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2019年5月

2019年5月31日 (金)

妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の肆(胞衣壺)

陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪

其の肆 胞衣壺 「被害者は女性ばかりです。いかに夜とはいえ、ズタズタに切り裂いて内蔵を取り出す には時間が掛かります。にも関わらず目撃者が一人もいない」 「察するに犯人は【人にあらざる者】ではないかと仰るのかな?」  春代が意図を読んで尋ねた。 「その通りです」 「して、わざわざご足労なさったのは……」 「もちろん、蘭子さんのお力を頂きたいと」 「だろうな」  春代と課長の会話を耳にしながらも、怪訝な表情をしている蘭子。 「どうした? 蘭子」 「実はですね。今回の事件と関連がありそうな出来事がありました」 「それはどのような?」  井上課長が身を乗り出すようにした。  蘭子が思い起こしたのは、先日の地鎮祭の出来事だった。  胞衣壺が掘り起こされて持ち去られた日の翌日に、最初の切り裂き事件が起きていた。 「えなつぼ……それは、どんなものですか?」 「【胞衣(えな)】とは胎盤のことじゃて、それを入れるつぼだから【胞衣壺】とい う」  昔の日本(平安・奈良時代)では、胎盤を子供の分身と考えて、大切に扱う風習があ った。  陶器製の壺に胎盤を入れ、筆・墨・銅銭そして刀子(とうす・小刀)を一緒に納めて 地中に埋めていた。  これらの品々は、当時の役人の必需品で、子供の立身出世を願うためである。  人にたくさん踏まれるほど、子供がすくすく成長すると考えられて、一通りの多い間 口や土間に埋められることが多かった。  大きさは、口径12cm・高さ16cmのものから、口径20cm・高さ30cmく らいのものが多く出土している。 「昔の風習じゃて、今では廃れてしまっておるなあ。せいぜい戦前までのことじゃて」  刀子という言葉を耳にして、糸口が一つ解明したような表情をする井上課長。 「その刀子の長さはどれくらいのものでしょうか?」 「そうさな……壺の大きさにもよるが、五寸から一尺くらいじゃのお」  春代は古い尺貫法に生きる世代である。  すかさずメートル法に言い直す井上課長。 「15cmから30cmですね」  井上課長の脳裏には、殺人の凶器として十分な長さがあるな、という推測が生まれて いることだろう。  銃刀法では、刃渡り6cm以上の刃物は携行してはならないと、取り締まっている。 「刀子は、そもそも魔除けの意味があります。葬式でのご遺体に守り刀を持たせるのと 同じです」  *参照=蘇我入鹿の怨霊 「さて、そろそろ本題に入ろうかのう。刑事さんよ」  井上課長の来訪目的を訪ねる春代。  これまで長々と、時候の挨拶よろしく話していたのだが……。 「はい。単刀直入に言います。連続通り魔殺人事件の捜査協力をお願いに参りました」 「なるほど、陰陽師としてのご依頼かな?」 「その通りです」 「ほほう。うら若き娘に殺人犯の捜査に加われと?」  春代は高齢のため、陰陽師の仕事はすべて蘭子が請け負っている。  もちろん井上課長とて承知である。  蘭子には、陰陽師としての仕事以外にも、女子高校生としての勉強も大切である。
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2019年5月30日 (木)

楽しいPCアップグレード(*'▽')

②の 32bit OS パソコンを 64bit OSにグレードアップする。  ともかく、32bitOSでは、どんなにメモリーを積んでも最大4GBしか使用できな い。  しかも、システムやグラフィック、デバイスにもメモリを消費して、実際2.8GBとい うこともある。  これを知らずに8GBとか搭載したら4GBが無駄になる。  無駄なメモリーをラムディスクにするという手もあるが、実用的ではない。  筐体に windows7pro のプロダクトキーシールのみが貼られているので、現在のWindo ws10は無償アップグレードサービスを行ったものと判断する。  正規OSインストールした場合は、Windows10のプロダクトキーシールが追加添付さ れるから。  32bit から 64bit に変更するには、当然インストール用のOSが必要であるが、無 償アップグレード用インストールツールが、マイクロソフトサイトにあるので、それを ダウンロードしてくること。 以下のマイクロソフトページから WINDOWS 10 のダウンロード  の中の 【ツールを今すぐダウンロード】  をクリックして、ツールを起動すると、 〇このPCを今すぐアップグレードする 〇別のPCのインストールメディアを作成する(USB フラッシュドライブ……)  と選択肢が出ますが、インストールメディアを作成した方が後々便利ですので、  下側の欄に印を入れて、次へをクリック。  言語 日本語  エディション windows10  アーキテクチャ 32ビット、ないしは64ビット  この状態では、そのPCに最良の選択肢がすでに出ていますが、 □このPCにおすすめのオプションを使う  のチェックを外すと、32bitと64bitのいずれかが選択できます。  64bitへの変更なので、当然64ビットを選択して、次へをクリック。 〇USBフラッシュドライブ 〇ISOファイル  後でISOファイルをDVDにコピーする必要があります。  ISOファイルを選択して、次へをクリックすると Windows.iso というファイルの ダウンロードが始まります。  Windows.iso をクリックして、画面の指示に従って、Windows10 再インストールディ スクを作成します。  さて、これで下準備が完了です。  ディスクをドライブに入れるなり、USBを差すなりして、再起動します。  後は、画面の指示通りに進めていけば……。  さあ!新しい Windows10 の出発です(*'▽')  以上  なお、ここに紹介したマイクロソフトのツールは、今後削除されないとも限らないの で、今は用がなくとも一応ダウンロードしておいた方が良いでしょう。
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2019年5月29日 (水)

壊れたPC復活作業してました(*^^)v

三日ほどキラポチを休んだ日。 ちょっとばかし、PCの復活・更新作業を行ってました。 ① 熱暴走でマザーボードなどが壊れて起動しないPC ② 64bit_cpuなのに、32bitOSがインストールされているPC ーー 状態 -- ①のPCはどうしようもないので、本体を買い替えるしかないのだが、  オークションで、ハードディスクなし、当然OSもなし。  というPCを漁った。これは価格設定が低くなるから。  目当ては、最低限  intel core i3-7 搭載PC  最大可能メモリ 8GB以上  ディスプレイ表示可能  bios 正常に起動  (一度でもWindows10をインストールことがあるなら、尚good)  まあ、完動品なら文句なし。 ②のPCは、元々 Windows7pro プリイントールモデルで、windows10pro 32bit版に  グレードアップされてあった。  店長おまかせ販売で、安価に設定されていたので購入したもの。  最大可能メモリ16GBが good である。  しかし、32bitOSは、メモリ最大4GBしか認識しないので、せっかくの16GB  搭載可能が無駄になる。  64bitOSにグレードアップした方が良い。 ーー 作業前準備 --  Windows10は、一度でもインストールされたPCなら、  OSを買わなくても、簡単にWindows10を再インストールできる。  ①のようなPCでも、Windows10がインストールされ、  かつ Microsoft のアカウントが紐付けされたハードディスクさえ残っていれば、  他の Windows10 仕様のPCに取り付ければ、復活が可能である。  ②の場合、32bitOSから64bitOSにグレードアップするのは簡単である。 ーー 作業開始 -- ①のパソコンを復活させる。  オークションで買ったPC(2000円也)に、ハードディスクを取り付ける。  ディスプレイなどの周辺機器を接続する。  念のためにLANを接続しないで起動してみる。 (接続していると認証に不具合が出る場合がある)  bios が起動してメモリチェックの後に、見事Windows10の表示が出た!  【コンピューターの基本的な情報の表示】  を確認すると、Windows ライセンス認証が取れていない。  まあ、元のPCの仕様が  inter(R)Core(TM)2 Duo cpu @ 2.00GHz 2.00GHz  実装メモリ(RAM) 4.00GB  現在は、 intel(R)Core(TM)i3-2120 CPU @ 3.30GHz 3.30GHz  実装メモリ(RAM) 8.00GB  なのだから、ダメだしを食らうのは当然。  ここで念のために、コンピューター名を確認して、  違っていたら、設定の変更から以前の名前にしておく。  これは、後の認証作業で必要となる。  とにかく無事に起動できたので、次にLANを接続して、マイクロソフト  の認証が出るのを待つか再起動してみる。  マイクロソフト認証が出たら\(^o^)/である。  コンピューター名に紐付けされていた、  セキュリティソフトも同時に認証されている。  もし認証できなかったら、  【トラブルシューティング】で復活できる。  マイクロソフトアカウントが紐付けされたハードディスクならね。  詳しくは以下のところで確認してください。 Windows10 でハードディスク以外のハードウェアを変更して、そのままOSのライセンス認証をする方法
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2019年5月28日 (火)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(十三)新当主誕生

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)
(十三)新当主誕生  会社社長行方不明、誘拐か?  捜索願いを出してすぐに、聞きつけた新聞・雑誌社の記事となり、それが大会社の 社長ということで、しばらくはその話題で盛り上がっていたが、新たな大事件の発生 とともにやがて沈静化していく。  捜索願いを出して一ヶ月、さらに家庭裁判所に失踪の正式な手続きを完了させた。  そして製薬会社社長には、専務の英二が順当に就任した。  なに?  副社長がいただろう? ってか。  ああ、いるよ。  会社の株式のほぼ五十パーセントをがっちりと握っている堅物がね。  英二が社長になったのも、彼女が決定したことだ。  彼女、そう彼女だ。  英一郎の祖母の黒沢英子、その人だよ。九十歳を越えているが、今なお元気だ。  製薬会社の代表取締役副社長にして、黒沢家当主。総資産数百億の資産家だ。  わたしの父親は、彼女の娘婿だ。だから会社とは離れて産婦人科医などをやってい られる。  知らなかっただろう。  黒沢家は代々女子が当主を務める事になっている。本来なら彼女の娘でわたしの母 親が、後を継いで当主になっていたはずだが、若くして死んでしまったので、引き続 き当主を勤めている。  会社と黒沢家の実権を掌握しているのは英子だが、直接の会社運営は英二に任せて いる。もっぱら経理報告書に目を通している程度のことしかしていない。九十歳だか ら当然だし、株式を過半数握っていれば好きなことができるさ。世間一般からは親族 会社と揶揄されてはいるのはしかたがない。  由香里が英一郎の妻に似ていると説明したが、二人の結婚がすんなり認められたの も、そういういきさつもあったのさ。自分が選んだ嫁にそっくりなら、まあいいだろ うということになったのだ。  さて今度はわたしの番だ。  養女になった報告をするために、わたしこと黒沢香織は英二に連れられて(ほんと はわたしが連れていったのだが)、英子の元に挨拶に伺った。  どうなったと思う?  男の子は母親に似るとよく言われる。  その男の子が、女性に生まれ変わったら?  そう、わたしの母親、つまり英子の娘に生き写しだったのだ。  自分が腹を傷めて産んだ娘が戻ってきた。  もうすっかり感激して、娘の二十歳代の写真まで持ち出してきて、 「ほら、こんなにそっくり。この子は、娘の生まれ変わりだよ」  とかいって、全財産をこのわたしに譲るとまで言い出したのだ。  あはは、英一郎が全財産を引き継ぐはずだったから、元に戻って結果オーライだ。  その後に開かれた親族会議で、英二の口から性転換薬のことが発表された。この黒 沢香織は、性転換薬で女性化し若返った英一郎だということが。例の記録映像も公開 された。  出席者は、証拠となる記録写真を見せられても、一様に信じなかったが、英子だけ は信じて疑わなかった。娘にうりふたつなのだから当然だ。英子は独断で、このわた しを次期当主として指名した。  さて黒沢家は女系で、当主は必ず英子を名乗る事になっている。  黒沢香織から黒沢英子への戸籍名変更がなされた。  これで名実ともに、わたしは黒沢家の次期当主となったのである。  それから三日後のことだった。  当主の黒沢英子が突然、容体が悪化して緊急入院した。  跡継ぎが見つかって安心したのであろう。まるで張り詰めていた糸が切れたような、 急速転回で衰弱していく。  わたしを枕許に呼び寄せて、親族の立ち並ぶ前で、 「後は、おまえにまかせるよ」  と一言。  それが臨終の言葉だった。  九十歳。安らかな表情を浮かべた大往生だった。  こうして黒沢家に新しい当主が誕生した。  第二十七代当主、黒沢英子ことこのわたし。  二十歳のうら若き当主ということで、新聞雑誌の取材が殺到した。 「美しき若き当主の誕生!」  という見出しが、各紙面を飾った。  人生はまだはじまったばかり。  これからどんな波乱万丈が繰り広げられるのだろうか?  楽しみだ。
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2019年5月27日 (月)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(十二)お化粧

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)
(十二)お化粧  買い物を終えて、一階に降りて来た時、 「そうだ、せっかくだから……。英子さん、こっちに来て」  というとわたしの手を引いていく。向かっている先は、化粧品売り場。 「あら! いらっしゃいませ、由香里さま」  由香里に気がついた売り場の店員が声をかけてくる。 「こんにちは」  馴染みらしい店員と、一言二言挨拶を交わしてから、わたしを引き出して、 「今日は、この娘にお化粧の仕方を教えて欲しいんだけど、お願いできるかしら」 「お安いご用ですよ。さあ、こちらへどうぞ」  と店員は鏡の前に誘う。 「お名前を伺ってよろしいでしょうか?」 「英子です。黒沢英子」 「黒沢さまですね。といいますと……」 「そうよ。あたしが結婚する相手の妹なの。年頃なのに、ちっともお化粧に興味ない から、何とかしようと思ってね。はじめてのことだから、簡単で手っ取り早くできる 方法をお願い」 「かしこまりました」  というわけで化粧するはめになった。  まずは、その前にお肌のチェック。  器械のセンサーを肌に当てられて、水分量や脂肪率とかが計られる。  続いて顔写真を取られてパソコンに取り込まれ、すぐさまディスプレイに表示され る。  今時便利なもので、実際に化粧を施す前に、パソコン上でシュミレートする事がで きるのだ。  実はこのパソコンのシステム。英二がこのデパートの上層部に営業を掛けて売り込 んだものだった。そしてデパート外商部の方から各化粧品のテナントにリースしてい るのである。英二だってだてに専務をやっているわけじゃない。営業売上では断トツ の成績なのだ。  しかし……会社では、二十六歳の若さながらも、革新的な事業を起こして順調に利 益を伸ばして、重役達からも一目置かれている英二だが、こと由香里には、まるで頭 があがらず、尻尾を振ってまわる飼い犬のようだ。天は二物を与えずというところか?  その英二は、荷物を車に置きに駐車場に戻り、そのまま待機している。 「いかがなものでしょうか?」  すっかり化粧が施されて、見違えるようになった顔が鏡に映っている。さすがにプ ロの美容師だ。下地クリームからはじまって、ひとつひとつ丁寧に順を追って、注意 点や塗り方のコツとかをレクチャーしてくれた。  しかしなんも覚えていない!  そりゃそうだろう、化粧などしたことがないのだから。少しでも化粧の経験があっ て、それなりの予備知識があれば、まあ何とか手順くらいは覚えられたかもしれない のだが。まあ、これから少しずつ覚えるさ。  駐車場の英二のところへ戻る。  英二は、わたしの化粧した顔を見て、顔を赤らめ咳払いして、 「じゃあ、次はどこ行くんだ?」  と無視するように車を発進させた。  おいこら! 何か感想ぐらい言えよ。  せっかく女の子がおめかししているのに無視することはないだろ。  うーん、この気分……。  やはり女性的な感情の何物でもないな……。
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2019年5月26日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第四章 II

