んで、見事に首都星トランターへの密航に成功し、自由な国 の明るい日差しの土地への降り立ったのである。 「まずは仲間を集めることにしよう」  何事にも一人より二人、二人より三人と多くの仲間が増えれば、より大きな仕事ができ る。それがネット犯罪という悪行であればあるほど。  ジュビロにとって、トランターでの暮らしは、アルデランに比べれば天国のようであっ た。  腹が減ったり衣服が欲しくなれば、仲間を誘って徒党を組んで街へ繰り出し、商店を襲 って食料などを強奪したり、道行く人々を取り囲んでは金品を巻き上げていた。すべての 民が困窮していたアルデランと違って、ここトランターでは生きていくのに必要なものが すべて揃っていた。  どんなに発展した街とて、やはり汚点とも言うべき暗い側面があるものだ。犯罪者や事 業に失敗して多額の借金を背負い込んで流浪する者、そんな人々が自然と寄り集まってス ラム街というものが形成されていた。  治安が悪く、毎日のようにひったくりや強盗果ては殺人事件まで、あらゆる犯罪が存在 するのもまた共和国同盟の性である。  ジュビロ達が暮らしているのはそんなスラム街だった。  清掃の手も行き届かないゴミの散乱したとある朽ち果てた廃ビルの地下室に集う悪餓鬼 達。携帯端末の画面を見つめながら、今日もネット犯罪に手を染めていた。  チームリーダーとなっていたジュビロが呟く。 「ようし、軍部のネットサーバーに繋がったぞ」 「さすがジュビロだな」 「そうだよ。ジュビロの手に掛かればアクセスできないネットなんてないからね」 「で、何から調べてみる?」 「そうだな……。どうせなら軍部の最高機密を知りたいな」 「最高機密ねえ……。やっぱり新造戦艦じゃないの? それも最新鋭の」 「よし、それでいこう」 「となれば、工廠省の軍事コンピューターだね」 「それってガードが固いんじゃない」 「ああ、軍部でも最高レベルのセキュリティーで守られているよ」 「でも、ジュビロがいれば簡単に破れるよね」 「当たり前だ。ネットに繋がっている限り、アクセスできないものはない」  と言いながら端末を操作すると、瞬く間に軍の最新鋭戦闘艦の資料、模造品と設計図が 映し出された。 「これが最新鋭?」 「ああ。戦艦の形式は、ハイドライド型高速戦艦」 「へえ、高速戦艦か……」 「主砲は、超伝導技術を利用した原子レーザー砲だ」 「原子レーザー砲か……」 「火力、速力、すべてにおいて現行の戦艦を凌駕しているよ」 「これでバーナード星系連邦との戦いも楽になるんじゃない?」 「馬鹿言えよ。こいつはまだまだ設計段階で、全体のほんの一部でしかないんだ。すべて の設計が終わって、竣工するまでは二十年から先の話だよ」 「なんだよ。そんなに掛かるのかよ」 「あたりまえだ。戦艦の設計には、何百人という技術者が必要なんだ。エンジンの設計者、 火砲の設計者、艦体構造の設計者、艦を動かすシステムエンジニアなど、大勢の人間が関 わってくる」 「戦艦一隻開発するのも大変なんだな」 「そういうこと。こちらが新戦艦を開発しても、相手国だって黙って見ていないからね。 さらに上を行く性能の戦艦を投入してくる。開発競争は熾烈さ。相手国にスパイを送り込 んだり、ネットに侵入してその開発データを盗み取ることも、頻繁に行われているさ」 「俺達みたいにね」 「なあ……。このデータを持って、どこかの機関に売り込んだら金になるかな? 連邦軍 のスパイとか」 「おい。抹殺されたいのか。外部に持ち出せば必ず足が付くに決まっているじゃないか」 「そんなもんかな」 「軍部だって馬鹿じゃないよ」  一方のスティール・メイスンは、バーナード星系連邦首都星ジラードへの密航に成功し たものの、行く当てもなく街の中をさ迷っていたところを補導されてしまった。  すべての男子が軍人への道を進むバーナード星系連邦とて、戦いをどうしても肯定でき ない平和主義の人民がいても不思議ではないだろう。  そのような人物は、施設に強制収容されて洗脳教育を受けることになる。  連邦の男子はすべて軍人であり、軍人でなければ連邦人民ではないのである。  補導されたスティールであるが、銀河帝国からの密航者ということがわかって、特別収 容施設へと入れられることとなった。  銀河帝国から密航してくる人民が相当な数に達していたのである。彼らを一同にバー ナード星系連邦の人民としての再教育が行われるのである。  とはいえ、まだ少年であるスティールには特別な再教育は必要ないだろうという判断さ れて、一般の兵士教育機関である幼年学校への編入手続きがなされて、連邦人民の一人と して同じ年頃の子供達と机を並べることとなった。  毎日続く軍事教育の中で、スティールはその才能を花咲かせ、めきめきと頭角を現し始 める。  一般的には幼年学校を卒業して、最下級の二等兵として軍務に付くのが大半だが、成績 優秀なスティールは、上級の士官学校への推薦入学、さらには幹部候補養成学校へと進学 した。  そして若干二十歳で軍務に就任したとき、すでに大尉に昇進し、一個部隊を率いる部隊 司令官の副官として、艦隊勤務に就いていた。

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龍の背に乗って

インターポット

おねえちゃん!見て見て、龍に乗れたよ(*^^)v

あ、危ないわよ。早く降りなさい。

大丈夫、大丈夫。

油断してると食べられちゃうわよ。

この龍、おとなしいから食べないよ。

2018年3月27日 (火)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 ホテルにて

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(二)ホテルにて  というわけで、出かけた先はホテルのプールだった。  もちろんホテルといえば篠崎グループと相場が決まっている。水着になって泳げば 気分も爽やか、絵利香の誘いに乗ってやってきた。  ただ以前と違うのは、SPらしき人物の数が増えていることであった。一般人を装 ってはいるが鋭い眼光からすぐにそれと判る。場所が場所だけに、女性SPもいるよ うだ。  そして外出の際には、いつも麗香が付き添うようになった。  研究所火災は、ハワイ沖海戦のことを含めて、梓の命を付けねらう何者かの存在を 明らかにした。 「で、放火の犯人は捕まったの?」 「え?」  絵利香の唐突な質問に驚く梓。 「な、何を言っているのよ」 「だめよ。隠しても判っているんだからね。梓ちゃんの命を狙っている人間がいるこ とぐらい、とっくに気づいているんだから」 「気づいていたの?」 「篠塚の情報網も馬鹿にできないわよ。事の発端は、ハワイに行ったときの飛行機墜 落事故の調査結果よ。自動操縦装置のプログラムが何者かに書き換えられていたこと が判明したのよ。コースが逸れて燃料切れとなるようにね。わたしか梓ちゃんのどち らかを狙った犯行だと断定されたのよ」 「その事、どうして黙っていたの?」 「確信がなかったからよ。しかし今度の研究所火災で、間違いなく梓ちゃんが狙われ ていることがはっきりしたわ」 「そうかあ……やっぱり絵利香ちゃんもそう思っているんだ」 「当たり前よ。駆逐艦に攻撃されたりなんかすれば、誰だって思うわよ」 「そうだよね」 「その話し振りからすると、犯人には逃げられたんだね。あのマッドサイエンティス トじゃないの?」 「可能性は大きいわね。あれから姿が見えないもの」 「今度から人を雇うときはしっかりと身元を確認することね」 「へいへい」 「やあ、いたいた。おまたせえ!」  と背後から聞きなれた声。 「慎二!」  振り返ると、いつものひょうきんな表情をした慎二が、クラスメートと共に水着姿 で現れた。  鶴田公平、相沢愛子らの面々が揃っている。 「遅かったじゃない、みんな」 「仕方ないよ。ホテルのプールなんて利用したことないんだから。入場・利用の仕方 が判らなかったし、どの階にあるのかも判らなかったんだよ」 「フロントに聞けばすぐに判ったはずよ」 「だってよ、ホテルのフロントって、何かかしこまっていてさ。聞きずらいじゃない か」 「そうそう、一般庶民には高級ホテルは近寄りがたいところがあるのよね」 「そんなものなの?」 「お嬢様育ちの二人には判らないかもしれないね」 「へえ、意外ときれいに直ってるじゃない。瀕死の大火傷を負ったというけど、見る 影もないわね」 「まあね。何せ真条寺家が全力を挙げて、世界中の名医を掻き集めて、最新の治療を 施してくれたからね。な! 梓ちゃん」  と言いながら梓の隣に座る慎二。 「そ、そうね……」 「ふーん。そういえば慎二君の快気祝いしてないわね」 「言われてみれば、その通りね」 「この後でやりましょうよ。プレゼントとかは用意してないけど……料理は出すわ よ」 「フランス料理のフルコース?」  慎二が小躍りし、舌なめずりして尋ねた。 「ええ、いいわよ。慎二君がお望みなら」 「よーし。食うぞー!」 「あのねえ。普通、快気祝いって」 「固いこと言いっこなしだよ」 「食い意地の張ってる慎二君らしいわね」 「しかしフルコースを頂けるのは嬉しいけど……できればふさわしい服にドレスアッ プしたいわよね」 「ああ、そうだよね。俺なんかTシャツにGパンだよ。きっと、追い出されちゃう よ」

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2018年3月26日 (月)

銀河戦記/鳴動編 外伝 少年達の挽歌 中編

銀河戦記/鳴動編 外伝 少年達の挽歌

少年達の挽歌 中編  小一時間後。  中継所から二人が出てくる。 「俺は、いつまでもこんな帝国にいたくないね。ここにいる限り、何もできやしない」 「どうするつもり?」 「トリスタニア共和国同盟へ行くつもりだ」 「共和国同盟?」 「ああ、自由の国だから、能力さえあればどんなことでもできる」 「でも、どうやって行くの? 貴族か貿易商でもない限り、首都星アルデランから平民が 出ることは禁じられているんだよ」 「両国を往来している連絡船の荷物に紛れ込んで潜り込むんだよ。早い話、密航するん だ」 「密航……するの!」 「他に方法はないだろ?」 「ふうん……」 「どうだ。君も一緒について来ないか?」 「僕も?」 「そうだよ。平民の自由を束縛している帝国にいる限り、いつまでたっても貧乏生活から 脱却できないよ。しかしトリスタニアに渡れば、腹一杯飯が食えるようになる」  誘われて、しばらく考え込んでいたスティールだったが、 「僕は、トリスタニアには行かない」 「なぜだい? 向うには溢れるほどの自由があるんだぜ」 「いや。僕は、バーナード星系連邦へ行って軍人になるんだ」 「軍人になるのか?」 「僕はいやというほど貴族達が嫌いだ。平民に対する虐待は許せないよ。しかし平民がど うあがいたって、貴族に対等することすらできない。それができるのは軍人だけだ。連邦 に渡り軍人になって、将来大艦隊をも率いるような将軍になって、銀河帝国を滅ぼしてや るんだ」  熱く語り続けるスティール。  母を通して貴族達の横暴には、身に沁みて感じているスティールが、貴族への反感を高 め滅ぼそうとおいう気になるのも当然といえるだろう。 「大きな夢じゃないか」 「ありがとう」 「いいさ。僕も君のために大いに協力してあげるよ」 「協力? どうやって?」 「ふふふ。ネット犯罪者となってトリスタニアを混乱させるのが僕の楽しみなのだが、 リークした貴重な情報を君の元へと流してあげるよ」 「ネット犯罪者……」 「国際ネットワークにはトリスタニアはもちろんのこと、銀河帝国やバーナード星系連邦 にも、何らかの方式でネットに繋がっているからね。腕前さえあれば、どんなところにで もネット侵入できるものさ」 「すごいね」 「ああ……。それじゃあ、しばしの別れだ。いずれネット上で再会しようじゃないか」 「うん。それまで首を長くして待っているよ」 「じゃあな」  こうして二人の親友は、それぞれの道を目指して、トリスタニア共和国同盟とバーナー ド星系連邦へと渡っていったのである。

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2018年3月25日 (日)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 憂鬱な日々

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(一)憂鬱な日々  慎二も無事に退院し、梓の生活にも平穏が戻りつつあった。  しかし心境は以前とまるで変化していた。  慎二に命を助けられたことは、明白な事実である。  炎を掻い潜って助けにきてくれた時は、ほんとに驚いてしまった。  そして、あの炎の中での告白劇も脳裏から離れることはない。  そう……お互いに好きだと告白したこと……。  生きるか死ぬかという極限にあって、果たして分別のある精神状態であったかどう か……。自暴自棄にはなっていなかったか?  ただ単に相手を安心させるために、口からでまかせに発した言葉なのかも知れない し……。  命の恩人の慎二はともかく、自分はどうだったのだろうか。 「助かったら、女の子らしくしてくれ……か」  あの時、慎二と交わした約束を思い出した。  指きりげんまんした小指をみつめながら思いにふける。 「あたしって……ほんとに男っぽいのかな……」  確かに、すぐに喧嘩を仕掛けたり、問答無用で相手を投げ飛ばしたり、蹴りを入れ たりするけど……。 「やっぱり、普通の女の子じゃないわよね……」  潜在意識にある長岡浩二という人物がいる限りは、どうしようもないかも。  しかし指きりげんまんした手前、女の子らしくする努力をしなきゃならないし…… 命の恩人の頼みだから、なおさらだ。 「ああ、もう! なんでこんなことで悩まなきゃならないのよ」  思わず大声を出してしまう梓だった。 「あらあら、何を悩んでいるの?」  振り返るといつの間にか絵利香が立っていた。 「梓ちゃん、最近元気がないわよ。せっかく慎二君が退院したというのに」 「だから、悩んでいるのよ」 「そっかあ、命の恩人に対し、どう接したらいいか……悩んでいるんでしょ」  さすがに勘の鋭い絵利香だった。 「命を助けられたからって、普段通りでいいんじゃないかしら」 「女の子らしくしてくれと言われても?」 「言われたんだ……」 「うん……炎の中で」 「そっか……それで悩んでるんだ」 「でもさあ、その時の慎二君は、自分の命を捨てる覚悟の上だったんでしょ。自分に たいしてではなく、将来に恋人ができた時のことを考えての発言だと思う。つまり、 慎二君にとっては、梓ちゃんが女の子らしかろうが、男っぽいところがあろうが、気 にしていないと思うよ」 「そうかなあ……」 「だって、男っぽいところの梓ちゃんとも結構気が合ってるしさ」 「喧嘩相手としてでしょ?」 「喧嘩するほど、仲はいいのよね」 「どこがよ」 「でも命を張って助けてくれたことは認めるでしょ」 「まあね」 「意外と薄情なのね」 「なんでそうなるのよ」 「自分も慎二君のこと好きなのを認めなさい。そうすれば気が楽になるわよ。そもそ もの悩みはそこにあるんだから」  図星を突かれて言葉に窮する梓。 「やっぱり好きなのかな……。慎二のこと」 「二人を見てたら、誰だってそう思うわよ。いい雰囲気よ」 「そっかあ……好きだったんだ」 「人事みたいに言わないでよ。自分のことでしょ」 「認めたくないもう一人の自分がいるんだよね」 「浩二君の意識?」 「かもね」 「それは違うわね。そう思うことで逃避しているだけじゃない?」 「はあ……なんか堂々巡りしているわね」 「そうね」 「気分転換にどっか行かない?」 「それもいいかもね」

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姉妹仲良く夜の散歩♪

インターポット

だいぶ暖かくなってきたね。

そうだね、夜桜も輝いているし。

でも、不思議だね。

何が?

