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2018年4月

2018年4月30日 (月)

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない 新規事業

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない

(八)新規事業 『とにかく、彼が十八歳になって正式にプロポーズしてきたら、あなたは断ることは できないの』 『お母さんは、慎二とあたしの結婚を認めているというわけね』 『まあ、反対はしないわよ』  うなだれる梓。 『ねえ、お母さん……慎二は、このこと知っているの?』 『知らないでしょうねえ。自分が婚約者の権利を得たことも、花婿候補だったことす らも知らないはずよ。くわしい事情を説明する暇がなかったのよね』 『だったら、このまま黙っててくれないかな……』 『いいわよ。どうせ、彼もしきたりのこと知らなかったはずだし』 『ありがとう、お母さん』 『それはいいけど、しきたりの載っている家訓帖ぐらいちゃんと読みなさいよね』 『だってえ。漢字がのたくったように走っているみたいで、全然読めないんだもの』 『それをいうなら、漢字の草書っていうのよ』 『ねえ。あたしにも読めるように英文に翻訳してくれないかなあ。家訓帖』 『仕方がないわねえ。草書が読めたとしても、文語体で書かれているから、梓には理 解できないでしょう』 『ところで、話しは変わるけど、あなた衛星事業部を視察したそうね』 『ほんとに、変わるわねえ……』 『その衛星事業部から新規の研究開発に関する企画議案書と融資依願書が提出されて いるわ。せっかくだから、この案件はあなたが決済しなさい』 『あたしが?』 『そう。企画議案書によく目を通して、自分の判断で決定していいわ。わたしは一切 口を出さないから』  二つの書類を渡されて当惑する梓。 『衛星事業部か……』  麗香と視察した研究所を思い出しながら、 『予算が、五千億ドルねえ……』  じっと書類に目を通している梓。 『ふうん。そうか……なかなか面白そうじゃない』  と、ぶつぶつ言いながら、その詳細な説明書を読みはじめた。 『原子レーザー発振器ねえ。これが最大の課題みたいね』  梓は麗華を呼び寄せると、二つの書類の決裁に踏み切った。  法的に有効なる決済書類を梓が作成できわけもなく、麗華に手伝ってもらってこと にする。 『はい、結構です。それでは、こちらにご署名をお願いします』  言われた通りに決裁書に署名する。  もちろん英文字によるサインであるが、印鑑などというものを押印せずともそれで 書類が有効となる。 『これで完了です。AFC統括事業部に送達すれば、後は向こうですべてが動き出し ます』 『ありがとう』 『どういたしまして』  真条寺邸バルコニー。  いつものようにティータイムの渚と美恵子。 『お嬢さまは、衛星事業部の五千億ドルの研究開発を承認されたようですね』 『梓が決めたことですから、私のとやかくいう筋合いではありませんが、問題が一 つ』 『問題と言いますと?』 『大出力の原子レーザー発振器は、ともすれば核爆弾にも匹敵する原子力兵器となり えます。軍事レベルでの極秘開発が必要となりましょう』 『そうですねえ。今まではSFだった、プロトン砲や粒子ビーム砲などの科学兵器が 実現可能になりますからね』 『ここは大統領とも相談して』 『ちょっと、やめてよね。お母さん』  背後にいつの間にかネグリジェ姿の梓が立っていた。 『梓! まだ、寝てなかったの』 『寝る前に挨拶しようと寄ったのだけどね……それより、何よ今の話し。お母さんた ら何かっていうと、大統領とか太平洋艦隊司令長官とかの力を利用するんだから』 『そうは言ってもねえ』 『いつまでもアメリカ軍に頼ってばかりいては、真条寺家の独自性が失われてしまう わ。今後はAFCを軸として独自路線を切り開きたいの。AFC単独の宇宙ステーシ ョンを打ち上げ、さらには火星への移住だって考えているんだから。火星ロケットや 火星基地にエネルギーを恒久的に伝達する方法としての、原子レーザー発振器の開発 は急務なのよ。アメリカ軍の手助けはいらない』  いつになく強い口調の梓だった。新規事業に対する意気込みからだろうと思われる。 『決済を任せる、一切口出ししないと言ったのだから、その運用もすべて任せてくれ るんじゃなかったの?』 『ごめんね、梓。お母さんが、間違っていたわ。出過ぎたまねをしたわね。AFCの 代表はあなただったのよね。あなたの好きなようにして』 『ありがとう。お母さん』  後ろから渚に抱きつくように手を回す梓。 『これからはあなたの時代。好きなようになさい。困ったことがあったらいつでも相 談に乗るわよ』 『うん、判った……』  母と娘の仲睦まじい光景であった。

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2018年4月29日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第十四章 査問委員会 VIII

第十四章 査問委員会

                VIII 「出撃してよし!」  出撃の許可を下すカインズ。 「了解!」  前に向き直って下礼するパトリシア。 「全艦、出撃! 微速前進!」  その命令を復唱し、機器を操作するオペレーター達。 「全艦出撃開始」 「微速前進!」 「機関出力、微速前進。推力15%」 「前方、オールグリーン。障害物なし」  ゆっくりと進撃を開始する空母部隊。 「全艦異常なし」 「よし。進路をタシミール宙域へ」 「了解。進路、タシミール宙域」 「取り舵、十度。ベクトル座標を確認・入力」 「α3120、β367、γ9285」 「ベクトル座標確認・入力完了しました」 「これより亜光速航行に入る。全艦、亜光速へ」 「亜光速航行へ移行します」 「全艦、亜光速航行!」  日頃からアレックスやスザンナ艦長のそばで、艦隊運用の指揮を目の当たりにして いただけに、パトリシアの指揮には微塵の惑いもなかった。記憶力にかけては艦隊随 一を誇るだけに、自信のほどを伺わせる表情を見せていた。 「提督が出られております」  通信士が進言した。 「スクリーンに出して」 「スクリーンに出します」  正面のスクリーンに、昇進して将軍の一人となったばかりのアレックスの姿が映し 出された。提督というオペレーターの声に、よくぞここまでという頼もしい感情に溢 れた。そして今、その期待に応えるべく出撃できる思いに感謝したい気分だった。 「パトリシア、実戦を指揮する初陣だ。気を引き締めてな」 「はっ! 頑張ります」  アレックスの横から顔を出して激励するのはジェシカだった。 「朗報を待っているわよ」 「ご期待に応えます」 「祝杯を用意して待っているからね」 「はい!」 「それじゃね」  カッと踵を合わせて最敬礼するパトリシア。 「行って参ります」 「うむ」  敬礼を返して答えるアレックス。  そして通信が切れた。 「機関出力82%、亜光速に到達しました」  オペレーターの声に、改めて姿勢を正し緊張の面持ちで下令するパトリシア。 「これよりワープに入る。全艦ワープ準備」 「全艦ワープ準備」 「ワープ航路、設定完了」  指揮官としてワープ命令を下すのははじめてのことであった。しかし訓練は何度と なく経験しているし、シュミレーションも充分すぎるほど行なっている。  自信はあった。 「全艦に伝達、リモコン・コードを旗艦セイレーンに同調。確認せよ」 「全艦、リモコン・コードを旗艦セイレーンに同調させよ」  正面のパネルスクリーン上に部隊の各艦艇を示すマーカーが赤く点灯している。そ れがコードを設定完了した艦から次々と青の点灯に変わっていく。それらがすべて青 に切り替わった。 「全艦、リモコン・コードの同調完了。ワープ準備完了しました」 「よろしい。これより三分後にワープする」 「ワープ三分前、設定します」 「ワープコントロールをリンダ・スカイラーク艦長に任せる」 「ワープコントロールをスカイラーク艦長へ委譲します」  艦隊リモコン・コードを使用して、旗艦に同調させた場合には、その操艦のすべて が旗艦艦長のリンダ・スカイラークの双肩にかかることになる。 「ワープコントロールの委譲を確認。これより全艦ワープのオペレーションに入りま す。ワープ、二分三十秒前!」  これまでに何度となく全艦ワープを取り仕切っているリンダだけに、何の躊躇もな くコントロールパネルを操作している。もちろん他のオペレーター達も一抹の不安を 抱くことなく安心しきっている。  オペレーター達がワープ体制に突き進むその姿を指揮官籍から監視しているパトリ シア。リーナから手渡された書類に目を通してサインして返している。 「ワープ、二分前。総員、着席ないし安全帯着用。ワープに備えよ」  ワープには少なからず衝撃がある。身体を振り飛ばされないように着席するか、立 ち作業の機関部要員などは安全帯で、艦の筐体に固定させる必要がある。  艦内の各員それぞれが緊張の面持ちで身体の固定に取り掛かっていた。 「ワープ一分前。最終確認に入ります。ワープ座標設定、ベクトル座標α3120、 β367、γ9285」 「ワープ座標設定を確認。オールグリーン、ワープスタンバイOK!」 「艦隊リモコンコード設定よし。全艦、ワープ体制問題なし!」 「旗艦セイレーン、機関出力最大へ。ワープ三十秒前!」 「兵器への動力供給をカットします」  ワープ実行中は一切の戦闘が行なえない。兵器に動力を供給しても意味がないので カットして、その分をワープエンジンなどに回すわけである。カットされるのは兵器 だけではない、ワープに少しでも余剰電力を回すために、照明などあらゆる方面で電 力削減が行なわれる。 「各ブロックの電力をセーブします」 「最終カウントダウン開始、十秒前、九、八……」  さすがに全員が緊張して、息を呑んでいる。  パトリシアも大きく深呼吸をしている。次なる下令のためである。 「……三、二、一」  そしてパトリシア。 「全艦ワープ!」  リンダが復唱する。 「全艦ワープします!」  宇宙空間を進む第十一攻撃空母部隊。  それを取り囲む空間が一瞬揺らいだ。  そして次の瞬間には、部隊全艦の姿が亜空間に消え去った。  第十四章 了

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2018年4月28日 (土)

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない 結婚許諾か?

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない

(七)結婚許諾か?  数日後。  ブロンクス本宅のバルコニーで、お茶の時間に会話する梓と渚。第一・三土日は、 母親のもとで過ごすことにしている梓だった。もちろん真条寺家の執務も休みである。 また世話役の二人も水入らずの母娘の会話を邪魔しないように席を外している。 『梓、眠くないの?』 『大丈夫よ。飛行機の中でぐっすり寝たから』 『無理して、私達に合わさなくてもいいのよ。会いに来て元気な姿を見せてくれただ けで、母親として嬉しいんだから』  渚が心配しているのは、日本とニューヨークの時間差、昼と夜がほとんど正反対に なっているからだ。今こちらでお茶を楽しんでいる時間は、日本ではぐっすり眠って いる時間であるからだ。本来なら眠っている時間に無理に起きていて、体調を崩して 欲しくないと切に心配しているのだった。 『そうは言ってもお母さんが寝てる時に起きてて、起きてる時に寝ていたんでは、こ ちらに来た意味がないわよ。麗香さんには、寝ていなさいと言ってあるけどね』 『しようがない娘ねえ……』 『時間の問題がなければ、絵利香も連れて来るんだけどね』 『慎二君とは、その後うまくいってる?』  突然話題を変えて切り出す渚。 『なんで慎二が出てくるの?』 『だって、好きなんでしょ』 『だ、誰が、好きなものか。ただの喧嘩相手だよ』 『でも喧嘩するほど、仲が良いっていうじゃない』 『そんなこと……』  否定できない梓だった。 『ともかく、あなた一人だけでなく彼もたまには一緒に連れておいでよ』 『なんでなのよ。どうしてそんなに肩入れするの?』 『一応、沢渡君はあなたの婚約者ということになってますからね』 『こ、婚約者……、いつからそんな話しができてるのよ』 『あなた誕生日に、招待された俊介君と彼を戦わせたじゃない。そして彼は、見事俊 介君に勝ったわよね』 『それがどうしたのよ』 『しきたりのなかにあるのよ。真条寺家の娘を嫁にしたき者は、娘が指名した者と戦 って打ち勝つべし、さすれば望みをかなえよう。とね』 『そんなしきたり、知るわけないじゃない』 『真条寺家の娘と花婿候補の男性が決闘することを承認することは、すなわち結婚を 許諾したことになるのよ。そういうわけだから、彼はあなたと結婚する権利を持って いるわけ』 『承認ったって、単に決闘に立ち会っただけじゃない。それに花婿候補ってどういう ことよ』 『立ち会えば承認したことになるのよ。神条寺家が婿候補として西園寺俊介君を送り 込んできていたのは知ってるわよね』 『知ってるわよ。馴れ馴れしくて嫌気が差してたんだ』 『そもそも、真条寺家の娘が十六歳になるということは、法律上結婚が許されると同 時に、花婿候補選びがはじまることを意味しているのよ。家督長であるあなたに限ら ず、一族郎党すべての娘がね。あのパーティーに出席した若者の大半が、真条寺家に ゆかりのある由緒ある血筋の中から厳選された花婿候補だったのよ。麗華さんが一人 一人あなたに紹介していたはずだけど。その最後に沢渡君が紹介されたはずよ。彼は 私の推薦として特別に候補に入ってもらっていたの。一応命の恩人として、その権利 があってもいいでしょ』 『そうだったのか。どうりで馴れ馴れしいやつらと思った。自分が花婿に選ばれよう と精一杯だったんだ。その中に紛れ込んできたのが俊介というわけね。もっとも慎二 はえさに釣られてやってきたんだろうけど』 『まあ、そういうことね。一応血筋には違いないから、向こうからの祝辞を持ってき た俊介君を断るわけにはいかなかったののよ』 『祝辞ねえ……それ持ってると、誰でも受け入れるしかないんだな』 『まあね、社交上の礼儀よ。例え「村八分」を受けていても冠婚葬祭なら参加しよう ということね』 『なにそれ? 村八分って、どういう意味?』 『日本の古いしきたりの一つでね、直訳すれば「Ostracism」追放ということになる のだけど。意味が違うわね。八分の残りは葬式と火事の二分ということ。仲間はずれ にはするけど、葬式と火事には助け合うという精神よ』 『でさあ……でさあ。その村八分はともかく。決闘に立ち会っただけで、なんで結婚 を承認したことになるわけ?』 『それも真条寺家のしきたりよ。決闘して勝った者を花婿とすると決められているの よ。それを知ってか知らずか、あの二人が決闘をはじめて、それにあなたが立ち会っ た。その他の花婿候補の人たちも、沢渡君が花婿候補だと知らされていたはずだから、 決闘で勝利したのをみて、しきたりということで、諦めて全員途中で帰ってしまった わ』 『決闘の後、急に閑散としたような気になったのはそのせいだったのか。でも、たか が決闘ぐらいで、花婿が決められるなんて……』 『真条寺家の跡取り娘でなければね。梓、あなた、自分の立場がどれほどのものかと いうこと、真剣に考えたことあるの? 一国の王にも匹敵する財力と権力を持ち、世 界経済を自由に動かすことができるのよ。こんなこと言いたくないけど、一般庶民が 手を触れることすらかなわないあなたの御前で戦われた決闘の勝者に、祝福を与える つまり結婚を承諾するのは当然の義務なのよ』 『そんなこと……』

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2018年4月27日 (金)

銀河戦記/鳴動編 第十四章 査問委員会 VII

第十四章 査問委員会

                VII  士官学校の話題にしばし心和む時間を有していたパトリシア達。  それを打ち消したのがジミーだった。 「ところで本題に戻るけど、敵艦隊が待ち受けしているとの噂がある。それが本当だ として、勝算はありそうかい?」 「これだけは何とも言えません。敵艦隊のことは、あくまで噂や憶測でしかありませ んから。想定されるあらゆる可能性を考慮に入れて、作戦プランを練ってはおります が」 「そうか……それを聞いて安心したよ。パトリシアが考え出した作戦なら確かだから な」 「買いかぶらないで下さい。緊張しちゃいますよ」 「何を謙遜しているんですか。みなさん期待しているんですからね。早く少佐になっ てアレックスを作戦面でバックアップしてあげなさいよ」 「努力致します」 「うん。その意気でいきな」  気楽な表情で語り合っている三人であるが、いざ敵艦隊との戦闘になれば、先頭を 切って飛び出し生死を分けた戦いに駆り出されるのは必至である。それだけにその陣 頭指揮を執るパトリシアに対しては万感の思いを持っているに違いない。  何にせよ、アレックスとその参謀達への信頼は揺るぎのないものであった。 「ウィンザー大尉。そろそろ艦橋に参りましょう」 「あ、はい。そうしましょう」  いつまでも語り合いたい心境ではあったが、出撃予定時間が迫っていた。 「頑張れよ」 「戦闘に関しては、俺達にまかせてくれよな」 「はい。よろしくお願いします」  軽く敬礼して、パイロットの控え室を退室するパトリシアとリンダ艦長であった。  エレベーターの所まで戻ってくる二人。 「このエレベーターを昇ったところが艦橋です。参りましょう」  エレベーターを昇り詰めた先に、セイレーンの艦橋があった。  入室してきたパトリシアを見て、一斉に立ち上がって敬礼をするオペレーター達。 「何してたのよ。遅かったじゃない」  リーナがリンダに耳打ちするように叱責している。 「ごめんなさい。ちょっとジミーさん達と」 「あのねえ……あなた艦長でしょう。責任者としての地位にあるものが、任務を忘れ てどうするのよ。艦内における指揮官の行動を把握して、十二分に采配を振るえるよ うにして差し上げるのが艦長の役目でもあるのよ。それを……」 「済みませんでした。以後気をつけます!」  少し悪戯っぽい口調で答えるリンダ。 「まったくう……。これで艦長だって言うんだから、呆れるわ。いいわ、席に着きな さい」 「はーい」  スキップするような足取りで艦長席へ向かうリンダであった。 「全然、反省してないわね……」  呆れ顔のリーナ。 「さてと……」  と、ここで真顔に戻ってパトリシアを見やるリーナ。 「ウィンザー大尉。そろそろ出航の時間です。指揮官席にお座りください」 「そうですね……。判りました」  甲斐甲斐しく働くオペレータ達の動きや、パネルスクリーンに投影された各艦の様 子を見つめていたパトリシア。リーナの進言を受けて静かに指揮官席に腰を降ろした。 その傍にリーナが副指揮官として立ち並んだ。 「中佐殿に連絡して」  リーナが指示し、スクリーンにカインズが映し出された。 「準備完了致しました。こちらへお越しください」 「判った。今から行く」  やがて監察官と共に、パティーを連れてカインズが艦橋に現れた。 「これより、査問委員会の命を受けてパトリシア・ウィンザー大尉の佐官昇進試験の 一環として、タシミール星にて確認された収容所からの捕虜救出作戦に出撃する。パ トリシア・ウィンザー大尉。指揮を執りたまえ」  そして艦橋の後方に誂えた教官席に腰を降ろした。 「了解しました」  指揮パネルを操作して、艦隊運行のシステムを立ち上げるパトリシア。 「現在の艦隊の状態を報告して下さい」 「全艦の状態は良好です。いつでも出航可能です」 「よろしい。そのまま待機せよ。全艦放送の用意を」 「全艦放送の用意は完了しています。どうぞ」  声を整えて静かに言葉を告げるパトリシア。 「全艦の将兵に告げる。これより第十一攻撃空母部隊は、タシミール星にあるとされ る収容所の捕虜救出のために出撃する。各将兵達の奮闘を期待します」  艦内のあちらこちらで、パトリシアの出撃に向けての放送に耳を傾けている将兵達。 その表情には心配の陰りを見せてはいなかった。我らがランドール提督が差し向けた 指揮官に、不安の種などあるはずもないと信頼しきっていたのである。 「出撃の時間です」  パティーの報告を受けて、後ろを振り返るパトリシア。 「カインズ中佐。よろしいですか?」

