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2019年3月

2019年3月31日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 IV

 

 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌

 IV 反磁界フィールド

 

 だが驚きはそれだけではなかった。
「こ、これは!」
 レーダー管制オペレーターが声を上げた。
「どうした!」
「レーダーから、敵艦が消えました」
「なんだと!」
「しかし、こちらの重力加速度感知器には敵艦の反応があります」
「どういうことだ?」
「わかりませんが、敵艦はなおもこちらに接近中です」
 艦橋内にざわめきが広がる。
 まるで姿なき魔物がひたひたと迫り来るといった概念に捉われつつあった。
 レーダーが機能しなければ、敵艦の位置や速度が測れないから、すべての誘導兵器
が使用不能という状況に陥ってしまっているということだ。
 このままでは、敵艦からの一方的な攻撃を受けるのみである。
「敵艦周辺一体に特異的地磁気変動が見られます」
「特異的地磁気変動だと?」
「はい。磁力線計測器によると、敵艦の周囲一体に磁場がまったく感知できません」
 その報告を受けて、しばらく考えていた副官が答えた。
「どうやら敵艦の周囲には、磁場を完全に遮蔽する反磁界フィールドが張られている
ものと思われます」
「反磁界フィールドだと?」
 艦長の疑問に、副官が詳しく説明を加える。
「超伝導によるマイスナー効果ですよ。敵艦の周囲には、磁界が完全に0の空間が作
り出されているのです。レーダー波は、磁界と電界が交互に繰り返されながら伝播す
る電磁波の一種です。その片方の磁界を完全に遮断すれば電磁波は伝わらない。つま
りレーダーは役に立たないということです。しかし重力までは遮断することはできま
せんから重力加速度計には感知されるわけです。あの戦艦は超伝導によるマイスナー
効果によって完全反磁性を引き起こして、地磁気に対しての反発力を利用した最新鋭
の超伝導反磁性浮上システムを搭載しているものと思われます。その反磁性の範囲を
艦体をすっぽり包むように拡げてバリアー効果をも発揮させているのです」
「反磁界フィールドか」
 副官の長い説明はさらに続く。
「陽電子砲の正体は荷電粒子です。荷電粒子が磁界によって曲げられてしまうのは周
知の事実です。リング状に設置されたサイクロトロンやシンクロトロンなどで荷電粒
子を加速させる原理に使われていますし、地球が地磁気によって太陽からの荷電粒子
(太陽風)から守られ、バンアレン帯を形成している事も良く知られています。さら
に、光が通過する空間において物性が変わった場合など、温度差による蜃気楼や光の
水面反射などの現象が起きます。そのことを踏まえて、ミネルバの状況を考えてみま
しょう。磁界が完全に0であるということは、逆に言えば無限に近い強磁界が存在す
るのと同じ効果が発生するのです。フレミングの法則でも知られる通りに、電界のあ
るところ必ず磁界も発生しますが、その対偶命題として磁界がなければ電界も存在し
えないと考えるのが数学の真理であり至極自然です。電界とはすなわち電荷の流れに
よって生じるところから、荷電粒子を完全遮断できるほどのバリアー効果となって現
れるのです」
 長い長い説明は終わったようだ。
「なるほど……などと関心している場合じゃない!」
「しかし、こちらから粒子砲攻撃ができないということは、向こう側も粒子砲を撃て
ないということです。それに反磁界フィールドを張るには莫大な電力が必要でしょう、
そういつまでも持つはずがありません。少しは気休めになるでしょう」
「気休めになるか! 向こうもそれを承知で接近してくるということは、それなりの
方策を持っているからに違いない。第一、反磁界フィールドのスウィッチを持ってい
るのは相手だ。粒子砲の発射準備をしておいて、フィールドを切ると同時に発射する
ことができるのだからな」
「粒子砲が使えないとなれば艦載機とミサイル攻撃しかありませんね」
「ちきしょう! 空戦式機動装甲機(モビルスーツ)が使えればな……」
「確かに、粒子砲が使えない以上、モビルスーツによる格闘戦しかありませんが、あ
いにくと我が軍が搾取した同盟軍のモビルスーツのOSの書き換え作業と動作確認に、
パイロットが使役されちゃいましたからね。機体はあるがパイロットがいなけりゃ動
かせません」
「とにかく、敵艦がいつフィールドを解除して粒子砲を撃ってくるかわからん。射線
上に入らないようにして、往来撃戦で戦う!」
「往来撃戦用意!」
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2019年3月30日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 ミスト艦隊 IX

 

第二章 ミスト艦隊

                 IX

 

 別働隊指揮艦の艦橋。
 迫り来る敵艦隊との会戦の時が迫り、オペレーター達の緊張が最高潮を迎えようとし
ていた。
 正面スクリーンが明滅して、敵艦隊の来襲を知らせる映像が投影された。
「敵艦隊捕捉! 右舷三十度、距離三十二光秒!」
 目の前を敵艦隊が悠然と進撃している。
 ミスト艦隊が取るに足りない弱小艦隊とみて、索敵もそこそこにしてミスト本星へ急
行しているというところだ。
 手っ取り早くミストを攻略し、先遣隊が帝国皇女の拉致に成功した後に、この星に連
行してくるつもりなのかも知れない。
「時間通りです」
「ようし! 全艦攻撃開始だ」
 アレックスの作戦プランに従い、別働隊の敵艦隊に対する側面攻撃が開始された。

 

 敵艦隊の旗艦艦橋。
「攻撃です! 側面から」
 不意の奇襲に、声を上ずらせてオペレーターが叫ぶ。
「側面だと? こざかしい!」
「艦数およそ二百隻です」
「所詮は陽動に過ぎん。放っておけ。加速して振り切ってしまえ!」
「こちらは外洋宇宙航行艦、向こうは惑星間航行艦。速力がまるで違いますからね」
「競走馬と荷役馬の違いを見せてやるさ」
 別働隊の攻撃を無視して、速度を上げて差を広げていく連邦艦隊。

 

 別働隊指揮艦。
 正面スクリーンに投影された敵艦隊の艦影が遠ざかっているのが判る。
「距離が離れていきます。追いつけません」
「それでいい。作戦通りだ」
 落ち着いた口調で答える司令官。
 敵艦隊が別働隊の奇襲を無視して加速して引き離すことは予測していたことであった。
 アレックスの思惑通りに、事は運んでいた。
「さて、後方からゆっくりと追いかけるとするか……」
 艦橋にいる人々に聞こえるように呟く司令。
 頷くオペレーター達。
「よし、全艦全速前進!」
 ゆっくりと追いかけると言ったのは、敵艦隊のスピードに対しての皮肉であった。
 追いつけないまでも、敵艦隊に減速の機会を与えないように、後方から睨みを利かせ
るためである。

 

 その頃、連邦軍の艦影を捉えたミスト旗艦のアレックスは全艦放送を行っていた。
「……いかに敵艦が数に勝るとも、無用に恐れおののくことはない。わたしの指示通り
に動き、持てる力を十二分に引き出してくれれば、勝機は必ずおとずれる。どんなに強
力な艦隊でも所詮は人が動かすもの、相手を見くびったり、奢り高ぶれば油断が生じる
ものだ。その油断に乗じて的確な攻撃を敢行すれば、例え少数の艦隊でもこれを打ち砕
くことができるだろう……」
 感動したオペレーターが、思わず拍手をすると、その波はウェーブとなった。
 放送を終えて照れてしまうアレックスであった。
 しかし、アレックスにはもう一つの放送をしなければならなかった。

 

 敵艦隊の指揮艦。
 機器を操作していた通信士が報告する。
「敵の旗艦から国際通信で入電しています」
 戦闘に際しては、通信士の任務は重大である。
 味方同士の指令伝達は無論のこと、敵艦同士の通信を傍受して作戦を図り知ることも
大切な任務である。
「正面スクリーンに映せ」
「映します」
 オペレーターが機器を操作し、正面スクリーンにアレックスの姿が映し出された。
 スクリーンのアレックスが語りかける。
「わたしはアル・サフリエニ方面軍最高司令官、アレックス・ランドールである」
 途端に艦橋内にざわめきが湧き上がった。
 ランドールと聞けば知らぬ者はいない。
 そのランドールが、なぜミスト艦隊に?
 オペレーター達が驚き、隣の者達と囁きあっているのだ。
 スクリーンのアレックスは言葉を続ける。
「わけあって、このミスト艦隊の指揮を委ねられた……」
 疑心暗鬼の表情になっている司令官であった。
 ランドールと名乗られても、『はいそうですか』と即時に信じられるものではない。
 副官は機器を操作して、スクリーンに映る人物の確認を取っていたが、
「間違いありません。正真正銘のランドール提督です。それに、ミストから離れつつあ
る艦隊を捕らえました。サラマンダー艦隊です」
「どういうことだ。タルシエン要塞にいるはずのやつらが、なぜここにいる?」
 何も知らないのは道理といえた。
 ランドール率いる反乱軍は、堅牢なるタルシエン要塞を頼りにして、篭城戦に出てい
るのではなかったのか……。
「おそらくランドールの目的は銀河帝国との交渉に赴いたのではないでしょうか?」
「交渉だと?」
「はい。反政府軍が長期戦を戦い抜くには強力な援護者が必要です。帝国との交渉に自
らやってきて、補給に立ち寄ったこのミストにおいて、我々との戦いを避けられないミ
スト艦隊が、提督に指揮を依頼した。そんなところではないでしょうか」
「なるほどな……。とにかく大きな獲物が舞い込んできたというわけだ」
 すでにアレックスの挨拶が終わっていて、スクリーンはミスト艦隊の映像に切り替わ
っていた。
「敵艦隊、速度を上げて近づいてきます」
「全艦に放送を」
 通信士が全艦放送の手配を済ませて、マイクを司令に向けた。
「敵艦隊の旗艦には、宿敵とも言うべき反乱軍の総大将のランドール提督が乗艦してい
るのが判明した。その旗艦を拿捕してランドールを捕虜にするのだ。それを成したもの
は、聖十字栄誉勲章は確実だぞ。いいか、ランドールは生かして捕らえるのだ、決して
あの旗艦を攻撃してはならん」
「なせです。捕虜にするのも、撃沈して葬るのも同じではないですか」
「ばか者。ここはミスト領内で、あやつの乗艦しているのはミスト艦隊だぞ。撃沈して
しまったら、どうやってランドールだと証明できるか? 宿敵艦隊旗艦のサラマンダー
ならともかくだ」
「そうでした……」
「指令を徹底させろ」
「判りました。指令を徹底させます」

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2019年3月29日 (金)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 強姦生撮り(R15+指定)

 

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(四十二)強姦生撮り

 

 それからしばらくして、例の透視映像に三つの点滅が増えた。
 そして真樹のそばに近づいていった。
「一人はビデオカメラマンで、後の二人は……おそらく男優だろうな」
 と、ぽつりと黒沢医師が呟いた。
 強姦生撮り撮影が開始されるというわけである。
 男優一人では強姦生撮りは難しい。女性が必死で抵抗すれば事を成されることを防
ぐこともできる。
 そこで抵抗する女性を押さえつける役も必要というわけであろう。気絶させては迫
力ある強姦シーンにはならないからだ。
 あくまで泣き叫ぶ女性の姿が欲しい!
 というところだ。

 

 つと敬が腰を上げた。
「行くのか?」
 それには答えずに黙って車から降りて雑居ビルの方へと一人歩き出した。
「しようがないな……。まあ、恋人が犯されるのを黙ってみている訳にもいかないか
……」
 それを眺めて美智子が尋ねる。
「行かせてよろしいのでしょうか? 当初の予定ではここから売春組織のあるアジト
まで案内させるはずでしたよね。今踏み込んでしまえば、その機会を失うことになる
のではないでしょうか。彼らを捕らえたところで、そう簡単には組織を売るようなこ
とはしないでしょう」
「まあな。通常の手段で、奴らのアジトを吐かせることは無理だろう」
「では、なぜ?」
「私に考えがある。否が応でも吐きたくなるような方法をね」
 と言って、黒沢医師も車を降りて敬の後を追った。
 一人残された美智子。
「もう……。わたしは何のために来たのか……」
 実は、相手を策略に掛けてアジトを探し出し、売春組織を壊滅させる。
 そんなスリリングな期待を抱いていたのである。
 ここで踏み込んでしまえばそれでおしまいである。
「つまらないわ……」
 ぼそっと呟いて苦虫を潰したような表情の美智子であった。

 

 雑居ビルの一室。
 ベッドの上で眠っているその周囲でカメラ機材を並べている男達がいる。
 部屋の隅では男優とおぼしき男二人が服を脱いでいる。
 その傍らで勧誘員が説明をしている。
「今日は強姦生撮り撮影だ。女が目を覚ましたところからはじめるぞ。いつも通りに、
女が泣き叫ぼうがなんだろうが、構わずにやってしまえ!」
「女は処女ですか?」
「いや、そうでもなさそうだ」
「ちぇっ、それは残念だ」
「ふふん。で、今日はどっちが先にやるんだ?」
「今日は、俺からっすよ。前回はこいつでしたからね」
「しかし今日のは、ずいぶん綺麗な女じゃないですか。前回のはひどかったですから
ね。仕事だから仕方なくやりましたけど」
「だめっすよ。交代はしませんからね」
「とにかく一ラウンド目はいつも通り。ニラウンド目は、覚醒剤を打って淫乱女風に
なった状態で撮る」

 

 そんな男達の会話を、真樹は目を覚ました状態で聞いていた。
 うとうとと眠ってしまったが、男達が周りで動き回る音に目を覚ましたのである。
「ひどいことを言ってるわね……」
 覚悟していたとはいえ、いざ男達に取り囲まれ、強姦生撮りされると思うと、さす
がに緊張は極度に高ぶっていた。
 しかし、それもこれもより多くの女性たちを救うための人身御供である。
 何とかこの試練に耐えて、奴らのアジトに潜入しなければならないのである。
 身が引き締まる思いであった。

 

「よし! ビデオの準備OKだ。はじめてくれ!」

 

 その合図で、男優達が動き出した。
 真樹の横たわっているベッドに這い上がってきた。
「きた!」
 思わず身を硬くする真樹であった。
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2019年3月28日 (木)

性転換倶楽部/響子そして 真実は明白に(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定 この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(十九)真実は明白に

 

 すると今まで黙っていた、その青年が口を開いた。
「響子、意外に冷たいんだな」
「あなたに響子なんて呼びつけにされる筋合いはありません」
「そう言うなよ。響子というのは、俺がつけてやった名前じゃないか」
「ええ?」
「俺の母親の名前だ。忘れたか? ひろし」
「ひろしって……。そ、その名前をどうして? ま、まさか……」
 その名前を知っている限りには、わたしの過去の事情を知っているということ。響
子とひろしとが同一人物だと知っているのは……。そして母親の名が響子ということ
は。
「なあ、生涯一緒に暮らすから、性転換して俺の妻になってくれと言ったよな」
「う、うそ……。まさか……明人?」
「ああ、そうだ。俺の名は、遠藤明人。祝言をあげたおまえの夫だ。もっとも今は柳
原秀治って名乗っているけどな」
「で、でも。英子さん、明人は死んだって……」
「あれからすぐに臓器密売組織に運ばれてきてね。わたしが執刀医になったのさ。で
も脳が生き残っていた。明人のボディーガードの一人が、頭部を射ち抜かれて脳死に
なったのが同時に運ばれて来ていたから、二人から一人を生き返らせたわけ」
「じゃ、じゃあ。明人の脳を?」
「その通り」
「ほ、ほんとに明人なの? 担いでいるんじゃないでしょう?」
「何なら俺だけが知っているおまえの秘密を、ここで明かしてもいいんだぞ」
「それ、困るわ……」
「なら、俺を信じろ。嘘は言わん。俺は正真正銘のおまえの夫の明人だ」
 ああ……。その喋り方。
「明人……」
 わたしは、明人の胸の中で泣いた。
 明人はやさしく抱きしめてくれた。
 身体こそ違うが、わたしをやさしく見つめる目、その抱き方。間違いなく明人だ。
 明人がわたしのところに帰って来てくれた。
 ひとしきり泣いて、落ち着いてきた。
「でもどうして今まで黙ってたの?」
「それはね。脳移植自体は成功したけど、身体と精神の融合がなかなか進まなかった
のさ。身体も脳も生きているけど、分断したままという状態が長く続いた」
 英子さんが説明してくれた。
「俺は、生きていた。身体と融合していないから、真っ暗の闇の中でな。そしてずっ
とおまえのことを考えていた。おまえを残しては行けない。もう一度おまえに会いた
い。その一心だった。その一途な願いがかなってやがて俺の耳が聞こえるようになっ
て、さらに目の前が開けて来た。身体との融合が進んで耳が聞こえ目が見えるように
なったんだ。俺は生きているんだと実感した。だとしたらおまえを迎えにいかなきゃ
と思った。その思いからか、急速に回復していった。そして今ここにいる」
「明人、そんなにまで、わたしのことを思っていてくれたのね」
「あたりまえだろ。おまえを生涯養ってやると誓ったんだからな。それとも姿形が違
うとだめか?」
「ううん。そんなことない。明人は明人だよ。ありがとう。明人」
「ああ、言っておくけど……。俺は、今は柳原秀治なんだ。柳の下にドジョウはいな
いの柳に、そうげんの原、豊臣秀吉の秀、そして政治経済の治と書いて柳原秀治。覚
えていてくれ」
「柳原秀治ね」
「ああ。そうだ。秀治と呼んでくれていい」
「判ったわ。秀治」

 

