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2018年7月

2018年7月31日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 XIII

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                XIII  三日間の休暇を終えてシャイニング基地に舞い戻ったアレックスは、次なる指令で あるタルシエン要塞攻略に向けての行動を開始した。  シャイニング基地に残って、捕獲した六万隻の艦船の改造の指揮にあたっていたカ インズは、戻ってきたアレックスに呼ばれて司令官室へ向かった。 「カインズ中佐。入ります」 「搾取した艦船の改造の進行状況はどうか」 「艦制コンピューターを同盟仕様に変えるのに手間取っておりまして、現在三万隻が 動かせるところまで進んでおります。乗員のほうも艦政本部長のコール大佐のおかげ で、丁度それを動かせる人数分だけ何とか集まり、現在試運転に掛かりはじめまし た」 「人集めに関しては、コール大佐の手腕はたいしたものだな。で、コンピューターウ ィルスの懸念は?」 「提督の指示通り、ROMはすべて総取り替え、SRAMやメモリディスクは完全に 初期化してソフトを再インストールしましたので、万全な状態です。ただそれが工期 を遅らせている原因になっておりまして」 「ご苦労様。たとえ手間がかかってもやらなければならない。ウィルスが潜んでいて は元も子もないからな。この基地を取り返したような事態になってはいけない」 「わかっております」 「さて……と」  アレックスはわざとのように呼吸を整え、パトリシアに視線を送った。パトリシア は書類入れのところへ行って、中の書類を取り出して戻ってきた。 「今三万隻が動かせるのだな」 「そうです」 「それでは、その三万隻の指揮を、貴官に預けよう」 「三万隻を私にですか」 「そうだ。カインズ大佐」 「大佐? 私が大佐に?」  アレックスはパトリシアに合図を送り、彼女が小脇に持っていた辞令書と階級章を 手渡させた。 「第十七艦隊は、四十八時間後にタルシエン要塞攻略に向かうことになった」 「タルシエンですか?」 「私は、別働隊としてウィンディーネ以下の第六部隊を率いて出るつもりだ。貴官に は、ドリアードから本隊を指揮運営してもらいたい」 「私が、本隊をですか?」 「ただし、作戦指令はこのウィンザー参謀長の指示に従ってくれ」 「わかりました。提督がそうおっしゃられるのなら」 「それから、第八占領機甲部隊メビウスを君のところからレイチェル少佐の配下に移 行する」 「メビウスを?」

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2018年7月29日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 XII

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                XII  軍法会議の糾弾から開放されて、自由の身となったアレックスは、トランター本星 に帰郷したのをいい機会として三日間の休暇を申請した。もちろんそれを拒否できる 者はおらず順当に受理された。  スーパーで買い物をしているパトリシア。その後ろにはカートを押しながらついて くるアレックスの姿があった。法廷での審議を終えて、帰宅の途中で立ち寄って日常 の品々を買い求めていたのである。  私生活においては、公務における立場と逆転して、主婦であるパトリシアの方が権 限を握っていた。毎月のローンやクレジットの支払い、公共料金、家計に関わること はすべて彼女が財布を握っていたのである。食料の購入はもちろんのこと、アレック スの着る衣料でさえ、彼女の意向に逆らうことは出来ない。彼女の家計簿には、妊 娠・出産費用にはじまる子供の養育・教育費など、将来に渡る家族構成をもしっかり 計算に入れられた、綿密な将来設計が出来ていたのである。  ゆえにアレックスが何か欲しいと思った時には、まず妻にお伺いを立ててからでな いと、何も購入できないのである。  郊外の一角の邸宅。  アレックスが准将になりこの一戸建をあてがわれた時から、パトリシアは自分に与 えられる予定だった大佐用の官舎は引き払い、この邸宅で一緒に暮らしている。未だ に婚約者のままであるとはいえ、士官学校当時に提出した同居申請は失効していない ので、自動的に居住の権利は有していた。  アレックスが婚約破棄するはずもなく、事実上の夫婦生活に入っていたのである。 もちろん一緒に暮らしているという事実は軍籍コンピューターに登録されており、万 が一アレックスが婚姻前に戦死するようなことになっても、引き続き居住できること になっている。これは同居する事実上の夫婦関係にあった婚約者の既存権利を保証す る制度である。ただし、同居の事実がなかった場合は居住する権利は消失する。あく まで同居が原則なのであり、同居の事実があってこそ居住の既存権利が発生するので ある。  婚約破棄しない限り、相手が死んでも婚約期間中に得た権利はそのまま有効である が、同時に別の相手とは婚約も結婚も出来ないという反面もある。  台所でエプロン姿で夕食の準備をしているパトリシア。だいぶ主婦業も板について きという感じではあるが、まだ二十三歳になったばかりで、初々しさもそこかしこに 残っている。艦隊勤務のために子作りしている暇もなくて、残念ながらまだ子供はで きないが、妊娠可能期間はまだ二十年以上あるので、あわてる様子もない。  一方のアレックスは食卓で報告書に目を通している。新婚当初、台所に入って手伝 いをしようとしたが、あまりの不器用さに呆れたパトリシアから、台所への立ち入り を禁止されてしまったのである。  アレックスの方を時々見やりながら、夫のために食事を作りながら、妻の責務を甘 んじて受け入れているパトリシアであった。自分がいなければ何もできない夫のため に、何かをしてあげられるということは、夫婦の絆を深くする精神的融合である。そ れぞれにないものを補い合うことこそが、子供を産むという以外、夫婦として結び付 く意義なのである。  やがて食事をお盆にのせて、食卓に運んでくるパトリシア。 「一戸建ての家に住めるなんて夢みたい」  エプロンを脱いで、アレックスの向かい側に腰を降ろすパトリシア。 「一応これでも官舎なんだぜ、将軍用のね。つまり借家ってこと」 「でも、退役してもずっとここに住んでもいいのよね」 「正確には、僕とその配偶者が亡くなるまでだ」 「そうね……」  といってパトリシアは微笑みながらアレックスを見つめた。 「タルシエン攻略に成功したら、あなたも少将となって内地勤務よ。そうしたら参謀 のわたしも一緒に地上に降りられるから、重力を気にすることなく、安心して子供を 産むことができるわ」  艦隊にある時は、優秀な参謀であるパトリシアも、アレックスと二人きりでいる時 は、本能のままに子供を欲するごく普通の女性であった。  寝室。  裸のまま並んでベッドに横たわる二人。 「ところで第十七艦隊でタルシエン攻略は可能なの?」 「内部に潜入出来れば、何とかなるかもしれない」 「潜入? でもどうやって」 「ああ、潜入の直接的な方法は俺が何とか考えるが、たぶん小数精鋭の特殊工作部隊 を組織することになるだろう。君には、特殊工作部隊を後方から支援する体制と、潜 入後の特殊部隊の行動指針及び艦隊運営に関わる作戦立案を検討してもらいたい」 「わかったわ」 「この作戦を成功させるには隠密行動を取る必要がある。たとえ味方にも特殊工作部 隊の存在を知らせたくない。君とゴードンとレイチェル、そして特殊工作部隊に参加 する将兵だけだ」 「わたしとゴードンとレイチェルだけに?」 「そう。恋女房と片腕だからな」  翌日。  ジュビロ・カービンと連絡が取れて、早速例の廃ビル地下室へと向かうアレックス。  レイチェルも当然として同伴する。 「久しぶりだな」  ジュビロが懐かしそうに出迎える。 「そちらも無事息災で結構。檻の中に入れられないかとずっと心配してたよ」 「そんなドジ踏まねえよ」 「早速だが打ち合わせに入ろうか」 「おいおい、いきなりかよ」 「二日後にはシャイニング基地に戻らなければならない、時間がもったいないからね」 「分かった」

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さよなら( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)??????

Niftyの会員IDを取得するときに、楽天VISAデビットカードで登録したのだけど、 システム改正?だかで新たに新カード発行された。 けれども、新楽天デビットカードはNiftyでは使えない(無効です)と叱らてしまった。 するとすべてのゲームも、カード無効ですということで、ログインすらもできない( ;∀;) 毎日お題の「人気ランキング3タイトルをプレイする」がクリアできない。 でもね、Nifty会員取得の時に、カード登録しなければ(家族がそうです)、 通常通りゲームで遊べるんだよね。 カード登録していなければ良し! カード登録してるとダメX、というのはオカシイのでは? このままだと、有料ブログの代金引き下ろしできずに、 今月一杯で自動退会(ブログ)になってしまうのか? さよなら~(;´Д`)

2018年7月28日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の壱

お知らせです。

2018年7月29日(日)11:00~15:00、会場:ツインメッセ静岡にて「刀剣乱舞オンリーイ
ベント、【百刀繚乱~君の心を白羽取り】開催予定

『刀剣乱舞-ONELINE』が、2018年9月29日から11月25日、京都国立博物館にて開催され
る特別展【京のかたなー匠のわざと雅のこころ】とコラボレーション。同作に登場する
刀剣が20振り以上展示されるほか、限定のコラボチケット(1000セット)発売予定。

 さて本文では、去年開催された京都文化博物館にて行われた「刀剣乱舞DAY」に間
に合わせようと筆を進めていたのですが間に合わず、今日の発表となりました。

 それでは土曜劇場の始まりです。


陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の壱

(壱)刀剣乱舞  大阪府立阿倍野女子高等学校。  1年3組の教室。  数人の女子生徒が集まって、とある話題に盛り上がっていた。  京都博物館で開催されている『刀剣乱舞DAY』についてである。  最近、若い女性達の間で流行っている、古代刀剣を擬人化したゲーム及びアニメであ る。  DMMゲームズとニトロプラスが共同開発したオンラインゲーム。  いわゆるイケメンな男子が登場する。  短刀・脇差・打刀・太刀・大太刀・槍・薙刀  七つの刀種にそれぞれイケメン男子が当てられている。  ちなみに打刀の一人?として、長曽弥虎徹があり、新撰組局長・近藤勇の所持剣とし て『今宵の虎徹は血に餓えている』という決め台詞で有名。そして蘭子の御守懐剣でも ある。  話題を持ち込んできたのは、『刀剣女子』を自称する金城聡子である。  刀剣女子とは、日本刀に愛着を持ち、全国各地の刀剣展覧会などを駆け巡る刀剣ファ ン(オタクともいう)のことである。  聡子が持ち込んだ雑誌のランキング表に一喜一憂するクラスメート。 「やっぱり私の『鶴丸国永』様が一番よ!」 「あーん『山姥切国広』様が準優勝なんて嘘よ!!」  先日非公式のランキング投票が行われた発表で持ちきりであった。 「ねえ、蘭子の一押しの刀剣は?」  聡子が話しかけてきた。 「あたし?」 「剣道部でしょ。好きな刀剣くらいはあるよね?」 「剣道部じゃないわよ。弓道部だからね」 「だって、剣道のインターハイに出てたじゃない」 「あれは、助っ人で出てただけよ」  聡子の言っていることは、以前に木刀に憑依した怨念が、次々と剣道部員を闇討ちし た事件において、陰陽師として解決するために、剣道の試合に出た時のことを指してい るらしい。 「で、何が好き?」  聞いちゃいない……。 「長曽弥虎徹よ」  執拗に尋ねるのに呆れてつい答えてしまう。 「長曽弥虎徹ね……あった、37位だわ」  その順位は後ろから数えた方が早い。 「あら、そう……」  興味なさそうに答える蘭子。  やがてチャイムが鳴って始業時間となり、各々の席へと解散するクラスメートだった。

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2018年7月27日 (金)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 XI

