最近のトラックバック

2019年8月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
無料ブログはココログ

他のアカウント

« 2018年10月 | トップページ | 2018年12月 »

2018年11月

2018年11月30日 (金)

性転換倶楽部/ある日突然に III モーテルにて

女性化短編小説集/ある日突然に III

(四)モーテルにて  やがてとあるモーテルに着いて中へ滑り込んでいく。 「入っちゃいましたね」  と、心配そうな由香里。 「大丈夫だ。ここも組織が運営しているモーテルだ」  従業員用入り口のそばに車を止めて、堂々と中へと入ってゆく。  そして、スタッフルームで管理人と思われる人物と何やら話し込んでいたかと思う と、 「よし、話はついたぞ」  さらに奥の管理センターへと入ってゆく。  そこには防犯カメラの映像ビデオスクリーンがズラリと並んでいた。  映像には、くんずほぐれつ状態のアベック達のあられもない様子が映されていた。 「ほえ~。これって違法じゃないですか?」 「逢瀬の様子をモニタリングしているなんて」  はじめてみる光景に、顔を赤らめている。 「確かにそうかもしれないが、モーテルなんか犯罪の温床だからな。万が一に備えて いるわけだ。実際にも柿崎が睡眠薬強姦しようとしているだろ」 「そりゃそうですが……」 「さてと、柿崎の部屋はっとっ……465号だったな」  操作パネルをピポパという感じで、 「お、映った。ありゃ、ビデオカメラを持ち込んでいるな」  ベッドの上に寝転がせている響子をよそに、ベッドサイドで三脚を立てビデオをセ ッティングしている柿崎。 「これで奴が告訴されない訳が分かった。強姦は親告罪だから、ビデオ撮りした映像 を使って脅迫していたのだろうな」 「いつまで見てるんですか!?」  我慢しきれないと興奮したように話す由香里。 「おっと、そうだった」  それから響子の救出と、柿崎の成敗のための行動に移る一同。 「わしと里美が奴の部屋に向かう。由香里は携帯を使ってビデオ中継してくれ」 「わかったわ」  というわけで、私と里美は465号室の前に到着した。  管理人から合鍵を携えてである。 「由香里、現状を報告してくれ」  携帯で連絡を入れてみる。 『ひどい! とんでもない奴です』  興奮した口調の由香里の声が聞こえてくる。 『ああ!』 「どうした?」 『柿崎が響子さんの服を脱がしはじめました。先生、早く何とかしてください』  娘達の声が緊迫したものに変わってきている。 「まあ、待ちなさい。響子がまだ動かないのには考えがあるのだろう」 『目覚めてなかったらどうするんですか?』 「いや。目覚めているはずだ」 『だからと言って、響子さんが裸にされて柿崎の目に晒されているなんて絶えられま せんよ。ああ……すっぽんぽんにされちゃいました』 「とにかく待つんだ。ビデオに撮ろうとする輩は、必ず目覚めるのを待ってから事に 及ぶものだ。相手が許しを乞い、泣き叫ぶ姿を見ながら、征服感を充足させるのさ」 『くわしいんですね。もしかして先生も……』 「ば、馬鹿言うなよ。私が柿崎と同類なら、君達を生まれ変わらせるような事はしな かったさ。だいたい私は、女性の身体を守る産婦人科医だぞ。それとも何かな……、 君達に手術した事が間違っていたとか?」 『あ、それだめ! わたし、女性になって心底良かったと思っているんだから。英二 さんと巡り会えたのも、そのおかげなんだから』  興奮したような由香里の声が届く。 『柿崎が上着を脱いで、ベッドに上がりました』 『あーん。もうだめだよ。やっぱり眠ったままなのよ』 「落ち着くんだ。モニターの部屋番号のところに赤い釦があるだろう」 『え? ああ……これね。ありますけど、これが何か?』 「それは各部屋に取り付けてあるスピーカーのスイッチだ。火災などが起きたときの ために、緊急非難誘導のためのものだ。スイッチを入れて、目の前のマイクに向かっ て何か喋ってみろ。但し他の部屋のスイッチには触るなよ」 『何か喋ろと言ったって、何喋ればいいの?』 『何でもいいんだ。柿崎の気をそらせればいいんだ。きっと響子は動くはずだ』 『わかりました。今……スイッチ入れました。あ、ああ。本日は晴天なり』 「馬鹿……よりにもよって何ということを……」 『柿崎がこっちを睨むように見ています。恐いよ』 『あ、響子さんが動いた。髪飾りの辺から何か取り出しました。柿崎の首に何かを刺 したみたいです』 『あれ? 柿崎が倒れましたよ』 「髪飾りに仕込んであった、麻酔針を使ったのさ。もう大丈夫だ。そこはいいからこ っちに来てくれ」 『わかりました』  携帯を切り、合鍵で鍵を開けて部屋の中に入る。  響子がベッドの縁に腰掛けて、脱がされた衣類を再び着込んでいる。 「響子。よくやった」 「あ、先生。やりましたよ」  ベッドの上に伏している柿崎。即効性の麻酔を仕込んだ針でぐっすりお休みだ。 「ああ、完璧だ」 「里美達が放送で気をそらしてくれたおかげです」 「君にここまでやらせて済まなかった。奴に逃げる口実を与えないためにも、状況証 拠を掴むしかなかったのだ」 「いえ、気にしないでください。許せない女の敵を捕らえるためにしたことですから」 「そう言ってくれると助かるよ」  柿崎の様態を確認してみる。 「麻酔が良く効いている。動かしても起きないだろう」  やがて勢いよく扉を開けて、里美と由香里が入って来る。 「響子さん!」 「大丈夫ですか? 柿崎に何かされなかった?」  響子に駆け寄って安否を確認している。 「ええ、裸にはされちゃったけど……大丈夫よ。心配してくれてありがとう」  無事な再会を果たして喜ぶ一同。 「よし。柿崎を運びだすぞ。里美と由香里の二人で足の方を持ってくれ。私は肩の方 を持つ。響子は、こいつの衣服とカメラ器材を持ってきてくれ」 「はい」  三人がほとんど同時に答えた。 「お、重い……眠ってる男の人がこんなに重いとは思わなかった」  由香里が悲鳴を上げている。 「ほんと、男性の体重が女性より重いのはわかるけど」 「しようがないわよ。ホルモンの影響で、筋肉はみんな脂肪に変わっちゃっていて、 筋力がかなり落ちてるんだから」  衣服持ちという楽な担当の響子が答える。おとりという大役を果たした後なので、 他の二人が、そのことに不平を言う事はなかった。
なお、親告罪は平成29年6月16日に改正、同年7月13日より施行。被害者からの 告訴がなくとも、加害者を告訴できるようになった。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月29日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 VI

第二十六章 帝国遠征

                  VI  それから数日後。  タルシエンに集う全将兵に対してのみにあらず、旧共和国同盟全域に対して、今後 のアル・サフリエニ方面軍の方針を、全周波帯による軍事放送を伝えるアレックスだ った。 『共和国同盟に暮らす全将兵及び軍属諸氏、そして地域住民のみなさんに伝えます。 私、アレックス・ランドールは、タルシエン要塞を拠点とする解放軍を組織して、連 邦軍に対して徹底抗戦することを意志表明します。解放の志しあるものは、タルシエ ン要塞に結集して下さい。猶予期間として四十八時間待ちます。以上です』  艦内のあちらこちらでは、解放軍結成表明を放送するアレックスをモニターで見つ めている隊員達がいる。 「解放軍か……」 「どうなるんだろうねえ。俺達は」  全宇宙放送から要塞及び解放軍に対しての放送が続く。 『それでは引き続き、現在タルシエン及びアル・サフリエニに集う全将兵に告げる。 今表明した通りに、我々は総督軍に対して徹底抗戦する。祖国に弓引くことになり、 家族や親類同士で戦うことになる可能性もある。そこで諸君らに選択の機会を与える ことにする。我々と共に祖国の解放のために戦うか、それともここを去り祖国に帰る か。君たちの自由意志に任せることにする。四十八時間の猶予を与えるから、じっく りと考えて結論を出してくれたまえ』  艦内のあちらこちらでは、自身の身の振り方についての会話がはじまった。  第十七艦隊旗艦、戦艦フェニックスの艦橋でも全艦放送を聞いて困惑の表情を見せ るオペレーター達がいた。自分達の指揮官であるチェスターがどういう結論を下すの か? それに従うかどうか、それぞれに頭を悩ましていた。 「閣下は、いかがなされるのですか?」  少佐になったばかりのリップルは聞くまでもないと思いつつ、チェスターに尋ねて みた。 「ランドール提督は、定年間近な私を艦隊司令官として迎え入れてくれた。オニール やカインズという新進気鋭の後進が育ってきて、慣例ならば勇退という形で勧奨退職 が一般的だ。後進に道を譲るよう諭されるところだったのだが」 「将軍への最高齢昇進記録を塗り替えました」 「将軍となることは、武人としての栄誉である。それをかなえてくれたランドール提 督には、恩を返さねばならないだろう」 「しかしトランターに残してきたご家族のことは?」 「それは私にも心痛むところだが、軍人の妻として一緒になったときから、常に心構 えはできている。子供達も理解はしてくれていると思う」 「閣下、艦内放送が整いました」 「判った」  第十七艦隊としての行動判断を示す必要があった。  チェスターは、ランドール提督に付き従うことを決めてはいたが、それを部下にま で強制することはできなかったからである。 『第十七艦隊の諸君。私は、ランドール提督と共に戦うつもりだ。しかし君たちを軍 規によって縛り付けることはできない。ここに残るも、祖国に戻るも個人の自由だ。 それぞれによく考えて、身の振り方を決定したまえ。以上だ』  同様な艦内放送は、独立遊撃艦隊のゴードンやカインズ、そして旗艦艦隊のスザン ナのところでも行われていた。  ハイドライド型高速戦艦改造II式「ノーム」を乗艦とするスザンナは、艦内放送を 終えて感慨に耽っていた。旗艦艦隊司令官という光栄を預かっただけでなく、これま で実験艦という位置づけだったこのノームを再び準旗艦に格上げさせて与えてくれた。 「ベンソン司令は提督について行かれるのですよね」  スザンナの副官となった二コレット・クーパー少尉が確認する。 「もちろんです」 「ですよねえ。提督の士官学校時代からずっと共に戦ってこられたのですものね」 「その通りです。何があろうとも付いていくわ」 「ご一緒します」 「ありがとう」  二コレットは尊敬に値する感情を、この上官に抱いていた。  提督の厚い信頼を受けて、一般士官である艦長という身分ながらも艦隊運用を任さ れるようになった。運にも恵まれていたかも知れないが、誰しもがその才能を認めて いたし、それ以上に努力家であることも知っていた。  勤務が終えた後に、資料室で一人静かに戦術理論の研究をしているを良く見かける。 提督の期待に応えるために、一所懸命に勉強を続けていた。  自分もそうありたいと二コレットは思った。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月28日 (水)

性転換倶楽部/ある日突然に III とあるバーにて

女性化短編小説集/ある日突然に III

(三)とあるバーにて  ここは、とあるバーである。  柿崎が日頃から良く来店していることは調査済みである。  そして、私の組織とも繋がりのある店でもある。  組織の口利きで、オーナーに許可を取って店の裏口から入店する。  柿崎とはグルになっているマスターには内緒である。  そして、製薬会社受付嬢の倉本里美と渡部由香里も同伴である。  店内を監視できる奥の事務所に陣取り、防犯カメラをチェックする。  店内では、囮となることを自ら志願した磯部響子がいる。  やがて柿崎が入店し、目ざとく響子に近づいていく。  響子の隣の席に腰を降ろし、馴れ馴れしく話し掛ける柿崎。 「ねえ、君。もしかして、待ち人が来ないのかな」 「え? ええ、まあ……」 「君のような美人を放っておくなんて酷い男だな」 (どっちが酷いんだか……) 「どうだい? 今夜は、この僕と付き合わないかい?」 「そうね。それもいいかも知れないわね」 「よっしゃあ。僕達の出会いに乾杯しよう」  と言いながらマスターに合図を送った。 「どうやら、マティーニを作っているみたい。口当たりはいいけど、結構度数が高い のよね」  ニューハーフ・バーに勤めていただけに酒の事は良く知っている里美が言った。 「あ! 今、マスター、何か錠剤のようなもの入れなかった?」 「見えたわ。きっと睡眠薬よ。やはりマスターもグルなのね」 「あれ? マスターはあたし達が来てること知らないの?」 「ああ、実はマスターが共犯者というのは気づいていた。だからマスターには内緒に している」 「どうりで、マスターに会わないように、営業時間中に裏口からこっそり入ったのね。 鍵はオーナーから預かったの?」 「そうだ。この店は普段からマスター一人で切り盛りしている。他の誰かがいると警 戒して、本性を現わさないだろう。一応ここと店内は防音されているから、私達が入 ってきたのには気づかない」 「でもさあ……睡眠薬を飲まされてぐっすり眠り込んだままホテルに連れ込まれて、 目覚めた時には事が済んでいた。ということにならないかしら」 「大丈夫だ。響子君には催眠剤を中和する薬を飲んで貰っている」 「中和剤? そんなものがあるの?」 「私の経営しているのは製薬会社だ。どんな薬だって作ろうと思えば作れる。女性ホ ルモンや避妊薬はもちろんのこと、睡眠薬だって作っているし、それの効果を無効に してしまう中和剤もな」 「へえ。さすが製薬会社の社長さん」 「馬鹿にしちゃいけない」 「はい、はい」  響子の前にマティーニが出された。  事前に睡眠薬入りの酒が出されるかもしれないから、と注意はしているが、飲まな ければ物事は進展しない。あえて策略にはまることも肝要だ。  薬が入っている事を承知でマティーニに口をつける響子。  にやりとほくそえむ柿崎。  数分後。 「あら……どうしたのかしら……急に眠気が……」  ぱたりとカウンターに伏してしまう響子。 「うまくいきましたね」  マスターが響子が完全に眠っていることを確認しながら言った。 「ああ、じゃあ、これ」  と言いながら、財布を取り出していくらかの金を渡す柿崎。 「いつも済みませんねえ」  金を受け取りポケットにしまうマスター。  よいしょっとばかりに響子を起こして肩に担ぐ柿崎。  そして店の外へと出て行く。 「あ、響子さんを連れ出しますよ」 「よし! 後を追うぞ。マスターに気づかれないように静かに出るんだ」 「先生。SDカードを忘れちゃだめですよ。証拠物件になるんだから」  ビデオデッキからSDカードを取り出して新しいカードをセットする里美。 「おお、そうだったな。持ってきてくれ」 「はい」  店に出た響子と柿崎。  介抱するような感じで、響子の手を肩で抱えるようして、自分の車の方へと向かう 柿崎。  車のドアを開けて助手席に響子を座らせて、自分は運転席へ。  スカートから覗く響子の膝をひとしきり撫でてから、 「これからいい所へ案内するよ」  と、エンジンを掛けて車を発車させた。  夢見る気分で、後方から私たちがつけてきているのにも気づかないようだ。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月27日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 V

第二十六章 帝国遠征

                 V  通路を歩いているカインズ。  シャイニング基地にある未配属の艦艇のことで頭が一杯になっていた。  至急に赴いて作業を進める必要があった。総督軍がいつ攻め込んでくるかも知れな いからである。 「准将閣下」  パティー・クレイダー大尉が話し掛けてきたが、一瞬自分が呼ばれたのとは気付か なかったカインズであった。議場で自分が准将に任命されたのを思い出して、 「あ、ああ。パティーか……准将になったんだったな」 「寝ぼけないでくださいよ。閣下」 「すまん。まだ、実感がわかないんだ」 「そのうちにいやでもわいてきますよ。とにかく、おめでとうございます。ついにオ ニール准将と並びましたね」 「ありがとう。といってもまだ正式な辞令は出ていないがな」 「いいじゃありませんか。誰が何と言おうと六万隻を動かす准将に間違いないのです からね」 「といっても大半がシャイニング基地に残したままだ」 「そうでした。総督軍に奪われないうちに急行して我が部隊に併合しましょう」 「それにしても、俺のところには略取した艦隊や寄せ集めの部隊しか回ってこない な」 「確かにそうではありますが、逆に考えればそれだけ閣下の人徳や用兵の力量を、提 督が信頼して任せてくれているということです。それをできるのは閣下以外にいない ことをご承知なのです」 「まあ、そう言ってくれるのはありがたいが、現実はあまりにも時間が短すぎるから な」 「はあ……それは致し方ありませんね」 「そうだ。君のことは、今昇級の適正審査にかかっているが、要塞に帰還するころに は、少佐の正式辞令がでるだろう。その時には艦隊参謀として着任してもらいたいの だが」 「ありがとうございます。もちろん喜んでお引き受けいたします」 「よろしくたのむ」  もう一方のゴードンの方も、シェリー・バウマン大尉から昇進を祝福されていた。 「閣下、昇進おめでとうございます」 「おうよ。君もじきに少佐として司令官の仲間入りだな」 「ありがとうございます」  とぺこりと頭を下げる。 「昇進祝いに二人で乾杯するか?」 「ほんとうですかあ! やりましょう。昇進祝い」 「うんじゃあ、ラウンジへ行こうか」 「はい!」  と言って、ゴードンの腕に自分の腕を絡ませて、恋人よろしく仲良く歩き出す二人 だった。 「共和国同盟が崩壊してしまったのは辛いですが、絶対防衛艦隊司令長官のチャール ズ・ニールセン中将が逝っちまったのには、せいせいしますね」 「そうそう。何かにつけて提督を目の敵にして、難癖つけて無理難題ふっかけやがっ てさ」 「でも……逆説的な考えをしますと、ニールセンのおかげで、提督がここまで出世で きたともいえますよね。無理難題を押し付けても、それを難無くかわしてきた提督の 実力あってのことですけど」 「提督を過小評価してあなどっているからこうなるんだ」 「そうですね」 「ところで君は平気なのか?」 「何がですか?」 「祖国に対して弓を引くことに対してだよ」 「水臭いですよ。閣下にずっと付いていくと誓ったじゃないですか。わたしがお仕え しているのは、共和国同盟ではなくて、ゴードン・オニール准将です」 「そうか……ありがとう」 「ともかく、これからの未来に祝杯をあげましょう」 「そうだな。希望溢れる我々の将来に幸あれだな」 「はい!」  司令官室に戻ったアレックスも、パトリシアとこれからのことを話し合っていた。 「ところで、トランターに残してきた第八占領機甲部隊メビウスの件ですが、司令官 レイチェル・ウィング大佐は、提督の意向通りに動いてくれるでしょうか」 「メビウス部隊のことはレイチェルにすべて一任してある。降伏するも徹底交戦する も彼女の判断に任せるしかない。刻々変化する状況に合わせて最良の決断を下すだろ う。それがどうなろうとも、僕は容認するつもりだ。投降し我々の敵に回ろうとも ね」 「実際問題として、敵の直中{ただなか}に置いてきぼりにしてきたのは事実なわけ ですし……。ま、わたし達がとやかくいえる立場ではないですけどね」 「しかし旗艦である機動戦艦ミネルバの艦長があのフランソワだからなあ……」 「あれでも士官学校を首席で卒業してますのよ」 「転属命令を受けた時に、泣いたそうじゃないか」 「ええ。でもお姉さまと慕ってくれるのはいいんですが、提督がおっしゃられたよう に、それではいつまで経っても一人立ちができません。いつかは巣立ちを促して、冷 たく突き放すことも必要だと教えられました」 「……ま、遠き星の空の下から彼女達の無事と幸運を祈るしかない」 「きっとやりとげますわ。レイチェルさんとフランソワならね。でもこのことを、他 のみなさんに秘密にしなければならないなんて、心苦しいですわ」 「しかたがない、極秘任務であり、敵地の只中にいるのだから。情報が漏れては一大 事だ」 「ええ……」
ポチッとよろしく!
11