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2018年4月26日 (木)

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない 研究開発

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない

(六)研究開発  研究所応接室。  一通りの視察を終えてくつろぐ梓たち。 「最新の研究施設を拝見できて、とてもためになりました。今後もより一層の研究開 発の努力をお願いいたします」 「もちろんです。所員一同、梓さまのために精進努力を惜しまないつもりです」 「ありがとうございます。よろしくお願いします」  所長の秘書が差し出したお茶をいただきながら質問をする梓。 「ところで、研究開発となると、いろんな企画案件が提出されていると思いますが、 何を選出基準にしていらっしゃるのですか」 「最新の目玉とかいうのはないのですか?」 「そうですね。今一番力を入れているのは、高出力原子レーザー発振技術ですかね」 「原子レーザー? 普通のレーザーとは違うのですか?」 「簡単にご説明致しましょう」  所長が梓にも判るような範囲で説明を始めた。  内容は量子理論から導かれる技術の集大成でもあった。  原子レーザー発振技術は、ある種の原子を絶対零度に近い極超低温状態にさらした 時、原子の固有振動の波長と位相が均一にそろって、いわゆるレーザー状態を呈して くる現象を利用している。レーザーとしての性質を持つに至った原子をビーム状に増 幅収束して射出する。  通常のレーザーがフォトン(光子)であるのにたいし、重粒子である原子を利用す るためにエネルギー効果値は桁違いに大きく、その破壊力はすさまじい。なおかつ レーザー特有のエネルギー減衰ロスが小さく拡散しないので、宇宙通信やエネルギー 伝達の主役になると見込まれている。なお、悪用すれば超新星爆発(BozeNovaと呼ば れている)に匹敵する破壊力をも実現することも可能である。  原子レーザーを可能にする極超低温状態にある原子がとる特異現象は、二十世紀前 半において、インドの物理学者ボーズの理論をもとにアインシュタインが予言したも ので、両者の名をとってBEC(ボーズ・アインシュタイン凝縮)と呼ばれており、 1997年1月27日、MIT(マサチューセッツ工科大学)において最初のレー ザー発振実験に成功している。 「じゃあ、例えばウランやプルトニウムを原子レーザー化して月とかに掃射すれば、 遠距離核爆発を引き起こすことも可能ですか?」 「まあ……すべての原子をレーザー化できるというものではありませんが、不可能と も断言できませんね。しかし、原子レーザーそのもののエネルギーが、ものすごい破 壊力を持っていますので、核物質にこだわる必要はありません」 「ふうん……そうなんだ」 「科学小説でプロトン砲とかいうのを聞いたことがありませんか?」 「あるある。聞いたことあるよ」 「早い話が、水素原子核の陽子だけでも、それを原子レーザー砲として利用すれば、 陽子の特異作用によって、対象物を破壊することが可能なのです。場合によっては核 融合反応を凌ぐエネルギー効果を発生させることもできます」 「プロトン砲が実用化してるのですか?」 「まだ研究段階ですが、陽子レーザー砲による破壊実験には成功しております。厚さ 一メートル程度のコンクリートブロックならほんの数秒で破砕できます」 「すごい! すごい! 科学小説の夢物語が実現すぐそこまで来ているんだ」  小躍りするように感激している梓。  それから小一時間ほど所長の解説に夢中になって聞き入っていた梓。 「お嬢さま、そろそろご帰宅のお時間です」 「あら、もうそんな時間なの?」  麗華の言葉で、研究報告ともいうべき所長の解説の時間が終わった。 「とてもためになりました。また今度お伺いしてもよろしいですか?」 「いつでもお越しくださいませ。歓迎いたしますよ」 「ありがとう」  玄関前にてファントムVIに乗り込む梓を見送る研究所員。 「みなさん、お忙しい中、どうもありがとうございました」 「どういたしまして、またのお越しをお待ちしております」  白井が後部座席ドアを閉める。  窓の内側から手を振る梓。  それに応えて手を振る所員たち。  やがて静かに、ファントムVIが滑り出すように走り出す。  その後ろ影を見送りながら、所長が呟くように言った。 「高出力原子レーザー発振器による、月面移動基地への高エネルギー伝送実験の企画 議案書を提出してみるか」  それを聞きうけて別の所員が答える。 「これまでは、原子レーザー発振器の開発と、無人月面移動基地と原子レーザー発電 装置の開発に、莫大な予算が必要でしたから、本格的研究は棚上げになっていた計画 ですよね」 「ああ、高出力原子レーザービーム発振器の開発には、高電力を連続供給する原子炉 と、超電導回路及びBEC(ボーズ・アインシュタイン凝縮)回路を維持するための 極超低温発生装置など、最低でも五千億ドルを越える予算が必要だからな」

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2018年4月25日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第十四章 査問委員会 VI

第十四章 査問委員会

                VI  発着ベイのほぼ中央に来たところで立ち止まるリンダ。 「今立っているところは、艦載機が発着する場所です。この艦に代表されるセイレー ン級の軽空母は、より多くの艦載機を搭載するために、発艦と着艦を兼用しています。 ですからしっかりとした管制が必要です。発着の管制を行なっているのがあちらで す」  と入ってきた入り口の上の方にあるガラス張りの部屋を指差した。  その部屋の中にいる一人の女性士官が手を振っているのが見える。 「彼女がここの発着管制の責任者のソニア・ビクター中尉です」  パトリシアが改めて視線を送ると、軽く敬礼しているのが見えた。軽く敬礼をして 返すパトリシア。 「さて、ご覧の通りに周囲の壁際に艦載機の格納庫があります。自動格納システムに よって出し入れを行ないます。搭載機数は三十機です。主戦級の攻撃空母の搭載機数 の平均百二十隻に比べると見劣りはしますが、高速性を出すためにエンジン部に艦体 の容積をよけいに配分した結果そうなったようです。その分を軽空母の数を増やして カバーしております」 「艦の速力は?」 「艦載機の搭載状態や燃料・弾薬の備蓄量で変化しますが、満載状態で四十五スペー スノットです。ちなみに新型艦のセラフィム級軽空母では五十スペースノットで、ド ライブスルー形式で発艦と着艦を同時に行なうシステムを用意しており、着艦ベイか ら発艦ベイに移動する間に、弾薬や燃料の自動補給が可能です。効率的な発着を行な うために発着ベイの容積も最小限で抑えられています。その分搭載機数も四十機と増 えております。艦の設計はフリード・ケイスン大尉です」 「なるほど、フリードさんだけあって、さすがですね。無駄な設計をなさらない」 「まったくです。技術革新というと大概ケイスン大尉のお名前が挙がりますね」 「天才科学者の本領発揮というところですか」 「そうですね。それではパイロットの控え室を紹介しましょう」  発着ベイから控え室へと移動する二人。  そこにはジミー・カーグとハリソン・クライサーの両撃墜王が待機していた。 「あら。ジミーさん、ハリソンさんもいらしたんですか?」 「よお、パトリシアか。少佐への査問試験だってな」  ジミーが親しげに話しかけてきた。士官学校時代の先輩後輩の間柄である。もちろ んパトリシアを二人に紹介したのはジェシカ。 「はい」 「さすがにアレックスが目を掛けただけのことはあるな」  ハリソンが言葉を繋げる。 「お二人だって少佐になられて、ご活躍なされているじゃありませんか」 「あはは。まあ、アレックスのおかげで何とか昇進しているってところかな」 「で、噂ではまたニールセンの野郎が何か企んでいるらしいな」 「そうそう、ほんとなのかい?」  いきなり話題を変えてくる二人だった。 「それは何とも言えません。噂は噂ですから」 「火のないところに煙は立たずだろう?」 「ええ……まあ。それはそうですが」  自分も考えてはいたことではあるが、面と向かって肯定などできるわけがなく、言 葉を濁すしかなかった。  三人が仲良く会談しているのを、邪魔しないようにしながら自動販売機で飲み物を 買っているリンダ艦長。やがてカップを両手に二つ抱えて戻ってきて、その一つをパ トリシアに差し出した。 「どうぞ」 「あ、ありがとう。頂きます」  カップを受け取って一口。 「おいしい!」 「インスタントだけど意外とおいしいんですよね。これジェシカの好みなのよね」  リンダが解説している。これまで敬語を使っていたリンダであるが、同じ士官学校 出という事もあり、ジミー達を前にして親しげな態度に変わっていた。 「こうしていると士官学校の学食を思い出しますね」 「これでアレックス達がここにいれば完璧だ。何で一緒に来なかったんだ」 「それは無理ですよ。直属の上官や関係の深い士官は同行できないことになっていま すから」 「残念だな……」  しばらく無言で士官学校時代を懐かしむ雰囲気が漂っていた。  その頃、セイレーン搭乗口に遅れてやってきた一団があった。  カインズとパティー・クレイダー、その他の査察監察官であった。 「ようこそお出でくださいました。カインズ中佐殿」  ジャネットとセイレーン副艦長のロザンナ・カルターノ中尉が出迎えていた。 「ウィンザー大尉は?」 「艦長が案内して艦内の視察をされてます」 「そうか……。まあいい、我々の部屋に案内してくれ」 「かしこまりました」  先に立って案内するロザンナ副艦長。 「それにしても……ここは相変わらず女性ばかりだな」 「ええ、まあ……戦術士官(commander offiser)は全員女性ですね」 「ジェシカの志向なのか、それとも提督の指示なのか……」 「両方なんでしょうね。フランドル少佐は、より多くの女性に活躍の場を与えたいと 日頃からおっしゃってましたし、提督も能力のあるものなら男女を問いませんから ね」 「その結果がこれか……自由な風潮があるとはいえ、私には馴染めない環境だ。かと いって女性蔑視というわけではない。個人の趣向の問題だ」  ドリアード艦橋の女性オペレーター達を見て判るように、男女の能力には差は見ら れない。逆に女性特有な細やかな心配りに感心させられる事もある。それこそが提督 が意識して女性を優先的に配属させている所以なのかも知れない。

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2018年4月24日 (火)

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない 衛星追跡管理センター

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない

(五)衛星追跡管理センター 「ははは、ものは試しです、やってみましょう。まずはここに手をついてください」  所長が示した場所には、ガラススクリーンが輝いている。 「指紋照合機ね」 「指紋照合の後に自動的に網膜パターン照合が始まります。まっすぐ正面を向いてい てください」  梓が指紋照合機に掌をかざすと、ガラススクリーンに揮線が走ってスキャンされ、 続いて顔の目の位置にレーザー光線が当たって網膜パターン照合が行われた。  パネルスクリーンに照合結果が表示された。 「真条寺梓-AFC代表。無監査、進入OK」  同時に通路に続くゲートが開いて、地下の施設へ降りるエレベーターが現れた。 「地下なんですか?」 「はい」 「ん……」  梓は、地下施設に閉じこめられた火災事件を思い起こし、足がすくんでいた。あの 日以来閉鎖された地下へは降りられなくなっていたのだった。 「お嬢さま、どうなさいます。止めますか?」  そのことに気がついた麗香が、やさしくささやいた。 「大丈夫、麗香さんが一緒ならね」  といいながら麗香の手を取り、握り締めてきた。 「わかりました。一緒に参りましょう」  麗香がその手をそっと握りかえしてやると、安心したように笑顔を見せる梓だった。  手をつないでエレベーターに乗り地下施設の衛星追跡コントロールセンターに降り る二人。 「網膜パターン照合によるゲート通過承認は、それぞれのゲートごとに登録された者 だけが通過できるのですが、お嬢さまだけは無監査承認となっておりますので、すべ てのゲートを通過できます」 「研究所の正面ゲートの時みたいに?」 「はい。代表として当然でしょう」  エレベーターのドアが開いて、目の前に追跡コントロールセンターの全貌が広がっ た。正面にはメルカトル図法で描かれた世界図に数多くの軌跡が走っている。 「お嬢様、いらっしゃいませ」  センター長が駆け寄ってきて、挨拶もそこそこに説明を始めた。 「ここではAFCが打ち上げたすべての衛星と、協力関係にあるその他の衛星も追跡 しています。なお衛星が地球の裏側などに回っても大丈夫なように、ここ以外にも、 スイスのAFCチューリヒ事業部およびブロンクスの航空管制センター内の地下にも 同様の中継施設があり、AFCの光ファイバー通信網及び通信衛星『あずさ』の中継 で連絡されています。画面をご覧ください。青の軌跡が通信衛星の『あずさ』と赤の 軌跡が資源探査気象衛星『AZUSA』です」 『こちらの太陽系が描かれているスクリーンは?』 『惑星探査ロケットの軌道を追跡していますが、こちらのコントロールはブロンクス の方で行っております。一応ここからでもコントロールは可能ですがね』 「そうですか。しかし……平仮名の『あずさ』にローマ字の『AZUSA』って、いちい ち紛らわしいわねえ。これって、お母さんが名付けたの?」 「その通りです。ついでに言いますと、漢字表記の『梓』という原子力潜水艦もあり ますけど」 「あ、それ。乗ったことあるよね。ハワイへ行くときに」 「そうですね。まあ、お嬢さまを思う渚さまの母心とお思いくださいませ」  センター長は、どうやら太平洋の事件のことを知っているようだ。鍾乳洞に落ちた 梓を探すためや、ハープーンミサイル誘導で「AZUSA 5号B機」が使用されているので、 当然その運用には追跡センターが関与しているだろう。 「それでは、資源探査気象衛星『AZUSA』に搭載された地表探査カメラを操作してみ ましょう。丁度六号F機が日本上空を通過中ですので、それを使用します。正面のス クリーンをごらんください」  宇宙から鳥瞰された日本列島が、スクリーンに大写しされている。 「解像度をあげましょう」  まるでカメラが地上に接近しているかのような錯覚をふと覚えながら、どこかで見 たような町並みと、その中に飛び抜けて広大な敷地を抱えた邸宅が映しだされた。 「あ! あたしの屋敷ですね」 「はい。比較しやすいでしょうから」  ふと見ると、正面門の前をうろうろと動き回っている怪しげな影に気づく。 「ああ、ここ。もう少し大写しできませんか」 「わかりました」  やがてスクリーンに拡大投影された人物。 「これで最大です」  それはまぎれもなく梓につきまとうあの男。 「慎二だ」 「お知り合いですか」 「そんなところです」  慎二は正面から脇道に回り、しばし壁を見つめていたが、やおら壁をよじ登りはじ めた。 「あ、あの馬鹿」 「不法浸入ですね。警察に通報しますか」 「その必要はないでしょう。どうせ、すぐつまみ出されると思うから」  数分後、正面門からガードマンに襟首をつかまれるようにして慎二が放り出されて いた。 「屋敷のセキュリティーが完璧なことは知っているくせに、なんで侵入しようとする かなあ。あの、馬鹿は。ガードマンが慎二の顔を知っているから、追い出されるだけ で済んでるけど」 「馬鹿……なんですか?」 「でなきゃ、真っ昼間から塀をよじ登ったりしないでしょ」 「そりゃそうですね」  と納得している研究員。 「しかし、すごい技術ですね。宇宙のかなたから個人の表情まではっきりと識別でき るカメラが開発されていたなんて」 「お嬢様のお名前を頂いている衛星ですからね。技術陣も生半可な気持ちでは開発で きません。もちろん打ち上げに際しても、百パーセント自信を持っていました」  梓と研究員との会話を傍聴しながら、麗香は内心冷や汗ものだった。梓の事を四六 時中監視していることは、今なお秘密にしていたからである。 「もう結構ですわ。通常業務に戻してください」 「かしこまりました。では次の場所に移動しましょう」

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2018年4月23日 (月)

銀河戦記/鳴動編 第十四章 査問委員会 V

第十四章 査問委員会

                 V  翌日の早朝。  第十一攻撃空母部隊が母港としているカラカス基地の発着港。  旗艦軽空母セイレーンの搭乗口でパトリシアを出迎える一同があった。  副指揮官のリーナ・ロングフェル大尉、同ジャネット・オスカー大尉、セイレーン 艦長のリンダ・スカイラーク中尉他、多数の参謀達である。なお準旗艦高速軽空母セ ラフィム搭乗のジャネットは宇宙に出たところで、自分のセラフィムに戻る予定であ る。  パトリシアの到来に一斉に最敬礼する一同。 「お待ちしておりました。ウィンザー大尉」  一同を代表してセイレーン搭乗の副指揮官のリーナが挨拶した。 「よろしくお願いします」 「全艦発進準備完了、いつでも出撃できます」 「ありがとう。出撃の前に艦内の施設を確認したいのですけど。特に艦載機の発着ベ イを一度見ておきたいのです」 「わかりました。艦長のリンダに案内させましょう。リンダ、案内して差し上げて」 「かしこまりました」  艦長のリンダが先導して歩き出した。その後についていくパトリシア達。  ジャネットと副艦長は、先任指導教官のカインズ中佐を待つために居残ることにな っていた。 「私どもは、先に艦橋に戻って出撃の準備を致します」  艦橋へ上がるエレベーターの前でリンダ達参謀と分かれる。 「艦載機発着ベイはこちらの方角です」  エレベーター前から艦首の方向に続いている通路を行った先が艦載機発着ベイだっ た。 「ここです」  リンダに伴われてやってきたパトリシアを見るなり、最敬礼をほどこして歓待の意 を表す甲板作業員達。  それらの人々の間を進んでいく二人が通り過ぎた後ろの方では、囁くような声でパ トリシアを眺めながら語り合っている。 「おい。今のが新しく来た司令官か?」 「違うだろ。佐官昇進試験だよ。今度の収容所捕虜救出作戦の指揮を執ることが与え られた試験なんだと」 「へえ。何にしても、士官学校出たばかりで、もう少佐殿か。ランドール提督の配下 の士官さまは、ご活躍だねえ」 「あほな事言ってるんじゃないよ」 「情報参謀のウィング少佐や、我らの部隊司令官兼航空参謀フランドル少佐に比べれ ば、あまりパッとしないんだよな。強烈な印象のあるランドール提督だけに、その副 官となると影が薄くなるって感じだな」 「それは言えてるな。しかし一応作戦参謀の一人らしいぜ」 「で、その作戦参謀さんが今回の任務の総指揮を執るわけだよ。大丈夫かな……俺達 の命を握っているんだぜ」 「そうだな……」  心配そうな表情でパトリシアの後姿を見つめていた。

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2018年4月22日 (日)

