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2018年10月

2018年10月31日 (水)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-7

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-7  このようにしてニューハーフ・バーでの仕事ははじまった。  右も左も判らない、客の接待もままならぬズブの素人だったが、 『うぶで可愛い女の子』  という評判を得て、ちょこちょこと指名されるようになった。  風俗接待業というものは、やはり若々しさが一番のようであった。  その点ではこの店一番の若さゆえの人気を取りつつあった。  とにもかくにもニューハーフ・バーの仕事を続けていき、数ヶ月が経った。  そんなある日。客待ちの時間に同僚に聞いてみた。 「手術している人って何人いらっしゃるのですか?」  何かにつけて話題に上ることなので知りたくなったのだ。 「そうねえ……」  といいながら、説明してくれた。  まず、女性ホルモンは全員が服用していた。こういう仕事だからより女性らしい容 姿であることが肝心だからである。薬は店の方で、大量購入して安価で分けてくれる。  睾丸摘出 二十二名。  豊胸手術 七名。  喉仏手術 三名。  肋骨切除 二名。  そして、性転換手術(性別再判定手術)は四名であった。  一人が手術をしたと告白すれば、他の者が追従する。病院を聞き出し、外国で手術 したとなれば渡航手続きまでして行く。何せ身近に経験者がいるので、手術結果は一 目瞭然、間違いなく安心していられるというわけだ。睾丸摘出者がかなりいるのはそ のためだろう。  性転換した四名には全員パトロンがついていて、高級マンションに住み高価な服飾 品を身に付けていた。  類は類を呼ぶという通り、この店の全員が最終段階の性転換手術を希望していた。 手術など金を掛ければ掛けただけ収入が増え、元はすぐに取り戻せるというわけであ る。  もちろんパトロンがつくには、若くて美しいという必須用件がある。  手術するならより若いうちにというわけである。  といってもパトロンがそう簡単につくわけがない。  まずは常連客を集め、より多くの指名を受けるかが当面の問題である。店は儲かり、 店子は指名料が入る。  一番簡単な方法がある。  触らせること!  である。  女性ホルモンの効果で、わたしの胸はBカップを越えてCカップまでに近づいてい た。服の上からもその膨らみがはっきりと判るほどに成長して、ブラジャーなしでは 過ごせなくなっていた。それは店に来る男達の羨望の的ととなり誰もが触りたがった。 むろんそれを拒絶することはできなかった。自由に触らせることで、客は喜び、やが て常連となってくれるからである。  まずは胸元の大きく開いたドレスを着て、ちらりちらりとチラリズムで胸を見せ付 ける。やがて興奮した客が胸元に手を入れてくるが、簡単に触らせてはいけない。  出来る限りの可愛い声で、 「いやん! 社長さんのエッチィ」  とか言いながら、一度は小さな抵抗を見せるのがコツだ。同じ意味合いにスケベと いう言葉があるが、陰湿なイメージがあるので禁句となっている。できるだけさわや かに明るく、「エッチィ」と言うのだ。  あくまで純情に、時として小悪魔的に振る舞うことが大切だ。 「今度触ったら、一万円よ」  客の機嫌が良ければ、巧くすると財布を開いてくれる時がある。 「そうか、そうか。一万円あげれば触ってもいいんだな」  金額は高くも安くもなく、常連客が日頃どれくらいの飲食代を払い、いつもどれく らいの金額を財布に入れているかを、よく把握して決めることだ。五千円か一万円く らいが打倒であろう。 「もうしようがないわねえ。一度だけよ」  と許してあげても、おおっぴらには触らせない。ちょっとずつ、ちょっとずつであ る。相手をじらすことも肝要だ。  こうしたお金は全額自分のものとなり、店に拠出する必要はない。これが結構金に なるおこづかいとなる。  収入増はいかに上得意の常連客を集めるかにかかっている。  もう一つ大事なことは、客を楽しませ飽きさせない巧妙な会話術である。  例えば客の好みや趣味などを聞き出し、その事を話題にあげること。もちろん十分 な下調べや勉強も必要になる。客が車好きなら車の事を話し、切手収集が趣味なら切 手の話しをすることだ。  一度女装してみたいという客がいた。女装者達のドキュメンタリーを書いている記 者で、実際に自分で体験してみないと、本物の記事が書けないだろうということだっ た。彼がニューハーフ・バーに出入りしていたのも、女装者の体験談を集めていたの である。  まずは手始めに、自分の女装経験を話してあげた。はじめて女装して街を歩いた時 の気持ちなどである。そして、彼を店から連れ出して、女装会館へ連れて行ってあげ たのである。一人では恥ずかしくてできないことでも、経験豊富なものがついていて あげれば安心というものである。女装会館では、下着の選び方からはじまってドレス の借りだし、そして女装談話室での相手と、手取り足取り一緒に付き合ってあげた。  店の営業時間中に、客と一緒に外へ出る場合は、デート扱いとなり規定の時間ごと のデート料を支払わなければならないが、彼は快く承諾してくれた。なおデート料は 店と折半することになっている。  その後、彼は上得意の常連客となった。  わたしの懇切丁寧な対応が気に入ってくれたようだった。
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2018年10月30日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十五章 トランター陥落 IV

第二十五章 トランター陥落

                 IV  その頃、スティールも妻との営みに励んでいた。 「あ、あなた!」  久しぶりのこととて、妻は激しいほどに燃えてスティールの愛撫に悶えた。  そしてスティールのすべてを受け止める。  妻として、夫の子供を宿すために。  もちろん確実に妊娠するために、スティールの帰還に合わせてピルを飲む加減を調 整し、帰宅のその日に排卵が起こるようにしているはずだった。  寄り添うようにスティールの脇で眠っている妻。  実に幸せそうな寝顔だ。  女性として軍人の妻となり、彼の子供を産むことは一番の幸せである。  連邦に生きる女性のすべてが、幼少の頃からそう教えられて育ってきた。  男性は軍人として働き、女性は子供を産み育む。  それが当然のごとくとして、連邦の人々の人生観となっている。  誰も疑問を抱かない。抱く思想の種すらも存在しないのである。  すべての民に対して幼少の頃から教育されれば、そのような思想や概念が植え付け られるということである。  かくして、スティールの妻も、軍人の妻になるという幼少の頃からの夢が適って幸 せ一杯の笑顔を見せる。そして子供を産み育てることを生きがいとしているのだ。  スティールと結婚する前には、他の女性と同じように授産施設に通っていた。結婚 して夫婦となってからは、士官用官舎に入居してただ一人の男性と夜を共にする。  官舎暮らしに入れる士官との結婚を、すべての女性が夢見ているのであった。  妻の寝顔を見ながら物思うスティール。  共和国同盟との戦争が膠着状態となり、すでに百年近く続く戦争。  この戦いに勝つために必要なことは、味方が一万人殺されたら、敵を二万人殺せば いい。そして死んだ一万人に代わる新たなる生命を生み出すこと。  そうすればやがて敵は人口減少からやがて自然消滅する。  長期的となった戦争を勝ち抜くには、いかにして人口を減らさないかに掛かってい るのだ。  こういった思想から、現在の連邦の教育制度が出来上がった。  特に女性に対しての徹底的な思想改革が行われ、人口殖産制度が出来上がった。女 性のすべては軍人の妻となるか、授産施設に入るのを義務付けられ、妊娠可能期がく れば男性の相手をして妊娠しそして子供を産む。そして子供を産んだ場合は、その子 が一人立ちするまで、十分な養育費が支給される。女性自身が働かなければならない ことは一切ないから、安心して子育てに専念できるというわけである。 「授産施設か……」  そういった制度が、果たして女性にとって本当に幸せなのか?  スティールには判断を下すことができない。
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2018年10月29日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-6

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-6  それから数日間。  従業員寮での生活は、みんなが店の仕事を終えて寝ている午前中に、出入りして用 をたしていた。もちろん女子寮に男子が出入りしては変に疑われるので、女装し管理 人に化粧してもらってである。店に出るための心の準備も兼ねていた。女装した状態 で、他人の前に出る勇気を培う為である。  マネージャーの言ったとおり、髪を整え化粧していると、女装しているとは誰にも 気づかれなかった。ランジェリーショップで下着を選んでいても、女子トイレで並ん でいても、そばにいた女性達はみんな、自分を同性としか見ていないらしく、何のも めごとも起きなかった。何せ高校時代から女装させられるほどの美形を誇っていたか ら、それなりの自信はあった。  ただ声だけはどうしようもなかった。男性としては高い方だが、明らかに女性とは 違うと判る。  ボイストレーニングをすることにする。本屋で小説を買って帰り、出来る限り高い 音を出すようにして朗読する。  今日までの生活費は、入店祝い金という形でマネージャーが出してくれていたが、 いつまでも好意に甘えているわけにはいかない。  傷もほとんど完治して痛みもなくなったので、店に出る決心をつけた。  マネージャーに連絡して今夜から出る事を伝える。 「ありがとうございます。やっと、決心してくださったのね。今夜時間前にお迎えに 行きますから、お部屋でお待ちになっていてください」  というわけでその夜の、従業員寮のロビー。  目の前に着飾った女性達が並んでいる。自分も衣装ケースにあったドレスを着てい る。  送迎バスが来るまでの合間を利用しての自己紹介である。 「ご紹介します。新しく入った『ひろみ』さんよ。みんな仲良くしてあげてね」  ひろみ、というのは店で使う源氏名である。マネージャーが名付けてくれた。 「よろしくお願いします」  マネージャーが一人一人を紹介していく。 「あらあ、さやはまだ付いているのね。でも、たまたまはしっかり取ってるのね」  いきなり一人が股間を触った。 「な、なにするんですか」 「大丈夫よ。ここのお給料は高給だし、支払いもしっかりしているから、手術代もす ぐにたまるわ」 「手術って?」 「まあ、とぼけちゃって。おちんちんを取って女のあそこを造る手術よ。球抜きして るくらいだから、もちろんやるんでしょ?」  彼女達にとって、おちんちんは忌み嫌うものでしかなく、一刻も早く取り払って、 性転換手術を行って、より真の女性に近づきたがっているようであった。  別の一人が言った。 「忠告しておくわ。たまたま取っちゃうとおちんちんや袋が縮んでくるけど、そうな らないように、毎日皮を引っ張って無理にでも伸ばすようにした方がいいわよ。手術 の日までね」 「皮を伸ばす?」 「そおよ。膣を造るのには、その皮が必要なの。だから皮が縮んじゃうと膣の内径や 長さが足りなくなる可能性があるわけ。そうなるとどこからか皮膚を移植したり、腸 の一部を切り取って代用するんだけど、術後があまり芳しくないのよね。だって皮膚 移植は取った箇所がケロイド状になったり、腸を使う場合は身体の中にあったものを 表に持ってくるんだもの完璧にはいかない。わかった?」 「う、うん」  そうこうするうちに送迎バスが迎えに来た。  ぞろぞろバスに乗り込む従業員達。 「さ、あなたも乗ってください」  マネージャーに促されてバスに乗る。  やがてバスはゲイバーに到着する。 「さあ、あなたの再出発よ。頑張りましょうね」  マネージャーがやさしく言ってくれた。  開店時間となった。  とにかく初心者で何も判らないので、ベテランのそばについて客の前に出る。 「君、はじめてなのかい?」  固くなっている自分を見て客が尋ねてきた。 「はい。今日がはじめてです」 「そうか、初々しいねえ。いいよ、きみぃ」  客も初心者ということで、やさしくしてくれている。  一人、また一人と、入れ代わりで客の接待が続く。  そんな中には、当然のように胸を触ってくる客もいる。 「なんだ作り物か、まあいいや。可愛いから許すよ。はやくお金を貯めてボインにす る手術するんだね」  こんな時は、騙されたと怒りだす客もいるそうだが、若くて可愛い初心者というこ とで大目にみてくれる。
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2018年10月28日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十五章 トランター陥落 III

第二十五章 トランター陥落

                III  そんな会話を耳にしながら、副官が言い出した。 「提督は、奥様のところへ行くんですよね?」 「まあな。それが軍人の役目でもあるからな」 「奥様のいる提督や佐官以上のクラスの人たちがうらやましいですよ。私たち下っ端 は、誰に当たるか判らない授産施設なんですから」 「君も早く出世することだな。大尉じゃないか、あと一歩じゃないか」 「そうなんですけどね……じゃあ、私は授産施設に行って参ります」  副官はそう言うと、先ほどの兵士達の向かった方へ歩いていった。  一人残ったスティール。 「授産施設か……」  一言呟いて、自分の妻の待つ既婚者用の官舎へと向かった。  授産施設。  先ほどの兵士達が順番待ちをして並んでいる。  きょろきょろと落ち着かない雰囲気の兵士。 「落ち着けよ」 「そうは言っても……」 「ほら、まずは受付だ」  順番待ちの列が流れて、目の前に受付があった。  認識番号と姓名、所属部隊などを申告する兵士。 「アレフ・ジャンセン二等兵。今回がはじめてですね」 「は、はい」  受け付け係りは、端末を操作して相手を選出した。女性との経験がない男性には、 妊娠の経験がある場馴れした女性があてがわれることになっている。 「結構です。では、入ってすぐ右手の部屋で裸になって、まずシャワーを浴びてくだ さい。出た所に替えの下着が置いてありますので、それを着て先に進んでください。 部屋番号B132号室に、あなたのお相手をします女性が待機しております」  といって部屋の鍵を手渡された。 「そちらの方は、隣のB133号室です」  受付を通り過ぎ、授産施設の入り口から中へ。 「おい」  扉のところで、伍長が呼び止めた。 「はい」 「いいか。女にはな、男にはない穴がここにあるんだ。ちんちんの替わりにな。うん こをする穴じゃないぞ」  といって股間を指差す。 「あな……ですか」 「そうだ。その穴に自分の固くなったちんちんを入れればいいんだ」 「あなに固い……」 「ま、後はなるようになるもんさ。頑張りな」  といって、兵士の肩を叩いて隣の部屋に消えた。  扉を開けると自動的にシャワーが噴き出してきた。  身体の汚れを落として先に進むと、受付の言った通りに棚の上に、タオルと替えの 下着が置いてあった。タオルで身体を拭い、さらにその先にあるドアを開ける。  途端に甘い香りが鼻をくすぐる。  部屋に入るときれいな女性が、ベッドの上で下着姿で待機していた。 「よろしくお願いいたします」  入ってきた兵士に向かって丁寧におじぎをすると、笑顔で迎え入れた。  兵士は、おそらく女性の下着姿など見たことなどないのであろう。恥ずかしがって もじもじとしていた。 「どうぞ、こちらへ」  女性がやさしく手招きする。 「実は、お、俺、はじめてなんです」 「あら……ほんとうですの?」 「はい」 「大丈夫ですよ。ほらこんなに元気ですもの」  といって兵士の股間を差し示した。  すでにパンツを押し上げて、ぎんぎんにいきり立っていた。 「それじゃあ、はじめましょうか」 「は、はい。よ、よろしくお願いします」 「うふふ」  それからしばらくして授産所から出てくる兵士。 「どうだ、すっきりしたか」  出口のところで伍長が待っていた。 「女の人の肌が、あんなにも滑らかというか、柔らかいものだったなんて、はじめて 知りました」 「女性というものは、身体の作りが俺達男性とはまるで違うからな。まず子供を産む ことができる」 「え、まあ。しかし、これで俺の子供をあの女性が産むんだと思うと、なんかへんな 気分です」 「あほ、一回や二回くらいで妊娠するとは限らないさ。おまえの前にも幾人かの男の 相手しているだろうしな」 「そうなんですか?」 「おまえって、本当に無知なんだな。簡単に説明してやろう」  といって、女性の生理について講義をはじめる伍長であった。  バーナード星系連邦では、男性は6歳になれば親から離されて幼年学校へと進み、 兵士となるための教育を受ける。そして女性は人口殖産計画に沿って子供を産むこと を義務付けられており、妊娠可能期には授産施設へ通うことになる。  それが当然のこととして受け入れられている。  イスラム教に曰く。 「男は髭を蓄えターバンを巻き、女はプルカで全身を覆って顔を出さない。何故と問 うなかれ、それがイスラムなのである」
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2018年10月27日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の拾伍

陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 その拾伍(土曜劇場)