新型モビルスーツを奪回せよ
                II 「バイモアール基地周辺の詳細図を」  これから戦闘が行われるだろう基地の情報を、前もって知り事前の作戦計画を練るこ とは大事である。  オペレーターが機器を操作すると、それまでの航海図からバイモアール基地の投影図 へと切り替わった。  基地の名称ともなっているバイモアール・カルデラは、数万年前に大噴火を起こして 陥没して広大なカルデラを形成したもので、その後東側の外輪山の山腹に新たな噴火口 ができて爆発、山腹を吹き飛ばして海水が流入し現在のカルデラ湾となった。  バイモアール基地は、このカルデラの火口平原に設営されたもので、海側は入り口が 狭い湾となっているし、山側は高い外輪山に阻まれ、さらに後背地は砂漠となっていて 格好の天然要塞となっている。 「基地の兵力はどうなっているか?」  作戦計画なので、各自意見のあるものは遠慮なく発言を許されている。 「湾内には共和国同盟の水上艦が守りを固めているはずです」 「基地直轄としては、三個大隊からなる野砲兵連隊が配備されておりまして、各大隊は 7.5cm野砲8門、10.5cm榴弾砲4門の構成。内二個大隊は湾側の防衛、一個大隊を砂漠側 の防衛にあたっております」 「野砲はそれほどの脅威はないでしょう。脅威なのは湾を望む高台に設営されている トーチカ、そこに配備されている205mm榴弾砲ではないかと思います。直撃されれば一 撃で撃沈されます」  一同が頷いている。  ミネルバ搭載の135mm速射砲でも敵戦艦を一撃で撃沈させたのだ。それが205mmともな れば、言わずもがなである。 「まず最初に破壊する必要性があるでしょうが、いかんせん向こうの方が射程が長いの が問題です。こちらの射程に入る前にやられてしまいます。近づけません」 「ですが、こちらにはより長射程の原子レーザー砲があるじゃないですか」 「強力なエネルギーシールドがありますよ。原子レーザーは無力化されてしまいます」 「軍事基地をたった一隻の戦艦で攻略しようというのが、いかに最新鋭戦闘艦といえど もどだい無理な話なのでは?」  一人の士官が弱音を吐いた。  すかさず檄が飛ぶ。 「馬鹿野郎! 戦う前からそんな弱気でどうする。困難を克服しようと皆が集まって作 戦会議を開いているのが判らないのか? 艦長に済まないとは思わないのか」 「も、申し訳ありません」  フランソワの方を向いて、平謝りする士官だった。  遙か彼方のタルシエン要塞から遠路はるばるこの任務に着任してきたフランソワ・ク レール艦長。共和国の英雄と称えられるあのランドール提督からの厚い信望を受けての ことであるに違いない。  たんなる戦艦の艦長であるはずがない。  それは一同が感じていることであった。  暗くなりかけたこの場を打開しようとして、副長が意見具申する。 「この際、背後の砂漠側から攻略しますか?」  砂漠には、丘陵地や谷間などがあって、砲台からの死角となる地形が多かった。  それらに身を隠しながら接近して、砲台を射程に捕らえて攻撃しようという作戦のよ うであった。  しばし考えてから答えるフランソワ。 「いえ。海上側から攻略しましょう。砂漠から攻略してトーチカを破壊しても、山越え した途端に基地からの総攻撃を受けます。基地に配備されたすべての兵力の集中砲火を 浴びせられては、さすがのミネルバも持ち堪えられません」  トーチカの205mm榴弾砲のことばかりに気を取られていた一同だったが、基地の総兵 力の九割が海側にあることを失念していたようだ。トーチカだけなら砂漠からの方が楽 であるが、その場合は基地に入るためには山越えをしなければならず、満を持して構え ていた基地から一方的に攻撃を受けることになる。 「海上からなら、まずは水上艦艇、次に野砲兵連隊、そして基地直営ミサイル部隊と、 射程に入り次第に各個撃破しつつ基地に接近することができます」 「トーチカからの攻撃はどうなさるおつもりですか?」  海上では隠れる場所がない。トーチカの格好の餌食となるのは必定である。  それがために皆が頭を抱えて思案していたのである。  が、フランソワは一つの打開策を用意していた。 「基地には、モビルスーツを奪回するために潜入している特殊部隊がいるはずです。彼 らに協力を要請しましょう」  特殊部隊?  一同が目を見張ってフランソワを見た。
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2019年5月25日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 III

第三章 第三皇女
                III  その頃、皇女艦隊旗艦の艦橋では、信号手が事態を説明していた。 「白信号が三つ上がりました。停戦の合図です」 「こちらも戦闘中止を出してください」  無益な戦闘は避けたいジュリエッタ皇女だった。  そして側に控えている将軍に尋ねる。 「ところで、後から来た艦隊の動きを見ましたか?」 「はい。しっかりと目に焼きついています。高速ターンや宙返りなどの曲芸飛行と言え る様な、戦艦がまるで戦闘機のように動き回っていました」  そう答えるのは、皇女艦隊を実際に取り仕切っているホレーショ・ネルソン提督であ る。 「どこの艦隊でしょうか?」 「おそらく共和国同盟の復興を掲げる反攻組織である解放軍ではないでしょうか。連邦 軍があっさりと撤退したことを考えると、噂に聞くランドール艦隊」 「ランドール艦隊ですか……。とにかく指揮官にお会いして、話を伺ってみましょう。 連絡を取ってください」 「わかりました」  ヘルハウンド艦橋。 「連邦艦隊が撤退していきます」 「速やかに被弾した艦への救援体勢を」  オペレーター達は、戦闘放棄して撤退する敵艦を、アレックスが追撃しないこと重々 承知していた。より多くの敵艦を沈めて功績を上げることよりも、一人でも多くの将兵 を救い出すことを心情としているからである。 「帝国艦隊より、ジュリエッタ第三皇女様がお目通りを願いたいとの、通信が入ってお ります」 「皇女様からか……。お会いしようしようじゃないか。艀を用意してくれ」  さっそくアレックス専用のドルフィン号が用意され、舷側に銀河帝国皇家の紋章の施 された旗艦へと乗り出した。  皇女艦の発着口に進入するドルフィン号。  タラップが掛けられてアレックスが姿を現わす。  すでにドルフィン号の回りには、武装した帝国兵士が取り囲んでいた。  ゆっくりとタラップを降りるアレックスの前に、人垣を掻き分けて着飾った皇女が侍 女を従えて出迎えた。 「ようこそ、インヴィンシブルへ! 歓迎いたします」  巡洋戦艦インヴィンシブルは、銀河帝国統合宇宙軍第三艦隊の旗艦であり、ホレーシ ョ・ネルソン提督を司令長官に迎えて、ジュリエッタ皇女が統括指揮する体制をとって いた。ゆえに第三皇女艦隊との別称がつけられ、艦艇数六十万隻を誇る銀河帝国最強の 艦隊である。同様に第二皇女のマーガレット率いる第二皇女艦隊と双璧を成している。 「インヴィンシブルか……」  タラップを降りた時から感じていたことであったが、将兵達の態度や身のこなし方に 指揮統制の行き届いた様子が見受けられた。まさしく第三皇女の品格と、用兵術のなせ る技というところだろう。 「共和国同盟解放戦線最高司令官のアレックス・ランドールです。どうぞよろしく」 「ランドール提督……。共和国同盟の英雄として知られる、あの名将のランドール提督 ですか?」 「そのランドールです」  周りを取り囲む将兵達の間から驚きの声が漏れた。  改めてアレックスの顔を見つめるジュリエッタ皇女だったが、 「あ……」  一瞬息を詰め、凝視したまま動かなくなった。  皇女の視線はアレックスの瞳に注がれていた。、  その深緑の瞳は、銀河帝国皇族男子に継承されてきた誇り高き皇家の血統に繋がるこ とを意味するエメラルドアイであった。 「どうなされましたか?」  側に控えていた侍女が気遣った。 「い、いえ。何でもありません」  気を取り直して、話を続けるジュリエッタ皇女。 「それでは、貴賓室でお話を伺いましょう。どうぞこちらへ」  先に立って、アレックスを案内するジュリエッタ皇女。
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2019年5月24日 (金)

妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の参

陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪

其の参

 

 人通りの少なくなった深夜の雨降る街角。
 一人の女性が帰宅を急ぐ姿があった。
 追われているのか、時折後ろを振り向きながら急ぎ足で歩いている。
 突然目の前に現れた人影にぶつかってよろけてしまう。
「すみません」
 と謝って顔を上げたその顔が歪む。
 その腹に突き刺さった短剣から血が滴り落ちる。

 

 阿倍野警察署。
「連続通り魔殺人事件捜査本部」
 という立て看板が立てられている。
 会議室。
「切り裂きジャックだ!」
 会議進行役を務める大阪府警本部捜査第一課長、井上警視が怒鳴るように声を張り上
げる。
 夜な夜な繰り広げられる連続通り魔殺人事件。
 その惨劇さは、殺した女性の腹を切り開いて内蔵を取り出し、子宮などの内性器を持
ち去ってしまうという事件。
 1888年のロンドンを震撼させた切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)と手口
が全く同じという変質者の仕業であった。結局犯人は捕まらずに未解決事件となった。
 ロンドンでは売春婦が襲われたが、こちらではごく普通の一般女性であるということ。
 広報や回覧板及びパトカーの街宣などによって、夜間の一人歩きの自粛などが流布さ
れて、一部の自治会では自警団が組織されていた。
「心臓抜き取り変死事件と同じだな……やはり彼女の力を借りるしかないようだ」
夢幻の心臓

 

 土御門神社の社務所。
 応接間にて、春代と蘭子そして井上課長が対面している。
「……というわけです」
 事件の詳細を説明する井上課長だった。
「なるほど、切り裂きジャックですか……」
 蘭子もニュースなどで連続通り魔殺人事件のことは耳にしていたが、直接課長の口か
ら聞かされた内容は衝撃的であった。
「で、わざわざ伺われたのはいかに?」
 春代が実直に質問する。
 来訪目的は、うすうす感ずいているが、聞かずにはおけないだろう。

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2019年5月23日 (木)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(十一)生理

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)
(十一)生理  四週目の終わり。  朝から身体がだるい。  パジャマを脱いでみると、ショーツが赤く滲んでいた。  それはまさしく経血の何物でもなかった。  女性には毎月訪れる生理がはじまったのだ。わたしにとってははじめてのことなの で、いわゆる初潮というやつだ。 「おめでとうございます。これで一人前の女性のお仲間入りですね」  由香里が祝福してくれる。 「ありがとう。無排卵月経でなければいいんだけどね」 「大丈夫ですよ」  どうやら睾丸は、無事に卵巣へと変化したようだ。  卵巣と子宮が正常に機能して、妊娠可能である事実を突きつけられたわけだ。 「もう、夜の一人歩きは止めた方がいいな」  ふとつぶやいてしまったのを、由香里に聞かれて笑われてしまった。  いつの間にか女性らしい考え方をしている自分に驚いていた。  女性化のプロセスは、ただ単に身体特徴を変えるだけでなく、大脳組織までをも女 性化してしまうようだ。わたしの脳は、男性脳から女性脳に完全に生まれ変わってい た。  男性の脳を移植された真菜美が、脳神経細胞活性剤の投与によって、脳細胞の再分 化が起こって、男性脳から女性脳に生まれ変わった現象と同じだ。 「お赤飯でも炊きましょうか?」  由香里が尋ねるので、 「ああ、そうしようか」  と、冗談で言ったつもりなのだが、しっかりと夕食に赤飯が出された。しかも鯛の 尾頭付きだ。 「おい。何かいい事でもあったのか?」  夕食の席に並んだ英二が、メニューをみて尋ねた。 「ええ、とてもいい事よ」 「いい事って、何だよ」 「英二さんが、気にすることじゃないのよ。ねえ」  由香里が目配せを送ってくる。 「なんだよ。教えてくれたっていいじゃないか」  とはいっても、教えられるものではない。  まあ、どうしてもと言うなら教えてもいいけど。食事時の話題ではないのは確かだ ぞ。それでも聞きたいか? 「ふん。最近の二人は、何かというと秘め事が多いな。まあ、女同士で、好きにやっ てくれ」 「あら、英二さん。やっとお父さんを女性だと認めてくださったのね。今までは、わ たしとお父さんが一緒に何かすると、『親父は、男だったんだぞ』って、すぐ口にさ れてたのに」 「しようがないじゃないか、今じゃどこからどうみても、女性にしか見えないんだか ら。姿だけでなく、仕草なんかもだいぶ女性らしくなってきているしさ……」  ここまで言って、急に恥ずかしくなったのか、飯をがつがつと食べはじめ、 「おお、この鯛。巧く焼けてるな。由香里が焼いたのか。店屋物じゃないよな?」  と、話題を変えてきた。 「もちろんです」 「いい奥さんになれるよ」 「うふふ。ありがとう」  以前の英二は、仕事を終えても家には帰らずに夜の街を徘徊し、いつも午前様だっ た。しかし婚約以降、由香里がわたし達親子のために、夕食を作って待っているので、 まっすぐ帰ってくるようになっていた。由香里を心配させないようにと、自分の健康 にも気を使って、酒の量も大幅に減らしているようだった。  実にいいことじゃないか。  うーん。ついに二十歳前後になった。  もうこれ以上は目立った女性化も若返りも進まないみたいだ。  真奈美よりお姉さんで、他の三人よりは妹というところだ。  身体の方の改造はほとんど終了したようだ。  以上で報告は終わりにしよう。
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2019年5月22日 (水)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(十)染色体XX

