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2018年7月 4日 (水)

続 梓の非日常/第六章・沢渡家騒動? そんでね……

続 梓の非日常/第六章・沢渡家騒動?

(五)そんでね……  数日後。  慎二が学校からアパートに戻ると部屋に鍵が掛かっていた。 「おかしいな……」  ろくな家財道具を持たない慎二は、部屋に鍵を掛けたことがない。当然として鍵を持ち 歩くこともなかった。鍵は部屋のどこかにあるはずだが、とっくにその置き場所は忘れて しまっていた。 「しようがないなあ。大家に合鍵借りるか」  と引き返そうとした時、階段の下に近藤が待ち受けていた。 「お待ちしておりました」 「近藤……」 「アパートの契約は、旦那様のご命令により解約いたしました。もうここには戻れませ ん」 「なんだとう。余計なことしやがって」 「旦那様は、屋敷にお帰りになるようにとの仰せです」 「よけいなお世話だよ。成金主義で凝り固まった屋敷なんかにいちゃ、身体が腐っちまう ぜ」  と、無視して立ち去ろうとする慎二。 「どちらへ?」 「野宿でもしながら暮らすさ。インターネット・カフェという手もあるしな」 「それではまるで浮浪者じゃないですか」 「浮浪者だよ。悪いか」 「そんなこと、この近藤が許しませんぞ。旦那様がお怒りになられます」 「親父なんかどうでもいいよ。親父は親父、俺は俺だ」 「実の親子ではありませんか。仲直りはできないのですか」 「仲直り? あいつがそんな殊勝な気持ちになるもんか。話はこれまでだ、近藤元気で な」  近藤を振り切って、歩き出す慎二。 「お待ちください! それでは、私の責任が果たせません」  近藤が強い口調で慎二の動きを制した。 「責任?」  振り返って近藤の顔を見ると、きびしい表情で慎二を睨みつけていた。 「そういや、こいつ。さっきから感情を出さずに淡々としゃべってやがった」  口癖であったお坊ちゃまという言葉も一言も発していなかった。  慎二のお守り役という立場ではなく、主人の命令に従う使者として来ているようであっ た。  説得に失敗して、慎二を連れ戻すことができなかった時、くびを言い渡されるか、さも なくば辞表を提出するしかない。それが責任問題であることは、慎二にも容易に想像がで きた。 「ちきしょう、おやじのやつ。俺を連れ戻すために近藤を引き出しやがって」  慎二の脳裏に、幼い頃からの記憶が走馬灯のように現れては消えていった。  小学生の頃、近所の子供と喧嘩をして相手に怪我をさせた反省として土蔵に閉じこめら れた時、窓から自分の弁当を差し入れてくれたこと。中学生の不良達に袋叩きにされてい る時、飛び込んできて慎二の身体に覆い被さり、身を呈してかばってくれたこと。入院し た時も、家族の誰一人見舞いに来ない中、徹夜で必死に看病してくれたこと。  いつも近藤ただ一人だけが、親身になって慎二の事を思いやってくれていた。それは今 も昔も少しも変わっていなかった。  慎二の瞳から、うっすらと涙がにじみでていた。涙がこぼれないように空を仰ぐ。 「わかったよ。家に戻ればいいんだろ」  上着の袖で涙を拭きながら、待ち受けていた車に乗り込む慎二。 「お坊ちゃま……」  近藤の目にも溢れる涙があった。  初雁城東高校。  登校する梓達。  その後方から、重低音のエンジンを鳴り響かせて、自動二輪車が追いかけてきた。 「よお、梓ちゃん。おはよう!」  慎二だった。 「おまえ、自転車通学じゃなかったのか? ガソリン代が払えなくてバイクは乗れねえと か言っていたじゃないか」 「ああ、ちょっとな。小遣いが入ったんだ」 「小遣い? 親父さんに貰ったのか?」 「その通り。実は家に戻ることになってね」 「おい、バイク通学は禁止だろう。先生に見つかったらやばいぞ。早くそれを隠してこい。 詳しい話は教室でだ」 「判った!」  再び高らかなエンジンと共に走り去る慎二だった。  教室で慎二を囲んで談笑する梓達。 「ふうん。それで、屋敷に戻ったんだ」 「その近藤さんって、梓ちゃんとこの、白井さんと同じね」 「境遇が似ているから? 子供の頃からずっとお抱え運転手してると自然に情が移って、 自分の子供みたいに思えるんじゃないかしら」 「天使と悪餓鬼という相違はあるけどな。それを守りぬこうとする固い意志が、働いてい たのは共通しているみたいだ」 「いいなあ……わたしにはお抱え運転手いないから」  いつも梓と一緒で、送り迎えには白井の運転するファントムVIに便乗することの多い 絵利香には、お抱え運転手の必要性がなかった。 「何言ってるの、白井さんがいるじゃない。絵利香ちゃんのことも、しっかりサポートし てくれているわよ」 「それは知ってるし、感謝しているけど。やっぱりねえ……」 「戻ったはいいが、梓ちゃんを屋敷にお連れしろとしつこく言われ続けるのはかなわんぞ。 今じゃすっかり梓ちゃんの信奉者だよ」 「行きたくないからね」 「そう言うと思っていたよ」 「お小遣いを貰えるようになったんだ。それじゃあ、アルバイトの方はどうするの? や める?」 「続けるさ。相手も頼りにしているし、途中で放り出すのは無責任だよ」 「うん。それでこそ慎二君よ。ご立派」 「おだてるなよ。とにかく小遣いをくれるというなら、ありがたく貰っておくことにした んだ」 「とにかく家に戻れて良かったじゃない。何があっても親子なんだから」 「まあ、そういうわけだから。これからもよろしくな」 「はい、はい」  慎二が貧乏生活を続けていることを心配していた梓達。  毎日インスタントラーメンだとかを食していて、身体を壊さないかと気を揉むこともな くなるわけである。  まずは、生活の安泰を祝して、 「よおし! 今日は俺が奢ってやるぞ」  慎二が提案した。 「いいね、それ」 「シャルル・ソワイエがいいんじゃない?」 「なんだよそれ?」 「知らないの? 今流行りの洋菓子店よ。マカロンがおいしいの」 「マカロン?」 「フランスでは人気のあるお菓子の一つよ」 「まあ、いいや。そこに行こう」  というわけで、授業を終えた放課後。  連れ添って、シャルル・ソワイエへと向かうクラスメート達だった。  第六章 了

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