(拾伍)新たなる事件  翌朝。  事の詳細を告げられた井上課長は、 「なぜ、起こしてくれないんだ」  と、憤慨しつつも自分では役に立たなかったであろうことも良く分かっていた。 「何にせよ。向こうからも動いてきたということか」 「こちらが動けば、相手も動く。犯罪捜査のイロハですね」  その時、井上課長の携帯が鳴った。 「ああ、私だ……なに、本当か!早速県警に……迎えに来る?分かった、ここで待てば 良いのだな」  どうやら事件発生のようである。 「どうしましたか?」 「首切り事件が発生したよ」 「この奈良の地で?」 「ああ、奈良県警から迎えのパトカーが来るから、それで現場に急行する」 「昨夜の呪術者の仕業かも知れませんね」 「かもな。というわけで、君には帰らないで、もうしばらく同行してくれないか?」 「わかりました」 「学校の方には連絡させるよ。警察の協力ということで、出席扱いにしてもらう」 「ありがとうございます」  井上課長がチェックアウトと宿代の支払いをしている間に、土産物屋で買い物をする 蘭子。 「これでいいかな」  と、手にしたのはごくありふれた、お守り。 「五百八十円になります」  そうこうするうちに、奈良県警のパトカーがやってくる。  そのパトカーに乗って現場に向かう二人。  井上課長の車は、別の警察官が運転して付いてくることになった。  パトカーの中で、買ったお守りに呪法を掛けている蘭子。 「何をしているの?」 「お守りに護法を掛けています」 「護法?」 「昨夜のこともありますから、課長の身を守るためのお守りです。はい、どうぞ」  というと、護法を掛けたばかりのお守りを手渡した。 「お守りねえ……」  受け取り、しばらく見つめていた。  釈然としない表情ではあったが、胸内ポケットにしまう課長であった。  変死とか怨霊の仕業としか思えない事件を扱い、怨霊とも直に目にしてきただけに、 「非科学的な!」  とは言い切れない心情になりつつあった。
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2018年10月26日 (金)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-5

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-5  しばらく沈黙が続いた。  重苦しい雰囲気が漂っていた。 「ねえ。前向きに考えませんか? あなたの身体は元に戻りません。面接の時にも申 しましたが、あなたのお顔は結構可愛くて、お化粧すれば女性にしか見えないでしょ う。さらに女性ホルモンを飲んでいれば、より女性らしい姿になっていきます。諦め て女性として生きる道を進んではいかがでしょうか」 「女性として?」 「お店で働いてくださるなら、一切の面倒はこちらで致します。将来的に性転換手術 をなさる気になったら、先程言った主治医が格安で処置してくれます。あ、これは内 緒ですよ。先生は気に入った方しか手術はしないんです」 「そうは言っても、逃げられないようにって、身体には発信器が埋め込まれているん だ」 「うふふ。それは冗談ですよ。発信器なんて埋め込んでませんよ」 「しかし、探知機が反応しましたよ。自分の方に向けると大きな音が出て」 「あれはインチキです。実は一種の羅針盤のようなもので、北の方角に向けると音が なる機械なんです。その時、あなたは北側にいたのでしょうね」 「なんだ……心配して損した」 「まあ、あれはあなたが逃げ出さないようにとの配慮だったのですが……。でも、あ なたとお話していて、その必要はないと感じました。策略を巡らさなくても、ちゃん と私達のお店で働いてくださると確信しています。こうして私の話しを立腹もせず、 真剣に聞いていらっしゃるのがそれを現しています。だからこうして事実を申し上げ たわけです」 「信頼してくれるわけだ」  何にしても、火だるま借金地獄から脱却するためにも、働くしかないのは確かだ。 たとえどんな悪略な行為がなされてもだ。このまま借金を返せなくなって、暴力団や 取立て屋の手によって、生命保険が掛けられた上に、どこぞで首吊り死体となって発 見されるってことにもなりかねない。 「どうでしょう? すでにあなたとは雇用契約を取り交わしていますが、契約通りに お店で働いては頂けないでしょうか?」 「そうですね。元々からして他に働き口がなくて、しようがなくあの店を尋ねたので すから。お世話になるしかないのは確かですし、女装して働く覚悟はできていました から。こちらからもお願いしますよ」 「ありがとうございます」 「一つ聞いていいですか」 「どうぞ」 「お店の人って、みんな僕のように強制的に手術を施されているんですか?」 「いいえ。お店で働きたいと希望してくる方は、根っからの性別不適合の方や女装マ ニアの方です。性別不適合つまり女性の心を持ってらっしゃる方は、大概去勢手術を なさっているか、予定しているかしています。あなたのようにこちらで手術する必要 はありません。興味本意や高給というだけでいらっしゃる女装マニアの方は、丁重に お断りしています。ニューハーフと女装マニアは根本的に違うからです。ただし、相 当の美人の方は、あなたがされた処置を施して、引き止めることもあります」 「わかりました。それで、いつから店に出ればいいのですか?」 「とにかく傷口が治ってから、お店に出て頂ければ結構です。その判断はお任せます、 早いに越した事がないということは言っておきます。すべてはあなたの身の為にもな るということを覚えておいてください。お店に出る時間になればマイクロバスが迎え に来てくれますので、ロビーに出て待っていてください。お店に出る日数は自由です が、曜日を決められた方が、常連客様が付きやすいですよ。それと、この寮の管理人 が美容師を兼ねていまして、化粧やヘアメークして貰えることになっていますから、 自分で化粧できるようになるまでは、やってもらえばいいでしょう」
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2018年10月25日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十五章 トランター陥落 II

第二十五章 トランター陥落

                  II  ぞろぞろと議場から出てくる参謀達。  スティールのそばに副官が駆け寄ってくる。 「いかがでしたか?」 「予定通りだ。忙しくなるぞ」 「よかったですね。頭の固い連中ばかりだからどうなるかと思いましたがね」 「実行部隊の司令官がことごとく全滅や捕虜になっている。そしてとうとう要塞を奪 取されてしまった。あのランドールに何度も苦渋をなめさせられて、もうこりごりだ という雰囲気が漂っている。例え名案があったとしても二の足を踏んでしまうのも仕 方のないことだろう」 「それで、提督に任せることになったわけですね」 「ともかく、ぐずぐずしているとあのランドールに嗅ぎ付けられて先手を取られてし まう。奴の配下にある情報部は優秀だからな」 「でもランドールがいかに素早く情報を得たとしても、ニールセンが動かないでしょ う。どんな情報も握りつぶしてしまうのではないでしょうか」 「そうかも知れないが、万全を期しておいて損はないだろう。それより二の段の手筈 はどうなっているか?」 「何とか二百隻ほど調達できました。すべて実際の戦闘に耐えられる完動戦艦です」 「二百隻か、取り合えずそれだけあれば何とかなるだろう。後は戦闘員の腕次第だ な」 「しかし調達した先々では首を捻っていましたね。何せ運航システムが旧式化して退 役した戦艦ばかりですから」 「まだまだ使える物を旧式になったといって、次々と最新鋭戦艦に切り替えるのは考 えものだ。旧式にもそれなりの使い道があることを教えてやろうじゃないか」  その日から、共和国同盟への侵攻に向けての、戦艦の改造が開始された。  四隻の戦艦を一組として、同盟に侵攻する任務を与えられた戦艦の後方に、大河を 飛び越えるためのブースター役を担う戦艦が三隻ずつ合体させられていく。  もちろん合体戦艦を収容するドックなどあるはずもないから、宇宙空間に浮遊させ た状態で作業が行われていた。作業用のロボットスーツを使用して、接続アームをそ れぞれの戦艦に取り付けて合体させてゆく。 「いいか。ワープ中にばらばらになったりしないように、しっかりと固定するのだぞ。 我々のこの作業が共和国同盟侵攻の成功の鍵を握っているんだ。一箇所一箇所、気を 抜かずに確実にやるんだ」  監督の指示の元次々と合体戦艦が作り出されていく。  さらに戦艦の内部では、四隻の戦艦を同時にハイバーワープさせるためのエンジン 制御システムのインストールが進められている。  戦艦の改造の状況が眺められる宇宙ステーションの展望室。  スティールと副官がその作業を見つめている。 「これだけの戦艦が集められると、実に壮観ですね」 「残存艦隊の八割が集結しているからな」 「総勢三百二十万隻です。この中から都合八十万隻が同盟に侵攻するというわけです か。これまでにない大攻勢じゃないですか」 「大河を飛び越えて、絶対防衛圏内に直接飛び込むのだ。なにしろ相手は、ニールセ ン率いる五百万隻からなる大艦隊だ。戦闘の経験のない有象無象の連中とはいえ、数 が数だからな油断はできない」 「にしてもあの旧式戦艦を投入すると聞いて、皆びっくりしていましたよ。本当に役 に立つのかとね」 「言わせておくさ。それより明後日に最後の作戦会議を行う。各部隊長を呼び集めて おいてくれ。今回の戦いは司令官の指揮よりも、各艦長の裁量によって勝敗が決定す るからな。各部隊配下の艦長にまで作戦概要が行き渡るように、しっかりと打ち合わ せをしておかないとならない。16:00時に中央大会議室だ」 「判りました」  そんな二人のそばを、数人の兵士が通り過ぎていく。  会話が聞こえてくる。 「おい、おまえら」  伍長の肩章を付けた下士官が兵士を呼び止めた。 「はい、何でしょう」 「授産施設にいくぞ」 「授産施設?」 「おうよ。まもなく出撃だ。いつ戦死してもいいように、自分の子供を残しておかな ければならん。」 「それって、女の人とベッドを一緒にして、その……つまりセックスというんですか ……するんですよね」 「ま、そんなところだ」 「俺、経験ないんですよ」 「わ、私もです」 「気にすんな。みんな最初は初心者さ」 「でも……」 「いいか、これは命令だからな。女性の子作りに協力するのも軍人の仕事のうちなん だぞ」 「はあ……」 「さあ、元気を出せ。そんなことじゃあ、立つのも立たなくなるぞ」  と大笑いし、兵士達の肩を押すようにして、授産施設なる場所へと追い立てていく。
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2018年10月24日 (水)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-4

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-4 「ところで、この薬代というのは何ですか?」 「ああ、それはですね……」  といいながらバックからまた何かを取り出した。それを手渡しながら、 「これを毎食後に飲んでください」 「これは?」 「女性ホルモンです。毎日飲んでいれば、胸が膨らんでくるし、脂肪が沈着して女性 らしい身体つきになります。実はその薬以外にも、すでに女性ホルモンの筋肉注射を してあるんです。あなたは若い、半年も飲んでいればそれなりの大きさに成長するで しょう。そうですね、胸が出来上がるまでは、この特製パッド入りブラジャーを着け ておくといいでしょう」  そういって持参してきた箱を手渡した。開けてみるとまさしく女性の乳房を型取っ たシリコン製の特製パッドと、それを入れて着用する専用ブラジャーが入っていた。 触ってみると適度な弾力と硬さをもっており、トップでCサイズになるくらいのボリ ュームがあった。 「もし飲むのを拒絶したら?」 「それはあなたの勝手ですが、睾丸を摘出してしまった今、急激な男性ホルモンの欠 如で、更年期障害に似た症状に、生涯苦しむことになるでしょうね。女性ホルモンを 飲んでいればそれは防げます」 「女性ホルモンじゃなく、男性ホルモンを飲んだらどうなる?」 「睾丸もないのにですか? いくら男性ホルモンを飲んだとしても、睾丸がなかった ら笑われちゃいますよ。プールにも銭湯にも入れないでしょうね」 「そ、それは……そうだ。ゴムボールでも入れたら?」  というと、マネージャーはくすりと笑って言葉を続けた。 「男性ホルモン、つまりテストステロンは、非常に強力で即効性があります。それだ けにその摂取量は厳密に医者の監視下になければ処方されません。ゆえに、男性ホル モンを入手するのは非常に困難です」 「そうか……難しいのか」  よくスポーツ選手がテストステロンを使って筋肉増強をし、薬物検査で入賞を剥奪 されるというニュースを聞いている。何とか手に入るのではないかと思ったが……。 マネージャーが嘘をついている風には見えなかった。 「その点、女性ホルモンは個人輸入で誰でも簡単に手に入れられます。作用がおだや かで、定期的に定量を飲んでいれば、効果は十分に現われます。もちろん当方で仕入 れてお分けいたします」  たんたんと女性ホルモンについて語るマネージャー。 「しかし、だいたいが他人の身体を勝手にいじくりまわしておいて、女性ホルモンを 飲みなさいというのは、本末転倒じゃないですか」 「そうね……そう思うのは当然よね」  マネージャーはお茶を一口すすってから静かに語りだした。 「手術を決断したのは、この店の主治医である医師なんです。店子達の健康管理を見 てもらっています。体調に合わせて各人の女性ホルモン摂取量を処方してくれます」 「主治医?」 「はい。あの日、丁度お店にいらしてたんです。監視モニターで様子を見ていたらし いですが、お茶を入れる時に『この子は、女として生きるのがもっともふさわしい』 とか言って、睡眠薬を入れて、そして手術されました。先生は独自のポリシーを持っ てらっしゃって、数多くの性転換手術などもなさっておいでです」
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2018年10月23日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十五章 トランター陥落 I

第二十五章 トランター陥落

                 I  バーナード星系連邦の首都星バルマー。  連邦軍統合本部の作戦会議場。 「タルシエン要塞に、共和国同盟軍の精鋭艦隊が続々と集結しております」 「ますますもって、同盟への侵攻が困難になってきたというわけだな」 「タルシエンの橋の片側を押さえられてしまったのですから。どうしようもありませ んね」 「橋の道幅は狭い。ここを通って行くには、例え大艦隊であっても一列に並んでと言 う状態だ。出口付近に散開して待ち伏せされると、各個撃破されて全滅するしかな い」  議場は悲観的な雰囲気に包まれていた。  あれほど強固な要塞が落ちるとは、みなが落胆し精気がなくなるのも当然と言える であろう。  その時、声をあげて息まく士官がいた。  スティール・メイスン少将である。 「さっきから何を非建設的な意見を言っていらっしゃるのですかねえ。今が絶好の機 会だというのに、これを逃すおつもりですか?」 「何を言っているか、スティール」 「ですから敵の精鋭艦隊がタルシエンに集結している今がチャンスだと申しておるの です」 「どういうことか? 説明しろ!」 「それでは……」  といいながら立ち上がるスティール。 「先程からも申している通り、今が共和国同盟に侵攻する最大のチャンスです。同盟 はタルシエン要塞に第二軍団の精鋭艦隊を集結させており、本国の防衛が手薄になっ ております。第二軍団以外の戦力が恐れるに足りないことは、かつて敵にハンニバル 艦隊と言わしめた後方攪乱作戦において実証済みであります」 「タルシエンの橋の片側を押さえられていると言うのにどうやって同盟に進撃すると いうのだ」 「なぜタルシエンにこだわるのですか? 我々には銀河の大河を渡ることのできるハ イパーワープエンジン搭載の戦艦があるじゃないですか」 「しかしハイパーワープエンジンで大河を一瞬に渡っても燃料補給の問題がある。ハ イパーワープは莫大な燃料を消費する。ぎりぎり行って帰ってくるだけの燃料しか搭 載できないのだぞ。同盟内に入り込んで戦闘を継続するだけの燃料はない。敵勢力圏 では足の遅く攻撃力のない補給艦を引き連れていくわけにはいかんぞ。万が一の撤退 のことを考えれば実現不可能と言える。後方撹乱作戦のように現地調達もできないだ ろう。片道切符だけで将兵を送り出すわけにはいかない」 「それにだ。仮に燃料の問題が解決したとしても、将兵達を休息させることなく、最 前線での戦闘を強要することになる。ハイパーワープで飛んだ先は、ニールセン率い る五百万隻の艦隊がひしめく、絶対防衛圏内だ。休んでいる暇はないから、士気の低 下は否めないぞ。これをどうするか?」 「手は有ります。図解しながら説明しましょう。パネルスクリーンをご覧下さい」  スティールが端末を操作するとパネルスクリーンに一隻の戦艦が表示された。 「まず、これが同盟に侵攻する戦艦ですが、この艦体の後方に三隻の戦艦をドッキン グさせます」  表示された戦艦に、別の戦艦が三隻接合され、まるで補助ロケットのような形状に なった。  この時点で感の良い者は、スティールが言わんとすることを理解したようであった。  作戦を概要すると、 1、後方の三隻をブースターとしてハイパーワープエンジンで大河をワープして渡る。 2、前方の戦艦は、ペイロードとなって後方の三隻に送り出してもらい、その間将兵 達は休息待機に入る。 3、ワープが完了して向こう岸に渡ったら、ブースター役の三隻の戦艦はそのまま引 き返す。 4、燃料満載、将兵休息万全の前方の戦艦は、侵略を開始する。  というシナリオである。  全員が、スティールの奇策に目を丸くしていた。 「しかし合体した状態で無事にワープできるのかね?」 「そのためのエンジン制御プログラムを使用します」 「君のことだ。そのプログラムもすでに開発しているのだろう?」 「もちろんです。でなければ提案しません」  懐疑的な上官たちに、自信満面で解説するスティールだった。 「万事うまくいけば、燃料補給と将兵の休息の問題が解決するし水と食料の消費もし ない、Uターンしたサポート軍はそのまま、自国の防衛にあたれると、つまり一石四 鳥が解決するというわけだな」 「そうです」 「よし、決定する。メイスン少将の作戦案を採用することにする。これ以上手をこま ねいていれば、あのランドールがさらに上に上がって、ニールセンと同等以上に昇進 すると、もはや侵攻は不可能になる。ニールセンとランドールとの間に軋轢のある今 のうちがチャンスだからな」  一堂の視線がメイスンに注がれる。 「判りました。誓って、共和国同盟を滅ぼしてみせましょう」  キリッと姿勢を正し敬礼するスティール。
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2018年10月22日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-3

