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2018年4月20日 (金)

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない 野次馬達

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない

(三)野次馬達  玄関に向かう途中の通路が人ごみで溢れかえっていた。 「こら。おまえら何をしておるか」 「い、いえ。真条寺梓さまがお見えになられていると聞きまして。丁度、休憩中なん で、遠巻きにでも野次馬しようと。はは……」  さすがに梓の人気は圧倒的なものだった。  グループの代表に会えるというのは、重役連中でさえそう滅多にあるものではない。 ましてや華麗で清楚な十六歳のお嬢さまという噂を聞きつけて、誰しもが一目でも拝 見しようと、あちらこちらの部署から集まってきたのである。 「わかった。しかし、あまり騒ぐなよ」  そんな彼らに愛想うよく、手を振って答える梓。  さながら敬宮愛子さまがご来訪されたような風景にも似て、カメラまで持ち出して きて撮影しようとする者もいた。 「おい、おまえら。許可なくお嬢様の撮影は禁止だぞ」 「どうしてですか?」 「それは、お嬢様が天使だからだ」 「何ですか、それ?」 「要するにだ。お嬢様はアイドルはじゃないということだ。真条寺グループの総帥た る人物の素顔が世に出ることは避けなければならない。写真に撮れば万が一にも、そ のお姿が漏洩する可能性もあるじゃないか。今の世の中、パソコンにデータを置いて おけば、いつハッキングされるか判らないからな」 「セキュリティーは万全なのでは?」 「それにだ……。この研究所は、カメラの持ち込み禁止ということを忘れているだろ う」 「あ……」  あわててカメラを隠そうとする研究員。 「遅い! 没収する」 「ああ……」  カメラを没収されて消沈している。  梓に近づいて行く研究所所長。 「お嬢様。ようこそ、いらっしゃいました。当研究所所長の角田です」 「はじめまして」  ぺこりと頭を下げる梓。 「今日はどのようなご用件でお訪ねになられたのでしょうか?」 「いえね。近くを通ったものだから、寄ってみたの」 「そうでしたか、せっかくだから所内を視察されていかれますか? ご案内致しま す」 「そうですね。お願いします」  人ごみの中をかき分けて玄関フロアーに現れた人物がいた。篠崎重工社長の姿をみ とめて、軽く礼をして話し掛ける梓。 「篠崎のおじさま。おひさしぶりです」 「やあ、お誕生日いらいですな」 「絵利香ちゃんとは何度も会いに伺っているのですが、いつもおじさまはいらっしゃ らなくて」 「はは、何かと忙しくてなかなか家によることができませんのですよ」 「絵利香ちゃん、寂しがってますよ。たまの日曜くらい、父娘で食事にでもお出かけ になっては?」 「そうですね。いずれそうすることにしましょう。ところで、今日は梓グループの代 表として、視察にみえたのですか?」 「いえ。ほんとは近くを通ったついでに寄ってみただけで、視察なんてつもりじゃな かったんですけど。何か大袈裟になっちゃって」  と、人だかりに視線を移してみせる梓。 「いいんじゃないですか。梓さまに身近でお会いできるのは、グループ内でも重役ク ラスの大幹部だけですからね。確か、この研究所では所長と副所長だけじゃなかった かな。梓さまにお会いしてるのは。これを機会に、研究職員との親睦を深めるのも一 興かと」 「ふふ、そうかも知れませんね。ところで、おじさまは、どのようなご用事でこちら に?」 「財団法人AFCが来年四月に、大容量・超高速通信用の人工衛星『あずさ三号C 機』を静止軌道上に打ち上げるのはご存じですか?」 「あずさ三号C機? ですか。知りませんでしたわ」 「代表になられる以前からの計画ですし、相談役の渚さまが推進していますので、お 嬢さまがご存じでないのも仕方がありませんかな」 「今は学業の方を優先しなさいって、母はAFCのことをあまり話してくれないんで す」 「ははは、とにかくですね。三号C機は改良と最新技術の導入で、先代の三号B機に 比べて二十パーセントもペイロードが増えちゃったんですよ。それで打ち上げロケッ トもこれまでのものが使用できなくなったため、推進力のより大きなロケットが必要 になったのです。今後のことも考えあわせて、現在の二倍の推進力を持つロケットエ ンジンの設計を、この研究所の所員と一緒に開発しているのです」 「エンジンの設計って、大変なんでしょうね」 「そうですね。一ミリにも満たないほどの誤差が原因で、燃焼実験において大爆発、 数十億の施設が一瞬でパーになったことがあります」 「へえ!」 「社長、そろそろ」 「ああ、そうですね。お嬢さま、もっとお話ししたいですけど、仕事がありますので、 これで失礼します」 「あ、はい。こちらこそ、お時間とらせてしまってすみません。今度機会があったら 続きをお話ししてくださいませんか」 「いいですとも。では」 「はい」  ゆっくりと元来た通路を戻って行く篠崎社長と副所長。 「それでは、お嬢さま。研究所内をご案内いたしましょう。おい! おまえらもそろ そろ部署に戻れ」  所長が、野次馬を追い返し、梓を所内視察へと案内する。  応接室に戻った篠崎社長が質問する。 「ところで皆さん、梓さまのことをお嬢さまと呼ばれてたようですが、よろしいので すか。仮にも、AFCの代表ですよ」 「篠崎さんこそお嬢さまと呼ばれてらしたじゃないですか」 「はは、私の場合はいいのです。お嬢さまが『篠崎のおじさま』と個人的な呼び方を されたのでね」 「おじさまですか。いいですね、それ。あの可愛い声で、私もそう呼ばれたいですな。 ともかく、お嬢さまは、まだ高校生ですし、これから大学にも進学されるでしょう。 ご結婚されるか、相談役の渚様が完全引退されるまでは、お嬢さまでいいんじゃない ですか」 「なるほどね」

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