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2018年11月 6日 (火)

銀河戦記/鳴動編 第二十五章 トランター陥落 VII

第二十五章 トランター陥落

                 VII  そのニールセン中将は怒り狂っていた。 「一体これはどうしたことだ! 絶対防衛圏内だぞ。ランドールは何をしていたの だ」 「閣下。敵艦隊はタルシエンからやってきたのではありません。大河をハイパーワー プしてきたのです」 「ハイパーワープだと! そんな馬鹿なことがあるか。燃料はどうしたんだ? ハイ パーワープは燃料を馬鹿食いする。撤退のことを考えれば余分の燃料などあるはずが ないじゃないか。あり得ん!」 「ハンニバルの時のように、現地調達するつもりでは?」 「一個艦隊程度ならともかく、あれだけの数を補給できるほどの補給基地は、あちら 方面にはないぞ。そのまえに絶対防衛艦隊が到着して交戦となる。燃料不足でどうや って戦うというのだ」 「はあ……。まったく理解できません」 「それより出撃準備はまだ完了しないのか?」 「はあ、なにぶん突然のこととて連絡の取れない司令官が多く。かつまた乗組員すら も集合がおぼつかない有様で」 「何のための絶対防衛艦隊なのだ。絶対防衛圏内に敵艦隊を踏み入れさせないための 軍隊じゃないのか?」 「はあ……。これまでは侵略となれば、タルシエンからと決まっていました。ゆえに、 まず第二軍団が迎撃し、万が一突破された際には周辺守備艦隊の第五軍団が動き、そ の時点ではじめて絶対防衛艦隊に待機命令が出されるという三段構えの防衛構想でし た。それがいきなり第二・第五軍団の守備範囲を超えて絶対防衛権内に侵入してきた のです」 「つまり……第二軍団が突破されない限り、防衛艦隊の将兵達は後方でのほほんと遊 びまわっているというわけだな」 「言い方を変えればそうなりますかね」 「こうなったら致し方ない。TV報道でも何でも良い。敵艦隊が侵略していることを 報道して、全将兵にすみやかに艦隊に復帰するように伝えろ」 「そ、そんなことしたら一般市民がパニックに陥ります」 「敵艦隊は目前にまで迫っているのだぞ。侵略されてしまったら、何もかも終わりだ。 遊びまわっている艦隊勤務の将兵達を集めるにはそれしかないじゃないか」  スティール率いる艦隊。  ブースター役の後方戦艦との切り離し作業が続いている。 「作業は、ほぼ八割がた終了したというところです」 「慌てることはない。どうせ同盟軍側も大混乱していてすぐには迎撃に出てこれない だろうさ。絶対防衛艦隊の陣営が整うまでゆっくり待つとしよう。ハイパーワープの 影響で緊張したり眠れなかった者もいるはずだ。今のうちに休ませておくことだ」 「相手の陣営が整うまで待ってやるなんて聞いたことがないですね」 「有象無象の奴らとはいえ数が数だからな、いちいち相手にしていたら燃料弾薬がい くらあっても足りなくなる」 「すべては決戦場で一気に形を付けるというわけですね」 「そう……。すべては決戦場。ベラケルス恒星系がやつらの墓場だ」  タルシエン要塞。  士官用の喫茶室にアレックスと参謀達が集っていた。  いわゆるお茶を飲みながらの作戦会議といったところである。  連邦が現れたのは絶対防衛圏内だから、自分らにはお呼びは掛からないし、ここか らではどうしようもないからである。 「絶対防衛艦隊および連邦軍艦隊が動き出しました」  パトリシアが新たなニュースを持って入ってきた。 「やっと動いたか」 「同盟軍の艦隊は総勢三百万隻。対する連邦軍は八十万隻です」 「しかし同盟軍はともかく連邦軍が一時進軍を停止していたのは何故でしょうか?  まるで同盟軍が動き出すまで待っていたふしが見られます」  ジェシカが質問の声を挙げた。 「待っていたんだよ。同盟軍が集結し一団となって迎撃に向かって来るのをね。どう やら連邦は、スティール・メイスンというべきかな……、同盟軍を一気に壊滅させる つもりのようだ」 「両艦隊の遭遇推定位置、ベラケルス恒星系と思われます」 「ベラケルスか……。赤色超巨星だな。