2018年11月26日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に III 哀れと思う

女性化短編小説集/ある日突然に III

(二)哀れと思う 「実は、もう一体あるんですよ」  組織員が、手際良く遺体を片付けながら言った。 「もう一体?」 「はい」  再び遺体が運ばれて来る。 「なに! この娘は妊娠しているじゃないか」  私は産婦人科医だ。女性の身体の事は知り尽くしている。その腹部の状態と触診で すぐに判った。 「はあ……。何でも、強姦されたあげくの妊娠で、それを悲観しての睡眠薬自殺だそ うです」  人工心肺装置のおかげで、体細胞はまだ生きており温もりもある。いわゆる脳死状 態というところだ。  しかし無表情のまま生気はない。  年の頃十五・六歳くらい。まだ高校生なのだろう。 「なんてことだ……。まだこんなに若くて美しい娘なのに……」  素敵な恋をして結婚して、愛する人の子供を産んで共に育てながら、長い人生を歩 いていくはずなのに……。  人生はこれからじゃないか!  幼さの残る顔立ち、人を信じて疑わない純朴な性格が伺われる。  一体何があって強姦されることになったのか?  しかし遺体は、黙して語らない。  プリベンなど事後避妊剤というものがある。強姦など不本意な性交為を受けた場合 などに、七十二時間以内に最初の二錠を飲み、続いて十二時間後に残りの二錠を飲め ば、九十九パーセントの避妊効果があるというものである。しかし日本では承認され ておらず、輸入するしかないが、事が発生してからでは間に合わない。ましてや強姦 されることを予期して準備している女性がいるはずもない。  日本では性に関することは常にタブー視されており、ピルにしても先進国で唯一承 認されていない国家なのだ。性に関しては後進国日本。  強姦などの性犯罪に対応する為に、事後避妊剤を常備薬として、すべての警察や病 院に置いて欲しいものだ。もちろん事情調査や事実関係……などとやたら調書ばかり 取っていないで、無条件で即投薬できるようにしてもらいたい。そうすれば泣いて苦 しむ女性達を一人でも多く助ける事ができるのだが……。  許さない!  私の胸に憎悪の念が湧きあがってくる。 「君、悪いがこの娘は私に預からせてくれないか」 「そんな事……組織が許しませんよ」 「ああ、確かにそうだ。しかし、脳移植を行う実験体として、この娘を利用する。そ れなら許可されるはずだ」 「脳移植ですか?」 「そうだ。生きた別の人間の脳組織を移植して蘇生させる人体実験をやりたいのだ」  脳移植が実現できれば組織の利益になる。例えば国家元首の脳を組織の一員と入れ 替えれば、その国家を自由に操れるようになるというわけだ。 「生きた脳をどうやって手に入れるつもりですか?」 「それはこちらで都合つけるつもりだ」 「わかりました。組織にはそう伝えておきます。取り敢えず先の検体の分だけ頂いて 帰ります」  そういうと組織員は臓器と検体を引き揚げていった。  改めて娘の遺体を見る。  解剖するには偲びなかった。  この目の前に横たわる娘の死に顔を見つめていると、何故か仇を討たないではいら れなかった。強姦者は世間にいくらでもいる。なのにたった一人の犯人に固執するの かと笑われそうだが、このままでは、この娘の魂は浮かばれずに、永遠に漆黒の闇を さまよい続けるだろう。  娘の魂を救いたいと思った。  とはいっても産婦人科の自分一人では、脳移植手術はとても無理だ。脳神経外科の スペシャリストを呼ぶ必要がある。  組織に属する医師と連絡を取り、脳神経外科医を集めることにする。  脳移植による蘇生手術という人体実験をやるといえば、興味ある医師なら数多く集 まるはずだ。  倫理学に縛られている表の世界では不可能なことでも、裏の世界ならいくらでもで きる。倫理さえなければと二の足を踏んでいた医者も、存分に腕を振るう事ができる。 仮に失敗しても臓器移植に廻してしまえばいいのだから気は楽だ。  さて、手術スタッフは揃った。  後は脳を供給してくれる人物だが、すでに決めている。  もちろん娘に手を掛けた相手の男だ。  罪滅ぼしに娘の蘇生の献体になってもらう。  基本的に脳神経細胞には免疫反応は起きない。脳から分化した眼球の角膜が誰にで も移植できるのもそのためである。  よって移植には何の支障は起きないはずである。  強姦するような奴なら、何らかの犯罪歴があるはずだ。  裏の組織には、警察でさえ知り得ていない犯罪者達のデータがある。  まずはそこから調べていくとしよう。  早速裏組織のデータバンクにアクセスして、犯罪データを調べに掛かる。  犯罪者の中から、被害者に関わっている男を探り当てる。  柿崎直人、二十六歳。 「なるほど……。これまでにも強姦などの性犯罪歴がかなりあるな。しかし検挙には 至っていない……。強姦が親告罪で、現行犯逮捕するか、被害者が告訴しない限りは、 検挙できないというわけか……。相手は若くてきれいな女性ばかり。おそらく何らか の策を巡らして、女性が告訴できない状況にしているのだろう」  主な手口は、繁華街をうろつく中・高校生を言葉巧みにドライブに誘い、人気のな い場所に連れ込んで犯す。被害者は多分この手口に引っ掛かってしまったようだ。  もう一つは、スナックバーなどで睡眠薬入りの酒を飲ませてホテルに連れ込む。 「娘達に協力してもらうか……」
ピルに関することは執筆当時。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月25日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 序章 トランターへ

 機動戦艦ミネルバ(日曜劇場)

序章 トランターへ  発着ベイ。  護送船団が次々と発進している中、指揮艦ニュートリアルのそばに立ち止まってい るパトリシアとフランソワ。 「提督はあなたの才能を高く評価しています。そしてあなたならその期待に答えられ るでしょう。わたしは信じています」  ニュートリアルの艦長が降りて来る。 「大尉殿、まもなく出航の時間です。乗艦してください」 「すみません、今行きます」  艦長に促されて、パトリシアに敬礼して最後の別れを伝えるフランソワ。 「それでは、行ってきます」 「しっかりね」 「はい」  本星トランターへ向かう輸送船団。  第八占領機甲部隊に、フリード・ケイスン中佐が開発生産した、最新型のモビール スーツなどの秘密兵器を届ける任務を帯びていた。  その護衛に当たる護送船団の指揮艦ニュートリアル艦橋。  指揮官席にどっかりと腰を降ろすフランソワ。 「護送船団の発進状況はどうですか」 「護送船団はすでに全艦発進完了して要塞周囲で待機中、本艦からの合図を待ってお ります。本艦はすでに発進準備完了」 「よろしい。直ちに発進してください」 「了解」 「機関出力、出航モードへ」 「係留解除」  係留解除と同時に艦体が僅かに軋んで揺れる。 「解除終了しました」 「機関出力最少。微速前進」 「微速前進します」  ゆっくりと発進開始するニュートリアル。  宇宙空間に出たところで、待機する護送船団の先頭に出るニュートリアル。 「全艦。艦隊リモコンコード、指揮艦ニュートリアルに同調」  パネルスクリーンに投射される艦影マーカーの点滅が次々と点灯に切り替わってい くが、取り残されて点滅のままでいる艦があった。 「八番艦、どうした。リモコンコードが出ていないぞ」  答えるようにその一艦が点灯に変わる。 「よし。全艦発進準備完了した」 「前方オールグリーン。航行に支障なし」  要塞の方をちらと見て、一呼吸おいてから命令を下すフランソワ。 「船団を発進させてください」 「了解。全艦発進」 「機関出力、亜光速航行モードへ」 「ワープ航路の計算終了」 「ワープタイミングをリモコンコードに載せて全艦に発令」 「ワープ、五分前」  要塞発着管制室。  中央コントロールパネルスクリーンに映る艦影を見つめるパトリシア。 「護送船団、発進開始しました」  やがて明滅していた護衛船団のマーカーがすっと消える。 「護送船団。艦隊リモコンコードでワープに突入。異常ありません」 「そう……」  スクリーンの片隅に新たな艦影が現れた。 「第五艦隊第七部隊が、哨戒行動から戻ってきました」 「交替の部隊は?」 「第十一艦隊第十九部隊です。すでに発進配置についています」 「第七部隊から入港申請が出ています」 「先に発進を済ませましょう。第七部隊の収容はそれが完了してからです」 「了解」 「第七部隊はそのまま待機せよ」 「第十九部隊全艦発進」  第十九部隊が発進をはじめる。  てきぱきと指示を出すパトリシアに近づく女性士官があった。 「パトリシア・ウィンザー大佐ですね?」 「そうですけど……」  相手を確認してその士官は踵を合わせて敬礼して申告した。 「マリア・スコーバ中尉です。フランソワ・クレール大尉の後任として、大佐の副官 としての任務を命じられました。今後ともよろしくお願いします」 「そうでしたか、よろしく」 「ランドール提督がお呼びです」 「提督が?」 「はい。ここは私にまかせてください」 「では、後をお願い」 「かしこまりました」  後の処理をまかせてその場を交代して立ち去るパトリシア。  背後ではマリア・スコーバ中尉が、早速管制指揮を執り始めていた。 「マリア・スコーバ中尉である。これよりウィンザー大佐の替わりに指揮を執る。第 十九部隊の出航状況を」 「現在七割がた、発進終了。出航完了まであと十五分」 「遅い! 極力急がせなさい」  マリア・スコーバはフランソワとは正反対の正確で、積極的かつ行動的である。と はいえ、とにもかくにもマニュアル通りに事を進めようとするので、現場の状況を理 解できずに時として他人とよく衝突を起こすことがあった。 「フランソワは一足早くトランターに出立しました」 「そうか。別れは辛いだろうが、これも本人のためだ。それにこの作戦において、機 動戦艦ミネルバの艦長として、最適任者であることもね」 「可愛い子には旅をさせよ、ですか?」 「そうだね。いつまでも君のそばにいては、彼女の能力開発には妨げになる。後のこ とはレイチェルにまかせればいいだろう」 「ところで、マリア・スコーバを遣わしたのは、あなたですね」 「まあな。マニュアルに従って事を進めることは大切だが、それだけではないことを 教えてやってくれないか。現場の状況判断というものも理解させなければ」 「わかりました」 「ところで、絶対防衛圏内に出現した連邦艦隊の動静はどうなっているか?」 「未だに動く気配を見せません。まるで、絶対防衛艦隊が総結集し進撃開始するのを 待っているような感じにも見受けられます」 「待っているのかも知れないな」 「待っている?」 「何にせよ。トランターが陥落するのは時間の問題だ。トランターに向かったフラン ソワやレイチェルには苦労させることになる。遠き空の下、その活躍を祈ろうじゃな いか」 「はい」  序章・別れ 了
ポチッとよろしく!
11

2018年11月24日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の拾玖

陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の拾玖(土曜劇場)

(拾玖)布都御魂剣(ふつみたまのつるぎ)  禁足地の中ほどに来た時、右側の森が薄明るく輝いているのに気が付いた。  まさかかぐや姫か?  という冗談はさておき、近づくにつれて、それは人影のように浮かび上がった。  奈良時代のものと思しき衣装を身にまとっている女性の姿。  どうみても生身の人間ではなかった。  地縛霊か?それとも浮遊霊か?  危害を加えるような存在ではないようだ。 「あなたは?」  蘭子は尋ねてみる。  すると蘭子の意識に直接語り掛けてきた。 「布都……」  か細い声で答える女性。 「物部守屋の妹の布都姫ですか?」 「そうじゃ」  布都姫は、物部守屋の妹であり、蘇我入鹿の妻である鎌足姫の母親という説がある。 「わたしをお呼びになられたのは、あなたですね?」 「布都御魂大神に召されて参った」 「召された?」 「そなたに授けるようにと……」  と、地面を指さした。  女性が指さした地面がほのかに輝いている。 「ここに何かあるのね」  小枝を拾って地面を掘ってみると、古びた鉄の塊が出てきた。  土くれを取り払ってみると、錆びた刀剣だった。 「これを、わたしに?」  女性は答えず、軽く頷くと静かに姿が薄らいでいき、そして消えた。  禁足地から蘭子が出てくる。  一振りの刀剣を携えて。  蘭子の姿を見とめて出迎える井上課長。 「おお、帰ってきたか心配したぞ」  目ざとく蘭子の持つ刀剣に注視する宮司。 「刀剣のようですが、見せていただけませんか?」  断るわけもなく刀剣を手渡しながら、事の詳細を話す蘭子。 「そうでしたか……」  じっと検分していた宮司であるが、 「こ、これは!布都御魂剣(ふつみたまのつるぎ)です」  驚きの声をあげる。 「え?それって御神体として、本殿に奉納されているのでは?」  と、井上課長。 「確かにそうですが……1894年に禁足地を発掘した際に大量の神宝が出土しました。そ の中に伝承の中にある霊剣に相似したものがありました。それをご神体として祀り立て たのですが……。七星剣に表裏があったように、布都御魂も同様ではないかと」 「つまり確証はないけど、たぶん伝承にある布都御魂の二つ目じゃないかということで すか?」 「どちらが本物の布都御魂かどうかは、誰にも分からないでしょう」 「現在ある布都御魂の真偽はともかく、禁足地には布都御魂が埋められたのは確かなこ とですから」  この地では、須佐之男命(素戔嗚尊)が八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治した時に 用いたという神剣、天羽々斬剣(あめのはばきり、あめのははきり)が出土している。  また、建御雷神(たけみかずちのかみ)が葦原中国(あしはらのなかつくに)を平定 した際に用いたといわれる霊剣、布都御魂(ふつのみたま)も、この地に一時埋められ るが再度掘り起こされて、石上神宮の祭神として祀られている。  納得いかないような表情の井上課長であるが、 「で、その刀剣は蘇我入鹿の怨霊に対して効果があるのかね?」 「神から遣わされたものです。信じるしかないでしょう」 「それはそうだが……」 「森宮司にお願いがあります」 「何かね」 「ご説明したとおりに、蘇我入鹿の怨霊退治には、この布都御魂が必要と思われます。 しばらくお貸し願えないでしょうか」 「ああ、もちろんだとも。ご神体のご意向となれば拒否するすべがない」 「ありがとうございます」  石上神宮は物部氏ゆかりの地である。  物部氏は蘇我氏に滅ぼされたという怨念がある。  蘭子が蘇我入鹿を退治したいという願いを訴えたとき、 『ならば儂が適えてやろうじゃないか』  と、祭神の布都御魂大神(ふつのみたまのおおかみ)が降臨し、布都姫を使わせて、 布都御魂を授けてくれたのではないだろうか。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月23日 (金)