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない 人工衛星

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない

(四)人工衛星  梓の行く先々では、梓の来訪を知った幹部や研究所員の熱烈な歓迎を受ける。  それらに笑顔で接して応対を受ける梓だった。  そして、研究所の中核施設へと入って行く。  本来なら一般研究員は入ることの出来ない隔離されたブロックだ。 「ここからは、第四セキュリティーレベルです。指紋照合と音声照合が必要です」  指示されたとおりにセキュリティー認証装置のチェックを受けて、その先に進んで 行く梓。  そこは企業秘密の厚いベールに覆われた人工衛星の開発設計室だった。  資源探査気象衛星「AZUSA」の六分の一ミニチュアを前に、所員の熱い説明を受け ている梓。 「このAZUSAシリーズは、稼動中の三基と予備の二基が軌道上を順次回っています。 各種のレーダーで、地表及び地下を探査して資源を調査するのが任務です。その一方 では、大気の雲の分布状況や海洋表面温度などの気象観測も守備範囲としています」 「ねえ、あずさって通信衛星じゃありませんでした?」 「ああ、一号機から三号機がひらがなで呼称される通信衛星の『あずさ』で、四号機 から六号機がアルファベットで呼称される資源探査気象衛星の『AZUSA』ということ になっております。なお、号数の後にBとかCとついているのは、故障したり改良さ れたりして世代交代した機体であることを意味しています」 「電源は太陽電池ですか?」 「一部補助で太陽電池を使っておりますが、主電源は燃料電池です。ほらこれです」  所員がミニチュアを指し示して解説してくれる。 「寿命は?」 「そうですね。だいたい電池寿命は三年を目安としておりますが、姿勢制御用噴射ガ スの残量も衛星の寿命に影響します。衛星は、ジオイドの変動、塵の衝突、太陽フレ アによる地磁気のぶれ、地球自転の章動などによって、軌道や姿勢が変えられてしま います。そこでガスを噴射して姿勢を元に戻します」 「こらこら、お嬢さまが首を傾げているぞ。難しい専門用語はよせ」  所長が研究員の話しを止めた。 「あ、申し訳ありませんでした」  確かにジオイドだの章動だのと言われても、十六歳の少女には理解できない天文知 識だった。 「ここは、これくらいでよろしいでしょう。次ぎは衛星の追跡コントロールセンター を紹介しましょう」 「追跡センター?」 「ここから先は第五セキュリティーレベルになります。網膜パターン照合にパスした 者だけが、通過できることになっています」 「網膜パターン?」 「お嬢さま、実際にやってごらんになさいますか? すでにお嬢さまの網膜パターン は登録されていますから」 「そうだっけ?」 「十六歳の誕生日に代表に就任した時、ブロンクスの屋敷のセキュリティーセンター で登録したではありませんか」 「ん……そうだったかな」

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2018年4月21日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第十四章 査問委員会 IV

第十四章 査問委員会

                IV  アレックスは、各部隊司令官と共にパトリシアを司令官室に呼び寄せると、査問委 員会からの作戦指示書を広げて見せて言った。 「パトリシア・ウィンザー大尉。私が准将となり、副官であり大尉であった君には、 佐官への昇進機会が与えられることになった」  その口調は司令官として、私意を排除し静かながらも威厳を込めて語りかける。も ちろんパトリシアも厳粛に受け答えする。 「ありがとうございます。提督」 「ただし、君も知っていると思うが……。副官任務についていた者で、大尉在位期間 が三年に満たないものは、適正審査と面接試験の他に、実戦指導能力を試験するため の作戦任務が与えられる」 「存じております」 「そこでだ……君には部隊を率いてとある作戦を遂行してもらわなければならないが ……これは強制ではなく辞退することもできる。佐官昇進を断念するならば……。ど うだ、大尉」 「ぜひ、やらせてください!」  パトリシアはきっぱりと答えた。 「わかった……」  低く呟くように答えると、目の前の任命書類を手にとって、パトリシアに告げるア レックス。 「統合本部よりの情報部が入手した情報によって、カラカスから敵陣に入った二十 パーセクのところにあるタシミール星域に捕虜収容所があることが判明した。守備隊 は約二百隻の部隊が駐屯しており、捕虜として数千人が捕われているらしい。そこへ 部隊を率いて捕虜となった者を救助すること。それが君に与えられた任務である」 「わかりました。捕虜の救出任務を遂行します」 「作戦遂行に際して、君に与える部隊だが……」  といって後ろに控える部隊司令官達を見渡すアレックス。 「私の配下の第十一攻撃空母部隊を貸しましょう」  すかさずパトリシアの先輩であるジェシカ・フランドル少佐が名乗り出た。 「ジェシカ!」 「いいのか、フランドル少佐」 「パトリシアの能力はわたしが一番良く知っておりますし、わたしの航空戦術を一番 良く理解しているのもパトリシアです。第十一攻撃空母部隊を指揮させるのに何ら不 安を抱いておりません」 「わかった。君がそういうなら任せよう。ウィンザー大尉、第十一攻撃空母部隊を連 れていきたまえ」 「かしこまりました」 「カインズ中佐。第十一攻撃空母部隊は君の配下だ。先任指導教官として同行したま え」 「わかりました」  カインズは大佐昇進の選考から落とされていた。大佐の昇進枠が一人しかなく、功 績点において僅差でゴードンに先をゆずっていたからである。とはいえ、彼の指揮す るドリアード艦隊(第二分艦隊)はゴードンのウィンディーネ艦隊と、艦艇数や戦力 レベルは同程度に維持されていることで、艦隊内における地位もほぼ同格に置かれて いた。  ライバルのゴードンに先んじられたのは癪にさわるが、昇進や恩給などが明確に定 められている軍制規約というものがある以上、ランドール司令とてそれを無視できる ものではないのだ。  司令室を退室する一同。  ジェシカに歩み寄るパトリシア。 「先輩。ありがとうございます」 「礼はいいわ。それより作戦の方は大丈夫なの?」 「考えはあります」  きっぱりと答えるパトリシアだった。  実は内々にレイチェルから命令の内容を聞かされていて、作戦の概要を組み立てて いたのである。査問委員会の決定事項が、事前に知らされることはよくあることだっ た。 情報部のレイチェルに一番に知らせが入るのは当然だろう。 「カラカスにいた連邦の本隊が撤退した現在では、タシミールは孤立しているとはい え、捕虜が人質としてとられている以上、一筋縄ではいかないわ。それだからこそ、 これまでに救出部隊が派遣されなかった理由なんだけど……」 「はい。伺っております」 「本当はわたしが同行できればいいんだけど……。そうもいかないわね。先輩後輩の 間柄では情が移るから」  タシミールは捕虜収容所があるということだけで、資源にも乏しく戦略的にはさほ ど重要ではなかった。軍事拠点としては、資源豊富なカラカス基地に防衛施設・燃料 補給施設などすべてが集約されていたので、それを失った現在では連邦軍にとっては どちらかといえばお荷物的存在であった。ただ捕虜収容所があって、捕虜を護送する よりも人質として扱い、偵察のために部隊を残しているという状態でさほど重要視し てはいなかった。

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2018年4月20日 (金)

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない 野次馬達

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない

(三)野次馬達  玄関に向かう途中の通路が人ごみで溢れかえっていた。 「こら。おまえら何をしておるか」 「い、いえ。真条寺梓さまがお見えになられていると聞きまして。丁度、休憩中なん で、遠巻きにでも野次馬しようと。はは……」  さすがに梓の人気は圧倒的なものだった。  グループの代表に会えるというのは、重役連中でさえそう滅多にあるものではない。 ましてや華麗で清楚な十六歳のお嬢さまという噂を聞きつけて、誰しもが一目でも拝 見しようと、あちらこちらの部署から集まってきたのである。 「わかった。しかし、あまり騒ぐなよ」  そんな彼らに愛想うよく、手を振って答える梓。  さながら敬宮愛子さまがご来訪されたような風景にも似て、カメラまで持ち出して きて撮影しようとする者もいた。 「おい、おまえら。許可なくお嬢様の撮影は禁止だぞ」 「どうしてですか?」 「それは、お嬢様が天使だからだ」 「何ですか、それ?」 「要するにだ。お嬢様はアイドルはじゃないということだ。真条寺グループの総帥た る人物の素顔が世に出ることは避けなければならない。写真に撮れば万が一にも、そ のお姿が漏洩する可能性もあるじゃないか。今の世の中、パソコンにデータを置いて おけば、いつハッキングされるか判らないからな」 「セキュリティーは万全なのでは?」 「それにだ……。この研究所は、カメラの持ち込み禁止ということを忘れているだろ う」 「あ……」  あわててカメラを隠そうとする研究員。 「遅い! 没収する」 「ああ……」  カメラを没収されて消沈している。  梓に近づいて行く研究所所長。 「お嬢様。ようこそ、いらっしゃいました。当研究所所長の角田です」 「はじめまして」  ぺこりと頭を下げる梓。 「今日はどのようなご用件でお訪ねになられたのでしょうか?」 「いえね。近くを通ったものだから、寄ってみたの」 「そうでしたか、せっかくだから所内を視察されていかれますか? ご案内致しま す」 「そうですね。お願いします」  人ごみの中をかき分けて玄関フロアーに現れた人物がいた。篠崎重工社長の姿をみ とめて、軽く礼をして話し掛ける梓。 「篠崎のおじさま。おひさしぶりです」 「やあ、お誕生日いらいですな」 「絵利香ちゃんとは何度も会いに伺っているのですが、いつもおじさまはいらっしゃ らなくて」 「はは、何かと忙しくてなかなか家によることができませんのですよ」 「絵利香ちゃん、寂しがってますよ。たまの日曜くらい、父娘で食事にでもお出かけ になっては?」 「そうですね。いずれそうすることにしましょう。ところで、今日は梓グループの代 表として、視察にみえたのですか?」 「いえ。ほんとは近くを通ったついでに寄ってみただけで、視察なんてつもりじゃな かったんですけど。何か大袈裟になっちゃって」  と、人だかりに視線を移してみせる梓。 「いいんじゃないですか。梓さまに身近でお会いできるのは、グループ内でも重役ク ラスの大幹部だけですからね。確か、この研究所では所長と副所長だけじゃなかった かな。梓さまにお会いしてるのは。これを機会に、研究職員との親睦を深めるのも一 興かと」 「ふふ、そうかも知れませんね。ところで、おじさまは、どのようなご用事でこちら に?」 「財団法人AFCが来年四月に、大容量・超高速通信用の人工衛星『あずさ三号C 機』を静止軌道上に打ち上げるのはご存じですか?」 「あずさ三号C機? ですか。知りませんでしたわ」 「代表になられる以前からの計画ですし、相談役の渚さまが推進していますので、お 嬢さまがご存じでないのも仕方がありませんかな」 「今は学業の方を優先しなさいって、母はAFCのことをあまり話してくれないんで す」 「ははは、とにかくですね。三号C機は改良と最新技術の導入で、先代の三号B機に 比べて二十パーセントもペイロードが増えちゃったんですよ。それで打ち上げロケッ トもこれまでのものが使用できなくなったため、推進力のより大きなロケットが必要 になったのです。今後のことも考えあわせて、現在の二倍の推進力を持つロケットエ ンジンの設計を、この研究所の所員と一緒に開発しているのです」 「エンジンの設計って、大変なんでしょうね」 「そうですね。一ミリにも満たないほどの誤差が原因で、燃焼実験において大爆発、 数十億の施設が一瞬でパーになったことがあります」 「へえ!」 「社長、そろそろ」 「ああ、そうですね。お嬢さま、もっとお話ししたいですけど、仕事がありますので、 これで失礼します」 「あ、はい。こちらこそ、お時間とらせてしまってすみません。今度機会があったら 続きをお話ししてくださいませんか」 「いいですとも。では」 「はい」  ゆっくりと元来た通路を戻って行く篠崎社長と副所長。 「それでは、お嬢さま。研究所内をご案内いたしましょう。おい! おまえらもそろ そろ部署に戻れ」  所長が、野次馬を追い返し、梓を所内視察へと案内する。  応接室に戻った篠崎社長が質問する。 「ところで皆さん、梓さまのことをお嬢さまと呼ばれてたようですが、よろしいので すか。仮にも、AFCの代表ですよ」 「篠崎さんこそお嬢さまと呼ばれてらしたじゃないですか」 「はは、私の場合はいいのです。お嬢さまが『篠崎のおじさま』と個人的な呼び方を されたのでね」 「おじさまですか。いいですね、それ。あの可愛い声で、私もそう呼ばれたいですな。 ともかく、お嬢さまは、まだ高校生ですし、これから大学にも進学されるでしょう。 ご結婚されるか、相談役の渚様が完全引退されるまでは、お嬢さまでいいんじゃない ですか」 「なるほどね」

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2018年4月19日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第十四章 査問委員会 III

第十四章 査問委員会

                III  統合本部のとある一室。  折りしも少佐への昇進に掛かる査問委員会の審議が行なわれていた。 「さて次の案件だが……。パトリシア・ウィンザー大尉」 「何だ! またもやランドールのところか。先のハンニバル艦隊撃退の功績で多くの 部下が昇進しているというのに」 「さもありなん。ランドールの昇進のスピードは破格だからな。配下の者も自然に釣 り上がってくる」 「指揮官が昇進したら、その副官も自動的に昇進するという制度は考えものだな」 「しかし副官が陰日なたとなって、その活躍を支えていることも事実だからな。無碍 にもできまいて」 「で、どうするのだ。何か適当な作戦任務がありそうか?」 「タシミール収容所の捕虜救出があるじゃないか」  口を開いたのはニールセン中将の片腕とも言われているナジス・アルドラ大佐であ った。 「タシミール?」 「確かに捕虜収容所があるという情報は聞いているが、確認されたわけではないじゃ ないか。連邦のスパイが意図的に流したのではないかとも言われているぞ」 「そうだ。捕虜救出がなされるように誘導して、派遣した部隊に奇襲をかけるのでは ないかとのもっぱらの噂だ」 「だからと言って、放っておくわけにもいくまいて。流言であろうとなかろうと、真 実かどうかを確認するためにも、誰かを派遣しなければならないだろう」 「それはそうだが……。もしこれが罠だとしたら、彼女には重荷過ぎないか?」 「そんなことはないだろう。聞くところによれば、ランドールが劇的な昇進を果たし たあのミッドウェイ宙域会戦の作戦。彼女がそのプラン作りに一役買っていたという じゃないか。カラカス基地攻略の作戦立案なども彼女が作成している。十分作戦任務 に耐えられるだろう」 「その話は聞いたことがある。しかし彼女は士官学校を出て一年も経っていないじゃ ないか。今回は見合わせたらどうか?」 「それを言うなら、ランドールこそ士官学校出たてだったじゃないか。それは理由に はならない」 「彼女とランドールは結婚しているのだろう? 提督クラスなら郊外の豪華な一戸建 ての官舎が用意されているはずだろ。彼女には、家庭に入って子供を生んで育てる生 活が似合っているんじゃないか?」 「いや、二人はまだ正式な結婚していない、つまり国籍上というわけだが。軍籍上で 婚姻届が受理されているだけだ」 「軍籍上の婚姻届は正式な夫婦として扱われる」 「ちょっと待て! 話がそれているぞ。二人が夫婦だとかどうかというのは、査問委 員会で論ずることではない。ウィンザー大尉が、少佐に昇進させるに値する人物かど うかが問われているはずだ」  それぞれの思惑を胸に多数決が取られることになった。 「それでは賛否を問う。パトリシア・ウィンザー大尉を、タシミール収容所へ派遣さ せることに賛成の者は、挙手を願いたい」  ぱらぱらと手が挙がった。 「賛成多数。よって、査問委員会は、パトリシア・ウィンザー大尉を、少佐への査問 試験として、タシミール収容所へ捕虜救出のために派遣させることを決定する」

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2018年4月18日 (水)

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない 若葉台研究所

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない

(二)若葉台研究所  ファントムVIは、若葉台工業団地入り口と書かれた案内板のそばを通過し、やが て財団法人AFC衛星事業部若葉台研究所に入っていく。 「正面ゲートに到着しました」  ゲート前で一旦停車するファントムVI。  ゲートの側には警備員詰め所があって、出入りする者をチェックしているが、停車 したまま動かない車に不審そうに窓から身を乗り出して確認しようとしているようだ った。 「お嬢さま、わたしの申します通りに、携帯を操作してください」 「え? はい」 「まずは、O*8118#と入力してください」  言われた通りにボタンをプッシュする梓。 「0*8118#、と。あら、何か数字が出てきたわ。3759よ」 「では、その数字の位ごとに5963を足してください。8・16・11・12となりますよね。そ の数字の一位の数字である、8612に#を加えて入力しましょう」 「8612#ね。画面に確認って文字が出たわ」 「では、液晶画面を人差し指で触れてください。指紋照合ですので、第一関節部全面 を押す感じで、お願いします」 「指紋照合なんかするの?」 「はい。携帯を盗まれて悪用されないよう、間違いなく梓さま本人かどうかを確認す るためです」 「ふーん。そういえば麗香さんにこれを渡された時に、指紋登録しますから液晶画面 に指を触れてくださいって言われたっけ。はい、指紋を押したわ」  すると目の前の通用ゲートが自然に上がっていった。 「お嬢さま、ゲートが開きました。進入します」 「お願いします」  ファントムVIを発進させる白井。  ゲートが開いて驚いた表情を見せる警備員。 「最初に入力した0*8118#が、通門ゲートの解錠コードで、次の画面に表示された数 字と5963とから導きだされる四桁の数字が暗証コードです。そして指紋照合の三つで 入場審査が完了します。これはAFCが所有するあらゆる施設の通門ゲートで共通で す」 「つまり、0*8118#と5963という数字を覚えておけばいいのね」 「はい。『お米はいいわ、ごくろうさん』と覚えておけばよろしいかと」 「はは、御用聞きみたい。アスタリスク(*)を米と読ませるのね」 「念のために申しておきますが、その手続きができるのは、今お持ちの携帯電話だけ ですので、お間違えのないようにお願いします」 「これが壊れたら?」 「またお作りします」  ファントムVIが研究所の玄関前に到着する。  白井が後部座席のドアを開けて、梓がゆっくりと降りて来る。 「ところで、ここは大丈夫でしょうねえ」 「煙草でしたら、心配ありません。灰皿一つ置いてませんし、喫煙者もおりません」  それもそのはず衛星事業部は、地球軌道上を回っている『あずさシリーズ』を開 発・製造している部門である。煙草の煙は無論、極微小な塵一つ許されない精密な部 品で構成された衛星なのだ。玄関内に入るにも二層のエアカーテンを潜らねばならず、 空気は完璧なまでに清浄化されている。  そもそも『あずさシリーズ』は麗香が管理している。当然としてこの研究所には何 度も足を運んでいるので、禁煙の勧告令はもとより、屋内の整理整頓と清掃を徹底さ せ、トイレにいたっても男子・女子共々ぴかぴかに磨き上げられている。清潔好きな 梓が気に入らないと感じるような状況はなに一つないはずである。 「突然来訪して迷惑じゃなかったかな」 「大丈夫ですよ。私も、時々アポイントなしで訪れることがありますから」 「麗香さん、時々来てるんだ。ここに」 「ええ、まあ……」  その頃、当研究所の所長室に、受付嬢からの一報が伝えられていた。 「つい先程玄関先に到着したロールス・ロイスから、十六歳前後の髪の長い女の子が 降り立たれました」 「ロールス・ロイスに乗った十六歳前後の女の子か。わたしの知る限りでは、そのよ うな要人はたった一人しかおられない」 「はい。もしかしたらあの真条寺梓さまじゃないかと」 「うむ……正門ゲートの守衛に連絡してみるか。あそこの受け付けを通らねば入って これないからな」 「それが不思議なんです。車の中で、女の子が携帯かなんかを操作していたかと思う と、ディスプレイに、無監査・進入OKという表示が出て、自動的にゲートが開いて しまって、そのまま車は入っていきました。通常は、来訪者に読み取り装置のカード 挿入口にICカードを入れてもらってから、ディスプレイに表示される来訪者の所 属・性別・年齢そして写真画像を確認した後で、守衛室内にあるゲート解錠ボタンを 押して、はじめてゲートが開くはずなのですが」 「そうか、わかった。後のことはこちらで処理する。君はそのまま職務を遂行したま え」 「わかりました」 「直ちに部長クラス以上に全員招集をかけろ。接客中の者を除いて、至急玄関先に集 合だ。梓さまをお出迎えする」 「かしこまりました」  所長の指令のもと、秘書から全役員に対して招集がかけられた。  とある一室。篠崎重工の社長と研究所の副所長が、設計図を広げ部下達の説明を受 けながら会議を開いている。 「外が騒がしいですね」  会議室のドアがノックされ、所長の秘書が入室してくる。 「会議中のところ、失礼いたします」 「外が騒がしいようだが、一体何事だ」 「はい。真条寺梓さまがお見えになられていて、接客中以外の部長以上の役員は玄関 先に集合です」 「梓さまが、見えているのか。接客中以外のものとなると」 「いえ。篠崎社長様には、梓さまとはご懇意だそうですので、お差し支えなければ、 お会いなさってはいかがですかと、所長の角田が申しておりました。それでお呼びに 伺ったのです」 「いかがされますか。社長」 「もちろん、お会いするよ」 「では、ご一緒に」