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-3  どうしようかと悩んでいると、ドアがノックされた。 「誰ですか?」 「あなたが面接を受けた店のマネージャーです」 「え?」  あわててドアを開けて確認すると、確かにあの女性マネージャーであった。  自分をこんな身体にした張本人の登場だ。 「入っていいかしら」  玄関で微笑みながら尋ねる。 「ど、どうぞ」  もちろん断るはずがない。  事の成り行きを聞く必要がある。  マネージャーは部屋に入ると、 「お茶を入れましょう」  というとまるで自分の部屋であるかのように、お茶の葉や急須類を取り出してきて、 テーブルに並べた。どうやらこの部屋の事はすべて知り尽くしているようだ。 「ああ、おいしい」  と一服に感嘆する。 「あなたがおっしゃりたいことは判ります。今から、それを説明しましょう」  ことりと音を立てて湯飲みをテーブルに置いて、 「まず、あなたの身体の現状についてです。あの日、お出ししたお茶には睡眠薬を入 れてありました。眠ったところで待機していた医師によって、睾丸摘出の手術を施さ れました。そして終了後、この部屋に運びこまれたのです」 「やはり睡眠薬が入っていたのか……」 「この業界ってのは、その系統の雑誌の取材も多いの。店としても、絶好の広告と収 入増になるから断り切れない。しかし、店子が人気投票のランクに載ったり、表紙を 飾ったりなんかすると、スカウト合戦が始まって、より高給な店に取られてしまいま す。お客の接待というものは、一朝一夕で身につくものではないわ。手取足取り教え ながら十二分に時間を掛けて教育し、やっと常連客がついたと思った頃に、その客ご と他店に持っていかれたら、元も子もない。わかるでしょ」 「何となくわかります」 「雑誌の人気投票のランク付けに入りながらも、せっかく育て上げた店子を、絶対に 他店に引き抜かれないために、これはという店子には発信器をつけて他に行けないよ うにしているの。あなたのお顔がとっても素敵だったから、いずれ店一番の売れっ子 になると思いました。だからぜひ当店に欲しかったし、他の店に取られたくなかった。 だから、手術しました。あなたには悪いと思いましたが」  悪いもなにも最悪の行為じゃないか。まるでおもちゃを扱うように、人の身体を無 断で勝手にいじりまわして、二度と元に戻らないようにしておいて、おまけに逃げ出 さないように発信器を埋め込む。悪いじゃ済まされる問題じゃない。 「もちろん給与はちゃんと支払います。この店に来た時に契約した額をです。ただし、 この部屋の賃料と衣装代は差し引きます。衣装ダンスの中は見ましたか?」 「ああ、ドレスと下着類が入っていた」 「衣装は自由に使ってください。お店に出る時のドレスと、外出用のスーツが入って います。もちろんその衣装代は月割りにしてお給料から差し引かせていただきます。 これがその明細です」  といって明細書をくれた。
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2018年10月21日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 VII

第二十四章 新生第十七艦隊

                VII  タルシエンに全艦隊が揃ったところで、改めて会合が開かれた。各艦隊の司令や参 謀達を交えるとかなりの人数に及んだ。もちろん初顔合わせという士官同士がほとん どであった。 「ところで、連邦軍がこの要塞を避けてトランター本星を直接攻略するというのはあ り得るのかね」  早速、アレックスに次ぐ地位にあるフランク・ガードナー少将が質問に立った。 「当然でしょう。現在ここには三十万隻からの艦隊が駐留していますし、要塞そのも のの防御力もあります。これを真正面から攻略するには、その三倍の艦隊を必要とす るでしょう」 「都合九十万隻が必要ということか」  続いてリデル・マーカー准将が問題にする。 「お言葉ですが、提督は数十人の将兵で要塞を攻略なされました。同様の奇抜な作戦 で敵が奪回する可能性もあります」 「それはないと、俺は思うな。この要塞を攻略できるような作戦能力に猛る参謀が敵 にはいない」  フランクが答えると、すぐにアレックスが訂正する。 「過信は禁物ですよ。向こうにはスティール・メイスンという智将がいるんです」 「しかしこれまで表立った戦績を上げていないじゃないか」 「それは彼が参謀役に甘んじていたからです。艦隊司令官として直接戦闘を指揮する ようになれば手強い相手となるはずです」  アレックスは、これまでに調べ上げたスティールに関する情報から、彼が着々とそ の地位を固めていることを確認していた。もし次の侵略攻勢があるとすれば、彼が総 指揮官として前線に出てくると踏んでいた。  その作戦も尋常ならざるを得ない方法を仕掛けてくるだろうと直感していた。  それがどんな作戦かは想像だにできないが、少なくともタルシエンの橋の片側を押 さえられ、多大な損害を被ることになる要塞を直接攻略するものではないと確信でき る。 「とにかく……。仮に通常戦力で敵が襲来してきた場合を想定すると、連邦軍がそれ だけの艦隊をこの宙域に派遣するには相当の覚悟がいります。同盟が要塞防衛に固執 して艦隊を集結させ、その他の地域の防衛が疎かになっている点に着目すれば……」 「要するに、ここには共和国同盟軍の精鋭部隊のすべてが集結しているということで すよね」 「逆に言えば、アル・サフリエニ以外の後方地域は、有象無象の寄せ集めしかいない ということで、本星への直接攻略という図式が成り立つというわけだ」 「侵略政策をとっている連邦は、敵陣内に深く入り込んで戦闘を継続しなければなら ない関係で燃料補給や艦の修繕の必要があるからこそ、要塞を建造した。そこを拠点 として同盟に進撃することができるというわけですね。でも、専守防衛を基本として いる共和国同盟にとっては、要塞を防衛することは戦略上の重要性は少ないとみるべ きでしょう。いくら要塞を押さえていてもそこから先に進撃することはあり得ないの ですから、燃料補給も艦隊の修繕もあまり必要ありませんからね。ゆえにこの要塞は 破壊してしまうか、同盟本星近くに曳航して最終防衛戦用として機能させるべきで す」 「まったく軍上層部は一体何考えているんでしょうねえ」 「というよりも評議会の連中の考えだろうさ。金儲けのことしか頭にないからな。要 塞を所有していることの経済効果を考えているのだろう」 「経済効果ね……確かにこの要塞の建造費がどれくらいは知らないが、ただで儲けた ものだし、ここの生産設備をフル稼動させれば、たとえ本国からの救援がとだえても ある程度は自給自足できる」 「ともかく、軍の命令には逆らえない以上、言われた通りにするしかないからな。た とえ本星が占領されても知ったこっちゃないということさ」 「それ、それですよ。本星が占領され同盟が降伏すれば、同然ここを明け渡すことに なるわけですよね」 「そう。結局連邦にとっても本星さえ落としてしまえば、この要塞は苦もなく手に入 れることができる。苦労して要塞を攻略する必要はないわけだ」 「果たして燃料補給の問題をどう解決するかですね」 「それさえ解決すれば、明日にも攻めてくるのは間違いない」 第二十四章 了
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2018年10月20日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の拾肆

陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 その拾肆(土曜劇場)

(拾肆)怨霊出現  その夜。  寝静まった室内に怪しげな光が浮かび上がった。  気配を感じて、枕元の御守懐剣に手を伸ばす蘭子。  怪しげな光は、その姿をさらにくっきりと現しはじめる。 「課長!起きてください」  隣に寝ている井上課長に声を掛けるが応答はなく、ブルブルと痙攣している。  明らかに呪詛を掛けられているようだった。 「虎徹、課長を守ってあげて」  というと御守懐剣を課長の胸元に差し込んだ。  やがて御守懐剣が輝きはじめて、そのオーラが井上課長を包み込み始めた。  しだいに苦しみから解放されて安息の域に入っていく。  御守懐剣である長曽弥虎徹は魔人が封じ込まれており、【魔の者】に対しては絶大な る威力を発揮するが、【霊なる者】に対してはほとんど効力を持たない。  それでも身を守る程度なら【霊なる者】相手でも効果があるようだ。  井上課長の安全が確保されたのを見て、改めて侵入者と対峙する蘭子。 「さて、何者?」  と問われて答える相手ではない。  すでに相手は全体の姿を現していた。  見た目、奈良時代の衣装を身に纏っている。  蘇我入鹿の怨霊を使った外法、ないしは口寄せ術の類か。  外法とは、髑髏(どくろ・しゃれこうべ)を使った妖術のことだが、入鹿の怨霊が封 じ込まれた七星剣があれば代用も可能であろう。  虎徹が手元にない不利な条件下にあるが、怨霊相手の戦法はいくらでもある。 「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」  独股印を結んで口で「臨」と唱え、順次に大金剛輪印、外獅子印、内獅子印、外縛印、 内縛印、智拳印、日輪印、宝瓶印と印を結ぶ。  さらに、不動明王の真言を三回唱える。 「ノウマクサンマンダ バザラダンセンダ       マカロシャダ ソワタヤ            ウン タラタ カン マン」  四縦五横に右手刀を切りながら、 「臨める兵、闘う者、皆陣列の前に在り!行、満、ぼろん、勝、破!」  と手刀を前に突き出すと、九字印が怨霊に向かって飛んで行く。  怨霊がひるむその瞬間、懐から呪符を取り出して、 「さまよえる魂よ、浄土へと成仏させたまえ!」  と唱え奉る。  やがて怨霊は、静かに退散していった。  呼吸を整えながら、 「オン アビラウンケン ソワカ」 「オン キリキャラ ハラハラ フタラン バソツ ソワカ」 「オン バザラド シャコク」  九字印の終了の儀式を行う。  井上課長を見る。  どうやら無事のようだ。  胸元の御守懐剣を取り外し、起こそうかと思いつつも、まだ草木も眠る丑三つ時だ。  朝まで寝かせておこう。  外法を使ってきたということは、 「どうやら手出しはするなという警告のようね」
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2018年10月19日 (金)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-2

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-2  目が覚めると見知らぬ部屋のベッドの上だった。 「ここはどこだ?」  あたりを見回してみると、大きな鏡のついたドレッサーに、淡いピンク色した衣装 ダンス、明るい緑色のカーテンと同系色の壁紙。  どこを見回してもやさしい女性的な装飾品が並んでいた。  ベッドから起きようとする。 「痛い!」  股間に鋭い痛みを生じて、布団を跳ねのけてみる。  女物のネグリジェを着ていた。  何故?  とは思ったが、股間の痛みの方が先決である。  ネグリジェの裾をまくしあげるようにして股間を確認する。 「こ、これは?」  自分の股間にはガーゼがあてがわれていた。 「なぜ、こんなものが……?」  ガーゼを取り外して、少し血の滲んでいる箇所を調べてみる。 「う、うそ……」  なんと股間にぶら下がっている袋の中身がなかったのだ。  去勢手術! 「ど、どうして。こんなことに?」  思い出してみる。  最後の記憶はニューハーフ・バーでの面接であった。  その時出されたお茶に睡眠薬でも入っていたのであろうか?  そして眠っている間に球を取り出す手術をしたのだろう。  ニューハーフ・バーで働く人の中には球抜きする者も多いという。  しかし何故? 無断でそこまでする必要があるのか。  その時、部屋の扉が開いて一人の男が入って来た。 「おお。目が覚めたようだな」  そのがっしりとした体格の男が言った。 「ここはどこですか? 僕の身体に何したんですか?」  その男に食ってかかった。 「ここは、おまえが面接を受けた店の従業員寮だ。身体の方は、見たんだろ? そう いうことだ」 「僕に無断でなんでこんなことをしたんですか?」 「結論から言えば、おまえが面接を受けたあの店に釘付けにして、他には行けないよ うにした」 「あなたは一体何者なんですか?」 「まあ、簡単に言ってしまえば、オーナーというというところだろう」 「オーナー?」 「ともかく契約書にもとづいて、君にはあの店にで出てもらう。逃げようなどと考え ない方がいい。何故なら、おまえの身体には発信器が埋め込んである。どこに隠れてい てもすぐに探し出せるからな。今、証拠を見せてやる」  といって、男が小さな機械を取り出して、部屋の中を動かしてみせた。 「こっちの壁に向けるとこんな音しかしないが……」  と言いながらそれをこちら側に向けると音が急に大きくなった。 「どうだ、便利なものだろう。手術して取りだそうとしても無駄だ。皮膚を切開して、 空気に触れたりすると、猛毒が出る仕掛けになっている。一瞬に即死する猛毒がな」 「猛毒……」  思わず身体を見回してみて、どこに仕掛けられているのかと勘繰る。 「無駄だよ。仕掛けられた場所が判ってもどうしようもないだろう。まあ、そんなわ けだから。おまえはあの店からは逃げられないというわけだ」 「うっ……」 「とはいえ、おまえの行動の自由は、保障されているから安心しろ。定期的に店に顔 を出してくれさえすれば、いつでもここを出ていっていいんだぞ。ただ、元の自宅に は戻れないだろうからな。当分はこの部屋で暮らすといいだろう。部屋の中にあるも のは、自由に使っていい。慣れてしまえば、ここも楽園かも知れない。おまえと同じ 境遇の奴がいくらでもいるから、お友達にでもなるんだな。気晴らしにはなるだろう。 おまえはもう男としての機能はないんだ。今後は、女として生きるしかないというこ とを自覚しろ」  そう言って、男は出ていった。  後を追うようにドアの所に行く。  鍵は掛けられていなかった。  ドアを開けると、明るい廊下の両側に同じ様なドアの列が続いている。  従業員寮の一室であることは確かだった。  行動の自由は保障されているという男の言葉は正しいようだ。 (そんなことを言ったって。発信器を体内に埋め込まれてちゃ、結局籠の鳥と同じじ ゃないか。自分の居場所を四六時中監視されているんだから)  部屋に戻り、室内を調べてみることにする。何にしてもネグリジェのままというわ けにはいかないだろう。何か適当に着れるものを探すことにした。 「この部屋は自由に使っていいと言ったもんな」  衣装ダンスには、きらびやかなドレスが並んでいた。おそらくあの店に出る時に着 ていくために用意されているのだろう。その下側の引出を開けると、女物の下着が入 っていた。ブラジャーにショーツ、スリップ、ガーターベルト、ストッキング。女装 に必要な衣類はすべて揃っていた。 「女物しかないじゃないか!」  豪華なドレス以外は、ツーピースにワンピース。どれも女物ばかり。  どこかにズホンがないか探したが無駄だった。下に着れるものは、スカートしかな かった。 「まいったなあ……。これじゃ、外に出たくても出れないじゃないか」
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2018年10月18日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 VI