性転換倶楽部/ある日突然に III 臓器移植


(二)臓器移植  取り出した臓器だが、骨髄のように、免疫型を完全に一致させなければならないも のがあれば、肝臓・心臓のように、免疫抑制剤を使用すれば多少の型の違いなら可能 なもの。そして移植を希望する待機患者の需要度数によってランク付けされている。  やはり何と言っても肝臓と腎臓が特A級になっている。  近年のストレス社会、大量の科学物質によって肝臓・腎臓は病んでいる。  沈黙の臓器と呼ばれる肝臓は、病気の初期には自覚症状がほとんどなく、気がつい たときには移植を必要とするほどに悪化しているというわけだ。  腎臓は飽食時代にあって、糖尿病が蔓延しやがて腎臓病へと悪化する。現代人のほ とんどが、多少の差はあれど糖尿病や腎臓病の症状を抱えていると言われる。  生体からの移植の技術が進んでいるとはいえ、その絶対数は少なく死体からの臓器 移植に頼っているのが現状だ。  また、命に直接関わらないが、眼球の角膜などは、免疫にかからない唯一の臓器な ので、百パーセントの移植率があるから一番人気となっている。皮膚も、大火傷の患 者が出た時にのみ、感染症対策の一時移植のために採取されることがある。  中には需要がありそうでほとんどない臓器もある。女性の内性器などがそうである。  個人として生きる為には必要不可欠なものではないからだ。  子宮筋腫などによる子宮全摘出を受けた女性からの要望がありそうだが、実情は一 例もない。わずらわしい生理や妊娠から解放されたという安堵感はあるし、移植して もまた再発する可能性もあるから、二度と苦しみたくないという感情もあるからだ。 卵巣にしても便利な女性ホルモン剤があるから、その必要性はまったくない。  一方で男性が行う女性への性転換手術は、人工的な造膣術というものが確立してい るために、免疫型の合った女性の内・外性器を、気長に待って移植しようという者は いない。  女性性器は廃棄される運命にあった。  そこで女性の性器を取り出し、個人の用で再利用しても、組織からは何の咎めも受 けないので、私の道楽として頂戴している。  男性から女性になりたい性同一性障害の患者に移植して、完全な性転換をしてあげ られるというわけだが、適合者をこっちで探し出す必要がある。そのためにゲイバー の主治医になってみたり、女性ホルモンを求めて産婦人科を訪れる男性患者をチェッ クしている。そして見つけ次第に有無を言わさず強制的に手術してしまうということ を行っていた。そうしないとせっかくの臓器を、みすみす賞味期限切れにしてしまう ことになるからだ。  これまでに、この性別再判定手術を執刀した中で、私の会社で働いて貰っている女 性達がいる。  磯部 響子(スタイル抜群のプロポーション)  倉本 里美(美しさにかけては社内一)  渡部由香里(一番の若さと、女性らしさを持っている)  いずれも二十歳台の若く美しき女性達だが、手術されたことを感謝してくれている。  特に由香里は、息子の英二と恋仲で結婚は時間の問題である。過去のことはすべて 私の責任だから、反対するには当たらないし、好き合っていれば何の問題もないだろ う。  そんなわけで、次ぎなる性別再判定手術のために、主要な臓器を取り出した後に、 女性器を取り出しにかかる。 「また、先生のご趣味ですか?」  そばで見学していた組織員が言った。 「ああ、これでまた一人、性別不適合の患者が救われるのだ」 「免疫型が合えばですけどね」 「まあ、そうだ。臓器を壊さずに冷凍保存する技術が確立されれば、もっとたくさん の人間に移植できるのだがね。残念だ」  組織員は性転換手術の実体を知らない。  すべての臓器が摘出されて保存容器に収容された。  手術台には、もはや遺体とも呼べない生物の残骸が横たわっているだけだ。  はじめて臓器摘出をした時には罪悪感に苛まれることもあったが、何十体とも解剖 を続けているうちに感傷に浸る事もなくなっていった。
どのような組織を移植しても拒絶が起きにくい生体部位は免疫特権部位(Immune privil ege site)と定義され、一方どのような部位に移植しても拒絶されない組織は免疫特権 組織(Immune privilege tissue)と定義される。眼の組織のうちで、角膜はその両方を 併せ持つ。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月22日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 IV

第二十六章 帝国遠征

                 IV  ゲリラ戦を引き起こし、総督軍の足元をかき回すということで、みなの意見は統一 されていった。  しかし大事なことが残っていた。  解放軍といえば聞こえがいいが、政府軍に対する反乱軍という位置づけには変わり はない。  国民を総動員して税金という軍資金を調達し、次々と戦艦を建造して投入すること のできる総督軍に比べれば、反乱軍は圧倒的に脆弱である。いくら周辺地域を取りま とめて協力を仰げたとしても限度がある。  強力なパトロンが必要であった。  古代から政府軍や占領軍を転覆させたような反乱軍には、武器や軍資金を供与して 後押ししてくれる国家があった。ナチス政権下のパルチザン組織フランス義勇軍には 連合国が付いていたし、ベトナム戦争や朝鮮動乱に際しては、ソ連や中国といった共 産国が後の北朝鮮を援助し、韓国はアメリカである。いずれにしても背後には強力な 国家があった。もちろんそれには利権とかも絡んでいるのであるが。  アレックスがパトロンとしようとしているのは、もちろん銀河帝国である。 「解放軍が、連邦軍を追い払い民衆を解放するのは第一の目的であるが、それ以前に 内部攪乱を引き起こすことによって、銀河帝国への進攻を一時にでも引き伸ばすこと にある。その間に、銀河帝国と接触を計って解放軍の味方につける必要がある。そう でなければ永遠に解放の時はこないであろう」 「銀河帝国に支援を求めるのですか?」 「銀河帝国が我々の味方についてくれるでしょうか」 「それはやってみなければ何ともいえない。しかし、彼らだって共和国同盟が滅ぼさ れ、連邦の次の目標が自分達の領土であることを身にしみて感じているはずだ」 「感じていなかったら?」 「その時は滅びるだけさ」 「ところで、銀河帝国と接触するとおっしゃいましたが、その重要な任務にあたるの を誰にまかせるかですが……」 「もちろん、その任務は私があたる」 「そんな……提督には要塞に残って全軍を指揮していただかないと」 「その必要はない。今後は要塞の守備とゲリラ戦が主体で、積極的に攻撃に打ってで ることはない。となれば私よりも、ガードナー提督の方がより適任である。ゲリラ部 隊には、ゴードンとカインズにやってもらう。ついてはシャイニング・カラカス・ク リーグ基地には偵察の機能のみ残して、全艦隊を要塞に集結させる」 「基地を見捨てるのですか」 「そういうことになるな。総督軍に対して艦隊数において劣る我々にとって、三基地 を防衛するために兵力を分散させるのは得策ではない。各個撃破されて消耗するのが 関の山だ。或は直接要塞へ全軍で掛かられれば持ちこたえられない」 「奪取されれば、要塞攻略の拠点とされることになりますが」 「それは考慮する必要はない。科学技術部が骨を折ってくれたおかげで、この要塞を 移動させることが可能となった」 「それは本当ですか?」  一同が驚きの声をあげた。  この巨大な要塞を移動させることなど、誰も考え付かないことだった。  もちろんそれを可能にしたのは、フリード・ケイスン中佐であろうことと、彼の天 才を持ってすれば不可能ではないだろうと誰しもが理解した。 「いくら強固な要塞とて、動けなければどうしようもない。一箇所に留まっているの だからな、慌てることもなくじっくりと、いくらでも攻略作戦を練ることができる。 例えば次元誘導ミサイルのような新兵器を敵が開発すれば、たちどころに危機を招く ことになる。何せ次元誘導ミサイルの設計図が同盟軍の軍事コンピューターの中に残 っているのだから」  ジュビロと連絡が取れれば、設計図を抹消することも出来たのであるが、連絡役の レイチェルはここにはいない。またミサイルの予算取りのために各方面に申請書を出 してあるから、あちこちに設計図の記された書類が分散してしまっているはずである。 それらをすべて抹消することも不可能だろう。 「ともかく移動可能となったからには、神出鬼没の機動要塞として、本拠地を察知さ れることなく敵艦隊を攪乱することができるわけだ。ゆえに三基地を固持する必要は ない」 「でもカラカスの軌道衛星砲はもったいない。撤収して要塞周囲に必要に応じて展開 できるようにしてはいかがでしょう」 「それもいいだろう」 「本拠地となるこの要塞の防衛の陣頭指揮はフランク・ガードナー少将にお願いする が、ゲリラ部隊となる特別遊撃艦隊の指揮を、ゴードン・オニール上級大佐にやって もらう。もう一個艦隊として……」  アレックスはゆっくりと議場の将校達をなめるように見回してから、 「ガデラ・カインズ大佐」 「はっ!」  指名されて立ち上がるカインズ。 「シャイニング基地にある未配属のままの三万隻の艦艇を貴官の部隊に併合して、正 式に一個艦隊として編成させることにする。ゴードンと共同してゲリラ作戦の主先鋒 として指揮を取ってくれ」  一部から、感嘆の声が漏れた。或は、「やはりね」と頷いている者もいる。 「わかりました。艦隊の指揮をとります」 「シャイニング基地へ至急赴いて、それらの艦隊を総督軍に奪われる前に、すみやか に回収併合して、基地から撤収させるのだ」 「基地から撤収するのですか」 「そうだ。シャイニング基地は放棄するからな」 「ゲリラ部隊には、攻撃目標となる動かぬ基地は必要ありませんからね」 「なお、この場においてゴードンとカインズ両名を准将として任ずる。同盟がこうい う状況なので、正式辞令は出せないがな」  それを一番喜んだのはパティー・クレイダー大尉だった。  直属の上官が昇進すれば自動的に自分にも昇進の機会が与えられるからである。 「長くなった。今日のところはこれで解散して、また明日に会議を持つことにしよう。 質問などがあればその時にお願いする」  と立ち上がって退室するアレックスだった。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月21日 (水)

性転換倶楽部/ある日突然に III 臓器密売組織

女性化短編小説集「ある日突然に」より III

(一)臓器密売組織  私は、とある製薬会社の社長であり、その傍らで父親の経営する産婦人科病院の臨 時医師も兼ねている。  というのは表の顔。  闇の臓器密売組織の専属医師という身分も隠し持っている。  裏組織では、自殺・殺人と、毎日のようにたくさんの人間が死んでいる。遺体は裏 から闇へと処理されて新聞ざたにはならない。行方不明者の多くが、この中に含まれ ているという。  しかしただ処理されたのではもったいない。世界には臓器移植を望んでいる患者が 数多くいるのだ。ここに闇の臓器売買組織が介入してくる。遺体の中の使える臓器を 取り出し、移植を望んでいる患者の元へと運ばれる手筈となっている。  中国では、死刑囚からの臓器摘出が一般化しているし、法輪功信者や新疆ウイグル 自治区の住民など反共産党的な政治犯が投獄されて臓器摘出の対象者となっている。 もっとも共産党は認めていないが……。  もちろん移植には免疫が関わるので、誰にでもというわけにはいかない。  私は、裏組織と闇臓器密売組織が共同運営している地下施設で、それらの遺体から 移植可能な臓器摘出手術をしているというわけだ。  さて今日も、組織員の手によって、人工心肺装置に繋がれた状態で、遺体が運ばれ て来た。脳死や心臓死に至っていても、人工心肺装置によって血液を通して、酸素と 栄養を供給していれば、臓器はかなりの長時間生きながらえる。 「先生、お願いします」 「おう。今食事中だから、少し待ってくれ。君も一緒に食うか? 賞味期限切れの人 間の肝臓だよ。旨いぞ」 「い、いや。遠慮します」  口を押さえ、今にも吐きそうな表情をしている組織員。 「ははは。冗談だよ、ちゃんとした牛の肉だよ」  臓器は摘出されて冷凍・冷蔵保存されるが、免疫型が合わなければいつまでも移植 されないままとなる。が、やはり鮮度というものが存在し、時間の経過とともに細胞 は破壊・死滅していく。やがて利用不可能になったものを、賞味期限切れと称するわ けである。  食事を終わらせて、遺体の検分に掛かる事にする。 「今日の死因は何かね」  うら若き女性の遺体を検分しながら尋ねる。  臓器を取り出すにも、遺体の死亡原因を知る必要があるからだ。例えば、薬物常用 による衰弱死なら、肝臓や腎臓は使い物にならない。マリファナ常習者なら、肺臓だ。 使い物にならないものを、手間暇掛けて取り出しても無駄だからだ。 「誘拐殺人です。首を絞めて殺したようです。すぐに組織に連絡、死後四十分で搬送 車が急行して、遺体を回収し人工心肺装置を取り付けて一時間というところです」  体内にあるうちは、臓器はある程度生き続けてくれる。 「そうか、なら臓器のほとんどは使えるかな」  裏組織の一つに、身代金誘拐殺人グループがある。身代金を要求した上で、誘拐し た相手を必ず殺して、闇の臓器密売組織に流す。巧くすれば、身代金と臓器密売手数 料の両方が手に入るという算段である。人間の身体を金儲けの手段としか考えていな い極悪非道の連中だ。  そんな連中が持ってくる遺体から臓器を取り出しているこの私も似たようなものだ が。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月20日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 III

第二十五章 帝国遠征

                III  質問が自分の事に言及され、みじろぎもせずにスクリーンを凝視するアレックス。 「……だって言ってますよ」  ゴードンが、親指でスクリーンを指差す格好で口を開く。  言いたいことは良く判っている。  共和国同盟が滅び、守るべき国家の存在が消失した今、もはやタルシエンに固執す る必要はないと言えるだろう。アル・サフリエニ方面軍を解散して要塞を明け渡し、 これまでに戦ってくれた将兵に報いるためにも、郷土への帰還を許すべきではなかろ うか。  通信を終えて、総参謀パトリシア・ウィンザー大佐に指令を出すアレックス。 「パトリシア、全幕僚を会議室に集合させてくれないか。一時間後だ」 「かしこまりました」  ただちに、フランソワに代わって副官となった、マリア・スコーバ中尉によって全 幕僚に伝令が発せられた。  会議室にフランク・ガードナー少将以下の幹部達が勢揃いしている。  アレックスがパトリシアを連れて入室する。 「提督!」 「我々は武装解除されるのでしょうか?」 「要塞を明け渡せとのことですが、本当に承諾するつもりですか」  次々と質問を浴びせかける一同。 「結論だけ言わせてもらうと……」  一同が注目する。 「私は投降もしないし、もちろんこの要塞を明け渡すつもりもない」 「ではこの要塞に籠城して徹底交戦なさるおつもりですか」 「籠城? それは無駄死にするのがおちだ」 「しかし、要塞の主砲があれば……」 「火力を過信してはいけない」 「その通りこの要塞を奪取したのも、不発弾一発だけだったのを忘れたのか」 「それは提督と総参謀長殿の奇襲作戦があったから」 「だが敵から別の手段を仕掛けてこられて、同様にこの要塞が落ちる可能性もあるわ けだ。何せ、敵はこの要塞のすべてを知り尽くしているんだ。我々の知らない侵入経 路や手段がある可能性もあるわけだな」 「では、どうなさるのですか」 「それを答える前に考えてみてくれたまえ。我々が投降して後背の憂慮がなくなった とき、総督軍がどういう行為に出るか?」 「銀河帝国への侵略を開始するでしょうね。もちろん総督軍の再編成が済み、補給の めどが立てばですけど」 「連邦の軍事力に同盟の経済力が加われば、帝国に勝ち目はありませんね」 「帝国は敗れ、銀河は連邦によって統一されることになりますね」 「統一されれば平和がやってくるのでは」 「どうかな……」  とアレックスは低くつぶやいて言葉をつないだ。 「確かに銀河は一時的には統一されるかもしれない。しかし、連邦は元々軍事クーデ ターによって一部将校の手によって帝国から分離独立して起こされた国家だ。銀河が 統一され平和になれば……」  アレックスの言葉尻を受けてゴードンが答えた。 「そうだ。軍部は意味をなさなくなってくる。上層の将校はともかく、昇進の道を閉 ざされた下位の将校に不満が高まるのは明白だ。戦いと名誉の昇進がなければ軍事国 家はやがて崩壊する」 「再びクーデターが起こって分裂するということですね」 「そうだ。連邦が軍事国家である限り、真の平和はありえない。ゆえに連邦にこれ以 上の纂奪を許さないためにも、我々が手をこまねいていてはならないのだ」  場内は静まり返っている。  各自それぞれに思いを巡らしているのだろう。 「故郷へ帰りたいと思う者もいるだろうが、その思いを果たせることなく宙{そら} に散った数え切れない英霊達のためにも、あえてここに踏みとどまり解放軍を組織し て徹底抗戦をしたいと思う。そして銀河帝国への侵略を阻止する足枷になるのだ」 「解放軍ですか?」 「そう。共和国同盟の各地に出没して、ゲリラ戦を引き起こす」 「それ! いいですねえ。ゲリラ戦なら望むところです」  ゴードンはいかにも嬉しそうな表情を見せる。  彼の率いるウィンディーネ艦隊は、高速機動を主眼としており、一撃離脱のゲリラ 戦には最適であろう。 「しかし戦闘を続けるには燃料と弾薬の補給が不可欠です。どうなさるおつもりです か?」 「共和国同盟が崩壊したとはいっても、連邦が全領土を完全に掌握したのではない。 僻地ではいまだに反抗する勢力があるのも事実だ。しかし彼らには動ける艦隊を持ち 合わせていない。そこで我々がそういった勢力を取りまとめ解放軍として旗揚げすれ ば、総督軍と十分にやりあえる」 「食料や資材、燃料・弾薬の補給も受けられますね」 「総督軍には解体された同盟軍将兵も再編成されている。かつての味方同士で骨肉を 争う戦いを強いられることになる。ゲリラ戦なら相手を選んで戦いを仕掛けることも 可能だからな」」
ポチッとよろしく!
11

