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2020年12月

2020年12月 9日 (水)

銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅺ

第九章 共和国と帝国
XI ミストへ


 サラマンダー艦橋では、海賊から搾取した通信記録媒体の解析が続けられていた。
 スザンナ・ベンソン少佐が報告する。
「提督、通信記録から海賊の基地らしき座標が得られました」
「位置が特定できたのか?」
「はい。五光秒前後の誤差ではありますが、中立非武装地帯の中です」
「う……む。中立地帯か……。戦闘行為が禁止され、軍事施設を設置することも禁
止されてはいるのだが……」
「海賊には通用しませんよ」
「まあな」
「P-300VXを派遣して調査しますか?」
「だめだ。基地の防衛能力や索敵レンジが未知数な現状では、戦艦が立ち入りでき
ない空域に、例えP-300VXでも単独では派遣できない。巡航速度や航続距離
の問題があるからな」
「万が一見つかったりしたら逃げられず、極秘の最新鋭機を敵に渡すことになりま
すか」
「海賊基地の詳細が分かるまでは、このまま知らぬふりをしておこう。位置が分か
っていれば通信傍受もできるし、いずれ詳細も手に入るさ」
「分かりましたが、通信傍受と申されましても」
「手ごろな場所があるじゃないか」
「手ごろな場所?」
「デュプロス星系惑星カリスの衛星ミストだよ」
「連邦艦隊が進軍してくるのを、提督がミスト艦隊を指揮して撃退した、あの衛星
ミストですね?」
「ああ、中立地帯近くに補給基地があるだろう。そこに通信傍受の設備を設置させ
て貰おうじゃないか」
「なるほど、提督の願いなら聞き届けて貰えそうですね」
「そこで、君がミストへ赴き事の次第を了承して貰ってくれ。私の親書を持たせる」
「分かりました。ノームを使わせて頂きます」
 高速戦艦ノームは、サラマンダーの同型艦であり、旗艦艦隊の旗艦となっており、
スザンナの乗艦である。
「通信技術主任として、アルヴァン・アルメイダ大尉を連れていってくれ。役に立
つはずだ」


 数時間後、サラマンダーから離れてゆくノームと随行二百隻の艦艇があった。
「まもなく、デュプロス星系に入ります」
「衛星ミストへの進入コースを設定せよ」
 デュプロス星系は、二つの超巨大惑星を従えた恒星系である。
*参照 第二部 第二章 ミスト艦隊
 目指すは、第一惑星カリスの衛星となるミストである。
 超巨大ガス状惑星カリスは、太陽系木星の二十倍の大きさを持ち、衛星のミスト
が唯一人間の居住できる星となっている。
 衛星ミストの地上に降り立てば、天空には恒星ミストと、その光を反射して輝く
惑星カリスが浮かんでいるのが見えるはずだ。
「ミスト艦隊のお出迎えです」
「相手方より入電です」
「繋いでください」
 通信用パネルスクリーンに浮かび上がったのは、以前にも出迎えたミスト艦隊司
令官のフランドール・キャニスターであった。
「ご来訪の目的をお伺いしましょうか?」
「ランドール提督の全権大使として来ました」
「提督はご一緒ではないのですね?」
「はい」
 スザンナは、副官のキャロライン・シュナイダー少尉を連れて、ミスト旗艦へと
向かった。
「ランドール提督の親書をお渡しします」
「親書ですか?」
 親書を受け取り、中身を読み終えて、
「なるほど、通信では傍受される恐れがあるからですね」
 来訪の目的を納得した。
「はい。我々が通信傍受することを、敵側に察知されてはいけないのです」
「海賊達が行動する時、通信連絡するのを傍受して、その基地の位置を特定しよう
とは、さすがに提督だけありますね」

 ミスト側の了承を得て、ミスト本星と補給基地の二カ所に、早速通信傍受施設が
設置された。離れた二カ所で受信すれば、より良い正確な位置が特定できるからで
ある。
 通信士と設備要員を残して、スザンナの部隊はアレックスの本隊へと向かった。


銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅹ

第九章 共和国と帝国


 インビンシブル艦橋では、援軍の到着と海賊の殲滅とに歓喜の声を上げていた。
「殿下、ありがとうございます。海賊が襲ってくることを予言なされていて、密かにサラ
マンダー艦隊に後を追わせていたのですね」
 ジュリエッタが感心している。
「まあね。これまで二度もやられたから、二度あることは三度あるだよ」
 その時、
「殿下、サラマンダーより連絡が入りました」
「こちらに繋いでくれ」
 送受機を取り、サラマンダーからの報告を受けるアレックス。
「ジュリエッタ。サラマンダーの随行の許可を頼む」
「かしこまりました」
 早速配下の者に指示を出すジュリエッタ。
「それと艦内の捜索をしてくれ。おそらく艦載機発着口辺りに発信機が取り付けられてい
るはずだ」
「発信機……内通者ですか?」
 早速、艦内捜索が行われてアレックスから指定された周波数を探って、発信機が発見さ
れた。さらに艦内モニターに映し出された、発信機を取り付けたと見られる容疑者も特定
されたのだった。
 容疑者の元に警備兵が駆け付けた時には、時すでに遅く命を絶った後だった。
「消されたかな……」
 報告を受けたアレックスは呟いた。
 生きていれば、首謀者の名前を聞けたかもしれなかった。
 そして以前にもあった事件を思い出すのだった。
*参照 第一部第八章・犯罪捜査官コレット・サブリナ
「他にも内通者が?」
「陰謀を企てる者は、幾つもの予防線を張るものだ。実行犯は、その下っ端ということだ
よ」
「乗員全員の身元調査を行いますか?」
「いや。その必要はない。どうせ二重三重の予防線を張ってるさ」
「そうでしょうか……」
 命の重さも毛ほども気にしない陰湿な陰謀の闇、気高いジュリエッタには理解しがたい
ことだろう。
「一度、サラマンダーに戻る。手配してくれ」
「かしこまりました」
 本来なら、皇太子殿下が旗艦インビンシブルから離れるのは、警護の上でも避けなけれ
ばならないが、同盟軍最高司令官でもあるアレックスの行動を止めることはできない。
 アレックス専用の艀「ドルフィン号」が、駆逐艦に護衛されながらサラマンダーへと移
動する。例え目の前にあったとしても、万が一を考慮してである。
 サラマンダー艦橋に戻ったアレックス。
 オペレーター達の敬礼に迎えられながら、スザンナが明け渡した指揮官席に座る。
「通信記録の解読はできたか?」
 開口一番の質問だった。
「残念ながら記録は抹消されていました。引き続きデータの復元作業を行っています。断
片的にでも特定の人物が浮かび上がればよいのですが」
「ふむ。よろしく頼むよ」

「ところで、インビンシブルの居心地はいかがですか?」
「ああ、結構息苦しいな。殿下と呼ばれると、こそばゆいよ」
「そのうち慣れますよ」


銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章・共和国と帝国 Ⅸ

第九章 共和国と帝国
IX 援軍現る


 一方、敵艦隊側では一騒動が起きていた。
「後方に艦隊出現!」
「なに?どこの艦隊だ!」
「確認中です!」
「ほ、砲撃してきました!」
「敵艦隊です」
「共和国同盟です。艦数およそ二千隻」
 うろたえる艦橋の乗員たち。
 正面スクリーンに映し出される敵艦隊の映像の中に見出したるもの。
「あ、あれは!!」
 共和国同盟艦隊の中にひときわ目立つ彩色の図柄の入った艦があった。
「さ、サラマンダーです!!」
 艦体に火の精霊を配する艦は、宇宙にただ一つ。
 ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式、バーナード星系連邦を震撼させるシンボルを持つ、
共和国同盟軍旗艦「サラマンダー」である。
「何故、やつらがここにいる?確かタルシエン要塞に向かったのではなかったのか?」
「偽情報を掴まされたようです」
「ただでさえ強敵なのに、こちらの三倍の数、しかも背後を取られてしまいました」


 その頃、当のサラマンダーでは。
「強襲艦、突撃開始せよ!」
 白兵部隊が搭乗する強襲艦が、敵艦隊旗艦に向かって数隻突撃開始した。
「自爆されるまえに、艦橋を押さえるのです」
 指揮を執るのは、旗艦の全権を任されたスザンナ・ベンソン少佐である。

 敵旗艦に取り付いた強襲艦は、すべての出入り口をこじ開けて中へと侵入した。
 艦内にいる兵士達との撃ち合いがはじまる。
 しかし白兵用の特殊装甲を着込んでいる相手には、連邦の持つブラスターでは歯が立た
ない。
 次々と打ち倒される連邦兵士。
「艦橋に急げ!自爆されるぞ」
 入手した艦内見取り図を見ながら着実に艦橋へとたどり着く。
 艦橋になだれ込む白兵部隊。
 バタバタと倒されてゆく、艦橋の兵士達。
 指揮官と思われる士官が取り押さえられる。
「指揮官を確保しました!」
「連れていけ!」
「はっ!」
 強襲艦へと連行される指揮官だった。
「自爆スイッチは入っていないか?」
 艦橋内にある計器をしらべる兵士。
「大丈夫です。入ってません」
「よし!通信機を調べて、記録媒体を抜き取れ!」
「分かりました」
 通信記録は、当然暗号化されているだろうから、媒体を持ちかえって暗号解読機にかけ
るのである。
「通信記録媒体を抜き取りました」
「よおし!総員退去せよ」
 元来た道をたどって、自艦に戻る白兵達。
「総員退去完了しました!」
「離艦せよ!」
 敵旗艦から離れる強襲艦。

 サラマンダー艦橋。
「作戦部隊より報告あり。任務完了!成功です」
「よろしい!強襲艦が十分離れた所で、敵艦を撃沈させる」
 宇宙空間では、すでに戦闘は終了していた。
 六百隻対二千隻では、まともな抵抗は出来るはずがなかった。
 海賊行為は国際法違反である。
 彼らは連邦のあぶれ者であり帰る場所はない。
 全艦が白旗を上げることなく自沈を選んだ。


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