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)
(十)染色体XX  三週目。  朝起きると、股間が痛い。  調べて見ると、陰嚢縫線と陰茎縫線がぱっくりと裂けて口が開いていた。  陰嚢縫線(陰嚢陰唇癒合線)は、女性なら大陰唇となるべきものが癒合して陰嚢と なった痕跡であり、陰茎縫線(尿道溝)は、小陰唇が癒合して尿道を形成した痕跡で ある。  その両方の綴じ目が開いて、膣口が姿を現したのである。  陰嚢は以前から脂肪が沈着して厚くなっていたので、立派な大陰唇が完成した。  ついに内性器と外性器が繋がったのである。  これまでにおける女性化の中でも、もっとも劇的な変化と言えるであろう。  今日ここに、男性である形態が完全に失われた。もうどこから見ても女性としか判 断ができなくなった。 「開通式でもやるか?」  しかし、膣口が開いたのはいいが、そこから多量のおりものが出てくる。新陳代謝 の活発な子宮からはげ落ちた粘膜や、古くなった細胞の残骸が次々と排出されている ようだ。  しかたないので、ナプキンを当てて生理ショーツを履く事にした。  通常のナプキンは経血を吸収するようにできてはいるが、おりものは成分が違うの で吸収率が悪い。そこで産婦人科ご用達のおりもの専用のナプキンを使用する事にし た。これは少しばかり大きめなので、ちょっと具合が悪いのだが我慢するしかない。  若返りの速度はゆるやかになっていた。  年の頃三十歳くらいである。  ペニスは、ほとんど退縮してしまって、大陰唇の上部付根あたりにちょこんと顔を だしている程度になっている。もはやクリトリスと言った方がいいだろう。尿道口は、 膣口とクリトリスの間の本来あるべき位置に納まっていた。  正真正銘の外性器が完成したと言ってもいいだろう。  ここに至っては、外科的な形成は済んで、あとは内科的・機能的な成熟が待たれる のみである。  四週目。  こんな不思議なことがあってもいいのだろうか?  それは卵巣の機能を調査するために、体外授精用の卵子採取器を使って、お腹に穴 を開けて卵巣の組織の一部を取り出してみた時のことだった。  その染色体を調べてみると、XYのはずのものがXXになっていたのである。  これまでの女性化のプロセスは、退化したミュラー管から子宮や膣を発生させ、逆 にウォルフ管からの前立腺を退化させるものであるが、理論的には決して不可能とは 言い切れないものだし、実際わたしの身体に起こっている事がそれを証明している。 それは女性ホルモン投与で乳房が発達したり、睾丸が縮小するという紛れもない事実 が、その現実性を物語っている通りである。半陰陽が存在したり、回遊魚の一種には 身体が小さい時は雄で、成長すると雌になってしまうのがいる。性別というものは、 決して固定したものではないのだ。  細胞分裂の際において、通常ならXY染色体それぞれが分裂して、XX・YYにな り、それが二つに分かれてXY・XYになるのだが、性転換薬が何らかの影響を与え て、XX・YYという異常な分裂を引き起こしたのではなかろうか。YYの細胞はや がて死滅するしかない。結果として、XXの染色体のみが生き残っていったと考える べきだろう。  これは産婦人科の領域ではないので、わたしにはその信憑性を判断する事ができな い。あくまで推測に過ぎない。  とにもかくにも、XXの卵巣に変貌したのであれば、妊娠の可能性が高まったとい えるだろう。  今の年齢は、二十五歳前後かな。  女性化はほぼ完成に近づいているようであった。  これ以上の身体的変調も起きないだろうし、体調もすこぶる良いので退院する事に した。  由香里が女性衣料品を持ってきてくれた。  すっかり女性化してしまったので、男性衣料を着る方が変に思われる。  この頃には女性の姿にも自信がついてきていたので、女性衣料を着ても恥ずかしい という感情は起きなかった。  荷物をまとめていると英二がやってきた。荷物の運搬のために由香里に言われて来 たようだ。  とうとう今日まで一度も見舞いにこなかったな。  ここは産婦人科だ。英二が来院するには相当の勇気がいるし、わたしが変貌してい く姿を見ていたくなかったのかも知れない。  しかし、由香里が妊娠して入院していたらどうするかな?  おそらく毎日のように見舞いにくるに違いない。  久しぶりの我が家はいいものだ。  多種雑多な薬剤の匂いにまみれた病室と違って、由香里が持ってきて置いている花 々の芳しい香りに包まれた部屋。掃除が行き届いており、毎日開け閉めして換気して いるのだろう、空気の淀みもなく清涼感に満ちていた。
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2019年5月21日 (火)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(九)順調に転換中

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)
(九)順調に転換中  若返りのスピードが、この頃最大になっている。女性化のスピードとほぼ同調して いるようだ。一日に二歳くらいの割合で若くなっている。  現在のところ、見掛けじょうの年齢は四十歳くらいだ。都合十五歳は若くなった計 算になる。  万が一を考えて、父親の病院に入院する事にした。  あまりの急変貌に、体調もすぐれない日々があるからだ。それに、自分一人では治 療のできないこともある。父親なら、実情を知られても何ら問題はない。  ただ、入院当初はわたしが息子の英一郎だということを信じて貰えなかった。親子 の間だけでしか知り得ない事柄や、幼い頃に負った火傷痕(消え掛けていたが)や、 例の記録写真を見せて、やっと信じてくれた。 「おまえが、性同一性障害者とは知らなかったな」  誤解していると思ったが、説明するのが面倒なのでそういうことにしておく。性転 換など性同一性障害者しかしないからな。  すでに睾丸は見当たらない。  発生の過程で陰嚢に降りてきた逆のルートをたどって、体内に戻っていってしまっ たものと思われる。やがて所定の位置に納まり、卵巣へと変化していくのであろう。 性転換であるから身体に吸収されて消滅したのではなさそうだ。ただ、たとえ卵巣に なったとしても、染色体はXYのまま、つまり睾丸卵巣のはずであるから、果たして 生殖能力があるかどうかが問題だ。特殊な事例としてXY染色体の真正半陰陽の女性 が、妊娠したという報告もあるが、性転換薬がどこまで効果を発揮してくれかを観察 しよう。  陰嚢はぺたりと肌に張り付いている感じで、脂肪が沈着して厚みを増していた。お そらく今後は、女性の大陰唇として発達していくものと思われる。  基礎体温表をつけることにする。  卵巣や子宮の機能状態を調べるには絶対に必要なことだ。もっと早くからやってお くべきだったが、うっかり忘れていたのだ。診察の判断材料にするために、病院の外 来患者に口が酸っぱくなるほど、体温表をつけてくださいと言い続けている医者が、 これじゃあ失格だな。医者の不養生というやつだ、反省しなければ。  血中ホルモン濃度の測定。正常値よりかなり高いが、女性化の最中なので当然だろ う。  婦人科で行われる診察や治療が日常的になった。  ちょっとふざけて妊娠検査をやってみたら陽性とでた。  毎日女性ホルモンを投与しているし、内分泌器官から多量の女性ホルモンが出てい る。早い話し性転換には、ホルモンバランスが妊娠状態にあったほうが都合が良いと いうわけであろう。丁度妊娠三ヶ月くらいの妊婦に近い血中濃度がある。 「おめでとうございます。三ヶ月ですよ」  由香里が、女物のパジャマを持ってきてくれた。  家から持ってきていたパジャマは男物で、今の体形ではだぶだぶになってしまって いたからである。  しかし……。こんな可愛い柄着れないよ。 「似合ってますよ。おとうさん」  とは言ってくれるのだが。  まあ、一応個室なので病室にいる間は問題ないのだが、トイレに立つ時が恥ずかし い。  通路で行きかう患者はすべて女性だ。しかもほとんどが大きなお腹を抱えている。  一般的には産婦人科と呼び慣わされているが、実際には産科と婦人科とに分かれて いる。だから妊婦や産辱婦だけでなく、重度の月経困難症や子宮筋腫などで入院して いる患者もいるが数は少ない。みんな総合病院などの大きなところへ行ってしまうか らだ。  それは当然のこととして、このわたしを見てどう感じているのだろう。性転換はか なり進行しているとはいえ、まだまだ進化の途上にある。はたして女性としてどこま で認知されるかどうか。 「大丈夫ですよ。ちゃんと女性に見えてますよ」  と由香里は言ってくれているのだが……。  それはさておいても……。  立ちションができない!  産婦人科だから男子トイレがあるはずもなく、便器は妊婦の利用を考えてすべて腰 掛式になっている。腰掛けて用を足すことになる。  ペニスは小指の第一関節くらいの大きさにまで退縮して、まともに摘まむ事さえで きなくなっていた。皮があつく被っており、そのままではとんでもない方向に小水が 飛んでしまう。何度便器や床をトイレットペーパーで拭った事か。  しようがないので、その皮を剥いて尿道口を露出させて何とか無事に用足しができ る。あまり良い感覚ではない。  さらに、一度小水を出しはじめると、膀胱内のもの全部が排出されるまで、止める 事ができなくなっていた。どうやら、精管と尿道の合流点にあって、逆流を防ぐ弁の 働きをする前立腺が退縮して、その機能を失ってしまったようだ。  若返りは、ついに三十五歳くらいにまでにたどり着いたが、そのスピードが鈍化し てきた。女性化が進んで、完成に近づきつつあるせいだろう。それでも娘達より若く なってしまいそうである。
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2019年5月20日 (月)

性転換倶楽部/性転換薬 XX (八)アダムのリンゴ

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)

(八)アダムのリンゴ

 

 二週目。

 

「お父さん、声変わりしてる」
 由香里は、わたしの体調の変化に逸早く気づく。それだけわたしのことを心配し、
気にかけている証拠である。
「そうか?」
「何か喋ってみてください」
「えーと……。あいうえお。たけやぶやけた。この竹垣に竹立て掛けたのは、竹立て
掛けたかったから、竹立て掛けたのです」
 ぱちぱち、と拍手する由香里。
「やっぱりです。女性の声になってます」
「ほんとうか?」
「はい。正確には、男性3・女性7という感じですね」
「そうか……」
「良かったですね。これで人前でも自由に声が出せますよ」
「そういえば、由香里はどうしたんだ。女性の声出せるようにするのに、相当苦労し
たんだろ?」
「ええ。最初のうちは全然だめでしたね。声がかすんだり、喉が痛んだりして、なか
なか巧く発生できませんでした。でも、ある日。ほとんど偶然に声が出せるようにな
りました。ちょっとしたコツがあったんです。それが判るまで悪銭苦闘でした」
「そうだろうなあ。その点、わたしは何の苦労もしないで声が出せるようになった。
声だけじゃなくすべての面においてもな」
「うらやましいですね」
 鏡を覗いてみると、喉仏が消失していた。
 首筋もかなり細くなっている。
「アダムのリンゴ、という逸話をご存じですか?」
「アダムのリンゴ?」
「昔々、楽園にアダムとイブという男女がいました。その楽園には、大きなリンゴの
樹があり、おいしそうな実がたわわに実っていました。しかし、それは神しか食べて
はいけない禁断の実でした。ある日の事、悪魔の化身の蛇が現れて、イブを誘惑して
そのリンゴの実を食べさせてしまいました。そのあまりのおいしさにイブは、アダム
にも食べさせてあげようとさらにリンゴを二つ取りました。『さあ、アダムもお食べ、
おいしいですよ』とリンゴを一個手渡して、自分も二つ目を頬張りました。イブがお
いしそうに食べるのを見て、禁断の実とは知りつつもリンゴを口にするアダム。
 その時でした。神が突然現れたのです。驚いたアダムはリンゴが喉につかえてしま
います。『おまえ達、禁断の実を食べたな』と、神は詰問しましたが、イブは食べて
いませんと嘘をつきます。『嘘をついてもわかるぞ』と神が言うと、イブの胸がぷっ
くりと膨らんでいきます。リンゴが喉につかえていたアダムの喉にも小さな突起がで
きました。
 リンゴを二つ丸々食べたイブと、喉につかえてしまったアダム。
 これが、女性には乳房が二つ、男性には喉仏ができたわけでした」
「あはは、なかなか面白いじゃないか。どこから仕入たんだ」
「お父さんの病院の待合室にある本棚に置いてあった本です」
「待合室か、あそこの本のことは、看護婦に任せているからな。確か、妊産婦向けの
婦人雑誌と、幼児向けの童話とかが置いてあるはずだが」
「実は、真菜美ちゃんが、入院していた時にたまたま見つけたんですよね。真菜美ち
ゃんは本好きだから、暇さえあれば読み漁っていたから」
「そうだな」

 

 声変わりと喉仏の以外にも、身体の変化は全体に及んでいた。
 筋骨隆々の男性的な体格から、なだらかで丸みのある、そしてほっそりとした女性
的な体格になっている。
 特に骨盤の発達が著しい。
 妊娠・出産を支える大切な器官だ。
 産婦人科医の意見として、もう少し発達してくれないと困る。これまでの発達スピ
ードからして、理想的な大きさになるには一週間はかかるだろう。
 反対に極端に小さくなっているのは、肩と肋骨あたりの骨。その部分の骨の成分が
吸収されて、骨盤の成長に回されているようだ。
 念のために骨密度を計ったら正常値にあった。まずは一安心。
 続いて、胎児の診断に使う、超音波診断器を使って、身体の中を透視してみる。
 通常の半分くらいにまで成長した子宮が映っていた。
 どうやら順調に改造が進んでいるようで一安心といったところか。
 それにしても……。子宮の中に胎児の姿をついつい探してしまうのは、産婦人科医
の哀しい性だ。胎児が映っていたら驚くだろうな。心霊現象かと、水子供養しなけれ
ばならないだろう。妻は処女だったからそれはないだろうが。それとも処女懐胎よろ
しくマリア様気分にでもなるか。

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2019年5月19日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第四章 新型モビルスーツを奪還せよ I

第四章 新型モビルスーツを奪還せよ

                 I

 

 海上を進む機動戦艦ミネルバ。
 第一作戦室では台上に投影された航海図を囲んで士官たちが作戦を討論していた。
「しかし……、ここまで来て、バイモアール基地が陥落したことを知らせてくるとは。
何も知らずに基地に向かっていたらどうなっていたか……」
「それは無理からぬことではないでしょうか。何せ敵の只中にいるのですから、通信は
基地の所在を知らせる危険性があります。もちろん敵も通信傍受の網を広げて、我々を
必死で探し求めています」
「で……。どうなさいますか、艦長」
 一同の視線がフランソワに集まった。
 フランソワは毅然として答える。
「命令に変更はありません。情報によれば、最新型のモビルスーツを搭載していた輸送
艦が搾取されて、基地に係留されているという。最新型を回収し、予定通りに訓練生を
収容します」
「訓練生と申されましても、すでに敵軍に感化されてしまっていて、スパイとして紛れ
込むという危惧もありますが……」
「それは覚悟の上です。何しろこの艦には乗員が足りないのです。交代要員もままなら
ない状態で戦闘が長引けば、士気は減退し自我崩壊に陥るのは必至となります」
 いかに最新鋭の戦闘艦といえども、それを運用する兵員がいなければ、その戦闘力を
発揮できない。問題とするなれば、カサンドラ訓練所はモビルスーツ・パイロットの養
成機関であり、パイロット候補生に艦の運用に携わる任務をこなせるかどうかである。
それでも、猫の手も借りたい状況では、一人でも多くの兵員が欲しい。特殊な技術や知
識を必要としない部門、戦闘で負傷した将兵を運んだり介護する治療部衛生班や、艦載
機などに燃料や弾薬などを補給・運搬する整備班など。特に重要なのは、戦闘中に被爆
した際における、艦内の消火・応急修理などダメージコントロール(ダメコン)と呼ば
れる工作部応急班には、事態が急を要するだけにパイロットであろうと誰であろうと関
係なしである。とりあえずはパイロットであることは忘れてもらって、各部門に助手と
して配備させて、手取り足取り一から教え込んでいくしかないだろう。

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2019年5月18日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第三章 第三皇女 II

第三章 第三皇女
                 II  連邦軍先遣隊の旗艦艦橋。 「皇女艦の包囲をほぼ完了しました」 「ようし、降伏を勧告してみろ」 「了解」  戦闘情勢は有利とみて、余裕の表情だったが……。 「未知の重力加速度を検知! ワープアウトしてくる艦隊があります」 「なんだと? 艦が密集している空間へか?」 「間違いありません。重力値からすると、およそ二百隻かと」 「ワープアウトします!」  戦闘区域のど真ん中にいきなり出現した艦隊。  二百隻の艦隊は、皇女艦に取り付いている連邦軍艦隊に対して戦闘を開始した。 「包囲網が崩されています」 「何としたことだ。一体どこの艦隊なのだ」  すさまじい攻撃だった。  まるで戦闘機のように縦横無尽に駆け回る艦隊に翻弄される連邦軍艦隊。  さらに連邦軍を震撼させる事態が迫った。 「背後より敵襲です! その数二千隻」 「敵襲だと? 帝国の援軍が到着したのか、しかも背後から」 「そんなはずはありません。本隊が救援に来れるのは、早くても三十分かかるはずで す」 「じゃあ、どこの艦隊だ? 今取り付いているこいつらにしてもだ」  と、言いかけた時、激しい震動と爆音が艦内に響き渡った。 「左舷エンジン部に被弾! 機関出力三十パーセントダウン」  パネルスクリーンには、敵艦隊の攻撃を受けて、次々と被弾・撃沈されていく味方艦 隊の模様が生々しく映し出されていた。高速で接近し攻撃し、一旦離脱して反転攻撃を 加え続けていた。 「この戦い方は……。ランドール戦法か?」  折りしも正面スクリーンに、攻撃を加えて離脱する高速巡洋艦。その舷側に赤い鳥の ような図柄の配置された艦体が映し出された。 「こ、これは! サラマンダーじゃないか」  その名前は連邦軍を震撼させる代名詞となっている。その精霊を見た艦隊は、ことご とく全滅ないし撤退の憂き目に合わされているという。 「そうか! デュプロスに向かった別働隊との連絡が途切れたのもこいつらのせいに違 いない」 「ランドールのサラマンダー艦隊は、タルシエン要塞にあるのでは? それが何故、中 立地帯を越えたこんな所で……」 「知るもんか。これ以上、被害を増やさないためにも撤退するぞ」 「撤退? 後少しで皇女を拉致できるというのにですか?」 「何を言うか! すでに皇女艦の包囲網すら突き崩されてしまっているじゃないか。逆 にこちらの方が捕虜にされかねん情勢が判らないのか。ランドールは撤退する艦隊を追 撃したケースは、これまでに一度もない。だから捲土重来のためにも、潔く撤退するの だ」 「判りました。撤退しましょう」 「戦闘中止の信号弾を上げろ! それで奴らの攻撃も止むだろう。その間に体勢を整え て撤退する」  旗艦から白色信号弾が打ち上げられた。
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2019年5月17日 (金)

妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の弐

陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪

其の弐 地鎮祭  数日後。  地鎮祭が執り行われることになった。  神主には、最も近くの神社に依頼されることが多い。  取りも直さず、直近となれば阿倍野土御門神社ということになる。  宮司である土御門春代が高齢のため、名代として蘭子が地鎮祭を司ることとなった。  日曜日なので学校は休み、きりりと巫女衣装を着こんでいる。  敷地の中ほどに四隅を囲うようにして青竹を立て、その間を注連縄(しめなわ)で囲 って神域と現世を隔てる結界として祭場とする。  その中央に神籬(ひもろぎ、大榊に御幣・木綿を付けた物で、これに神を呼ぶ)を立 て、酒・水・米・塩・野菜・魚等、山の幸・海の幸などの供え物を供える。 「蘭子ちゃんの巫女姿も堂に入ってるね」  施工主で現場監督とは、蘭子が幼い頃からの顔馴染みであった。 「ありがとうございます」  つつがなく地鎮祭は進められてゆく。 地鎮祭の流れ  係員が静かに監督に近寄って耳打ちしている。 「監督、あの胞衣壺が見当たりません」 「見当たらない?」 「はい。ここに確かに埋めたんですけど……」  と、埋め戻した場所に案内する係員。 「誰かが掘り起こして、持ち去ったというのか?」 「胎盤とかへその緒ですよね。そんなもん何するつもりでしょう」 「中身が何かは知らないのだろうが、梅干し漬けるのに丁度良い大きさだからなあ」 「梅干しですか……でも、埋まっているのがどうして分かったのかと」 「通行人が立ちションしたくなって、角地だから陰になって都合がよいから」 「それで、掘れてしまって壺が顔を出し、持ち去ったと?」 「まあ、あり得ない話ではないが」  二人して首を傾げているのを見た蘭子、 「何かあったのですか?」 「実はですね……」  実情を打ち明ける二人。 「胞衣壺ですか?」  と言われても、実物を見ていないので、何とも言えない蘭子。 「解体される前の家屋を見てましたけど、旧家だし胞衣壺を埋めていたとしても納得で きますが」  陰陽師の蘭子のこと、胞衣壺については良くご存知のようだ。 「長い年月、その家を守り続けてきたというわけですが、何か悪いことが起きなければ 良いのですが」  空を仰ぐと、先行きを現すかのように、真っ黒な厚い雲が覆いはじめ雨が降りそうな 雲行きとなりつつあった。
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2019年5月16日 (木)

性転換倶楽部/性転換薬 XX (七)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)
(七)乳房ポヨヨーン  娘三人集まればかしましい。というがそれが四人なのだ。 「うん。やっぱり先生のが一番大きいですね。サイズはいくつですか?」 「C85よ」 「85!」 「すごいアンダーですね」 「しかたないわよ。男性ならそれくらいよ」 「性転換薬注射しているとおっしゃいましたよね」  里美が考え込んでいる風な感じで尋ねた。 「ああ……」 「一日でこんなになったくらいですから、身体もやがて、ほっそりと痩せてくるんじ ゃないでしょうか。わたしはそう思いますけど」  例のスーパー薬を注射されて、性転換の片鱗を体験しているからの発言だろう。に しても、元々から華奢で美人だった三人娘と違って、私は男そのものの体形をしてい るから、果たして里美の言う通りになるか心配だ。 「そうだといいんだがな」 「大丈夫ですよ。きっとそうなります。性転換薬というくらいですから、乳房だけ大 きくなるなんてことないです」 「でも大きいわあ、ねえ、触ってもいい?」 「真菜美ちゃん、だめよ。失礼よ」 「だってえ。お姉さんたち、みんなBカップ以上で、あたしだけAカップだもん」 「そんなに触りたいか?」 「うん。いいの?」 「かまわん」 「あはは、じゃあ……」  と言って、恐る恐る触りはじめた。女の子というものは、とかく積極的で遠慮とい うものがなかった。何せ、思春期真っ盛りの十六歳だ。おい、その何にでも首を突っ 込む性格をどうにかしないと、また男にだまされるぞ。まったく少しも懲りていない 雰囲気だな……。  しかし、何だろう……この感じ……。くすぐったいけど……。ああ、たぶん母親が 乳児に授乳させている感じか……。  乳児は母乳を飲んでいる時、無意識にその乳房を揉みしだいている。母親はそのち っちゃな手の動きを感じながら微笑んでいる。そんな感じだ。 「わあ! 柔らかくてぷるぷるしてる。あたしもこんな風になるといいなあ」  他の三人は呆れた表情で微笑んでいる。 「先生。記録映像は撮っておられますか?」  響子が突然話題を変えて、尋ねてきた。 「記録映像?」 「はい。学術的な観点から記録を撮った方が良いとおもいます。薬の効果、経日的身 体変化の様子などです。それに女性になってしまったら、先生が黒沢英一郎であると いう証拠を示すことができなくなります」 「それもそうだな。よし記録写真を撮ろう」 「あたし、デジカメ持ってるよ」 「デジカメはだめよ。記録写真として撮る以上は、ネガやポジのフィルムを使う通常 のカメラでないとね」 「どうして?」 「デジタルだと画像編集して、どんな風にでも加工できるからよ。警察の現場検証で の証拠写真は、通常のカメラで行われるのよ」 「ふうん……そうなんだ」 「由香里。書斎からカメラ持ってきてくれないか」 「はい」  由香里は婚約以来、我が家に来て部屋の掃除などをしてくれているので、どこに何 があるかを、ある程度知っている。 「じゃあ、撮りますよ」 「ああ、やってくれ」  身体的全体像から、乳房や局部の詳細な写真を撮っていく。  三女までの娘達は、元々は男性だったので、その股間の物を見ても恥ずかしがらな い。懐かしいなという境地かも知れない。  だが、正真正銘の女の子である真菜美だけは、 「へえ。男の人のってこんな風になってたんだ……。可愛いな」  と真剣な眼差しで、食い入るように見つめている。  真菜美の脳は、柿崎直人という男性のものを移植したものだったが、脳神経細胞活 性剤の投与により、男性脳から女性脳に切り替わってしまい、そこへ死んだはずの真 菜美の魂が乗り移ったのだ。  二日目。  乳房の発達は昨日のような急変はしていない。  このままどんどん大きくなって、超巨乳になるのかと思ったが、余計な心配だった ようだ。わたしは巨乳好みではない。アメリカ人などは巨乳好きらしいが、米国のT Vなどで肩に担ぐほどの乳房を誇っている女性を見掛けると、大きな胸のせいで相当 な肩凝りに悩まされているんだろうなと可哀想に思った。  たった二日なのに、筋肉は削げ落ちて脂肪に置き換えられてふっくらとして女性ら しい丸みを帯びた体系にすっかり変わっていた。  乳房は、性転換薬でなくても、普通の女性ホルモンを投与していれば、自然に膨ら んでくる。脂肪沈着もそうだ。  どうやら特殊な薬を使用しないでも、女性ホルモンだけで十分変化を見せる乳房や 体脂肪などは驚異的なスピードで進行していくようだ。ただし適当なところまで育つ と停止する。一方、性転換薬の力を借りて、より複雑な行程を必要とする内性器は、 じっくりと改造が進められていると思われる。 「お父さん、若返っているんじゃありませんか?」  由香里の言葉に驚いて鏡に姿を映してみると、確かに以前より若くなっていた。  あ、そうそう。婚約以来由香里は、わたしをお父さんと呼んでいる。 「一体何が起こったのかな。もしかしたら副作用かな。まあ本当に若返っているとい うのなら好都合だが」 「あの研究員にお尋ねになられたら?」 「そうだな。今度聞いてみよう」  一週目の終わり。  ペニスは、ほとんど赤ん坊くらいの大きさに縮小していた。これじゃあ、立つにも 立たない。もはや小水をするだけの機能しかない。  睾丸はごく小さなしこり状の固まりとなっていた。精子生産能力・男性ホルモン分 泌能力共に消失しているものと思われる。  男性としての生殖能力を完全に失ってしまったわけだ。
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2019年5月15日 (水)

性転換倶楽部/性転換薬 XX (六)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)
(六)性転換初日  一週目。  初日。  その夜は、寝苦しかった。  睾丸がじくじくと痛み、乳首のあたりに圧迫感が広がっている。  どうやら薬が効いているようだ。  そして翌朝になった。  ひどい寝汗だ。風邪の症状でもこれほどの汗はでないだろうというくらい。  額を拭おうとして腕を動かしたら、異様な感覚を覚えた。 「そう言えば、朝には立派な乳房を見れると、言っていたな……」  起き上がって確認してみる。  それは感動的な眺めであった。乳房など飽きるほど見つめてきたはずなのに、それ が自分の胸にあるとなると、思いははるかに格別だ。 「里美もこんな風に感じていたのだろうか……」  もっとも彼女の場合は、自分の意志じゃなく強制的だったから、突然豊かな乳房に なってさぞや驚いただろうな。そして追い撃ちをかけるように、性別再判定手術を施 されて、女性にされてしまった。だから。本当なら刑事告訴されても仕方がないとこ ろを、元々から女性的な一面を持っていたから、何とか許してくれて私の会社で受付 嬢として働いてもらっている。実は、本人には知らせていないが、とある取引先の重 役から長男の嫁に欲しいとの話しもあるんだが……。由香里のことが済んだら話して みようと思っていたが、こんな状況では英二に引き継いでもらうしかない。 「うん。乳腺はしっかり発達しているな。形状も弾力も申分ない。これならお乳も十 分に出るだろう」  自分で自分の乳房を触診している。産婦人科医として数多くの乳房を触診してきた から、張りがあってつんと上向き加減のこの乳房には満足している。 「サイズ的には85のCカップというところじゃないだろうか……。ブラジャーが必 要だな」  歩く度に乳房がぷるんぷるんと揺れて具合が悪い。  早速、由香里に頼んで買ってきてもらおう。 「まず、ストラップの間に腕を通して、身体を少し前屈みにしてから、バストを下か らすくうようにしてカップに収めます……」  というわけで、今ブラジャーの着け方を、由香里に教えてもらっている。  検診に際して女性の乳房や、ブラジャーを付けたりはずしたりするのを見てはいた が、自分で自分にブラジャーを着用するのははじめてのことだら、勝手が判らないの だ。 「そうしたら後ろ手で、ホックを止めてください」  おいおい。そんな後ろに手が回らないよ。歳のせいで身体が固くなっていているん だ……。  あれ? 楽に腕が後ろに回るじゃないか。  薬のせいで身体が柔らかくなっているようだ。  しかし、見えない後ろ手でホックを止めるのが、なかなか難しい。女性は毎日こん なものを着けているのか。中高年になって身体が固くなったら着用できないのじゃな いのか? 「カップに手を差し入れて、脇に流れた肉を寄せ集めてカップに収めます。次に身体 を起こしてストラップの調整をします。後側が肩甲骨の下あたりに来るようにして下 さい。ここでの注意点は、前中心が浮いていないかです。確認してくださいね。あ、 大丈夫です。これでOKです」 「なあ、フロントホックとかいうのがあるよな」 「ありますよ。でも品数が少ないし、デザインもいまいちなんですね。それにお父さ んくらいのCカップだと探すのに苦労します。通販しかありませんね」 「そうか……」 「大丈夫ですよ。これは慣れの問題ですから、すぐにちゃんと楽に着れるようになり ます」  由香里から聞いたのか、響子に里美そして真菜美までが押し掛けていた。  ためつすがめつ、わたしの乳房を眺めては、 「わたしもこんな薬を打ってほしかったですよ。ねえ、由香里」  響子がため息をついた。 「そうですね。里美は薬打ってもらったんだよね」  由香里も同意している。ニューハーフ・バーでは最初ブラパッドをブラジャーにい れていたのだから。しかし、あの薬は大量生産ができないので、里美に打ったのが最 後だったのだ。 「ごめんね。わたしだけ……」 「いいのよ。気にしなくても。終わり良ければすべて良しよ」  真菜美がじっと私の胸を見つめている。 「やだあ、真菜美より大きいじゃない。ずるいよお」 「大丈夫よ。真菜美ちゃんは、まだ若いからもっと大きくなるわよ」 「ほんと?」 「もちろんよ。恋でもすればね」
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2019年5月14日 (火)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(五)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)
(五)性転換の説明  研究員は補足説明をはじめた。 「男性の場合のミュラー管は、退化はしたものの完全に消滅したわけではありません。 性転換薬は、その退化したミュラー管に直接働き掛けて、活性化を促して子宮と膣な どを発生させます。そして反対にウォルフ管から分化した前立腺などを、強制退縮さ せます。やがて男性内性器から女性内性器に一新されてしまうわけです」  なるほど、ミュラー管に目をつけるとはさすがだな。女性に生まれ変わりたいと願 って、日頃から勉強と研究を重ねていたのだろう。 「もちろん内性器の再分化だけでは、それこそ半陰陽でしかありません。外性器も同 時に進行しなければいけません。内性器さえ出来上がっていれば、形成外科的に構築 する方法もありますし、生殖には何ら問題はないですけれどもね。しかしこの薬は、 それさえもやってのける万能薬です。まあ、その過程は実際に経験してご自分の目で 確認してください」 「なんだ、教えてくれないのか?」 「ええ。一切合財知ってしまったら、感動が薄れてしまうじゃないですか。本当に素 晴らしいというか、劇的な身体の変化を観察してください」 「観察ねえ……」  内性器は、いくら変化しても外見からでは判断できない。だから研究員は説明して くれたのだろう。それに比べて外性器は、一目瞭然としてその変化を逐一見る事がで きるから、自分の目で直接観察してくれというのだろう。  論より証拠というわけだ。 「チンパンジーの話しに戻りますね。観察では、三日目には外陰部が女性器に変わっ てしまい、七日目には完全に性転換が完了しました」 「うーむ。チンパンジーで一週間なら、人間なら一ヶ月くらいはかかるかな……」 「性転換薬だけでも十分女性化しますが、念のために女性ホルモンを投与してくださ い。効果がさらに発揮されるはずです」 「わかった。産婦人科医だから、それは問題ない」 「それと成長ホルモンが十分に分泌されるためにも、睡眠はたっぷり取ってください。 脳下垂体は、眠っている間に成長ホルモンを産生分泌しますから」 「そうだな。寝る子は育つというわけか」 「ここにその後に注意していただきたい事柄を、詳しく説明してあります。良く読ん で、治療が必要な時は迷わず実行してください」  と、厚めの冊子を手渡してくれた。  ぺらぺらとめくって拾い読みしてみる。  三食しっかり食べる事、喫煙・飲酒を絶つ事、十分な睡眠。日頃の生活上での注意 事項が綴られている。  さらには、血中ホルモン濃度、血液凝固反応、骨密度、体脂肪率などなどの計測の 実施。産婦人科で日常的に行われることが記されている。  その中でも特に注意を引いたのは骨盤計測の項目である。  骨盤外計測(棘間経、大転子間経、外結合線……)  骨盤腔(産科真結合線、骨盤峡……)  その他項目。  妊娠・出産が正常に行われるかどうかを確認する為に、産婦人科医は必ず妊婦の骨 盤の諸経を計測しなければならないが、そのなかでも胎児が通過する産道にある、骨 盤腔産科真結合線の計測は絶対必要な項目である。この計測結果によって自然分娩に するか帝王切開にするかを判断する。なお骨盤腔は、開腹してみなければ実測は出せ ないので、X線撮影法か、触診及び外経から推測するしかない。 「しかし、産婦人科医しか知らないこんな専門的なところまでも調べ上げているとは。 驚異としか言えないな」  薬剤師にはほとんど必要のない事柄までを詳細に勉強している。  まあ性転換薬を作り上げるには、女性の骨格から生理、外面・内面すべてのプロセ スに渡って詳細に知り尽くしていなければ、完成させることはできないというわけか。 「他に何か注意事項はあるかね」 「いえ、以上です」 「そうか、ご苦労だった」 「それでは、失礼します」  一礼して退室する研究員。  彼女の役目はここまでだ。  研究員の任務は薬を開発する事。完成された薬を、実際の患者に使用するのは医者 の役目であり、その後の患者の容体を見届けるのも医者だ。薬剤の使用によって患者 に何か起こった場合、責任を取らなければならないのは医者であり、研究員は免罪さ れるのが常だ。薬剤を開発したことが問われるのではなくて、その薬剤の効能を十二 分に理解して投与した医者にこそ責任がある。  つまり今回の性転換薬投与は、すべて私自身の責任であり、研究員には何の咎めも 受けない。 「お父さん、気分はどうですか?」  由香里が心配そうに私の表情を伺っている。 「ああ、今のところ大丈夫だ。まあ、おそらく今夜辺りから何らかの症状が現われる と思うがたいしたことはないだろう」  そう答えた背景には、スーパー薬を投薬された里美の実体験のことが頭にあった。 「あたし、心配ですから。毎朝様子を見に行きます」 「そうか……。じゃあ、よろしく頼むよ」  果たして今後どうなるものかと尋ねられても、誰も答えられる者はいない。何せ世 界初というべき人体実験なんだから。誰かがそばにいてくれれば心が安らぐ。由香里 は毎日来訪して夕食を作ってくれているので、都合朝夕の二回顔を会わせる事になる。  それから私の身に起きた劇的な変化は、言葉だけではとても言い尽くせないもので あった。自分では確認できない兆候もあるので、由香里の証言を含めて記述していこ うと思う。
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2019年5月13日 (月)