だって目の前の氷のリンクが溶けてないよ(*'▽')

気にしない。スケートできるから。

ママが頑張ってヒャダインの魔法かけてるのかな。

かもね。

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2018年3月24日 (土)

銀河戦記/鳴動編 外伝 少年達の挽歌 前編

銀河戦記/鳴動編 外伝 少年達の挽歌


少年達の挽歌 前編  銀河宇宙には三つの強大な国家が、覇権を求めてその勢力を競い合っていた。  立憲君主制をとり、皇帝が絶大なる権力を誇る銀河帝国。  民主共和国が寄り集まって一つの連帯政治を執っているトリスタニア共和国同盟。  軍部独裁政治を敷くバーナード星系連邦。  さらには銀河帝国の後背に、自由惑星連合という中立の立場を表明する弱小国家の存在 もあった。  そして今、トリスタニア共和国同盟とバーナード星系連邦との間では、数百年に及ぶ戦 闘状態が続いていた。そんな中、銀河帝国は高見の見物とばかりに平和な日々をむさぼっ ていた。  銀河帝国首都星アルデラン。  帝国皇帝以下の皇族、皇帝より爵位を与えられた上級貴族が贅を極め、華やかなドレス や高価な宝石を身に着けて、日がな夜がな舞踏会や園遊会を開催しては、莫大なる散財を していた。  ここアルデランでは、貴族にあらずんば人にあらず。  そういう風潮がまかり通り、平民達は貴族達によって虐げられ、ほとんど奴隷的存在で しかなかった。  平民達は、電気・水道もない貧民街のみすぼらしい一角に押し込められ、その日のパン すら手にすることもできないような状況であった。農民達も事情は同じで収穫した作物の ほとんどを搾り取られて、ガリガリにやせ衰えていた。  しかし死なせてしまっては元も子もない。貧民街には一日に一度、救世軍と呼ばれる組 織によって食事の配給がなされていた。一日に必要な最低限の栄養が摂取できるようにす べての民に公平に与えられていた。  生かさず殺さず。  それが貴族の平民達への処遇である。  とある町の一角。  ぼろアパートの外の木箱の上にぼんやりと座っている少年がいた。  そこへ別の少年が声を掛けた。 「おい。スティール、こんなところで何をしているんだ?」 「何をって……」  小さな声でしどろもどろに答える少年の名前はスティール・メイスン。深緑の瞳【エメ ラルド・アイ】を持ちながらもその表情は暗い。  彼の一族は下級貴族の一員だった。母は、皇帝陛下の寵妃として、それなりの暮らしを していたが、皇帝の子を身ごもったのを境にして事情が一変した。妊娠は皇帝の寵愛を失 うきっかけとなり、宮廷を追い出されるようにして家族の元に戻された。やがてスティー ル・メイスンを産み落としたが、庶子は決して皇位を継ぐことができない。折りしも父親 が上級貴族の反感を買ったあげくに、爵位を取り上げられ貧民街へと追いやられてしまっ たのである。父親は酒に溺れるようになり、母が家族を養うために働きにでるようになっ た。しかし働く能力のない婦女子が生きていくには、下級貴族相手に身体を売るしかなか った。  今まさにぼろアパートの一室では情事の最中だったのである。  とはいえメイスン家にとって、客を取る事のできる屋根のあるアパートに暮らせるとい うだけでも果報者といえた。貧民街に住む平民の大半が路上生活者となっていたからであ る。 「そうか、君の母さん……」  事情を察した少年が話題を変えた。  彼の名は、ジュビロ・カービン。  貧しいながらも活発に駆け回る逞しい少年だ。 「一緒に来いよ。いいもの見せてやる」  スティールの手を引いて歩き出すジュビロ。  小脇に何やら端末のようなものを抱えていた。  案内されたのは貧民街の外れにある無人の通信中継所だった。  ジュビロは扉の鍵を手際よく外して中に入ると、携えていた端末を中継機に接続した。 「そこで見ていろよ」  端末を操作して回線の情報を取り出すジュビロ。  ジュビロが持ち込んだ端末は、画面に五行ほどの文字が流れるだけのお粗末な代物だっ たが、ジュビロにとってはこれが精一杯のものだし、これでも十分だったのである。とも かくネットに接続して情報さえ取り出せればいいのだから。 「こんなもの、どうやって手に入れたの?」 「なあに軍の施設に無造作に置いてある軍用トラックやジープから取り外した計器や、捨 てられていたラジオなどの部品を組み合わせて作り上げたんだ」  ジュビロは壊れたラジオやテレビなどの電子機器を修理するのを得意としており、寄せ 集めの電子部品の山から新たに通信機器を生み出す事など造作もないことだった。  その最高傑作と賞賛されるのが、電子レンジを元に作り上げたメーザー兵器だった。鍵 の掛かった扉をこれで簡単に壊して中に侵入することができた。  しかしジュビロにとっては工学的な代物を作るよりも、ソフト媒体であるネット犯罪の ほうに力を注いでいたようである。 「さすがジュビロ。機械のことならお手の物だね」 「おだててんじゃないよ」  ちょっと邪険気味に答えながら、端末を操作していたかと思うと開口一番に、 「すげえぜ! ビックニュースが飛び込んできたぜ」 「なに?」 「帝国後継者のアレクサンダー王太子が誘拐されたらしい」 「アレクサンダー王太子?」 「生まれ故郷のアルビエール候国で出産、静養していたマチルダ皇妃が、アルデランに戻 るところを船もろとも海賊船に襲われたらしい」 「へえ、ぶっそうだね」 「面白くなってきたじゃないか」 「面白い?」 「この帝国だって、いつまでも平和ではいられないということさ」 「そうだね」 「どうやら、緘口令が敷かれているようだ。王太子が誘拐されたなどと知られれば、大騒 ぎになるのは確実だからな」 「うん……」

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2018年3月23日 (金)

続 梓の非日常/序章・快復

続 梓の非日常/序章

(二)快復  その頃、梓は付属病院のICUに収容された慎二を見舞っていた。  感染対策と酸素供給のための特殊な無菌酸素テント内に隔離されたベットの上で昏 睡状態の慎二がいた。  熱傷患者には、熱傷による直接のショック状態の他、皮膚呼吸ができないために酸 素供給不足となることが懸念される。  本来なら一般人は入室などできないのだが、梓ということで特別に許可されていた。 もちろん無菌テント内用の完全滅菌された治療スタッフ用のユニフォームを着込んで である。 「お嬢さま、少しはお休みになられないとお身体にさわりますよ」  看護士が心配して気を遣っている。  あの日以来ずっと見舞いに来ていた。  学校が終えてすぐに来院し、夜に麗香が迎えにくるまで、ずっと慎二のそばで見守 っていた。 「いいの……。この命は慎二に助けてもらったもの、もし慎二が死んだら……」 「滅相なことおっしゃらないでください! この方がせっかく命がけで炎の中から助 け出してくれたお嬢さま。命を粗末に考えてはいけませんわ」 「……そうね。そうかも」 「この病院には熱傷治療のスペシャリストが揃っているんです。心配はいりませんよ」 「うん……」  確かに最新治療という点では、最新機器とスタッフが揃っているのは知っている、 とはいえ慎二のあの悲惨な状態を目の当たりにすれば、果たして看護士の言うとおり に助かるとは限らない。確立はかなり低いことが想像できる。 「お嬢さま、麗香さまがお迎えに参りました」  振り返るとICUのガラス窓の外に麗香の姿があった。治療スタッフ以外は入室禁 止のために外で待機しているのだ。 「わかった……」  いつまでも慎二のそばに寄り添っていたいが、自分がいてもどうなるまでもなく、 致し方なく退室する梓。 「いかがですか?」 「相変わらずよ」 「そうですか……」 「何とかしてあげたいけど……」  それっきり黙りこんでしまう梓。  麗香もそれ以上は尋ねなかった。  息苦しい雰囲気。  しかしどうしようもなかった。  これだけは神のみぞ知ることであって、二人にはなすすべがない。  病院を出てからファントムVIに乗り込む。 「お母さんは何か言ってた?」 「はい。沢渡さまのこと、真条寺家の全力をあげて治療を施すと仰られていました。 重篤状態を脱して移送が可能になったら、ブロンクスの救命救急センターにて、皮膚 移植から形成手術に至るまで、全世界から寄せ集めた名医によって最新治療をなさる 手筈を整えていらっしゃいます」 「そうなの……。わかった、ありがとう」 「いえ……」  しばらく押し黙っていたが、ぽつりと話し出す梓。 「なんでかな……あたし、慎二のこと、こんなに心配してる。今までこんな思いした ことがないよ」 「それは沢渡さまのこと、好きだからではありませんか?」 「会えば喧嘩ばかりしているのに?」 「喧嘩するほど仲が良いというじゃありませんか。それになにより沢渡さまにとって は、命を掛けて助け出してくれるほど、お嬢さまのこと大切に思ってらっしゃるので すから」 「そうよね。命がけで救ってくれたのよね」 「はい」 「炎の中でね、『死ぬときは一緒だよ』って言ってくれたんだ」 「そうでしたか、そんな沢渡さまがお嬢さまを残して逝ったりしませんよ。必ず助か ります」  麗香とて確証などなかったが、そう言って慰めるしかなかった。 「そうだね。そう信じるしかないよね。慎二のことだもの、必ず助かるよね」 「はい。その通りでございます」  一ヶ月が経った。  慎二は、一進一退を繰り返しながらも、強靭的な体力をみせて、意識不明ながらも 徐々に回復の兆候をみせていた。  そしてついに移送可能なまでに回復し、医療スタッフと設備のより整ったブロンク スの救急救命センターへと移送が実施された。  もちろん梓も同行して渡航した。  ブロンクスへ運ばれた慎二は、全世界から選りすぐれた名医と、世界最高水準の治 療が施された。  日本国内ではできない高度な治療だ。  真条寺家の全力を挙げた治療と、梓の献身的な介護によって、慎二は奇跡的な回復 を見せていた。  生死を分ける皮膚呼吸を取り戻し、細菌感染を防ぐ緊急皮膚移植。創傷と顔の筋肉 の引き攣れを修復する形成外科手術。そして以前の表情を取り戻す整形外科手術と、 回復の状況に即した治療が段階的に施されていった。  そして、ついに慎二は退院を迎えることになったのである。

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2018年3月22日 (木)

銀河戦記/鳴動編 外伝 ミッドウェイ撤退(8)

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 ミッドウェイ撤退(8)  連邦軍第七艦隊のフレージャー提督の元に、スティールの敵艦隊殲滅の報が伝えられた。 「スティール・メイスン中佐より報告です。補給基地を失いはしたものの、惑星住民全員 を収容し本国へ移送中とのことです。なお、敵第五艦隊をバリンジャー星とともにその大 半を葬りさったもよう」 「どういうことだ?」  フレージャーが報告だけでは納得できなかったらしく聞き返していた。 「バリンジャー星を自爆させたのです。敵が迫ってくる時間を計って、惑星を破壊してそ の爆発エネルギーで敵艦隊を壊滅させたのです」 「なるほど……。しかし作戦とはいえ、補給基地ごと敵艦隊を葬り去るとはな。まあ、補 給基地はまた作ればいいが、また一悶着ありそうだな」 「そうですね。例え惑星住民の収容を成功させたとしても、補給基地を自ら破壊したとな れば、責任を負わされるのは必至ですね」 「まあ、惑星住民の収容撤退という命令自体はちゃんと成功させたには違いないがな」 「それはそれで、言いがかりをつけてくる要因としてはあり得ますが……。世の中、すべ て自分の味方だけではありませんから。特にマック・カーサーなどが飛びついてきますよ。 きっと……」 「そうだな……」  トランター本星。  広々とした敷地内に悠然とそびえたつビルが、全軍二十七艦隊を指揮統括する共和国同 盟軍中央統制本部である。その中心となる最高官長が統制本部長であり、ラリー・オブス マン大将その人である。 「本部長殿。第五艦隊が音信途絶しました。連絡がとれません」 「何だと!」 「第五艦隊の向かったバリンジャー星域に異常重力波を探知」 「異常重力波?」 「この特有の波長は星が崩壊した時のそれと非常に近似しております」 「つまりは、バリンジャー星が爆発でもしたというのか」 「おそらくは敵艦隊が撤退の際に自爆させたものと思われます。その爆発に巻き込まれた のでしょう」 「残存艦隊はいないのか。連絡は?」 「かの星域には惑星が爆発した残存エネルギーによる電磁界フィールドが発生していて通 信は不可能です。残存艦隊がいるかは現在のところ不明」 「惑星爆発に飲み込まれたとしたら、ほとんど壊滅状態に陥っているのは免れませんでし ょう。救援を向かわせましょう」 「そうだな。一番近いのはどこの艦隊だ」 「第十一艦隊ですね。ジミー・クラウベル大佐の第八部隊がもっとも近いところにいま す」 「急行させろ」 「はっ」  ラリー・オブスマン大将。  共和国同盟軍においては最高官位にして、唯一大将の官職にある人物だった。  功績点による昇進と、将軍クラスの定員制度によって、後にも先にも大将は彼一人であ る。  そして現在年齢は六十四歳であり、三ヵ月後には定年を向かえ退役することが決定して いる。  しかし後任はいない。  大将に昇進する功績点を挙げている中将がいないからであった。  次席官位は、絶対防衛艦隊司令長官にあるニールセン中将だが、オブスマン大将が退役 しても自動的に昇進することはできなかった。共和国同盟軍の軍規には功績点をもって昇 進の指針とすると明記されており、ニールセンは大将への昇進点に達していないからだっ た。  オブスマンが退役すれば、当分の間大将は空位となり、次席官位のニールセンが実質的 な指導的立場に立つ事になる。  何故このようなことになっているかといえば、共和国同盟の財政困窮にあった。長引く 戦乱で相次いで戦艦を失い、それを補うべく増産され続けてきた。戦争が続く限り戦艦の 増産は続けなければならないから、将兵達の給与が抑えられた。敵艦隊と戦うために艦隊 を指揮する艦隊司令官を含めて、統帥本部に陣取っている総参謀長や作戦部長など、すべ ての将軍職の定数が決められたのだ。大将一人、中将三人、少将九人、准将二十七人。計 四十名の将軍という、これがすべてであった。しかもそれぞれの官位には功績点による昇 進点が設定されて、上位が空席となっても昇進点に達していない限り昇進はあり得ないと 決められたのである。  給与は官位によって決定される。つまり、これならば各位の将軍に支給される恩給の総 額は常に一定額以下となって決して予算を超えることはない。  この考えは、戦術士官のクラスにも持ち込まれ、例えば戦術士官の少尉ならば、戦闘の ない平時には一般士官の少尉と同給料であり、戦術士官としての給与は功績点によって上 積みされるという仕組みであった。これならば戦闘がなければ一般士官も戦術士官もまっ たく同じである。戦闘指揮を行わない者に余分な給料を支払わなくても済むというわけで ある。高給が欲しければ戦闘で功績を上げなさいというわけである。  統帥本部のそここで会話が交わされていた。 「聞いたか。第五艦隊が壊滅したそうだ」 「ああ、なんでもバリンジャー星の攻略に向かっていたそうだがな」 「噂ではバリンジャーには公設売春センターがあって七十万人に及ぶ売春婦がいたそうだ ぜ」 「女を襲おうとして、いきなり金的蹴りくらわされて逃げられたってところだな」 「股間を膨らませて冷静な判断力を失っていたんじゃないか」 「いえてるぜ。明日の新聞の見出しが決まったな」 「勃起艦隊壊滅す! だな」 「まったくだ」 「ははは……」  今回の作戦により、第五艦隊は「勃起艦隊」「股間を膨らました艦隊」という汚名を頂 く結果となった。  その頃、輸送船団に追いつき護衛として本星に向かうシルバーウィンド。  その司令官室にて、備え付けのシャワーを浴びているスティールがいた。  シャワーの音に紛れて室内の方から、発信音が聞こえてくる。 「ん? なんだ、今頃」  コックを捻って温水を止めて、壁際に掛けてあったタオルを手に取り、シャワー室を出 て行くスティール。  室内にあるヴィジフォンが入電の信号を発していた。  一枚のタオルを腰に巻き、もう一つのタオルで髪の毛の水分を拭いながら、ヴィジフォ ンのスイッチをいれる。  画面に現れたのは馴染みの相手だった。 「こんな時間に何の用だ」 「その言い方はないだろう。せっかく貴様が依頼していたことを調べてやったのによ」 「判ったのか?」 「ああ……ばっちりだ」 「早速、聞かせてくれ」 「いいだろう。奴の名前は、アレックス・ランドール少尉だ」 「聞かない名前だな」 「当たり前だ。今年士官学校を卒業したばかりだからな」 「士官学校出たてなのか?」 「卒業時の成績も中の下、やっとこ卒業できたというほとんど落ちこぼれ寸前だったらし い」 「それがなぜ少尉なのだ。士官学校出たては准慰から、一年間は先輩士官の下で研修のは ずだが……」 「それが、卒業前の模擬戦闘で指揮官に任じられて、士官学校髄一と謳われた優秀な名士 を、奇策的な作戦で完膚なきまでに撃退して、特別昇進しての卒業だったらしい」 「ほう……。奇策的な作戦とは?」  ディスプレイの人物が、模擬戦闘におけるアレックスの執った作戦を説明しはじめた。  その内容にいちいち頷くようして聞き入るスティール。  それらをすべて聞き取ってから、 「なるほど、何となく奴の性格が判ったような気がする」  と感心した表情を見せていた。 「アレックス・ランドールか……」 「貴様の好敵手になることは間違いないと俺は踏んでいるぜ」 「そうかも知れないな。引き続き情報を集めてくれ。当然、礼は弾む」 「よろしく頼むぜ」 「それから……」  と言葉を濁すスティール。 「なんだ?」 「何度も言っているが、軍のコンピューターに不正アクセスするのはやめろ」 「なんだよ。せっかく情報を与えてやったのに」 「情報が欲しいときは、こちらから連絡すると言っているだろう。万が一……」 「待ちな! 俺がシステム管理官に見つかるわけがないだろう。足跡すら一切残さずに消 えてやるぜ。貴様に迷惑をかけることはしない」 「しかし……」 「とにかく任せておけ。貴様は黙って俺の報告を待っていればいいのさ。それじゃな」  回線が途絶えた。  いつもながら突然、現れては精神をかき乱して去っていく。  そんな相手だった。 「ジュビロ・カービン、いつもながら大した男だな……」  とため息をつくスティールだった。  ジュビロ・カービン。  それはネット界を震撼するハッカーの天才。  ネットに接続されているコンピューターなら必ず侵入してみせると豪語する「ネット界、 闇の帝王」と呼ばれる男だった。  スティールと同様に、銀河帝国からの流れ者であった。  ジュビロとの付き合いは、スティールが五歳の時からの腐れ縁である。帝国での生活に 嫌気をさし、宇宙航路輸送船に密航して、連邦と同盟へと密航していったのである。  スティールは連邦軍の軍人となり、ジュビロも共和国同盟において、ハッカー集団を率 いる統領になっていた。  かれこれ二十年以上も前の話である。 「ジュビロか……」  ふと呟いて、ジュビロと出会ったあの日の事に思いを巡らすスティールだった。
この章 了

