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2019年5月 4日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 ミスト艦隊 XIV

第二章 ミスト艦隊
                XIV  ステーションをゆっくりと離れてゆくヘルハウンド。 「これより、一旦カリスの衛星軌道に入る。二度の周回を行いつつ、重力アシストの加 速を得て、最大噴射でカリスの重力圏を脱出する」  ヘルハウンドも外宇宙航行艦であるから、自力ではカリスの強大な重力を振り切るこ とは困難である。カリスをスパイラル状に加速・周回しながら、少しずつ軌道を遠ざか り、ついでに重力アシストで加速を得て、最適な位置から最大速度に上げて脱出しよう というわけである。 「噴射! 機関出力最大、加速度一杯!」  二度目の周回を終えて、頃合いよしと判断したアレックスは号令を下した。  艦体を激しい震動が襲った。 「比推力、最大に達しました」 「そのまま維持せよ」  巨大惑星カリスからゆっくりと遠ざかっていく。  やがて艦体の震動もおさまりつつあった。 「まもなく惑星カリスの重力圏を離脱します」 「よし、機関出力を三分の二に落とせ」 「機関部はエンジンに異常がないか確認せよ。ダメコン班は艦体の損傷をチェック!」  たてつづけに命令を出してから、 「ふうっ……」  と大きなため息をついて、指揮艦席に深く腰を沈めるアレックスだった。  連邦艦隊との戦闘。カリスからの脱出と息つく暇もなく働き詰めで疲労がたまってい た。 「艦長。ちょっと昼寝をしてくる。後を頼む」  席を立って自分の部屋へと向かうアレックス。 「判りました。ごゆっくりお休みください」  最高司令官たるアレックスには、定められた休息時間はない。適時自分の判断で休む ことになっている。  ミストの補給基地が見えてきた。  その周辺には、旗艦艦隊が展開している。  指揮艦席に座ったまま、サンドウィッチを頬張っているアレックス。 「サラマンダーより入電」 「繋いでくれ」  正面スクリーンにスザンナが映し出された。 「ご無事でなによりでした。全艦、補給を終えて待機中です」 「それでは、早速発進させてくれ。私はこのヘルハウンドから指揮を執る」  スザンナが疑問を投げかける。 「ヘルハウンドからと申されましても、旗艦艦隊二千隻の指揮統制は不可能ですが… …」  旗艦には搭載されている戦術コンピューターには、それぞれキャパシティーがある。 各艦からは識別信号を出しており、その信号を戦術コンピューターが受信して処理して いる。撃沈・大破や航行不能などに陥れば即座に処理される。サラマンダーの戦術コン ピューターは十万隻もの処理能力があるが、ヘルハウンドには三百隻の処理能力しかな かった。 「何を言っておるか。旗艦艦隊二千隻は、君が指揮するのだよ。大まかな作戦はこちら から指示するが、後は君の判断で自由に動かしたまえ」  スザンナの指揮能力を高く評価し、信頼に疑いを抱かないアレックスの叱咤激励の言 葉であった。一人前の司令官に育て上げるには、甘えを許さずすべてを任せきりにして、 時として渦中に放り込むといった荒療治も辞さない態度で臨む。  こうしてアレックスに鍛えられて、数多くの有能なる司令官が誕生しているのである。 それら司令官達の働きによって、アレックス率いる艦隊は、多大なる戦果を上げてその 陣容を強化していった。  「判りました。旗艦艦隊を発進させます」  毅然として表情を取り戻すスザンナ。  師弟関係にも似た厚い信頼で結ばれている二人。 「全艦微速前進。ヘルハウンドに続け」  艦隊が中立地帯に差し掛かるのは、それから間もなくのことだった。 「国際救難チャンネルに、SOSが入電しています」 「信号はどこから発せられているか?」 「中立地帯を越えた銀河帝国領からです」 「どうやら遅かったようだな。敵さんの方がひと足早く皇女艦隊に襲い掛かったよう だ」  と、しばしの思慮に入るアレックス。  艦橋オペレーター達は、その去就に注目している。 「サラマンダーに繋いでくれ」  正面スクリーンにスザンナが映し出される。 「救難信号をキャッチした」 「はい。こちらでも確認しております」 「君ならどうするかね?」 「はい。救難信号が出されている以上、救出に向かうのが船乗りの務めです」 「戦艦が中立地帯に踏み込むのは国際条約違反だぞ」 「しかしながら、国際救助活動においては、特別条項が適用されます。それになにより も、銀河帝国との交渉を進める良い機会になるのではないでしょうか」 「なるほど、それは良い考えだ。それでは行こうか。全艦に伝達! 救助活動のために 中立地帯を越えて銀河帝国へ向かう。全艦全速前進せよ」  こうしてランドール艦隊発足以来、はじめての銀河帝国領への進出が、国際救助活動 の名のもとに行われたのである。  果たして、連邦先遣隊を蹴散らして、無事に第三皇女を救い出すことができるのか?  その先にある、銀河帝国との交渉の行方もどうなるか判らない。  すべての乗員の胸の内にある不安と葛藤も推し量るすべもない。  第二章 了
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