性転換倶楽部/性転換薬 XX (四)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)

(四)性分化に関するながーい話デス

 

「社長、どうなさったのですか?」
 彼女が心配そうにしている。
 いかんいかん。また悪い癖が起きようだ。
「ともかく、六時間以内という限られた中では、探している暇はない。ここにいる者
から選ぶしかないだろうし、適任者は一人しかいない。この私というわけだ」
「わかったよ。そこまで意思が固いなら止めはしないが、責任は自分で取れよ。僕や
由香里には、世話かけるなよ」
「無論だ」

 

「社長、いいですか?」
「おう、やってくれ」
「では、袖を捲くってください」
 言われた通りに背広を脱いで、Yシャツの袖を捲くる。
 彼女は、薬瓶から注射器に性転換薬を移していた。
「では、いきますよ」
「お父さん、本当にいんですか?」
 由香里が心配そうに覗きこむ。
「いいんだよ、由香里。これは私の役目なんだよ。社長として最後の仕事だ」
「お父さん……」
 由香里は本当にやさしい娘だ。英二はああ言ったが、私がどんなになろうとも、世
話をしてくれに違いないだろう。
 研究員が腕をアルコールで消毒をはじめた。いよいよだ。
 彼女は薬剤師の国家資格しか持っていないから、注射のような人への医療的行為は
許されていないが、まあいいじゃないか。医師のわたしが許す。
「では、いきます」
「おお……」
 いざ注射される段になって、さすがに緊張して腕が震えた。
 ちくりと鋭い痛みがあって、性転換薬が腕の筋肉に注入されていく。
「もう二度と元に戻れないか……」
 言い知れぬ感覚が全身を駆け抜けていく。
 性転換手術を受ける寸前の患者も気持ちはこんな感じなのだろうな。
 もっとも手術によるものではなくて、薬による無傷性転換というのが違うところだ
が。
「明日の朝には、立派な乳房が見られる事でしょうね」
「そ、そうか」
「社長なら、ウォルフ管とミュラー管のことはご存じですよね」

「ああ、産婦人科医なら誰でも知っている。どちらも生殖原基細胞から分化したもの
で、男女の内性器を発現する元となる器官だ。胎児の発生の過程において、ウォルフ
管は前立腺や尿道管の一部などの男性性器に分化し、ミュラー管は子宮や膣といった
女性性器に分化する。受精においてXY染色体を持った者は、Y遺伝子からの指令を
受けて原始生殖細胞が睾丸となって男性ホルモンを分泌するようになり、ウォルフ管
を前立腺などの男性器へと誘導して、対するミュラー管は退化してしまう。一方のX
X染色体を持った者は、自動的に卵巣に発達して、ミュラー管が子宮や膣などの女性
器へと誘導されて、ウォルフ管が退化してしまう。ミュラー管は女性ホルモンで発達
し、ウォルフ管は男性ホルモンで発達する。その逆では抑制の方向に働くようになっ
ている。
 生殖原基細胞は女性型が基本となっていて、何の刺激も受けなければ自動的に女性
に分化してしまう。つまり発生の過程で、男性ホルモンがあるかないかによって性が
決定してしまうんだ。
 半陰陽というものがある。男女分化が中途半端に起こる現象だ。
 睾丸も卵巣も、微量だが反対の性ホルモンも分泌する。また副腎皮質からも両性の
ホルモンを分泌する。元が同じ所から発生したから当然だな。これらが時として多量
の性ホルモンを分泌することがある。そうなると正常な性分化が阻害されて、半陰陽
を産み出してしまうんだ」
「さすがですね」
「馬鹿にしちゃいけないよ」

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2019年5月12日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 X

 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌
 X 撃沈  ミネルバ艦首の三連装135mm速射砲が火を噴いた。  砲口から飛び出したAPFSDS弾は、加速ブースターとも言うべき離脱装弾筒を 切り離して、後尾翼のついたペンシル状の弾丸となって敵艦を襲う。  砲口初速は2100m/s(7560km/h)とハープーンの巡航速度(970km/h)とは桁違いの 速度であり、しかも電波を出さず推進用の熱源もないために、着弾時の終速値がかな り低下していたとしても、これをミサイルで迎撃するのは至難の業である。  余談だが、かつては大砲の砲身には砲弾を回転させ安定感を与えるための旋条砲身 というもの使われていたが、最近のAPFSDS徹甲弾のように、その直径と長さの 比が大きい(L/D比が6以上)弾種は、旋動させる方が飛翔中の安定性が悪くなること が判った。そのため旋条のない滑腔砲身が使用され、弾丸の安定には翼が付くように なった。なおラインメタル対戦車榴弾なども滑腔砲身用である。  APFSDS徹甲弾はザンジバルの後部エンジンに見事着弾して炎上させた。  炸薬がないとはいえ、凄まじい運動エネルギーの放出によって、衝撃波が生じ付近 一帯をことごとく破壊する。  ザンジバル艦橋。  大きな衝撃を受けてよろめく乗員達。 「後部エンジンに被弾しました!」  オペレーターが金きり声で叫ぶ。 「エンジン出力低下! 機動レベルを確保できません!!」  火炎を上げながらゆっくりと降下するザンジバル戦艦。  艦内では、消火班や応急処理班が駈けずり回って、何とか艦を立て直そうと必至に なっている。  やがて海上に着水し、加熱したエンジンに大量の海水が流入して、水蒸気爆発を起 こして火柱が上がった。  艦橋に伝令が駆け寄ってきて報告を伝えた。 「艦長! 至る所から浸水が始まっています。艦を救える見込みはありません!」 「判っている。副長、総員を退艦させろ!」 「了解、総員を退艦させます」 「通信士。艦隊司令部に打電だ。『我、撃沈される。速やかなる救助を願う』艦の位 置も報告しろ」 「了解!」  総員退艦の指令を受けて、艦の至るところで退艦の準備が始められた。  救命ボートや救命艇が海上に降ろされて、次々と兵員が乗り込んでいく。  艦橋からそれらの様子を眺めている艦長。 「だめだ! 敵艦は、エンジンから武装、その他すべてにおいて大気圏内戦闘のため に特殊開発された特装艦だ。宇宙戦艦一隻が太刀打ちできる相手ではない」  ミネルバ艦橋。 「敵艦、海上に着水。撃沈です」  一斉に歓声が上がる。 「スチームの射出を停止。当艦はこのままカサンドラ訓練所のあるバルモアール基地 へ向かう。全速前進!」 「了解。進路バルモアール基地、全速前進します」 第三章 了
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2019年5月11日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第三章 第三皇女 I

第三章 第三皇女
                 I  銀河帝国領内。  今まさに、第三皇女の艦隊が連邦軍先遣隊による奇襲攻撃を受けていた。  貴賓席に腰を降ろす皇女ジュリエッタの表情は硬かった。側に仕える二人の侍女は、 ただオロオロとするばかりだった。 「何としても姫を後方へお逃がしして差し上げるのだ。艦隊でバリケードを築いて、後 方へのルートを確保するのだ」  貴族と庶民との身分の隔たり。こういう状態においてこそ、その人となりが良く判る ものだ。  庶民を人とも思わずに税金を搾り取るだけの存在と考えたり、高慢で貴族であること を鼻に掛けて、庶民を虐げるだけの者は、いざとなった時には誰も助けてはくれない。 庶民達は自分可愛さにさっさと逃げてしまうだろう。  しかし、ジュリエッタを取り巻く人々には、責任放棄する者はいなかった。命を張っ てでもジュリエッタを救うための戦いを繰り広げていた。  気分を悪くした兵士を見かけたら、やさしくいたわり休息を与えたたり、全体が暗い ムードに陥っている時には、レクレーションやパーティーを開いて、士気を高める努力 を惜しまなかった。常に兵士一人一人に対して分け隔てなく気配りを忘れなかった。  ジュリエッタは民衆を愛し、かつまた民衆からも愛されていたのである。 「わたくし一人のために、多くの兵士達が犠牲になるのは、耐え難いことです。わたく し一人が……」 「いけません! 奴らは姫を捕虜にして、自分達の都合の良い交渉を強引に推し進める 算段なのです。かつてアレクサンダー第一皇子が、海賊に襲われ行方不明となった時に も、皇子を捕虜にしていることを暗に匂わせて、十四万トンものの食糧の無償援助と、 鉱物資源五十万トンを要求してきたのです。その後、皇子は連邦軍の元にはいないこと が判明して、交渉はないものとなりましたが……」  貴賓席に深々と沈み込み、自分には何もできないのか? と苦渋の表情にゆがむジュ リエッタ皇女。そうしている間にも、数多くの戦艦と将兵達が消えてゆく。  その頃、急ぎ救出に向かっていたランドール艦隊は、やっと中立地帯を抜け出たばか りだった。 「銀河帝国領内に入りました」 「前方に火炎を認めます」  銀河帝国艦隊と連邦軍先遣隊との戦闘が繰り広げられ、まるでネオンの明滅のような 光景がスクリーンに投影されていた。 「全艦に戦闘配備だ」 「了解。全艦戦闘配備」 「うーむ……。何とかギリギリにセーフといったところか。第三皇女の旗艦は識別でき るか?」 「お待ちください」  指揮艦席の手すりに肩肘ついてスクリーンを凝視しているアレックス。 「双方の戦況分析はどうか?」 「はい。圧倒的に連邦軍側が優勢です」 「だろうな。連邦軍にはつわものが揃っているからな」 「皇女の艦を特定できました」 「奴らの目的が皇女の誘拐であるならば、旗艦を無傷で拿捕しようとするだろうが、流 れ弾が当たって撃沈ということもあり得る。私のサラマンダー艦隊は、旗艦に取り付い ている奴らを蹴散らす。スザンナは旗艦艦隊を指揮して、連邦軍の掃討をよろしく頼 む」 「判りました。旗艦艦隊は連邦軍の掃討に当たります」 「それでは行くとしますか。全艦突撃開始! 我に続け!」  アレックスの乗るヘルハウンドを先頭にして、勇猛果敢に敵艦隊の只中に突入してい くランドール艦隊。
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2019年5月10日 (金)

妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪

陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪
其の壱 廃屋  阿倍野界隈にあって、廃屋となっていた旧民家の解体が行われることとなった。  油圧ショベルが容赦なく廃屋を潰してゆく。  悲鳴のような軋めき音をあげながら、崩れ行く廃屋。  長年積もり積もった家屋内の埃が舞い上がり、苔むした臭気が辺り一面に広がる。  ショベルでは掘れない細かい場所は、作業員がスコップ手作業で掘り起こしている。  水道管やガス管が通っている場所は、土木機械では掘れないからだ。  その手先にコツンと手ごたえがあった。 「何かあるぞ」  慎重に掘り起こしてみると、陶器製の壺のようであった。 「壺だな」 「まさか小判とか入ってないか?」 「だといいがな、せいぜい古銭だろう」 「いわゆる埋蔵金ってやつか?」 「入っていればな」 「やっぱ警察に届けなきゃならんか」(遺失物法4条) 「持ち逃げすりゃ、占有離脱物横領罪になるぞ」(刑法254条)  廃屋の解体作業工事屋だから、埋蔵物に遭遇することは、日常茶飯事。  それらに関する諸般法律はご存知のようであった。 「ともかく蓋を開けてみよう」  昔話のように、大判小判がザックザクということはまずありえない。 「開けるぞ!」  蓋に手を掛ける作業員。 「あれ?開かないぞ……」 「くっついちゃったか?」  内容物が溢れて、身と蓋の間で接着剤のように固まってしまったか。  金属ならば酸化反応で、生物ならば腐敗によって、内部の空気を消費して圧力が下が り、外から押さえられている場合もある。 「だめだ、開かないね」  壺を振ってみるが、音はなく内部にこびり付いているようだった。  その時、現場監督がやってきた。 「何をしているか、ちゃんと働かんと日給はやらんぞ」  怒鳴り散らす。  雨続きで解体期限が迫っていて、不機嫌だったのだ。 「いやね、こんな壺を地中で見つけたんですよ」  と、壺を掲げ上げて見せる。 「どこにあった?」 「土間の台所入り口にありました。地中に水道管が通っているので手掘りして見つけま した」  ちょっと首を傾げて考える風であったが、 「たぶん……胞衣壺(えなつぼ)だな」 「えなつぼ?」 「出産の時の後産の胎盤とかへその緒を収めた壺だよ。昔の風習で、生まれた子供の健 やかな成長や、立身出世を祈って土間や間口に埋めたんだ」 「た、胎盤ですかあ!?」  驚いて壺を地面に置く作業員。 「祟られるとやっかいだ。とりあえず隅にでも埋めておけ。整地した後の地鎮祭やる時 に、一緒に弔ってやろう」 「分かりました」  言われたとおりに、敷地の隅にもう一度埋め戻し、手を合わせる。 「祟りませんように……」
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2019年5月 9日 (木)