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2018年3月21日 (水)

続 梓の非日常/序章 命をつむぐ

続 梓の非日常/序章

(一)命をつむぐ  真条寺家執務室。  天井から懸架されたパネルスクリーンに渚の姿が映し出されていた。 『お嬢さまは、今日も沢渡さまのお見舞いに、病院を訪れていらっしゃいます』 『そう……。仕方ありませんね』  本宅との定時連絡の時間だった。  日本とブロンクスとに分かれて暮らす、梓と渚との母娘の交流をはかるために設け られた時間であった。  しかし今は、麗香が梓の近況を報告する機会に変わっていた。 『それで慎二君の容体はどうなの?』 『一進一退でございます。危篤状態から未だ脱却できておりません。実際生きている のが不思議なくらいで、日頃の鍛錬の賜物というか、その強靭な精神力が辛くも命を 支えているものと思えます』 『それがいつまで持つかが問題ね』 『はい、その通りでございます。熱傷治療では有名な札幌医大の医療チームにもお越 しいただいております』 『ああ、昔サハリンの五歳の男の子を治療したという……』 『こちらでできる限りのことは致しておりますが、何せ熱傷部位が七割にも達してお り、かつ三度の重症もかなりに及んでおりまして、皮膚移植だけでは間に合いません』 『動かすことさえできれば、設備もスタッフも揃ったこっちの救命救急医療センター に、搬送するんだけど。危篤状態を脱して移送が可能になったら、すぐにでもこちら に運びましょう』  国際救急救命医療センター。  それはニューヨークにある広大な真条寺家ブロンクス本宅の敷地内、私設国際空港 に隣接されて設立された病院である。悲惨な結果をもたらす航空機事故などに対応で きるような、最新の設備とスタッフが揃っており、私設空港隣接という立地条件を活 かして、ビザなし渡航による国際救急救命治療を可能にしていた。  そして「空飛ぶ病院」と異名される専用の救急医療用ジャンボジェット機を待機さ せている。大地震などの世界中で起こった災害に即対応できる体制が整えられている のであった。 『ともかくも梓の命を救った恩人です。真条寺家の全力を挙げて治療に専念しましょ う。世界中から医療スタッフを集めましょう』 『よろしくお願いします』 『日本事業本部の業務はすべてこちらで手配します。あなたには、梓のそばにいて、 精神面のフォローをお願いします』 『はい。かしこまりました』  連絡通話が終わった。  麗香は、ため息をついてから端末を操作した。  パネルスクリーンはするすると上がって、天井内に収まった。 「さてと、お嬢さまのところへ戻りましょうか」  しかし……。  麗香はいぶかしげだった。  梓が、自分に内緒で研究所に通っていたということである。 「わたしに話せない秘め事があるということか……」  誰しも隠し事の一つや二つはあるものだ。麗香だって梓に内緒にしていることはあ る。だからあえては問いただすようなことはしたくないが、ただ場所が生命研究所の 地下施設ということが気がかりだった。  生命科学研究所は梓が日本に来て事故にあい、最初に入院したところだ。  仮死状態から蘇生させるために、一時期地下施設に運ばれたことがあったが、研究 者以外立ち入り禁止で、母親の渚ですらその蘇生には立ち会いを許されなかった。極 秘裏の何かが行われて蘇生が成功して戻ってきた。  もしかしたら……そのことと関係があるのだろうか。  確かにお嬢さまは、仮死状態から復活した。  その後のお嬢さまは、少し男の子っぽい性格になっていたが、仮死状態で脳障害を 多少なりとも受けているはずだから、それも仕方のないことだと医者から説明を受け た。  研究項目にクローン開発部門もあるはずだが、実は戻ってきた梓お嬢さまがクロー ンだったなんてことはあり得ない。記憶は間違いなく梓お嬢さまのものだし、困った 時につい髪を掻き揚げる独特の癖や、お嬢さま育ちの自然な仕草まで、完璧にクロー ンすることは不可能なはずだ。ましてやほんの数日でクローンを作成できるはずもな い。  間違いなく本物の梓お嬢さまであって、クローンではないと確証できる。 「だとしたら何の用があったのかしら……」  詮索するつもりはないとはいえ、やはり気になるものだ。

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2018年3月20日 (火)

銀河戦記/鳴動編 外伝 ミッドウェイ撤退(7)


エピソード集 ミッドウェイ撤退(7)  スティールの第一分隊とカウパーの第二分隊は交互に前進と後退を繰り返しながら敵艦 隊に攻撃を与えていたが、数で優る第五艦隊はスティールの分隊に対して半包囲陣を敷い て、逃げる道を封鎖する作戦に出てこれを確実に消滅せんとしていた。  しかしスティール率いる第一分隊は、じりじりと後退を続けながらも的確な攻撃を与え、 第五艦隊の付け入る隙を与えなかった。とはいえ艦船の絶対数でははるかに少ない部隊の 存亡は時間の問題である。 「いいか。敵艦隊との相対位置を詰められるな。敵を倒すのではなく、一秒でも長く戦闘 時間を長引かせることが目的なのだ」 「はっ」 「バリンジャー星にいる女性達。諸君らや連邦の子供達を宿し産み育てる彼女達を守るの が、我が部隊の責務である。たとえここで我が部隊が全滅しても、彼女達が生き残る限り は連邦は安泰である」  全滅という言葉を聞いても将兵達に動揺はなかった。日頃からの教育により、女性を守 ることこそ、軍の使命であり命をも投げうることをも厭わない。  そう教育されてきているのである 「カウパーもなかなか奮闘しているようだな」 「中佐。バリンジャー星より連絡。住民の収容が完了したとのことです」 「何とか間に合いましたね」 「まだ安心するのは早い。輸送船団が安全圏まで逃げ延びるまではな」 「輸送船は足が遅いですからね」  さらに一時間が過ぎ去った。  スティール艦隊は半数にまで減ってはいたが、戦っている将兵たちの士気は落ちてはい なかった。  彼らの守るべきものである、バリンジャー星にあった女性たちを命を捨てても守り抜く。  それが彼らが教育されてきた精神である。  そして何よりも、指揮官であるスティールに信奉を寄せていたからでもあった。  スティールが前に進む限り、将兵達も前に進み続ける意欲を有していた。 「よし、頃合だろう。後退だ。全部隊に連絡。後退しつつ攻撃を近接戦闘から中距離攻撃 に転換。バリンジャー星へ一時撤退する」 「了解。バリンジャー星に撤退します」  スティール率いる第一分隊とカウパー率いる第二分隊とが呼応して撤退をはじめ、バリ ンジャー星にて合流した。 「カウパー、よく頑張ってくれた」  シルバーウィンドの艦橋で再会したカウパーに握手を求めるスティール。 「たいしたことはしていませんよ。後方から援護射撃をしていただけですから。それより もこれからどうなさるおつもりですか?」 「ああ、このまま素直には撤退などさせてはくれないだろうからな。バリンジャー星を破 壊して、奴らを爆発の衝撃に巻き込んで全滅させる」 「バリンジャー星を自爆させるのですか?」 「他には手はないからな」 「判りました。住民さえ撤収していれば、惑星を破壊しても構わないでしょう」  理解のあるカウパーだった。  カウパー・チャコール少佐。  スティールとは士官学校時代からの腐れ縁であった。  スティールがその戦闘指揮能力を賞賛し、自分の配下の艦隊を等分して指揮を任せるほ どの信頼関係にあった。 「敵艦隊との相対距離2.5光秒に接近しました」 「これ以上の後退は……」 「わかっている。起爆装置のセーフティー解除スイッチを入れろ」 「入れました」 「よし。自爆連番コードを入力する」  スティールは、起爆装置の入力装置に向かって、自分だけしか知らない自爆連番コード の最初のコード、起爆プログラムを始動させるコードを入力した。 「自爆コードガ発令サレマシタ。続くコードヲ入力シテクダサイ」  コンピューターが次の命令コードの入力を促した。 「カウパー、頼む」 「判りました」  艦や基地などを自爆させるような発令には、必ず数人の士官がそれぞれ持っている自爆 連番コードを入力する必要があった。たった一人の暴発による自爆を防止するためである。  カウパーがコンピューターに向かって、自分に与えられた自爆連番コードを入力する。 「カウパー・チャコール少佐ノ自爆連番コードヲ確認。次ギの入力ヲドウゾ」  続いてコンピューターに向かったのはスティールの副官だった。  それが入力を終えてコンピューターが次の指令を求めてくる。 「最終自爆連番コードヲ入力シテクダサイ」  再びスティールがコンピューターに向かう。  神妙な面持ちでカウパーと副官が、その操作を眺めている。  惑星を自爆させるのだ、誰しも平然ではいられないだろう。  へたをすれば自分達でさえ巻き添えを食う可能性も残されているのだ。 「最終自爆連番コードヲ確認シマシタ。総員、五分以内ニ退去願イマス」  音声と同時に、ディスプレイにカウントダウンを始めた数値が表示された。  振り返ってカウパーと副官に話しかけるスティール。 「たったいま惑星の自爆装置を起動した。丁度五分後に爆発する。全艦、全速力で衛星の 背後に回り込め」 「了解!」  再び同盟軍アン・ジュングン艦橋。  スクリーンに撤退を開始したスティールの艦隊が映し出されている。 「どうしたのだ。惑星を素通りしていくぞ」 「惑星を放棄するのでしょうか」 「解せんな。何か企みでもあるのか」 「だとしてもたいしたことはできないでしょう。追撃なさりますか?」 「そうだな、多少なりとも功績を増やした方がいいだろう。キム・ジョンウン中佐の部隊は、 惑星を占領、直ちに降下作戦に当たれ。残りは敵艦隊を追撃する」 「はっ。降下作戦に移ります」 「キム・ジョンウン中佐。自分達の女をちゃんと残しておいてくださいよ」 「何をいっとるのか」 「チェスター大佐にはどうなされますか?」 「チェスターか……後方で補給路の確保でもやらせておけ」 「相変わらず閑職ですな」 「どうせもうじきに退役だ。今更武勲もないだろう」 「そうですね」 「ようし。敵艦隊を追うぞ」  降下作戦に入った一部の艦隊及び後方作戦を命じられたチェスターを除いて、第五艦隊 の本隊がゆっくりと惑星を後にして、衛星の影に隠れた部隊の追撃をはじめた。  その瞬間、バリンジャー星がまばゆく輝いた。 「なんだ!」  スティールが仕掛けたバリンジャー星の自爆は凄まじいものだった。  惑星の地中深くに埋められていた惑星破壊用の反陽子爆弾が炸裂し、バリンジャー星を 木っ端微塵に破壊し、粉々になった惑星の残骸が、第五艦隊を背後から襲った。  無防備をさらした艦隊は無残であった。  戦艦装備のミサイルとは比較にならぬ巨大な岩塊が相手では待避もままならず、次々と 接触し押し潰され大破・撃沈していく。  数時間後。跡形もなく消え去った惑星のあったあたりに、かろうじて難を逃れた第五艦 隊の残存艦隊が満身創痍となって漂流していた。  くしくも無傷で生き残っていたのは、後方に取り残されていたチェスター配下の部隊だ けであった。  惑星の残骸が飛来してはくるものの、バリンジャー星からの距離が十分に離れており、 退避行動やビーム砲射撃で残骸を避け切ることが可能だった。 「何があったのだ?」  突然の出来事に言葉を失うチェスターだった。  副官のリップル・ワイズマー大尉がそれに答える。 「どうやら敵はバリンジャー星を自爆させて、我が艦隊に大打撃を与えた模様です。破壊 された惑星の残骸が……」 「何という事だ……。自国の惑星を自爆させるとは、勝つためには手段を選ばないという ことか」 「敵艦隊は、バリンジャーの衛星の影に隠れて避難したようです」 「すべて計算ずくというわけか……」 「いかがなされますか?」 「無論、味方艦隊の生き残りを捜索救助する。全速前進だ」 「了解」  オペレーターが報告する。 「ご覧ください。衛星が漂流をはじめました」 「重力で引き合っていた片方がなくなったからな。重力のバランスを失って、恒星の重力 に引かれはじめたのだ」  惑星が破壊されても、残骸がそのまま留まっていれば、恒星に対する角運動量は保存さ れる。いずれ飛び散った残骸は再び収束を始めて衛星に集まり、新たなる惑星が誕生する はずである。がしかし、反陽子核弾頭の威力は、惑星系の重力圏を超えてほとんどの惑星 の残骸を飛び散らせてしまった。角運動量を失った衛星は、より角運動量の小さな内心軌 道へと移行をはじめたのである。  一方衛星の裏側に待避していたスティールの艦隊。 「爆発、おさまりました。衛星が漂流をはじめています」 「うむ……」 「もはや敵は、艦隊と呼べる状態ではありません。今なら反撃して全滅させることも可能 でしょう」 「その必要はない。戦意を失ったものなど放っておけ。先に出発した輸送艦隊を追うのだ。 我々の任務は輸送艦隊の護衛なのだからな」 「了解しました。輸送艦隊を追います」  こうして追撃する第五艦隊を、バリンジャー星の自爆という作戦をもって葬り去ったス ティール艦隊は、漂流をはじめた衛星軌道から静かに離れ、先行する輸送艦隊の後を追っ たのである。

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2018年3月19日 (月)

梓の非日常/終章・生命科学研究所 慎二……

梓の非日常/終章・生命科学研究所

(十五)慎二……  再び研究所の外。  消防車や警察パトロールカーがごった返す敷地内。  そこへファントムVIが入場してくる。  警察官がそれを制止する。  窓が開いて麗香が顔を出す。 「立ち入り禁止です」 「研究所のオーナー代理です」 「オーナー代理?」  そこへ研究所課長がやってくる。 「その人は身内です。入れて差し上げてください」 「いいでしょう。しかし消火活動の邪魔にならない所に車を置いてください」 「判りました」  駐車場の一番奥に移動するファントムVI。  それを追いかけて、出迎える課長。  麗香が降りてくるなり質問する。 「お嬢さまが火災現場に取り残されているって、どういうことですか?」  額に汗流して説明している課長。  火災報知器が鳴り出した時には、すでに煙が充満して下へ降りられないことを。 「わかりました。万が一に備えて、隣接の付属病院に緊急特別体制を敷いてください。 緊急を要する手術以外はすべて日程を延期。火災現場で推定される治療項目のすべて のスタッフを集めて待機させておいてください」  麗香とて、二次遭難を犯してまで所員を救出に向かわせることはできない。 「承知です。すでに手配は済んでいます」 「そう……」  玄関口の方が騒がしくなった。 「罹災者が上がったぞ!」  一斉に視線が声のした方へと集まる。 「行きましょう」  課長が声を掛け、一緒にその場所へ向かった。  担架で運び出される慎二。  そしてカプセルごとの梓。  すかさず医者と、カプセルを開けるレスキューが駆け寄っていく。 「どいて下さい」 「道を開けてくれ」  人々を掻き分けて前に出て行く麗香と課長。  カプセルに入った梓を見つけて駆け寄る麗香。 「お嬢さま!」  しかし、カプセルを開けようとしていたレスキュー隊員に制止された。 「下がってください」  カプセルの蓋を閉じている熱で変形した兆番を、グラインダーで削り始める隊員。  火花を散らし耳が痛くなるような音を発しながら兆番が削り取られていく。  やがてパキンという音と共に兆番が外れた。 「開けますよ」  空気圧の差で密着したカプセルの蓋のとじ目にバール状のものを挿し入れてこじ開 ける。  プシュー!  という空気が抜けるような音と共に蓋が開いた。  早速医者が診察に入る。  呼吸・脈拍などを調べている。 「いかがですか?」  麗香が心配そうに覗き込んでいる。  やがて振り返って医者が答える。 「大丈夫です。どうやら無傷のようです。ガス中毒もなさそうです」  ほっと胸をなで下ろす麗香。 「至急病院に運んでください。一応精密検査しましょう」 「わかりました」  それから向き直って、慎二の元に歩み寄った。  別の医者が診断している。  患部を見るために、衣類は鋏で裁断されて半裸状態になっていた。 「こちらはどうですか?」 「重体ですね。見ての通りの広範囲の熱傷です。生命限界の三割を超えています。さ らに、一酸化炭素中毒症状もあります」  これが以前の沢渡慎二かと思われるくらいに、悲惨な熱傷に覆われた姿があった。 「至急、ICUに運んでください。全力をあげての治療を!」 「判りました」  消防隊員の説明を聞くまでもなく、梓を救出するために自らが犠牲になって、炎の 中を突っ切って脱出してきたことは、明白な事実だと理解した。  梓の命の恩人を死なせるわけにはいかなかった。  そのとき、背後で悲鳴のような声がした。  振り返れば、梓が気を取り戻していた。  そして担架の上で変わり果てた慎二の姿を発見したのである。 「慎二!」  移送ベッドから飛び降りて慎二のそばに駆け寄った。 「慎二は……! 慎二は助かるの?」 「そ、それは……。努力はしますが……」 「どうして……どうしてなのよ!」  梓は、目を閉じまま身動きしない変わり果てた慎二にすがりついて泣いた。 「助けてよ。助けてあげてよ!」  そして麗香や医者に向かって懇願した。 「お嬢さま……」 「慎二!」  声を枯らして慎二の名を呼ぶ梓の声が研究所内にこだましていた。 終章 了

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おお~い!ママはここよ~聞こえてる?