第二十四章 新生第十七艦隊

                 VI  タルシエン要塞には、第八師団総司令部が置かれたほか、フランク・ガードナー少 将率いる第五師団も要塞駐留司令部を置いて第八艦隊が駐留することになった。  これを機に二つの師団と要塞、及び後方のシャイニング・カラカス・クリーグの各 軍事要衝基地、それらを統括運営するためアル・サフリエニ方面軍統合本部が設置さ れて、その本部長にアレックスが就任した。その主要兵力は艦艇数三十万隻と、それ と同数に匹敵するといわれる攻撃力と防御力を有するタルシエン要塞、兵員数一億五 千万人を擁する巨大軍事施設であった。  本土にはチャールズ・ニールセン中将率いる絶対防衛艦隊があって、最終防衛ライ ンを守備していた。第一師団第一艦隊・第四艦隊・第七艦隊などが所属する第一軍団、 及び第二・第三軍団配下の各師団の旗艦艦隊合わせて総勢三百万隻の大艦隊である。  人々のもっぱらの噂は、最前線を戦い抜き精鋭が揃っているランドール提督率いる アル・サフリエニ方面軍と、後方でぬるま湯に浸かっている状態に近い絶対防衛艦隊 とが、もし仮に戦ったとしたらどちらが勝つかということであった。  艦艇数ではニールセン側に分があるものの、実戦経験と作戦能力に優るランドール 側有利というのが大方の予想であった。 「しかし、どうして皆比較したがるのかね」 「そりゃまあ、自分の所属する艦隊や部隊が一番でありたいと思うのは自然な心理で しょう。そして自分もその一役をかっているという自負からくるのでしょう」 「士官学校の候補生の配属志望先では、圧倒的に第十七艦隊所属だそうですよ」 「志願兵も合わせて皆が皆、第十七艦隊を希望するから倍率五十倍以上の難関、逆に 他の隊を志望すれば希望通りすんなり入隊できるそうです」 「席次によって順番に配属されていきますし、成績では女性士官候補生のほうが優秀 ですから、自然として第十七艦隊に女性が多く集中するようになりました。現実とし て六割が女性士官になっております」 「優秀であるならば、性別は問わないのが提督の方針だからな。それに大昔の肉弾戦 闘が主体だったころならともかく、ボタン戦争時代となりすべてはコンピューターが 動かす今日では男女による体格差は無関係だから」 「しかし女性は結婚退職や育児休暇がありますからね」 「しようがないだろ。無重力の宇宙では子供は産めないからな」  要塞に第八艦隊が到着した。  戦艦フェニックスに坐乗して、フランクが幕僚達を従えて要塞ドッグベイに降り立 った。 「よくいらっしゃいました。先輩」  アレックスは自らフランクを迎えに出ていた。  アル・サフリエニ方面軍統合本部の長官であるアレックスに対して、フランク以下 の士官達が一斉に敬礼をほどこした。 「おう、悪いな。当分、間借りさせてくれ」  と敬礼をしたその手をアレックスに向けて差し出すフランク。 「どうぞ、遠慮なく使ってください」  その手を握り返すアレックス。 「早速だが、こいつらを要塞司令部に案内してやってくれないかな」  フランクの後ろには、第五師団の幕僚と第八艦隊司令のリデル・マーカー准将が控 えていた。 「フランソワ、ご案内してさし上げて」 「はい。どうぞこちらへ」  指名されて、参謀達を案内していくフランソワだった。 「君も出世したなあ、とうとう追い越されてしまった」 「何をおっしゃいます。同じ少将じゃないですか」 「いやいや。君は、カラカス基地・シャイニング基地・クリーグ基地、そしてこの巨 大要塞を統括するアル・サフリエニ方面軍統合本部長じゃないか。階級は少将とはい え、これは中将待遇だよ。何せこの要塞だけで、三個艦隊に匹敵すると言われている からな」 「三個艦隊とはいえ、動かない艦隊では私の手にあまります。それに今後は防御戦が メインになりますからね。なんたってゲリラ攻撃戦が私の主力です。トライトン中将 が、先輩をよこしてくれたのも、防御戦では同盟屈指ですからね」 「ははは。君は攻撃しか能がないからな」 「その通りです。要塞防御司令官として、先輩のお力を拝借いたします」 「ま、期待にそえるように頑張るとしますか」
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2018年10月17日 (水)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-1

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-1  美麗美男求む。  高額給与保証。 「腹減ったなあ……」  ここ三日、まともな食事をしていなかった。  職探しをしていた目に、求人広告の文字が飛び込んで来た。  とある風俗店の壁に貼られた求人ポスター。  そこがいわゆるニューハーフ・バーということは知っていた。  しかし、もう職を選んでいる余裕はなかった。とにかく何でもいい。仕事を与えて くれるなら土下座だってしよう。それくらいピンチなのだ。生活費を手に入れるため に借りた消費者ローンは膨らむばかり、返済する為にまた借金を重ねるという悪循環。  破産という手もあるかも知れないが、前科があるので無理だ。  家賃はもう六ヶ月滞納していて、今月支払えなければ、追い出されてしまうのだ。 「ニューハーフ・バーってことは、ドレス着て女言葉使って、客接待しなきゃならん ってことか……」  顔には自信がある。 「決めた! とにかく当たって砕けろだ」  店はまだ閉まっていた。夜を待って再び来店することにする。  数時間後。  マネージャーという女性と対面していた。 (きれいな女性だな……やっぱりニューハーフなのかな……)  マネージャーは、僕の顔をひとしきり眺めてから口を開いた。 「当店がニューハーフ・バーということはご存じですよね」  その声は、きれいな女性的なものだった。高い声が出せるようにボイストレーニン グしたか、それとも手術で声帯を改造したか。どちらにしてもかなりの努力を要した に違いない。もちろん彼女がニューハーフだったらだが……。 「はい。知ってます」 「当店の従業員のみなさんの多くが去勢手術をされていますが、あなたはなさってい ますか?」  いきなり核心を尋ねてきた。ニューハーフ・バーだから当然のことなのだろう。  こりゃ、だめかな……。美麗美男だけじゃだめということか。  少し諦めの心境になった。 「い、いえ」 「そうですか……。では、女装の経験はありますか?」 「高校時代に、しょっちゅうお姫さま役に駆り出されていました。男子校だったもの で、イベントがある度に女装させられていました。友人に言わせると、何でも校内一 の美人だそうです」 「なるほど……。まったく経験がないというわけではないのですね。見た目にも中性 のマスクですし。ちょっとお化粧すれば、それなりに見えるでしょう。それで、その 女装させられた時の、気分はどうでしたか?」 「はあ……。最初は嫌でしたけど、きれいなドレスを着ていると、何というか……気 持ちいいというか。こう……スカートの感触がとても良くて、癖になりそうでした。 こんなドレスを着れる女性が羨ましく思いました」  マネージャーは、メモを取りながら聞いている。 「ふふ……。どうやら、この道の素質は十分あるようですね。いいでしょう。採用し ます」  マネージャーは言った。 「ありがとうございます」  まさか採用されるとは思わなかった。  女装するのには抵抗があるが、しばらく働いて金を貯めたらやめればいいのだから。 「では、雇用契約書です。内容を良く読んでサインしてください」  就業時間 午後6時から午前2時までの間で2時間以上。但し、お客様の入りによ っては残業有り。  時給 ¥2~4000  休日 月曜日 (時給が¥4000として、8時間働いて¥32000。¥2000でも¥1600 0か、ニューハーフ・バーって、そんなに儲かるのかな……。確か普通のクラブだと ¥2500前後だよ。女装しなきゃならないけど、これなら我慢してでも続ける価値 があるよな)  契約書にサインをして返した。何せ、今夜の食事代にも事欠く状態なのだから、選 り好みはしていられない。 「結構です。まあ、お茶でも飲みながらお話ししましょうか」  従業員が運んできたお茶に手をつける。 「先程も申しました通り、当店はニューハーフ・バーですから、お化粧してドレスを 着てお店に出て頂きます……取り合えずのドレスはこちらで用意しますが……お給料 が入ったら……」 (どうしたんだろう……。なんか……急に、眠気が……)  目蓋を開けていられない。 (い、いかん……面接……中だぞ……) 「どうしましたか?」  マネージャーが覗いている。 「いえ……。なんでも……」  しかし、それきり意識がなくなっていった。
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2018年10月16日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 V

第二十四章 新生第十七艦隊

                 V  タルシエン要塞の運用システムが正常に稼動をはじめて、アレックスは配下にある 部隊や軍人及び軍属の、タルシエンへの配置転換をはじめた。  これまではシャイニング基地が最前線だったのだが、それがタルシエン要塞となっ たわけである。最前線基地をタルシエン要塞として艦隊を集合させつつあった。  アレックスが第八師団司令官となったのを機に、新生第五艦隊と第十一艦隊がその 配下に加わった。それがタルシエン要塞に向かっていた。  タルシエンの収容艦艇は十二万隻しかないために、それをオーバーする艦艇は要塞 周辺に展開して、哨戒行動と警戒態勢。交代で休息待機に入るときのみ要塞内に入場 することとした。  要塞内にあって、もっともスペースを占有しているのが、中心核部にある反物質転 換炉である。半永久的にエネルギーを取り出せるとはいえ、あまりにも巨大過ぎた。 反物質を閉じ込めておくためのレーザー隔離システムが、その全体容量の三分の二を 占め、使用するエネルギーだけでも要塞内の全エネルギーを賄うことができるくらい である。考えれば実に無駄なことをしているとしか言いようがなかった。  すべては対消滅エネルギー砲という破壊力抜群の兵器運用のために建造されたとい っても過言ではないだろう。 「軍部の考えることは無駄が多い。確かに反物質を利用した対消滅エネルギー砲は破 壊力抜群だし、エネルギー問題は考える必要もない。しかし、動けない砲台など攻略 次第では無用の長物だ。が今更通常の核融合炉などに取り替えるわけにもいかないし な……」  取り替えるとなれば要塞全体を解体するよりないし、反物質の処理にも困る。二十 一世紀初頭、核廃棄物処理に困った地球連邦はカプセルに詰めて太陽に打ち込んだら しいが、反物質はそうはいかない。  アレックスは、司令官の就任式を無事終えたチェスターの第十七艦隊と、途中合流 する予定の新生第五艦隊及び第十一艦隊と共に、残しておいたゴードンの新生遊撃艦 隊の待つ、タルシエン要塞へ向かうことになった。  宇宙空間において合流した第五艦隊と第十一艦隊の司令を交えて、旗艦サラマン ダー艦上で初の会見が行われていた。  パトリシアがそれぞれの司令官を紹介していく。 「第五艦隊司令のヘインズ・コビック准将です。旗艦は空母ナスカ。今後の母港をカ ラカス基地とします」 「第十一艦隊司令のジョーイ・ホリスター准将です。旗艦は戦艦グリフィン。母港、 タルシエン要塞」 「第十七艦隊司令のオーギュスト・チェスター准将です。旗艦は戦艦ペガサス。母港、 シャイニング基地」 「そして第八師団総司令のアレックス・ランドール少将。旗艦はこの高速戦艦サラマ ンダー」 「後、ランドール提督直属の独立遊撃艦隊としてゴードン・オニール上級大佐がタル シエン要塞に駐留しております」 「ありがとう。ウィンザー大佐。彼女は、第八師団作戦本部長であるから、よろしく。 それとガデラ・カインズ大佐にも同席してもらった」  パトリシアとカインズは軽く礼をした。  顔合わせが済んで、サラマンダーのカフェテラスで、司令官と同伴の士官達がくつ ろいでいる。 「しかし、この旗艦は一体何なんだ。やたら女性が多いが……」  第五艦隊のコビック准将が周囲を見回すように言った。 「知らんのか、別名をハーレム艦隊というらしい。ここの艦橋は全員女性だし、女性 士官だけの部隊もあるそうだ。英雄としてのランドール提督の名声と、女性総参謀長 のウィンザー大佐の人気によって、士官学校から女性士官が続々集まってきているそ うだ。自然女性の割合が高くなってくる。どうだい、勃起艦隊とよばれる貴官の第五 艦隊の連中が喜ぶんじゃないか」  第十一艦隊のホリスター准将が答える。 「よしてくれよ。それは先任の旧艦隊司令の時のことだろう。いつまでも股間を膨ら ませているわけがない。俺が新生第五艦隊司令として任官されて以来、その悪名を取 り払おうと努力しているのは、君も知っているはずだが」 「悪い悪い。ともかくだ。それだけでなく、全体として青二才ばかりともいえる、第 十七艦隊の連中は。チェスターを除いてだが」 「俺達が戦闘の度に戦艦を消耗してそれぞれ五万隻に減らしているというのに、ここ にはオニール上級大佐の独立遊撃艦隊を含めて十三万隻の艦隊があるし、シャイニン グ基地には、連邦から搾取した三万隻の未配属艦艇も残っている。同じ准将だったと いうのにな」 「そう、その三万隻だ。提督からは、まだ発表されていないが、どこへ配属されるの だろうか」 「オニール上級大佐の独立遊撃艦隊に回されて、新たに正式な一個艦隊を組織して、 彼は准将に昇進するだろうというのが、最有力情報とのう・わ・さ・だ。オニール同 様、カインズ大佐に第二独立遊撃艦隊をというのもある」 「噂はあてにできん。チェスターが昇進したのだって、誰も想像だにしていなかった のだからな。どっちにしろ艦艇を動かす将兵がまだ足りなくて未配属のままだ」 「軍令部では、士官学校の学生を繰り上げ卒業させる人選に入ったそうだ」 「ともかく三万隻の艦隊の存在が明らかなのだし、それの指揮権を巡って第十七艦隊 では水面下で、駆け引きが行われているそうだ」 「三万隻を配属させるとなると、もう一人大佐を置かねばならないからな。中佐クラ スの連中がやっきになっておる。もちろんその配下の士官も必要だ」 「第十七艦隊にいる限り、昇進は保証されているってところだな」 『まもなくアル・サフリエニ宙域バレッタ星系に入ります』  艦内放送が告げていた。 「見ろ。要塞が見えてきた」  コビック准将の指差す窓の向こうにタルシエン要塞の雄姿があった。  それは近づけば近づくほどその巨大性に驚かされ、戦艦がまるで蟻のような小ささ に感じられるほどであった。 「こ、これがタルシエン要塞か……この要塞をたった十数人の特殊工作部隊だけで、 攻略したというのか」 「し、信じられん」
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2018年10月15日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に I page-7

女性化短編小説集「ある日突然に」より I

page-7 「ともかく、君は合格だ」 「本当ですか? ありがとうございます」 「それから改めて紹介しておこう。こちらの女性だが、君と同じSRSの手術を受け ている。元男性の響子くんだ」 「うそっ! 信じられません」  受付けで出会ってから、その接客応対の態度、廊下を歩く姿勢、お茶を運んできて 差し出すその仕草、紛うことなき女性そのものの動きでした。そして自分で施したと 思われる化粧術は完璧です。とても男性だったとは思えません。 「この娘も、私が本人の意志に無関係に手術を実施した最初の女性だ。はじめての時 は今の君とまったく同じだったよ。それが見ての通りの完璧の女性に生まれ変わった のだよ。どうだね、響子くん」 「はい。最初の頃は、社長を恨みもしました。でも今は、素直に感謝しております。 戸籍も女性に変更されましたから、何の心配もしておりません」 「そういうわけだから、君も立派な女性になれるよ。そう確信してSRSを実施した のだからね」  社長は言葉を続けました。諭すように静かな口調で。 「以前の男性のままの君だったら、一生うだつの上がらないごく平凡なサラリーマン で終わったに違いない。多くの部下を従え、率先して行動し、会社全体を活性化させ るような人物というものは、男性ホルモンを活発に分泌し、オーラを発しているもの だ。それが君には微塵もない。決して人の上に立てるような人物ではなかった。会話 していてすぐにぴんときたよ。それは君の潜在意識の中に存在する、女性的な部分が そうさせるものだ。診察していて私は確信した。君の潜在意識が表に出たがっている ように感じた。それが君の体躯にも顕著に現れている。色白で細身の身体、そして童 顔がそれを物語っている、男性ホルモンが正常に分泌されていれば、あそこまで華奢 な身体ではなかったはずだ。だから君には女性として再出発したほうが幸せだと判断 した。そして女性ホルモンを投与し、再来院した時に無断で手術した。話しをすれば、 君がそれを肯定するとは思わなかったから。君は二十歳前だから、女性ホルモンをも う少し投与すれば、骨盤もさらに発達して、出産も楽にできる、より完全な骨格が形 成できるだろう」 「そうでしたか……」 「さて、人事部長から、受付嬢に推薦するという連絡がきているよ。受付嬢は会社の 顔にあたる部署だ。社でも一・二位を争う美人が配属されることになっている。君の 素性は内密にしていたが、どうやら人事部長は君の容姿に惚れ込んだようだね。もち ろん受付嬢は、接客応対のエキスパートである必要もあるが、その辺は研修で徹底的 に教育を施されるから、安心したまえ。今後は、この響子くんと一緒に、社のために 尽力してくれたまえ」  響子と名前を呼ばれた彼女は、 「里美さん? で、よろしいでしょうか。一緒に頑張りましょうね」  とにっこりと微笑んで、その白く透き通るような細い手を差し出しました。 「あ、はい。お願いします」  あわてて立ち上がり、その手を握りかえします。柔らかい女性的な感触が伝わって きます。 「ああ、名前だけど、里美のままでも構わないだろう? 響子くんは男性的な名前だ ったから、戸籍変更の際に、改名したのだがね」 「はい。結構です」  先程、響子さんが疑問形で名前を呼んだのは、そういうわけね。 「早速で悪いのだが、明日から出社してくれたまえ。ユニフォームは用意してある。 それと、以前の住まいには戻れないだろう。しばらくは響子くんのところで一緒に暮 らしたまえ。いいね、響子くん」 「はい、喜んで。先輩として、私生活面でも女性としての身のこなし方など、お教え しようと思います」 「うん。いい心掛けだ。感謝するよ」 「お願いします」  改めて響子さんに対し、深々とお礼をしました。 「響子くん、今日はこれで退けていいよ。里美くんにユニフォームを試着してもらっ て、会社内を一通り案内してあげたら、そのまま一緒に帰りたまえ」 「はい。ありがとうございます。里美さん、行きましょう」  と手を引いてくれました。  ドアの前で再び姿勢を正して、 「ありがとうございました」  深々とお礼を述べて静かに退室しました。  丁度その時、一人の研究員と思しき服を着た女性が入って行きました。 「社長!新薬が完成しました!!」 「また、おまえか!今度はなんだ?」 「はい、女性を男性に性転換する薬です!」  というところで、ドアが閉められました。 「さあ、まずは女子更衣室へ行きましょう。あなたのロッカーとユニフォームが用意 してあります」  手を取り合って仲良く歩いていきました。まるで長年付き合った親友のような感情 になっていました。  こうしてわたしの新たなる人生がはじまったのでした。
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2018年10月14日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 IV