性転換倶楽部/性転換薬 XX (三)

性転換倶楽部/性転換薬(ダブルエックス)
(三) 「社長、どうしますか?」  研究員の声で我に返った。  いかん、いかん。いつの間にか過去の思い出に浸っていたようだ。  さて、誰も臨床実験はだめだとなると……。  この部屋の中にいる者の中で唯一、女になってもそれほど困らない人物といえば一 人しかいない。 「そうだな……仕方がないか。実験台には私がなろう」 「ええ!?」  一斉に驚く他の三人。 「ちょっと待ってくれよ、親父。親父の道楽にはもう驚かないけどさ、自分自身が女 性に変わっちゃったら、社長業はどうするんだよ」 「社長が、女性ならまずいのか?」 「別に女性が悪いというのじゃないよ。性転換したということが問題なんだよ。その 親父が社長というのも……」 「逆に宣伝になっていいんじゃないか? 『性転換薬ができました。その効能は社長 自ら証明します』ってのはどうだい?」 「まずいよ。性転換は日本社会ではご法度なんだよ。奇異な目で見られて営業に支障 がでるよ」 「私は、そう思わないぞ。日本だけを見て考えるからいけないんだ。性転換薬は世界 中の性同一性障害者には、夢の薬となる朗報なんだから。ゲイや性転換が認められて いるのは、世界的な兆候となっているんだ。狭い日本にばかり気を取られていないで、 世界に目を向けろ」  英二は徹底的に反対するつもりだ。まあ、それもそうだろうな。社長といっても、 現在の私は産婦人科医や闇の臓器移植担当医としての仕事の方が多い。実際に会社を 動かしているのは、代表取締役専務の英二なのだから。だから会社の信用に関わる事 には神経を尖らせている。 「とにかくもっとよく考えてからにしろよ」  その言葉を聞いて、研究員が間を割ってきた。 「あの……すみません。この薬、日持ちしないんです。調合したら六時間以内に使用 しないとすぐだめになるんです」  研究員が申し訳なさそうに切り出した。 「なに? それじゃあ……」 「だから、急を要しているんです」 「また作ればいいじゃないか」 「駄目なんです。調合素材の中には五年掛りで集めた天然素材もありまして、作り直 すとなると、また五年ほど掛かることになります。一応化学合成やバイオ技術による 生産ができないかと暗中模索でやってはいるのですが……」 「五年も待つのか……下手すりゃ、他企業に先を越されるかもしれないな。どこで企 業秘密が漏洩しないとも限らないからな。あ、いや、君が漏らすとは言ってないよ。 自分の娘のように思っている者を疑うわけが無いだろう」 「しかし、臨験の相手もいないのに、なぜ調合してしまったんだ? 見つかってから でもよかっただろう」  英二が詰問した。 「すみません。チンパンジーへの投与量から推測して、人間に投与する適量が判明し たもので、嬉しくなってつい……」 「調合してしまったというわけか」 「はい」 「しようがないなあ……」 「申し訳ありません」  彼女は優秀なのだが、少々そそっかしいところがある。まあ、お茶目で可愛いから、 つい許してしまう。  そう言えば、彼女を結婚させるにあたり、相当苦労させられたものだ。  彼女の給与(結構高給なのだ)に見合うだけの能力のある社員を探して見合いさせ た。当初彼の両親は勘当された娘などとの結婚に反対していたのであるが、社長であ る私の肩書きに押されて、しぶしぶ結婚を承諾する事になった。素直に従っていれば、 息子の昇進に繋がると判断したようである。  それから今度は、嫌がる彼女を引き連れて両親の所へ赴いて、結婚の受諾を受ける。  母親は、彼女の姿を一目見るなり、 「あたしは、こんな子に育てた覚えはないよ」  といって一晩中泣き明かされた。  彼女は生まれついての性同一性障害者だったらしい。子供の頃から女装していたと いうから年期はそうとうのものである。父親も諦めの心境にあったようで、結婚は許 すが式には出席しないと言った。手応えを感じた私は、この父親に重点的に説得を繰 り返して、何とか結婚式への出席の同意を取り付けたのである。
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2019年5月 8日 (水)

性転換倶楽部/性転換薬 XX (二)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)
(二)  そして翌日だった。  その研究員がスカートを履き、化粧して出社してきたのだ。産婦人科医であり社長 の私が、性同一性障害者に理解があると判断しての決断だろう。  いわゆるカムアウト宣言だ。  当然上司の課長は当惑して、上役の部長へ意見具申する。自分じゃ判断できないか らと、さらに上の常務に、そして専務の英二の所へと届く。 「ああ、こんな用件なら社長に廻してくれ。親父の方が専門分野だからな」  と結局、私の所まで上がってきたのである。 「社長、いかがいたしましょう」  意見具申の相談を持ってきた、常務が尋ねる。 「常務。我が社の給与体系は知っているな」 「もちろんです」 「男女格差はあったかね」 「いいえ、ありません。当社は、新入社員から定年近いものまで、すべて能力主義を 通して給与を決定しています。男子と女子と一切区別をつけていません」 「そうだろう。ならば、性別不適合な人物がいても、それを理由にして彼を排除する わけにはいかないだろう。どんな格好をしていても、優秀で会社の利益になる結果を 出す人間なら大いに結構じゃないか。こんなことぐらいで社長の私の所へ意見具申す るなんて、君の判断能力を疑わなければならないな。優柔不断、決断力の欠如、経営 者側にいる重役としての資質に劣るかも知れない。君は世間体を気にしているようだ が、断固として信念を突き通す彼の方が、よっぽどいいぞ」  資質に劣ると言われて、常務の身体が緊張して震えているのが判った。能力主義と いう会社の方針は、重役だろうが容赦はしないからだ。  能力主義による給与体系から外れているのは、会社の株式を過半数押さえて経営権 を握っている、代表取締役にある私と副社長、そして専務の英二の三人だけだ。  性同一性障害者とはいえ、研究所内でも類を見ないほど優秀な人材だ。何せ、里美 に投与したあの「ハイパーエストロゲン」と「スーパー成長ホルモン」を開発成功し たんだからな。もっともあれ一人分を作るには天然ホルモン千人分が必要なのだ。だ からそう簡単には作れない、未だ実験段階のまま、里美が最初で最後の成功例という わけだ。引き続き、化学合成やバイオ技術で大量生産できるように、研究するように 指示している。彼女も、自分達と同じ悩みに苦しんでいる人々の為に、日夜鋭意努力 研究を続けている。もちろん研究に没頭できるように、社長直属の特別研究員として 研究室をあてがってやった。これなら誰も文句を言えないだろう。  そして裏の組織での臓器摘出している時に、彼女と免疫型が一致する検体があった。 社内検診には血液を採取するから、ついでにHLAも調べ上げていたのだ。  翌日、早速彼女を呼び寄せて言った。 「もし君が望むなら、性別再判定手術をしてあげよう。しかも脳死した女性の生殖器 を移植するという、正真正銘の性転換術だ。成功すれば、性行為はもちろんのこと、 妊娠し子供を産む事も可能だ。だが失敗の可能性もある。移植した性器がちゃんと機 能せずに、退縮してしまうかも知れない。その時は、再手術して通常の性転換術を施 す。どうだ、やる気はあるか? 今、この場で結論を出してくれ。臓器は保存できな いからだ」  すると即座に答えたのだ。よほど真剣に女性になりたかったのだろう。 「手術してください」  というわけで、研究員は女性に生まれ変わり、戸籍も手配して女性にしてあげた。  その後の彼女は、結婚して二児の母親となっている。当然勤務時間も、きっかり九 時から五時までで、一切残業はしない。次女の雪菜はまだ四ヶ月なので、社内託児所 に預けて、母乳を与える為に時折研究室を抜け出してくる。  私は社長であると同時に、産婦人科医でもあるから、そんな子供を持つ女性達には 理解があるつもりだ。安心して研究に打ち込める環境を作ってあげている。
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2019年5月 7日 (火)

性転換倶楽部/性転換薬 XX(ダブルエックス)

性転換薬 XX(ダブルエックス)
(一)  社長室で、英二と由香里を加えて二人の結婚式の日取りについて話し合っていると、 「社長、出来ましたよ!」  と叫びながら社長室に飛び込んで来た女性がいる。  一見医者のような白いユニフォームを着込んでいる。  手には液体の入った瓶を持っている。 「何だどうした? 何ができたんだ?」 「性転換薬ですよ。社長がご命令なされた薬が完成しました」 「それは、本当か?」 「はい。動物実験でチンパンジーのレベルまで、効果が実証されています。次は、人 体への臨床実験に移行します。それでご報告に参った次第です」 「そうか……とうとう臨験までこぎつけたのか。よくやった」 「しかし、困っているんです」 「困る?」 「臨験を実施する相手がいないんです」 「そうだろうなあ……。癌の特効薬とかいうのなら、いくらでも臨験を願い出る末期 患者がいるのだが……。性転換となると……」  ちらりと、先程から興味津々の表情で、聞き入っていた二人を見やった。  それに気づいて由香里が即座に答えた 「あ、あたしはだめですよ。臨床実験なんていやです。生殖器は完全な女性で卵巣も あって、子供も産めると先生もおっしゃってましたけど、生殖器以外は男性の遺伝子 を持っているんですからね。どんな効果が現れるか判らないじゃないですか。それに 英二さんと結婚するんですからだめ!」 「ああ、俺もだめだよ」  研究員の方を見やると、彼女も、とんでもない! という表情で首を横に振ってい る。  だろうなあ、彼女も由香里と同じで、性別再判定手術を受けている。私が施術した 記念すべき第一号患者なのだから。  当時、社内健康診断を実施した時、もちろん医者である私自らが検診したのだが、 男なのに胸が膨らんだ女っぽい研究員がいた。一目で性同一性障害者とわかる、 「女性ホルモンを飲んでいるね」  問診で聞いてみると、 「はい」  素直に答えた。 「いつから?」 「三年前からです」 「ふーん。まあ、そんな感じだな。サイズはどれくらいかな、85くらいみたいだが」 「70のCカップです。87です」 「血中ホルモン濃度や血液凝固とかの検査はちゃんと受けているのか?」 「いいえ」 「じゃあ、ホルモン剤も、自分勝手な判断で飲んでいるんだな。インターネットで個 人輸入して手に入れているな」 「そうです」 「いかんなあ……。ホルモン剤は処方箋薬だ。素人判断で勝手に扱えるようなものじ ゃないんだぞ」 「すみません」 「血栓症になる確率は高いし、乳癌にだってなる。女性ホルモンは乳癌を促進するん だ。それくらいは、知っているだろう?」 「知っています」 「とにかくこれは命令だ。病院を紹介するから、毎月検診を受けろ。いいな」 「はい。わかりました」  会社の健康診断は半年に一度だ。身体を改造してしまうホルモン剤を投与している なら、期間が長すぎる。 「健康保健を持って行くのを忘れるなよ」 「健康保健がきくのですか?」 「あたりまえだ。社員の健康を守るのは会社の義務だ。そのための健康保健なのだか らな」  実際にも、性同一性障害というものが認知されて、女性ホルモンを処方してくれる 病院は結構増えてきている。しかし健康保健が適用されるかどうかは、医者の判断に 委ねられている。保健がきくところもあれば、だめなところもある。  私の父親が経営している産婦人科は、内科を併設してある関係から、女性ホルモン を求める患者がひっきりなしに訪れる。父親も理解があるので、問診などで性同一性 障害者と診断されれば、保険治療として女性ホルモンを処方してやっている。もちろ ん私が担当した時もだ。ただし、ただの興味本意ならお断りする。
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2019年5月 6日 (月)

性転換倶楽部/響子そして 大団円(最終回)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定 この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(三十三)大団円(最終回)  舞台稽古に向かっていたあの日。  あの舞台は演じられることなくお蔵入りになったはずだった。  しかし、わたしの人生という舞台においてそれはすでに開幕し着々と進行していた のだった。裕福だったわたしが、少年刑務所で娼婦となり、明人という王子さまが登 場して婚約。組織抗争という戦争で死んだと思われた王子さまは、生きて戻って来た。  そして今、舞台は大団円を迎え、娼婦だったわたしは、憧れの王子さまとの結婚式 に臨んでいる。  ついにその日を迎える事ができた。  軽井沢別荘近くにある教会。  わたしと里美、そして由香里と三人娘。花嫁の控え室で真っ白なウエディングドレ スに身を包んでいる。里美の縁談もまとまってこの日を迎えることができた。何せ、 最初に縁談を持ってきたのは相手の方、花婿が社内一の美人な里美に一目惚れ、黒沢 英子という資産家のバックボーンもあれば、まとまらないはずがなかった。その後の 交際で里美もその見合い相手を気に入り、相思相愛となっていた。何度か見たけど、 結構いい男って感じね。  里美と由香里には母親が付き添って化粧などを手伝ったりしている。母娘共々、本 当に幸せそうな顔をしている。  わたしには母親がいなかった。代わりに屋敷のメイドが数人来ている。  母親をその手に掛けたのは自分自身だった。  哀しかった。  この姿を母親に見てもらいたかった。  今ここに生きた母親を連れて来てくれたなら、何千億という財産のすべてを差し出 してもいい……。しかしそれは適わぬ夢。いくら英子さんでも灰になってしまった母 親を生き返らせてくれることはできない。 「お姉さん、大丈夫?」  里美が声を掛けてきた。  長らく一緒に暮らしているから、わたしの一喜一憂を感じ取ることができる……み たいだ。 「表情、ちょっと暗いよ」 「そう見える?」 「うん……」  そうよ。  わたしが哀しい表情をしていると、里美まで哀しい思いをさせることになる。 「ちょっと昔のことを思い出してたからかな……」 「あの……お母さんを殺した……?」 「ええ、でも……もう、どうしようもないのよね……」  思わず涙が出てきた。  それは、母親を手にかけたあの時の涙……のような気がした。  ああ、こんな時にだめだよ。そう思えば思うほど涙が溢れてくるのだった。 「お姉さん。泣いちゃだめだよ」 「そういう、あなたこそ泣いてるじゃない」  里美は涙もろい。人が泣いているとすぐにもらい泣きする。 「だって、お姉さんが泣いているから」  そうだ。  いつまでも過去の涙を流し続けているわけにはいかない。  麻薬取締官の真樹さんにも言ったじゃない。 「もう気にしていないわ。過ぎてしまったことは仕方ありませんから。楽しい思い出 だけを胸に、前向きに生きていきたいと思っています」  ……と。 「ごめん、ごめん。泣いている場合じゃないわよね」 「そうだよ。これから幸せになるんだからね」  その時、真菜美ちゃんが三人の花婿達そして祖父を連れて入ってきた。 「じゃーん! 花婿さんを連れてきたわよ」 「わーお。きれいどころが三人もいる。素敵だあ」  わたしの夫となった磯部秀治の姿もあった。  磯部家を残したかった祖父の希望を入れて、磯部を名乗ることにしたのだ。祖父の 養子として入籍したのではなく、婚姻届で夫婦名の選択で磯部を選んだのだ。元々柳 原は他人の名前だから、何の未練もないと言ってくれた。 「なんだ、泣いていたのか?」 「うん。お母さんのこと考えてたら、つい……」 「その気持ちは俺にも判るよ。しかしいつまでも過去にばかりこだわっていちゃだめ だよ」 「判ってるわ」  結婚式がはじまった。  荘厳なオルガンの演奏される中、わたしはおじいちゃんに誘導されてバージンロー ドを、神父の待つ教壇に向かって歩いている。その後ろには、同じように里美と由香 里が続いている。誰が先頭を行くかというので一悶着があったが、結局歳の順という ことで決着した。婚約順とか若い順とか、わたしは意見したのだが、歳の順という二 人に負けた……。言っとくけどわたしは再婚なんだからね。  教壇の前に立つ秀治の姿が目に入った。  おじいちゃんが抜けて、わたしは秀治の隣に立つ。他の二人も両脇の新郎にそれぞ れ並んだ。    真樹さんもその隣に、恋人と仲良く並んで座っている。英子さんが招いたようだ。 英子さんにとっては、わたし達も真樹さんも、自ら臓器移植を手掛けた患者はすべて、 大切なファミリーの一員と考えているのだ。  曲が変わって、結婚の儀がはじまった。  よくあるような祝詞が上げられ宣誓の儀を経て誓いのキスとなった。 「それでは三組の新郎新婦、誓いのキスを……」  三人の花婿が一斉に花嫁と向かい合った。秀治が覆っているベールを上げて唇を近 づけてくる。静かに目を閉じそれを受け入れるわたし。  場内にどよめきがあがった。 「神の御名において、この三組の男女を夫婦と認める。アーメン」  結婚式は滞りなく終了し、わたし達三人は、晴れて夫婦となった。  教会の入り口で、参列者から祝福を受けるわたし達。  親戚一同、会社の同僚達が集まって、歓声をあげている。 「三人ともきれいだよ」 「お幸せにね」 「ブーケ、お願い」  わたし達花嫁はそれぞれブーケを手にしている。恒例のブーケ投げだ。それを受け 取ろうと未婚の女性達が群がっていた。  わたしの視界に、ブーケ取りの群衆から少し離れたところにいる真樹さんの姿が映 った。隣には敬さんの姿もある。真樹さんは、敬さんと結婚するつもりみたいだから、 ブーケ取りには参加しないのかな。  その敬さんに向けてブーケを投げるわたし。強く投げ過ぎたブーケは弧を描いて、 敬さんの頭上を通り過ぎるが、軽くジャンプしてそれを受け止めてくれた。それを真 樹さんに手渡して、頬にキスをした。 「もう……いきなり、何よ」  怒ってる。でも本気じゃない。 「何だよ、ほっぺじゃ嫌か。それなら」  抱きしめて唇を合わせる敬さん。  おお!  公衆の面前で唇を奪われて、しばし茫然自失の真樹さんだったが、気を取り戻して、  パシン!  敬さんに平手うちを食らわした。 「もう! 知らない!」  頬を真っ赤に染め、すたすたと会場を立ち去っていく。敬さんがあわてて後を追う。 真樹さんが、会場出口付近でふと立ち止まり、ブーケを持った手を高く掲げて叫んで いた。  サンキュー!  声はここまで届かなかったが、そう言ってるみたいだった。 「敬さんと仲良くね。今度のヒロインは真樹さん。あなたなんだから」  わたしは心の中でエールを送った。
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2019年5月 5日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 IX

