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2019年10月

2019年10月20日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 V

 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦
                 V  ミネルバ以下の戦艦がカッシーニの森に隠れるように着陸している。  恒久修理班が損傷した外壁を修理している。  その間に、パイロット候補生達の訓練が再開された。  発着格納庫に集められた訓練生に、サブリナとナイジェルが訓示を述べる。 「パイロットになるための訓練はきびしいが、十分な訓練を重ねて立派な戦士になって もらいたい。幸いにも先の作戦で多くのモビルスーツが手に入ったので、各自に一機ず つあてがう事ができるようになった」 「いいか。正規パイロットの先輩達のご好意で、これらの機体を訓練に使わせてもらう のだ。ようく感謝することだ」 「訓練用の模擬弾を装填しているとはいえ、実戦用の機体は訓練機に比べてパワーが違 う。心して掛かれよ」 「これよりA班からD班までの四チームに分かれてもらう。チームリーダーとして、A 班にはオーガス曹長、B班にはナイジェル中尉、C班にはハイネ上級曹長、そしてD班 は私が担当する。A班は戦艦ポセイドン、B班は空母サンタフェ、C班は空母サンダー バードに、それぞれ移乗してもらう」  搾取したモビルスーツは、ミネルバに随行する各艦にそれぞれ配分されていた。  戦闘訓練も、各艦から出発するという方式ではじめられる。 「おい。おまえは、B班か?」 「おうよ。おまえと一緒でなくて助かったぜ」 「仲間の足を引っ張るなよ」 「おまえこそ、戦闘でちびるなよ」  というわけで、A班からC班の三チームは輸送トラックに分乗して、それぞれの艦へ と移動する。 「中尉殿、もうしわけありませんが勝たせてもらいますよ」 「何を言うか。おまえが戦うわけでもあるまいし」 「作戦ですよ、作戦」 「作戦だと?」 「ランドール提督だって、どんな不利な情勢でも、作戦によって勝利に導きましたから ね」  ナイジェル中尉とオーガス曹長が言い争っている間にも、訓練生の出発準備が整った。 「中尉殿。B班全員搭乗しました」  輸送トラックに全員が乗り込み、ナイジェル中尉の合図待ちである。 「おう。それじゃあ、出発するぞ」  傍らに待たせておいたジープに乗り込むナイジェル中尉。 「オーガス。おまえの作戦とやらをじっくりと見せてもらうぜ」 「たんまはなしですからね」 「抜かせ! おい、出発させろ」  ジープを発進させるナイジェル中尉。  地上用発着場からジープが出てゆく。  それを見送りながら、オーガス曹長はある物が到着するのを待っていた。 「曹長! 手に入れてきましたよ」 「おう、でかした」  部下が持ってきたのは、訓練の戦場となるカッシーニの森の見取り図だった。 「これで作戦が立てられるぞ」  見取り図を握り締めてジープに乗り込むオーガス曹長。  その視線にはハイネ上級曹長があった。  黙りこんだままジープに乗り込んで出発していった。 「無口なハイネ上級曹長にはチームリーダーとしてやれるのかねえ」 「心配ですか?」 「んなわけないだろ」 「そろそろ出発しましょう。中尉殿が睨んでいますよ」  サブリナ中尉がこちらをじっと見つめていた。 「おっと。後でお目玉貰いそうだ」  慌ててヘルメットを被りながら、 「ようし! 乗り込め!」  出発準備を開始した。
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2019年10月19日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 IX

第四章 皇位継承の証
                 IX  軍部統制官という官職に就いたことで、宮廷の一角に執務室を与えられたアレックス。  まず最初に行ったことは、艦隊の予算配分状況を調べさせたことである。今は、想定さ れる総督軍・連邦軍との戦闘が避けられない中で、現在予算をどれだけ消費しどれだけ残 っているかを把握しておかなければ、いざ戦争という時に予算不足で艦隊を動かすことも できないという事態にもなりかねない。  その作業は、次官として配属された新任の武官に当たらせた。  やがて報告書を見たアレックスは驚きのあまり言葉を失ったくらいである。  一艦隊あたりの予算がべらぼうな額だったのである。  アレックスも共和国同盟軍や解放軍を統率しているから、軍政部長のルーミス・コール 大佐の報告を受けて、どれくらいの予算が掛かっているかを知っている。  ところが銀河帝国軍のそれは、共和国の三倍から四倍もあったのである。  これはどういうことかと次官に尋ねるアレックス。  委任統治領や荘園領以下城主に至るまでの何がしかの土地を与えられている高級貴族の 子弟や、土地を持たない下級貴族まで、爵位を持つ者のほとんどが、将軍として任官され ているという。しかも同じ階級ながら貴族というだけで、破格の給与が支払われていると も。 「貴族による、軍部予算の食い潰しじゃないか」  階級に見合った仕事をしてくれるならまだ許せる。しかし戦闘訓練も行ったことすらな い将軍が、艦隊を統率などできるはずがない。いざ戦争となれば、艦隊を放り出して一番 に逃げ出すだろう。  役に立たない金食い虫となっている貴族を軍部から放逐する事が、アレックスの最初の 大仕事となった。  人事を握っている軍令部評議会に対し、来年度から貴族を徴用することを禁じ、現在任 官している貴族将軍の給与も段階的に引き下げるように勧告した。軍部統制官の権限であ る予算配分をカットすればそうせざるを得ないであろう。  当然として貴族達の反感を買うことは目に見えているが、誰かが決断して戦争のための 予算を作り出し確保しなければ、銀河帝国は滅んでしまうことになる。  まさか帝国は戦争が起これば、戦時特別徴収令などを発して、国民から税金を徴収する つもりだったのか? それでは民衆の反感を買い、やがては暴動となってしまうじゃない か。  アレックスは、あえて憎まれ役を買って出ることにしたのである。  続いて、統合軍作戦参謀本部に対して、大規模な軍事演習を継続して行うように勧告し て、演習のための予算を新たに与えた。予算の無駄使いのないように監察官も派遣した。  そして、統合軍宇宙艦隊司令部に対しては、新造戦艦の建造を奨励して、老朽艦の廃棄 を促進させた。工廟省には武器・弾薬の大増産を命じた。  軍人なら艦を動かし、大砲をぶっ放したいと思うはずである。しかし、これまでは貴族 達の予算食い潰しによって演習もままならず、大砲を撃ちたくても肝心の弾薬がないとい う悲惨な状態だったのである。まともに動けるのは、辺境警備の任にあって優先的に予算 を回されていたマーガレットとジュリエッタの艦隊だけであった。  すべては起こりうる戦争に向けての大改革である。  後に【統制管大号令】と呼ばれることになる一連の行動は、貴族達の大反感を買うこと になったが、一般の将兵達からは概ね良好にとらえられた。
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2019年10月18日 (金)

闘病記・全身性エリテマトーデスとは?

自分が患った【全身性エリテマトーデス】とはなんぞや?
というわけで、病名判定基準を見てみましょうか。


全身性エリテマトーデス

① 顔面紅斑
② 円板状皮疹
③ 光線過敏症
④ 口腔内潰瘍(無痛性で口腔あるいは鼻咽腔に出現)
⑤ 関節炎(2関節以上で非破壊性)
⑥ 漿膜炎(胸膜炎あるいは心膜炎)
⑦ 腎病変(0.5g/日以上の持続的蛋白尿か細胞性円柱の出現)
⑧ 神経学的病変(痙攣発作あるいは精神障害)
⑨ 血液学的異常(溶血性貧血又は4,000/mm3 以下の白血球減少又は1,500/mm3 以下の
リンパ球減少又は10 万/mm3 以下の血小板減少)
⑩ 免疫学的異常(抗2本鎖DNA 抗体陽性,抗Sm 抗体陽性又は抗リン脂質抗体陽性(抗
カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、梅毒反応偽陽
性)
⑪ 抗核抗体が陽性

[診断の決定]
上記項目のうち4項目以上を満たす場合,全身性エリテマトーデスと診断する。
提供:難病情報センター

 ということなのですが、私の場合1・4・5・6・9・10・11とほとんどの症例が該当
しました。
①では、もう恥ずかしいくらいに、頬から鼻にかけて赤い発疹ができていました。
④では、口腔内潰瘍で咀嚼が難しくて、本来全飯のところをお粥に変えてもらいました。
⑤では、腕を肩から上に上げられないし、膝の関節が異常に腫れていました。筋無力症
で起き上がれなかったり、歩けなかったりしてこれで入院。
⑥では、肺炎と胸膜炎で入院しました。X線写真を見ましたが、蜘蛛の巣状の白い影が
肺の全面を覆い尽くしていました。
⑨では「よく生きていたね」と医者に言われるくらい白血球などが極端に減少していた
らしい。
⑩では、もう一つの難病である抗リン脂質抗体症候群に掛かっています。血液が固まり
やすくなって、血栓症などに掛かりやすくなります。
⑪では、完璧な陽性。抗ds-DNA抗体、補体など血液検査では、もうめちゃくちゃだ
ったらしい。自己免疫疾患である膠原病の有力な指針である。


 というわけでめでたく? 全身性エリテマトーデスという診断が下ったのでした。
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2019年10月17日 (木)

あっと!ヴィーナス!!第三章 part-2

あっと!ヴィーナス!!

第三章 part-2  下へ降りると、みんなの視線が一斉に集中する。 「おはよう、弘美ちゃん」  挨拶もほとんど同時だった。 「う、うん。おはよう……」 「その制服似合ってるよ」 「あ、ありがとう」  自分の席に着く。 「じゃあ、遅れるから行かなくちゃ」  と立ち上がる信一郎兄さん。 「あ、俺も」  そして異口同音に、 「じゃあ、弘美ちゃん。行ってくるね」  ああ、勝手に行って頂戴。  とは思ったが、 「いってらっしゃい」  と可愛く答える弘美だった。  わざわざ手を振って出かけていく兄さん達。 「父さんは?」 「昨日早く帰ってきたでしょ。だから今日は早めに出勤してやり残したことをかたずける そうよ」 「そんなだったら、早く帰ってくることもなかったのに。母さんが教えたんでしょ」 「お父さんも女の子が欲しかった人ですからね。一刻も早く知らせてあげようと連絡した のよ。そしたら速攻で帰ってきちゃったわ。よほど早く逢いたかったのね。だから理解し てあげてね。それから、父さん母さんじゃなくて、お父さんお母さんと、『お』をつけて 呼びなさいね。女の子なんだから」 「お、お母さん? って呼べばいいわけね」  逆らってもしようがないので、素直に言うことを聞いてあげよう。 「そうよ」  言いながら、ご飯と味噌汁をよそってくれる。 「はい、どうぞ。良く噛んで食べなさいよ」  良く噛んで……だなんて今まで、一度だって言ったことがないのに……。  言葉遣いもやさしいし。  それに引き替え、まるで反対の態度なのが武司兄さんだ。  上の三人の兄と違って、朝から一言も口を開いていない。部屋を追い出されたのが気に 触ったのかなあ……。 「それから武司には途中まで同じ道だから、一緒に学校まで送ってもらうことにしたよ」  ああ……どうりで、ぶすっとしているわけね。
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2019年10月16日 (水)

あっと!ヴィーナス!!第三章 part-1

あっと!ヴィーナス!!