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                   XI  議場の扉が開いてアレックスが入場してくる。  そして被告席に入ると、 「アレックス・ランドール提督。貴官の処分を申し渡す」  審判長が審議の結果を言い渡した。 「貴官の今回の行動は、共和国同盟に対する離反であると言わざるを得ない。命令を 無視してシャイニング基地を撤退し、一時的ながらも占領される結果となり、共和国 同盟への侵略の足掛かりとされる危険性を生じたのである。しかしながら、それは第 十七艦隊及び第八艦隊のクルーの生命を守らんががための人情からきたものと信じる ものである。よって温情を持ってこれを処罰するのを猶予し、その条件としてアル・ サフリエニ宙域にあるタルシエン要塞攻略の任務を新たに与えることとする。もしこ の任務を達しえたならば、貴官の命令違反を不問に帰し、要塞攻略とシャイニング基 地防衛にかかる功績点を規定通りに与えることとする」  会場からため息にも似た吐息が聞こえた。  ニールセンがランドールを陥れようとしたことは誰しもが感じていた事である。そ れが逆の効果として、ランドールの名声を高めたに他ならないことを知り、今また新 たなる活躍の場を与えることとなったのは、ニールセンに対する痛烈なる皮肉な結果 となったわけである。 「以上で審議を終了する。全員解散」  全員起立して敬礼し長官の退室を待ってから、それぞれの持ち場へと戻っていった。  直立不動の姿勢で全員の退室を見届けているアレックスの肩を叩くものがいた。振 り返るとそれはトライトン少将であった。彼は軽く手を振って微笑みながらも無言で 退室した。  会議場を出たところで、ジェシカとレイチェルが待ち受けていた。 「いかがでしたか。会議のほうは」 「一応処罰だけは免れたというところだ。地位も階級もそのままだ。君達の処遇も な」 「よかったですね」 「しかし君達も大胆なことをしてくれたな」 「他に方法がありませんでしたからね」 「首謀者は一体誰だ?」 「リンダとフランソワですよ。リンダがTV局、フランソワが広報部、その他あちこ ち駆けずり回って大車輪で働いてくれました」 「あん? あの二人は犬猿の仲じゃなかったのか?」 「尊敬する提督の危機ということで共同戦線を結んだようです」 「ふうん……意外なこともあるもんだな」 「提督あってこその自分でもありますからね」 「それにしても、本当にシャイニング基地から艦隊を撤退させたのか」 「撤退? しませんよ、そんなこと。苦労して奪還したものをどうして、また敵に渡 す機会を与えなきゃならんのです?」 「TVではそう報道していたようだが」 「それは、リンダがTV局側に手を打って虚偽の報道をぶちかましたんですよ。あの 映像は、策略のために一時撤退したあの時のやつですよ。それをTV局に渡して流し てもらったんです。もっともTV局側にはその事実は伏せてありますけど」 「ふ……。やられたな」 「いやあ、今回のことは、あの二人の手柄です。提督ほどじゃないですけど、二人合 わせて一個艦隊に相当する働きをしましたね。ありゃあ、一介の艦長やパトリシアの 副官にしておくには、もったいないくらいの人材ですよ」 「そうか……かもしれないな」 「だいたい、敵の三個艦隊が迫っているのに、一個艦隊で防衛しろということ事態が 間違っているのです。いくら今までにも数倍の敵艦隊を撃破してきた事実があるとい え、それらはすべて奇襲先制攻撃であったから可能だったのであって、今回のように 専守防衛の任務にまで同様にうまくいくはずがありません。わざと攻守の立場を変え て奇襲攻撃を敢行したから何とか最終的に敵の手から守れたといえるのに」  ジェシカはつぎからつぎに憤懣をぶちまけて喋り続けており、アレックスが切り出 す機会を与えなかった。いつものことではあるが……。 「アル・サフリエニ宙域に向かうぞ」  アレックスは切り出した。 「え!? それってまさか……」 「タルシエン攻略を命じられた」 「また、難題を吹っ掛けられましたね」 「それにしてもタルシエンとは、また……」 「やっぱり、ランドール提督を潰そうという魂胆が見え見えじゃないですか」 「とにかく命令が下された以上、行くしかない」 「せめてもの救いは、防衛なんて堅苦しい作戦じゃなくて、攻撃ってところですね」 「そうだ、レイチェル」 「はい」 「早速、あいつと連絡を取ってくれないか」  あいつとは、ジュビロ・カービンのことである。  闇の帝王とも呼ばれる天才ハッカー。 「分かりました、ついに例の作戦を始動させるのですね」 「そうだ」  アレックスが少佐になったばかりの頃、ダウンダウンの廃ビルの地下室にて交わし た極秘裏の作戦計画が、ついに三年の時を経て発動することとなったのである。

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2018年7月25日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 X

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                 X  すべてのTV放送局が、ランドール提督の功績を讃えるような放送内容で、命令違 反に対する軍法会議が行き過ぎであると放映していた。  軍部の信用失墜の極みといえるだろう。 「広報部から言わせてください。今、ランドール提督を処罰するのは共和国同盟にと って重大な損失になります」 「またか……同盟の英雄とか言い出すつもりだろう」 「いけませんか? 士気を鼓舞する上で英雄の存在は必要不可欠であります。シャイ ニング基地防衛の時、三個艦隊が攻め寄せて来ると判っておりながらも、第十七艦隊 の士官達は誰一人として、乱れることがなかったそうです。これはランドール提督な ら何とか切り抜けてくれると信じて疑わなかったからでしょう」 「そしてその期待通りに難局を看破した。方法はともかくとしてな」 「だが、その方法が問題となっているのだ」 「ここに第十七艦隊副司令官オーギュスト・チェスター大佐を筆頭に全乗組員の署名 の入った嘆願書が届いています」 「全員か?」 「はい。一人残らず」 「ランドールは部下の絶大なる信望を得ているということか。今回の作戦における彼 の功績点は、基地防衛と敵二個艦隊の撃滅、そして艦船六万隻の搾取とで少将昇進点 に達した。順当にいけば第十七艦隊司令と准将の地位が、次席幕僚に巡ってくるとい うわけだが……提督の処分となれば、その夢を取り上げることになり、ひいては第十 七艦隊全員が離反する可能性があるというわけですな」 「それはまずいぞ。国民の期待はすべてに第十七艦隊、というよりもランドール提督 一人の名声にかかっているのだ。ミッドウェイ宙域会戦の折りもそうであったように、 連邦の連合艦隊来襲を完膚なきまでに粉砕した度量は、誰にも真似できないであろう。 たとえそれが命令違反を犯す奇抜な作戦であったとしても許容される範囲ではないだ ろうか。長期化する戦争によって財政は逼迫しており、国家予算に占める国防費の比 率は四割を越え、その重圧に国民は耐えかねているのだ。ランドールにさえまかせて おけば、国家は安泰だろうという気運は充満している。これ以上国民の期待を裏切る ことはできまい」  軍部から参列している者はともかく、評議会から参列している者はランドールの処 罰に反対の気運へと動いていた。  今回のTV放映の影響によって、ランドール提督の絶大なる国民の人気と信頼が、 改めて明らかとされる結果となったのだ。この会議場に参加している者達のほとんど が、ランドールを処罰に賛成したと知られれば、自分の地位が危うくなるのは必至で ある。次回の評議会選挙に出馬する予定の者は、これ以上の追求は人気に大きく影響 し落選は確実。そう思い始めている者が大勢を占めるようになっていた。今やラン ドール提督の人気に逆行するような意見は述べることができなくなっていた。 「処罰するに処罰できずか……」 「かといってこのままでは他の士官達への示しがつかん」 「どうだ、この際。例の作戦を、彼にやらせるというのは」  宇宙艦隊司令長官が口を開いた。 「作戦?」 「それはいい」 「タルシエン要塞攻略の任務をランドール提督に任せるのか」 「トライトン少将。君はどう思うかね」  審議官の一人が、参考人として参列していたトライトン少将に向き直った。  これまで審議の経過をじっと見つめていたトライトンであるが、静かに答えた。 「わかりました。ランドールの第十七艦隊にやらせましょう」 「決まりだ。タルシエン攻略の任務をランドールの第十七艦隊に与える」 「諸君。タルシエン要塞は難攻不落と言われて幾度かの攻略をことごとく跳ね返した。 もし成功すれば、指令無視の件を不問に伏し、規定通りの少将の位と現在空席の第八 師団司令官の席を、彼に与えようじゃないか。反対するものは」  議場が一時ざわめいてやがて静かになった。  宇宙艦隊司令長官の意見に反対できるものはいなかった。長官はぐるりと周囲を見 回して、異議のでないのを確認した。 「よろしい。ランドール提督をここへ」

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2018年7月23日 (月)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 IX

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                 IX  そこへ青ざめた官僚が飛び込んでくる。 「大変です。第十七艦隊が隊員全員の意志でシャイニング基地からの撤収を開始しま した」 「なんだと!」 「馬鹿なことをぬかすな。苦労してシャイニング基地を奪還したんじゃないか。それ を放棄するなんてことするか?」  その言葉にクライスター議員が反問する。 「おや、シャイニング基地を奪還するのに、提督がどれだけ苦労したかをご理解頂い ているようですな。それでも処断なさるとおっしゃる」 「問題が違うじゃないか」 「どう違うのですか」  顔を突き合せるように言い合う審議官達。 「みなさん。内輪もめなどしている状況ではありません。これをご覧ください。特別 報道番組のビデオ映像です」  事務官が、操作して会議場正面スクリーンにTV報道番組を映しだした。  マルチビジョン方式で各TV放送局が音声と映像を流している。 『本日。第十七艦隊司令官アレックス・ランドール准将が軍法会議にかけられている ことが判明いたしました。シャイニング基地防衛の任において一時的にせよ、命令を 無視してこれを放棄撤退したことへの責任が追求されています。なお、これに抗議し て第十七艦隊の全員が辞表を明示して、全艦隊が本国に向けて帰還をはじめました。 これによって第十七艦隊駐屯地であるシャイニング基地、カラカス基地は完全に無防 備となっております。両基地はバーナード星系連邦の侵略を防ぐ要衝であり、最前線 にある同盟の最重要基地であるために、今まさに連邦軍の驚異にさらされていること になります……』  ビデオ映像にはシャイニング基地を撤収する第十七艦隊が映し出されていた。各T V放送局一様に、シャイニング基地を撤収していく様を放映している。背景のシャイ ニング基地が次第に遠のいていく。 「馬鹿な!」 「第十七艦隊の連中は、一体何を考えているんだ」 「こんなTV放送をすれば、連邦に両基地が無防備であることをさらけ出して、侵略 の驚異にさらされるということが、わからんのか」  各TV放送局の番組は続いていた。 『第十七艦隊の隊員全員の総意として、『提督がシャイニング基地を放棄撤退したこ とへの責任が追求されているのであるならば、今ここで我々があらためてシャイニン グ基地を放棄撤退したところで、それを責任追求するにはあたらないであろう』とい うコメントが艦隊情報部より寄せられています』 『ランドール提督は、シャイニング基地を一時放棄してクリーグ基地に向かい、完全 包囲されていた第八艦隊を救援して、敵艦隊を撤退に追い込みました。その後で、再 びシャイニング基地に戻って三個艦隊を策略してこれを撃破し、基地を無事に取り戻 したのです』 『第十七艦隊及び第八艦隊の隊員達の生命、そして共和国同盟の全国民の窮地を救っ たランドール提督は、シャイニング基地を一時放棄して占領を許したその責任だけを 問われ、今まさに糾弾されようとしています』 『今回の件もそうですが、軍部がランドール提督を煙たがっていたのは、周知の事実 であります。そもそもが、敵三個艦隊が迫っているというに、一切の援護艦隊を向か わせるわけでもなく、ランドール提督の第十七艦隊のみに防衛の責任を押し付けたの です。これはどう考えてもランドール提督を見殺しにしようしたとしか思えません。 しかし期待に反してランドール提督は、無事シャイニング基地を奪還してしまった。 そこで軍部は、シャイニング基地を一時放棄したことを軍規違反として処罰しようと しているのです』

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2018年7月21日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 VIII

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                VIII  本星に戻ったアレックスを待っていたのは軍法会議であった。  審議官の居並ぶ中、一人被告席にたたずむアレックス。  議長が厳かに開廷を言い渡して、審議がはじまった。 「君がなぜ召喚を受けたか、わかるかね」 「基地防衛の任務を果たさずに艦隊を撤退させ、一時的にしろ敵の占領を許したこと でしょうか」 「その通り」 「しかし、最終的には任務を遂行したことになるがどうだろう」  審議官の一人が好意的な意見を述べた。 「いや。基地を防衛したとかしないとかが問題ではないのだ。命令を無視して、基地 防衛の任務を放棄したことにある」 「そうだ。軍紀を守らなくては軍の規律が保てない。ましてや艦隊の司令官がそれを 犯すことは重罪の何物でもない」 「その通りだ。よって当法廷は被告アレックス・ランドール提督を、シャイニング基 地防衛に掛かる命令違反の罪を犯した者として裁くことを決定する。なお当法廷は軍 法会議である、その審議を被告が立ち会うことを認めない。よって被告は別室にて審 議裁定の結果が出るまで待機を命ずる」  予想通りというか、アレックスに好意的な審議官は数人程度で、ほとんどがニール センの息の掛かった者で、断罪処分の肯定的であった。  憲兵がアレックスの両脇に立って退廷を促した。  静かに立ち上がって、別室に移動するために退廷するアレックス。  その際、上官として参考人出席しているトライトン少将と目が合った。  しかし参考人に過ぎないトライトンには、アレックスに手を差し伸べることはでき なかった。  済まないと言う表情で、静かに目を閉じるトライトンだった。  アレックスの退廷を待って、審議が開始された。 「さて、ランドール提督の処遇であるが……」 「ちょっと待ってください」  先ほどの好意的な意見を述べた審議官の一人が、手を挙げた。 「もう一度、ランドール提督の処遇について再考慮していただけませんか?」 「どういうことだ?」 「ランドール提督は、総勢五個艦隊を撤退及び壊滅、そして略取して敵の司令長官を 捕虜にすることに成功し、最終的にはシャイニング基地の防衛を果たしたのは明確な 事実です」 「なぜだ? 奴は命令違反を犯したのだぞ。それだけで十分じゃないか」 「あなた方は、どうしてそうもランドール提督を処分なさりたいのですか? バー ナード星系連邦の侵略をことごとく粉砕し、共和国同盟に勝利をもたらした国民的英 雄をです」  その審議官の名前は、ケビン・クライスター評議員である。  軍法会議には、軍部からと評議員からと半数ずつが列席することが決められている。 軍部の独断による断罪を防ぐためである。  評議会議員からの参列者であるためか、トライトンやアレックスに好意的であり、 ミッドウェイ宙域会戦の功績を高く評価して、アレックスの三階級特進を強く働きか けたのも彼であった。  その背景には評議員が、国民の選挙によって選ばれるために、世論などの国民の動 向に逸早く反応するからでもある。早い話が次回の選挙に有利になるように、国民的 英雄というアレックスを祭り上げようとしているのである。ゆえにアレックスを処断 するなど到底賛同できないことである。 「軍には軍紀というものがあるのだ。上官の命令に服従することは、その基本中の基 本じゃないか。会社においても上司から命令されて仕事を進めることがあるだろう。 命令を無視されては、軍や会社が成り立たなくなるというのは、いくら評議員のあな たでも判らないはずがないと思うがね」 「だからといって、『死んでこい』と言われて、喜んで死んでいく者がいるだろうか。 不条理な命令には抗議する権利があるはずだ」