2018年11月19日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-15

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-15  とある高級レストランでディナーを頂く英二と製薬会社受付嬢三人娘。 「本当は、由香里だけでもいいんだが。他の二人にもぜひ聞いてもらいたくてね」 「なんだやっぱり、本命は由香里だったのね」 「わたし達は付け足しなのね」 「そういうわけではないのだが……」  頭を掻きながら、言い難そうにしている英二。  その表情は専務・重役というものから、恋仲の純情青年に戻っていた。 「実は、これを受け取って欲しいんだ」  と、小さな箱を取り出した。  受け取り開けてみると、 「これは?」 「まあ! 指輪よ」 「素敵ね……。ダイヤモンドよ、これ」 「英二さん……?」  指輪を見つめ、そして英二に視線を移すと、やさしく微笑んでいる。 「どうだろう。この僕と結婚してくれないか?」 「結婚? 冗談はよしていただけませんか。わたしは……」 「昔は、男だったからと言いたいのか」 「はい」 「確かにそうかも知れないが、君は立派な女性に生まれ変わったんだ。何をためらう ことがある。君の身体の事はもちろんのこと、その心の中のある女性的な感情を、僕 が見抜かないわけがないだろう。これでも親父の息子なんだよ。例えば、里美さんを 見ればわかるはずだ」 「里美さん?」  突然名指しされ、きょとんとしている里美。 「里美さんも響子さんも、君と同じように親父の手術を受けている。彼女とはじめて 会った時、どう思った?」 「とてもきれいで女性的な雰囲気が漂っていました」 「そう。誰も、彼女が男だったなんて気づかない。もちろん響子さんもそうだ。身も 心も女性そのものなんだからな。心の中から溢れ出る女性的な感情が、彼女の仕草か ら言葉使いまで、やさしく包容力のある女性を形作っている」 「専務。あまりお誉めにならないでください。恥ずかしいです」  顔を真っ赤にしてうつむいてしまう里美。 「そういうところが、女性的だと言っているんだよ」 「もう……」 「ああいう親父だが、女性的な感情を見抜く洞察力は本物だ。手術を受けたすべての 女性が幸せに暮らしている。そうだろ、響子さん?」 「はい」  恥ずかしがりながらもはっきりとした口調で肯定する響子。 「もちろん君達を、あらゆる面で他の女性達と区別したことはない。当然のことだが、 更衣室やトイレもみな女子用を使ってもらっている」 「専務。変なこと、おっしゃらないでください」  響子があせったように言った。 「じゃあ君は、男子トイレに入れるか?」 「入れるわけないじゃないですか。女子制服着てますのに。それに今はもう女性にな っているんですから」 「いや、違うだろ。女子制服を着ているからじゃなくて、女性の心を持っているから じゃないかな」 「それは……」 「由香里はどうかな。例えば男装したら、男子トイレに入れる?」 「ど、どうかしら。去勢されたあの日以来、もう長い間男子トイレに入ってないし ……」  男装という言葉に、違和感を覚える。もはや女装という言葉は使えない、 「そんなに悩むことではないだろう。少しでも男性の心が残っていたらな」 「そ、それは……」  即答できなかった。仮に男装しても平常心では男子トイレに入れないだろうと思っ た。 「そうなのだよ。三人とも、男子トイレに入るのも躊躇してしまうほど、女性的な感 情を持ち合わせている。男性だった頃からもともと持っていた女性的な感情に、その 後の女性ホルモンの影響と、毎日の女性としての生活していくうちに、より女性的に なってしまったのさ。もはや男性的な感情は消え失せてしまっているんだよ」  確かに女性ホルモンの影響もあるかも知れないが、もっとはるかに女性らしさを意 識させずにおけないものがある。  生理である。  男性には決して理解することのできない、毎月訪れる女性特有の現象。人造性転換 者には絶対にありえない、正真正銘の女性である証。体内に介在して、自分が女であ ることを強烈に意識づけするもの。その日のたびに、男性である感情を一つ残らず流 し去ってしまったのかも知れない。経血と共に。 「さて、話しが長くなってしまったな。由香里、最初の僕の質問に答えてくれない か?」 「あ、あの……」 「ん?」 「あの……。こんなわたしで良かったら」 「よし! 決まったな」  まさか男性から結婚を求められるなんて思いもしなかったことだった。しかも自分 の過去を知り尽くしたうえである。  思わず涙が溢れてきてしようがなかった。  他の二人ももらい泣きしている。  こうしてわたしの第二の人生がはじまった。  一人の女性として会社に勤務し、やがて結婚し子供を産んで育てるという将来が待 っているのだ。 了
ポチッとよろしく!
11

2018年11月18日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 序章 別れの時

 機動戦艦ミネルバ(日曜劇場)

 この物語は本編ストーリーに連なる、第八占領機甲部隊に属するパルチザン組織
メビウスと機動戦艦ミネルバを取り巻く人々の葛藤を描きます。
 トランター本星占領の間際に、機動戦艦ミネルバに転属が決まったフランソワ・ク
レール大尉を中心にして、マック・カーサー中将率いる総督軍との戦いが始まる。
 本編と合わせてお楽しみにください。

 ミネルバとは?
 ※ローマ神話に登場する女神の名前。
  ギリシャのアテナと同一視される最高の女神。知恵と諸学芸をつかさどる女神で
あるが、戦略の女神でもありしばしば英雄たちに戦術を指示した。さらに機織りの神
でもあり、アテナイ市の守護神で、そこのパルテノン神殿は彼女の聖域として知られ
る。長いキトーンを着て、頭には兜をかぶり、胸にはメデューサの頭を飾りとしてつ
けたアイギスを着ている。手には槍、および勝利の女神ニーケをかかえている姿が多
い。知恵を表すふくろうが聖鳥である。


 序章 別れの時  宇宙空間に浮かぶ共和国同盟軍タルシエン要塞。  周辺を取り囲むようして数万隻の艦艇がひしめき合っていた。  百年以上に渡って続く隣国バーナード星系連邦との戦争において、航行不能な銀河 の渦状腕の間隙に掛かる航行可能領域タルシエンの橋を守る防衛拠点となっている。  要塞内には一億数千万人の軍人とその家族などの軍属が暮らし、艦艇を建造・修理 できる造船ドックなどの軍事施設はもとより、人が生きるために必要な水と空気を循 環精製する生命維持環境衛生プラントや食物生産プラントなど、もちろん人々が日常 的に暮らす生活居住区などすべてに渡って行き届いた施設を有していた。いわば小さ くとも都市国家のような様相を呈していた。  この要塞の若き最高司令官がアレックス・ランドール少将である。要塞周辺にある 三つの最前線防衛基地シャイニング、カラカス、クリーグをも含めた、アル・サフリ エニ方面軍司令官でもある。  バーナード星系連邦が建造、タルシエンの橋の片側に設置していたものを、巧妙な る電撃潜入作戦によって要塞システムを乗っ取り、第十七艦隊をもって要塞奪取に成 功した。  要塞司令官オフィス。  司令官椅子に腰掛けたランドールが、とある命令書を配下の総参謀長パトリシア・ ウィンザー大佐に渡していた。 「君の手から、この命令書をフランソワに渡してくれ。事態は急を要している、すみ やかに彼女を説得して、トランターへ向かわせたまえ」 「判りました」  パトリシアは、命令書を受け取ると、敬礼してオフィスを後にした。  ふうっ!  と、思わずため息をつくパトリシア。  かねてより内定していた、フランソワ・クレール大尉の、第八占領機甲部隊旗艦 「ミネルバ」への転属が決定されたのである。  バーナード星系連邦のスティール・メイスン少将率いる八十万隻の侵攻作戦部隊の 絶対防衛圏への出現がその契機となった。  自分を姉のように慕っているフランソワに、この命令書に書かれている通りに、遠 い宇宙の彼方トランター本星へ単身向かわせることは心が痛んだ。 「泣くかしら……」  しかし軍人にとって命令は絶対である。  心を鬼にして伝えなければならなかった。  自分の部屋の前に立つ。  同室のフランソワは非番だから、中にいるはずである。  深呼吸してから中へ入るパトリシア。 「あ、お帰りなさい」  いつもの明るい表情で出迎えるフランソワ。 「お茶でもいれましょうか?」  これから打ち明ける内容には、そぐわない雰囲気だった。  意を決して、言葉を掛けるパトリシア。 「おりいっての話があるわ」 「おりいってのお話しってなんですか」 「単刀直入にいうわ」 「はい」 「あなたには、最終護送船団の指揮官としてトランターに行ってもらい、その後レイ チェル大佐のメビウス部隊に合流してもらいます」 「転属! ……ですか?」 「大尉になったあなたに対する佐官昇進試験の一環と考えてください」 「そんな……あたしは昇進のことよりもお姉さまと一緒にいられる方がいいです」 「これは命令です。あなたも軍人なら従いなさい」 「でも……」 「それに永遠に分かれるわけじゃないんだし、無事試験に合格して少佐に昇進すれば、 作戦参謀として迎える用意があります」 「それ、本当ですね」 「もちろんよ。その時は一緒に提督を盛りたてていきましょう」 「わかりました。先輩の言うこと信じます」 「ありがとう」  といってパトリシアは命令書を取り出して朗読した。 「命令書。フランソワ・クレール大尉。貴官に対して第八占領機甲部隊{メビウス} 所属、機動戦艦ミネルバ艦長としての任務を与える」 「はっ。フランソワ・クレール。メビウス部隊ミネルバ艦長の任務に就きます」 「命令書に署名して、七時間後に出航する護送船団の指揮艦ニュートリアルでトラン ターに向かってください」  命令書を差し出すパトリシア。 「わかりました」  それを受け取って署名して命令書控えを戻すフランソワ。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月17日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の拾捌

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の拾捌(土曜劇場)

(拾捌)禁足地  蘭子が拝礼している間に、井上課長が石上神宮の宮司に事情聴取すべく掛け合ってい た。 「宮司から話が聞けることになったぞ」  というわけで、社務所で宮司の話を聞くことになった。  石上神宮の宮司は、世襲として忌火(いんび)職を務め、物部氏の本宗にあたる森家 が代々勤めている。  現在の宮司は、森正光である。  事件の概要を簡単に説明した後、 「石上直弘という人物をご存知ですか?」  単刀直入に尋ねる井上課長。 「石上直弘……ですか?」 「心当たりありませんか?」 「と言われても……ご存知かと思いますが、物部氏や石上家に連なる家系は、それこそ 数限りなくありますからねえ」 「陰陽師をやっている方とかはご存知ないでしょうか?」  軽く首を振る宮司。  いろいろと突いてみるが、石上直弘のことや関係者のことは知らないようだ。  せっかく来たのだからと、石上神宮の歴史を語り始めた。 物部氏系譜 「誰かが、私を呼んでいます」  つと立ち上がる蘭子。 「どうした?」  突然の行動に不審がる井上課長。 「行かなければ」  憑き物に取りつかれたような表情を見せる蘭子。  尋常ではない蘭子の態度に心配する二人。 「ついていきましょう。何かが起こりそうです」  神官でもある宮司にもその気配を察知したのであろう。  蘭子の後を追う二人。  蘭子は社務所を出て拝殿後方へと回り込んだ。  行く先は「禁足地」と呼ばれるところのようだった。  拝殿後方の、「布留社」と刻字した剣先状の石製瑞垣(みずがき)が取り囲む、東西 44.5m、南北29.5m、面積約1300平方mの地を「禁足地」といい、当神宮の神域の中でも 最も神聖な霊域として畏敬(いけい)されています。  明治以前は南側の半分強(南北約18m、面積約800平方m)だけで、当神宮御鎮座当初 からのものかどうかはあきらかではありませんが、古来当神宮の御神体が鎮まる霊域と して「石上布留高庭(いそのかみふるのたかにわ)」或いは「御本地(ごほんち)」、 「神籬(ひもろぎ)」などと称えられてきました。  石上神宮禁足地入口  両側の石柱に渡してある注連縄(しめなわ)を右手で持ち上げてくぐろうとする蘭子。  注連縄は神域と現世を隔てる結界の役割を持ち、禁足地の印にもなる。  気づいた職員の一人が注意を促した。 「これ、そちらは禁足地です」  しかし蘭子には、注意も聞こえていないようだった。  何かに誘われるように、禁足地に足を踏み入れる蘭子。 「ちょっと!待ちなさい」  後を追ってきた宮司が止めた。 「何者かに憑かれているようだ。様子を見てみよう」  職員を制止する宮司。 「我々は中に入れないのですか」 「だめです。禁足地ですから、ここは蘭子さんに任せましょう」  蘭子が禁足地に入ると同時に、無意識にか千鳥足のような足取りになった。  禹歩(うふ)という鎮魂のための歩行術 「天蓬」「天内」「天衝」「天輔」「天禽」「天心」「天柱」「天任」「天英」  という言葉を唱えながら一歩ずつ踏みしめて歩く。 一、スタート時点で両足をそろえて立つ 二、左足を一歩前に出す。右足を左足より一歩前に出す。左足を引きつけて右足とそろ える。 三、右足を一歩前に出す。左足を右足より一歩前に出す。右足を引きつけて左足とそろ える。 四、左足を一歩前に出す。右足を左足より一歩前に出す。左足を引きつけて右足とそろ える。 以下繰り返し。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月16日 (金)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-14

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-14  その製薬会社は、病院から商店街を抜けた駅前のビル街にそびえ立っていた。  受付けに紹介状を渡して面接を受けに来た事を伝える。  ネームプレートに、『倉本里美』と記された美しい女性が対応した。 「渡部由香里様ですね。お待ちもうしておりました。早速面接会場へご案内いたしま す」  先に立って案内する受付嬢の後に続く。 (きれいな女性ね。さすが、受付嬢だわ) 「由香里!」  背後から、聞き覚えのある声が聞こえた。 「英二さん!」  振り返ると、驚いたような表情で英二がたっていた。  どうして、英二さんがここに?  そう言えば、製薬会社に務めているって言っていたけど……。じゃあ、ここが英二 さんの会社? 「やっぱり、由香里だ」 「専務。お知り合いだったのですか?」  受付嬢が尋ねる。  専務!  うそ、英二さんが専務?  信じられなかった。 「まあね……で、この子が会社に何の用事かな」 「はい。面接です」 「面接……? こんな時期にか」 「はい、そうです」 「おい、ちょっと紹介状を見せてみろ」  受付嬢から紹介状を受け取って、食い入るように見つめている。 「これは親父の紹介状じゃないか! ということは……。由香里さん、そういうこと だったのか」  英二は一人で合点したように言うと、わたしの顔をじっと見つめている。 「専務。面接の時間に遅れます」 「そうだな。里美さん。社長の面接が終わったら、俺のところにも連れてきてくれ。 一緒にな」 「かしこまりました」 「由香里。後でな」 「は、はい」  そして面接も終わり、専務室に案内された。受付嬢の里美も一緒である。  にっこりと微笑んだ英二が、豪華な椅子に腰掛けたまま語りかけてくる。 「僕は、君のすべての事情を知っているから、安心して聞いてくれないか。ともかく、 就職おめでとう」 「あ、ありがとうございます」 「親父に会ってびっくりしただろう?」 「はい。わたしを手術してくださった先生が、まさかこんな大企業の社長だったなん て。そしてあなたが専務ということも」 「あはは、親父の副業が産婦人科医、そして僕はルポライター。似た者親子ってとこ ろかな」  確かにそうかも知れない。この親にしてこの子ありって感じ。 「それにしても、君が連絡を絶った理由は判ったが、こんな大切な事、僕にも相談な り連絡して欲しかったな」 「ごめんなさい。先生が、手術を急いでいたもので、相談する時間が取れなかったん です」  素直に謝る。 「まあ、いいさ。要は、僕のために決断したんだろうからな」  およそ半年が過ぎ去った。  自分と同じように性別再判定手術を受けた、磯部響子や倉本里美と同じ受付に配属 されて、会社案内の任務をそつなくこなす日々が続く。  受付嬢三人娘の一人として社の内外で有名になっていた。  会社の方針で昼休みは、二十四時間体制の海外通商部や警備部を除いて、全社一斉 に休憩時間となり照明も落とされる。  だから受付嬢としても、三人揃って屋上で弁当を広げられるというわけだ。受付係 りは秘書課に属していて、同年代の女性はいないから、三人が集まるのは自然だった。 「どう、身体の方は馴染んできた? 生理は順調にきてる?」  三人の中では一番の古株で、里美に女性らしさのいろはを教えた響子が尋ねてきた。 「ええ。もうすっかり、自分の身体って感じよ。生理も毎月あるわ」 「良かったわね。社長の腕は完璧だから」  三人の中で一番の美人な里美が言った。 「やあ、三人揃って昼食かね」 「専務!」  背後にいつの間にか英二が立っていた。  わたしも他の二人も驚いた。  屋上は、いわば穴場みたいなもので、わたし達三人しか食事場所としていなかった。 ビル内には安価なメニューの社員食堂があるし、外に出ればすぐ繁華街が広がってい る。食事時に上がってくる者はほとんどいない。  あ、そう言えば。英二さんにお昼は屋上で食べてると話したことがあったわ。 「ああ、由香里。これ、弁当箱返しておくよ。おいしかったよ」 「おそまつさまです」  弁当箱を両手で受け取って手提げ袋にしまう。 「へえ……由香里ってば、専務の弁当作ってあげてるんだ」 「いつも外食だっていうから、栄養が偏っちゃいけないと思ったから。それにお弁当 一つ作るのも二つ作るのも、たいして手間は変わらないもの」 「愛妻弁当か……。わたしも誰かに作ってあげたいな」  お弁当箱なら食後に、いつもこちらから取りに行ってるのに、今日に限ってどうし たんだろ……?  何かわけがありそうだった。 「ところで、君達三人共。今夜開いているかい?」 「え? あ、開いてますけど」  わたしが答えると、他の二人も首を縦に振った。 「じゃあ、仕事が引けたら玄関先に出ていてくれないか。車で迎えに来るから」 「わかりました」 「じゃあ、後で」 「ええ」  階段口から階下へ消える英二。 「三人揃ってとは、どういうことかな」 「由香里だけなら、デートなんだろうけど……。由香里、何か心当たりはない?」 「わからないわ」
ポチッとよろしく!
11