第二十四章 新生第十七艦隊

                  IV  本題に入った。  技術部システム管理課長のレイティー、当然として要塞のシステムコンピューター についてであった。 「……やっとこさ、本格運用できるところまできました」 「同盟の軍事コンピューターとの接続は?」 「一応、外からの侵入を防ぐゲートを通して接続しましたけど、ジュビロさんの腕前 なら簡単に侵入してくるでしょうな」 「まあ、たぶんな。彼に侵入できないネットなど存在しない。できればネットに接続 しないで、独立系を保ったままにしておきたかったのだがね」 「それは軍が許さないでしょう。何にでも干渉してきますからね」 「当然だろうな」 「ところで、フリード先輩に何を依頼したんですか? 最近、何かの設計図を引いて ばかりいて、システムの方を僕に任せ切りにしてるんです。おかげでこっちは不眠不 休なんですよ。そんなに急ぐものなんですか?」 「大急ぎだ。とてつもなくな」 「ちらと見た限りでは、ロケットエンジンのような感じがしたんですどね」 「ほう……よく判るな」 「それくらいは判りますよ。それに先輩が設計した図面とかよく見ていましたからね。 最近では、ミネルバとか命名された機動戦艦でしたね。あれって主要エンジン部はも とより、艦体構造体やら武器システム、艦制システムなどのソフトウェア、艦の運用 に直接関わる部門はみんな先輩が手がけているんですよ。携わっていないのは居住区 だの食堂だの付帯設備だけみたいです」 「オールマイティーな天才科学者だからな」 「先輩一人で戦艦造っちゃいますから。もっとも実際に造るのは造船技術者達ですけ どね。先輩は設計図を引くだけ」 「設計図といったって凡人には引けないさ」 「そうですけどね」 「ともかくも、要塞のシステム管理プログラムだ。よく頑張ってくれた、感謝する よ」 「帰郷もせずに寝るのも惜しんでシステムに取り組んできたんですからね。功労賞く らいは頂けるのでしょうね」 「考慮しよう」 「そういえば提督も帰郷なさらなかったんですね」 「帰りたくても帰る場所もないしな」 「そういえば孤児院育ちでしたっけ」 「帰るとすればそこか、士官学校を訪問するくらいだ」 「士官学校を訪問すれば大騒ぎになりますよ。我らが英雄がやってきた! ってね」 「それは、遠慮したいね」 「そう言えば、シルビアさん。割り込んできませんね」 「当然だろ。世間話だったらいくらでも突っ込んでくるが、本題に入れば遠慮するに 決まっているじゃないか」  とアレックスが言ったところで、音声が割り込んできた。 『聞こえていますよ』 「な?」 「納得しました」
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2018年10月13日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の拾参

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の拾参

(拾参)新事実発覚  というわけで、飛鳥板蓋宮跡へやってきた二人。 「GPSナビがなきゃ、こんな辺鄙なところ来れないですね」 「まったくだな……。ド田舎の畑のど真ん中、こんな所に何の手掛かりがあるか……だ な」 「まずは行動を起こすこと。捜査のいの一番ではなかったですか?」 「そりゃそうだが……」 「ここで蘇我入鹿が惨殺されたのです」 「何か感じるかね、怨霊とか」 「いえ、何も感じません」 「しかし、案内看板が一つあるだけで、本当に何もない所だな。建物一つない、休憩所 なり日陰となるものを作れば良いのに」 「観光地というよりも歴史的遺構という位置付けなのでしょうね」 飛鳥板蓋宮跡  皇極天皇4年6月12日(645年7月10日)  三韓(新羅、百済、高句麗)の使節の進貢に伴い、三国調の儀式が行われることにな り、皇極天皇が飛鳥板蓋宮の大極殿に出御することとなった。  従兄弟に当たる蘇我倉山田石川麻呂が上表文を読み上げていた際、肩を震わせていた 事に不審がっていた所を中大兄皇子と佐伯子麻呂に斬り付けられ、天皇に無罪を訴える も、あえなく止めを刺され、雨が降る外に遺体を打ち捨てられたという。  一応の調査を終えて、その夜の旅館へ。  旅費の都合もあり、親子ということにして同部屋に泊まる二人。 「宿賃……本当にいいんですか?」 「もちろんだ。捜査費用として落とせるから」  なにやら、旅館設置のTVとスマホを接続している蘭子。 「何をしている」 「スマホの画像データをこのテレビで拡大して観るの」  次々と画像データをテレビに映している。  来場客に頼んで撮ってもらったピース写真から次の写真に切り替えようとしたとき、 何気に見つめていた井上課長が声を上げた。 「ちょっと待て!」 「な、なに」 「その写真だ!」 「このピースしている写真?」 「違う!後ろの正門料金所の脇に立ってこちらを見つめている人物だ!」 「後ろ?」 「拡大できないか?」 「できますよ」 「やってくれ」  何が何だか分からないが、言われたとおりにする蘭子。 「こ、こいつは!」  拡大された画像に驚く二人。  京都文化博物館で、金城聡子に言い寄っていた、あの石上直弘であった。 「後をつけてきたのか?」 「たまたま行動が一致したのかも。蘇我入鹿の怨霊が関わっているなら、明日香村へと 帰着するのが自然ですから」 「そうか……」  としばらく考えていた井上課長であったが、 「この写真データを、府警本部の俺のパソコンに送りたいのだが、できるか?」 「メールアドレスが分かればできます」  といいながら画像データを送信する操作を行ってから、 「どうぞ、メールアドレスを打ち込んで頂けますか」  とスマホを渡すと、一心不乱にアドレスを打ち込んで、 「よし、送信!と」  スマホを返してから、さらに自分の携帯を取り出して連絡を取っている。 「ああ、井上だ。今、俺のパソコンにメールで画像を送ったから至急見てくれ。大至急 だ」  どうやら大阪府警に電話を掛けているようである。 「見たか?俺の後ろの方に映っている人物をよく見てくれ」 「そうだ。その通りだ。至急、奈良県警に合同捜査本部の設置を要請してくれ」  電話を切りパタンと折りたたんで尻ポケットにしまう。 「なんとなく背景が見えてきたというところかな」 「動き回った甲斐がありましたね」 「うむ……明日から忙しくなるな」 「わたしは学校がありますから帰りますけど、課長はどうしますか?」 「ともかく奈良県警に協力してもらうために県警本部へ行くよ」
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2018年10月12日 (金)

性転換倶楽部/ある日突然に I page-6

女性化短編小説集「ある日突然に」より I

page-6  面接官5名と自分との、ごく普通の面接であった。 「以上で一次面接を終わります。続いて二次面接を受けて下さい。先程の受付けの者 がご案内します」  二次面接があるのね。 「ありがとうございました」  深々とあいさつして、その面接会場を退室すると、扉の外で先程の受付嬢が待ち受 けていました。 「それでは、二次面接会場へご案内致します」  長い廊下を渡り次ぎなる面接会場へと向かう受付嬢とわたし。ふたりの女性の履い ているハイヒールの足音が、乾いた廊下に響きます。 「こちらでございます」  立ち止まったドアには、社長室という豪華なプレートが貼られていました。 「二次面接は、社長直々に面接いたします」  といってドアをノックしました。 「入りたまえ」  中から返答があって、ドアを開けわたしを社長室に通す受付嬢。 「社長。紹介を受けた面接希望の方をお連れしました」  その人物は豪華な椅子に座って背を向けたまま答えました。 「わかった。君は下がってよろしい」 「かしこまりました」  深々と礼をすると、受付嬢はわたしを残して部屋を退室していきました。 「紹介状を持ってきたそうだね」  背を向けたまま社長が質問します。 「はい」  その声には、どこかで聞き覚えがありました。  何度となく日常的に聞いていたはずの声。  ……しかしまさかそんなはずはない……  しかし、次の言葉で決定的なものとなったのです。 「その紹介状は誰が書いてくれたのかね」  え、うそ。やっぱり間違いない。あの産婦人科の医師の声。  椅子がくるりと回って、その人物が顔を見せました。 「ああ! あなたは?」  やっぱりそうでした。 「驚いたようだね。私がこの医薬メーカーの社長だよ。あの病院は父が経営している ものだ。一応医師免状を持っているので時々手伝っているが、こっちが本業だよ」 「まあ、ソファーに腰を降ろして、私の説明を聞きたまえ」  といいながらわたしに来客用のソファーに座るように指示しました。 「君に、商店街にあるあの店に立ち寄らせたのは、女性として生きる決心をしたこと を確認するためだよ。女性衣料専門店に入るには、あの時の君なら相当の勇気がいっ たはずだよね。普通の男性なら、買い物しても彼女への贈り物ということにすれば何 とか言い分けがたつけど、胸が膨らんでいる身じゃ、当然それは自分自身が着るもの と、店員に判ってしまうからね。何とかその関門をパスしても、しっかり化粧を施さ れ、女性の衣服を着てすっかり女性の容姿になった君は、商店街を歩いて会社までた どり着かなければならないという次の試練が待ち受けている。昼食時間帯の商店街だ、 人通りはひっきりなしで絶える事がないし、見知った人物に出会うとも限らない。そ んな中を女性の姿で歩いた経験のない君がどうするか知りたかったのだよ」  ドアがノックされて先程の受付嬢が、お茶を運んできたので、話しが一時中断しま した。お茶をそれぞれの前に静かに置いた後、一礼して退室しようとする彼女を、社 長が呼び止めます。 「ああ、君も残っていてくれないか」 「はい。かしこまりました」  彼女は、お茶を運んできたトレーを、ウェイトレスがするように正面で両手で軽く 抱えるようにして、ソファーのそばで立ったまま待機しました。  こんな意味慎重なる会話の中に、彼女を同席させるなんて不思議でした。  社長は、話しを続けます。 「ま、こうして面接を受けにきた事をみると、その試練も無事パスしたようだね。君 には悪いと思ったが、従業員にあの店から後をつけさせてもらった。人通りを避けて 裏通りを通らないかと監視するためにね。が、君はまっすぐ商店街を抜けて会社まで 歩いてきたようだ。その報告によると、最初のうちは下を向いておどおどしていたが、 やがてしっかり前を向いて歩きはじめたとある。どうだね」 「はい、その通りです。はじめのうちは、とても前を向いて歩けませんでした。しか し、そうこするうちに、わたしを見つめるその視線が女性にたいするものと判りまし た。そうしたら自信がついてきて、前を向いて歩けるようになりました」
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2018年10月11日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 III

第二十四章 新生第十七艦隊

                III  百四十四時間の休暇が終わりをとげた。  各人各様の過ごし方があったのだろう。有意義だった者がいれば、無意味に時間を 浪費しただけの者もいるだろう。  アレックスはといえば、要塞とシャイニング基地を往復しながら、こなさなければ ならない処理に忙殺されていた。パトリシアを帰した事を後悔もしたりしたが、今後 の事態を考えれば留めておくわけにもいかないだろう。  続々と帰還してくる将兵達を迎えるアレックス。  ゴードン、ジェシカ、カインズ、そしてチェスターらが、それぞれの故郷や思いで の場所での休暇を楽しんで帰ってきた。  その中にレイチェルだけが含まれていなかった。  司令官となった第八占領機甲部隊と共に、最新鋭機動戦艦ミネルバの受領と、乗員 達のトランター本星での隊員訓練のためにトランター本星残留ということになってい る。  タルシエンから遠く離れた場所でただ一人、来るべき日「Xデー」に向けての準備 を密かに進めるために……。 「Xデーか……」  できれば、その日が来てくれないでほしい。  しかしその日はちゃくちゃくと近づいてくるであろう。  共和国同盟がタルシエン要塞に固執しつづける限り、そしてバーナード星系連邦に あのスティール・メイスンという智将がいる限り、その日は必ずやってくる。  デスクの上のヴィジフォーンが鳴った。 「何だ?」 「提督。レイティー中佐からご連絡が入りました」  秘書官のシルビア・ランモン大尉が、タルシエンにいて今なおシステムの改造に取 り組んでいるレイティーからの連絡を取り次ぐ。このシルビアは、シャイニング基地 にあって、以前は独立遊撃艦隊の司令部オフィス事務官として、司令官のいない閑職 にあったのだが、アレックスが第十七艦隊司令官になって、シャイニング基地に戻っ て来てからは忙しい毎日を送っている。事務官から秘書官へ、少尉から大尉に昇進し ていた。もちろん秘書官という限りは、アレックスのスケジュールを管理しているの で、毎朝のようにアレックスの所に来てその日や翌日などの予定を確認しにくる。早 い話が寝ているアレックスを起こしに来るのだ。 「繋いでくれ」  ヴィジフォーンにレイティーの上半身が映る。 「やあ、いらしたんですか? まだ寝ているかと思いましたよ」 「毎朝起こしてくれる優秀な秘書がいるのでね」 「ああ、シルビアさんですね。彼女、ものすごく時間にうるさいでしょう?」 「まあな……」 「何時に連絡してくださいとか、来てくださいとか言われたら、その時間きっかりじ ゃないと怒って取り次いでくれない時があるんですよ」 『それは、コズミック中佐がいけないんです。時間厳守は提督が口を酸っぱくおっし ゃってることです!』  突然、割り込みが入ってシルビアが顔を出した。 「ありゃ、聞いてたのね」 「気をつけろよ。ここのヴィジフォーンは秘匿通話にしない限り、秘書室のシルビア に筒抜けなんだ。重要な連絡事項や約束事などがあった時、言わなくてもスケジュー ルとかが組めるようにな」 「秘匿通話にしてなかったのですか?」 『通話を掛けた方が秘匿通話を依頼するのが筋ですよ。受けた側では、内容が判らな いんですからね』 「おー、こわ……。提督は、こんな気の強い人を秘書にしてるんだ」 「それくらいじゃないと秘書が務まらないさ。それよりそろそろ本題に入りたまえ」 「ああ、はい」
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2018年10月10日 (水)