「あははは!」
 突然、社長が高笑いした。
「なーんてね……。実は、里美君のご両親もここに呼んであるのさ」
「ええーっ!」
 今度は里美が目を丸くして驚いている。
「倉本さん。お入り下さい」
 社長が応接室に向かって声を掛けると、その人達が入って来た。
 そして里美の方をじっと見つめながら言った。
「やあ、元気そうだね。里美」
「ちっとも連絡してこないから、心配してたのよ」
 まだ紹介していないが、両親は里美がすぐに判ったようだ。何しろ母親と里美がそ
っくりだったのだ。
「パパ! ママ!」
「なにも言わなくてもいいわよ。みんな社長さんからお聞きしたから」
「ママ……」
 そういうと里美は母親に抱きついて泣き出した。
「えーん。本当は逢いたかったんだよ。でもこんな身体になっちゃったから……寂し
かったよー」
 まるで子供だった。
 パパ・ママなんて呼んでるから、笑いを堪えるのに苦心した。
 どうやら両親に甘えて育ったようね。道理でわたしをお姉さんと慕ってついてくる
理由が今更にしてわかったような気がする。
「泣かなくてもいいのよ、里美。ママはね、里美が女の子になって喜んでるの」
「え? どうして?」
「ほんとは女の子が欲しかったの。だから産まれる時、里美という名前しか考えてな
かったのよ。結局男の子だったけど、そのままつけちゃったの」
「でも、仁美お姉さんがいるじゃない」
「実をいうと仁美は、私達の子供じゃないんだ。パパの兄さんの子供なんだ。母親も
すでに亡くなっていたからうちで引き取ったんだ」
「先に癌で亡くなった伯父さん? そのこと、仁美お姉さんは知ってるの?」
「結婚する時に教えたわ。びっくりしてたけど、納得してくれたわ。わたしが産んだ
子じゃないけど、二人を分け隔てたことないわ。ほんとの姉弟のように育ててきたつ
もりよ」
「うん。知ってる」
「それにしても、ほんとうに奇麗になったね。もう一度近くでじっくりと顔を見せて
頂戴」
 見つめ合う母娘。
「えへへ。ママの若い頃にそっくりでしょ」
「ほんとだね、そっくりよ。だから入って来た時、里美だってすぐに判ったわ」
 そっかあ……。
 里美は母親似だったんだ。
 それにしても良く似ている。
 わたしや由香里も母親似だし……。
 男の子を女にしたら、みんな母親に似るらしい。
「でも、わたしが子供を産んでもママとは血が繋がっていないよ」
「そんなこと気にしないわよ。里美は、ママがお腹を傷めて産んだ子。その子が産ん
だ子供なら孫には違いないもの。里美はママと臍の緒で繋がってたし、里美の子供も
やはり臍の緒で繋がる。母親と娘は血筋じゃなくて、臍の緒で代々繋がっていくわけ
よ。そう考えればいいのよ。でしょ?」
「うん、それもそうだね」
 母親はやさしく包みこむように里美を諭している。
 臍の緒で代々繋がっていく。
 そういう考え方もあるのか……感心した。
 さすがは母親だと思った。妊娠し出産する女性にしか気づかない考え方ね。
 由香里も、なるほどと頷いて、納得した表情をしている。
「里美のウエディングドレス姿を早く見たいわね」
「社長さん達が、お見合いの話しを進めてるらしいから、もうすぐかも」
「楽しみね」
「うん」
 ほんの数分しか経っていないのに、すっかり打ち解け合っている。
 あれがほんとうの母娘の姿だと思った。
 ふと気づいたが、会話にはほとんど父親が参加していない。数えてみたらほんの二
言しか喋っていないし、抱き合っている母娘のそばで、突っ立っているだけで、まる
で蚊帳の外にいるみたいだ。
 こういうことは、男性はやはり一歩引いてしまうんだろうか?
 いや、それでもやさしく微笑んでいるから里美のことを認めているには違いない。
里美が最初に抱きついたのは母親の方だし、母娘のスキンシップを邪魔しちゃ悪いと
思っているのかも知れない。

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2019年3月27日 (水)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 睡眠薬(R15+指定)

 

特務捜査官レディー・
(響子そして/サイドストーリー)

(四十一)睡眠薬

 

 それでも言う事を聞かない女性には、覚醒剤である。
 奴らの本当の目的は売春婦を斡旋することであり、AVビデオは副業として行って
いることなのだ。
 目の前に置かれた睡眠薬の入ったコーヒー。
 さて、どうするべきか……。
 飲まなければ、いつまで経っても先に進まない。
 覚醒剤の中和剤を投与しており、これは睡眠薬に対しても効果がある。
 だから薬で眠らされることはないのだが、眠っている振りをするのも、果たして上
手くいくかが問題だった。
 まあ、何とかなるでしょう。
 コーヒーカップを手に取って飲んでいく。
 コーヒーの独特の苦味によって、薬の味はかき消されている。
 コーヒーに含まれるカフェインは本来覚醒作用のあるものだが、睡眠薬の方が強力
なのでやがて眠りへと入っていく。
「あれ……。何だか眠くなってきたな……」
 いかに中和剤を飲んでいるとはいえ、完全に睡眠薬の効果を遮断することは不可能
だ。ある程度は効果が現れてしまう。
 そもそもこの囮捜査に際して、緊張と興奮によってここしばらく不眠状態が続いて
いたのである。睡眠不足と睡眠薬との相乗によって、いつしかまどろみを感じはじめ
ていた。
「まあ、いいわ。どうせ、組織員がやってくるまではしばらく時間がかかるだろうし
……」
 それに、今この状況は敬にも聞こえているはずだから……。
 というわけで、ちょっとばかし眠らせてもらうことにした。

 

 その頃。
 敬は、スーパーカーの中で真樹の髪飾りに仕込まれている盗聴器から届けられる音
声に聞き耳を立てると共に、車載のナビゲーションシステムに釘付けになっていた。
 真条寺家のメイドである神田美智子が持ってきたこのスーパーカーには、最新式の
ナビゲーションシステムが搭載されている。
 上空の衛星軌道にあるスパイ衛星や通信衛星に接続され、ありとあらゆる情報がリ
アルタイムで判るのである。
「今映っているのは、真樹さんのいる部屋の透視映像です。二つの生命反応が見られ
ます。この動いているのが勧誘員でしょう。そしてこちらの動かない点が真樹さんだ
と思われます」
 生きている人間はもちろんのこと物質であるものはすべて、常に熱を発生して目に
見えない遠赤外線や電波を出している。それはコンクリートの壁を透過してしまうほ
どのもので、その遠赤外線や電波を軌道上にある三つの衛星を使って三点透視図法的
に画像処理すれば、どんな場所でも3Dな映像として現わすことができるというわけ
だ。また人間は電気を通す導体でもあるから、地球地磁気の中で動き回ればフレミン
グの法則どおりに電場も生じる。それらの極微弱な電流変動さえをも見逃さずに感知
できる、完璧な究極の探知システムである。そんな最新鋭のシステムの端末がこの車
には搭載されているのである。それらはすべて、真条寺家当主である「梓」の生命を
守るために開発されたセキュリティーシステムの一部で、その一部を間借りして使わ
せてもらっているのである。もちろんそのために梓の専属メイドの神田美智子が同行
してきているのである。参照*梓の非日常より 「動かない?」
「先ほどの会話を聞いていなかったのか? 出されたコーヒーは当然睡眠薬入りだろ
う。薬が効いて眠ってしまったか、眠った振りをしているかのどちらかだ」
 黒沢医師が解説する。
「なるほど……」
「とにかく奴らの仲間が来るまでは安全だろう。何にしても部屋の様子はこうして手
に取るように判るのだ。とにかく、気長に待つしかないだろう」
 敬としても判りきっていることである。
 奴は覚醒剤を所持しているはずである。
 それだけでもとっ掴まえる材料にはなるが、仲間をも一緒にまとめてしまったほう
が、後々のためにもなる。
 だいいち令状もなしに踏み込むことなどできないじゃないか……。
 とはいえ、恋人である真樹を渦中の只中に置いていることには心中ただならぬもの
があるのだ。今すぐにでも駆け込んで真樹を救出したいという気持ちで一杯であった。
「まあ、何にせよだ。真樹ちゃんは、身に降りかかるであろうすべてを承知の上で頑
張っているのだ。恋人としてやるせない気持ちは理解できるが、彼女が成果を挙げる
までは、ここから見守ってやろうじゃないか」
 その時、美智子が突然叫んだ。
「あ! 不審な車が駐車場に入っていきます」
「どれどれ?」
 黒沢医師と敬がナビゲーターに目を移す。
 黒フィルムを全面に張って中を見えなくした車が地下駐車場に入っていくところだ
った。
「いよいよだな」
ポチッとよろしく!
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2019年3月26日 (火)

性転換倶楽部/響子そして 一同に会す(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(十八)一同に会す

「お姉さん、社長がお呼びよ」

 その日の仕事を終えて、私服に着替えていると、わたしの事をお姉さんと慕う里美
が、知らせに来た。
「社長が?」
 社長と言えば、わたしを覚醒剤から解き放し性転換手術によって真の女性にしてく
れた産婦人科医にして、製薬会社社長黒沢英一郎氏のことだ。
「英二さんのとこにいた由香里も呼ばれたらしいわ」
「姿が見えないと思ったら、英二さんと一緒だったのか。お熱いわね」
「わたしも呼ばれてるから、三人娘揃いぶみね。何かあるのかなあ」
「以前英二さんに三人揃って食事に呼ばれた時は、由香里へのプロポーズだったわよ
ね」
「もしかしたら、わたしかお姉さんのどちらかにお見合いの話しだったりしてね」
「お馬鹿言わないでよ。そんなことないわよ」
「うーん……。だとしたら、順番からしてお姉さんが先ね」
 聞いてない……。

 

 社長室に入ると、先に由香里と英二さんがいた。そして見知らぬ青年が一人。
「全員揃ったようだね……」
「親父……じゃなかった。社長、一体何のようだよ。俺達を呼び出して」
「響子さんに、お見合いの話しを持ってきたんだ」
「ええ? わたしがお見合い?」
 わたしは驚いた。
「ね、やっぱりでしょ」
 と、里美がわたしの小脇をつつく。
「申し訳ありません。以前にもお話ししました通り、わたしは結婚する意思がありま
せん。お断り致します」
「どうしてだ。いい話しじゃないか」
 わたしは、社長さんの行為が納得できなかった。わたしの過去をすべて知っていて、
その気持ちは理解してくれていると思っていた。明人以外の男性とはもう二度と交際
するつもりはない。
「社長さんと、その男性の方とは、どういう関係なんですか?」
「実はこのひと、わたしの長男といったところだ」
「長男って……。まさか実は元は女で、性転換したってわけじゃないだろうな」
「まさか。わたしは、女にする手術はやるけど、男にする手術はやらないぞ」
「だったら何だよ」
「このひとは、脳移植されて生き返ったのだ」
「脳移植?」
「そうだ。身体は無傷だけど脳死状態に陥った患者Aと、身体は死んでしまったけど
まだ脳は生きていた患者B。患者Aの身体に患者Bの脳を移植して蘇生させたのだ。
戸籍的に患者Aが生き返って、患者Bは死んだことになってる。身体は患者Aだけど、
心は患者Bなのだ」
「真菜美ちゃんと同じ事をなさったのですね」
 そういえば真菜美ちゃんは、呼んでいないようだ。結婚とかいう話しにはまだ早す
ぎる。もうじき十七歳のまだ子供だ。
「そうなだ、そのまま放っておけば二人とも死んでいたけど、脳移植で片方だけを生
き返らせた。念のために二人とも男性だ」
「それで、生き返ったその人とわたしを一緒にさせようというのですね」
「その通りだ。一応我が社の営業部で働いてもらっている。年齢的に響子さんにぴっ
たりだから、お見合い相手にどうかと呼んだ。いきなりの直接面談でびっくりしたか
もしれないが。響子さんにはとってもいい話しだと思うぞ」
 とんでもないわ。
 いきなり見ず知らずの相手となんか……。
「何度も申しますが、わたし結婚する意思がありませんから」

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2019年3月25日 (月)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 雑居ビル(R15+指定)

 

 

特務捜査官レディー

(響子そして/サイドストーリー)


(四十)雑居ビル

 勧誘員が案内したのはどこにでもありそうな雑居ビルの一つだった。

 雑居ビルでは当然ともいうべき小汚い通路からエレベーターに乗って上へと向かう。

 車のなかにおいてもそうだが、怪しい男と二人きり、狭い場所に閉じ込められた状

態というのは息苦しいものである。勧誘は時折ちらちらとこちらの胸や足元にいやら

しい視線を投げかける。

 どの階でもいいから早く止まれ!

 女性なら誰しも思うだろう。

 やがてエレベーターは七階で止まった。

 相変わらず小汚い通路だ。どの階も同じなのだろう。

 火災とか起きたときの避難路とかは大丈夫かしらね……。

 

「ここだ」

 勧誘員が立ち止まったのは705というプレートの貼られた扉の前。

 ”エンジェルカンパニー”というどこにでもありそうなありきたりの企業名らしき

看板……というかシールが貼られていた。

 エンジェルカンパニー?

 あまりにも俗すぎて思わず噴出しそうになる。

 ○○カンパニーとか○○企画とかいうのはこの業界でよく使われる名前だ。

 その営業場所は、こういった雑居ビルやワンルームマンションなどである。

 決して一所で長期間も事務所や店を構えることはせずに、警察の摘発を避けるため

に転々と居場所を変えていくのである。また警察内部の事情に詳しくて、摘発情報を

売る情報屋などというものの存在もある。

「そういえば、あの刑事……今頃どうしているかしらね」

 佐伯薫として生活安全局の警察官としてAV業界の摘発を行っていた頃を思い出し

た。

 その刑事は、こういった場所や裏ビデオショップとかブルセラショップとかに出入

りしては、摘発情報を教えては幾ばくかの情報料をせびる悪徳刑事だった。ついでに

裏ビデオとかもただでくすね取る奴だった。裏事情に詳しく店を変えても執拗に居場

所を探し出してしまう。そいつに逆らってはこの業界では食っていけなくなるので、

店主達は仕方なくいいなりになっていた。

 こういった組織やその背後にある暴力団とかと密接に関わって、甘い汁を吸おうと

する悪徳刑事はいくらでもいる。

 摘発屋からの情報と背後関係とかを極秘裏に調べ上げて、その組織と刑事を逮捕に

至ったのである。懲戒免職の上、地方裁判所にて懲役5年の刑が下され、控訴したと

聞いたがその後の事は判らない。

「入りたまえ」

 勧誘員がドアを開けて中へと誘う。

 中へ入ると、ドアに鍵を掛けた。

 だろうね。

 こんな所に入ってこられると困るだろう。

 

「今、カメラマンを呼んでいるところだ。しばらく待っていてくれないか」

 応接セットを指差して、流し台のある方に行ったかと思うと、カップを持って戻っ

てきた。

「まあ、コーヒーでも飲みながら雑誌でも読んでいてくれ」

 と、持ってきたコーヒーカップとアイドル情報が載っている雑誌を、目の前のテー

ブルの上に置いた。

「コーヒーか……」

 おそらく睡眠薬が入っていると思われる。

 準備が整うまで眠らせておこうという魂胆である。

 これからこの男と、おっつけやってくる組織員とによって、繰り広げられるだろう

場面が想定された。

「素人本番シリーズ! 強姦生撮り! 奪われた処女!!」

 とかいったタイトルが付けられるだろうAV撮影場面である。

 誘いこんだ女性を身動きできないようにしておいて、本番の強姦シーンを撮影しよ

うというのである。

 それは女性が目を覚ましてから撮影が開始される。眠っていては迫力ある強姦シー

ンなどあり得ないからである。

 もちろん女性はまさしく強姦されるわけだから、逃げようとし必死で泣き叫ぶだろ

う。

 そんなことはお構いなしに、犯され苦痛にゆがむ様を生撮りしていくのである。

 強姦マニアにはよだれもののAVビデオの出来上がりである。

 撮影が終われば、

「言う事を聞かないと、今撮影したビデオをAV業界に売り渡すぞ」

 とか脅迫して口止めとすると共に、次なる段階である売春婦の道へといざなうのだ。

 女性が言う事を聞いて売春婦となるもならないも、結局ビデオは売られてしまうの

だ。

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2019年3月24日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 III