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2018年4月17日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第十四章 査問委員会 II

第十四章 査問委員会

                II  その一方で、艦隊副司令官に自分が選ばれると知った、元第五艦隊副司令官のチェ スター大佐は、余所者であることを遠慮して辞退を申し出ようとしたのだが、 「私は、子飼いであるとか片腕であるという理由だけで、重要なポストに選ぶという ようなことはしたくありません。最適任者としてもっともふさわしいのは誰なのか十 分検討した上での決定です」  と諭されて、大任を引き受けるにいたったのである。  当初、チェスター配下の者達は、ゴードンやカインズとその配下の者が、素直に自 分達の指揮官に従ってくれるのだろうかと疑問を抱き、警戒すらしていたようだった が、意外にも指揮系統の混乱すらなく、すでに副司令官としての地位が確固として築 かれていたことを驚いていた。  作戦案捻出のため、自室に引きこもることの多くなった艦隊司令官の代行として、 旗艦艦橋の最高司令官席に陣取って指揮を執るチェスター大佐の命令を、士官達はも ちろんのこと末端の一兵卒に至るまで、秩序正しく遂行されていく姿勢は心外だった。  これはすなわち、艦隊司令官たるアレックスの指揮統制能力の極致を表すものとし て、チェスターやその配下の者達を震撼させるに十分であった。 「実に規律の行き届いた素晴らしい艦隊だ。君達は、その艦隊の一員となったことを いずれ感謝せずにはおれなくなるだろう」  配下の者達を前にして述べた言葉が、チェスター大佐の艦隊司令官アレックス・ラ ンドールに対する忠誠の証として語り継がれ、後に刊行される艦隊名言集に収録され ることとなるとは本人も知る由もない。 「それにしても、提督は自室に籠ったまま、何をなさっておいでなのでしょうか」  いくら副司令官を信用してくれているとはいっても、任せっぱなしとなると、不信 感も沸き起こるのも道理というもの。  首席参謀のマーシャル・クリンプトン中佐が、提督の片腕と称される人物達に尋ね てみた。 「ああ。寝てんじゃないの?」  とは、もっとも付き合いの長いゴードンの弁。本来なら、彼が艦隊副司令官に推挙 されるのが筋というところだったのだが、不平の念を微塵も見せずウィンディーネ艦 隊(第一分艦隊)の調整に余念が無い。本人にしてみれば、自分が育て上げたウィン ディーネ艦隊の統括指揮権を奪われる方がつらいのだ。生死の境を幾度も潜り抜け共 に戦いぬき、命をも捧げてくれる優秀な部下達と培われた厚い信頼関係を、水に流し てしまうようなことはできなかった。 「違うわね。最近、詰め将棋に凝っていて、それを一所懸命に解いてるのよ」  と、これはジェシカ。 「寝てはいるかも知れませんけど、ニールセン中将の無理難題を解決しようとして、 不眠不休で働いてきたので、今のうちに寝だめしてらっしゃるのかも知れません。詰 め将棋だって、作戦を考える上で柔軟性を磨くのだとおっしゃってました」  パトリシアが懸命に弁解する。副官の務めとして、悪口をいえる立場ではなかった。 「馬鹿ねえ。あなたがそういえば、それが本当ということがばれちゃうじゃないの」  レイチェルがたしなめる。 「わからん……」  ぶっきらぼうに答えるのは、カインズである。正真正銘の軍人気質で、アレックス の考える作戦には、微塵の疑問も抱かずに実行する彼でも、私生活に近いことにはま ったく無関心であったから。 「規律は厳粛に守らなければならないが、非番時における私生活の部分には、一切干 渉しないという風潮があるからなあ……。シャイニングとカラカス両方面を一個艦隊 で防衛しなければならないから、そのための作戦を練っているのかも知れないな」  一番まともな回答をしてくれたのがディープス。 「はあ……どうも、ありがとうございました」  丁重に皆に礼を言ってはみたものの、結局のところたいした情報は得られなかった に等しい。私生活面はともかく、敵艦隊と戦端が開かれるや、指揮官席に陣取り見事 な作戦を用いて、味方艦隊を勝利に導く、という点では皆の意見は一致しているのだ が。  艦隊内で生活する人々の提督に対する感情は、自分達の指揮官を作戦面で尊敬する のは当然としても、その心底には個人的性格面からくる敬愛とよぶに等しいものを持 っている。  それは一体どこからくるものか?  考えれば考えるほどわからなくなってくる。しかし、一朝一夕で理解できるもので はなさそうだ。

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2018年4月16日 (月)

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない 視察

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない

(一)視察  とあるビルの前に停車しているファントムVI。  麗香が後部座席のドアを開けて、梓が降りて来る。 「このビルは賃貸ですが、全館をAFCが借り受けています。実際に入居しているの は、広告代理店とグループの機関紙『あずさ新報』などを出している新聞社です」  ビルの中に入る梓。  自動ドアを通り抜けて玄関内に入るが、ふと立ち止まって動かなくなる。  鼻をひくひく動かして匂いを嗅いで、髪の毛に手をやって気にしている。 「匂いませんか?」  麗香に確認をとる梓。 「はい。匂いますね」  しばし立ち止まって玄関先から中の様子を伺う梓だったが、 「帰ります」  といって、くるりと背を向けて、入ってきたドアから出ていってしまう。  玄関前の駐車場で、ファントムVIを磨いていた白井だったが、梓達が舞い戻って くるのを見て不審そうに尋ねた。 「どうなさったのですか。中に入られたと思ったらすぐ出てこられるなんて」 「煙草ですよ」  麗香が説明する。 「煙草?」 「玄関先に、煙草の匂いが漂っていました。ビルの入り口ではっきりと嗅ぎ分けられ るくらいですから、奥に行けばもっとひどい状態なのは推測できます」 「そうでしたか。わかりました」  麗香の言葉に納得して、後部座席のドアを開けて梓の乗車を促した。 「なんてこと……」  と呟きながら乗車し、深々とシートに沈む梓。  梓は、煙草の煙と匂いが大嫌いで、自慢の長い髪に煙草の匂いがつくのが我慢でき ないのだ。煙草の匂いは一度付着するとなかなか落ちないからやっかいで、煙草の煙 が漂う場所には絶対に近づかない梓だった。  そのことを充分承知している麗香と白井は、梓が帰ると言えば理由を聞くことなく 黙って従うだけである。当然視察は中止、梓の隣の席に座った麗香は車載電話でビル の責任者に連絡を入れている。 「禁煙の勧告令は届いていないのですか?」  梓が代表に就任してすぐに、全グループ企業に対して、社内禁煙の大号令を発した のだった。 「いえ。何せ新聞社ですから、一番に連絡が入っているはずです。グループ全体に知 らせるため『あずさ新報』に勧告令の記事を書かせましたから」 「それで、このていたらくですか?」 「勧告令は記事にしただけで、自らは何も実行していないようです」 「部長職以上の役員を、全員懲戒戒告、五分の一の減給三ヶ月。社長は更迭します」  毅然とした表情で、処罰を言い渡す梓。 「かしこまりました。明日査察官を派遣して処分を通達します。次期社長の人選は任 せていただけますか?」 「よろしくお願いします」  AFCないしその前身であるNFCから全額出資されて設立されたグループ企業は、 その責任者に経営をすべて任される代わりに、経営実情の把握のための定期的な査察 の立ち入りと、全グループ企業に発令される勧告令に従う義務がある。CEO(最高 経営責任者)ないし社長はすべてAFCが任命するので、その処遇も代表である梓が 権限を握っている。代表が発令する勧告令は絶対であり、断固とした処分は当然のこ とである。 「社内禁煙をグループ企業のすべてに徹底させてください。灰皿はすべて処分、喫煙 室も撤去すること。これに違反するものは厳重に処罰してください。今後部長職以上 は非喫煙者から選抜、現在喫煙している者は一ヶ月以内の禁煙を、それが出来ないな ら更迭。喫煙者の昇進と昇給は一切なし。新規採用者は非喫煙者のみにしてください。 以上の事、よろしいですか?」 「かしこまりました」  梓が喫煙排除にこだわるのは、健康への配慮のためもあるが、一番の理由は喫煙者 の息がくさくてたまらない、ということにある。ニコチン・タールの匂いもさること ながら、歯磨きが不十分で歯垢がたまってたり、歯周病になっていたりして強烈な異 臭がするからだ。喫煙者なら誰も経験するが、歯を磨こうとすると吐き気を覚えて十 分に歯磨きができない。自然歯垢がたまってくさくなるということだ。  その口臭のひどさといったら、十六歳の少女には近づきがたい状況なのだ。当の梓 は、三食後及び寝起きの歯磨きはもちろんのこと、毎週定期的に歯科医院で検診を受 けているし、歯磨きでは落としきれない歯垢の除去も丁寧に行っている。これは幼児 の頃から母親の渚に指導されてきたことで、おかげで口臭は微塵もないし、虫歯一本 ない健康優良児である。 「煙草なんて百害あって一利なしじゃない。気分を落ち着かせるのに効果があるとい うけど、要は精神力が弱いだけよ。仕事中に煙草を吸うのはもってのほか、机の上は 灰で汚れるし空気も濁る。煙草を吸う人ってマナーの悪い人が多過ぎるわ。歩き煙草、 吸い殻のぽい捨て、車内で吸った灰皿の中身を平気で道路にぶちまける人」  憤慨やるかたなしといった表情の梓。喫煙者の徹底排除に精根傾ける所存のようで ある。総従業員数三百二十万人を擁するグループ企業の行く末は、清潔好きな梓の意 向には誰も逆らえず、麗香という有能な執行代理人の実行力で、さぞかしクリーンな イメージの企業へと変身していくのだろう。 「これからどうなされますか?」  麗香が話題を変えるように切り出した。 「そうね。このまま帰ったのでは何の為に出かけてきたかわからないわね。帰りの途 中にグループ企業はありますか」 「若葉台にAFC直営の衛星事業部若葉台研究所があります」 「それにしましょう。白井さん、行き先を若葉台にしてください」 「かしこまりました、お嬢さま。若葉台研究所に向かいます」  二人が乗り込んだのを確認して、静かにファントムVIを発進させる白井。 「ところで、私が差し上げた携帯電話は、お持ちですよね」 「ああ、これね」  梓は鞄から、いつも使っている携帯を取り出して見せた。 「はい、結構です」

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2018年4月15日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第十四章 査問委員会 I

第十四章 査問委員会

                 I  新生第十七艦隊の幕僚の内定が関係者各位に通達された。   艦隊司令官   =アレックス・ランドール准将 艦隊副司令官  =オーギュスト・チェスター大佐(三万隻) 艦隊参謀長   =空位とする 艦政本部長   =ルーミス・コール大佐 第一分艦隊司令官=ゴードン・オニール大佐(一万五千隻) 第二分艦隊司令官=ガデラ・カインズ首席中佐(一万五千隻) 旗艦艦隊司令官 =ディープス・ロイド中佐(一万隻) 首席参謀    =マーシャル・クリンプトン中佐 第一作戦課長  =テッド・ウォーレン中佐  以上が役付きの主要な参謀達であったが、以下ずらりと参謀が並んでいる中には、 情報参謀のレイチェル・ウィング少佐と、航空参謀のジェシカ・フランドル少佐の名 前もあった。艦政本部長のコール大佐及び首席参謀のクリンプトン中佐は、旧第十七 艦隊から引き続き留任することになったものである。また旧第十七艦隊よりの二万隻 は等分されて、ゴードン・カインズ・ロイドの配下に分配された。これらの二万隻に 搭乗する将兵に関して、指揮統制上の問題が懸念されたが、共にトライトン少将の配 下であったことと、アレックスの名声と期待感によって、すんなりと水に馴染んでし まったようである。  艦隊参謀長を当分の間空位とするアレックスの決定に、参謀達からは疑問の声も上 げる者と、当然の処置と賛同する者とに、意見が分かれていた。参謀長となれば大佐 クラスから先任されるのが通常であるが、副司令官のチェスターを除いて、その資格 のあるのはゴードンかコール大佐であるが、コールは政務担当専門の文官で参謀長に は不向きだし、ゴードンとて作戦を練るよりも最前線で活躍する実戦派だ。  大佐より下位のクラスから選出するという案も出たが、最有力候補の首席参謀のク リンプトン中佐は、名前が取り立たされた時に、 「連邦を震撼させるサラマンダー艦隊の参謀長という大役を引き受けるには、まだま だ未熟すぎますし、新参者が就く役どころでもないでしょう」  と経験不足を理由に辞退を表明していた。  またアレックスを情報面から支援した情報参謀のレイチェルも、アレックス自らが 候補から外していた。情報参謀として、作戦プラン作成に重要な情報収集の任に専念 してもらいからだと言った。  そもそも独立遊撃艦隊として発足したランドール艦隊が、正規の艦隊として承認さ れるまでに至ったその功績のほとんどは、司令官のアレックス自身が捻出したか、作 戦会議による合議であった。個人として作戦案を発表した例もあるが、アレックスが 考え出していた作戦に肉付けするだけだったり、その作戦の概要をアレックスが指示 していたりしたケースが多かった。実際問題として作戦プランのほとんどには、アレ ックスが多かれ少なかれ手を入れていたのである。  艦隊の運命を左右する重要な作戦を、独自に考え出せるポストにふさわしい人物と して、候補名を挙げられる物はいなかった。  艦隊参謀長を空位とすることには賛同するしかなかったのである。

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2018年4月14日 (土)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 契約更改

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(七)契約更改  梓の十六歳の誕生パーティーは一騒乱はあったものの、一応の決着を見て無事に終 了した。  真条寺空港からそれぞれの国家元首や大使、招待客が帰って行く。  もちろん。 「この借りは必ず返すからな」  という俊介の姿や、 「おうよ。いつでも受けて立つぜ」  という慎二もいる。  真条寺家の執務室。 『あなたをお呼びしたのは他でもありません。今後の梓とあなた自身についてです』 『お嬢さまと私自身ですか』 『これまで世話役として梓の面倒を見てくださったこと感謝いたします。梓もAFC の代表として就任したからには、今まで通りというわけにはいかないでしょう。そこ で世話役としての契約更改を致したく、お呼びした次第です』 『契約更改ですか』 『今後、世話役としてのあなたの位置付けは、もっともっと重要になってくるでしょ う。私があなたに期待しているのは、梓に対して親身になって相談にのってあげられ ること、時には厳しく忠告できる人物であることです。命令にただ服従するだけの番 犬は必要ありません。ニューヨークからずっと一緒に暮らしていたせいか、梓はあな たのことを姉のように慕っていますし、あなたの言うことなら素直に従います。その 点、あなたなら申し分ないでしょう。年棒は、取り敢えず現在の二倍の百万ドルくら いからが丁度良いかと思います。梓はまだ学生ですから。いかがです、引き受けては 頂けませんか?』 『はい。喜んで引き受けさせていただきます。身に余る光栄と存じます』 『ありがとうございます。梓を悲しませずに済みます』 『いえ、こちらこそ、お嬢さまとこれまで通りに過ごせるなら幸せです』 『それでは、こちらの契約書に良く目を通し、サインしてください』 『かしこまりました』  契約書にゆっくりと目を通している麗香。 『梓の世話役としての必要経費は、年間あたり十億ドルまでなら、私と梓の許可を取 らなくてもあなたの判断で決済を行ってかまいません。それくらいでいちいち許可を 取っていたら仕事になりませんからね』 『十億ドルですか』 『少ないですか?』 『いえ、それで充分だと思います』 『梓が大学を卒業して正式に代表に就任し、世界中を飛び回るようになれば、年棒及 び必要経費は十倍くらいに増やしても構わないでしょう。もっとも梓が、あなたを必 要とし妥当な金額だと判断すればですが』  麗香は、契約書を読み終えて、サインを添えて渚に返した。  サインを確認した渚が、契約書を机の中にしまい込み、 『結構ですわ。これで契約更改は完了しました。契約書の写しは後日渡します。では、 これをご覧ください』  と言って、机の操作盤をいじると、背後のパネルに映像が映しだされた。 『こ、これは?』 そこには、屋敷のテラスで仲良く談笑する梓と絵利香が映っていた。 『この映像は、地球軌道上を回っている人工衛星からリアルタイムに送られてきてい るものです』 『はい、存じております。以前執務室にお伺いした時に、たまたまこの映像が映され ていまして、恵美子さまから簡単な説明を受けました』 『そうでしたか、恵美子さんの判断なら構わないでしょう。とにかくたった今、この 時間の梓の映像です。梓がどこで何をしているか、宇宙から二十四時間体制で監視し ているのです。もっとも本人には何も知らせていません』 『誰しも、監視されていると知ったら気分を害しますね』 『ですから絶対に本人に気づかれてはなりません。このことを知っているのは、私と 恵美子さん。篠崎良三氏、そして、衛星をコントロールしている女性オペレーターだ けです。今日からはあなたもその中の一人です』 『女性オペレーターですか。まあ男性には任せられませんね。あと篠崎重工の社長さ ま』 『篠崎さんには、梓といつも一緒にいる絵利香さんとの兼ね合いでお教えしていま す』 『お嬢さまに何かあれば、とうぜん絵利香さんにも関わってきますね』 『正確にいうとこの映像は、資源探査気象衛星、英字で呼称される「AZUSA」か ら送られてきています。この衛星は各種の電磁波、レーザー探知装置を駆使して資源 を探し、気象情報を集めるのが本来の仕事なのですが、最新鋭の超高解像度地上監視 カメラを使って、梓を追跡することも任務にしています。名前の由来もそこからきて いるのですが、予備機も含めて五機の衛星が入れ代わり梓を捕らえています』 『すごいですね。宇宙から個人を識別できるなんて』 『あなたの役目の一つとして、この衛星の管理も最重要課題として入っています。こ れまでは恵美子さんが管理していましたが、今日からはあなたの役目です。もし故障 したり、具合が悪くなったときは、即座に代替機を発注してください。打ち上げ費用 を含めて、一機あたり七千万ドルです。必要経費を使ってください』 『一分一秒でも、お嬢さまを見失ってはいけないということですか?』 『その通りです。衛星の生産と管理は日本の若葉台にある財団法人AFC衛星事業部 及び衛星監視センター。打ち上げロケットは篠崎重工ロケット推進事業部が担当して います。ここに連絡先が書いてあるので担当者と打ち合わせしておいてください。も うひとつ大容量・高速通信用静止衛星、平仮名で呼称する「あずさ」というのもあり ますが、その辺のところもその担当者から説明を受けてください』 渚が連絡先の記された用紙を麗香に手渡す。 『話しは以上で終わりです。くれぐれも梓のことよろしく頼みます』 『はい。わかりました』  一礼してオフィスを出ていく麗香。 『あ、麗香さん。お母さんと、どんなお話しをしてたの?』 『はい。今後も娘の梓のことお願いしますって、渚さまに言われて』 『なあんだ、そんなことか。これからもずっと一緒だよね、ね?』 梓が、麗香を見つめるようにして、その手を取り握り締めた。それは、梓が不安を感 じた時にいつも取る行動だった。声と表情は平静を装っているが、梓の手の平は緊張 感から汗ばんでいた。 『はい、もちろんです。お嬢さまが、私の事をお嫌いにならない限り』 『よかったあ。それなら大丈夫だよ。麗香さんのこと信頼してるから』 梓の表情から緊張感がほぐれるのがよく見てとれた。麗香の頬に軽くキスをしてから、 『うふふ。これから絵利香ちゃんと買い物なんだ。麗香さんも一緒においでよ』 といって麗香の手を引っ張っていく梓。  フリートウッドに乗り込む梓達。麗香は、ふと空を見上げてみる。  ……今この時も、空の上から監視は続いているのね…… 『麗香さん。今日は一日中晴れだよ』  何も知らない梓の言葉に、思わず苦笑する麗香。 第一章 了