性転換倶楽部/ある日突然に I page-5

女性化短編小説集「ある日突然に」より I

page-5  ヒップにぴったりとフィットしたタイトスカートにハイヒールを履いていては、歩 きづらくてしようがありませんでした。何度も躓きそうになります。  すれ違う人々のほとんどがこっちを見つめているようでした。 「恥ずかしいよ……」  女装した……いや、女装とは言えないでしょう。今は完全な女性の身体になってい るのですから。  ともかく女性の容姿で街を歩く事などはじめての経験です。  他人の視線が気になってしようがありませんでした。  まともに前を向いて歩けません。  カップルの男女がすれ違った後に、背後でいさかいの声が届きます。 「どこ見てんのよ!」 「な、なに言ってんだよ」 「とぼけないでよ。あのきれいな女の子に見とれていたくせに」  確かに視線がこちらに向けられているのは確かでしたが、どうやら私のことを一人 の美しい女性として認識しての反応であることが、次第に判ってきました。  少し自信がついてきました。  その矢先のことでした。 「あ、あれは?」  会社の同僚達が前から歩いてくるではありませんか。  どうやら昼食で会社から出てきたところらしい。 「ど、どうしよう……」  くるりと引き返して逃げようかと思いました。  しかし、今後も知り合いと出会う事は頻繁に起こりうることです。  その度に逃げ回っていては、真の女性には成りきれません。  医師やブティックの店員が念押ししたように、これからは一生を女性として生きて いかなければならないのです。  これは女性として生き抜くための最初の試練なのかもしれない。  気がつかなければそれで良し。  ばれたらばれたで、女性に性転換したことを正直に告白しよう。  MtFなどの性同一性障害が次第に認知され、性別再判定手術が正式に行われる時 代になりつつあります。彼らもそれなりに理解してくれるかもしれません。  なるようになるしかない。  意を決し、しっかりと前を向いて、彼らとすれ違いました。  当然の如く彼らの視線がこちらを見つめているようでした。  わたしは、あくまで知らんぷりして足早に通り過ぎていきます。 「おい。なんで声を掛けなかったんだよ? あんな可愛い子、放っておくおまえじゃ ないだろう」 「ああ……見惚れていて、つい声を掛けるチャンスを失った」 「確かにな」  そんな声が背後から聞こえてきました。 「どうやら気づかれなかったみたいね」  女性ホルモンによって女性化した顔に化粧をしているのですから気づかれないのも 当然のことでした。  わたしは、ほっとすると同時に、彼らや先のカップルの男性のように、美しい女性 に見惚れて呆然と立ち尽くす姿を想像して、何か言い知れぬ快感のようなものを覚え ていました。  女性ホルモンは、より魅力的な完全な女性に変身させてしまっていることを確信し ました。もう何も恥ずかしがる事はありません。しっかりと姿勢を正して前を向いて 歩いていきましょう。  そして目指す面接を受ける会社に到着したのでした。  受付けに紹介状を提示すると、 「連絡は受け賜っております。人事部長他の面接担当者が、あなたをお待ちしており ました。どうぞ面接会場へご案内いたします」  といって一人の受付嬢が先に立って歩きだしました。 「やけに手回しがいいわね……ああ、そうか。期日は今日のこの時間と指定されてい たのだから、そのためのセッティングも済んでいるというわけね。でも、たった一人 の面接にこんなに早く面接担当者が揃う事なんてあるのかしら?」  疑心暗鬼でした。
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2018年10月 9日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 II

第二十四章 新生第十七艦隊

                  II  パトリシアも生れ故郷の地に帰国していた。 「お帰りパトリシア」 「ただいま帰りました」 「しかし、おまえの旦那さまは一緒じゃないのかい。会えるのを楽しみしていたのに。 残念だよ」 「忙しいお方ですから」 「それはそうと、いつ正式に結婚するのかい。お前達は」  パトリシアの両親は、娘がアレックスと婚約し同居生活していることを告げられて いる。相手が英雄と称される人物だけに、世間に公表して誇りとしたいと考えるのは 親の心情であろう。二十代ですでに少将、軍の最高位である大将も確実視されて、絶 大なる国民的人気を背景に政界に転出すれば国家元首も夢ではないと、世間の評判で あったからだ。 「結婚式は挙げていないけど、正式な夫婦と何ら変わらないわ。別にいいんじゃな い」 「そうはいってもねえ……」 「お父さんはね、あなたのウェディングドレス姿を見たいのよ」 「なんだ、そういうことなのか」 「しかしタルシエン要塞を陥落させて、今が一番重要な時期なんだろう? そんな時 に帰郷とは、何かあるのかね?」 「それが……」  果たして話していいものかどうか、しばし悩み考えたが、 「提督のお考えでは、タルシエン要塞から当分の間動けなくなる事態になるんじゃな いかと思ってらっしゃるみたい」  正直に話すことにしたのである。もし本当にそうなってしまって、両親に会えなく なってからでは遅いからである。 「どうしてだい? タルシエンの橋の片側を押さえてしまえば、連邦軍だって侵略は もはや不可能だと言われてるんじゃないのかい?」 「その不可能だと思われていることが問題なのよ。ランドール提督だって不可能と思 われてることを、可能にしてみせていらっしゃるでしょ。橋を押さえたからといって、 油断はできないのよ」 「それはランドール提督だからこそじゃないのかね。星系連邦側に提督に勝るほどの 智将がいるとは思わないが」 「いるわよ。ミッドウェイ宙域会戦や、ハンニバル艦隊による侵略。さらには第五艦 隊、第十一艦隊を壊滅に追いやった張本人。スティール・メイスンという人物がね」 「聞かない名前だね」 「艦隊司令じゃなくて、参謀役として活躍しているみたいなの」 「ランドール提督の参謀長のパトリシア、お前みたいにか」 「そうよ。表には出てこないだけよ」 「出てこないのにどうして知っているんだ?」 「そういう情報を集めるのが専門のすごい方がいるの」 「いわゆる情報参謀だな」 「とっても素敵な女性で、女性士官の憧れの的よ」 「女性なのか?」 「そうよ。知識も豊富で、わたしもいろいろと教えてもらってるの」  宇宙軍港の送迎タラップで向い会うアレックスとジュビロがいた。 「やはり帰るのか?」 「ああ、要塞の方のシステム構築はほぼ完了したし、軍人でもない部外者の俺がいつ までも留まっているわけにもいかないだろう。統帥本部の知るところとなれば、君の 立場も危うくなるんじゃないのか?」 「それは別に構わないさ。慣れているからな。どうだ、この際。軍に入隊しないか?  レイティーと同じ中佐待遇で迎え入れる用意があるぞ」 「よせよ。俺は、自由勝手気ままな生活が似合っているんだ。軍の規律に縛られるこ となんて願い下げだ。今回の作戦に参加したのは、あの巨大な要塞のシステムに挑戦 したかっただけだ。共和国同盟の将来とかを思ってのことじゃない」 「そうか……残念だな」  本気で打診したのではないが、やはりというべきかあっさりと断られてしまう。 「もしまた協力してもらいたいことがあればどうすればいい?」 「レイチェルに頼むんだな」 「彼女のことは信頼しているんだな」 「そうだな。軍の情報を得るには内部にスパイを潜り込ませるのが一番の早道だから な」 「ほう……」 「と、言ったらどうする?」 「確かに早道かも知れないが、逆にそこから足が付く事もあるってことだ。君ほどの 腕前なら、その必要もないと思うがね」 「ふふん。君こそレイチェルを信頼しているようだな」 「一応幼馴染みだしな」 「それだけか? おまえのために性転換して女になったんだぜ。告白しなかった か?」 「出会うのが後五年早ければ、一緒になっていたかも知れないがな」 「婚約者のパトリシア嬢か。ああ……そういえば、その前はジェシカだったな?」 「私は、何人もの女性を同時に愛するなんて器用なことはできないからね」 「まあ、何にせよ。振られたからといって、おまえを裏切るような女性ではないこと だけは、覚えておくことだな」 「知っているさ」
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2018年10月 8日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に I page-4

女性化短編小説集「ある日突然に」より I

page-4  地図に記された場所は、わたしの会社のそばに広がる商店街の中にあるようでした。 「ここか……?」  そこは一階がしゃれたデザインの婦人服売り場で、二階がランジェリーショップと なっているようでした。  リクルートスーツを新調するために来たのですが……。  確かに下着からスーツに至るまで、一揃いの女性衣料が購入できそうでしたが、入 店するには相当の覚悟がいりました。  婦人服売り場をきょろきょろしていると、物腰のよい店員が声をかけてきました。 「あの、倉本里美さんではございませんか?」 「え? あ。は、はい」 「先生からお電話を頂いております。どうぞ奥へ」  店員に案内された先は、鏡のついたドレッサーが並んだ化粧室のようでした。 「こ、ここは?」 「どうぞお座りください」 「何をするのですか?」 「お化粧ですよ。すっぴんのお顔で面接は受けられませんでしょう」 「しかし化粧は……したことないし」 「会社に就職したいと思っていらっしゃのでしょう?」 「そ、それはそうですが」 「なら、私達の言う通りになさってください。悪いようには致しませんから」  そして店員は耳元で囁きました。 「いいですか、あなたはもう元には戻れないのですよ。今日からは、女性として生き るしかないのです。化粧は女性のたしなみの一つですよ」  その店員は、医師からすべての事情を聞いて知っているようでした。 「さあ、私達にまかせてね」  やさしい声で諭されてしまいます。そして店員を呼び寄せて、数人がかりでわたし の顔に化粧を施しはじめたのでした。  いきなり眉を剃刀で剃られました。 「女性の眉は細いですからね。後で眉を描きますからね」  さらに顔全体に広がっている産毛も剃っていきました。  女性ホルモンのおかげで男性特有の濃い髭などはすっかり消え失せていましたが、 産毛が残っており、化粧のりにひびく邪魔なものなのです。  そして、下地クリームからはじまってファンデーション、頬紅……。  入念に化粧が施されていきました。  女性の化粧って、こんなにも手が掛かるのか?  すでに三十分以上が経過して、改めて認識しました。  化粧の間にもう一人の女性が手際良く髪の毛をセットしていました。普段から少し 長めにしていた髪ですが、それをショートカールにして整えていきます。 「はい! 出来上がりよ」  と改めて鏡をのぞくと、本物以上に本物らしい女性の顔をした自分の姿がありまし た。真っ赤なルージュの口元がいやに艶めかしいです。きれいにカールされ整えられ た髪と、その耳元には小さなピアスが輝いています。どうやら手術の合間にピアス孔 の処置がなされていたようです。 「じゃあ、今度は服装ね。まずはランジェリーからよ」  化粧をしているうちに準備されたのか、女性衣料の乗せられたワゴンが持ち込まれ ていました。  ここはブティックとランジェリーショップです。必要な衣料はすべて揃っています。 「じゃあ、まずはランジェリーからね。サイズは合ってると思うわ」  といいながらピンクのブラジャーを手に取りました。 「ほら、これ可愛いでしょう。着けてあげるわね」  あっけに取られているうちに、着ている服を身ぐるみ脱がされ、裸になった身体に ブラジャーが着けられました。正しいブラジャーの着け方の説明を受けながら。  注射によって大きく膨らんだ胸がブラジャーのカップの中にきれいにおさまります。 何ともいいがたい感情が湧いてきていました。 「な、なんか変。気持ちがいい……」  女性だけが着用する事のできるブラジャー。動く度にふるふると揺れてしようがな かった大きな胸をしっかりとカップで支えています。乳首が衣服に擦れて痛くなると いうこともないでしょう。  さらにお揃いのショーツ、そしてガーターベルトとストッキングと履かされていき ます。 「いいでしょ。男性を魅惑する悩殺下着よ」  ドレッサーの脇にある全身を映すことのできる大きな鏡の前に移動させられて、全 身像を見せつけられる。 「それじゃあ、次はお洋服の番ね」 「会社訪問にふさわしいリクルートスーツを用意したわ」  それはバイオレット色のミニのタイトスカートにブレザーのスーツでした。  大きめのヒップを包み込んでキュートなタイトスカート。しゃれた透かし編みの施 されたベアトップがその豊かな胸を覆い隠しつつも、その存在をアピールしています。 そしてベアトップが覗けるように大きく胸元が開いたブレザー。 「良く似合っているわよ」  最後のとどめは、スーツと同色のハイヒールの靴でした。 「はい、これで完璧よ」  女性の必需品である化粧セットなどの入ったショルダーバックを渡されました。 「ほんと可愛らしいわ。とっても素敵よ」 「どこかのご令嬢みたいです」  鏡に向かいます。  どこか幼さを残しながらもお嬢さまといった雰囲気の女性が立っていました。 「これが、わたし……」  自分が女性である事を再認識せずにはおれませんでした。 「それじゃあ、行ってらっしゃい。頑張るのよ」  という励ましの声に送られてそのブティックを後にしたのでした。
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性転換倶楽部/ある日突然に I page-3a

女性化短編小説集「ある日突然に」より

page-3a

 まるでこっちの話しを全然聞いていない。陶酔したように自分の執刀した手術のこ
とばかり説明している。それはさらに続く。
「契約書も交わさずにこっちで勝手に手術したんだ。その費用はいらないよ。じつは
SRSの腕を磨きたくてね。しばらくは研究目的で無料で手術してたが、その最後の
患者が君というわけだ。運がいいよ、君は」
「とんでもない、最悪ですよ」
「普通のSRSでは、ダイレーションといってペニス状の拡張具、ダイレーターを挿
入して、形成した膣が再び癒着しないようにしなければならないのだが、君の場合は
外陰部まで含めて女性のものをそっくり移植しているし、傷口もきれいだからその必
要はないよ」
 この医師に何言っても無駄かな……。諦めの境地になっていました。
 ……姉さんが、この姿を見たら卒倒するだろうな……
 ふと姉の事が思い浮かびました。
 ……姉さんを装って会社に休みの連絡したっけ……
「会社! そうだ、会社だよ」
 それは大問題でした。
 一人暮らしをしているので、生活費を稼ぐためには働かなくてはなりません。
 身体も声も完全な女性になってしまいました。誰が倉本里美と信じてくれるでしょ
うか。男として育ててくれた両親だって、信じてはくれないでしょう。仮に信じてく
れたとしても、会社では奇異の視線を浴びるだけですし、両親は悲嘆にくれてしまう
だけです。
「どうしてくれるんですか。こんな身体にされて、もう今の会社に行けないじゃない
ですか。生活費をどうやって工面したらいいんですか」
 大声で医師に詰め寄りました。さすがに陶酔してした医師も、我を取り戻したよう
です。
「おお! そうじゃった。忘れるところだったよ。そうだろうと思ってね。新しい就
職先となる会社の面接の紹介状を書いてあげた。時期遅れだけど、そこの社長と懇意
でね。すでに電話連絡してあるから面接を受けさせてくれるはずだ。退院の時に、渡
してあげよう」

 手術創が治るのを待って退院することができました。
 二週間の入院生活で、すっかり変わり果てた自分の性器でしたが、今では自分自身
のものとして慣れ親しむような感情を持つまでになっていました。いえ、そうならざ
るを得なかったというべきでしょうか。
「移植した性器が完全に自分のものになるまで、女性ホルモンを投与しなければなら
ないから、二週間に一度は来院してくれ。ああ、例の薬じゃなくてごく普通の女性ホ
ルモンだよ、安心したまえ。移植した部位がちゃんと今の身体に同化しているかも調
べなければならいし、卵巣や子宮が正常に機能しだしたら生理もはじまる。その手当
の仕方も教えなければならないからな」
「わかりました」
「君は、もう一人前の女性だ。これからは、素敵な男性と恋をし、結婚をして、子供
を産んで育て上げ、女性としての幸せを掴んでくれたまえ」
「はい」
「そうだ! 約束の紹介状を渡しておこう。期日は今日だ。退院したその足で会社に
面接に行ってくれ」
「いきなりの今日なんですか?」
「相手も忙しい身なんだよ。こんな時期に面接を受けさせてもらえるだけでも感謝し
たまえ」
「わかりました。確かに会社訪問の時期ではありませんからね」
「それとその格好じゃ、面接どころか門前払いされる、ついでにリクルートスーツを
新調しなくちゃな。女装者とかにも理解あるブティックを教えるから、面接の前に訪
ねたまえ」
「ブティック?」
 医師は、紹介状と共に、会社とブティックの位置を記した簡単な地図を渡してくれ
た。
「このブティックって商店街じゃないですか」
「あたりまえだよ。人気のないところに店を開いてどうするんだ? 商店街じゃなき
ゃブティックはやっていけないよ」
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2018年10月 7日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十四章 新生第十七艦隊 I