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2018年7月19日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 VII

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                VII 「ゴードンを呼んでくれ」 「はい」  スクリーンにゴードンが映しだされる。 「なんでしょうか」 「君の部隊を基地の周辺に展開させて哨戒作戦に入ってくれ」 「了解! 哨戒作戦に入ります」 「たのむ」  スクリーンからゴードンの映像が消えて、降下作戦にはいった第八占領機甲部隊 「メビウス」のモビールアーマー隊の姿が映りだされていた。 「提督、本星より入電。トライトン少将が出ておられます」 「こっちのモニターに繋いでくれ」  指揮制御桿のモニターに切り替わった。 「今、報告を聞いた。ご苦労であった。捕虜の方は輸送船団を向かわせて、本国へ送 還すればよいとして、問題は捕獲した艦船の処理だろう」 「はい、その通りです」 「敵艦船を搾取した場合は、当該司令官の所轄に入ることになっているが……しかし、 六万隻とはな。艦船はともかく乗員の確保がままならないだろう」 「船があっても乗組員がいないことには動かせません」 「乗組員のことはこっちで何とか手配しよう。それよりも、君は軍法会議に諮られる ことになった」 「軍法会議?」 「一時的にとはいえ命令を無視してシャイニング基地を放棄したことによる軍規違反 問題に対してだ」 「そうですか……」 「ともかく至急本星に赴きたまえ」 「わかりました」  やはりというべきか、来るべき時が来たという状況であった。 「提督!」  艦橋の士官達がアレックスのまわりに集まってきた。 「今の話しは本当ですか?」 「軍法会議だとか……」 「そういうことだ」 「そんなのないですよ。シャイニング基地を立派に守り通したじゃないですか」 「安心しろ。軍法会議にかけられるのは、私だけだ。君達は、命令に従って作戦を実 行したのであって、咎められる筋合いは一つもないからね」 「そんな……」 「この作戦を考えたときから、こうなることは想像はしていたさ」 「でも……」 「艦隊の行動に対して責任を取るのは司令官として当然だ。軍に限らず一般の会社だ って、社員が問題を起こせば社長といった重役が連帯責任を取るものだ。そうだ ろ?」 「そりゃそうですが」 「オーギュスト・チェスター大佐」 「はっ」 「私がトランターに行っている間、副司令官として後のことを頼む」 「判りました。おまかせ下さい」  アレックスが軍法会議にかけられるということは、またたくまに第十七艦隊全員の 知るところとなった。それぞれの艦の至る所でその噂話しがささやかれていた。  ここサラマンダーの食堂でもその話題で持ちきりだった。 「冗談じゃないわ。なんで提督が軍法会議にかけられなきゃならないのよ」 「シャイニング基地を放棄して、一時的にせよ敵に占領されたことに対してだろう な」 「提督は、あたし達の命を守るために軍法会議覚悟で、あの作戦を実行したのでしょ う?」 「そうよ。今度はあたし達が提督をお救いする番じゃないかしら」 「どうするの?」 「軍司令部に嘆願書を送るのよ。それでも聞き入れなければ、第十七艦隊全員離反し て抗議行動を起こしましょう。あたし達にはそうする義務があるわ」 「だいたい敵の三個艦隊が迫っているというのに、たった一個艦隊で防衛しろという のが無理な命令だったんだよ」 「提督は、他の提督達から煙たがれていたからな。史上最年少の提督ということで何 かにつけて因縁つけられる。無茶な作戦を押し付けたかと思うと、その作戦を難無く 成功させたらさせたで、今度は任務放棄の廉で責任をとらせようとする。おそらく軍 法会議を持ち出したのは、絶対防衛圏守備艦隊司令長官のチャールズ・ニールセン中 将に決まっているさ」 「どうやら軍部の大半は、提督を潰しにかかっているんじゃないか。ほら提督は、銀 河帝国からの流浪者だっていうじゃないか。それもあるんじゃないかな」 「何いってんのよ!」 「そうよ。人種や身分の違いで人を差別するき?」 「そんなに怒るなよ」 「怒るわよ」 「同盟憲章にだってちゃんとうたわれている条文を忘れたの?」 「それくらい。知っているさ、憲章の第八条だろ」 「なら言わないでよ」 「しかし軍部の連中はそうは思っていない。ランドール提督は、ともかくシャイニン グ基地の防衛を果たしたうえに、敵一個艦隊の搾取に成功して大将を捕虜にした。功 績点はすでに少将の昇進点に達しているという。規定通り少将になれば、すべての准 将が年下であるランドール提督の下で従わなければならなくなる。ガードナー提督を 除けば二十歳以上離れているんだ、耐えられるか?」 「息子におしりぺんぺんされる父親ってところね。少将や中将連中も気がきではない でしょうね。下から猛烈なる追い上げを掛けられていれば」 「提督の罪ってどれくらいになるのかしら」 「う……ん。一度も戦わずに撤退したのだから、いわゆる敵前逃亡ということになる んだろ、やっぱりさ。……となると最悪で銃殺になるかな」 「銃殺ですって!」 「これが連邦軍のヤマモト長官の艦隊だったらまず間違いないところなんだがね。ほ ら、あのナグモ長官が自決したのだってその責任をとったんだよね」 「冗談じゃないわよ」 「提督の味方といえば、トライトン少将とガードナー准将くらいでしょう?」 「ここは一つ、より多くの味方を引き寄せるべきよね」  リンダが何か妙案を思いついたらしく、身を乗り出すようにして言い出した。 「より多くの味方?」 「共和国同盟の一般国民よ」 「そうか、提督は国民の英雄だからな」 「それでね……」

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2018年7月17日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 VI

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                 VI  宇宙空間ではすでに戦闘は終了していた。  撃破された艦船の残骸や破片やらが軌道上を取り囲むように浮遊していた。  基地からの対軌道迎撃ミサイルと、自艦の索敵レーダーの圏外からの魚雷攻撃、そ して勇躍飛来してきたサラマンダー艦隊の猛攻に成す術もなかった。 「残存の敵艦隊、四散して逃げていきます」 「追う必要はない。それよりも救助の方を優先させろ。敵味方に関係なく一人でも多 くを救助するのだ」 「わかりました。救護班を出動させます」 「たのむ」 「上手くいきましたね」 「ああ……。これがフレージャーならこうも巧くいかなかっただろう。かつてのハン ニバル艦隊騒動でカラカス基地を潔く撤退したのは、カラカス基地の管制システムを チェックし完全掌握する以前に、我々が引き返してきたのを知ったからだ。フレージ ャーは慎重過ぎるほどの軍人のようだ。管制システムにウィルスが忍ばせてある可能 性を危惧してのことだと思う」 「確かに、これまで何度となく戦ってきましたが、大した戦果をあげられずに、双方 痛み分けで終わっていました」 「それにしても軌道上には二個艦隊が展開して、これと戦うのは骨かと思いましたが、 地上ミサイルのおかげてあっさり片付きました」 「シャイニング基地の防御システムの絶対防衛ゾーンの内側に展開していたからな。 目標ロックオンせずとも、撃てば必ずどれかに命中するさ」 「目隠ししてでも当たりますね」 「さて、はじめるとするか……。レイティ、基地の無線封鎖を解除だ」 「はい、無線封鎖を解除します」 「通信士。地上の基地の敵に降伏を勧告してくれ」 「了解」  基地管制塔。 「通信が回復しました。というよりも敵が通信回路を開いたのでしょうが……」 「敵より降伏勧告です」 「なめやがって。降伏するくらいなら、地上に降ろした艦隊で出撃して」 「お止めください。基地は敵の手の内にあるのです。発進と同時に、地上基地から対 空砲火を浴びせかけられて損害を広げるだけです。このシャイニング基地は五個艦隊 に匹敵するくらいの強力な防空設備があるんです。防衛艦隊が一個艦隊しか配備され ていないのはそのためなのです。先程の防空ミサイルだって、せいぜい十分の一くら いしか使用されていません。不可能ですよ」 「五個艦隊じゃないだろ、迎撃システムと言ったってせいぜい基地周辺だけが相手だ ろう」 「お忘れですか? 艦隊は垂直離陸ができません。成層圏を突破して宇宙に出るには、 大気圏を滑空加速しながら高度を上げていかなければなりません。最短距離でも惑星 を半周しなければ宇宙に出られないんです。つまり半周すれば、理論上惑星上のどの 地点からも攻撃が可能です。もちろん弾道ミサイルなら無制限ですしね」  その時、上空からまばゆいばかりの光が射したかと思うと、基地周辺の土地が一瞬 に蒸発した。 「あれは?」 「軌道上からの対地レーザー攻撃です。敵艦隊が艦砲射撃してきました」 「降伏しなければ一斉攻撃するぞという威嚇か」 「お考えください。我々は宇宙に出なければ攻撃できないのに対し、敵は軌道上から いつでも艦砲射撃や軌道爆雷攻撃などとあらゆる攻撃が可能です。その上こちらは、 給水設備などを止められてしまっては、持久戦に持ち込むことも出来ません」 「降伏しろというのか」 「ここは敵勢力下にあります。救援を頼むこともできません」 「ちきしょう。いっぱい食わされたというわけか……。ランドールめ! 姑息な手段 ばかりとりよってからに」 「長官、ご裁量を」 「わ、わかった。降伏しよう」  うなだれる司令長官。 「提督。敵将より降伏勧告を受諾するとの返信がありました」  艦橋内に沸き起こる歓声。旗艦艦橋は参謀以外全員女性士官のために、それが一斉 にかん高い歓声をあげた結果として、アレックスの聴覚神経は一時的な混乱状態に陥 った。 「静かに!」  たまらず制止した。 「通信士、本部に連絡。敵艦隊を撃破し、任務を完了する」 「かしこまりました」 「カインズ中佐!」 「はっ」 「メビウス隊に、占領作戦行動開始を発令。降下部隊の指揮を取れ。直ちにだ」 「了解しました」  カインズは自分の指揮パネルを操作しながら配下の部隊に命令を下していた。  パトリシアが寄ってきた。 「おめでとうございます」 「なんとかうまくいったな。相手が違うとはいえ、同じような作戦が二度通用すると は」 「フランソワも言っていましたように、敵もまさか士官学校時代の作戦記録まで調べ はしないでしょうから」 「そうだな……」

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2018年7月16日 (月)