第三章 part-1  夜が明けた。  これからの将来を案じてほとんど眠れなかった。 「弘美ちゃん。朝ですよ」  朝はいつも低血圧だった。  だから誰かに起こされる。ほとんどが武司兄さんだが……。  あれ? 何で母さんが起こしにくるの?  何せ六人分の朝食の支度やその他もろもろ、主婦の朝は忙しいから、起こしにこれる状 況ではないはずなのに。 「早く朝食を食べないと、学校に遅れますよ」  と、やんわりとやさしく起こそうとしている。まるで女の子を起こすように……。  女の子?  あ?  がばっ! と飛び起きて確認する。  髪……長い。  胸……ある。  あそこ……ない。(涙) 「あーん。やっぱり夢じゃないよ……。女の子のままだよー」  忙しい母さんが、わざわざ起こしにきたのはそのせいだったのね。女の子の部屋という ことで、兄さん達は遠慮しているようだ。 「何を今更なことを言ってるんですか。ほらほら、早く着替えなさい」  と、パジャマを脱がされ、素っ裸に……。  うーん。この姿は兄さん達には見せられないよなあ……。  ここにいるのは母と娘、女同士だからいいんだけど……。産みの親とはいえ、あまり裸 は見られたくないな。  しかし母は一向に気にしていない。昨日のようにブラジャーとかの下着を着せられる。  ブラジャーを着用しはじめて二日め。そうそう慣れるものではない。どうも窮屈な感じ がする。 「いいわね……。じゃあ制服を着なさい」 「これって、栄進の女子制服じゃない。ヴィーナスがくれたやつ……」 「当たり前でしょ。女の子なんだから」 「これで学校に行くの?」 「大丈夫よ。ヴィーナスさんがおっしゃってたじゃない。ご近所さんから学校関係者まで、 弘美ちゃんに関わる人々の記憶をすり替えたって。戸籍も女の子になってるしね」 「そんなこと信じられないよ」 「女神さまなんだから間違いないわよ。今朝のゴミ出しの際に、近所の奥さんと話してい て、弘美ちゃんの話題になるようにそれとなく誘導したら、『弘美ちゃんて、とても可愛 いいお嬢さんね。うらやましいわ』って言ってたから」 「ほんと?」 「だから心配しなくてもいいのよ。学校の先生やお友達も、記憶をすり替えてあるはずだ から、安心して女の子として当校できるわ」 「ほんとかなあ……」  この目で確認するまでは信じられない。なにより信じて女子制服で登校して、以前のま まだったら、それこそ一生笑い草にされてしまうじゃない。  気が思いよお……。  なんて言ってるうちに、すっかり女子制服姿になっていた。  母さんは着せ替え人形が得意? 「さあ、下へ行きましょう。みんなが待ってるわ」 「待ってるって?」 「可愛い弘美ちゃんを一目見てから、出かけるつもりみたいね」 「そんなのないよ。あ、あたしに構わず行ってくれりゃいいものを」 「そんなこと言うんじゃありませんよ。せっかく家族愛に燃えているんだから」 「結局さらしものにされるだけじゃない」 「弘美ちゃん……」 「いいよ、もう……。どうせ避けられない運命なんだから、串刺しにでも何でもしてよ」  といいながら鞄を手に取る弘美だった。 「そうそう、何事もあきらめが肝心よ。昨日も言ったけど、一度その姿を見せれば慣れち ゃうから」
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2019年10月15日 (火)

あっと!ヴィーナス!!第二章 part-7

あっと!ヴィーナス!!

第二章 part-7 「それから渡す物が二つあります。一つはこれ」  と一通の書類を母に渡した。 「これは戸籍謄本……。まあ!」 「どうした?」 「ほら、あなた。弘美ちゃんのところが『長女』になってるの」 「どれどれ……ほんとだ」 「俺にも見せてよ。うーん……性別を抹消訂正していないから、生まれついての女の子と いうことじゃないか」 「ほんとだ」  戸籍謄本を回し見して確認している家族達。 「口でいうよりも実物証拠を見せた方が理解しやすいと思って持ってきました」 「恐縮いたします」 「それともう一つは……」  というと紙包みを差し出した。  それを受け取って開けてみる母。 「まあ、これは! 弘美ちゃんの学校の女子制服じゃない」 「どれ、ほんとだ」 「明日からの通学のために用意しました。これがないと困ると思いまして」 「ありがとうございます。何もかも至れり尽せり感謝します」 「女神としては当然のことですよ。すべては弘美さんが何不自由なく女の子として生きて いけるようにしなくてはならないのですから」 「いい加減にしてよ!」  これまでじっと静観して弘美が叫んだ。  あまりにも傍若無人じゃないか。  じぶんの意思が完全に無視されている。  俺……あたしの人生どうなっちゃうの?  ヴィーナスを交えての家族あげての祝杯は続いた。
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2019年10月14日 (月)

あっと!ヴィーナス!! 第二章 part-6

あっと!ヴィーナス!!

第二章 part-6 「あああああああー! お、おまえは!」  何もかも思い出した! 「ヴィーナス!」  そうだ、そうだよ。  女の子にした張本人だ!  どうしてくれるんだよ。元の身体を返してくれ。  と言おうとする前に、 「それは無理ですよ。元の身体とはいうけど、あなたは女の子として生まれるはず だったのだから。つまり今の身体が本来の形なんだから」  先に答えられてしまった。  え? まだ言ってないのに……。 「あなたの心の中はすべてお見通しです」  言いながら酒を飲む。おいしそうに。 「ねえ、この方どなた? 弘美ちゃんのお知り合い?」  母さんがそっと耳打ちするように尋ねる。 「知り合いも何も、俺……(と言ったら母の目が怒っている)……。あ、あたしを こんな身体にした張本人だよ。愛と美の女神ヴィーナスとか言ってやがった」 「まあ! それは素敵!」  瞳を爛々と輝かせてヴィーナスを見つめなおしている。  あのなあ……。 「これはこれは、女神様。よくぞ弘美を女の子にしてくださいました。どうぞどう ぞ、まあ一献どうぞ」  席を譲りながら酒を薦める父。 「うむ」  威厳をもってその席に座りながら酌を受けるヴィーナス。 「当然の事をしたまでです。手違いで生まれてしまった者を元の姿に戻すのは女神 の責任なのです」 「それはそれは、さぞやご苦労なさったのでしょう。ささ、どうぞどうぞ」  母までが女神を祭り上げている。 「今の今まで、やり残したことを手掛けていたので遅くなりました」 「やり残したこと?」 「その前にもう一杯」 「あ、すみません。どうぞ」 「突然に女の子の姿になってしまっては、ご近所付き合いや学校生活に支障が出ま すよね?」 「はい、確かにそうです。実はどうしようかと悩んでいたんです。この娘が女の子 になったのはいいんですが、男の子として暮らしていましたから……」 「そう。女神としては、ただ元の姿に戻すだけでなく、女の子として正しく生活で きるようにまで面倒みなくては手落ちというものでしょう」 「そうでしょ、そうでしょう。ささ、どうぞ」  今度は信一郎兄さんが酌をしている。 「それで具体的に何をなさっておられたのですか?」 「彼女に関わるすべての人間の記憶を、彼女が女の子というものにすり替えたので す」 「ということはつまり……。何の支障もなく、この娘が女の子として、ご近所付き 合いや学校生活できるということですね?」 「その通りです」 「まあ、それはそれは、どうもお疲れさまです。どうぞ、どんどんお飲みくださ い」
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2019年10月13日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 IV