 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌

 IX 一撃必殺!! 「ミサイル高速接近中!」 「ヒペリオンで迎撃せよ」  フランソワが発令すると、副官のリチャード・ベンソン中尉が復唱して指令を艦内 に伝える。 「ヒペリオン、一斉掃射。ミサイルを迎撃せよ!」  次々と飛来する誘導ミサイルをヒペリオン(レールガン)が迎撃していく。 「誘導ミサイルは、ヒペリオンで十分迎撃できますね」 「現時点で、ヒペリオンに勝るCIWS(近接防御武器システム)はないでしょう。 何せ初速19.2km/s、成層圏到達速度でも13.6km/sありますから、軌道上の宇宙戦艦さ えも攻撃できる能力を持っていますからね」 「しかし炸薬がないので、船体に穴を開けることはできても撃沈させることはできま せんよ。誘導ミサイルないし戦闘機の迎撃破壊が精一杯です。砲弾に炸薬を詰められ れば良いのですが」 「それは不可能よ。あまりにも超高速で打ち出すので、炸薬なんかが詰まっていると その加速Gの衝撃だけで自爆しちゃいますから」 「でしょうね……。誘導ミサイルはヒペリオンに任せるとしても、そろそろ敵艦のプ ラズマ砲の射程内に入ります。撃ってきますよ」 「そうね……。スチームを全方位に散布してください」 「判りました」  答えて、端末を操作するリチャード。 「超高圧ジェットスチーム弁全基解放! 艦の全方位に高温水蒸気噴出・散布せよ」  艦のあちらこちらから高温の水蒸気が噴出し始めた。と同時に雲が発生してミネル バを包み隠した。  敵艦の方でも、その様子を窺っていたが、 「何だ、あれは?」 「敵艦のまわりに雲が発生した……て、感じですかね」 「馬鹿なことを言うな。あれは水蒸気だ。艦の周りに水蒸気を張り巡らしているの だ」 「どういうことでしょうかね?」 「今に、判る」  その言葉と同時に、オペレーターが報告する。 「ゴッドブラスター砲の射程内に入りました」  コッドブラスター砲は、245mm2連装高エネルギーイオンプラズマ砲のことで、ザ ンジバル級戦艦の艦首と艦尾にある格納式旋回砲塔に設置されており、大気圏内にお ける実質的な主砲と言える。 「よし、ゴッドブラスター発射準備! 目標、敵戦艦」  旋回砲塔がゆっくりと回って、ゴッドブラスター砲がミネルバを照準に捕らえた。 「ゴッドブラスター砲、照準よし。発射態勢に入りました」  砲塔からプラズマの閃光がミネルバへと一直線に走る。 「ゴッドブラスター砲のエネルギー、敵艦の到達前に消失しました」 「消失だと?」 「誘導ミサイルも、あの雲の中で自爆しているもよう。敵戦艦は無傷です」  思わず、ミネルバを注視する司令官。 「そうか……。あの水蒸気の雲がエネルギーをすべて吸収してしまったのだな」 「どうしますか?」 「ミサイルを誘導弾から通常弾に転換、引き続き撃ち続けろ。後、使えそうなのは75 mmバルカン砲だな……。気休めにしかならないだろうが、砲撃開始だ」
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2019年5月 4日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 ミスト艦隊 XIV

第二章 ミスト艦隊
                XIV  ステーションをゆっくりと離れてゆくヘルハウンド。 「これより、一旦カリスの衛星軌道に入る。二度の周回を行いつつ、重力アシストの加 速を得て、最大噴射でカリスの重力圏を脱出する」  ヘルハウンドも外宇宙航行艦であるから、自力ではカリスの強大な重力を振り切るこ とは困難である。カリスをスパイラル状に加速・周回しながら、少しずつ軌道を遠ざか り、ついでに重力アシストで加速を得て、最適な位置から最大速度に上げて脱出しよう というわけである。 「噴射! 機関出力最大、加速度一杯!」  二度目の周回を終えて、頃合いよしと判断したアレックスは号令を下した。  艦体を激しい震動が襲った。 「比推力、最大に達しました」 「そのまま維持せよ」  巨大惑星カリスからゆっくりと遠ざかっていく。  やがて艦体の震動もおさまりつつあった。 「まもなく惑星カリスの重力圏を離脱します」 「よし、機関出力を三分の二に落とせ」 「機関部はエンジンに異常がないか確認せよ。ダメコン班は艦体の損傷をチェック!」  たてつづけに命令を出してから、 「ふうっ……」  と大きなため息をついて、指揮艦席に深く腰を沈めるアレックスだった。  連邦艦隊との戦闘。カリスからの脱出と息つく暇もなく働き詰めで疲労がたまってい た。 「艦長。ちょっと昼寝をしてくる。後を頼む」  席を立って自分の部屋へと向かうアレックス。 「判りました。ごゆっくりお休みください」  最高司令官たるアレックスには、定められた休息時間はない。適時自分の判断で休む ことになっている。  ミストの補給基地が見えてきた。  その周辺には、旗艦艦隊が展開している。  指揮艦席に座ったまま、サンドウィッチを頬張っているアレックス。 「サラマンダーより入電」 「繋いでくれ」  正面スクリーンにスザンナが映し出された。 「ご無事でなによりでした。全艦、補給を終えて待機中です」 「それでは、早速発進させてくれ。私はこのヘルハウンドから指揮を執る」  スザンナが疑問を投げかける。 「ヘルハウンドからと申されましても、旗艦艦隊二千隻の指揮統制は不可能ですが… …」  旗艦には搭載されている戦術コンピューターには、それぞれキャパシティーがある。 各艦からは識別信号を出しており、その信号を戦術コンピューターが受信して処理して いる。撃沈・大破や航行不能などに陥れば即座に処理される。サラマンダーの戦術コン ピューターは十万隻もの処理能力があるが、ヘルハウンドには三百隻の処理能力しかな かった。 「何を言っておるか。旗艦艦隊二千隻は、君が指揮するのだよ。大まかな作戦はこちら から指示するが、後は君の判断で自由に動かしたまえ」  スザンナの指揮能力を高く評価し、信頼に疑いを抱かないアレックスの叱咤激励の言 葉であった。一人前の司令官に育て上げるには、甘えを許さずすべてを任せきりにして、 時として渦中に放り込むといった荒療治も辞さない態度で臨む。  こうしてアレックスに鍛えられて、数多くの有能なる司令官が誕生しているのである。 それら司令官達の働きによって、アレックス率いる艦隊は、多大なる戦果を上げてその 陣容を強化していった。  「判りました。旗艦艦隊を発進させます」  毅然として表情を取り戻すスザンナ。  師弟関係にも似た厚い信頼で結ばれている二人。 「全艦微速前進。ヘルハウンドに続け」  艦隊が中立地帯に差し掛かるのは、それから間もなくのことだった。 「国際救難チャンネルに、SOSが入電しています」 「信号はどこから発せられているか?」 「中立地帯を越えた銀河帝国領からです」 「どうやら遅かったようだな。敵さんの方がひと足早く皇女艦隊に襲い掛かったよう だ」  と、しばしの思慮に入るアレックス。  艦橋オペレーター達は、その去就に注目している。 「サラマンダーに繋いでくれ」  正面スクリーンにスザンナが映し出される。 「救難信号をキャッチした」 「はい。こちらでも確認しております」 「君ならどうするかね?」 「はい。救難信号が出されている以上、救出に向かうのが船乗りの務めです」 「戦艦が中立地帯に踏み込むのは国際条約違反だぞ」 「しかしながら、国際救助活動においては、特別条項が適用されます。それになにより も、銀河帝国との交渉を進める良い機会になるのではないでしょうか」 「なるほど、それは良い考えだ。それでは行こうか。全艦に伝達! 救助活動のために 中立地帯を越えて銀河帝国へ向かう。全艦全速前進せよ」  こうしてランドール艦隊発足以来、はじめての銀河帝国領への進出が、国際救助活動 の名のもとに行われたのである。  果たして、連邦先遣隊を蹴散らして、無事に第三皇女を救い出すことができるのか?  その先にある、銀河帝国との交渉の行方もどうなるか判らない。  すべての乗員の胸の内にある不安と葛藤も推し量るすべもない。  第二章 了
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2019年5月 3日 (金)

性転換倶楽部/響子そして 裏と表の境界線(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定 この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(三十二)裏と表の境界線  そのままでは、また組織に命を狙われてしまうと考えた医師は、あたしの顔をその 脳死患者そっくりに整形手術もしてくれていて、その患者のパスポートと身分証を使 って、アメリカを脱出して日本に帰国しなさい。そういう医師の協力を得て無事に日 本に戻ってこれたのです」  実に長い告白だった。 「じゃあ、今のあなたは、その脳死した患者の身分を騙っているというわけですね」 「はい。ですが、その患者だったご両親にはすべてを話して許して頂きました。そし てあたしを実の娘、斎藤真樹として認めてくださり、一緒に暮らすようになりました。 なぜならあたしの身体には、その患者の子宮や卵巣を含む臓器のすべてがあり、その 両親と血の繋がる子供を産む事ができるからです」 「そういうわけだったの……」 「あたしが麻薬取締官としてすぐに実務につけたのは、警察官としての経験があった からです」 「敬さんはどうなさったの?」  女性警察官からある程度のことは聞いていたが、あくまで噂に過ぎない。真樹さん から真実を聞きたかった。 「あたしが撃たれた時、実は一緒にいたんです。『あたしを置いて逃げて。もう助か らない』という声を無視してまで、傷ついたあたしを抱きかかえて逃げようとしてく れていました。しかし、追っ手がすぐそこまで迫っていたので、悲痛の思いであたし を置いて逃げました。やがて彼は、追っ手から逃げるために、特殊傭兵部隊に入隊し て、腕を磨き時を待ったのです」  女性警察官の話したこととは内容がちょっと違うが、傭兵になったということは正 しかったようだ。 「あたしは彼に何とか連絡を取ろうと考えましたが、傭兵部隊に入った事も知りませ んでしたし、連絡手段がありません。そのうちにあたしと彼の死亡報告が日本の警察 にされた事を知りました。致し方なく斎藤真樹として日本に帰り、あたしを実の娘と して扱ってくれる新しい両親の下で、何不自由のない女子大生として暮らしていまし た。ところがある日、敬から突然『帰国するからまた一緒に仕事しよう』というエア メールが届いたのです。  実はあたしを助けてくれた先生が、四方八方手を尽くして敬の居所を突き止めて、 あたしが斎藤真樹として生きて日本に帰国したことを伝えてくれたのでした。もちろ ん、敬を愛していたあたしは再び彼と一緒に仕事をするために、麻薬取締官となるべ く勉強をはじめ、見事合格採用されることになったのです。あの生活安全局長を覚醒 剤取締法違反で逮捕して、その地位を剥奪・名誉を奪って復讐しようと考えたのです。 そのためには一介の警察官では無理です。地方組織ではない国家的機関である麻薬G メンにしか、それを可能にできないでしょう。そしてあたし達は、ついにそれをやり 遂げて彼を逮捕に成功したのです。そして現在に至っています」  聞けば聞くほど哀しい人生の連続じゃない。まるで、わたし自身の経験にも良く似 た悲哀が込められていた。見知らぬ世界へ飛ばされ、恋人の死に直面し、自分自身の 存在の抹殺と再生、そして恋人の生還。わたしと秀治が生きて来た人生とどれだけ重 なる部分があるだろうか。  しかしどうも解せないことがある。  産婦人科医と臓器移植という言葉を聞くと、どうしてもある人物の名前が浮かび上 がってくるのだ。 「……さて、そろそろお暇しましょうか。長い間ありがとうございました。また何か ありましたら何なりとご連絡下さい。あ、これ。名刺です」  名刺を受け取り、これまで喉のところまで出かかっていた言葉を発した。 「あの……」 「何か?」 「もし差し支えなければ、執刀医のお名前をお尋ねしてもよろしいでしょうか? せ めて日本人かどうかでも……」  期待はしていなかった。どうやら非合法的に移植が行われたようだし、整形手術を 行って身分擬装工作の手助けをしたとなれば、執刀医の名を明かす事は医師生命に関 わる場合があるので、秘密にしてくれと口封じされたはずである。  彼女の口からは意外な答えが返ってきた。 「それ以上のことは詮索しない事が身の為だ。それ以上を知ると再び裏の世界に引き 戻されることになる。……わたしの先生の口癖です、お判りになりますか?」  ああ……その言葉……。間違いない。 「そうでしたか……判りました」 「そういうことです。では、失礼します」  そうなのだ。真樹さんは、暗に黒沢先生のことを言っている。どうやら黒沢先生は 移植の本場アメリカで技術を磨いたのだろうと思った。その時に真樹さんに偶然出会 って、命を助けたのだ。そう確信した  黒沢先生のことは、詮索してはいけない。まして、他人にそれを話してもいけない のだ。時々裏社会のことを話してくれはするが、もちろん他言無用の暗黙の了解の上 なのだ。たとえ相手もそれを知っていると確信していてもあえて言わない。問わな い。  裏と表の境界線上に生きる人間の最低限のルールなのだと悟った。
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2019年5月 2日 (木)