インターポット

ママの帰り遅いね。

そうだね。

いつも出張中だもんね。

今夜はどこへ行ってるのかしら。

あたし、おなかすいた~(;´Д`)

そこのクレープ屋さんで注文しましょうか。

わーい!わーい、クレープ大好き(*^^)v


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2018年3月18日 (日)

銀河戦記/鳴動編 外伝 ミッドウェイ撤退(6)

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 ミッドウェイ撤退(6)  その頃、スティールの乗艦するシルバーウィンド艦橋。 「先制攻撃に成功しました。今のところ、主導権はこちらが完全掌握しています」  副官が静かに報告する。 「後方の索敵を疎かにするからこうなるのだ。馬鹿な奴らだ」 「敵艦隊の司令官は、イ・スンマン准将ですね」 「聞かない名前だな」 「つい三ヶ月前に艦隊司令官に就任したばかりですからね」 「しかし全然情報がないのはどうしたことか? 司令官になるくらいだから、それなりの 戦功を挙げてのことだろう。何らかしらの情報が入ってきてもいいのではないか?」 「彼は、作戦参謀からの成り上がりですね。名籍簿にも掲載されてはおりません」 「しかし同盟軍の昇進は功績点がすべてじゃなかったのか?」 「司令官が自由に配分できる評価点で昇進したのではないですかね。評価点とは作戦毎に 与えられるもので、それを子飼いの部下に集中的に配分すれば何もしなくても昇進できる というわけです。つまりは自分の取り巻き連中だけを昇進させることもできます」 「無能な連中を昇進させてもしようがないだろうに」 「まあ、その最たるものがニールセン中将ですかね。自分の気に入った配下の者ばかり昇 進させて、気に食わない将兵は最前線送りして葬り去る」 「奴自身もそうやって昇進したのだろうな。ゴマすりが得意なだけだが、一度将軍の位に 就いてしまえば後は自由勝手だ。戦闘は無能で、口ばかり達者な連中が寄り集まっている。 それが絶対防衛艦隊の諸提督達だ。要は直接の戦闘の起きない後方で、のほほんと暮らし ている連中の馬鹿さ加減だな」 「最前線に送り込まれる将兵はたまらないですね」  オペレーターが警告を発した。 「敵艦隊、射程内に入ります」 「そろそろ相手も本腰入れて反撃してくるぞ。これからが正念場だ」  姿勢を正して指揮艦席を座りなおすスティールだった。  先手を取られながらも徐々に陣形を整えつつある同盟軍第五艦隊。 「敵艦隊、粒子ビーム砲の射程に入りました」 「よおし! 反撃するぞ。艦隊数ではこちらが勝っているのだ、冷静に対処すれば何のこ とはない」  勇躍全艦が一群となってスティール艦隊に向かった。 「粒子ビーム砲、臨界に達しました」 「撃て!」  全艦が一斉に粒子ビーム砲を発射する。  両艦隊同士のビーム砲の撃ち合いが開始された。  双方共に次々と撃沈大破され、損害が広がっていく。  その頃、スティールの指揮下にある第二分隊は丁度第五艦隊の背後を襲う位置に配して いた。  スティールの考えによれば、まともに戦っては消耗を早めるだけなので、艦隊を二分し て別働隊で敵の背後から攻撃を加え、敵艦隊の攻撃目標を散らす作戦だった。  分隊指揮官のカウパー・チャコール少佐が乗艦している戦艦ワシントン。 「敵艦隊、射程距離まで、〇・七光秒」 「ふん。敵艦隊はまだこちらに気付いていないようだな」 「股間を膨らませて、冷静な判断力を失っているのでしょう」 「言い得て妙だな。血の気が違うところに回っているようだ」 「敵艦隊、射程内に捕捉しました」 「よし。全艦、砲撃開始」  さらなる敵艦隊の出現に一時騒然となる旗艦空母アン・ジュングン艦橋。 「後方より別艦隊接近!」 「伏兵が潜んでいたか。艦数は?」 「およそ三千隻」 「いかがなさいます」 「かまわん。敵は少数だ、恐れることはない。まずは前面の艦隊を叩く」  この時点での裁量としては最善であろう。  兵力を分散するのは得策ではない。後方からの攻撃により多少損害は増えるが、まずは 前面の敵を殲滅することの方が大切だと判断されたのである。

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2018年3月17日 (土)

梓の非日常/終章・生命科学研究所 救出

梓の非日常/終章・生命科学研究所

(十四)救出  その頃。  外では、丁度消防隊が到着して、消火作業を開始していた。 「地下です」 「火元は地下からです」  研究員や事務職員たちが口々に消防隊員に報告している。  地下火災という現状を確認して、装備を取り出している黄色耐熱服を着込んだ隊員 達。いわゆる消防レスキュー隊と呼ばれる人々だった。取り残された人々を救出する ために、耐熱服を着込み酸素ボンベなどの装備を抱えていた。突入に際して、煙の充 満する中で協力しあって活動できるように、命綱でその身体を繋いでいた。 「責任者はいらっしゃいますか?」  隊長らしい人物が叫んでいる。  それに答えて課長が歩み出た。 「私です。総務課長の渋沢と言います」 「それで、中に取り残されている人は何名ですか?」 「確認できているのは一名。それ以外は不明です」 「その一名は?」 「この研究所のオーナー令嬢で十五歳の女の子です」 「女の子? なぜそんな女の子が取り残されたんですか。誰も連れ出さなかったので すか?」 「火災報知器がなって地下からの出火と判って、消火に行こうとしたのですが、すで に煙がもうもうと地下階段から上がってきていました。何の装備もなく助けに飛び込 んでも、二次遭難になるだけだと思って止めました」 「それは正しい判断です。たかが煙とあなどっちゃいけません。火事の犠牲者の大半 が直接の炎ではなく、煙で意識を失ったり一酸化炭素中毒で亡くなっているんです」 「そうだと思いました」 「隊長! 準備完了しました」  隊員の一人が報告した。 「よし! 十五歳の女の子が地下に取り残されているそうだ。それ以外は不明だ」 「十五歳の女の子ですか?」 「そうだ。是が非でもその女の子を連れ出してこい!」 「はっ! 突入します」  敬礼をして、小隊に戻ると、 「小隊、突入する!」  と指令を発すると研究所の中へと突入していった。  足元をじっくりと確認しながら階段を降りていくレスキュー隊。 「今、階段を降りて通路です」  ヘルメット内に装着された連絡用の無線機で外に逐次報告する隊員。 『炎はどうか、燃えているか』  地上の隊長の声が返ってくる。 「炎はここからでは確認できません。煙が充満しているだけです」 『一酸化炭素レベルは?』 「3000PPM(0.3%)です」 『その濃度がどんなもんか知っているな』 「はい、三十分間その中にいると死亡する濃度です」 『よろしい。そのことを十分に踏まえて、速やかに取り残された人達の捜査を開始し たまえ』 「了解!」  じっくりと倒れている人物がいないかを確認しながら進んでいくレスキュー隊員。  充満する煙の中に人影を発見する。 「人です。人が倒れています」 『生きているのか?』 「ここからでは、わかりません。近づいて確認をします」 『よし』  倒れている人間のそばに歩み寄る隊員。  移送ベットのそばに倒れている人影。  それは慎二だった。  手袋を脱いで脈を計っている隊員。 「少年です。どうやらまだ生きているようです。ひどい熱傷を負っています。それと たぶん一酸化炭素中毒の症状がでています」 『直ぐに運び出せ』 「ちょっと、待ってください」 『どうした?』 「そばの移送ベッドの上にガラス状の容器が……。女の子です。女の子がいました」 『女の子? 十五歳位か?』 「たぶんそれくらいです」 『よし、一旦その少年と女の子を回収して戻れ』 「了解。両名を回収して戻ります」 「隊長、カプセルが開きません。熱で癒着しています」  カプセルを開けようとしていた別の隊員が報告する。 『かまわん。カプセルごと運び出せ』 「了解!」

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2018年3月16日 (金)

銀河戦記/鳴動編 外伝 ミッドウェイ撤退(5)

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 ミッドウェイ撤退(5) 「索敵機がバリンジャー星に到達しました。映像が入電しております」 「スクリーンに出せ」 「スクリーンに出します」  正面のスクリーンにバリンジャー星の全容が投影された。  漆黒の宇宙に浮かぶ茶褐色の惑星。 「周辺に艦艇の存在は探知できません」 「撤退したか……」 「星の住民はどうですかね?」 「残されているだろうさ。こういう場合、軍人だけがさっさと逃亡して、民間人は切り捨 てられるのが普通だ」 「そうですよね。軍人にとって戦闘に寄与しない民間人はただの足手まといですから。と いうことは……」 「女もそのままいるってことさ」 「期待しましょう」 「よし、早速占領体制に入るぞ。全艦、全速前進でバリンジャーに向かえ!」  と司令官が発令した途端だった。  激しい衝撃が艦を揺るがした。  よろけながら椅子の背もたれにしがみ付いて難を逃れる司令官。 「どうした? 報告しろ!」  すぐさまオペレーターから答えが返ってくる。 「攻撃です。敵の攻撃を受けました」 「そんなこと……」  言い終わらぬうちに、再び艦内に衝撃が走った。  激しい震動とともに投げ出されるように艦の内壁に激突する参謀達。 「攻撃です。敵の攻撃」  オペレーターが金きり声をあげた。 「馬鹿な。敵艦隊は全艦撤退したはずです」  副官がうろたえて答えた。 「ならばこれは一体なんだ」 「それは……」  再びおおきく揺れる艦体。 「ええい! 全艦隊応戦。全砲門開け!」 「敵艦隊四時の方角より接近中!」  直ちに司令官は命令を下す。 「右舷急速回頭!」  ゆっくりと艦隊が回頭をはじめ、到来する敵艦隊の方へ艦首を向けた。 「回頭終了!」 「敵艦隊との相対距離、3.2光秒」  次々と飛来するミサイル群。  完全に先手を取られてしまっていた。  前方のバリンジャー星にばかり気にとられていて、後方の索敵を疎かにしていた結果で あった。まさか撤退したはずの艦隊が後方から迫り来るとは考えもしなかったのである。  被弾して撃沈していく艦艇が続出していた。 「戦艦セジョン・デワン轟沈」 「空母ユ・グァンスン大破」 「駆逐艦チュンムゴン・イスンシン撃沈」
 損害報告が繰り返されていた。

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2018年3月15日 (木)

梓の非日常/終章・生命科学研究所 脱出の時

梓の非日常/終章・生命科学研究所

(十三)脱出の時  長い話が終わった。  いや実際にはそんなに時間は長くはなかったのだろうが、突拍子もない梓の説明を 理解しながら聞くのに手間どり長く感じたのである。 「だから見捨てるわけにはいかないのよ」 「そうか……そうだったのか。それで、この人にこだわっていたのか……。何度もこ の人に会いにきていたのはそのためだったのか」 「そうよ。わたしは、この浩二君の意識を移植されて生き返ったのよ。だから、わた しの意識の中には浩二君である部分も少し存在しているのよ」 「そうか……梓ちゃんに、どことなく男っぽいところがあったのは、そのせいなの か」 「そうなのよ。だから、この浩二君は分身なのよ。見捨てることはできない。あたし だけが助かるなんてできないのよ」 「そうは言ってもな。実際問題として、一人でも生きる可能性があるなら、それに掛 けるのはいいじゃないか。そのために犠牲になるのなら、この人も本望じゃないのか な。梓ちゃんを危機から救ってくれたのも、この人の性分だと思う。言ってたよ、 『女の子には優しく、時には守ってやるくらいの気概がなくてはいかんぞ。それが本 当の男。男の中の男というもんだ』ってね」 「でも……」  いつまでも踏ん切りつかない梓。  だがその背景には、梓が入ったカプセルを誰が運び出すかという問題があった。  口には出さないが、判りきったことである。 「すまん!」  と言うと梓に当身を入れる慎二。 「ううっ、し・ん・じ・く・ん……」  そのまま気絶する梓。 「悪いな、梓ちゃん。これ以上、議論している時間がないんだ」  言いながら、そろりと床に梓を横たえてから、冷凍睡眠カプセルに向かう慎二。  操作パネルをじっと眺めて開閉ボタンを探し出す。 「これかな……」  ボタンをぷちっと押すと、  ぷしゅー!  空気が抜ける音と共に、カプセルの蓋が開いた。 「長岡さん……。あなたにも、わかってもらえますよね」  というと、その凍った身体を引きずり出した。 「さすがに冷たいな」  床に横たえて、手を合わせる慎二。 「すみません長岡さん。これしか方法がないんです」  立ち上がると、次の手順に入った。 「外れると思うんだが……」  冷凍睡眠カプセルに繋がったケーブル類や、土台に固定している器具を取り外し始 めた。  そして力を込めてカプセルを引き剥がしにかかった。  外壁についた露が凍っていて、カプセルはなかなか土台から離れなかったが、渾身 の力を入れるとついにそれは動いた。 「よし。次はっと……」  慎二は患者を運ぶ移送ベッドを持ってくると、そのカプセルをベッドの上に乗せた。 かなり重くて苦労したが、何とか引きずるようにして移し変えた。  そして床に気絶して横たわっている梓を、やさしく抱きかかえるとカプセルにそっ と横たえた。  童話の眠り姫のように美しいその姿。  それが醜く焼け爛れていく様を見たくはなかった。 「俺はどうなってもいいが、梓ちゃんには無事な姿で生きていて欲しいんだ」  そういうと、酸素を供給する酸素ボンベのバルブを少し開けて梓の脇に置き、静か にカプセルの蓋を閉める。  さらに透明なガラス面から熱赤外線が入り込まないように上に手近な覆い布を被せ て水をたっぷりと含ませる。 「さて、準備は整った……。問題は通路にも火が回っているかだな……」  階段にたどり着くまでが勝負だった。  床は平面で、移送ベッドを転がしていけるが、この重いカプセルを抱えて階段を昇 ることは不可能だ。そうなると、カプセルから梓を出して抱えていかなければならな い。もし火が階段から先まで延焼していたら万事休すだ。 「しかしやるしかないな」  一分一秒、時間の経過と共に火は広がっていく。待ってはいられない。  再び室内にあった水道の蛇口を捻って、体中に水を浴びて濡らし、さらにカプセル の覆い布にもさらに水を含ませた。 「さて行くか……」  大きく息を吸い込んで、 「なむさん!」  叫ぶと、移送ベッドを力一杯押して炎の中へと飛び込んでいった。