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2018年4月13日 (金)

銀河戦記/鳴動編 外伝 ケースン研究所

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 ケースン研究所  トリスタニア共和国同盟軍特務機関の一つに「ケースン研究所」がある。  軍部によって厳重に守られたこの施設に入るには並大抵なことではない。  機密の漏洩を防ぐために、民間人は完全遮断で一切入れないし、軍人や研究者ですら一 度入ったら二度と出られないというありさまだった。  いわゆる蛸部屋というべき環境にあるのだが、中にいる研究者達は至極快適な状態に保 たれていた。  研究に必要な機器があると申請すればすぐに届けられるし、タイムカードという時間に 縛られる要素もない。好きな時に好きなだけの研究ができる自由な空間が与えられていた。 腹が減れば所内食堂へ行けば良い。肉食主義だろうと菜食主義だろうとも、満足できるメ ニューが揃っている。糖尿病の人向けの栄養士メニューも個人に与えられていた。もちろ んそんな健康を維持する最新鋭設備の整った病院も存在していたのである。  袖まくりをして腕のガーゼを押さえながら病院を出てくる人々がいる。おそらく健康診 断で採血でもしたのであろう。 「ちくしょう! あの看護婦、いきなり突き刺しやがって……『今から刺しますよ。チク リとしますからね』とかやさしく声を掛けろってんだ。まだ痛むぞ」 「ああ、一番右端の奴だろう? あいつはいつもそうだよ。覚えておくんだな」 「どうりであいつの前の列に並んでいる数が少ないと思ったよ。早く終わるだろうと思っ たのが運のつきだった」  談笑しながら廊下を歩いている二人の向こうから、研究所副所長のドワイテ・ボローニ ャがやってくる。側には研究所には相応しくないほどの少年が付いていた。  警戒厳重な極秘施設に?  悪戯をしようとして潜入したものの、見つかって追い出されるところか?  いや、そうではないようだ。そんなに簡単に潜入できるような施設ではない。  採血をした二人が軽く挨拶をして道を開けた。 「所長も検診しにこられたのですか?」 「そうだよ。この年で健康診断は必要ないと言っているのにね」 「いえいえ、その年だからこそですよ、所長。育ち盛りの身体に、研究所の仕事は大変な のです。心身のどこかに隠された異常が発生しないとも限りませんし」 「それに定期的な健康診断をスケジュールの中に組み込んだのは、所長じゃないですか。 定めた本人が率先して受診しなければ、やがて……」 「判っているよ。やがて受診サバタージュがはじまるだろう?」 「その通りです」  所長という言葉が少年に対して発せられている。しかも尊敬語である。  この少年が研究所の所長なのか? 「気をつけてくださいよ。今日は鬼婆がいますよ」  耳打ちされて青ざめる少年。 「あ、あいつが採血しているのか?」 「はい」 「どの列だい?」 「一番右端です」 「わかった。教えてくれてありがとう」  しばらく会話が続いて、やがて分かれる二組。  終始明るい会話だった。  健康な身体には健康な精神が宿るという良い例である。  研究員はすべてにおいて、満足ゆく待遇を与えられているからである。  そして、この少年こそが「ケースン研究所」の初代所長である。  フリード・ケースン、十四歳。  軍の士官養成学校に通う情報科学技術科の学生でもある。  学生でありながら、研究所所長とはどうことか?  それが彼をして天才という呼び名を欲しいままにしている事情である。  四歳の頃から天才としての頭角を現して、六歳にしてロケット工学博士号を授かったの を皮切りにして、宇宙工学力学、光電子半導体設計学、超伝導素子工学等々の博士号を持 つ、天才工学者にして天才プログラマーだった。現在九つ目の博士号を目指して、さらな る精進をして勉強中である。  彼一人だけで、戦艦の開発設計ができてしまうという、とんでもない逸材である。 「ハイドライド型高速戦艦改造II式? ああ、あれはだめだね。設計図やプログラム ソースを見てみたけど、エンジンもシステムプログラムも欠陥だらけだ。実用にならない よ。しかしまあ、僕に設計をいじらせてもらえば、素晴らしいものにしてあげられるよ」  と、設計図を見ただけでその性能や欠陥を見抜いてしまう。  軍部が黙って見過ごしているわけがない。  バーナード星系連邦との戦いにおいて、一隻でも多くの最新鋭戦闘艦の開発が急がされ ているのである。  彼の名前を冠した「ケースン研究所」を建設して、最高責任者として所長に迎え、必要 とされたあらゆる研究設備・機材が用意され、完璧な警備システムを導入した。  所長というからには、当然配下に納まる優秀なる研究員や職員も配属されてくる。それ らをまとめて動かし統括する人事責任者に副所長としてドワイテ・ボローニャが任命され た。フリードには研究の方に専念できるような環境を与えられていたのである。  原子レーザー砲、超伝導レールガンなどの武器システム開発部、超伝導磁器浮上システ ム、ハイドロジェット推進システムなどの航行エンジン部門、心臓部ともなる超伝導シス テム開発部など。それらを統括して運用するシステムプログラム開発部、それら各部門に 担当責任者を任命して、彼の指示に従って研究開発が続けられている。  現在のフリードの頭脳の中にあるのは、開発コード【M-X01】と称される、最新鋭 機動戦艦のことである。  開発予算は無制限にして、考えうる限りの戦闘能力を有する開発コード【M-X01】 と称される究極の戦闘艦。その開発に関しては軍部は一切干渉しないから、好きなように やってくれれば良い。  ケースンのような天才と呼ばれる人間を使うには、それなりの覚悟が必要である。気分 が乗れば実に素晴らしい仕事をしてくれるが、気分を害すれば部屋に閉じこもって梃子で も動かなくなってしまう。なので、自由気ままにさせておくことが一番で、彼らは常に新 しいものを追い求めているから、放っておいても大丈夫である。  研究所の地下に設営された工場では、【M-X01】の心臓部である超伝導磁気浮上シ ステムの開発が真っ盛りであった。  すでに本体はほぼ完成にこぎつけており、試用運転に入っていた。 「ようし、ヘリウムを流し込むぞ」 「ゆっくりゆっくり、少しずつ慎重に」  広大なプールの底にしっかりと据えられたエンジンが、少しずつ液体ヘリウムに沈んで いく。本来ならば密閉容器に収められるのだが、状態変化を正確に観察・記録するために、 開放プールによる実験を行っているのだ。  極超低温の液体ヘリウムが常温のエンジンに触れて、いっきに沸騰して蒸発してゆき、 工場内の温度を急激に下げてゆく。当然として身近にいる研究員は、まるで宇宙服のよう な完全耐熱防護服を着込んで作業にあたっている。素肌など晒していたら、あっという間 にフリーズ・ドライになってしまうだろう。ヘルメットに仕込まれた受信装置によって綿 密に連絡が取り交わされて、体調不良を訴えればすぐさま交代できるようになっている。  グラグラと煮えたぎるヘリウム・プールの中で、急速に冷却してゆくエンジン本体から、 時折悲鳴のような金属音が聞こえてくる。通常の金属でできていたら、とっくに破壊され ているだろう。  いわゆる超合金でできており、急速冷却に耐えかつ運用時においても丈夫な金属である。  やがて沸騰もおさまり、静かな水面となるヘリウム・プール。 「異常はないか?」 「外壁には亀裂や損傷は見受けられません」 「さすがに金属素材研究部が開発した超合金だな」 「私達の仕事は一応ここまでです。この後は超伝導素子回路部に担当が移ります」 「最後にヘリウムの抜き取りという仕事が残っているがな」 「それが大変です」 「そういうことだ」  極超低温状態のヘリウムには、超流動という特異な性質があり、粘性が0になって、容 器の壁を這いあがったり、原子一個分の隙間があればそこから漏出してしまうという現象 を起こす。  そんな試運転の模様を、中央制御室からモニターしているケースン所長。 「開発は順調ですね」  副所長が関心している。  戦闘艦の開発には、何百・何千人という研究技術者が必要なものである。  だが、この人物はたった一人ですべてを開発し、部下に命じて作らせている。あのアル カディア号を設計した大山敏郎にも匹敵する能力者なのである。 「ここは主任に任せておいて良いだろう。次はミサイル開発部へ行く」 「例の次元誘導ミサイルですね。予算が降りればすべて上手くいくのですがね」 「ああ、たった一発に戦艦百隻分かかるからな」 「仮に完成できたとして、これを使用する機会など来るのでしょうか?」 「機会は必ずくるさ。こいつの本質を見極められる将来性を見いだせる人物が現れれば」 「現れますかねえ……」  彼らの夢が実現するには十年待たねばならなかった。  次元誘導ミサイルも機動戦艦の完成にしても……。

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2018年4月12日 (木)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 奥義炸裂!

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(八)奥義炸裂! 「馬鹿が! 僕のテコンドーを交わした奴はいないんだぜ」  動かない慎二。 「気絶したか……。たいした奴じゃなかったな」  と、梓の方へ歩み寄って行く俊介。 「君が、どうしてあんな野蛮な奴と付き合っているのかは知らないが、君にはふさわ しくない」  それをさえぎるように言葉を繋げる梓。 「この僕が理想の男性だ。とでもいいたいのか?」 「その通りだよ。財力、学力、ルックスとも最上だ」 「言ってろよ。それより、決闘を放棄するつもりか?」 「放棄? 奴なら死んだ」 「ははん。後ろを見てみろよ」  俊介が振り向くと、大木に寄りかかるようにしながら、ゆっくりと立ち上がろうと する慎二の姿があった。 「馬鹿な! 僕のヨブリギを受けて立ち上がった奴はいない」  その声に答える慎二。 「それが、ここに居るんだよな」  すでにしっかりと両足を踏ん張って立ち上がっていた。 「この死にぞこないめが」  そして再び俊介に挑みかかって行った。  俊介は今度もその攻撃を交わして反撃を加えた。 「ネリョチャギ・チッキか!」  脳天蹴りという、足底を真上から打ち下ろす蹴りを受けて、俊介の足元に臥す慎二。  しかしすぐに立ち上がった。  起き上がっては挑みかかって倒されるというのを繰り返していた。  半月蹴り(パンダルチャギ)。接近した間合いから外廻しまたは内廻しで蹴る技。  後ろ蹴り(ティチャギ)。振り向きながら直線的に蹴る技。 「しかし、すごいな。あれだけ大きく足を振り回しているのに、全然体勢が崩れてい ない」  感心している梓。  そのそばで心配顔の絵利香。 「そんな悠長なこと言ってていいの? 慎二君、やられっぱなしなのよ」 「大丈夫だよ。そのうちにけりがつくよ。もちろん慎二の勝ちだ」 「どうしてそうなるの?」 「よく見ろよ。俊介の息が上がってきているよ」  梓の指摘の通りに、俊介は汗を流し呼吸も乱れて、肩を震わせていた。  どうやらこんなにも長期戦を戦ったことがないのだろう。  一方の慎二は身体中傷だらけになってはいるが、しっかりと両足で立ち意識も明瞭 のようであった。 「な、なんてしぶとい奴なんだ」 「教えてやろう。おまえが対戦した相手は、せいぜい試合でのことだろう。百戦錬磨 で鋼の肉体を持つ俺には、どんな技も体表面を傷つけはするが、五臓六腑には届くこ とはない。どんなに傷ついてもすぐに回復するぜ。そして俺の喧嘩拳法は、相手に合 わせて無限に進化する究極の技だ。テコンドーなんざ、空手を模倣した猿芝居にすぎ んわい。テコンドーの試合を見たことがあるが、足を振り回すだけのダンスだよ」 「言わせておけば!」  俊介の足技が再び飛んでくる。  しかし慎二はそれを交わしたのだった。 「は、はずしたあ!?」  足技が宙を切り、体勢を崩す俊介。  次の瞬間だった。 「真空透徹拳!」  慎二が掛けた技が決まり、宙を舞って吹き飛ぶ俊介。  どうっ、とばかりに地面に激突してそのまま気絶してしまった。  ついにというか、勝負は一撃で決まった。  慎二が放った大技に茫然自失となる梓だった。 「あ、あれは……。聖龍拳!」  それはかつてスケ番蘭子との決闘で梓が見せ付けた、沖縄古流拳法の一撃必殺の奥 技、聖龍掌に他ならなかった。  放心したように呟く梓の声が聞こえなかったのか、 「慎二君、すごいね。たった一撃で倒しちゃったよ」  絵利香は興奮した表情で、慎二のほうへ駆けていった。 「おうよ。俺は、無敵だからな」  こうして決闘は慎二の勝利で終わった。

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2018年4月11日 (水)

銀河戦記/鳴動編 外伝 人生の転機 後編

銀河戦記/鳴動編 外伝 人生の転機

エピソード集 人生の転機 後編  ジュビロ・カービン。  ネットワーク犯罪の頂点として、『闇の帝王』と呼ばれるようになっていた。  闇とは彼の活躍する場が、薄暗い地下室であり、銀行オンライン、政治機関ネット、そ して軍事ネット、どんなに厳重なるセキュリティーを施していても簡単に侵入してしまう。  しかも居場所を決して悟られるような失態も起こさない。ネットとネットを介在してあ らゆる場所からアクセスしてくるからだ。  闇夜に身を潜めながら、獲物を求めて動き回る肉食動物のように、そして狙った獲物は 決して逃がさない。 『闇の帝王』とは、そんなつかみ所のない虚空の世界を支配しているというところからき ているのかもしれない。  彼とて生きるために食べていかなければならないから、企業と密かに契約を取り交わし て、ライバル会社の機密情報を盗み出す仕事についている。 『企業コンサルタント』という会社名がそれだが、仕事の実状はネット犯罪。  彼の元に集まった仲間達を社員として、ジュビロが取り仕切っていた。莫大なる資金が 手元で踊りまわる。  ネットワーク犯罪のプロフェッショナル集団。  だが、そんな彼らでもどうしても侵入できない所が、一つだけあった。  トリスタニア共和国連邦所属の特務機関『ケースン研究所』がそれだった。  六歳にしてロケット工学博士となり、その後も次々と博士号を取りつづけている若き天 才を、所長に擁して建設された。そこでは最新鋭戦闘艦の設計やシステムプログラムの開 発を行っているという。  ……という噂である。  何せ研究所のネットワークに侵入できないのだから確認のしようがない。  苦労を重ねてやっと侵入したかと思ったら、実は別のネットだったりするのである。  素っ裸の女性が誘惑してくるアダルトサイトだったこともあった。  のらりくらりと交わされてしまうのだ。かと思うと、強力なカウンタープログラムによ って、端末が完璧に破壊されたこともあった。 「ネットワークが生きている」  誰かが呟いた。  生命体には、侵入してくる細菌やウィルスを退治し排除する免疫脳が備わっている。  好中球(白血球)、マクロファージ、リンパ球、T細胞、B細胞などが常に監視してい て、侵入者を発見次第駆除にかかる。  まるでネットワークに免疫機能が備わっているような錯覚を覚えさせずにはいられない。  ケースン研究所という名称から、人の名前から取ったものかも知れないと、軍部の人事 課にアクセスして、片っ端から調べ回った者がいたが、天才と呼ぶに相応しい人物の特定 には至らなかった。  研究所もその責任者も、すべてが厚いベールに覆われていた。  ケースン研究所のネットワークに、誰が最初に一番乗りできるか?  ネット犯罪者は競い合っていた。  ジュビロもケースン研究所には手も足も出ないでいた。  このままでは『ネット界の闇の帝王』という名称も返上せねばなるまい。  もっとも囃し立てているのは、周りの者だけで、当の本人は何も感じていないことが多 いものだ。  今日も今日とて何度か研究所にアクセスしてみたが、何の成果もなかった。 「やはり、だめか……。一体何者なんだろうか」  研究所所長のことに思いを馳せてみたが、一向に思い浮かばない。 「やっぱり、ここにいたわね」  扉を開けて入ってきたのは、レイチェル・ウィングだった。 「レイチェルか」 「どうせ何も食べていないだろうと、差し入れを持ってきてあげたわ」 「いつも悪いな」  端末の側に置かれた差し入れを頬張りはじめるジュビロ。 「今日はどこにアクセスしているのかしら?」 「いつもの所さ」 「で、体よく追い返されたってところね」 「その通りさ」 「ふうん……」  と、端末の画面をしばし眺めていたレイチェル。 「ジュビロ、一つお願いがあるんだけど」 「お願い?」  何事かと首を傾げるジュビロ。 「わたしの人生を左右する大切な話よ」  と、切り出したのは、突拍子もない事だった。 『性転換手術したいから、腕の良い医師を紹介して欲しい』  性同一性障害。  身体は男性なのに、精神は女性という障害である。  レイチェルが、これに相当しているが、自分の心に正直に女性らしく振舞っていた。女 性の衣装を着て化粧を施し、外を出歩いているのもそのためだった。  女性ホルモンを飲んで、外見上は女性らしい体躯にはなっているが、男性の部分を残し たままでは、いつかは破綻をきたす。  レイチェルが軍に入る前に、ジュビロは国籍や軍籍コンピューターに侵入して、その性 別を書き換えてやったのだが……。  常日頃から思い悩んでいたレイチェルのこの「お願い」をジュビロは快く引き受けて、 心身共に完全な女性になる手助けをしたのである。  その手術費用をコツコツと蓄えていたのに感心したジュビロだった。  手術を終えたレイチェルを見舞うジュビロ。 「これでやっと、何も気兼ねなく暮らせるようになるな」 「ええ、感謝しているわ」 「気にするな。おまえと俺の仲じゃないか。おまえから受けた恩も返しきっていないから な」 「それは言わない約束よ」 「そうだったな」

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姉妹揃ってユーラユラ(*'▽')

インターポット

綿帽子ユラユラ、ゆらゆら揺れて♪

ねえ、お姉ちゃん!