性転換倶楽部/響子そして 調書(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定 この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(三十一)調書

 

 朝食を終えて名残惜しむ里美を、リムジンに乗せて見送った後、丁度入れ代わりに
真樹さんがやってきた。今日は私服で来ている。
 一晩わたしの部屋の控え室に泊まった女性警察官が、敬礼して出迎えた。
「おはようございます」
「悪かったね。今日は帰って休み給え」
「はい。では、そうさせていただきます。あ、それから……」
 と何事か耳打ちしている。
「わかった、極力手短にするよ」
 それからわたしの前に歩み進んで、
「おはようございます、響子さん。ご気分はいかがですか?」
「ええ。ちょっと頭痛がしますが、大丈夫です」
「では、どちらのお部屋で調書を取りましょうか?」
「わたしの部屋がいいです」
「わかりました」
 わたしの居室に案内して調書を受ける事にした。
「朝早くから申し訳ありませんね。改めてわたしはこういう者です」
 真樹さんは、ショルダーバックからから手帳を出して開いて見せた。

 

 厚生労働省、司法警察員麻薬取締官、斎藤真樹。(写真添付)

 

 という記述があった。でも随分ときれいな手帳。任官されたばかりだから当然か。
{注・平成十五年十月一日より身分証が新しく変わっています}
「こっちが、あたしの正式な身分です。警察には出向で来ています」
 国家公務員が地方組織に出向ねえ、不思議だ。警察官は地方公務員であり、警視正
以上になって国家公務員扱いとなるのだが、彼女は国家公務員ながらも巡査部長待遇
しかないとは、やはり出向だからかな……。手帳をしまう時にバックの中に、あのダ
ブルデリンジャーが覗いて見えた。常時携帯しているようだ。火薬の匂いが着かない
ように、使用後毎回丁寧に清掃しているんでしょうね。支給品じゃないだろうから、
好みに合わせて個人で買い求めたものだろう。確か、麻薬取締官の制式拳銃は、ベレ
ッタM84FSだったと思ったけど……。
 改めて、きれいな女性だと思った。しかも二十三歳の若さで麻薬取締官だなんて、
よほどの才能がないと務まらないと思う。採用資格には薬剤師か国家公務員採用試験
II種(行政)合格。採用されてからでも、麻薬取締官研修から拳銃の取り扱い、逮捕
術の修練、WHO主催語学研修。さらには法務省の検察事務官中等科・高等科研修を
受けなければならない。だからこそ司法警察員なのだが、通常ではとても二十三歳で
それらをすべてこなすことなどできない。

 

 それから小一時間ほど、型通りの調書を取られた。
「響子さんについては、母親の覚醒剤容疑で死んだ密売人の背後にある、密売組織を
ずっと追っていたんです。その過程で磯部健児やあなた自身のことを、ずっと調査し
ていました。健児はいずれ再びあなたに対して、何らかの手段を取ってくるに違いな
い。遠藤明人を襲った組織は……」
 そこまで言いかけた時に思わず大声をあげてしまった。
「明人をご存じだったんですか!」
「ええ、このあたりの暴力団はすべて知っています。そして磯部ひろしという人物が
遠藤明人の情婦になったという情報もね。つまりあなたです」
「そうでしたか……」
 真樹さんは続ける。
「明人を襲った組織は、健児が関係している暴力団です。そしてあなたがそこに捕わ
れたことも判明しました」
「まさか、健児が……?」
「それは有り得ると思います。実は、響子さんが少年刑務所に収監されてしばらくし
て、磯部京一郎氏が娘の弘子の覚醒剤中毒と息子が殺害に至った経緯についての事情
を知って、響子さんの権利復活に動きだしました。つまり先程の公正証書遺言による
相続人に響子さんを指定したのです。それを知った健児が、再び動きだしました。し
かも殺してしまうよりは、当初の予定だった計画を実行に移そうとしたのです。健児
はあなたが性転換して明人の情婦になっている情報を得て、明人を殺し響子さんを捉
えて覚醒剤漬けにして、何でも言う事を聞く人形に仕立て上げようとした。それと合
わせて京一郎氏を殺害してしまえば、その財産はすべて自分のものになるとね。まあ、
あくまで推測ですが……」
「結局わたしの人生は、健児によって二度も狂わせられたということね。しかも、母
と二人であるいは明人と二人で、苦境から立ち直って幸せな生活を築いていきましょ
うとした矢先に、再びどん底に引き落とされたから、よけいにショックが大きかった
わ」
「お察し致します。その件に関しましては、わたし達捜査陣が一歩も二歩も行動が遅
れてしまったからに他なりません。もっと効率的に動いていれば、あなたの母親もあ
なた自身も救う事ができたかも知れないのです」
「もう気にしていないわ。過ぎてしまったことは仕方ありませんから。楽しい思い出
だけを胸に、前向きに生きていきたいと思っています。それに秀治は生きて戻ってく
るし、子供を産める女になって結婚できるようになった。そしておじいちゃんとも再
会できて遺産相続も元通り。すべて最終的には結果オーライになっちゃってる。何て
言うか、運命の女神は見放していなかったってとこかな」
「そうおっしゃっていただけるとありがたいです。まあ、何にしても健児とその背後
の組織については、もう二度と関わることはないでしょう。ご安心ください。しかし
財産を狙うものはいつの世いつの時代でも存在します。常に油断することなく交際相
手は良く考えることですね。いつ何時健児や麻薬密売人のような奴が近づいてくるか
もしれませんからね」
「ご忠告ありがとう」
 あ、ちょっと待てよ。
 彼女は二十三歳じゃない!
 どうして、わたしの中学生時代の事件を知っているの?
 お母さんと売人の事をどうしてそんなに詳しいの?
 それにやはり、若干二十三歳で麻薬捜査の現場に出ているなんておかしいよ。
「真樹さん、あなたの本当の年齢はいくつなんですか? わたしとそう年齢が違わな
いのに、中学時代の麻薬事件を捜査していたなんてありえません」
「あら、やっぱり気がついたのね」
「それくらい気がつきますよ」
「そうね……。あなたなら話してあげてもいいわね。あたしは、敬と幼馴染みの三十
二歳というのが、本当の年齢なんです」
「敬というと弁護士に扮していた警察官ね」
「そうです。とにかく順を追って手短に説明します。かつて最初の事件であるあなた
の母親の覚醒事件としてあの売人を捜査していました。その捜査線上に磯部健児が上
がり、綿密な調査の結果、逮捕状・強制捜査ができるまでになり、上司の生活安全局
長に申請しようとしました。
 ところが、健児が暴力団に関係しており、この件は暴力団対策課の所轄だとされた
のです。あたし達が調べ上げた捜査資料などは握り潰され、捜査実権は刑事局暴力団
対策課に移されました。実はこの局長が、警察が押収した麻薬・覚醒剤を極秘理に、
健児に横流ししていた張本人だったことが後々に判明しました。健児が逮捕されれば、
横流しする相手を失い、いずれ自分に捜査の手が入ると思ったのでしょう。
 あたしと敬は、研修という名目でニューヨーク市警に飛ばされ、やっかい払いされ
たのです。しかしこれはあたし達を日本の外で抹殺する計画でもあったのです。市警
本部長も計画に加担していました。あたし達は、組織に命を狙われ逃げ回らなければ
なりませんでした。あたしはその銃弾に倒れて動けなくなり、命を失い掛けました。
 そんなあたしを助けてくれた人がいました。アメリカに医学の研修に来ていた産婦
人科医で、臓器移植をも手掛けている名医だったのです。あたしはマシンガンで射ち
抜かれてずたずたに内臓を破壊されていたのですが、たまたま医師のところに日本人
の脳死患者がいて、その内臓をすべて移植して、九死に一生を得ました。その患者は、
二十歳の記念にたまたまアメリカ一周旅行に来ていて、事件に巻き込まれて脳死にな
ったということでした。

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2019年5月 1日 (水)

性転換倶楽部/響子そして 安息日(R15+指定)

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定 この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します
(三十)安息日 「もう、銃声が聞こえてびっくりしたわよ。部屋を出ようとしたら、扉の前にメイド さんに扮した女性警察官が二人立ちふさがっていて、出してくれなかったのよ」  部屋に戻ると、里美が憤慨していた。 「しようがないわよ。わたしだって、これだもの」  と包帯を巻かれた腕を見せた。 「痛くない?」  里美は人差し指で、包帯を軽くちょんちょんと触っている。 「少し痛むけど、大丈夫よ」 「申し訳ありませんでした。里美さんには、命に関わる危険なところに行かせるわけ にはいかなかったのです。もし眠れないとか不安とかありましたら申してください。 精神安定剤とか睡眠薬を用意してあります」  今夜の付き添いとなった女性警察官が言った。 「だったら。生理痛に効く薬ありませんか? ショックで始まったみたいで……」 「あら大変……ありますよ」  と言いながらコップに水と一緒に薬をくれた。 「しかし、明日は調書がありますけど、大丈夫ですか?」 「ええ。たぶん大丈夫よ」 「明日の調書は、先程の巡査部長が伺うと思いますので、訳を話して手短かにしても らえるようにしましょう」 「でも、今夜徹夜で容疑者の尋問するんじゃありません? 寝ずにですか?」 「巡査部長は事件となれば六十四時間くらい平気で起きていますよ。その後、二十四 時間寝ちゃうんですけどね。寝だめができるそうです」 「変わってますね」 「そうなんですよ。彼女、あれでも恋人がちゃんといてね。他人が羨むくらい仲がい いの」 「へえ、恋人がいるんだ?」 「弁護士に扮してた警察官がいたでしょう?」 「いたいた」 「この捜査の現場責任者の巡査部長なんですけど、その人と密かに婚約しているみた い。彼、何でも銃器と麻薬捜査の研修として、ニューヨーク市警に出向してたらしい けど、逆に組織からマークされて命を狙われたみたい。それで生きるために狙撃され る立場から狙撃する立場、特殊傭兵部隊に入隊したらしいの。それで傭兵の契約期間 を終えて日本に帰ってきたらしい」 「すごい経歴なんですね」 「そうなのよ。だから彼の狙撃の腕はプロフェッショナルだそうよ。一キロ先からで も朝飯前という噂があるわ」 「そんな彼と、真樹さんがどうして恋人同士になれたの?」 「何でも彼女が二十歳の記念に、アメリカ一周旅行している時に知り合ったとかいう 話しよ。それ以上のことは話してくれないの。ま、誰にも秘密はあるだろうから聞か ないけど」 「じゃあ、真樹さんの銃の腕前も彼に教わったからかな」 「たぶんそうだと思いますよ」 「そんなスナイパーの彼と、純真可憐な真樹さんが恋人同士と、署内で変な噂されて ませんか? 署内で変な目で見られたり、風紀が乱れるとか問題になったりしない?」 「とんでもないわ。彼女の正式な身分は、国家公務員の司法警察員の麻薬Gメンじゃ ない。地方公務員の警察官がとやかく言えるような雰囲気じゃないのよね。それでい てまだ二十三歳の若さでしょう? 憧れの的にはなっても、誹謗中傷されるような存 在じゃないのよね。わたし達女性警察官全員で彼女を見守ってあげてる。それに彼の 方も、みんな避けているし、なんせ一撃必中の腕前なんだから、怒らせたら大変。一 キロ先からでも眉間にズドンだからね。証拠を残さずに抹殺されちゃうよ」 「ふーん……」 「あ、ごめんなさい。つい長話しちゃった……。そろそろ、お休みになって下さい。 わたしは隣の部屋にいますから、何かありましたらいつでも申し付けてください」  この部屋には常駐するルームメイド用の控え室があってベッドもある。女性警官は そこに泊まることになっている。  翌朝。  小鳥のさえずりと共に目が覚めた。  部屋の外のバルコニーに来訪する野鳥達だ。子供の頃と変わらぬいつもの朝の風景。 「おはようございます。お嬢さま」 「ん……。おはよう」  あれ? 女性警察官じゃない……。  昨日とは違うメイドが三名。わたしが目を覚ましたのを期に、仕事をはじめた。  どうやら、今朝から本来のメイド達に戻ったようだ。各個室にはルームメイド二名 と個人専属のメイド合わせて三名が必ずいることになっている。カーテンを開け放つ 者、花瓶の花の手入れをはじめる者、そしてわたし付きのメイドはベッドサイドに立 って指示を待っている。やはり見知った顔はいない。八年も経てば入れ代わって当然 だろう。 「今、何時かしら」 「七時半でございます」 「そう……朝食は?」 「八時半からでございます。旦那さまがご一緒に食堂でとご希望でございます」 「一緒でいいわ。シャワー使えるかしら」 「はい。しばらくお待ち下さい。今、ご用意します」  メイドはバスルームへ入って行った。何するでもない、蛇口を開いてお湯が出るの を待つだけだ。ボイラー室から、ここまではかなりの距離の配管を通ってくるから、 蛇口を捻っても最初に出るのは水、すぐにはお湯が出ないのだ。冬場なら暖房用に常 時配管をお湯が流れているから、すぐに出るのだが。なお、メイド用の控え室やバス ルームがあるのは、ここと祖父の居室、及びそれぞれに隣接する貴賓室の四部屋だけ である。後は共用のバスを利用することになっている。  里美はまだ眠っている。  ベッドと枕が変わっているから、なかなか寝付けなかったようだ。もう少し寝かせ ておいてあげよう。 「お嬢さま、シャワーが使えます。どうぞ」  ネグリジェを脱いで、メイドに渡してバスルームに入る。  熱いシャワーを浴びる。うーん……朝の目覚めにはこれに限るね。  頭もすっきりして外へ出ると、すかさずメイド達が身体を拭ってくれた。バスロー ブに着替えてベッドを見ると、里美が惚けた表情で起き上がっていた。里美は目覚め が悪いので、起きてもしばらくはボーッとしていることが多いのだ。メイドが動きま わり窓を開けて風が入ってきたりして、目が覚めてしまったようだ。 「ほれ、ほれ、里美。あなたたもシャワーを浴びなさい。すっきりするわよ」 「ふえい……」  はーい、と答えたつもりの間の抜けた声を出す、里美の背中を押すようにして、バ スルームに放り込む。 「あー。すっきりした。お姉さん、おはよう。食事はまだ?」  出てくるなり、早速食事の催促だ。実に変わり身が早い。  あのね……。 「おはよう、里美。食堂で八時半からよ」 「今何時だっけ?」 「八時と少々です」 「よっしゃー。行こう、今いこ、すぐいこ」 「バスローブのままで行く気? ここはわたし達のマンションじゃないのよ」 「あ、いけなーい。着るものは?」 「お母さんが着てたのがあるから、それ着なさい。わたしが着れるんだから、里美も 着れるでしょ。ベッド横のクローゼットに入っているから、どれでも好きなの着てい いわ」 「はーい」  そう言うとクローゼットを開けて、早速衣装選びをはじめた。  わたしと里美は、サイズが同じなので、良く服を交換しあっていた。というよりも 最初の頃、里美は衣装を全然持っていなかったので、わたしの服を借りて着ていたと いうのが正しい。その後里美自身の衣装が増えていっても、わたしが買った衣装をし ょっちゅう借りていた。 「ほんとにどれ着てもいいの? 高そうな服ばかりじゃない」 「気にしないで、服はしまっておくものじゃなくて、着るものなんだから」 「んじゃ、遠慮なく」
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