2018年11月15日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 II

第二十六章 帝国遠征

                 II  ワープゲートに進入するスティールの旗艦シルバーウィンド。  それを囲むように護衛艦数隻が同行している。  その様子を艦橋から眺めている副官が呟くように言った。 「来るときはあれだけの大艦隊を引き連れていたのに、帰りはやけに寂しい限りです ね」 「連邦でも戦闘に長けた精鋭部隊などは、連邦にいない方が後が楽だからな。致し方 あるまい」 「それに閣下の配下の部隊でもありませんしね。みんな置いてきちゃいましたから、 栄光の同盟侵攻の手柄を他人に譲るのかって不思議がってました」 「言わせておくさ。それもこれも連邦が存続してのことだからな」 「そうですね」 「ワープゲート始動十秒前です」  オペレーターが告げるのを聞いて、自分の席に戻る副官。 「さあ、いよいよだ」  機動要塞「タルシエン」中央管制室。  中央の指揮官席に座りパネルスクリーンを見つめるアレックス。そしてオペレー ター達も神妙な面持ちで眺めている。  その映像は、要塞内はもちろんすべての艦艇の艦内放送に流されていた。  画面一杯にクローズアップされたニュースキャスターが、背後の建物について解説 している。 『こちらは共和国同盟評議会議場です。バーナード星系連邦の戦略陸軍の兵士達によ って占拠され、議員全員が軍部によって強制的に解散させられました。今後は、総督 府の管理指導の下に、再選挙が行われる予定であります。それでは、その総督府にカ メラを切り替えましょう。アイシャさん、お願いします』  カメラが切り替わって、別のニュースキャスターが登場する。 『はーい。アイシャです。総督府から中継します。さて、ご覧下さい。こちらがかつ ての共和国同盟軍統合本部であり、新たに設立された総督府となった建物であります。 これからの政治の中心となる最高の統治機関となります』  カメラが総督府の建物をズームアップする。 『総督府の最高責任者は、戦略陸軍マック・カーサー中将です……』  放映を見ていたジェシカが呟く。  「おかしいですね。トランターはスティール・メイスン少将が陥落させたのに、どう して別人が統治することになったのでしょうかね」 「そうそう。マック・カーサーなんて名前は聞いたことありません」 「戦略陸軍っていうくらいだから、惑星の占領や、占領後の政策を担当する部隊なの だろう。メイスンは宇宙艦隊所属で宇宙空間での戦闘が任務と、宇宙と地上とで分業 になっているのかも知れない」  キャスターの解説は続いている。 『それでは総統府の総督執務室にカメラは切り替わります。二コルさん、お願いしま す』  見慣れたいつもながらのTV報道であった。  普通なら報道管制が敷かれてしかるべきなのに、各報道機関は自由に取材と報道を 許可されているようだった。通行人さえ自由に行き来している姿も映像の中に見受け られる。  戒厳令を執らない、マック・カーサーという人物なりの占領政策の一環なのであろ う。 『二コルです。こちら総督執務室では、マック・カーサー総督の記者会見が、まもな く執り行なわれことになっています』 「記者会見とは、しゃれたことしますね」 「どうやらカーサー提督という人物は、占領した住民との宥和を大切にしているらし い」 「融和政策ですか……」 「銀河帝国のことがあるからよ。銀河帝国に侵略するためには、まずバックボーンと なる地盤を固めておかねば、いざ侵略開始って時に反乱や騒動が起きて、足元を崩さ れたら元も子もない。そうですよね、提督」  ジェシカが代わって解説してくれる。  相変わらず手間をはぶいてくれる御仁だ。 「提督が、第八占領機甲部隊をトランターに残してきた理由がやっと判りましたよ。 メビウスに内乱を起こさせて銀河帝国への侵略を少しでも遅らせようという魂胆だっ たのですね」  リンダが左手のひらを右手拳で叩くようにして合点していた。 「気づくのが遅いわよ」 「だってえ……」 「あ! 総督が出てきました」  パティーの声でみなが一斉に画面に集中する。  そこにはバーナード星系連邦トリスタニア総督マック・カーサーが、入場してきて 着席する場面であった。 『本日をもって、トリスタニア共和国同盟はバーナード星系連邦の支配下に入ったこ とを宣言する』  そして開口一番占領宣言を言い放ったのである。  場内に微かなどよめきがひろがった。  一人の記者が代表質問に立った。 『共和国同盟には、出撃に間に合わなかった絶対防衛艦隊や、周辺守備艦隊を含めて、 残存艦隊がまだ三百万隻ほど残っています。これらの処遇はどうなされるおつもりで すか?』 『残存の旧共和国同盟軍は、新たに編成される総督軍に吸収統合されることになるだ ろう』 『タルシエン要塞にいるランドール提督のことはどうですか? 彼は未だに降伏の意 思表示を表さずに、アル・サフリエニ方面に艦隊を展開させて、交戦状態を続けてい ます』 『むろんランドールとて共和国同盟の一士官に過ぎない。共和国同盟が我々の軍門に 下った以上、速やかに投降して、要塞を明け渡すことを要求するつもりだ。もちろん 総督軍に合流するなら、これまで共和国同盟を守り通したその功績を評価して、十分 な報酬と地位を約束する』
ポチッとよろしく!
11

2018年11月14日 (水)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-13

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-13  そして夕刻。  その医師の執刀による性別再判定手術が無事終了した。  翌朝。麻酔から覚めたベッドサイドに医師が立っていた。 「手術は成功したのですか?」 「もちろんだ。どうだい、新しい身体の感想は?」 「何か変な気持ちです。身体の中に異物が入っている感じです」 「だろう。今まで何もなかった所に新しい臓器が入ったのだからな。たぶんその感覚 は、膀胱に乗りかかるような位置に子宮があるからだよ。子宮の重みで膀胱が圧迫さ れてそんな感覚になる。最初はそれが異物感となるが、いずれ慣れてしまえば感じな くなるよ。例えば女性ホルモンで胸が膨らみはじめたころは、取ってつけたような感 覚があったはずだ。ブラジャーをしててもしっくりとこない。しかし今はどうだろう か、大きく膨らんで邪魔なくらいだろうけど、すっかり馴染んでしまっているはずだ」 「そうですね」 「ともかく、手術したばかりだ。しばらくじっとしていて身体を動かさないでくれ。 特に身体をよじる動作は厳禁だ。そうしないと移植したばかりの内性器が、正常な位 置からずれてしまうかも知れないんだ。子宮を体腔内に固定している靱帯の縫合箇所 が切れたら、また開腹手術しなきゃならん。だいたい二週間くらいすれば、臓器の再 配置が落ち着いて、縫合した箇所も癒える。新しい性器を見たいだろうし触りたいだ ろうが、ぐっと堪えて我慢してくれないか。何かしたいことがあったら何でも看護婦 に言ってくれ。完全看護体制になっている」  それからさらに数週間。  ベッドに釘付け状態の日々が続いた。内臓に負担の掛からないように、起き上がっ たり、身体をよじったりすることを厳禁され、食事も排泄もベッドの上で看護婦の介 護のもとに行われた。汗や垢に汚れた身体は水拭きできれいにしてくれる。 「よく頑張ったね。そろそろ起き上がっても大丈夫だよ」  というわけで、やっとのことで起き上がることを許され、移植した外性器を見せて くれることになった。  ベッドの縁に腰掛けて、看護婦が鏡を持って、股間が良く見えるようにしてくれた。  そこには、かつてぶら下がっていたものは影も形もなくなって、代わってピンク色 の割れ目があった。まさしく性体験のない初々しいものであった。 「傷口はきれいに治っている。しばらくはしっくりとこないかも知れないが、いずれ 馴染んでくるさ。生理もはじまるから、女性になったことを実感できるようになる。 どれ少し説明してあげよう」  というと、その割れ目を指で広げながら各部の説明をはじめた。 「この小さな突起がクリトリスだよ。女性の一番の性感帯だな。そのすぐ下には、ち ょっと判りにくいが、小水の用をたす尿道口が開いている。さらにその下、この孔が、 女性のもっとも女性らしい部分ともいうべき膣だ。男性を受け入れ、その結果である 子供を生み出すところだ。そしてそれらの大切な部分を覆い隠しているのが、この大 陰唇と小陰唇というわけだ」 「これが女性の性器なんですね」  女性の性器など写真や図解でしか見た事がなかった。しかし目の前にあるものは本 物の女性の性器なのだ。それが今、自分の股間についている。 「ああ、そうだよ。君は完全な女性になったんだ」 「ありがとうございました」  さらに数週間が経った。  身体を動かした時の腹部の痛みも失せて、異物感もほとんどなくなっていた。  とうとう退院の日が来たのだ。  そして今、医師の父親が経営する産婦人科病院の前に、医師とマネージャーと共に 立っている。 「先生。ありがとうございました」 「うん。今日からは一人前の女性として、清く正しく生きてくれたまえ」 「はい」 「戸籍変更の手続きはもう少し掛かりそうよ、間違いなく許可されると思います。そ うすれば『渡部由香里』という女性が誕生するわけです」  戸籍関係の法的手続きはマネージャーがやってくれていた。 「お手数掛けました」 「ふむ。それから君の就職先の紹介状だ。この病院と取引のある製薬会社だ。今日、 その足で面接を受けたまえ」  退院に際し、マネージャーが、面接にふさわしいスーツを用意してくれていた。  ぴったりと身体にフィットしたミニのタイトスカートのスーツ。 「わかりました」 「相手も忙しい身でね、今日しか面接できないそうだ」 「もし何かあったら、いつでもわたしのところにいらっしゃい。何でも相談にのって あげますからね」 「はい、ありがとうございます」 「英二はどうしているかな……」  手術のことはまだ話していなかった。  黙っていて、驚かそうと思ったから。  電話しようかなとも思ったけど、まだ仕事中だよね。 「メールならいいかな」  英二さん、お元気してますか?  由香里はやっと退院できました。  また会いましょうね。  では。  メールを送ってすぐだった。  トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル。  いきなり電話が鳴ったのだ。  液晶画面には英二の名前が出ている。 「うそー! まだ仕事中じゃない」  あわててフックボタンを押す。 『メールもらったよ。退院したって本当? いったい今までどうして連絡くれなかっ たんだよ。いったいどんな病気だったの? あの店も辞めちゃったというし、心配し てたんだぞ』  矢継ぎ早に質問を浴びせてくる英二。 「ま、待って。そんなにいっぺんに聞かれても。今度会ったら説明しますから。今、 お仕事中なんでしょ」 『ああ、そうだな。じゃあ、また後で連絡するよ』 「はい。待ってます」  ふう!  思わずため息をついてしまう。  心底から心配している口調が、電話を通して伝わってくるのが嬉しかった。  やっぱり事前に相談すれば良かったかな。でも時間がなかったし……。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月13日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十六章 帝国遠征 I

第二十六章 帝国遠征

                 I  バーナード星系連邦の智将スティール・メイスン少将の策略によって、トランター 本星は陥落し共和国同盟は滅んだ。すぐさまに占領政策が執り行われるその実施部隊 として、マック・カーサー中将率いる戦略陸軍が、トランターの地へと召喚されるこ ととなった。  絶対防衛艦隊を蹴散らして、トランター本星の共和国同盟中央政府を降伏させたと はいえ、地方都市や惑星住民そのものが、降伏を承諾したわけではない。  暫定政府を樹立して、住民を統治し新たなる国家の再建。  そのためにも、その方面の最適任者が戦略陸軍司令長官マック・カーサー中将とい うわけである。  トランターの衛星軌道上、カーサー中将の旗艦ザンジバルにおいて、攻略部隊指揮 官のスティールとの間で引継ぎが行われていた。 「それでは、占領政策の方はおまかせ致します」 「了解した。しかし、なぜにわしを呼んだのだ。おまえぐらいの智将なら占領政策く らいお手のものだろうに」 「私は、敵惑星住民を相手にする占領政策などはやりたくないのですよ。何かと気に 入らないとすぐに暴動を起こすし、パルチザンとなって抵抗の反旗を翻してくる。い つ寝首を欠かれるかも知れない不安定な政治状態が長く続くでしょう。そんな生臭い 占領政策よりも、銀河帝国をどうやって攻略するかを考えたほうが楽しいじゃありま せんか」 「ふふん。恒星ベラケルスを超新星爆発させて、敵艦隊三百万隻をあっという間に壊 滅させたようにか?」 「私は地を這い蹲るよりも、宙{そら}を駆け巡るほうが性分に合っているんです よ」 「おいおい。それはわしに対するあてつけかね」 「ああ、これは失言しました。許してください」 「まあ、いいさ。連邦の次なる目標が、銀河帝国であり全銀河の掌握には違いないか らな。せいぜい頑張って銀河帝国の攻略作戦を考えることだ。期待しているよ」 「ありがとうございます。タルシエン要塞に残るランドール艦隊がまだ残っておりま すので、配下の八十万隻を残しておきます。どうぞお使いください。それでは、これ にて失礼させて頂きます」 「うむ。ご苦労であった」  敬礼をし、退室するスティール・メイスン。  その背中を見送るカーサー。 「ところでメイスンが言っていたランドールのことだが、その後の詳細は判っておる か」  そばに控えている副官に尋ねる。 「まったく音沙汰なしといったところです。何ですかねえ……本国が占領の憂き目に あっているというに、救援を差し向けるでもなし、一向にアル・サフリエニ宙域から 出てこようとさえしません。あまつさえ旧統合軍本部への連絡もよこさないとは」 「何せ要塞だけでも強固なのにその前面には、旧同盟軍最強のシャイニング基地をは じめとして三つの基地が守っているからな。その気になれば新しい国家を興して攻め 込んでくることもありうる。軍部に連絡をよこさないのはそのせいかも知れぬ。すで に奴は同盟軍を見限っている」 「同盟軍上層部からは、これまでに無理難題を押し付けられてきていましたからね。 自分達に命令を下す上層部の存在が消失した以上は好き勝手放題でしょう」 「まあ何にせよ。目の上のタンコブは、早いうちに荒療治してでも消さなければなら ん。メイスンの奴め、一番の難物を残していきやがった」  トランター衛星軌道上に浮かぶステーション。  スティールの乗艦するシルバーウィンドが待機している。 「お帰りなさいませ。出発の準備は完了しています」  乗降口で艦長の出迎えを受けて搭乗するスティール。 「判った。すぐに発進するぞ。ステーションに連絡してワープゲート使用許可を取っ てくれ」 「了解しました」  トランター本星と月との間にあるラグランジュ点に長大ワープを可能とするワープ ゲートが設置されていた。同様のワープゲートは共和国同盟の要所に設置されており、 ゲート間を瞬時に移動することができる。もちろんバーナード星系連邦にも、まった く同じものがあるので、運行システムを調整すれば連邦へのワープも可能だ。 「連邦と同盟を自由に行き来できるようなった今、タルシエンは完全に孤立状態です ね」 「そういうことになるな」 「さすがのランドールもせっかく苦労して攻略した要塞を明け渡すしかないでしょ う」 「そうは簡単にはいかないさ」 「どうしてですか?」 「トランターで訓練中だったランドール配下の第八占領機甲部隊が姿をくらましたと いう。どこへ消えたと思う?」 「はあ……確かに新たに旗艦となった新造機動戦艦ミネルバ共々、行方不明になって いますね」 「惑星占領用のモビールスーツ部隊だが、パルチザンとして暗躍する可能性がある。 そうは思わないかね。そもそもタルシエン要塞攻略で最も占領部隊を必要としていた 時期に、新兵の訓練と称してわざわざ占領機甲部隊をトランターに残したことが、常 識的には理解できないだろう」 「ということは、ランドールはこうなることを前もって予測して、準備していたとお っしゃるのですか?」 「そういうことだ。最初から占領後の反抗勢力として残しておいたくらいだ。降伏す ることなど微塵も考えていないだろう」 「となると相当やっかいでしょうね」 「せいぜい、カーサー中将には頑張ってもらうしかないな」 「それがあるから、占領政策を譲られたのですね」 「忘れたか、私たちにはもう一つの大切な使命があるだろう」 「ああ、そうでしたね。同盟になんか関わっていられませんね」 「と納得したら、急いで帰るとしよう」 「判りました」
ポチッとよろしく!
11

