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2018年5月12日 (土)

続 梓の非日常/第三章 スパイ潜入 ライバルとして

続 梓の非日常/第三章・スパイ潜入

(三)ライバルとして  数日後。梓の通う城東初雁高校の正門前に、黒塗りのベンツに前後を挟まれるよう に、リンカーン・コンチネンタルが横付けされていた。そのでかい図体のせいで、道 は塞がれて車のすれ違いすら不可能だった。ベンツの傍らにはいかにもというような 風体の黒服の男達がにらみをきかしている。その異様な雰囲気に通りがかった車は、 あわてるようにUターンしたり、バックで引き返し脇道へ逃げたりしていた。無理し てでもすり抜けようとしたり、苦情を言って車をどかしてもらおうとする勇気のある ものは一人もいなかった。 「なにあれ、やくざ屋さん?」  リンカーンの脇をすり抜けるように生徒達が、何事かといった表情で三々五々通り 過ぎていく。ちらりとリンカーンの中を覗こうとする者もいたが、車のウィンドウは 遮光スクリーンで遮られていた。 「まったく。真条寺財閥の娘が、こんな下々の学校に通学しているとは。何を考えて いるのかしら。門は小さくて車で入れないし、車寄せすらないとは、よほどの貧乏学 校なのね」  とぶつくさと呟く声を耳にして、黒服は声を出さずに反問していた。 (……これが一般的な学校の姿だろうが。だいたい裏門からなら入れるってのに、神 条寺家の者が、裏口入学するような真似などできません、などとぬかしやがって… …)  財閥令嬢なのを鼻に掛けて、高飛車な態度をとる葵。ボディーガードとして雇われ て長いが、毎度毎度腹が煮え返るような思いには閉口させられていた。しかし、転職 するには昨今の情勢ではままならず、妻子持ちの彼らにはじっと堪えて耐え忍ぶしか ない。 「ところで、後ろの車、梓のよね」 「二百メートル後方、黒塗りのロールス・ロイス・ファントムVIですね。確かに梓 さまのお車のようです。少し広めの道路の交通の邪魔にならない場所で、待機してい るというところですか」 「それじゃ、何。このわたしが交通妨害しているといいたいの?」 「い、いえ」 (……しているだろが……) 「ふん。下々の者は、よけて通るのがあたりまえでしょ」  双眼鏡を覗いていた男が口を開いた。 「あ、誰かがロールス・ロイスに近づきました。何かがらの悪い奴ですね。親しげに お抱え運転手と話しています。やあ、おっさん。梓ちゃんのお迎えかい。さ、沢渡君 もお帰りですか」 「おまえ、一人で何を言ってるの」 「じ、実は読唇術の心得がありまして、同時通訳しています。つ、続けますか」 「勝手になさい」 「では、続けます。なあ、おっさんが出迎えにきているということは、どこかに出か けるつもりか。そ、それは……あ、ちょっと車に乗らないでください。いいからいい から。やめてください、お嬢さまにしかられてしまいます。なあに俺と梓ちゃんの仲 じゃないか。どういう仲なんでしょうねえ。ああ、沢渡君、やめて。って、とうとう 乗り込んでしまいました。後は見えなくなりました」 「おまえは馬鹿か」  呆れ顔の葵。  一方、放課後となり校舎玄関から校庭に出てきた梓たちがいた。 「梓ちゃん。見て、あれ。葵さんじゃないかしら」  と絵利香が指差す先に、リンカーンを見届けた梓。 「そうみたいね。窮屈な学校から解放されて、自由な時間を迎えようとしている時に、 一番会いたくない人物の出迎えを受けるなんて、今日は仏滅?」 「梓ちゃんを、待ってるみたいね」 「あたしは、会いたくない。裏門からばっくれようか」 「それ、女の子の言葉じゃないわよ、やめなさい。とにかく、ああやって狭い道をい つまでも塞がせておくわけにはいかないでしょ」 「しかたないか」  二人がリンカーンに近づくと、梓の顔を知っているお抱え運転手がドアを開けて、 乗車をうながした。 「梓さま、どうぞお乗りくださいませ。葵お嬢さまがお話しがあるそうです」  言われるままに乗車する梓。 「絵利香さま。申し訳ございませんが、お嬢さまは梓さまとお二人だけでお会いなさ れるとのことで、本日はお引き取り願いますか。よろしければ後ろのベンツでお送り いたします」 「いえ、結構です。一人で帰れますから」  ドアのウィンドウが開いて、梓が顔を出して言った。 「ごめんね、絵利香ちゃん。今日は、あたしの車で一人で帰って」 「う、うん」 「出して頂戴」 「かしこまりました」  絵利香を残して三台の車は走り去っていく。それを見届けたかのように、ロール ス・ロイス・ファントムVIが近づいて来る。運転手の白井が降りて来る。

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