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2018年3月14日 (水)

銀河戦記/鳴動編 外伝 ミッドウェイ撤退(4)

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 ミッドウェイ撤退(4)  それから一時間後のことだった。  オペレーターが敵艦隊を発見した。 「敵艦隊。捕捉しました。方位角十二秒。上下角五・三秒。距離、三十七光秒」 「ついに来たか……」 「ぎりぎり間に合いそうですね」 「しかし、これからが正念場だ」 「そうですね」 「戦闘配備!」 「戦闘配備します」  艦橋内を指令が飛び交い始めた。  戦闘配備命令によって一挙に緊迫が最高潮に達した。  その頃、共和国同盟軍第五艦隊は、バリンジャー星から程遠くないところまでに迫って いた。  その旗艦である攻撃空母アン・ジュングンの艦橋。 「バリンジャー星到着まで、後三時間後です」  オペレーターの声に腕組を外して指令を下す司令官イ・スンマン准将。 「全艦戦闘態勢だ。索敵を出せ」 「全艦戦闘態勢!」 「索敵を出します」  戦闘態勢となり緊張の度合いを高めていった。  とはいえ、撤退する艦隊を追撃しているという安堵感があった。  司令官に歩み寄る士官が一人。 「閣下。バリンジャー星には多くの女がいるというのは本当でしょうか」  首席参謀のムン・ジェイン中佐が尋ねる。 「おおうよ。よりどりみどりで全員に行き渡るほどな」 「楽しみですね」 「よだれが出てるぞ」 「いやだ。からかわないでくださいよ」 「あはは」  大声を上げて笑う司令官。  周りのオペレーター達もくすくすと笑っている。    情報部より、バリンジャー星には、軍人達の性欲を満たすために、挺身隊の女性達が召 集されているという情報が寄せられていた。  最前線にあって激しいストレスに苛まれ、性欲に駆り立てられる軍人達を放っておいて は士気の低下を招くのは必至である。そこでそのはけ口を与えるために女性達による挺身 隊が組織されて、最前線に送り込まれている。  というもののである。  トリスタニア共和国同盟では、バーナード星系連邦の特別授産育英制度のことなど知る 由もない。  一度間違って伝えられた情報は尾ひれがついて広がっていった。  そんな中、冷静に意見具申する参謀がいた。 「閣下。占領した惑星の女性に暴行を加えるなど許されてよいわけがありません」  第五艦隊きっての良識派と言われるオーギュスト・チェスター大佐だった。  彼ほど運のない軍人はいないだろう。自身が招いているとはいえ……。  良識派ゆえに、間違っていると思われる指令に対しては、はっきりと意見具申を申し述 べていた。だが、それが上官の心象を悪くして嫌われる結果を招いた。有体に言ってしま えば、世渡りが上手ではないということである。上官に対して、ゴマすり媚びへつらうこ とも、気に入られて昇進の条件となるということである。しかし彼にはそれができなかっ た。  大佐から将軍へ昇進するためには、昇進査問委員会に諮られることが軍規に定められて いる。当該艦隊の司令官の推挙状の他、同僚の大佐の意見も参考にされる。当然としてチ ェスターの評価は低く、将軍候補として一度も挙げられたことがなかった。  第五艦隊の大佐にまでは何とか昇進を果たしたもののそこがどんづまりだった。後から 昇進してきた大佐達に追い越されて、将軍の座に就けないでいたのだ。そして定年間近の 五十九歳になった。この年になっては、もはや彼に将軍への昇進はあり得なかった。大佐 までの定年は六十歳であり、将軍となれば六十五歳まで延長されるとはいえ、仮に将軍と なってもすぐ定年で退役では士気に影響が出る。艦隊司令官となり、その人となりが将兵 達のすべてに浸透するには数年はかかるものである。やっとこれからという時にはもう退 役では意味がない。そこで定年間近な将兵には、勧奨退役や後方作戦部隊への転属辞令、 つまり肩叩きが行われるのだ。  その追い越された司令官であるイ・スンマン准将が冷ややかに答えた。 「暴行? なに言っているのだ。やつらだって戦場に女を連れてきて欲求を満たしていた んだ。そのために集められた娼婦じゃないか。なんなら女子挺身隊と言い換えてもいいが。 相手が連邦だろうが同盟だろうが、金さえ積めば喜んで身体を開くさ」 「果たしてそうでありましょうか? 女子挺身隊などという情報が正しいとは言い切れま せん。我々は連邦の組織など知らないのですから」 「馬鹿が。多くの女性が集められているのは間違いのないことなのだ。最前線に召集され る女性など慰問婦以外にあり得ん」 「そうは言っても……。それに守備艦隊がいるでしょう」 「その心配はありません。敵の主力艦隊は撤退をはじめバリンジャー星を放棄したもよう です」  首席参謀のムン・ジェインが口を挟んで答える。  彼は准将のお気に入りとなっていた。典型的なゴマすり人間。  そのイ・スンマンですらゴマすりでニールセン中将から特別待遇で准将に昇進したのである。 「惑星に残る住民を回収していては時間が掛かり過ぎて撤退が間に合わなくなる。どうせ 女ばかりだ、残していくのは当然だろうし、命までは取られないだろうと考えるのが自然 だ」 「女達は自分達がかわりに守ってやりますよ。へへ」  副官のノ・ムヒョンが、にやにやしながら言った。 「おいおい。股間を膨らませていうんじゃない」 「あ、これは……。なにせ、半年近く女を抱いていないもので」  そんな状況は艦橋だけではなかった。  艦内のあちらこちらでは、これから向かうバリンジャー星に滞在する女性のことでもち きりであった。 「聞いたか、バリンジャー星には女がうようよいるそうだぜ」 「なんでも公設の売春宿があって、連邦のやつらは自由に欲求を満たしていたらしい」 「一刻も早くこの腕に抱いてみたいものだ」 「あわてるな、女は逃げないさ」 「しかしいうことをききますかね」 「なあに。びんたの一つ二つ食らわせればおとなしくなるさ」

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2018年3月13日 (火)

梓の非日常/終章・生命科学研究所 真相を語る

梓の非日常/終章・生命科学研究所

(十二)真相を語る
 炎は依然として勢いを止めなかった。
 酸素マスクがなかったらとっくにガス中毒で死んでいるはずである。
 炎を見つめる二人。
「なあ、もし助かったら約束してくれるか?」
「約束?」
「ああ、もし助かったら、浩二のことは忘れて、女の子らしくしてくれないか」
「あたしは、女だよ」
「そうじゃなくって! 性格的にだよ。空手なんかに熱中してないで、もっとしとや
かにして欲しいんだ」
「それが、おまえの好みか? つまりちゃらちゃらした綺麗なドレスなんかで着飾っ
て社交界デビューするような」
「いや、今の梓ちゃんも十分好きだよ。しかしそれじゃあ……」
「婿になり手がいないか?」
「婿?」
「あたしが嫁にいくような生活してるか?」
「そうだな……。婿がいなくなる。まあ金目当ての奴ならいくらでもいるだろうが
な」
「それでもいいんじゃない? 適当に男と遊んでできた子供を後継者にすればいい。
真条寺家は女系家族だ。子種さえもらえば、あえて夫というものを作る必要もない」
「あ、あのなあ……」
「冗談だよ」
「こんな状況で、よくも冗談が言えるな」
「気を紛らしているんだよ」
「まったく、たいした女の子だよ」
「へえ。女の子と思ってくれるんだ」
「あたりまえだ。梓ちゃんは可愛いよ。だが男っぽい性格はいただけないな」
「そうか、一応ありがとうと言わせてもらおうか。で、話を元に戻すと、ここから助
かったら、女の子らしくしろと言うことだよな」
「そうだ!」
「助かる方法があるのか?」
「いいから約束してくれ。そうでなきゃ、決意が萎む」
「なんか知らんか……いいよ。約束する」
「よし、指きりげんまんしようぜ」
 といいつつ小指を突き出す慎二。
「おまえは、子供か!」
 呆れた顔の梓。
「いいじゃないか。約束をする時にはこれが一番だ」
「わかったよ。ほれ」
 そういって同じように小指を差し出す梓。
「♪指きりげんまん嘘ついたら針千本のーます♪ きっーた!」
 小指と小指を絡ませて口ずさむ慎二。
 思わず苦笑しながらも成り行き任せの梓。
「よし、約束だかんな。助かったら女の子らしくすること」
「わかった! で、本当に助かる方法があるのか?」
 自信満々の表情で慎二が答える。
「一つだけ方法があるさ」
「方法?」
「ああ……もちろんだ。梓ちゃんのきれいな肌に火傷すらつけないで無事に外へ連れ
出す方法がね。一つだけある」
「そんなことできるわけないじゃない」
「いや、あるさ。ただし……梓ちゃんには諦めてもらうしかないがな」
「諦めるって、何を?」
「こいつさ」
 と慎二が指差した先には、長岡浩二が眠っている冷凍睡眠カプセルがあった。
 勘の良い梓は、慎二の意図がすぐに理解できた。
「うまいぐあいに、このカプセルは冷凍されていて、中に入ればその余熱でしばらく
は中の人間を炎の熱から守ってくれるだろう。多少の凍傷にかかるかも知れないけど
な」
「そんなこと……あたしに中に入れと言うの? だれがこれを運ぶのよ。それにカプ
セルから出した浩二君はどうなるの」
「だから言っているじゃないか。諦めてもらうしかないって。どっちにしろ俺たちが
死ぬと同時にこの人も死ぬんだ」
「でもこの人は、命の恩人なのよ。見捨てられないわ」
「どうして、そんなにこの人にこだわるんだよ。とっくに死んでいるも同然のこの人
に」
「それは……」
 言葉に詰まる梓。
 どう説明したらいいものかと悩んでいる。
「いいわ。ほんとのことを話してあげる」
「ほんとのこと?」
「ええ。驚かないでよ」
「わかった」
 それからゆっくりと長岡浩二と自分自身との関係を話し出す梓。

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キン斗雲よ来い!

インターポット

そんなとこで、何してるの?

キン斗雲、待ってるんだ(∀`*ゞ)エヘヘ

乗れるの?

もちのロン

邪な気持ちだと、落っこちるわよ。

大丈夫だもん

がんばってね。

へいへーい(^_-)-☆

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2018年3月12日 (月)

銀河戦記/鳴動編 外伝 ミッドウェイ撤退(3)

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 ミッドウェイ撤退(3)  一人きりになったのを確認して、スティールはコンピューターに向かった。 「この惑星の自爆装置の暗号コードを」 「認識番号ト所属オヨビ名前ト階級ノ順ニ、声ヲ出シテ入力シテクダサイ」  コンピューターのセキュリティーシステムが作動し、合成音によるチェックが始まった。 「認識番号51396A17、第七艦隊首席参謀、スティール・メイスン中佐」  声を出して入力するのは、音声分析によってシステムに登録されているスティールの声 紋と照合して本人の確認をするためである。通常のチェックならこれだけで大概済むはず であるが、惑星自爆という重大さから、さらにもう一段先のチェックがあった。機器の一 端からレーザー光が発せられて、スティールの眼球を照らし、その網膜パターンの読み取 りを開始した。 「プレグニッションコードヲドウゾ」 「389H6B77」 「結構デス。シバラクオ待チクダサイ」  システムによって登録情報の確認がなされるのに時間がかかった。ここのシステムには スティールの全情報は記録されておらず、バーナード本星のシステムに機密回線によって アクセスして情報を取り出さなければならないからである。  ややあってシステムが応答した。 「スティール・メイスン中佐ヲ確認シマシタ。自爆連番コードヲ表示シマス」  ディスプレイに自爆連番コードが表示され、スティールはそれを頭に叩きこんで記憶し た。機密情報であるために、他人の目に触れないようにしなければならないからである。  スティールは早速入手したばかりの自爆連番コードを入力して、自爆制御コンピュー ターにアクセスして、自爆のセットアップをはじめた。自爆連番の最終コードを入力して から自爆までの時間として、初期設定の六十分を五分に変更し、遠隔誘導システムをオン にして誘導周波数をセットした。もちろんそれは、旗艦から遠隔で自爆させるための準備 である。その他諸々の設定を施してシステムを閉じた。  スティール率いる輸送大隊の艦船が惑星宇宙港へ入港し、各地に分散した授産施設や母 子寮から多くの女性達が集められて、避難のための搭乗がはじめられた。妊娠し大きなお なかを抱えた女性、乳児を抱きながら片手に小さな子供を引き連れた女性、人口を増進す るために産むことを教育され奨励されて、その役目を担った女性と子供達の群れ。 「中佐殿。こうやって眺めると壮観ですね。総勢六十万に及ぶ女性すべてが、妊娠してい るか子供を引き連れている」 「そのためにここに招集されているのだからな」 「あの中には、自分の子供を宿した女性もいるのでしょうけど、これだけの数の中から彼 女を探すのは不可能ですね。もっとも緊張していてその顔をあまり覚えてはいないのです が」 「仮にその女性に出会ったとしても、結婚できるわけでなし相手に迷惑なだけだ。妊娠が 確認されるまでは、自分以外の幾人かの男性の相手をしているわけだから、受胎した相手 が誰かは特定できないのさ」 「え? 本当ですか。男女が交われば必ず子供ができるのではないのですか」 「犬・猫などは交尾すればほぼ百パーセント妊娠するがね。人間はそうはいかんらしい。 これは妻から聞いたことだが、女性には受胎可能期間がほぼ毎月数日間だけあるそうだ」 「毎月数日間だけ?」 「その時に交わった時のみ妊娠できるそうだ。しかも必ず妊娠するとは限らなくて……」  スティールは妻から聞いた女性の生理と妊娠についての知識を話して聞かせてやった。  バーナード星系連邦に生まれたすべての男性は、生まれた時から軍人としての教育・鍛 練のみ受けてきたのであり、ほぼ男女隔離された状態で育った環境においては、女性の生 理や妊娠のメカニズムについては一切の知識を持ち合わせていない。ましてや女性の身体 的特徴すらまともに知らないのが現状であったのだ。そのような男性が女性の身体にはじ めて触れるのは、保健部より授産施設への出頭が命じられて、子作りのために女性に見合 わされた時である。もちろん女性経験のない男性が子作りの何たるかを知るよしもないの で、すでに子供を持つ経験豊富な女性があてがわれて、はじめての経験を知ることになる のである。 「そうだったのですか。女性ってのは複雑なんですね」 「肉体的なところもそうだが、精神面でもいろいろ複雑だよ。君もいずれ適当な女性を与 えられて結婚することになるが、一緒に暮らすというのはいいもんだぞ。男と女は結ばれ る運命にあるのだからな」 「はあ……」 「さて、そろそろ出発するとするか」 「はっ。すでに護衛艦隊は燃料補給を終えて発進準備を完了しております」 「よろしい」

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2018年3月11日 (日)

梓の非日常/終章・生命科学研究所 慎二登場!