 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦
                 IV 「リスキー開発区のモビルスーツ研究所及び生産工場の破壊とモビルスーツの奪取が 我々に与えられた任務です」 「リスキー開発区の攻略ですか」 「それはまた難儀な指令ですね」 「モビルスーツ同士の激突になりますよ」 「どれほどのモビルスーツが出てくるか判りません」  各艦長はそれぞれの意見を述べた。 「その心配はないでしょう。どんなに機体があろうとも、動かすにはパイロットが必要 ですが、戦闘経験のほとんどないシロートだそうです」 「かも知れませんね。せいぜい動かせるだけのレベルでしかないでしょう。戦闘レベル は実戦で経験するしかありませんから」 「モビルスーツの奪取の任務は、ナイジェル中尉とサブリナ中尉にやってもらいます」  頷くナイジェルとサブリナ。 「今回の任務上、研究所への攻撃は極力避け、出てきたモビルスーツと戦闘機を撃ち落 し、岩壁の砲台を叩いて無防備にした後に、殴り込みをかけます」 「まもなくリスキー開発区です」  オペレーターが報告する。  フランソワは一呼吸おいてから、静香に下令した。 「全艦、戦闘配備!」  各艦長達は、それぞれの艦に急行すべく乗り込んできた艀に向かった。  来た時にも感じたが、ミネルバの艦内装備と施設には圧倒されるばかりであった。 「こんな機動戦艦を操艦してみたいものだな」  全員一致の思いだったに違いない。  リスキー開発区は砂漠にそそり立つ巨大な岩盤の中腹に建設されていた。かつては良 質のレアメタルが採掘されていたが、ほぼ掘り尽くされて廃棄された。  その廃坑後にモビルスーツ研究・生産工場として再開発されたのである。 「戦闘配備完了しました」 「よろしい。このまま前進して敵の出てくるのを待つ」  完了したと言っても、今回の作戦ではミネルバの艤装が活躍する場はほとんどないだ ろう。原子レーザー砲も速射砲もお役御免のようである。  せいぜい敵が身近に迫った時のためのCIWS(近接防御武器システム)くらいであ る。 「敵のモビルスーツ隊が出てきました」  高速移動用のジェット・エアカーに乗ってモビルスーツが向かってくる。 「こちらもモビルスーツを出して」 「モビルスーツを出撃させます」  フランソワは手元にある端末を操作して、サブリナ中尉とナイジェル中尉を呼び出し た。 「その新型は性能諸元がまったくの未知数です。十分気をつけて戦ってください」 「判りました。十分気をつけます」 「それでは艦長、行って参ります」  勇躍大空へ飛び出してゆく新型モビルスーツ。  超伝導磁器浮上システムを採用した完全飛翔型ゆえに、エアカーを使用することなく 縦横無尽に飛び回る。  完全飛翔型とはいっても、磁気浮上システム自体は浮き上がるしかできないので、ジ ェットエンジンの飛行装置が取り付けられている。それでもエアカーに乗らなければな らない旧式よりははるかに機動性は高い。 「この分では五分ほどで決着が着くでしょう」  副長のベンソン中尉が進言した。 「そうね」  ベンソン中尉の言う通りにほどなく決着がついた。 「モビルスーツの回収部隊を突入させてください」  フランソワが説明した通りに、敵には熟練したパイロットがいなかった。  そのほとんどが、機体を動かせるだけのレベルだけしかない。研究所という環境を考 えれば当然のことなのだろうが、ミネルバが目標にしているという情報が入っていれば、 それなりの対応ができただろう。  情報戦を仕切るレイチェル・ウィンザー大佐の力量というところだろう。  研究所には研究員や警備兵が、まだ立て篭もっているはずである。  モビルスーツの回収の援護なら、旧式機体でも十分であろう。 「サブリナ中尉とナイジェル中尉は戻ってきて、上空の警戒にあたってください」 「了解。戻ります」  いつどこから来襲があるかも知れないから、それに備えていなければならない。  研究所を完全制圧するには、まだ少し時間がかかる。  サブリナを呼び戻して、警戒防衛に当たらせるのは当然であろう。  ミネルバの上甲板に着艦して上空警戒に入るサブリナ。 「これより上空警戒に入ります」  新型が上空警戒に入ると同時に、回収部隊が研究所に突入してゆく。  警備兵とて黙ってモビルスーツが奪取されるのを指を加えて見ているわけがない。  激しい銃撃戦がはじまる。  研究員も銃を取って参加する。  研究所内にはまだ数多くのモビルスーツがあり、研究員が乗り込んで侵入者を迎撃し ようとする。  しかし所詮はただの研究員。それらを蹴散らし、完成したばかりのモビルスーツを回 収していく。  輸送トラックに積んで運び出したり、パイロットが乗り込んで自ら操縦して移動させ てゆく。  所内にずらりと並んだモビルスーツ。各艦から選りすぐりのパイロット達には、一目 で旧式と新型の区別がつく。旧式には目もくれずに、より新しいタイプの機体を選んで 乗り込んでいく。  もっとも新型と言っても、旧式に比べればということで、サブリナ達が乗っている新 型とは性能がまるで違う。  やがて研究所は制圧され、モビルスーツの搬送も完了した。  搬送しきれないモビルスーツを残しておくわけにはいかないので、研究所・生産工場 もろとも爆破するに限る。  要所要所に爆弾がセットされてゆく。 「よおし、作戦終了。撤退するぞ」  研究所の搬送口から次々と撤退してくる回収部隊。  ほどなくして、仕掛けた爆弾が炸裂する。轟音とともに研究所のある岩壁もろとも崩 れ去った。 「回収、終了!」 「基地へ連絡。任務完了、次なる指令を待つ」  通信士が暗号文に直して、メビウス部隊の基地へ向けて打電する。  ほどなくして返信が戻ってくる。 『本部了解。次なる作戦は考慮中にて、それまで自由行動を認める』 「自由行動を認めるだそうですよ」  嬉しそうに副官のイルミナ少尉が言った。  自由行動イコール休暇とでも考えたのだろう。 「良い機会です。搾取したモビルスーツを利用して、戦闘訓練を行いましょう。サブリ ナ中尉を呼んでください」  それを聞いて怪訝そうな表情を見せるイルミナだった。 「何か不服でも?」  すかさずフランソワが尋ねる。 「いえ、訓練は大切ですよね」 「そう、一人でも多くの正規パイロットを育てることが、私達の任務なのです」
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2019年10月12日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 Ⅷ

第四章 皇位継承の証
                  Ⅷ  アレックスが第一皇子として叙されて以来、宮殿にて謁見を申し出る貴族達が後 を立たなかった。委任統治領を任せられた貴族達の統治領の安寧を諮ってのご機嫌 伺いである。金銀財宝の貢物を持参しての来訪も少なくなかった。  謁見が増えることによって、政治を司る御前会議の時間が割愛されるので、時と して国政に支障が出ることもあるのだが、持参する貢物が皇家の財産として扱われ るので、無碍にも断るわけにいかなかったのである。  アレックスは、賄賂ともいうべき貢物が、当然のごとく行われていることに、疑 問を抱いていた。  しかし、宮廷における新参者であるアレックスには、口を挟むべきものではない と判断した。すでに既得権となっているものを覆すことは、皇族・貴族達の多大な る反感を抱かせることになる。  郷に入れば郷に従えである。  銀河帝国における確固たる基盤を築き上げるまでは、当面の間は目を瞑っている よりないだろう。 「ところで、皇子よ」  謁見の間において、エリザベスが話題を振ってきた。 「はい」 「私は、皇帝の執務代行として摂政を務めているのですが、今後は皇子にもその執 務の一部を任せようと思っています。取りあえずは軍部の統制官としての執務を担 って貰いたいのですが、いかがなものでしょうか」 「軍部統制官ですか?」  宇宙艦隊司令長官(内閣)、統合作戦参謀本部長(行政)、軍令部評議会議長 (司法)。  以上が、軍部における三官職と呼ばれる役職である。実働部隊を指揮・運用した り、各艦隊の運行状態を把握し作戦を協議したり、人事を発動し功績を評価して昇 進させ軍法会議にも諮ったりする。それぞれ重要な役職であるが、横の連絡を取り 全体のバランスを調整するのが、軍部統制官という役回りで、軍部予算の配分を決 定する権限も有していた。現在そのポストは空席となっている。  なお、司令長官は現在空位のままで、次官が代行して執務を行っている。  アレックスを重要な官職につけようとするのには、後々の宇宙艦隊司令長官に就 任させるための、軍部への足固めを図るというエリザベスの思惑があるようである。 「大臣達よ、依存はありませんか?」  エリザベスが、大臣達に確認を求めた。  保守的に凝り固まった大臣達である。  即答は返ってこなかった。  互いに小声で相談し合いはじめた。  その相談の内容としては、第一皇子という地位や共和国同盟の英雄と讃えられる アレックスの将来性などに言及しているようであった。  しばらく、そのやり取りに聞き耳をたてていたエリザベスだが、 「依存はありませんか?」  再確認を求めることによって、やっとその重い口を開いた。 「依存はありません」 「将軍達はどうですか?」  今度は将軍達に確認を求めるエリザベス。 「依存はありません」  元々アレックスに対して好意的だった将軍達が反対することはなかった。  これによって、アレックスは軍部統制官として、軍部の中に確固たる地位を与え られたのである。
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2019年10月11日 (金)

闘病記・序文

 特定疾患(難病)と診断されるまでに、さまざまな病気を患ったり、いろいろな 診療や治療が繰り返されました。  わたしも全身性エリテマトーデスという膠原病として正式に確定されるまでに、 蕁麻疹からはじまって、腸閉塞や筋無力症、肺炎・胸膜炎と次々と発症してきまし た。  それぞれに前兆症状があって、後から考えるとなるほどそうだったのかと思わせ ることもあります。  治療というものは、病名が特定されて初めて、正しい治療を行うことができます。  病名が確定するまでに、十年以上もの長い間、入退院を繰り返しました。  難病に苦しむ方の一助として、自分が経験した難病の症状や治療経験を語りたい と思います。
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2019年10月10日 (木)

あっと!ヴィーナス!! 第二章 part-5


あっと!ヴィーナス!!

第二章 part-5

 

「俺達も同感だ。はじめて見たけど、ほんとうに可愛いよ。友人達に鼻が高いよ」
「うんうん。めっちゃかあいいよ。その衣装とっても似合っているよ」
 衣装って……母さんのもろ好みって感じの、着せ替え人形風のことか?
「ああ、ほんとだ。妹じゃなかったら、恋人にしたいよ」
 上の三人の兄さん達は、もうべた可愛がりという口調と表情だった。
 しかし武司兄さんだけは、なぜかぶすっとしている。
 住み慣れた部屋を追い出されたから当然だろうね。
「弘美ちゃん、何か一言」
「そうそう、可愛い声で何か喋ってよ」
 あ、あのなあ……。
 じっと弘美を見つめている家族達。
 うーん……、どうしようかな。って困るほどのこともないか。
「ひ、弘美です。女の子になっちゃったけど……今後ともよろしく」
 とぺこりとお辞儀をする。
 他にどうせいっちゅうんじゃ。
「おうおう。こちらこそね。弘美ちゃん」
「うん。弘美ちゃんは、今日から可愛い妹だよ」
「仲良くしようね、弘美ちゃん」
 ちょっと、妹に対して言っている言葉じゃないよ。
 それにちゃんつけだし……。
 相変わらず武司兄さんは押し黙っている。
「はい、弘美ちゃん。座って、座って」
 わざわざ椅子を引いて、着席を促す母。
 もうどうにでも思ってくれよ。
 それより何より、お腹が空いてぺこぺこなんだ。
 んでもって、目の前の料理はというと。
 お赤飯に、鯛のお頭つき。そして寿司の盛り合わせだよ。
 なあ……勘違いしていないかい?
「女の子として生まれ変わった弘美の誕生日を祝って乾杯しましょう」
「今日は無礼講だぞ。未成年なんか関係ない」
 ちょ、ちょっと。
「おう!」
「乾杯!」
 あ、あのなあ……。
「いいぞお。乾杯だあー! うぃっ……」
 あれ……。
 今の……聞いたことのない声?
「おい。今の声、誰だ?」
「女の声だったな。母さんでも弘美ちゃんの声でもない」
 家族も気づいたようだ。
 と、今まで気づかなかったが、母さんの後ろの酒瓶を積んだワゴンにかぶり付き
で酒を飲んでいる人がいる。
 それも飛び切りの絶世の美女だ。
 どっかで見たような……美女?
 美女だと!?
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2019年10月 9日 (水)

あっと!ヴィーナス!! 第二章 part-4

あっと!ヴィーナス!!