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス クリスマスパーティー

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス

(六)クリスマスパーティー  着陸した飛行甲板には、たくさんのジェット機が羽を広げて休んでいた。  いつでも飛び立てるように待機しているようだが、すべてエンジンを止めていて発進 体勢の機はなさそうだ。  梓たちが戦闘ヘリから飛行甲板に降り立つと、すぐに周りを甲板要員が取り囲んだ。  やはりというべきか銃を構えている保安兵もいる。  やがて人並みが分かれて、高級士官らしき人物が現れた。  にこにこと微笑み両手を広げて迎え入れるように言葉を発した。 『ようこそ、ジョージ・ワシントンへ。艦長のジョン・ヘイリーです』  鷲のマークの階級章と、星にライン四本の肩章は、海軍大佐であることを示している。  火災事故を起こした前艦長のデービッド・ダイコフ海軍大佐に代わって就任したばか りである。 『あ、どうも……真条寺梓です』  訳が分からない一行は唖然とした表情で受け答えする。  そういった事情を知ってか知らずか、艦長は表情をくずさずに案内をはじめた。 『どうぞ、こちらへ。みなさんがお待ちになっております』  と、先に歩き出す艦長。  顔を見合わせる梓一行たちだが、ここは着いて行くしかないようである。  梓、慎二、麗華という順番で歩き出す。  いかに巨大な航空母艦といえども戦闘艦であるから、人がすれ違うのがやっとという くらいに、その通路は意外にも狭い。  特に浸水や火災などのダメージコントロール(damage control)対策としての防護壁 が要所に配備されていて、その重厚な扉に身体を屈めてくぐらなければならなかった。  軍艦などの「ダメージコントロール」についての情報は最高機密扱いとなる。太平洋 戦争中に大規模な海戦を経験したアメリカ海軍や大日本帝国海軍の頃の戦訓を取り入れ た海上自衛隊の艦艇と比べ、それらの経験が比較的少ないヨーロッパ諸国の艦艇は、現 在でも可燃性のある材質を使用していたり被弾しやすい箇所に弾薬庫や士官室が配置さ れているなどの点が見られる。こういったものは実戦を経験して初めて得られるノウハ ウでもあるため、訓練等で補うのは難しく、フォークランド紛争においてイギリス海軍 の駆逐艦シェフィールドがエグゾセ対艦ミサイルの攻撃を受けた際、不発だったにも拘 らずミサイルに残された燃料による火災が発生。これに加えて信管の解体に失敗して爆 発が起こり、シェフィールドは沈没している。  何度かの防護扉をくぐりぬけて、やっと広い空間に出た。  そこは、飛行甲板の真下の広大な格納庫だった。  多くのジェット機は飛行甲板に揚げられていて、ここに格納されているのは少数だ。  それもそのはずで、格納庫にはテーブルが並べられて、豪勢な料理が盛り沢山に飾ら れていたのである。  中央のテーブルには巨大なケーキが、据えられていた。  すると、 『メリークリスマス!』  誰かが叫んだ。  それを合図に方々でクラッカーが鳴らされ、 『メリークリスマス!』  の大合唱がはじまった。  数人の儀礼用の制服を着込んだ高級士官が歩み寄ってきた。  その中の一人の肩章には銀星印が三つ。  つまりは、階級が中将(Vice Admiral)ということになる。  ここ横須賀で中将となると、第46代・第七艦隊司令長官のジョン・ハート中将である。 指揮艦「ブルーリッジ」から移乗してきたらしい。  米海軍作戦本部作戦次長(作戦・計画・戦略担当)に転出したウイリアム・クラウ バー中将の後任である。 『ジョージ・ワシントン船上クリスマス・パーティーにようこそ』  と言われて、 『船上クリスマス・パーティー』  唖然とするばかりの梓だった。 『驚かせてごめんね』  背後から聞き覚えのある、懐かしい声が届いた。  振り向くと、 『ママ!』  梓の母親の渚だった。  実に久しぶりのご対面だった。 『ママが仕組んだのね』  母親が姿を現したことで、すべてが納得できた。  絵利香の誘拐は、梓をこのジョージ・ワシントンへと誘い込むための演出だったのだ。  太平洋艦隊司令長官ボブ・ウィロード大将と懇意だからこんな演出も可能であろう。  渚の後方から絵利香が姿を現した。 『絵利香! 無事だったのね』 『無事も何も、渚様の企みだったのね』 『まったく……我が母ながらなんともはや』  そんな中ただ一人、ぽつねんと呆然としている男が一人。  沢渡慎二は圧倒されつづけていた。  第七艦隊司令長官の後方には、さらに高級士官が待機していた。  第五空母打撃群の司令官、リック(Richard)・アレン海軍少将。  第五空母航空団の司令官、マイク・ブラック大佐。  在日米海軍司令官、ジェームズ・D・カリー少将。  ジョージ・ワシントン新艦長ジョン・R・ヘンリー大佐。  横須賀基地司令官グレゴリー・コーバック大佐。  ドナルド・スプリング海軍長官(アメリカ合衆国海軍省における文官の最高位)。  そして駐日大使のトーマス・チーパー。  二度とはお目に掛かれない豪華なメンバーだった。  日本周辺及び極東の平和を守る世界最強の艦隊を運営する諸々の高級士官達である。  大人たちにはシャンパンが開かれ、梓たちにはレモンスカッシュが振舞われた。  そしてもう一度。 『メリー・クリスマス!』  第七艦隊最新航空母艦、ジョージ・ワシントン船上でのクリスマス・パーティーのひ とときであった。 終章 了 第三部へ続く
米軍所属の艦艇や所属などは、執筆当時のものです。

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2018年7月15日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 V

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                 V  途中補給艦隊と合流して燃料・弾薬の補給を受け、乗員を交代で休息をとらせなが ら、再びシャイニング基地に舞い戻ってきたアレックス達。 「敵の二個艦隊は基地の周囲に展開して防衛の布陣を敷いております」 「残る一個艦隊は基地に降下しているもよう」 「後方支援部隊の到着はまだのようだな」 「おそらく後方支援部隊の到着と同時に、同盟への進撃を始めるのでしょう」 「それまでに基地を奪還しなきゃならんわけだ」 「その通りです」 「うむ……」  と、じっとシャイニング基地の周辺映像を見つめているアレックス。 「うまくすれば地上の一個艦隊を鹵獲(ろかく)できるかもしれんな」 「もう……それだから盗賊艦隊と呼ばれるんですよ」 「呼ばせておくだけさ。敵艦隊を撃沈させるのと捕獲するのとでは、戦果は二倍とな って現れるのだ。撃沈は敵戦力を削減するだけだが、捕獲はさらに同数の味方戦力を 増やす効果があるのだからな」 「できますかね」 「やってみるだけさ。レイティ、スクランブル信号を送ってみろ」  技術将校のレイティ大尉が計器を操作している。  シャイニング基地から応答信号が帰ってくる。 「大丈夫です。いけますよ。敵は細工に気付いていないようです」 「よし、それでは一発やらかしてみるとするか」 「さぞかし驚くでしょうねえ」 「将兵達の士気は?」 「先の戦闘の勝利で、活気さかんです。疲労度も交代で休息をとっておりますので、 十分とはいえないでしょうが、戦闘には差し支え有りません」 「レイティ、基地の管制コンピューターを閉鎖。コントロールをこちらに転換」 「はい。コントロールをこちらに転換」 「ほんとうにうまくいきますかね」 「転換終了。基地の管制をすべてこちらでコントロールできます」 「よし、地上ミサイルの安全装置解除だ」 「了解!」  一方シャイニング基地管制塔では一悶着がはじまっていた。  第十七艦隊撤退の後を受けて、容易にシャイニング基地の攻略を完了したキンケル 大将。  かつてどれほどの艦隊が攻略に挑戦し、ことごとく撤退の憂き目に合わされたシャ イニング基地に、はじめて足を踏み入れたことで得意げになっていた。  だがその得意満面の表情が、この直後には顔面蒼白に陥るはめになるとは……。 「レーダーに敵艦影発見」 「やはり戻って来たな。しかし、遅かったようだな。警報発令だ」 「はい」  機器を操作する隊員。しかし、警報は鳴らなかった。 「どうした。警報はまだか」 「そ、それが。機器がうんともすんともいいません」 「もう一度やってみろ」 「だめです。やはり、一切の操作を受け付けません」 「原因を調べろ」 「司令!」  別の隊員が叫んだ。 「どうした」 「こっちも機器がいうこととを効かなくなりました」 「こちらもです」  次々とコントロール不能の報告がなされ、青ざめていく司令。 「何だと!」 「だめです。管制塔の全機能が完全に封鎖されました。こちらからは一切のコント ロールができません」 「馬鹿な。一体どうしたというんだ」  さらに報告が続く。 「司令!」 「今度はなんだ」 「地上ミサイルが発射体制に入りました。ミサイル・サイロが次々と解放されていき ます」  管制塔から地上のミサイル発射口が次々と開いていくのが見える。同時にミサイル のロケットエンジンが点火されて、発射口から白煙が立ち上りはじめる。 「何だと、食い止めろ」 「だめです。今、最終ランチコードが入力されました。発射されます」  地上基地より無数の対軌道迎撃大型ミサイルが、炎と黒煙を巻き上げ、轟音を響か せながら次々と上空めざして昇っていく。 「どうやら管制コントロールは敵が握っているようです、どこからかで遠隔操作して います。つまりこの基地は、敵の好き勝って放題というわけです。完全に敵の術中に 陥りましたね」 「ブービートラップか」 「ミサイルは軌道上の我が艦隊を目指しています」 「何ということだ。あれだけのミサイルが、何も知らない無防備の艦隊の背後から襲 ったら……」 「全滅は免れないでしょう。敵艦隊も迫っておりますし」 「前面には強力なサラマンダー艦隊、背後からは地上発射の大型ミサイルか」 「挟み撃ちというわけです。仮に大型ミサイルをかわせても、乱撃戦はお得意の敵の 餌食になるのは必至」 「無線連絡もできないのか」 「だめです。無線は完全に沈黙」

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ちょっと一休み

インターポット

織姫と彦星(宇宙シートで浮遊できます)

空飛ぶの疲れたから、ここで一休みしましょう。

そうだね、雨も降っているしね。

でも、不思議だわ。

なにが?

だって雲もないのに雨降ってるし。

うん、不思議だね。

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2018年7月14日 (土)

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス 横須賀基地

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス

(五)横須賀基地  梓一行を乗せた戦闘ヘリは、先行する飛行機を追跡する。  やがて目前にその姿が見えてきた。 『追いつきましたよ』  パイロットが指差す方角にエアプレーンが飛んでいた。 「何とか停止させることはできないの?」 「無理ですよ。空中でエンジンを止めれば墜落するだけです」 「まどろっこしいなあ。一発ぶち込んでやれよ。そうしたら俺が飛び込んで助け出して やる」 「どうやって? 助け出したとして、無事に地上に降りれるの?」 「だから……さあ……空中で再び戦闘ヘリに舞い戻るんだよ」 「本気? できるの?」 「さあ……やってみなければ判らないさ」 「もう、冗談は顔だけにして」  成功率百パーセントならお願いものだが、戦闘ヘリは回転翼が邪魔して空中で乗り込 むのはほとんど不可能であろう。 「くやしいじゃないか。せっかくの最新装備があるのに……」  VZ-1Z Viper には、AIM-9 サイドワインダー空対空ミサイル、AIM-92スティンガー地 (空)対空ミサイル他が装備されている。 『まもなく海上に出ます』  前方に東京湾が広がっていた。  エアプレーンは東京国際空港や成田国際空港の飛行コースを避けるように低空飛行を 続けていたが、千葉港に差し掛かった辺りで大きく右へと旋回をはじめた。 「こっちの方角には……」  米軍の横須賀基地があった。  と、思った途端。  F/A-18F戦闘機「スーパー・ホーネット」(第102戦闘攻撃飛行隊)のお出迎えである。  基地に配備されている空母からスクランブルしてきたのであろう。  一瞬にしてすれ違ったと思ったら、後方で旋回して追撃してくる。  完全に後ろを取られてしまった。  ロックオンして攻撃してくるかも知れない。  M61A1/A2 20mm バルカン砲がこちらを睨んでいる。  がしかし、最大巡航速度:150 kt / 277.8 km/h のバイパーとマッハ1.8のスーパー ホーネットでは速度差があり過ぎる。  目の前を通り過ぎては、旋回して再び後方に回り込んでくるという仕草を繰り返して いた。  やがて眼下に巨大な艦船が目に飛び込んでくる。  ニミッツ級原子力航空母艦の6番艦「ジョージ・ワシントン(CVN-73 George Washingt on)」である。その両翼には護衛艦のイージス巡洋艦とイージス駆逐艦を従えている。  そして少し離れて、アメリカ海軍第七艦隊の旗艦「ブルー・リッジ(USS Blue Ridge, LCC-19)」が仲良く並んでいた。 排水量 基準 81,600 トン     満載 104,200トン 全長 333 m 全幅 76.8 m 喫水 12.5 m 機関 ウェスティングハウス A4W 原子炉2基 蒸気タービン4機, 4軸, 260,000 shp 最大速 30ノット以上 乗員 士官・兵員:3,200名 航空要員:2,480名 兵装 RIM-7 シースパロー艦対空ミサイル    ファランクス20mmCIWS3基 搭載機 85機  厚木を拠点とする第5空母航空団  横須賀を拠点とする第5空母打撃群  前任の「キティー・ホーク」から任務を引き継いでいる。  RIM-7 シースパロー艦対空ミサイルとファランクス20mmCIWS(近接防御火器システム) が砲口をこちらに向けて自動追尾していた。  そんな中、エアプレーンは「ジョージ・ワシントン」の甲板へと着艦した。  なんで?  軍艦にいとも簡単に着艦した民間のエアプレーン。  常識では考えられないことだった。 『相手側より連絡。眼前の空母「ジョージ・ワシントン」に着艦せよ』  ここは横須賀基地の制空権内である。一機の戦闘ヘリが太刀打ちできるものではない。 『指示に従います』  パイロットが応えて、高度を下げて「ジョージ・ワシントン」の甲板へと着艦した。
記事中の米軍艦艇などの配備は、執筆当時のものです。