 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌

 III 超伝導磁気浮上航行システム

 通常の航空機は、ジェットエンジンの推力によって前進する際に、飛行翼の上下に
掛かる気圧差によって、浮上する揚力を発生させて大気圏を航行することができる。
前進することによって浮上することのできる航空機であるが、当然空気のない宇宙空
間では飛行翼は意味をなさず、推進剤に空気中の酸素を利用するために宇宙を航行す
ることはできない。
 エンジンの噴射方向を下に向けて垂直上昇できるV-TOL機もあるが、質量を浮
かせるためには甚だしい燃料を消費してしまい、大型の戦艦などにはとうてい利用で
きなかった。
 やはり大気圏内では飛行翼は必要不可欠であった。
 では、飛行翼のない機動戦艦ミネルバはどうやって浮上航行するのか?
 その答えが、超伝導におけるマイスナー効果を利用した、超伝導磁力浮上航行シス
テムである。
 科学実験などで、極超低温にした超伝導体の上に浮かぶ磁石の映像をご覧になった
人も多いと思う。
 超伝導体を超低温にすると電気抵抗が0になると同時に、完全反磁性「マイスナー
効果」となって、外部の磁場をはじいてしまう現象が起きる。これによって磁石の磁
力線が反発されて浮いてしまうのである。
国立大学55工学系学部HPより
 これを大掛かりにして、艦体の浮上システムに応用したものが、戦艦ミネルバに搭 載された超伝導磁気浮上航行システムである。  ただし一定以上の磁場がかかるとマイスナー効果が突然消失してしまう現象が起き る。これを防ぐために、ニオブ (Nb)、バナジウム (V) を素材とした第二種超伝導体 が、そしてさらに第三種超伝導体へと開発研究され、強磁場の中でもマイスナー効果 を持続できるように最新鋭戦艦用としてミネルバに搭載された。  コンパス(方位磁針)が常に南北を指し示すことでも判るとおりに、地球には地磁 気という惑星全体をカバーする巨大な磁力線があり、この磁力線に沿って浮上航行で きるように超伝導体を組めば、飛行翼なくしても自由に大気圏を航行できるというわ けである。もっとも高速移動のための通常のジェットエンジンもちゃんと搭載してい る。  唯一の欠点としては地磁気をその浮上のエネルギーとしているために、地磁気のな い宇宙空間ではまったくの無用の長物と化してしまうことである。  そんな最新鋭の設備を搭載した機動戦艦ミネルバを設計したのが、フリード・ケイ スン技術士官であることは言うまでもないが、それらのシステムの根幹を支えるのは、 絶対零度に近い極超低温状態にある物質、その特異性を利用する科学の究極の姿であ ることを忘れてはいけない。  ●電気抵抗値が0となる超伝導とマイスナー効果。  ●絶対零度になっても固化せずに液体状態を示す零点振動(ヘリウム4など)と、 粘性が0になる超流動現象。  ●原子が指向性・可干渉性を持つBEC(ボーズ・アインシュタイン効果)及び原 子レーザー。……などなど。  最新科学及び宇宙理論の真髄には、極超低温状態における物質の科学をいかにして 極めるかに掛かっているといえる。  ミネルバ艦橋。 「敵戦艦さらに接近中!」  パネルスクリーン上のレーダー解析図上の光点が、ミネルバの現在地点を示す中心 点へと急速接近しつつあった。 「迎え撃ちます。全艦、第一種戦闘配備!」 「第一種戦闘配備」 「艦首を敵艦に向けよ。面舵一杯」 「Starboard! 面舵一杯!」  艦体を傾けながら、敵艦に向かうミネルバだった。
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2019年3月23日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 ミスト艦隊 VIII

第二章 ミスト艦隊

                VIII

 ミスト艦隊旗艦の作戦室。
 アレックスは各艦の艦長と部署の責任者を招集して、作戦会議を開いていた。
 アレックスが育て鍛えた艦隊の士官達なら、一つのことを伝えれば十のことを理解し
てくれていた。これまでのアレックス流の戦闘のありかたを知り尽くしていたので、こ
まごまとした残りの九割の部分は、言わずとも確実に伝わったのである。
 今回の戦闘に勝利するには、意思伝達を緊密に図っておかなければ、勝てるものも勝
てなくなる。
「艦隊の半数を別働隊として、このラグランジュ点に待機させて、側面攻撃をかけま
す」
「別働隊ですか? ただでさえ、こちらの艦数が少ないというのに、別働隊を無視して
本隊に急襲をかけられれば持ちこたえられません」
「そうかも知れませんが、我々に勝つ方法があるとすれば、これしか考えられません。
側面から攻撃を掛けられたら、回頭して相手にするか、やり過ごして加速し本隊を急襲
するかでしょう。そこに勝算が生まれます」
 会議に参加する者には、アレックスの真意が伝わらないようであった。自分が育てた
艦隊ではないから致し方のないことであろう。
「詳しく解説してください」
「判りました」
 アレックスは苦々しく思った。
 パトリシアがいれば……。
 サラマンダーに残してきた作戦参謀。身近にその存在がないというのは、痛切なほど
に身に沁みた。
 最高速・高性能のCPUを持っていたとしても、ディスプレイなどの表示装置や通信
機器などの周辺機器が接続されていなければ、無用の長物と化してしまうのは必至であ
る。
 敵に確実に打ち勝つには、綿密なる作戦立案が必要である。それはアレックスの頭の
中でまとまってはいるのだが、何も知らない一兵卒に至るまで周知させるのは並大抵の
ことではない。
 早い話が口下手といって良いかも知れない。
 作戦会議から三時間が経過した。
 ミスト艦隊の本隊から離れていく別働隊。
 その指揮を執るのは、ミスト艦隊司令のフランドール・キャニスターである。
「司令、どうして別働隊の指揮を買って出たのですか?」
 副官が改めて聞きなおした。
 本来ならよそ者のアレックスが率いるべきはずである。
「別働隊は陽動とし、敵の攻撃を直接受け止めるのが本隊と考えるのが普通なのだが、
提督はこちらが主力だと言った。それがゆえに半数の艦隊を割いたのだと」
「それが判りません。一応説明はされたのですが、どうしても納得できません」
「納得するしかないだろう。これまでの提督の作戦は、当初には誰にも受け入れられな
いことが多かったじゃないか。しかし、最終的には劇的な戦果を挙げて昇進してきた」
「それはそうですけどね」
「ともかくだ……。我々の総意で提督に指揮を委ねたのだから、最後まで信じて戦うよ
りないだろう」
「判りました」

 ミスト旗艦。
 その指揮官席に陣取るアレックス。
 正面のスクリーンには、本隊から離れていく別働隊が映し出されていた。
「別働隊。予定のコースに入りました」
「よろしい。敵艦隊との遭遇推定時刻は?」
「およそ五時間後です」
「そいじゃ、お出迎えするとしますか。全艦微速前進!」
「全艦微速前進」
 アレックスの補佐を勤める役になった副司令のコーマック・ジェイソンが命令を全艦
に発令する。
 艦橋にいるすべての者が、これから繰り広げられることになる連邦軍との戦闘に胸を
ときめかせていた。
 何せ、共和国同盟の英雄と称えられる名将が、自分達の艦隊の指揮を執るのである。
 たとえ相手の艦数が数倍に勝り、歴戦の勇士達だったとしても、誰一人として不安を
抱く者はいなかった。
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2019年3月22日 (金)

性転換倶楽部/響子そして 新しい門出(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(十七)新しい門出

 それからしばらくして、彼女は赤ちゃんを抱いて退院していった。
 わたしの方も覚醒剤からの脱却のプログラムが終わりを告げようとしていた。
「よおし、良く頑張ったね。もう覚醒剤はいらないよ」
「でも、量を減らしてきたとはいえ、完全にやめても大丈夫でしょうか?」
「その心配はいらない。ここ一週間、覚醒剤は射っていないからね」
「え? でも昨日まで注射してたじゃないですか」
「注射したのは、ぶどう糖だよ。いわゆる精神治療の一貫だよ。とっくに身体的覚醒
剤からは脱却できていても、精神的にはなかなかその不安を取り除くことができない。
特に覚醒剤はそうなんだ。だから覚醒剤と偽ってぶどう糖を打ち続ける。その後で事
実を話してあげると、納得して安心できるというわけさ」
「そうでしたか……」
「ところで、退院ということになるのだが、住むところも働くところもないんだろ?」
「はい。祖父がいるんですが、裁判以降連絡がありません。たぶん勘当されていると
思います。そうでなくてもこの身体ですから戻るに戻れません」
「だろうな……。そこでだ。君にいい就職先を紹介してあげようと思う。社員寮もあ
るから住む場所も心配しなくていい」
「ほんとうですか?」
「袖触れ合うも多少の縁というからな。あ、いかがわしい会社じゃないからな。安心
したまえ」
「ありがとうございます」
「これが紹介状だ。期日は今日なんだが行ってくれないか。相手も忙しい身でね。他
に時間が取れないんだ」
「でも、着ていく服がありません……」
「うん。身一つで入院したからな。服もこちらで用意してあるよ。後で看護婦が持っ
て来てくれることになっている」
「何もかも……すみません」

 こうして看護婦が用意してくれた、リクルートスーツ一式で身を固めて、その会社
へと足を運んだ。
 駅近くの一等地に自社ビルを抱える一流の製薬会社だった。
 それだけでも驚きなのに、まさか……、二次面接で社長室を訪れた時、そこに先生
が座っているなんて、本当に驚いた。
 わたしは受付嬢としての辞令を頂き、早速その日から家具付きの社員寮に入る事が
できた。入社祝いという事で、先生がポケットマネーを出してくれた。そのお金で衣
料品や日用雑貨品を買い揃える事ができた。
 夢のような日々が過ぎていく。
 さらには先生の尽力で、戸籍の性別変更が認められて、磯部響子という正真正銘の
女性になった。男性との結婚もできるようになった。
 会社の顔である受付嬢の仕事は大変だったが、やりがいもあった。
 十六歳の時から、飲みはじめた女性ホルモンのおかげで、完全な女性のプロポーシ
ョンを獲得して、社内一の美人ともてはやされた。

 そしてある日、倉本里美というわたしより美しい女性が入社してきた。
 なんと! わたしと同じく先生から性別再判定手術を受けていたのだ。
 しかし、ほとんど強制的に知らないうちに手術を施されという。
 聞けば、あの研究所員が発明したという、ハイパーエストロゲンとスーパー成長ホ
ルモンを注射されて、たった一日で豊かな乳房になってしまったというじゃない。あ
の話しは、ほんとだったんだと再認識した。
 そういうわけで、女性に成り立てて、まったく何も知らなかった。普通の性転換者
は、女装や化粧を身に付けて、しっかりと女性の姿でいることに自信を持てるように
なってから、手術を受けるものだ。
 化粧の仕方も、生理の手当てすらも知らない初な女性。それが里美だ。
 わたし達は、一緒に暮らすようになって、女性としての教育を里美に教え込んでい
った。もともと素質があったのか、彼女はまたたくまに女性的な言葉や仕草を修得し
ていった。
 わたしより二つ下で、共に生活しているうちに妹のように感じるようになっていた。
里美の方も、わたしを姉のように慕っているようだった。里美は本当に可愛い。

 さらに渡部由香里が妹に加わった。
 この娘は心身共に完璧な女性だ。その証拠に先生の息子で会社の専務である、英二
さんと大恋愛し婚約するまでになった。潔白の精神の下に清い交際を続けたあげくの
ゴールだ。わたしも明人という旦那がいたにはいたが、それはセックスという行為で
結ばれたものだった。わたしと明人との愛をはるかに超越した、男女の真の愛の姿と
いうものを感じさせてくれる。
 他人も羨むほどの仲睦まじい関係なのだが、由香里の尻に敷かれている英二さんが
情けない。会社では営業成績断トツの営業マンで、威風堂々の専務なのであるが、由
香里の前では尻尾を振る飼犬に成り下がってしまう。
 しかもこの二人、お酒にめっぽう強いのだ。うわばみと呼んでもいい。
 英二さんがプロポーズした食事会のあの日。食事の後、二次会・三次会と称して飲
み歩いたのだが、わたしと里美がダウンし、わたしのアパートに戻っても、自宅にキ
ープしていたボトル五本を空にするまで、飲み明かした。しかも翌朝、二日酔いでふ
らふらのわたしと里美を尻目に、まったく平気な顔で出社していた。
「さあ、今夜は五次会だよお」
 とか言って、酒と肴をごっそりと買い込んできたのには、さすがに参った。
 婚約したのがよっぽど嬉しかったのだろうが、いい加減にしてほしいわよね。
 なお念のために言っておくと、先生の手による性転換の実施日はわたしの方が早い
が、女装歴については彼女の方が長い。つまりわたしが仮出所した日より以前に、睾
丸摘出の手術をされたらしい。

 そして桜井真菜美……。
 この娘は十六歳の高校生。
 わたしたち三人とは違って、正真正銘の女の子。
 自殺して脳死状態に陥ったが、さる男の脳を移植されて生き返った。
 思えば、この男の捕物帳における囮役は、男性経験豊富なわたし以外には考えられ
なかった。先生もそれを考慮して決定してくれたようね。
 あまりにも悲惨なわたしの過去は、妹達には一切秘密にしている。
 脳神経細胞活性化剤と女性ホルモンによって、脳の再分化が起こり女性脳に生まれ
変わったのだが、真菜美ちゃんは記憶喪失状態。しばらくは元の男性の意識体がバッ
クアップしてくれていたようだが、今は深層意識の奥底に潜り込んで表には出てこな
いそう。
 これから体験し記憶する事が新たなる人格形成となる。
 わたし達は、この娘の成長を温かく見守る事にしている。

 これまでのわたしは、波乱万丈というめまぐるしい人生模様が繰り広げられていた。
 わたしの人生は、常に性行為という男女の絡みが付きまとっていた。
 覚醒剤に翻弄された人生。わたしと明人の母親。わたし自身も危うくその毒牙に犯
される寸前にあった。
 血液型では、両親を仲違いさせる原因となったが、明人の命を救った。
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2019年3月21日 (木)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 追跡(R15+指定)

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(三十九)追跡

 それから勧誘員の運転する自動車に乗って、そのスタジオへと向かった。
 もちろん捜査員と別れて、わたしと勧誘員の二人だけである。
 わたしを陥れようとしているのに、邪魔なこぶ付きを許すわけがない。
 後部座席に腰掛けているわたしを、ルームミラーでちらちらと眺めながら車を走ら
せる勧誘員だった。

 その頃、敬は……。
 勧誘員の自動車を着かず離れず、後ろから追いかけていた。
 女性の運転する自動車の助手席に陣取っている敬。
「見失わないで下さいよ」
「大丈夫ですよ。これをご覧下さい」
 という女性の指差すところには、車載ナビゲーターがあった。
 GPSと連動して、自動車の位置をリアルタイムで地図上に表示する装置である。
「赤い点滅がこの車で、青い点滅が真樹さんです」
 ナビゲーターに表示された地図に、赤い点滅と青い点滅が明滅していた。
「発信機ですよね。いつの間に取り付けたんですか?」
「取り付けたんじゃない。真樹の身体に装着してあるんだ」
 後ろの座席から、黒沢医師が顔を出して答える。
 黒沢も、真樹のことが心配で囮捜査のバックアップ部隊に参加してきているのであ
った。
「装着? 以前、真樹が髪飾りがどうのとか言ってましたけど……」
 と敬が尋ねると、
「それは真樹君の体内に埋め込んだ発信機からの信号だよ」
 黒沢医師が答えた。
「発信機を身体の中に埋め込んだんですか!?」
「そう驚くことはないだろう。埋め込んだとは言ってもメスを入れたんじゃんない。
女性には男性にはない隠し場所があるだろ?」
「え?」
 一瞬首を傾げる敬だったが、
「あ……。ああ、そういう事ですか。判りました」
 と納得する。
「髪飾りだと外れることがあるし、何かにぶつかって壊れることもあるからな。彼女
のために、万が一を考えて妊娠しないようにとIUDを装着してやった。それに発信
機がついているのだよ。本人には内緒だがね」
 妊娠しないようにか……。
 その言葉を聞いて、言い知れぬ不快感を覚える敬だった。
 覚醒剤密売の組織の本拠地を探り、売春婦として無理矢理捉えられている女性を解
放するために、囮捜査で潜入することを、自ら志願したとはいえ……。
 将来を誓い合った恋人してはやり切れないものがあった。

「にしても……。こんなスーパーカーで出張ってくるなんて。目立ちすぎはしません
かね?」
 敬が運転席の女性に話しかける。
 敬たちが追跡に使っている車は、そんじょそこらにあるような車ではなかった。世
界有数の企業グループである篠崎重工が四百周年記念に十台限定生産で発売した、篠
崎重工製「erika-markII スーパーエンジェル」という七千万円はするかという代物
だった。
 それを所有しているのが、かつて敬が所属していた特殊傭兵部隊を傘下にしていた
セキュリティーシステムズco.ltdの統括運営母体、世界最大財閥の真条寺家。その所
有のスーパーカーであった。
「仕方がありませんよ。真樹さんの発信機からの電波を受信できるのは、お嬢さまの
ファントムVIと、麗華さまのこの車に搭載したこのナビゲーターしかないんですか
ら」
 と答える運転席の女性は、真条寺家のメイドの神田美智子。
 麗華とは、美智子がお嬢さまと呼んだ真条寺財閥総帥である真条寺梓、その執権代
理人こと竜崎麗華のことである。
 警察によって殉職したとして戸籍を抹消されたはずの敬が、パスポートなしで日本
に入国できたのは、この竜崎麗華のおかげである。
 自動車が止まった。
「どうやら芸能プロダクションとやらに着いたようです」
 ナビゲーターの点滅が、先ほどから動かなくなっていた。
 どこかの駐車場にでも入ったのだろう。
「どのマンションですか」
「マンションじゃなくて、いわゆる雑居ビルですね。ナビゲーターにビルの全体像を
投影してみましょう」
 美智子が捜査すると、ナビゲーターにビルが映し出された。
 ○○金融、ビデオレンタル……、というような看板や窓ガラスの大きな広告が目立
つビルで、狭い敷地一杯に建てられていた。しかし、その映像はどう見ても上空から
俯瞰したものであった。
「この映像はどこから撮影しているのですか?」
「衛星軌道上の『azusa5号A』という資源探査気象衛星からです」
「衛星からですか?」
「ええ、5号B機に世代交代して引退したものを、今回の捜査のために利用させてもら
っています」
「衛星からの映像を自由に扱えるなんて、さすがに真条寺財閥ですね。いっそのこと
その財力で覚醒剤密売や売春組織も壊滅してくれれば、世のため人のためになるとい
うものを」
 敬が呟くように言うと、黒沢医師がそれに答える。
「光があれば闇もあるものだ。相反するものではあるが、必要でないようにみえて実
は必要という事もある。例えば人間の腸に寄生する、腸内細菌は栄養をかすめとる一
見悪者のように見えるが、ビフィズス菌や乳酸菌のように悪玉菌の繁殖を抑えること
をやっている善玉菌もいる。また太陽から吹き寄せる太陽風エネルギーは、強烈な放
射線を伴っていて人間は数秒とて生きてはいられないが、その太陽風がバリヤーとな
ってもっと光速で高エネルギーな外宇宙からの宇宙線を遮断している。そういう場合
もあるということさ」
「はあ……。難しくて判りません」
 正直に感想を述べる敬だった。
「もっと判りやすくいえばだ。闇の臓器売買組織を考えてみてくれ。裏の誘拐団組織
が殺した人間から臓器を摘出し、臓器売買の世界に臓器を流している。確かに極悪非
道の世界かも知れないが、その反面臓器移植で助かる人間もいるし、臓器移植の技術
や臓器長期保存の技術も革新的に進歩してきている」
「あのう……。確かにそうかも知れませんが、覚醒剤や人身売買で苦しんでいる人の
気持ちはどうなるのですか? それでいいんですか? 高次元なレベルじゃなくて、
もっと身近なレベルで考えてくださいよ。我々は警察官です。人が苦しんでいる。そ
れを助けるのが任務なのですから」
「あははは……。確かにそうだ。えらい!」
 とぽんと敬の肩を叩いて笑い出す黒沢医師だった。
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2019年3月20日 (水)