第二章 part-4  その夜。  部屋から一歩も出ることもなく、自分の心境を嘆いて悶々と過ごしていた。 「弘美ちゃん、ご飯ですよ」  そう言えば朝も昼も食べていなかったよ。  家族は買い物ついでに食べてきたようだけど……。  おいおい、母さん。一人のけものはないよー。  とは言ってもこの姿になってしまって、家族と一緒というのも……。  うーん……、困ったなあ。  家族に顔を合わせる勇気がないよお。 「弘美ちゃん、どうしたの? 入るわよ」  いつまでも降りてこないので、母が心配して見にきたようだ。 「朝も昼も食べてないでしょ。それとも身体の具合でも悪いの?」  あのなあ……。食べてないのを知っていながら、そのまま放っておくなよ。  それでも母親か? 「で、でも。みんなに恥ずかしいから……」 「そんなこと気にしてたの? 大丈夫よ、みんなにはそのところはちゃんと言い含 めてあるから」 「でも……」 「いつまでも、そんな事言ってられないでしょ。同じ屋根の下に暮らしているんだ もの。一度顔合わせしてしまえば気にしなくなるわよ。何事もね。でしょ?」 「う、うん」  確かにそうなんだけどさあ……。  でも、その最初のふんぎりってものが、なかなか踏み出せないものだよね。 「じゃあ、下へ行きましょうね」  抱かれるように誘われて、下へ降りていく弘美。  母に付き添われて食堂に降りてくる弘美。  家族一同の視線が集中する。  その中に父さんの顔があった。 「おお! 弘美か、待っていたぞ」  って、何で父さんがいるんだよ。  会社が忙しくて、いつもなら十時以降でないと帰ってこない。当然夕食を家族と 一緒に囲むことなんてなかったのに……。  なんで今日に限っているんだよ。  さては母さんが連絡して、早く帰ってくるように仕向けた? 「うーん。こうして見ると若い頃の母さんそっくりだな」 「でしょ? でなきゃ、この娘が弘美ちゃんだなんて信じられなかったですよ」 「弘美、お父さんはこれから早く帰るからな。今夜からは毎晩楽しい夕食になりそ うだ」  どうしてそうなるんだよ。  そりゃあ、母さんと同じで娘が欲しかったらしいが、会社を早引けして大丈夫な のか?
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2019年10月 8日 (火)

あっと!ヴィーナス!! 第二章 part-3

あっと!ヴィーナス!!

第二章 part-3  突然としてそれはやってきた。  朝からどたばたしていたから、感じる暇もなかったんだ……。  目覚めれば誰しもが行きたくなる場所。  精神的に少し落ち着いてきたのと、いつのまにか我慢の限界に近づいていた。 「どうしたの?」 「お、おしっこがしたくなった……」   「まあ、早く行ってらっしゃい」  あわててトイレへ急ぐ。  途中兄さん達に会いませんように。  トイレに駆け込みバタンと扉を閉め鍵を掛ける。  以前なら鍵を掛けることなどしなかった。  しかし困ったぞ……。  便器の前で考え込んでいる弘美。  しかし……どうやっておしっこ……するんだ?  立ってすることはできない。  あたりまえだよ。今は女の子なんだから。  うんこ座りしてするんだよ。  ほら、えっちな本とかに載ってるあの格好すればいいんだよ。  まずはスカートを捲くってショーツを降ろしたら、おもむろに便器に腰掛けるん だ。  それから……。  それからね……。  ……  それからが判らないよー! 「弘美ちゃん。大丈夫?」  ドアの外で母が呼んでいる。 「弘美ちゃん。ちゃんとできた?」  女の子になって、心配して見にきてくれたようだ。 「なんだったら、お母さんがみてあげるわよ」  そ、そんないいよ、そこまでしなくても。  あれ?  いつのまにか出てる……?  尿道が短いから判らないんだ……。 「弘美ちゃん?」 「だ、だいじょうぶだよ」 「そう? もし具合が悪かったら言ってよ。終わったら、ちゃんと紙で拭わなくっ ちゃだめよ」  拭う?  一瞬、何のことかと思ったが、股間を見て理解した。  おしっこが尿道から垂れて股間が濡れてしまっていた。  そうか……。女の子は後始末が必要なんだ……。  男だったら、ナニをつまんで数回振ればいいのだけど。  こんな時は、女の子は不便だ。だいたいからして立っておしっこができないじゃ ない。外出中にしたくなったら、どうすりゃいいんだよ。
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2019年10月 7日 (月)

あっと!ヴィーナス!! 第二章 part-2

あっと!ヴィーナス!!

第二章 part-2 「肩紐を腕に通して両肩にかけたら、ちょっと上体を前かがみにしてバストのふく らみをすくい上げるようにしてカップ内に入れて、そのままの状態で後ろのホック を留めるの。カップ下に片手を添えながらアンダー部分、脇、胸元の順に、お肉を ぐっと寄せ集めてカップ内に収めるの、こういう具合に」  いきなり弘美のブラの中に手を入れて、お肉をかき寄せてブラの中に入れてみせ る母。 「きゃ、くすぐったいよ」  感覚が鋭敏になっていた。実際にはくすぐったいを通り越して痛いぐらいだった。 思春期の胸が成長をはじめる頃は、乳首などに痛みがあったり、乳が張ったりする 感覚があるという。 「だめよ。ここはちゃんとしっかりやっておかないとバストがくずれるわよ。そう、 こんな感じでいいわね。前中心が浮いていたらやり直しね。次に上体を起こして肩 紐と身体がフィットするように長さを調節するの。この時軽くカップをすくい上げ る感じがポイントね。最後に後ろホックが肩甲骨よりも下にくるように、バックラ インをグッと引き下げて安定させて完了よ」 「どう、はじめてブラを着けた感じは?」 「なんか変……少し胸が苦しいし」 「ま、最初のうちは苦しいでしょうけど、慣れちゃえばなんでもないわよ。ちゃん としっかり身につけてさえいればね」  弘美、鏡に写ったブラを身に着けた自分自身に見入っていた。 「はい、ショーツ。ブラとお揃いにしておいたわ」 「うん……」  弘美はショーツを受け取ってみるが、その小ささに驚いている。 「こんなに小さいのが入るの?」 「大丈夫よ。伸びる素材だから」  疑心暗鬼ながらも、そっと足を通してみる。  するとショーツは、股間に少し食い込むようにぴったりと収まった。  男だった時は、ブリーフないしトランクスを履いた股間が膨らんでいたが……。  そうか……。男用のパンツなどは【それ】を収める必要から、かつ蒸れないよう に余裕をもたせてあるから、生地も厚手で伸縮性がほとんどない。しかし、女の子 用のショーツは、何もないところを包むだけ……。だからこんな小さくても大丈夫 なんだ。素材も伸縮性のあるものだし。  何もない?  ああ……。やっぱりどうしようもなく女の子している自分を再確認してしまった。 「じゃあ、上着ね」  母はおかまいなしに、着付人形のように弘美に、いかにも女の子した衣服を着せ ていった。  フリルやレース飾りがふんだんに施された純白の木綿のブラウス、ギャザーたっ ぷりの黒のジョーゼットのティアードスカート、とどめは長い髪にアクセントをつ ける可愛いリボン。 「はい、おしまい」  といって母親は鏡の前に弘美を立たせた。 「ほら、とっても可愛いわよ。弘美ちゃん」  そこにはまぎれもない十四歳の女の子の格好をした弘美が立っていた。 「……」  自分でも信じられないという風に、呆然としている弘美だった。 「これが俺?」 「弘美ちゃん、女の子が俺なんて言っちゃだめじゃない。可愛い声がだいなしじゃ ない」 「だ、だってえ」 「女の子らしく『あたし』って言いなさい」 「い、言えないよ……」 「いいから、言いなさい」  母の口調が少しきつくなった。  衣服は勝手に着せ替え人形できるが、言葉は弘美自身の口から発するしかない。  確かに今の自分には、俺って言葉はふさわしくないけどさあ。  しかし、突然言えと言われも困っちゃうよお……。 「あ、あたし……」  喉から絞り出すように、声を出してみる。 「うーん……そうそう、その調子。忘れないでね、弘美ちゃん」  それはいいけどさあ……。 「ところで、その『ちゃん』づけはよしてくれないかなあ」 「どうして? とっても可愛いんだからいいじゃない」 「可愛いってそればっかり」 「ほんとのことじゃない。そうねえ……背の高さがお母さんより高くなったら、 『ちゃん』づけしないで呼んであげるわ」 「それじゃいつになるかわかんないよ」  まったく以前は10cm以上は自分の方が高かったのに……。
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2019年10月 6日 (日)

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 Ⅲ

 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦

                 Ⅲ  海上を進むミネルバ。  補給を終えて、次の作戦地であるリスキー開発区へと向かっていた。  艦橋において艦の指揮を執っているフランソワ。 「艦長。指示された合流地点に近づきました」  航海長が報告する。 「よろしい。減速、三分の二。パッシブレーダーで周囲を探索」 「了解。減速三分の二。パッシブレーダーで周囲を探索」  副長が復唱し、 「減速三分の二」 「パッシブレーダーで周囲を探索します」  各オペレーターが呼応する。 「しかし、いかがなものでしょうかねえ」  副長がフランソワに話しかける。 「何がですか?」 「合同作戦のことですよ。ここは敵の真っ只中です。情報が漏れてしまっていたら」 「待ち伏せを受けて殲滅される危険がある……ですか?」 「可能性はあります」 「ウィング大佐のことですから、その辺のところは抜かりはないでしょう。情報漏れと かがないように万全を期していると思います。例えば指令の伝達に無線を使用せずに補 給艦の艦長に伝令を任せていましたしね」 「そうですかね」  ウィング大佐と面識のない副長が懐疑心を抱くのも当然かもしれない。  フランソワとて、ほんのひと時しか会ったことがなく、その人となりを理解できてい ないのである。  ミネルバの乗員にとって、すべては噂の人でしかなかったが、所属するメビウス部隊 の司令官であり、上官として命令を受けたからには、その指示に従うよりなかった。 「右舷後方、五時の方向に艦影。味方です」  レーダー手が二人の会話を遮るように伝えた。 「おいでなさったようですね」 「通信士、艦名は判りますか?」 「戦艦ポセイドン、巡洋艦ネプチューン、巡洋艦ユニコーン、空母サンタフェ、空母サ ンダーバード以上五隻の僚艦です」 「副長、知ってますか」 「はい、メビウス部隊として数々の作戦を一緒に戦ったことがあります。各艦長とは面 識もあります」 「それはよかった」  共同作戦を行うに当たっては、見知らぬ相手より見知った仲間がいた方が良いに決ま っている。 「各艦長にこちらに来るように伝えてください。作戦会議を行います」  第一作戦会議室。  フランソワ以下、各艦の艦長・副長や航海長などが集まって、作戦会議がはじめられ た。  まずは、各艦の艦長の自己紹介である。 「ポセイドンのアイザック・カニンガル大尉だ」 「ネプチューン、オスカル・ハミング中尉」 「空母ユニコーン艦長、ミランダ・ノイマン少尉です」 「サンタフェのコニカ・バカラック大尉です」 「サンダーバード、ニック・スタブロス大尉」  男性三人、女性二人のそれぞれの艦長である。  さすがに女性艦長がいるのは、ランドール提督配下の艦であることを象徴している。  そしてフランソワが名乗った。 「フランソワ・クレール上級大尉です」  艦長の中では唯一の戦術用兵士官であり、それを示す胸の徽章がひときわ目立ってい た。 「上級大尉殿、早速今回の任務を聞かせていただけますか?」  艦長の中でも最古参であるカニンガル大尉が尋ねた。  集合場所は指定されても、作戦内容までは知らされていなかったようである。  秘密情報の漏洩を極力避けるためであろう。
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2019年10月 5日 (土)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 Ⅶ