なあに?

この綿帽子って、どうしていつも西から東しか飛ばないの?

それはねえ、偏西風に流されているからよ。

へんせいふう?

地球上を一定の方向に流れている大気の循環よ。

わかんなーいよお(;´Д`)

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2018年4月10日 (火)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 決闘!

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(八)決闘! 「おい、梓ちゃん。映画とかでよく見る光景だけど。もしかして、これって……決闘 だっ! ってやつじゃない?」 「もしかしなくても決闘の申し込みだよ」 「やっぱり!」 「貴様のような奴に、いくら口で言っても判らないようだからな」 「おう! やったろうじゃないか。で、決闘の方法は?」  決闘を申し込まれたというのに、明らかに喜んでいる風の慎二。 「最近、暴れていないからなあ……。腕が鳴るよ」  指をぽきぽきと折り鳴らしながら臨戦態勢に入ろうという感じか。 「野蛮な貴様のことだ。どうせ、喧嘩ぐらいしかしたことないのだろう」 「おうよ。喧嘩は三度の飯より好きだぜ」  という慎二に頷く絵利香。 (まあ、最近は梓ちゃんの手前、手を出すのを控えて耐えているのをよく見かけるけ どね)  その屈強な精神と肉体を有する慎二には、心配するようなものはなさそうであるが、 相手の俊介の方が、やはり気になるところではある。 (大丈夫かしらね……) 「いいだろう。決闘の方法は、自分の腕と足が頼りの拳法ということにしようじゃな いか」 「拳法か……。いいね、それでいこう」  というと後ろに下がって構える慎二。  俊介の方も、片足を引き両腕を軽く胸の前に置いて構えていた。  そんな俊介の構えを眺めている梓。  さながら自分を取り合って決闘をはじめた相手を前に、心配顔で成り行きを見守ろ うとしているお姫様って様子だろうか。 「ふうん……。見たところ、隙だらけって感じだけど。誘いの隙ってやつかな」  二人は対峙したまま動かなかった。  相手の様子を窺いながら、出方を待っているのだ。  慎二も不用意に仕掛ければ、相手の思う壺というのが判っている。 「どうした、掛かってこないのかい?」  俊介のほうから言葉をかけてきた。 「いやなにね。貴様のテコンドーの足技を警戒しているだけなんだけどね」  その答えを聞いて表情を変え、感心したような口調で返す俊介。 「ほう……構えだけから、私の得意種目を言い当てるとはただものではないな」 「百戦錬磨だからな。いろんな奴とやってる中には、テコンドーを武器とする奴がい たというわけさ。足技はリーチが長く破壊力も抜群だからな。一撃必殺、そうやって わざと誘いの隙を作って、相手が殴りかかってくるのをじっと待ってるのさ」 「さすがだな。そこまで見切っているとはね。こりゃ、早まったかな」 「何をおっしゃる。自信満々のくせに」 「しかし、こうやって睨み合っていても勝負はいつまでたってもつかないぞ」 「そうだな。ここは一発、相手の実力を測るためにも、あえてその手に乗ってみるも んだ」 「こっちはいつでもいいぞ」 「では、いくぜ!」  というと、相手の懐に向かって突進する慎二。  俊介はそれを軽く交わして、大きく足を振り上げた。 「ヨブリギか!」  慎二を交わして、俊介が仕掛けた技は、ヨブリギと呼ぶ逆廻し蹴り。内側から横に 振るように蹴る技である。  技が見事に決まって吹き飛ぶ慎二。そばにあった大木の幹に激突し、その根元に崩 れ落ちた。

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2018年4月 9日 (月)

銀河戦記/鳴動編 外伝 人生の転機 前編

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 人生の転機 前編  銀河帝国領アルビエール候国のとある地域。  帝国統合軍第二皇女艦隊旗艦、攻撃型航空母艦「アークロイヤル」  周囲をぐるりと艦船が取り囲み、物々しい雰囲気となっていた。  その艦橋のオペレーター達は緊張していた。  これから始まるのは、艦隊のすべて八十万隻が参加する軍事演習であった。  演習の前に観艦式が執り行われており、アークロイヤルの目前を規律正しく部隊ごとに 突き進んでいる。  見届けるのはマーガレット第二皇女。  皇女の側で部隊の紹介をしているのは、艦隊司令のアーネスト・グレイブス提督。各部 隊の旗艦名や司令官名などの詳細を説明している。  アークロイヤルの前を通り過ぎた部隊は、二手に分かれてそれぞれに定められた配置に つく。そして合図と共に戦いをはじめるのである。もちろん実弾ではなく模擬弾が装填さ れていることは言うまでもない。  全艦隊が参加する大演習を企画して、マーガレット皇女にご注進したのはグレイブス提 督である。それに快く応えて、本日の大演習が執り行われることになった。  マーガレット第二皇女、十二歳。  幼いながらも、芯の通ったしっかり者に育っていた。  アルビエール候国は、軍事国家バーナード星系連邦と国境を接していた。共和国同盟と 連邦の間に横たわる銀河渦状腕間隙のような航行不能領域というものはない。それに代わ る中立地帯が国際条例によって設定されているだけである。油断していれば、中立地帯を 越えて侵略されてしまう可能性がある。  常日頃から軍事演習を行って、いざという時のために備えておかなければならなかった のである。そうして、銀河帝国統合軍宇宙艦隊五百万隻の中にあって、マーガレット第二 皇女艦隊は最強の精鋭艦隊に育っていた。  叔父のハロルド侯爵も心服して、自治領艦隊百六十万隻の叱咤激励を忘れなかった。  やがて艦隊の配置が終わり、戦闘開始の時刻となる。 「お時間です」  グレイブス提督が囁くように進言した。  マーガレット皇女は立ち上がって、右手を高く差し上げると、 「はじめ!」  静かにその手を振り下ろした。  総勢八十万隻が一斉に動き出す。  史上最大の軍事演習である。  バーナード星系連邦軍第七十二特務艦隊。  銀河帝国との国境にある中立地帯を作戦行動地域とする。  特務艦隊の任務は、帝国へ侵入して各惑星から物資を強奪することである。  時として帝国を経由して、トリスタニア共和国へも出張していた。  いわゆる帝国が海賊艦隊と呼んでいるその正体である。  海賊艦隊には、停泊地となる基地は持ち合わせていないので、強奪した物資はすぐさま 待機していた大型輸送艦隊に積み替えられて、連邦へと次々と運ばれていった。  資源に乏しいバーナード星系連邦にとっては生命線ともいうべきものだった。  折りしも帝国内へ襲撃に出かけていた一部隊が、物資を満載して戻ってきたようだ。  略奪から戻ってきた部隊指揮官が、旗艦で待つ司令官の元へ報告にやってきた。 「ただいま帰還いたしました」 「早かったな。それにしても大した荷物じゃないか」 「帝国から共和国同盟へ物資を運ぶ輸送船団に、丁度出くわしましてね」 「護衛艦隊がついていただろう?」 「たいしたことありませんでしたよ。軽く一捻りしてやりました」 「そうか……。ともかくご苦労だった。報告書を提出して休みたまえ」 「はっ! 休ませていただきます」  踵を返して戻ってゆく部隊指揮官。  その後姿を見送ってから、手元にある報告書に目を通し始めた。  エメラルド・アイの瞳が涼しい。  スティール・メイスン少佐が、海賊艦隊へと配属されて半年も経っていない。  彼は配下の将校達に輸送船団を襲わせては物資を強奪していた。  輸送船団の動きといった情報は、親友であるジュビロ・カービンによってもたらされて いた。  ジュビロの支援があって、スティールは少佐にまで昇進していたのだ。

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2018年4月 8日 (日)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 神条寺家登場!

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(七)神条寺家登場!  突然パーティー会場で騒乱が沸き起こった。  見ると、慎二が招待されていた若者と口論していた。 『慎二!』  驚いて駆け寄る梓。 「いやあ、こいつ日本人で日本語を話せるくせに、英語ばかりで話しかけやがって よ」 「当たり前じゃない。ここでの公用語は英語なのよ」 「ああ、知ってるさ。で、意味が判らないから絵利香ちゃんに翻訳してもらってたら、 聞き捨てならないことを言いやがる」 「なんて?」 「どうやって梓ちゃんに言い寄ったんだ? とか、手ぐらい握ったのか? とかさ。 果ては下賎の身でよくもやってきたものだ。とか、言いやがった」 「本当なの?」  翻訳係の絵利香に確認する梓。 「慎二君の言ったとおりだわね」 「で、こいつが誰か知ってるか?」  慎二が若者を指差して尋ねている。 「まあね……」  あまり気分よさげではなさそうな表情の梓。 「誰?」 「かみじょうじ家ゆかりの西園寺俊介」 「かみじょうじ家じゃない! 神条寺家だ! しんじょうじと読めよ」  英語会話していた相手が、興奮して日本語で反論する。 「どっちだっていいじゃない。区別するのに都合がいいんだから」 「早い話、どういう関係なの?」 「さあね……かみじょうじの方で、勝手にあたしの婿候補を送り込んできているとい う噂は聞いてはいるけどね。その一人なんじゃない?」 「婿候補?」 「そう。神条寺家ではさあ、本家であることを鼻にかけていてさあ。何かと因縁つけ てくるのよね。分家の婚姻を仕切るのは本家の特権とかいってさあ。真条寺家では、 とっくに縁を切っているはずなんだけど」 「つまり本家と分家の争いに巻き込まれたってことか」 「さっきから聞いていたら、さんざ悪口ばかり言いやがって。神条寺家では分家の存 在など認めていない! 過去に本家から資産の半分を横取りしてアメリカに逃げてき たんじゃないか。資産を返還し神条寺家の傘下に入るのが尋常だろう」 「へえ。梓ちゃんのご先祖って、本家から資産を横取りしたの?」 「おまえはあほか! 以前話してやったことをもう忘れたのか?」 「うーん。覚えていないなあ……」  頭を抱えて思い出そうとしているが、 「すっかり、忘れたな」 「まったく。真条寺家は、昔々に双子として生まれた一方の娘が、神条寺家から資産 分けしてもらい、アメリカに渡って興した家系だよ。横取りしたんじゃないわい!  その時に一緒について来てくれた大番頭が竜崎家と深川家で、麗華さんと恵美子さん はその子孫というわけ。どう、思い出した?」 「そういえば……そんな話を聞いたような……」  梓の解説と、俊介のそれとを比較しながら感想を述べる絵利香。 「そうね。それぞれの家系が自分の都合の良いように解釈するのは良くあることだ わ」 「ようするに負け惜しみのひがみ根性が染み付いているというわけか」 「君、無礼だぞ!」  片方の手袋を脱いで、慎二の顔目がけて投げつける俊介。 「決闘だ!」

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2018年4月 7日 (土)

銀河戦記/鳴動編 外伝 レイチェル 後編

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 レイチェル 後編  再びアレックスの孤児院時代に戻る。  アレックス・ランドールは泥ダンゴという奇襲作戦で、裕福チームを追い払って、遊び 場の確保に成功した。  少年達は川に飛び込んで、汚れた服を脱いで川の水で洗い始めた。きれいになった服を 川辺の岩に広げ石を乗せて乾かす。少年には洗剤を使って、きれいに泥を落として殺菌ま でするという裕福な人々のような事はしない。見た目に汚れていなければそれで十分であ る。  素っ裸になった少年達は、早速水遊びをはじめる。  川を泳いだり、浅瀬で水を掛け合ってジャレたりしながら、それぞれ自由に遊び回って いる。  そんな楽しそうな少年達を、川の土手に腰を降ろして眺めている少年がいた。  その視線は、一人の人物を追い続けていた。  気が付いたその人物が手を振って大声で誘う。 「おーい! レイチェル、君もこっちへ来いよ。一緒に遊ぼうよ」  レイチェルと呼ばれた少年は、大きく首を横に振って応えた。  ひ弱できれい好きなその少年は、合戦に参加しなかったし、川遊びも苦手だった。  やがて川遊びに飽きて水から上がってくる少年達に声を掛けるレイチェル。 「みんな、こっちに集まって!」  一同がぞろぞろと川岸を上がってゆくと、土手の上にシートが敷かれてその上に弁当が 広げられていた。  早速、靴を脱いでシートに上がって、その弁当にかぶりつく少年達。  勝利の後の飯はうまい!  レイチェルの料理の腕前は、同じ年頃の女の子が作るものとは比べようがないほど上手 だった。しかも有り合わせの材料だけで、舌をうならせるような美味い料理に仕上げてし まう。予算の限られた孤児院では贅沢はできない。レイチェルの存在は貴重である。 「うまいよ、レイチェル」  先ほどの少年が素直に感想を述べた。 「ありがとう、アレックス」  にっこりと微笑むレイチェル。  レイチェルは合戦には参加しないが、後方支援という形で間接的に参加していたのだ。  怪我をした者を治療したり、裂けた洋服を繕ったりして、自分のできる範囲で少年達の 仲間入りをしていた。 「レイチェルが女の子だったら、おくさんにしてあげるのにね」  誰かが言った。  レイチェルが女の子だったら。  その言葉は禁句ともいうべきはずだが、 「だめだよ。レイチェルは僕がもらうんだから」  と、アレックスが即応して、はっきりと断言する。  嬉しそうな表情のレイチェル。  このように屈託なく、思ったことを遠慮なく言い合う仲間達。  孤児院といえば、親に死なれたり別れたりして、身寄りのない子供達が寄せ集められる 施設である。  孤児にはどこか暗い一面があるものだ。  人格形成の大切な時期に親がいないのであるから、精神に幾ばくかの障害をきたしてい ても無理からぬこと。いつも泣いていたり、部屋の隅に固まって動かない孤児も多かった。  予算が限られ人員不足の孤児院では、孤児一人一人にまでは目が行き届かない。  悪戯な子供はますます増長して、施設の外で問題を起こしやがて犯罪者として、今度は 刑務所の中に収容される。結局何らかの施設のやっかいになるばかりである。  孤児院にはそんな子供が大勢いた。  いつもメソメソしていたレイチェルなども、いつもイジメの対象になっていたものだっ た。  しかし、アレックスが入院してきた頃から、孤児院は少しずつ変わっていった。  一人でいるよりも、みんなで一緒になって遊ぶほうが楽しい。  これがアレックスの信条である。  サッカーや野球などのチームプレイを必要とするゲームが大好きであるが、隠れん坊や 電車ごっこなど女の子でも参加できるような遊びも取り入れることも忘れなかった。  もともと元気な子供達は、すぐにアレックスの仲間入りしたが、一人でいる子供を見か けると、強引ながらも引っ張り出して仲間に入れて遊んだ。  仲間が集まって何かしようとすれば、やはり広い遊び場が必要である。しかし近くにあ る遊び場のほとんどが、裕福な家庭の子供達に占拠されていた。  これまでにも交渉を続けてきたが、毎日三食たらふく食べている裕福な子供達に対して、 満足に食べられず痩せこけている孤児院育ちの彼らには、体力的に勝負にならなかった。  孤児達は狭い孤児院の庭で、窮屈な思いをしていた。  ここで立ち上がったのがアレックスである。  体力に勝る相手に対して勝利するには、綿密なる作戦を立てて、その作戦通りに動く組 織作りである。  体力で押してくる相手には、組織をもって対抗する。  アレックスはいつも考え続けていた。  組織作りと作戦立案である。  ○まずは戦場(戦闘領域)と戦勝条件とを別表にして設定しておく。  ○双方がチームを作り大将を決めておく。  ○喧嘩は戦場の中だけで行われ、チームの三分の一以上が戦場から逃げ出せば負け。ま た大将が降参するか逃げ出しても負けとする。  ○負けたチームは、相手チームに遊び場を明け渡さなければならない。  ○上記の事は、協定書として二通作成し、それぞれ署名して交換しておく。そして紳士 として厳粛に守ることとする。  これがアレックスの考え出した内容である。  この内容をレイチェルと共に念入りに検討し、納得できる文章にして仕上げて協定書を 作成した。  この時のレイチェルの文章作成能力と協力的姿勢は大したものだった。たどたどしく口 述するアレックスの内容を文章にしたため、子供でも理解できる平易な言葉に直すことも した。  レイチェルがいなければ、アレックスは大いに頭を抱えて苦しんでいたに違いない。  やがて完成した協定書を持って、相手チームとの交渉に当たったのもレイチェルだった。  そして相手との交渉に成功し、署名の入った協定書を持ち帰ってきた。  交渉がまとまれば、合戦に向けての綿密な作戦作りである。  レイチェルは参謀として重要な役割を担うことになった。  アレックスが考え抜いた作戦の不備な点を指摘し訂正した。  こうして二人三脚で、数々の作戦を打ち立てた。  泥ダンゴ作戦を考え出したのもレイチェルだった。裕福な家庭育ちの者が衣服を泥で汚 されたら戦闘意思をなくしてしまうだろうとの発想は、きれい好きなレイチェルだからこ その名案であった。、  この協定の重要なことは、大将一人の力量によって、すべての勝敗が決定する要因があ ることである。  どんなに劣勢でも、大将さえ倒してしまえば勝ちである。  大将に一斉に飛び掛って全員で倒してしまえば良いのだが、相手にも慎重に大将を取り 囲んで敵が容易に近づけないようにするはずだ。  さらにもう一つ、相手チームの三分の一が逃げ出しても良い。  これが泥ダンゴ作戦である。  まさしく組織同士の戦い。  組織として行動するには作戦が大切である。  どちらがより効果的な作戦を編み出せるか?  作戦立案に長けていたのがアレックスである。  弱小チームが強力なチーム相手に勝つには、それなりの算段が必要である。力押しでゆ くか、頭脳でゆくか。  誰しもが思いもしなかった突拍子もない作戦を次々と繰り出して、負け知らずの連勝を 続けていた。  そうこうするうちに、アレックス率いる孤児院チームに挑戦状を突きつけてくる者はい なくなり、孤児院近くの良質な遊び場を確かなものにしてしまった。  裕福チームを打ち負かしたアレックスとレイチェルが、小高い丘の木陰で並んで語り合 っていた。 「アレックスはどうするの?」 「そうだな……。やっぱり同盟軍に入るよ。まずは士官幼年学校だね」 「アレックスが軍に入るなら、僕も一緒に入るよ」 「それがいいよ。そして一緒に連邦と戦おう」 「うん」  いつまでも孤児院にはいられなかった。  十四歳までという入院期限が定められていたからである。  孤児には、養子にもらわれてゆく先がなければ、軍に志願して入隊するという道しかな かった。もちろん放浪生活という手もあるが……、悪の道に陥るのは必定である。  そこでレイチェルが相談を持ちかけてきたのである。養子縁組のなかったレイチェルに は、軍に入るしかないのだが、念のためにアレックスにも確認したかった。  アレックスの方は、アーネスト・トライトンという命の恩人の存在がある。彼に拾われ て身元引受人になってもらったから、今のアレックスがある。あのまま緊急脱出ポットで 漂流を続けていれば、やがて酸素が尽きて死んでいた。  トライトンは優秀な軍人だった。  八年前には辺境周辺地域の警備艦隊司令官で中佐だったが、今では第十七艦隊の副司令 官で上級大佐となっていた。四十歳代前半でこの地位は、異例なほどの昇進の早さである。 それもそのはずで、彼の所属する艦隊は共和国同盟中でも最激戦区と言われるシャイニン グ基地周辺の防衛に当たっていたからである。  対面するは、バーナード星系連邦の電撃作戦によって、侵略され要所の位置に築き上げ られたタルシエン要塞である。航行不能な銀河渦状腕間隙にいくつか存在する航行可能な 宙域の一つ、タルシエンの橋を守る橋頭堡となっている。  タルシエンの橋を渡って自由に艦隊を往来させることができるようになった連邦軍は、 一方的な侵略戦争を開始した。共和国同盟は不利な立場となり、防衛のみの苦しい戦いを 強いられた。救いは豊富な資源だった。共和国同盟は、タルシエンの橋が発見されて以降 の新興開発地域である。未開発の地域がまだ残されており、戦闘によって失われた戦艦の 建造に必要な鉱物資源が無尽蔵にあって、いくらでも補充が可能だった。これによって両 国軍の戦力は常に相拮抗して勝敗がつかず、数百年に渡る気の遠くなる戦いを繰り広げて きたのである。  とはいえ、シャイニング基地の防衛は、今日を生き残れば、明日には一階級昇進してい る。  というほどの激戦区である。  アレックスは、そんな激戦区に身を晒しているトライトンの力になりたいと、常日頃か ら考えていた。身元引受人のトライトンの部下となり、艦隊を率いて少しでも手助けでき ないか。  実は、アレックスには養子縁組の話がいくらでもあった。頭脳明晰で成績優秀、仲間作 りの天才で人当たりの良い性格は、養い親となりたい人物達のもってこいの対象だった。  しかしアレックスは養子縁組をすべて断って、軍人になる事を表明して士官幼年学校へ の入隊志願を求めた。  レイチェルにしても、アレックスと一緒になら軍人になってもいいと思っていた。 「そろそろ帰ろうか」  立ち上がって、手を差し出すアレックス。  その手を取って立ち上がるレイチェル。 「孤児院まで競争だ!」  いきなり走り出すアレックス。 「ま、待ってよ。アレックス」  追いかけてゆくレイチェル。  小高い丘の上から駆け下りる二人の影が、一瞬重なったように見えた。