性転換倶楽部/響子そして 赤ちゃんのこと(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(十六)赤ちゃんのこと

 それから数日後。
 わたしは、かの女性の病室を尋ねることにした。
 彼女が退院する前に、一度会っておきたかった。
 彼女は、丁度赤ちゃんを抱いて授乳させているところだった。
「こんにちわ。お邪魔します」
「聞いているわ。わたしと同じ性転換手術した女性が入院しているって。あなたね」
「はい。そうです」
 赤ちゃんは、一心不乱にお乳を飲んでいる。時々、その乳房を軽く揉むような仕草
をみせるのは、お乳が出やすくするため本能的にやっていることなのか。
「ちゃんとお乳が出るんですね」
「当たり前よ。この娘を産んだ母親なんだから」
 十分飲み終えたのか、乳首から口を離した赤ちゃん。それを見計らったように、彼
女は抱き方を変えた。
「赤ちゃんは、お乳と一緒に空気も飲み込んじゃうの。その空気を胃から追い出さな
ければならないけど、自分でげっぷを出せないから、こうやって縦だっこして背中を
たたいて、出してあげないといけないの」
「へえ、そうなんだ」

「あの……。わたしに、抱かせていただきませんか?」
「どうぞ、構いませんよ」
 快く引き受けてくれた。そっと大切に受け取って抱き上げる。
 一瞬、とまどったような表情をした赤ちゃんだったが、やさしく声をかけてあやす
と、安心したような顔に戻った。
 じっとわたしを見つめている。
「可愛いでしょう?」
「ええ、とっても。さっきからじっと見つめてるわ」
「それはね。赤ちゃんは本能的に、黒くて丸いものに反応する習性があるのよ。実際
にそれは母親の瞳になるんだけどね。だからじっと見つめ合う格好になるわけよ」
 そういえば、鳥の雛が親鳥の口先の色に反応してそれを突つく習性があって、それ
が餌をねだる行為になっていると聞いたことがある。
 指を頬に軽くあてると、それを吸おうとして顔をそちらに向ける。反対を触るとま
たそっちに向こうとする。お乳を飲んで満足しているはずだが、頬に何か触ると反射
的にそれを吸おうとするのだ。
 足の裏を触ると、足指を曲げる動作をする。くすぐったいからではなく、そのもの
を握ろうとする反射だそうだ。
 やがて、小さな口を精一杯開けてあくびをすると、そのまますやすやとわたしの腕
の中で寝入ってしまった。
「あは……眠っちゃった。可愛い寝顔」
「それは、あなたを母親だと思って安心しきっているからですよ」
「母親?」
「赤ちゃんが眠りにつくには、心身ともにリラックスできる状態じゃないと、なかな
か寝付けないのよ。母親に抱かれているという接触的安堵感、そしてやさしいその表
情と声掛けがあって、自分は見守られているんだと本能的に感じ取って、はじめて安
心して眠る事ができるわけね」
 そっと静かに、傍らのベビーベッドに寝かせて布団を掛けてあげる。
「あなたには、しっかりとした母性本能が身についているわ。これなら子供を産んで
も大丈夫よ」
「そうかしら……」
「たった今、この娘が証明してくれたじゃない」
「それは、そうみたいだけど……」
「自信を持ちなさいよ。大丈夫、あなたならちゃんと母親になれわよ」

 彼女は、わたしが子供も産める女性になるために、本当の性転換を受けたけど、母
親になる自信を持てないと思っているようであった。

「実はわたし、手術は二度めなんです」
「二度め?」
「最初は、人工的な造膣術を施しただけの手術で自分の意思で行いました。二回目の
今度は、実は自殺して意識不明の間に先生が、本当の女性にする手術をしてくれまし
た。そういうわけだから、わたし最初から、子供を産む事なんか考えもしなかったん
です」
「へえ、自殺したんだ……。何か、いろいろと深い事情がありそうね。よかったら話
してくださらないかしら? わたしでも相談にのってあげられることもあるかも知れ
ないから」
 彼女は、わたしと同じ性転換者であり、悩みについても共通のものがあると思った。
 わたしは正直に話した。

「そうか……。大変だったわね。覚醒剤は、人生を狂わせる悪魔の薬。一度その毒牙
にかかったら二度と抜け出せない。わたしの研究所でも、こっそり持ち出したり、使
用量を偽ったりして、試しに使用してみる人が結構いるのよね。で、抜け出せなくな
って、さらに持ち出して発覚してくびになってる。結局抜け出せなくなって廃人にな
ってしまったのを何人も知っているわ」
「あなた、覚醒剤に関わっているの?」
「だって、製薬会社の研究所員ですもの。覚醒剤どころか、大麻・麻薬、今はやりの
合成麻薬MDMAだって扱っているわよ。でも、わたしが担当しているのは、女性ホ
ルモンとか性転換薬とかいった分野よ。つまり、あなたとわたしに直接関わるホルモ
ン剤の研究してる」
「性転換薬なんてできるの?」
「できるわよ。原理は判ってるし、調合方法も完成しているの。ただ、原料がなかな
か手に入らなくてね。苦労しているわ。もう一つの研究テーマである、ハイパーエス
トロゲンとスーパー成長ホルモンは完成してる。先生に臨床実験をお願いしているわ」
「なにそれ?」
「答える前にこちらから質問するわ。あなた最初の性転換手術する時、当然女性ホル
モン飲んで胸膨らんでいたでしょう?」
「ええ、もちろん」
「それなりになるのに、何ヶ月かかった?」
「わたし、思春期にはじめたからAカップになるのに二ヶ月、半年でCカップだった
わ」
「へえ、早いのね。わたしなんかAカップには半年かかったし、Bカップ以上にはな
らなかった。もっとも今は授乳のために臨時的にDカップくらいにはなってるけど。
で、本題……。さっきのホルモン剤は、たった一晩で立派な乳房や女性的な身体を作
り上げちゃうという夢の薬なの」
「ほんとうなの?」
「ほんとうよ」
「信じられないわ」

「話しは戻るけど、女性ホルモンだって、男性が飲みはじめて半年以上も経てば、睾
丸が萎縮して、二度と元に戻れなくなる。一生飲み続けなければならないという点で
は、覚醒剤みたいなものね」
「それはそうだけど……。でも、わたし達は飲まなくてもいいんでしょ?」
「当たり前よ。卵巣があるんだもの。子宮もね」
「でも反面、毎月生理になるわ」
「それだからこそ、女性の喜びもあるわ。子供を産めるんだもの」
 と言って、ベビーベッドの赤ちゃんに目を移す彼女。
 実際に現実を目の当たりにしていると、彼女の言い分が正しいように感じる。
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2019年3月19日 (火)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 潜入(R15+指定)

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(三十八)潜入

 とある喫茶店の指定の席に腰掛けて、囮捜査に掛かる情報を持ってきたという人物
を、敬と二人で待っていた。
「ねえ、今更聞くのもなんだけど……、ニュースソースは確かなの?」
「あのなあ……。そういうことはもっと前にちゃんと確認するものじゃないのか? 
ただでさえ、身の危険をともなうことなのに」
「だって……」
 たしかに敬の言うとおりだった。
 響子さんに酷い目に合わせた、覚醒剤・売春組織の情報が入手できたというので、
舞いあがっていたのである。
 よし!
 組織を壊滅してあげるわ。
 ……てな感じで、猪突猛進だった。
 喫茶店のドアが開いて、それらしき二人の人物が入ってきた。
 敬が手を挙げて招き寄せる。
 二人が、わたし達の席に合い席で座った。
 早速敬が紹介をはじめた。
「紹介するよ、今回の捜査に協力してくれる金さんだ。例の勧誘員とはかつての親友
だったらしい」
 金というと韓国か中国系の人かしら……。
 金さんは、流暢な日本語で喋りだした。
「彼とは仲が良かったんですが、暴力団の組織に入っだけでなく、売春婦の斡旋なん
かはじめて……。友として、女性を辱めるそんなことなんかやめろと何度も言ったん
ですが……」
 ちょっと中国系のなまりかしら……。
「というわけで、親友をこんな仕事から足を洗わせたいと情報をくれたんだ。その情
報を元に、こっちの捜査官が奴に引き合わせる役をやる」
 もう一人の男性が挨拶する。
「どうも、都庁の春田です。よろしく」
「どうも……」
 もう一人は、ちょっとよれよれの背広を着た、一見コロンボ刑事のような感じの男
性だった。
 都庁の職員か……。
 都道府県にもそれぞれ売春防止法に関わる部門があるわけだから。
 まあ、いかにも刑事というような目の鋭い人物だとまずいのだろう。
 というわけで、情報をくれたという人物が説明を始めた。
「彼は芸能プロダクションのアイドル勧誘員と称しておりますが、実際には売春婦の
斡旋業が本業です。若い女性に声を掛けては、スタジオ撮りと称してマンションに連
れ込み、覚醒剤を使って言いなりにさせて売春婦に仕立て上げるのです。
 まずはその場で強姦生撮りAVビデオを撮影して、AV業界に売り渡します。まさ
しく本人の同意を得ない無理矢理の強姦シーンを生撮りするわけです。泣き喚き抵抗
する女性達の本番生撮りですから臨場感抜群ですからね。バージンなんかだったりし
たら「強姦! 処女の生贄シリーズ」とかいうタイトルのアダルトビデオは奴らの作
品ですよ。バージンなんてのは売春婦には無用の長物ですからね。
 犯された挙句に、言う事を聞かないとこのビデオをばらまくぞと脅されて、泣く泣
く売春婦として働かされる場合もあるのです。まあ、結局はAVビデオとして売られ
てしまうのですがね。それで言いなりにならない場合は、覚醒剤の虜にしてからとい
うことになります」
 以前にも内容を聞いたが、ほんとうにひどい話だった。
 本番生撮り強姦シーンを撮られて、素人AV女優デビュー。
 その後は覚醒剤の虜にされ、逃げることも適わずに売春婦とされてしまう。
 そんな女性達が地下組織に捕われて、売春婦として調教され売られていく。
 見逃すわけにはいかない。
 誰かが組織を壊滅しなければ……。
 そうよ。
 このわたし……。
「それじゃあ、打ち合わせをはじめるぞ」
 敬が切り出した。
 その勧誘員に紹介する際の、こまごまとした打ち合わせをはじめるわたし達だった。


 そして二時間後、わたしはその勧誘員に会っていた。
 都庁職員の姪とということで、アイドルになりたいという設定だった。
 芸能プロダクションの友達がいると金さんから聞いて紹介してもらおうとやってき
たということになっている。
「金なら知っていますよ。僕の親友ですからね」
 親友だった、の間違いじゃないの?
 にしても、喋り方が丁寧だ。
 まあ、女性を引っ掛けるのが商売だから、言葉使いには気をつけているのだろう。
 都庁職員が、勧誘員に頼んでいる。
「……というわけで、姪っ子をアイドルにしてやってくれないか」
「ほう……」
 じろじろとわたしの身体を嘗め回すように観察する勧誘員。
「何歳ですか?」
「24歳です」
「年食ってますね」
 失礼ね!
 そりゃあ確かに、アイドルとくれば二十歳未満だろうけどさ……。
 それに実年齢も……。
「まあ、いいでしょう。で、いつから来てくれるのでしょう」
 でしょうねえ……。
 こいつの本当の目的は、若い女性を勧誘して覚醒剤の売春婦を探して組織に売り渡
すこと。
 そこいらの売春婦程度なら、高校生・大学生でなくても大丈夫だから。
 要はセックスができればそれでいい。
 顔なんか、二の次三の次くらい。
「今からでも結構です」
「そうですか……」
 呟くように言うと、携帯電話を取り出した。
「ちょっと芸能プロダクションに連絡を取ります」
 言いながら、席を外した。
 芸能プロダクション?
 よく言うよ。
 売春組織でしょう?
 外へ出てどこかへ連絡している勧誘員の姿が、大きな店のガラス越しに見えている。
 やがて、
「お待たせしました」
 と戻ってくる。
「それでは早速スタジオに行きたいと思いますがよろしいですか? 芸能プロダクシ
ョンに紹介するための写真を撮りたいと思いますので」
 早速きたわね。
「はい、大丈夫です」
 わたしは、立ち上がった。

 さあ、囮捜査の開始だ!
 どんなことになるのか……。
 神のみぞしる。
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2019年3月18日 (月)

性転換倶楽部/響子そして 出産(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定 この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(十五)出産 「おお! そろそろ出てくるぞ」  女性の膣から、胎児の頭部が出てきていた。 「うーん……どうかな……」  先生は妊婦の足元に歩み寄り、その頭部の出かけているのをじっと監察している。 そしてやおら、頭部が押し広げている、外陰部のあたりを触診しはじめた。 「よし、大丈夫だ。会陰切開しないでも済みそうだ」  そう言うとわたしの所に戻ってきた。 「えいんせっかい、ってなんですか」 「ああ、膣と肛門の間のところを会陰というのだが、分娩の際に赤ちゃんの頭部が大 きすぎたり、外陰部の柔軟性が足りなかったりすると断裂することがあるんだ。そう ならないように、わざとメスを入れて切開してやると、すんなりと赤ちゃんが出やす くなる。後で糸で縫わなければならないが、断裂した場合より治りが早いんだ。医者 によっては、全員を会陰切開してしまうのもいるな」 「先生はなさらないのですか?」 「ああ、産後の肥立ちにかかわるからね。切らないで済めばそれだけ治りも速くなる し、二度目以降の出産にはすんなり胎児が出てこれるようになる。一度切開しちゃう と今後も切開しなくてはならなくなる。縫合痕は大概肉が盛り上がって、組織が固く なってしまうからね、次回の分娩の妨げになるんだ」  先生は妊婦から目を離さないようにしながら喋っている。急激な容体変化を見落と さないようにしているのであろう。 「君だって、最初の性転換術を受けた時には、拡張具を使って膣拡張をやっただろ う?」 「ええ……」 「あれと同じだよ。はじめて拡張具を使う時は、どんなに細いやつでもかなり痛い。 慣らして慣らして、痛みを堪えながら少しずつ太くしていく。やがて一番大きなので も自由に出し入れできるようになる。それと似たようなものさ。一度大きなものが通 れば、二度目以降にはすんなりいく。初産はそれこそ、陣痛開始から丸二日もかかる 時があるが、経産婦ならたった六時間くらいで出てくる」 「さあ、もうすぐよ。大きくいきんで、力一杯に。最後の力を振り絞って」  助産婦の声も大きくなっていた。意識朦朧とする妊婦に声掛けして、頑張らせてい るのだ。 「う、うーん」  妊婦が、力一杯いきむと、 「おぎゃあ! おぎゃあ!」  部屋中に響き渡る元気な産声と共に、赤ちゃんが生まれ落ちた。  脱力感でぐったりとしている女性。  呼吸が楽に出来るように鼻腔に残った羊水の吸引、へその緒の処置がなされて、赤 ちゃんは付着した血液などを落とすために沐浴に連れて行かれる。  先生が再び、妊婦のところに行って、後処理をはじめていた。 「もう少し我慢するんだよ」  やさしく声を掛けている。  膣からずるずると何かが出てきた。  たぶん胎盤だと思った。妊娠から今日まで、胎児に栄養補給と呼吸を助けてきた胎 盤も、赤ちゃんが出たことで用がなくなり、排出されたのだ。 「よしよし。もう大丈夫だ。すべてが終わったよ。お疲れさま」 「先生。ありがとうございます」  しかし不思議なものだ。しっかり子宮に張り付いていたはずの胎盤が、分娩を境に、 大出血を起こす事もなく、跡形もなくきれいに剥がれ落ちてくるのだから。じつに巧 妙な仕組みで、一体どこから指令がでているのだろうか?  やがてきれいになった赤ちゃんが妊婦に手渡される。 「はい。女の子ですよ」 「可愛い……。あたしの赤ちゃん……」  幸せ満面の表情の彼女。あれだけ苦しんだのに、赤ちゃんを抱いたことで、すべて が水に流された感じだ。  こっちまで、なんか温かものが込み上げてくる。  しばらくすると赤ちゃんは、引き離されて保育室へと運ばれていった。  彼女もおむつと丁子帯をあてられ、分娩台から降ろされて病室に戻った。 「どうだ。分娩に立ち会った感想は? 同じ女性として、何か感じ取れるものはなか ったかい?」 「正直に感動しました。生命の誕生がこんなにも真剣勝負で、自分もこうやって生ま れてきたんだと思うと、改めて母の愛情の深さを感じました」 「その通りだよ。母の愛情を一心に受けて人は生まれてくる。その一端を君も担うこ とができるんだよ」  わたしの心のどこかに、将来もう一度恋をするような事があったら、産んでもいい なという思いが生まれていた。 「わたし、本当に子供を産む事ができるのでしょうか?」 「それは保証するよ。何も心配しないでもいい。君は、正真正銘の女性に生まれ変わ ったんだから」 「わかりました。もう一度考えなおしてみます。将来の事」 「それがいい。君はまだ若いんだ。先は長い。じっくり考えて答えを出すんだね」 「はい……」 「さあ、病室に戻ろうか」
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2019年3月17日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 II