第四章 皇位継承の証
                 Ⅶ 「でも、メグ。あのロベール王子にしたって、正式に皇太子になるのはまだ先のこ と。悠長なこと言っていると、総督軍なり連邦軍が押し寄せてくるわよ」  姉妹が議論している中、帝国の法律や儀式のことを全く知らないアレックスは、 ただ聞き役に回るしかなかった。また末娘のマリアンヌも黙々と食べているだけだ った。 「援助物資を供給するだけなら何とかなるけど……。ただし、解放軍が自ら引き取 りに来るという条件付だけどね」 「無理よ。解放軍は帝国から共和国の向こう側にあるのよ。輸送艦隊を襲われたら 元も子もないじゃない」 「唯一つ、裏道があるのよ」  エリザベスが告白した。  それは、アレックスを銀河帝国統合軍宇宙艦隊司令長官に任命するというものだ った。  銀河帝国宇宙艦隊全軍を指揮統制できるのは、事実上として司令長官ということ になっており、歴代の皇太子が務めることが慣例として行われていた。  皇太子イコール宇宙艦隊司令長官という図式が成立していたのである。  あくまで慣例であって、憲法や法律には明確な規定は設けられていなかった。こ こに、裏道が存在するのである。法令に定められていなければ、摂政権限で特別条 令を発動して、アレックスを宇宙艦隊司令長官に任命することが可能だというので ある。  だからと言って、無制限に特別条令を発動できるわけではない。他国が侵略して きたなどの非常事態となり、帝国艦隊全軍で迎撃しなければならなくなった時など に限られる。  そもそも帝国辺境には、御三家が自治領宇宙艦隊の保有を認められて防衛陣を敷 いているわけだから、初動防衛に統合軍が動くことはなかった。 「でもこれからは、、以前にも比して総督軍や連邦軍の干渉が増えると思うわ。な ぜって帝国軍に新たなる名将が加わったのだから。共和国同盟の英雄と讃えられた アレックス・ランドール提督が帝国軍の全権を掌握したら、もはや侵略の機会は失 われる。だからこそそうなる前に、何とかしようと考えるはずよ」  そう発言するジュリエッタの考えは正しい。  総督軍や連邦軍と互角に戦うには、平和にどっぷりと浸かって退廃ムードにある 帝国軍を、一から鍛えなおす必要もあった。帝国艦隊全軍を掌握したとしても、い ざ戦いとなって将兵達が逃げ腰では意味をなさない。  速やかに宇宙艦隊司令長官を任命し、迫り来る敵艦隊との総力戦に備えておくべ きだ。  ジュリエッタは、一刻も早くの司令長官任命を力説した。  それに対して摂政という立場からエリザベスが説明する。  宇宙艦隊を動かすには、すべからく軍資金が必要となってくる。燃料・弾薬はも ちろんのこと、食料や兵士達の給料・恩給の積み立て、港湾施設での整備費用に至 るまで、その資金を動かす権限を持っているのは、大臣達だからである。  その大臣達の意向を無視するわけにはいかないし、だいたいからして保守的で頭 の固い彼らの賛同を得るには、並大抵ではないということである。  やはり絶対的権限を有する皇太子とならない限りは、本当に自由に艦隊を動かせ ないということである。 「摂政とて、そう簡単には決断を下せない難しい問題なのよ」  エリザベスが深いため息をついた。
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第四章 皇位継承の証
                 Ⅶ 「でも、メグ。あのロベール王子にしたって、正式に皇太子になるのはまだ先のこ と。悠長なこと言っていると、総督軍なり連邦軍が押し寄せてくるわよ」  姉妹が議論している中、帝国の法律や儀式のことを全く知らないアレックスは、 ただ聞き役に回るしかなかった。また末娘のマリアンヌも黙々と食べているだけだ った。 「援助物資を供給するだけなら何とかなるけど……。ただし、解放軍が自ら引き取 りに来るという条件付だけどね」 「無理よ。解放軍は帝国から共和国の向こう側にあるのよ。輸送艦隊を襲われたら 元も子もないじゃない」 「唯一つ、裏道があるのよ」  エリザベスが告白した。  それは、アレックスを銀河帝国統合軍宇宙艦隊司令長官に任命するというものだ った。  銀河帝国宇宙艦隊全軍を指揮統制できるのは、事実上として司令長官ということ になっており、歴代の皇太子が務めることが慣例として行われていた。  皇太子イコール宇宙艦隊司令長官という図式が成立していたのである。  あくまで慣例であって、憲法や法律には明確な規定は設けられていなかった。こ こに、裏道が存在するのである。法令に定められていなければ、摂政権限で特別条 令を発動して、アレックスを宇宙艦隊司令長官に任命することが可能だというので ある。  だからと言って、無制限に特別条令を発動できるわけではない。他国が侵略して きたなどの非常事態となり、帝国艦隊全軍で迎撃しなければならなくなった時など に限られる。  そもそも帝国辺境には、御三家が自治領宇宙艦隊の保有を認められて防衛陣を敷 いているわけだから、初動防衛に統合軍が動くことはなかった。 「でもこれからは、、以前にも比して総督軍や連邦軍の干渉が増えると思うわ。な ぜって帝国軍に新たなる名将が加わったのだから。共和国同盟の英雄と讃えられた アレックス・ランドール提督が帝国軍の全権を掌握したら、もはや侵略の機会は失 われる。だからこそそうなる前に、何とかしようと考えるはずよ」  そう発言するジュリエッタの考えは正しい。  総督軍や連邦軍と互角に戦うには、平和にどっぷりと浸かって退廃ムードにある 帝国軍を、一から鍛えなおす必要もあった。帝国艦隊全軍を掌握したとしても、い ざ戦いとなって将兵達が逃げ腰では意味をなさない。  速やかに宇宙艦隊司令長官を任命し、迫り来る敵艦隊との総力戦に備えておくべ きだ。  ジュリエッタは、一刻も早くの司令長官任命を力説した。  それに対して摂政という立場からエリザベスが説明する。  宇宙艦隊を動かすには、すべからく軍資金が必要となってくる。燃料・弾薬はも ちろんのこと、食料や兵士達の給料・恩給の積み立て、港湾施設での整備費用に至 るまで、その資金を動かす権限を持っているのは、大臣達だからである。  その大臣達の意向を無視するわけにはいかないし、だいたいからして保守的で頭 の固い彼らの賛同を得るには、並大抵ではないということである。  やはり絶対的権限を有する皇太子とならない限りは、本当に自由に艦隊を動かせ ないということである。 「摂政とて、そう簡単には決断を下せない難しい問題なのよ」  エリザベスが深いため息をついた。
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2019年10月 4日 (金)

妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 総集編・後編

陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪
其の拾壱 事件ファイル  台所。  父親が喪服を脱いで食卓上に投げ捨て、ネクタイをグイと下に引きずりおろして、椅 子の背に頭をもたげるようにして疲れたようにだらしなく座っている。  食卓の上には、葬儀屋が手配したのであろう家族用の食事が並べられている。  そこへ美咲が入ってくる。  すでに喪服から普段着に着替えて、外出していたようである。 「お帰り、食事しないか」  それには答えず、無言で二階の自室への階段を昇る美咲。  母親を亡くした気持ちを察して、それ以上は追及しない父親。  二階に上がり、自室に入る美咲。  その足元には、黒ずんだ血液の塊がこびり付いたままとなっている。  仮に拭き取ったとしても、ルミノール反応が明確に現れるだろう。  日頃から、許可なく入室禁止と固く約束させていた。  ましてや男性である父親が入ってくることはなかった。  母親がたまに許可を得て入ってくるだけである。  血痕に目をくれることなく、机に向かう美咲。  その上には、怪しく輝く胞衣壺が鎮座している。  数時間後、玄関から無表情で姿を現す美咲。  その右手には、キラリと怪しく輝く刀子を握りしめていた。  公立図書館。  パソコン閲覧室で過去の新聞を調べている蘭子。  各新聞社ともデータベース化されているが、朝日新聞の【聞蔵IIビジュアル】を開き、 利用規約などに同意した後、ログインする。  何かと朝鮮日報(韓国の新聞社)日本支部と叩かれるほど、日本国と日本人を侮辱し 朝鮮寄りの報道姿勢を取っている新聞社。  それが証拠に、激しい旭日旗叩きをしている韓国人でも、旭日旗模様の朝日社旗だけ は何故かスルーしている。  それはともかく、調査だ。  明治12年(1879)から~平成11年(1999)までの紙面イメージを、日付・見出し・キー ワード等で検索可(号外・広告含む)  昭和60年(1985)以降の記事を収録し全文検索可能。  まずは、定番の住所・氏名などから、事件の手がかりを探る。  タッチペンで画面をクリックしながら、記事を検索する。 「あった!」  そこには、かの旧民家の写真とともに、事件の内容が記述されていた。 其の拾弐 大阪大空襲  1945年(昭和20)3月13日23時57分から14日3時25分の大阪大空襲。  米軍の焼夷弾投下標的は、北区扇町・西区阿波座・港区岡本町・浪速区塩草に設定さ れていた。  グアムを飛び立った第314航空隊の43機が夜間に飛来し、大型の焼夷弾(ナパーム) を高度2000メートルの低空から、港区市岡に対して爆撃を開始した。  木と紙でできた日本家屋を徹底的に燃やし尽くすために開発された、民間大虐殺用の ナパーム弾による大空襲の始まりである。  続いて、テニアンから、第313航空団のB29 107機が浪速区塩草を爆撃。  さらに、サイパンから第73航空団の124機が、北区扇町・西区阿波座を爆撃。  こうして一晩で大阪中心部はほぼ壊滅状態の焼け野原となった。  阿倍野区は、照準点から少し離れてはいたが、大火災による延焼は避けられなかった。  至る所で火の手が上がり、木造家屋を燃やし尽くしていった。  それでも、奇跡的に延焼被害を免れた家屋も所々に散見された。  そんな家屋の一つ、江戸時代から続く旧家があった。  母屋を囲うようにして高い土塀があったために延焼を免れたようである。  その玄関先に一人の男が立ち寄った。  シベリア抑留から解放され帰国した元日本軍兵士で、久しぶりの我が家の玄関前に立 ったのだ。  シベリア抑留者は、厳寒の中での重労働を強制される他、ソ連共産党による徹底的な 「赤化教育」が施された。 「天皇制打破」「生産を上げよ」「スターリンに感謝せよ」などのスローガンを叩きこ まれてゆく。いち早く順応し優秀と見なされた者は待遇もよくなり、従わない日本兵へ の「つるし上げ」が横行した。日本人が日本人を叫弾するという悪習がはびこっていた のである。する方もされる方も次第に精神を病んでいった。  長期抑留から解放されて日本への帰国がかなっても、祖国は焼野原となり多くの者が 家を失っていた。  安堵して故郷の土を踏んだ矢先、入港した途端に警察に連行され「アカ(共産主義)」 というレッテルを張られて独房に入れられて執拗な尋問を受ける者も多かった。やっと 解放されても、どこへ行っても警察の監視が付いて回った。  その男もそのような待遇に合わされた一人であった。 其の拾参 殺戮の果て  目の前に懐かしい生家が、焼野原の中に奇跡的に無事に立っていた。 「ただいま!」  玄関の扉を開けて中に入り、帰宅の声を上げる。  返事はなかった。  もう一度大声で、妻の名を呼ぶ。  やがて奥の方で物音がしたかと思うと一人の女性が姿を現した。 「どなた?」  出てきた女性は、男の顔を見るなり驚愕し、へなへなと床にへたれこんだ。  男は、その女性の夫だった。 「ど、どうして?」  その身体の腹部は膨満しており、明らかに妊娠しているとわかる。 「おまえ……誰の子供だ!?」 「こ、これは……」  おなかを手で隠すようにして、言い訳を探そうとする女性だった。  その時、玄関から何者が入ってきた。 「무엇을하고있는」(何をしている)  意味不明な言葉を発する侵入者は、腰に下げたホルスターから拳銃を抜いて構えた。  そして間髪入れず引き金を引いた。  弾は男の胸を貫いて、血飛沫が飛び散り土間を血に染めた。  倒れた男の上を跨いで女性に詰め寄る侵入者。 「바람을 피우고 있었는지」(何をしていた)  女性の胸ぐらをグイと引っ掴み、ビンタを食らわす男。  さらに手を上げようとした時、 「うっ!」  苦痛に歪む顔。  ゆっくりと振り返ると、背中に突き立てられた包丁。  土間に倒れていた男が立ち上がり、流しに置かれていた包丁を手に反撃したのである。  その包丁を引き抜くと、ドバっと血飛沫が土間一面に広がる。  声を出そうとする侵入者だったが、肺に穴が開いたのか、声の代わりに背中から血が 噴出するだけだった。  土間に突っ伏す侵入者。  男はそれに目もくれずに、女性に向かって怒鳴る。 「そのお腹の子供はどうした? 誰の子供だ!」  シベリア抑留で長期抑留されていたので、妻が妊娠することはあり得ない。 「誰の子供だ!」  もう一度質問する男。  すっかり怯え切って声も出ない女性だったが、ゆっくりと手を動かして、土間に倒れ ている侵入者を指さした。  その指先に差された侵入者を見やりながら、すべてを納得した男。  お国のために命を投げ出して戦い、辛い抑留生活を送っている間に、自分の妻が間男 と逢瀬を重ねて、あまつさえ身籠ったのだ。  許されるはずがなかった。  包丁を振り上げると、女性のお腹めがけて振り下ろした。  悲鳴を上げ絶命する女性。  怒りは収まらず、突き刺した包丁で腹の中をえぐり始める。  飛び出した腸を掻き出し、さらに奥の子宮をも引きずり出した。  それらの内臓を土間に投げつけて、さらに包丁を突き立てて残虐な行為は続いた。  はあはあ……。  肩で息をしながら、自分のした行為に気が付く男。  何のために今日まで生きてきたのだろう……。  何のためにお国のために命をかけてきたのだろう……。  何のために……。  男は血のりの付いた包丁をしばらく見つめていたが、その刃先を首筋に宛てたかとお もうと、一気に掻き切った。  土間に倒れ込んだ男の周りが、飛び散った鮮血が一面を真っ赤に染め上げる。  血の海は土間の土の中へと滲みこんでいく。  と突然、土の一か所が異様に輝き始め、辺り一面の血液を吸い込み始めた。  やがて静寂が訪れる……。 其の拾肆 朝鮮人  井上課長が蘭子を訪ねて土御門神社に来ていた。  蘭子に依頼されていた事件報告であった。 「やはり殺人事件があったよ」  単刀直入に話し出す井上課長。  以下は警察事件簿に残る記録である。  終戦当時、朝鮮半島から出稼ぎに、朝鮮人労働者とその家族が大量に流入していた。  日本人男性が徴兵で留守にしている間に、日本に出稼ぎに来ていた朝鮮人達が、警察 署を襲って拳銃を奪い日本人を殺戮するなどの暴動が頻発していた。  空き家があれば押し入って我がものとし、空き地があれば問答無用に家を建てて所有 権を誇示した。  挙句の果ては、出征した知人の日本人の名を名乗って戸籍を奪うものさえいた。  かの侵入者もそんな朝鮮人の一人であった。 「通名・金本聖真、本名・金聖真(キム・ソンジン)という」  立ち寄った先で見つけた家に目を付けて、主人がいないことを確認すると、傍若無人 にも押し入って留守を守っていた女性を凌辱した。  そして、その家を女性ごと乗っ取ったのである。  やがて男が帰ってきて、惨劇は繰り広げられた。 「とまあ……そういう顛末です」  長い説明を終える井上課長。 「おかしいですね。図書館で私の調べたところでは、朝鮮人という記述は一言もありま せんでした」  疑問を投げかける蘭子。 「報道規制だよ」 「規制?」 「当時のGHQ(連合国総司令部)によるプレスコード、正式名は【日本に与うる新聞 遵則(じゅんそく)】だよ」 「プレスコードですか……」 「その一つに、『朝鮮人を批判するな』というものがあってね。朝鮮人による事件が起 きても、国籍を発表してはいけない……ということだ。当然事件はうやむやにされてし まう」 「それって、今でも通用していますよね。特に朝日新聞などは、朝鮮日報(韓国紙)日 本支局と揶揄されるほどに、朝鮮人が犯人の国籍を隠蔽して発表しないみたいだし」 「まあ、そういうことだ。日本国憲法とは言っても、実情はマッカーサーノートに則っ たGHQ憲法ということもね」 「日本は独立していないんですね」 「まあな。GHQによる WGIP(War Guilt Information Program)という「戦争につ いての罪悪感」を日本人に植え付ける洗脳政策も行われたしな」  深いため息をつく二人だった。  しばらく沈黙が続いた。 「その家は固定資産税滞納による差し押さえ・競売となったのだが、殺人現場という瑕 疵物件で長らく放置状態だったらしい。で、つい最近やっとこ売却が決まって、現在の 持ち主となった」 「で、胞衣壺が掘り出された」 「うむ……」 「ともかく人死にがあって、かなりの流血もあったのでしょうね」 「土に滲み込んでいたが、土間いっぱいに広がるほどの量の血痕があったらしい」 「殺戮と流血、そして怨念渦巻くなか、例の胞衣壺がそれらを吸い込んだとしたら… …」 「怨霊なり魔物なりが憑りつくか」 「そうとしか考えられません」 「問題は、その胞衣壺を掘り出したのは誰か?ということだな」 「ですね」  その誰かについては、朧気ながらも犯人像をイメージしていた。 其の拾伍 対峙  パトカーが走り回る街、その夜も新たなる犠牲者が出た。  蘭子は神田家の玄関前に立ち止まり、帰り人を待っていた。  神田美咲の帰りを……。  やがて美咲が帰ってくる。 「お帰りなさい」  冷静に声を掛ける蘭子。 「何か用?」  巫女衣装姿の蘭子を目にして怪訝(けげん)そうな表情で答える美咲。 「いえね、学校何日も休んでいるから様子見にきたの」 「大丈夫だから……」 「お母さんが亡くなられたという気持ちは分かるけど……」 「ほっといてくれないかな」  とプイと顔を背けて、玄関に入ろうとする。 「それはそうと、大きな壺を拾わなかったかしら?」  単刀直入に切り出す蘭子。  美咲の身体が一瞬硬直したようだった。 「なんのことかしら」 「いえね、近所で口径30cmほどの壺が、胞衣壺らしいんだけど、掘り出されたの。 でも、いつの間にか消え去っていて、その直後に切り裂き事件が発生しているのよ」 「そのことと、わたしに関係があるのかしら」 「発見された場所が、あなたの学校からの帰り道の途中にあるのよ。何か見かけなかっ たなと思って」 「知らないわ」  と玄関内に入ろうとする。  それを制止しようと、美咲の左腕を掴む。  袖が捲れて、その手首が覗く。  その時蘭子の目に、リストカットされた傷跡が見えた。 「この腕の傷はどうしたの?」  一見には何もないように見えるが、霊視できる蘭子の眼にははっきりと、霊的治癒さ れている痕跡が見えるのだった。  蘭子の手を振り解き、 「な、なにもないじゃない。どこに傷があるというの?」 「いいえ、わたしの目には見えるのよ。霊的処方で治癒した跡がね」  図星をさされて、傷跡を右手で隠す。 「あなたの部屋を見せていただくわ。二階だったわよね」  というと強引に上がろうとする。  至極丁寧にお願いしても断られるのは明確だろう。 「待ってよ」  制止しようとするが、武道で鍛えた蘭子の体力に敵うはずもなく。  非常識と言われようが、これ以上の被害者を出さないためにも、諸悪の根源を断ち切 らなければならない。  本当に美咲が【人にあらざる者】に憑依されているのか?  という疑問もなきにもあらずだったが、美咲のリストカットを見るにつけ、その不安 は確かなものとなった。  魔人と【血の契約】を交わした者は魂をも与えたに等しく、魔人を倒したとしても本 人を助けることはできない。  美咲の部屋のノブに手を掛けようとして、一瞬躊躇する蘭子。  呪いのトラップが掛けられているようだった。  懐から式札を取り出して式神を呼び出すと、代わりにドアノブを開けさせた。  とたんに一陣の突風が襲い掛かり、式神は微塵のごとく消え去った。  開いた扉から慎重に中に入る蘭子。  そこには神田美咲が待ち受けていた。  瞬間移動したのか?  そうまでして守らなければならない大事なものが、この部屋にあるということだろう。 其の拾陸 追跡  開け放たれた窓辺に寄りかかるようにして神田美咲が立っていた。 