2018年11月12日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-12

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-12  驚いた!  わたしの考えていた性転換手術というものは、人工的な膣や外陰部を作り上げる手 術だ。あくまで見た目や、ある程度のセックスを可能にするだけで、生殖能力のこと は一切考えられていない。  だいたいからして長い間、男として生きてきたのだ。女装や球抜きはしているもの の、子供を産み育てるという思想や概念がまったくなかった。  子供を産むことができるようにはなるかも知れない。しかし、子供を育てるという のは、並み大抵のことではないかと思うのだ。幼児虐待が増えている最近の現状をみ ても、このわたしが子供を育てられるか心配なのだ。果たして母性本能の片鱗でもあ れば……。 「そうだ。完璧な移植手術を施して、子供を産める身体にしてやる。事情が事情なだ けに、手術代はいらん」 「先生の手術の腕前は保証するわよ。実は、私も先生に完全な女性にしてもらったの」 「う、うそ?」 「ほんとよ。移植した内性器はちゃんと機能して、女性特有の毎月の生理は訪れるし、 セックスも愛液がちゃんと分泌されるから潤滑剤なしにスムーズにできるわ。最初の うちはね、性転換した身体という気持ちがあるせいか、精神的にしっくりこなかった んだけど。そのうちに毎月生理がくるようになって、『ああ、本当に女性になったん だな』と確信できたら、自然に女として自覚できるようになったの。男だったという わだかまりは一切なくなったわ」 「そういうわけだ。君も手術すれば、身体的にも精神的にも完全な女性になれるさ。 子供を産む事にも、何のためらいも感じなくなるよ。事実、このマネージャー以外に、 何例も手掛けた性別再判定手術者の中には、結婚して子供を産み幸せに暮らしている 者もいる」 「結婚できるのですか? 女性として?」 「もちろんさ。君は子供を産み育てることに不安を抱いているだろうが、前例をみて もその心配はない。愛情や母性本能は、子供を育てていく過程で自然に生まれ身につ いてくるものなのだ」  医師は、わたしの心の内を見抜いていたようだ。前例があるというのなら少しは安 心する。 「ちゃんとした法の手続きをとって、戸籍の性別や名前を変えてもらえることができ る。昔は、死んだ女性の戸籍を無断拝借することも行っていたけどね」 「どうです。いいお話しでしょ。真の女性になった限りには、このお店も退職しても らいます。ゲイバーにはふさわしくありませんからね。もちろん再就職先も斡旋しま すよ」 「ほんとうですか?」  これまでにも、英二のために性転換手術を受けようかと思った事も何度かあるし、 そのための貯えは十分にある。しかし、ふんぎりがつかないでいた。英二が手術して くれとでも言われれば、していたかも知れないが……。手術しても所詮はまがいもの の身体でしかない。男でもなく女でもない。中途半端な身体。  ところが子供も産める完全な女性にしてくれるという。あまつさえ戸籍まで変更ま で可能だという。  英二と結婚することができる?  夢が正夢になろうとしている。  答えは、一つしかないではないか!  医師の次の言葉が、決断を促した。 「言っておくが、手術を延ばすことはできないからな。手術の準備はすでに整ってい る。後は君に病院に来てもらうだけだ。臓器は生物だ、明日に延ばすことはできない。 今日の日を逃せばもう二度とチャンスはこないだろう」  最後のチャンス……。 「わかりました。お願いします。手術してください」 「うむ。よく言った。私に任せてくれれば、完璧な女性に生まれ変わらせてやる」 「女性として生きるために必要な戸籍などの法的な手続きは任せてね。ちゃんと結婚 できるようにしてあげるわ」 「はい。お願いします」 「今日は店に出なくていいわ。早速入院の準備しましょう。着替えとかもろもろね」 「はい。あ……。でも、英二さんになんて言えばいいのかな」 「そうねえ。二三日すればお店にいらっしゃるだろうから、私の方から説明しておく わ」 「何て?」 「正直に入院したと言うわ。病院名や病名は聞かなかったということでね」 「携帯で連絡してきたら?」 「病院は携帯電話の使用禁止よ」 「あ、そうか。でも公衆電話でなぜ連絡してくれないんだ。といわれそう」 「ベッドから動けなかったからでいいんじゃない。やさしい人なんでしょ。何にして も許してくれるわよ。何たって、彼のために手術を決断したんだから。ね、そうでし ょ?」
ポチッとよろしく!
11

2018年11月11日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十五章 トランター陥落 IX

第二十五章 トランター陥落

                 IX  それは突然に始まった。  スクリーンがすっと消え、照明も落ちてしまった。 「補助の電源に切り替えろ。緊急発電装置始動」 「補助電源に切り替えます」 「緊急発電装置始動」  そして奇妙な現象が起こった。  すべての物体が光り輝きはじめたのだ。  機器や艦の壁面、ありとあらゆるもの、もちろん人間の身体も例外ではなかった。 「ニュートリノバーストがはじまったな」  恒星ベラケルスの中心核で爆縮がはじまったのだ。  発生したニュートリノが光速で中心核から恒星表面へと駆け抜け、宇宙空間へと飛 び散っていく。そして進路にあるすべての物体を貫いていく。付近にある両軍の艦艇 や内部の機器、そして生きている人体も例外にはならない。  その数は一インチ当たり数百億個を超える途方もない数である。しかしニュートリ ノが物体に衝突することは、極めてまれのことである。  元来物質を構成する原子は中心にある原子核と外側を回っている電子とで構成され ているが、原子の大きさとなる最外郭電子の軌道半径にくらべれば、原子核の大きさ は点ほどの極微小でしかない。いわば原子というものはすかすかであるということで ある。通常、荷電素粒子は、この電子が持つマイナスの電荷や、原子核のプラスの電 荷によって弾き飛ばされて、容易に近づけない。  しかし電荷を持たず質量もほとんどないニュートリノはこのすかすかの空間を平気 で通り過ぎていく。  副官が神妙な面持ちで尋ねる。 「大丈夫ですかね。放射線病のような身体に異常は起きないでしょうかね」 「判らないさ。誰も経験したことがないのだから。それに我々の住む母星にしても、 バーナード星からのニュートリノが一平方センチ当たり毎秒六十六億個も通過してい るのだからな」 「毎秒六十六億個? それで平気でいるんですかあ。信じられませんね」 「敵戦艦、推定射程距離に入りました」  計器類が正常に作動していないから、速度と時間の経過で推測して判断しているの であった。 「よし、攻撃開始!」  旗艦シルバーウィンドが砲撃を開始し、それを合図にしていたかのように味方艦が 次々と攻撃開始した。  一方の同盟軍艦隊は、突然の異常事態にパニックになっていた。 「な、なんだこれは?」 「身体が光っているぞ!」 「いったい何が起きてるんだ」  口々に悲鳴を上げ、恐れおののき、完全に自我の崩壊を起こしていた。  持ち場を離れ、まるで夢遊病患者のように艦内を右往左往していた。  指揮官たるニールセンも同様であった。 「こ、これは、敵の新兵器か?」  正常な精神にある者は一人もいなかった。  そんな状態にある時に、スティール率いる連邦軍艦隊の攻撃が開始されたのである。  次々と撃破されていく同盟軍艦隊。  まるで戦いにならなかった。  やがてニュートリノバーストが終了して元に戻り始めた。 「よし、システムを復旧させる。光電子システムに戻し、直ちに現宙域を離脱する。 全艦ワープ準備にかかれ!」  急がねばならなかった。  ニュートリノバーストの次に来るのは、超新星爆発である。  おそらく一時間以内に、それは起きるはずであった。 「システム復旧完了しました」 「ワープ準備完了!」  直ちにワープ体制に入るスティール艦隊。 「ワープ!」  一斉に戦闘宙域から姿を消すスティール艦隊。  同盟軍艦隊はなおも指揮系統を乱したまま当てどもなく浮遊していた。  そして直後に超新星爆発が起こり、同盟軍絶対防衛艦隊三百万隻を飲み込んだ のである。  ニールセン中将率いる絶対防衛艦隊壊滅。  その報が伝えられたのは、それから二時間後であった。  スティール率いる艦隊は、トランター本星に進撃を開始していた。  そしてさらに五時間後、ついにトランター本星は陥落し、共和国同盟は滅んだ。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月10日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の拾漆

 陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の拾漆

(拾漆)石上神宮(いそのかみじんぐう)  騒々しい特捜本部を後にする蘭子と井上課長。  石上直弘については、捜査本部でも未だに詳細が掴めていないようだ。  蘭子と井上課長は、独自に捜査を続けることにした。 「さてと我々は、次にどうするべきかな?」 「そうですねえ、石上神宮へ行きましょう」 「石上神宮?」 「おそらく石上直弘は、物部氏の後裔にあたる石上神社宮司に繋がる血統だと思われま す」 「そうか。では行ってみることにしよう」 石上神宮  というわけで、石上神宮に到着する。  日本書紀に、伊勢神宮と共に記載のある由緒ある古き神社である。  当時の豪族だった物部氏の総氏神であり、拝殿をはじめとして国宝も多い。  境内に入ると”神の使い”ともいわれる人懐っこい鶏がたくさんいる。 「おみくじがありますよ。占ってみましょう」  御神鶏(ごしんけい)みくじ、400円である。  目ざとく見つけた蘭子が早速、おみくじを引いている。  捜査中だというのに、こういうことにちゃっかりとした行動を取るのは、やはりまだ まだ高校生盛りというところである。  石上神宮おみくじ 第十八番 大吉  ・運勢 思う事思うがままに為し遂げて思う事なき家の内かな    目上の人の思いがけぬ引き立てありて心のままに謳い、    家内睦まじく暮らせる大吉の運なり。色を慎み身を正して    目上の人を敬い目下の人を慈しめばますます運開く。  ・神道訓話 敬神の前途に光明あり。神様の御蔭は拝めば知れる、   甘い酸いは食べて知る。    橙の酸っぱさ、柿の甘さも食べて初めて真の味がよくわかる。    神様の有難さも拝んだ者でなければわからぬ。    温かい神様の御蔭を受けたければ心正してまず拝め。  そして、願望・待人・仕事・学業などなどの運勢が記されている。 「やったあ!大吉よ」 「これじゃあ、捜査に来たのか、観光に来たのか……」 「意外とこれ、当たるんですよ」  さらに拝殿の前で拝礼する蘭子。  土御門神社の巫女でもある彼女には、一応の礼儀を尽くすのが自然だろう。  二拝、二拍手、一拝が一般的な礼儀作法である。  拝とは、お尻を後ろに引くような感じで腰を90度に折り、この際手は膝の上のあた りに置く。  続いて、二回拍手で、手の高さは胸の高さ。  拍手を打つ意味は、自分が素手であること、何の下心もないことを神様に証明するた め。身元、祈願内容などを心の中で神さまに述べ、拝礼の間は心を込めて神さまに感謝 しながら祈念する  終わったら手をおろし最後の一拝。深くお辞儀をして終了。
 さて、神社では当然、神にお願い事をすることがあるだろう。  神社で祈るとき、合掌しながら心の中で何を言えばいいか。正しい祈り方をご紹介し ます。  まずは住所・氏名を伝えます。  はじめにあなたが誰なのかを伝えます。この「個人」の特定は神さまにとって重要で す。せっかく家族の健康を祈っても誰の家族かわかりませんよね?  あなたが誰なのか住所と氏名を神さまに伝えてください。名乗るのは礼儀でもありま す。  参拝できたことへの感謝を伝え、願いを一つお伝えします。 「参拝させていただき、ありがとうございます」など感謝を伝えましょう。  その後に願い事を使えますが、あれこれ伝えるのではなく、お願いごとはひとつだけ にしてください。  祝詞とよばれる神道の祈の言葉を唱えます。 「はらいたまえ きよめたまえ かむながら まもりたまえ さきわえたまえ」 意味は「罪、穢(けがれ)をとりのぞいてください。神さま、どうぞお守りお導きくだ さい」です。「はらいたまえ きよめたまえ」だけでも大丈夫です。
 今の蘭子の祈ることは一つ。 「大阪市阿倍野区阿倍野元町1-◯番地」の逢坂蘭子です。参拝させていただき、感謝申 し上げます。最近世間を騒がす、怨霊使いを発見、無事に退治できますように。はらい たまえ きよめたまえ かむながら まもりたまえ さきわえたまえ」  とにもかくにも、昨夜に呪詛を仕掛けてきた外法者退治しかない。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月 9日 (金)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-11

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-11  二年ほどの年月が過ぎた。  以前のアパート家賃、消費者ローンなど、借金のすべてを完済していた。  従業員寮を出て、アパート暮らしを始めていた。  表札には渡部由香里という名前が記されている。マネージャーが保証人になってく れて、由香里という名前を付けてくれた。「ひとみ」はあくまで店で使う源氏名だ。  女性としての生活にも慣れて、近所の人々はまさか男性とは気づくはずもなく、お だやかな日々が過ぎていく。  黒沢英二とのデートも回数を重ねていた。  普通の恋人達のように、普通のデートコースを選んでの日々が過ぎていく。  いつしか彼の事を「英二さん」と呼び、彼も「由香里」と呼び会う仲になっていた。  明らかに黒沢英二を好きになっていた。  自分でも信じられないが、純然たる事実だ。  それにしても、どうしてこんな事になってしまったのだろう。  去勢されて女性ホルモンを投与し続けたから?  いや。それだけで簡単に男性を好きになるはずがない。  もっと大きな要素があるのではないか。  マネージャーの話しから、店の主治医が言ったという、 「この子は、女として生きるのがもっともふさわしい」  という言葉が思い出された。  さらには英二の言葉もある。 「しかしピアノのお稽古とは……もしかしたらお母さん、君の性格を見抜いていたの かもな」 「小さい頃からピアノを習わせるくらい、おとなしくてやさしい性格じゃなかったの かな。やんちゃ坊主だったら、とても無理なことだからね」  高校時代にも女装されたりはしたが、ちっとも嫌がっていなかったような気がする。 却って女装を楽しんでいたように思う。  去勢された時も、結局流されるままに今日までに至っている。  何事にも従順で、物事を素直に受け止めてしまう女性的な性格。  本当の女性になりたいと思った。  人工的な造膣術を施しただけの、偽者ではない真の女性にである。  そうでなければ英二だって納得しないだろうと思う。 「目が覚めたら女の子になってたなんて、漫画とかでは良くあるんだけどな……」  そんなことありえないとは思いつつも、夢見る毎日であった。  そんなある日。 「ひろみさん。ちょっと来てください」  マネージャーに呼ばれて事務室を訪れると、見知らぬ恰幅の良い中年男性が立って いた。 「紹介するわ。こちらの男性は、とある製薬会社の社長さんで、医師の資格も持って らっしゃいます」 「医師?」  まさかという嫌な予感がした。 「気がつかれたと思いますが、あなたの手術をしたのが、この方なのです」 「あなたが?」  やはりと思った。 「今日はあなたに素敵なお話しをお持ちしたのです」 「素敵な話し?」 「あなた、本当の女性になりたいと思ったことはありませんか?」 「本当の女性ですか……。ありますよ。今の姿は見せかけのものです。どんなにきれ いに着飾っても所詮は、男でもなく女でもない中途半端な姿ですからね」 「先生は、性別再判定手術の権威なのです。あなた次第で、手術をしても良いとおっ しゃってます」 「手術! 性転換手術ですか?」 「その通りです」  主治医が口を開いた。 「私がやる性別再判定手術は、陰茎を取り去った皮を使って人口の膣を形成するとい う普通の性転換手術とは違う。本物の女性の内外性器、子宮や膣そして卵巣や外陰部 などのすべてを移植して、男性との性交はもちろんのこと、妊娠し出産することので きる、真の女性に性転換する手術だ。中途半端は嫌いだからな」 「移植?」 「もちろん臓器を移植するには、拒絶反応の問題があるから、誰でも簡単にできると いうわけにはいかない。免疫型の一致したもの同士でしか移植は成功しないからだ。 君の睾丸摘出の際にも、免疫型を調べて移植できる臓器があれば、同時に性転換手術 までするつもりだったのだ。が、残念ながら適合する臓器はなかった。取り敢えず睾 丸摘出だけに留めて、適合する臓器が見つかるのを、今日までずっと待っていたのだ」 「じゃあ、見つかったのですか?」 「その通り。君が望みさえすれば、明日にでも完全な女性の身体になれるということ だ」 「しかし臓器が見つかったって言いましたが、臓器移植ネットでもあるのですか?」 「ふふ……これは組織に関わることなので、くわしくは言えないが、まあいいだろう。 少し教えてあげよう。闇の臓器密売組織というものがあるんだ」 「臓器密売?」 「裏組織では、毎日のようにたくさんの人間が死んでいる。自殺、殺人……遺体は裏 から闇へと、新聞ざたにならないように処理されている。もちろん臓器は摘出されて、 臓器移植を望んでいる患者の元へ運ばれているというわけだよ」 「ひどい……じゃあ、わたしに移植されるというのも」 「誘拐殺人でこの世を去った十八歳の女性のものだよ。なんとバージンだよ。ものは 考えようだよ。死んだ人間は生き返らない。しかし臓器は他人を生かす役に立つのな ら、死しても生きるというものじゃないのかな。特に今回のように女性の内性器を移 植する場合は、その女性の子供を産み育てることができるというわけだ。その女性も 浮かばれるというものじゃないか。どうかな、若くして逝ったその女性の為に、子供 を産んであげようとは思わないか」 「子供をですか?」
ポチッとよろしく!
11