 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌

 II 戦闘開始!  速度を上げながらミネルバに接近していくザンジバル級揚陸戦艦。  その艦橋では、ミネルバ攻撃への準備が着々と進行していた。 「陽電子砲の射撃システムに、大気による減衰の補正プログラムを入力」 「敵艦、陽電子砲の射程内に補足!」 「陽電子砲、臨界到達まで45秒!」  指揮を執るのは艦長のゼナフィス・リンゼー少佐である。  中肉中背のごく普通の体格ながらも、その表情からは聡明な感じを与えていた。  今回、彼に与えられた任務は、トランターにあって総督軍に対して反抗勢力となっ た第十七艦隊所属第八占領機甲部隊「メビウス」の掃討であり、特にその旗艦となっ ていると思われる「ミネルバ」を叩くことであった。  その側には副官のミラーゼ・カンゼンスキー中尉が控えている。 「やっと探しだせましたね」 「ああ、ここでこいつを撃ち落せば、後々の始末も楽になる」 「しかし、敵艦に関する情報がまったくないのが気になります。同盟軍の艦艇情報の コンピューターをハッキングされて、敵艦に関する一切合財が消されてしまったんで すから。戦艦に搭載された兵器の種類から、機動エンジンの方式さえも……。多方面 から集めた情報で、反乱軍の旗艦が「ミネルバ」という機動空中戦艦だと判った次第 ですからね。データがない以上、慎重に当たらねばなりません」 「敵には有能なハッカーがいるらしい。情報のやりとりには十分注意する必要がある だろう。ともかく、こいつが軍の施設から出航する際に得られた映像や戦闘記録から、 ある程度の戦闘能力は推し量れるがな」  占領軍である彼らにとって、同盟軍のコンピューターに記録された情報だけがすべ てである。  占領はしたものの、軍人や軍関係の技術者までも掌握して、すべてを統括できるま でにはさらに長い時間が必要であろう。  ましてや、ミネルバの設計者がフリード・ケイスンという、彼一人だけで戦艦の設 計ができてしまうという天才工学者にして天才プログラマーであることなど知る由も ない。 「敵の情報がつかめないとはいえ、発見した以上、このまま見逃すわけにはいかな い」 「そうですね」 「陽電子砲、発射準備完了しました」 「よし、ぶち込んでやれ」 「陽電子砲、発射!」  まばゆいばかりに輝いて、陽電子プラズマが大気をイオン化しながら突き進んでい く。  陽電子と大気中の電子との対消滅はすさまじく、見る間にエネルギーは減衰してい く。ライデンフロスト現象によって、減衰率はある程度低減されているとはいうもの の、大気中における陽電子砲の使用には限界がある。ぎりぎり肉眼視界にある敵艦を 撃つことができる程度である。それはザンジバル級揚陸戦艦にとって致し方のないこ とであり、惑星を守る防衛艦隊との戦闘を第一任務としているために、主砲として陽 電子砲を装備しているものだ。惑星への揚陸作戦に入ってからは、搭載したモビル スーツを降下させての掃討作戦となる。  ライデンフロスト現象とは、真っ赤になるまで熱した鉄板の上に、水滴を落とすと 蒸発した気体の層が液体の下に生じて、熱伝導を阻害して瞬時に蒸発するのを妨げる 現象である。また、大気がプラズマ化したり電離したりする時には、すさまじい音を 発生する。雷がゴロゴロ、バリバリと鳴るのはこのためである。  ともかくも陽電子プラズマが一直線にミネルバめがけて突き進んでいく。  そしてミネルバを包んだ。  しかし、陽電子砲のエネルギーは、ミネルバを回り込むようにして、後方へと流れ 去ってしまった。  まるで川中に頭を出した岩に当たった、川の流れのように……。 「どうしたことだ! 一体、何が起きたというのだ。陽電子砲が……」
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2019年3月16日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 VII

第二章 ミスト艦隊

                VII  サラマンダー艦橋では、アレックスからの連絡を今か今かと待ちわびていた。 「あれからだいぶ経ちますが、いまだに連絡がありません。提督はご無事なのでしょう か?」 「提督は十分な熟慮の上に行動なされたのです。心配することはないでしょう」  アレックスとの付き合いが最も長く、その人となりを知り尽くしているスザンナが平 然と答えた。  いっかいの旗艦艦長から旗艦艦隊司令へと大抜擢され、アレックスからの信望厚い人 物の発言である。その言葉を疑うものはいなかった。 「それよりも敵艦隊の動静に変わりはないか?」 「はい。侵攻ルート及び速度共に変化ありません」 「よろしい。こちらは戦闘態勢を維持、進路そのまま」  アレックスからは戦闘態勢の発令があったものの、その後の指示はいっこうに出され ていなかった。  巨大惑星による重力ターンの実行中であり、進路を変えて迎撃に向かうことは不可能 だった。  仮に進路転換しようものなら、強力な重力によって失速し、巨大惑星に飲み込まれる のは必至だった。そのことは、スザンナが一番良く知っていることである。 「提督より入電です」  一同がいっせいに通信士の方を振り向く。 「映像を正面スクリーンに映せ」  敵艦隊の進撃推定コースの投影されていた正面スクリーンがアレックスの映像に切り 替わった。SPとして同行しているコレットも側に待機している。 「提督、何かありましたか?」  スザンナが尋ねる。 「ああ……。このわたしがミスト艦隊を臨時に指揮することになった」 「提督がミスト艦隊の指揮を?」  スザンナに驚いた表情は見受けられなかった。もちろん通信を聞いている他の者も同 様であった。  敵艦隊の来襲となれば、英雄と称えられる提督に指揮を依頼することは、誰にも納得 できる。 「そういうわけだ。君達は、そのまま予定通りに動いてくれ。こちらのことが済めば、 後を追いかける」 「お一人で大丈夫ですか} 「我々は部外者だ。ミストのことに関しては、君達の手を借りることはできないだろ う? ああ、戦闘態勢を解除して、警戒態勢に変更しておいてくれ。やつらが追撃して くることは不可能だろうからな」 「判りました。警戒態勢に移行し、このままのコースを予定通りに進みます」 「よろしくな」  通信が切れ、敵艦隊の侵攻ルートの映像に切り替わった。  アレックスらしく簡潔明瞭な短い通信だった。 「ということだけど、パトリシアはどう思っているの?」  艦橋の後部で通信を聞いていたジェシカが隣にいるパトリシアに囁く。 「成り行き上で、そういうことになったのでしょうけど……。心配する必要はないと思 いますよ」 「その根拠はどこから?」 「提督は、勝算のない戦いはなさりませんから」 「なるほど……。提督はミスト艦隊を指揮して、敵艦隊との戦いに勝利できると考えて いるわけね? それも三倍の敵艦隊と……」 「はい」 「そっか……。あなたがそう思っているのなら、確かなものでしょうね」  パトリシアに限らず、艦橋にいる者のほとんどが、アレックスが負けるとは誰も思っ ていなかった。  たとえ一度も指揮をとったことのない、未知数の多い艦隊としてもである。 「スザンナ。提督は後から追いかけられるとのことですから、その足となる高速艦艇を 残しておかなければ」 「はい。すでに手配済みです」  スザンナが答えた通りに、旗艦艦隊から護衛艦を含めた十二隻の小隊が、列から離れ て惑星ミストへと向かっていた。  もちろん重力ターンの最中なので、巨大惑星の重力に逆らわないように遠回りではあ るが、いったん惑星をぐるりと周回するようなコースを取らなければいけない。 「旗艦艦隊が中立地帯に到着するのが早いか、提督がこの場を早々に片付けて、追いつ いてくるのが早いか……。ぎりぎりかしらね」 「そうですね……」  敵艦隊の本体である連邦の先遣隊の動きが気になっていた。  第三皇女を拉致しようとして、中立地帯へと向かっているはずである。  もう一つの競争が存在していたのである。  ランドール提督が追いついてくるのが早いか、連邦が中立地帯から帝国領内へ侵入し て第三皇女が拉致されるのが早いか。  時間との戦いでもあった。
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2019年3月15日 (金)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 覚醒剤阻害薬(R15+指定)

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(三十七)覚醒剤阻害薬  決行の日。  黒沢先生の元を訪れるわたしだった。 「そうか、ついにやるのか……」 「はい。それで以前にお願いしました通りに……」 「判っている。覚醒剤を中和する薬を用意しておいた。腕を出してくれ」 「注射ですか?」 「ああ、錠剤なんかだと、肝臓に負担を掛けるからな。筋肉注射にして、徐々に血液に 流れ出すようにする」 「プロギノンデポーみたいなものですか?」  プロギノンデポーとは女性ホルモン製剤の一種で、先生が言ったように筋肉注射であ る。経口薬の場合、小腸から吸収された栄養素や薬物は、門脈を通って肝臓を通るよう になっているが、有毒成分などはここで解毒して体内に通さないようにしている。薬剤 やホルモンなども解毒の対象となっていて、小腸から吸収されても肝臓でどんどん処理 されるわけである。処理し切れなかった残りが体内へ入っていって効果を発揮するわけ ね。より効果を高めようとするにはより多くの量を飲まなければならないし、反面肝臓 の負担がよりますというわけ。  そこで注射や点滴などで、肝臓を迂回させて直接血管や筋肉に注入すれば、無駄なく 効果を期待できる。それがデポ剤である。とはいえ血液に乗って体内を巡って効果を与 えた残りは、結局肝臓に流れ込んできて処理されてしまう。 「そういうことだ」  早速、袖を捲くって腕を差し出す。 「うん。きれいな白い柔肌だ。覚醒剤はやっていないな」 「当たり前です!」  ぷんぷん!  麻薬取締官が覚醒剤やってたらしゃれにならない。 「場合によっては、この腕に消えないあざがいくつも残るようなことにもなりかねない のだぞ」 「わざと言ってませんか? 恐怖を煽って囮捜査を断念させるつもりで」 「ばれたか……」  もう……。  しかし、確かにこの腕にあざが残るような事態にもなりうるわけよね。  でも今更……。  何があろうとも、絶対に後悔はしないわ。  捉われた女性達を助けなくちゃ。  響子さんみたいな哀しい運命をたどるよなことは避けたい。  だれかが犠牲になってでも……。 「んじゃ、射つよ」  用意されていたアンプルから、注射器に阻害剤が注入され、そしてわたしの腕に注射 された。 「どうだ気分は?」  脈を測ったり、顔色を窺ったりしながら、わたしの状態を確認している先生。 「うん……今のところは、なんとも……」 「そうか……。なら大丈夫だな」 「ありがとうございました」  捲くった袖を戻しながらお礼を言う。 「ところで、妊娠阻害剤の方はどうですか?」 「いや、それは薬じゃない方法を取ることにしよう」 「……といいますと?」 「IUDを君の子宮内に装着するのさ」 「避妊リングですね」 「そうだ。長期に作用する避妊薬だとどうしても副作用が避けられないし、脱出できな くって薬の効果が切れてしまったら元も子もない。その点IUDなら装着している限り 避妊を継続できるし、生理も自然に到来するから、薬のせいで不妊になってしまったと いうこともない。取り出せばいつでも妊娠が可能になる便利グッズだ。もっとも100 %避妊というわけにはいかないし、どちらかというと出産の経験のある女性向きなんだ が、今回の任務の特殊性を考えればそれが一番良いと思う」 「入れる時に、痛くないですか?」 「大丈夫だ!」  ちょっと強い口調で断定する先生だった。  あ……。  いらぬことを訊いてしまったという感じ。 「じゃあ……。お願いします」 「判った。診察台に上がりたまえ」 「はい」  産婦人科用の専用診察台……。  両足を大きく拡げるようになった脚台のついたアレだ。分娩台と兼用にもなる。  いつものことであるが……。  気持ちのいいものではない。  スカートとショーツを脱いで、下半身裸の状態で診察台に上る。  先生が取り出したのは、クスコと呼ばれる……。  ……とこれ以上語るのはよそう。  自分で自分を陵辱するような言動は控えたい。  ……。 「よし、装着完了だ」  手馴れたものだった。  おそらく裏の組織から頼まれて、数多くの女性に施術しているのであろう。 「取れなくなっちゃうことはないですよね」 「ない。タンポンを使うようなものだ」 「わたし……。タンポン使ったことないんですけど」 「ほんとか? 処女でもないのに?」 「処女が関係あるのですか?」 「言ってみただけだ」 「もう……先生ったら」 「あはは。何にせよ、大丈夫だ。一応言っておくが、IUDを使っていても妊娠するこ とがあることだけは覚えておいてくれ」 「万が一ですが、そんな場合どうなります?」 「IUDを入れたままでも、妊娠の継続は可能だよ。受精卵が一旦子宮に着床してしま うと、IUDの効果が薄れてしまうんだな」 「そうなんだ……」  それにしても……。  性転換手術を受けてからというもの、先生と会うといつも妊娠がらみの会話になって しまう。  もしかして、自分が手術した患者が正常に妊娠し出産するまでは見届けたいという、 医師としての責任感からであろうか……。  ともかくも、敬との将来を考えれば、避けて通れない話題ではあるわね。  妊娠したら、やはり先生に診てもらうことになるわけだし……。  自分の現在の状況を考えれば、他の産婦人科病院には通えないだろう。
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2019年3月14日 (木)

性転換倶楽部/響子そして 分娩(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定 この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(十四)分娩 「先生。そろそろ、分娩室にお越しください」  看護婦が病室に呼びに来た。 「どこまで進んでいる」 「80%です」 「そうか、もうすぐだな……」  と言いながら視線をわたしに移した。 「丁度良い機会だ。響子君。分娩に立ち会いたまえ」 「分娩ですか……遠慮します」 「いいから、きなさい!」  先生に無理矢理病室を連れ出されて分娩室へ。  腕力では男の先生にはとうてい適わない。ぐいぐいと引っ張られていく。 「痛い、痛い! 先生、痛いです。判りましたから、引っ張らないでください」  手を離してくれた。 「もう……。あざができちゃう」 「ああ、悪かったな」  手術見学用の白衣を着て、分娩室に入る。  分娩台の上に足を大きく開いた状態で、女性が寝かされている。そのまわりを医者 や助産婦らしい人々が忙しなく動いている。 「この娘はね。君と同じ性転換手術を受けた女性だよ」 「う、うそでしょ」 「嘘を言ってどうなる。ほんとの事だよ。この娘は生まれついての性同一性障害者で ね。とある会社の健康診断で、女性ホルモンを飲んで胸が膨らんでいた彼女に出会っ た。免疫型の一致する脳死患者が出た際に、手術を受けるかどうか尋ねると、即答で お願いしますと言った。早速手術してあげ、戸籍変更の手続きもして、本当の女性に 生まれ変わった。そして見合いをさせて結婚させ、妊娠した。そして出産のためにこ こにいる」  信じられなかった。妊娠し出産することのできる完璧な性転換手術。それを目の当 たりにしている。先生の話しが本当なら、まったく同じ手術が施されたのなら、わた しは今の彼女と同じように子供を産むことができるのか? 「陣痛がはじまってどれくらいになる?」 「約十四時間です」  わたしが入室してかれこれ四時間、分娩は一向に進んでいないように見えた。 「やっぱり性転換手術してちゃ、無理なんじゃないですか?」  あまりにも長いので心配になって尋ねてみた。 「なあにこれくらい、初産ならどんな女性でも経験することだよ。赤ちゃんの頭は大 きいからね、骨盤腔のあたりで引っ掛かっていて、狭い産道の中どうやって抜け出そ うかと、一所懸命に体位を変えながら、出られる場所を探しているんだ。赤ちゃんの 頭骨は隙間だらけで柔らかい、そのままなら狭い骨盤腔を通れなくても、頭を変形さ せてまでして、そこを通り抜けようとする。しかし初産の人達は緊張しているから、 産道も緊迫していて中々降りてこられないんだ。だからああしていきんで押し出して やろうとしているんだ」 「先生は手出ししないんですか? 産婦人科医なんでしょ?」 「出産そのものは助産婦があたって赤ちゃんを取り上げるし、産まれた後の赤ちゃん は、小児科医の担当だ。わたしの役目は、妊娠から分娩台に上がるまでの、胎児と母 体の健康管理が本来の仕事でね。分娩中は母体と胎児に異常がないかを見ているだけ だよ」 「出産って、ほんとうに苦しい作業なんですね」 「そうだよ。しかし人類創世以来すべての女性が体験してきたことだよ。確かに分娩 中は苦しいが、胎児が産まれ出た瞬間には、至極の絶頂感があるそうだよ。だから二 人目・三人目を産みたくなる」 「でしょうね。人類が存続発展するためには、途中死亡を考慮にいれて女性達が、そ れぞれ三人の子供を産まなければだめなんですよね」 「道を歩いてて急に大がしたくなって、我慢に我慢を重ね、失禁寸前にトイレに駆け 込んで無事排便できて空になった時、実に気持ちが良い。あれに似ているんじゃない かな」 「もう……汚い話ししないでください」 「汚くはないよ。排便も出産も動物の自然な生理の一つだと言いたかったんだ。人間 として動物として、生きるための生理現象には、生命が地球上に発生して以来、何十 億年もかけて自然淘汰されてきたんだ、何一つ無意味な事はない」 「分娩の苦しみが、親子関係をスムースにさせると聞いたことがあります」 「その通り、こんなにも苦労して産み出したんだ。どんなことがあっても、その子を ぞんざいにはできるはずがない。そしてそんな女性の一人が君なんだ」 「……」
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2019年3月13日 (水)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 売春斡旋勧誘員(R15+指定)