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2018年4月 6日 (金)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 家督相続

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(六)家督相続  各国の首脳を招待してのパーティーは当然、外交合戦の場ともなる。あちらこちら で各国首脳達が言葉を交わし、活発な外交を進めていた。  とはいえ、今日の一番の相手は十六歳となったばかりの梓であった。ひっきりなし に各国首脳が言葉をかけてくる。  それもそのはずで、十六歳となった今日のこの日をもって梓は成人するのだ。  パーティーも盛況のクライマックス。  渚が設えた壇上にのぼって、出席者全員に向かってスピーチを始めた。 『みなさん。娘の梓の十六歳の誕生日にお集まり、まことにありがとうございます。 ご存じの方も多いかとおもいますが、真条寺家は女系の家系で、代々女子が家督を継 ぐことが家訓に取り決められております。すなわちわたくしは母である響子から十六 歳の誕生日にこの家督を受け継ぎました。そして今日のこの日。我が娘の梓も十六歳 の誕生日を無事に迎えることとなりました。アメリカのほとんどの州、及び日本では 法律上でも結婚を許されおり、もう立派な大人の仲間入りをしたと言ってもよろしい でしょう。わたくしは、今日この良き日に、この梓に真条寺家の家督長の地位を譲る ことにしました』  おお!  というどよめきが湧き上がった。  世界に冠たる真条寺グループの総帥たる、その家督を引き継ぐ新しい風。  ここに集まった多くの首脳たちの多くが、その発表を見届けるために、今日のこの 日をスケジュールを明けて待っていたのである。 『グループ企業の新しい名前は、アズサフィナンシャルグループとします。梓は、グ ループを統括運営する財団法人「Azusa Foundation Corporation」、略称AFCの代 表に就任します。当面の間、わたくしが、相談役として梓をサポートする予定です』  招待された人々の反応は様々であった。  新しい風を歓迎する者、十六歳という若さに先行きを心配する者、それぞれの考え 方があるだろう。 『十六歳で家督長を譲られるとはねえ』 『俺は、正しい判断だと思うよ。天使のような優しさと、女神のような美しさを兼ね 備えた我らがお嬢様だ。傘下企業三百二十万人にも及ぶ従業員のトップとしての資質 は充分あると思うね』 『まあ、従業員達の評判や人気の度合からいっても、渚様より梓様のほうが上だから なあ。パーティーの招待者の出席率は、梓様が出席するというだけでぐんと跳ね上が る』 『ああ、そうだとも』 『梓、ちょっと来なさい』  手招きする母親のそばには、米国大統領と体格の良い米国軍人将校らしき人物がた っていた。 『大統領は知っているわね』 『はい。はじめまして、梓です。大統領』 『いやいや。三歳の頃に一度お会いしてるんですよ』 『え? そうなんですか』 『ええ。私がまだ上院議員だった頃です。その頃も可愛かったですけど、十六歳にな られて一段とお奇麗になられましたね』 『あ、ありがとうございます』  引き続き隣の人物を紹介する渚。 『こちらは、米軍太平洋艦隊司令長官のトーマス・B・ファーゴ海軍大将』  母親が紹介し、梓も応答した。 『はじめまして、梓です。お忙しいなかわざわざご足労いただき、ありがとうござい ます』 『そういえば、梓さんは、日本の高校に留学なされているんでしたね』 『はい。ジュニアスクール卒業までニューヨークにいましたが、今は日本に留学して おります』 『長官には、日頃から大変おせわになっているのよ。梓、真条寺家所有の船舶の中に、 原子力潜水調査船があるのは知っているわよね』 『はい。伺っております。ハワイ・パールハーバーを母港として、原子炉の整備点検 や核燃料の交換など、米海軍の施設と技術要員をお借りしています』 『その通りです。長官には、その手続きを通して大統領の許可を頂くまで、随分と骨 を折っていただきました』

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2018年4月 5日 (木)

銀河戦記/鳴動編 外伝 レイチェル 前編

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 レイチェル 前編  その人物は、商店のショーウィンドウに飾られたマネキンに見入っていた。 「よう、レイチェル。今日は休暇か?」  気安く声を掛けるジュビロ。  相手もジュビロに微笑みながら応じる。  その名前は、レイチェル・ウィングである。  九歳年下の彼女が貧民街に迷い込んで、不良たちに絡まれていたところをジュビロが助 けてやったのだが、以来どこまでも後をついて来るようになった。  仕方なく彼の仲間に入れてやったのだが、食事や衣類の洗濯などジュビロの生活の面倒 を何かとみたりしてくれていた。  仲間内の評判も良く、買い出しや小間使いなどの用を器用にこなしていた。  しかしある日突然に、士官学校への入隊を宣言して、ジュビロや仲間たちから離れてい った。 「あら、ジュビロ。そう、休暇よ。暖かくなってきたから、夏向きのお洋服を買いにきた の」 「いいねえ、軍人さんは。適当にやっていれば、ちゃんと給料が支払われて、基地内にい れば宿の心配はいらないし、飯も服も全部ただだろ?」 「ただとは言っても、勤務中は軍服着用義務だし、堅苦しくて息が詰まるわよ。せめて休 暇の時くらいは、ちゃんとお洋服を着て街へ繰り出してウィンドウショッピングを楽しみ ながらお買い物。仲良しのお友達と連れ添って、おいしいお料理を頂くのよ」 「気楽でいいねえ。こんなヒラヒラの洋服のどこがいいんだ?」  と突然、レイチェルのスカートの裾を摘み上げる。 「今日はピンク色のレースか」 「いやん、ジュビロ」  あわててその手を振り払ってスカートを押さえるレイチェル。  あはは。  と笑ってごまかすジュビロ。 「もう、しようがないんだから」  睨み返しながらも親しそうな態度は変えない。 「ジュビロ、お食事はちゃんと食べてる?」 「いつもの店さ」 「量が多くて安い店?」 「そういうこと」 「しようがないわねえ。いいわ、今日は私が奢るわよ。レストランで一緒にね」 「おお! それは助かる。三日分くらいは食べてやる」 「お好きなだけどうぞ」  くったくのない関係の二人だった。  ジュビロとの一緒の食事を終えて基地に戻ったレイチェル。  基地入り口でIDカードを端末に差し入れて、基地帰還の手続きをとる。  やがて承認を終えて端末から吐き出されたIDカードを受け取って基地の中へと入って ゆく。 「お帰りなさい。レイチェル」  寄宿舎の自分の部屋に戻ると、同室の女性から声を掛けられる。 「ただいま」  買い物袋を自分のベッドの上に置いて、着替えをはじめるレイチェルだった。  外出許可さえ認められれば、一定時間内でいつでも基地の外には出られるが、その際は 軍服の着用が義務付けられている。あくまで軍人としての行動を要求される。  今日のように私服を着て基地の外に出られるのは、休暇を取った場合のみ。  休暇は、階級や勤務体制によって、日数に規定があり、取得連続日数も三日間まで。  今日はその規定日数の一日分を休暇として外出したのである。  着ていた洋服を脱いでハンガーに掛けるレイチェル。  スリップ姿となったが、結構豊かな乳房が目立つ。  実はそのサイズ、寄宿内でも十位の中に入っているのだ。 「いいことあったでしょ」 「いいことって?」 「とぼけないでよ。その表情からすると彼に会ったでしょ」 「かも知れないわ」 「なるほど……。そうきたか」  規律に縛られ毎日のように似たような軍務の続く基地内の生活はたいくつだ。  休暇を取って外出・外泊した同僚から、自由な基地外の様子を聞きだそうとするのは自 然であろう。  新しい店は出来ていないか、とかの変化をいち早く知りたがる。  それらの中でも、特に興味があるのは、彼に会ったかどうかである。  休暇を取り、念入りに化粧して出かければ、誰しもがそう考える。  同僚とかの質問を適当に交わしながら、スリップも脱いでネグリジェとなっていた。後 は寝るしかない。 「ああ、そうそう。ニュースが入っているわよ」 「ニュース?」 「これよ」  と言って、広報を手渡してくれた。  それに記載されていたのは、新しく結成された独立遊撃艦隊への転属希望者の募集要項 だった。  独立遊撃艦隊?  既存の艦隊には所属せずに、独立で作戦行動することを前提に結成された新設の艦隊で ある。  総勢は二百隻ほどであり、艦隊に所属すれば最小の編成の部隊扱いであるが、その独立 性のために艦隊としての地位を与えられていた。トリスタニア共和国同盟として歴史上初 の前代未聞のことであった。  レイチェルは、その司令官の名前を見て驚いた。  アレックス・ランドール少佐。  バーナード星系連邦の連合艦隊を見事な奇襲で追い返して、第十七艦隊及びシャイニン グ基地の危機を救った共和国同盟の英雄であり、歴史上最年少の司令官である。  連邦の主戦級攻撃空母を四隻も撃沈し、五人の提督を葬ったその功績は絶大であり、共 和国同盟の最高議決機関の評議会の選挙が間近に迫っており、国民の人気取りのために評 議会議員からの要請で、少佐への昇進と独立遊撃艦隊の新設が決定されたという。 「あたし、志願するわよ。英雄と呼ばれる人物の下で働けるなんて素晴らしいことじゃな い? 独立遊撃艦隊なんて名前もいいしね」 「そう?」 「あなたはどうするの?」 「どうしようかな……。今聞かされたばかりだから」 「ねえ、一緒に行きましょうよ」 「と言われても、わたしは情報部だから、お役に立てるか判らないし……」 「大丈夫よ。戦闘に勝利するためにまず大切なことは、事前に敵の情勢を知ることじゃな い。直接に戦闘には関わらなくても重要な任務よ」 「そうかも知れないけど」 「同盟の英雄があたし達を求めているのよ。きっと転属希望者が殺到するわ。早く決めな いとあぶれちゃうわ」 「わかったわ、一緒に行きましょう」 「決まりね。ほんとはね、あたしもどうしようか悩んでいたんだ。あなたが一緒ならと思 ったわけ」 「なるほどね」  というわけで、独立遊撃艦隊への転属希望を申請することで決着した。  就寝時刻となってベッドに潜り込むレイチェル。  その枕元に置かれた写真立て。  士官学校の卒業式に仲間たちと一緒に撮ったものだった。  だが、その下にはもう一枚の写真が隠されていた。  同僚が寝入ったのを確認して、そっと取り出して眺めるレイチェル。  そこに写っていたのは、仲良さそうな少年が二人。  幼き日のアレックス・ランドールとそして……。 「アレックスか……」  写真の表面をやさしく撫でながら、幼少の頃に思いを馳せるレイチェルだった。
銀河英雄伝説 Die Neue These が放映開始されましたね。 キャラ設定や声優陣が一新されたので、少し違和感がありますが、そのうち慣れるでしょう。 ストーリーは原作や本伝に沿った内容なので、後はキャラと声優が一致するようになれば良し! CG製作で画質も向上しているので、これも良し。 さてさて、本伝と同様に全110話になるのでしょうか?

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2018年4月 4日 (水)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 パーティー

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(五)パーティー  ジャンボジェットはあっというまにアメリカへ到着する。  着陸先は真条寺家の財力を注ぎ込んだ私設国際空港。  私設ながらも、すぐ近くにあるジョン・F・ケネディー空港に勝るとも劣らない、 国の入出国管理局や税関そして検疫施設などもある、正式に国際的に認められた空港 である。  その空港に、次々と各国政府専用機が発着を繰り返している。  もちろん梓の十六歳の誕生日を祝う各国の親善使節が乗り合わせているのだ。  自国で専用機をチャーターできない国家や個人には、真条寺家の自家用機で送り迎 えの用意がしてある。  空港からは、アメリカ本国に入国する一般のゲートの他、真条寺家の屋敷に通ずる 直通ゲートがある。  直通ゲートを通るには二種類の方法がある。  入出国管理局で正式に手続きして入国する場合。  仮上陸許可証を受けて臨時的に真条寺家や隣接の国際救命救急医療センターに来訪 する場合。但しこの場合は、真条寺家の敷地内から外へ出ることはできないことにな っている。慎二が以前に医療センターに運ばれた際や、今回の真条寺家訪問はこの制 度を利用したのである。 「ここへ来るのは二度目だけど、相変わらず大きな屋敷だなあ。こんな大きな屋敷に 住んでいる主は、梓ちゃんとお母さんの二人だけで、後の数百人に及ぶ人間は全員使 用人だもんな。信じられないよ」  梓の十六歳の誕生祝賀会が盛大にとりおこなわれることになった。  次々と真条寺家に集まってくる人々。  各国の政府代表・首脳はもちろんのこと、分家の傘下にあるグループ企業や主要取 り引き企業のトップ達も招待されていた。もちろんその中には篠崎重工も含まれてい る。  屋敷内に用意された客間で、カクテルドレスに着替えた絵利香が歩み寄ってくる。 『改めて、お誕生日おめでとう、梓ちゃん』  その梓も、この日のヒロインにふさわしい豪華なカクテルドレスを身に纏って、来 客達の挨拶を受けていた。 『ありがとう、絵利香ちゃん。今日は楽しんでいってね』  ここでの公用語は英語となっている。自然に英語で会話をする二人。 『で、慎二君は?』 『相変わらず食ってるよ』  と梓が視線を移す先には、立食パーティーのテーブルに並べられた豪華な食事にか ぶりついていた。 『あはは……。何も言えないわねえ』 『他人の振りするに限るね。なんでお母さんが呼んだのかは知らないけどね』 『命の恩人だからでしょう?』 『たぶんね』 「ほへえ! ニュースでよく見る人物が一杯いるぜ! あいつはロシア大統領、であ いつがフランス大統領、英国皇太子に……あ! あいつは北朝鮮国家主席じゃない か!! 何でこんなところにいるんだよ」 「ここは一種の大使館的存在で治外法権が適用されているんだよ。アメリカの警察も 軍隊も、許可なく敷地内に入ることはできないんだ。だからアルカイダのオサマ・ビ ンラディン氏が潜伏していても捕らえることはできないのさ」  英語を話せない慎二のために、日本語で答える梓。 「まさか本当に潜伏してないだろうな……」 「いるわけないだろう。たとえで言っただけじゃないか」  さて治外法権であるが、外交使節や国家元首、当該国家の許可を得て領土・領海内 に入った軍隊や軍艦、国際司法裁判所の裁判官や国際連合の事務局長や事務局首脳と その家族に対しても治外法権が認められているのは周知の通りである。真条寺家がど のようにして治外法権の権利を得られたかは、実際のところ謎とされている。国際空 港や国際救急救命医療センターをその敷地内に有しているからという説や、莫大な税 金を納め国家を揺り動かすことのできる闇の大統領府としての存在を認めさせた経緯 説などがある。  前者の説が自然な流れであろうが、後者にしても真条寺渚が米国大統領や太平洋艦 隊司令長官と懇意である事実がその信憑性を高めている。
ちなみに文中の称号などについては、執筆当時のものです。

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2018年4月 3日 (火)