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2018年7月13日 (金)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 IV

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                 IV  サラマンダー艦橋。 「提督。敵艦隊が撤退をはじめました」 「意外に速い決断だったな。どうやら敵も私がシャイニングを放棄したことを察知し たのだろう。とすれば無理してこちらに固執する必要はないからな」 「どうします。追撃しますか」 「その必要はない。敵を追いやるだけで十分作戦目的は果たした。後はガードナー提 督にまかせる。それより転進準備にかかれ」 「かしこまりました」 「司令官は、フレージャー少将のはずですね。ハンニバル艦隊撃退の時のカラカス基 地からの速やかなる撤退が印象的でした。それとミッドウェイもでしたね」 「フレージャーか……。確かレキシントンを撃沈された叱責から、ミニッツから出さ れていた中将への進級申請を、キングス宇宙艦隊司令長官によって却下されたらしい がな」 「レキシントンはキングスがかつて艦長をしていたらしいですからね」 「愛着のある艦を沈められれば責めたくもなるだろうさ。だが司令官として、私情を 持ち込むようでは戦いには勝てないだろうさ。まだ確かな情報ではないが、そのキン グスも作戦部長兼宇宙艦隊司令長官を更迭されるらしい」 「提督。ガードナー提督からです」 「ん。繋いでくれ」  スクリーンにフランクが現れた。 「よく、来てくれた……といいたいが……おまえ、シャイニング基地はどうした」 「はあ、たぶん、今頃占領されているでしょうねえ。ま、これから奪還に向かいます よ」 「おい、おい。大丈夫なんだろうなあ……。こっちの助太刀をしてくれたのは感謝す るが」 「私が、ただで明け渡すと思いますか?」 「思わんな」 「置き土産として、トロイの木馬を置いてきました」 「トロイの木馬か……今度はどんな罠を仕掛けたんだ?」 「それは後のお楽しみということで。急ぎますんで失礼します。提督は敵艦隊が引き 返してきた時に備えていてください」 「わかった。ま、頑張りな」 「では」  アレックスは敬礼して、通信機のスイッチを消した。 「シャイニング基地に戻るぞ。全艦、全速前進で向かえ」 「全艦、百八十度転進。コース座標設定α235、β1745、γ34。シャイニン グ基地へ、全艦全速前進」  ゆっくりと方向を変えて元来た進路に戻るランドール艦隊。  旗艦ヒッポグリフの艦橋では、スクリーンに映る去りゆくランドール艦隊の雄姿を、 ガードナーが頼もしそうに見つめていた。 「提督。ランドール提督がトロイの木馬と言われておりましたが、どういう意味です か」 「古代地球史にあるホメロスのイリアスという叙情史の中に記述がある。かつてトロ イの城塞を攻略するのに、ギリシャ人は中の空洞に兵士を潜ませた木馬を、贈り物の ように見せかけてまんまと城塞に侵入。夜中に兵士が木馬から抜け出して、城門を開 け放してこれを攻略した、という話しだ」 「つまりシャイニング基地が木馬というわけですな。基地に罠をしかけておいて撤退 し、わざと占領させる。しかしそこには……という算段ですか」 「そういうことだ。ただし、この戦いはイリアスに記述があるだけで、史実かどうか は明確な証拠が出ていないので疑問視されている。それにしてもだ……。ランドール に二度も助けられるとはな」 「ミッドウェイ宙域会戦以来ですか」

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2018年7月12日 (木)

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス 空へ

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス

(四)空へ  ウィンドウを隔てての再会。  絵利香が何か言っているようだが、防音ガラスらしく聞こえない。  突然助手席の窓が開いて何かを握った手がでてきた。  自動拳銃である。  銃口はこちらを向いている。  危険を感じ取った慎二はすかさず後退して車の真後ろに回った。 「危ねえなあ。これじゃ、完璧に人質じゃないか」  どうしようもなかった。  相手が拳銃を持っているとなると、絵利香は人質に取られているといってよかった。  ただ追いかけるだけである。  桶川飛行場が近づいている。 「もっと飛ばせないの? このままじゃ逃げられちゃう」 「しようがねえだろ、タンデムで走ってるんだ。そうそう飛ばせるか!」  梓はポシェットに入れていた携帯を取り出した。  ボタンを操作すると、地図が現れて二つの光点が表示された。  ファントムVIの端末で表示されたデータを、この携帯でも受信できるようになって いた。 「時間差にして約二分……」  カーチェイスにおいて二分の差は致命的である。  空でも飛ばない限り追い上げることはほとんど不可能である。  いつかの峠バトルのようにはいかない。  それでも少しずつではあるが、距離を縮めてはいた。  相手にアクシデントが発生するのを期待するだけである。  上空にヘリコプターが現れた。  それもただのヘリではない。  AH-1Z Viper と呼ばれる米軍海兵隊などに配備された最新鋭戦闘ヘリである。  これを所持しているもう一つの組織がある。  真条寺家私設軍隊とも呼ばれるAFCセキュリティーシステムズ所属の傭兵部隊であ る。かの研究所に侵入し逃亡しようとしたスパイを狙撃した、あのスナイパーの所属部 隊である。  戦闘ヘリは明らかに桶川飛行場へと向かっていた。 「麗華さんが手配したのかしら?」  これで対等に渡り合えることができる。  桶川飛行場に近づいてきた。  すると一機の飛行機が飛び立ってゆく。  おそらく絵利香を乗せた誘拐犯達が乗り込んでいるのだろう。  やはり間に合わなかった。  とにかく急ぐ。  桶川飛行場に着くと、先の戦闘ヘリが待機していた。  誘拐犯の飛行機とすれ違った際に、撃墜してくれればと一瞬思ったが、絵利香が搭乗 している限りそれは出来ない相談である。  いつでも発進できるようにエンジンをかけたままにしている戦闘ヘリから降りてきた 者がいた。  竜崎麗華だった。 「いつでも追跡可能です」 「すぐに追いかけてください」  戦闘ヘリに乗り込む梓と麗華、そして慎二も。  エンジンの回転数が上がって、轟音と共に戦闘ヘリは宙に浮かび上がった。 「これを耳に当ててください」  渡されたのは騒音防止兼用の通話装置を備えたヘッドウォンだった。  戦闘ヘリの中では騒音がうるさくて生の会話など不可能であるからだ。  耳に宛がうと、スピーカーから麗華の声が聞こえてきた。 「絵利香さまを乗せた飛行機は海上へと向かっているようです」 「急いで! 見失わないで」  梓にパイロットが応答する。 「了解! まかせてください」  カーチェイスからエアレースに変わっての追跡劇が始まる。

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2018年7月11日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 III

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                III  もはやかごの鳥、絶体絶命の状態へと進展していく。 「これまでかな……」  降伏するなら早い方が良い。  そう思い始めた頃だった。  第八艦隊を包囲殲滅しようとする敵艦隊の後方に新たなる艦影が現れたのだ。 「敵艦隊の後方に新たなる艦影確認」 「敵の援軍か」 「違います。味方艦隊! すでに敵艦隊と戦闘状態に入ったもよう」 「なに!」 「識別信号、第十七艦隊旗艦サラマンダーを確認」 「ランドールか!」  味方の援軍の到着で、一斉に歓声があがる艦橋内。 「援軍が到着したぞ!」 「ランドール提督が救援に来てくれたんだ」 「これで一対一の互角だ」 「いや、ランドール提督が敵艦隊の背後をとっている。こちらのほうが絶対有利だ」 「勝てるぞ!」  口々に叫んで意気あがる乗員。  これまで艦橋内を覆い尽くしていた暗雲が、きれいさっぱりと消滅していた。 「よし、攻撃に転ずる。全艦全速前進して攻撃。敵は動揺している。集中砲火をあび せてやれ」 「はっ。全艦全速前進」 「砲撃開始」  全員の顔色が見る間に活気に溢れていく。常勝不滅のランドール艦隊の到来で、全 滅の不安は一掃され、士気は最高潮に達して小躍りして反撃開始の戦闘態勢に臨んで いた。 「提督。敵を挟み撃ちにして勝てそうですね」 「それもこれもランドールが救援にくれたおかげだ」 「しかし、シャイニング基地のほうはどうなっているのでしょうか」 「わからん。いくらランドールでも三個艦隊を撃滅したとは思えないが……」 「それに時間的に早すぎます。敵艦隊と交戦してこちらに来るには時間的に不可能で す」  一方背後を取られて窮地にたたされた連邦艦隊。指揮するは連邦軍第十七機動部隊 司令官F・J・フレージャー少将である。 「敵艦隊の所属は、第十七艦隊と判明」 「何だと!? 第十七艦隊はシャイニング基地の防衛にあたっているのではないの か?」 「情報は確かなはずですが……」 「では、なぜあいつらがここにいるのだ」 「そ、それは……。シャイニング基地を放棄してこちらに回ってきたと考えるべきで しょうが……」 「それにしても、俺が戦う相手はいつもランドールだな。今回は違う相手と戦えると 思っていたのにな」 「艦隊番号も同じですからね。めぐり合わせですかねえ」 「ミッドウェイやカラカス奪回作戦では撤退を余儀なくされて、せっかく第七艦隊の 司令長官に抜擢されたというのに、あいつのおかげで古巣のこの機動部隊に出戻り だ」 「ですが、バルゼー提督やスピルランス提督のように艦隊を壊滅させられて捕虜にな るよりはいいでしょう」 「ことごとく撤退してきたからな」 「ですよね……」 「仕方が無い。今回も撤退するぞ」 「命令を無視するのですね? また降格の憂き目に合いますよ」 「今は敵味方同数の艦隊ながらも挟み撃ち状態で、しかも背後を取られた相手はあの サラマンダー艦隊だ。勝てる見込みのない戦いを続けるのは無意味だ。全艦を立て直 して撤退する」 「わかりました」 「いないはずの第十七艦隊がここにいる。情報が間違っていた以上、作戦命令も無効 になったと考えてもよいだろう」 「閣下がそうお考えになるのなら」 「ま、ランドールがこちらに来ているということは、シャイニング基地を放棄してこ ちらの救援に回ったと考えるべきだろう。となれば、シャイニング基地はすでに我々 の味方の手に落ちていると考えるのが妥当だ。その基地があれば侵攻作戦に支障はな いだろうさ。無理してクリーグ基地を落とす必要もない」 「そう言われればそうですね」 「と、納得したならば。速やかに撤退するぞ」 「はっ!」

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2018年7月10日 (火)

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス 大追跡

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス

(三)大追跡  その時、前方から見知った大型バイクが近づいてきた。  乗員はフルフェイスのヘルメットを被っているので誰かは区別がつかないが、バイク は明らかに慎二のものだった。  こちらはファントムVI、相手が気づかないはずがなく、交差点でUターンして追い かけてきた。  側面に付けると、窓ガラスをトントンと叩いて、窓を開けるようにうながしている。 「白井さん、窓を開けてください」  窓が開く。  相手が大声で語りかける。 「梓ちゃん、そんなに急いでどこへ行くんだ?」  やはり慎二だった。 「絵利香が誘拐されたのよ」  風の音に負けないように、梓も大声を張り上げる」 「誘拐?」 「そうよ。今、追いかけているところよ」 「判った!」  すぐに事態を理解したらしく、慎二はファントムVIの後方に付いて追従してきた。  一進一退が続いていたが、どうあがいても追いつけない情勢となっていた。 「石井さん。相手に飛行機に乗られて逃走されても、その軌跡を追跡できるわよね」 「もちろんです」 「なら、そうしてください。もちろん民間や米軍・航空自衛隊の管制センターではなく、 真条寺家独自の管制センターでよ」 「判りました」  梓が言っているのは、若葉台研究所の地下に極秘裏に存在する衛星管理追跡センター のことである。  すでに臨戦態勢であるのはとっくのことであるが、梓にはまだ知らされていない。 「このまま飛行機で逃げられるのもしゃくね。石井さん、止めてくれるかしら」 「わかりました」  そして、窓を開けて後続の慎二に合図を送った。  気がついてそばに寄ってくる慎二。 「何か用か?」 「このままでは追いつけない。そっちのバイクに乗って追いかける」 「二人乗りでかい? しかもそのドレス」 「大丈夫よ、ミニドレスだから」  梓の着込んでいるパーティードレスは、丈の短い膝上スカートである。ドレスのまま バイクに跨ることも可能であろう。  もっともドレスを着込んだ二輪ライダーというのも、道行く人々を驚かせるには十分 であろう。 「しかし、この寒空だぞ」 「大丈夫。これくらいの寒さで凍えていたら、ミニの制服着れないわよ」 「そ、そうかあ?」  確かに、ただ歩くだけならミニでもいけるだろうが、自動二輪に跨って正面からの冷 たい風をまともに受ければ凍傷にだってなるかもしれない。 「いいから、追いかけなさい。寒さは根性で耐えるから」 「わ、わかった」  二台の車が停車し、梓は自動二輪の後部座席に跨った。 「石井さん。済みませんけど、後から追いかけてきてください」 「かしこまりました」  後部座席の脇に取り付けられている予備のヘルメットを梓に渡す慎二。  受け取って頭に被る梓。 「しっかりつかまっていろよ」 「あいよ」  重低音を響かせて発進する自動二輪。  石井を残して、タンデムで先行する暴漢者の車を追いかける。  自動二輪の機動性と速度は、石井がいかにレースドライバーでも、ファントムVIで はとうてい出せないものだった。  メーター振り切れば、ゆうに時速二百キロは出る。  自動車で渋滞した道路でも、脇の隙間を縫うように走って、交通渋滞も皆無である。 もちろんそれなりの運転テクニックが必要だが。  梓は、すさまじい風圧に耐えていた。  ドレスの裾は、風にあおられてひらひらと捲くり上がり、ショーツが丸見えとなって いる。  道行く男達は一様に驚き、鼻の下を伸ばしている。  しかし、悠長なことは言っていられない。  絵利香が大変なことになっているやも知れないのである。  やがて暴漢者達の乗った自動車が目前に現れた。  ついに追いついたのである。 「あの車よ。脇に着けて」 「判った」  さらに加速して、暴漢者達の車にバイクを横付けする慎二。  その車の中に捉えられた絵利香の姿があった。 「絵利香!」  絵利香もこちらに気づいて、窓に両手を当てるようにして助けを求めていた。 「梓ちゃん!」  見つめあう梓と絵利香。 「待ってて、今助けるから」  その声が届いたかどうかは判らぬが絵利香の表情に赤みがさしていた。