第二十四章 新生第十七艦隊

                 I  新生第十七艦隊司令官就任式当日となった。  就任式に先立って、第一会議室に佐官達が集められて、新司令官の顔合わせ及び昇 進佐官の任官状授与が行われた。  要塞攻略に関わる功績により昇進の対象となった佐官の名が呼ばれ、パトリシアか ら任官状と新しい階級章を手渡されていた。 「つづいて新任の佐官を紹介します。ジュリー・アンダーソン少佐、ドール・マイテ ィ少佐、リップル・ワイズマー少佐、クリシュナ・モンデール少佐、ソフィー・サリ バン少佐」  五名中四名が女性という異色の昇進であった。  ジュリーは第三高速重爆撃飛行連隊司令。チェスター配下のドールは第三十六揚陸 支援空母部隊司令となり、リップルは艦隊参謀となった。クリシュナとソフイーは艦 隊を離れて要塞において事務総監と医局事務長のそれぞれを担当する。  中佐にはジェシカ・フランドルが首席航空参謀兼第十一攻撃空母部隊司令。作戦遂 行中でこの席にいないレイチェルも、独立艦隊作戦参謀兼第八占領機甲部隊メビウス 司令のままで大佐に昇進となった。  大佐にはチェスターの後任としてディープス・ロイドが昇進し、繰り上がりでロイ ド配下の首席少佐のアイザック・フォーサイトが中佐になった。また第一・第二飛行 連隊のジミーとハリソンの両撃墜王もそれぞれ中佐に昇進した。アレックスの直属で ある技術将校レイティ・コズミックはタルシエン要塞兼第十七艦隊技術部システム管 理課長となり、フリード・ケースンも同技術部開発設計課長となって、共に中佐に昇 進した。アレックス達の影にあって印象は薄いが、技術将校で二十代の中佐というの も異例の昇進である。平均でいえば少佐(主任職)には三十歳、中佐(課長職)には 四十歳、大佐(部長職)には五十歳代というのが相場である。  総勢十三名の佐官が第十七艦隊において昇進を果たしたことになるが、一時にこれ だけ大量の数というのも異例である。  これまでに天文学的な損害をこうむってもなお攻略することのできなかったタルシ エン要塞を陥落させたのだ。それに報いるだけの地位を与えても罰当たりではないだ ろう。 「諸君!」  アレックスが壇上に立って訓示を述べはじめた。 「先の作戦で要塞の攻略に成功したのは、諸君達の働きのおかげである。今後もそれ ぞれの新しい部隊を率いつつ、第十七艦隊のために尽力を尽くしていただきたい。タ ルシエン要塞の陥落により、同盟・連邦の軍事バランスが大きく変わろうとしている。 要塞を手に入れたのはいいが、逆にそれが第十七艦隊の足かせになろうとしている。 第五・第十一艦隊も第八師団として再編成され、おっつけ要塞に集結してくるが、要 塞を奪還されないためにも、防衛のために釘付けされたも同然なのだ。その結果とし て他の地域の防衛が手薄になるだけなのだが……」 「つまり敵艦隊が、要塞を捨てて本星に直接侵略をかけてくれば、防備が手薄なだけ 攻略もたやすいというわけですね」 「その通りだ。だが、本国は敵艦隊が必ず要塞奪還にくると信じて疑わず、その防衛 に戦力を集結させたのだ」 「タルシエン攻略には、これまでにも多大な戦力を投入してきたし、艦隊と将兵の損 害は天文学的数字になっていますからね。そう簡単に手放せないというところです か」 「まあな……とにかくだ」  アレックスは息をついで言葉を続けた。 「本国からの命令には逆らえない。要塞防衛の任務を遂行するまでだ。諸君らの健闘 を期待したい。以上だ。解散する」  全員起立して、敬礼をもってアレックスの退室を見送った。  新生第十七艦隊司令官就任式は定刻通り始められた。  中央壇上の右手に艦隊幕僚達が腰を降ろして新司令官の入場を待っていた。  副司令官カインズ大佐。艦隊参謀長にチェスターの後任として昇進したディープ ス・ロイド大佐。艦政本部長には引き続きルーミス・コール大佐である。その他の幕 僚達。  反対側の席には、第八師団を代表してアレックスとパトリシアが並んでいた。  壇上に、第八師団作戦本部長に就任したパトリシアが出て、進行役として式を進め ていく。 「それでは、新生第十七艦隊司令官となられたオーギュスト・チェスター准将を紹介 します。チェスター准将、どうぞ」  やがて指名を受けてチェスター准将が進み出て、壇上にたった。  その雄姿を、会場の最前列に陣取って、誇らしげに見つめている家族がいた。  共和国同盟において数々の素晴らしい戦功を挙げて、七万隻という全艦隊中最大の 艦艇を所有する第十七艦隊の司令官である。  就任式を終えたチェスターを出迎えるアレックス。 「お疲れ様でした、准将」 「いえ。どういたしまして」 「早速で悪いのですが、移動命令です」 「移動ですか?」 「百四十四時間後に第十七艦隊を、タルシエンへ向けて出航させてください」 「百四十四時間後ですか? ずいぶんとゆっくりとしてはいませんか。早ければ二十 四時間後にでも出発できますが」 「わけありでしてね。この出航を最後に当分の間、もうトランターへは戻れないかも しれませんから」 「どういうことですか」 「不確定要素が多すぎて、まだ明かすことはできません。アル・サフリエニ宙域を震 撼する大事件が起こり、タルシエン要塞から離れなくなる可能性があるということで す。隊員達にトランター本星への帰郷、最後の休暇を与えます。二交代で各六十時間 づつ全員にです」 「六十時間ごとの交代ですね」  シャイニング基地最大の軍港ターラント宇宙港。  ノースカロライナやサザンクロスなどの、トランターへ帰郷する将兵達を乗せた輸 送艦が次々と発進している。  基地中央作戦司令部からその光景を眺めるアレックス。  パトリシアが近寄ってくる。 「帰郷する将兵達の第一陣の出発が完了しました。チェスター准将、ゴードン、ジェ シカ、そしてフランソワが含まれています」 「そうか、手配ご苦労だった」 「提督は、降りられないのですか?」 「ああ……」 「あの、私の両親が逢いたがってましたけど……」 「済まない。やらなければならないことが、山積みなんだ」 「私も残っていたほうがいいのでは」 「いや。この先どうなるかも判らない情勢だ。両親には精一杯親孝行をしてきたほう がいい。第二便で帰りたまえ。これは命令だよ」 「アレックス……」  自宅に戻ったチェスターは妻の前で告白した。 「こんな時期に全員に休暇なんて変ですね。再編成とか、今が一番忙しいのでしょ う?」 「どうやら、連邦軍の総攻撃が近いうちにあるらしい。それで決戦の前に全隊員に休 暇を与えておこうというお考えだ」 「でも、タルシエン要塞にランドール提督ある限り、連邦とて一歩足りとも同盟に侵 攻できないだろう、と言われてますよね」 「それは連邦がタルシエン要塞を橋頭堡として重要視している限りにおいてだよ。要 塞を見限って、他の方面からの攻撃を考えていたらどうなるか。提督はそれを危惧し ているのだよ。おそらく提督は、このトランターには当分帰れないと判断して、最後 の休暇を与えたのだろう」 「最後の休暇ですか?」 「そうだ。場合によってはこれが最後の帰郷ということになるかも知れない」 「そうでしたか……」 「おまえには済まないと思うが、私は提督に恩を返さなければならない。何があろう とも提督についていくつもりだ。たとえこれが今生の別れとなろうともな……」 「あなた……。気になさらないでください。軍人の妻となった時から、とっくの昔に 覚悟はできております。ランドール提督のおかげで、夢にまでみた将軍に抜擢されて、 親族一同の誇りと湛えられるようになりました。提督のためにその身を捧げて、さら なるご活躍をお祈りしております」 「ともかくせっかく頂いた休暇だ。有意義に使わせてもらおうか」 「故郷に戻りますか?」 「そうだな……おまえとはじめて会った思い出の場所にでも行ってみるか?」 「あなたったら……」
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2018年10月 6日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の拾弐

陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の拾弐

(拾弐)飛鳥寺にて  飛鳥の代表的なお寺の一つが飛鳥寺である。  ここは596年蘇我馬子が発願して創建された日本最古のお寺で、寺名を法興寺、元興 寺、飛鳥寺と変遷し、現在は安居院(あんごいん)と呼ばれている。奈良市にある元興 寺は平城遷都と共にこのお寺が移されたもの。  このお寺はひっそりと建っているが、近年の発掘調査では、東西200m、南北300m、 金堂と回廊がめぐらされた大寺院であったようです。現在の建物は江戸時代に再建した 講堂(元金堂)のみを残す。  又ここは大化の改新を起こした中大兄皇子と中臣鎌足が、有名な蹴鞠会で最初出会っ たと伝えられ、蘇我入鹿を天皇の前で暗殺して大化の改新となる。  〒634-0103 高市郡明日香村飛鳥682  近鉄橿原神宮駅下車→岡寺前行バス10分→飛鳥大仏下車  又は、近鉄橿原神宮駅下車 徒歩40分  拝観料大人300円  駐車場料金 普通車500円  飛鳥大仏は写真撮影可能 「着いたぞ、飛鳥寺だ」  駐車料金500円を払って、飛鳥寺に入場する二人。  併設の駐車場は有料であるが、7分歩いたところには県立万葉文化館無料駐車場(普 通車110台収容)もある。 「拝観料は300円ね」  飛鳥寺(安居院)の西門から西へ100m程度行ったところ、飛鳥川との間にある五 輪塔が蘇我入鹿の首塚といわれている。  高さ149cmの花崗岩製で、笠の形の火輪の部分が大きく、軒に厚みがあるのが特徴で ある。  田畑の真ん中にこじんまりと安置されていて、入鹿塚だと言われなければ気が付かな い。  主な観光ルートには入っておらず、蘇我入鹿に興味ある熱心な歴史探訪家くらいしか 訪れることはない。   蘇我入鹿首塚のストリートビュー マウスでドラッグすると全景をぐるりと見まわすことができます  一通り首塚を調べる蘭子。 「その下に蘇我入鹿の首が埋葬されているのか?」 「伝承ではそういうことになっています」 「仮に埋葬されたとしても、後世のものによって掘り返されているだろうな」 「ありえますね」 「そろそろ飛鳥寺に戻りましょうか」 「うむ……」 飛鳥寺正門  正門の「飛鳥大佛」と刻印された石碑の前で、 「記念写真撮りましょうよ」  と、同意を求める蘭子。  記念写真となれば、立っている所がどこであるかが明確に特定できる場所が最適であ ろう。 「観光に来たのではなくて、捜査のために来たのだが……」 「いいから、いいから」  背を押して石碑の傍に立たせるようにして、自分も隣に寄り添う。 「すみませーん。シャッター押して頂けますかあ」  通りかかった観光客にスマートフォンを手渡してお願いする。 「いいですよ」  観光客も快く引き受けてくれる。 「あ、このボタンを押してください。シャッターが降りますから」  今時の若者にはスマートフォンの扱いなど朝飯前である。 「いいですか?撮りますよ」 「お願いしまーす」 「はい、チーズ」  と、ピースサインを出す蘭子。 「はい。撮れましたよ」  スマートフォンを返してくれる。 「ありがとうございました」 「どういたしまして」  旅は道連れ世は情け、見知らぬ他人とて助け合うことができるというものだ。  手を振って別れる観光客。 「次はどこへ行く?」 「蘇我入鹿が殺されたといわれる『飛鳥板蓋宮跡』に行ってみましょう」 「何かあるのかね?」 「いえ、何もありません」
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2018年10月 5日 (金)

性転換倶楽部/ある日突然に I page-3

女性化短編小説集「ある日突然に」より I

page-3  麻酔から覚めました。  ベットの上に横たわり、しばらくは意識朦朧状態で、天井を何気なく見つめていた ようです。  次第に意識が回復していきます。 「そ、そうだ! 身体はどうなって……」  掛け布団を跳ね上げて、わたしは絶句してしまいました。  可愛らしい女物のネグリジェを着せられており、以前のままの豊かな胸がネグリジ ェの上からもはっきりと確認できたからでした。  そこへ丁度医師が入室してきました。 「気分はどうですか?」  ほとんど事務的な回診の口調でした。 「どうして……元の身体に戻してくれると言ったじゃないですか」 「いやあ。完璧に手術は成功したよ。後は回復を待つだけだ」 「胸はあるじゃないですか、一体どんな手術をしたのですか」 「SRS。性別再判定手術というものだよ」 「SRS……。何ですかそれは」 「股間を触ってみればわかる」  医師に言われた通りに、股間に手を当て、覆われたガーゼの中に指を差し込んでみ ると、 「な、ない!」  その場所にぶら下がっているはずのモノが見当たりませんでした。  しかも異様な感触もあったのです。溝らしきものがあって、まさぐっていた指があ る部分で、すっと少し中へ入っていく感触。 「ま、まさか!」  わたしは、医師や看護婦がいるのにも気がつかない状態で、ベッドを起き上がりネ グリジェを脱いで、大きなガーゼを取り除いて、その股間を明るい光の中で確認した のでした。  手術の為にきれいに剃りあげられたその部分には、ほのかなピンク色をした女性の 外陰部があったのです。 「こ、これは……」  あまりのショックに、その後の声が出せませんでした。 「心配するな。私は中途半端は嫌いだ。脳死した女性の内性器と、外陰部から恥毛を 含めた鼠径部ごとそっくり移植したんだ、どこから見ても完全な女性にしか見えない ぞ。膣や子宮、そして卵巣もあるから、性行為はちゃんとできるし、妊娠も可能だぞ。 せっかく大きくて豊かな胸になったんだ、どうせなら身体全体も完全な女性になりた いだろうと思ってね」 「そんなこと、聞いていません」 「ああ、大丈夫。拒絶反応は起きないよ。血液を採取しただろ、あれで血液型や免疫 抗体などの検査をしている。うまい具合に血液型の一致した脳死者の女性が見つかっ た」 「そうじゃなくて……」 「以前の状態のままなら、豊かな胸を維持するために毎週注射を打たなければならな かったし、あれだけ強力な薬だから、女性ホルモンの禁断症状は麻薬のそれとは比べ ものにならないほどの苦痛が、再び薬を打つまで続いていたはずだ。しかし卵巣を移 植したからもうその心配はないよ。血液中に女性ホルモンがある限り、禁断症状は起 きない。いずれ薬の効果も消えるから禁断症状も消失する」
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2018年10月 4日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十三章 新提督誕生 VI