「どうやら罠に掛からなかったようだね」 「初歩的なトラップでした」 「ふむ、さすが陰陽師というわけですか」 「なぜ知っている?」  自分が陰陽師である事は、美咲には教えていない。 「あなたの体内からあふれ出るオーラを感じますから」 「なるほど」 「で、どうなさるおつもりですか?」 「悪しき魔物は倒す!」 「そうですか……」  ニヤリとほくそ笑むと 「ならば……逃げます」  机の上の壺を抱え込んで窓の外へと飛び出した。  しまった!  という表情で、窓辺に駆け寄る蘭子。  窓の下を覗いてみるが、すでに美咲の姿は消え失せていた。  改めて部屋の中を観察する。  見た目には綺麗に拭き取られているが、そこここに血液の痕跡が浮かんでいた。  通常の警察鑑定のルミノール反応を調べれば確かな証拠が出るだろう。  井上課長に一報を入れようかとも思ったが……。  警察の現場検証が入れば後戻りはできない。  魔人との決着が着いてからでもよいだろう。 「白虎、来い!」  四聖獣であり西方の守護神でもある白虎を呼び出す。  それに答えるように、見た目虎の姿をした大きな身体の聖獣が姿を現す。  蘭子が幼少の頃に召喚に成功し、以来ずっと蘭子を見守っている。 「魔物を追ってちょうだい」  といいながら、その背中に乗る。  追跡するのに犬ではなく、猫科の虎なのか?  匂いで追跡するのではなく、白虎の神通力を使って、魔物が持つ精神波を探知するの である。  白虎の背に乗った蘭子が、闇に暮れた街中を疾走する。 「この先は?」  白虎が突き進む先には、例の旧民家解体現場があった。 「そうか……そこへ向かっているのね」  人生に行き詰った時、人は故郷を目指すという。  いや、犯人はいずれ犯行現場に戻るもの、というべきだろうか。 其の拾漆 兵士の霊  やがて現場に到着する。  旧民家が跡形もなく姿を消し、整地された土地には地鎮祭に設置された縄張りが今も 取り残されていた。  その片隅に怪しげな黒い影が、微かにオーラを発しながら立っていた。  それは少しずつ形を現わしてゆく。  旧日本軍の軍服を着た兵士の姿だった。 「霊魂?」  怨念を残したまま成仏できずに彷徨っているのか?  白虎から降り立ち、その敷地に一歩踏み入れる。  そして丁寧に語り掛ける。  この世に彷徨っている霊ならば、成仏できないでいる根源を取り払ってやらなければ ならない。 「あなたは誰ですか?」  幽霊になった者に、名前など聞いても意味はないかも知れないが、とにかく取っ掛か りを得るためには会話することである。 「夜な夜な、罪もない人々を殺(あや)めたのはあなたですか?」  前問に答えないので、引き続き尋ねる。 「復讐……」  やっとこぼそりと呟くように答える。 「何のための復讐ですか」 「わたしの生活を残忍にも踏みにじった」 「踏みにじったとは?」 「お国のために出征したというのに、奴らはその隙をついて好き勝手にした」 「奴らとは?」 「朝鮮人だ!」 「在日朝鮮人ということですか?」 「だから朝鮮人に復讐するのだ」 「すると朝鮮人を殺めていたというのですか?」 「そうだ!」  初耳だった。  被害者はすべて在日朝鮮人だったというのか?  井上課長から聞いた事件簿と照らし合わせて、これですべての因果関係が繋がった。  ともかくこれ以上の惨劇はやめさせなければならない。 「浄化してあげます」  手を合わせて、この世に呪縛する幽霊の魂を解き放つための呪文を唱え始める。  と、突然。 「そうはさせない!」  怒声が響き渡った。  敷地の片隅に、胞衣壺を抱えた美咲が、姿を現した。 「美咲さん……じゃないわね。魔人?」 「そうです。この娘の身体を借りて話しています」 「血の契約を交わしたのね」 「その通りです」  すんなりと答える美咲魔人。 「それはともかく、せっかく情念を増長させてあげて、怨みを晴らさせて上げていたの に」  白虎がうなり声を上げて威嚇をはじめた。 「大丈夫よ」  今にも飛び掛かりそうになっているのを制止する。  相手が誰であろうとも、まずは対話であろう。  まあ、聞いてくれる相手ではないだろうが……。  戦って勝ったとしても、それは美咲の死をもたらすことになる。  リストカットの痕跡を見ても、血の契約を交わしたことは明らかであるから、相手を 倒すことは美咲を死に追いやることでもある。  手を引いてくれないかと、まずは交渉してみるのも一考である。 「いやだね」 「何を?」 「貴様の考えていることくらい読めるぞ。この身体から手を引けというのだろう」 「その通りです」 「馬鹿か! せっかく手に入れた依り代を手放すはずがなかろうが」 「では、戦うまでです」 「この娘がどうなっても良いというのか?」 「仕方ありません。血の契約を交わした人間を助ける術はありませんから」 「知っていたか。まあいい、ではいくぞ!」 其の拾捌 美咲魔人  軍人の幽霊が、腰に下げた軍刀を抜いて斬りかかってきた。  美咲魔人に操られているようだ。  切っ先を鼻先でかわすと同時に、懐から取り出した呪符を、その額に張り付ける。  身動きを封じた幽霊に対して、 「白虎、押さえておいて」  命じると、白虎は幽霊に覆いかぶさるように押し倒して馬乗りになった。  零体を押さえるなど人間には無理だが、聖獣の白虎なら可能である。  白虎の神通力を持ってすれば、咆哮一発消し去ることもできるのだが、この彷徨える 霊魂を成仏させて輪廻転生させたいと願っていたのである。  無に帰してしまえば生まれ変わりはできないからだ。 「ほう、そう来たか。わたしと一対一で戦おうというわけですね。でもね、こう見えて も実はわたしは不死身なんですよ」  不死身と聞いても蘭子は動揺しなかった。  これまでにも幾度となく不死身の魔人とも戦ってきた経歴を持っていた。 「ところで聞いてもいいかしら?」 「構いませんよ」 「ここで殺人が行われた時に、すでにあなたは覚醒したと思います。それが戦後70年以 上経ってから、活動を始めたのは何故ですか?」 「目覚めても、依り代となっていた壺が土の中だったからですよ。動けなかった。誰か が掘り起こしてくれるのを待っていた。で、地上に出られたは良いが、これがむさ苦し い男だったから躊躇していた」 「そんな他愛のないことで?」 「誰かに憑りつくなら綺麗な女性に限りますからね。それにこの娘とは波長が合いまし てね」 「波長が合う?」 「何故なら、この壺の主であるそこの霊体と、この娘とは血縁同士ですからね」 「血縁ですって?」 「彼には子供がいませんでしたから、叔父叔母とかの血筋ですかねえ」  意外な展開に考え込む蘭子だった。  抗争中にそんな余裕あるのかと言えば、魔人は不死身を自認しているだけに、余裕 綽々な態度を見せて蘭子を見守っているというところだ。 「あの夜、この娘がここを通りかかった時に、壺が震えました。共鳴現象という奴です ね」 「なるほど、良く理解できました」  緊張した空気の中で続けられる会話。  事の次第が明らかになったことで終わりを迎える。 「そろそろ決着を付けましょうか」 「そうですね。これ以上の話し合いは無駄のようです」  懐から虎徹を取り出し鞘から引き抜くと、それは短刀から本来の姿の長剣に変わった。  中段・臍眼に構えながら念を込める。  やがて虎徹はオーラを発しながら輝き始める。  魔人を倒すことのできる魔剣へと変貌してゆく。  美咲を傷つけることなく、魔人を倒すことができるのか?  じりじりと間合いを詰め寄りながら、 「えいやっ!」  とばかりに斬りかかる。  すると美咲魔人は、ヒョイと軽々とステップを踏むように回避した。  どうやら動きを読まれている。 「当たりませんねえ」  不敵な笑みを浮かべる。  しかし蘭子も言葉を返す。 「どうでしょう、こういう手もあるのよ」 其の拾玖 魔法陣  蘭子が、トンと地面を踏むと、地鎮祭に使用された縄張りを中心として、敷地全体に 魔法陣が出現した。 「ほう、奇門遁甲八陣図ですか」 「その通りよ。もう逃げられないわよ」  今日のこの日を予想して、縄張りを片付けずに、魔の者には見えない魔法陣を描いて いたのである。 「なるほど、そういう手できましたか。弱りましたね」  と言いながらも、不死身ゆえに余裕の表情を見せていた。  しかしながら、自由を奪われて身動きできないようだった。 「白虎!」  言うが早いか、霊魂から離れて美咲に飛び掛かった。  白虎が爪を立てて狙ったのは?  胞衣壺だった。  その鋭い爪で、魔人が抱えていた胞衣壺を弾き飛ばした。  胞衣壺は宙を舞って、蘭子の方へ飛ぶ。  それをしっかりと受け取る蘭子。  白虎は再び霊魂の押さえに戻っている。 「さて、それをどうする? 壊すか?」  意味ありげに尋ねる美咲魔人。  胞衣壺は、単なる依り代でしかない。  壊したところで、別の依り代を求めるだけである。  さあどうする、蘭子よ。 「そうね……こうします」  というと呪文を唱え始めた。 「こ、これは、呪縛封印の呪文かあ!」  さすがに驚きの声を上げる美咲魔人。  蘭子の陰陽師としての能力を過少評価していたようだ。  不死身という身体に油断していた。  不死身ならば封印してしまえば良いということに気が回らなかった。  一心不乱に呪文を唱えながら、胞衣壺の蓋を開ける蘭子。  美咲の身体が輝き、白い靄のようなものが抜け出てくる。  やがて白い靄は、胞衣壺の中へと吸い込まれるように消えた。  すかさず蓋を閉め、呪符を張り付けて封印の呪文を唱える。  無事に胞衣壺の中に魔人を閉じ込めることに成功した。 「ふうっ……」  と深い息を吐く。  後に残された霊魂も、魔人の呪縛から解かれている。 「白虎、もういいわ」  静かに後ずさりするように、霊魂から離れる白虎。  怨念の情は持ってはいても、蘭子の手に掛かれば浄化は容易い。  浄化の呪文を唱えると静かに霊魂は消え去り、輪廻転生への旅へと出発した。 「さてと……」  改めて、魔人が抜け出して放心して、地面にへたり込んでいる美咲を見つめる。  白虎がクンクンと匂いを嗅ぐような仕草をしている。 「大丈夫よ。気を失っているだけだから」  血の契約を交わしたとはいえ、精神を乗っ取られた状態であり、本人の承諾を得たと は言えないので契約は無効である。  美咲に近寄り抱え上げると、白虎の背中に乗せた。 「運んで頂戴ね」  白虎としては信頼する蘭子以外の者を背に乗せることは嫌だろうが、優しい声でお願 いされると拒否できないのだ。 「土御門神社へ」  霊や魔人との接触で、精神障害を追っているかも知れないので、春代に霊的治療を行 ってもらうためだ。  蘭子と美咲を背に乗せながら、夜の帳の中を駆け抜ける白虎。 其の弐拾 顛末  土御門神社の自分用の部屋。  布団を敷いて美咲を寝かしつける。  傍には白虎も寄り添っている。 「ありがとう。もういいわ」  白虎を優しく撫でると、軽く鳴いて静かに消えた。  何事も知らずに軽い寝息を立てている美咲の顔を見つめる蘭子。  つと立ち上がり、胞衣壺を抱えて向かった先は、土御門神社内にある書物庫。  書物庫はもちろん敷地全体に、魔物や怨霊の侵入を防ぐ結界が厳重に張られている。  結界陣を開封して中に入り、開いた棚に静かに安置する。 「これでもう、世を惑わせることもないでしょう」  再び結界陣を元に戻して、書物庫を後にする蘭子。  翌日の土御門神社の応接間。  井上課長、土御門春代、美咲と父親、そして蘭子が一堂に会していた。  事件の詳細を説明する蘭子。  その内容に驚愕する父親と、まるで記憶にないので首を傾げるしかない美咲。  重苦しい雰囲気が漂う中で、最初に口を開いたのは春代だった。 「さて刑事殿。この事件の顛末をどうつけるつもりだい?」  問われて言葉に詰まる井上課長だった。  警察の役目は事件についての捜査を行い、被疑者の身柄や証拠などを検察へ送ること。  一般的思考でいうなら、今回の事件の犯人は、神田美咲であることに違いはない。  【人にあらざる者】が介在していることなど、理解の範疇には存在しないので、呪術 や魔法といった非科学的な犯罪は取扱しない。  有名なところでは、藁人形に釘を打って対象を呪い殺す丑の刻参りがあるが、非科学 的で刑法も民放もこれを認めていない。  現代の警察は科学捜査を基本としているからだ。  美咲の部屋を捜査すれば、殺人現場の証拠は出るだろうが、犯人は誰か?となれば当 然として美咲の名が挙がる。  殺人を立証するには、  殺人方法  殺害時刻  凶器  動機  アリバイ  遺体の移送方法  などを検証しなければならない。  遺体移送方法はもちろんの事、凶器は壺の中に封印済み、とにかく魔人のしでかした ことの解明は不可能だろう。  人事考課に汚点を残すことになるが、迷宮入りにするほかにないと考えていた。  翌日。  美咲の部屋に入った蘭子。  魔人の術法によって人の目に見えなくなっていた血痕が、その消滅によって再び露わ になっていた。  式神を使役して床にこびり付いた血痕を、綺麗に拭い去った。  ルミノール反応にも出ないほどに。 「証拠隠滅だけど……仕方ないわよね」  井上課長の同意も得ていた。  そもそも凶器の刀子も壺の中だし……。  数日後の阿倍野高校一年三組の教室。  一時限目開始のチャイムが鳴ると同時に、美咲が入室してくる。 「おはよー!」  それに答えるように、クラスメートも応答する。 「おはよう」 「ひしぶり~」 「もういいの?」 「ありがとう、大丈夫よ」  口々に挨拶が交わされる。  そういったクラスメートから離れて、窓辺の自分の席に座り、ぼんやりと庭を見つめ ていた。  一つの事件は終わった。  しかし、これで終わりではない。  一つの事件は解決したが、蘭子の【人にあらざる者】との戦いはこれからも続く。 胞衣壺(えなつぼ)の怪 了 ポチッとよろしく!
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2019年10月 3日 (木)