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2018年7月 9日 (月)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 II

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                  II  一方、クリーグ基地では、フランク・ガードナー准将の第八艦隊六万隻が、約二倍 の十三万隻の敵艦隊に包囲されていた。  旗艦ヒッポクリフの艦橋で指揮を取るフランク。 「全艦、砲撃準備」 「敵艦隊二十一宇宙キロまで接近。まもなく艦砲の射程内に入ります」 「シャイニング基地からの連絡は?」 「ありません。依然として通信途絶」 「うーん、なんだろうなあ……。連絡がないとはおかしいぞ。距離的にあちらの方が 先に敵艦隊と接触するはずだし、アレックスなら、何かしらの情報を送ってくれても いいのだが」 「完全に無線封鎖している模様です」 「うーん。情報が欲しい」  腕組みをしながらスクリーンを見つめているフランク。 「それにしても敵は約二倍の勢力……いつまで持つかな」  部下への手前、声にこそ出さないが、この状態では完全に負け戦になることは明白 だった。無論部下だってそれくらい知っている。それでも黙って自分についてきてき てくれていた。自分を信頼してくれている部下を持って、司令官として感激ひとしお である。この第八艦隊の司令官として赴任してきた時から、何のトラブルもなく前司 令官からの引継ぎが行われたのは意外だった。 「やはりニールセンから疎まれている同じ第二軍団という仲間意識があるようだ。そ して軍団を統率するトライトン少将の配下でもあるからだろう。だからこそ、一人で も多くの将兵を助けたいのだが……」  戦わずして逃げ出す手もあった。  しかしそれでは第八艦隊という名に汚名を着せることになる。前任者が守り続けて きたものを失いたくなかった。  最後の最後まで諦めずに戦い、その中に勝機を見つけて突破口を開く。それがフラ ンクの身上であり、ここまで昇進してきた実績もそこにあった。 「俺はランドールと違って逃げるのは嫌いだからな」  思わず呟いて苦笑するフランク。 「どうなされました?」 「いや何でもない」  首を傾げていぶかる副官には、フランクの心情は伝わらないようだ。  スクリーンに投影されている敵艦隊のマークが赤く変わった。 「敵艦隊。射程内に侵入!」  艦橋内の空気が緊迫感の最高に達した。  一斉にフランクの指示を待って待機するオペレーター達。  腕組を外し、右手を前方水平に差し出すようにして命令を下すフランク。 「全艦攻撃開始!」  と同時にオペレーター達が一斉に動き出す。 「全艦攻撃開始!」 「艦首ミサイルを三十秒間一斉発射。その直後に艦載機全機突入せよ」  同盟側の攻撃開始とほぼ同時に敵艦隊も攻撃を開始した。  全艦から一斉に放たれるミサイル群が、敵味方の艦隊の中間点で炸裂し、華々しい 明滅の光を輝かせていた。 「艦載機、全機突入せよ」  敵艦隊に向かって勇躍突撃する艦載機。  戦闘開始から五分が経過した。  ヒッポクリフの艦橋にて、形勢不利な情勢に心境おだやかでないフランク。  周囲を写している映像の中の味方艦船が被弾し、炎上や撃沈されていく模様が繰り 返されている。  オペレーター達の艦船や戦闘機への指示命令や報告の声が次々と聞こえてくる。 「戦艦ドナウ、撃沈」 「重巡ボルガ、被弾にて戦闘不能」 「粒子ビーム砲、エネルギーダウン。再充填にかかります」 『こちらカミングス。弾薬を撃ち尽くした。これより一旦帰還する』 「カミグストン編隊へ。帰還を承認した。急ぎ帰還せよ」 「了解、これより帰還する」  敵機の追撃をかわしながら、母艦へと帰還するカミングス編隊。 「高射砲、艦載機を援護射撃だ」  帰還しようとするカミングス編隊の後方から追撃する敵機に対し、レーザーパルス 砲による援護射撃が開始された。一斉掃射を受けて次々と撃墜されていく敵艦載機。 その間にカミングス編隊は次々と母艦へ着艦していく。 「状況はどうか?」 「何せ数では、二対一ですからね。いつまで持ち堪えられるか」  士気の低下を招く弱気な発言をする副官に対して、叱責の言葉をためらうフランク だった。  敗北への道を突き進んでいるのは明白な事実であり、それを覆すだけの手段もない からである。  敵艦隊の布陣が両翼に徐々に広がってきていた。数に勝るために、完璧な包囲陣を 敷いて、脱出不可能にするためである。それに従って側面からの攻撃も始まりつつあ った。

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2018年7月 8日 (日)

続 梓の非日常/第七章・船上のメリークリスマス 誘拐?

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス

(二)誘拐?  絵利香が誘拐された?  成すすべがなかった。  絵利香を連れ去った車が遠く離れて見えなくなると、居残った暴漢者達は身繕いを整え ると、乗ってきた車に乗って立ち去っていった。  自由になった梓は、早速携帯で麗華に連絡を取った。 「ああ、麗華さん。今から、衛星を使って追跡してもらいたいものがあるんだけど」 『追跡ですか?』 「実は、絵利香ちゃんが誘拐されたのよ」 『絵利香さまが誘拐された!?』 「そうなのよ。それで、絵利香ちゃんの持っている携帯からの電波を受信して追跡しても らいたいのよ。できるでしょ?」 『ええ、まあ……。できないことはありませんけど……』 「それじゃあ、お願いします」 『判りました。しばらくお待ちください』  ここは若葉台にある衛星管理追跡センター。  北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)と見まがうばかりの設備機器及び人員が揃っ ている。  その任務は、地球軌道上に浮かぶ人工衛星の管理運営である。  これまでにも登場した【大容量高速通信衛星(AZUSA-1・2・3】【資源探査気象衛星(AZUSA -4・5・6・7)】などがある。 「軌道修正完了。発射位置に着きました」 「レーザー冷却装置作動中。BEC回路に異常ありません」 「燃料ペレット注入」 「AZUSA-9号M 機、発射体勢に入りました」  AZUSA-9号は、原子レーザーを搭載した実験衛星である。末尾に(M)と付いているのは 13機目ということで、実験衛星がゆえに世代交代が著しい。  若葉台研究所が開発した原子レーザーの宇宙空間における実用に向けての実験が繰り返 されている。  その他、【多目的観測実験衛星(AZUSA-8・9・10)】という天体観測や宇宙実験を行う人工 衛星もある。原子レーザー搭載の核兵器転用可能な実験衛星も含まれている。 「司令、麗華様より連絡。お近くのヴィジフォンに出て下さい」 「判った」  司令と呼ばれた人物は、すぐそばにあった端末を取って応えた。 「キャサリン・レナートです」  神妙な表情で連絡を受けているキャサリン。  通話を終えると副司令に向かって、 「彩香。急用ができた。後を引き継いでくれ」  指示を与えた。  彩香と呼ばれた副司令が応える。 「かしこまりました」  指揮を交代すると、別のオペレーターに指示を出すキャサリン。 「AZUSA-10号と連絡を取ってくれ」 「はい」  AZUSA-10号とは、情報収集宇宙ステーションのことである。常時十人のスタッフが滞在 して、地球上のあらゆる情報を収集している。  飛び交う電波通信を傍受したり、海上の船舶や航行機などの追跡を行っている。  サンダーバード5号という異名で呼ばれることも多い。イギリスの特撮人形アニメに登 場するメカであるが、詳しくはネット検索して欲しい。 「これから伝える電話番号を持つ携帯電話から発信される電磁波をキャッチして、その移 動を追跡してくれ。番号は、00-81-90-○○○○-××××だ」  連絡を終えると、そばにいたオペレーターが尋ねた。 「何事ですか?」 「梓お嬢さまのご親友の絵利香さまが誘拐されたらしい」 「誘拐!」 「真条寺家の総力をあげて、絵利香さまをお救いするようにとの厳命だ」  軌道上に浮かぶ宇宙ステーション。  AZUSA10号の船内オペレーションルーム。  狭いながらも効率的に配置された機器・端末に向かって忙しそうに働いている。 「どうだ、確認できたか?」  というのは、チーフオペレーターである。 「はい。絵利香様の携帯電話番号の発振周波数が特定できました」 「よし、早速探知開始せよ」 「了解。発振電波を探知して位置を特定します。三分お待ちください」 「遅い、一分でやれ!」  衛星管理センターからの厳命があった。  一刻一秒でも早く、絵利香を探し出せと。 「特定できました! 現在川越市から桶川市へと移動中です」 「よし。それを衛星管理センターへリアルタイムで伝送しろ!」 「了解。衛星管理センターへ、リアルタイムで伝送します」  富士見川越バイパスの側道に停車しているファントムVIに搭載している端末に、絵利 香の位置情報が転送されて表示されていた。 「お嬢さま、データが転送されてきました。そちらのモニターにも絵利香さまの位置情報 を表示します」  後部座席にもモニターがあった。  それにリアルタイムの絵利香の位置情報が赤い点滅で示されていた。  点滅は北へと向かっていた。 「おかしいわね。なぜ、北に向かうのかしら」 「この方角ですと桶川市に向かっているようです。その先には……桶川飛行場がありま す」 「それだわ! 陸上だと道路封鎖をされるから、飛行機を使って逃げるつもりね。急いで 追いかけましょう。石井さん、お願いします」 「かしこまりました。シートベルトをしてください。飛ばします」  その走りは、とても石井とは思えないほどのものだった。  道行く車を片っ端から追い抜き、まるでカーチェイスでもやっているかのごとくのもの だった。  それもそのはず、石井はかつてレースドライバーだったのだった。

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2018年7月 7日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第十九章・シャイニング基地攻防戦 I

第十九章 シャイニング基地攻防戦

                  I  シャイニング基地に接近する連邦艦隊。  第十七艦隊とシャイニング基地住民の撤収が完了して五時間余りが過ぎ去っていた。  そんな状況を知らずか慎重に艦艇を進めている連邦艦隊。  総勢三個艦隊を率いるのは、タルシエン方面軍司令長官ハズボンド・E・キンケル 大将である。  一向に進まない共和国同盟への進駐に業を煮やしついに長官自らが腰を挙げ、シャ イニング基地攻略の陣頭指揮に出陣したのである。 「どうだ」 「索敵に出した先行艦によれば、艦船はおろか哨戒機すらも見当たらないとの報告で す」 「こちらの艦隊数に恐れをなして撤退したか」 「数では三対一ですからね」 「さすがに逃げ足だけは速い奴等だ」 「奇襲攻撃が専門の連中ですからね。正面決戦となれば数に劣る彼らが勝てる見込み はないでしょう」 「どこかに潜んで隙をうかがっているかもしれない。哨戒行動を怠るなよ」 「かしこまりました」 「しかし、惑星からの攻撃がないな」 「そうですね。地上には五個艦隊を持ってしても、攻略不可能とさえ噂されている防 空システムがあります。対軌道迎撃ミサイルくらい飛んできてもよさそうですが。と っくに射程内に入っているはずです」 「全軍撤退の際の誤射を防ぐために、迎撃システムを遮断していたのかも知れない。 部隊を降下させる前に、無人の艦艇を降ろして確認してみろ」 「早速手配します」  数隻の戦艦から、無人の探査機が降ろされていく。 「どうだ?」  スクリーンに映る探査機の様子を伺いながらオペレーターに尋ねる副官。 「何の反応もありませんねえ。迎撃システムからの探査レーダーなどの電波も感知で きません」 「つまり迎撃システムは停止していると見るべきだろうな」 「おそらく……」 「よし、引き続き探査を続けろ」 「了解!」  向き直って司令官に伝達する副官。 「お聞きのように、基地の防衛システムは停止しているようです」 「うむ。ごくろう……揚陸部隊を降下させろ。安全が確認され次第、我々本隊も着陸 するとしよう」 「はっ。揚陸部隊を降下させます」  揚陸部隊に降下命令を下す副官。  艦隊から揚陸部隊が降下体勢に入った。 「しかしなんでしょうねえ。こんなにもあっさりと基地を放棄してしまうなんて、さ すがランドールというか、考え方には理解しがたいところがあります。確かランドー ルはニールセン中将から睨まれて無理難題を押し付けられていると聞き及んでいます。 ニールセンの命令に逆らっての判断だと思いますが、これでは自らニールセンに良い 口実を与えるだけだと思うのですが」 「そうだな。この撤退は奴の独断だろう。ニールセン、いや軍部の誰だってこの要衝 のこの基地を手放すはずがない」 「いわゆる敵前逃亡ですね。これは重罪ですよ、銃殺されても文句は言えない」 「ランドールは何を考えているか計り知れませんからね。何か企んでいるかもしれま せん」 「あり得るな。慎重に慎重を期していこう」