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(三十六)売春斡旋勧誘員  それから数日後だった。 「例の組織の売春婦斡旋勧誘員、つまりスカウトだな。その一人が判ったぞ」  と敬が情報を仕入れてきた。 「ほんとう?」 「ああ……。しかし、本当にやるつもりか?」 「もちろんよ」 「そうか……」  情報は与えてくれたが、あまり乗り気を見せない敬。  当然でしょうね。  自分の恋人を危険な囮捜査に駆り出すことになるのだから。  ただ、組織を壊滅させたいという情熱には逆らえないといったところでしょう。  放っておけばより多くの女性が苦しむことになる。  彼の正義感が、私情を振り払ってまで行動に出ているのである。 「ごめんね……」 「いいさ。それでな……」  そのスカウトの手口は、若い女性に言葉巧みに近づき、 『アイドルになってみませんか?』  誘いに乗ってきた女性をマンションに連れ込む。  写真撮りするなどして一応それなりにアイドルにさせるような素振りを見せながら、 『緊張しているね、この薬を飲むと落ち着くよ』  と、覚醒剤を使う。  やがて覚醒剤の虜となってしまうその女性を、売春婦へと調教していくそうだ。  覚醒剤の魔力によって抵抗する意識を奪われ、スカウトの言いなりになっていく。  今時の若い女性のアイドル願望心理を突いたあくどいやり方だ。 「いつもながら、ひどい話ね」 「まあな……。女性を金儲けのための商品としか見ていないからな」 「今回の任務は、売春婦斡旋業として暗躍する組織員に近づいて、奴らの地下組織を 明らかにすることだ。そこには覚醒剤を射たれ、その魔力によって売春婦に仕立て上 げられようとしている女性達が捉えられている。その女性達を救出する。斉藤真樹」  わたしの名前が呼ばれる。 「はい!」 「心苦しいところではあるが、囮としてその組織員に近づき、地下組織への潜入をは かる役目をやってもらいたい」 「判りました!」 「その組織員に面識のある人物に依頼して、君がアイドルになりたいと紹介させる手 筈になっている。組織員の本当の目的は売春婦斡旋だ。当然のごとくして、君は地下 組織へ送られる事になるだろう。うまく成りすまし潜入を果たしてもらいたい」  課長はたんたんと説明しているが、部下に危険な任務を与えねばならない苦渋の選 択を強いられて、顔にこそ出さないが心底苦悩しているに違いない。 「決行の日は明後日である。くれぐれも慎重に行動してくれたまえ」 「はい!」  自分から志願したこととはいえ、いざ決行となるとやはり緊張する。  早速、先生のところに連絡しなくちゃ……。
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2019年3月12日 (火)

性転換倶楽部/響子そして 女として(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(十三)女として  それから数週間が過ぎ去った。  毎日定期的に覚醒剤が注射されたが、徐々に分量は減らされているという。  時々禁断症状に苦しめられたが、それもしだいに治まっていった。  中毒患者の治療には、隔離され薬を絶たれ、拘束具で縛られる荒療治的な方法もあ るそうだ。特に薬物使用期間が長期に渡って、完全に自制心を消失している時には、 もうそうするよりない。が、度重なる発作で精神が犯され、中毒は治っても精神病院 に生涯入院という場合もあるという。  わたしの場合は、自らの意思で薬物からの脱却をはかる自制心が残っていた。だか ら、あえて覚醒剤を遮断しないで、徐々に摂取量を減らしていく方式になった。  それにしても、なぜ産婦人科病院にいるのだろう。普通なら精神病院が妥当だと思 う。先生も産婦人科医だと言った。覚醒剤とはまるで分野が違う。  そういえば組織には顔が聞くといった。元の闇の世界に戻りたくなかったら、詮索 しない方が良いとも言った。一体何者なんだろうか……。  疑問を抱いたまま月日が過ぎ去った。  ある朝のことだった。  ショーツが赤く染まっていた。 「なに、これ……?」  それは膣から流れ出ていた。  看護婦を呼ぶと、 「あら、はじまったのね。今、先生を呼んできてあげるわ」  と、驚く様子もなく、それが当然のような顔をしていた。  やがて先生がやってくる。 「やあ、はじまったんだってな」 「これは、どういうことですか?」 「月経だよ。女性なら、月に一度は巡ってくる生理だよ」 「生理?」 「まだ、気づかないかね。君の身体の中には、卵巣と子宮があるんだ。それが正常に 機能しはじめたというわけさ」 「訳がわかりません。いったいわたしの身体はどうなっているんですか」 「一つずつ説明してあげよう。ほぼ脳死状態で君が私の元へ運ばれて来た時、まだ脳 波があって生きていると判った。あらゆる処置を施して、蘇生に全力を注いだ。甲斐 あって生命を取り留めることができた。そして回復に向かっていった。そんな時、別 の脳死状態の女性の患者が現われた。君が性転換していることは知っていたから、ど うせなら真の女性にしてあげようと思って移植をしたんだ」 「移植って?」 「脳死の患者から臓器を摘出して別の患者に移植できることは、君も知っているだろ う?」 「ええ……」 「肝臓や腎臓などは、それを必要とする患者に移植された。そして女性器は、通常な ら移植されることなくそのまま残されるのだが、たまたま偶然にも、君と免疫型が一 致した。その女性器を移植する事にした。妊娠し出産することのできる真の女性にね。 まず、人造的に作られた膣や外陰部をすべて一旦取り去った。そのままでは正常分娩 ができないからだ。人造膣や外陰部は胎児を通す産道にはならないのだ。柔軟性がな く完全に破断してしまう。そして、別の女性から、卵巣や子宮、膣と外陰部などのす べての女性器をそっくり移植した」 「それが、わたしなんですね」 「そうだ。女性器は正常に機能をはじめて月経が到来したというわけだよ。君は、も う完全な女性に生まれ変わったのさ」 「完全な女性に……」  涙が出てきた。  嬉しくてではない、哀しくて泣いたのだ。  今更、子供が産める身体になったとして、それがどうしたというの?  もし明人が生きていれば、彼の子供を産めると心底喜んだろうが、もはやこの世に はいない。  そもそもわたしが性転換手術を受けたのは、わたしを本物の女性として抱きたいと 願った明人の希望を叶えてあげるためにしたことである。頼まれて女性ホルモンを飲 みはじめたのもそのためだ。子供を産むというような真の女性になることは頭になか った。ただ明人を満足させる事ができればそれで十分だったのだ。女性の心を持って いることと、男性の身体でいることを疎ましく感じていたのは確かだったから、性転 換を決断したのである。 「さあ、それじゃあ。生理の手当の仕方を教えますからね。まず汚れたショーツを脱 いで」  看護婦から生理ショーツやナプキンの使用方法の説明を受けた。  男性がそばにいると思うとやはり恥ずかしい。しかし相手は産婦人科医だからこん なことは日常茶飯事、気にもとめていないといった表情で、窓辺に寄り掛かって外を 眺めている。時々腕時計を見ては気にしている風であった。わたしに、まだ何か用事 があるみたいだ。

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2019年3月11日 (月)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 特務捜査課(R15+指定)

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(三十五)特務捜査課 「響子さんを監禁していた人たちはどう?」  響子さんの手術が終わった翌日、敬に会って確認してみる。  今回の響子さん救出作戦は、敬が取り仕切ったのと女性の監禁ということで、警察 側が容疑者を取り調べることとなっていた。  容疑は、覚醒剤所持と女性監禁及び暴行傷害罪である。 「だめだな……。口が堅すぎて、黒幕のことは一切口に出さないぜ」 「それで……、響子さん。覚醒剤を射たれて、その……やられちゃったの?」 「ああ、間違いない。彼女の身体から男の精液が検出された。これで響子さんが死ん でしまったら、間違いなく死刑が求刑されるところだ。刑法第220条と221条、 第227条、そして第241条だ」 「241条は、響子さんが自ら投身自殺したのだから、違うのじゃない?」 「投身自殺じゃないだろ。逃げ出そうとしての転落事故だ。逃げ出さなければ廃人に されてしまう。監禁され、唯一の逃げ道はそこしかなかった。十分241条の適用範 囲だと思うぞ」 「なるほどね。敬にはしては、よく勉強してるじゃない」 「あのなあ……。俺は警察官だぜ。司法警察官の真樹ほどじゃないが、刑法のすべて を把握はしていないが、自分の管轄するところの条文くらいは知ってるさ」 「ふんふん♪ よろしい」 「あのなあ……」 「それで、磯部健児のことは一切だめ?」 「ああ、奴らが磯部健児と関わっているのは間違いないのだが。頑固に口を割らな い」 「そうか……。せっかく逮捕したのに」  これまでにも、健児と関わっていそうな人物を何人も捕まえているのだが、いずれ も頑なに口を閉ざしていた。  何せあの政界にも顔の利く財界のドン、磯部京一郎氏の甥っ子なのだ。その血筋を 背景に銀行からの融資も多く、中でも海運業においてはかなりの営業収益を上げてい る。だがその裏では麻薬覚醒剤の密輸入の総本山と言われている。あまたの暴力団が 彼を匿うのも当然といえた。 「いっそのこと、どこかのビルの屋上から奴を狙撃でもするか?」 「それ! いいわね。いつやるの?」 「あほ……。本気にするな」 「なんだ、冗談なの、つまんないわね」 「まあ、何にせよ。奴を直接挙げるのはほとんど不可能だ。周囲から少しずつ囲い込 むようにして追い込んでいくしかない」 「健児の周囲の人間から落としていくわけね。局長みたいに」 「そうだ。それに、俺達が公安委員会に申請している、例の件さえ通れば少しは動き やすくなるからな」 「特務捜査課ね」  警察・麻薬取締部・税関・海上保安庁・各都道府県など、麻薬銃器等の密輸・密売、 及び売春や人身売買(密入国)に関わる取り締まり機関はさまざまあるが、縦割り行 政のなんたるかという奴で、それぞれ独自に捜査を執り行なって横の連絡は皆無に近 い。複数の機関が連携しての検挙の例もあるが、その実績は少ない。  その弊害を説いて、以前から上層部に上申していた「特務捜査課」の設置があった。 前任の生活安全局長に握り潰されてしまった件である。  今回麻薬取締部と警察との連携によって、覚醒剤取り引きと売春斡旋を行っていた 暴力団組織員を逮捕に至ったことで、具体的な話が進展しつつあった。この件に関し ては麻薬銃器取締課の課長さんが熱心に動いてくれているそうである。感謝!
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2019年3月10日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 I

 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌

 I 再び戦いの渦中へ  シューマット群島の入り江に停泊する機動戦艦ミネルバ。  軍港を出航直後の戦闘によって生じた艦の外装修理のために、修理ロボットがかい がいしく動き回っている。  甲板上には、揚陸戦闘用機動モビルスーツが上空を睨んで警戒に当たっている。そ の頭上すれすれを通過するミネルバ搭載の戦闘機「ストライク・ファントム」。発進 までの時間を使って演習を行っていたのである。 「こらあ! 貴様、おちょくってるのか?」  モビルスーツのパイロットが無線機に向かって怒鳴っている。  端末に戦闘機パイロットの姿が映し出された。 「中尉殿。興奮すると、また血圧が上がりますよ」 「何を言っておるか。演習なら演習らしくまじめにやれ!」 「とは言ってもですねえ。演習は十分すぎるほどやってるんですけどね」 「馬鹿野郎! 演習はやり過ぎて困ることはないんだ」 「そうは言ってもですねえ……このトランターに来てからずっと演習続きですから」  二人のパイロットの会話でも判るとおりに、戦艦ミネルバの所属する第八占領機甲 部隊「メビウス」は、士官学校からの新規入隊士官を集めて戦闘訓練のために、当地 トランターに赴任してきたのである。 「だがな、ついに戦闘ははじまってしまったのだ。これからは……」  とその時だった。  端末が警報音を鳴り響かせた。 「警報だと。敵か?」  端末には急接近する飛行物体の光点が輝いている。  ミネルバ艦橋。  けたたましく警報が鳴り響いている。 「三時の方向から飛行物体接近!」  艦橋のドアが開いてフランソワ以下のオペレーターが駆け込んでくる。  フランソワ、指揮官席に座りながら状況を尋ねる。 「どちら側の戦艦ですか?」  トランター総督軍にしろ、連邦軍にしろ、ミネルバの敵には違いなかったが、かつ ての味方か敵かによって、士気に相違が出るのは必至である。 「連邦軍です。ザンジバル級揚陸戦闘艦!」 「マック・カーサーの最新鋭戦闘艦ね」  正面のスクリーンにはザンジバル級のデータが表示されていた。 「全体的な戦闘能力にはそれほどの差異はないけど、大気圏内戦闘に限ってはこちら が絶対有利なはずよ。艦体浮上用意!」  フランソワが下令し、副長が復唱する。 「浮上用意!」 「超伝導磁気浮上システム、第三種超伝導体コイル冷却状態、正常! ヘリウム4追 加注入開始!」 「超伝導コイル、正常に磁束密度上昇中! 現在、13.2テスラ」 「マイスナー効果 最大値に達しました!」 「よし、係留解除だ。浮上する」  ゆっくりと浮上をはじめるミネルバ。  それもロケット噴射によらない超伝導磁気浮上システムによる垂直離陸である。
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2019年3月 9日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 ミスト艦隊 VI

第二章 ミスト艦隊

                 VI  ミスト艦隊旗艦の艦橋。  司令官が迫りくる敵艦隊を迎撃するための指示を次々と出していた。 「敵艦隊の進撃予想ルートを出せ!」  スクリーンにデュプロス星系の星図と敵艦隊の位置が示されていた。  敵艦隊からまっすぐ延びる予想ルート。 「何だこれは? 奴らはまっすぐ進んでいるのか?」 「はい。一直線に向かってきます」  それを聞いてアレックスが呟く。 「愚かなことだ。自滅するつもりかな……」  それを聞きつけた司令官が、一瞬怪訝そうな表情を浮かべる。 「敵艦隊の勢力は?」 「戦艦四百五十隻、巡航艦三百二十隻、その他合わせて総勢千隻に及びます」 「対する我々は、せいぜい三百隻程度……。まともに戦っては勝負にならないな」  勝勢は敵艦隊にあるのは明白な事実となっていた。 「司令……。本当にお戦いになられるのですか?」  副官が心配そうに質問する。 「当たり前だ。事前の外交交渉もなく、予告なしにデュプロスに侵入してきた艦隊が、 親善使節であるはずがないだろう」 「それはそうですが……」  副長は和議の道を考えているようだった。  しかし圧倒的に有利な側である敵軍が承諾するはずもなかった。  ここに至っては、たとえ全滅しても戦うより道はなかった。 「提督。折り入ってお願いがあります」 「お願い?」 「提督にこのミスト艦隊の指揮を執っていただきたいのです」 「わたしが指揮を?」  これまでにも数倍の勝る敵艦隊と戦い勝利してきたアレックスとはいえ、自身が育て 鍛えてきた艦隊ではない。手となり足となって忠実に指令を遂行できるかは未知数であ った。突拍子で理不全な命令が下されても、素直に従ってくれるかも判らない。 「本当に、わたしが指揮を執ってよろしいのですか?」  再度確認を求めたのは、そんな疑心暗鬼からくるものであった。  すると艦橋にいたオペレーター達が全員立ち上がった。 「提督! 指揮を執ってください」 「お願いします」  次々と賛同の意を現していた。 「そういうわけです。ミスト艦隊の将兵全員が提督の指揮を願っています」 「はあ……。そうですか」  髪の毛を掻くようにして、悩んでいるようであったが、 「判りました。指揮を執りましょう」  いたしかなく承諾するアレックスであった。  とにもかくにも迫り来る敵艦隊をどうにかしなければ、自分の旗艦艦隊も銀河帝国へ 向かうことができないのも脳裏にあった。
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2019年3月 8日 (金)