梓の非日常/終章・生命科学研究所

(十一)慎二登場!  その時だった。  目の前の炎の中に、黒い影が動いた。  かと思うと、次の瞬間にその炎の中から飛び出してきた人物がいた。  頭部を庇っていた上着を取ったその人物は? 「し、慎二!」 「じゃーん! お助けマン登場!」  まさしく、あのスチャラカ慎二だった。  炎の中をかいくぐってきたせいで、髪はちりぢりになり、衣服は焼け焦げて今なお くすぶっていた。 「なんで、おまえが」 「その言い方はないだろう。命がけで飛び込んできたのによ」 「セキュリティードアはどうしたんだ?」 「うん? あのドアか? 開いていたぞ。たぶん逃げ出した奴が開けたままにしたん だろう」 「馬鹿な……」 「梓ちゃんこそ、どうして逃げ出さないんだ」 「おまえなあ……。この状況で逃げ出せると思うか? 命知らずのおまえとは違うん だ」 「そうかあ、女の子だもんな……」  と言いながら梓の意図を理解した。そして梓が持っているマスクに気がついて、 「いいもん持ってるじゃないか。もう一つないのか?」 「ああ、これならそこの棚に入っているよ」  梓が指差す棚から、それを持ってきて尋ねる。 「これ、どうやるんだ?」 「調整弁が付いているから、それを回せばいいんだよ。あまりたくさん開くなよ、た だでさえ火の勢いが増すからな」 「あはは、これくらいでどうなるもんじゃないだろ」 「気持ちの問題だよ」 「このボンベ一本で、どれくらい持つんだ?」 「せいぜい三十分が限度だろう」 「そうか……。後五本あるから、二人で一時間ちょっとだな」 「そんな問題じゃないだろが。この状況が判らんのか?」  どう考えても一時間持たないだろう。  炎が広がっているのはもちろんのこと、それ以上に室温が上がって耐え切れなくな るだろう。スプリンクラーは作動していないが、空調が回っているらしくて煙と発生 した熱のいくらかはそちらへ吸い込まれている。しかし限度というものがある。背後 の壁に掛かっている温度計は五十度を回っていた。 「ここにはスプリンクラーはないのかよ」 「たぶん大量の化学物質があるから、水と反応して有毒なガスが発したり、よけいに 燃え上がったりするかも知れないから、あえて止めているのかもな」 「じゃあ、部屋の中に炎を避けられるようなものはないのか?」 「冷蔵庫ならあるが」  梓が指差したそれは、薬品を冷蔵するするもので、人が入れるような容量はなかっ た。 「頭を突っ込めば少しは涼しくなるだろう」 「こんな時に、よくもそんな事を言ってられるな」 「気休めだよ」 「例えば地下通路への隠し扉とかないのかよ」 「んなもん、あたしが知るわけないだろう。仮にあったとしてもな」 「そ、そうだ。電話とかないのか?」 「電話かけてどうするんだ。外と連絡が取れたってどうすることもできないだろが。 人助けは出前じゃないんだぞ。一応電話はあるにはあるがな」 「連絡してみたのか?」 「繋がらないよ。回線が火事で溶けて切れたのかも知れないし、或いは……」 「或いは……?」 「いや、なんでもない」  それからしばらく炎を見つめている二人だった。 「なあ……」  梓がつと口を開いた。 「なんだよ」 「こうなることは想像できただろうに、どうして飛び込んできたんだ。それともそれ すらも判らない馬鹿なのか?」 「なあに、死ぬときは一緒と思ってな」 「よく言うよ」  それからまたしばらく沈黙が続いた。  炎に照らされて二人の顔が赤く染まり、暗く沈んでいる表情を明るく見せていた。 「なあ、慎二」 「なんだ?」 「おまえ、あたしのこと……好きか?」  梓が突拍子もないことを口にした。  しかし平然とそれに答える慎二。 「ああ……好きだよ。そうでなきゃ、こんなところに飛び込んでこねえよ」 「だろうな……」 「それがどうした? 梓ちゃんは、俺のこと嫌いか?」 「いや……好きだよ」 「そうか……それを聞いて安心したよ」  続いて再び。 「なあ、キスしよか」  唐突に梓が言った。 「キス?」 「してもいいよ。ほっぺでも唇でもお望みのところにね」 「遠慮しとくよ」 「そっか……。せっかく」  再び沈黙する二人。  今度は慎二の方が先に口を開いた。 「なあ、もう諦めたのか?」 「え?」 「だから、生き残ることだよ」 「そうだね……。正直言って諦めてるよ」 「俺は、まだ諦めちゃいないぜ」 「そうは言ってもこの状態じゃ……」

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2018年3月10日 (土)

銀河戦記/鳴動編 外伝 ミッドウェイ撤退(2)

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 ミッドウェイ撤退(2)  第七艦隊から分かれたスティール率いる輸送大隊と護衛艦隊の目前にバリンジャー星が 現れた。  バリンジャー星には連邦軍の最前線補給基地があった。同盟へ侵攻する際には、必ずこ こへ寄って補給したのちに、進撃を開始するのである。  今そのバリンジャー星に、第七艦隊撤退の間隙をついて敵艦隊が押し寄せてきている。 一刻もはやく当惑星の住民の収容を急がねばならない。 「護衛艦隊はこのまま軌道上に待機。輸送隊は降下して住民の収容にあたれ」 「はっ」 「それから早速索敵の部隊を出して敵の進撃ルートを探知するのだ」 「了解」 「とにかく、敵艦隊がどこから来るかが判らない限り、我々はどうしようもない」  スティールは指揮官席に深く座り直した。  目の前のスクリーンに大きく映されたバリンジャー星。住民を収容するために輸送隊が 次々と降下をはじめている。 「バリンジャー星か……」  その惑星の直径は約四千キロ。ほとんどが濃い二酸化炭素の大気に覆われ、地上は砂漠 の不毛の惑星である。微かに酸素や水蒸気は見られるものの、生命維持装置の助けを借り なければ生きられない。  とはいえ、共和国同盟への最短進撃ルートにあたるこの地には、大規模な基地建設が行 われ壮大な宇宙空港及び燃料補給設備と、地下には巨大な居住施設が縦横に走るトンネル で結ばれて点在していた。  軍事施設に従事する十万人の他、約七十万人におよぶ民間人が暮らしている。  その民間人のほとんどが女性とその子供ばかりで、基地に併設された授産施設のために 集められているのであった。授産施設は、その名の通り未婚の女性達が、この地に立ち寄 った将兵の相手をし子供を宿すための施設である。  連邦では戦争により戦死する男子の続出で人口男女比がニ対三という極端な構成になっ ていた。一夫一妻を堅持する限り結婚できない女性が出るのは必定であるが、だからとい って子供を産む能力のある女性を遊ばせておくわけにもいかない。  長期化した戦争を維持していくには、局地での戦闘に勝つ以上に、戦争による人口の減 少を食い止め、一人でも多く増やす政策を推し進める必要がある。  そのために連邦で取られた政策が、結婚からあぶれた未婚女性に対する特別授産育英制 度、通称『未婚の母親制度』であった。  そのための授産施設が各軍事基地に併設の形で建設され、未婚の母親となる環境を与え ていたのである。ここもその一つで、施設は軍の保健部が運営・管理しており、全国から 未婚の女性が集められ子作りに勤しんでいた。  女性はすべて月経といった生理周期を保健部に把握されており、妊娠可能日に限って施 設へ出頭し、妊娠が許されることとなる。妊娠が確認され次第、母子寮へ入居して出産・ 育児の生活に入ることになる。  未婚女性が一人で生活するには、その生活費と住居を確保するために、自分で働かなけ ればならず苦労ばかりあって楽なものではなかった。ところが特別授産育英制度の下で子 供を産んだだけで、軍が管理する母子寮に無償で入居できるうえに、子供が成人するまで の養育費とともに母親の生活費をも自動的に支給されるのである。というよりも、子供を たくさん産めば産むほど、その母親としての生活はより安定し裕福となることが保証され ていた。まさしく子宝に恵まれるという表現がぴったりであったので、結婚できない女性 達はこぞって特別授産育英制度の恩恵にあずかることとなったのである。  あくまで女性が子供を宿すための施設であって、男性の性欲を満たすための施設ではな いということを強調しておかなけらばならない。かつてのヤマト民族が慰安婦という制度 で、男の性欲を満足させて士気の低下を防ぐために、慰安婦募集を行って婦女子に不特定 多数の相手をさせていた時代があるが、それとは根本的に思想がことなっているのだ。  このような話を共和国同盟の人間が聞けば、間違いなく女性蔑視だと憤慨するだろう。 しかし思想など教育次第でどうにでもなるのだ。例えば 『スカートは女性が着る衣服だ』  と、誰しもが思っているはずだが、物心付いた時からそういうものだという風習や教育 があったからこそのものなのである。  イスラム教では、男子はターバンを頭に被り髭を伸ばす、女子は全身を覆い隠すプルカ という衣装を着てほとんど人前には出ない。  何故と問うなかれ、それがイスラムなのだと。  長期化した戦争を勝つために、子供を産んでくれる女性は絶対最優先的に守らなければ いけない。  女性達を一人残らず無事に本星に送り返すこと。  それが今回、スティール中佐に与えられた指令であった。 「バリンジャー星か……」  スクリーンに映るバリンジャー星を見つめながら、スティールは深いため息をついてい た。  バリンジャー星は補給基地であると同時に、特別授産施設平たく言ってしまえば生殖の 最前線基地ともいえる惑星である。連邦の法律や軍規に純然と従う男女が、人口増進のた めに日夜生殖に勤しんでいるわけだが、共和国同盟には真意が歪曲して伝えられて公設売 春センターであるかのごとく報じられていることを、スティールは苦々しく思っていた。  彼女達を残したまま撤退すれば、股間を膨らました同盟軍の将兵達の餌食とされること は明白であった。  同盟軍将兵にとって自国の女性を襲えば強姦罪に問われるが、占領した惑星の女性に対 しては何等法制上の束縛は存在しない。占領した時点では同盟でもなく連邦でもない軍の 統括地となるわけで、すべては軍規がものをいう。軍規に従うかぎり当地の女性を手込め にしようとも、それを引き止めることはできない。古今常識的な行動である。 「中佐。索敵に出していた部隊が敵艦隊を発見しました」  通信士の報告で我に返るスティール。 「敵艦隊が本星に到着するまでの推定時間は?」 「はっ。敵艦隊が現在のコースと速度を維持したとして、約六時間後になります」 「速すぎるな……」 「せめてあと三時間くらい余裕があれば、十分間に合うと思うのですが」 「時間がなければ時間をつくるだけだ」 「といいますと?」 「護衛艦隊を本星の前衛に展開させ迎撃作戦を行う」 「待ち伏せですか」 「その通りだ。時間を稼ぐために、敵艦隊に波状攻撃をかける。一斉攻撃したら一旦退却 し、体制を立て直した後に再び一斉攻撃を行ってまた引く、これを数次に渡って繰り返す のだ。これで敵の行き足は大幅に遅れるはずだ。その間に惑星住民の収容を間に合わせ る」 「うまくいくでしょうか?」 「いくもいかぬも、これしかない」 「……」 「しかし、仮に収容が間に合ったとしても、足の遅い輸送艦隊だ。すぐに追い付かれて背 後を襲われるのは目にみえている。そこで、もう一つの作戦を同時に遂行する」 「作戦?」 「この惑星を自爆させるのだ」 「惑星を自爆させるのですか」 「そうだ。惑星を自爆させて、接近した敵艦隊を葬り去るのだ」 「うまくいきますかね」 「全滅とまではいかなくても、追撃してくる士気を削ぎ落とすくらいはできるだろう。 我々の任務は、敵艦隊を討つのではなく惑星住民を避難させることだ。惑星の一つくらい 破壊しても、戦術上差し支えないだろう」 「わかりました。司令がそこまでおっしゃるのなら、作戦に従いましょう」 「うむ。直ちに惑星爆破の準備にかかりたまえ」 「はっ」

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2018年3月 9日 (金)

梓の非日常/終章・生命科学研究所 絶体絶命

梓の非日常/終章・生命科学研究所

(十)絶体絶命  その頃、梓は火に囲まれて身動き取れない状態だった。  幸いにも、研究室の片隅に置かれていた酸素ボンベとマスクを見つけて、それを口 に当てて呼吸を確保していた。とはいえ出口は火の海、他に逃げ場はないかと探した ものの、どこにも逃げ道はなかった。 「ふふ。さすがに生命研究所だけあって便利なものがあったけど……。八方塞がり旧 態依然ね」  生命の危機に陥っているというのに、落ち着いている自分を意外に思っていた。 「そういえば、飛行機事故の時もそうだったっけ……」  燃料切れで墜落するかもしれないと伝えられた時のことを思い出していた。  一度死んだことのある梓にとっては、すでに死の境地を乗り越えて、精神的に解脱 していたのかも知れない。  そしてさらに思い出したことがあった。  潜水艦を襲ってきた駆逐艦隊と、背後にある組織の影である。 「まさか……。この火事も、あたしを亡きものにしようと組織が放火した……と考え た方がいいわね」  火の回りが速すぎるのが、その推理の根拠だった。 「油かなんか撒いてから、火を点けたんだろうね……」  その行為もさることながら、その気配を察知できなかった、自分が不甲斐なかった。 「精神修養が足りないわね」  武道に生きる者としての、正直な気持ちだった。 「しかし……これまでかな……」  度胸を決めて火の海を突っ切れば、命が助かる確率はあるかも知れないが、無事で 済むはずがなかった。肌は火に焼けただれてケロイドとなり、見るも無残な姿となる のは必至であった。  そんな姿を人前に晒すくらいなら、いっそこのまま誰とも判断できないくらいに、 きれいに燃え尽きてしまった方がいいのかも知れない。  美少女を自覚している梓にしてみれば、そう考えてしまうのは当然のことだろう。 「今頃、絵利香ちゃんはどうしているかな……」  三歳の誕生日にはじめて出会った幼なじみの絵利香とのこれまでの思い出が次々と 思い出されていく。まるで死にいく人間がそうであると言われるように。そしてもう 一人……。 「慎二……」  梓が自覚している唯一の異性の親友ともいうべき人物である。  いつもまとわりついてうざったいと思うことがあるが、決して嫌味な感じではない ので、それなりに好意は抱いていた。 「な、なに考えてんだか……」  それにしても今まさに死の境地にあるというのに、自分のことではなく絵利香や慎 二のことを思い出されるのだろうか……。 「そういえば……。窮地に陥った時には、いつもそばにいたり、助けにきたりしてい たな」  城東初雁高校に入学当初に出会って以来、不良グループの二つの事件、飛行機事故、 洞穴遭難など……。

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2018年3月 8日 (木)

銀河戦記/鳴動編 外伝 ミッドウェイ撤退(1)

銀河戦記/鳴動編 外伝

これまで読んで下さった方々に感謝します。
第一部は全26章です。
前半十三章、いわゆる放送用語で「ワンクール」が終了したということです。
というわけで今回からしばらく、これまで語られなかった本編に関わる外伝をはじめます。
それでは、これからもよろしくお願いします。