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2018年7月 6日 (金)

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス 暴漢者達

続 梓の非日常/終章・船上のメリークリスマス

(一)暴漢者達  12月24日。  世の中はクリスマス一色でお祭り騒ぎである。  梓と絵利香の二人もクリスマスパーティに招かれて米国大使館へと向かっていた。  ファントムVIの車中にて招待状を広げている梓。  その姿はパーティードレスに身を包んで、さすがにお嬢様という雰囲気に満ち満ちてい た。 「慎二君も一緒に連れてくれば良かったのに」  てっきり二人揃って参加するものと思っていた絵利香だった。 「ふん。あんな奴を誘ったら物笑いになるだけよ」  と、鼻息を荒げて答える梓。  実際にも前例があるだけに、その気持ちも判らないではない。  二人の会話は、運転席との間に設けられた遮音壁に遮られて白井には聞こえないように なっている。  田園地帯をゆったりと進んでいる。一般車両みたいに先を急ぐような走りはしない。  仮にファントムVIが細い道を塞ぐような状態になっても、クラクションを鳴らして急 かしたり、無理やりに追い越そうなどという車はいない。  黒塗り高級外車=暴力団、という先入観があるからである。  やがて川越市から富士見市へと続く富士見川越バイパスへと進入する。  と、突然。  後方から猛スピードで追い上げてくる数台の自動車があった。  追い越しざまファントムVIの前を封鎖するように急停車した。  さらに側面と後方にも停車されて身動きの取れない状況となった。 「な、なに?」  怯えたように絵利香が震えている。 「あたし達の追っかけファン……というわけでもなさそうね」  車外を見つめながら梓が答える。 「よく、落ち着いていられるわね」 「この程度のことじゃ、驚かなくなっていてね」  確かに、命を失う危険のある出来事に何度遭遇したことか。 「お嬢様、賊が出てこいと言っておりますが」  窓ガラスは防弾・防音となっているので、外の音は梓たちには聞こえない。運転上の必 要性から白井だけに、外の音が聞こえるようになっている。 「ここは、おとなしく言うことを聞くしかなさそうね。ドアロックを開けて」 「かしこまりました」  ドアロックは運転席で白井が操作するようになっている。降りる際に不用意にドアを開 けて、後続の車両に追突されるのを防ぐためである。白井は周囲に常に気を配って乗降の 確認を取っていた。 「開けました」  ドアロックを解除する白井。  ドアを開けて車を降りる梓。  絵利香も続いて降りる。  その時だった。 「きゃあ!」  悲鳴を上げる絵利香。  暴漢者達が絵利香を抱きかかえるようにして乗ってきた車に押し込み、急発進して逃げ 出したのである。 「絵利香ちゃん!」  残された梓だが、立ち塞がるようにしている居残りの暴漢者達に遮られて身動きできな かった。

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2018年7月 5日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第十八章・監察官 VII

第十八章 監察官

                 VII 「ここには、天才と呼ばれるお方が数多くいらっしゃるのですよ。システムエンジニ ア、システムプログラマーなど、コンピューターネット犯罪を取り締まるプロフェッ ショナルがいます。彼らに掛かれば暗号通信を解析することなど容易いことなので す」 「冗談はよせ。あの暗号通信の内容は、現在最速と言われているスーパーコンピュー ターで解析しても百万年は掛かると言われているんだぞ。解錠キーがない限り解ける はずはない」 「それならば、その解錠キーがどこかのコンピューターに保存されているはず。その コンピューターに侵入して、その解錠キーを手に入れれば良いことです」 「そんな事できるはずがない」 「それができるのです。ネットに接続されているコンピューターならば、必ず侵入で きるものなのです」 「あり得ないことだ」 「お信じにならなければ、それでも結構です。とにかくも、あなたの暗号通信は解読 されたということはお認めになられますね?」 「黙秘権があるはずだ。これ以降は何も喋らない」  と、レイチェルの質問に答えない監察官。これ以上話し合ってもぼろが出るだけだ と判断したようだ。 「結構です。当然の権利ですからね。でも聞くだけは聞いていてください。提督を暗 殺しようという者が侵入したという情報を入手して、私達はすべての通信を傍受記録 しておりました。その捜査網にあなたが暗号通信を送っているのを傍受したのです。 早速、かの天才達に解読を依頼しましたが、それには三時間という答えが返ってきま した。あなたは百万年とおっしゃいましたが、天才と呼ばれる彼らに掛かれば三時間 なのです。今後の参考にでもしておいてください。しかし、それでも手遅れになるの で、別のルートを使って軍のコンピューターネットに侵入、さる所から解錠キーを入 手しました。それを使って暗号通信を解読したのです」  押し黙ったままの監察官だった。図星をさされて明らかに意気消沈している表情が 伺える。 「念のために申し上げておきますが、シャイニング基地の撤退は、参謀達全員による 合議によって決定されたものであり、提督ご自身による勝手な判断で執行されるもの ではないということです。ゆえにこれは敵前逃亡ではなく、明白なる撤退作戦という ことになります。敵前逃亡として処断されるのは早計ではないでしょうか。暗殺とい う策略以外には考えられません」  レイチェルの発言を受けて、コレット・サブリナ大尉が前に進み出る。 「監察官。あなたをランドール提督暗殺未遂の容疑で逮捕します」  監察官の腕を後ろ手に回して手錠を掛けるコレット。 「ウィング少佐。一つ質問させてくれ」  手錠を掛けられながら口を開く監察官。 「何でしょう?」 「君は、暗殺という情報をどうやって知ったのだ。さる所から解錠キーを入手したと いう。当然その首謀者たる人物のことも掴んでいるのだろう。証拠を集めて、告発す るつもりか?」 「情報の出所をお教えすることはできません。ニュースソースを隠密にするのは情報 部の常識です。証拠たる情報を隠密にする以上は、立件もできませんから告発も不可 能ということです。内憂外患から士気の低下を発祥させる素因を公にすることは、提 督のもっとも危惧されることですからね」  うんうんと頷いているアレックス。 「そうか……内憂外患か……」 「提督」 「何かね」 「ここには心を一つに束ねあい、気を許しあって、すべてを相手に委ねられるという 環境が浸透しているようだ。実に素晴らしい艦隊だ」 「そう言ってくれると嬉しいね」 「あなたの部下達がこれほども羨ましいと思ったことはない。あなたの部下でなかっ たのが、実に残念だ」 「それはどうも……」 「連行しろ!」  コレットが部下の憲兵隊に指示し、連行されて行く監察官。 「提督。お騒がせいたしました」 「今回も、君に助けられたな」 「任務ですから」  きりっと姿勢を正し敬礼をして、くるりと翻して立ち去って行くコレットだった。 第十八章 了

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2018年7月 4日 (水)

続 梓の非日常/第六章・沢渡家騒動? そんでね……

続 梓の非日常/第六章・沢渡家騒動?

(五)そんでね……  数日後。  慎二が学校からアパートに戻ると部屋に鍵が掛かっていた。 「おかしいな……」  ろくな家財道具を持たない慎二は、部屋に鍵を掛けたことがない。当然として鍵を持ち 歩くこともなかった。鍵は部屋のどこかにあるはずだが、とっくにその置き場所は忘れて しまっていた。 「しようがないなあ。大家に合鍵借りるか」  と引き返そうとした時、階段の下に近藤が待ち受けていた。 「お待ちしておりました」 「近藤……」 「アパートの契約は、旦那様のご命令により解約いたしました。もうここには戻れませ ん」 「なんだとう。余計なことしやがって」 「旦那様は、屋敷にお帰りになるようにとの仰せです」 「よけいなお世話だよ。成金主義で凝り固まった屋敷なんかにいちゃ、身体が腐っちまう ぜ」  と、無視して立ち去ろうとする慎二。 「どちらへ?」 「野宿でもしながら暮らすさ。インターネット・カフェという手もあるしな」 「それではまるで浮浪者じゃないですか」 「浮浪者だよ。悪いか」 「そんなこと、この近藤が許しませんぞ。旦那様がお怒りになられます」 「親父なんかどうでもいいよ。親父は親父、俺は俺だ」 「実の親子ではありませんか。仲直りはできないのですか」 「仲直り? あいつがそんな殊勝な気持ちになるもんか。話はこれまでだ、近藤元気で な」  近藤を振り切って、歩き出す慎二。 「お待ちください! それでは、私の責任が果たせません」  近藤が強い口調で慎二の動きを制した。 「責任?」  振り返って近藤の顔を見ると、きびしい表情で慎二を睨みつけていた。 「そういや、こいつ。さっきから感情を出さずに淡々としゃべってやがった」  口癖であったお坊ちゃまという言葉も一言も発していなかった。  慎二のお守り役という立場ではなく、主人の命令に従う使者として来ているようであっ た。  説得に失敗して、慎二を連れ戻すことができなかった時、くびを言い渡されるか、さも なくば辞表を提出するしかない。それが責任問題であることは、慎二にも容易に想像がで きた。 「ちきしょう、おやじのやつ。俺を連れ戻すために近藤を引き出しやがって」  慎二の脳裏に、幼い頃からの記憶が走馬灯のように現れては消えていった。  小学生の頃、近所の子供と喧嘩をして相手に怪我をさせた反省として土蔵に閉じこめら れた時、窓から自分の弁当を差し入れてくれたこと。中学生の不良達に袋叩きにされてい る時、飛び込んできて慎二の身体に覆い被さり、身を呈してかばってくれたこと。入院し た時も、家族の誰一人見舞いに来ない中、徹夜で必死に看病してくれたこと。  いつも近藤ただ一人だけが、親身になって慎二の事を思いやってくれていた。それは今 も昔も少しも変わっていなかった。  慎二の瞳から、うっすらと涙がにじみでていた。涙がこぼれないように空を仰ぐ。 「わかったよ。家に戻ればいいんだろ」  上着の袖で涙を拭きながら、待ち受けていた車に乗り込む慎二。 「お坊ちゃま……」  近藤の目にも溢れる涙があった。  初雁城東高校。  登校する梓達。  その後方から、重低音のエンジンを鳴り響かせて、自動二輪車が追いかけてきた。 「よお、梓ちゃん。おはよう!」  慎二だった。 「おまえ、自転車通学じゃなかったのか? ガソリン代が払えなくてバイクは乗れねえと か言っていたじゃないか」 「ああ、ちょっとな。小遣いが入ったんだ」 「小遣い? 親父さんに貰ったのか?」 「その通り。実は家に戻ることになってね」 「おい、バイク通学は禁止だろう。先生に見つかったらやばいぞ。早くそれを隠してこい。 詳しい話は教室でだ」 「判った!」  再び高らかなエンジンと共に走り去る慎二だった。  教室で慎二を囲んで談笑する梓達。 「ふうん。それで、屋敷に戻ったんだ」 「その近藤さんって、梓ちゃんとこの、白井さんと同じね」 「境遇が似ているから? 子供の頃からずっとお抱え運転手してると自然に情が移って、 自分の子供みたいに思えるんじゃないかしら」 「天使と悪餓鬼という相違はあるけどな。それを守りぬこうとする固い意志が、働いてい たのは共通しているみたいだ」 「いいなあ……わたしにはお抱え運転手いないから」  いつも梓と一緒で、送り迎えには白井の運転するファントムVIに便乗することの多い 絵利香には、お抱え運転手の必要性がなかった。 「何言ってるの、白井さんがいるじゃない。絵利香ちゃんのことも、しっかりサポートし てくれているわよ」 「それは知ってるし、感謝しているけど。やっぱりねえ……」 「戻ったはいいが、梓ちゃんを屋敷にお連れしろとしつこく言われ続けるのはかなわんぞ。 今じゃすっかり梓ちゃんの信奉者だよ」 「行きたくないからね」 「そう言うと思っていたよ」 「お小遣いを貰えるようになったんだ。それじゃあ、アルバイトの方はどうするの? や める?」 「続けるさ。相手も頼りにしているし、途中で放り出すのは無責任だよ」 「うん。それでこそ慎二君よ。ご立派」 「おだてるなよ。とにかく小遣いをくれるというなら、ありがたく貰っておくことにした んだ」 「とにかく家に戻れて良かったじゃない。何があっても親子なんだから」 「まあ、そういうわけだから。これからもよろしくな」 「はい、はい」  慎二が貧乏生活を続けていることを心配していた梓達。  毎日インスタントラーメンだとかを食していて、身体を壊さないかと気を揉むこともな くなるわけである。  まずは、生活の安泰を祝して、 「よおし! 今日は俺が奢ってやるぞ」  慎二が提案した。 「いいね、それ」 「シャルル・ソワイエがいいんじゃない?」 「なんだよそれ?」 「知らないの? 今流行りの洋菓子店よ。マカロンがおいしいの」 「マカロン?」 「フランスでは人気のあるお菓子の一つよ」 「まあ、いいや。そこに行こう」  というわけで、授業を終えた放課後。  連れ添って、シャルル・ソワイエへと向かうクラスメート達だった。  第六章 了