2018年11月 8日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十五章 トランター陥落 VIII

第二十五章 トランター陥落

                VIII  ベラケルス恒星系。  ニールセン中将率いる同盟軍絶対防衛艦隊三百万隻と、スティール・メイスン少将 率いる連邦軍侵攻艦隊八十万隻。  両軍が恒星ベラケルスを挟むような位置関係で対峙するように接近しつつあった。  連邦軍旗艦「シルバーウィンド」の艦橋。 「同盟軍との接触推定時刻、1705時です」  スティールは指揮官席に腰掛けたまま、副官の持ってきたお茶をのんびりと飲んで いた。  まもなく戦闘だというのに余裕綽々の表情である。今回の作戦に対する自信のほど が窺える一面だった。  そんな指揮官の姿を見るに着け、配下の将兵達もすっかり信用し安心している。 「よし! そろそろいいだろう。輸送艦ハイドリパークに打電。当初予定通りに自動 プログラムに任せてワープをセットし、乗員は速やかに退艦せよ」  正面スクリーンには輸送艦ハイドリパークが映し出されている。その艦内には小ブ ラックホールが納められている。  やがて退艦する乗員達の舟艇が繰り出して、近くの同僚艦に拾われていく。 「ハイドリパークの乗員、退艦終了しました」 「自動ワープ開始まで三分です」 「うん……」  飲んでいたカップを副官に返しながら、 「全艦に戦闘配備命令を出せ。それと全艦放送の手配だ」  と戦闘指示を下す。 「全艦、戦闘配備」  すぐさまに指示命令が伝達されて、臨戦態勢が整っていく。 「自動ワープまで二分」 「戦闘配備完了しました」 「全艦放送OKです」 「判った」  というと、スティールはこれから繰り広げられる戦闘に際しての訓示をはじめた。 「全将兵の諸君。これより開始される戦闘は、経験したことのない前代未聞のものと なるであろう。何が起きても慌てず騒がず、与えられた作戦通りに任務を遂行してく れたまえ。戦闘がはじまれば一切の通信も連絡もできない状態になるはずだ。もはや 指揮官の采配は届くことはない。君たちひとりひとりが指揮官となり、自分の判断で 的確に行動してくれ。勝つも負けるも君たちの腕次第だ。生きて再び故郷の大地を踏 みしめたかったら、持てるすべての力を振り絞って戦ってくれたまえ。迫り来る敵艦 を各個撃破し、この戦いを勝利へと導くのだ。そして敵艦隊を壊滅し、勇躍敵の母星 トランターに迫ってこれを占領、共和国同盟をこの手に入れるのだ。以上だ、諸君達 の奮戦を期待する」  身を震わせるような熱い熱弁だった。  放送を聴いた全将兵が、目前の敵艦隊に対するだけでなく、共和国同盟そのものに も言及する指揮官の言葉に喚起した。 「自動ワープ開始。三十秒前です」 「よし、光電子システムをすべて停止し、補助の運営システムに切り替えだ」  光電子システムは、光通信を軸とした光ファイバー網が巡らされ、中央処理システ ムを十六進光コンピューターが担っていた。一方の補助の運営システムは電流による 通信と、電気信号の強弱やオンとオフとで計算を行う二進法の制御コンピュータによ っていた。  光は真空中ではいわゆる光速で移動するが、物質中ではその屈折率によって速度が 制限される。これを利用して、複数の誘電体を光の波長程度の周期で交互に積層させ た構造体を持つ結晶として、フォトニック結晶というものが開発された。その構造次 第によって光の伝播速度を極端に遅くしたり、光が同じ軌道を周回し続ける無限回路 も可能である。光の伝播速度を変え自由自在に曲げ、光の回折や干渉といった現象を も利用して開発された量子コンピューターを、そのシステムの中心に置いたものが光 電子システムである。  つまり一度に膨大なデータを送り超高速で処理できる光を主体としたシステムに対 して、電流によるシステムはデータ量も処理速度も一万分の一にも満たないお粗末な 代物だった。ゆえに戦闘に際しては自動システムは一切使えず、ミサイルや魚雷発射 はすべて人間の目で計測してデータを入力して発射する。実際にはそんな暇はないか ら、すべて感に頼る当てずっぽうとなる。スティールが艦内放送で言った通りのこと が再現されるということだ。 「補助システムに切り替え完了しました」 「自動ワープ開始、十秒前。……5・4・3・2・1。ワープします」  スクリーンに映っていた輸送艦ハイドリパークがワープし、艦影が消え去った。 「ちゃんとワープアウトしたかどうかを確認できないのが残念だな」 「いずれ判りますよ」 「よし、全艦進路そのままで敵艦に向かえ。これが最後の通信だ」 「了解。全艦、進路そのままで敵艦に向かえ」
ポチッとよろしく!
11

2018年11月 7日 (水)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-10

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-10  喧騒な店内を、ピアノの音が静かに流れている。  何を隠そう、弾いているのは、このわたし。  ある日の事、とある客が店に置いてあったピアノを弾きはじめた。  猫ふんじゃった、という曲である。  最初の数小節なら、誰でも一度くらいは弾いたことがあるかも知れない。 「お上手ですよ」  弾き終えた後で、軽く手を叩きながら誉め言葉を言う。 「おせじは結構だ。お、そうだ。君、弾いてみろ」  ということで弾かされるはめになってしまった。  自慢じゃないが、これでも高校時代は音楽部ではピアノ担当だったのだ。腕前は、 かなりのものがある。  客のご所望とあれば弾くしかない。  深呼吸してから、ピアノを弾きはじめる。  ピアノソナタ「月光」の曲である。  店の中にいたものが、一斉に振り向く。  おお!  皆は一様に、こんな場所で、ピアノ鑑賞ができるなどとは、思いもしなかったとい う表情をしている。  演奏を終えると、店内に拍手喝采が湧きあがった。 「ピアノ、お上手だったわよ。ひろみさん。あなたにこんな特技があったなんて知ら なかったわ」 「せっかくの腕前が惜しいわね……。そうだわ、指名がない時は、ピアノを弾いても らいましょう。ピアノの生演奏ありのニューハーフ・バーというのも新しい宣伝文句 に使えそうよ。どうかしら」  ありがたい申し出であった。  ピアノを弾いていれば客接待しないで済む。酒を飲むこともなく肝臓を休めさせら れるというものである。 「はい。こんな腕前で良ければ、いいですよ」 「決まりね」  というわけで、その日からピアノの生演奏がはじまったのである。  数日後。  黒沢がピアノの縁に片肘ついて、グラスを傾けながら、ピアノの演奏に耳を傾けて いる。丁度弾いている時に来店してきて、わたしを指名した後に、そのままピアノの そばに寄ってきたのである。  弾き終わるののを待ってから、言葉をかけてくる。 「へえ。君がピアノを弾けるとは、ますますもって惚れ込んじゃいそうだよ」  といいつつ、グラスを差し出す。 「ありがとう」  とそれを受け取って一息に飲み干す。 「ああ! おいしい。丁度喉が乾いてたの」 「いい、飲みっぷりだよ」 「お席の方に移動しますか?」 「いや。もうしばらくここで君の演奏を聞きたいな」 「それでは……」  次の曲を弾きはじめる。  目を閉じ、うっとりとした表情で聞き入っている。 「クラシックがお好きなんですか?」  曲を弾きながら尋ねてみる。 「好きというほどでもないけど、それなりに聞いているよ。君こそ、ピアノを弾き慣 れているみたいだけど、何歳頃から弾いているの?」 「はじめたのは三歳頃からです。情操教育とかで、母に連れられて稽古事に通ってい たようです」 「しかしピアノのお稽古とは……もしかしたらお母さん、君の性格を見抜いていたの かもな」 「性格?」 「小さい頃からピアノを習わせるくらい、おとなしくてやさしい性格じゃなかったの かな。やんちゃ坊主だったら、とても無理なことだからね」 「またあ、黒沢さんたら、すぐそんな事言うんだから」 「そうやって頬を赤くするところが、また可愛いんだよな」 「もう……」  会う度に、可愛いとか女性らしいとか言われ続けている。しかし少しも嫌味なとこ ろがなく、紳士的に接してくれている。 (どうしてかな、黒沢さんといると、なぜか自然に女らしく振る舞っている。女らし いなんて言われると、嬉しくて涙が出ちゃいそう)
ポチッとよろしく!
11

2018年11月 6日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十五章 トランター陥落 VII

第二十五章 トランター陥落

                 VII  そのニールセン中将は怒り狂っていた。 「一体これはどうしたことだ! 絶対防衛圏内だぞ。ランドールは何をしていたの だ」 「閣下。敵艦隊はタルシエンからやってきたのではありません。大河をハイパーワー プしてきたのです」 「ハイパーワープだと! そんな馬鹿なことがあるか。燃料はどうしたんだ? ハイ パーワープは燃料を馬鹿食いする。撤退のことを考えれば余分の燃料などあるはずが ないじゃないか。あり得ん!」 「ハンニバルの時のように、現地調達するつもりでは?」 「一個艦隊程度ならともかく、あれだけの数を補給できるほどの補給基地は、あちら 方面にはないぞ。そのまえに絶対防衛艦隊が到着して交戦となる。燃料不足でどうや って戦うというのだ」 「はあ……。まったく理解できません」 「それより出撃準備はまだ完了しないのか?」 「はあ、なにぶん突然のこととて連絡の取れない司令官が多く。かつまた乗組員すら も集合がおぼつかない有様で」 「何のための絶対防衛艦隊なのだ。絶対防衛圏内に敵艦隊を踏み入れさせないための 軍隊じゃないのか?」 「はあ……。これまでは侵略となれば、タルシエンからと決まっていました。ゆえに、 まず第二軍団が迎撃し、万が一突破された際には周辺守備艦隊の第五軍団が動き、そ の時点ではじめて絶対防衛艦隊に待機命令が出されるという三段構えの防衛構想でし た。それがいきなり第二・第五軍団の守備範囲を超えて絶対防衛権内に侵入してきた のです」 「つまり……第二軍団が突破されない限り、防衛艦隊の将兵達は後方でのほほんと遊 びまわっているというわけだな」 「言い方を変えればそうなりますかね」 「こうなったら致し方ない。TV報道でも何でも良い。敵艦隊が侵略していることを 報道して、全将兵にすみやかに艦隊に復帰するように伝えろ」 「そ、そんなことしたら一般市民がパニックに陥ります」 「敵艦隊は目前にまで迫っているのだぞ。侵略されてしまったら、何もかも終わりだ。 遊びまわっている艦隊勤務の将兵達を集めるにはそれしかないじゃないか」  スティール率いる艦隊。  ブースター役の後方戦艦との切り離し作業が続いている。 「作業は、ほぼ八割がた終了したというところです」 「慌てることはない。どうせ同盟軍側も大混乱していてすぐには迎撃に出てこれない だろうさ。絶対防衛艦隊の陣営が整うまでゆっくり待つとしよう。ハイパーワープの 影響で緊張したり眠れなかった者もいるはずだ。今のうちに休ませておくことだ」 「相手の陣営が整うまで待ってやるなんて聞いたことがないですね」 「有象無象の奴らとはいえ数が数だからな、いちいち相手にしていたら燃料弾薬がい くらあっても足りなくなる」 「すべては決戦場で一気に形を付けるというわけですね」 「そう……。すべては決戦場。ベラケルス恒星系がやつらの墓場だ」  タルシエン要塞。  士官用の喫茶室にアレックスと参謀達が集っていた。  いわゆるお茶を飲みながらの作戦会議といったところである。  連邦が現れたのは絶対防衛圏内だから、自分らにはお呼びは掛からないし、ここか らではどうしようもないからである。 「絶対防衛艦隊および連邦軍艦隊が動き出しました」  パトリシアが新たなニュースを持って入ってきた。 「やっと動いたか」 「同盟軍の艦隊は総勢三百万隻。対する連邦軍は八十万隻です」 「しかし同盟軍はともかく連邦軍が一時進軍を停止していたのは何故でしょうか?  まるで同盟軍が動き出すまで待っていたふしが見られます」  ジェシカが質問の声を挙げた。 「待っていたんだよ。同盟軍が集結し一団となって迎撃に向かって来るのをね。どう やら連邦は、スティール・メイスンというべきかな……、同盟軍を一気に壊滅させる つもりのようだ」 「両艦隊の遭遇推定位置、ベラケルス恒星系と思われます」 「ベラケルスか……。赤色超巨星だな。この戦い、ベラケルスに先に着いたほうが勝 つ」 「どういうことですか。敵は八十万隻にたいして我が方は四倍近い三百万隻ですよ」 「艦船の数は関係ない。我が軍が一億、一兆隻の艦隊で向かったとしても、先にベラ ケルスに到着したたった一隻の敵艦によって壊滅させられることだって可能だよ」 「馬鹿な」 「提督……まさか、あの作戦を」  パトリシアが気づいたようだ。  何かにつけてアレックスと共に、机上の戦術プランを練り上げてきたので、該当す る作戦プランがあるのを思い出したのだ。 「その、まさかさ。どうやら、敵将も考え付いたようだ。進撃コースをわざわざ遠回 りとなる、ベラケルスを経由しているところをみるとな」 「はい。同盟が全速で向かっているのにたいし、連邦は丁度恒星ベラケルスに十分差 で先に到着できるように艦隊速度を加減している節がみられます」 「どういうことですか。私にもわけを話してください」  ジェシカが再び質問する。  疑問が生じればすぐに解決しようとする性格だからだ。 「恒星ベラケルスは、いつ超新星爆発を起こすかどうかという赤色超巨星だ。中心部 では重力を支えきれなくなって、すでに重力崩壊がはじまっている。そこへブラック ホール爆弾をぶち込んでやればどうなると思う?」 「あ……」  一同が息を呑んだ。  ゴードンが一番に答える。 「そうか! 超巨星は急速な爆縮と同時に超新星爆発を起こして、近くにいた艦隊は 全滅するってことですね」 「でも条件は両軍とも同じではないですか」 「いや、違うな。超爆といっても巨大な恒星だ。中心部で重力崩壊が起こって衝撃波 が発生する。その衝撃波が外縁部に伝わり超新星爆発となるまでには時間がかかる。 超新星爆発という現象は、中心核で起こった重力崩壊の衝撃波が恒星表面に達しては じめて大爆発を引き起こすのだ。通常の超新星爆発は、重力崩壊が始まって数千年か ら数万年かかると言われている。だがブラックホール爆弾を使って爆縮を起こせばす ぐに始まる」 「へえ、そうなんですか? 知りませんでした。さすが宇宙って、人間の尺度で測り きれない物差しを持っているんですね」 「それじゃあ、意味がないじゃないですか。中心核で爆縮が起こっていても、見た目 何も起こっていないということでしょう?」  フランソワが尋ねる。 「違うな。確かに見た目は変わらないように見える。だが、ニュートリノだけは恒星 中心から光速に近い速度で伝わってゆくので、数秒後にニュートリノバーストが艦隊 を襲うことになる。ニュートリノに襲われた艦隊がどうなるかわかるか?」 「ニュートリノってのは、ものすごい透過力を持っていて、どんな物質でも突き抜け てしまうんですよね。それでも非常にごくまれに、原子核と衝突して光を発生するっ てのは知ってます」 「正確には原子核をニュートリノが叩いた時に発生する光速の陽電子が水中を通過す るときにチェレンフ光として輝くのだよ。艦には光コンピューターをはじめとして、 光電子管やら光ファイバー網があって、チェレンコフ光によってそれらがすべて一時 使用不能になるってこと」 「でも水中ではありませんよ。人体なら輝くでしょうけど」 「だがチェレンコフ光として観測されているのは実験室内だけだ。これが恒星のすぐ そばで桁違いの数のニュートリノが通過すればどうなるか判らないだろう。それにど んな物質にも水分が含まれているしな」 「まあ、ともかく艦の制御が出来ない空白の時間が発生するということですよね… …」 「制御が出来なくても、艦は慣性で進行方向にそのまま進んでいく。その時、ベラケ ルスから遠ざかる位置にある艦隊と、近づきつつある艦隊では?」 「ああ!」 「ニュートリノバーストが止んだ時には、すでに艦隊はすれ違っていて、相対位置が 逆転している。やがて超爆が起こった時に、連邦は当然ワープ体制に入っているだろ うから、即座にワープして逃げることが出来るのにたいして、同盟はターンして恒星 を待避しつつワープ準備をしてからでないとワープに入れない。おそらく超爆には間 に合わないだろう」
ポチッとよろしく!
11

2018年11月 5日 (月)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-9

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-9  一旦デパートを出て、すぐ近くの喫茶店に入る。 「視察だとおっしゃってましたが、よろしかったのですか?」 「僕が視察に同行したのは、このデパートの上層部に挨拶に伺うためで、その用事は もう済んだから、後のことは部下に任せていればいいんだ」 「へえ……結構地位のあるお方だったのですね」  視察というからには、相当の地位にある事が推測できた。少なくとも部長クラスで はないだろうか。連れていた部下は、四十代くらいで課長クラスのようだ。最近の会 社は年功序列から能力主義に変わってきているので、二十四歳の黒沢が上司となり、 四・五十代の課長連中を部下に持つ事も不思議ではない。 「ま、まあね……そんなわけで、昼間は会社務め、夜はルポライターに変身するとい うわけさ」 「そんな生活してて、お休みになる時間はあるのですか?」 「うーん。それが悩みの種なんだよな。ついつい昼間に居眠りしてしまうことがある」 「それじゃあ、本末転倒じゃないですか。本業は大切にしなくちゃ、首になっちゃい ますよ」 「ははは、首か……。いっそのこと首になったほうが、いいかもな。文章書きに専念 できるというものさ」 「でも、羨ましいですわ。打ち込めるものがある方って。わたしなんか、ただ生きて いるためだけに働いているって感じですから」 「そうかな。僕は、逆に君の事感心して見ているんだよ」 「どういう具合にですか」 「うん。こんなこと君に言っては失礼かと思うけど、あえて言わせてもらうよ」 「……?」 「こうして君と会って話していると、本当の女性のような気がしてならないんだ」 「へ、変なことおっしゃらないで下さい。わたしは」 「だめだよ! そこから先を言っちゃ」  顔の前に人差し指を立てて左右に細かく振りながら、 「そう……。君の口から言ってはいけないよ」  とわたしの顔をじっと見つめている。 「君があの店で働くようになった事情は知らないし、過去のことも一切聞きたくない。 少なくとも僕は、君のことを本当の女性だと思っているんだ。僕の前にいる時は、あ りのままの姿であって欲しいな。そう……今の君のようにね」  黒沢の言葉が胸を打った。  本当の女性と思っているなどとは、これまでに一度だって言われたことがない。  きれいだ、可愛いとは耳にタコができるくらい聞かされている。  嘘を言っていないと感じた。 「ところで、携帯電話持ってる?」 「はい」  それは、店との連絡用に、マネージャーが与えてくれたものである。休養日などに、 予定していた店子が多く休んでしまった時や、予想外に数多くの客が来店して応援の ために、臨時出勤を依頼する為に使われる。或は逆にこちらが風邪引いたりして休み たい時の連絡用だ。料金は店側が払ってくれるが、一定金額内なら、個人的な私用に 使っても良いことになっている。もっとも掛けるべき相手はいない。あの日を境に、 友人・知人はすべて失ってしまったからである。 「もし良かったら番号を教えてくれないか」 「え?」  どうしようかと悩んだ。客に番号を教えてしまったために、連日連夜デートの誘い が掛かってきて困ったという話しをよく聞いている。  しかし黒沢が、そういう人間ではないことは知っている。常連客として良く来店し てくれるが、これまでに一度だってわたしの身体に触ったことがないからだ。  わたしと一緒に酒を飲む時間を楽しみに来店している風であった。 「他の誰にも教えないでくださいよ」 「もちろんだ」  自分の携帯電話に、わたしの教えた番号をメモリーする黒沢。  入力が終わった途端に電話が掛かってくる。 「おおっと、部下からだ」  液晶画面を確認してから電話に出る。 「私だ……そうか、わかった。車の所で待っていてくれ。すぐに行く」  携帯を閉じ、ポケットに収めながら、 「次の店舗に移動しなきゃならない。済まないが、今日はここまでだ。君はゆっくり していくといいよ。機会があったらまた会おう。お店以外の場所でね」  立ち上がり、伝票を取り上げてレジに向かう。  わたしを女性として扱っている以上、支払わせるわけにはいかないというところか。  好意は無碍にしてはいけない。  相手は仕事中なので、付いていくわけにもいかず、居残って飲み残しのアイスコー ヒーのグラスを開ける。
ポチッとよろしく!
11