性転換倶楽部/響子そして 回復(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(十二)回復  意識が戻った。  どうやらまだ生きている。 「気がついたようだね」  ベッドサイドに、聴診器を首に下げている医者らしき男性がいた。 「ここは、どこですか?」 「私の父親が経営している産婦人科病院だよ」 「産婦人科病院?」 「そうだ。どうだい、気分は?」  といいながら、脈を計っている。 「わたし、どうしたんですか? わたし自殺したはずですけど」 「奇跡的に助かったんだ。覚醒剤が体内に残っていて苦労したよ」  覚醒剤……。  そうだ!  それから逃げ出すために自殺したんだ。 「どうして助けたのですか?」 「それが医者の役目だからだよ」 「生き返ったって、またやつらの元に連れ戻されるだけなんです」 「君を捕らえた組織のことは心配しなくてもいいよ。二度と君の前には現われないさ」 「どういうことですか?」 「これでも組織には顔が通っていてね。わたしの下で君を保護するといえば、誰も手 が出せなくなるんだ」 「ほんとうですか?」 「ああ、何も心配することはないんだ。だからもう自殺することもしなくていい」 「ありがとうございます」  あ、そういえば。この先生。わたしのこと性転換者ってこと気づいてるわよね。こ こ産婦人科だと言ったから、産婦人科の先生よね。 「あの……。先生は、わたしのこと……」 「ん……? ああ、性転換していることかい?」  やっぱり、気づいてた。  女性の身体を知り尽くしているから、性転換者を見抜く事は雑作ないよね。 「まあ、その道のプロだからね」 「ですよね……」 「ついでに言えば、君が少年刑務所を仮釈放で保護観察の身だったことも知ってる」 「どうして、それを?」 「あはは、君のことなら何でもお見通しさ。覚醒剤に溺れた母親と、その愛人で売人 の男を殺害したこともね」 「そんなことまでも……」  その時、明人が凶弾に倒れたまま、引き裂かれていたのを思い出した。この先生な ら知っているはずだ。 「先生。明人がどうなったか、ご存じないですか?」 「明人か……。君の旦那だったね。残念だが、彼は亡くなったよ。失血死だった」 「ああ……。わたしの明人……」  わたしはどん底に突き落とされる感覚に陥り泣いた。 「安心しなさい。私の所にいる限り、すべてが丸くおさまる。何の心配もしなくとも ごく普通の女性として生き、何不自由なく暮らしていけるよ。保証してあげよう」 「いったい……。先生は何者ですか? ただの産婦人科医じゃありませんね」 「私は、この産婦人科病院の当直医だよ。それ以上のことは知らない方が良い。もし 詮索してそれ以上のことを知れば、君はまた覚醒剤にまみれた裏の世界に引き戻され ることになる。私を信じて黙ってついてくればいいんだ。いいね」 「わかりました。先生を信じます」 「よし、よし。いい娘だ。これから注射するけどいいね」 「注射?」 「覚醒剤だよ。君の身体は、覚醒剤に蝕まれている。短期間に多量を射たれたために、 脳神経組織内に、覚醒剤に感受する特殊な受容体ができてしまったんだ」 「受容体?」 「その受容体は、常に覚醒剤を必要としていて、胃が空になったらお腹が空くように、 覚醒剤に対する欲求反応を示す。判りやすくいえば、すでに覚醒剤中毒になっていて、 急に薬を絶つとひどい禁断症状が起きて、精神的障害を起こすというわけだ。だから 毎日、必要最低限の注射をして、その量を少しずつ減らしていく。すると受容体もそ れにつれて退化していくんだ。受容体が消失すれば治療完了だ。わかるよね」 「理解できます」 「よし。じゃあ、射つよ」 「はい……」  止血バンドを巻かれ、腕を消毒薬した後に、ゆっくりと静かに注射される。  あ……。やっぱり違うなと思った。  奴等は消毒などしないで、いきなりところ構わずに注射する。注射された箇所があ ざになるのは、そのせいかなと思った。バイキンが入り込んだり、適切でない箇所だ ったりするから。薬さえ効けばそれでいいのだろうけど。  先生はベッドサイドに座ったまま、時計をみたり脈拍を調べたりしている。 「そろそろ、効いていると思うが、気分はどうかな?」 「気分はいいです。でも奴等のところで射たれた時は、意識朦朧になりました」 「それは、一時期に多量を射たれたからだよ。手っ取り早く覚醒剤漬けにするために ね。意識朦朧となっているのを利用して、催眠術のように言いなりにすることができ る。奴等は、そうやって自分の言いなりになる性奴隷や売春婦に調教していくんだ」 「ええ。奴等が、そんなこと言うのを耳にしました。母もそうでした。常套手段なん ですね」 「ま、とにかくだ。治療として処方する分には今の量で十分だ。ほんの少し気分が良 くなる程度。禁断症状が起きないぎりぎりの線だよ」 「ぎりぎりということは起きる事もあるわけですね」 「ああ、その時は我慢してくれ。禁断症状といっても程度は軽い。君ならできるはず だ。他の薬、精神安定剤なんかとの重複服用も厳禁になっている」 「わかりました」 「何も心配ない。とにかく今日はもう休みたまえ」 「はい」

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2019年3月 7日 (木)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 臓器移植手術(R15+指定)

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(三十四)臓器移植手術  先生とわたしの懸命の治療の結果、響子さんは何とか一命を取り留めた。  彼女のように、現在の人生に絶望して身を投げた者の命を救うのは、生きようとい う執念がないだけに、それを助けるのは甚だ困難を伴う。  その点わたしの場合は、敬との約束を守るために、生きることに執念を抱き続けて いたから、奇跡的に助かったのだ。  幸いにも先生の蘇生技術は、ブラックジャック(手塚治虫作)も真っ青の腕前を持 っている。  何せ裏の世界における闇病院には、毎日のように遺体や植物人間、或いは抗争事件 で負傷した暴力団幹部らが運び込まれて、臓器摘出やら人体実験と延命治療、そして 救急治療が行われているのだ。いかなる人体実験や治療をやろうとも、それが失敗し 死亡しても、誰もどこからも苦情や告訴請求などは一切発生しない。好き勝手に思う 通りの手術ができるから、自然に技術もどんどん上達するというわけである。医学倫 理に縛られた表の世界ではありえない、闇の世界だからこそできる医療技術だ。  黒沢先生から、響子さんに移植できる臓器が見つかったと連絡があったのは、彼女 の蘇生に成功して危機を脱した三日後のことだった。  もちろん臓器とは、真の女性に生まれ変わらせるための女性器官のことである。  子宮から膣、卵巣や卵管、そして外性器に至る女性として必要たるすべての臓器。  かつてわたし自身が移植されたように、響子さんにその移植手術を執行するという 連絡が入ったのである。  急ぎ黒沢病院へ急行する。 「見つかったって本当ですか?」 「もちろんだ。完全に適合した、しかも良好の臓器だ」  闇の病院には、臓器摘出を依頼する臓器密売組織からの遺体や植物状態の人間が運 び込まれる。その摘出される臓器で移植希望のない、本来なら廃棄処分される女性器 は、先生が自由に再利用しても良いことになっているらしい。その女性器を、先生の 道楽? として、男性から女性に生まれ変わらせる性転換手術に利用しているわけで ある。  響子さんは、MTFとしてSRS(性再判定手術)を施術していた。しかしそれは あくまで外見上の女性でしかなかった。男性との性行為は可能ではあるが、子孫を生 み出すことのない生殖とは無関係のまがいものの性である。  わたしは、かねてより響子さんに真の女性になってもらいたいと思っていたので、 黒沢先生に女性器の移植手術を依頼していた。臓器移植がもたらした新しい人生につ いては、先生から性転換手術を受けたわたし自身が一番良く知っている。はじめて生 理がおとずれた時、本当の女性になったんだという感激は、言葉に尽くせないほどの ものだった。  そしてついに、響子さんに適合した臓器(女性器)が手に入ったという連絡。 「移植が成功したら、晴れて本物の女性としての新しい生活がはじまるのですね」 「成功したらって、私の腕を信用していないのか?」 「い、いえ……すみません」  先生にだってプライドがある。  100%成功させる自信がなければ、手術などしない。  素直に頭を下げて謝る。 「まあ、いいさ。君の言うとおりに、新しい生活が待っているのは確かだ」 「でも、また組織に捕らえられるということはありませんか?」  これまでに彼女を取り巻いてきた運命の性を考えるとき、心配せずにはおれない問 題だった。 「大丈夫だと思う。今後は、私のところで責任を持って預かることにする」 「まさか……二号さんにして自分のとこで囲うとか?」 「おい!」 「うふふ。冗談ですよ。そう言えば、奥さんと若くして死に別れたと、おっしゃって ましたけど、再婚なさらないのですか?」 「再婚か……。あまりに綺麗で、完璧に近い女性だったからな。その気にさせてくれ る女性が現れないうちにこんな年になってしまったよ」 「何をおっしゃいますか。まだまだ十分子供だってお作りになれるお年じゃありませ んか」 「この年になって子作りか?」 「まだ若いということですよ。七十歳で子供を作った男性の例もあるじゃないです か」 「ほう……。随分、子作りに固執しているが、まさか……。できたんじゃないだろう な?」 「え?」  からかっているつもりでもなかったが、今度はこちらが逆襲されたって感じだ。 「ち、違いますよ。あの事件が解決するまでは、子供は作らないって……。な、何を 言わせるんですかあ」  つい……、口がすべってしまった。  そうなのだ。  磯部健児を逮捕するまでは、子供は作らない、結婚しないと、敬と誓い合っていた のである。  だから……。  いや、こんな話はよそう。  わたしのことはこの際どうでもいい。  問題は響子さんの方である。  話題を変えてしまおう。 「手術は、いつ始められるのですか?」 「麻酔担当の医師が到着次第だ」  蘇生手術にはわたしが立ち会ったが、あれは緊急性があったからだ。  麻酔科医に連絡が取れなかったので、仕方なしにわたしが代理で担当したのだった。  やがて麻酔科医が到着して手術がはじまった。  磯部響子。  彼女が生まれ変わる手術。  これまでの哀しい運命から解き放ち、覚醒剤によって血にまみれた身体にメスを入 れ、新しい命を吹き込む手術となるはずだ。  人工的に造られた膣や外陰部を除去し、そこへ脳死状態の女性から摘出した子宮や 膣などのすべての臓器を移植する。  男性を受けて入れて妊娠し、出産そして授乳……。  一人の女性として生きるために必要なすべてのものを与える手術。  真の性転換手術だった。  そして十八時間にも及ぶ長い手術の末に彼女は生まれ変わった。  子供を産み育てることのできる真の女性として……。  今度こそ、幸せな人生を歩めることを期待したい。  心からそう祈るのであった。
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2019年3月 6日 (水)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 蘇生手術(R15+指定)

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)

(三十三)蘇生手術  五分後に黒沢産婦人科病院に到着する。  さすがに赤信号を通過できる救急車である。 「あ、そこの道を入ってください。救急はそちらなんです」  病院の手前の裏道に入るように指示する。  表玄関ではなく、裏に回るのを首を傾げている救急隊員。  説明している場合ではないので黙っておく。 「その地下通路に入って下さい」  下りのスロープに入っていく救急車。  裏玄関の前に、先生と看護婦達が待ち構えていた。  早速、響子さんを担架から病院側が用意したキャリアに移す。 「第一オペルームへ運ぶんだ」  救急隊員と共に第一オペルームへ響子さんを運び込む。  第一オペルーム……。  以前に見せてもらったことがある。  そこはとんでもなく最新鋭設備の整った手術室だった。  あらゆる状態の患者をも診ることのできるすべての器械が揃っている。  炭酸ガスレーザーなどの各種のレーザー・電気メス。  脳神経外科用に使用する、最小2ミクロンサイズの手術を可能にするナリシゲ製極 微小油圧マニュピレーター(遠隔微動装置/特注)などは特筆ものであろう。  第一というくらいだから、手術室は他にも四つある。もちろん闇の世界が関与して いる場所は、絶対閉鎖空間となっていて、先生と組織員しか入れないのは言うまでも ない。  救急隊員もこれほど充実した救急施設を見たことがないらしく、目を丸くしていた が、 「それでは責務ですので……」  ともかくも救急出動に関する報告書に記載するべき事項の確認を取っていた。  司法警察官として立会いの確認書に署名するわたし。 「それでは、私たちはこれで失礼させていただきます」  きょろきょろと辺りを見回しながら帰っていった。  よほど珍しかったのだろう。 「さてと……。真樹にも手伝ってもらおうか」 「はい。喜んで!」  手術がはじまった。  しかしあれからだいぶ時間が経っている。  響子さんは全身蒼白、生きているかも怪しい状態であった。 「どうですか? 先生」 「大丈夫だ。まだ生きているぞ」 「え? ほんとうですか」 「見ろ、わずかだが脳波が出ているぞ」 「ほんとうだ。波が出てる。良かったあ……。死なれたら、磯部さんに申し訳がたち ません」  先生は、心臓が動いているかよりも、脳波の状態を重視していた。  心臓は止まっても、人工心肺装置があるし、心臓移植や人工心臓埋め込みという手 段で、延命を施すことができる。何せここは、闇の臓器売買の拠点病院なのだ。いく らでも臓器は手に入る。しかし、脳波が止まってしまえばどうしようもないからだ。 「まだ、安心するのは早い。波が出ているというだけじゃ。どうしようもならん」 「先生なら、きっと助けて頂けると思って、運んできたんですから。この、あたしだ って生き返らせてくれたじゃないですか」 「真樹の場合は、たまたま運が良かっただけだよ」 「お願いしますよ。何でもしますから」 「じゃあ、今夜どうだ?」 「こんな時に、冗談はよしてください」 「判っているよ。そんなことしたら、真樹の旦那の敬に、風穴を開けられるよ。しか し……素っ裸で、飛び降りるとは……、おや?」 「どうなさったんですか?」 「この娘……。性転換手術してるじゃないか」 「あ、ああ。言い忘れていました。その通りです。さすが先生、良く判りましたね」 「わたしは、その道のプロだよ。人造形成術による膣と外陰部だな」 「わたしと、どっちが出来がいいですか?」 「もちろん真樹の方に決まっているだろう。第一、移植と人工形成じゃ、比べ物にな らん」 「そうですよね。どうせなら、その娘も本物を移植してあげたらどうですか?」 「免疫の合う献体がでなきゃどうにもならんだろ」 「でも、何とかしてあげたいです。あたしと敬がもっと早くに『あいつ』を検挙して いれば、母親がああならなかったし、この娘がこうなることもなかったんです」 「それは麻薬取締官としての自責の念かね」 「この娘には幸せになってもらいたいです」 「そうだな……。それはわたしも同感だ」 「せめて……」 「いかん! 心臓の鼓動が弱ってきた。少し喋り過ぎた。治療に専念するよ」 「あたしも手伝います」 「薬剤士の免許じゃ、本当は手伝わせるわけにはいかないんだが、ここは正規の病院 じゃない。いいだろう、手伝ってくれ。麻酔係りなら何とかできるだろう」 「脈拍低下、血圧も低下しています」 「強心剤だ! G-ストロファンチン。酒石酸水素ノルエピネフリン注射」 「だめです。覚醒剤が体内に残っています。強心剤が効きません! 昇圧剤も効果な し」 「なんてことだ!」 「心臓停止寸前です。持ちません」 「胸部切開して、直接心臓マッサージするしかないが……」 「覚醒剤で麻酔は利かないですよ。ショック死します。とにかく、覚醒剤が効いてい る間は、一切の薬剤はだめなんですから」 「わかっている!」 「人工心肺装置に血液交換器を繋いで、血液交換する。とにかく体内から覚醒剤を早 く抜くんだ」 「血液交換って……。彼女、bo因子の特殊な血液なんですよ。全血の交換となると、 B型でもO型でも、そのどちらを使っても、抗原抗体反応が起きる可能性があります よ」 「O型でいい。一か八かに掛ける!」 「先生。ほんとうに大丈夫ですか?」 「やるしかないだろう! ちきしょう。生き返ってくれ!」
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2019年3月 5日 (火)