この戦い、ベラケルスに先に着いたほうが勝 つ」 「どういうことですか。敵は八十万隻にたいして我が方は四倍近い三百万隻ですよ」 「艦船の数は関係ない。我が軍が一億、一兆隻の艦隊で向かったとしても、先にベラ ケルスに到着したたった一隻の敵艦によって壊滅させられることだって可能だよ」 「馬鹿な」 「提督……まさか、あの作戦を」  パトリシアが気づいたようだ。  何かにつけてアレックスと共に、机上の戦術プランを練り上げてきたので、該当す る作戦プランがあるのを思い出したのだ。 「その、まさかさ。どうやら、敵将も考え付いたようだ。進撃コースをわざわざ遠回 りとなる、ベラケルスを経由しているところをみるとな」 「はい。同盟が全速で向かっているのにたいし、連邦は丁度恒星ベラケルスに十分差 で先に到着できるように艦隊速度を加減している節がみられます」 「どういうことですか。私にもわけを話してください」  ジェシカが再び質問する。  疑問が生じればすぐに解決しようとする性格だからだ。 「恒星ベラケルスは、いつ超新星爆発を起こすかどうかという赤色超巨星だ。中心部 では重力を支えきれなくなって、すでに重力崩壊がはじまっている。そこへブラック ホール爆弾をぶち込んでやればどうなると思う?」 「あ……」  一同が息を呑んだ。  ゴードンが一番に答える。 「そうか! 超巨星は急速な爆縮と同時に超新星爆発を起こして、近くにいた艦隊は 全滅するってことですね」 「でも条件は両軍とも同じではないですか」 「いや、違うな。超爆といっても巨大な恒星だ。中心部で重力崩壊が起こって衝撃波 が発生する。その衝撃波が外縁部に伝わり超新星爆発となるまでには時間がかかる。 超新星爆発という現象は、中心核で起こった重力崩壊の衝撃波が恒星表面に達しては じめて大爆発を引き起こすのだ。通常の超新星爆発は、重力崩壊が始まって数千年か ら数万年かかると言われている。だがブラックホール爆弾を使って爆縮を起こせばす ぐに始まる」 「へえ、そうなんですか? 知りませんでした。さすが宇宙って、人間の尺度で測り きれない物差しを持っているんですね」 「それじゃあ、意味がないじゃないですか。中心核で爆縮が起こっていても、見た目 何も起こっていないということでしょう?」  フランソワが尋ねる。 「違うな。確かに見た目は変わらないように見える。だが、ニュートリノだけは恒星 中心から光速に近い速度で伝わってゆくので、数秒後にニュートリノバーストが艦隊 を襲うことになる。ニュートリノに襲われた艦隊がどうなるかわかるか?」 「ニュートリノってのは、ものすごい透過力を持っていて、どんな物質でも突き抜け てしまうんですよね。それでも非常にごくまれに、原子核と衝突して光を発生するっ てのは知ってます」 「正確には原子核をニュートリノが叩いた時に発生する光速の陽電子が水中を通過す るときにチェレンフ光として輝くのだよ。艦には光コンピューターをはじめとして、 光電子管やら光ファイバー網があって、チェレンコフ光によってそれらがすべて一時 使用不能になるってこと」 「でも水中ではありませんよ。人体なら輝くでしょうけど」 「だがチェレンコフ光として観測されているのは実験室内だけだ。これが恒星のすぐ そばで桁違いの数のニュートリノが通過すればどうなるか判らないだろう。それにど んな物質にも水分が含まれているしな」 「まあ、ともかく艦の制御が出来ない空白の時間が発生するということですよね… …」 「制御が出来なくても、艦は慣性で進行方向にそのまま進んでいく。その時、ベラケ ルスから遠ざかる位置にある艦隊と、近づきつつある艦隊では?」 「ああ!」 「ニュートリノバーストが止んだ時には、すでに艦隊はすれ違っていて、相対位置が 逆転している。やがて超爆が起こった時に、連邦は当然ワープ体制に入っているだろ うから、即座にワープして逃げることが出来るのにたいして、同盟はターンして恒星 を待避しつつワープ準備をしてからでないとワープに入れない。おそらく超爆には間 に合わないだろう」
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