2018年11月 4日 (日)

銀河戦記/鳴動編 第二十五章 トランター陥落 VI

第二十五章 トランター陥落

                 VI  要塞中央コントロール。 「陽子反陽子対消滅エネルギー砲は、正常に作動、発射されました」 「よし、マニュアルに沿って、各種のチェック項目を実施せよ」  マニュアルには、発射直後から確認すべき要塞損傷状態の確認チェックや素粒子被 爆線量測定などの手順が各項目ごとに詳細に書き綴られていた。そのチェック項目は 多岐に渡るために、いちいち口頭で指示などしていられないのである。 「ふう……」  とため息をつくフリード。  その肩に手を置いてアレックスが労った。 「ご苦労様。後は任せて休憩したまえ。報告は後で君のところへ送るよ」 「了解しました」  席を立ち上がり、退室するフリード。  その後姿を見ながらパトリシアが感心する。 「無事に発射成功しましたね。それもこれもフリードさんのおかげですね。発射マニ ュアルのない状態から、独自に調べ上げて複雑な行程を網羅した詳細マニュアルを作 成しちゃうんですから」 「そこが天才たる所以だな」 「これで一安心ですね。要塞砲をタルシエンの橋に照準を合わせておけば……」  フランソワも間に入ってくる。 「いや。もう二度と要塞砲は発射することはないだろう。今回が最初で最後の試射 だ」 「え? どういうことですか」 「今後はその必要性がなくなるからだ」 「詳しく説明していただけませんか?」  フランソワが興味津々の表情で尋ねてくる。 「内緒だ!」  といって、笑って答えないアレックス。 「ていとくう~。それはないですよお」  食い下がって、ぜひとも聞き出そうとするフランソワ。 「フランソワ。やめなさいね」 「でもお……」 「さあさあ、休憩時間よ。行くわよ」  とフランソワの背中を押して出て行くパトリシア。 「あん!」  それから二週間が過ぎ去った。  タルシエンを奪取され、通常航行での共和国同盟への進撃ルートを絶たれたバー ナード星系連邦は、不気味なほどに静かだった。  これまではタルシエンと敵母星の間に頻繁に行われていた通信が途絶えたことで、 傍受による敵軍の情勢も知りうることができなくなっていた。もっともレイチェルが トランターに極秘任務で居残ってしまって、ここにいないことも原因の一つでもある が。 「ほんとに静かですね……静か過ぎて、余計に不気味に感じます」  つい先ほど哨戒の任務を終えて戻ってきたゴードンがこぼしている。戦いの場を失 って暇を持て余している雰囲気が滲み出ていた。  その時、警報が鳴り渡った。 「なんだ!」  オペレーター達に緊張が走る。 「統帥本部から入電!」 「報告しろ」 「ソロモン海域に、敵艦隊を発見との報です」 「ソロモン海域? 絶対防衛圏内じゃないか。詳細は?」 「ソロモン海域にある無人監視衛星の重力探知機が、ワープアウトした敵艦隊を探知。 戦艦が四隻ずつ並んで進撃しているところをカメラがキャッチしました」 「四隻ずつ並んで?」 「そうです」 「そうか……。やはり、その作戦できたか」 「え? どういうことですか」 「タルシエンからの侵略を諦めて、ハイパーワープドライブエンジンによる長距離 ワープを使って、絶対防衛圏内への直接攻撃に踏み切ったというわけだよ」 「しかし、大河を渡ることのできるハイパーワープは燃料を大量消費して、ぎりぎり 往復するだけの航続距離しかありません。絶対防衛圏内に踏み込んでの継続的な戦闘 は不可能とされています。だからこそ連邦はタルシエンの橋の出口に要塞を築いて橋 頭堡となし、そこから侵略を続けていたんじゃないですか」 「では聞くが、敵戦艦が仲良く四隻ずつ並んでいたことの理由が判るか?」 「判りません。どういうことですか?」 「多段式の打ち上げロケットを考えてみたまえ。ペイロードを宇宙へ運ぶのに、一段 目・二段目・三段目という具合に各段のロケットを順番に使って燃焼加速を行い、燃 焼が終了すれば切り離されるだろう? 打ち上げロケットで何が一番重量を増やして いるかといえば燃料そのものの重量だ。下の段が切り離されれば当然全体の重量は軽 くなるし、上の段にいくほど燃料消費量は少なくて済む。本体ロケットに取り付けら れたブースターエンジンでもいい。要は最終段のロケットは、出番がくるまではずっ と押し上げて貰うだけで、燃料を温存しているということさ」 「ブースター? そうか、判りましたよ。四隻のうち、たぶん三隻がブースター役で、 残りの一隻を運ぶだけなのでしょう。おそらくこの後、引き返すのではないですか?」 「理解できたようだな」 「しかしそれでは、戦闘に参加できる艦艇数が限られてしまいます。百万隻を下るの ではないでしょうか。対して絶対防衛艦隊は総勢五百万隻です。いくら戦闘未経験の 素人の艦隊とて数が数ですから……」 「当然、二の矢を放ってくるに違いないさ。想像を絶する作戦でね」 「しかし、さすがにこれだけ離れていると、いくらニールセンでもここから迎撃に出 ろとは言えないでしょうね」 「仮に迎撃命令が出たとしても、間に合うわけがないしな」 「ニールセンの奴、絶対防衛圏内に踏み込まれて、今頃慌てふためいているでしょう ね」
ポチッとよろしく!
11

2018年11月 3日 (土)

妖奇退魔夜行/蘇我入鹿の怨霊 其の拾陸

陰陽退魔士・逢坂蘭子/蘇我入鹿の怨霊 其の拾陸

(拾陸)奈良県警綿貫警視  事件現場に到着する。    物々しい雰囲気の中、現場検証が執り行われている。  その中にあって、忙しく指図する人物がおり、現場責任者だと思われる。  野次馬を掛け分けて、その人物に近づく井上課長。 「よお、おまえが担当か」 「なんだ、井上か」  馴れ馴れしい挨拶を交わしているところをみると、どうやら顔なじみらしい。  大阪府警と奈良県警では交流の機会はないだろうが。 「研修以来だな」  国家公務員採用Ⅰ種試験合格者(キャリア)で警察庁に採用された者が、警部補に任 命された際に初任幹部科研修が行われる警察大学校の同期生というところか。  蘭子に気が付いて、 「その娘は?」 「ああ、私の臨時助手だよ」 「見たところ高校生くらいのようだが……」 「学校側には許可を取っている」 「やはり高校生か、大丈夫なんだろうな」 「それは保証する。その辺の刑事より役に立つよ」  というところで、お互いに紹介しあう。 「奈良県警刑事部捜査第一課の綿貫警視です」 「摂津土御門流派の陰陽師、逢坂蘭子です」 「陰陽師?君がか!?」  さすがに驚くのも無理がない。  奈良県警本部。  連続殺人事件特別捜査本部が設置され、捜査本部長には県警本部長が任命され、副本 部長・事件主任官・広報担当官・捜査班運営主任官・捜査班長・捜査班員という編成で 運営されることとなった。  なお一段下の「捜査本部」の捜査本部長は、県警本部長が任命する。  綿貫警視は捜査班運営主任官として、事実上の捜査責任者となった。  井上課長も応援要員として誘われたが、自身の大阪府警の捜査責任者でもあるので、 配下の警部補なりを向かわせることで落ち着いた。 「他県の者から指示命令されるのがウザいか?」  とは綿貫の弁である。  井上課長としては、蘭子との協力捜査に力を入れており、科学捜査が基本の奈良県警 とは一線を画す必要があるからである。  まずは捜査線上に上っている石上直弘は、写真と共に公開指名手配となった。

ポチッとよろしく!
11

2018年11月 2日 (金)

性転換倶楽部/ある日突然に II page-8

女性化短編小説集「ある日突然に」より II

page-8  今日は金曜日、休養日である。  店に出れば、どうしても酒を多量に飲まなければならなくなる。肝臓に負担が掛か るので、土日火木を出勤し月(定休日)水金は休肝日にして休むことにしている。  休みの日は、商店街に出てウィンドウショッピングなどして、時間を潰すことにし ている。時にはデパートなどの化粧品売り場に立ち寄って、いくらかの化粧品を買う こともある。ついでに最近流行の化粧のポイントを教えてもらったりもする。  始めて化粧品売り場を訪れた時は、ばれないかと冷や冷やものだった。何せすぐ間 近眼前三十センチメートル以内までに顔を近づけてくるのだから。  美容師を兼任している管理人も、 「素敵なお顔していますね。男性とばれることはないでしょう」  と保証してくれていたものだったが、男性相手の化粧ばかりしていて、女性の相手 をしたことがない、というのではいまいち信憑性に欠けていた。  しかし余計な心配だった。  店員は女装していることに全然気づかないようで、普段通り女性に対するように、 化粧の仕方を教えてくれた。ボイストレーニングの効果で、女性の声を出せるように なっていたのも幸いしている。  以来、安心して化粧品売り場を訪れるようになった。  一度でも女性として応接し顔を覚えてもらうと後は楽である。刷り込み現象で女性 と思い込んでしまうと、後は一切疑うことはしないものだ。だからこの店をいつも利 用していて、その店員とは顔馴染になっていた。 「今年の流行として……」  その店員は、親切丁寧に化粧を施しながら、ポイントを教えてくれている。 「お化粧もだいぶお上手になられましたね。はじめてお会いした時は、ちょっと濃い かなと思いましたが、今はお肌の調子に合わせて適切にお化粧されてらっしゃいます」 「うふふ。あなたに親切丁寧に教えてもらったおかげですよ。感謝してます」 「恐縮いたします」  ただ化粧品を売るだけでなく、しっかりとした化粧術を教えてくれるので、本当に 感謝しているのだ。管理人の施す化粧は、お店に出る時の夜の化粧術だったのだ。  素人の化粧は、雑誌の化粧記事や写真を見ただけでは覚えられるものではない。完 璧な化粧をするには、プロの美容師に直接、実際に化粧品や道具を使いながら、教え て貰わないとなかなか身につかないものだ。 「毎度ありがとうございます。しめて五万三千円になります」  化粧してもらった後で、今回使った化粧品を購入する。ブランド物の化粧品なので、 ちょっとばかり値が張るが、親切丁寧に教えてもらった教習料を含んでいると思えば 安いものだ。その人の髪型・顔の形・肌の具合、そして季節に合った適切な化粧術で ある。 「ひろみさんじゃありませんか?」  後ろから源氏名を呼ぶ声が聞こえた。  思わず振り返れば、店の常連客の、あの女装ルポライターだった。  ここは一階。各ブランドごとに、化粧品や婦人靴売り場がずらりと並んでいる女性 (女装者含む)オンリーのフロアである。  まさかねえ……。 「女装はあの日だけだよ」  とは言っていたが、味をしめて……。  がしかし、よくよく見ればきっちりとした背広を着ており、テナント店員を示す名 札を付けていたのだ。その後ろには同僚と思われる数人の店員もいた。 「あはは、まさか昼間に、こんな所でお会いするなんて奇遇ですね」 「黒沢さんは、ここで働いていたのですか?」  以前に、ルポライターというのは副業で、他に本業があると聞いており、黒沢英二 という名前も教えてくれた。 「いや。ここで働いているというわけじゃないんだ。とある製薬会社に務めていてね。 事業の一つにブランド化粧品があって、それを扱っている直営店舗の視察をして回っ ているところなんだ」 「視察ですか?」 「沢田君。このご婦人と話しがあるんだ。済まないが、後を頼むよ。用が済んだら携 帯に連絡を入れてくれ」  と言いながら、後ろの店員に胸の名札を外して手渡す。 「かしこまりました」
ポチッとよろしく!
11

2018年11月 1日 (木)

銀河戦記/鳴動編 第二十五章 トランター陥落 V

第二十五章 トランター陥落

                 V  タルシエン要塞中央コントロールルーム。  オペレータ達は一様に計器を操作しているが緊迫感は見られない。  正面スクリーンにはタルシエンの橋の方角を映し出していた。  連邦が通常航行で攻めてくるとすれば、橋を渡ってくるしかなく、こちら側を押さ えた現状では、連邦もそうそうは攻めてこれないという安堵感である。  総指揮官席に陣取っているのは、要塞技術部開発設計課長のフリード・ケースンだ った。 「これより要塞主砲の陽子反陽子対消滅エネルギー砲の試射を行う。要塞よりタルシ エンの橋に至るコースにある艦艇はすみやかに退避」  後方では、アレックスとパトリシアが立ち並んで、それらの作業を眺めていた。 「要塞砲がどれだけの威力をもち、発射に際して要塞にどれだけの障害を与えるかを、 前もって把握しておかなければならないからな」 「それでフリードさんに指揮を?」 「要塞砲のことなどまるで判らないからな。いや、要塞そのものすらほとんど把握し ていない。要塞を機能させるシステムコンピューターなどのソフトウェア関連はレイ ティーに、ハードウェアはフリードとそれぞれ仕様マニュアルを作成してもらってい るが、兵器などは実際に試射してみなければ判らないことも多い」  要塞の内部は、さまざまな粒子加速器が取り巻くように建設されていて、要塞のエ ネルギー源となったり、粒子ビーム砲などの武器となったりしている。  まるで素粒子物理学の巨大な実験施設といっても良いぐらいである。  その集大成ともいうべき兵器が、陽子反陽子対消滅エネルギー砲である。  陽子と反陽子を、粒子加速器によって加速衝突させると、その質量のかなりの部分 がエネルギーに替わる。核融合反応における質量欠損によるものとは桁違いの変換率 である。質量がどれほどのエネルギーを持っているかというと、1グラムの質量を熱 エネルギーに変えることができれば、なんと20万トンもの水を沸騰させることがで きるということである。  さて陽子はどこにでもある水素原子核のことであるから入手に困ることはないが、 電荷が反対の反物質である反陽子はどうするか。反陽子は、反物質であるがゆえに近 くの物質とすぐに反応して消滅してしまい、自然界にはほとんど存在しない。それを 作り出すのが、キグナスシンクロトロンである。  1GeVエネルギー以上に加速された陽子ビームを、重い原子核に照射すると核破砕 反応(Spallation)が起こる。 原子核の構成要素の一つである中性子が叩き出され たり、標的原子核の一部である短寿命原子核が放出されたりする。さらに、50GeVと いった高エネルギーに加速された陽子を用いると、元来原子核内部には存在しなかっ たK中間子、反陽子といった粒子が生成される。また高エネルギーのπ中間子が生成 され、その崩壊により高エネルギーのニュートリノやミュオンが生成される。これら の生成粒子は二次粒子と呼ばれる。  キグナスシンクロトロンはこのようにして反陽子を生成させて、そこから取り出し た反陽子を、反物質貯蔵庫へと導いて貯蔵していつでも使えるようにしているのだ。 「要塞内、素粒子計測器の作動状況は?」 「正常に稼動しています」 「エネルギー変換率計測器はどうか?」 「正常に作動しています」 「それじゃあ、いってみるか」  と、後方を振り向き、アレックスの頷くのを確認して、 「陽子加速器始動、前段加速器へ陽子注入!」 「陽子加速始動します」 「前段加速器へ陽子注入」 「続いて反陽子加速器始動、前段加速器へ反陽子注入!」 「反陽子加速器始動します」 「前段加速器へ反陽子注入」  その頃、要塞周辺にて哨戒作戦に当たっているウィンディーネ艦隊。  ウィンディーネの艦橋、スクリーンに要塞主砲の様子が映し出されている。 「まもなく要塞主砲が発射されます」  パティーが報告する。 「要塞主砲の威力をこの目で見られるとはな」 「こんなに間近で大丈夫でしょうか?」 「フリードが算定した避難距離以上に離れているんだ。大丈夫だよ」 「ケイスン中佐のこと信頼されているんですね」 「天才科学者だからな。設計図を見ただけでその機能や能力をずばりと当ててしまう。 この要塞砲のことを一番熟知しているのは彼だろうな。というか、あれを設計した科 学者すら気づかない設計上の欠陥とかもな」 「要塞砲、発射三十秒前です」 「閃光防御スクリーンを降ろせ。可動観測機器はすべて収納せよ」」 「了解。閃光防御」 「可動観測機器を収納します」 「発射十秒前。9・8……3・2・1」  要塞砲が発射される。  凄まじい閃光が辺り一面に広がり、付近に待機している艦艇をまばゆく輝かせる。   「終わったか」 「……のようですね」 「閃光防御スクリーン及び収納した観測機器を戻せ。艦体のどこかに異常が起きてい ないかチェックしろ」 「それと、艦内における人体への素粒子被爆量の測定を全員に実施する」  高エネルギーを持った素粒子同士の衝突実験においては、副産物としての大量の二 次生成粒子が生じ、場合によっては人体に多大な害を及ぼすことがある。それを確認 することも、今回の要塞砲発射実験の調査項目の一つだった。  もちろん同様のことは、要塞内でも行われている。
ポチッとよろしく!
11

« 2018年10月 | トップページ | 2018年12月 »