性転換倶楽部/響子そして 解脱(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します

(十一)解脱  意識の遠くでサイレンの音が鳴っている。  冷たい感触はコンクリートか。  どうやら成功したみたい……。  どれほどの時間が経ったのだろうか……。  微かに聞こえる器械が触れ合う音。  声も聞こえるが、目は見えない。真っ暗闇の世界。 「どうですか? 先生」 「大丈夫だ。まだ生きているぞ」 「え? ほんとうですか」 「見ろ、わずかだが脳波が出ているぞ」  誰かが何か、喋っている。  まさか、逃亡失敗?  連れ戻されて、また覚醒剤を注射されたのか。 「ほんとうだ。波が出てる。良かったあ……。死なれたら、磯部さんに申し訳がたち ません」 「まだ、安心するのは早い。波が出ているというだけじゃ。どうしようもならん」 「先生なら、きっと助けて頂けると思って、運んできたんですから。この、あたしだ って生き返らせてくれたじゃないですか」 「真樹の場合は、たまたま運が良かっただけだよ」  だめ。言葉が判らない。覚醒剤のせいで、言語中枢がいかれちゃったのかな。  どうやら機能しているのは、聴覚神経に繋がる部分だけみたい。 「お願いしますよ。何でもしますから」 「じゃあ、今夜どうだ?」 「こんな時に、冗談はよしてください」 「判っているよ。そんなことしたら、真樹の旦那の敬に、風穴を開けられるよ。しか し……素っ裸で、飛び降りるとは……、おや?」 「どうなさったんですか?」 「この娘……。性転換手術してるじゃないか」 「あ、ああ。言い忘れていました。その通りです。さすが先生、良く判りましたね」 「わたしは、その道のプロだよ。人造形成術による膣と外陰部だな」 「わたしと、どっちが出来がいいですか?」 「もちろん真樹の方に決まっているだろう。第一、移植と人工形成じゃ、比べ物にな らん」 「そうですよね。どうせなら、その娘も本物を移植してあげたらどうですか?」 「免疫の合う献体がでなきゃどうにもならんだろ」 「でも、何とかしてあげたいです。あたしと敬がもっと早くに『あいつ』を検挙して いれば、母親がああならなかったし、この娘がこうなることもなかったんです」 「それは麻薬取締官としての自責の念かね」 「この娘には幸せになってもらいたいです」 「そうだな……。それはわたしも同感だ」 「せめて……」 「いかん! 心臓の鼓動が弱ってきた。少し喋り過ぎた。治療に専念するよ」 「あたしも手伝います」 「薬剤師の免許じゃ、本当は手伝わせるわけにはいかないんだが、ここは正規の病院 じゃない。いいだろう、手伝ってくれ。麻酔係りなら何とかできるだろう」  一体、何の話しをしているのだろうか。  せめて目が見えれば状況がわかるのに。  どうして何も見えないのかしら。真っ暗闇。 「脈拍低下、血圧も低下しています」 「強心剤だ! G-ストロファンチン。酒石酸水素ノルエピネフリン注射」 「だめです。覚醒剤が体内に残っています。強心剤が効きません! 昇圧剤も効果な し」 「なんてことだ!」 「心臓停止寸前です。持ちません」 「胸部切開して、直接心臓マッサージするしかないが……」 「覚醒剤で麻酔は利かないですよ。ショック死します。とにかく、覚醒剤が効いてい る間は、一切の薬剤はだめなんですから」 「わかっている!」  緊迫した空気が流れているようだった。  ビリビリとした震動が鼓膜を伝わってくる。 「人工心肺装置に血液交換器を繋いで、血液交換する。とにかく体内から覚醒剤を早 く抜くんだ」 「血液交換って……。彼女、bo因子の特殊な血液なんですよ。全血の交換となると、 B型でもO型でも、そのどちらを使っても、抗原抗体反応が起きる可能性があります よ」 「O型でいい。一か八かに掛ける!」 「先生。ほんとうに大丈夫ですか?」 「やるしかないだろう! ちきしょう。生き返ってくれ!」  ああ……。だめだ、また意識が遠退いていく。  やっぱり、死んじゃうみたいだ。
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2019年3月 4日 (月)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 黒沢産婦人科病院へ(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(三十二)黒沢産婦人科病院へ  捜査員がバンの天井によじ登っている。 「生きているぞ! まだ息がある」  すぐさま報告が帰ってくる。 「担架を持って来い! 脊髄を損傷しているかも知れない。担架に乗せて、ゆっくり 慎重に車から降ろすんだ」  担架が運び出されてバンの天井に上げられ、その場で脊髄に負担を掛けないように 慎重に担架に移された。 「ようし、担架を水平に保ったまま、ゆっくり降ろせ!」  わたしは呆然と見つめていた。  身投げという事態に足がすくんでいたのである。 「真樹! こっちへ来い」  敬が、わたしを呼ぶが動けない。 「真樹。聞こえないのか! おまえが見なくてどうする?」  車から降ろされた裸の女性。  ここには女性はわたししかいない。銃撃戦が想定される捜査に女性警察官は使えな い。  当然、彼女の介抱などはわたしの役回りとなる。  敬の声に我を取り戻して、その女性のところに駆け寄る。 「ごめんなさい!」  すぐさま身体に毛布を掛けて体温の維持を図る。もちろん裸を他人に見られないた めでもある。 「響子さん?」  その姿を見たことのないわたしは、敬に確認する。 「間違いない、響子だ……」  この娘が響子さん……。  血の気の引いた青ざめた顔。  哀しい運命の性に振り回され続けている……。 「敬、これを見て」  白い腕に残された痛々しいほどの注射跡。 「覚醒剤を射たれているな……」 「ええ……」  最悪の状態に陥っていた。  覚醒剤の魔性に操られ、それから解き放そうと自ら命を絶とうとしたのだろう。 「可哀想な娘……」  涙が頬を伝わって流れてくる。  どうしようもなく哀しくて仕方がなかった。  銃撃戦に備えて付近で待機していた救急車がやってきた。 「真樹は、彼女についていけ! 後のことは俺に任せろ」 「判ったわ!」  担架に乗せられた彼女と共に救急車に乗り込む。  サイレンを鳴らして、救急車が発進する。 「センターどうぞ。飛び降り自殺の女性を収容。……脊椎損傷の可能性有り。行き先 を指示願います」  運転席の方から、東京消防庁災害救急情報センター(119番)に連絡を取ってい る声が聞こえてくる。 「待ってください。わたしの知り合いの病院があります。そちらへ搬送してくださ い」 「救急指定病院ですか?」 「いいえ。違いますが、腕は確かです」  彼女は、性転換している女性だ。  一般の救急病院に搬送するのは後々問題が起きるに決まっている。  生死の渕を彷徨っていたわたしを、奇跡的に助けてくれたあの先生のところしかな い。 「黒沢産婦人科病院です」 「産婦人科? 場違いではありませんか?」 「彼女は特別な女性なんです。そこしか治療はできないんです。責任はわたしが取り ます」 「判りました。では、場所を教えてください」  住所を教える。 「センターどうぞ……。患者の収容先は、同乗した人物の指定先に決定しました。は い、ですから……」  センターに行き先決定の連絡を入れている声。  救急車は、一路黒沢産婦人科病院へと進路変更した。  わたしは早速黒沢先生に連絡する。  救急車内での携帯電話は禁物であるが、そうも言っていられない。 「斉藤真樹です。急患お願いします。飛び降り自殺で、脊椎損傷の可能性があります。 さらに覚醒剤中毒の症状も見受けられます……」  彼女の容態を詳しく説明していく。 『判った。至急に用意する。連れて来たまえ。裏の場所だ、判っているな?』  連絡は取れた。  後は一刻も早く病院へ到着するのを祈るだけである。
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2019年3月 3日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第二章 選択する時 VII

 機動戦艦ミネルバ/第二章 選択する時(日曜劇場)

 VII マック・カーサー 「一体これはどういうことなのだ」  マック・カーサーは、憤りを覚えずにはおれなかった。各地の基地の弾薬庫の帳簿 の帳尻がまるで合っていないのである。 「戦艦搭載用対艦ミサイル三百十五万基、高射砲弾丸八千六百万発、核弾頭巡航ミサ イル三十六基……総額にして、トランターの国防予算一年分に匹敵する武器弾薬が行 方不明になっています。記録によりますと、アレックス・ランドール少将の命令で、 第十七艦隊保有分のタルシエン要塞への弾薬移管が実行されて、ラスベシオ軍港弾薬 保管庫に一時格納されたことになっております。しかし当のラスベシオ保管庫はもぬ けの殻というわけでして」 「ランドールめ、謀りよったな」 「しかし、これだけの弾薬をどこへ隠したのでしょうか?」 「ランドールのことだ、どこかに秘密基地でも作っているのではないかな」 「それはどうですかねえ……」 「わからんぞ。タルシエン攻略だって五年以上も前から周到に準備していたというじ ゃないか」 「潜入に使った特殊中空ミサイルの開発と安全性の実験、及び数次にわたる特殊部隊 による実際を想定した予行演習。確か士官学校時代の戦術理論レポートで最初に発表 されたというあれですか」 「まあ、当時の教官は馬鹿げた理論だと一笑に付して及第点を出さなかったそうだ が」 「先見性の鋭さというか、予知能力が備わっているというか……。確かに数年先を見 越した作戦を立てて実行するから、先読みが出来ず今日のことしか頭にない連中にと っては、馬鹿げたことをしているとしか思えないってことはあるでしょうね」 「タルシエンを陥落させて逆侵攻さえできる時に、密かに工作部隊を使ってこつこつ とトランターのどこかに秘密基地を建設し、占領後のレジスタンス活動の拠点を作っ ておく。ランドールならやりかねん。そうは思わないか」 「実際問題として、膨大な弾薬を隠匿してしまったところをみると、有り得ない話し ではありませんね。記録によりますと、第十七艦隊所属第八占領機甲部隊ですが、シ ャイニング基地攻略戦の後、トランター他の主要惑星において補充員の戦闘訓練を実 施、かなりの工作部隊も随伴しております。一方、シャイニング基地の再建資材が申 請調達され、やはりラスベシオ軍港から積み出しされております。その一部を流用し た可能性は否定できないでしょう」 「その機動部隊の指揮官だが……」 「レイチェル・ウィング大佐です。ランドールの副官から情報参謀兼主計科主任を経 て、第八占領機甲部隊司令に着任」 「どういう人物だ」 「ランドールと同じく戦災孤児収容施設育ち、養子に迎えられるも実子の誕生を境と して養母に疎んじられた後に、養子縁組みを解消される。その際幾許かの慰謝料を渡 されたもよう。十二歳の時に初等士官学校へ入隊、さらに中等科、高等科へ進んだ後 に優秀な成績で卒業。旧第十七艦隊二十一補給部隊に配属。同艦隊独立遊撃部隊の司 令としてランドールが任命されたのを機に転属、ランドールの配下となり重臣の一角 を築いてきた……とまあ、こんなところですね」 「性格的な面はどうか」 「主計科主任を兼務して隊員達の生活面を良く指導・監督して、何事にもよく気がつ いて女性的なしとやかさからくる魅力で、男性隊員の注目の的。女性士官からも慕わ れている」 「女なのか?」 「はい。共和国同盟軍はじまっていらい初の女性佐官です。第十七艦隊においては、 女性佐官は全部で七名、司令官の約六分の一を占めています。その筆頭が総参謀長パ トリシア・ウィンザー大佐」 「連邦では考えられないことだな」 「同盟では男女同権の一貫で士官学校から平等に扱われています。もっとも男女比率 がこれほど接近した艦隊は他にはありませんが……平均ではせいぜい五パーセント止 まりですね」 「結局のところとして、トランターに残る反乱軍は、少なくとも一年間は抗争を継続 できるということになるわけじゃないか」 「そういうことになりますが、何より驚異なのは、TNT火薬十五メガトン級核弾頭 巡航ミサイルの存在です。一発で二千平方キロメートルの地上を灰塵に帰することが でき、三十六基あればトランターの各主要都市を廃墟にできる。国際条約で使用が禁 止されている惑星破壊用の反陽子核弾頭に比べれば、破壊力は微々たる旧世紀の代物 ではありますが、現在使用可能な地上破壊兵器では最大級ですからね」 「とはいっても奴等がそれを使用することはありえないだろうが、反乱軍に荷担する 民衆に対しては十分な説得力を持つことになる」 「そうですね。言うことを聞かない奴には核を使うぞと脅しをかけることもできま す」  第二章 了
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2019年3月 2日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 ミスト艦隊 V

第二章 ミスト艦隊(土曜劇場)

                 V  ミスト旗艦の発着ゲート。  着艦したドルフィン号をミストの兵士達が取り囲んでいる。  ドルフィン号のドアが開いて、特務捜査官コレット・サブリナ大尉を従えたアレッ クスが降りてくる。  一斉にアレックスに向けて銃を構える兵士達。  反射的に腰のブラスターに手を掛けるコレットだったが、アレックスに制止されて 手を戻した。  やがて一人の人物が、兵士達をかき分けて、アレックスの前に進み出た。  兵士達に銃を下げるように指示してから、挨拶を交わしてきた。 「ミスト艦隊司令官のフランドール・キャニスターです」  言いながら手を差し出していた。 「アル・サフリエニ方面軍司令官、アレックス・ランドールです」  アレックスも答えながら、差し出された手を握り返した。 「アル・サフリエニ……ですか。まあ、ここはそういうことにしておきましょうか」  共和国同盟軍はすでに存在しておらず、アル・サフリエニ方面軍という称号もすで に消滅していた。  にも関わらずアレックスがその称号を名乗ったのは、デュプロス星系がバーナード 星系連邦に対して、総督軍への編入を未だに態度保留していたからである。 「立ち話もなんですから、私のオフィスに案内しましょう。そちらの可愛いSPさん もご一緒にどうぞ」  とコレットに視線を送った。  可愛いなどと言われて頬を赤らめるコレットだった。  無骨な男達しかいない戦艦にあっては、唯一の女性のコレットを可愛いと感じるの は当然かも知れない。  実際にも、コレットはその名前にふさわしく、若く美しかったのである。 「一応規則ですので、銃をお預かりします」  アレックスが頷くのを見て、銃を預けるコレット。  司令官オフィス。  司令官二人が、ソファーに腰掛けお茶を飲みながら会談をしている。  コレットもお茶を勧められたが、丁重に断ってドアの前に直立して二人の会話を見 つめている。  SP要員としての任務を忘れないコレットであった。 「……なるほどね。用件は納得いきました。とにかくも貴艦らの所領通過を認めまし ょう」 「ありがとうございます」 「まあ、当方としても連邦に対しては、屈服するのも潔しとは思っていませんのでね。 できれば中立を保てればと願っているのですよ」 「中立ですか? 連邦が許さないでしょう」 「確かに、いろいろと干渉をしてきますよ。直接の武力介入は今のところありません が、いずれは……」  と言いかけたときに、アレックスの携帯端末が鳴った。 「緊急入電です。すみません、ちょっと失礼します」  一言断ってから、携帯を開いて連絡を取るアレックス。 「ランドールだ。スザンナ、どうした?」 『敵艦隊です。P-300VXが、デュプロス星系に侵入したバーナード星系連邦と 思われる艦隊の艦影を捕らえました。おそらく例の先遣隊の一部がこちら方面に進駐 してきたものと思われます』 「判った。全艦、戦闘体勢で待機だ」 『了解! 戦闘体勢に入ります』  連絡を終えて携帯を閉じるとミスト司令官が怪訝な表情でたずねてきた。 「戦闘体勢とはどういうことですかな」  それに正直に答えるアレックス。 「どうやら、件のバーナード星系連邦が武力介入を仕掛けてきたもようです。そちら の所領内ではありますが、敵艦隊に対して戦闘体勢を取らせていただきました」 「なんですって? しかし当方の監視体制には……」  言いかけたとき、今度は司令官オフィスのインターフォンが鳴った。 「どうした?」 『監視衛星がデュプロスに侵入する艦隊を捕らえました』 「バーナード星系連邦か?」 『おそらく……』 「よし、全艦、戦闘体勢をとれ!」
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2019年3月 1日 (金)

性転換倶楽部/特務捜査官レディー 投身自殺(R15+指定)

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)

(三十一)投身自殺  朗報が持ち込まれた。 「響子の居場所が判ったぞ」 「ほんとう?」 「ああ。新庄町の富士マンションに閉じ込められている」 「早速、助けにいきましょう」 「当然だ、すぐに行くぞ。暴力団対策課と麻薬課の連中を張り込ませている」 「まだ、踏み込んでいないの?」 「捜査令状がまだ届いていないんだ。届き次第踏み込む」 「ああ、そんなことしているうちに……」 「しかし、法は法だ。警察官が法を破ったりはできん」  とにもかくにも、麻薬取締部の同僚と共にそのマンションへ急行することにする。 「課長! いいですよね?」 「無論だ!」  すでに日付が変わっていた。  富士マンションの響子さんが囚われていると思われる部屋が見える隠れた場所で、 車の中に潜むようにして張り込んでいるわたし達だった。  その部屋のカーテンは締め切られていて、明かりは点いてはいない。  今回の強制捜査に携わるのは、警察から麻薬銃器課の三人と暴力団対策課の四人、 麻薬取締部からわたしを含めて四人、そして一般の制服警官が三十二人(主に交通 課)である。  そして取り仕切るのは麻薬銃器課巡査部長の敬である。  三つの課を取りまとめ、合同捜査チームを結成させた彼である。  生活安全局の副局長を説き伏せてしまう、その素早い行動力と説得力はさすがだ。  さすがにわたしが惚れるだけのことはある。  だが、肝心の捜査令状がまだ届いていなかった。  令状がなければ、たとえ囚われていると判っていても踏み込むことはできない。  しかも響子さんが人質状態では踏み込むのも簡単ではない。  相手は暴力団だ。拳銃くらい所持しているはずである。  決行は慎重かつ迅速に行われなければならない。  やがて一人の捜査員が令状を持って現れた。 「令状が届きました!」 「よし! 踏み込むぞ。ただし監禁されている女性がいる。行動は迅速に、発言は慎 重にだ」 「了解!」  敬がてきぱきと強制捜査の手筈を組み立てていた。  家宅捜査令状を持って部屋に入る班(麻薬取締官が担当)、逃走路を封鎖する班、 交通規制を行う班、銃撃戦になった時の住民の避難誘導班などである。 「真樹は、響子さんを保護する担当だ」  響子さんは一応女性である。(少なくとも外見上は……)  女性であるわたしに保護担当が回ってくるのは当然である。 「巡査部長、あれを!」  捜査員の一人がマンションの部屋を指差して叫んだ。  あ!  誰かが窓から身を乗り出している!  しかも裸の女性だ。 「響子さんの部屋だ!」  まさか!  次の瞬間だった。  ふわりと身を投げ出したその身体が宙に舞った。  まっさかさまに落下してゆく。  きゃあー!  わたしは思わず悲鳴を上げてしまった。  捜査員が駆け出してゆく。  ドシン!  鈍い大きな音があたり一面に響き渡った。  バンの天井にめり込むように身体が沈み込んでいた。  そうなのだ。  丁度真下の路上にバンが違法駐車していたのだ。 「救急車を呼べ!」  誰かが叫ぶ。  責任者である敬が動く。 「ここはまかせて、麻薬取締官は部屋の方に急行してください。身投げを知って逃げ 出されます」 「判った!」  麻薬取締官達はマンションへと突入していく。  捜査員はたくさんいるのだ。  全員がその女性に関わってはいられない。 「交通課はただちに交通規制だ。一帯を通行止めにしろ!」 「了解!」  交通課の警察官が無線連絡によって、道路封鎖のために配置に付いていた要員に指 示を出す。  付近一帯を通行止めにして現場に車両を進入させないためである。
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