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2018年11月 5日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-9

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-9  一旦デパートを出て、すぐ近くの喫茶店に入る。 「視察だとおっしゃってましたが、よろしかったのですか?」 「僕が視察に同行したのは、このデパートの上層部に挨拶に伺うためで、その用事は もう済んだから、後のことは部下に任せていればいいんだ」 「へえ……結構地位のあるお方だったのですね」  視察というからには、相当の地位にある事が推測できた。少なくとも部長クラスで はないだろうか。連れていた部下は、四十代くらいで課長クラスのようだ。最近の会 社は年功序列から能力主義に変わってきているので、二十四歳の黒沢が上司となり、 四・五十代の課長連中を部下に持つ事も不思議ではない。 「ま、まあね……そんなわけで、昼間は会社務め、夜はルポライターに変身するとい うわけさ」 「そんな生活してて、お休みになる時間はあるのですか?」 「うーん。それが悩みの種なんだよな。ついつい昼間に居眠りしてしまうことがある」 「それじゃあ、本末転倒じゃないですか。本業は大切にしなくちゃ、首になっちゃい ますよ」 「ははは、首か……。いっそのこと首になったほうが、いいかもな。文章書きに専念 できるというものさ」 「でも、羨ましいですわ。打ち込めるものがある方って。わたしなんか、ただ生きて いるためだけに働いているって感じですから」 「そうかな。僕は、逆に君の事感心して見ているんだよ」 「どういう具合にですか」 「うん。こんなこと君に言っては失礼かと思うけど、あえて言わせてもらうよ」 「……?」 「こうして君と会って話していると、本当の女性のような気がしてならないんだ」 「へ、変なことおっしゃらないで下さい。わたしは」 「だめだよ! そこから先を言っちゃ」  顔の前に人差し指を立てて左右に細かく振りながら、 「そう……。君の口から言ってはいけないよ」  とわたしの顔をじっと見つめている。 「君があの店で働くようになった事情は知らないし、過去のことも一切聞きたくない。 少なくとも僕は、君のことを本当の女性だと思っているんだ。僕の前にいる時は、あ りのままの姿であって欲しいな。そう……今の君のようにね」  黒沢の言葉が胸を打った。  本当の女性と思っているなどとは、これまでに一度だって言われたことがない。  きれいだ、可愛いとは耳にタコができるくらい聞かされている。  嘘を言っていないと感じた。 「ところで、携帯電話持ってる?」 「はい」  それは、店との連絡用に、マネージャーが与えてくれたものである。休養日などに、 予定していた店子が多く休んでしまった時や、予想外に数多くの客が来店して応援の ために、臨時出勤を依頼する為に使われる。或は逆にこちらが風邪引いたりして休み たい時の連絡用だ。料金は店側が払ってくれるが、一定金額内なら、個人的な私用に 使っても良いことになっている。もっとも掛けるべき相手はいない。あの日を境に、 友人・知人はすべて失ってしまったからである。 「もし良かったら番号を教えてくれないか」 「え?」  どうしようかと悩んだ。客に番号を教えてしまったために、連日連夜デートの誘い が掛かってきて困ったという話しをよく聞いている。  しかし黒沢が、そういう人間ではないことは知っている。常連客として良く来店し てくれるが、これまでに一度だってわたしの身体に触ったことがないからだ。  わたしと一緒に酒を飲む時間を楽しみに来店している風であった。 「他の誰にも教えないでくださいよ」 「もちろんだ」  自分の携帯電話に、わたしの教えた番号をメモリーする黒沢。  入力が終わった途端に電話が掛かってくる。 「おおっと、部下からだ」  液晶画面を確認してから電話に出る。 「私だ……そうか、わかった。車の所で待っていてくれ。すぐに行く」  携帯を閉じ、ポケットに収めながら、 「次の店舗に移動しなきゃならない。済まないが、今日はここまでだ。君はゆっくり していくといいよ。機会があったらまた会おう。お店以外の場所でね」  立ち上がり、伝票を取り上げてレジに向かう。  わたしを女性として扱っている以上、支払わせるわけにはいかないというところか。  好意は無碍にしてはいけない。  相手は仕事中なので、付いていくわけにもいかず、居残って飲み残しのアイスコー ヒーのグラスを開ける。
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