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2018年7月 3日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第十八章・監察官 VI

第十八章 監察官

                 VI  艦橋内に響く銃声。  沸き起こる悲鳴。  艦橋は騒然となった。  だが、床に倒れこんだのは監察官の方だった。  腕を撃ち抜かれて血を流していた。  監察官が持っていた銃が床に転がっている。  一同が銃が放たれた方角に振り向くと、そこには部下の憲兵隊を従えたコレット・ サブリナ大尉が銃を構えていた。その銃が監察官の腕を撃ちぬいたのである。  彼女の正式な身分は、共和国同盟軍情報部特務捜査科第一捜査課艦隊勤務捜査官。  艦隊内において、武器を常時携帯することを許可されている唯一の人物であった。 「なぜ、おまえがここにいる。ここは、一介の捜査官が入れるようなところじゃない はずだ」 「レイチェル・ウィング少佐の依頼を受けての特務捜査権を執行しております」 「特務捜査だと?」 「暗殺です」 「な、何を言うか。第一、情報参謀に特務捜査権を依頼する権限などない」  それにアレックスが答える。 「それがあるんだな。特務捜査権を彼女に依頼できるのは、私の他には艦隊司令官付 副官がいる」 「提督やウィンザー少佐がサブリナ大尉に近づいた形跡はない」 「そうか、やはり部下に行動を監視させていたな。」 「反逆者とその部下を監視するのは当然だ」 「いつの間にかに反逆者呼ばわりですか……まあいいでしょう。その副官がもう一人 いるのを知らなかったようだ」 「ウィング少佐か?」 「独立遊撃部隊からの副官でしてね。当時、ウィンザー少尉が正式に副官に就任して も、そのまま副官としての地位を残しておいたのですよ。副官には司令官同様の特別 な権限が与えられますからね」 「なるほど」  そのレイチェルが解説をはじめた。 「何者かがランドール提督を暗殺しようとして潜入しているという情報を入手しまし た。暗殺には提督のそばに近寄る必要があります。その方法として提督の身近にいる 者に成り代わるのが一番確実です。ランドール提督は味方将兵を大切に扱い、勝つ算 段のない戦からは撤退するという主義を打ち出しています。三個艦隊もの敵艦隊が迫 ってくると知れば、当然撤退すると言い出すことは容易に推測できるでしょう。そこ で、これを敵前逃亡として処断すれば合法的に抹殺が可能です。そしてそれが出来る のは、監察官! あなたしかおりません。監察官自らが暗殺実行者であるならば、後 処理はどうにでもできるでしょうね」 「私が暗殺をしているという証拠などないだろう」 「これに聞き覚えはありませんか」  というとレイチェルが端末を操作する。  スピーカーから声が響く。 『……です。閣下のお考えになられた通り、ランドールは撤退を選択しました』 『そうか。後の処理は判っているな』 『はい。手はず通りに敵前逃亡罪として処断します』 『くれぐれも、計画が漏れないように極秘裏に合法的にランドールを始末するのだ』 『お任せください。万事怠りなしに』 『頼むぞ』 『はっ!』  その音声に息を呑む監察官だった。 「というような内容の通信です。声紋チェックであなたの声であることが確認されて おります」 「ば、馬鹿な。あの暗号通信は特殊な暗号コードを使っているんだ。暗号解錠キーが なければ内容など解けないはずだ」 「おや。あなたが暗号通信を送ったということはお認めになられるのですね」 「うっ……」  迂闊だったという表情に歪む監察官。

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2018年7月 2日 (月)

続 梓の非日常/第六章・沢渡家騒動? お帰りはあちら

続 梓の非日常/第六章・沢渡家騒動?

(四)お帰りはあちら 「あら、もうこんな時間……。ずいぶんとお話に夢中になっておりましたわ。お忙しいの でしょう?」  梓が先に切り出した。 「あ、はい」 「お引止めして申し訳ありませんでした」 「いえ、どういたしまして」  安堵の表情を見せる沢渡夫妻。  この息苦しさからやっと解放される。 「どうもお邪魔いたしました」  立ち上がり、おいとまする沢渡夫妻。 「機会がございましたら、またお越しくださいませ。今度は慎二様とぜひご一緒にどうぞ、 歓迎いたしますわ」  とは言われたものの、沢渡夫妻は二度と来たくないと思った。  本物の財閥令嬢との格差を痛感させられ、身の程知らずで来訪した自分達の馬鹿さ加減 を思い知らされていた。  慎二が良く言っていた。 「あんたらは単なる成金主義に凝り固まり、人を見下している。本当の金持ちがどんなも のか知らないだろう。きっといつか後悔するよ」  まったくそのとおりだと思った。  バルコニーを退散する沢渡夫妻。  梓のお見送りはなしである。  椅子に腰掛けたまま、夫妻が出て行くのを見守っていた。 「ご夫妻がエレベーターにお乗りになられました」  途端に笑い転げるメイド達。  エレベーターに乗れば、笑い声も届かないからである。 「お嬢さま、いったいあの方とはどのような事情があったのですか?」  普段の梓お嬢さまからは、想像もしないような身の振り方を見れば、何かがあったと考 えるのが自然である。  明らかに沢渡夫妻に対して、やり込めようという意思が見え見えだった。 「実はね……」  沢渡家で手酷い扱いを受けたことを正直に話す梓。 「まあ、お客さま扱いしないなんて、とんでもありませんわね」 「人を差別するなんて最低です」 「確かに慎二君は不良っぽいところはありますが、その友達まで不良だと断定するなん て」 「あのね、慎二は不良なの! そこのところ間違わないでね」 「不良は不良でも、正義の味方の不良です」 「意味深な言い回しね」  事情を納得したところで、 「あの方達、またお見えになりますかね」 「来ないんじゃない?」 「そうですよね。成金主義だといいますから、プライドだけは高いでしょう」 「プライドが皮を被った人間です」 「その話はやめてお茶にしましょう。マカロンが丁度十二個残っていますから、二個ずつ ね」  沢渡夫妻は結局、お茶菓子には手を付けなかったので、そのままそっくり残っていたの である。  あの日、聞こえよがしに、 『よけいな客には、茶菓子は出さんでいいと言ったはずだぞ』  と言った手前から、普通の神経を持ち合わせていれば当然だろう。 「いいんですか?」 「もちろん」 「やったあ!」 「このマカロン、とてもおいしいんですよね」  梓を囲むようにしてテーブルに着席するメイド達。  一般的に、主人と同じ席にメイドが座ることなどあり得ない事だ。  梓と一緒にティータイムをくつろぐメイド達。  そこへ、沢渡夫妻を見送った麗華が戻ってくる。 「あ、ごめんなさい。麗華さんの分ないの」 「いえ、結構です」  メイド達が仕事を休んで、くつろいでいる風を見ても、咎めない麗華だった。  梓お嬢さまの意向であることは明白だろうと気にも止めていない。  いつものように冷静に報告をする。 「ご夫妻はお帰りになられました」 「満足してる様子だった?」 「いえ、それは計り知れませんが……」 「お嬢さまは、仕返しをなされたのです」  美鈴が横槍を入れた。 「仕返し?」  首を傾げる麗華に、梓に代わってメイド達が事情を説明していた。 「なるほど、そういうわけでしたか」 「仕返しするなんて、感心しないことなんだけど、あまりに酷い客扱いだったから」 「お手本をお見せしたということですか」 「まあ、そういうことになるかしら」 「屋敷の者達には半数ずつ交代で休息を取るように伝えてあります」  国賓クラスの接待で従業員を総動員させたための処置であろう。  働くときには一所懸命働く、休むときには心を楽にしてゆっくりと休む。  真条寺家に働く従業員のための訓示七か条の一つである。 「ご配慮ありがとうございます」 「それでは私もこれから休憩に入ります」 「ごゆっくりどうぞ」  麗華がくるりと背を向けて自分の部屋へと向かった。  その後姿を見つめながら美鈴が呟くように言った。 「麗華さまは、ちょっとお疲れのようですわね」 「そりゃそうでしょ。粗相のないように屋敷の者全員に目を配っていたんですから」 「最高責任者の気苦労ですね」  麗華が休息を終えて戻って来たときには、メイド達はそれぞれの配置について専属メイ ドとしての役目を果たしていた。

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2018年7月 1日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第十八章・監察官 V

第十八章 監察官

                 V  TVから映像と音声が流れている。  何事かと注目する将兵達。 『どうしようというのだ』 『監察官特務条項の第十三条。敵前逃亡司令官に対する条項により、ランドール提督 を処断させて頂きます』 『つまりこの場で銃殺するというのだな』 『その通りです』  銃を突きつけられている提督と周囲の緊迫した情景が映し出されている。 「銃殺だって!」 「おい。嘘だろ」  もはや食事どころではなかった。  その緊迫した映像と音声を見逃すまいとして、全員がTVの前に集まって釘付けに なっていた。  居住区の私室に備え付けられたTV、統合通信管制室、機関部、艦載機発進ドック、 各所の艦内放送用のプロジェクターにも随時投影されていた。  サラマンダー艦隊に所属するほとんどの将兵が、今まさに艦橋で繰り広げられてい る現状を、食い入るように見つめていた。  映像の中のアレックスが、落ち着いて答弁している。 「そうか……仕方ないな」 「最後の猶予を与えましょう。三つ数えます。それまでに決断してください」 「勝手にしたまえ」 「一つ!」  監察官がカウントを始めた。 「提督!」  周囲のオペレーター達が駆け寄ってくる。  それを制するように怒鳴るアレックス。 「持ち場を離れるんじゃない!」 「し、しかし」  大声にびっくりして思わず立ち止まるオペレーター達。 「監察官。君が、敵前逃亡罪で私を処断するというのなら、甘んじて受けようじゃな いか。私は、第十七艦隊に所属する全将兵、私に従ってきてくれる素晴らしい部下た ちの生命を守る義務がある。このシャイニング基地に押し寄せている艦隊の数は三個 艦隊におよぶのだ。どうあがいても尋常な手段では勝てないし、ただ全滅するしかな いことは目に見えている。勝てる見込みのない戦いを、部下達に強要することは断じ てできないのだ」  冷ややかな目つきでそれに答える監察官。 「そう言って、部下達の同情を得ようとしているだけだ。提督の自己陶酔に付き合っ ている時間はない。二つ!」 「自己陶酔か……確かにそうかも知れないな」 「提督が、こんな奴に処断されるなんて許されません」 「そうです。敵艦隊は迫ってきているんです。提督がいらっしゃらないと」 「何を、弱音を吐いているんだ!」  強い口調で叱責するアレックス。 「私はこれまで、君達に戦い方の何たるかを教えてきたつもりだ。部下を信じてすべ てを任せ切りにしたこともあった」  その言葉にスザンナが、そしてパトリシアが反応する。  スハルト星系でのこと、タシミール星収容所のこと。  それぞれの思いが脳裏に蘇ってくる。  アレックスは言葉を紡ぐ。 「どんな境遇にあっても、自らの判断と意思で不言実行できるような指揮官たる能力 を身に付けられるように努力し、そうなるように育ててきたつもりだ。例え私がいな くても、君達だけでも十分に事態を収拾できると信じている」 「たいした自信だな。私にはただの自惚れとしか聞こえないな。三つだ!」  ブラスターを構える腕に力がこもる。 「どうやら意思は固いらしい。命令を変えるつもりはないな」 「もちろんだ。我が第十七艦隊はシャイニング基地を放棄して撤退する」 「そうか……では、ここで軍務により君を処断する」  ブラスターの引き金に掛けた指先に力を込める監察官。

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