銀河戦記/鳴動編 外伝 王太子誘拐 後編

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 王太子誘拐 後編  ビントウィンドの船内では、王太子を見つけ出せない海賊達が、やっと探し出した皇妃 や侍女達を取り囲んで訊問を繰り返していた。 「王太子はどこだ?」  瞳を見開いて睨み返すように、きっぱりと答えるマチルダ皇妃。 「ここにはおられません。候国に残してきたのです。この子はマーガレット王女」 「嘘をつくな! 王太子を連れて、この船に乗り込んだのは判っているのだ。痛い目に遭 いたくなかったら、正直に差し出せ」 「本当です。生まれたばかりで、まだ船旅はご無理と判断して、お連れしていないので す」  皇妃の言うことを信じられない海賊達は、さらなる徹底的な船内捜査を続けたが、一向 に見い出せなかった。  そうこうするうちに、ビントウィンドが海賊艦隊に襲われている事を知ったハロルド侯 爵が、自治領艦隊を引き連れて救援にやってきた。  いつまでもビントウィンドに関わっていられなくなった海賊達。捕まってしまえば死刑 が待ち受けている。  あわててマチルダ皇妃と侍女達をその場に残して、ビントウィンドを引き払う海賊達。  不思議なことであるが、乗員達を皆殺しにした海賊達は、女性には一切手を掛けていな かった。皇妃はもちろんの事侍女たちの一人として傷一つ付けられていなかった。  こうして銀河帝国皇位継承者、アレクサンダー王太子は行方不明となった。【皇位継承 の証】も所在不明。  帝国艦隊及び自治領艦隊に捜索の至上命令が出されたが、手掛かりすら得られることも なく、やがて捜索は打ち切られることとなった。  マチルダ皇妃とマーガレット王女は無事であったが、肝心なアレクサンダー王太子がい ないという状況となった。  しかしながら、皇帝は戒厳令を敷いて、王太子行方不明の報をひた隠しにすることにし た。  帝国領内にまで海賊艦隊に侵入されたとあっては、皇帝の尊厳が丸潰れとなるからであ る。  事件の詳細は報道されることなく、大臣や将軍達の胸の中にしまわれることとなった。  当然外交的にも極秘裏に処理され、トリスタニア共和国同盟には、何も伝えられること もなかった。  しかしながら、バーナード星系連邦から特使派遣が行われ、王太子を保護しているから、 食料一千万トンと鉱物資源五十万トンとの引き換えを打診してきたのである。  当時から、中立地帯を生息地として、各地を荒らし回る海賊艦隊は、バーナード星系連 邦の回し者だとの噂があったが、公然の事実して認知されていた。連邦ではあくまで否定 していたが、その証拠が掴めないままとなっていた。  男子は軍人として、強制徴用される連邦では働き手が少なく、退役した老人と子供、そ して学校で学ぶ学生しかいないという状況である。連邦では、生活していく食料や、軍艦 を作る鉱物資源が不足していた。  派遣特使が食料と鉱物資源の供出を要求してきたのもそうした背景があったのである。  今回の事件も、国籍登録されていない海賊艦隊を派遣して、王太子を誘拐した後に、海 賊討伐に成功して王太子を保護したからと、いけしゃしゃあと言ってきているのである。 そして食料と鉱物資源を要求する。  これが連邦側の筋書きだったに違いない。  ビントウィンドへの強襲に成功したとの報を受けた連邦使節団が、王太子誘拐にも成功 したと早とちりしたことによるすれ違い外交の顛末だったのである。  その後、連邦側は人違いだったとの答弁をして、王太子誘拐の事件は自然消滅するよう に闇に葬られてしまった。  王太子を緊急脱出ポットで海賊艦隊の襲撃から守ったものの、行方不明となる結果とな った呵責を感じて、マチルダ皇妃は心労を重ねて半年後には亡くなった。  皇帝は、新たなる皇妃を迎えてみたものの、生まれてきた四人の子供はすべて王女であ った。しかも皇妃が次々と病死を遂げるという事態となった。誰かが毒を盛ったのだろう という憶測も流れたが、真相は判らずじまいだった。  とにもかくにも、銀河帝国にはマチルダ皇妃の生んだエリザベス王女とマーガレット王 女、後妻に迎えた皇后の生んだジュリエッタ王女、三人目の皇后が生んだ王女は夭折、四 人目の皇后からマリアンヌ王女という家族系統となった。  銀河帝国には、皇位継承の順番の低い王女ばかりが残された結果となった。  やがて後継者の不在のまま、皇帝が崩御してしまったのである。  皇位継承の問題が話し合われたが、王太子は行方不明なのであって、そのご存命は確認 されていないし、【皇位継承の証】も所在不明のままである。  時期相応として、当面の間エリザベス第一王女が、王太子が見つかるまで、摂政として 国務を司ることが決定した。  しかしながら、五年経ち十年経っても王太子は見つからずじまいだった。  いつまで経っても皇帝不在のままというわけにはいかなかった。  そこで持ち上がったのが、継承順位がアレクサンダー王太子の次位にあたる、ロベスピ エール公爵が皇位を継承するというものだった。ただし、公爵はウェセックス公国自治領 主なので、その権利を嫡男のロベール王子に譲って、皇帝にロベール王子を推すことにし たのである。  その意見に真っ向から反対したのが、アレクサンダー王太子との双子児であるマーガレ ット王女である。 「あの、馬鹿で鼻たれのロベールが皇太子候補ですって!」  ロベール王子には、精神薄弱の症状が多少なりとも見られた。  皇族同士の濃い血縁による結婚が繰り返されていることによる典型的な遺伝病と言えよ う。  性染色体の中で、X染色体中のとある遺伝子異常によって発症する、伴性遺伝する「血 友病」や「色盲」などが有名であるが、遺伝病の多くが日常生活に支障をきたすのが大半 である。  【エメラルド・アイ】も、突然変異遺伝子によってもたらされる所見であるが、この場 合は特例として病気としては定義されていない。  X染色体上に存在する「虹彩緑化遺伝子」に、Y染色体上に存在する「虹彩緑化活性化 遺伝子」が働いて、はじめて虹彩緑化が発症する。  人の虹彩の色は、青色や黒色に緑色と民族によって違いがあるが、虹彩に含まれる色素 はほとんど同じである。その密度によって青く見えたり、緑色に見えたりするのである。  しかし【エメラルド・アイ】はまぎれもなく緑色の色素を含んだ虹彩を持っている。  【エメラルド・アイ】がY染色体上に存在する遺伝子によって出現する限り、それは皇 族家の男子のみに遺伝する限定遺伝症であり、まぎれもなく銀河帝国始祖ソートガイヤー 大公に連なる正統なる血筋であって、皇帝となるべき人物なのである。  ともあれ母親所以のX染色体によって、【エメラエルド・アイ】が出現しないこともあ って、緑色遺伝子の保因者になっている場合もある。なので、その子供に【エメラルド・ アイ】が出現することもあるわけである。  現実問題として、絶対君主銀河帝国において、絶対的な権力を有するものは、XY染色 体双方に正統なる血筋を示す【エメラルド・アイ】であることを望むのは当然のことであ ろう。ましてやロベール王子は精神薄弱の症状を持っている。  ロベール王子が皇太子候補として擁立されたのを、快く思っていない皇族も多かった。  その急先鋒となったのが、マーガレット王女である。  ロベール王子が【エメラルド・アイ】でないことと、皇家の至宝である【皇位継承の証 】が所在不明なこと。  何よりも、アレクサンダー王太子は行方不明のままで、その生死も今なお確認されてい ない。銀河宇宙のどこかでひっそりと暮らしている可能性も捨てきれていない。  それらのことを拠り所として、自分に賛同する皇族・高級貴族を集めて、皇太子派とし て起ち上がった。  ロベール王子を皇太子として推したウェセックス公国ロベスピエール公爵、それを承認 した皇室議会と銀河帝国に対して、反旗を掲げたのである。  そして生まれ故郷であるアルビエール候国ハロルド侯爵の庇護を受けることとなった。  次期皇太子候補としてロベール王子を推す摂政派として、帝国本国&ウェセックス公国 連合。  アレクサンダー王太子を皇太子として継続させる皇太子派、アルビエール候国とそれを 支持する貴族連合。  両雄並び立って、銀河帝国を二分する内乱へと発展していったのである。  ジュリエッタ王女とマリアンヌ王女の去就が注目されたが、皇帝不在の長期化を問題視 してロベール王子側に分があるとして、摂政派につくこととなった。  マーガレットの叔父のハロルド侯爵が皇太子派を擁護し、自治領艦隊の運用で積極的だ ったのに対し、ジュリエッタの叔父のエセックス候国エグバード侯爵は、それぞれの考え 方に一分あるとして、中立の立場を表明して自治領艦隊を内戦には参加させなかった。  当然として戦闘は、帝国本国とアルビエール候国との国境付近のどこかで行われていた。  マーガレット第二皇女艦隊八十万隻とアルビエール自治領艦隊百六十万隻とで、合わせ て二百四十万隻という皇太子派軍。  対してジュリエッタ第三皇女艦隊六十万隻と、帝国統合軍艦隊百五十万隻、それにウェ セックス公国自治領艦隊三十万隻にマリアンヌ第六皇女艦隊十万隻、総勢二百五十万隻。  戦力としてほぼ拮抗した両軍が国境付近で睨み合っていた。  骨肉争う肉親同士の戦いであるが、元々仲の良かった間柄である。内戦状態になったと はいえ、相手のことを気遣って本格的な戦闘は行われることはなかった。  皇太子派としては、アレクサンダー王太子さえ見つかれば丸く治まると、今なお全力を 挙げての王太子捜索に取り組んでいるし、摂政派にしてみればロベール王子が十四歳の立 太子儀礼を迎えれば、皇太子派としても意義は訴えられないだろうと考えていた。  どちらにしても時が解決してくれるだろうという点で一致しており、要するに相手方の 主張を一方的に通さず、急進的な行動を起こさせないための戦術と言えた。  そもそも銀河帝国の両隣の大国はバーナード星系連邦とトリスタニア共和国同盟が、長 期に渡る熱い戦いを繰り広げており、銀河帝国としても遠見の見物というわけにはいかな かったのである。実際にもバーナード星系連邦が、海賊艦隊を派遣して物資を強奪してい るのも公然の事実となっている。  銀河帝国が本格的な内戦をはじめてしまったら、いずれの時には疲弊して、両国からの 侵略を許してしまう可能性もある。エセックス候国が自治領の防衛のために内戦に参加せ ずに中立を表明しているのも至極当然のことだったのである。

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アバ遊び)海は広いな♪

インターポット

う~みは~ひろいな~♪、おおきいな~♪

お姉ちゃん、どこ行くの?

ちょっと世界一周の旅に出ます。

ええ、世界一周?

この船、いつも東から西へとしか航行しないから。

太陽と一緒だね。

そうよ、丸い地球をぐるりと回って戻ってくるの。

あたしも連れてってよお(;´Д`)

なんてね、実はここ、運河だから。

運河なの?

ペンションの裏手にも運河があって、
手前の運河と裏手とを繋ぐ遊覧船というわけ。

なあんだ(*'▽')

潮吹きクジラが裏手を、行ったり来たりしてるでしょ。

ああ、そうだね。



姉が歌っている「海」ですが、左翼の朝日新聞などが、
軍国主義だ~!
などとほざいていましたね。
「カモメの水兵さん」「我は海の子」など、
子供たちを軍人へと誘う軍国歌だというのです。
三節にある
 海にお舟を浮かばして
 行ってみたいな よその国
が、大日本帝国の海外進出への期待を、子どもたちに歌わせたのではないか、というのです。
「我は海の子」の第七番でも、
 いで大船を乘出して
 我は拾はん海の富。
 いで軍艦に乘組みて
 我は護らん海の國。
ですからねえ。
朝日にとっては、日本はまだ戦後になっていないのでしょうね。

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2018年4月 2日 (月)

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇 出発

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇

(四)出発  空港。  尾翼に真条寺家の紋章、機首にはアメリカ国旗の描かれた専用機が停泊している。  機内、仲良く並んで座っている梓と絵利香。その前に座っている篠崎良三と花岡一 郎(篠崎重工専務)もにこやかに笑いながら二人と談笑している。彼らを接待してい るのが麗香と梓専属のメイド達。  窓から外を眺めていた梓が、声を上げて立ち上がった。 「あ、あの野郎!」  慎二が送迎車に乗ってこちらに近づいてくるのが見える。  絵利香が何事かと窓をのぞいて言った。 「なに? あ、慎二君だ」 「なんで、慎二がいるんだ。アメリカに行くの秘密にしていたのに」 「わたしは、しゃべっていないからね」 「沢渡さまは、渚さまがご招待されました」 「お母さんが?」  やがて機内に慎二が入ってくる。 「よお、みんな揃っているな」  慎二は良三の隣、絵利香の正面に腰を降ろす。 「慎二君。君が招待されていたなんて知らなかったな」 「あはは……。篠崎さんこそ、重役お二人が同時に会社を留守にしても大丈夫なんで すか? 社長と専務ですよね」 「副社長の健四郎叔父さまが残っているから大丈夫よ。社長の地位をお父さんから引 き継ぐためにアメリカ事業本部から帰ってきたばかりだけど」 「引き継ぐって……社長、引退しちゃうの?」 「引退はしないよ。母体企業である篠崎重工を含めた、グループ各社を統括する篠崎 コンチェルンを立ち上げることになってね、その会長に就任するんだ」 「花岡さんも、新しく設立する篠崎重工アメリカの社長になることが決まっているの よ」 「まあ、そういうわけだけど。我々がアメリカに行くのは、コンチェルンのニュー ヨーク本社ビル建設用地の下見にいく用もあるのだよ」 「あ、その用地は、お母さんがブロンクスに所有している土地を提供したのよ。真条 寺グループとの共同本社ビル建設ということにしたのよ」 「そうね。しかも篠崎デパートとホテルもある超高層複合ビルなのよね」 「あれ? ところで、お父さん達、どうして慎二君のこと知ってるんですか?」 「あ、いや。とある建設会社に建設機械などの重機を納入した際に、たまたまそこで アルバイトしていた慎二君に知り合ってね。彼、重機のオペレーターやってるから、 使用説明とかがあるだろう」 「それに建設機械の運転免許を持っていない彼が、どうして重機を動かしているのか、 気になって説明を聞いていたしね」  篠崎氏と花岡氏が解説したが、何事か隠し事をしている雰囲気であった。 「そういうこと」  慎二が同意する。  実は、実父の建設会社でアルバイトしている事は、父にも内緒にしているというこ とで、その身分も、絵利香達には秘密にしてもらいたいと、慎二が頼んでいたのであ った。 「でも、社長であるお父さん達が直接出向いて行く会社って、よほど大きな会社とい うこと?」 「いや違うよ。そこの社長とは大学では机を並べて勉強した間柄でね。まあ、親友と まではいかないが、親しく付き合っているよ。そんな関係から、建設機械の導入も社 長から相談を受けて、私が直接担当していたんだ」 「へえ、意外なところに繋がりがあるものね」  確かに、人生どこで誰と繋がっているのかは神のみぞ知るである。

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2018年4月 1日 (日)

銀河戦記/鳴動編 外伝 王太子誘拐 前編

銀河戦記/鳴動編 外伝

エピソード集 王太子誘拐 前編  銀河帝国首都星アルデランの中心部に燦然と輝いてその豪華さを誇るアルタミラ宮殿。  そ の宮殿の内の謁見の間では、御前会議が行われていた。  絶対君主制を敷く銀河帝国では、皇帝の権限は絶大であった。  政治においては自ら選んだ貴族や大臣達に命令を下していた。  銀河帝国内には直轄領と自治領とがあり、直轄領は大臣達に、自治領は皇家御三家と呼 ばれる皇族に政治を委ねていた。  ロベスピエール公爵家のウェスト公国、エルバート侯爵家のサセックス候国、そしてハ ロルド侯爵家のアルビエール候国、これが皇家御三家と呼ばれる自治領である。それぞれ に自由惑星連合、トリスタニア共和国同盟、バーナード星系連邦との国境を守っていた。  さらに直轄領や自治領内には、伯爵以下の高級貴族が治める委任統治領と呼ばれる制度 もあった。  御前会議とはいうが、大臣達や貴族達によって議論がなされるのではなかった。皇帝が 前回の会議で命令を下した内容の報告・確認が主となっていた。  一人の大臣が中央に進み出て報告する。 「アレクサンダー王太子とマチルダ皇妃がお召しになられた皇族専用お召し船【ビントウ ィンド】は、当初予定のコースを通って、アルビエール候国から本国に入る頃かと思われ ます」  父親であるハロルド侯爵家の元に里帰りして、出産と静養を続けていたマチルダ皇妃が、 皇帝の男子であるアレクサンダー王太子を連れて、帰還の途についていたのである。  当初予定のコースとは言ったが、もちろん大臣と護衛を担当する将軍だけが知っている 最重要機密事項であった。  ……はずであったのだが……。 「一大事です!」  と、謁見の間に青ざめた表情で飛び込んできた臣下がいた。 「何事であるか!」  大臣の一人が問い返した。 「アレクサンダー王太子がお召しになられているビントウィンドが海賊艦隊に襲われてい ます!」 「海賊艦隊だと?」  真っ青になって、思わず勢いよく立ち上がる皇帝。 「くわしく報告しろ!」  数日前のことである。  アルビエール候国首都星サンジェルマンの宇宙港の皇家専用発着場に、ビントウィンド が停泊している。  宮廷の方から侍女達に囲まれて、アルビエール侯爵家の候女であるマチルダ皇妃が出て くる。両腕で大切そうに抱えているのが、銀河帝国皇位継承権第一位となっている生後三 ヶ月のアレクサンダー王太子である。  もう一人、女官長に抱かれた皇帝の次女にあたるマーガレット王女の姿もあった。  銀河帝国皇家においては、皇位継承権として男子に優先権が与えられていた。直系尊属 男子、三親等内傍系男子、直系尊属女子という順位で継承が行われていた。それがゆえに、 アレクサンダー王太子とマーガレット王女は、双子であるにも関わらずその処遇に圧倒的 な相違があったのである。マチルダ皇妃がアレクサンダー王太子の方を抱きかかえている のも至極当然のことだったのである。何せ次世代の皇帝陛下となられる身分のお方なので あるから。  ビントウィンドのタラップの前で、ハロルド侯爵がしばしの別れの挨拶を述べている。 「くれぐれも身体に気をつけて、王太子を一人前の良き皇太子としてお育てするのだ。よ いなマチルダよ」 「はい。父上さま」 「儂も、今まで以上にアルデランを訪れることにしよう」 「ありがとうございます。首を長くしてお待ちいたしております」  自治領を治めなければならないハロルド侯爵にとっては、そうそう国を離れるわけには いかないし、絶大なる権力を持つ皇帝のお膝元アルデランを訪問することは、なかなか叶 わなかったのである。  侯爵に見送られてタラップを上ってビントウィンドに乗船するマチルダ皇妃。船に入る 前に、つと振り返って侯爵に手を振った。  侯爵もそれに応えて手を振っている。  やがてゆっくりとビントウィンドは発進した。  ビントウィンドは皇族専用の送迎用お召し船である。無骨な戦闘兵器などは一切艤装さ れていない。  あくまでも優雅に美しいフォルムを持っており、船体には皇家の紋章が描かれている。 その内装も豪華で広々としており、まるで宮廷に暮らしているような錯覚を感じるほどだ。  侍女を従え窓の外を時おり眺めながら、ゆったりとソファーに腰を沈めて王太子をあや したり授乳させていた。  その頃、護送艦隊の方では、一騒動が起きていた。  どこからともなく出現した所属不明の艦隊に襲われていたのである。 「海賊艦隊か?」  相手は容赦無用にして、戦闘の専門集団である。平和な国家において、戦いの経験のな い護衛艦隊が敵うものではなかった。  たちまちに撃破され、あっという間にビントウィンドは海賊艦隊に取り囲まれてしまっ たのである。  アレクサンダー王太子の誘拐!  それが彼らの目的のようで、ビントウィンドには一切攻撃を加えずに、進行方向を塞い で強制的に停船させてしまった。  勇躍ビントウィンドに接舷して乗り込んでくる海賊達。  視界に入った乗員達を片っ端から殺し回って、目指す相手である王太子を探している。 「王太子を探し出せ! 他の奴らは皆殺しだ」  リーダーと思われる人物が、大声で怒鳴り散らしている。  彼らの捜索対象である王太子を抱えたマチルダ皇妃は、とある場所に身を隠していた。  しかし見つかるのは時間の問題で、このままでは王太子が誘拐されてしまうのは必定で ある。  皇妃は決断した。  誘拐されるくらいなら、危険を冒しても王太子を脱出させようと考えたのである。  皇妃は、緊急脱出ポットに王太子を乗せ、銀河帝国皇太子のみに受け継がれる大粒のエ メラルドの首飾り【皇位継承の証】を、その小さな身体の首に掛けた。  王太子を乗せたポットが、脱出投入機に入れられた。 「幸運の女神ミネルバのご加護のありますように」  胸の前で手を合わせて祈る皇妃と、それに倣う侍女たち。  そして神妙な手つきで、脱出スイッチを押した。  宇宙空間へと投入される緊急脱出ポット。  とても小さなそれは、戦いを繰り広げている海賊達の目には届かずに、無事に戦闘区域 からの脱出に成功した。  脱出には成功したものの、航行能力のないポットは漂流するしかない。  やがて、トリスタニア共和国同盟の方向へと、静かに流れていくのだった。  ポットの中ですやすやと眠る銀河帝国後継者、アレクサンダー王太子を乗せて……。

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