エピソード集 ミッドウェイ撤退(1)  バーナード星系連邦第七艦隊旗艦ヨークタウン艦橋。 「全艦、戦線より離脱致しました。敵艦隊の追撃はありません」  オペレーターが報告する。 「そうか……。何とか切り抜けられたか」  というと、F・J・フレージャー提督は、ふっとため息をついた。 「提督、ナグモ艦隊よりの報告が届きました」  参謀のスティール・メイスンが報告書を届けにきた。 「そうか、見せてくれ」  スティールより報告書を受け取って読み始めるフレージャー提督。  やがて納得したように呟いた。 「そういうことだったのか……」  ミッドウェイ宙域会戦。  ヤマモトの第一機動空母艦隊(ナグモ艦隊)と連携しての波状攻撃で、敵艦隊を撃破す るのは確実な作戦であった。  艦載機の数はもちろん、パイロットの技術にしても、圧倒的にこちらが有利だった。  敵の第十七艦隊を撃破すれば、その母港である共和国同盟軍最重要防衛拠点シャイニン グ基地を攻略するのも容易い。敵艦隊をシャイニング基地から誘い出すことに成功し、ナ グモの艦載機によって先制攻撃にも成功した。  それが、たった十数隻の艦艇によってもろくも崩れ去った。  それはナグモ率いる第一機動空母艦隊の中心部に突然ワープアウトしてきた。  奇襲攻撃をかけられ、味方旗艦空母を盾にされて、護衛艦隊は迎撃も適わずにアカギ以 下の主戦級攻撃空母を四隻も撃沈されてしまった。  報告書を読み終えて机にそれを置いてスティールに語りかける。 「この十数隻を指揮していた士官の名前は判ったのか?」 「いえ、まだです。ただ敵の通信を解読した中に『サラマンダー』という符号が使われて いるのが判明しております」 「サラマンダー?」 「はい、おそらく敵の指揮艦の名称だと思われます」 「サラマンダーか……。それにしても……、一体何者だったんだ。敵艦隊の只中に特攻を しかけてくるなんて……大胆不敵としか言いようがない」 「一個小隊のようですから、少尉クラスの士官でしょうね。今回の奇襲攻撃は、おそらく 彼の独断によるものと思われます」 「うむ。敵の只中に飛び込んでくるとは、よほど肝が据わっているというか、そうとうの 自信がなければできるものではない。私の感だが、そいつは並々ならぬ戦果を挙げて昇進 し、我々の手強い敵となるに違いないぞ」 「それは言えていると思いますね。交戦中の通信暗号を解読中ではありますが、彼の指揮 にはいささかの乱れもなく一貫して一撃離脱に徹しています。ワープアウトして戦線離脱 するまで無駄な戦闘行為を避けて、攻撃空母のみに火力を集中させています」 「それでアカギ以下の旗艦四隻が撃沈か……」  ヴィジフォンが鳴った。  スティールがそれを操作して受信状態にする。 『失礼します。キンケル大将閣下より入電です』 「繋いでくれ」 「かしこまりました」  と答えながら、ヴィジフォンのスクリーンをオンにするスティール。  壁際のパネルスクリーンに電源が入り、映像が投影される。  映し出されたのは、タルシエン要塞司令官のハズバンド・E・キンケル大将だった。  すかさず敬礼を施すスティールとフレージャー提督。 「報告は聞いた。ナグモが散々の目に遭わされて撤退を開始したというのなら、貴官も同 様に撤退したというのも頷ける」 「ありがとうございます。閣下」  フレージャーが頭を下げる。 「うむ……。つい今しがた、緊急を要する連絡が入った」 「どのような内容でしょうか?」 「貴官らの第七艦隊が撤退する間隙を突いて、共和国同盟軍の第五艦隊がバリンジャー星 域へ向かったらしい」 「バリンジャー星域といいますと、最前線補給基地の一つですね」 「そうだ。そこには補給施設であると同時に、授産施設があり数多くの女性達が暮らして いる。至急に赴いてこれらの女性達を収容して撤退する任務を与えられた」 「その任務を我々に?」 「その通りだ」 「しかし自国住民の収容・移民は、惑星占領を担当する戦略陸軍の管轄範囲に入っており ますが?」 「わかっておる。だが、戦略陸軍提督の、マック・カーサー中将の弁によると、そもそも ミッドウェイ作戦自体が間違っていたのだというのだな」  ミッドウェイ宙域会戦において敗退しなければ、敵の進撃はなかった。というのがカー サーの言い分である。彼は作戦に反対していた。その彼を差し置いて作戦を実行しておい て、失敗して敵が押し寄せて来たから後をよろしく、という言い分は通用しない。彼は配 下の戦略陸軍の派遣を拒絶し、ミッドウェイ作戦担当者に撤収作戦の責任を押し付けてき たのである。  すなわち、ミッドウェイ宙域会戦の作戦立案を出したスティール・メイスン中佐に本作 戦の指揮命令が下ったのである。 「何にせよ。こちらから向かっていては、とうてい間に合わない。現在一番近くを航行し ているのは貴官の艦隊だ。それもある」 「判りました。その任務、謹んで承ります」 「よろしく頼む」  映像が途絶えて通信が終わった。  姿勢を崩してスティールに語りかけるフレージャー提督。 「マック・カーサーは、君とは何かと因縁がありそうだな」 「ええ。まあ……、いろいろと……」  そう……。  スティールとマック・カーサーとの間にはいろいろとあったのだ。  その手始めは士官学校時代からのことではあるのだが……。 「とにかくだ。作戦立案者であるスティール・メイスン中佐、つまり君に詰め腹を切らせ ようというところだな。ミニッツ提督としても、反対することができなかったのだよ」 「わかりました。バリンジャー星住民の撤収作戦の任につきます。艦隊の一部を貸して頂 けますか」 「もちろんだ。輸送大隊と護衛に一個中隊を連れて行きたまえ」 「ありがとうございます」

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2018年3月 7日 (水)

梓の非日常/終章・生命科学研究所 炎の中で

梓の非日常/終章・生命科学研究所

(八)炎の中で  火災報知の警報は、地上の人々を驚愕させていた。 「火事か!」 「火元はどこ?」  右往左往しながら、事態の収拾にあたる所員たち。 「地下研究施設のもよう」  事務室の一角に設けられた火災受信機を調べて報告する所員。 「火元へ急げ!」 「消火器を集めろ」  消火器や消火用バケツを携えた所員が地下への階段に集まる。  もうもうと立ち上ってくる煙に、降りていくことをためらわせていた。 「スプリンクラーは作動しているのか?」 「わかりません!」  一方、所内を揺るがす警報音は、外にいた慎二の耳にも届いていた。 「な、なんだ?」  やがて開いた窓から煙が出始めたのを確認して、 「火事か!」  地下の研究室には梓がいるはずだ。  そして次の行動に移していた。 「梓ちゃんは大丈夫なのか?」  跨っていた自動二輪から降りると、猛然と玄関に向かって走り出した。 「課長! 下には梓お嬢様がいらっしゃいます!」  受付嬢の一人が、甲高い悲鳴のような声を出して言った。 「なんだと、それは本当か?」 「はい。間違いありません」  地下からハンカチを口に当てながら登ってくる研究員達。  その研究員を呼び止めて質問する課長。 「おい! 梓お嬢様を見なかったか?」 「見ない。自分が逃げ出すのでやっとだよ。他人をかまってる暇なんかない」 「ど、どういたしましょう……?」  階下から舞い上がってくる煙に恐怖心を露にする受付嬢 「だめだ! 何の装備もなしに地下へ降りるのは、死に急ぐことになる。火はなくと も有害な煙を吸えば意識喪失して二次遭難になる。消防が到着するのを待つしかな い」    そこへ慎二がやってきた。 「おい。梓ちゃんは?」 「何だ、君は?」  部外者の慎二にたいし、明らかに不審の目で尋ねる課長。 「あ、この人。お嬢様のお友達でいらっしゃいます」  受付嬢が答えた。 「どうでもいいだろ。梓ちゃんはどこだ?」 「わからん。下にいるかも知れないが、確認は取れていない……」 「確認だと? ならどうして確認に行かないんだ」 「この状態が判らないのか? 今、降りて行ったら死ぬだけだぞ」 「しかし、下にいるかも知れないのだろう。確かに梓ちゃんは、中に入っていった。 それが出てきていない以上、下にいるはずだろう」 「だが二次遭難だけは避けなきゃならん! 責任者として行かせるわけにはいか ん!」 「そんなこと言ってるうちに火が回っちゃうじゃないか」 「しかし!」 「ええい。聞いちゃおれん!」  言うが早いか、消火用バケツを持っていた所員を見つけると、それを奪い取って頭 から水を被った。 「お、おい。君!」  その意図を察して、止めに入る課長。 「どけよ」  凄みを利かせて課長を睨む慎二。 「ど、どうなっても知らんぞ」  その形相に後ずさりしながらも念を入れる課長。  大きく息を吸い込んで、気を入れてから、 「よっしゃあ!」  怒涛のように階段を駆け下りていく慎二。  そこは目の前一寸すら見えない煙だらけの世界だった。  さすがに咳き込みながら唸るように言った。 「何も見えんぞ!」  しかし野生の勘に冴えた頭脳は、一度通った道を覚えていた。記憶の糸をたぐりな がら目的の研究室へと急ぐ慎二だった。

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レトロ自転車

インターポット

サイクリング♪サイクリング~♪ヤッホー、ヤッホー(*^^)v

機嫌がいいみたいね。

気持ちいいじゃん!

にしても、氷の上でよくも転ばないわね。

すってんころりん……なぜでしょう?

そもそも、自転車のペダルに足とどいてないのに。

あれえ~??

なんてね、元祖自転車はペダルが付いてなくて、
足で地面を蹴って走ってたのよね。

でも、足が……地面に届いてないよ。

そうだね。そもそも走り出しにどうやって乗り込んだのかな?

わかんなーい(;´Д`)


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2018年3月 6日 (火)

銀河戦記/第十三章 ハンニバル艦隊 IX

第十三章 ハンニバル艦隊

                 IX  正規の七万隻を所有する第十七艦隊の母港としてシャイニング基地はそのままに、 カラカス基地もまた燃料補給基地として管轄に入れられることになった。つまりはシ ャイニングとカラカスと二つの基地の防衛を課せられることになったのである。アレ ックスにとっては双方の基地を防衛するには兵力を分散させねばならないことを意味 している。  第十七艦隊司令といえば聞こえはいいが、アグリジェント基地に残した艦艇を合わ せればすでに七万隻からなる独立遊撃艦隊を所有していたアレックスにとっては、負 担が増えただけで何のメリットもないものであった。  これは守備範囲にシャイニング基地を押し付けることで、アレックスの兵力を分散 させる意図を現した、チャールズ・ニールセン中将の策略があったといわれる。アレ ックスを准将に昇進させる苦肉の策の末に。  一方トランター本星では、五百万人にも及ぶ捕虜に対する戦犯裁判が行われていた。  捕虜として残される上級将校を除いては、下級将校・兵士達は連邦本星への強制送 還が行われることとなっていた。食料供給上の問題から全員を捕虜として残すわけに はいかないからだ。ただし、戦犯者達は当然として裁判にかけられることになる。主 に食料略取を担った部隊の将校達であるが、その中から婦女子に実際に手を出した者 達を選り分ける作業が困難を極めた。  同盟側にとってはかつてない惨劇となった食料纂奪と婦女暴行という、これらの罪 状にたいし、厳罰をもって処するべしという強い世論が大勢を占めるにいたった。  監察官達は、速やかなる審判を謀るために、捕虜に対して密告恩赦を約束した。婦 女暴行の当事者や、それを黙認した将校などを密告すれば、優先的に即時恩赦が与え られるというものである。すべてを監察官の手で処理していては、膨大な時間が掛か り過ぎてそれだけ長期に捕虜を収監しておかねばならず、食料の確保と同時に彼らを 監視するために、貴重な戦力となる兵士を割かなければならない。  宇宙港から発進する輸送船。多数の捕虜軍人を乗せて、捕虜受け渡しに指定された タルシエン要塞へ向かう一番艦である。 「よくぞこれだけの数を捕虜にしてくれたものだな」 「捕虜とはいえ、食料の配給を絶やすわけにはいかないし、いい加減同盟軍人のほう が餓えてしまいますよ」 「まったくだ。監察官泣かせもいいところだ」 「しかし、捕虜交換で戻って来ることになる同盟将兵やその家族等は感謝しているよ うですがね」 「これまで出ると負けしていた同盟軍が、ランドールの登場以来勝ち戦に持ち込める ようになって、捕虜収容の数が激増して連邦側との捕虜交換を可能にするだけに至っ た」 「とにかくランドール戦法とも呼ばれる艦隊ドッグファイトに持ち込んで、敵艦艇の エンジン部だけを狙い撃ちして動けなくなったところを、乗員ごと捕獲してしまうん ですから。流血を好まないランドールならではのことと、世間では評判ですけど」 「それだけ部下に困難な道を強いているということじゃないかな。高速で移動しなが らの正確な射撃を可能にするずば抜けた反射神経が要求されるのだからな」 「しかし彼らはそれをやり遂げています」  アレックスが准将となったことで、配下の者も自動的に昇進することになる。ゴー ドンが大佐となったのを筆頭に、多くの士官が昇進を果たすこととなった。  そして副官パトリシア・ウィンザー大尉にも少佐への昇進の機会を与えられること になった。だが、艦隊指揮の実務経験の少ない副官には、査問委員会の審査という手 順を踏まなければならなかった。 第十三章 了

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2018年3月 5日 (月)

梓の非日常/終章・生命科学研究所 火災発生

梓の非日常/終章・生命科学研究所

(九)火災発生  さらに数週間が過ぎ去っていた。  定期的に研究所を訪れては、自分の意識の内に秘めるイメージの本体ともいうべき 長岡浩二と面会していた。  すでに事故から三年以上も経ち、梓の記憶の片隅に埋もれてしまいがちな浩二とい う意識も、梓として暮らすうちにすっかり他人という感じになっている。  あたしは浩二ではない、正真正銘の真条寺梓よ。  その意識は確たるものになっていた。  真条寺梓としてのはっきりとした記憶があるのだから当然だろう。  それでもなお、浩二に固執するのは、その意識体を移植されたことと、命を救って くれた恩人であるという理由である。 「できれば助けてあげたい」  そのためにはどんな助力もしてあげよう。  そう思うのは当然であろう。  その頃、研究所の外では、自動二輪に跨り、今日も日参している慎二がいた。 「なにが悲しゅうて、でば亀みたいなこと……」  言いつつ研究所の玄関を見つめる慎二。  研究所には入れないから、じっと出てくるのを待つしかなかった。  それにしても……。  慎二は考えあぐんでいた。  もちろん長岡浩二、その人のことである。  梓にとっては命の恩人、そして慎二自身の憧れの人だった相手だ。  もし生き返ることがあったとしたら、慎二には敵いようがないのは必然だった。  これまで研究員が一人で細々と研究していたことも、真条寺家の総力をあげれば、 蘇生も可能になるかも知れない。 「梓はどうするつもりかな……」  新たなるライバルの出現の予感に頭を抱えていた。  もう一人の絵利香は、自室にて机に向かって勉強中であった。  ふと、窓辺に視線を移して思いをはせる。 「今日も浩二君とこに行っている……。命の恩人ということで、気になることは判る けどね。それよりも脳意識を移植されたことで、神経質になっているみたい。わたし の目から見ても、正真正銘の梓ちゃんであることに変わらないのにね」  研究室。  冷凍睡眠カプセルに眠る浩二を見つめる梓。 「絵利香がいうように、いくら意識を移植されたとはいえ、この人とは赤の他人に他 ならないけど……。でも放ってはおけないのよね……どうしても他人には思えない」  そんな梓を物陰から見つめている怪しげな人物がいた。  なにやら灯油缶に入った液体を床に流していたが、やおら紙切れにライターで火を 着けると床に放り投げた。  するとボーッという音と共に液体が燃え上がった。そしてまたたくまに床全体を炎 が包む。  炎は天井にまで舞い上がり、火災報知機を作動させた。  室内に鳴り響く警報音。 「なに?」  そのけたたましい警報音に振り向く梓。  入ってきたドア付近が炎に包まれていた。  多種多様な化学物質の存在する研究室。引火性のある薬品が次々と燃え上がってい た。 「こ、これは!」  驚愕の梓。  その顔は燃え上がる炎に照らされて、真っ赤に紅潮していた。

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2018年3月 4日 (日)

銀河戦記/第十三章 ハンニバル艦隊 VIII

第十三章 ハンニバル艦隊

                 VIII  今回の会戦で敵側に与えた損害として、撃沈艦艇一万七千隻と捕獲二万隻そして三 百万人以上にも及ぶ戦死者を出したと推定されている。それに対して味方損害は、七 百二十隻の艦船が撃沈、五千人に近い戦死者であるから、数の上では圧倒的勝利とい えるのだが、人命尊重を唱えるアレックスにしてみればこれまでにない多くの犠牲を 出したことは、悲痛のきわみであったに違いない。とはいえ、アレックスの責任を咎 めることはできないであろう。正面決戦による艦隊戦ではいたしかないことなのであ る。  捕獲した二万隻の艦艇の処遇は、慣例通りアレックスの配下に移されることになっ た。  スハルト星系会戦では撃沈処理した艦艇だが、今回はすなおに編入することになっ たのは、この会戦が罠ではなく正規の艦隊戦だからだ。罠を仕掛けるでもないのに、 敵に位置を知らせる可能性のある発信機を取り付けたり、爆弾を設置することなどあ り得ない。  とはいえ、二万隻からなる艦艇を母港であるカラカス基地へ移送することは不可能 であった。基地まで曳航するには遠すぎるし、何より敵艦隊に奪取されていたからだ。 また敵艦に搭乗する捕虜も膨大な人数に及ぶ。ために取り敢えずは捕虜共々近くの軍 事補給基地アグリジェントに預けておいて、当初の五万隻を率いて基地の奪還に向か うべき進軍を開始した。  カラカス基地奪還に向かったアレックス達ではあったが、ハンニバルを撃ち負かし 引き返してきた五万隻の接近を知った敵艦隊は、恐れをなしたのか一戦も交えること なく撤退した後だった。  カラカスを奪還したものの、改めて強固な防御陣を引き直すには時間が掛かりすぎ る。基地の設備を以前の様に戻せる前にアレックスの艦隊が押し寄せてくるのは目に 見えている。それにブービートラップが仕掛けてあるかも知れない。敵司令官が基地 を放棄するには十分の理由があったといえる。 「この撤退の判断の速さ、フレージャー提督でしょうか」 「かも知れない」  カラカス基地は一人の犠牲も出さずに再びアレックスの指揮下に戻ったのである。  労せずして基地を奪回したアレックスのもとに、将軍への昇進と新生第十七艦隊司 令官就任の辞令が届いたのは、それから一ヶ月後のことであった。  トライトンが少将に昇進し、その後任としてシャイニング基地の防衛司令官に選ば れた。  ハンニバルを撃退してカラカスを防衛し、捕獲二万隻を合わせれば七万隻という正 規の艦隊に匹敵する戦力を保有するに至ったからである。  旧第十七艦隊現有艦艇を分割して、第二軍団所属の第八・第十一・新第十七艦隊そ れぞれに二万隻ずつを分与する。その二万隻とアレックスの所有する五万隻を合わせ て都合七万隻の新生第十七艦隊として再編成されるとしたのである。  同盟における艦隊とは、七万隻をもって正規の一個艦隊を組織すると定められてい るが、激戦区の第二軍団のほとんどは相次ぐ戦乱で定数を大幅に割っていたのである。 戦闘による消耗に生産が追い付かないからであった。だが、アレックスの登場を機会 として、戦機は逆転をはじめていた。度重なる大勝利によって敵の兵力を大量に削ぎ 落としたために、敵の攻撃がめっきり減少して、生産が消耗を上回りはじめて各艦隊 への配給ができるようになったのである。またアレックスの巧妙な戦術による敵艦艇 の大量搾取も大いに寄与していた。 「いやあ、君には感謝するよ。二万隻を回してもらえるようになったのは君のおかげ だ」  クリーグ基地を母港とする第十一艦隊の司令となっていたフランク・ガードナー准 将は心から感謝しているようであった。これまでは艦隊と呼ぶには心許ない四万隻し か与えられなかったからだが、二万隻を増員してもまだ定員に満たないとはいえ、戦 術的には敵一個艦隊が相手なら何とか防衛できるまでになったといえる。