第二十三章 新提督誕生

                 VI  その夜、チェスターは艦隊の幕僚名簿を作るために夜遅くまで起きていた。  心配して夫人が起きだしてきた。 「あなた、お休みになられないのですか」 「ああ、すまない。起きてきたのか」 「ええ……」 「幕僚名簿を作って明後日いやもう明日になったか、それまでに提督に提出しなけれ ばならないんだ。早急にリップルと相談して決定しようと思ってな、その概要だけで も作成しておいた方がいいだろう」 「でも、お身体にさわりますよ」 「どっちにしても、興奮して眠れそうにないよ、今夜は。おまえは、気にせずに寝て いなさい」 「無理をなさらないでくださいね」 「わかっている。おやすみ」 「おやすみなさいませ」  夫人が寝室に消えるのを見届けて、チェスターは再び名簿作成にとりかかった。  その最中にも彼の脳裏には、最有力候補であった提督の片腕であるゴードン・オ ニールではなく、この自分を艦隊司令官に推したのか……という思いがよぎっていた。  功績点においては、自分の方が上位にあったのは確かであるが僅差でしかなく、年 齢制限と彼の将来性を考えれば、誰もがオニールが選出されるのが自然であると判断 していただろう。慣習に従うならば、勧奨退職を持ち出されてしかるべきところだっ たのだ。  それを曲げて定年間近の自分を推挙して統帥本部の承認を得るために、提督は相当 の労力を払ったに違いない。  とにもかくにも、提督は自分を後任として任命した。提督の性格からしても、その 決定が温情からくるものでなく、先々を見越し計算されつくしているはずである。少 なくとも五年先までは……。老骨とはいえ、自分が提督のために、まだまだ十分働け るということである。 「とにかく今は、この艦隊幕僚名簿を作成することが最初の任務というわけだ……」  つぶやき、チェスターは再び名簿作成に専念することにした。  夜が明けて朝となった。  いつまにか居眠りしていたらしく、チェスターの肩には妻の手によるのだろうガウ ンが掛けられていた。 「寝てしまったか」  食堂に降りると、朝食の準備は整っていた。 「あ、おはようございます。丁度朝食の支度が済んだところです。お食事になさいま すか」 「ん……そうだな」 「じゃあ、お座りになってくださいませ」  その時、インターフォンが鳴った。 「こんなに早く、一体どなたかしら」  夫人は立ち上がって、玄関に回った。 「たぶん、リップルじゃないかな。来るように言っておいたから」 「そうですか。じゃあ、応接室にお通ししますね」 「いや、ちょっとこっちに頼む」 「はい」  やがて夫人に案内されてリップルが入ってきた。 「やあ、これは朝食中でしたか。一刻も早いほうがいいかなと思いまして、失礼を承 知で伺いました」 「気にするな。取り敢えず食事を済ませるから、その間この艦隊幕僚名簿の試案に目 を通しておいてくれないか」  リップルはチェスターが差し出した名簿を受け取って、 「わかりました。どうぞ、ごゆっくり」  と答えて応接室に入った。 「待たせたな」  チェスターが応接室に入ってきた。  リップルは立ち上がって敬礼する。 「改めて昇進おめでとうございます。閣下」  チェスターは閣下と呼ばれて耳がこぞばゆく感じた。 「閣下か……」 「准将になられたのですから、閣下とお呼びして当然です」 「そうだな」 「それで、あの……私の処遇は……」 「心配するな。ちゃんと少佐になれるように進級申請を出しておいた」 「あ、ありがとうございます」 「ただし、佐官への昇進には司令官としての適正審査と面接試験がある。十分な経歴 があるから、かのウィンザー少佐のような実戦試験はないとはいえ、時間がかかるし 申請通りいくとは限らないから、そのつもりでな」 「わかっております」 「君のことだ。審査も試験も合格は間違いないだろう」 「はい」 「と安心したところで、話しを進めようか」 「はい」 「どうかな……」  と名簿を指し示した。  艦隊司令官 =オーギュスト・チェスター准将  艦隊副司令官=ガデラ・カインズ大佐(第二分艦隊司令)  艦隊参謀長 =ディープス・ロイド中佐  艦政本部長 =ルーミス・コール大佐  首席参謀  =マーシャル・クリンプトン中佐  第一作戦課長=ジャック・モーリス中佐 「艦隊参謀長にディープス・ロイド中佐を選ばれたのですね。第十七艦隊の結成式の 当日をもって大佐に昇進されるのが内定していますから問題はありませんし」 「まあ、順当というところだろう。私は、ランドール提督と違って用兵術に優れてい るでもなければ、作戦会議をまとめる器量もなし。本来の様式通り艦隊参謀長を選任 して作戦面の強化をしなければな」 「その点でしたらロイド中佐は適任ですね。本当なら、閣下直属のマーシャル中佐を 選びたいところなんでしょうけど」 「そうもいかんだろう。提督が常勝と呼ばれるに至った背景には、私情を一切排除し て適材を適所に配して、かつまたその者達を信頼してすべてを任せておられたからだ。 だからこそ、任せられた者達は能力を十二分に発揮してこれに答えることもできたの だ。私も肖りたいし、何よりロイド中佐が最適任者であることは明白な事実だ」 「そうですね……。では、次に進みましょうか。艦政本部長にルーミス・コール大佐 はいいとして。問題は、副司令官のガデラ・カインズ大佐ですか……今回の人事で、 一番の貧乏くじを引いた方ですね」 「オニール大佐は別格として、私が選ばれるくらいなら彼が選ばれた方が道理にあっ ているのだが……彼は提督が少佐の時からの部下だからな」 「とはいっても、人事は提督がお決めになられたことです。彼も軍人ですから、その 辺の事情は察してくれるでしょう。私としてはですね、高速戦艦ドリアードに坐乗し ているというだけでも、羨望の的なんですから」 「ハイドライド型高速戦艦改造II式か……」 「そうです。同盟軍にたった五隻しかない最高速の戦艦で、サラマンダー艦隊の主力 旗艦。連邦軍はその艦影を見ただけで恐れをなして逃げ出すという、今では名艦中の 名艦として知られていますからね。サラマンダーを筆頭に、ウィンディーネ、シルフ、 ノーム、そしてドリアード」 「自然界に存在するという精霊から名付けられたらしいな」 「提督が連戦連勝しているのは、その名の通りに精霊の加護を受けているのではない かとのもっぱらの噂です」 「どうかな……、それって地球上の精霊だろ、宇宙にまでいるかどうか怪しいものだ。 おっと、話しがそれた」 「すみません。ともかく三役の人事はこれでいいのではないでしょうか」 第二十三章 了
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2018年10月 3日 (水)

性転換倶楽部/ある日突然に I page-2

女性化短編小説集「ある日突然に」より I

page-2  朝になりました。  ひどい寝汗です。風邪の回復期によく見られる現象であることが判ります。  汗を拭おうと腕を動かした時でした。  胸の部分に異様な感覚が走りました。  あわてて飛び起き、布団を跳ねのけて確認します。 「なんや! これは!」  私は絶句しました。パジャマをはだけた胸には、見事に大きく膨らんだ豊かな乳房 があったのです。  おそるおそる触ってみると、弾力のある膨らみであることが確認できました。  風呂場にある鏡に、自分自身の身体を映してみました。  豊かなバストに、大きなヒップが確認されました。 「もしかして副作用があると言ってたのこのことか!」  身体は、どこからみてもまさしく女性のボディーラインでした。  ただ一ヶ所を除いて……。  股間には見慣れた例のモノがぶらさがっていたのです。薬のせいで小さくなっては いますが、さすがにここまでは変化の余地がなかったようです。  とにかく一大事です。  この状態をなんとかしなければなりません。  会社の出勤時間はとうに過ぎていました。 「電話しなくちゃ。風邪ということで休ませてもらおう」  会社に連絡を取ります。所属の庶務課への直通回線をダイヤルします。  発信音の後に、電話の向こうから○○○○商事ですという受付嬢の声が届きます。 「庶務課の倉本里美ですが」  と声を出した途端に驚きました。キーの高い女性の声になっていたのです。  相手から返事が戻ってきます。 「倉本……。確かに庶務課に倉本はいますが、そちら様は?」  女性の声で男性職員の名前を出したので確認してきたようです。 「あ、あの……倉本の姉です」  とっさに結婚して近くに住んでいる姉を装いました。就職の際の身元保証人になっ ていますし、姉が看病の為に訪問していることは有り得る事です。 「お姉さまですか」 「はい。倉本は風邪で、休ませていただきたいのですが」 「かしこまりました。上司にはお伝えいたします。昨日は早退されたようですし、ご 容体もかなりひどかったご様子ですが、二・三日お休みということになりそうです か?」  本格的な風邪となれば一日では治らない。二・三日高熱が続くことも良くあるこ と。それを確認していたようです。 「はい。最低三日は寝込むかもしれません」 「わかりました。その点も合わせて報告しておきます」 「それでは、お願いします」 「はい。お大事にどうぞ」  送受器を置いて、思わずため息をもらします。 「声まで、女性になってしまうとは……」  もう一度、あの病院に行くしかない。  あの注射のせいで、こんな女性の身体になってしまったのは明らかなようです。  きっと解毒剤もあるに違いないはずです。  不思議な事には、注射のせいで熱も悪寒もすっかり治まっていました。  さっそくパジャマを脱いで着替えます。  しかし、大きな胸のせいで、シャツのボタンを留めることができません。ズボンも やはり大きなお尻が邪魔でファスナーを上げることができません。  しかたなくTシャツにジャージの上下を着て出かけることにしました。  ジャージの上からも、大きな胸の膨らみがはっきりと見えるので、人目につかない ように腕を組むようにして、胸を押さえていなければいけませんでした。  そして通行人が見えなくなると駆け出します。一刻も早く病院に着きたかったから です。  大きな胸がTシャツの下で、ぷるるんぷるるんと軽やかに弾みます。大きな胸とい うものは、走るのにはまったくの邪魔物でしかない事を再認識しました。世の女性達 はこのようなものを胸にくっつけて生活していると思うと気の毒にも感じました。も っともそれが男性にとっては、魅力の一つでもある事も知っています。  乳首がシャツに擦れて、痛いというか微妙な感覚が全身を駆け抜けていきます。  やっとの思いで病院にたどり着きました。  受付けを済まし順番待ちでベンチに座ります。  腕組をし、胸の膨らみに気づかれないようにします。  やがて自分の番になり、処置室に入るなり医師に食って掛かりました。 「一体何を注射したのですか?」 「女性ホルモンと成長ホルモンだよ。超即効性のハイパーエストロゲンとアンチアン ドロゲンの混合剤、そしてスーパー成長ホルモンをね。効果はご覧の通り、一晩で女 性化してしまうという素晴らしい薬だよ。でも、風邪もちゃんと治っただろう。風邪 薬を混ぜておいたから」  何という事でしょうか。  本来の目的だった風邪の薬は二番煎じ的な言い方です。 「元に戻してください」 「といっても薬じゃ治らないし、となると手術になるが、大胸筋の中まで浸潤した乳 腺組織を取り除くのは大変だぞ。全身麻酔をかけてじっくりと組織を取り除いていか なければならない。大手術になる」 「そんなこと知りませんよ。あなたが勝手にホルモン剤を投与したから、こんな身体 になったんです。手術でもいいですから、元のまんまに戻してください」 「そうか、そうまで言うのなら」  入院手続がとられ即日の手術となりました。  手術前の緊張を解きほぐす為の前麻酔薬を飲まされた後に手術台の上に乗りました。  乳房の上に執刀ラインが引かれていきます。  やがて前麻酔剤が効きはじめたのを確認して、 「それじゃあ、オペを開始するよ」  と本麻酔用のマスクが掛けられました。  やがて意識が遠くなっていきます。
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2018年10月 2日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十三章 新提督誕生 V

第二十三章 新提督誕生

                 V  チェスターは一瞬自分の耳を疑った。  パトリシアが任官状と階級章をアレックスの机の上に置いた。 「しかし私は……」 「定年でしたら、准将となったことで、軍の規定により貴官の退役は後五年延長され ます。貴官には引き続き司令官として、艦隊をまとめ運営していただきたい」 「オニール大佐は、このことを承知なのですか?」 「いや。まだ伝えていないが、納得してくれるだろう。ただ、第一分艦隊の連中が納 得しないだろう、これだけは私も手におえないと思う。第一分艦隊のこれまでの活躍 は、私が種をまいたとはいえ、手塩にかけて育ててきたゴードンの功績によるところ が大きい。そこで、第一分艦隊を三万隻の独立艦隊として私の直下に置くことにした。 彼には副将としてその司令官を務めてもらう。つまり、残る七万隻が第十七艦隊とし て、貴官に与えられることになります。パトリシア、艦隊編成表を渡してやってく れ」 「はい」  パトリシアが艦隊編成表をチェスターに手渡した。  チェスターは編成表にさっと目を通した。 「それが新生第十七艦隊の編成表です」  そこには戦艦ペガサスを旗艦とする七万隻からなる艦艇がずらりと並んでいた。 「主戦力である第一分艦隊を欠いたとはいえ、それでも一個艦隊としては同盟軍最大 であることには違いありません。それを生かすも殺すも貴官の腕しだいです」  チェスターの腕は震えていた。 「いかがです、受け取っていただけますね」  アレックスは先の任官状と階級章を、静かにチェスターの目前に差し出した。  チェスターは、踵を合わせ鳴らして敬礼して答えた。 「はっ! 謹んで、お受けいたします」 「ありがとう。オーギュスト・チェスター准将。それでは明後日までに、新生第十七 艦隊の新しい幕僚の選出と名簿を作成して提出してください。それとあなたの後任の 推挙状と、副官リップル・ワイズマー大尉の進級申請書も忘れずに」 「承知しました」 「それと、艦隊司令官就任式を五日後の午後二時より、本部講堂にて執り行いますの で出席してください。ご家族をお呼びになっても結構ですよ。私からの報告は以上、 下がって結構です」 「はっ。ありがとうございました」  チェスターは、任官状と階級章とを受け取ると、最敬礼をし踵を返して退室した。  控えの秘書室に、丁度入れ代わるようにゴードンが入ってきたところであった。 「あ、チェスター大佐……」  ゴードンが声をかけるが、唇をきゅっと噛みしめるように無言で出ていった。 「あなた、いかがでしたか?」  軍服を脱ぐ手伝いをしながら、夫人は尋ねた。 「ああ……」  とりとめのない返事をする夫に、夫人はそれ以上声を掛けるのをためらった。  黙々と着替えを進めて普段着になり、食卓に座ったチェスターに、夫人はそっと酒 を出した。 「どうぞ、お飲みください」 「ん……? ああ、すまないな」 「いえ」 「実はな……、第十七艦隊の司令官に任じられたよ」 「え?」  夫人は、聞き返した。 「更迭の話しじゃなかったのですか?」 「それがだ。俺自身も覚悟して行ったのだが、意外だった。とうとう俺も将軍になっ たんだ。退役も五年先に繰り延べされた。これが任官状と階級章だ」  といって夫人に、もらったばかりのそれを見せた。 「ほ、本当ですのね」  夫人は、実際に目の前に任官状などを見せ付けられても、急には信じられないとい う風であった。 「本当だ。五日後に就任式が行われる。家族も呼んでいいそうだ」 「あなた……」  夫人はことの真実をやっと飲み込めてきて、涙声になりながら夫の昇進を労った。 「おめでとうございます。あなた……今日まで、本当にご苦労さまで……」 「退役して、夫婦仲むつまじくというのは、先延べになったな」 「そんなこと……いつだって」 「そうだな」
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2018年10月 1日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に I page-1

女性化短編小説集「ある日突然に」 I

page-1  その日、私は風邪で会社を早退しました。  酷い悪寒で、身体がぶるぶる震えて、足取りも重いのです。 「家に帰ったら、風邪薬を飲んですぐに寝よう」  帰路の途中に病院があるのに気づきました。  病院の看板には、診療項目として、産婦人科と内科とが記されています。 「産婦人科か……」  大きなお腹を抱えた妊婦が出入りするのを目にします。  気恥ずかしくて、さすがに入るのがためらわれます。 「でも内科とも、ちゃんと書いてあるよな」  この酷い症状は風邪薬だけでは治りそうもありません。  意を決して、その病院へと入っていきます。  すると、男性である私に対し、異様な妊婦達の視線が集中します。  判り切っていたことですが……。  マスクをし咳を連発する私をみれば風邪だとすぐに判るはず。  ここは内科でもあるのです。  受付けで初診の手続きを済ませてベンチで待っていると、すぐに呼び出しがかかり ました。 「いやに早いな」  すると看護婦が、他の妊婦達にも聞こえるように答えてくれました。 「ひどい風邪のようですから先に診療します。院内感染で他の妊婦さん達にうつして は大変ですからね。風邪は妊婦には大敵なんですよ。お腹の子にも差し障りがありま す」 「それもそうだね」  診療室に入ると、早速医師が診療をはじめます。  シャツをまくしあげた胸や背に聴診器をあてていた医師が変な事を言い出しました。 「君、結構色白だね。身体もわりと細身だし」 「ええ、まあ……」 「それに童顔だ。女性と間違われたことはないかね」 「は、はあ。たまにあります」 「だろうねえ。女装した経験は?」 「ありません」 「そうか。化粧して髪型もそれなりにすれば、立派に女性として通用するはずだよ」 「な、何言っているんですか」  変なこと言う医師だと思いました。 「新型肺炎ということもあるので、検査用の血液を少し採取してもいいかね」 「新型肺炎?」  それは2003年夏に、中国を発祥地として全世界に蔓延し、死者もたくさん出し た病気です。 「いや、念のためだよ」  驚いた表情をみて医師が確認するように言いました。 「わかりました。どうぞ」  看護婦が早速注射を静脈に刺して血液を採取していきました。  やがて診断が下されました。 「症状はひどいが、たんなる風邪だね」 「そうですか、良かったです」 「注射を打てばすぐに良くなるよ」  と言って、そばのもう一人の看護婦に合図を送りました。 「一応速攻性のある静脈注射と、持続性のある筋肉注射の二本打ってあげよう」 「二本も打つのですか?」 「その酷い咳と悪寒をすぐに止めるために、まずは一本。そして風邪の症状を抑える ための風邪の特効薬をもう一本だよ」 「そうでしたか」  看護婦がトレーに乗せて運んできた二本の注射を、静脈と筋肉にたてつづけに打た れました。 「よし、これでいい。三十分もすれば咳も悪寒もたちどころにおさまるはずだ。即効 性がある分、副作用もあるが気にしなくてもいいだろう」 「副作用があるんですか?」 「ああ、命に関わるようなものじゃないから安心したまえ」  診療代を払って、その病院を後にしました。  両腕に処置された注射箇所の痛みが続いています。  家に帰りつきました。  部屋に入り、パジャマに着替えるのですが、咳と悪寒がきれいに治まっていました。 「へえ、さすがに注射だな。すぐに効いているよ」  しかし身体全体がほてって熱く感じるのは何故でしょう。  とにかく今日は何もする気が起こりません。  すぐに布団を敷いて寝る事にしました。  股間の当たりがひどく痛みます。  インフルエンザなど高熱を発する疾患では、睾丸などが高熱の影響で痛みを伴う事 があるのを知っていました。睾丸は熱に弱いのです、それは身体の体外にあって、ラ ジエーター効果をもたらす陰嚢に収められていることからも理解できるでしょう。
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