あっと!ヴィーナス!! 第二章 part-1

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あっと! ヴィーナス!!

第二章 part-1  ドアがノックされる。 「お母さんよ。入るわよ、弘美ちゃん」  母親と兄達が大きな紙袋、そして姿見の鏡を抱えて入ってきた。 「弘美ちゃん、あなたの服を買ってきてあげたわ」  母親は部屋の隅を指さして、 「その姿見は、そこに置いてちょうだい」 「あいよ」 「そしたら、あなたたちは出ていきなさい」 「え?」 「わかるでしょ」 「あ、ああ……そうだね」 「さあて……と、早速着替えをしましょうか、弘美ちゃん」 「着替えって?」  母親は紙袋の一つを開けて、テーブルの上にそれを広げた。  ブラジャー、ショーツ、スカート、ブラウスといった女物の衣類が並べられた。 「な、なんだよ。それ……」 「決まってるじゃない。あなたの着替えよ」 「じょ、じょうだんじゃないよ。全部女物じゃないか」 「当り前でしょ。あなたは女の子なんだから」 「それを着るのか?」 「さ、はじめましょう」 「い、いやだよ」 「強情を張らないの。どうしても着ないというのなら、武司達を呼んで強引にでも 着せるわよ。見られたくないでしょ、自分の裸を」 「わ、わかったよ……着ればいいんだろ……」 「そうよ。何事もあきらめが肝心」 「…………」 「じゃあ、まずはブラジャーからね。ブラは正しく身につけないとバストがくずれ ちゃうから、しっかり覚えるのよ」  と梓を鏡の前に立たせ、その背後から手取り足取りで着付けを教える母。
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2019年10月 2日 (水)

あっと!ヴィーナス!! 第一章 part-4

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あっと! ヴィーナス!!

第一章 part-4  やがて母がメジャーを持って戻ってきた。  そういえばまだ裸のままだった。すっかり動転していて、そこまで気が回らなか ったのだ。もっとも身体測定だから、結局脱ぐことになったのだろうが……。  早速、身体測定がはじまる。 「アンダーバストは65、トップが74か……ウエストが55、ヒップが80。う ん、中学生としては、なかなかいいプロポーションしてるじゃない。5号サイズっ てところかな。伸長はっと、計りになあ……。ちょっとそこの柱に背をつけるよう に立ってみて。そうそう、印をつけて……152ね。弘美ちゃんの年齢だと、もう しばらくは背が伸びるわね」  というように、ぶつぶつと独り言を口にしながら測定していく。  母が、以前の服を着れないという意味が今更に理解できた。  以前の弘美は、全国中学柔道大会柔道でも66kg以下級で戦う筋骨隆々の骨格 をしていたのだ。それが……言わずもがなであろう。はっきりいって今の弘美の体 重も40kgあるかないかだった。 「もうしばらくってどういうこと?」 「ああ、女の子はね。思春期に入るころから、縦方向の身長があまり伸びなくなる のよ。女性ホルモンのせいでね」 「じゃあ、一生このくらいの身長なの?」 「そうね。伸びても後10センチくらいかな。せいぜい160前後止まりね。その 分横方向へ成長するわ。胸とか骨盤とかが発達するのよ。子供を産むための身体造 りがはじまるの」 「子供を産む?」 「何を驚いてるのよ。女の子なんだから、当然でしょ。ああ、そうだ。生理の手当 の仕方も教えなければいけないわ」 「せ、生理って、女の子が毎月なる、あれ?」 「そういうこと。年頃の女の子なんだから、あって当然でしょ。買い物リストに生 理ショーツとナプキンも追加しなくちゃ」  測定が終わり、母はいそいそと買い物に出かけるべく、部屋を後にした。  やがて外から、信一郎兄の車のエンジンが聞こえてきて、それは遠ざかっていっ た。  いったいどうなってしまうのだろうか?  ひとり部屋に残り、将来に一抹の不安に脅える弘美だった。  それにしても……。  どうしてこうなってしまったのだろう?  と改めて考え直してみるが、突然女の子になってしまった原因が判らなかった。
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2019年10月 1日 (火)

あっと!ヴィーナス!! 第一章 part-3

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あっと! ヴィーナス!!

第一章 part-3  しばらく母娘の抱擁が続いて、やがて静かに母が弘美から離れた。  涙を拭いながら、 「もっと良く見せてごらん」  と、じっと見つめる母。 「いやだ。恥ずかしいよ」 「ふふ……恥ずかしいのは、女の子の証拠よ」 「あたりまえだよ。こんな裸見られたら、誰でも恥ずかしいよ」 「声もすっかり女の子ね。とっても可愛い声よ」 「え? 声?」 「気づいてなかったの?」 「だ、だって、驚いてばかりで言葉を失ってたという感じだったし……」 「いい声だわ。やっぱり女の子はいいわねえ」  もう……。  母さんは、女の子が欲しくてたまらかったから、嬉しくてしようがないだろうけ どさあ……。こっちはそれどころじゃない気分。 「さあて、これから買い物に行かなくちゃ」  ふと弘美から離れて、独り言のように呟く母。 「買い物って?」 「決まっているじゃない。弘美が着る服よ。女の子になったんだから、女の子の服 を買わなくちゃね。今ある服はもう着れないでしょ」 「い、いいよ。今あるやつを着るよ」 「気づいていないの?」 「気づくって?」 「あなたの身体よ。以前より身体が小さく細くなって華奢になってるのよ」 「え? そうなの……?」 「以前の服はだぶだぶでとても着れないわよ。その証拠じゃないけど、サイズを計 らなきゃね。今メジャーを持ってくるわ」  と言って部屋の外に出ていった。  ドアの外から家族の会話が聞こえてくる。 「母さん。ずいぶん遅かったじゃないか」 「な、なあ。ほんとに女の子だっただろ?」 「ええ。正真正銘の女の子だったわ。間違いなく弘美は女の子。しかもとびきり可 愛い女の子になっているわよ」 「だ、だろう。俺は嘘は言わないよ」 「で、どうするんだよ。これから」 「どうするもないよ。弘美はわたしの娘だし、あなた達の妹ということよ」 「妹か……そうだな。妹もいいかも知れないな」 「信一郎兄さんは、肯定するんだね」 「もちろんさ。母さんじゃないけど、俺も妹が欲しかったからな。正直言って、弟 ばかりでうんざりしてたんだ」 「そりゃ、ひどい言い方だよ」 「まあ、そういうわけよ。弘美は年頃の女の子なんだから、これからは許可なく弘 美の部屋に入っちゃだめよ」 「入っちゃだめって、弘美と一緒の部屋の俺はどうするんだよ」 「部屋替えするわ。弘美は女の子だからもちろん一人部屋、武司は信一郎と一緒に する。いいわね」 「俺は構わんよ。まだ見てないけど、とびきり可愛いというんだし、妹のためなら 一歩でも二歩でも譲るよ」 「武司も構わないわね。いえ、これは母の命令です」 「ちぇっ、しようがないな……」 「じゃあ、みんなも納得したところで、これから弘美の着る服の買い物に付き合っ てもらうわよ。女の子は衣装持ち、取り敢えずは一週間分だけど、かなりの量にな るはずだから、荷物持ちお願いね」 「いいよ。みんなもいいな」 「とにかく弘美の事はしばらくそっとしておいてあげてね。いきなり女の子に生ま れ変わって一番動揺しているんだから」 「わかった」 「さあ、みんなそういうわけだから、下へ降りた降りた」  やがて階段を降りていく家族達の足音。  どうやら家族は、弘美を女の子として肯定し、妹として位置付けしてくれたよう だ。  が、その本人の弘美は、一人蚊帳の外。  一体なぜ女の子になってしまったのか、その理由も解き明かされないまま事が進 んでいく。
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