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2018年3月 3日 (土)

梓の非日常/終章・生命科学研究所 浩二と慎二

梓の非日常/終章・生命科学研究所

(八)浩二と慎二 「なんだよ、これは!」  立ち並ぶカプセル培養基に驚愕の表情の絵利香と慎二。 「絵利香ちゃん、大丈夫? 気をしっかり持ってる?」 「だ、大丈夫よ」  とはいうものの、表情は硬かった。 (ほんとに大丈夫かなあ……でも着いてきている以上追い返せないし) 「一体何の研究しているんだ。こんなに動物を集めて」 「クローン研究……らしいわね。ここにあるのは生きた動物から取り出したES細胞 を、特殊加工して発生にまでこぎつけたものよ」 「梓ちゃんはこんなものを見にきているのか?」 「あほ! 目的は別のところにあるよ」  カプセルの間を抜けて、さらに奥へと案内する。 「これよ」  指差した先には怪しく輝く横形の冷凍睡眠カプセル。 「な……。これって人間か?」 「見て判らないの? 本物の人間だよ」 「生きてるの?」 「生きてはいないけど、完全に死んでもいないというところね」 「どういうこと?」 「研究者の話しによれば、生きた心臓を移植すれば生き返ることも、不可能じゃない ということらしいわ」 「ほんとなの?」 「ええ」 「……うーん……」  中の人物をじっと見つめて何かを思いだそうとしている慎二。 「慎二君、どうしたの? さっきからじっと見つめて」 「いやねえ。この顔……どっかで見たことがあるような気がするんだ」  なおも記憶の糸を手繰ろうと頭を抱えている。 「それでこの人と、梓ちゃんとはどういう関係なの?」 「聞いておどろけ! 以前絵利香ちゃんには話したことがあるけど、三年前の交通事 故であたしを助けてくれた人。長岡浩二君だよ」 「なんですってえ! ほんとなの?」 「ええ、間違いないわ。あの事故の後にあたしを蘇生治療した研究者が言ってるの よ」 「お、思い出したぞ。交通事故……そうだよ。三年前のあの日、交差点で女の子を助 けたあの人だ! 俺は事故の瞬間を見ていたんだ。突進してくるトラックの前に飛び 出して、女の子を庇って死んだあの人だ。俺の憧れ理想の人だった」 「そうね……。以前慎二もそんなこと言ってたわね」 「その女の子がどうなったか知らなかったし、どこの誰かも知らなかった。救急車で 運ばれてそれっきりだからな。そうか……その女の子が、梓ちゃんだったんだ」 「へえ……意外な巡り合わせね。もしかしたら、梓ちゃんと慎二君は赤い糸で結ばれ ているんじゃない?」 「よしてよ。慎二がその気になっちゃうじゃない」 「そうか……。やっぱり俺と梓ちゃんとは、赤い糸で結ばれているんだ」 「もう……」  梓を助けだした恩人が眠っていることは絵利香と慎二には伝わった。  しかし、その記憶の一部が移植されたことまでは、説明することをしない梓だった。  慎二には知られたくないと思ったからだ。  それから研究室を退却して、所内の応接室で話し合う三人。 「そうか、そういうわけで研究室通いしていたわけか。俺達にも内緒で」 「こんなこと簡単に話せる内容じゃないからね」 「わたしと梓ちゃんとの関係は、そんなものだったの? 何でも話し合える間柄だと 思っていたのに……。誰しも人には言えない秘密を持っているとはいえ、水臭いんじ ゃない?」 「悪かったわよ。でもね……場所も場所だったし」 「まあ確かに、あんなグロテスクなものが並んでいるところは、絵利香ちゃんには似 合わないな。よく気絶しなかったと不思議なくらいだ」 「あ、あれくらい何でもないわよ。実際平気だったでしょ」 「声が震えているわよ」 「気のせいじゃない?」 「しかし、浩二と言ったっけ、生き返る確率はどれくらい?」 「ははーん。慎二君は、生き返られると困ると思ってるでしょ。命の恩人となれば、 梓ちゃんの気持ちが移っちゃうんじゃないかと」 「ば、ばか言ってんじゃないよ」 「図星ね」 「二人ともいい加減にしてよ!」 「梓ちゃん、赤くなってるわよ」 「え? ほんと?」 「うそよ」 「もう……」  それから数時間後。  研究室を出て、病院前でタクシーを拾う梓と絵利香。  慎二は一足先に自動二輪で帰っていった。  タクシーの中。 「ところでファントムVIじゃなくてタクシーで通っているところをみると、麗香さ んにも内緒にしているのね」 「うん。お母さんにだって知られていないことだから。知っているのは絵利香ちゃん だけよ」 「そうか……」  運転手に聞かれても差しさわりのない程度に話し合う二人。

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ロープウェイは楽ちん!

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おねえちゃん!山登り楽しい?

何言ってるのよ、一緒に富士登山しようと言ってたのに。

こっちの方が楽ちんだもんね(*^^)v

てか、あんたどこへ行くつもり?

あれ……あれ?

ほんとに方向音痴だよね、あんたは。

このロープウェイ、どこ行き?

知らないわよ。

あーん(;´Д`)迷子になっちゃうよー( ;∀;)

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2018年3月 2日 (金)

銀河戦記/第十三章 ハンニバル艦隊 VII

第十三章 ハンニバル艦隊

                VII 「前方に敵艦隊!」 「ハンニバル艦隊です」  シャイニング基地を出発したアレックスが、同盟内で簒奪を繰り返すスピルランス 艦隊との決戦に及んだのは、三日後のことだった。  アレックスの危惧した通りに、要塞からカラカスへ向けて別働の攻略部隊が出撃し た情報もあり、多大な犠牲を覚悟で短期決戦で臨むしかなかった。カラカスを落とさ れ強固な防衛陣を敷かれてからでは、取り返すことが甚だ困難になってくるからであ る。  目の前の敵艦隊を打ち砕き、速やかに取って返してカラカス基地の奪還に向かわね ばならなかった。  アレックスはこれまで取られたことのない布陣を敷いた。ゴードン率いる第一分艦 隊を、円錐形の一辺を形作るような斜線陣を取らせ、それと対をなすもう一辺にはカ インズの第二分艦隊を配置した。そしてその底辺にチェスター配下の部隊を並ばせ、 さらにその後方に並列する旗艦艦隊という配置だった。  戦闘は二分艦隊の敵中央への突撃で切って落とされた。  ゴードンが配下の艦隊に号令する。 「全艦、我につづけ!」  ハイドライド型高速戦艦改造II式、準旗艦ウィンディーネとドリアードを先頭にし て勇猛果敢に敵中央に突入する二分艦隊。アレックスの片腕と称させるだけあって、 陣の後ろに控えるなどということはしない、司令官自らが先頭に踊り出て一歩も退か ない意気込みを部下達に見せ付けるためである。  今回の会戦は、ゴードンとカインズ両名のライバル意識が激突して、プラス指向と なる格好の場所となった。目と鼻の先で繰り広げられる戦闘の中で、ライバルより一 隻でも多く撃沈させようと張り切れば、戦果はすぐさま相手に伝わって否応なしに、 競争意識を燃やさずにはおれなかったのだ。もっとも、二人の最大の戦力を引き出す ためにアレックスがとった布陣ではあったのだが。  ゴードンとカインズの二分隊は作戦通りに敵中央に猛攻をかけてこれを切り崩しに かかった。艦隊リモコンコードを一切使用せず、戦闘機のごとく変貌自在に動きまわ って艦隊ドッグファイトを敢行する相手に対し、成す術がなくやられ放題となる敵艦 隊中央。  敵中央がたまらず後退をはじめたのを見るや、アレックスはチェスターの本隊に突 撃を命じた。無論本隊は敵の左翼と右翼に挟まれ猛攻を受けることになるが、これを 旗艦艦隊が両翼から支援する。  ゴードンやカインズに遅れること三か月、中佐に昇進していた旗艦艦隊司令官ディ ープス・ロイドが、準旗艦シルフィーネから下令する 「全艦砲撃開始!」  それを復唱する副官のバネッサ・コールドマン中尉の表情は誇らしげだった。  この布陣の成否は、中央突破した二分隊が踵をかえして敵背後から攻撃開始するま で、本隊が忍耐強く敵を押し返しつつ持ちこたえるどうかにかかっているといえた。 幸いにもチェスター達の艦隊編成は、防御力の高い戦艦を主体としているために、或 は復讐戦として奮起する将兵の活躍もあって、一進一退を繰り返しながらも善戦して いた。敵艦隊は完全に中央から二つに分断されて連絡を絶たれ、指揮系統を乱されて しまっていた。  その間に敵中央の突破に成功したゴードン達は、アレックスの作戦指示を守って、 敗走する敵艦隊には目もくれずに、踵を返して敵背後からの攻撃を開始した。  ここにいたって挟み撃ちとなった敵の左翼と右翼は総崩れとなった。  アレックスは自らの旗艦艦隊をもって敵右翼を攻撃牽制し、残る全軍を持って左翼 への集中攻撃を計った。  右翼の二万隻はちりじりになって退却をはじめたが、エクノモス星雲側にいた左翼 二万隻は逃げ道を絶たれ、総力を上げて結集した五万隻の艦隊に包囲されてついには 投降してきたのである。  開戦から二時間、軍配はアレックス側に挙がった。  歓喜の声が全艦隊を駆け回る。  待ち伏せ、罠による不意打ちといった奇襲でなく、正々堂々と正面からぶつかりあ った艦隊戦で勝利したのである。チェスター配下の将兵達にとっては、共和国同盟を 震撼したハンニバル艦隊を撃退したその喜びはひとしおであったに違いない。アレッ クスの演説にあったとおり、もはや彼らは敗残兵ではないことを証明し、胸を張って 凱旋して基地に帰るという司令官の言葉通りになったのであるから。旧第五艦隊の残 留部隊ではなく、アレックス率いる独立遊撃艦隊を構成する正規の部隊になったので ある。  もはや司令官の作戦指揮能力を疑う者は一人もおらず、勇猛・忠実なる武将と主戦 力となる二万隻の艦隊が、アレックスの配下に従うことになったのだ。 「しかし、意外と不甲斐なかったですね。あのスティール・メイスンがいながら… …」 「いや、どうやらスティールは、我々が来る前に戦線離脱していたようだ」 「戦線離脱ですか?」 「スピルランスと一悶着あって、一足先に帰還したのだろう」 「何があったのでしょう?」 「我々がこちらに出てきてカラカスが無防備になったことで、陽動作戦はすでに成功 したと言える。そこでスティールは無益な戦闘を避けて撤退を勧告したのだろう。し かし、スピルランスに徹底抗戦の作戦を伝えられて、自分の意思で艦隊から離れたと みるべきだろう」 「考えられますね」 「それにしてもチェスター配下の艦隊がよく戦ってくれた。そのおかげで勝利するこ とができたのだ。さすがにチェスターだけある、第五艦隊を解隊されて意気消沈して いるはずの将兵を、これほどまでにまとめあげるなんて、並みの司令官ではない」  司令官の功績を湛え勝利に酔いしれる将兵達の中にあって、目立たないが敗残兵達 をまとめあげ士気の低下を防いで鼓舞したチェスターの影の功績を、アレックスは見 逃してはいなかった。  アレックスはチェスターを司令官室に呼び寄せると、まずは配下の武将達の戦いぶ りを賞賛したうえで、改めて感謝の意を表明した。 「いえ。私は自分の職務を忠実に果たしただけです」  表情を崩さず、淡々と答えるチェスターであったが、アレックスが自分を評価して いる以上に、自分のアレックスに対する評価も確固たるものになっていたのだ。  この若者は英雄と称されることを奢ることなく振る舞い、すべての将兵達を公正な る態度で作戦に投入する。適材を適所に配して、自分の子飼いともいうべき将兵だけ に手柄を立てさせるようなことはしない。誰しもがアレックスの片腕と信じられてい るカインズも、元々は遊撃部隊編成当時は余所者であったのが、相棒のゴードンと分 け隔てなく活用されてきた成果があって、今の艦隊内における地位についているので ある。ディープス・ロイドもその例外なく、旗艦艦隊を任される重要な職務を担って いる。分艦隊なら危うくなれば逃げ出すことも可能であるが、司令官の搭乗する旗艦 を死守する任務にあっては、踏みとどまって激闘に耐えなければならない。万が一、 旗艦が沈んだり艦隊司令官が指揮不能に陥ったときは、これを代行する任務を負って いる。

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2018年3月 1日 (木)

梓の非日常/終章・生命科学研究所 告白

梓の非日常/終章・生命科学研究所

(七)告白  中へ入ると早速受付嬢に捕まった。 「いらっしゃいませ」  業務用顔で笑顔を見せてはいるが、口調は不信感を顕にしていた。まあ、人相の悪 い慎二が一緒にいれば当然かもしれない。 「当研究所に何かご用でしょうか?」 「あ、ついさっき女の子が入ってこなかったかと」 「どういうご関係でございましょうか?」 「こ・い・び・と・です!」 「はあ……?」 「誰が恋人よ。勝手に決めないでよ」  突然聞き慣れた声が後ろから聞こえてきた。 「梓ちゃん!」 「後をつけてきたのね」  長い髪を掻き上げながら、うんざりというような表情の梓。もちろん慎二に対して である。 「おうよ! 悪いか」 「悪いわよ!」  いかにも機嫌が悪そうである。  受付嬢が梓の耳元でひそひそと尋ねる。 「あの……。この方々はお嬢さまのお友達ですか? 特に柄の悪い男の子……」 「一応そういうことになってる」 「梓ちゃん教えてよ。ここで何をしているのか……」  内緒にされていることで哀しそうな顔をしている絵利香。  その表情が梓の同情心をさそう。 「わかったわよ。案内してあげるわよ。ついてきて」  先に立って歩きだす梓。 「まあそういうわけだから、この二人連れて行くね」 「お嬢さまさえよろしければ結構です」 「んじゃね」  軽く手を振る梓。  三人並んで地下研究所へと降りていく。  そして例の扉の前に立ち止まる。 「なんだこれは?」 「見てわからんのか、扉だよ」 「それくらいは判ってるよ。なぜこんな頑丈そうな扉があるかだよ」 「決まっているじゃない。企業秘密を守るためよ。ここにIDカードを差し込んで、 あ! こっちが手のひらの血管分布模様や指紋を照合する機械ね」  さすがに絵利香だけあって、状況分析能力は高い。 「とにかく、梓ちゃんが秘密にしているものがこの奥にあるというわけだ」 「まあね……」  梓は端末を操作して扉を開けた。 「言っとくけど勝手に歩き回らないでよ。警報とか鳴るかも知れないからね」 「判ってるよ」  通路を歩いて、あの部屋の前で立ち止まる。 「絵利香ちゃん、ほんとにいいの?」 「なにが?」 「気絶したりしないでよ。かなりキモイのがたくさんあるから」 「そ、そうなの?」  少し心配顔になる絵利香。 「でも梓ちゃんに関係していることなら……」  勇気を奮い起こして姿勢を正す絵利香。 「じゃあ、いいのね」  端末を操作して扉を開ける梓。  静寂の中に扉の開く音が静かに響き渡る。  と同時に中から異様な音が聞こえてくる。 「やたらその辺を触らないでね。セキュリティーに引っ掛かると面倒だから」  念のために再度確認を入れる梓。 「どうなるんだ?」 「知らないわよ」 「やってみるか?」 「怒るからね」 「冗談だよ」  研究室の中に入る三人。

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